(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007522
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】光デバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20230112BHJP
G02F 1/295 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
G02F1/035
G02F1/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019232814
(22)【出願日】2019-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】増子 尚徳
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】平澤 拓
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA22
2K102AA24
2K102BA02
2K102BA07
2K102BA11
2K102BB01
2K102BB04
2K102BB07
2K102BB08
2K102BC04
2K102BD01
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2K102CA18
2K102CA28
2K102DA04
2K102DB04
2K102DC01
2K102DC08
2K102DD01
2K102DD05
2K102DD10
2K102EA02
2K102EA16
2K102EA18
2K102EA21
(57)【要約】
【課題】電気光学効果を利用して、光導波路を伝搬する光の位相を大きくかつ高速に変調することができる光デバイスを提供する。
【解決手段】光デバイスは、電気絶縁性の基板と、前記基板によって支持された電気光学材料層と、前記電気光学材料層に接する少なくとも1つの電解質層と、前記電気光学材料層および前記電解質層に電圧を印加するための第1電極および第2電極と、を備え、前記第1電極および前記2電極は、(A)前記電気光学材料層の前記基板に面する第1面と、前記基板の前記電気光学材料層に面する第2面との間の位置、および(B)前記電気光学材料層の前記電解質層に面する第3面と、前記電解質層の前記電気光学材料層に面する第4面との間の位置、の何れにも設けられない。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性の基板と、
前記基板によって支持された電気光学材料層と、
前記電気光学材料層に接する少なくとも1つの電解質層と、
前記電気光学材料層および前記電解質層に電圧を印加するための第1電極および第2電極と、を備え、
前記第1電極および前記2電極は、
(A)前記電気光学材料層の前記基板に面する第1面と、前記基板の前記電気光学材料層に面する第2面との間の位置、および
(B)前記電気光学材料層の前記電解質層に面する第3面と、前記電解質層の前記電気光学材料層に面する第4面との間の位置、
の何れにも設けられない、
光デバイス。
【請求項2】
前記電気光学材料層、前記少なくとも1つの電解質層、ならびに前記第1電極および前記第2電極は、前記基板に平行な方向に延びており、
前記電気光学材料層は、前記電解質層の屈折率よりも高い屈折率を有し、
前記電気光学材料層は、前記基板に平行な前記方向に沿って光を伝搬させる、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記電圧を制御して前記電気光学材料層の屈折率を変化させることにより、前記光の位相を変調する制御回路をさらに備える、
請求項2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光は、横電界(transverse electric)モードでの光である、
請求項2または3に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記電解質層は、固体電解質材料またはゲル電解質材料から形成されている、
請求項1から4のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項6】
前記電気光学材料層は、前記基板に接している、
請求項1から5のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項7】
前記基板上に積層された電気絶縁層をさらに備え、
前記電気光学材料層は、前記電気絶縁層上に積層されている、
請求項1から5のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項8】
前記基板、前記電気絶縁層、および前記電気光学材料層の各々は、結晶構造を有し、
前記電気絶縁層の格子定数は、前記基板の格子定数と前記電気光学材料層の格子定数との間である、
請求項7に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記少なくとも1つの電解質層は、2つの電解質層から構成され、
前記2つの電解質層は、前記電気光学材料層の両側に隣接しており、
前記第1電極および前記第2電極の各々は、前記2つの電解質層の1つに接している、
請求項1から8のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電解質層は、1つの電解質層から構成され、
前記第1電極および前記電解質層は、前記電気光学材料層の両側に隣接しており、
前記第2電極は、前記電解質層に接している、
請求項1から8のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項11】
前記少なくとも1つの電解質層は、第1電解質層および第2電解質層を含み、
前記第1電解質層および前記第2電解質は、前記電気光学材料層上に間隔をあけて並び、
前記第1電極は前記第1電解質層に接しており、
前記第2電極には前記第2電解質層に接している、
請求項1から8のいずれかに記載の光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屈折率を変化させる多くのデバイスが提案されている(例えば、特許文献1および2、ならびに非特許文献1から4)。屈折率は、様々な光学効果によって変化させることができる。光導波路の屈折率を変化させれば、光導波路を伝搬する光の位相を変調することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-44856号公報
【特許文献2】特開平7-168214号公報
【非特許文献1】N. Hosseini, et. Al., “Stress-optic modulator in TriPleX platform using a piezoelectric lead zirconate titanate (PZT) thin film”Opt. Exp., 23, 14018 (2015).
【非特許文献2】M. R. Watts, “Adiabatic thermo-optic Mach-Zehnder switch”, Opc. Lett., 38, 733 (2013).
【非特許文献3】A. Yaacobi, “Integrated phased array for wide-angle beam steering”, Opt. Lett., 39, 4575 (2014).
