(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077915
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230530BHJP
H02M 7/49 20070101ALI20230530BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191421
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 慧
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770DA10
5H770DA23
5H770DA41
5H770DA44
5H770EA01
5H770EA27
5H770GA19
5H770HA02X
5H770HA03X
5H770HA12X
5H770HA14X
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【解決手段】実施形態の電力変換装置は、電力変換器と変換器制御部とを持つ。電力変換器は、エネルギー蓄積要素および複数のスイッチング素子を有する複数の単位変換器が直列に接続されたアームユニットを少なくとも1つ有する。変換器制御部は、単位変換器にエネルギー蓄積要素の電圧を出力させる第1制御状態と単位変換器を短絡させる第2制御状態とを切り替えて電力変換器の変換動作を制御する。変換器制御部は、制御状態を割り当てる単位変換器の数を算出する状態数演算部と、電圧を検出する第1の時間間隔よりも長い第2の時間間隔ごとに電圧の大小関係のリスト情報を生成するリスト演算部と、制御状態を変更する単位変換器を選択する単位変換器選択部とを持つ。単位変換器選択部は、電圧が閾値を超えた単位変換器の代替に他の単位変換器を選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を蓄積するエネルギー蓄積要素、および前記エネルギー蓄積要素への電力の蓄積あるいは前記エネルギー蓄積要素に蓄積された電力の放電を調整可能な複数のスイッチング素子を有する複数の単位変換器が直列に接続されたアームユニットを少なくとも1つ有する電力変換器と、
少なくとも、前記単位変換器の第1端と第2端との間に前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧を出力させる第1制御状態と、前記単位変換器の前記第1端と前記第2端とを短絡させる第2制御状態とのいずれかの制御状態に切り替えることにより、前記電力変換器における電力の変換動作を制御する変換器制御部と、
を備え、
前記変換器制御部は、
前記アームユニットから出力させるアーム電圧の目標値であるアーム電圧指令値に応じて、前記アームユニットに属する前記単位変換器のうち、いずれかの前記制御状態に割り当てる前記単位変換器の数を表す状態数を算出する状態数演算部と、
所定の第1の時間間隔で検出した前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧に基づいて、前記端子間電圧の大小関係を表すリスト情報を、前記第1の時間間隔よりも長い所定の第2の時間間隔ごとに生成するリスト演算部と、
前記アームユニットを流れるアーム電流の極性と、前記状態数と、前記リスト情報と、前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧とに基づいて、現在の制御状態を変更する前記単位変換器を選択する単位変換器選択部と、
を備え、
前記単位変換器選択部は、
前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素に電力を蓄積させる充電極性となる充電期間の場合、
前記第1の時間間隔で検出した、前記第1制御状態の前記単位変換器である第1の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも高い第1閾値を超えた際に、前記第1の単位変換器を前記第2制御状態に変更し、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第1の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器として選択し、
前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素から電力を放電させる放電極性となる放電期間の場合、
前記第1の時間間隔で検出した、前記第1制御状態の前記単位変換器である第2の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも低い第2閾値を超えた際に、前記第2の単位変換器を前記第2制御状態に変更し、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第2の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器として選択する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記単位変換器選択部は、
前記第2制御状態の前記単位変換器の中から、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器を選択する場合、
前記充電期間では、前記リスト情報に含まれる前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が相対的に低い前記エネルギー蓄積要素を有する前記単位変換器を優先して選択し、
前記放電期間では、前記リスト情報に含まれる前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が相対的に高い前記エネルギー蓄積要素を有する前記単位変換器を優先して選択し、
前記第1制御状態の前記単位変換器の中から、前記第2制御状態に変更する前記単位変換器を選択する場合、
前記充電期間では、前記リスト情報に含まれる前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が相対的に高い前記エネルギー蓄積要素を有する前記単位変換器を優先して選択し、
前記放電期間では、前記リスト情報に含まれる前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が相対的に低い前記エネルギー蓄積要素を有する前記単位変換器を優先して選択する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記単位変換器選択部は、
前記状態数が変化したことをきっかけとして、前記制御状態を変更する前記単位変換器の選択を開始し、
前記第1制御状態に割り当てる前記状態数の絶対値が増加した場合には、前記第2制御状態の前記単位変換器の中から、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器を選択し、
前記第1制御状態に割り当てる前記状態数の絶対値が減少した場合には、前記第1制御状態の前記単位変換器の中から、前記第2制御状態に変更する前記単位変換器を選択する、
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記状態数演算部は、前記アーム電圧指令値を前記アームユニットに属する前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧の平均値または定格値で除算した値を整数に近似し、整数に近似した結果の値を前記第1制御状態に割り当てる前記状態数として算出する、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記状態数演算部は、
前記アーム電圧指令値に基づく変調波と、前記アームユニットに属する前記単位変換器の数と同数で互いに位相がシフトされたそれぞれの三角波キャリアとを比較し、前記変調波の値が前記三角波キャリアの値よりも大きくなる前記三角波キャリアの個数を前記第1制御状態に割り当てる前記状態数として算出する、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記状態数演算部は、
前記アーム電圧指令値に基づく変調波と、前記アームユニットに属する前記単位変換器の数と同数で互いにレベルがシフトされたそれぞれの三角波キャリアとを比較し、前記変調波の値が前記三角波キャリアの値よりも大きくなる前記三角波キャリアの個数を前記第1制御状態に割り当てる前記状態数として算出する、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記単位変換器は、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の二つの前記スイッチング素子が直列接続された直列回路と、前記エネルギー蓄積要素とが並列接続され、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との接続点を前記第1端とし、前記第2のスイッチング素子と前記エネルギー蓄積要素との接続点を前記第2端としたハーフブリッジ回路であり、
前記変換器制御部は、
前記第1のスイッチング素子を導通状態とし、前記第2のスイッチング素子を非導通状態とすることによって、前記単位変換器を前記第1制御状態とし、
前記第1のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第2のスイッチング素子を導通状態とすることによって、前記単位変換器を前記第2制御状態とする、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記単位変換器は、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の二つの前記スイッチング素子が直列接続された第1の直列回路と、第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子の二つの前記スイッチング素子が直列接続された第2の直列回路と、前記エネルギー蓄積要素とが並列接続され、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子との接続点を前記第1端とし、前記第3のスイッチング素子と前記第4のスイッチング素子との接続点を前記第2端としたフルブリッジ回路であり、
前記変換器制御部は、
前記第1のスイッチング素子を導通状態とし、前記第2のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第3のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第4のスイッチング素子を導通状態とすることによって、前記単位変換器を正の電圧を出力する前記第1制御状態である第1の第1制御状態とし、
前記第1のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第2のスイッチング素子を導通状態とし、前記第3のスイッチング素子を導通状態とし、前記第4のスイッチング素子を非導通状態とすることによって、前記単位変換器を負の電圧を出力する前記第1制御状態である第2の第1制御状態とし、
前記第1のスイッチング素子を導通状態とし、前記第2のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第3のスイッチング素子を導通状態とし、前記第4のスイッチング素子を非導通状態とする、あるいは前記第1のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第2のスイッチング素子を導通状態とし、前記第3のスイッチング素子を非導通状態とし、前記第4のスイッチング素子を導通状態とすることによって、前記単位変換器を前記第2制御状態とし、
前記アーム電圧指令値が表す前記アーム電圧の極性に応じて、前記第1の第1制御状態と前記第2の第1制御状態とを決定する、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電力変換器は、第1のアームユニットおよび第2のアームユニットの二つの前記アームユニットが直列接続された相ユニットを交流の相ごとに有し、それぞれの前記相ユニットに属する前記第1のアームユニットと前記第2のアームユニットとの接続点を対応する前記交流の相に接続される交流端子とし、前記第1のアームユニットと前記第2のアームユニットとのそれぞれの一端あるいは直列に接続されたそれぞれの単位変換器の間の任意の位置にインダクタンス要素が接続され、前記第1のアームユニットおよび前記第2のアームユニットのそれぞれにおける前記交流端子とは反対の側の端子を直流端子とした二重スター結線型モジュラー・マルチレベル変換器であり、
前記変換器制御部は、
交流の電圧指令値と直流の電圧指令値とを、それぞれの前記相ユニットに属する前記第1のアームユニットと前記第2のアームユニットとに分配してそれぞれの前記アーム電圧指令値とし、
前記アームユニットごとに、分配した前記アーム電圧指令値に応じて前記制御状態を変更する、
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電力変換器は、交流の相のそれぞれの交流端子の間に前記アームユニットが接続され、前記アームユニットのそれぞれの一端あるいは直列に接続されたそれぞれの単位変換器の間の任意の位置にインダクタンス要素が接続された単一デルタ結線型モジュラー・マルチレベル変換器であり、
前記変換器制御部は、
交流の電圧指令値を、前記交流端子の間のそれぞれの前記アームユニットに分配してそれぞれの前記アーム電圧指令値とし、
前記アームユニットごとに、分配した前記アーム電圧指令値に応じて前記制御状態を変更する、
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
電力を蓄積するエネルギー蓄積要素、および前記エネルギー蓄積要素への電力の蓄積あるいは前記エネルギー蓄積要素に蓄積された電力の放電を調整可能な複数のスイッチング素子を有する複数の単位変換器が直列に接続されたアームユニットを少なくとも1つ有する電力変換器と、
少なくとも、前記単位変換器の第1端と第2端との間に前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧を出力させる第1制御状態と、前記単位変換器の前記第1端と前記第2端とを短絡させる第2制御状態とのいずれかの制御状態に切り替えることにより、前記電力変換器における電力の変換動作を制御する変換器制御部と、を備える電力変換装置の制御方法であって、
前記変換器制御部のコンピュータが、
前記アームユニットから出力させるアーム電圧の目標値であるアーム電圧指令値に応じて、前記アームユニットに属する前記単位変換器のうち、いずれかの前記制御状態に割り当てる前記単位変換器の数を表す状態数を算出し、
