(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072802
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】機能性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 23/12 20060101AFI20230518BHJP
D06M 13/00 20060101ALI20230518BHJP
D06M 15/572 20060101ALI20230518BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
D06M23/12
D06M13/00
D06M15/572
D06M15/263
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185465
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】八十島 伸
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA14
4L031AB34
4L031BA31
4L031DA13
4L033AA05
4L033AB07
4L033AC11
4L033AC15
4L033BA00
4L033CA18
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】マイクロカプセルを多孔質シートに担持させてなる機能性シートの製造において、マイクロカプセルの破損を生じ難くすることが可能な技術を提供する。
【解決手段】機能性シートの製造方法は、第1面とその裏面である第2面とを有している多孔質シート20を、前記第1面又は前記第2面が上流側支持ロール13と向き合い、前記第2面が下流側支持ロール14と向き合うように、前記上流側支持ロール13と前記下流側支持ロール14との間で張力を加えながら走行させることと、前記上流側支持ロール13と前記下流側支持ロール14との間で、スロットダイヘッド15から前記第1面へ、前記スロットダイヘッド15とともに前記多孔質シート20を挟む支持体なしに、マイクロカプセル分散液30を吐出させることと、前記マイクロカプセル分散液30が供給された前記多孔質シート20を乾燥させることとを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面とその裏面である第2面とを有している多孔質シートを、前記第1面又は前記第2面が上流側支持ロールと向き合い、前記第2面が下流側支持ロールと向き合うように、前記上流側支持ロールと前記下流側支持ロールとの間で張力を加えながら走行させることと、
前記上流側支持ロールと前記下流側支持ロールとの間で、スロットダイヘッドから前記第1面へ、前記スロットダイヘッドとともに前記多孔質シートを挟む支持体なしに、マイクロカプセル分散液を吐出させることと、
前記マイクロカプセル分散液が供給された前記多孔質シートを乾燥させることと
を含んだ機能性シートの製造方法。
【請求項2】
前記多孔質シートとして不織布を使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロカプセル分散液は、前記第2面まで浸透しないように前記スロットダイヘッドから吐出させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質シートの走行方向における前記スロットダイヘッドの吐出口の寸法Wと、前記マイクロカプセル分散液が含んでいる粒子の平均粒子径Rとは、不等式:R≦W≦1000Rに示す関係を満たしている請求項1乃至3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記スロットダイヘッドへの前記マイクロカプセル分散液の送液を、圧空式ポンプ及び容積式ポンプの少なくとも一方によって行う請求項1乃至4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロカプセル分散液は、マイクロカプセルと水とバインダ樹脂とを含んだ請求項1乃至5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記マイクロカプセル分散液は、固形分含量が1乃至50質量%の範囲内にある請求項1乃至6の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性シートの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、防腐、消毒、抗菌、抗ウイルス、消臭、及び芳香などの種々の望ましい効果を奏する薬剤をマイクロカプセル化し、これを不織布に担持させた製品が開発されている。そのような製品は、マイクロカプセルの設計次第で、薬剤を放出する期間やタイミングを調節可能であり、例えば、作物及び食品の保存やマスク及びオムツなどの衛生用品に用いることができる。例えば、特許文献1には、作物を保存するための複合材料として、防虫、殺真菌、静真菌、殺菌、静菌又は腐敗遅延作用を有する精油をマイクロカプセル化し、これを不織布に担持させたものが記載されている。
【0003】
マイクロカプセルは、他の目的で不織布に担持させることもある。例えば、特許文献2には、相転移材料を封入したマイクロカプセルを不織布に支持させた涼感性不織布が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-530120号公報