【非特許文献4】K. Fujiwara, et. al., “KTN optical waveguide devices with an extremely large electro-optic effect”, Proc. of SPIE, 5623, 518 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電気光学効果を用いて、光導波路を伝搬する光の位相を大きくかつ高速に変調することができる光デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る光デバイスは、電気絶縁性の基板と、前記基板によって支持された電気光学材料層と、前記電気光学材料層に接する少なくとも1つの電解質層と、前記電気光学材料層および前記電解質層に電圧を印加するための第1電極および第2電極と、を備え、前記第1電極および前記2電極は、(A)前記電気光学材料層の前記基板に面する第1面と、前記基板の前記電気光学材料層に面する第2面との間の位置、および(B)前記電気光学材料層の前記電解質層に面する第3面と、前記電解質層の前記電気光学材料層に面する第4面との間の位置、の何れにも設けられない。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、電気光学効果を用いて、光導波路を伝搬する光の位相を大きくかつ高速に変調することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、本開示の例示的な実施形態における光デバイスを模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、
図1Aの構成における、電気光学材料層、電解質層、および一対の電極内の電荷分布を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の第1変形例における光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図4A】
図4Aは、本実施形態の第2変形例における光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図4B】
図4Bは、
図4Aの構成における、電気光学材料層、電解質層、および一対の電極内の電荷分布を模式的に示す図である。
【
図5A】
図5Aは、本実施形態の第3変形例における光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図5B】
図5Bは、本実施形態の第4変形例における光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図5C】
図5Cは、本実施形態の第5変形例における光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、電気光学材料層がKTNから形成された場合における光デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、電気光学材料層がLNから形成された場合における光デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本実施形態の第1応用例における光スイッチングデバイスの例を模式的に示す平面図である。
【
図9A】
図9Aは、本実施形態の第2応用例における光フェーズドアレイの第1の例を模式的に示す図である。
【
図9B】
図9Bは、本実施形態の第2応用例における光フェーズドアレイの第2の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0009】
非特許文献1は、応力によって屈折率が変化する応力光学効果(stress-optic effect)を用いた光デバイスを開示している。非特許文献1に開示されている光デバイスでは、光導波路上に積層された圧電体に電圧を印加することにより、圧電体が変形する。圧電体の変形に起因して、光導波路に応力がかかり、光導波路の屈折率が変化する。屈折率の変化に起因して、光導波路中を伝搬する光の位相が変調される。圧電体による光導波路の屈折率の変化量は小さく、例えば10-6程度のオーダである。このため、光導波路を長くしなければ、光の位相を大きく変調することができない。光導波路を長くすることは、光デバイスの大型化を招く。
【0010】
非特許文献2および3は、熱によって屈折率が変化する熱光学効果(thermo-optic effect)を用いた光デバイスを開示している。熱光学効果による屈折率の変化量は大きく、例えば10-2程度のオーダである。このため、光デバイスが小さい場合でも、光の位相を大きく変調することができる。しかし、熱光学効果による屈折率の変調速度は低く、例えば数百kHzを超える高速の変調を実現することができない。
【0011】
非特許文献4は、電界を印加することによって屈折率が変化する電気光学効果(electro-optic effect)を用いた光デバイスを開示している。代表的な電気光学効果として、ポッケルス(Pockels)効果、およびカー(Kerr)効果が知られている。電界が印加されていないとき、屈折率の変化量はゼロである。ポッケルス効果では、屈折率の変化量は、電気光学材料固有の電気光学定数と、印加された電界の強度との積によって決定される。カー効果では、屈折率の変化量は、電気光学定数と、印加された電界の強度の2乗との積によって決定される。屈折率の変化により、電気光学材料を伝搬する光の位相が変調される。電気光学効果による屈折率の変調速度は高く、例えば数十MHz以上の変調を実現することができる。
【0012】
電気光学効果を用いた光デバイスでは、印加された電界が強いほど、屈折率の変化量は大きい。しかし、印加される電界の強度は、電気光学材料の絶縁破壊電界強度よりも低い強度に制限される。このため、屈折率の変化量は10-4程度のオーダであり、それほど大きくならない。
【0013】
特許文献1は、電気光学効果を用いた光変調装置を開示している。特許文献1に開示されている装置では、電気光学材料層が電解質層に接している。電気光学材料層および電解質層に外部から電圧を印加すると、電気光学材料層と電解質層との界面付近で、強い電界が発生する。当該電界の強度は、電気光学材料層の絶縁破壊電界強度を超える。そのような強い電界が印加されることにより、電気光学材料層の屈折率を大きく変化させることができる。特許文献1に開示されている装置では、電気光学材料層の屈折率を変化させることにより、電気光学材料層を光が透過する状態と、電気光学材料層で光が反射される状態とを切り替えることができる。この光変調装置は、光スイッチング素子として利用される。電気光学材料層または電解質層を光導波路として利用することは想定されていない。
【0014】
特許文献2は、エレクトロクロミック効果(electrochromic effect)を用いた光スイッチを開示している。特許文献2に開示されている光スイッチでは、光導波路が、エレクトロクロミック材料層によって囲まれている。エレクトロクロミック材料層は電解質層に接している。エレクトロクロミック材料層および電解質層に電圧が印加される。これにより、当該エレクトロクロミック材料層内で、酸化還元反応が生じ、エレクトロクロミック材料層の電子構造が変化する。当該電子構造の変化により、エレクトロクロミック材料層の屈折率が変化する。酸化反応または還元反応は、外部から印加される電圧の極性に応じて可逆的に生じる。電圧を印加しなくても、酸化状態または還元状態が保持される。言い換えれば、一旦屈折率を変化させた後は、逆極性の電圧を印加しなければ、屈折率を戻すことはできない。この構造では、屈折率の変化量は10-3程度のオーダである。変調速度は非常に遅く、せいぜい数Hzである。この光スイッチにおいて、電解質層は、エレクトロクロミック材料層を酸化または還元させるために設けられている。
