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特開2023-74086ハイブリッドシステムの異常検出装置および異常検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074086
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】ハイブリッドシステムの異常検出装置および異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20230522BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20230522BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
B60W20/50 ZHV
B60K6/485
F02D45/00 345
F02D45/00 362
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186846
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆男
【テーマコード(参考)】
3D202
3G384
【Fターム(参考)】
3D202AA09
3D202CC89
3D202DD00
3D202DD18
3D202DD26
3D202FF04
3D202FF12
3G384DA44
3G384FA56Z
3G384FA81Z
(57)【要約】
【課題】被水等により、一時的なベルトの滑りが発生しても、誤判定することなく、ベルトの異常を検出することを可能にする。
【解決手段】モータジェネレータ(MG)の発電中(S12で肯定判定)に、ベルトの滑りが発生すると(S13で肯定判定)、MGの指令トルクTmを0に設定する(S14)。MGのトルクを0にしても、ベルトの滑りが解消しない場合(S15で否定判定)、ベルトの破断等の異常であると判定する(S17、S18)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が内燃機関のクランク軸にベルトを介して接続された回転電機を備えたハイブリッドシステムの異常検出装置であって、
前記回転電機の発電時に、前記ベルトの滑りの発生の有無を判定する滑り判定部と、
前記ベルトの滑りが発生していると判定されたとき、前記回転電機のトルクをゼロにするとともに、前記ベルトの滑りが解消したか否かに基づいて異常を判定する異常判定部を備え、
前記異常判定部は、前記ベルトの滑りが解消していない場合、前記ベルトが異常であると判定する、ハイブリッドシステムの異常検出装置。
【請求項2】
前記滑り判定部は、前記内燃機関の回転速度が第1所定値以上であり、前記回転電機の回転速度が第2所定値より小さいとき、前記ベルトの滑りが発生していると判定する、請求項1に記載のハイブリッドシステムの異常検出装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記回転電機のトルクをゼロにしても前記回転電機の回転速度が第3所定値以上でない場合、前記ベルトの滑りが解消していないと判定する、請求項2に記載のハイブリッドシステムの異常検出装置。
【請求項4】
前記第2所定値と前記第3所定値は、同じ値である、請求項3に記載のハイブリッドシステムの異常検出装置。
【請求項5】
前記滑り判定部は、前記内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との差が所定範囲外であるとき、前記ベルトの滑りが発生していると判定する、請求項1に記載のハイブリッドシステムの異常検出装置。
【請求項6】
前記異常判定部で前記ベルトが異常である判定された後、前記回転電機の回転速度が第4所定値以上になった場合、前記ベルトが異常ではないと判定する復帰判定部を備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のハイブリッドシステムの異常検出装置。
【請求項7】
回転軸が内燃機関のクランク軸にベルトを介して接続された回転電機を備えたハイブリッドシステムの異常検出方法であって、
前記回転電機の発電時に、前記ベルトの滑りの有無を判定するステップと、
前記ベルトの滑りが発生していると判定されると、前記回転電機のトルクをゼロにするステップと、
