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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076879
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】整流部材
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/16 20060101AFI20230529BHJP
   D04H 1/736 20120101ALI20230529BHJP
   D01D 5/098 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H1/736
D01D5/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189878
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 治
【テーマコード(参考)】
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA01
4L045DA08
4L045DA41
4L045DC01
4L047EA01
4L047EA05
(57)【要約】
【課題】フィラメントの流れが静電気によって乱されることを抑制する。
【解決手段】本開示による整流部材は、不織布製造装置に用いられる整流部材である。実施形態に係る整流部材は、板状の基部と、複数の仕切部と、溝部とを有する。基部は、第1面および第1面と反対に位置する第2面と、第1端および第1端の反対に位置する第2端とを有する。複数の仕切部は、少なくとも第1面に位置し、第1端から第2端に向かう第1方向に沿って伸長し、かつ、第1方向と直交する方向に互いに間隔をあけて並べられる。溝部は、隣り合う2つの仕切部の間に位置する。基部および仕切部の少なくとも一方は、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスからなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布製造装置に用いられる整流部材であって、
第1面および該第1面と反対に位置する第2面と、第1端および該第1端の反対に位置する第2端とを有する板状の基部と、
少なくとも前記第1面に位置し、前記第1端から前記第2端に向かう第1方向に沿って伸長し、かつ、前記第1方向と直交する方向に互いに間隔をあけて並べられた複数の仕切部と、
隣り合う2つの前記仕切部の間に位置する溝部と
を有し、
前記基部および前記仕切部の少なくとも一方は、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスからなる、整流部材。
【請求項2】
前記仕切部は、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスからなる、請求項1に記載の整流部材。
【請求項3】
前記仕切部の前記溝部に面する表面における水に対する接触角を第1接触角とした場合、該第1接触角は、25°以上である、請求項1または2に記載の整流部材。
【請求項4】
前記第1接触角は、31°以上である、請求項3に記載の整流部材。
【請求項5】
前記基部の前記溝部に面する表面における水に対する接触角を第2接触角とした場合、前記第1接触角は、前記第2接触角よりも大きい、請求項3または4に記載の整流部材。
【請求項6】
前記基部および前記仕切部の少なくとも一方は、黒色を呈しており、CIE LabにおけるLが50以下である、請求項1~5のいずれか一つに記載の整流部材。
【請求項7】
前記基部および前記仕切部の一方は、白色を呈しており、CIE LabにおけるLが80以上である、請求項1~6のいずれか一つに記載の整流部材。
【請求項8】
前記体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスは、炭化ケイ素質焼結体である、請求項1~7のいずれか一つに記載の整流部材。
【請求項9】
前記炭化ケイ素質焼結体は、炭化硼素を含有する、請求項8に記載の整流部材。
【請求項10】
前記炭化ケイ素質焼結体における前記溝部に面する表面は、少なくとも一部にSiの酸化物からなる酸化膜を有する、請求項8または9に記載の整流部材。
【請求項11】
前記仕切部の前記溝部に面する表面における表面粗さを第1表面粗さとした場合、該第1表面粗さは、算術平均粗さRaで0.09μm以上、1.2μm以下である、請求項1~10のいずれか一つに記載の整流部材。
【請求項12】
前記仕切部の前記溝部に面する表面は、前記第1方向に沿って伸長する加工痕を有する、請求項1~11のいずれか一つに記載の整流部材。
【請求項13】
