(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077780
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電力制御システム、電力制御方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/46 20060101AFI20230530BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230530BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/38 110
H02J13/00 311A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191211
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】渡並 洋介
(72)【発明者】
【氏名】難波 巧
(72)【発明者】
【氏名】志賀 慶明
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC05
5G064CB12
5G064DA02
5G066HA15
5G066HB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い応動性能と低運用コストを実現可能な電力制御システム、電力制御方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】電力制御システム1は、外部装置から、電力出力がステップ状に変化する応動指令値を含む応動指令を取得する取得部251と、過渡制御モードにおいて、応動指令値の変化時点から所定応動時間で応動出力が応動指令値に到達するようにそれぞれのリソースA~Dの出力配分を決定して複数のリソースを制御する過渡制御部252と、定常制御モードにおいて、応動出力が応動指令値と一致するように夫々のリソースの出力配分を決定して複数のリソースを制御する定常制御部253と、持替制御モードにおいて、応動出力を維持しながら電力出力の持ち替えを行うように夫々のリソースの出力配分を決定して複数のリソースを制御する持替制御部254と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部装置から、電力出力に関してステップ状に変化する応動指令値を含む応動指令を取得する取得部と、
前記応動指令値の変化時点から、電力を出力する複数のリソースによる応動出力が前記応動指令値に到達するまでの過渡制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの出力変化速度に基づいて、前記応動指令値の変化時点から所定応動時間で前記応動出力が前記応動指令値に到達するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する過渡制御部と、
前記応動出力が定常状態である間の定常制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの運用順位と出力変化範囲に基づいて、前記応動出力が前記応動指令値と一致するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する定常制御部と、
前記過渡制御モードから前記定常制御モードに移行するとき、および、前記定常制御モードから別の前記定常制御モードに移行するときに経由する持替制御モードにおいて、前記応動出力を維持しながら電力出力の持ち替えを行うようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する持替制御部と、を備える電力制御システム。
【請求項2】
前記持替制御部は、
前記持替制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの最大出力変化速度に基づいて、出力を変更するそれぞれの前記リソースが出力を変更するために必要な時間のうち最も長い時間を持替時間とし、出力を変更するすべての前記リソースが前記持替時間で出力を変更するように前記リソースの出力配分を決定する、請求項1に記載の電力制御システム。
【請求項3】
前記定常制御部は、
前記定常制御モードにおいて、前記リソースのうち蓄電池のSOC(State of Charge)の計測情報に基づいて、前記蓄電池による所定時間の出力を可能とするように、それぞれの前記リソースの出力配分を決定する、請求項1または請求項2に記載の電力制御システム。
【請求項4】
前記持替制御部は、
前記持替制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの使用時間帯を含むリソース使用計画に基づいて、前記応動出力を維持しながら、出力を停止する前記リソースと出力を開始する前記リソースを入れ替えるようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力制御システム。