所定の第1の時間間隔で検出した前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧に基づいて、前記端子間電圧の大小関係を表すリスト情報を、前記第1の時間間隔よりも長い所定の第2の時間間隔ごとに生成し、
前記アームユニットを流れるアーム電流の極性と、前記状態数と、前記リスト情報と、前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧とに基づいて、現在の制御状態を変更する前記単位変換器を選択する際に、
前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素に電力を蓄積させる充電極性となる充電期間の場合、
前記第1の時間間隔で検出した、前記第1制御状態の前記単位変換器である第1の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも高い第1閾値を超えた際に、前記第1の単位変換器を前記第2制御状態に変更し、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第1の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器として選択し、
前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素から電力を放電させる放電極性となる放電期間の場合、
前記第1の時間間隔で検出した、前記第1制御状態の前記単位変換器である第2の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも低い第2閾値を超えた際に、前記第2の単位変換器を前記第2制御状態に変更し、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第2の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器として選択する、
電力変換装置の制御方法。
【請求項12】
電力を蓄積するエネルギー蓄積要素、および前記エネルギー蓄積要素への電力の蓄積あるいは前記エネルギー蓄積要素に蓄積された電力の放電を調整可能な複数のスイッチング素子を有する複数の単位変換器が直列に接続されたアームユニットを少なくとも1つ有する電力変換器と、
少なくとも、前記単位変換器の第1端と第2端との間に前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧を出力させる第1制御状態と、前記単位変換器の前記第1端と前記第2端とを短絡させる第2制御状態とのいずれかの制御状態に切り替えることにより、前記電力変換器における電力の変換動作を制御する変換器制御部と、を備える電力変換装置を制御させるプログラムであって、
前記変換器制御部のコンピュータに、
前記アームユニットから出力させるアーム電圧の目標値であるアーム電圧指令値に応じて、前記アームユニットに属する前記単位変換器のうち、いずれかの前記制御状態に割り当てる前記単位変換器の数を表す状態数を算出させ、
所定の第1の時間間隔で検出させた前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧に基づいて、前記端子間電圧の大小関係を表すリスト情報を、前記第1の時間間隔よりも長い所定の第2の時間間隔ごとに生成させ、
前記アームユニットを流れるアーム電流の極性と、前記状態数と、前記リスト情報と、前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧とに基づいて、現在の制御状態を変更させる前記単位変換器を選択させる際に、
前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素に電力を蓄積させる充電極性となる充電期間の場合、
前記第1の時間間隔で検出させた、前記第1制御状態の前記単位変換器である第1の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも高い第1閾値を超えた際に、前記第1の単位変換器を前記第2制御状態に変更させ、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第1の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更させる前記単位変換器として選択させ、
前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素から電力を放電させる放電極性となる放電期間の場合、
前記第1の時間間隔で検出させた、前記第1制御状態の前記単位変換器である第2の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも低い第2閾値を超えた際に、前記第2の単位変換器を前記第2制御状態に変更させ、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第2の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更させる前記単位変換器として選択させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力変換器として、モジュラー・マルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter:MMC)の実用化が進められている。MMCとは、直列に接続された複数の単位変換器(以下、「セル」という)を含むアームユニットを備え、各セルにより出力される電圧を加算することによって高電圧、大容量に対応する電力変換器である。電力変換器は、例えば、直流送電システムや、無効電力補償装置に活用される。例えば、直流送電システム向けの電力変換器は、交流系統と直流系統との間に接続され、それぞれの電力の相互変換を行う。例えば、無効電力補償装置向けの電力変換器は、交流系統に接続され、連系点の無効電力の調整を行う。
【0003】
電力変換器において、電力の相互変換を行うとき、あるいは無効電力の調整を行うときには、電力変換器が備えるスイッチング素子を制御する。電力変換器におけるスイッチング制御の方式としては、例えば、各セルに割り当てる三角波キャリアの位相を均等にずらすことによって、アームユニットの全体で多段の階段状の正弦波を合成する位相シフトPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)方式などが知られている。しかしながら、位相シフトPWM方式では、三角波キャリアの周波数を交流系統の周波数よりも大きくする必要があり、スイッチング制御における損失(スイッチング損失)が大きくなってしまう。
【0004】
これに関して、例えば、特許文献1や特許文献2には、交流系統の電圧の1周期において、各セルを1回ずつスイッチングする1パルス制御に関する技術が開示されている。しかしながら、従来のスイッチング制御では、スイッチングする周波数が低下すると、各セルが備えるコンデンサの電圧のばらつきが大きくなるという課題がある。このため、電力変換器において、スイッチング制御時に各セルが備えるコンデンサの電圧を均等化する手法として、各セルの出力電圧の立ち上がりの位相と立ち下がりの位相とを調整する手法や、各セルが備えるコンデンサの電圧の大小関係に応じて出力電圧の立ち上がりや立ち下がりの順序を変更する手法が提案されている。
【0005】
各セルが備えるコンデンサの電圧の大小関係に応じて出力電圧の立ち上がりや立ち下がりの順序を変更する手法は、アームユニットが備える各セルのコンデンサの電圧を一定間隔で取得し、その大小関係と対照させてスイッチング制御する対象のセルを選択することで実現することができる。しかしながら、この手法では、取得した各セルのコンデンサの電圧を大小関係に基づいて順番に並べ替える処理(いわゆる、ソート処理)に要する時間が、スイッチング制御を行う処理に要する時間間隔に比較して長くなる場合があった。この場合、各セルが備えるコンデンサの充電量の差を少なくさせる(充電量が相対的に均一になるようにバランスさせる)ように制御することは容易ではなくなる。このため、ソート処理が完了した後にスイッチング制御する対象のセルを選択するのでは、コンデンサ電圧をバランスさせるために十分なバランス性能を得ることができず、コンデンサ電圧の変動幅が増大してしまう要因となってしまうことも考えられる。コンデンサ電圧の変動幅が増大すると、セルごとの出力可能な電圧が減少し、電力変換装置に対して運転に制約が生じることとなる。さらに、コンデンサ電圧の変動幅が増大することによってコンデンサ電圧の最大値が増加するということにもなり、コンデンサやスイッチング素子が故障してしまう要因となってしまうことも考えられる。この場合、電力変換器の信頼性が大幅に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-233126号公報
【特許文献2】特開2015-159687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電力変換器が備える単位変換器を制御することによって、信頼性の高い電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の電力変換装置は、電力変換器と、変換器制御部と、を持つ。電力変換器は、電力を蓄積するエネルギー蓄積要素、および前記エネルギー蓄積要素への電力の蓄積あるいは前記エネルギー蓄積要素に蓄積された電力の放電を調整可能な複数のスイッチング素子を有する複数の単位変換器が直列に接続されたアームユニットを少なくとも1つ有する。変換器制御部は、少なくとも、前記単位変換器の第1端と第2端との間に前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧を出力させる第1制御状態と、前記単位変換器の前記第1端と前記第2端とを短絡させる第2制御状態とのいずれかの制御状態に切り替えることにより、前記電力変換器における電力の変換動作を制御する。前記変換器制御部は、状態数演算部と、リスト演算部と、単位変換器選択部と、を持つ。状態数演算部は、前記アームユニットから出力させるアーム電圧の目標値であるアーム電圧指令値に応じて、前記アームユニットに属する前記単位変換器のうち、いずれかの前記制御状態に割り当てる前記単位変換器の数を表す状態数を算出する。リスト演算部は、所定の第1の時間間隔で検出した前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧に基づいて、前記端子間電圧の大小関係を表すリスト情報を、前記第1の時間間隔よりも長い所定の第2の時間間隔ごとに生成する。単位変換器選択部は、前記アームユニットを流れるアーム電流の極性と、前記状態数と、前記リスト情報と、前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧とに基づいて、現在の制御状態を変更する前記単位変換器を選択する。前記単位変換器選択部は、前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素に電力を蓄積させる充電極性となる充電期間の場合、前記第1の時間間隔で検出した、前記第1制御状態の前記単位変換器である第1の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも高い第1閾値を超えた際に、前記第1の単位変換器を前記第2制御状態に変更し、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第1の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器として選択し、前記アーム電流の極性が、前記第1制御状態の前記単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素から電力を放電させる放電極性となる放電期間の場合、前記第1の時間間隔で検出した、前記第1制御状態の前記単位変換器である第2の単位変換器が有する前記エネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも低い第2閾値を超えた際に、前記第2の単位変換器を前記第2制御状態に変更し、前記第2制御状態の前記単位変換器のうち、前記第2の単位変換器と同数の他の前記単位変換器を、前記第1制御状態に変更する前記単位変換器として選択する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図。
【
図2】電力変換器が備えるレグ内のセルの構成の一例を示す図。
【
図3】電力変換装置が備える変換器制御部の構成の一例を示す図。
【
図4】電力変換装置における第1の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャート。
【
図5】電力変換装置における第2の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャート。
【
図6】第2の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図。
【
図7】電力変換器が備えるレグ内のセルの構成の一例を示す図。
【
図8】電力変換装置における第3の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャート。
【
図9】電力変換装置における第4の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
[電力変換装置の構成]
図1は、第1の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図である。
図1には、例えば、交流系統と直流系統との連系点に設けられ、交流系統が供給する交流電力と、直流系統が供給する直流電力とを相互に変換する電力変換装置1の一例を示している。交流系統は、例えば、交流電源や交流負荷であってもよい。直流系統は、例えば、直流電源や直流負荷であってもよい。電力変換装置1は、電力変換器10と、変換器制御部50と、を備える。
【0012】
電力変換器10は、変換器制御部50からの制御に応じて、交流電力と直流電力とを相互に変換する二重スター結線型モジュラー・マルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter:MMC)である。電力変換器10は、直流系統の正側端子Pと、直流系統の負側端子Nとの間に、複数のレグ12を備える。電力変換器10が備えるレグ12の数は、交流系統が供給する交流電力の相数に対応する数である。
図1には、交流系統が、第1相(R相)、第2相(S相)、および第3相(T相)の三相の交流電力を供給する場合を示している。このため、