【特許文献2】特開2016-211103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、マイクロカプセルを不織布などの多孔質シートに担持させてなる機能性シートの製造では、マイクロカプセルの破損を生じ易いことを見出している。
【0006】
そこで、本発明は、マイクロカプセルを多孔質シートに担持させてなる機能性シートの製造において、マイクロカプセルの破損を生じ難くすることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、第1面とその裏面である第2面とを有している多孔質シートを、前記第1面又は前記第2面が上流側支持ロールと向き合い、前記第2面が下流側支持ロールと向き合うように、前記上流側支持ロールと前記下流側支持ロールとの間で張力を加えながら走行させることと、前記上流側支持ロールと前記下流側支持ロールとの間で、スロットダイヘッドから前記第1面へ、前記スロットダイヘッドとともに前記多孔質シートを挟む支持体なしに、マイクロカプセル分散液を吐出させることと、前記マイクロカプセル分散液が供給された前記多孔質シートを乾燥させることとを含んだ機能性シートの製造方法が提供される。
【0008】
本発明の他の側面によると、前記多孔質シートとして不織布を使用する上記側面に係る製造方法が提供される。
【0009】
本発明の更に他の側面によると、前記マイクロカプセル分散液は、前記第2面まで浸透しないように前記スロットダイヘッドから吐出させる上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、前記多孔質シートの走行方向における前記スロットダイヘッドの吐出口の寸法Wと、前記マイクロカプセル分散液が含んでいる粒子の平均粒子径Rとは、不等式:R≦W≦1000Rに示す関係を満たしている上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、前記スロットダイヘッドへの前記マイクロカプセル分散液の送液を、圧空式ポンプ及び容積式ポンプの少なくとも一方によって行う上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、前記マイクロカプセル分散液は、マイクロカプセルと水とバインダ樹脂とを含んだ上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、前記マイクロカプセル分散液は、固形分含量が1乃至50質量%の範囲内にある上記側面の何れかに係る製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マイクロカプセルを多孔質シートに担持させてなる機能性シートの製造において、マイクロカプセルの破損を生じ難くすることが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法において使用可能な製造装置の一例を概略的に示す図。
【
図2】
図2は、
図1の製造装置が含んでいるスロットダイヘッドに採用可能な構造の一例を示す断面図。
【
図3】
図3は、
図1の製造装置において使用可能なマイクロカプセル分散液を概略的に示す断面図。
【
図4】
図4は、
図1の製造装置によって多孔質シートを製造している様子を概略的に示す断面図。
【
図5】
図5は、一変形例に係る製造方法において使用可能な製造装置の一例を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
以下に記載する実施形態は、本発明を説明するための例示に過ぎない。本発明は、他の種々の形態で実施することも可能である。
【0017】
以下の実施形態では、理解を容易にするために、構成要素等の省略及び簡略化が適宜なされている。また、図面における構成要素の配置、大きさ及び形状等は、理解を容易にするために、実際の配置、大きさ、形状及び配置等とは一致していない場合がある。更に、断り書きがない限り、各構成要素は、1つのみ設けられていてもよく、複数設けられていてもよい。即ち、本発明は、図面に示された配置位置、大きさ、形状及び数に、必ずしも限定されない。
【0018】
なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
<1>製造装置
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法において使用可能な製造装置の一例を概略的に示す図である。
図2は、
図1の製造装置が含んでいるスロットダイヘッドに採用可能な構造の一例を示す断面図である。
【0020】
図1に示す製造装置10は、ロール・ツー・ロール式のダイコータである。後述するように、製造装置10は、スロットダイヘッド15を使用したウェブテンション方式で、多孔質シート20へマイクロカプセル分散液を塗工する。
【0021】
製造装置10は、巻き出し装置11と、ロール12と、上流側支持ロール13と、下流側支持ロール14と、スロットダイヘッド15と、給液装置16と、給液管17と、乾燥装置18と、巻き取り装置19と、図示しないタンクと、図示しない1以上の検出器と、図示しないコントローラとを含んでいる。
【0022】
巻き出し装置11には、ロール状に巻かれた多孔質シート20が設置されている。多孔質シート20は、第1面とその裏面である第2面とを有している。ここでは、多孔質シート20は、第1面が内側になるようにロール状に巻かれている。多孔質シート20については、後で詳述する。
【0023】
巻き出し装置11は、多孔質シート20からなるロールを回転可能に支持する支持部、例えば回転軸を含んでいる。巻き出し装置11は、多孔質シート20の巻き出しを可能とする。巻き出し装置11は、巻き出された多孔質シート20に加わる張力を増大させるブレーキ、例えばパウダーブレーキを更に含むことができる。
