(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074582
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】同位体抽出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20230523BHJP
G01N 1/44 20060101ALI20230523BHJP
G01N 25/00 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
G01N1/22 Z
G01N1/44
G01N25/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187567
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000248299
【氏名又は名称】有限会社光信理化学製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(74)【代理人】
【識別番号】100171848
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】横山 祐典
(72)【発明者】
【氏名】宮入 陽介
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小平 彰
【テーマコード(参考)】
2G040
2G052
【Fターム(参考)】
2G040AB11
2G040BA03
2G040BA25
2G040BB02
2G040CA01
2G040DA05
2G040DA12
2G040EA02
2G040EA06
2G040EA13
2G040EB02
2G040FA01
2G040GA04
2G052AA19
2G052AB05
2G052AB06
2G052AC04
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD42
2G052CA05
2G052EB11
2G052FD02
2G052FD08
2G052GA24
2G052HA17
2G052HC22
2G052HC25
(57)【要約】
【課題】短時間で石英等の試料を相転移させる温度まで加熱することを可能にする同位体抽出装置を提供すること。
【解決手段】同位体抽出装置100aは、石英の試料Mから炭素同位体を抽出するための加熱を行う加熱炉10と、一対の試験管状のチューブ91,92を上下に重ねた構造を有し、試料Mを内部空間ISに保持する反応セル90とを備え、反応セル90は、試料Mの反応中に反応セル90で発生した抽出ガスを大気のコンタミネーションを避けて保持し、反応後に抽出ガスを分離処理装置21のガス回収部21aを利用して回収することを可能にし、加熱炉10は、反応セル90の外側周囲に設けられ試料Mに対して光を集光する複数の光加熱装置13と、反応セル90の内側に設けられた内部加熱装置14を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英試料から炭素同位体を抽出するための加熱を行う加熱炉と、
一対の試験管状のチューブを上下に重ねた構造を有し、前記石英試料を内部空間に保持する反応セルと、
を備え、
前記反応セルは、前記石英試料の反応中に前記反応セルで発生した抽出ガスを大気のコンタミネーションを避けて保持し、反応後に前記抽出ガスを分離処理装置のガス回収部を利用して回収することを可能にし、
前記加熱炉は、前記反応セルの外側周囲に設けられ前記石英試料に対して光を集光して加熱する複数の光加熱装置と、前記反応セルの内側に設けられた内部加熱装置とを有する同位体抽出装置。
【請求項2】
前記反応セルは、二重構造の石英管であり、前記内部空間が閉じられた状態で気密性を有し前記石英試料を保持する空洞部と、前記空洞部の上部に設けられ外部と接続されて前記石英試料から発生するガスを放出するガス抽出部と、内側に前記内部加熱装置を挿入するためのアクセス凹部とを有する、請求項1に記載の同位体抽出装置。
【請求項3】
前記光加熱装置は、ハロゲンランプとミラーとを有する、請求項1及び2のいずれか一項に記載の同位体抽出装置。
【請求項4】
前記内部加熱装置は、タングステンヒータを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の同位体抽出装置。
【請求項5】
前記ガス抽出部は、光吸収性の遮熱帯を有する、請求項2~4のいずれか一項に記載の同位体抽出装置。
【請求項6】