図1には、レグ12-Rと、レグ12-Sと、レグ12-Tとの三つのレグ12を備える電力変換器10の構成を示している。レグ12-R、レグ12-S、およびレグ12-Tのそれぞれは、同じ構成である。
【0013】
それぞれのレグ12では、交流端子CAが、交流系統の対応する相の端子に接続される。より具体的には、R相に対応するレグ12-Rでは、交流端子CA-Rが交流系統のR相の交流端子Rに接続され、S相に対応するレグ12-Sでは、交流端子CA-Sが交流系統のS相の交流端子Sに接続され、T相に対応するレグ12-Tでは、交流端子CA-Tが交流系統のT相の交流端子Tに接続される。
図1には、それぞれのレグ12の交流端子CAが、トランスTRを介して、交流系統の対応する相の端子に接続されている場合を示している。
【0014】
それぞれのレグ12では、交流端子CAとは反対側の端子が、直流系統のそれぞれの直流端子に接続される。より具体的には、それぞれのレグ12において、電力変換器10が出力する直流電圧の正極と同電位になる端子が正側端子Pに接続され、電力変換器10が出力する直流電圧の負極と同電位になる端子が負側端子Nに接続される。以下の説明においては、正側端子Pに接続されるレグ12の端子を、レグ12の直流端子CPともいい、負側端子Nに接続されるレグ12の端子を、レグ12の直流端子CNともいう。
【0015】
それぞれのレグ12は、例えば、二つのリアクトル14と、二つのアームユニット16と、を備える。それぞれのアームユニット16は、例えば、直列に接続されたn個(nは、自然数)のセル162(セル162-1~セル162-n)を備える。
図1においては、レグ12が備えるそれぞれの構成要素が、直流系統の正極側と負極側とのいずれに対応する構成要素であるか、交流系統のいずれの相に対応する構成要素であるかを区別するため、それぞれの符号の後に「-(ハイフン)」と、正極側を表す文字「P」あるいは負極側を表す文字「N」を付し、さらにその後にハイフンと、R相を表す文字「R」、S相を表す文字「S」、あるいはT相を表す文字「T」を付している。以下の説明においては、それぞれの構成要素が、直流系統の正極側と負極側とのいずれに対応する構成要素であるか、交流系統のいずれの相に対応する構成要素であるかを区別しない場合には、それぞれの構成要素の符号に付したハイフンとハイフンに続く識別のための文字を省略する。
【0016】
それぞれのレグ12では、正極側のリアクトル14-Pと、正極側のアームユニット16-Pとが直列に接続され、負極側のリアクトル14-Nと、負極側のアームユニット16-Nとが直列に接続されている。そして、それぞれのレグ12では、リアクトル14-Pとリアクトル14-Nとの接続点が、直流端子CPとなっている。それぞれのレグ12では、アームユニット16-Pにおけるリアクトル14-Pと反対側の端子がレグ12の直流端子CPとなり、アームユニット16-Nにおけるリアクトル14-Nと反対側の端子がレグ12の直流端子CNとなっている。言い換えれば、それぞれのレグ12では、直流端子CP側から交流端子CA側に向かって、セル162-1~セル162-n、およびリアクトル14-Pが、この順番に直列接続されて交流端子CAに接続されている。さらに、それぞれのレグ12では、直流端子CN側から交流端子CA側に向かって、セル162-n~セル162-1、およびリアクトル14-Nが、この順番に直列接続されて交流端子CAに接続されている。
【0017】
レグ12は、特許請求の範囲における「相ユニット」の一例である。アームユニット16-P(リアクトル14-Pを含んでもよい)は、特許請求の範囲における「第1のアームユニット」の一例であり、アームユニット16-N(リアクトル14-Nを含んでもよい)は、特許請求の範囲における「第2のアームユニット」の一例である。セル162は、特許請求の範囲における「単位変換器」の一例である。リアクトル14は、特許請求の範囲における「インダクタンス要素」の一例である。
【0018】
図1では、それぞれのレグ12において、リアクトル14が、アームユニット16の交流端子CA側に配置されている場合を示しているが、リアクトル14は、アームユニット16の交流端子CA側とは反対側(つまり、直流端子CP側や直流端子CN側)や、アームユニット16内の任意の位置(つまり、アームユニット16において直列接続されているいずれか二つのセル162の間の位置)に配置されてもよい。リアクトル14は、リアクトルの機能を代替するだけの漏れリアクタンスを有する特殊な巻線構造のトランスに置き換えられてもよい。この場合、リアクトル14は、トランスTRと一体化されてもよい。
【0019】
それぞれのアームユニット16は、直列接続されたそれぞれのセル162に対する変換器制御部50からの制御に応じて、交流系統の対応する相に供給する交流波形を表す階段状の正弦波であるマルチレベル波形の交流電圧を生成する。
【0020】
ここで、アームユニット16が備えるセル162の構成の一例について説明する。セル162は、例えば、ハーフブリッジ回路である。
図2は、電力変換器10が備えるレグ12内のセル162の構成の一例を示す図である。セル162は、二つのスイッチング素子Q(スイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q2)と、二つのダイオードD(ダイオードD1およびダイオードD2)と、コンデンサCと、を備える。スイッチング素子Qは、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子Qは、IGBTに限定されない。スイッチング素子Qは、コンバータまたはインバータを実現可能な自己消弧型の半導体スイッチング素子であれば、いかなる素子であってもよい。
【0021】
セル162では、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とが、互いに直列に接続されている。そして、セル162では、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との直列回路と、コンデンサCとが、互いに並列に接続されている。セル162では、それぞれのスイッチング素子Qと対応するダイオードDとが、互いに並列に接続されている。セル162では、スイッチング素子Q1のエミッタとスイッチング素子Q2のコレクタとの接続点が、レグ12において正側端子P側に接続される正極端子TP(+)となり、スイッチング素子Q2のエミッタとコンデンサCとの接続点が、レグ12において負側端子N側に接続される負極端子TN(-)となっている。
【0022】
セル162が備えるスイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とのゲートには、変換器制御部50からの制御信号が入力される(制御電圧が印加される、または制御電流が供給される)。スイッチング素子Q1のゲートには、変換器制御部50からの制御信号としてゲート信号gtpが入力され、スイッチング素子Q2のゲートには、変換器制御部50からの制御信号としてゲート信号gtnが入力される。これにより、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とのそれぞれは、変換器制御部50によってオン状態またはオフ状態のいずれかの状態に切り替えられる。以下の説明においては、「1(“High”レベル)」の制御信号(ゲート信号gtp、ゲート信号gtn)が入力されるとそれぞれのスイッチング素子Qがオン状態となり、「0(“Low”レベル)」の制御信号(ゲート信号gtp、ゲート信号gtn)が入力されるそれぞれのスイッチング素子Qがオフ状態となるものとする。
【0023】
コンデンサCは、それぞれのスイッチング素子Qの状態に応じて、充電され、または放電する。セル162では、コンデンサCの端子間電圧(以下、「コンデンサ電圧Vc」という)が、セル162の正極端子TPと負極端子TNとの間の端子間電圧(以下、「セル電圧Vo」という)として生じる。より具体的には、変換器制御部50が、制御信号(gtp,gtn)=(1,0)にすると、例えば、正極端子TP、スイッチング素子Q1、コンデンサC、負極端子TNの順に電流が流れて、セル162のセル電圧Voはコンデンサ電圧Vcと一致する。つまり、変換器制御部50が制御信号(gtp,gtn)=(1,0)にすることにより、セル162の正極端子TPと負極端子TNとの間にコンデンサCが挿入されて、コンデンサ電圧Vcがセル電圧Voとして出力される。以下の説明においては、変換器制御部50が制御信号(gtp,gtn)=(1,0)にすることを「インサート」といい、この場合のセル162の状態を「インサート状態」という。一方、変換器制御部50が、制御信号(gtp,gtn)=(0,1)にすると、例えば、正極端子TP、スイッチング素子Q2、負極端子TN順に電流が流れて、セル162のセル電圧Voは0[V]となる。つまり、変換器制御部50が制御信号(gtp,gtn)=(0,1)にすることにより、セル162の正極端子TPと負極端子TNとが短絡され、コンデンサCを通らずに電流が流れることによって、セル162のセル電圧Voは0[V]となる。以下の説明においては、変換器制御部50が制御信号(gtp,gtn)=(0,1)にすることを「バイパス」といい、この場合のセル162の状態を「バイパス状態」という。
【0024】
セル162は、
図2に示した構成に限定されるものではなく、セル162と同様の機能を実現する構成であれば、いかなる構成のものであってもよい。
【0025】
スイッチング素子Q1およびダイオードD1は、特許請求の範囲における「スイッチング素子」および「第1のスイッチング素子」の一例であり、スイッチング素子Q2およびダイオードD2は、特許請求の範囲における「スイッチング素子」および「第2のスイッチング素子」の一例である。オン状態は、特許請求の範囲における「導通状態」の一例であり、オフ状態は、特許請求の範囲における「非導通状態」の一例である。コンデンサCは、特許請求の範囲における「エネルギー蓄積要素」の一例である。正極端子TPは、特許請求の範囲における「第1端」の一例であり、負極端子TNは、特許請求の範囲における「第2端」の一例である。インサート状態は、特許請求の範囲における「第1制御状態」の一例であり、バイパス状態は、特許請求の範囲における「第2制御状態」の一例である。
【0026】
このような構成のセル162が直列に複数接続されることにより、アームユニット16は、インサート状態に制御されたそれぞれのセル162のセル電圧Voが加算された電圧を出力する。従って、アームユニット16は、変換器制御部50によってインサート状態に制御されたセル162の数に応じた電圧を出力する。これにより、アームユニット16は、変換器制御部50からの制御に応じたマルチレベル波形を生成する。
【0027】
ところで、セル162では、制御信号(gtp,gtn)=(1,1)にすることは禁止されるべきである。これは、制御信号(gtp,gtn)=(1,1)にすると、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との両方がオン状態となり、コンデンサCの両端が短絡されてしまうからである。このため、変換器制御部50は、制御信号(gtp,gtn)=(1,0)から制御信号(gtp,gtn)=(0,1)にする、あるいはその逆にする際に、ごく短時間の間、過渡的に制御信号(gtp,gtn)=(0,0)の状態となる期間、いわゆるデッドタイムを設けるように制御する。変換器制御部50は、セル162の動作を停止させる場合、制御信号(gtp,gtn)=(0,0)に固定してもよい。以下の説明においては、変換器制御部50が全ての制御信号(gtp,gtn)を(0,0)に固定して電力変換器10が備えるアームユニット16の全てのセル162の動作を停止させることを「ゲートブロック」といい、この場合のセル162の状態を「ゲートブロック状態」という。
【0028】
図1に戻り、変換器制御部50は、電力変換装置1の運転状態や、電力変換装置1内の各位置の検出値(電流値や、電流が流れる方向(極性)、電圧値)に基づいて、交流系統の周波数を含む交流電圧指令値と直流電圧指令値とを算出する。このため、変換器制御部50は、例えば、電力変換装置1内外の所望の位置に設けられた検出器(後述)により出力された検出値を、所定(一定)の取得周期TS1ごとに取得する。そして、変換器制御部50は、算出した交流電圧指令値や直流電圧指令値が表す電圧成分を含む、アームユニット16ごとの電圧指令値を求める。変換器制御部50は、求めた電圧指令値に基づいて、それぞれのアームユニット16が備えるセル162内のスイッチング素子Qを制御(スイッチング制御)するための制御信号を生成する。そして、変換器制御部50は、生成した制御信号を、対応するセル162に出力する。例えば、変換器制御部50は、交流系統のR相に対応し、直流系統の正極側に接続されたアームユニット16であるアームユニット16-P-Rを制御する場合、交流端子CA-Rに出力させる主として交流電圧成分、直流端子CP-Rと直流端子CN-Rとの間に出力させる主として直流電圧成分に基づき、アームユニット16-P-Rに出力させるアーム電圧指令値Varm*を算出する。以降の説明では、アーム電圧Varmおよびアーム電圧指令値Varm*の正極性を、セル162-n側からみてセル162-1側の電位が高くなる向きに定義する。そして、変換器制御部50は、算出したアーム電圧指令値Varm*に基づいて、アームユニット16-P-Rが備えるそれぞれのセル162(セル162-1-P-R~162-n-P-R)内のそれぞれのスイッチング素子Qを制御するためのゲート信号gtp(ゲート信号gtp-1-P-R~gtp-n-P-R)、およびゲート信号gtn(ゲート信号gtn-1-P-R~gtn-n-P-R)を生成する。変換器制御部50は、生成したゲート信号gtpおよびゲート信号gtnのそれぞれを、対応するセル162に出力する。変換器制御部50がその他のアームユニット16を制御する場合も同様である。変換器制御部50は、例えば、インサート数演算部52と、ソートリスト演算部54と、セル選択制御部56と、ゲート信号生成部58と、を備える。
【0029】
変換器制御部50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで電力変換器10の動作を制御する。変換器制御部50は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。変換器制御部50は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め変換器制御部50あるいは電力変換装置1が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が変換器制御部50あるいは電力変換装置1が備えるドライブ装置に装着されることで変換器制御部50あるいは電力変換装置1が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0030】
電力変換装置1では、所望の位置に電流検出器や電圧検出器が設けられ、電流値や、電流の極性、電圧値が検出される。