【請求項5】
それぞれの前記リソースへの制御指令に対する出力の追従結果を計測することによって、それぞれの前記リソースの実際の出力変化速度を推定する推定部を、さらに備える、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力制御システム。
【請求項6】
前記過渡制御モードにおける応動出力可能量と、前記定常制御モードにおける応動出力可能量と、のうち小さいほうを、複数の前記リソースによる実際の応動出力可能量と推定する推定部を、さらに備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力制御システム。
【請求項7】
外部装置から、電力出力に関してステップ状に変化する応動指令値を含む応動指令を取得する取得ステップと、
前記応動指令値の変化時点から、電力を出力する複数のリソースによる応動出力が前記応動指令値に到達するまでの過渡制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの出力変化速度に基づいて、前記応動指令値の変化時点から所定応動時間で前記応動出力が前記応動指令値に到達するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する過渡制御ステップと、
前記応動出力が定常状態である間の定常制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの運用順位と出力変化範囲に基づいて、前記応動出力が前記応動指令値と一致するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する定常制御ステップと、
前記過渡制御モードから前記定常制御モードに移行するとき、および、前記定常制御モードから別の前記定常制御モードに移行するときに経由する持替制御モードにおいて、前記応動出力を維持しながら電力出力の持ち替えを行うようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する持替制御ステップと、を含む電力制御方法。
【請求項8】
コンピュータを、
外部装置から、電力出力に関してステップ状に変化する応動指令値を含む応動指令を取得する取得部と、
前記応動指令値の変化時点から、電力を出力する複数のリソースによる応動出力が前記応動指令値に到達するまでの過渡制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの出力変化速度に基づいて、前記応動指令値の変化時点から所定応動時間で前記応動出力が前記応動指令値に到達するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する過渡制御部と、
前記応動出力が定常状態である間の定常制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの運用順位と出力変化範囲に基づいて、前記応動出力が前記応動指令値と一致するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する定常制御部と、
前記過渡制御モードから前記定常制御モードに移行するとき、および、前記定常制御モードから別の前記定常制御モードに移行するときに経由する持替制御モードにおいて、前記応動出力を維持しながら電力出力の持ち替えを行うようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する持替制御部と、として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力制御システム、電力制御方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用する電源設備の導入が拡大している。再生可能エネルギーを利用する電源設備は出力変動を伴うので、電力系統の需給バランスを調整する調整力の重要性が増している。
【0003】
また、分散電源、分散蓄電池等の分散リソースを利用したVPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)の運用で調整力を創出することも求められる。その場合、応答特性の異なる複数の分散リソースの出力を高精度に調整する電力制御が必要である。例えば、従来技術で、複数の分散リソースを利用して電力調整の指令に対する応動出力を可能にする手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、電力安定供給のための調整力を安定的、効率的に確保するため、調整力を取引する電力需給調整市場が開設されている。そして、電力需給調整市場の電力商品の要件に合わせて、ステップ状(階段状)の応動指令に対して所定応動時間以内に応動し、かつ、所定継続時間の間、継続して応動出力を提供することが必要である。
【0006】
一方で、応答特性や制御性に優れる分散リソースは一般に運用コストが高いため、低運用コストのリソースを含むリソース運用順位(リソースの運用の優先順位)に基づく分散リソースの運用が求められる。つまり、確実性の高い調整力を実現するとともに経済性にも優れた運用を実現することが必要である。