【0024】
ロール12は、上流側支持ロール13及び下流側支持ロール14とともに、巻き出し装置11から巻き出された多孔質シート20を、スロットダイヘッド15、乾燥装置18及び巻き取り装置19へと順次案内するガイドロールとしての役割を果たす。ロール12のうち巻き出し装置11と上流側支持ロール13との間に位置した1つは、上流側支持ロール13と下流側支持ロール14との間における多孔質シート20の走行速度を安定化させるダンサーロールとしての役割も果たし得る。
【0025】
上流側支持ロール13及び下流側支持ロール14は、巻き出し装置11から巻き出された多孔質シート20の走行方向に沿って、上流側から順次配置されている。上流側支持ロール13は、スロットダイヘッド15の上流側で多孔質シート20の第2面と向き合うように設置されている。下流側支持ロール14は、スロットダイヘッド15の下流側で多孔質シート20の第2面と向き合うように設置されている。
【0026】
スロットダイヘッド15は、上流側支持ロール13と下流側支持ロール14との間で、吐出口が多孔質シート20の第1面と向き合うように設置されている。スロットダイヘッド15は、スロットダイヘッド15とともに多孔質シート20を挟む支持体なしに、例えばバックアップロールなしに、多孔質シート20の第1面へマイクロカプセル分散液を吐出する。
【0027】
スロットダイヘッド15は、多孔質シート20の幅方向に伸びた形状を有している。また、スロットダイヘッド15の吐出口も、多孔質シート20の幅方向に伸びた形状を有している。スロットダイヘッド15は、その長さ方向に垂直な断面のうち多孔質シート20と向き合う部分が、先細りした形状を有している。スロットダイヘッド15の吐出口は、その先端の位置に設けられている。
【0028】
スロットダイヘッド15は、
図2に示すように、第1ブロック15A及び第2ブロック15Bを含み得る。第1ブロック15A及び第2ブロック15Bは、一方向に、
図2では紙面に垂直な方向に伸びた形状を有している。第1ブロック15A及び第2ブロック15Bの各々は、その長さ方向に平行な平坦面を有している。第1ブロック15A及び第2ブロック15Bは、一体化されており、それらの間にマニホールドM及びスリットSを形成している。スロットダイヘッド15は、マニホールドMへ供給されたマイクロカプセル分散液を、スリットSを介して、吐出口から吐出する。なお、スロットダイヘッドのマニホールドは、キャビティと呼ぶこともある。
【0029】
製造装置10は、スロットダイヘッド15の上流側に減圧室が設けられていてもよい。減圧室を設けることにより、マイクロカプセル分散液の空気同伴を生じ難くすることができる。
【0030】
図示しないタンクは、マイクロカプセル分散液を収容している。マイクロカプセル分散液については、後で説明する。
【0031】
給液装置16は、上記のタンクに接続されるとともに、給液管17の一端に接続されている。給液管17の他端は、スロットダイヘッド15に接続されている。給液装置16は、タンク内のマイクロカプセル分散液を、給液管17を介して、スロットダイヘッド15のマニホールドMへ一定の流量で供給して、スロットダイヘッド15がその吐出口からマイクロカプセル分散液を一定の流量で吐出することを可能とする。
【0032】
給液装置16は、タンク内のマイクロカプセル分散液を給液管17の一端へと供給可能とするポンプを含んでいる。給液装置16が含んでいるポンプは、圧空式ポンプ及び容積式ポンプの少なくとも一方であることが好ましい。この場合、マイクロカプセル分散液の送液に伴うマイクロカプセルのダメージを小さくすることができる。
【0033】
乾燥装置18は、マイクロカプセル分散液が供給された多孔質シート20を乾燥させる。乾燥装置18は、例えば、加熱によって、又は、加熱及び送風によって、多孔質シート20を乾燥させる。
【0034】
巻き取り装置19は、乾燥後の多孔質シート20、即ち、多孔質シート20にマクロカプセルを担持させてなる機能性シートを、ロール状に巻き取る。巻き取り装置19は、機能性シートを巻き取る巻き取り軸を回転させるモータを含んでいる。
【0035】
図示しない1以上の検出器は、例えば、ロールの巻径を検出する検出器、多孔質シート20の走行速度を検出する検出器、多孔質シート20の張力を検出する検出器、乾燥装置18における温度を検出する検出器、又は、それらの2以上の組み合わせである。これら検出器は、コントローラに接続されている。
【0036】
図示しないコントローラには、巻き出し装置11と、給液装置16と、乾燥装置18と、巻き取り装置19とが更に接続されている。コントローラは、これらの動作を、検出器の出力に基づいて制御する。
【0037】
コントローラは、中央処理装置と、主記憶装置と、補助記憶装置と、入力装置と、ネットワーク装置と、表示装置とを含んでいる。
【0038】
中央処理装置は、大規模集積回路であって、演算装置と、制御装置とを含んでいる。演算装置は、論理演算及び四則演算などの演算処理を行う。制御装置は、実行する命令を解読し、各装置の動作を制御する。具体的には、入力装置及び検出器から送出された指令及び情報を受け取り、演算装置、主記憶装置及び補助記憶装置の動作を制御する。
【0039】
主記憶装置は、処理すべき情報、プログラム及び演算結果等を一時的に記憶する。主記憶装置は、大規模集積回路であって、例えば、ランダムアクセスメモリなどの揮発性メモリを含んでいる。
【0040】
補助記憶装置は、不揮発性の記憶装置である。補助記憶装置は、プログラム及び各種データを長期的に記憶可能である。補助記憶装置は、例えば、ハードディスクドライブ及びソリッドステートドライブの1以上を含んでいる。