図1の例では、それぞれのレグ12内に、正側端子P側から交流端子CA側に流れる正側アーム電流Ipを検出するための電流検出器と、交流端子CA側から負側端子N側に流れる負側アーム電流Inを検出するための電流検出器が設けられている場合を示している。より具体的に、レグ12-Rには、アームユニット16-P-Rとリアクトル14-P-Rとの間に、正側端子P側から交流端子CA-R側に流れる正側アーム電流Iprを検出するための電流検出器が設けられ、アームユニット16-N-Rとリアクトル14-N-Rとの間に、交流端子CA-R側から負側端子N側に流れる負側アーム電流Inrを検出するための電流検出器が設けられている。その他のレグ12も同様である。
図2では図示していないが、それぞれのセル162にも、コンデンサ電圧Vcを検出するための電圧検出器が設けられている。R相の交流電流Isrと、S相の交流電流Issと、T相の交流電流Istとのそれぞれは、交流端子R、交流端子S、および交流端子Tに電流検出器を設けて直接的に検出されてもよいが、それぞれのレグ12において検出した正側アーム電流Ipと負側アーム電流Inとを演算することによって間接的に検出されてもよい。例えば、R相の交流電流Isrは、正側アーム電流Iprと負側アーム電流Inrとの差(つまり、Inr-Ipr)を演算することによって間接的に検出されてもよい。さらに、
図1には、電圧検出器の図示は省略しているが、R相の交流電圧Vsr、S相の交流電圧Vss、およびT相の交流電圧Vstを検出している場合を示している。
【0031】
図3は、電力変換装置1が備える変換器制御部50の構成の一例を示す図である。
【0032】
インサート数演算部52は、少なくとも、アームユニット16が出力すべきアーム電圧指令値Varm*が入力される。アーム電圧指令値Varm*は、電力変換装置1の運転状態や、電力変換装置1における各検出値に基づく電圧・電流制御などの演算結果として得られた、交流系統や直流系統に出力すべき電圧成分を、アームユニット16ごとに分配した値(実数値)である。インサート数演算部52は、アーム電圧指令値Varm*に応じて、それぞれのアームユニット16が備えるセル162のうち、インサート状態に割り当てる(インサート状態にさせる)セル162の数(整数値)を表すインサート数Ncellsを、それぞれのアームユニット16ごとに演算(算出)する。インサート数演算部52は、算出したインサート数Ncellsを、セル選択制御部56に出力する。
【0033】
インサート数演算部52がインサート数Ncellsを演算(算出)する方法には、種々の方法がある。例えば、インサート数演算部52は、アーム電圧指令値Varm*をアームユニット16に属するセル162のコンデンサ電圧Vcの平均値または定格値で除算した値を整数に近似することによって、インサート状態にさせるセル162の数を表すインサート数Ncellsを算出する。この場合、変換器制御部50は、交流系統における交流電圧の1周期内でアームユニット16に属するセル162を1回ずつ制御する(インサート状態およびバイパス状態にさせる)、1パルス制御を行うものとなる。例えば、インサート数演算部52は、アーム電圧指令値Varm*に基づく変調波と、アームユニット16に属するセル162の数(
図1では、「n」)と同数で互いに位相がシフトされたそれぞれの三角波キャリアを比較し、アーム電圧指令値Varm*(変調波)の値が三角波キャリアの値を上回る(三角波キャリアの値よりも大きくなる)三角波キャリア波の個数を、インサート状態にさせるセル162の数を表すインサート数Ncellsとして算出する。この場合、変換器制御部50は、交流系統における交流電圧の1周期内でアームユニット16に属するセル162を複数回制御する(インサート状態およびバイパス状態にさせる)、複パルス制御を行うものとなる。例えば、インサート数演算部52は、アーム電圧指令値Varm*に基づく変調波と、アームユニット16に属するセル162の数(
図1では、「n」)と同数で互いにレベルがシフトされたそれぞれの三角波キャリアを比較し、アーム電圧指令値Varm*(変調波)の値が三角波キャリアの値を上回る(三角波キャリアの値よりも大きくなる)三角波キャリア波の個数を、インサート状態にさせるセル162の数を表すインサート数Ncellsとして算出する。この場合も、変換器制御部50は、複パルス制御を行うものとなる。インサート数演算部52がインサート数Ncellsを演算(算出)する方法は、上述した方法に限定されず、アームユニット16ごとに分配した値(実数値)を、インサート状態にさせるセル162の数(整数値)として表すことができる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。
【0034】
インサート数演算部52は、特許請求の範囲における「状態数演算部」の一例である。インサート数Ncellsは、特許請求の範囲における「状態数」の一例である。
【0035】
ソートリスト演算部54は、電力変換器10が備えるそれぞれのセル162のコンデンサ電圧Vcの大小関係を表すソートリストを、それぞれのアームユニット16ごとに演算(生成)する。ソートリスト演算部54は、例えば、所定(一定)の演算周期TS2ごとに、ソートリストを生成する。ソートリストは、同じアームユニット16に属する少なくとも二つ以上のセル162のコンデンサ電圧Vc(
図3では、セル162-1~セル162-nのコンデンサ電圧Vc-1~コンデンサ電圧Vc-n)の電圧値の大小関係に基づいて、降順、あるいは昇順に並べ替えたものである。ソートリスト演算部54がソートリストを生成する演算周期TS2は、電力変換装置1における各検出値を取得する取得周期TS1よりも長い時間間隔の周期(TS2>TS1)である。これは、ソートリスト演算部54において、取得した複数のコンデンサ電圧Vcの電圧値を並べ替える処理には時間を要すると考えられるからである。このため、ソートリスト演算部54は、演算周期TS2において次のソートリストを生成するタイミング、つまり、ソートリストを更新するタイミングに合った取得周期TS1において取得したコンデンサ電圧Vcの電圧値に基づいてソートリストを生成する。例えば、ソートリスト演算部54は、コンデンサ電圧Vcの電圧値を並べ替える処理に要する時間を確保した上で、ソートリストの生成を開始するタイミングの直前の取得周期TS1で取得したコンデンサ電圧Vcの電圧値を並べ替えることによってソートリストを生成する。ソートリスト演算部54がソートリストを生成する際に用いるコンデンサ電圧Vcの電圧値は、上述したソートリストの生成を開始する直前のタイミングで取得したものに限定されず、例えば、複数の取得周期TS1において取得した同じコンデンサCに対応するコンデンサ電圧Vcの電圧値の平均値や、最大値などを用いてもよい。以下の説明においては、ソートリスト演算部54は、コンデンサ電圧Vcの電圧値を降順に並べ替えたソートリストを生成するものとする。ソートリスト演算部54は、生成したソートリストを、セル選択制御部56に出力する。
【0036】
ソートリスト演算部54は、特許請求の範囲における「リスト演算部」の一例である。ソートリストは、特許請求の範囲における「リスト情報」の一例である。
【0037】
セル選択制御部56は、少なくともインサート数演算部52により出力されたインサート数Ncellsが変化したタイミングごと、つまり、セル162を制御する(インサート状態およびバイパス状態にさせる)制御タイミングごとに、現在の制御状態を変更する対象のセル162を選択する。より具体的には、セル選択制御部56は、インサート数Ncellsが変化したことをきっかけとしてセル162の選択を開始する。そして、セル選択制御部56は、制御対象のアームユニット16を流れるアーム電流Iarm(つまり、正側アーム電流Ipや負側アーム電流In)の極性と、ソートリスト演算部54により出力された制御対象のアームユニット16のソートリストとを参照し、インサート状態に変更させるセル162やバイパス状態に変更させるセル162を選択する。
【0038】
セル選択制御部56は、インサート数Ncellsが増加した場合において、アーム電流Iarmの極性が、インサート状態になっているセル162のコンデンサCに電力を蓄積させて、アームユニット16全体の充電量を増加させる充電極性である期間(充電期間)では、現在バイパス状態であるセル162の中から、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル162を優先してインサート状態に変更するセル162として選択する。この場合、セル選択制御部56は、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に低いコンデンサCを備えるセル162から順に選択する。充電極性は、アーム電流Iarmが、
図1に示した正側アーム電流Ipや負側アーム電流Inと同じ方向に流れる極性である。一方、セル選択制御部56は、インサート数Ncellsが増加した場合において、アーム電流Iarmの極性が、インサート状態になっているセル162のコンデンサCに蓄積されている電力を放電させて、アームユニット16全体の放電量を増加させる放電極性である期間(放電期間)では、現在バイパス状態であるセル162の中から、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を優先してインサート状態に変更するセル162として選択する。この場合、セル選択制御部56は、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に高いコンデンサCを備えるセル162から順に選択する。放電極性は、アーム電流Iarmが、
図1に示した正側アーム電流Ipや負側アーム電流Inとは逆の方向に流れる極性である。
【0039】
セル選択制御部56は、インサート数Ncellsが減少した場合において、アーム電流Iarmの極性が、インサート状態になっているセル162のコンデンサCに電力を蓄積させて、アームユニット16全体の充電量を増加させる充電極性である期間(充電期間)では、現在インサート状態であるセル162の中から、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を優先してバイパス状態に変更するセル162として選択する。この場合、セル選択制御部56は、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に高いコンデンサCを備えるセル162から順に選択する。一方、セル選択制御部56は、インサート数Ncellsが減少した場合において、アーム電流Iarmの極性が、インサート状態になっているセル162のコンデンサCに蓄積されている電力を放電させて、アームユニット16全体の放電量を増加させる放電極性である期間(放電期間)では、現在インサート状態であるセル162の中から、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル162を優先してバイパス状態に変更するセル162として選択する。この場合、セル選択制御部56は、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に低いコンデンサCを備えるセル162から順に選択する。
【0040】
これにより、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に高いコンデンサCを備えるセル162は、優先的に充電時間が短く、放電時間が長くされるため、アームユニット16が備えるそれぞれのセル162において、コンデンサ電圧Vcが均一化されることになる。一方、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に低いコンデンサCを備えるセル162は、優先的に充電時間が長く、放電時間が短くされるため、同様に、アームユニット16が備えるそれぞれのセル162において、コンデンサ電圧Vcが均一化されることになる。
【0041】
さらに、セル選択制御部56は、アームユニット16が備えるそれぞれのセル162において、コンデンサCの充電量の差を少なくさせる(充電量が相対的に均一になるようにバランスさせる)ように制御する。以下、セル選択制御部56におけるコンデンサCの充電量(より具体的には、コンデンサ電圧Vc)が均一になるようにバランスさせる制御を、「バランス制御」という。セル選択制御部56におけるバランス制御では、取得周期TS1ごとに、つまり、ソートリスト演算部54がソートリストを生成する演算周期TS2よりも短い周期で、同じアームユニット16に属するセル162のコンデンサ電圧Vc(
図3では、セル162-1~セル162-nのコンデンサ電圧Vc-1~コンデンサ電圧Vc-n)の電圧値を取得する。そして、セル選択制御部56は、取得したそれぞれのコンデンサ電圧Vcの電圧値と、コンデンサCにおけるコンデンサ電圧Vcの上側の閾値Vc-max、および下側の閾値Vc-minとを比較する。この比較の結果、充電期間においてインサート状態のセル162のコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合、セル選択制御部56は、このセル162への充電が今以上に行われないように(つまり、過充電とならないように)バイパス状態に制御し、代わりに、バイパス状態のセル162の中から、コンデンサ電圧Vcの電圧値が低いコンデンサCを備える同数の他のセル162を優先して選択して、インサート状態に変更する。一方、放電期間においてインサート状態のセル162のコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-minを超えた場合、セル選択制御部56は、このセル162からの放電が今以上に行われないように(つまり、過放電とならないように)バイパス状態に制御し、代わりに、バイパス状態のセル162の中から、コンデンサ電圧Vcの電圧値が高いコンデンサCを備える同数の他のセル162を優先して選択して、インサート状態に変更する。閾値Vc-maxおよび閾値Vc-minは、例えば、定格コンデンサ電圧指令値Vc*に対して、コンデンサCの許容変動幅を考慮した値が設定されるものである。より具体的には、閾値Vc-maxは、例えば、電力変換器10の通常運転におけるコンデンサ電圧Vcの変動幅の上限値とし、定格コンデンサ電圧指令値Vc*よりも高いVc-max=Vc*×1.1程度に設定される。閾値Vc-minは、例えば、電力変換器10の通常運転におけるコンデンサ電圧Vcの変動幅の下限値とし、定格コンデンサ電圧指令値Vc*よりも低いVc-min=Vc*×0.9程度に設定される。閾値Vc-maxおよび閾値Vc-minは、アームユニット16が備えるコンデンサCにおけるコンデンサ電圧Vcの平均電圧Vc-ave(変動値)に基づいて設定されるものであってもよい。閾値Vc-maxは、例えば、コンデンサCのコンデンサ電圧Vcが平均電圧Vc-aveから一定以上ばらつかないように、平均電圧Vc-aveよりも高いVc-max=Vc-ave×1.1程度に設定される。閾値Vc-minは、例えば、コンデンサCのコンデンサ電圧Vcが平均電圧Vc-aveから一定以上ばらつかないように、平均電圧Vc-aveよりも低いVc-min=Vc-ave×0.9程度に設定される。