【0007】
また、分散リソース(以下、単に「リソース」ともいう。)同士で出力の持ち替えを行う場合、一般に、リソースごとの出力変化速度が異なるため、過渡的な応動出力の変動が生じる。
【0008】
そこで、本発明の実施形態は、高い応動性能と低運用コストを実現可能な電力制御システム、電力制御方法、および、プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の電力制御装置は、外部装置から、電力出力に関してステップ状に変化する応動指令値を含む応動指令を取得する取得部と、前記応動指令値の変化時点から、電力を出力する複数のリソースによる応動出力が前記応動指令値に到達するまでの過渡制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの出力変化速度に基づいて、前記応動指令値の変化時点から所定応動時間で前記応動出力が前記応動指令値に到達するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する過渡制御部と、前記応動出力が定常状態である間の定常制御モードにおいて、それぞれの前記リソースの運用順位と出力変化範囲に基づいて、前記応動出力が前記応動指令値と一致するようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する定常制御部と、前記過渡制御モードから前記定常制御モードに移行するとき、および、前記定常制御モードから別の前記定常制御モードに移行するときに経由する持替制御モードにおいて、前記応動出力を維持しながら電力出力の持ち替えを行うようにそれぞれの前記リソースの出力配分を決定して複数の前記リソースを制御する持替制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態の電力制御システムを含む全体構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のリソースに関する情報を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の電力制御システムにおける制御モードの移行図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の各リソースの運用コストと出力量を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1実施形態のリソース出力のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第1実施形態の電力制御システムによる処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2実施形態の発電機を含む全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電力制御システム、電力制御方法、および、プログラムの実施形態(第1実施形態、第2実施形態)について、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の電力制御システム1を含む全体構成図である。電力制御システム1は、電力を出力する複数のリソース4(以下、「リソースA」などともいう。)と接続され、配分演算装置2と、制御演算装置3と、を備える。
【0013】
制御演算装置3は、複数の制御器31(制御器A~E)を備える。制御器31は、ソフトウェアによって実現されてもよいし、あるいは、制御回路などのハードウェアによって実現されてもよい。制御器31は、接続されたリソース4に対してリソース制御指令uiを送信して制御し、また、リソース4から出力に関する情報を受信する。そして、すべてのリソース4による出力によって応動量(応動出力)が決まる。
【0014】
配分演算装置2は、例えば、コンピュータ装置であり、記憶部21と、入力部22と、表示部23と、通信部24と、処理部25と、を備える。
【0015】
記憶部21は、各種情報を記憶する手段であり、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などによって実現される。記憶部21は、電力制御に関する各種情報を記憶する。
【0016】
入力部22は、ユーザによる情報入力手段であり、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル等によって実現される。
【0017】
表示部23は、情報表示手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等によって実現される。
【0018】
通信部24は、外部装置との通信を行うための通信インターフェースである。
【0019】
ここで、
図2は、第1実施形態のリソース4に関する情報を示す図である。
図2に示すように、リソース4に関する情報として、リソース名、上限kW、下限kW、上げkW/s、下げkW/s、初期リソース運用順位、リソース使用計画の項目がある。