【0015】
以上のように、上記のデバイスのいずれにおいても、光導波路を伝搬する光の位相を大きくかつ高速に変調することはできない。
【0016】
本開示における光デバイスでは、光導波路を伝搬する光の位相を大きくかつ高速に変調することができる。本開示における光デバイスにおいて、電気光学材料層の結晶性は、基板の結晶性によって決まる。基板の結晶性が高い場合、電気光学材料層の結晶性を向上させることができる。その結果、電圧の印加によって電気光学材料層の屈折率を大きく変化させることができる。
【0017】
第1の項目に係る光デバイスは、電気絶縁性の基板と、前記基板によって支持された電気光学材料層と、前記電気光学材料層に接する少なくとも1つの電解質層と、前記電気光学材料層および前記電解質層に電圧を印加するための第1電極および第2電極と、を備える。前記第1電極および前記2電極は、(A)前記電気光学材料層の前記基板に面する第1面と、前記基板の前記電気光学材料層に面する第2面との間の位置、および(B)前記電気光学材料層の前記電解質層に面する第3面と、前記電解質層の前記電気光学材料層に面する第4面との間の位置、の何れにも設けられない。
【0018】
この光デバイスでは、基板の材料を適切に選択することにより、電気光学材料層の結晶性を向上させることができる。
【0019】
第2の項目に係る光デバイスは、第1の項目に係る光デバイスにおいて、前記電気光学材料層、前記少なくとも1つの電解質層、ならびに前記第1電極および前記第2電極が、前記基板に平行な方向に延びている。前記電気光学材料層は、前記電解質層の屈折率よりも高い屈折率を有する。前記電気光学材料層は、前記基板に平行な前記方向に沿って光を伝搬させる。
【0020】
この光デバイスでは、電気光学材料層が光導波層として機能する。
【0021】
第3の項目に係る光デバイスは、第2の項目に係る光デバイスにおいて、前記電圧を制御して前記電気光学材料層の屈折率を変化させることにより、前記光の位相を変調する制御回路をさらに備える。
【0022】
この光デバイスでは、電気光学材料層を伝搬する光の位相を変調させることができる。
【0023】
第4の項目に係る光デバイスは、第2または第3の項目に係る光デバイスにおいて、前記光が、横電界(transverse electric)モードでの光である。
【0024】
この光デバイスでは、電気光学材料層に横電界モードでの光を伝搬させることができ、電気光学材料層の厚さを相対的に薄くすることができる。
【0025】
第5の項目に係る光デバイスは、第1から第4の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記電解質層が、固体電解質材料またはゲル電解質材料から形成されている。
【0026】
この光デバイスでは、固体電解質材料またはゲル電解質材料から形成された電解質層を容易に加工することができる。
【0027】
第6の項目に係る光デバイスは、第1から第5の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記電気光学材料層が、前記基板に接している。
【0028】
この光デバイスでは、電気光学材料層が基板に接しているので、基板の結晶性が高い場合、電気光学材料層の結晶性を向上させることができる。
【0029】
第7の項目に係る光デバイスは、第1から第5の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記基板上に積層された電気絶縁層をさらに備える。前記電気光学材料層は、前記電気絶縁層上に積層されている。
【0030】
この光デバイスでは、電気光学材料層と基板との間に位置する電気絶縁層の材料を適切に選択することにより、電気光学材料層の結晶性を向上させることができる。
【0031】
第8の項目に係る光デバイスは、第7の項目に係る光デバイスにおいて、前記基板、前記電気絶縁層、および前記電気光学材料層の各々が、結晶構造を有する。前記電気絶縁層の格子定数は、前記基板の格子定数と前記電気光学材料層の格子定数との間である。
【0032】
この光デバイスでは、電気絶縁層が上記の条件を満たすことにより、電気光学材料層の結晶性を向上させることができる。
【0033】
第9の項目に係る光デバイスは、第1から第8の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記少なくとも1つの電解質層が、2つの電解質層から構成されている。前記2つの電解質層は、前記電気光学材料層の両側に隣接している。前記第1電極および前記第2電極の各々は、前記2つの電解質層の1つに接している。
【0034】
この光デバイスでは、電解質層に、基板に対して平行な方向に電界を印加することができる。
【0035】
第10の項目に係る光デバイスは、第1から第8の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記少なくとも1つの電解質層が、1つの電解質層から構成されている。前記第1電極および前記電解質層は、前記電気光学材料層の両側に隣接している。前記第2電極は、前記電解質層に接している。
【0036】
この光デバイスでは、電解質層に、基板に対して平行な方向に電界を印加することができる。
【0037】
第11の項目に係る光デバイスは、第1から第8の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記少なくとも1つの電解質層が、第1電解質層および第2電解質層を含む。前記第1電解質層および前記第2電解質は、前記電気光学材料層上に間隔をあけて並ぶ。前記第1電極は、前記第1電解質層に接している。前記第2電極は、前記第2電解質層に接している。
【0038】
この光デバイスでは、電気光学材料層のうち、1以上の第1電解質層および1以上の第2電解質層が接する面に、当該面に対して垂直な方向に電界を印加することができる。
【0039】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部、またはブロック図における機能ブロックの全部または一部は、例えば、半導体装置、半導体集積回路(IC)、またはLSI(large scale integration)を含む1つまたは複数の電子回路によって実行され得る。LSIまたはICは、1つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、1つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、もしくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、またはLSI内部の接合関係の再構成またはLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0040】