【0042】
セル選択制御部56は、セル162ごとのセル制御状態CL*を生成する。このとき、セル選択制御部56は、ソートリスト演算部54におけるソートリストの演算(生成)タイミングや、ソートリスト演算部54におけるバランス制御のタイミング、変換器制御部50や変換器制御部50が備える構成要素の動作周期(いわゆる、動作クロックや演算クロック)のタイミングに合わせた任意のタイミングで、セル制御状態CL*を生成するようにしてもよい。セル制御状態CL*には、対応するセル162について、少なくともインサート状態に制御するのか、バイパス状態に制御するのかを表す情報が含まれている。セル選択制御部56は、それぞれのセル162に対応するセル制御状態CL*を、ゲート信号生成部58に出力する。
図3には、セル162-1~セル162-nのそれぞれに対応するセル制御状態CL*-1~セル制御状態CL*-nを示している。
【0043】
セル選択制御部56は、特許請求の範囲における「単位変換器選択部」の一例である。取得周期TS1は、特許請求の範囲における「第1の時間間隔」の一例であり、演算周期TS2は、特許請求の範囲における「第2の時間間隔」の一例である。閾値Vc-maxは、特許請求の範囲における「第1閾値」の一例であり、閾値Vc-minは、特許請求の範囲における「第2閾値」の一例である。
【0044】
ゲート信号生成部58は、セル選択制御部56により出力されたそれぞれのセル制御状態CL*に従って、それぞれのアームユニット16が備える全てのセル162に出力する制御信号(ゲート信号)を生成する。より具体的には、ゲート信号生成部58は、それぞれのセル162が備えるスイッチング素子Q1に対応するゲート信号gtpと、スイッチング素子Q2に対応するゲート信号gtnとを生成する。
図3には、セル162-1~セル162-nのそれぞれに対応するゲート信号gtp-1~ゲート信号gtp-nと、ゲート信号gtn-1~ゲート信号gtn-nとを示している。このとき、ゲート信号生成部58は、例えば、ゲート信号gtpを論理反転させることによって、ゲート信号gtnを生成するようにしてもよい。ただし、この場合でも、上述したように、セル162が備えるコンデンサCの両端が短絡されてしまうことを防止するため、短時間のデッドタイムを設ける。ゲート信号生成部58は、生成したそれぞれのゲート信号を、対応するセル162(より具体的には、セル162が備えるスイッチング素子Q)に出力する。
【0045】
図3では、ゲート信号生成部58が、それぞれのセル162に対応するゲート信号を生成して、対応するセル162に出力する構成を示したが、例えば、セル選択制御部56が、セル制御状態CL*をそれぞれのセル162に出力し、それぞれのセル162内で、セル制御状態CL*に応じたゲート信号を生成する構成にしてもよい。この場合、それぞれのセル162は、ゲート信号生成部58と等価な機能を有する構成要素を備える構成となる。
【0046】
このような構成によって、変換器制御部50は、電力変換器10が備えるそれぞれのアームユニット16内のセル162を制御して、電力変換器10に、交流系統の交流電力と直流系統の直流電力とを相互に変換させる。
【0047】
ところで、従来から広く知られている位相シフトPWM方式では、セルごとに個別の三角波キャリアと電圧指令値(変調波)が割り当てられ、セルごとに制御信号(ゲート信号)を演算している。これに対して、変換器制御部50では、インサート数演算部52が、例えば、セル162ごとに割り当てられていない三角波キャリアと、アームユニット16単位のアーム電圧指令値Varm*に基づく変調波とに基づいて、インサート状態にさせるセル162の数を表すインサート数Ncellsを演算(算出)する。そして、変換器制御部50では、セル選択制御部56が、少なくともインサート数Ncellsが変化したことをきっかけとして、アーム電流Iarmの極性と、ソートリスト演算部54により出力されたソートリストとを参照して、インサート状態あるいはバイパス状態に変更させるセル162を選択する。これにより、ゲート信号生成部58が、それぞれのセル162が備えるスイッチング素子Qをオン状態あるいはオフ状態にさせるためのゲート信号を生成する。つまり、変換器制御部50では、セルごとに個別に割り当てられた三角波キャリアと電圧指令値(変調波)とは存在しない。
【0048】
さらに、従来の位相シフトPWM方式では、セルごとの電圧指令値(変調波)の振幅を調整することによって、セルに流入出する比較的長い周期の平均電力を操作し、コンデンサ電圧の均一化を図る。このため、従来の位相シフトPWM方式では、それぞれのセルが備えるコンデンサの充電量を相対的に均一になるようにバランスさせる時間が長くなってしまう。これに対して、実施形態の変換器制御部50では、セル選択制御部56が、例えば、セル162内のスイッチング素子Qをスイッチング制御するタイミングごとに、セル162が備えるコンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランス制御することができる。このため、実施形態の変換器制御部50では、従来の位相シフトPWM方式よりも短い時間でコンデンサCの充電量の均一化を図ることができる。このことにより、電力変換器10は、実施形態の変換器制御部50によるコンデンサ電圧Vcのバランス制御によって、コンデンサ電圧Vcの変動幅が抑制され、セル162ごとに出力可能な電圧を確保し、運転の制約を軽減することができる。そして、電力変換器10では、実施形態の変換器制御部50によるコンデンサ電圧Vcのバランス制御によって、コンデンサ電圧Vcの最大値が抑制され、セル162が備えるコンデンサCやスイッチング素子Qの故障リスクを低減することができる。
【0049】
これらのことから、電力変換装置1は、電力変換器10における高いコンデンサ電圧バランス性能と、故障リスクを低減した、高い信頼性を同時に得ることができる。しかも、電力変換装置1では、変換器制御部50(より具体的には、セル選択制御部56)によるバランス制御が、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合に行われるため、電力変換器10において、例えば、低電力の運転時など、コンデンサ電圧Vcの変動幅が狭くなるような運転のときにも、セル162に対するスイッチング制御の周期が短く、つまり、スイッチング周波数が高くなってしまうのを防止することができる。さらに、電力変換装置1では、例えば、系統事故などが発生した際も、変換器制御部50によるバランス制御が、コンデンサ電圧Vcが通常の電圧範囲から逸脱してしまうのを抑えるように動作するため、コンデンサ電圧Vcが過電圧や不足電圧に至ることによって電力変換器10の保護装置が動作して運転を停止してしまうなどの状態に至るリスクを軽減することができる。このため、電力変換装置1では、系統事故が発生した際の運転の継続性能を向上させることができる。
【0050】
[電力変換装置の第1の動作]
次に、電力変換装置1の動作、つまり、変換器制御部50におけるセル162の制御の一例について説明する。以下の説明においては、電力変換器10が備えるレグ12-Rと、レグ12-Sと、レグ12-Tとのそれぞれのレグ12を代表して、レグ12-Rが備えるアームユニット16-P-Rに対する制御について説明する。以下の説明においては、説明を容易にするため、変換器制御部50が備えるそれぞれの構成要素の動作を、変換器制御部50自体が行うものとして説明する。
【0051】
図4は、電力変換装置1における第1の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャートである。
図4に示した電力変換装置1の動作の一例は、アームユニット16-P-R(以下、単に「アームユニット16」という)が備えるセル162が、六つ(n=6)である場合の動作の一例である。
図4には、アームユニット16が備えるセル162-5のコンデンサ電圧Vc-5が閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)における変換器制御部50のバランス制御の一例を示している。
図4には、アーム電圧指令値Varm*、アーム電流Iarm、アーム電圧指令値Varm*に基づいてアームユニット16が生成したアーム電圧Varm、および変換器制御部50によりセル162-1~セル162-6が備えるスイッチング素子Q1に出力されるゲート信号gtp-1~ゲート信号gtp-6の時間的な変化を、同じ時間軸に示している。
図4には、変換器制御部50がバランス制御をするセル162-5のコンデンサ電圧Vc(Vc-5)の模式的な変化も、同じ時間軸に示している。さらに、
図4には、変換器制御部50(より具体的には、ソートリスト演算部54)が演算(生成)するソートリストの一例を示している。
図4に示した第1の動作では、アーム電圧指令値Varm*の1周期ごとにソートリストが生成される(更新される)ものとしている。
図4には、コンデンサ電圧Vc-5の電圧値を取得する取得周期TS1、およびソートリストが作成される演算周期TS2の期間の一例も示している。
【0052】
アーム電圧指令値Varm*は、交流系統の周波数と直流成分とを含む。上述したように、変換器制御部50(より具体的には、インサート数演算部52)は、アーム電圧指令値Varm*に基づいて、階段状の疑似的な正弦波で表されるインサート数Ncellsを演算(算出)する。
図4では、インサート数Ncellsは、最小値が「0」、最大値が「n(ここでは「6」)」の整数値である。インサート数Ncellsは、例えば、アーム電圧指令値Varm*をアームユニット16に属するセル162のコンデンサ電圧Vcの平均値または定格値で除算した値を整数に近似して算出したものである。つまり、
図4に示した電力変換装置1の動作タイミングは、変換器制御部50が1パルス制御を行う場合の動作タイミングである。インサート数Ncellsは、
図4に示したアーム電圧Varmと等価なものを表している。
【0053】
変換器制御部50(より具体的には、セル選択制御部56およびゲート信号生成部58)は、インサート数Ncellsが変化したタイミングごとに、アームユニット16に属するインサート状態のセル162が、インサート数Ncellsが表すインサート状態にさせるセル162の数(整数値)と一致するように、それぞれのセル162に出力するゲート信号gtpを制御する。それぞれのゲート信号gtpは、「1(“High”レベル)」の場合にスイッチング素子Q1をオン状態にさせ、「0(“Low”レベル)」の場合にスイッチング素子Q1をオフ状態にさせるものである。ここで、セル162が備えるスイッチング素子Q2に出力するゲート信号gtnは、上述したように、ゲート信号gtpを論理反転させることによって生成することができる。このため、
図4では、ゲート信号gtnの図示は省略している。従って、
図4では、セル162は、ゲート信号gtpが「1」のときがインサート状態であり、ゲート信号gtpが「0」のときがバイパス状態である。さらに、
図4では、説明を容易にするため、デッドタイムを省略している。アーム電圧Varmは、セル162のコンデンサ電圧Vcが均一に制御されている場合、おおむねインサート数Ncellsが表すインサート状態にさせるセル162の数(整数値)にコンデンサ電圧Vcを乗じた電圧値となる。
【0054】
アーム電流Iarmは、交流系統の周波数と直流成分を含む。アームユニット16では、アーム電流Iarmが正極性(Iarm>0)の場合、インサート状態のセル162が備えるコンデンサCが充電され、この充電期間中にコンデンサ電圧Vcが上昇する。アームユニット16では、アーム電流Iarmが負極性(Iarm<0)の場合、インサート状態のセル162が備えるコンデンサCは放電され、この放電期間中にコンデンサ電圧Vcが下降する。アームユニット16では、アーム電流Iarmの極性に関わらず、バイパス状態のセル162が備えるコンデンサCは充電も放電もされずに、現在のコンデンサ電圧Vcを維持する。
【0055】
図4に示した時刻t0では、インサート数Ncellsは「3」である。そして、このときのアーム電流Iarmの極性は負極性であるため、変換器制御部50は、放電極性であると判定している。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照し、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を、インサート状態にさせるセル162として選択している。より具体的には、変換器制御部50は、ソートリストにおいて高い方から三つのコンデンサ電圧Vc(Vc-1、Vc-2、およびVc-3)であるセル162-1と、セル162-2と、セル162-3とを選択している。このため、
図4に示した時刻t0では、変換器制御部50が、選択した三つのセル162をインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-1、ゲート信号gtp-2、およびゲート信号gtp-3のそれぞれを「1」にしている。ここで、セル162-5は、ゲート信号gtp-5が「0」であるため、バイパス状態である。このため、セル162-5が備えるコンデンサC-5は充電も放電もされずに、現在のコンデンサ電圧Vc-5を維持している。
【0056】
その後、時刻t1において、インサート数Ncellsが「4」に変化する(増加する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が次に多いコンデンサCを備えるセル162を、インサート状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいて高い方から三つ目までのコンデンサ電圧Vcである三つのセル162をすでに選択しているため、次に高いコンデンサ電圧Vc(つまり、四番目に高いVc-4)であるセル162-4を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t1において、選択したセル162-4をさらにインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-4を「1」にする。このときも、セル162-5はバイパス状態であるため、引き続きセル162-5は、現在のコンデンサ電圧Vc-5を維持している。
【0057】
その後、時刻t2において、インサート数Ncellsが「5」に変化する(増加する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が正極性(充電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル162を、インサート状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方から一番目(つまり、Vc-6)であるセル162-6を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t2において、選択したセル162-6をさらにインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-6を「1」にする。このときも、セル162-5はバイパス状態であるため、引き続きセル162-5は、現在のコンデンサ電圧Vc-5を維持している。