【0020】
上限kW、下限kWは、出力変化範囲の上限と下限である。
上げkW/sは、出力上昇時の最大出力変化速度である。
下げkW/sは、出力下降時の最大出力変化速度である。
【0021】
初期リソース運用順位は、初期のリソース4の運用の優先順位である。また、初期リソース運用順位を含めて、リソース運用順位は、リソース4の運用にかかる低コスト順、環境負荷の小さい順などとすることができる。ここでは、運用の優先順位の高いほうから順に、リソースA、リソースB、リソースC、リソースDとなっている。なお、リソース運用順位は、リソース使用計画と連動して入れ替えを行う。
【0022】
リソース使用計画は、使用時間帯に制約があるリソース4の使用予定時間帯である。例えば、リソースBの使用予定時間帯は、0~50分である。また、リソースEの使用予定時間帯は、50分以降である。
【0023】
図1に戻って、処理部25は、各種演算処理を行う手段であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって実現される。処理部25は、取得部251と、過渡制御部252と、定常制御部253と、持替制御部254と、推定部255と、を備える。なお、以下において、処理部25における各部251~255以外の処理については、動作主体を処理部25として説明する。
【0024】
取得部251は、電力制御システム1の内外から各種情報を取得する。取得部251は、例えば、外部装置(不図示)から、電力出力に関してステップ状に変化する応動指令値を含む応動指令を取得する。また、取得部251は、リソース4の出力の上限kWや運用継続時間に関する状態量の計測値を、リソース4のフィードバック制御のために取得する。例えば、リソース4が蓄電池である場合、SOC(State of Charge)が下限になると放電を継続できなくなるため、SOCの計測値や推定情報をフィードバック制御のために取得する。
【0025】
以下、
図3を併せて参照する。
図3は、第1実施形態の電力制御システム1における制御モードの移行図である。
【0026】
過渡制御部252は、応動指令Rs(応動指令値)の変化時点から、複数のリソース4による応動出力が応動指令値に到達するまでの過渡制御モードM1(
図3)において、それぞれのリソース4の出力変化速度に基づいて、応動指令Rsの変化時点から所定応動時間で応動出力が応動指令値に到達するようにそれぞれのリソース4の出力配分(リソース配分指令ri)を決定して複数のリソース4を制御する(リソース配分指令riを出力する)。
【0027】
定常制御部253は、応動出力が定常状態である間の定常制御モードM0(
図3)において、それぞれのリソース4の運用順位と出力変化範囲に基づいて、応動出力が応動指令値と一致するようにそれぞれのリソース4の出力配分(リソース配分指令ri)を決定して複数のリソース4を制御する(リソース配分指令riを出力する)。
【0028】
また、定常制御部253は、定常制御モードM0において、リソース4のうち蓄電池のSOCの計測情報に基づいて、蓄電池による所定時間の出力を可能とするように、それぞれのリソース4の出力配分を決定する。
【0029】
持替制御部254は、過渡制御モードM1から定常制御モードM0に移行するとき、および、定常制御モードM0から別の定常制御モードM0に移行するときに経由する持替制御モードM2(
図3)において、応動出力を維持しながら電力出力の持ち替えを行うようにそれぞれのリソース4の出力配分(リソース配分指令ri)を決定して複数のリソース4を制御する(リソース配分指令riを出力する)。
【0030】
また、持替制御部254は、持替制御モードM2において、それぞれのリソース4の最大出力変化速度に基づいて、出力を変更するそれぞれのリソース4が出力を変更するために必要な時間のうち最も長い時間を持替時間とし、出力を変更するすべてのリソース4がその持替時間ちょうどで出力を変更するようにリソース4の出力配分を決定する。
【0031】
また、持替制御部254は、持替制御モードM2において、それぞれのリソース4の使用時間帯を含むリソース使用計画に基づいて、応動出力を維持しながら、出力を停止するリソース4と出力を開始するリソースを入れ替えるようにそれぞれのリソース4の出力配分を決定する。
【0032】
推定部255は、それぞれのリソース4への制御指令に対する出力の追従結果を計測することによって、それぞれのリソース4の実際の出力変化速度を推定する。
【0033】
また、推定部255は、過渡制御モードにおける応動出力可能量(
図4(b)のR1)と、定常制御モードにおける応動出力可能量(
図4(c)のR2)と、のうち小さいほうを、複数のリソース4による実際の応動出力可能量と推定する。
【0034】