前記回転電機のトルクがゼロにされている場合に、前記ベルトの滑りが解消しないとき、前記ベルトが異常であると判定するステップと、を含むハイブリッドシステムの異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイブリッドシステム、特に、回転軸が内燃機関のクランク軸にベルトを介して接続された回転電機を備えたハイブリッドシステムの異常検出装置および異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006-9589号公報(特許文献1)には、エンジンの回転軸をベルトを介して駆動するモータジェネレータを備えた車両制御装置が開示されている。この車両制御装置は、エンジンの回転数とモータジェネレータの回転数からベルトの滑り量を求め、ベルトの滑り量に基づいてベルトの異常状態を判定している。この車両制御装置では、ベルトの滑り量が所定値以上である滑り状態を計時し、計時された累積時間が基準値を超えるとき、ベルトの異常状態であると判定する。これにより、被水などでベルトが滑りやすい状態になり、ベルトに異常がなくても一時的に滑りが発生する場合であっても、誤判定を回避できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-9589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された車両用制御装置では、ベルトの被水が継続するなどして、ベルトに異常がなくても滑り状態の累積時間が基準値を超えた場合、ベルトの異常状態であると誤判定する可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、被水等により、一時的なベルトの滑りが発生しても、誤判定することなく、ベルトの異常を検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のハイブリッドシステムの異常検出装置は、回転軸が内燃機関のクランク軸にベルトを介して接続された回転電機を備えたハイブリッドシステムの異常検出装置である。異常検出装置は、回転電機の発電時に、ベルトの滑りの発生の有無を判定する滑り判定部と、ベルトの滑りが発生していると判定されたとき、回転電機のトルクをゼロにするとともに、ベルトの滑りが解消したか否かに基づいて異常を判定する異常判定部を備える。異常判定部は、ベルトの滑りが解消していない場合、ベルトが異常であると判定する。
【0007】
この構成によれば、回転電機の発電時にベルトの滑りが発生すると、異常判定部は、回転電機のトルクをゼロにするとともに、ベルトの滑りが解消していない場合、ベルトが異常であると判定する。
【0008】
回転電機の発電時には、回転電機に発電トルクが生じるので、被水等によりベルトが滑りやすい状態になると、ベルトの滑りが発生する場合がある。ベルトが滑りやすい状態であっても、回転電機のトルクがゼロであるときには、ベルトと回転電機との伝達トルクは略ゼロであるため、滑りは発生しない。被水等によりベルトが滑りやすい状態では、回転電機の発電時にベルトの滑りが発生していても、回転電機のトルクをゼロにすることにより、ベルトの滑りが解消する。したがって、回転電機の発電時にベルトの滑りが発生したとき、回転電機のトルクをゼロにしても、ベルトの滑りが解消しない場合には、被水等による一時的なベルトの滑りではなく、ベルトの破断等による異常であると判定することができる。
【0009】
滑り判定部は、内燃機関の回転速度が第1所定値以上であり、回転電機の回転速度が第2所定値より小さいとき、ベルトの滑りが発生していると判定してよい。
【0010】
第1所定値は、たとえば、内燃機関のアイドリング回転速度(アイドリング回転数)であってよい。第2所定値は、内燃機関のアイドリング時における回転電機の回転速度より小さい値であってよい。
【0011】
異常判定部は、回転電機のトルクをゼロにしても回転電機の回転速度が第3所定値以上でない場合、ベルトの滑りが解消していないと判定してよい。第2所定値と第3所定値は、同じ値であってよい。
【0012】
滑り判定部は、内燃機関の回転速度と前記回転電機の回転速度との差が所定範囲外であるとき、ベルトの滑りが発生していると判定してよい。
【0013】
異常検出装置は、異常判定部でベルトが異常である判定された後、回転電機の回転速度が第4所定値以上になった場合、ベルトが異常ではないと判定する、復帰判定部を備えてもよい。
【0014】
この構成によれば、修理等によりベルトの異常が解消した場合、復帰判定部でベルトが異常でないと判定することができる。第4所定値は、第3所定値と同じ値であってよい。
【0015】
本開示のハイブリッドシステムの異常検出方法は、回転軸が内燃機関のクランク軸にベルトを介して接続された回転電機を備えたハイブリッドシステムの異常検出方法である。異常検出方法は、回転電機の発電時に、ベルトの滑りの有無を判定するステップと、ベルトの滑りが発生していると判定されると、回転電機のトルクをゼロにするステップと、回転電機のトルクがゼロにされている場合に、ベルトの滑りが解消しないとき、ベルトが異常であると判定するステップと、を含む。
【0016】