【0041】
入力装置は、オペレータの操作によって指令及び情報を入力するためのものである。入力装置は、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド、タッチパネル、及び音声入力装置の1以上を含んでいる。
【0042】
ネットワーク装置は、コントローラと外部装置とを有線又は無線接続可能とするものである。ここで、外部装置は、検出器、巻き出し装置11、給液装置16、乾燥装置18、及び巻き取り装置19である。コントローラは、ネットワーク装置を介して、外部装置から情報を受け取るとともに、外部装置へ情報及び指令を送出する。
【0043】
表示装置は、例えば、中央処理装置による演算処理の結果の一部を表示することにより、オペレータの操作を補助するためのものである。表示装置は、例えば、液晶表示装置又は有機エレクトロルミネッセンス表示装置である。
【0044】
<2>多孔質シート
多孔質シート20は、例えば、不織布又は織布である。多孔質シート20は、複数の孔が設けられたポリマーフィルムであってもよい。多孔質シート20が不織布である場合、多孔質シート20へのマイクロカプセルへの担持量を大きくした場合であっても、通気性に優れた機能性シートを実現できる。
【0045】
多孔質シート20は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。何れの場合であっても、多孔質シート20は、その厚さ方向に通気性を有していることが好ましい。
【0046】
なお、用語「シート」及び「フィルム」は、厚さに基づいて互いから区別して使用することがあるが、ここでは、それら用語は、厚さで区別して使用せずに、何れもそれ自体を単独で取り扱うことが可能であり且つ可撓性を有している薄い層を意味するものとする。
【0047】
多孔質シート20は、面積当たりの質量が、1g/m2以上であることが好ましく、5g/m2以上であることがより好ましい。面積当たりの質量が小さい多孔質シート20は、破断を生じ易い。多孔質シート20の面積当たりの質量に上限はないが、例えば、1000g/m2以下である。なお、多孔質シート20が布である場合、面積当たりの質量は目付量ともいう。
【0048】
多孔質シート20の幅に制限はないが、例えば、1乃至3000cmの範囲内にあり、典型的には10乃至2000cmの範囲内にある。
【0049】
<3>マイクロカプセル分散液
図3は、
図1の製造装置において使用可能なマイクロカプセル分散液を概略的に示す断面図である。
【0050】
図3に示すマイクロカプセル分散液30は、分散媒31と、マイクロカプセル32と、図示しないバインダ樹脂とを含んでいる。
【0051】
分散媒31は、例えば、水系溶媒である。水系溶媒は、水であってもよく、水とアルコールなどの有機溶剤との混合液であってもよい。分散媒31は、有機溶剤であってもよい。
【0052】
マイクロカプセル分散液30の質量に占める分散媒31の質量の割合は、50乃至99%の範囲内にあることが好ましく、60乃至98%の範囲内にあることがより好ましい。この割合を大きくすると、マイクロカプセル32が多孔質シート20の第2面へ到達し易くなる。この割合を小さくすると、マイクロカプセル32が多孔質シート20の第1面から離れた位置まで到達し難くなる。
【0053】
マイクロカプセル32は、コア32Aとシェル32Bとを含んでいる。
コア32Aは、多孔質シート20に新たな機能を付与するか又は多孔質シート20が有している機能を強化する機能性材料を含んでいる。機能性材料は、上記の役割を果たすものであれば、どのようなものでもよい。
【0054】
一例によれば、機能性材料は、殺虫、防虫、殺真菌、抗真菌、殺菌、抗菌及び腐敗遅延作用の1以上を発揮する物質である。そのような物質は、例えば、上記作用の1以上を発揮する精油である。
【0055】
上記作用の1以上を発揮する精油は、例えば、アンゲリカ油、アニス油、メボウキ油、ベイ油、ベルガモット油、ボワドローズ油、カレンデュラ油、カナンガ油、カラウェー油、カルダモン油、セダー油、セダーウッド油、ヒノキ油、カモミール油、ケイ皮油、シトロネラ油、サッサフラス油、チョウジ油、コパイババルサム油、コリアンダー油、クメン油、ジラ油、ユーカリ油、ウイキョウ油、ニンニク油、ゲラニウム油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、グアヤクウッド油、ヒバ油、芳しょう脳油、イリス油、ハッカ油、ジャスミン油、ラベンダー油、ローレルリーフ油、レモン油、レモングラス油、ライム油、リナロエ油、クロモジ油、マンダリン油、カラシ油、ネロリ油、オニオン油、オレンジ油、オレガノ油、パルマローザ油、オランダセリ油、パッチュリ油、杏仁油、ペニローヤル油、胡椒油、ペパーミント油、エゴマ油、ペルーバルサム油、プチグレン油、松葉油、ばら油、ローズマリー油、ビャクダン油、スペアミント油、スターアニス油、マンジュギク油、茶木油、茶油、サイム油、トルーバルサム油、ツベローズ油、ウコン油、ベチバー油、セイヨウハッカ油、ホワイトミクロメリア油、ウィンターグリーン油、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1以上である。
【0056】
