(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023073686
(43)【公開日】2023-05-26
(54)【発明の名称】超音波振動子のバッキング材用フェライト粉
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20230519BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20230519BHJP
G01N 29/24 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
C01G49/00 C
G01N29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186294
(22)【出願日】2021-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】金子 達登
(72)【発明者】
【氏名】山本 逸平
【テーマコード(参考)】
2G047
4G002
5D019
【Fターム(参考)】
2G047CA01
2G047GB28
2G047GB32
2G047GB33
4G002AA08
4G002AB02
4G002AE05
5D019GG06
(57)【要約】
【課題】性能及び生産性に優れる超音波振動子のバッキング材を得ることができるフェライト粉を提供すること。
【解決手段】ストロンチウム(Sr)を8.0質量%以上9.0質量%以下、及び鉄(Fe)を58.0質量%以上63.0質量%以下の量で含み、体積平均粒径が30μm以上50μm以下の範囲内にあり、粒径16μm未満の粒子の割合が15体積%以上35体積%以下である、超音波振動子のバッキング材用フェライト粉。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロンチウム(Sr)を8.0質量%以上9.0質量%以下、及び鉄(Fe)を58.0質量%以上63.0質量%以下の量で含み、
体積平均粒径が30μm以上50μm以下の範囲内にあり、粒径16μm未満の粒子の割合が15体積%以上35体積%以下である、超音波振動子のバッキング材用フェライト粉。
【請求項2】
前記フェライト粉が穴開き粒子を含み、前記フェライト粉中の粒子の総数に対して、前記穴開き粒子の個数割合が5~90%である、請求項1に記載のフェライト粉。
【請求項3】
BET比表面積が0.50m2/g以上3.00m2/g以下である、請求項1又は2に記載のフェライト粉。
【請求項4】
細孔容積が100mm3/g以上300mm3/g以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子のバッキング材用フェライト粉に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波振動子は、電気的な高周波信号を機械的な超音波振動に変換する、あるいは逆に超音波振動を電気信号に変換する電気音響変換器(電気音響トランスデューサ)である。超音波振動子は、医療用の超音波診断装置や画像検査装置に用いられる超音波プローブをはじめとして、ソナーなどの水中音波トランスデューサ、非破壊検査などの工業用トランスデューサなどの幅広い分野で用いられている。特に、近年の医療技術の進展に伴い、医療用超音波振動子(プローブ)の重要性が着目され、その技術の開発が進められている。
【0003】
医療用超音波振動子(プローブ)の具体的構成の一例を、
図1を用いて説明する。超音波プローブ(100)は、バッキング材(4)、背面電極(6)及び前面電極(10)で挟まれた圧電体(8)、インピーダンス整合層(12)、及び音響レンズ(14)をこの順に積層した積層体をシール材(2)に封入した構造を有している。生体などの被検体に超音波プローブ(100)を当接させた状態で電極(6、10)に高周波パルス信号を入力すると、圧電体(8)の寸法が変動(振動)して超音波が発生する。発生した超音波信号はインピーダンス整合層(12)及び音響レンズ(14)を通じて被検体に送信され、所定の位置に収束する。収束した超音波信号は被検体の内部構造に応じて信号特性が変化し、反射信号(エコー信号)となって反射される。反射したエコー信号を圧電体(8)で受信し、これを受信信号として解析及び/又は画像化して、被検体の内部構造を調べる。
【0004】
バッキング材は、ダンパーとも呼ばれ、圧電素子を支持するとともに、圧電素子背面側に放射される超音波を減衰させる働きがある。すなわち、圧電素子は、その前面のみならず背面にも超音波を放射する。バッキング材が設けられていないと、背面側に放射された超音波はシール材で反射されて圧電素子に再入射し、そこで誤信号(エラー信号)として検知される恐れがある。バッキング材を設けることで誤信号を抑制し、受信信号のS/N比、すなわち受信感度を高めることが可能になる。そのため、バッキング材には、超音波を十分に減衰すること、すなわち減衰性能に優れることが要求される。バッキング材の減衰性能が劣ると、圧電素子から背面側に放射される超音波が十分に減衰せず、誤信号の原因となる。
【0005】
また、バッキング材には圧電素子の振動を抑える働きがある。圧電素子の振動を適度に抑えることで、短い超音波パルスを得ることができ、その結果、エコー信号の分解能を高めることが可能になる。圧電体の振動を抑えるためには、バッキング材の音響インピーダンスを高めることが有効である。しかしながら振動を過度に抑えると、エコー信号の受信感度が低下する恐れがある。そのためバッキング材には、その音響インピーダンスが適切な範囲内に制御されていることが要求される。なお音響インピーダンスは、下記(1)式に示すように、バッキング材中の音速とバッキング材の比重との積で表される。
【0006】
【0007】
このようにバッキング材には、超音波の減衰性能に優れるともに、音響インピーダンスが適切な範囲内に制御されることが要求される。このような要求を単一の材料で満たすことは困難である。そのため、従来から、ゴムや樹脂といったマトリックス成分にフェライト粉などの高比重フィラーを分散させた複合材料がバッキング材として多用される。柔軟性に富むゴムや樹脂をマトリックス成分に用いることで超音波の吸収及び減衰を促進している。また高比重フィラーを加えることで、音響インピーダンスを制御するとともに、超音波を散乱させて減衰性能を向上させる。