この構成によれば、回転電機の発電時にベルトの滑りが発生していると判定されると、回転電機のトルクがゼロになる。回転電機のトルクがゼロであっても、ベルトの滑りが解消していない場合に、ベルトが異常であると判定する。回転電機のトルクをゼロにしても、ベルトの滑りが解消しない場合には、被水等による一時的なベルトの滑りではなく、ベルトの破断等による異常であると判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、被水等により、一時的なベルトの滑りが発生しても、誤判定することなく、ベルトの異常を検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態に係る異常検出装置を備えたハイブリッド車両の全体構成図である。
図2】内燃機関10を前面からみた模式図である。
図3】本実施の形態において、HV-ECU100に構成される機能ブロックを示す図である。
図4】HV-ECU100で実行される、ベルト異常検出処理を示すフローチャートである。
図5】HV-ECU100で実行される、復帰処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る異常検出装置を備えたハイブリッド車両1の全体構成を示す図である。ハイブリッド車両1は、内燃機関10と、トルクコンバータ20と、自動変速機30と、モータジェネレータ(以下「MG」と称する)60とを備える。
【0021】
内燃機関10は、たとえば、圧縮着火式内燃機関あるいは火花点火式内燃機関であり、内燃機関10の出力軸は、トルクコンバータ20の入力軸に接続される。トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ付トルクコンバータであり、図示しない、ポンプインペラ、タービンランナ、ステータ、およびロックアップクラッチを備える。トルクコンバータ20の入力軸に接続されたポンプインペラと、トルクコンバータ20の出力軸に接続されたタービンランナの間でトルク増幅を行い、内燃機関10の出力を自動変速機30に伝達する。トルクコンバータ20のロックアップクラッチ(図示せず)は、係合状態、解放状態、スリップ(半係合)状態のうちのいずれかに制御される。ロックアップクラッチが係合状態になると、トルクコンバータ20の入力軸と出力軸は直結状態になり、入力軸と出力軸が一体回転する。
【0022】
トルクコンバータ20の出力軸は、自動変速機30の入力軸に接続される。自動変速機30は、遊星歯車式の多段自動変速機であり、複数の摩擦係合要素の係合および解放の組み合わせを制御することにより、各変速段を達成する。自動変速機30の出力軸は、プロペラシャフトを介してディファレンシャルギヤ40に接続されている。ディファレンシャルギヤ40は、ドライブシャフトを介して駆動輪である後輪50に接続されている。ハイブリッド車両1は、内燃機関10から出力された出力トルク(駆動トルク)を、トルクコンバータ20、自動変速機30およびディファレンシャルギヤ40を介して後輪50に伝達する後輪駆動車である。
【0023】
MG60は、回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)同期電動機である。MG60の回転軸(ロータ軸)はベルトBを介して内燃機関10のクランク軸に接続される。ハイブリッド車両1において、MG60が電動機として動作するとき、MG60の出力トルクは、ベルトBを介して内燃機関10のクランク軸に伝達し、駆動輪である後輪50を駆動する。内燃機関10のクランク軸を介してMG60が駆動されると、MG60は発電機として作動する。また、内燃機関10を始動する際、MG60によって内燃機関10をクランキングすることにより、内燃機関10が始動される。なお、始動専用モータからなるスタータを別途設けてもよい。
【0024】
図2は、内燃機関10を前面からみた模式図である。内燃機関10のクランク軸には、クランクプーリ2が固定されている。内燃機関10のウォーターポンプの回転軸には、ウォータポンププーリ4が固定されている。MG60の回転軸61には、モータプーリ5が固定されている。エアコンディショナの圧縮機の回転軸には、エアコンプーリ6が固定されている。
【0025】
本実施の形態では、クランクプーリ2、ウォータポンププーリ4、モータプーリ5、エアコンプーリ6の順にベルトBが巻き掛けられており、いわゆる、サーペンタイン式のベルト駆動を採用している。ベルトBは、たとえば、Vリブドベルトであってよい。クランクプーリ2とウォータポンププーリ4との間のベルトBには、アイドラプーリ3が巻き掛けられている。ベルトBの送り方向は、図2において右回り(図2に示す矢印R方向)になっている。
【0026】
モータプーリ5に巻き掛けられているベルトBには、テンショナTによって所定の張力が付与されている。テンショナTは、ベルトBの送り方向において回転軸61に固定されるモータプーリ5の上流側に位置するベルトB(モータプーリ5とウォータポンププーリ4との間のベルトB)に張力をかける第1テンショナプーリ11を備えている。第1テンショナプーリ11は、第1軸13によって回動可能に支持された第1アーム12の先端に回転可能に支持されている。
【0027】