上記の誘導体は、例えば、アリルイソチオシアネート、アルファテルピネオール、アミルケイヒアルデヒド、アニスアルデヒド、ベンジルアルコール、酢酸ベンジル、ケイヒアルデヒド、ケイヒアルコール、カルバクロール、カルベオール、カルボン、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、ユーカリプトール(シネオール)、オイゲノール、イソオイゲノール、ガラクソリド、ゲラニオール、グアイアコール、ヘキサナール、イオノン、d-リモネン、メントール、アントラニル酸メチル、メチルイオノン、サリチル酸メチル、α-フェランドレン、ペニーロイヤル油、ペリルアルデヒド、1-フェニルエチルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、1-フェニルエチルプロピオネート、2-フェニルエチルプロピオネート、ピペロナール、酢酸ピペロニル、ピペロニルアルコール、D-プレゴン、テルピネン-4-オール、酢酸テルピニル、4-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、チモール、trans-アネトール、バニリン、及びエチルバニリンである。
【0057】
他の例によれば、機能性材料は、抗ウイルス(ウイルス不活化)作用を発揮する薬剤である。
更に他の例によれば、機能性材料は、芳香剤である。
機能性材料は、上述した物質の2以上を含んだ混合物であってもよい。
【0058】
上記の機能性材料を含んだコア32Aは、溶媒、分散媒、及び添加剤の1以上を更に含むことができる。例えば、コア32Aは、不揮発性油を更に含むことができる。不揮発性油は、例えば、綿実油、ニーム油、ヒマシ油、除虫菊油、ゴマ油、及びこれらの誘導体からなる群から選択される1以上である。また、コア32Aは、防腐剤を更に含んでいてもよい。
【0059】
更に他の例によれば、機能性材料は、相転移材料である。相転移材料は、例えば、固相と液相との間で可逆的な相転移を生じる材料である。
【0060】
そのような相転移材料が、固相から液相への相転移に伴って吸熱するものであり、この相転移温度が生体の表面温度より僅かに低い場合、例えば、相転移温度が20乃至35℃の範囲内にある場合、この相転移材料を含んだマイクロカプセルは、涼感又は温感効果を提供し得る。そのような相転移材料としては、パラフィン及びワックス等の炭化水素化合物が好適に使用される。なお、この相転移材料を封入したマイクロカプセルは、市販されている。市販品としては、例えば、大和化学工業株式会社製のプレサーモ(登録商標)及び三木理研工業株式会社製の蓄熱蓄冷マイクロカプセルが挙げられる。
【0061】
シェル32Bは、コア32Aを内包している。機能性材料がシェル32Bの内部でその機能を発揮する場合、例えば、コア32Aが相転移材料からなる場合、シェル32Bは、機能性材料が、好ましくはコア32Aを構成している材料の全てがシェル32Bの外部へ放出されるのを防止する。機能性材料がシェル32Bの外部へ放出されることによってその機能を発揮する場合、シェル32Bは、機能性材料を低い速度で透過させるか、又は、外部からの刺激、例えば、加圧及び/又は加熱によってシェル32Bの少なくとも部分的に破壊され得る。
【0062】
シェル32Bは、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂及びウレタン樹脂などのポリマーからなる。シェル32Bは、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0063】
マイクロカプセル32の平均粒子径は、0.1乃至100μmの範囲内にあることが好ましく、1乃至50μmの範囲内にあることがより好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザ回折法によって得られる値である。
【0064】
平均粒子径を小さくすると、マイクロカプセル32の質量に占めるコア32Aの質量の割合を大きくすることが難しくなるか、又は、マイクロカプセル32が多孔質シート20の第2面へ到達し易くなる。平均粒子径を大きくすると、多孔質シート20の走行方向におけるスロットダイヘッド15の吐出口の寸法Wを大きくする必要を生じるか、又は、マイクロカプセル32が多孔質シート20の第1面から離れた位置まで到達し難くなる。
【0065】
マイクロカプセル分散液30の質量に占めるマイクロカプセル32の質量の割合は、0.9乃至49.9%の範囲内にあることが好ましく、1乃至39%の範囲内にあることがより好ましい。この割合を小さくすると、多孔質シート20へ担持させることが可能なマイクロカプセル32の量が減少し得る。この割合を大きくすると、スロットダイヘッド15から多孔質シート20へのマイクロカプセル分散液30の供給が不安定になる可能性がある。
【0066】
マイクロカプセル分散液30は、マイクロカプセル32を1種のみ含んでいてもよく、複数種含んでいてもよい。
【0067】
バインダ樹脂は、分散媒31に溶解している。バインダ樹脂は、マイクロカプセル32を多孔質シート20へ接着して、マイクロカプセル32の多孔質シート20への固定を可能とするか、又は、マイクロカプセル32の多孔質シート20からの脱落を生じ難くする。
【0068】
バインダ樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、自己架橋型アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、シリコン樹脂、グリオキザール樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル-シリコン共重合体樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂(SBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、イソブチレン無水マレイン酸共重合体樹脂、エチレン-スチレン-アクリレート-メタクリレート共重合体樹脂、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、及びこれらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0069】