前記加工痕は、前記第1面に対して略平行に伸長している、請求項12に記載の整流部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不織布製造装置に用いられる整流部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不織布を製造する不織布製造装置が知られている。不織布製造装置は、多数の小孔を有するノズルから溶融樹脂を糸状に吐出し、吐出された糸状の溶融樹脂(フィラメント)をエジェクタと呼ばれる延伸装置で引き延ばして繊維化する。繊維化されたフィラメントは、空気の噴流とともにエジェクタの下部から排出され、エジェクタの下方に位置するコンベア上に吹き付けられた後、コンベアによって搬送されながら熱ロールで融着されることによってシート化される。
【0003】
特許文献1には、エジェクタの下部から噴出する空気の流れを整える整流部材が開示されている。整流部材は、コンベアの幅方向に沿って互いに間隔をあけて並べられた複数のガイド板を有している。エジェクタの下部から噴出した空気の流れは、ガイド板間を通過することによって生じるコアンダ効果により、ガイド板の壁面に沿った流れに整えられる。これにより、フィラメント同士の絡み合いが抑制され、均一な地合の不織布を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-147672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術には、静電気を帯びたフィラメント同士がくっついたり反発したりすることでフィラメントの流れが乱れる結果、不織布の地合が不均一になるおそれがあった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、フィラメントの流れが静電気によって乱されることを抑制することができる整流部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様による整流部材は、不織布製造装置に用いられる整流部材である。実施形態に係る整流部材は、板状の基部と、複数の仕切部と、溝部とを有する。基部は、第1面および第1面と反対に位置する第2面と、第1端および第1端の反対に位置する第2端とを有する。複数の仕切部は、少なくとも第1面に位置し、第1端から第2端に向かう第1方向に沿って伸長し、かつ、第1方向と直交する方向に互いに間隔をあけて並べられる。溝部は、隣り合う2つの仕切部の間に位置する。基部および仕切部の少なくとも一方は、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスからなる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、フィラメントの流れが静電気によって乱されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る不織布製造装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、実施形態に係る整流部材の模式的な側面図である。
図3図3は、実施形態に係る整流部材の模式的な正面図である。
図4図4は、実施形態に係る整流部材の模式的な底面図である。
図5図5は、試料No.1~No.11に対する接触角測定の結果および各種評価の結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示による整流部材を実施するための形態(以下、「実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示による整流部材が限定されるものではない。また、各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。また、以下の各実施形態において同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
【0011】
また、以下に示す実施形態では、「一定」、「直交」、「垂直」あるいは「平行」といった表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密に「一定」、「直交」、「垂直」あるいは「平行」であることを要しない。すなわち、上記した各表現は、例えば製造精度、設置精度などのずれを許容するものとする。
【0012】
まず、実施形態に係る不織布製造装置の構成例について説明する。図1は、実施形態に係る不織布製造装置の構成を示す模式図である。なお、本実施形態では、一例として、スパンボンド法により不織布を製造する不織布製造装置を例に挙げて説明するが、本開示による不織布製造装置は、スパンボンド法以外の製法により不織布を製造するものであってもよい。
【0013】
図1に示すように、実施形態に係る不織布製造装置10は、ホッパー1と、押出機2と、ノズル3と、延伸機4と、整流部材5とを有する。また、実施形態に係る不織布製造装置10は、搬送部6と、融着部7と、巻取部8とを有する。
【0014】
ホッパー1は、たとえば直径3~5mm程度の固形の樹脂ペレットを押出機2に供給する。押出機2は、ホッパー1から供給された樹脂ペレットを溶融して溶融樹脂をノズル3に押し出す。ノズル3は、押出機2から押し出された溶融樹脂を多数の小孔から糸状に吐出する。以下、ノズル3から吐出された糸状の溶融樹脂をフィラメントと記載する。
【0015】
