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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077202
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】触媒劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 11/00 20060101AFI20230529BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230529BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
F01N11/00
F02D45/00 368F
F02D43/00 301H
F02D43/00 301Y
F02D45/00 362
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190410
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 雅史
【テーマコード(参考)】
3G091
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AB01
3G091BA33
3G091DB10
3G091EA01
3G091EA05
3G091EA30
3G091EA39
3G091FA05
3G091FB10
3G091FB12
3G091FC01
3G091HA36
3G091HA37
3G384BA03
3G384BA04
3G384BA14
3G384BA31
3G384CA19
3G384DA43
3G384EB10
3G384ED07
3G384ED11
3G384FA01B
3G384FA79B
(57)【要約】
【課題】触媒の熱劣化について早期に診断できる触媒劣化診断装置を提供すること。
【解決手段】ECUの触媒劣化診断部は、車速および内燃機関の吸気量が所定の第1診断可能領域内にある場合に触媒劣化診断処理を実行する第1触媒劣化診断動作と、触媒が熱劣化し得る熱劣化条件が成立し(ステップS2でYES)、かつ車速および吸気量が所定の第2診断可能領域内にある場合(ステップS3でYES)に燃料カットを禁止して(ステップS4)触媒劣化診断処理を実行(ステップS5)する第2触媒劣化診断動作と、を行う。第2診断可能領域は、第1診断可能領域よりも広く、かつ、第1診断可能領域を全て含んでいる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の排気管に設けられた触媒と、前記排気管における前記触媒の上流側に設けた上流側排気センサと、前記排気管における前記触媒の下流側に設けた下流側排気センサと、を備え、
アクセル操作が行われていない場合に前記内燃機関への燃料噴射を中止する燃料カットを実行する車両に搭載され、
空燃比が交互にリッチとリーンとになるように前記内燃機関に燃料を噴射し、前記上流側排気センサおよび前記下流側排気センサの検出信号に基づく判定値を閾値と比較することにより前記触媒の劣化について診断する触媒劣化診断処理を実行する触媒劣化診断部を備える触媒劣化診断装置であって、
前記触媒劣化診断部は、
車速および前記内燃機関の吸気量が所定の第1診断可能領域内にある場合に前記触媒劣化診断処理を実行する第1触媒劣化診断動作と、
前記触媒が熱劣化し得る熱劣化条件が成立し、かつ前記車速および前記吸気量が所定の第2診断可能領域内にある場合に前記燃料カットを禁止して前記触媒劣化診断処理を実行する第2触媒劣化診断動作と、を行うことを特徴とする触媒劣化診断装置。
【請求項2】
前記第2診断可能領域は、前記第1診断可能領域よりも広く、かつ、前記第1診断可能領域を全て含んでいることを特徴とする請求項1に記載の触媒劣化診断装置。
【請求項3】
前記第1診断可能領域および前記第2診断可能領域は、前記車速の上限閾値および下限閾値と、前記吸気量の上限閾値および下限閾値と、により定められ、
前記第2診断可能領域の前記車速の上限閾値および前記吸気量の上限閾値は、前記第1診断可能領域の前記車速の上限閾値および前記吸気量の上限閾値よりも大きく設定され、
前記第2診断可能領域の前記車速の下限閾値および前記吸気量の下限閾値は、前記第1診断可能領域の前記車速の下限閾値および前記吸気量の下限閾値よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項2に記載の触媒劣化診断装置。
【請求項4】