テンショナTは、ベルトBの送り方向において回転軸61に固定されるモータプーリ5の下流側に位置するベルトB(モータプーリ5とエアコンプーリ6との間のベルトB)に張力をかける第2テンショナプーリ15を備えている。第2テンショナプーリ15は、第2軸17によって回動可能に支持された第2アーム16の先端に回転可能に支持されている。
【0028】
第1アーム12において第1テンショナプーリ11が配設された端部の反対側の端部(第1アーム12の基部)と、第2アーム16において第2テンショナプーリ15が配設された端部の反対側の端部(第2アーム16の基部)とは、スプリング18により繋がっている。
【0029】
第1テンショナプーリ11および第2テンショナプーリ15は、スプリング18の付勢力により、互いに近づくように付勢されている。第1テンショナプーリ11および第2テンショナプーリ15の付勢力により、モータプーリ5の上流側に位置するベルトBおよびモータプーリ5の下流側に位置するベルトBには、トルク伝達を行なう上で最適な張力が付与されている。
【0030】
図1を参照して、PCU(Power Control Unit)70は、蓄電装置80から受ける直流電力を、MG60を駆動するための交流電力に変換する。また、PCU70は、MG60により発電された交流電力を、蓄電装置80を充電するための直流電力に変換する。PCU70は、たとえば、インバータと、インバータに供給される直流電圧を蓄電装置80の電圧以上に昇圧するコンバータとを含んで構成される。
【0031】
蓄電装置80は、再充電可能な直流電源であり、たとえばリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池を含んで構成される。たとえば、蓄電装置80として48Vのリチウムイオン電池を用いてもよい。蓄電装置80は、MG60が発電した電力を受けて充電される。そして、蓄電装置80は、その蓄えられた電力をPCU70へ供給し、MG60が駆動される。
【0032】
蓄電装置80には、監視ユニット81が設けられる。監視ユニット81には、蓄電装置80の電圧、入出力電流および温度をそれぞれ検出する電圧センサ、電流センサおよび温度センサ(いずれも図示せず)が含まれる。監視ユニット81は、各センサの検出値(蓄電装置80の電圧、入出力電流および温度)をBAT-ECU110(Electronic Control Unit)に出力する。
【0033】
ハイブリッド車両1は、内燃機関10、MG60、および蓄電装置80等を備え、ベルトBを介して内燃機関10とMG60とのトルク伝達を行うハイブリッドシステムを搭載した、いわゆる、マイルドハイブリッド車両である。
【0034】
ハイブリッド車両1は、E/G-ECU90と、HV-ECU100と、BAT-ECU110と、エンジン回転速度センサ120と、MG回転速度センサ130と、各種センサ140を備える。各ECUは、図示しない、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよび入出力バッファを含み、各種センサ等からの信号の入力や各機器への制御信号の出力を行なうとともに、各機器の制御を行なう。各ECUは、CAN(Controller Area Network)で接続されており、相互に情報(信号)を通信する。
【0035】
BAT-ECU110は、監視ユニット81から出力された各センサの検出値に基づいて、蓄電装置80のSOC(State Of Charge)を算出し、HV-ECU100に出力する。HV-ECU100は、内燃機関10およびトルクコンバータ20を制御するための指令をE/G-ECU90に出力するとともに、MG60を制御するための指令をPCU70に出力する。
【0036】
エンジン回転速度センサ120は、内燃機関10の回転速度Neを検出する。MG回転速度センサ130は、MG60の回転速度Nmを検出する。各種センサ140は、アクセルペダルの踏込量であるアクセル開度APを検出するアクセル開度センサ、車速SPDを検出する車速センサ、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ等を含む。
【0037】
HV-ECU100は、アクセル開度AP、車速SPDから求めた要求駆動トルク、蓄電装置80のSOC、等に基づいて、内燃機関10の出力トルクTe、MG60の指令トルクTm等を算出する。MG60のトルクが指令トルクTmになるよう、PCU70がMG60を制御することにより、MG60は、力行状態(駆動状態)あるいは回生状態(発電状態)に制御される。たとえば、指令トルクTmが正の場合、MG60は駆動状態(電動機)となり、指令トルクTmが負の場合、発電状態(発電機)となる。また、指令トルクTmがゼロのときには、MG60のトルクはゼロになり、空転状態になる。
【0038】
E/G-ECU90は、HV-ECU100の指令に基づき、内燃機関10の出力を制御する。
【0039】