延伸機4は、ノズル3の下方に位置し、ノズル3から吐出されたフィラメントを引き延ばして繊維化する。延伸機4は、延伸機4の下方に位置する搬送部6に向けて繊維化されたフィラメントを吹き付ける。
【0016】
延伸機4は、鉛直方向(Z軸方向)に沿って延びるスリット41を有する。スリット41は、コンベアの搬送方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)にも延びている。スリット41は、延伸機4を上下に貫通しており、スリット41の上端および下端は、それぞれフィラメントの挿入口411および排出口412である。
【0017】
延伸機4の内部には、マニホールド42と給気路43とが位置している。マニホールド42には、延伸機4の外部から圧縮気体が供給される。給気路43は、マニホールド42に供給された圧縮気体をスリット41に供給する。圧縮気体は、スリット41を下方に向かって高速に流れる。フィラメントは、この圧縮気体の流れに沿ってスリット41を通過することで引き延ばされて繊維化される。
【0018】
整流部材5は、延伸機4の下部に位置する。整流部材5は、延伸機4の排出口412から噴出する気体を整流する。整流部材5の具体的な構成については、後述する。
【0019】
搬送部6は、たとえばベルトコンベアである。搬送部6は、整流部材5の下方に位置する。一例として、搬送部6は、複数のローラ61と、複数のローラ61間に掛け渡されたベルト62とを有する。延伸機4から排出されたフィラメントは、整流部材5を経てベルト62上に吹き付けられ、ベルト62上で積み重ねられる。以下、ベルト62上に積み重ねられたフィラメントをウェブと記載する。搬送部6は、ベルト62上のウェブを搬送方向(X軸方向)に沿って搬送する。
【0020】
融着部7は、搬送部6よりも搬送方向下流に位置する。一例として、融着部7は、表面に複数の凸形状を有するエンボスローラ71と、表面が平滑な平滑ローラ72とを有する。エンボスローラ71と平滑ローラ72とはウェブを挟み込む位置に配置されている。ウェブは、エンボスローラ71と平滑ローラ72との間を通過することにより、エンボスローラ71による型押しによって繊維同士が部分的に熱融着される。これにより、シート状の不織布が形成される。
【0021】
巻取部8は、融着部7よりも搬送方向下流に位置する。巻取部8は、シート状の不織布をロール状に巻き取る。
【0022】
次に、実施形態に係る整流部材5の構成について図2図4を参照して説明する。図2は、実施形態に係る整流部材5の模式的な側面図である。図3は、実施形態に係る整流部材5の模式的な正面図である。図4は、実施形態に係る整流部材5の模式的な底面図である。
【0023】
図2図4に示すように、実施形態に係る整流部材5は、板状の基部51と、複数の仕切部52とを有する。
【0024】
板状の基部51は、第1面511と、第1面511と反対に位置する第2面512とを有する。また、基部51は、第1端513と、第1端513と反対に位置する第2端514とを有する。実施形態において、第1面511および第2面512は、搬送部6の搬送方向(X軸方向)に面する(直交する)面である。また、実施形態において、第1面511および第2面512は、搬送部6が有するベルト62の幅方向(Y軸方向)に平行で且つ鉛直方向(Z軸方向)にも平行である。また、実施形態において、第1端513は、延伸機4の下端に位置し、第2端514は、搬送部6の上方に位置する。
【0025】
複数の仕切部52は、たとえば基部51の第1面511において、第1面511から突出して位置する。複数の仕切部52は、搬送部6が有するベルト62の幅方法(Y軸方向)に沿って互いに間隔をあけて並べられている(図3および図4参照)。なお、複数の仕切部52は、第2面512にも位置していてもよい。
【0026】
仕切部52は、基部51の第1端513から第2端514に向かう第1方向(Z軸方向)に沿って伸長する板形状を有する。
【0027】
仕切部52は、壁面521を有する。壁面521は、隣接する他の仕切部52と対向する面である。壁面521は、基部51の第1面511に対して垂直であってもよい。また、隣接する2つの仕切部52の壁面521同士は、平行であってもよい。
【0028】
また、仕切部52は、伸長方向(Z軸方向)における両端である第1端523および第2端524を有する。仕切部52の第1端523は、基部51の第1端513と面一であってもよい。また、仕切部52の第2端524は、基部51の第2端514と面一であってもよい。
【0029】
また、仕切部52は、第1面511から突出する方向(X軸方向)における両端である第3端525および第4端526を有する。基部51の第1面511には、第1面511から第2面512に向かう方向(X軸方向)に窪み、かつ、第1端513から第2端514に向かう方向(Z軸方向)に伸長する固定溝515が位置している。仕切部52の第3端525は、この固定溝515の内部に位置している(図4参照)。また、仕切部52の第4端526は、基部51の第1面511に対して傾斜していてもよい。たとえば、第4端526は、第1端523側において基部51の第1面511に近く、第2端524側において基部51の第1面511から遠くなるように傾斜していてもよい(図2参照)。
【0030】