さらに、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部の機能または動作は、ソフトウェア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウェアは1つまたは複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウェアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウェアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システムまたは装置は、ソフトウェアが記録されている1つまたは複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、および必要とされるハードウェアデバイス、例えばインターフェースを備えていてもよい。
【0041】
本開示において、「光」とは、可視光(波長が約400nm~約700nm)だけでなく、紫外線(波長が約10nm~約400nm)および赤外線(波長が約700nm~約1mm)を含む電磁波を意味する。
【0042】
以下、図面を参照しながら、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0043】
(実施形態)
図1Aは、本開示の例示的な実施形態における光デバイス100を模式的に示す図である。
図1Bは、
図1Aに示す光デバイス100の平面図である。以下の説明において、
図1Aおよび
図1Bに示す互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸からなる座標系を用いる。X軸の矢印と同じ方向を「+X方向」と称し、その反対の方向を「-X方向」と称する。±Y方向および±Z方向についても同様である。説明の便宜上、+Z方向を「上方向」と称し、-Z方向を「下方向」と称する。これらの呼称は、便宜上用いられるにすぎず、現実に使用される光デバイス100の配置または姿勢を限定することを意図するものではない。以下の説明では、X方向における寸法を「長さ」と称し、Y方向における寸法を「幅」と称し、Z方向における寸法を「厚さ」と称する。
【0044】
図1Aは、+X方向から見た光デバイス100の構造を模式的に示している。
図1Bは、+Z方向から見た光デバイス100の構造を模式的に示している。
【0045】
本実施形態における光デバイス100は、基板10と、電気光学材料層20と、第1電解質層30aおよび第2電解質層30bと、第1電極40aおよび第2電極40bと、制御回路50とを備える。本明細書において、第1電解質層30aおよび第2電解質層30bを区別せずに、単に「電解質層30」とも称する。本明細書において、第1電極40aおよび第2電極40bを、「一対の電極40」とも称する。基板10と、電気光学材料層20と、電解質層30と、一対の電極40とは、少なくともX方向に延びた構造を有する。
【0046】
以下に、各構成要素をより具体的に説明する。
【0047】
基板10は、XY平面に平行な主面10sを有する。基板10は、電気光学材料層20、電解質層30、および一対の電極40を支持する。基板10は、電気光学材料層20および電解質層30に接している。基板10は、結晶構造を有する。基板10は電気絶縁性であり、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、スピネル(MgAl2O4)、およびα-アルミナ(α-Al2O3)からなる群から選択される少なくとも1つから形成され得る。
【0048】
電気光学材料層20は、基板10の主面10s上に位置する。電気光学材料層20は、
図1Bに示すように、全反射によって光22をX方向に沿って伝搬させる光導波層として機能する。
図1Aに示す楕円は、光22の強度が当該楕円内で相対的に高いことを表している。電気光学材料層20の屈折率は、光デバイス100の周辺の媒質の屈折率、基板10の屈折率、および電解質層30の屈折率よりも高い。
【0049】
電気光学材料層20の屈折率は、ポッケルス効果またはカー効果により、印加された電界の強度に応じて変化する。印加された電界が強いほど、電気光学材料層20の屈折率の変化量が大きくなる。電界を印加しないときは、当該変化量はゼロになる。この点で、本実施形態の装置は、前述のエレクトロクロミック効果を利用した装置とは異なる。本実施形態によれば、電圧が印加されているときだけ屈折率が初期値から変化するので、光デバイス100のオンおよびオフが容易である。電界印加による電気光学材料層20の屈折率の変化により、電気光学材料層20内を伝搬する光22の位相を変調することができる。電気光学効果の速い応答性により、位相の変調速度は高く、例えば数十MHz以上にすることができる。
【0050】
光22の空気中での波長をλ、電界が印加されていないときの電気光学材料層20の屈折率をn0、電界の印加による電気光学材料層20の屈折率の変化量をΔn、電気光学材料層20の長さをL、電気光学材料層20を伝搬する前の光22の位相をφ=0とする。このとき、電気光学材料層20を伝搬した後の光22の位相は、φ=(2π/λ)(n0+Δn)Lである。このうち、電界の印加による光22の位相の変化量は、Δφ=(2π/λ)ΔnLである。
【0051】
電気光学材料層20は結晶構造を有する。電気光学材料層20の屈折率の変化量は、電気光学材料層20の結晶性に依存する。電気光学材料層20の結晶性が低いと、電気光学材料層20の屈折率の変化量は小さくなる。本実施形態における光デバイス100では、電気光学材料層20に接する基板10が高い結晶性を有する場合、エピタキシャル成長によって形成された電気光学材料層20も、高い結晶性を有する。
【0052】
基板10と、第1電極40aと、電気光学材料層20と、電解質層30と、第2電極40bとがこの順に積層された構成では、電気光学材料層20に接する第1電極40aが導電性であるので、電気光学材料層20のエピタキシャル成長に適した第1電極40aの材料が限定される。これに対して、本実施形態における光デバイス100では、電気光学材料層20に接する基板10bは電気絶縁性でよいので、基板10bの材料の選択の幅が広がる。
【0053】
電気光学材料層20は、バルクから形成されていてもよいし、薄膜から形成されていてもよい。薄膜の厚さは、例えば0.1μm以上10μm以下であり得る。薄膜のコストは、バルクのコストよりも低い。ポッケルス効果を用いる場合、電気光学材料層20は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:LN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、およびリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)からなる群から選択される少なくとも1つから形成され得る。カー効果を用いる場合、電気光学材料層20は、例えば、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸カリウム(KTaO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb1-xLax)(ZryTi1-y)1-x/4O3:PLZT)、およびタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3:KTN)からなる群から選択される少なくとも1つから形成され得る。電気光学材料層20はキャリア注入されていてもよい。当該群の中でも、KTNは、NbとTaとの組成比を適切な比に設定することにより、常温付近で高い電気光学効果を示す。KTNは、光通信に用いられる光の波長1550nmで透明である。したがって、KTNの光デバイスへの応用が期待されている。