前記ガス抽出部は、外部装置との接続のためのOリング継手用の溝を有する、請求項2~5のいずれか一項に記載の同位体抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩石からガス状の対象物質を放出させる同位体抽出装置に関し、特に石英を加熱することによって石英からガス化させた放射性炭素を取り出すのに適した同位体抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙線照射によって地球表層に生成される放射性核種を用いる表面照射年代測定法が開発され、表面露出年代又は侵食速度の推定を可能にしている。特に石英を用いる表面照射年代測定法は、石英の簡単な組成、化学的・物理的な安定性、複数の宇宙線起源核種10Be、26Al、及び14Cによって広い年代をカバー可能であることから、有望であると期待され実用化が進んでいる。
【0003】
例えば、高温炉を使用して石英から14CをCO等として抽出し、続いてCOをCO2に酸化し、続いてCO2を精製し、得られたCO2からターゲット核種14Cの存在量を決定する手法が公知となっている(非特許文献1、2)。この手法では、14Cの存在量決定に用いたサンプルを他の宇宙線起源核種10Be、26Alのその後の分析においても用いることができる点で有利である。なお、比較的低温の加熱によって石英をフラックス化するためLiBO2を使用する手法もあるが(非特許文献1、3)、14Cの定量に用いたサンプルを他の宇宙線起源核種の分析に用いることができなくなる。
【0004】
石英から14CをCO等として抽出する際には、短時間で石英を相転移させる温度まで加熱することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.A. Lifton, et al., Geochimica et Cosmochimica Acta, Vol.65, No.12 (2001), pp.1953-1969
【非特許文献2】Y. Yokoyama, et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B223-224 (2004) 253-258
【非特許文献3】N.A. Lifton, et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B361 (2015) 381-386
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、短時間で石英等の試料を相転移させる温度まで加熱することを可能にする同位体抽出装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る同位体抽出装置は、石英試料から炭素同位体を抽出するための加熱を行う加熱炉と、一対の試験管状のチューブを上下に重ねた構造を有し、石英試料を内部空間に保持する反応セルと、を備え、反応セルは、石英試料の反応中に反応セルで発生した抽出ガスを大気のコンタミネーションを避けて保持し、反応後に抽出ガスを分離処理装置のガス回収部を利用して回収することを可能にし、加熱炉は、反応セルの外側周囲に設けられ石英試料に対して光を集光して加熱する複数の光加熱装置と、反応セルの内側に設けられた内部加熱装置とを有する。
【0008】
上記同位体抽出装置では、反応セルの外部からの光加熱装置による照射加熱と、内部からの内部加熱装置による加熱とにより、反応セル内での石英試料の加熱を効率的に行うことができる。これにより、短時間で石英試料を相転移させる温度まで昇温でき、コンタミネーションの発生を防ぐことができる。
【0009】
本発明の具体的な側面では、上記同位体抽出装置において、反応セルは、二重構造の石英管であり、内部空間が閉じられた状態で気密性を有し石英試料を保持する空洞部と、空洞部の上部に設けられ外部と接続されて石英試料から発生するガスを放出するガス抽出部と、内側に内部加熱装置を挿入するためのアクセス凹部とを有する。この場合、空洞部に保持した石英試料を効率良く加熱し、かつ真空状態を維持しつつ炭素同位体を効率良く抽出することができる。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、光加熱装置は、ハロゲンランプとミラーとを有する。この場合、複数のハロゲンランプで照射加熱することにより、所定の領域を効率良く加熱することができる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、内部加熱装置は、タングステンヒータを含む。この場合、反応セルの内側の狭い空間でも効率良く加熱することができる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、ガス抽出部は、光吸収性の遮熱帯を有する。この場合、反応セルの熱の漏れを抑えることができる。これにより、ガス抽出部に設けられる高真空を維持するためのOリングを健全に保つことができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、ガス抽出部は、外部装置との接続のためのOリング継手用の溝を有する。この場合、溝に加圧、真空による漏れを防止するためのOリングを取り付けることにより、高真空を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】加熱炉を含む同位体抽出分析装置全体の概要を説明する図である。