【0008】
特許文献1~3には、バッキング材を備えた超音波振動子が開示されている。特許文献1には、圧電体と、前面電極及び背面電極と、音響整合層及び音響レンズと、後方側への超音波を減衰させる例えばフェライト入りゴムで形成したバッキング材と、保護膜とで主に構成されている超音波振動子が開示されている(特許文献1の[0013]及び
図1~3)。また特許文献1には当該超音波振動子を、超音波のエコーを利用して生体内の断層を画像化する超音波内視鏡に主に用いることが記載されている(特許文献1の[0001])。
【0009】
特許文献2には、超音波を送受信する振動子と、この振動子の片側に超音波振動を吸収するダンパーを備えた超音波探触子が開示され、当該ダンパーがフェライト粉末を混合した可撓性樹脂からなることが記載されている(特許文献2の請求項1)。また特許文献2には、フェライト粉末と可撓性樹脂からなるダンパーを採用すると、ダンパーの音響インピーダンスおよび機械的Q値が最適化されることが記載されている(特許文献2の[0010])。特許文献3には、医用超音波診断、非破壊検査等に用いられる超音波探触子に関して、バッキング材としては、ゴム材料にフェライト粉末を混合したものなどが実用化されていることが記載されている(特許文献3の第1頁左欄、及び第2頁右上欄~左下欄)。
【0010】
また、特許文献4には、超音波振動子バッキング材用ではないものの、金属探知機で安定的に検出することができる成形体の製造に好適に用いることができるフェライト粉が開示されている。具体的には、金属探知機で検出可能なフェライト粉であって、Srを7.8質量%以上9.0質量%以下、Feを61.0質量%以上65.0質量%以下、含有するハードフェライト粒子を含み、イオンクロマトグラフィ―により測定されるNa量が1ppm以上200ppm以下であることを特徴とするフェライト粉が開示されている(特許文献4の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003-284192号公報
【特許文献2】特開平05-018944号公報
【特許文献3】特開昭61-278297号公報
【特許文献4】国際公開第2017/170427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、バッキング材(ダンパー)を備えた超音波振動子が従来から多用されるものの、このバッキング材には改良の余地があった。すなわち超音波振動子には、これを小型化する要望があり、それに伴い、超音波振動子を構成するバッキング材のさらなる小型化が要求されている。特に医療用超音波振動子(プローブ)には、これを体腔内に挿入して使用されるものがあり、超音波振動子及びバッキング材の小型化が強く求められている。
【0013】
バッキング材を小型化する上で、材料自体の減衰性能及び防振性能を高めることが有効である。また小型化を図る上で材料の加工性も無視できない。特に近年の医療用超音波振動子用バッキング材では、3mm内に100μm幅のレーザー加工を行う必要があり、微細加工性が重要である。さらにバッキング材の小型化を図る上で、バッキング材の表面性も重要である。超音波振動子を構成するバッキング材と圧電素子との界面に隙間が存在すると、圧電素子から発生した超音波がその界面で反射されて誤信号をもたらす恐れがあるからである。そのため、バッキング材は、圧電素子表面に追随して密着できるように表面平滑であることが望まれる。
【0014】
しかしながら、従来から提案されるバッキング材では、減衰性能、防振性能、加工性、及び表面性をバランスよく改善することは困難であった。防振性能を高めるためには、バッキング材の音響インピーダンスを高めることが有効であり、そのためにはフェライト粉などの高比重フィラーの割合を高めることが現実的である。しかしながらフィラーの割合を高めると、これをゴムなどのマトリックス成分と混合、成型及び加工する際に支障が生じやすい。また高比重フィラーの割合を高めると、バッキング材表面が凹凸になり、表面性が低下しやすい。そのため従来のバッキング材を用いて、性能を維持しつつ小型化可能な超音波振動子を作製することは困難であった。
【0015】
本発明者らは、このような従来の実情に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、超音波振動子のバッキング材に含まれるフェライト粉の組成、粒度、及び形状が、バッキング材の性能(減衰性能、防振性能、音響インピーダンス、表面性、及び加工性)に与える影響が大きく、これを改善することで、性能及び生産性に優れるバッキング材を得ることができるとの知見を得た。
【0016】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、性能及び生産性に優れる超音波振動子のバッキング材を得ることができるフェライト粉の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、下記(1)~(4)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0018】
(1)ストロンチウム(Sr)を8.0質量%以上9.0質量%以下、及び鉄(Fe)を58.0質量%以上63.0質量%以下の量で含み、
体積平均粒径が30μm以上50μm以下の範囲内にあり、粒径16μm未満の粒子の割合が15体積%以上35体積%以下である、超音波振動子のバッキング材用フェライト粉。
【0019】
(2)前記フェライト粉が穴開き粒子を含み、前記フェライト粉中の粒子の総数に対して、前記穴開き粒子の個数割合が5~90%である、請求項1に記載のフェライト粉。
【0020】
(3)BET比表面積が0.50m2/g以上3.00m2/g以下である、上記(1)又は(2)のフェライト粉。
【0021】