【0058】
その後、時刻t3において、インサート数Ncellsが「6」に変化する(増加する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が正極性(充電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が次に少ないコンデンサCを備えるセル162を、インサート状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいて低い方から一つ目のコンデンサ電圧Vcである一つのセル162をすでに選択しているため、次に低いコンデンサ電圧Vc(つまり、二番目に低いVc-5)であるセル162-5を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t3において、選択したセル162-5をさらにインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-5を「1」にする。これにより、セル162-5は、コンデンサC-5が充電され、コンデンサ電圧Vc-5は、充電に伴って上昇(増加)していく。
【0059】
その後、時刻t4において、インサート数Ncellsが「5」に変化する(減少する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が正極性(充電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在インサート状態であり、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を、バイパス状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から一番目(つまり、Vc-1)であるセル162-1を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t4において、選択したセル162-1をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-1を「0」にする。このときも、セル162-5はインサート状態であるため、引き続きコンデンサC-5が充電され、コンデンサ電圧Vc-5は上昇していく。
【0060】
その後、時刻t5において、インサート数Ncellsが「4」に変化する(減少する)と、変換器制御部50は、時刻t4と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から二番目(つまり、Vc-2)であるセル162-2を選択し、選択したセル162-2をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-2を「0」にする。このときも、セル162-5はインサート状態であるため、引き続きコンデンサC-5が充電され、コンデンサ電圧Vc-5は上昇していく。
【0061】
その後、時刻t6において、アーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)になると、インサート状態であるセル162-5は、コンデンサC-5に蓄積されている電力を放電するようになる。このため、コンデンサ電圧Vc-5は、放電に伴って下降(減少)していく。
【0062】
その後、時刻t7において、インサート数Ncellsが「3」に変化する(減少する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル162を、バイパス状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方から一番目(つまり、Vc-6)であるセル162-6を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t6において、選択したセル162-6をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-6を「0」にする。このときも、セル162-5はインサート状態であるため、引き続きコンデンサC-5に蓄積されている電力を放電し、コンデンサ電圧Vc-5は下降していく。
【0063】
その後、時刻t8において、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5が閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50は、セル162-5をバイパス状態にさせるために、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を、バイパス状態にさせたセル162-5の代わりにインサート状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から一番目(つまり、Vc-1)であるセル162-1を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t8において、セル162-5をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-5を「0」にする。これにより、セル162-5からの放電が停止され、セル162-5が備えるコンデンサC-5からの放電が継続されることによって、
図4において破線で示したように、コンデンサ電圧Vc-5が閾値Vc-minを大幅に下回ってしまうことがなくなる。つまり、コンデンサ電圧Vc-5は、
図4において実線で示したように、閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。さらに、変換器制御部50は、時刻t8において、選択したセル162-1をインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-1を「1」にする。これにより、セル162-1のコンデンサ電圧が代替として出力され、アーム電圧Varmが、アーム電圧指令値Varm*に従った理想的な階段状の波形からずれる(誤差を含む)ものになってしまうことがなくなる。
【0064】
その後、時刻t9において、インサート数Ncellsが「2」に変化する(減少する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル162を、バイパス状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいて低い方から一つ目と二つ目のコンデンサ電圧Vcである二つのセル162をすでに選択しているため、次に低いコンデンサ電圧Vc(つまり、三番目に低いVc-4)であるセル162-4を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t9において、選択したセル162-4をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-4を「0」にする。なお、時刻t9において変換器制御部50は、時刻t8においてバイパス状態にさせたセル162-5の代わりにインサート状態にさせたセル162-1を選択し、バイパス状態にするようにしてもよい。このときも、セル162-5はバイパス状態であるため、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0065】
その後、時刻t10~時刻t11において、インサート数Ncellsが順次、「1」、「0」と変化する(減少する)ごとに、変換器制御部50は、時刻t7と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方から四番目、六番目(つまり、Vc-3、Vc-1)であるセル162を順次選択し、選択したセル162をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtpを「0」にする。より具体的には、変換器制御部50は、時刻t10においてセル162-3を選択してゲート信号gtp-3を「0」にし、時刻t11においてセル162-1を選択してゲート信号gtp-1を「0」にする。このときも、セル162-5はバイパス状態であるため、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0066】
その後、時刻t12において、ソートリストが更新される。ここでは、更新されたソートリストも、降順に並べ替えたコンデンサ電圧Vcの電圧値の順番が、更新前のソートリストと同じであるものとしている。
【0067】
その後、時刻t13において、インサート数Ncellsが「1」に変化する(増加する)と、変換器制御部50は、このときのアーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を、インサート状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から一番目(つまり、Vc-1)であるセル162-1を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t13において、選択したセル162-1をインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-1を「1」にする。このときも、セル162-5はバイパス状態であるため、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0068】
その後、時刻t14~時刻t15において、インサート数Ncellsが順次、「2」、「3」と変化する(増加する)ごとに、変換器制御部50は、時刻t13と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から二番目、三番目(つまり、Vc-2、Vc-3)であるセル162を順次選択し、選択したセル162をインサート状態にさせるために、ゲート信号gtpを「1」にする。より具体的には、変換器制御部50は、時刻t14においてセル162-2を選択してゲート信号gtp-2を「1」にし、時刻t15においてセル162-3を選択してゲート信号gtp-3を「1」にする。このときも、セル162-5はバイパス状態であるため、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0069】
このように、変換器制御部50は、インサート数Ncellsが変化する(増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電流Iarmの極性に基づいて、放電極性か充電極性かを判定し、ソートリストを参照して、制御状態をインサート状態あるいはバイパス状態にさせるセル162を選択して、選択したセル162のゲート信号gtpを制御する。このとき、いずれかのセル162においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合(閾値Vc-maxを上回った場合)、あるいは閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)、変換器制御部50は、バランス制御を行う。つまり、変換器制御部50は、ソートリストの演算(生成)タイミングや、スイッチング制御のタイミングに関わらずに、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合に、バランス制御を行う。バランス制御において変換器制御部50は、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル162を、バイパス状態にさせる。これにより、バイパス状態にされたセル162は、コンデンサCへの充電、あるいはコンデンサCからの放電を停止する。そして、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル162の中から、バイパス状態にさせたセル162の代替とするセル162を選択してインサート状態にさせる。これにより、電力変換器10では、セル162が備えるコンデンサCが今以上に充電あるいは放電が行われないようになり(過充電や過放電となることなく)、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。
図4に示した電力変換装置1の第1の動作では、時刻t8において、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5が閾値Vc-minを超えた場合を示したが、変換器制御部50におけるバランス制御は、他のセル162についても同様である。
図4に示した電力変換装置1の第1の動作では、時刻t8において、セル162-5の代替としてセル162-1を選択する場合を示したが、代替としての選択は、他のセル162についても同様である。
図4に示した電力変換装置1の第1の動作では、変換器制御部50におけるバランス制御が、セル162-5のコンデンサ電圧Vc-5が閾値Vc-minを超えた場合におけるバランス制御を示したが、アームユニット16が備えるいずれかのセル162のコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合におけるバランス制御も、上述した第1の動作のバランス制御と等価なものになるようにすればよい。
【0070】
[電力変換装置の第2の動作]
前述した第1の動作では、変換器制御部50が1パルス制御を行う場合を示したが、変換器制御部50は、複パルス制御を行うこともできる。次に、電力変換装置1の別の動作(変換器制御部50におけるバランス制御の別の一例)として、変換器制御部50が複パルス制御を行う場合の動作について説明する。
【0071】
図5は、電力変換装置1における第2の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャートである。
図5に示した第2の動作も、
図4に示した第1の動作と同様に、アームユニット16が備えるセル162が六つ(n=6)である場合の動作である。インサート数Ncellsは、例えば、アーム電圧指令値Varm*に基づく変調波と、アームユニット16に属するセル162の数(ここでは「6」)と同数で互いに位相やレベルがシフトされたそれぞれの三角波キャリアを比較し、アーム電圧指令値Varm*(変調波)の値が三角波キャリアの値を上回る三角波キャリア波の個数として算出したものである。第2の動作では、変換器制御部50が、アーム電圧指令値Varm*の1周期内にアームユニット16に属するセル162を複数回制御する複パルス制御を行うため、