【
図4】(A)~(C)は、反応セルのアクセス凹部に挿入される要素を説明する図である。
【
図5】同位体抽出分析装置を用いた分析方法の概要を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態〕
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る同位体抽出装置100aを含む同位体抽出分析装置100の実施形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、同位体抽出分析装置100は、加熱炉10と、分離処理装置21と、核種計測装置22と、制御装置30とを備える。同位体抽出分析装置100は、加熱炉10に付随する要素として、外部加熱駆動装置40、放射温度計駆動装置50、内部加熱駆動装置60、温度検出回路70、不活性ガス供給装置80等を含む。同位体抽出分析装置100のうち、加熱炉10、外部加熱駆動装置40、放射温度計駆動装置50、内部加熱駆動装置60、温度検出回路70、不活性ガス供給装置80、分離処理装置21、及び制御装置30は、同位体抽出装置100aを構成する。
【0017】
図1及び
図2に示すように、加熱炉10は、容器11と、蓋ブロック12と、複数の光加熱装置13と、内部加熱装置14と、放射温度計15とを含む。加熱炉10は、フレーム16によって中空に支持されている。加熱炉10には、反応セル90を着脱可能に取り付けることができる。なお、
図1において、加熱炉10は、
図2のA-A断面として示されている。
【0018】
容器11は、円筒状の本体11aと、円筒状の支持部11bとを有する。本体11aの側面に形成された開口11cには、6個の光加熱装置13の前端部13aが埋め込むように保持されている。また、光加熱装置13は、反応セル90の軸AXに垂直な面に沿って軸AX周りに等間隔で配置されている。容器11の本体11aは、各光加熱装置13を周囲から気密に固定する。各光加熱装置13は、容器11の中心領域に向けて集束させるように赤外線を含む加熱光を照射する。蓋ブロック12は、円柱状の部材であり、容器11の上部開口11dを封止する。蓋ブロック12は、中央に反応セル90を挿通させる孔12aを有し、反応セル90を周囲から気密に固定する。これにより、反応セル90の先端部が容器11の中心領域にセットされる。容器11の底部の一か所には、放射温度計15の先端部が埋め込まれている。
【0019】
容器11や蓋ブロック12は、アルミニウム製であり、内部に水冷用の流路(不図示)を有する。容器11や蓋ブロック12を水冷することで、光加熱装置13や反応セル90を冷却することができ、光加熱装置13や反応セル90に取り付けた後述するOリングRの劣化を抑制することができる。容器11や蓋ブロック12において、母材の表面には、金の薄膜がコートされている。この薄膜は、光加熱装置13からの赤外線を含む加熱光を効率良く反射し、容器11の加熱を防止するとともに反応セル90の下端90bの加熱を補助する。
【0020】
図3に示す反応セル90は、真空に減圧された状態で使用され、反応セル90の下端90bの減圧空間内に石英の試料Mを保持する。反応セル90は、石英ガラスで形成され、一対の試験管状のチューブ91,92を内外に重ねたものである。つまり、反応セル90は、二重構造の石英管となっており、一方が内チューブ91を構成し、他方が外チューブ92を構成する。各チューブ91,92は、円筒状の壁部91a,92aと半球状の底部91b,92bとを有し、両チューブ91,92の上端は、気密に接合されている。
【0021】
反応セル90は、空洞部93と、ガス抽出部94と、アクセス凹部95とを有する。
【0022】
空洞部93は、外チューブ92と内チューブ91とに挟まれた本体部分であり、内部空間ISを有する。空洞部93は、内部空間ISが閉じられた状態で気密性を有する。内部空間ISは、略一様な厚みの円筒空間と、円筒空間と同様の厚み以下の底部空間とを有する。空洞部93は、内部空間ISのうち、反応セル90の下端90bに、試料収納空間SSを有する。試料収納空間SSには、試料Mが保持される。
【0023】
ガス抽出部94は、通路Paを有し、反応セル90の空洞部93のうち外チューブ92の上部に、内部空間ISと連通するように接続されている。ガス抽出部94は、外チューブ92から斜め上方に延びている。ガス抽出部94は、