(4)細孔容積が100mm3/g以上300mm3/g以下である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のフェライト粉。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、性能及び生産性に優れる超音波振動子のバッキング材を得ることができるフェライト粉が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】超音波振動子の構成の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0025】
<<1.超音波振動子のバッキング材用フェライト粉>>
本実施形態のフェライト粉は、超音波振動子のバッキング材を作製するために用いられる。すなわち、このフェライト粉をフィラーとしてゴムなどのマトリックス成分と混合及び混練することでバッキング材を得ることができる。このフェライト粉は、ストロンチウム(Sr)を8.0質量%以上9.0質量%以下、及び鉄(Fe)を58.0質量%以上63.0質量%以下の量で含む。またこのフェライト粉は、体積平均粒径が30μm以上50μm以下の範囲内にあり、粒径16μm未満の粒子の割合が15体積%以上35体積%以下である。
【0026】
本実施形態のフェライト粉は、ストロンチウム(Sr)量が8.0質量%以上9.0質量%以下であり、且つ鉄(Fe)量が58.0質量%以上63.0質量%以下である。このフェライト粉は、ストロンチウム(Sr)フェライトの組成を有している。Srフェライトは、六方晶マグネトプランバイト型の結晶構造を有しており、化学量論組成ではSrO・6Fe2O3の組成を有している。またSrフェライトはハードフェライトである。すなわち飽和磁化及び磁気異方性の高い硬質磁性材料(ハード材料)であり、永久磁石の材料として多用されている。
【0027】
ストロンチウム(Sr)フェライト組成のフェライト粉を用いることで、バッキング材の音響インピーダンス特性及び加工性を維持しつつも、防振性能を高めることが可能になる。六方晶マグネトプランバイト型構造を有するフェライトとして、ストロンチウム(Sr)フェライト以外にバリウム(Ba)フェライト(BaO・6Fe2O3)が知られている。しかしながらBaフェライトは、Baの原子量が大きいが故に真比重が大きい。そのため、Baフェライトをバッキング材に用いた場合には、音響インピーダンスを適切な範囲に制御するためにフェライトの添加量を抑えざるを得ない。そのためフェライトに基づく優れた防振性能を十分に付与することができない。
【0028】
フェライト粉のストロンチウム(Sr)量及び鉄(Fe)量を限定することで、優れた減衰性能、防振性能、音響インピーダンス、及び加工性をバランスよくバッキング材に付与することが可能になる。Sr量が8.0質量%未満、またFe量が63.0質量%超であると、Feが過多になり、フェライト粉のパッキング性が低下する恐れがある。すなわち、Fe過多のフェライト粉では、ハードフェライト成分の割合が小さくなり、逆にヘマタイト(α-Fe2O3)の割合が大きくなる。そのためフェライト粉の保磁力が低下する傾向にある。フェライト粉の保磁力が低いと、このフェライト粉を成型して成型体を作製する際や、この成型体を加工する際に、機械的ストレスによって成型体が弱く着磁される。着磁した成型体は永久磁石化するので、その内部で粒子が凝集し易い。また、保磁力が低いと、成型後の時間経過とともに減磁が進むので、粒子の凝集が解ける。そのため、成型体中での粒子のパッキング性が悪化し易い。Sr量が9.0質量%超、またはFe量が58.0質量%未満であっても、フェライト粉のパッキング性が低下する恐れがある。Fe過少のフェライト粉は、余剰SrO成分の割合が増え、保磁力が低下する傾向にあるからである。Fe過多の場合と同様に、成型体中でのフェライト粉のパッキング性が悪化し易い。
【0029】
パッキング性を高める観点から、Sr量は8.0質量%以上が好ましく、8.2質量%以上がさらに好ましい。Fe量は63.0質量%以下が好ましく、62.0質量%以下がさらに好ましい。またSr量は9.0質量%以下が好ましく、8.6質量%以下がより好ましい。Fe量は58.0質量%以上が好ましく、60.0質量%以上がより好ましい。
【0030】
フェライト粉は酸化物からなり、ストロンチウム(Sr)及び鉄(Fe)の他に酸素(O)を含む。またフェライト粉は、Sr、Fe及びO以外の添加元素や不可避不純物を含んでもよい。添加元素として、バリウム(Ba)、マンガン(Mn)、及びマグネシウム(Mg)などが挙げられる。
【0031】
本実施形態のフェライト粉は、その体積平均粒径が30μm以上50μm以下である。体積平均粒径をこの範囲内に限定することで、バッキング材の生産性及び耐久性を高めることが可能になる。体積平均粒径が30μm未満のフェライト粉は流動性に劣る。計量ハンドリング性に問題があり、バッキング材を作製する際に生産性を低下させる恐れがある。一方でフェライト粉の体積平均粒径が50μm超であると、これを用いて作製されるバッキング材の強度や表面性が悪化し、そのためバッキング材の耐久性を損なう恐れがある。計量ハンドリング性を高める観点から、体積平均粒径は31μm以上が好ましく、33μm以上がより好ましい。また耐久性を高める観点から、体積平均粒径は49μm以下が好ましく、46μm以下がさらに好ましい。なお体積平均粒径は、体積粒度分布曲線における累積50%径(D50)のことである。体積平均径(D50)は、フェライト粉の粒度分布をレーザー回折式乾式粒度分布測定により調べることで求められる。
【0032】
本実施形態のフェライト粉は、粒径16μm未満の粒子の割合(微細粒子割合)が15体積%以上35体積%以下である。微細粒子割合をこの範囲内に限定することで、バッキング材に優れた防振機能及び生産性を付与することができる。微細粒子割合が15体積%未満であると、バッキング材中に含まれるフェライト粉の微細粒子の割合が過度に少なくなる。粒子のパッキング性が損なわれる結果、バッキング材の防振機能が特定周波数で低下する恐れがある。一方で微細粒子割合が35体積%超であると、フェライト粉が凝集し易くなる。そのためバッキング材を作製する際に、ゴムなどのマトリックス成分との混練時間が長時間化する恐れがある。さらに場合によっては、フェライト粉が凝集体のままバッキング材に含まれることになり、バッキング材の性能劣化をもたらす恐れもある。バッキング材の防振機能を高める観点から、微細粒子割合は16体積%以上が好ましく、18体積%以上より好ましい。またバッキング材の生産性を高める観点から、微細粒子割合は34体積%以下が好ましく、33体積%以下がより好ましい。