図5に示した電力変換装置1の動作タイミングは、アーム電圧指令値Varm*の1周期内の一部の範囲を拡大して示している。
【0072】
図5に示した第2の動作は、例えば、アーム電流Iarmの極性が負極性(Iarm<0)である放電極性(放電期間)において、インサート数Ncellsが表すインサート状態のセル162の数が「2」から「1」に変化する前の「2」である期間中、つまり、インサート状態のセル262の数が「2」で変化していない期間に、バランス制御を行う場合の一例である。
図5に示した第2の動作では、ソートリスト演算部54が、
図4に示した第1の動作よりも短い演算周期TS2でソートリストを生成するものとしている。ただし、
図5に示した第2の動作でも、演算周期TS2は、取得周期TS1よりも長い時間間隔の周期(TS2>TS1)である。
図5には、アームユニット16が備えるセル162-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)における変換器制御部50のバランス制御の一例を示している。
【0073】
図5に示した時刻t0では、インサート数Ncellsは「2」である。このため、変換器制御部50は、ソートリストを参照し、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を、インサート状態にさせるセル162として選択している。より具体的には、変換器制御部50は、ソートリストにおいて高い方から二つのコンデンサ電圧Vc(Vc-1およびVc-3)であるセル162-1と、セル162-3とを選択している。このため、
図5に示した時刻t0では、変換器制御部50が、選択した二つのセル162をインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-1およびゲート信号gtp-3のそれぞれを「1」にしている。このため、セル162-3は、コンデンサC-3に蓄積されている電力が放電され、コンデンサ電圧Vc-3は、放電に伴って下降(減少)していく。
【0074】
その後、時刻t1において、セル162-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50は、セル162-3をバイパス状態にさせるために、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル162を、バイパス状態にさせたセル162-3の代わりにインサート状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から三番目(つまり、Vc-2)であるセル162-2を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t1において、セル162-3をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-3を「0」にする。これにより、セル162-3からの放電が停止され、セル162-3が備えるコンデンサC-3からの放電が継続されることによって、
図5において破線(ソートリスト更新に合わせてのみバランス制御を実行する場合)で示したように、コンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを大幅に下回ってしまうことがなくなる。つまり、コンデンサ電圧Vc-3は、
図5において実線で示したように、閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。さらに、変換器制御部50は、時刻t1において、選択したセル162-2をインサート状態にさせるために、ゲート信号gtp-2を「1」にする。これにより、セル162-2のコンデンサ電圧が代替として出力され、アーム電圧Varmは維持されることになる。
【0075】
その後、時刻t2において、ソートリストが更新される。ここでは、セル162-3のコンデンサ電圧Vc-3が最も低いコンデンサ電圧Vcとなったソートリストに更新されたものとしている。
【0076】
その後、時刻t3において、インサート数Ncellsが「1」に変化する(減少する)と、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル162を、バイパス状態にさせるセル162として選択する。ここでは、変換器制御部50は、インサート状態にしているセル162-1とセル162-2とのうち、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方(つまり、Vc-2)であるセル162-2を選択する。そして、変換器制御部50は、時刻t3において、選択したセル162-2をバイパス状態にさせるために、ゲート信号gtp-2を「0」にする。このときも、セル162-3はバイパス状態であるため、セル162-3のコンデンサ電圧Vc-3は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0077】
このように、変換器制御部50は、第2の動作(複パルス制御)においても、
図4に示した第1の動作(1パルス制御)と同様に、インサート数Ncellsが変化する(増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電流Iarmの極性に基づいて、放電極性か充電極性かを判定し、ソートリストを参照して、制御状態をインサート状態あるいはバイパス状態にさせるセル162を選択して、選択したセル162のゲート信号gtpを制御する。このとき、第2の動作においても、いずれかのセル162においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合(閾値Vc-maxを上回った場合)、あるいは閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)、変換器制御部50は、バランス制御を行う。つまり、第2の動作においても、変換器制御部50は、ソートリストの演算(生成)タイミングや、スイッチング制御のタイミングに関わらずに、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合に、バランス制御を行う。第2の動作のバランス制御においても、変換器制御部50は、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル162を、バイパス状態にさせる。これにより、第2の動作においても、バイパス状態にされたセル162は、コンデンサCへの充電、あるいはコンデンサCからの放電を停止する。そして、第2の動作においても、変換器制御部50は、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル162の中から、バイパス状態にさせたセル162の代替とするセル162を選択してインサート状態にさせる。これにより、第2の動作においても、電力変換器10では、セル162が備えるコンデンサCが今以上に充電あるいは放電が行われないようになり(過充電や過放電となることなく)、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。
図5に示した電力変換装置1の第2の動作では、時刻t1において、セル162-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合を示したが、変換器制御部50におけるバランス制御は、他のセル162についても同様である。
図5に示した電力変換装置1の第2の動作では、時刻t1において、セル162-3の代替としてセル162-2を選択する場合を示したが、代替としての選択は、他のセル162についても同様である。
図5に示した電力変換装置1の第2の動作では、変換器制御部50におけるバランス制御が、セル162-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合におけるバランス制御を示したが、アームユニット16が備えるいずれかのセル162のコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合におけるバランス制御も、上述した第2の動作のバランス制御と等価なものになるようにすればよい。
【0078】
このような構成および動作によって、電力変換装置1では、変換器制御部50が、電力変換器10が備えるそれぞれのアームユニット16について、セル162のインサート数Ncellsが変化する(増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電流Iarmの極性に基づいて、放電極性か充電極性かを判定する。そして、電力変換装置1では、変換器制御部50が、それぞれのアームユニット16ごとに演算(生成)したソートリストを参照して、制御状態をインサート状態あるいはバイパス状態にさせるセル162を選択して、選択したセル162の制御状態を変更する。このとき、いずれかのセル162においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50は、そのセル162をバイパス状態にさせ、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル162の中から代替のセル162を選択してインサート状態にさせる。これにより、電力変換装置1では、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル162が備えるコンデンサCの過充電や過放電を防止することができ、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。これにより、電力変換装置1では、電力変換器10において、セル162が備えるコンデンサCやスイッチング素子Qの故障リスクを低減することができ、例えば、系統事故などが発生した際も、コンデンサ電圧Vcが過電圧や不足電圧に至ることによって電力変換器10の保護装置が動作して運転を停止してしまうなどの状態に至るリスクを軽減することができる。このことにより、電力変換装置1では、系統事故が発生した際の運転の継続性能を向上させた、信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0079】
上記説明したように、第1の実施形態の電力変換装置1では、変換器制御部50が、電力変換器10が備えるそれぞれのアームユニット16について、セル162のインサート数Ncellsが変化する(増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電流Iarmの極性に基づいて、放電極性か充電極性かを判定する。そして、第1の実施形態の電力変換装置1では、変換器制御部50が、それぞれのアームユニット16ごとに演算(生成)したソートリストを参照して、制御状態をインサート状態あるいはバイパス状態にさせるセル162を選択して、選択したセル162の制御状態を変更する。このとき、第1の実施形態の電力変換装置1では、いずれかのセル162においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50は、そのセル162をバイパス状態にさせ、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル162の中から代替のセル162を選択してインサート状態にさせる。これにより、第1の実施形態の電力変換装置1では、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル162が備えるコンデンサCの過充電や過放電を防止することができ、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。これにより、第1の実施形態の電力変換装置1では、電力変換器10において、セル162が備えるコンデンサCやスイッチング素子Qの故障リスクを低減することができ、例えば、系統事故などが発生した際も、コンデンサ電圧Vcが過電圧や不足電圧に至ることによって電力変換器10の保護装置が動作して運転を停止してしまうなどの状態に至るリスクを軽減することができる。このことにより、第1の実施形態の電力変換装置1では、系統事故が発生した際の運転の継続性能を向上させた、信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0080】
上述した第1の実施形態の電力変換装置1では、電力変換器10が、例えば、交流系統と直流系統との連系点に設けられ、変換器制御部50からの制御に応じて、交流系統が供給する交流電力と、直流系統が供給する直流電力とを相互に変換する二重スター結線型MMCである場合について説明した。しかし、電力変換器10は、他の構成の電力変換器であってもよい。
【0081】
(第2の実施形態)
[電力変換装置の構成]
以下、第2の実施形態について説明する。
図6は、第2の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図である。
図6には、例えば、交流系統に接続され、交流系統の無効電力を調整する電力変換装置2の一例を示している。電力変換装置2は、例えば、後述するセル262に、蓄電池などのエネルギー蓄積要素を備える構成である場合は、交流系統の有効電力を調整するものとなり得る。交流系統は、第1の実施形態と同様に、例えば、交流電源や交流負荷であってもよい。電力変換装置2は、電力変換器20と、変換器制御部50aと、を備える。
図6においては、第1の実施形態の電力変換装置1と同様の機能を有する構成要素については同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0082】
電力変換器20は、変換器制御部50aからの制御に応じて、交流電力を変換する単一デルタ結線型モジュラー・マルチレベル変換器(MMC)である。電力変換器20は、交流系統の線間に、複数のレグ22を備える。電力変換器20が備えるレグ22の数は、交流系統が供給する交流電力の相の線間数に対応する数である。
図6には、交流系統が、第1相(R相)、第2相(S相)、および第3相(T相)の三相の交流電力を供給する場合を示している。このため、
図6には、レグ22-RSと、レグ22-STと、レグ22-TRとの三つのレグ22を備える電力変換器20の構成を示している。レグ22-RS、レグ22-ST、およびレグ22-TRのそれぞれは、同じ構成である。
【0083】
それぞれのレグ22では、交流端子CAが、交流系統のいずれかの相の端子に接続され、交流端子CBが、交流系統において交流端子CAに接続された相とは異なる他のいずれかの相の端子に接続される。より具体的には、R相とS相との相間に対応するレグ22-RSでは、交流端子CA-Rが交流系統のR相の交流端子Rに接続され、交流端子CB-Sが交流系統のS相の交流端子Sに接続される。S相とT相との相間に対応するレグ22-STでは、交流端子CA-Sが交流系統の交流端子Sに接続され、交流端子CB-Tが交流系統のT相の交流端子Tに接続される。T相とR相との相間に対応するレグ22-TRでは、交流端子CA-Tが交流系統の交流端子Tに接続され、交流端子CB-Rが交流系統の交流端子Rに接続される。