図1に示す外部の回収ラインMLと接続されて試料Mから発生するガスを後述する分離処理装置21のガス回収部21aに放出する。ガス抽出部94は、試料Mの反応中に反応セル90で発生した抽出ガスを大気のコンタミネーションを避けて保持し、反応後に抽出ガスを分離処理装置21のガス回収部21aを利用して回収することを可能にする。抽出ガスは、ガス抽出部94とガス回収部21aとを接続する回収ラインMLに設けられたニードルバルブを用いて、ガス回収部21aと反応セル90とを隔てることで反応セル90内に保持されている。なお、回収ラインMLには不図示の真空ポンプが設けられており、反応セル90内を減圧している。
【0024】
ガス抽出部94は、筒状で、中央部に光吸収性の遮熱帯94aを有する。遮熱帯94aは、通路Paを囲むように配置される。遮熱帯94aは、ガス抽出部94において不透明な石英管を別途接合させたものであり、反応セル90を伝わって分離処理装置21、具体的にはガス回収部21a側に漏れ出す加熱光を遮断し、ガス抽出部94の先端の接続部94bに連結されるガス回収部21aの加熱や劣化を防ぐ。また、遮熱帯94aを設けることにより、ガス抽出部94に設けられる高真空を維持するためのOリングRを健全に保つことができる。ガス抽出部94の接続部94bの外側には、環状の溝94cが形成されている。溝94cは、回収ラインMLを介して外部装置である分離処理装置21のガス回収部21aと接続するためのOリング継手であり、気密を保った連結を可能にするOリングRの装着を可能にしている。溝94cに加圧、真空による漏れを防止するためのOリングRを取り付けることにより、高真空を維持することができる。OリングRとしては、例えばバイトンOリング(登録商標)等のフッ素ゴム材質のOリングが用いられる。
【0025】
アクセス凹部95は、内チューブ91の下端に、試料収納空間SSに突出して形成される。アクセス凹部95は、内チューブ91の中心側を介して反応セル90の上端90aにつながっている。アクセス凹部95には、内部加熱装置14が挿入されている。
【0026】
反応セル90が上記構造を有することにより、空洞部93に保持した試料Mを効率良く加熱し、かつ真空状態を維持しつつ炭素同位体を効率良く抽出することができる。
【0027】
反応セル90の寸法の一例を示すと、空洞部93の外形の軸AX方向の長さは、例えば25cmであり、外形の径方向の長さは例えば20cmである。また、空洞部93の内径、すなわち外チューブ92と内チューブ91との間隔は、軸AX方向に延びる部分については略均一で、例えば5.5mmであり、アクセス凹部95の下部では軸AX方向に延びる部分よりも狭くなっている。空洞部93の内側、すなわちアクセス凹部95の径方向の長さは、例えば9mmである。ガス抽出部94の長さは、例えば8.5cmである。
【0028】
光加熱装置13は、ハロゲンランプ13bとミラー13cとを組み合わせたものである。光加熱装置13は、ハロゲンランプ13bからの射出された加熱光を集め、反応セル90の下端90bに収束させる。複数のハロゲンランプ13bで照射加熱することにより、所定の領域を効率良く加熱することができる。ハロゲンランプ13bは、窒素やアルゴン等の不活性ガスにヨウ素や臭素といったハロゲンガスを微量添加したものを電球内部に封入したものであり、電球内部のフィラメントに通電することで、フィラメントを白熱させハロゲンガスを利用したハロゲンサイクルにより発光を維持する。ハロゲンランプ13bの電力は、例えば450Wである。ミラー13cは、球面や楕円面の反射面を有し、加熱光を効率的に反射する。ミラー13cの反射面には、例えば金の薄膜がコートされる。なお、ミラーは、表面反射を行うものに限らず裏面反射を利用するものであってもよい。
【0029】
内部加熱装置14は、
図4(A)に示す熱電対14aと、
図4(B)に示すタングステンヒータ14bと、及び
図4(C)に示す不活性ガス導入管14cとを有する。内部加熱装置14がタングステンヒータ14bを含むことにより、反応セル90の内側の狭い空間でも効率良く加熱することができる。
【0030】
熱電対14aは、Ptの導線T1とRhの導線T2とを先端で接合したものであり、両導線T1,T2は、短絡防止用の石英ガラス管T3,T4でそれぞれ被覆されている。タングステンヒータ14bは、先端に配置されるコイル部C1と、コイル部C1から延びる一対の導線C2,C3とを有し、一方の導線C2は、短絡防止用の石英ガラス管C4で被覆されている。コイル部C1としてはタングステン線が用いられており、コイル部C1から延びる導線C2,C3としては、例えばタングステン線とニッケル線とを接続したものが用いられる。タングステンヒータ14bの最大外形は、例えば6mmである。先端のコイル部C1には、熱電対14aや不活性ガス導入管14cが挿入される。不活性ガス導入管14cは、石英ガラス製であり、通気孔Eを有する。不活性ガス導入管14cは、通気孔Eを介してタングステンヒータ14bのコイル部C1の周辺に所定の流量でArガスを供給する。Arガスにより、タングステンヒータ14bの酸化を防止している。内部加熱装置14が不活性ガス導入管14cや石英ガラス管T3,T4,C4を有することにより、超高温下で熱電対14a及びタングステンヒータ14bの劣化を防ぐことができる。