ベルトBの摩耗の進行等によりベルトBが破断すると、MG60による発電が行われなくなるため、ベルトBの異常を検出してドライバへ知らせ、退避走行を促すことが好ましい。たとえば、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmの関係から、モータプーリ5とベルトBのスリップ量(滑り量)が過大になったことを検出し、ベルトBの異常状態を検出することが考えられる。
【0040】
ベルトBが被水するなど、モータプーリ5とベルトBの摩擦係数が低下すると、ベルトBが滑りやすい状態になり、ベルトBに異常がなくとも、モータプーリ5とベルトBの滑り量が一時的に過大になることがある。このため、モータプーリ5とベルトBの滑りに基づいて異常判定を行うと、誤判定を招く可能性がある。
【0041】
本実施の形態では、被水等により、一時的にベルトBの滑りが発生しても、誤判定することなく、ベルトBの異常を検出することを可能とする。
【0042】
図3は、本実施の形態において、HV-ECU100に構成される機能ブロックを示す図である。なお、HV-ECU100は、本開示の「異常検出装置」に相当する。指令トルク算出部は、要求駆動トルクとSOC等に基づいてMG60の指令トルクTmを算出する。
【0043】
滑り判定部102は、MG60の発電時に、ベルトBの滑りの発生の有無を判定する。たとえば、指令トルクTmが負であるときに、エンジン回転速度Neが閾値Nes以上であり、かつ、MG回転速度Nmが閾値Nmsより小さい状態が所定時間ts継続した場合に、ベルトBの滑りが発生していると判定する。閾値Nesは、内燃機関10のアイドリング回転速度Neiに相当する値であってよい。閾値Nmsは、クランクプーリ2とモータプーリ5のプーリ比PRを用いて算出した、アイドリング回転速度Neiに相当するMG回転速度Nmiより十分小さい値であり、たとえば、100rpmであってよい。所定時間tsは、たとえば、1秒であってよい。
【0044】
異常判定部103は、滑り判定部102でベルトBの滑りが発生していると判定されると、指令トルク算出部101へ、指令トルクTmをゼロ(0)にするよう指示を行う。指令トルク算出部101は、この指示を受けて、指令トルクTmをゼロに設定する。そして、異常判定部103は、MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間tf継続したか否かを判定する。MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間tf継続した場合には、ベルトBの滑りが解消しているので、異常は発生していないと判定する。また、MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間tf継続しない場合には、ベルトBの滑りが解消していないので、ベルトBの破断等による異常が発生していると判定する。所定時間tfは、たとえば、2~3秒であってよい。
【0045】
MG60の発電時には、MG60に発電トルクが生じるので、被水等によりベルトBが滑りやすい状態になると、モータプーリ5とベルトBの滑りが発生する場合がある。ベルトBが滑りやすい状態であっても、MG60のトルクがゼロであるときには、ベルトBとモータプーリ5との伝達トルクは略ゼロであるため、滑りは発生しない。ベルトBが滑りやすい状態では、MG60の発電時にベルトBの滑りが発生していても、MG60のトルクをゼロにすることにより、ベルトBの滑りが解消する。したがって、滑り判定部102で、MG60の発電時にベルトBの滑りが発生したと判定したとき、MG60のトルクをゼロにしても、ベルトBの滑りが解消しない場合には、被水等による一時的なベルトBの滑りではなく、ベルトBの破断等による異常であると判定することができる。また、MG60のトルクをゼロにしたとき、ベルトBの滑りが解消した場合には、被水等によりベルトBが滑りやすい状態であり、ベルトBの異常ではないと判定できる。
【0046】
異常判定部103は、ベルトBの異常が判定されると、MIL(Malfunction Indication Lamp)を点灯し、運転者に退避走行を促す。また、ベルトBの異常が判定されると、メモリ(不揮発性メモリ)に、ベルトBの異常を示すダイアグコードを書き込む。なお、ベルトBの異常が判定されない場合には、指令トルク算出部101へ、要求駆動トルクとSOC等に基づいて算出した指令トルクTmをPCU70に出力するよう指示を行う。
【0047】
復帰判定部104は、異常判定部103でベルトBの異常が判定されると、MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間ts継続したか否かを判定する。そして、MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間ts継続した場合には、ベルトBの異常が解消したと判定し、MILを消灯するとともに、ベルトBの異常を示すダイアグコードを、メモリから消去する。これにより、ベルトBの破断等の異常を修復するために、ベルト交換等の修理が行われると、復帰判定部104において、ベルトBの異常が解消したと判定され、MILを消灯し、ダイアグコードを消去することができる。