制御演算装置3は、配分演算装置2から受信したリソース配分指令riに応じてそれぞれのリソース4の出力をフィードバック制御する。つまり、制御演算装置3は、リソース配分指令riと、リソース4が出力したリソース出力yiの計測情報と、に基づいてリソース4の出力をフィードバック制御する。制御演算装置3は、リソース4にリソース制御指令uiを出力する。制御演算装置3における制御器31は、リソース配分指令riに対してリソース出力yiが追従するよう構成したフィードバック制御系を用い、例えば、定常偏差に補償することが可能な積分演算を含む。例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御を用いることができる。また、追従性を向上するためにフィードフォワード制御を併用してもよい。
【0035】
次に、配分演算装置2における制御モードの遷移の詳細について、
図3を参照して説明する。定常制御モードM0において、調整力の応動指令Rsのステップ状の変化時に、過渡制御モードM1に遷移し、所定応動時間TR経過後は持替制御モードM2に遷移する。持替制御モードM2において、持替時間T2経過後は定常制御モードM0に遷移する。
【0036】
また、定常制御モードM0において、リソース4の出力範囲の変化を検出したとき、あるいは、リソース使用計画で規定されたリソース4の入れ替えタイミングで、持替制御モードM2に遷移し、持替時間T2経過後は定常制御モードM0に遷移する。
【0037】
次に、
図4を参照して、各リソース4の運用コストと出力量について説明する。
図4は、第1実施形態の各リソースの運用コストと出力量を示すグラフである。なお、
図5のシミュレーションにおいて初期にリソースEは不使用なので、
図4ではリソースEを除外している。
【0038】
図4(a)は、応答速度や出力継続時間等による制約が無い場合のリソースA~Dの出力量と運用コストを示す。
【0039】
図4(b)は、過渡制御モードM1において使用可能なリソースA~Dの出力量と運用コストを示す。具体的には、以下の通りである。過渡制御モードM1では、応動指令Rsのステップ変化幅(ステップ状の変化時の変化の大きさ)と各リソース4の出力変化速度に基づいて、調整力応動が求められる所定応動時間TRで応答可能なリソース出力変化量に応じて、
図4(b)に示すようにリソース運用順位を反映したメリットオーダー方式で各リソース出力配分を算出する。つまり、リソースAは、運用コストが低いが、応答性能も低いので、限られた所定応動時間TRで使用可能な出力量は、時間制約がない場合の出力量(
図4(a)参照)よりも小さくなっている。
【0040】
なお、例えば、各リソース4の出力変化速度情報の確度に合わせて、所定応動時間TRに対して、実際には所定応動時間TRより短い時間で応動可能とするように時間的な余裕を持たせるようにリソース出力配分を算出してもよい。
【0041】
また、
図4(c)は、定常制御モードM0において使用可能なリソースA~Dの出力量と運用コストを示す。具体的には、以下の通りである。定常制御モードM0では、各リソース4の出力変化範囲に合わせて(各リソース4の出力変化速度は考慮しない)、
図4(c)に示すようにメリットオーダー方式でリソース出力配分を算出する。ここで、蓄電池であるリソースBに対しては、SOC残量の計測情報に基づいて、出力すべき所定時間でSOCが下限を下回らないリソース出力に留めるようなリソース出力配分に置き換える。つまり、リソースBの出力量は、
図4(a)、(b)の場合と比べて小さくなっている。
【0042】
なお、配分演算装置2において、蓄電池の温度計側部や電池劣化計測部によって計測されるデータに基づいて蓄電池の放電効率を考慮して、蓄電池の出力量を調整してもよい。
【0043】
また、各リソース制御指令uiの増方向への変化の余地を確保するように、リソース出力の上限kWより5%~10%程度小さい値にして算出したリソース出力配分としてもよい。
【0044】
また、持替制御モードM2では、過渡制御モードM1の終了時点(持替制御モードM2の開始時点)のリソース出力配分riと移行先の定常制御モードM0のリソース出力配分riに基づいて、各リソース4の最大出力変化速度に基づいて、出力を変更するそれぞれのリソース4が出力を変更するために必要な時間のうち最も長い時間を持替時間T2とする。つまり、持替時間T2は、持替開始時と持替終了時のリソース出力配分状況により毎回異なる時間となりえる。そして、出力を変更するすべてのリソース4が持替時間T2ちょうどで出力を変更するようにリソース4のリソース出力配分riを決定して出力する。
【0045】
次に、
図5を参照して、リソース出力のシミュレーション結果について説明する。
図5は、第1実施形態のリソース出力のシミュレーション結果を示すグラフである。
図5の上段は応動量を示し、
図5の下段は各リソース4の出力(リソース出力)を示す。
【0046】
まず、時刻10分に応動指令が0kWから5000kWにステップ状に変化する。そして、時刻10~15分の(a)過渡制御モードM1(過度応動)において、5分(所定応動時間TR)で5000kWの応動出力となるようにリソースA~リソースDの出力を制御している。つまり、所定応動時間TR以内で応動指令まで出力変化することができないがリソース運用順位が最も高いリソースAを最大限出力変化させながら、他のリソースB、C、Dと合わせて所定応動時間TRで応動指令に追従させている。リソースBは時刻14分に出力開始している。
【0047】