【0031】
外部加熱駆動装置40は、制御装置30の管理下で動作し、光加熱装置13の点灯タイミング、点灯時間等を調整し、反応セル90の下端90bの迅速かつ的確な加熱を可能にする。外部加熱駆動装置40は、放射温度計15や熱電対14aによる計測結果をフィードバックしつつ動作し、試料収納空間SSに保持された試料Mを目標の温度まで、具体的には1550℃~1650℃まで加熱する。昇温に要する時間は、短時間であるほどよく、具体的には5分~10分間で目標温度、具体的には石英を相転移させる温度までの加熱が達成される。昇温に要する時間が短いほど汚染を少なくすることができるので、14Cの検出精度を高めることができる。試料Mは、ターゲット核種を含む岩石を粉砕し、石英に純化したものであり、光加熱装置13によって目標とする相転移が生じるまで加熱される。試料Mは、目的地で採取されたものであり、具体的にはin situ生成された14Cを含有する石英である。試料Mは、目標とする相転移が生じるまで加熱されると、14C或いは14Cを含むCOガスを放出する。
【0032】
放射温度計駆動装置50は、制御装置30の管理下で動作し、反応セル90の下端90bの表面温度、つまり試料収納空間SSに保持された試料Mの温度を非接触で計測する。内部加熱駆動装置60は、制御装置30の管理下で動作し、タングステンヒータ14bへの通電を調整することによって、反応セル90の下端90bを補助的に加熱する。タングステンヒータ14bにより、試料Mを均質に加熱し、投入した試料Mの相転移漏れをなくすることができる。温度検出回路70は、制御装置30の管理下で動作し、熱電対14aを介して反応セル90の下端90bの温度を内側から計測する。不活性ガス供給装置80は、制御装置30の管理下で動作し、試料Mの加熱中にタングステンヒータ14bが酸化することを防止する。
【0033】
分離処理装置21は、ガス回収部21aと分離処理部21bとを有する。分離処理装置21は、制御装置30の管理下で動作し、ガス回収部21aで回収した抽出ガスの酸化及び精製を行う。
【0034】
ガス回収部21aは、反応中に反応セル90、具体的にはガス抽出部94で保持された抽出ガスを、反応後にガス抽出部94から回収する。ガス回収部21aは、例えば低温トラップを液体窒素で冷却することによって抽出ガスを回収する。
【0035】
分離処理部21bは、ガス回収部21aと処理ラインNLで接続されている。分離処理部21bは、in situ生成された14Cを含むCOガスをキャリアガス下で酸化することでCO2ガスに変換し、トラップ等を利用して不要なガス成分を除去する。分離処理部21bは、14C等を含むCO2ガスを黒鉛化する。
【0036】
核種計測装置22は、14Cの計測を行う。核種計測装置22は、別建屋に設けられた例えば加速器質量分析装置(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)であり、14C等を含む黒鉛から14Cや12C等の量を原子数のレベルで計測する。
【0037】
以下、
図5を参照しつつ、同位体抽出分析装置100を用いた試料Mの抽出及び分析方法の一例について説明する。
【0038】
まず、試料Mである石英の前処理を行う(ステップS11)。具体的には、岩石を粉砕し、石英の選鉱を行い、洗浄する。前処理後の試料Mは、反応セル90の試料収納空間SSに収納される。試料Mとしては、例えば、バックグラウンドレベルを測定するため、in situ生成された14Cが含まれていない地下深部で採取された石英試料を用いることができる。また、抽出効率を測定するために、14C濃度が放射平衡に達した既知の石英試料を用いることができる。これらの試料の測定結果は、他の試料の校正に利用することができる。
【0039】
次に、試料Mを収納した反応セル90を加熱炉10によって加熱し、14Cを抽出する(ステップS12)。具体的には、試料Mは、真空下で例えば450℃又は500℃で加熱され、コンタミネーションの原因となる大気由来のmeteoric14Cを除去する。その後、酸素又はO2-CO2-Heからなるキャリアガスを反応セル90内に満たし、試料Mは、真空下で例えば1550℃又は1650℃で10分程度加熱され、in situ生成された14C又は14Cを含むCO成分を反応セル90のガス抽出部94から回収する。具体的には、試料Mの反応中では、大気のコンタミネーションを避けてガス抽出部94で抽出ガスを保持する。試料Mの反応後では、回収ラインMLに設けたニードルバルブを開いて回収ラインMLを開通させ、分離処理装置21に内蔵されたガス回収部21aで液体窒素冷却された低温トラップを利用して抽出ガスを回収する。以上のように、in situ生成された14Cの抽出を高真空下、かつ短時間で行うことにより、大気に由来する14Cの発生も防ぐことができ、コンタミネーションの発生を防ぐことができる。