【0048】
なお、ベルトBの破断等の異常を修理するため、修理工場等でベルト交換等を行った際に、スキャンツール(ダイアグツール)を用いて、MILを消灯するとともにダイアグコードを消去した場合には、復帰判定部104の処理は実行されない。
【0049】
図4は、HV-ECU100で実行される、ベルト異常検出処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、ハイブリッドシステムがONの状態(システムON(イグニッションON)からシステムOFF(イグニッションOFF)までの間)のとき、所定期間毎に繰り返し実行される。
【0050】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10において、異常フラグFが1であるか否かを判定する。異常フラグFは、ハイブリッド車両1の工場出荷時、ベルトBの交換等により修理を行った際に、0にセットされる。ベルトBに異常がない場合には、異常フラグFは0であるので、否定判定されS11へ進む。
【0051】
S11では、ベルト異常判定の前提条件が成立しているか否かを判定する。前提条条件は、たとえば、「各ECUおよび各機器とのCAN通信が異常でないこと」、「エンジン回転速度センサ120が異常でないこと」、「MG回転速度センサ130が異常でないこと」、「蓄電装置80の電圧が低くないこと(所定電圧以下でないこと)」等である。前提条件が成立している場合は、肯定判定されS12へ進み、前提条件が成立していない場合には、否定判定され今回のルーチンを終了する。
【0052】
S12では、MG60が発電中であるか否かを判定する。MG60の指令トルクTmが負であれば、発電中であるので、肯定判定されS13へ進む。指令トルクが正、あるいは、ゼロの場合には、発電中でないので、否定判定され今回のルーチンを終了する。
【0053】
S13では、エンジン回転速度Neが閾値Nes以上(Ne≧Nes)、かつ、MG回転速度Nmが閾値Nmsより小さい(Nm<Nms)状態が所定時間ts継続したか否かを判定する。ベルトBに滑りが発生しているときには、肯定判定されS14へ進む。ベルトBに滑りが発生していなときには、否定判定され今回のルーチンを終了する。
【0054】
S14では、MG60の指令トルクTmを0に設定した後、S15へ進む。S15では、MG回転速度Nmが閾値Nms以上(Nm≧Nms)の状態が所定時間tf継続したか否かを判定する。MG回転速度Nmが閾値Nms以上(Nm≧Nms)の状態が所定時間tf継続した場合には、ベルトBの滑りが解消しており、異常は発生していないので、肯定判定されS16へ進む。MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間tf継続しない場合には、ベルトBの滑りが解消しておらず、ベルトBの破断等による異常が発生しているので、否定判定されS17へ進む。
【0055】
S16では、S14で設定した指令トルクTmの設定(指令トルクTm=0)を解除した後、今回のルーチンを終了する。
【0056】
S17では、異常フラグFを1に設定した後、S18に進む。S18では、MILを点灯するとともに、不揮発性メモリにベルトBの異常を示すダイアグコードを書き込んだ後、今回のルーチンを終了する。
【0057】
なお、S17において異常フラグFが1に設定されると、次回以降の処理において、S10で否定判定される。
【0058】
図5は、HV-ECU100で実行される、復帰処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、ハイブリッドシステムのハイブリッドシステムがONの状態のとき、所定期間毎に繰り返し実行される。
【0059】
S20では、異常フラグFが1であるか否かを判定する。異常フラグFが1であるときには、肯定判定されS21へ進む。異常フラグFが0の場合には、否定判定され今回のルーチンを終了する。
【0060】
S21では、MG回転速度Nmが閾値Nms以上(Nm≧Nms)の状態が所定時間tf継続したか否かを判定する。MG回転速度Nmが閾値Nms以上(Nm≧Nms)の状態が所定時間tf継続した場合には、ベルトBの滑りが解消しており、ベルト交換等により異常が解消しているので、肯定判定されS22へ進む。MG回転速度Nmが閾値Nms以上である状態が所定時間tf継続しない場合には、ベルトBの滑りが解消しておらず、ベルトBの破断等による異常が継続しているので、否定判定され今回のルーチンを終了する。
【0061】
S22では、異常フラグFを0に設定した後、S23へ進む。S23では、MILを消灯するとともに、ベルトBの異常を示すダイアグコードを不揮発性メモリから消去した後、今回のルーチンを終了する。
【0062】
なお、ベルトBの破断等の異常を修理するため、修理工場等でベルト交換等を行った際に、スキャンツール(ダイアグツール)を用いて、異常フラグFを0に設定し、MILを消灯するとともにダイアグコードを消去した場合には、S20で否定判定されるので、図5の復帰処理が実質的に実行されることがない。
