(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075640
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】コオロギ油脂の製造方法、及びコオロギ油脂並びにコオロギ由来の粉末組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20230524BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20230524BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20230524BHJP
A23J 3/04 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
A23D9/00 516
A23D9/02
A23D9/00 518
A23J3/00 501
A23J3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188668
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】521509158
【氏名又は名称】株式会社CricketFarm
(74)【代理人】
【識別番号】100134706
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】坪井 大輔
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC05
4B026DG20
4B026DP10
4B026DX01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】昆虫を食用に粉末化処理する過程において、良質な油脂も有効に抽出するコオロギ油脂の製造方法を提供する。
【解決手段】コオロギを以下の手順で処理する。(1)殺処分前に断食させる、(2)冷凍処理により殺処分する、(3)冷凍処理後のコオロギを水洗いし、表面の異物を取り除く、(4)洗浄処理したコオロギを熱風乾燥する、(5)乾燥したコオロギをミキサーで粉末処理し、一次粉末を得る、(6)得られた一次粉末をプレス機で加圧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を有することを特徴とする、コオロギ油脂の製造方法。
1)コオロギを断食させる工程
2)コオロギを冷凍処理する工程
3)コオロギ表面を水洗いする工程
4)コオロギを乾燥する工程
5)コオロギを粉末化する工程
6)前記粉末化処理で得られた粉末を加圧し油分を圧搾する工程
【請求項2】
前記コオロギがフタホシコオロギであることを特徴とする、請求項1に記載のコオロギ油脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の各工程を経て得られる、コオロギ油脂。
【請求項4】
請求項1に記載の各工程を経た残渣を更に粉末化して得られる、コオロギ由来の粉末状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫の加工処理方法、とりわけコオロギの加工処理において得られる油脂の製造方法、及びこれにより得られるコオロギ油脂並びにコオロギ由来の粉末組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2013年FAO(国際連合食糧農業機関)が「Edible Insects : Future Prospects for Food and Feed Security」を発表して以降、昆虫食への注目度は高まりをみせている。SDGsが叫ばれる中、人口増加、環境負荷、食料の安定供給等の観点から、昆虫食はこれらの課題に対する有効な解の一つとして認識され始めている。
【0003】
昆虫食が注目されるもう一つの側面として、栄養的な効率と品質が挙げられる。ウシ、ブタといった家畜動物と対比しても、可食部の比率が高い他、その栄養成分としても高タンパク、低脂質であると言われる。加えて得られる脂肪酸には良質な不飽和脂肪酸が他の動物性油と対比して多く含まれているとされている。
【0004】
昆虫食の具体的な態様として、粉末化処理することが知られている。粉末化処理の手法として、殺し、圧搾して圧搾塊を得て、乾燥させ、その圧搾塊を挽きつぶす手法が開示されている(特許文献1)。或いは、従前より昆虫の臭みが課題となっているところ、食用昆虫を粗くカットし、水またはエタノールを加えて攪拌し、pH調整剤を加えた後に加熱し、その後固液分離する手法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6730992号
【特許文献2】特許第6548289号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1ないし特許文献2に記載の手法では、本来有用とされる昆虫に含まれる良質な油脂を適切に抽出することができない。また昆虫の臭みを低減する必要はあるにしても、特許文献2においてはpH調整剤を添加しており、純粋に昆虫由来の組成物を得ることができない。また、いずれの手法においても、臭いや風味悪化のもととなる糞や養殖途中で生じた死骸といった不純物を取り除くことができなかった。