次に、時刻15~24分の(b)持替制御モードM2(持替応動)において、応動量を維持しながら、リソースAが最大出力になり、リソース運用順位に応じてリソースB、C、Dの出力を下げるように制御している。リソースDは出力無しとなる。なお、リソースAは最大限出力変化させた場合に23.333…分に最大出力に達するが、説明の簡素化のため、本実施形態では24分に最大出力に達するものとして説明する。
【0048】
時刻24~30分は、(c)定常制御モードM0(定常応動)となっていて、リソースA、B、Cが一定の出力を維持している。
【0049】
また、リソースBは蓄電池で、時刻30分にSOC低下を計測し、時刻30~32分は(d)持替制御モードM2(持替応動)となり、応動量を維持しながら、リソースBの出力を下げて、その分、リソースCの出力を増やして、出力を持ち替えている。
【0050】
時刻32~50分は、(e)定常制御モードM0(定常応動)となっていて、リソースA、B、Cが一定の出力を維持している。
【0051】
また、リソース使用計画(
図2)でリソースBの使用終了とリソースEの使用開始がともに時刻50分になっているので、リソースEの出力変化範囲を踏まえ、時刻50~52分の(f)持替制御モードM2(持替応動)において、応動量を維持しながら、リソースB、Cの出力を下げて、その分の出力をリソースEで持ち替えている。
【0052】
時刻52~60分は、(g)定常制御モードM0(定常応動)となっていて、リソースA、Eが一定の出力を維持している。
【0053】
次に、時刻60分に応動指令が5000kWから7500kWにステップ状に変化する。そして、時刻60~65分の(h)過渡制御モードM1(過度応動)において、5分(所定応動時間TR)で7500kWの応動出力となるようにリソースC、D、Eの出力を増加している。
【0054】
次に、時刻65~67分の(i)持替制御モードM2(持替応動)において、応動量を維持しながら、リソース運用順位に応じて、リソースCの出力を上げて、リソースDの出力を下げるように制御している。リソースDは出力無しとなる。
【0055】
時刻67分以降は、(j)定常制御モードM0(定常応動)となっていて、リソースA、C、Eが一定の出力を維持している。
【0056】
次に、
図6を参照して、第1実施形態の電力制御システム1による処理について説明する。
図6は、第1実施形態の電力制御システム1による処理を示すフローチャートである。この一連の処理は、例えば、応動指令Rsの取得をトリガーとして開始される。
【0057】
まず、ステップS1において、処理部25は、各種データの取得と設定を行う。具体的には、取得部251は、以下のデータを取得する。
・所定応動時間TR
・所定継続時間TC
・リソース上限kW、下限kW
・リソース出力変化速度
【0058】
また、処理部25は、経過時間Tを初期値の0に設定する。また、取得部251は、電力の調整力の応動指令(指令値)Rsの初期値の0を取得する。
【0059】
次に、ステップS2において、取得部251は、以下のデータを取得する。
・経過時間T
・応動指令Rs
・使用リソース
・リソース出力変化範囲
・リソース運用順位
【0060】
次に、ステップS3において、処理部25は、経過時間Tが所定経過時間TCを超えているか否かを判定し、Yesの場合はステップS7に進み、Noの場合はステップS4に進む。
【0061】
ステップS7において、取得部251は、応動指令Rsの終端値の0を取得する。
【0062】
次に、ステップS8において、過渡制御部252は、過渡制御用のリソース出力配分を算出し、リソース配分指令riを出力する。
【0063】
次に、ステップS9において、制御演算装置3の制御器31は、所定応動時間TRの間、接続されたリソース4に対して、リソース配分指令riに応じたリソース制御指令uiを送信して過渡制御を行う。
【0064】
ステップS4において、処理部25は、応動指令Rsが変化したか否かを判定し、Yesの場合はステップS10に進み、Noの場合はステップS5に進む。
【0065】
次に、ステップS10において、過渡制御部252は、過渡制御用のリソース出力配分を算出し、リソース配分指令riを出力する(
図5の(h)参照)。
【0066】
次に、ステップS11において、制御演算装置3の制御器31は、所定応動時間TRの間、接続されたリソース4に対して、リソース配分指令riに応じたリソース制御指令uiを送信して過渡制御を行う。
【0067】
次に、ステップS12において、定常制御部253は、定常制御用のリソース出力配分と持替時間T2を算出し、リソース配分指令riを出力する。
【0068】
次に、ステップS13において、定常制御部253は、持替時間T2が0を超えているか否かを判定し、Yesの場合はステップS14に進み、Noの場合はステップS14をスキップしてステップS2に戻る。
【0069】
ステップS14において、制御演算装置3の制御器31は、持替時間T2の間、接続されたリソース4に対して、リソース配分指令riに応じたリソース制御指令uiを送信して持替制御を行う。
【0070】
ステップS5において、処理部25は、使用リソースの入れ替えがあるか否かを判定し、Yesの場合はステップS12に進み、Noの場合はステップS6に進む。