【0033】
フェライト粉の平均球形度は0.90以上であることが望ましい。これによりバッキング材の生産性をより一層高めることが可能となる。平均球形度が0.90未満のフェライト粉は流動性に劣る。そのため計量ハンドリング性に問題があり、バッキング材の生産性を高める上で限界がある。
【0034】
フェライト粉が穴開き粒子を含み、フェライト粉中の粒子の総数に対して、穴開き粒子の個数割合が5~90%であることが望ましい。穴開き粒子とは、その表面に貫通穴を有し、その穴径比が2%以上の粒子である。また穴径比は、下記(2)式に示すように粒子の円相当直径(円相当粒子径)に対する穴の円相当直径(円相当穴径)の比である。
【0035】
【0036】
穴開き粒子の割合を5%以上に高めることで、バッキング材の生産性をより一層高めることが可能になる。穴開き粒子はゴムなどのマトリックス成分を強固に連結するフィラーとして働く。フェライト粉の穴開き粒子割合が5%未満であると、穴開き粒子のフィラーとしての機能が不十分になることがある。そのため、バッキング材作製時にゴムなどのマトリックス成分の硬化が進みづらくなり、生産性が低下する場合がある。生産性の観点から、穴開き粒子の個数割合は7%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。一方で個数割合を90%以下に抑えることで、超音波プローブの耐久性を高めることができる。個数割合が90%超であると、バッキング材を超音波振動子(プローブ)に組み込んだ際に、穴開き粒子が内包する水分或いは周辺部品への接点数が多くなるため、他の周辺部品の腐食を促すことがある。腐食抑制の観点から、穴開き粒子の個数割合は85%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましい。
【0037】
なお、粒子が穴開き粒子であるか否かは、電界放射形走査電子顕微鏡等の走査電子顕微鏡(SEM)を用いて調べることができる。具体的には、粒子をSEM観察し、貫通穴が観察された場合には、この穴の開口部を中心として粒子のSEM像を撮影する。そして、撮影した粒子画像から粒子の投影面積(S1)を求め、得られたS1を用いて下記(3)式にしたがって粒子の円相当直径を算出する。また同様の手法で穴の投影面積(S2)を求め、得られたS2を用いて下記(4)式にしたがって穴の円相当直径(穴径)を算出する。そして、粒子の円相当直径及び穴の円相当直径から上記(2)式にしたがって穴径比を求め、この穴径比が2%以上の粒子を穴開き粒子と判断すればよい。
【0038】
【0039】
フェライト粉のBET比表面積は、好ましくは0.50m2/g以上3.00m2/g以下である。BET比表面積をこの範囲内に設定することで、バッキング材の生産性及び/又は加工性をより一層高めることが可能になる。BET比表面積が0.50m2/g未満であると、フェライト粉をマトリックス成分と混練する際に親和性が低下して、成型時の加工性が損なわれることがある。加工性の観点から、BET比表面積は0.70m2/g以上がより好ましく、0.85m2/g以上がさらに好ましい。一方でBET比表面積が3.00m2/g超であると、混練時にフェライト粉を構成する粒子の割れが発生することがある。粒子割れ抑制の観点から、BET比表面積は2.50m2/g以下がより好ましく、2.00m2/g以下がさらに好ましい。
【0040】
フェライト粉の細孔容積は、好ましくは100mm3/g以上300mm3/g以下である。細孔容積をこの範囲内に設定することで、バッキング材の生産性及び/又は加工性をより一層高めることが可能になる。細孔容積が100mm3/g未満であると、フェライト粉をマトリックス成分と混練する際に親和性が低下することがある。加工性の観点から、細孔容積は120mm3/g以上がより好ましく、130mm3/g以上がさらに好ましい。一方で細孔容積が300mm3/g超であると、混練時にフェライト粉を構成する粒子の割れが発生することがある。粒子割れ抑制の観点から、細孔容積は280mm3/g以下がより好ましく、270mm3/g以下がさらに好ましい。
【0041】
フェライト粉の真比重は5.00g/cm3以上5.70g/cm3以下が好ましい。バッキング材の音響インピーダンスは、上記(1)式に示すように、バッキング材中の音速とバッキング材の比重の積で表される。したがってバッキング材に含まれるフェライト粉の真比重を調整することで、バッキング材の音響インピーダンスを制御することが可能である。真比重は5.10g/cm3以上5.65g/cm3以下がより好ましく、5.20g/cm3以上5.60g/cm3以下がさらに好ましい。
【0042】
フェライト粉の保磁力(Hc)は、150kA/m以上500kA/m以下が好ましく、220kA/m以上500kA/m以下がより好ましく、280kA/m以上500kA/m以下がさらに好ましい。保磁力が過度に低いと、成型体中でフェライト粉が凝集及び解砕するため、フェライト粉のパッキング性が低下することがある。保磁力を上述の範囲内に限定することで、パッキング性をより一層高めることが可能になる。また、飽和磁化(σs)は、典型的には40Am2・kg以上75Am2・kg以下、より典型的には50Am2・kg以上60Am2・kg以下である。
【0043】
このように、本実施形態のフェライト粉によれば、優れた減衰性能、防振性能、加工性及び表面性をバッキング材に付与できる。そのため、性能及び生産性に優れる超音波振動子のバッキング材を得ることが可能となる。
【0044】
<<2.フェライト粉の製造方法>>
本実施形態のフェライト粉は、上述した要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら好適には、以下の工程;ストロンチウム(Sr)源、鉄(Fe)源、水、バインダー、分散剤、及び必要に応じて消泡剤及び/又はpH調整剤を混合してスラリーを作製する工程(原料混合工程)、得られたスラリーを噴霧造粒して造粒物を作製する工程(造粒工程)、及び得られた造粒物を焼成して焼成物を作製する工程(焼成工程)を含む。また必要に応じて、得られた焼成物に後処理を施す工程(後処理工程)を設けてもよい。各工程の詳細について、以下に説明する。