【0040】
次に、分離処理装置21の分離処理部21bにおいて、抽出した14C又はCOを酸化処理する(ステップS13)。具体的には、試料Mから発生したガスを例えば酸素又はO2-CO2-Heからなるキャリアガスとプラチナを用いた触媒反応で酸化させ、CO2を生成する。
【0041】
次に、分離処理装置21の分離処理部21bにおいて、酸化処理したCO2を精製処理する(ステップS14)。具体的には、ステップS13を経たガスからトラップ等により水蒸気やCO2以外の他のガスを除去する。
【0042】
次に、分離処理装置21の分離処理部21bにおいて、精製処理したCO2を金属触媒による還元により黒鉛化する(ステップS15)。具体的には、精製したCO2とH2とを混合して、触媒として鉄を用いて還元反応させてグラファイトを生成する。なお、触媒として亜鉛及び鉄の組み合わせ、又はコバルトを用いて精製したCO2を還元反応させてグラファイトを生成してもよい。なお、分離処理装置21で生成したグラファイトは、アルミニウム製のチューブにグラファイト粉を圧入して詰め、核種計測装置22の分析部に取り付ける。
【0043】
最後に、核種計測装置22において、黒鉛化したCを用いてCの定量を行う(ステップS16)。具体的には、AMSを用いてターゲットにセシウム正イオンを照射することでグラファイトから負イオン炭素を生成し、負イオン炭素を高エネルギーで加速し薄膜に衝突させることで陽イオンに変換し、炭素同位体の質量を分析する。AMSでは、磁場を通過することによって質量を選別し、例えば14C、13C、12Cの同位体比を測定することができる。
【0044】
上記同位体抽出装置100aでは、反応セル90の外部からの光加熱装置13による照射加熱と、内部からの内部加熱装置14による加熱とにより、反応セル90内での試料Mの加熱を効率的に行うことができる。これにより、短時間で石英等の試料Mを相転移させる温度まで昇温でき、コンタミネーションの発生を防ぐことができる。また、上記同位体抽出装置100aでは、炭素同位体の抽出過程において溶剤を使用しないため、炭素同位体を抽出後、他の同位体を抽出する等、試料Mを再利用することができる。
【0045】
上記同位体抽出装置100aを組み込んだ同位体抽出分析装置100は、表面照射年代測定のための試料抽出分析システムとして利用でき、岩石中に生成された宇宙線生成核種を用いた年代測定により、岩石の露出年代を測定することができる。
【0046】
〔その他〕
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、光加熱装置13として、ハロゲンランプ13bを用いたが、赤外線カーボンランプ、レーザ等の他の光源を用いてもよい。光源としてレーザを用いた場合、照射領域がハロゲンランプ13bよりも局所的となる。
【0047】
また、上記実施形態において、光加熱装置13は、反応セル90の軸AX周りに6個配置したが、配置や数は適宜変更することができる。また、光加熱装置13を2段に配置してもよい。
【0048】
また、上記実施形態において、反応セル90のガス抽出部94に設けた遮熱帯94aは、不透明な石英管を別途接合させたものとしたが、ガス抽出部94の一部を結晶化させて不透明化したものでもよいし、不透明なガラスを石英管に溶着して形成してもよい。
【0049】
上記実施形態において、加熱炉10での加熱温度や加熱時間は適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
10…加熱炉、 11…容器、 11a…本体、 11b…支持部、 12…蓋ブロック、 12a…孔、 13…光加熱装置、 13b…ハロゲンランプ、 13c…ミラー、 14…内部加熱装置、 14a…熱電対、 14b…タングステンヒータ、 14c…不活性ガス導入管、 15…放射温度計、 16…フレーム、 21…分離処理装置、 21a…ガス回収部、 21b…分離処理部、 22…核種計測装置、 30…制御装置、 40…外部加熱駆動装置、 50…放射温度計駆動装置、 60…内部加熱駆動装置、 70…温度検出回路、 80…不活性ガス供給装置、 90…反応セル、 91…内チューブ、 91a,92a…壁部、 91b,92b…底部、 92…外チューブ、 93…空洞部、 94…ガス抽出部、 94a…遮熱帯、 94b…接続部、 94c…溝、 95…アクセス凹部、 100…同位体抽出分析装置、 100a…同位体抽出装置、 C1…コイル部、 C2,C3…導線、 C4…石英ガラス、 IS…内部空間、 R…Oリング、 SS…試料収納空間、 T1,T2…導線、 T3…石英ガラス管