【0054】
第1電解質層30aおよび第2電解質層30bは、基板10の主面10s上に位置し、電気光学材料層20の両側に隣接している。電解質層30は、電気光学材料層20の少なくとも一部に接している。電解質層30は、少なくともX方向に延びた構造を有する。電解質層30は、イオン伝導体から形成されている。イオン伝導体では、正イオンおよび負イオンの少なくとも一方が、外部からの電界の印加によって移動する。電解質層30は、可視領域から赤外領域の光32に対して透明であり得る。電解質層30がこのように透明である場合、可視領域から赤外領域の光32のロスを無視することができる。電解質層30は、アモルファス構造を有し得る。アモルファス構造の電解質層30の下地の材料に関しては、エピタキシャル成長のような、格子定数が近い材料を選択するなどの厳しい制限は存在しない。
【0055】
電解質層30は、典型的には固体電解質層である。固体電解質層は、その組成に応じて、10-8S/cmから10-2S/cm程度のオーダのイオン伝導度を有し得る。固体電解質層は、例えば、薄膜化が容易であるリン酸リチウムオキシナイトライド(Li3PO4-yNy:LiPON)などの固体電解質材料から形成され得る。LiPONのイオン伝導度は、10-6S/cm程度のオーダである。あるいは、電解質層30は、ゲル電解質層であってもよい。ゲル電解質層は、例えば、以下のゲル電解質材料から形成され得る。当該ゲル電解質材料は、イオン液体のEMImTFSI(1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide)に、MMA(methyl methacrylate)と架橋剤のEGDMA(ethylene glycol dimethacrylate)とを加え、重合することによって得られる柔軟で透明なイオンゲルである。EMImTFSIとMMAとのモル比は、1:9から7:3の範囲である。
【0056】
電解質層30の厚さは、電気光学材料層20の厚さ同程度か、それ以上であり得る。電解質層30が電気光学材料層20よりも厚い場合、電解質層30と電気光学材料層20とが広い範囲で接触する。その結果、電気光学材料層20に電界が効率的に印加され、電気光学材料層20の屈折率の変化量を大きくすることができる。電解質層30は、電気光学材料層20の上面の一部を覆っていてもよい。ただし、第1電解質層30aおよび第2電解質層30bは接触しない。電解質層30の幅は、例えば500nm以上2.5μm以下であり得る。電解質層30の幅が500nm以上である場合、光22の染み出しであるエバネッセント光が電解質層30に染み出しても、そのエバネッセント光が一対の電極40の少なくとも一方に達する可能性を低減することができる。電解質層30の幅が2.5μm以下である場合、電解質層30の内部抵抗はあまり増加せず、電気光学材料層20および電解質層30に印加された電界の強度が減少する可能性を低減することができる。
【0057】
第1電極40aは第1電解質層30a上に位置し、第2電極40bは第2電解質層30b上に位置する。一対の電極40の各々は、電解質層30の一部と接している。一対の電極40の各々は、電解質層30の上面に位置してもよいし、電解質層30の側面に位置してもよい。一対の電極40の各々は、電気光学材料層20の基板10に面する第1面と、基板10の電気光学材料層20に面する第2面との間の位置には設けられない。第1面は、電気光学材料層20の底面であり、第2面は、基板10の主面10sの一部である。第1面および第2面は、互いに対向している。また、一対の電極40は、電気光学材料層20の電解質層30に面する第3面と、電解質層30の電気光学材料層20に面する第4面との間の位置には設けられない。第3面は、電気光学材料層20の側面であり、第4面は、電解質層30の側面である。第3面および第4面は、互いに対向している。一対の電極40には、直流電圧が印加される。これにより、電気光学材料層20および電解質層30に、電界が印加される。直流電圧は、直流パルス電圧であってもよい。直流パルス電圧の電圧値の時間平均を直流電圧の値として扱ってもよい。直流パルス電圧のデューティ比を変えることにより、電圧の時間平均値を調整することができる。
【0058】
一対の電極40の各々は、透明電極であってもよいし、金属電極であってもよい。透明電極である場合、一対の電極40の少なくとも一方が電気光学材料層20に近接しても、光22のロスは無視できる。金属電極である場合、一対の電極40の各々が、電解質層30を介して電気光学材料層20から例えば1μm以上のように十分離れていれば、光22のエバネッセント光は、一対の電極40の各々には達しない。したがって、光22のロスは無視できる。一対の電極40の各々の厚さは、電極として機能する厚さに設計される。一対の電極40の各々は、例えば、SnO2ドープIn2O3(ITO)、FドープSnO2(FTO)、およびSbドープTiO2(ATO)からなる群から選択された少なくとも1つから形成された透明電極であり得る。あるいは、一対の電極40の各々は、例えば、Pt、Au、Cr、Ni、Al、およびTiからなる群から選択された少なくとも1つから形成された金属電極であり得る。一対の電極40の各々と電解質層30との間に、LiCoO2またはLi2TiO4などの3次元的なLiイオン伝導および電子伝導を示す混合伝導体を形成してもよい。
【0059】
制御回路50は、一対の電極40に直流電圧を印加する。
図1Aに示す矢印付きの破線は、制御回路50から一対の電極40に信号が入力されることを表している。制御回路50は、一対の電極40に電圧を印加して電気光学材料層20の屈折率を変化させることにより、電気光学材料層20をX方向に沿って伝搬する光22の位相を変調する。制御回路50は、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのプログラマブルロジックデバイス(PLD)、または中央演算処理装置(CPU)もしくは画像処理用演算プロセッサ(GPU)とコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現されてもよい。なお、以下の図では、制御回路50を省略することがある。
【0060】
図2は、
図1Aの構成における、電気光学材料層20、電解質層30、および一対の電極40内の電荷分布を模式的に示す図である。
図2に示す例において、第2電極40bの電位は、第1電極40aの電位よりも高い。このときの第1電極40a内の負の電荷(-)、第2電極40b内の正の電荷(+)、電気光学材料層20内の分極(+-)、ならびに電解質層30内の正イオン(+)および負イオン(-)の分布が模式的に表されている。
【0061】
第1電極40aに含まれる負の電荷により、第1電解質層30aの正イオンは第1電極40aの近傍に移動し、負イオンは電気光学材料層20の近傍に移動する。第2電極40bに含まれる正の電荷により、第2電解質層30bの負イオンは第2電極40bの近傍に移動し、正イオンは電気光学材料層20の近傍に移動する。電気光学材料層20内では、正の電荷および負の電荷を一対とする分極が発生する。電解質層30内の正イオンおよび負イオンの移動に起因して、電気光学材料層20と電解質層30との界面には、破線によって囲まれた電気二重層が形成される。同様に、電解質層30と一対の電極40の各々との界面にも、電気二重層が形成される。電気二重層は、キャパシタとして機能する。