【0071】
ステップS6において、処理部25は、リソース4の出力範囲が変化するか否かを判定し、Yesの場合はステップS12に進み、Noの場合はステップS2に進む。
【0072】
ステップS5、S6の後のステップS12~S14では、上述と同様に、リソース4の出力配分を変更する必要があるときは持替制御が行われる。
【0073】
このように、第1実施形態の電力制御システム1によれば、上述のような過渡制御と定常制御と持替制御を組み合わせることで、高い応動性能と低運用コストを実現できる。つまり、応動指令における所定応動時間を基準に応動が遅いリソース4(リソースA)を含む場合でも、所定応動時間以内に応動出力を応動指令に追従させることができる。また、持替制御によって、応動出力を維持しながら、リソース運用順位に沿って複数のリソース4による電力の持ち替えを行うことができる。
【0074】
また、持替制御において、それぞれのリソース4の最大出力変化速度に基づいて、出力を変更するそれぞれのリソース4が出力を変更するために必要な時間のうち最も長い時間を持替時間とし、出力を変更するすべてのリソース4がその持替時間で出力を変更するようにリソース4の出力配分を決定する。これにより、簡潔な処理で、調整力の応動出力が応動指令から逸脱しないように維持することができる。
【0075】
また、定常制御において、リソース4に蓄電池が含まれている場合は、蓄電池のSOCの計測情報に基づいて、蓄電池による所定時間の出力を可能とするように、それぞれのリソース4の出力配分を決定する。これにより、蓄電池の性能を踏まえたリソース4の出力配分を実現できる。つまり、過渡制御時には蓄電池による最大kW応動を行うとともに、定常制御時にはSOCに応じて他のリソース4に出力配分を持ち替える運用を実現することができる。
【0076】
また、制御演算装置3は、出力変化速度が相対的に小さいリソース4に対して、リソース出力変化速度の入力情報より数%程度の速い出力変化速度となるように、リソース制御指令uiを出力してもよい。このリソース制御指令uiへのリソース出力の追従性を計測することによって、実際のリソース出力変化速度を推定することができる。これにより、以降の応動出力の制御精度を向上させることができる。
【0077】
また、過渡制御モードにおける応動出力可能量と、定常制御モードにおける応動出力可能量と、のうち小さいほうを、複数のリソース4による実際の応動出力可能量と推定する。これにより、この応動出力可能量の推定値を、電力需給調整市場での入札等において用いることができる。つまり、入札前に、入札可能量を正確に知ることができる。
【0078】
また、蓄電池のように数秒単位の高速応動が可能なリソース同士の持替においては、持替時間の最小時間(30~60秒程度)を設けて、調整力の応動出力を安定的に維持しながら移行させることができる。
【0079】
また、受電量を抑制することで調整力を提供する需要家リソースに対して、受電量のベースラインとする受電量パターンをリソース出力0とし、受電量の抑制量をリソース出力とすることで、需要家リソースを含めたアグリゲーション制御を同様に実現することができる。
【0080】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の事項については、重複する説明を適宜省略する。
図7は、第2実施形態の発電機54を含む全体構成図である。本発明は、
図7で示すような発電所に適用できる。
【0081】
発電所は、フランシス水車53と発電機54との組を複数保有する。導水路51と水圧鉄管52を経由して移動した水がフランシス水車53に入り、発電機54によって発電が行われる。発電に使われた水は放水路55に流れ出る。
【0082】
そして、第1実施形態におけるリソース出力配分と同様に、複数の発電機54の出力配分を高効率運用となるようにすることができる。
【0083】
つまり、第2実施形態によれば、第1実施形態の場合と同様に過渡制御、定常制御、持替制御を組み合わせることで、所定応動時間内の過渡的な応動と高効率の出力配分の運用を両立することができる。
【0084】
本実施形態の電力制御システム1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されるようにしてもよい。
【0085】
また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、当該プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、当該プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するようにしてもよい。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1…電力制御システム、2…配分演算装置、3…制御演算装置、4…リソース、21…記憶部、22…入力部、23…表示部、24…通信部、25…処理部、51…導水路、52…水圧鉄管、53…フランシス水車、54…発電機、55…放水路、251…取得部、252…過渡制御部、253…定常制御部、254…持替制御部、255…推定部