マイクロカプセル分散液30の質量に占めるバインダ樹脂の質量の割合は、0.1乃至49.1%の範囲内にあることが好ましく、0.2乃至30%の範囲内にあることがより好ましい。バインダ樹脂は省略することができるが、この割合を小さくすると、マイクロカプセル32と多孔質シート20との接着が不十分になる可能性がある。この割合を大きくすると、機能性シートの通気性が低下する可能性がある。
【0070】
マイクロカプセル分散液30は、添加剤を更に含むことができる。例えば、マイクロカプセル分散液30は、分散剤を更に含んでいてもよい。
【0071】
マイクロカプセル分散液30の固形分含量は、1乃至50質量%の範囲内にあることが好ましく、2乃至40質量%の範囲内にあることがより好ましい。固形分含量を小さくすると、多孔質シート20へ担持させることが可能なマイクロカプセル32の量が減少するか又はマイクロカプセル32の多孔質シート20からの脱落を生じ易くなる。固形分含量を大きくすると、スロットダイヘッド15から多孔質シート20へのマイクロカプセル分散液30の供給が不安定になる可能性がある。
【0072】
<4>製造方法
機能性シートは、以下に説明するように、例えば、上述した製造装置10、多孔質シート20及びマイクロカプセル分散液30を使用して製造することができる。
【0073】
先ず、オペレータは、入力装置を介して、塗工開始の指令をコントローラへ入力する。この指令を受けたコントローラは、主記憶装置が記憶しているプログラムに従って、以下の制御を行う。
【0074】
即ち、コントローラは、巻き取り装置19が多孔質シート20の巻き取りを開始するように、その動作を制御する。これとともに、コントローラは、ロールの巻径を検出する検出器及び多孔質シート20の走行速度を検出する検出器の少なくとも一方が出力する情報に基づいて、多孔質シート20が予め定められている範囲内の速度で走行するように、巻き取り装置19の巻取動作を制御する。
【0075】
多孔質シート20の走行速度は、1乃至1000m/分の範囲内とすることが好ましく、5乃至500m/分の範囲内とすることがより好ましい。走行速度を高くすると、生産性が高まる。但し、走行速度を過剰に高くすると、多孔質シート20へ十分な量のマイクロカプセル分散液30を安定して供給することが難しくなる。
【0076】
また、コントローラは、多孔質シート20の張力を検出する検出器が出力する情報に基づいて、多孔質シート20の走行方向における張力が予め定められている範囲内になるように、巻き出し装置11の動作を制御する。多孔質シート20に加わる張力は、上述したブレーキによって調節することが可能である。
【0077】
更に、コントローラは、スロットダイヘッド15が多孔質シート20へのマイクロカプセル分散液30の供給を開始するように、給液装置16の動作を制御する。給液装置16は、マイクロカプセル分散液30を、多孔質シート20の第2面まで浸透しないようにスロットダイヘッド15から吐出させることが望ましい。
【0078】
マイクロカプセル分散液30の供給速度は、多孔質シート20への面積当たりの供給量が、0.1乃至1000g/m2の範囲内となるように調節することが好ましく、0.2乃至100g/m2の範囲内となるように調節することがより好ましい。供給速度を低くすると、多孔質シート20へのマイクロカプセル32の供給量が減少する。供給速度を高くすると、多孔質シート20へのマイクロカプセル32の供給量が増加し、場合によっては、マイクロカプセル32が多孔質シート20の第2面まで到達する可能性がある。
【0079】
また、コントローラは、乾燥装置18が多孔質シート20の乾燥を開始するように、その動作を制御する。これとともに、コントローラは、乾燥装置18における温度を検出する検出器が出力する情報に基づいて、多孔質シート20が予め定められている範囲内の温度に加熱されるように、乾燥装置18の加熱動作を制御する。
【0080】
図4は、
図1の製造装置によって多孔質シートを製造している様子を概略的に示す断面図である。
【0081】
上記の動作及び制御条件下では、スロットダイヘッド15が吐出したマイクロカプセル分散液30は、
図4に示すように、多孔質シート20の第1面上で塗膜を形成する。この塗膜が形成されてから多孔質シート20が乾燥装置18へ到達するまでの期間内に、塗膜を形成しているマイクロカプセル分散液30の少なくとも一部は、多孔質シート20の内部へと浸透する。これに伴い、マイクロカプセル32も多孔質シート20の第1面から多孔質シート20の内部へと移動し得る。
【0082】
その後、乾燥装置18において、塗膜が形成された多孔質シート20から分散媒が除去される。これとともに、バインダ樹脂によって、多孔質シート20へマイクロカプセル32が接着されるか、又は、多孔質シート20へのマイクロカプセル32の接着力が高められる。
【0083】
このようにして、マイクロカプセル32を多孔質シート20に担持させてなる機能性シートが得られる。
【0084】
上記の方法では、多孔質シート20の走行方向におけるスロットダイヘッド15の吐出口の寸法Wは、1乃至50000μmの範囲内とすることが好ましく、10乃至500μmの範囲内とすることがより好ましい。なお、寸法Wは、スリット幅と呼ぶことある。
【0085】