【0062】
ただし、電解質層30の種類によっては移動できないイオンが含まれる場合もあり得る。例えば、電解質を構成するイオンのうち、正イオンが移動でき、負イオンが移動できない場合、電圧の印加によって正イオンは負に帯電した第1電極40aの側に移動する。逆に正に帯電した第2電極40b付近では、正イオンが離れるので、もともと正イオンが存在していた部分は相対的に負に帯電する。したがって、あたかも負イオンが第2電極40b付近に移動したように取り扱える。移動後のイオンの位置は、電解質層30の種類、電解質層30に含まれるイオンの種類、および電解質層30に印加される電圧の値に応じて変化する。例えば、印加電圧の値が大きい場合には多くのイオンが移動する。サイズが小さいイオンは、より電極の近くまで移動する。
【0063】
電気二重層の厚さは数nm以下である。電気二重層における電位の急峻な勾配により、電気光学材料層20と電解質層30との界面付近には、10MV/cm程度の強電界が生じる。電気二重層の強電界に起因して、電気二重層内の構成原子またはイオンは、電子分極またはイオン分極を引き起こす。結果として、低電圧であっても電気二重層内で大きい屈折率の変化が生じる。一対の電極40の付近での屈折率の変化量は10-2以上のオーダになることが期待できる。
【0064】
一対の電極40の間に印加される電圧の値は、電解質層30が分解されない値に制限される。例えば、金属イオンを含む電解質層30に高電圧を印加すると、金属イオンが還元析出し得る。その結果、一対の電極40が短絡してしまう。一般に、電解質層30の分解電圧は1Vから4V程度である。
【0065】
以上の構成により、光デバイス100では、速い応答性の電気光学効果を用いて、電気光学材料層20を伝搬する光22の位相を大きくかつ高速に変調することができる。
【0066】
本実施形態における電気光学材料層20と電解質層30との界面は平坦である。界面は必ずしも厳密に平坦でなくてもよく、多少の傾斜または凹部もしくは凸部を有する部分が存在していてもよい。しかし、界面が全体にわたって凹部または凸部を有する場合、凹部または凸部で発生する電界が弱め合い、界面付近には、強い電界が集中しない可能性がある。その場合、電気光学材料層20のうち、界面付近の部分の屈折率の変化量が小さくなる可能性がある。また、界面の凹部または凸部による光22の散乱により、光22のロスが生じ得る。これに対し、界面が平坦である場合、界面付近には、Y方向に強い電界が集中する。これにより、電気光学材料層20の界面付近の部分の屈折率の変化量を大きくできる。また、平坦な界面により、光22のロスが抑制される。
【0067】
電気光学材料層20の屈折率の変化量は、テンソルによって記述される。印加された電界の方向に応じて、電気光学材料層20の屈折率は、複数の方向において変化し得る。電気光学材料層20の屈折率の変化量は、当該複数の方向に応じて異なる。
図1Aおよび
図1Bに示す例において、電界をY方向に印加すると、電気光学材料層20の屈折率は、X方向、Y方向、およびZ方向において変化する。電気光学材料層20の材料によっては、電気光学材料層20の特定の結晶軸がY方向に平行になる場合、電気光学材料層20の屈折率の変化量は、Y方向において最大になる。これにより、横電界(transverse electric:TE)モードでの光22の位相を大きく変調することができる。TEモードでの光22は、主にY方向に平行な電界を有する。TEモードでの光22を伝搬させる場合、電気光学材料層20の厚さを相対的に薄くすることができる。相対的に薄い電気光学材料層20は、光デバイス100の小型化を可能にする。また、電気光学材料層20が光22の一部を吸収する場合でも、相対的に薄い電気光学材料層20は、光22のロスを低減することができる。
【0068】
電気光学材料層20の結晶軸の方向を以下のように設計することにより、電気光学材料層20の屈折率の変化量をY方向において最大にすることができる。電気光学材料層20がKTNなどの立方晶系の結晶構造を有する場合、電気光学材料層20の結晶軸のうち<001>方向が、Y方向に平行になるように設計される。一方、電気光学材料層20がLNなどの三方晶系の結晶構造を有する場合、電気光学材料層20の結晶軸のうちc軸に対して平行な<0001>方向が、Y方向に平行になるように設計される。
【0069】
(変形例)
以下に、
図3から
図5Cを参照して、本実施形態における光デバイス100の第1変形例から第5変形例を説明する。以下において、前述と重複する説明は省略することがある。
【0070】
図3は、本実施形態の第1変形例における光デバイス110の例を模式的に示す図である。本実施形態の第1変形例における光デバイス110では、本実施形態における光デバイス100とは異なり、第1電解質層30aおよび第2電解質層30bの代わりに、第1電極40aおよび電解質層30が、基板10の主面10s上に位置し、かつ、電気光学材料層20の両側に隣接している。第1電極40aおよび電解質層30の各々は、電気光学材料層20の少なくとも一部に接している。第1電極40aが透明電極である場合、光22のロスを無視することができる。
【0071】
図4Aは、本実施形態の第2変形例における光デバイス120の例を模式的に示す図である。本実施形態の第2変形例における光デバイス120は、本実施形態における光デバイス100とは異なり、1以上の第1電解質層30aおよび1以上の第2電解質層30bを備える。1以上の第1電解質層30aおよび1以上の第2電解質層30bは、電気光学材料層20によって支持され、かつ、間隔をあけて交互に並んでいる。一対の電極40は、Y方向に並ぶ1以上の第1部分40p
1を有する第1電極40aと、Y方向に並ぶ1以上の第2部分40p
2を有する第2電極40bとから構成されている。第1部分40p
1および第2部分40p
2は、X方向に延びている。第1電極40aにおける1以上の第1部分40p
1は、それぞれ1以上の第1電解質層30aに接しており、第2電極40bにおける1以上の第2部分40p
2は、それぞれ1以上の第2電解質層30bに接している。第1電極40aが複数の第1部分40p
1を有し、第2電極40bが複数の第2部分40p
2を有する場合、第1電極40aおよび第2電極40bの各々は、いわゆる櫛形電極である。複数の第1部分40p
1または複数の第2部分40p
2は、櫛形電極の櫛歯に相当する。一対の櫛形電極40は、第1櫛形電極40aの櫛歯と第2櫛形電極40bの櫛歯とが交互に並ぶように配置されている。
【0072】
図4Bは、
図4Aの構成における、電気光学材料層20、電解質層30、および一対の電極40内の電荷分布を模式的に示す図である。
図4Bに示す例において、第2電極40bの電位は、第1電極40aの電位よりも高い。第1電極40aに含まれる負の電荷により、第1電解質層30aの正イオンは第1電極40aの近傍に移動し、負イオンは電気光学材料層20の近傍に移動する。第2電極40bに含まれる正の電荷により、第2電解質層30bの負イオンは第2電極40bの近傍に移動し、正イオンは電気光学材料層20の近傍に移動する。電気光学材料層20内では、電気光学材料層20と電解質層30の界面の近傍で、正の電荷および負の電荷を一対とする分極が発生する。電気光学材料層20と電解質層30との界面には、破線によって囲まれた電気二重層が形成される。同様に、電解質層30と一対の電極40の各々との界面にも、電気二重層が形成される。