整流部材5は、隣り合う2つの仕切部52の間に溝部53を有する。溝部53は、隣り合う2つの仕切部52の対向する2つの壁面521と、基部51の第1面511によって構成される。すなわち、隣り合う2つの仕切部52の対向する2つの壁面521は、溝部53の壁面に相当し、基部51の第1面511は、溝部53の底面に相当する。
【0031】
延伸機4の下部から噴出した空気の流れは、仕切部52間に位置する溝部53を通過することによって生じるコアンダ効果により、仕切部52の壁面521に沿った流れに整えられる。これにより、フィラメント同士の絡み合いが抑制されることで、均一な地合の不織布を得ることができる。
【0032】
実施形態に係る整流部材5において、基部51および仕切部の少なくとも一方は、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスからなっていてもよい。
【0033】
このように、基部51および仕切部52の少なくとも一方の材質を、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下の導電性もしくは半導電性のセラミックスとすることで、フィラメントに帯電した電気を上記セラミックスを介して逃がすことができる。これにより、フィラメントの流れが静電気によって乱されることを抑制することができる。
【0034】
体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスが複数の仕切部52である場合、図1に示すように、整流部材5は、複数の仕切部52に接触する導電性部材50を有していてもよい。導電性部材50は、複数の仕切部52の並び方向(Y軸方向)に沿って延在している。導電性部材50は、たとえば、複数の仕切部52の第4端526上に位置している。これにより、導電性部材50は、複数の仕切部52と接触する。導電性部材50は、図示しないアース線を介して接地されている。これにより、複数の仕切部52に帯電した電気を導電性部材50経由で外部に逃がすことができる。
【0035】
なお、導電性部材50は、延伸機4の下部に取り付けられた整流部材5に対して後付けされてもよい。また、導電性部材50は、たとえば延伸機4の下部に取り付けられたものであってもよい。この場合、延伸機4の下部に整流部材5を取り付けることで、整流部材5と導電性部材50とを接触させることができる。導電性部材50は、複数の仕切部52と接触していればよく、導電性部材50の設置場所は、図示の例に限定されない。
【0036】
また、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスは、基部51であってもよい。この場合、導電性部材50は、基部51と接触すればよい。
【0037】
基部51および仕切部52の少なくとも一方は、黒色を呈していてもよい。具体的には、基部51および仕切部52の少なくとも一方は、CIE LabにおけるLが50以下であってもよい。
【0038】
黒色は、白色であるフィラメントとの色差が大きい。このため、基部51および複数の仕切部52の少なくとも一方が黒色を呈する場合、フィラメントの状態を確認しやすい。なお、基部51および複数の仕切部52のうち、基部51のみが黒色を呈していてもよいし、複数の仕切部52のみが黒色を呈していてもよい。また、基部51および複数の仕切部52の両方が黒色を呈していてもよい。
【0039】
また、基部51および仕切部52の一方が黒色を呈しており、他方が白色を呈していてもよい。具体的には、基部51および仕切部52の一方は、CIE LabにおけるLが50以下であり、他方は、CIE LabにおけるLが80以上であってもよい。たとえば、整流部材5は、基部51が白色であり、仕切部52が黒色であってもよい。また、これとは逆に、整流部材5は、基部51が黒色であり、仕切部52が白色であってもよい。
【0040】
このように、基部51および仕切部52の他方が白色である場合、有色の異物が混入した場合に発見しやすい。
【0041】
体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスは、炭化ケイ素質焼結体であってもよい。この場合、炭化ケイ素質焼結体は、炭化硼素を含有していてもよい。かかる炭化ケイ素質焼結体は、高硬度である。よって、仕切部52および溝部53をフィラメントが長期間通過しても、フィラメントに接する仕切部52および溝部53の摩耗を抑制することができる。体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスが炭化ケイ素質焼結体である場合、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスは、黒色を呈する。
【0042】
たとえば、整流部材5は、酸化アルミニウム質焼結体からなる基部51と、炭化ケイ素質焼結体からなる複数の仕切部52とを有していてもよい。この場合、基部51は白色を呈し、複数の仕切部52は黒色を呈する。また、整流部材5は、炭化ケイ素質焼結体からなる基部51と、酸化アルミニウム質焼結体からなる複数の仕切部52とを有していてもよい。この場合、基部51が黒色を呈し、複数の仕切部52が白色を呈する。また、整流部材5は、炭化ケイ素質焼結体からなる基部51および仕切部52を有していてもよい。この場合、整流部材5の全体が黒色を呈する。