前記触媒劣化診断部は、前記第2触媒劣化診断動作において、前記熱劣化条件が成立した後であって前記吸気量および前記車速が前記第2診断可能領域に入った後に前記燃料カットを禁止することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の触媒劣化診断装置。
【請求項5】
前記第2触媒劣化診断動作において前記触媒劣化診断処理が実行される期間は、前記第1触媒劣化診断動作において前記触媒劣化診断処理が実行される期間よりも短く設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の触媒劣化診断装置。
【請求項6】
前記熱劣化条件の成立とは、
前記内燃機関のエンジン回転数が所定の超過禁止回転数以上となる状態が所定の超過禁止時間継続したこと、
前記内燃機関のエンジン回転数が前記超過禁止回転数以上となることを防止する過回転防止制御が実行されたこと、
アクセル開度の所定期間の積算値が所定閾値以上となったこと、
前記触媒の触媒温度が所定の超過禁止温度以上となる状態が所定時間継続したこと、
のうち少なくとも1つが満たされたこと、であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の触媒劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のエンジンの触媒劣化検出方法は、燃料カットリカバリー後、排気通路に介装した触媒の下流側に配設した下流空燃比センサで検出した空燃比がリーンからリッチに反転するまでの時間を計測し、また、燃料カットリカバリー後の吸入空気量の積分値を演算する。そして、燃料カットリカバリー後、下流空燃比センサで検出した空燃比がリーンからリッチに反転したときの上記吸入空気量の積分値に基づき触媒劣化判定用基準時間を設定し、この触媒劣化判定用基準時間と上記下流空燃比センサで検出した空燃比がリーンからリッチに反転するまでの時間とを比較し、触媒劣化判定用基準時間より上記反転時間が短い場合、触媒の劣化と判断する。特許文献1に記載のエンジンの触媒劣化検出方法は、触媒劣化判定用基準時間を吸入空気量の積分値に基づいて可変設定しているため、触媒の劣化を精度良く判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-195759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、触媒の劣化には、燃料やオイルに含まれる成分等により徐々に劣化する被毒劣化と、高温に晒されることにより急激に劣化する熱劣化とがある。熱劣化は、エンジンの運転状態に大きく影響を受けて急激に発生するため、触媒の熱劣化について早期に診断することが望ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、触媒の熱劣化について早期に診断することについて検討されておらず、早期に診断を行うことができないという問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の技術にあっては、燃料カットリカバリー後であることを条件に触媒の劣化の有無が判定されるため、触媒の劣化の有無を判定する機会が制限されてしまい、早期に診断を行うことができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、触媒の熱劣化について早期に診断できる触媒劣化診断装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内燃機関と、前記内燃機関の排気管に設けられた触媒と、前記排気管における前記触媒の上流側に設けた上流側排気センサと、前記排気管における前記触媒の下流側に設けた下流側排気センサと、を備え、アクセル操作が行われていない場合に前記内燃機関への燃料噴射を中止する燃料カットを実行する車両に搭載され、空燃比が交互にリッチとリーンとになるように前記内燃機関に燃料を噴射し、前記上流側排気センサおよび前記下流側排気センサの検出信号に基づく判定値を閾値と比較することにより前記触媒の劣化について診断する触媒劣化診断処理を実行する触媒劣化診断部を備える触媒劣化診断装置であって、前記触媒劣化診断部は、車速および前記内燃機関の吸気量が所定の第1診断可能領域内にある場合に前記触媒劣化診断処理を実行する第1触媒劣化診断動作と、前記触媒が熱劣化し得る熱劣化条件が成立し、かつ前記車速および前記吸気量が所定の第2診断可能領域内にある場合に前記燃料カットを禁止して前記触媒劣化診断処理を実行する第2触媒劣化診断動作と、を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように上記の本発明によれば、触媒の熱劣化について早期に診断できる触媒劣化診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