【0007】
そこで本発明では、養殖した昆虫由来の食用粉末を製造するに際して良質な油脂も有効に抽出することができる、油脂の製造方法を提示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明者は以下を提示する。
【0009】
以下の工程を有することを特徴とする、コオロギ油脂の製造方法。
1)コオロギを断食させる工程
2)コオロギを冷凍処理する工程
3)コオロギ表面を水洗いする工程
4)コオロギを乾燥する工程
5)コオロギを粉末化する工程
6)前記粉末を加圧し油分を圧搾する工程
【0010】
ここで「コオロギ」とは、昆虫綱直翅目剣弁亜目コオロギ上科の総称であり、具体的には、ヨーロッパイエコオロギ、タイワンオオコオロギ、ジャマイカンフィールドコオロギ、フタホシコオロギなどが挙げられるが、油脂分含有量など、その成分特性上フタホシコオロギが本製造方法に適している。また、上記工程で油分を抽出した残渣を、更に粉末化することで、コオロギ由来の粉末状組成物を得ることもできる。
【0011】
「冷凍処理」とは、コオロギを低温下にて殺すことをいう。「水洗い」としては、冷凍殺処理を行ったコオロギを、水道水を貯留した容器内に静置した後、攪拌処理を行う。「乾燥」としては、熱風乾燥、天日乾燥、接触乾燥、赤外線乾燥など採用し得るが、処理の手間及びコストの観点から熱風乾燥を採用し得る。
【0012】
「粉末化」とは、乾燥したコオロギの体躯を粉砕器(ミキサー)にかけて粉状にすることをいう。また「加圧」とは、得られたコオロギ粉末をプレス機にて圧搾することをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるコオロギ油脂の製造方法によれば、養殖した昆虫を殺処分し食用に粉末処理する過程において、臭いなど品質の低下となる不純物を低減させつつ良質な油脂も有効に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明にかかる油脂製造方法の工程を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
[実施例1]
図1は、本発明にかかる油脂製造方法の工程を示すフローである。以下順に説明する。
(ステップS1:断食)処理対象とするコオロギ(フタホシコオロギ)は、生後約50日の養殖を経た成虫である。養殖用のケースで管理されているコオロギに餌、水を与えない状態で24時間経過させる。これは殺処分前に排泄を完了させ、最終的な生成物(パウダー、オイル)の臭いを低減させるためである。
【0017】
(ステップS2:冷凍)次に、生きた状態のコオロギを冷凍用のケースに移し替えた後、ケースごと冷凍庫に入れ、冷凍殺処分を行う(マイナス16℃、1~2時間程度)。薬品や調整剤等を用いずに冷凍殺処分とすることで、不純物を含ませることなく処理を行うことができる。その結果、コオロギが本来有する風味を損なうことがない。
【0018】
(ステップS3:洗浄)次に、冷凍されたコオロギを、水道水を貯留した容器内に移し、10分静置する。そののち、体躯が崩れない程度に手又は攪拌棒といった攪拌器具にてかき混ぜることでゆるやかに攪拌処理を行い、体表面に付着している糞や異物を除去する。体躯が崩れてしまうとそこから内容物が漏れてしまい好ましくない。ここで「ゆるやかに」とは、冷凍されたコオロギを破損することがない程度の攪拌速度及び強度で、という意味である。このように、体躯の形状を保持した状態での洗浄方法を取ることにより、コオロギの形状を保持しつつその外表面に付着した不純物を取り除くことができ、得られる組成物(オイル、パウダー)における臭い等の品質低下を防ぐことができる。攪拌処理が終わったらざるで水から揚げ、軽く水切りをして乾燥用トレーにコオロギを敷く。
【0019】
(ステップS4:乾燥)コオロギ同士が極力重ならないようにトレーに敷いた状態で、乾燥機(大紀産業株式会社製「電気食品乾燥機 E-7Hプレミアム」)に投入する。70℃の熱風乾燥を8時間行う。乾燥が終了したら室温になるまで放置する。本実施例では乾燥機内で16時間放置し、室温までゆるやかに品温を下げる。
【0020】
(ステップS5:粉砕)次に、乾燥したコオロギをミキサー(大紀産業製「中型粉砕機スピードミルMS-20」)に投入し、粉末の粒度が 100メッシュ(150μm)になるよう、1分間粉砕して一次粉末を得る。この一次粉末には、コオロギ由来の油分が保持されている。
【0021】
(ステップS6:搾油)得られた一次粉末をトレーに取り出し、フィルターに投入する。フィルターをろ過布に投入し、プレス機(株式会社サン精機製「直圧式電動搾油機 KT23-160ELB」)にて圧搾を行う。圧搾は、80MPaで5分加圧を複数回行う。コオロギにはもともと含有されている油分が少ないところ、複数回行うことによりくまなく油分を抽出することができる。この圧搾処理により一次粉末から油分が抽出される。乾燥処理、粉砕処理を経た一次粉末を圧搾処理する工程とすることによりハンドリング性も向上する。油分が取り除かれた組成物(残渣)は加圧により砂糖菓子状になっている。この組成物をさらにミキサーにて2分間、3回粉砕処理を行い二次粉末を得る。得られた二次粉末は一時粉末よりも粒度の細かい粉末状組成物となり、油分が一定程度除去されており、組成物中のタンパク質割合が潤沢な食用パウダーとして供することができる。