【0045】
<原料混合工程>
混合工程では、ストロンチウム(Sr)源、鉄(Fe)源、水、バインダー、分散剤、及び必要に応じて消泡剤やpH調整剤を原料として準備し、これらの原料を混合してスラリーを作製する。Sr源及びFe源として、酸化物、炭酸塩、及び水酸化物などの公知のフェライト原料を用いればよい。好適には、炭酸ストロンチウム(SrCO3)及び酸化鉄(Fe2O3)を用いるのがよい。これらは安価である。また常温常湿下で安定でありハンドリング性に優れる。
【0046】
バインダーは、噴霧造粒後に得られる造粒物の強度向上の目的で加える。バインダーとして、ポリビニルアルコール(PVA)、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)などの樹脂化合物を用いればよい。バインダーの添加量は、Sr源及びFe源に対して、固形物換算で、好ましくは0.1質量%以上3.5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下である。
【0047】
分散剤には、スラリー中のSr源及びFe源を均一に分散させる働きがある。分散剤を加えることで、造粒物中の成分偏析を防ぐことができる。分散剤として、アクリル共重合体アンモニウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩、及び/又はヘキサメタリン酸塩などを用いることができる。好適な分散剤はアクリル共重合体アンモニウム塩である。アクリル共重合体アンモニウム塩を加えると、穴開き粒子の生成を促すことができる。その理由として以下のように推測している。スラリー造粒時には、液滴状のスラリーが表面張力により球状化及び乾燥して球状の造粒物が得られる。この際、アンモニウム塩は、原料に不可避的に含まれる塩素(Cl)と結合して、安定で難揮発性の錯体を形成しやすい。このような難揮発性成分がスラリーに含まれると、球状化した液滴(スラリー)が乾燥する際に、難揮発性成分により一次粒子の凝集力が弱まる。凝集力が弱くなった一次粒子が液滴内部で移動して外周部に集まることで、造粒物の外殻が形成される。一方で、溶媒は難揮発性成分とともに液滴内部に残留し、この残留した溶媒が蒸発することで造粒物が形成される。液滴内部の溶媒が蒸発する際に造粒物が収縮するため、外殻が内側にへこみ、その結果、穴開き粒子が形成されると考えている。分散剤の添加量は、Sr源及びFe源に対して、固形分換算で、好ましくは0.05質量%以上0.8質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上0.6質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上0.5質量%以下である。
【0048】
消泡剤は必ずしも必須ではない。しかしながら、消泡剤を加えることで、スラリー中の泡の発生を抑えることができる。そのため、造粒物中の異形粒子の生成が抑制され、その結果、フェライト粉の生産性向上が可能となる。消泡剤として、例えばポリエーテル系消泡剤等を使用できる。消泡剤の添加量は、Sr源及びFe源に対して、固形分換算で、0.1質量%以上0.5質量%以下が好ましい。
【0049】
pH調整剤は必ずしも必須ではない。しかしながら、pH調整剤を加えることで、スラリーのpHを調整して、スラリー中のSr源及びFe源の分散状態を変化させることができる。スラリーpHにしたがってSr源及びFe源のゼータ電位が変化し、それに応じて分散状態が変化するからである。pH調整剤として、アンモニア、水酸化アルカリ、炭酸アルカリなどを用いることができる。しかしながら、アルカリ成分が最終製品に残留すると悪影響を及ぼす可能性がある。したがって好適なpH調整剤はアンモニアである。調整後スラリーのpHは、好ましくは8.0以上11.0以下、より好ましくは8.5以上10.5以下、さらに好ましくは9.0以上10.0以下である。
【0050】
原料(Sr源、Fe源、水、バインダー、分散剤、消泡剤、pH調整剤)の混合は、公知の手法で行えばよい。例えば、湿式ビーズミルなどの混合粉砕機を用いてSr源、Fe源及び水を混合し、得られた混合物にバインダー、分散剤、水、及び必要に応じて消泡剤やpH調整剤を加えればよい。得られるスラリーの固形分濃度は、好ましくは30質量%以上75質量%以下、より好ましくは45質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上60質量%以下である。
【0051】
<造粒工程>
造粒工程では、得られたスラリーを噴霧造粒して造粒物を作製する。噴霧造粒はスプレードライヤーを用いて行えばよい。造粒は、公知の条件で行えばよい。例えば、スラリー吐出量:2400g/分以上5000g/分以下、アトマイザーディスク回転数:10000rpm以上12000rpm以下、乾燥温度:100℃以上500℃以下の条件が挙げられる。
【0052】
<焼成工程>
焼成工程では、得られた造粒物を焼成(本焼成)し、これにより焼成物を得る。焼成は、限定されるものではないが、大気雰囲気下で行うことができる。また焼成温度は、好ましくは900℃以上1230℃以下、より好ましくは1000℃以上1220℃以下、さらに好ましくは1100℃以上1200℃以下である。焼成保持は3時間以上6時間以下で行えばよい。
【0053】
<後工程>
必要に応じて、焼成物に後処理を施してもよい。後処理として、粉砕処理、熱処理、及び分級処理を挙げることができる。後処理は、単独で行ってもよく、あるいは組み合わせて行ってもよい。このようにして、本実施形態のフェライト粉を得ることができる。
【実施例0054】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(1)フェライト粉の作製
[実施例1]
<原料混合>