置を有する車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置の第1診断可能領域および第2診断可能領域を示す図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置の動作を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る触媒劣化診断装置は、内燃機関と、内燃機関の排気管に設けられた触媒と、排気管における触媒の上流側に設けた上流側排気センサと、排気管における触媒の下流側に設けた下流側排気センサと、を備え、アクセル操作が行われていない場合に内燃機関への燃料噴射を中止する燃料カットを実行する車両に搭載され、空燃比が交互にリッチとリーンとになるように内燃機関に燃料を噴射し、上流側排気センサおよび下流側排気センサの検出信号に基づく判定値を閾値と比較することにより触媒の劣化について診断する触媒劣化診断処理を実行する触媒劣化診断部を備える触媒劣化診断装置であって、触媒劣化診断部は、車速および内燃機関の吸気量が所定の第1診断可能領域内にある場合に触媒劣化診断処理を実行する第1触媒劣化診断動作と、触媒が熱劣化し得る熱劣化条件が成立し、かつ車速および吸気量が所定の第2診断可能領域内にある場合に燃料カットを禁止して触媒劣化診断処理を実行する第2触媒劣化診断動作と、を行うことを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る触媒劣化診断装置は、触媒の熱劣化について早期に診断できる。
【実施例0012】
以下、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置について図面を用いて説明する。図1から図5は、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置を示す図である。
【0013】
図1において、本発明の一実施例に係る触媒劣化診断装置を搭載した車両1は、内燃機関2と、内燃機関2を制御するECU(Electronic Control Unit)20と、を備えている。内燃機関2は、空気を取り入れる吸気管3と、排気ガスを排出する排気管4と、を有している。
【0014】
吸気管3には、上流側から順番に、空気を濾過するエアクリーナ5と、空気の流量を測定するエアフローセンサ6と、空気の流量を調整するスロットルバルブ7と、燃料を噴射するインジェクタ8と、がそれぞれ取り付けられている。
【0015】
排気管4には、上流側から順番に、上流側排気センサ9、触媒10および下流側排気センサ11が取り付けられている。このように、排気管4には、触媒10を挟むように上流側排気センサ9および下流側排気センサ11が配置されている。
【0016】
このように、内燃機関2は、排気管4に設けられた触媒10と、排気管4における触媒10の上流側に設けた上流側排気センサ9と、排気管4における触媒の下流側に設けた下流側排気センサ11と、を備えている。
【0017】
本実施例では、上流側排気センサ9および下流側排気センサ11はO2センサからなる。O2センサは、理論空燃比に対して空燃比がリッチ側とリーン側とに変化すると検出信号(電圧)がステップ状(階段状)に変化する特性を有する。なお、上流側排気センサ9および下流側排気センサ11は、O2センサと比較してリニアな検出信号を出力するA/Fセンサから構成してもよい。
【0018】
車両1は、アクセルペダル33のアクセル操作の量を検出するアクセル開度センサ34を備えており、アクセル開度センサ34は、検出信号をアクセル開度としてECU20に出力する。
【0019】
ECU20は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUは、RAMの一時記憶機能を利用するとともにROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うようになっている。ROMには、各種制御定数や各種マップ等が予め記憶されている。
【0020】
図2において、ECU20の入力側には、車速センサ31、エンジン回転数センサ32、アクセル開度センサ34、上流側排気センサ9および下流側排気センサ11が接続されている。ECU20は、これらの各種センサ類からの検出信号に基づいて各種制御を行う。
【0021】
ECU20の出力側には、インジェクタ8および点火コイル13が接続されている。ECU20は、点火コイル13の点火タイミングを制御する。また、ECU20は、インジェクタ8の燃料噴射量や燃料噴射タイミングを制御する。
【0022】
ECU20は、アクセルペダル33のアクセル操作が行われていない場合に、内燃機関2への燃料噴射を中止する燃料カットを実行する。ECU20は、車速が所定の閾値未満に低下した場合に燃料カットを中断する。