【0043】
このように、基部51および仕切部52の少なくとも一方に、高硬度かつ低抵抗な炭化ケイ素質焼結体を用いることで、フィラメントの除電効果が高くかつ硬度も高い整流部材5を得ることができる。
【0044】
炭化ケイ素質焼結体における溝部53に面する表面は、少なくとも一部にSiの酸化物からなる酸化膜を有していてもよい。たとえば、仕切部52が炭化ケイ素質焼結体からなる場合、仕切部52は、溝部53の側面をなす壁面521の少なくとも一部にSiの酸化物からなる酸化膜を有していてもよい。また、基部51が炭化ケイ素質焼結体からなる場合、基部51は、溝部53の底面をなす第1面511の少なくとも一部にSiの酸化物からなる酸化膜を有していてもよい。
【0045】
このように、炭化ケイ素質焼結体における溝部53に面する表面の少なくとも一部にSiの酸化膜を有することによって、炭化ケイ素質焼結体の表面側に存在する結晶が離脱することで、溝部53に面する表面に凸部が形成されることを長期間にわたって抑制することができる。その結果、フィラメントに対する耐摩耗性を長期間保つことができ、かつフィラメントの絡み合いが長期間抑制できるため、均一な地合いの不織布を長期間にわたって安定して製造することができる。
【0046】
なお、基部51または仕切部52として用いられる「体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックス」は、必ずしも炭化ケイ素質焼結体であることを要しない。たとえば、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックスとしては、半導電性ジルコニア、アルミナおよびTiCの複合焼結体などが用いられてもよい。
【0047】
仕切部52の溝部53に面する表面すなわち壁面521における水に対する接触角を第1接触角とした場合、第1接触角は、25°以上であってもよい。より好ましくは、第1接触角は、31°以上であってもよい。
【0048】
壁面521の濡れ性が高い場合、すなわち濡れやすい場合、溝部53を流れるフィラメントが壁面521に付着しやすくなるため、フィラメントのスムーズな流れが抑制されるおそれがある。これに対し、壁面521の濡れ性を低くすることで、具体的には、第1接触角を25°以上、より好ましくは31°以上とすることで、溝部53内におけるフィラメントのスムーズな流れを実現することができる。
【0049】
なお、アルミナ、炭化ケイ素および窒化ケイ素で濡れ性を比較した場合、アルミナが最濡れやすく、窒化ケイ素が最も濡れにくい。
【0050】
第1接触角は、たとえば、壁面521の表面粗さを調整することによって所望の値に調整することができる。壁面521の表面粗さを第1表面粗さとした場合、第1表面粗さは、算術平均粗さRaで0.09μm以上、1.2μm以下であってもよい。算術平均粗さRaが0.09μm以上、1.2μm以下である壁面521は、鏡面ではなく、また、ブラスト面でもない。第1表面粗さを上記範囲とすることで、第1接触角を25°以上とすることができ、これにより、溝部53内におけるフィラメントのスムーズな流れを実現することができる。
【0051】
なお、第1端523(図2参照)から第2端524に向かう方向(Z軸方向)において、壁面521の両端部における第1表面粗さは、壁面521の中央部における第1表面粗さより小さくてもよい。壁面521の両端部は、たとえば、壁面521の第1端523側の端辺を含む領域であってもよい。また、壁面521の中央部は、たとえば、壁面521の中央を含む領域であってもよい。
【0052】
また、基部51の溝部53に面する表面すなわち第1面511における水に対する接触角を第2接触角とした場合、上述した第1接触角は、第2接触角より大きくてもよい。かかる構成を有する整流部材5は、除電性能、視認性、耐汚性およびコストのバランスが良い。
【0053】
壁面521は、基部51の第1端513から第2端514に向かう第1方向(Z軸方向)に沿って伸長する加工痕を有していてもよい。加工痕がフィラメントの流れる方向に沿って伸長している場合、加工痕によってフィラメントの流れが阻害されることを抑制することができる。また、加工痕による傷がフィラメントに入りにくい。
【0054】
加工痕は、基部51の第1面511に対して略平行に伸長していてもよい。これにより、加工痕によってフィラメントの流れが阻害されること、および、フィラメントに加工痕による傷が入ることをより抑制することができる。
【0055】
なお、略平行とは、設計誤差等も含む実質的に平行な状態を意味する。たとえば、略平行とは、真の平行に対し、例えば数%程度の角度誤差を含む意味である。一例として、略平行とは、加工痕の伸長方向と第1面511との角度差が±10°、好ましくは±5°の範囲であってもよい。
【実施例0056】