【0063】
本実施の形態では、MG60の発電時にベルトBの滑りが発生していると判定されると、MG60の指令トルクTmをゼロに設定し、MG60のトルクがゼロになっても、ベルトBの滑りが解消しない場合に、ベルトBが異常であると判定する。MG60の発電時にベルトBの滑りが発生したとき、MG60のトルクをゼロにしても、ベルトBの滑りが解消しない場合には、被水等による一時的なベルトの滑りではなく、ベルトBの破断等による異常であると判定することができる。
【0064】
なお、摩擦伝動ベルトを用いた動力伝達機構では、通常時に1~2%のスリップ率を伴い動力伝達を行う。本実施の形態において、「ベルトBの滑り(の発生)」とは、動力伝達を行う際に許容されるスリップ率より大きなスリップ率でベルトBの滑りが発生していることである。
【0065】
本実施の形態では、滑り判定部102(あるいはS13)においてベルトBの滑りの発生の有無を判定する際に用いた閾値Nms(本開示の「第2所定値」に相当)を、異常判定部103(あるいはS15)においてベルトBの滑りの解消を判定する際に用いた閾値Nms(本開示の「第3所定値」に相当)として用いていた。しかし、異常判定部103(あるいはS15)においてベルトBの滑りの解消を判定する際に用いた閾値は、閾値Nmsと異なる値であってよく、たとえば、閾値Nmsより大きな値であってよい。
【0066】
本実施の形態では、異常判定部103(あるいはS15)においてベルトBの滑りの解消を判定する際に用いた閾値Nms(本開示の「第3所定値」に相当)を、復帰判定部104(あるいはS21)においてベルトBの異常の解消を判定する際に用いた閾値Nmsとして用いていた。しかし、復帰判定部104(あるいはS21)においてベルトBの異常の解消を判定する際に用いた閾値は、閾値Nmsと異なる値であってよく、たとえば、閾値Nmsより大きな値であってよい。
【0067】
本実施の形態では、ベルトBの滑りの発生の有無を、エンジン回転速度Neが閾値Nes以上(Ne≧Nes)、かつ、MG回転速度Nmが閾値Nmsより小さい(Nm<Nms)状態が所定時間ts継続したか否かによって判定しているが、ベルトBのスリップ率が所定値より大きい状態が所定時間継続した場合にベルトBの滑りの発生が発生したと判定してもよい。また、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmの差が所定範囲外になったときに、ベルトBの滑りが発生したと判定してよく、たとえば、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmの差(|Ne-Nm|)が、プーリ比PRを考慮して決定した閾値Np以上のとき、ベルトBの滑りが発生したと判定してよい。さらに、MG回転速度Nmが急激に低下したときに、ベルトBの滑りが発生したと判定してよく、たとえば、所定時間のおけるMG回転速度Nmの低下量が設定値以上になったとき、ベルトBの滑りが発生したと判定してよい。
【0068】
本実施の形態では、ベルトBの滑りが解消したこと、および、ベルトBの異常が解消したことを、MG回転速度Nmと閾値の比較により判定している。しかし、ベルトBの滑りが解消したこと、あるいは、ベルトBの異常が解消したことを、ベルトBのスリップ率を用いて判定してもよい。この場合、ベルトBのスリップ率が所定値より小さいとき、ベルトBの滑りが解消したと判定してよく、ベルトBの異常が解消したと判定してよい。また、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmの差が所定範囲内になったときに、ベルトBの滑りが解消したと判定してよく、ベルトBの異常が解消したと判定してよい。
【0069】
本実施の形態では、サーペンタイン式のベルトを用いて、内燃機関10のクランク軸とMG60の回転軸を接続しているが、内燃機関10のクランク軸とMG60の回転軸を専用のベルトを用いて駆動するものであってもよい。
【0070】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 ハイブリッド車両、2 クランクプーリ、3 アイドラプーリ、4 ウォータポンププーリ、5 モータプーリ、6 エアコンプーリ、7 ベルト、10 内燃機関、11 第1テンショナプーリ、12 第1アーム、13 第1軸、15 第2テンショナプーリ、16 第2アーム、17 第2軸、18 スプリング、20 トルクコンバータ、30 自動変速機、50 後輪、60 モータジェネレータ(MG)、61 回転軸、70 PCU、80 蓄電装置、90 E/G-ECU、100 HV-ECU、101 指令トルク算出部、102 滑り判定部、103 異常判定部、104 復帰判定部、110 BAT-ECU、120 エンジン回転速度センサ、130 MG回転速度センサ、140 各種センサ、B ベルト、T テンショナ。
図1
図2
図3
図4
図5