【0023】
ECU20は触媒劣化診断部20Aを備えており、触媒劣化診断部20Aは、触媒劣化診断処理を実行することにより触媒10の劣化の有無および程度を判定する。ECU20は本発明における触媒劣化診断装置を構成する。触媒劣化診断処理は、空燃比が交互にリッチとリーンとになるように内燃機関2に燃料を噴射し、上流側排気センサ9および下流側排気センサ11の検出信号に基づく判定値を閾値と比較することにより触媒10の劣化について診断する処理である。ここで、劣化についての診断には、劣化の有無を判定すること、および劣化の程度を評価することが含まれる。
【0024】
触媒劣化診断部20Aは、第1触媒劣化診断動作および第2触媒劣化診断動作を行い、この第1触媒劣化診断動作および第2触媒劣化診断動作において触媒劣化診断処理を実行することにより触媒10の劣化について診断する。そして、触媒劣化診断部20Aは、触媒劣化診断処理を実行した結果、触媒10が劣化していると判定した場合、エンジン警告灯(チェックランプ)を点灯させて運転者に報知する。
【0025】
第1触媒劣化診断動作は、車速および内燃機関2の吸気量が所定の第1診断可能領域A(図3参照)内にある場合に触媒劣化診断処理を実行する動作である。第1触媒劣化診断動作は、1ドライビングサイクルに1回等の所定のタイミングおよび頻度で行われる。
【0026】
ここで、触媒10の劣化には、燃料に含まれる成分等により徐々に発生(または進行)する被毒劣化と、高温に曝されて過熱することで急激に発生(または進行)する熱劣化とがある。触媒10の熱劣化が発生するか否かは、内燃機関2の運転状態に大きく左右される。例えば、内燃機関2が高速回転する状態が長時間継続した場合や、アクセルペダル33の踏み込みと解放とが交互に繰り返されて触媒10に排気ガスと空気とが交互に導入された場合に、触媒10は熱劣化する。
【0027】
このように、触媒10の熱劣化は内燃機関2の運転状態によって急激に発生するため、触媒10の熱劣化の発生後に速やかに診断を行い、触媒10が熱劣化していることを早期に判定することが望ましい。
【0028】
そこで、触媒劣化診断部20Aは、第2触媒劣化診断動作を行い、この第2触媒劣化診断動作において触媒劣化診断処理を実行することにより触媒10の劣化(熱劣化)について診断する。
【0029】
第2触媒劣化診断動作は、触媒10が熱劣化し得る熱劣化条件が成立し、かつ車速および吸気量が所定の第2診断可能領域B(図3参照)内にある場合に燃料カットを禁止して触媒劣化診断処理を実行する動作である。
【0030】
触媒10が熱劣化し得る熱劣化条件には、次の(1)から(4)の条件が含まれる。熱劣化条件の成立とは、次の(1)から(4)の条件うち少なくとも1つが満たされたことである。
【0031】
(1)内燃機関2のエンジン回転数が所定の超過禁止回転数(Arpm)以上となる状態が所定の超過禁止時間(B秒間)継続したこと。以下、この(1)の条件の成立をオーバーレブ判定の成立ともいう。
【0032】
(2)内燃機関2のエンジン回転数が超過禁止回転数A以上となることを防止する過回転防止制御が実行されたこと。
【0033】
(3)アクセル開度の所定期間(C秒間)の積算値が所定閾値(D%)以上となったこと。以下、この(3)の条件の成立を加減速判定の成立ともいう。
【0034】
(4)触媒10の触媒温度が所定の超過禁止温度(E℃)以上となる状態が所定時間(F秒間)継続したこと。以下、この(4)の条件の成立を触媒過熱判定の成立ともいう。
【0035】
図3において、第2診断可能領域Bは、第1診断可能領域Aよりも広く、かつ、第1診断可能領域Aを全て含んでいる。詳しくは、第1診断可能領域Aおよび第2診断可能領域Bは、車速の上限閾値A1、B1および下限閾値A2、B2と、吸気量の上限閾値A3、B3および下限閾値A4、B4と、により定められている。
【0036】
また、第2診断可能領域Bの車速の上限閾値B1および吸気量の上限閾値B3は、第1診断可能領域Aの車速の上限閾値A1および吸気量の上限閾値A3よりも大きく設定されている。
【0037】
また、第2診断可能領域Bの車速の下限閾値B2および吸気量の下限閾値B4は、第1診断可能領域Aの車速の下限閾値A2および吸気量の下限閾値A4よりも小さく設定されている。
【0038】
触媒劣化診断部20Aは、第2触媒劣化診断動作において、熱劣化条件が成立した後であって吸気量および車速が第2診断可能領域Bに入った後に燃料カットを禁止する。つまり、触媒劣化診断処理の実行中だけ燃料カットが禁止されればよいので、燃料カットが禁止されるタイミングは、熱劣化条件が成立した直後ではなく、吸気量および車速が第2診断可能領域Bに入った後であって触媒劣化診断処理の実行の直前となっている。