【0073】
電気光学材料層20内では、電気光学材料層20と電解質層30との界面で、強電界がZ方向に発生し、電気光学材料層20のZ方向における屈折率が大きく変調される。
図4Aに示す例では、横磁界(transverse magnetic:TM)モードでの光22の位相を大きく変調することができる。TMモードでの光22は、主にZ方向に平行な電界を有する。
【0074】
図5Aは、本実施形態の第3変形例における光デバイス130の例を模式的に示す図である。本実施形態の第3変形例における光デバイス130では、本実施形態における光デバイス100とは異なり、基板10と、電気光学材料層20および電解質層30の各々との間に、バッファ層12が設けられている。基板10上に、バッファ層12が積層されており、バッファ層12上に、電気光学材料層20および電解質層30が積層されている。バッファ層12は、結晶構造を有する。バッファ層12の格子定数は、基板10の格子定数と電気光学材料層20の格子定数との間である。バッファ層12は、電気光学材料層20の結晶性を向上させる。バッファ層12が可視領域および赤外領域の光22に対して透明である場合、光22のロスを無視できる。バッファ層12が電気絶縁層である場合、電気光学材料層20に印加される電界は影響を受けない。バッファ層12が薄い場合、バッファ層12の屈折率が電気光学材料層20の屈折率よりも低く、かつ、基板10の屈折率よりも高かれば、光22は、基板10に漏れることなく、X方向に沿って伝搬することができる。バッファ層12が十分厚い場合、バッファ層12の屈折率が電気光学材料層20の屈折率よりも低ければ、光22のエバネッセント光は基板には達しない。したがって、基板10の屈折率に制限はない。
【0075】
基板10が、例えばSrTiO3(STO)およびSiから選択される少なくとも1つから形成される場合、バッファ層12は、例えばSrSnO3およびBaSnO3からなる群から選択された少なくとも1つから形成され得る。バッファ層12は単層であってもよいし多層であってもよい。
【0076】
図5Bは、本実施形態の第4変形例における光デバイス140の例を模式的に示す図である。本実施形態の第4変形例における光デバイス140では、本実施形態の第1変形例における光デバイス110とは異なり、基板10と、電気光学材料層20、電解質層30、および第1電極40aの各々との間に、バッファ層12が設けられている。
図5Cは、本実施形態の第5変形例における光デバイス150の例を模式的に示す図である。本実施形態の第5変形例における光デバイス150では、本実施形態の第2変形例における光デバイス120とは異なり、基板10と電気光学材料層20との間に、バッファ層12が設けられている。
図5Bおよび
図5Cに示す例においても、バッファ層12により、電気光学材料層20の結晶性を向上させることができる。
【0077】
(製造方法)
以下に、
図6および
図7を参照して、光デバイス100の製造方法を説明する。
【0078】
図6は、電気光学材料層20がKTNから形成された場合における光デバイス100の製造工程を示すフローチャートである。光デバイス100の製造方法は、以下のステップS101からステップS106を含む。
【0079】
ステップS101において、MgO(100)単結晶から形成されたMgO基板が用意される。MgO基板は、
図1Aおよび
図1Bに示す基板10に相当する。MgO基板の外周の一部には、基板の結晶方向がわかるように、「オリエンテーションフラット」と呼ばれる平面、または「ノッチ」と呼ばれる切り欠きが設けられている。
【0080】
ステップS102において、MgO基板の表面上に、(100)配向のKTN層がエピタキシャル成長によって形成される。KTN層の厚さは500nmである。KTN層の形成には、パルスレーザ堆積(Pulsed Laser Deposition:PLD)が用いられる。真空チャンバ内に、MgO基板と、KTNから形成されたターゲットとが対向して配置される。対向距離は40mmである。真空チャンバ内を真空排気した後、O2ガスを注入することにより、真空チャンバ内の圧力が10Paになる。MgO基板は700℃に加熱される。KTNから形成されたターゲットをエキシマレーザで照射することにより、MgO基板の表面上に、KTN層が堆積される。冷却後、KTN層を含むMgO基板が、真空チャンバから取り出される。
【0081】
ステップS103において、ステップ102におけるKTN層が、フォトリソグラフィ技術により、光導波路の形状にパターニングされる。パターニングされたKTN層は、
図1Aおよび
図1Bに示す電気光学材料層20に相当する。KTN層の幅は1μmに加工される。パターニングの際、MgO基板に設けられたオリエンテーションフラットまたはノッチを利用して、光導波路の幅方向は、KTN層の[010]方向または[001]方向に対して平行になるように設計される。すなわち、光導波路内を光が伝搬する方向は、KTN層の[001]方向または[010]方向である。
【0082】
ステップS104において、ステップ103におけるパターニングされたKTN層上と、MgO基板上とに、LiPON層が形成される。LiPON層の厚さは500nmである。LiPON層の形成には、スパッタ法が用いられる。高周波スパッタ装置の真空チャンバ内に、パターニングされたKTN層を含むMgO基板と、LiPONから形成されたターゲットとが対向して配置される。対向距離は45mmである。真空チャンバ内を真空排気した後Ar/O2(7:3)ガスを注入することにより、真空チャンバ内の圧力が1.5Paになる。RFパワー50Wで1時間スパッタリングすることにより、LiPON層が、KTN層上および基板上に堆積される。
【0083】
ステップS105において、ステップ104におけるLiPON層が、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされる。KTN層上のLiPON層と、KTN層から2.5μm以上離れたMgO基板上のLiPON層とが除去される。KTN層の両側に接する2つのLiPON層は、
図1Aおよび
図1Bに示す電解質層30に相当する。
【0084】
ステップS106において、フォトリソグラフィ技術によって形成されたマスクパターンを用いて、2つのLiPON層上に、それぞれ、10wt%SnO
2ドープIn
2O
3から形成された一対のITO層が形成される。ITO層は、
図1Aおよび
図1Bに示す第1電極40aおよび第2電極40bに相当する。ITO層の厚さは100nmである。ITO層の形成には、上記と同様のスパッタ法が用いられる。
【0085】
図7は、電気光学材料層20がLNから形成された場合における光デバイス100の製造工程を示すフローチャートである。光デバイス100の製造方法は、以下のステップS201からステップS206を含む。
【0086】
ステップS201において、α-Al
2O
3(11-20)単結晶から形成されたa面サファイア基板が用意される。a面サファイア基板は、
図1Aおよび
図1Bに示す基板10に相当する。a面サファイア基板の外周の一部には、基板の結晶方向がわかるように、オリエンテーションフラット、またはノッチが設けられている。
【0087】