寸法Wと、マイクロカプセル分散液30が含んでいる粒子の平均粒子径R、ここではマイクロカプセル32の平均粒子径とは、不等式:R≦W≦1000Rに示す関係を満たしていることが好ましく、不等式:2R≦W≦100Rに示す関係を満たしていることがより好ましい。寸法Wと平均粒子径Rとの比W/Rを大きくすると、スロットダイヘッド15が詰まり難くなる。
【0086】
<5>効果
上述した機能性シートの製造では、マイクロカプセル32の破損を生じ難い。これについて、以下に説明する。
【0087】
多孔質シート20には、例えば、浸漬法を利用してマイクロカプセル32を担持させることができる。しかしながら、浸漬法では、多孔質シート20の両面にほぼ等しい量でマイクロカプセル32が付着する。浸漬後の搬送時に、多孔質シート20のマイクロカプセル32が付着している面がガイドローラと接触すると、これらマイクロカプセル32はガイドローラと接触し、それらの少なくとも一部は、多孔質シート20からガイドローラへと移行する。そして、ガイドローラへ移行したマイクロカプセル32は、その後、ガイドローラから多孔質シート20の他の部分へと移行し得る。このような移行の際に、マイクロカプセル32の破損を生じ得る。上記の通り、浸漬法では、多孔質シート20の両面にほぼ等しい量でマイクロカプセル32が付着しているので、多孔質シート20からガイドローラへと移行するマイクロカプセル32の数、及び、ガイドローラから多孔質シート20からガイドローラへと移行するマイクロカプセル32の数が多い。それ故、浸漬法を利用した場合、マイクロカプセル32の破損を生じ易い。
【0088】
多孔質シート20には、グラビア塗布又はマイクログラビア塗布法を利用してマイクロカプセル32を担持させることもできる。しかしながら、これら方法では、走行している多孔質シート20とドクターブレードとが、多孔質シート20上のマイクロカプセル32へ剪断力を加えるため、マイクロカプセル32の破損を生じ易い。
【0089】
多孔質シート20には、スロットダイヘッドとバックアップロールとを、多孔質シート20を間に挟んで向き合うように設置した塗工装置を使用して、マイクロカプセル32を担持させることもできる。しかしながら、そのような塗工装置では、スロットダイヘッドとバックアップロールとの間のギャップの大きさの調整に手間がかかる。また、一般に、多孔質シート20は、厚さが均一ではない。それ故、多孔質シート20の厚さのばらつきに起因して、多孔質シート20の表面からスロットダイヘッドの吐出口までの距離が変動し易い。この距離が大きく変動すると、ビードが不安定になり、スロットダイヘッドから多孔質シート20へのマイクロカプセル分散液30の供給量も大きく変動し得る。また、多孔質シート20の表面からスロットダイヘッドの吐出口までの距離が短くなると、マイクロカプセル32の破損を生じ易くなる。
【0090】
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法では、マイクロカプセル分散液30は、多孔質シート20の第1面へ供給する。それ故、多孔質シート20の第2面にはマイクロカプセル32は存在しないか、又は、多孔質シート20の第2面に存在するマイクロカプセル32の数は、多孔質シート20の第1面に存在するマイクロカプセル32の数と比較してより少ない。従って、この方法を採用した場合、浸漬法を利用した場合と比較して、マイクロカプセル32の破損を生じ難い。
【0091】
また、
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法では、ドクターブレードは使用しない。それ故、この方法を採用した場合、グラビア塗布又はマイクログラビア塗布法を利用した場合と比較して、マイクロカプセル32の破損を生じ難い。
【0092】
更に、
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法では、スロットダイヘッド15は、スロットダイヘッド15とともに多孔質シート20を挟む支持体なしに、例えばバックアップロールなしに、多孔質シート20の第1面へマイクロカプセル分散液を吐出する。そのような支持体がないので、多孔質シート20の厚さがばらついていたとしても、多孔質シート20の第1面からスロットダイヘッド15の吐出口までの距離は大きくは変動しない。それ故、この方法を採用した場合、スロットダイヘッドとバックアップロールとを、多孔質シート20を間に挟んで向き合うように設置した塗工装置を使用した場合と比較して、マイクロカプセル32の破損を生じ難い。
【0093】
また、
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法では、上記の通り、多孔質シート20の厚さがばらついていたとしても、多孔質シート20の第1面からスロットダイヘッド15の吐出口までの距離は大きくは変動しない。それ故、スロットダイヘッドから多孔質シート20へのマイクロカプセル分散液30の供給量は大きくは変動しない。従って、この方法を採用した場合、スロットダイヘッドとバックアップロールとを、多孔質シート20を間に挟んで向き合うように設置した塗工装置を使用した場合と比較して、マイクロカプセル32の担持量を面内でより均一にすることができる。
【0094】
なお、多孔質シート20には、スプレー法を利用してマイクロカプセル32を担持させることもできる。しかしながら、スプレー法の場合、多孔質シート20が織布又は不織布であったとしても、多孔質シート20の表面から離れた深部にマイクロカプセル32を担持させることは難しい。それ故、スプレー法を利用した場合、多孔質シート20からマイクロカプセル32が脱落し易い、十分な量のマイクロカプセル32を多孔質シート20に担持させることができない、通気性に優れた機能性シートが得られないなどの問題を生じる。
【0095】