【0039】
第2触媒劣化診断動作において触媒劣化診断処理が実行される期間は、第1触媒劣化診断動作において触媒劣化診断処理が実行される期間よりも短くなっている。
【0040】
図4のフローチャートを参照して第2触媒劣化診断動作について説明する。図4において、触媒劣化診断部20Aは、通常のエンジン制御を行う(ステップS1)。通常のエンジン制御には、内燃機関2の燃料噴射量や点火時期の制御の他に、第1触媒劣化診断動作も含まれている。
【0041】
触媒劣化診断部20Aは、通常のエンジン制御中に、何れかの熱劣化条件を満たしたか否かを判定する(ステップS2)。このステップS2では、(1)オーバーレブ判定の成立、または(2)過回転防止制御の実行、または(3)加減速判定の成立、または(4)触媒過熱判定の成立、のうち少なくとも1つが満たされたか否かが判定される。触媒劣化診断部20Aは、何れの熱劣化条件も満たしていない場合はステップS1に戻って通常のエンジン制御を継続する。
【0042】
触媒劣化診断部20Aは、何れかの熱劣化条件を満たした場合、車速および吸気量が第2診断可能領域B(図中、単に診断可能領域と記す)に入ったか否かを判定する(ステップS3)。触媒劣化診断部20Aは、車速および吸気量が第2診断可能領域Bに入るまでステップS3の判定を繰り返す。
【0043】
触媒劣化診断部20Aは、車速および吸気量が第2診断可能領域Bに入った場合、燃料カットを禁止する(ステップS4)。燃料カットを禁止することにより、燃料噴射の必要な触媒劣化診断処理の実行を開始することが可能となる。また、燃料カットを禁止することにより、触媒劣化診断処理の実行が燃料カットにより中断されることを回避できる。
【0044】
次いで、触媒劣化診断部20Aは、触媒劣化診断処理の定数を変更し、触媒劣化診断処理を開始する(ステップS5)。このステップS5では、第1触媒劣化診断動作における触媒劣化診断処理で用いられる定数から、第2触媒劣化診断動作における触媒劣化診断処理で用いられる定数への変更が行われる。
【0045】
この定数の変更には、第1診断可能領域Aから第2診断可能領域Bへの上限閾値および下限閾値の変更が含まれている。また、定数の変更には、触媒劣化診断処理を実施する期間(診断期間)の長さが含まれている。第2触媒劣化診断動作における触媒劣化診断処理の診断期間は、第1触媒劣化診断動作における触媒劣化診断処理の診断期間よりも短縮される。
【0046】
次いで、触媒劣化診断部20Aは、触媒劣化診断処理が完了したか否かを判定する(ステップS6)。触媒劣化診断部20Aは、触媒劣化診断処理が完了するまでステップS6の判定を繰り返す。
【0047】
次いで、触媒劣化診断部20Aは、触媒10が劣化しているか否かを判定する(ステップS7)。
【0048】
次いで、触媒劣化診断部20Aは、触媒10が劣化していると判定した場合、エンジン警告灯(チェックランプ)を点灯させる等を実施して運転者に報知する(ステップS8)。
【0049】
触媒劣化診断部20Aは、触媒10が劣化していないと判定した場合、通常のエンジン制御を行う(ステップS9)。
【0050】
図5のタイミングチャートを参照して第2触媒劣化診断動作が行われる場合の車両状態等の時間推移について説明する。図5において、縦軸は、エンジン回転数、車速、アクセル開度、上流側排気センサ信号、下流側排気センサ信号を表している。さらに、縦軸は、熱劣化条件の成立状態、燃料カットの実施状態、触媒診断条件の成立状態、触媒劣化診断処理の実施状態、触媒診断結果(劣化の有無)を表している。横軸は時間の経過を表している。なお、第2触媒劣化診断動作が行われる場合の車両状態等は実線で表され、第1触媒劣化診断動作が行われる場合の車両状態等は比較のために破線で表されている。
【0051】
図5において、時刻t1で熱劣化条件が成立する。
【0052】
その後、時刻t2で、アクセルペダル33の踏み込みが解放されたことによりアクセル開度が低下し、エンジン回転数および車速が低下し、触媒診断条件が成立する。ここでは、車速および吸気量が所定の第2診断可能領域B(図3参照)内に入ったことにより触媒診断条件が成立する。触媒診断条件が成立したことにより、燃料カットが禁止される。時刻t2以降では、燃料カットが禁止されているため、エンジン回転数および車速の低下率は小さい。
【0053】
そして、時刻t2で触媒診断条件が成立したことにより、時刻t3で触媒劣化診断処理が実施される。
【0054】
この触媒劣化診断処理において、空燃比が交互にリッチとリーンとになるように内燃機関2に燃料が噴射され、上流側排気センサ信号(電圧)および下流側排気センサ信号(電圧)に基づく判定値が閾値と比較されることにより、触媒10の熱劣化についての診断が行われる。
【0055】