原料として炭酸ストロンチウム(SrCO3)と酸化鉄(Fe2O3)を用い、これらのモル比がSrCO3:Fe2O3=1:5.7となるように秤量した。次いで、秤量した原料に水を加えて、0.65mmφのジルコニアビーズを備えた湿式ビーズミルを用いて微粉砕してスラリーを得た。
【0056】
<造粒>
得られたスラリーに、バインダーとしてのポリビニルアルコール(PVA、15%水溶液)と、分散剤としてのアクリル共重合体アンモニウム塩(BASF社AA-4040、40%水溶液)と、pH調整剤としてのアンモニア水溶液(25%水溶液)と、を加えた。この際、バインダー(PVA)の添加量を固形分換算で1質量%、分散剤(アクリル共重合体アンモニウム塩)の添加量を固形分換算で0.3質量%とした。得られたスラリーの濃度(固形分)は55質量%であった。その後、スプレードライヤーを用いて、バインダー、分散剤及びpH調整剤を加えたスラリーを噴霧造粒して造粒物を得た。噴霧造粒は、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を11000rpmとした条件で行った。
【0057】
<焼成>
次いで、得られた造粒物を焼成(本焼成)して焼成物を得た。焼成は、大気雰囲気下1150℃×4時間の条件で行った。このようにしてフェライト粉を作製した。なおフェライト粉の製造条件を表1にまとめて示す。
【0058】
[実施例2]
原料のモル比がSrCO3:Fe2O3=1:5.4となるように秤量を行った。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0059】
[実施例3]
原料のモル比がSrCO3:Fe2O3=1:6.2となるように秤量を行った。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0060】
[実施例4]
噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を12000rpmとした。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0061】
[実施例5]
噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を10000rpmとした。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0062】
[実施例6]
本焼成を経て得られた焼成物に分級処理を施して粒度分布を変化させた。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0063】
[実施例7]
スプレードライヤーのスラリー吐出量を3700g/分なるように噴霧造粒して造粒物を得た。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0064】
[実施例8]
造粒に供されるスラリーを調整する際に、分散剤(アクリル共重合体アンモニウム塩)の添加量を固形分換算で0.7質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0065】
[実施例9]
造粒に供されるスラリーを調整する際に、分散剤(アクリル共重合体アンモニウム塩)の添加量を固形分換算で0.1質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0066】
[実施例10]
焼成温度を1180℃に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0067】
[実施例11]
焼成温度を900℃に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0068】
[比較例1]
焼成温度を1250℃に変更した。また本焼成を経て得られた焼成物に粉砕処理と熱処理を順次施した。粉砕は乾式ビーズミルを用いて行った。また熱処理は大気中850℃×1時間の条件で行った。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0069】
[比較例2]
原料を混合する際に、湿式ビーズミルの代わりにヘンシェルミキサーを用いて乾式混合を行った。また造粒を行わず、乾式混合により得られた混合物を焼成(本焼成)して焼成物を得た。焼成は、大気雰囲気下1090℃×4時間の条件で行った。さらに得られた焼成物に熱処理を施した。熱処理は大気中900℃×1時間の条件で行った。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0070】
[比較例3]
原料のモル比がSrCO3:Fe2O3=1:4.7となるように秤量を行った。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0071】
[比較例4]
原料のモル比がSrCO3:Fe2O3=1:7.0となるように秤量を行った。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0072】
[比較例5]
原料のモル比がSrCO3:Fe2O3=1:5.6となるように秤量を行った。また噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を13000rpmとした。それ以外は実施例1と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0073】
[比較例6]
噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を9000rpmとした。それ以外は比較例5と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0074】
[比較例7]
噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3200g/分、、アトマイザーディスク回転数を11000rpmとした。また、得られた焼成物に分級処理を施して粒度分布を変化させた。それ以外は比較例5と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0075】
[比較例8]
噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を5500g/分、、アトマイザーディスク回転数を11000rpmとした。それ以外は比較例5と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0076】
[実施例12]
造粒に供されるスラリーを調整する際に、分散剤(アクリル共重合体アンモニウム塩)の添加量を固形分換算で1.0質量%に変更した。また噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を11000rpmとした。それ以外は比較例5と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0077】
[実施例13]
造粒に供されるスラリーを調整する際に、分散剤(アクリル共重合体アンモニウム塩)を添加しなかった。それ以外は実施例12と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0078】
[比較例9]
焼成温度を1250℃に変更した。また噴霧造粒時の条件を変更し、スプレードライヤーのスラリー吐出量を3400g/分、アトマイザーディスク回転数を11000rpmとした。それ以外は比較例5と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0079】
[実施例14]
焼成温度を800℃に変更した。それ以外は比較例9と同様にしてフェライト粉を作製した。
【0080】
【0081】
(2)フェライト粉の評価
実施例1~14及び比較例1~9で得られたフェライト粉につき、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0082】
<粒度分布>
フェライト粉の粒度分布を測定し、体積基準の平均粒径と微細粒子(粒径16μm未満の粒子)の割合を求めた。粒度分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子株式会社、へロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))を使用して、分散圧3.0barで乾式分散させて行った。
【0083】
<化学組成>
フェライト粉に含まれる金属元素(Fe、Sr等)の含有量を以下の手順で分析した。。まずフェライト粉:0.2gを秤量し、これに純水:60mlに1Nの塩酸:20mlおよび1Nの硝酸:20mlを加えた混合物を作製した。次いで、得られた混合物を加熱してフェライト粉を構成する粒子を完全に溶解させた水溶液をサンプルとして準備した。高周波発光プラズマ分析装置(株式会社島津製作所、ICPS-1000IV)を用いてICP発光分析を行い、サンプル中の金属元素の含有量を測定した。
【0084】
<穴開き粒子数の割合>
フェライト粉の穴開き粒子数の割合を以下の手順で測定した。まず電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ、SU-8020)を用いて、倍率200倍でフェライト粉のSEM像を撮影した。得られたSEM像から、フェライト粉を構成する粒子数を任意に200個カウントとし、穴開き粒子数/200を算出して、これを穴開き粒子数の割合とした。
【0085】
<BET比表面積>
フェライト粉のBET比表面積を、比表面積測定装置(株式会社マウンテック、Macsorb HM model-1208)を用いて測定した。まず前処理として、測定試料たるフェライト粉を薬包紙に20g程度を取り分けた後、真空乾燥機で-0.1MPaまで脱気し、-0.1MPa以下に真空度が到達していることを確認した後、200℃×2時間の条件で加熱した。次いで、加熱した試料(フェライト粉):約5gを比表面積測定装置専用の標準サンプルセルに入れて、その質量を、精密天秤を用いて正確に秤量した。測定ポートにサンプルセルをセットして測定を開始した。測定は1点法で行った。測定終了時に試料の質量を入力すると、BET比表面積が自動的に算出された。測定環境は、温度:10~30℃、湿度:相対湿度で20~80%で、結露なしの条件とした。
【0086】
フェライト粉の細孔容積を、水銀ポロシメーターPascal140とPascal240(ThermoFisher Scientific社製)を用いて求めた。より具体的には、ディラトメーターはCD3P(粉体用)を使用し、複数の穴を開けた市販のゼラチン製カプセルにサンプルを入れて、カプセルをディラトメーター内に入れた。Pascal140で脱気後、水銀を充填し低圧領域(0~400Kpa)を測定し、1st Runとした。次に再び脱気と低圧領域(0~400Kpa)の測定を行い、2nd Runとした。2nd Runの後、ディラトメーターと水銀とカプセルとサンプルを合わせた重量を測定した。次にPascal240で高圧領域(0.1Mpa~200Mpa)を測定した。この高圧部の測定で得られた水銀圧入量をもって、フェライト粉の細孔容積を求めた。
【0087】
<真比重>
フェライト粉末の 真比重をJIS Z8807に準拠して、ガス置換法により測定した。この際、置換ガスとしてヘリウムを用い、室温20~25℃、湿度50~60%の環境下で測定を行った。
【0088】
<磁気特性>
フェライト粉末の磁気特性(σs、σr、Hc)を、振動試料型磁力計(東英工業株式会社、VSM-C7-10A)を用いて測定した。測定は以下の手順で行った。まずフェライト粉をセル(内径5mm、高さ2mm)に詰めて磁力計にセットした。次に、印加磁場を加え、10K・1000/4π・A/mまで掃引した後に印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを描かせた。得られたカーブから飽和磁化σs、残留磁化σr及び保磁力Hcを読み取った。
【0089】
(4)樹脂組成物の作製及び評価
実施例1~14及び比較例1~9で得られたフェライト粉をフィラーとして含む樹脂組成物を作製し、その性能を評価した。樹脂組成物は、マトリックス成分(樹脂材料)と、このマトリックス成分中に分散しているフィラー(フェライト粉)を含む。このような樹脂組成物は、成型時の加工性、耐久性、真比重に優れる樹脂成型体の製造に好適に用いることができ、この樹脂組成物や樹脂成型体を用いれば、バッキング材の代替評価が可能となる。