多孔質シート20には、インクジェット法を利用してマイクロカプセル32を担持させることもできる。しかしながら、インクジェット法の場合も、スプレー法と同様の問題を生じる。加えて、インクジェット法の場合、吐出量を多くすることが難しく、また、ノズルの詰まりを生じ易い。
【0096】
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法では、これらの問題も生じ難い。即ち、
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法では、多孔質シート20からマイクロカプセル32が脱落し難く、多孔質シート20が十分な量のマイクロカプセル32を担持し、通気性に優れた機能性シートを製造することができる。また、
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法によると、吐出量の制御が容易であり、スロットダイヘッド15の詰まりなどに起因した不具合を生じ難い。
【0097】
<6>変形例
上述した製造方法には、様々な変形が可能である。
図5は、一変形例に係る製造方法において使用可能な製造装置の一例を概略的に示す図である。
【0098】
図5に示す製造装置10Aは、以下の構成を採用したことを除き、
図1乃至
図4を参照しながら説明した製造装置10と同様である。即ち、製造装置10Aでは、上流側支持ロール13の上流に位置したロール12の1つを省略している。そして、製造装置10Aでは、上流側支持ロール13を、多孔質シート20の第2面と向き合うように設置する代わりに、多孔質シート20の第1面と向き合うように設置している。
【0099】
このように、上流側支持ロール13は、多孔質シート20の第1面と向き合うように設置してもよく、多孔質シート20の第2面と向き合うように設置してもよい。
【実施例0100】
以下に、本発明の実施例を記載する。なお、ここに記載する、材質、構造及び各種条件等は、適宜変更可能である。
【0101】
(実施例)
スロットダイヘッドを使用したウェブテンション方式で、多孔質シートへマイクロカプセル分散液を塗工することにより、機能性シートを製造した。具体的には、
図1乃至
図4を参照しながら説明した方法により、多孔質シート20にマイクロカプセル32を担持させてなる機能性シートを製造した。
【0102】
ここでは、多孔質シート20として、幅が400mmであり、目付量が40g/m2のポリプロピレン製不織布を使用した。多孔質シート20の走行速度は15m/sに設定し、多孔質シート20の走行方向における張力は50N/mとした。
【0103】
マイクロカプセル32としては、コア32Aにラベンダー香料を含有し、平均粒子径Rが10μmであるものを使用した。マイクロカプセル分散液30は、固形分が20質量%であり、室温での粘度が60mPa・sであった。
【0104】
多孔質シート20の走行方向におけるスロットダイヘッド15の吐出口の寸法Wは、300μmとした。マイクロカプセル分散液は、wet膜厚が30μmとなるように、350mmの塗布幅で塗工した。
そして、乾燥装置18における乾燥温度は90℃に設定した。
【0105】
(比較例)
多孔質シートへのマイクロカプセル分散液を塗工に、スロットダイヘッドを使用したウェブテンション方式を利用する代わりにマイクログラビア方式を利用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、機能性シートを製造した。ここでは、グラビアヘッドが線数25の小径グラビアロールを含んだ装置を使用した。小径グラビアロールの回転数は、その周速度が多孔質シートの走行速度と等しくなるように設定した。
【0106】
(評価)
実施例及び比較例において機能性シートの製造に使用した装置が発する香りについて、官能評価を行った。また、実施例及び比較例において製造した機能性シートが発する香りについても、官能評価を行った。官能評価は、5名の評価者によって行った。評価基準は、以下の通りとした。
【0107】
A…ラベンダーの香りを感じなかったか又は微かに感じた。
B…ラベンダーの香りを、強烈ではなかったもののはっきりと感じた。
C…ラベンダーの香りを強烈に感じた。
【0108】
その結果、5名の評価者の全てが、実施例において機能性シートの製造に使用した装置及び実施例において製造した機能性シートの各々について「A」と評価した。また、5名の評価者の全てが、比較例において機能性シートの製造に使用した装置について「C」と評価し、比較例において製造した機能性シートについて「B」と評価した。
【0109】
なお、多孔質シート自体の香りについても、上記と同様の評価を行った。その結果、5名の評価者の全てが「A」と評価した。
【0110】
以上から、比較例では、機能性シートの製造においてマイクロカプセルが破損したのに対し、実施例では、機能性シートの製造においてマイクロカプセルは殆ど破損しなかったことを確認した。
【0111】
また、実施例及び比較例において製造した機能性シートの両面を、走査電子顕微鏡を用いて300倍の倍率で観察した。その結果、実施例及び比較例において製造した機能性シートの何れにおいても、マイクロカプセル分散液を塗工した面にはマイクロカプセルが存在し、その裏面にはマイクロカプセルは存在していなかった。
10…製造装置、10A…製造装置、11…巻き出し装置、12…ロール、13…上流側支持ロール、14…下流側支持ロール、15…スロットダイヘッド、15A…第1ブロック、15B…第2ブロック、16…給液装置、17…給液管、18…乾燥装置、19…巻き取り装置、20…多孔質シート、30…マイクロカプセル分散液、31…分散媒、32…マイクロカプセル、M…マニホールド、S…スリット。