炭化ケイ素からなる基部および仕切部を有する整流部材(試料No.1~No.4)、アルミナからなる基部および炭化ケイ素からなる仕切部を有する整流部材(試料No.5~No.8)、炭化ケイ素からなる基部およびアルミナからなる仕切部を有する整流部材(試料No.9,No.10)、アルミナからなる基部および仕切部を有する整流部材(試料No.11)を作製した。なお、一部の試料については、基部および仕切部の溝部に面する表面(基部の第1面および仕切部の壁面)に対して表面研磨を行うことで、表面粗さを調整した。そして、作製した試料No.1~No.11の溝部に面する表面について、水に対する接触角の測定を行った。また、作製した試料No.1~No.11について、除電性能、フィラメントおよび異物の視認性、耐汚性およびコストについての評価を行った。その結果を図5に示す。図5は、試料No.1~No.11に対する接触角測定の結果および各種評価の結果をまとめた表である。除電性能、視認性、耐汚性およびコストの評価はA~Dの4段階とした。なお、Aが最も優れていており、Dが最も劣っていることを意味する。
【0057】
なお、試料No.1~No.10は、本開示の実施例に相当し、試料No.11は、比較例に相当する。
【0058】
炭化ケイ素からなる基部および仕切部の水に対する接触角(それぞれ第2接触角および第1接触角)は、表面粗さRa(算術平均粗さ)を1.5μm、0.25μmおよび0.22μmとした場合で、それぞれ79.1°、34.7°および30.5°であった。このように、炭化ケイ素からなる基部および仕切部は、表面粗さを小さくするほど、水に対する接触角が小さくなる、すなわち、濡れやすくなることがわかる。なお、表面粗さRaが1.5μmの表面は、表面研磨を行っていない焼き肌面である。
【0059】
アルミナからなる基部および仕切部の水に対する接触角(それぞれ第2接触角および第1接触角)は、表面粗さRaを1μmおよび0.8μmとした場合で、それぞれ19.5°、21.8°であった。このように、アルミナは、表面粗さを小さくするほど、水に対する接触角が大きくなる、すなわち、濡れにくくなることがわかる。
【0060】
試料No.1~No.4は、基部および仕切部が炭化ケイ素からなる。かかる試料No.1~No.4は、他の試料No.5~No.11と比べて、除電性能および視認性に特に優れている。また、基部および仕切部が炭化ケイ素からなる試料No.1~No.4は、全体が黒色を呈するため、白色であるフィラメントの視認性にも優れている。一方、炭化ケイ素は、アルミナと比べて高価である。このため、試料No.1~No.4は、他の試料No.5~No.11と比べてコストの面で劣ると言える。
【0061】
試料No.5~No.8は、アルミナからなる基部および炭化ケイ素からなる仕切部を有する。かかる試料No.5~No.8は、基部が白色を呈し、仕切部が黒色を呈するため、白色を呈するフィラメントを視認しやすく、かつ、異物も発見しやすい。また、アルミナは、炭化ケイ素と比べて安価である。このため、試料No.5~No.8は、試料No.1~No.4と比べて、除電性能および耐汚性については僅かに劣るものの、視認性およびコストの面で優れている。
【0062】
試料No.9,No.10は、炭化ケイ素からなる基部およびアルミナからなる仕切部を有する。かかる試料No.9,No.10は、コストの面で優れている。また、試料No.9,No.10は、除電性能が試料No.5~No.8と同等であり、視認性が試料No.1~No.4と同等であった。一方、耐汚性に関し、試料No.9,No.10は、試料No.1~No.8と比べて劣っていた。
【0063】
試料No.11は、基部および仕切部がアルミナからなる。かかる試料No.11は、コストの面で優れている。一方、試料No.11は、全体が白色を呈しているため、他の試料No.1~No.10と比べて視認性に劣る。また、除電性能および耐汚性に関しても、他の試料No.1~No.10と比べて劣っていた。
【0064】
上述してきたように、実施形態に係る整流部材(一例として、整流部材5)は、不織布製造装置(一例として、不織布製造装置10)に用いられる整流部材である。実施形態に係る整流部材は、板状の基部(一例として、基部51)と、複数の仕切部(一例として、仕切部52)と、溝部(一例として、溝部53)とを有する。基部は、第1面(一例として、第1面511)および第1面と反対に位置する第2面(一例として、第2面512)と、第1端(一例として、第1端513)および第1端の反対に位置する第2端(一例として、第2端514)とを有する。複数の仕切部は、少なくとも第1面に位置し、第1端から第2端に向かう第1方向(一例として、Z軸方向)に沿って伸長し、かつ、第1方向と直交する方向(一例として、Y軸方向)に互いに間隔をあけて並べられる。溝部は、隣り合う2つの仕切部の間に位置する。基部および仕切部の少なくとも一方は、体積固有抵抗が1010Ω・cm以下のセラミックス(一例として、炭化ケイ素質焼結体)からなる。
【0065】
したがって、実施形態に係る整流部材によれば、フィラメントの流れが静電気によって乱されることを抑制することができる。
【0066】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 ホッパー
2 押出機
3 ノズル
4 延伸機
5 整流部材
6 搬送部
7 融着部
8 巻取部
10 不織布製造装置
50 導電性部材
51 基部
52 仕切部
53 溝部
62 ベルト
411 挿入口
412 排出口
515 固定溝
521 壁面
図1
図2
図3
図4
図5