【0090】
<生産性>
フェライト粉70質量部と主剤(エポキシ系樹脂)27質量部と硬化剤3質量部とをリボン型混合器を用いて分散混合して、樹脂組成物を作製した。そして、撹拌開始から均一に分散するまでに要した時間(分散時間)を計測し、得られた分散時間によって分散性を評価した。なお、均一に分散されたか否かの判断は、目視により行った。そして、分散時間(撹拌開始から均一に分散するまでに要した時間)から、樹脂組成物の生産性を評価した。また評価結果に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0091】
○:分散時間が1分間未満
△:分散時間が1分間以上5分間未満
×:分散時間が5分間以上
【0092】
<加工性>
生産性を評価する際に得られた樹脂組成物を120℃×5分間の条件で乾燥させた後、180℃×1時間の条件で加熱硬化を促した。加熱硬化した樹脂組成物をイオンミリング装置(株式会社日立ハイテク、IM-4000)で加工した。次いで、加工後サンプルを、FE-SEM(株式会社日立ハイテク社、SU-8020)を用いて、加速電圧1kV 、LAモード、倍率450倍の条件で断面観察した。イオンミリングは以下の条件で行った。
【0093】
‐DISCHARGE VOLTAGE(放電電圧):1.5kV
‐ACCELERATION VOLTAGE(加速電圧):6kV
‐STAGE CONTROL(加工モード):C3
‐DISCHARGE CURRENT(イオンガン内部の放電電流):380~4 50μA
‐ION BEAM CURRENT(イオンビーム電流):110~140μA
‐GAS FLOW(アルゴンガス流量):0.07~0.10cm3/min
‐加工時間:60分
【0094】
そして、FE-SEM断面観察結果から、樹脂組成物に対する加工性を評価した。また評価結果に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0095】
○:マトリックス成分中のフェライト粒子割れが10粒子未満
△:マトリックス成分中のフェライト粒子割れが10粒子以上30粒子未満
×:マトリックス成分中のフェライト粒子割れが30粒子以上
【0096】
<パッキング性>
加工性評価で行ったFE-SEM断面観察結果から、マトリックス成分中のフェライト粒子のパッキング性を評価した。また評価結果に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0097】
○:視野中にフェライト粒子の部分が少ない隙間で一様に存在している。
△:視野中にまんべんなくフェライト粒子は存在しているが、樹脂のみの部分と区別される。
×:視野中のフェライト粒子が存在している部分と樹脂のみの部分がそれぞれ局在化して区別される。
【0098】
<防錆特性>
加工性評価の際に得られた樹脂組成物について、室温20~25℃、湿度50~60%の環境下、FE-SEM断面観察用に加熱硬化した樹脂組成物が充填されたティンフリースチール(TFS)容器の錆成分の発生有無を評価した。なお、錆成分の発生有無の判定は、目視によって行った。樹脂組成物とティンフリースチール(TFS)容器の接触面を観察し、色相が金属光沢のない赤茶色或いはこげ茶色へ変化し、表面平滑性のない凹凸が発生しているものを錆成分と判断した。また評価結果に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0099】
○:1年以上、錆成分は発生しない。
△:1カ月以上1年未満、錆成分は発生しない。
×:1カ月未満で錆成分が発生する。
【0100】
<樹脂組成物の真比重>
ニーダー、ペレタイザーを用いて、実施例1~14及び比較例1~9で得られたフェライト粉末と、樹脂材料としてのポリエチレンとを、85:15の質量比で混合・混錬、造粒した。これにより、体積平均粒径が3mmのペレット形状の樹脂組成物(樹脂成型体)を得た。得られた樹脂組成物(樹脂成型体)の真比重をJIS Z8807に準拠して、ガス置換法により測定した。この際、置換ガスとしてヘリウムを用い、室温20~25℃、湿度50~60%の環境下で測定を行った。
【0101】
樹脂組成物の真比重は2.0g/cm3以上が好ましく、2.3g/cm3以上がより好ましく、2.5g/cm3以上がさらに好ましい。樹脂組成物の真比重は高ければ高いほど望ましいが、成型体として加工する観点から、マトリックス成分中にフェライト粒子を存在させる量には限界がある。
【0102】
(3)評価結果
実施例1で得られたフェライト粉のFE-SEM像を
図2に示す。粉末を構成する粒子はほぼ球状であった。また貫通穴を有する穴開き粒子が観察された。
【0103】
実施例1~14及び比較例1~9のフェライト粉の特性を表2にまとめて示す。またフェライト粉を含む樹脂組成物の評価結果を表3にまとめて示す。
【0104】
フェライト粉のSr量が過度に少なく、且つFe量が多いサンプル(比較例4)では、フェライト粉の保磁力が小さすぎるため、パッキング性に劣っていた。フェライト粉のSr量が過度に多いサンプル(比較例3)でも、フェライト粉の保磁力が小さすぎた。またフェライト粉の平均粒径が過度に小さいサンプル(比較例1、2及び5)では、フェライト粉の流動性が悪く、樹脂組成物の生産性に劣っていた。一方で平均粒径が過度に大きいサンプル(比較例6)は、樹脂組成物のパッキング性に劣っていた。微細粒子割合が過度に少ないサンプル(比較例7及び9)は、パッキング性や加工性に劣っていた。一方で微細粒子割合が過度に多いサンプル(比較例1、2及び8)は、生産性、加工性及びパッキング性の何れかが劣っていた。
【0105】
これに対して、本実施形態で特定されるSr量、Fe量、平均粒径、及び微細粒子割合を満足する実施例1~14のサンプルは、樹脂組成物の生産性、加工性及びパッキング性に優れていた。特に穴開き粒子の割合、BET比表面積、及び細孔容積が所定範囲内である実施例1~11は、生産性、加工性及びパッキング性の点で優れるのみならず、錆成分の発生も抑えられていた。
【0106】
【0107】