ステップS202において、a面サファイア基板の表面上に、a軸配向のLN層がエピタキシャル成長によって形成される。LN層の厚さは500nmである。LN層の形成には、PLD法が用いられる。真空チャンバ内に、a面サファイア基板と、LNから形成されたターゲットとが対向して配置される。対向距離は40mmである。真空チャンバ内を真空排気した後、O2ガスを注入することにより、真空チャンバ内の圧力が13.3Paになる。a面サファイア基板は550℃に加熱される。LNから形成されたターゲットをエキシマレーザで照射することにより、a面サファイア基板の表面上に、c軸が当該表面に平行であるLN層が堆積される。冷却後、LN層を含むa面サファイア基板が、真空チャンバから取り出される。
【0088】
ステップS203において、ステップ202におけるLN層が、フォトリソグラフィ技術により、光導波路の形状にパターニングされる。パターニングされたLN層は、
図1Aおよび
図1Bに示す電気光学材料層20に相当する。LN層の幅は1μmに加工される。パターニングの際、a面サファイア基板に設けられたオリエンテーションフラットまたはノッチを利用して、光導波路の幅方向は、LN層のc軸に対して平行になるように設計される。すなわち、光導波路内を光が伝搬する方向は、LN層のm軸に対して平行である<10-10>方向である。
【0089】
ステップS204からステップS206は、それぞれステップS104からステップS106と同じである。
【0090】
上記のKTN層またはLN層の構造は、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより、任意の形状にパターニングすることができる。KTN層またはLN層において、空気中での波長が1550nmである0次のTMモードが存在するために、KTN層またはLN層の幅は、例えば1μmに設計される。KTN層またはLN層の構造は、後述するマッハ・ツェンダー(Mach-Zehnder)型の光スイッチングデバイス、または光フェーズドアレイにパターニングしてもよい。
【0091】
(応用例)
次に、
図8から
図9Bを参照して、本実施形態における光デバイス100の第1応用例および第2応用例を説明する。
【0092】
図8は、本実施形態の第1応用例における光スイッチングデバイス200の例を模式的に示す平面図である。第1応用例における光スイッチングデバイス200は、入力導波路200a、分岐された2つの光導波路200b、および出力導波路200cを備える。分岐された2つの光導波路200bは、入力導波路200aと出力導波路200cとの間に位置する。
図8に示す例において、入力導波路200a側の分岐点A、および出力導波路200c側の分岐点Bでの光の反射は無視できる。分岐された2つの光導波路200bのうち、一方の光導波路は、本実施形態における光デバイス100を含む。
【0093】
当該一方の光導波路内を伝搬する光の位相は、他方の光導波路内を伝搬する光の位相と比較して、Δφ=(2π/λ)ΔnLだけシフトする。光デバイス100における一対の電極40に印加する直流電圧の値が0Vのとき、Δφ=0である。このとき、分岐された2つの光導波路200bからそれぞれ出力された光の位相は、同位相である。同位相の2つの光が出力導波路200cに入力すると、当該2つの光は重なり合う。したがって、出力導波路200cから出力された光の強度Ioutは、入力導波路200aに入力された光の強度Iinに等しい。
【0094】
一方、光デバイス100における一対の電極40に印加する直流電圧の値を調整することにより、Δφ=πにすることができる。このとき、分岐された2つの光導波路200bからそれぞれ出力された光の位相は、逆位相になる。逆位相の2つの光が出力導波路200cに入力すると、当該2つの光は打ち消しあう。したがって、出力導波路200cから出力された光の強度Ioutは0になる。
【0095】
以上のように、光デバイス100における一対の電極40に印加する直流電圧を変化させることにより、光スイッチングデバイス200の出力導波路200cから出力された光の強度Ioutを、Iinから0まで連続的に調整することができる。
【0096】
図9Aおよび
図9Bは、本実施形態の第2応用例における光フェーズドアレイ300の例を模式的に示す図である。第2応用例における光フェーズドアレイ300は、Y方向に配列された複数の光導波路300wを備える。複数の光導波路300wの各々は、本実施形態における光デバイス100を含む。複数の光導波路300wからそれぞれ出力された複数の光は、互いに干渉する。光フェーズドアレイ300から出力された干渉光は、特定の方向に伝搬する。
図9Aおよび
図9Bに示す例において、破線は、複数の光導波路300wからそれぞれ出力された複数の光の波面を表している。実線は、光フェーズドアレイ300から出力された干渉光の波面を表している。
図9Aおよび
図9Bに示す例において、複数の光導波路300wは、等間隔で配列されているが、異なる間隔で配列されていてもよい。
【0097】
図9Aに示す例において、光デバイス100における一対の電極40に印加する直流電圧の値が0Vである場合、複数の光導波路300wから出力される光の位相は、同位相である。したがって、光フェーズドアレイ300から出力された干渉光は、複数の光導波路300wが延びるX方向と同じ方向に伝搬する。
【0098】
図9Bに示す例において、光デバイス100における一対の電極40に印加する直流電圧の値を調整することにより、複数の光導波路300wから出力される光の位相は、Y方向に沿ってΔφずつ増加する。したがって、光フェーズドアレイ300から出力された干渉光は、複数の光導波路300wが延びるX方向とは異なる方向に伝搬する。
【0099】
以上のように、光デバイス100における一対の電極40に印加する直流電圧を変化させることにより、光フェーズドアレイ300から出力された干渉光の伝搬方向を調整することができる。すなわち、光ビームスキャンが可能になる。さらに、光フェーズドアレイ300は、特定の方向から入射する光を検出することも可能である。
図9Aおよび
図9Bに示す例では、光フェーズドアレイ300は、矢印とは逆の方向から入射した光を検出することができる。
【0100】
光フェーズドアレイ300は、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)システムなどの光スキャンシステムおよび/または光検出システムにおけるアンテナとして用いられ得る。LiDARシステムでは、ミリ波などの電波を用いたレーダシステムと比較して、可視光、赤外線、または紫外線などの短波長の電磁波が用いられる。このため、物体の距離分布を高い分解能でスキャンおよび検出することができる。そのようなLiDARシステムは、例えば自動車、UAV(Unmanned Aerial Vehicle、いわゆるドローン)、またはAGV(Automated Guided Vehicle)などの移動体に搭載され、衝突回避技術の1つとして使用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示の実施形態における光デバイスは、例えば、マッハ・ツェンダー型の光スイッチングデバイス、または自動車、UAV、もしくはAGVなどの車両に搭載されるLiDARシステムの用途に利用できる。
【符号の説明】
【0102】
10 基板
10s 基板の主面
12 バッファ層
20 電気光学材料層
22 光
30 電解質層
30a 第1電解質層
30b 第2電解質層
40 一対の電極
40a 第1電極
40b 第2電極
50 制御回路
100、110、120、130、140、150 光デバイス
200 光スイッチングデバイス
200a 入力導波路
200b 光導波路
200c 出力導波路
300 光フェーズドアレイ
300w 光導波路