その後、時刻t4で触媒劣化診断処理が完了し、触媒10が劣化していると判断された場合、触媒診断結果が劣化有に変化する。なお、熱劣化条件が時刻t1で成立してから時刻t4で非成立となるまでの期間は、X秒またはYドライビングサイクルに設定されている。
【0056】
一方、第1触媒劣化診断動作が行われる場合、アクセルペダル33の踏み込みが解放された時刻t2で燃料カットが開始されるため、その後は燃料噴射の必要な触媒劣化診断処理を実施することができず、触媒診断結果を得ることができない。なお、図5では、第1触媒劣化診断動作が行われる場合に触媒診断条件が常に非成立となっている。
【0057】
以上説明したように、本実施例では、触媒劣化診断部20Aは、車速および内燃機関2の吸気量が所定の第1診断可能領域A内にある場合に触媒劣化診断処理を実行する第1触媒劣化診断動作と、触媒10が熱劣化し得る熱劣化条件が成立し、かつ車速および吸気量が所定の第2診断可能領域B内にある場合に燃料カットを禁止して触媒劣化診断処理を実行する第2触媒劣化診断動作と、を行う。
【0058】
これにより、触媒10が熱劣化している可能性があり、車速および吸気量が第2診断可能領域B内にある場合は、アクセルペダル33が踏み込まれていない惰性走行時であっても、燃料カットを禁止して触媒劣化診断処理を実行することができ、触媒10の劣化について診断できる。このため、燃料カットの実施により触媒劣化診断処理の実施が制限または中断されることを回避できる。この結果、触媒10の熱劣化について早期に診断できる。
【0059】
また、本実施例では、第2診断可能領域Bは、第1診断可能領域Aよりも広く、かつ、第1診断可能領域Aを全て含んでいる。
【0060】
これにより、第2触媒劣化診断動作において熱劣化条件が成立している場合の触媒劣化診断処理の実施機会を、第1触媒劣化診断動作における触媒劣化診断処理の実施機会よりも増やすことができ、より早期に触媒10の熱劣化について診断できる。
【0061】
また、本実施例では、第1診断可能領域Aおよび第2診断可能領域Bは、車速の上限閾値および下限閾値と、吸気量の上限閾値および下限閾値と、により定められている。そして、第2診断可能領域Bの車速の上限閾値および吸気量の上限閾値は、第1診断可能領域Aの車速の上限閾値および吸気量の上限閾値よりも大きく設定され、第2診断可能領域Bの車速の下限閾値および吸気量の下限閾値は、第1診断可能領域Aの車速の下限閾値および吸気量の下限閾値よりも小さく設定されている。
【0062】
これにより、第1触媒劣化診断動作用に既に設定されている第1診断可能領域Aの閾値を変更するだけで、第2診断可能領域Bの閾値を設定することが可能になる。このため、閾値を変更するだけで第1診断可能領域Aと第2診断可能領域Bとを速やかに切替えることができ、第2触媒劣化診断動作における触媒劣化診断処理を速やかに開始できる。
【0063】
また、本実施例では、触媒劣化診断部20Aは、第2触媒劣化診断動作において、熱劣化条件が成立した後であって吸気量および車速が第2診断可能領域Bに入った後に燃料カットを禁止する。
【0064】
これにより、第2触媒劣化診断動作における燃料カットの禁止タイミングを極力遅らせることができる。したがって、燃料カットが禁止されて触媒劣化診断処理のための燃料噴射が行われる期間を最小限にすることができるため、燃費向上を図ることができる。
【0065】
また、本実施例では、第2触媒劣化診断動作において触媒劣化診断処理が実行される期間は、第1触媒劣化診断動作において触媒劣化診断処理が実行される期間よりも短く設定されている。
【0066】
これにより、第2触媒劣化診断動作は、第1触媒劣化診断動作よりも速やかに触媒10に対する触媒劣化診断処理を完了でき、より早期に触媒10の熱劣化について診断結果を得ることができる。
【0067】
また、本実施例では、熱劣化条件の成立とは、(1)内燃機関2のエンジン回転数が所定の超過禁止回転数以上となる状態が所定の超過禁止時間継続する(オーバーレブ判定が成立した)こと、または(2)内燃機関2のエンジン回転数が超過禁止回転数以上となることを防止する過回転防止制御が実行されたこと、または(3)アクセル開度の所定期間の積算値が所定閾値以上となったこと、または(4)触媒10の触媒温度が所定の超過禁止温度以上となる状態が所定時間継続したこと、のうち少なくとも1つが満たされたことである。
【0068】
これにより、触媒10の過熱による熱劣化の生じやすい条件が成立した場合に触媒劣化診断処理が行われるので、触媒10の熱劣化を早期に発見することができる。
【0069】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
2 内燃機関
4 排気管
9 上流側排気センサ
10 触媒
11 下流側排気センサ
20 ECU(触媒劣化診断装置)
20A 触媒劣化診断部
図1
図2
図3
図4
図5