図6には、それぞれのレグ22の交流端子CAが、トランスTRを介して、交流系統の対応する相の端子に接続されている場合を示している。
【0084】
それぞれのレグ22は、例えば、リアクトル14と、アームユニット26と、を備える。それぞれのアームユニット26は、例えば、直列に接続されたn個(nは、自然数)のセル262(セル262-1~セル262-n)を備える。
図6においては、レグ22が備えるそれぞれの構成要素が、交流系統のいずれの相、またはいずれの相間に対応する構成要素であるかを区別するため、それぞれの符号の後に「-(ハイフン)」と、R相を表す文字「R」、S相を表す文字「S」、T相を表す文字「T」、R相とS相との相間を表す文字「RS」、S相とT相との相間を表す文字「ST」、あるいはT相とR相との相間を表す文字「TR」を付している。以下の説明においては、それぞれの構成要素が、交流系統のいずれの相、またはいずれの相間に対応する構成要素であるかを区別しない場合には、それぞれの構成要素の符号に付したハイフンとハイフンに続く識別のための文字を省略する。
【0085】
それぞれのレグ22では、アームユニット26の交流端子CA側にリアクトル14が直列に接続されている。そして、それぞれのレグ22では、リアクトル14においてアームユニット26と接続されていない側の一端が、交流端子CAとなっている。それぞれのレグ22では、アームユニット26におけるリアクトル14と反対側の端子がレグ22の交流端子CBとなっている。言い換えれば、それぞれのレグ22では、交流端子CA側から交流端子CB側に向かって、リアクトル14、およびセル262-1~セル262-nが、この順番に直列接続されて交流端子CAに接続されている。
【0086】
レグ22は、特許請求の範囲における「相ユニット」の一例である。アームユニット26(リアクトル14を含んでもよい)は、特許請求の範囲における「アームユニット」の一例である。セル262は、特許請求の範囲における「単位変換器」の一例である。リアクトル14は、特許請求の範囲における「インダクタンス要素」の一例である。
【0087】
図6では、それぞれのレグ22において、リアクトル14が、アームユニット26の交流端子CA側に配置されている場合を示しているが、リアクトル14は、アームユニット26の交流端子CA側とは反対側(つまり、交流端子CB側)や、アームユニット26内の任意の位置(つまり、アームユニット26において直列接続されているいずれか二つのセル262の間の位置)に配置されてもよい。リアクトル14は、リアクトルの機能を代替するだけの漏れリアクタンスを有する特殊な巻線構造のトランスに置き換えられてもよい。この場合、リアクトル14は、トランスTRと一体化されてもよい。
【0088】
それぞれのアームユニット26は、直列接続されたそれぞれのセル262に対する変換器制御部50aからの制御に応じて、交流系統の対応する相間に供給する交流波形を表す階段状の正弦波(マルチレベル波形)の交流電圧を生成する。
【0089】
ここで、アームユニット26が備えるセル262の構成の一例について説明する。セル262は、例えば、フルブリッジ回路である。
図7は、電力変換器20が備えるレグ22内のセル262の構成の一例を示す図である。セル262は、四つのスイッチング素子Q(スイッチング素子Q1~スイッチング素子Q4)と、四つのダイオードD(ダイオードD1~ダイオードD4)と、コンデンサCと、を備える。スイッチング素子Qは、第1の実施形態のセル162が備えるスイッチング素子Qと同様に、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)である。従って、スイッチング素子Qは、IGBTに限定されず、コンバータまたはインバータを実現可能な自己消弧型の半導体スイッチング素子であれば、いかなる素子であってもよい。
【0090】
セル262では、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とが互いに直列に接続され、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とが互いに直列に接続されている。そして、セル262では、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との直列回路と、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との直列回路と、コンデンサCとが、互いに並列に接続されている。セル262では、それぞれのスイッチング素子Qと対応するダイオードDとが、互いに並列に接続されている。セル262では、スイッチング素子Q1のエミッタとスイッチング素子Q2のコレクタとの接続点が、レグ22において交流端子CA側に接続される正極端子TP(+)となり、スイッチング素子Q3のエミッタとスイッチング素子Q4のコレクタとの接続点が、レグ22において交流端子CB側に接続される負極端子TN(-)となっている。
【0091】
セル262が備えるスイッチング素子Q1~スイッチング素子Q4のそれぞれのゲートには、変換器制御部50aからの制御信号が入力される(制御電圧が印加される、または制御電流が供給される)。スイッチング素子Q1のゲートには、変換器制御部50aからの制御信号としてゲート信号gtaが入力され、スイッチング素子Q2のゲートには、変換器制御部50aからの制御信号としてゲート信号gtbが入力され、スイッチング素子Q3のゲートには、変換器制御部50aからの制御信号としてゲート信号gtcが入力され、スイッチング素子Q4のゲートには、変換器制御部50aからの制御信号としてゲート信号gtdが入力される。これにより、スイッチング素子Q1~スイッチング素子Q4のそれぞれは、変換器制御部50aによってオン状態またはオフ状態のいずれかの状態に切り替えられる。以下の説明においては、「1(“High”レベル)」の制御信号(ゲート信号gta、ゲート信号gtb、ゲート信号gtc、およびゲート信号gtd)が入力されるとそれぞれのスイッチング素子Qがオン状態となり、「0(“Low”レベル)」の制御信号(ゲート信号gta、ゲート信号gtb、ゲート信号gtc、およびゲート信号gtd)が入力されるそれぞれのスイッチング素子Qがオフ状態となるものとする。
【0092】
コンデンサCは、それぞれのスイッチング素子Qの状態に応じて、充電され、または放電する。セル262では、コンデンサCの端子間電圧(コンデンサ電圧Vc)が、セル262の正極端子TPと負極端子TNとの間の端子間電圧(セル電圧Vo)として生じる。より具体的には、変換器制御部50aが、制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(1,0,0,1)にすると、例えば、正極端子TP、スイッチング素子Q1、コンデンサC、スイッチング素子Q4、負極端子TNの順に電流が流れて、セル262のセル電圧Voはコンデンサ電圧Vcと一致する。つまり、変換器制御部50aが制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(1,0,0,1)にすることにより、セル262の正極端子TPと負極端子TNとの間にコンデンサCが挿入されて、コンデンサ電圧Vcがセル電圧Voとして出力される。以下の説明においては、変換器制御部50aが制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(1,0,0,1)にすることを「正電圧インサート」といい、この場合のセル262の状態を「正電圧インサート状態」という。一方、変換器制御部50aが、制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(0,1,1,0)にすると、例えば、正極端子TP、スイッチング素子Q2、コンデンサC、スイッチング素子Q3、負極端子TNの順に電流が流れて、セル262のセル電圧Voはコンデンサ電圧Vcの反転と一致する。つまり、変換器制御部50aが制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(0,1,1,0)にすることにより、セル262の正極端子TPと負極端子TNとの間にコンデンサCが逆方向に挿入されて、マイナスのコンデンサ電圧Vcがセル電圧Voとして出力される。以下の説明においては、変換器制御部50aが制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(0,1,1,0)にすることを「負電圧インサート」といい、この場合のセル262の状態を「負電圧インサート状態」という。さらに、変換器制御部50aが、制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(1,0,1,0)、あるいは(0,1,0,1)にすると、例えば、正極端子TP、ダイオードD1、スイッチング素子Q3、負極端子TNの順、あるいは正極端子TP、スイッチング素子Q2、ダイオードD4、負極端子TNの順に電流が流れて、セル262のセル電圧Voは0[V]となる。つまり、変換器制御部50aが制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(1,0,1,0)、あるいは(0,1,0,1)にすることにより、セル262の正極端子TPと負極端子TNとが短絡され、コンデンサCを通らずに電流が流れることによって、セル262のセル電圧Voは0[V]となる。以下の説明においては、変換器制御部50aが制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(1,0,1,0)、あるいは(0,1,0,1)にすることを「バイパス」といい、この場合のセル262の状態を「バイパス状態」という。
【0093】
セル262は、
図7に示した構成に限定されるものではなく、セル262と同様の機能を実現する構成であれば、いかなる構成のものであってもよい。
【0094】
スイッチング素子Q1およびダイオードD1は、特許請求の範囲における「スイッチング素子」および「第1のスイッチング素子」の一例であり、スイッチング素子Q2およびダイオードD2は、特許請求の範囲における「スイッチング素子」および「第2のスイッチング素子」の一例であり、スイッチング素子Q3およびダイオードD3は、特許請求の範囲における「スイッチング素子」および「第3のスイッチング素子」の一例であり、スイッチング素子Q4およびダイオードD4は、特許請求の範囲における「スイッチング素子」および「第4のスイッチング素子」の一例である。スイッチング素子Q1とダイオードD1の並列回路と、スイッチング素子Q2とダイオードD2の並列回路との直列回路とは、特許請求の範囲における「第1の直列回路」の一例であり、スイッチング素子Q3とダイオードD3の並列回路と、スイッチング素子Q4とダイオードD4の並列回路との直列回路とは、特許請求の範囲における「第2の直列回路」の一例である。オン状態は、特許請求の範囲における「導通状態」の一例であり、オフ状態は、特許請求の範囲における「非導通状態」の一例である。コンデンサCは、特許請求の範囲における「エネルギー蓄積要素」の一例である。正極端子TPは、特許請求の範囲における「第1端」の一例であり、負極端子TNは、特許請求の範囲における「第2端」の一例である。正電圧インサート状態は、特許請求の範囲における「第1の第1制御状態」の一例であり、負電圧インサート状態は、特許請求の範囲における「第2の第1制御状態」の一例であり、バイパス状態は、特許請求の範囲における「第2制御状態」の一例である。
【0095】
このような構成のセル262が直列に複数接続されることにより、アームユニット26は、インサート状態(正電圧インサート状態や、負電圧インサート状態)に制御されたそれぞれのセル262のセル電圧Voが加算された電圧を出力する。従って、アームユニット26は、変換器制御部50aによってインサート状態(正電圧インサート状態や、負電圧インサート状態)に制御されたセル262の数に応じた電圧を出力する。これにより、アームユニット26は、変換器制御部50aからの制御に応じたマルチレベル波形を生成する。セル262は、第1の実施形態のセル162の代わりに、第1の実施形態の電力変換器10が備えるそれぞれのアームユニット16に備えられてもよい。
【0096】
ところで、セル262では、制御信号(gta,gtb)=(1,1)、または制御信号(gtc,gtd)=(1,1)にすることは禁止されるべきである。これは、制御信号(gta,gtb)=(1,1)にすると、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との両方がオン状態となり、制御信号(gtc,gtd)=(1,1)にすると、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との両方がオン状態となり、いずれの場合もコンデンサCの両端が短絡されてしまうからである。このため、変換器制御部50aは、制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)を、(1,0,0,1)、(0,1,1,0)、(1,0,1,0)、および(0,1,0,1)の間で切り替える(変更する)際に、ごく短時間の間、過渡的に制御信号(gta,gtb)=(0,0)または制御信号(gtc,gtd)=(0,0)の状態となる期間(いわゆるデッドタイム)を設けるように制御する。変換器制御部50aは、セル262の動作を停止させる場合、制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)=(0,0,0,0)に固定してもよい。以下の説明においては、変換器制御部50aが全ての制御信号(gta,gtb,gtc,gtd)を(0,0,0,0)に固定して電力変換器20が備えるアームユニット26の全てのセル262の動作を停止させることを「ゲートブロック」といい、この場合のセル262の状態を「ゲートブロック状態」という。
【0097】
図6に戻り、変換器制御部50aは、第1の実施形態の電力変換装置1が備える変換器制御部50と同様に、電力変換装置2の運転状態や、電力変換装置2内の各位置の検出値(電流値や、電流が流れる方向(極性)、電圧値)に基づいて、交流系統の周波数を含む交流電圧指令値を算出する。このため、変換器制御部50aは、変換器制御部50と同様に、例えば、電力変換装置2内外の所望の位置に設けられた検出器(後述)により出力された検出値を、所定(一定)の取得周期TS1ごとに取得する。そして、変換器制御部50aは、算出した交流電圧指令値が表す電圧成分を含む、アームユニット26ごとの電圧指令値を求める。変換器制御部50aは、求めた電圧指令値に基づいて、それぞれのアームユニット26が備えるセル262内のスイッチング素子Qをスイッチング制御するための制御信号を生成する。そして、変換器制御部50aは、生成した制御信号を、対応するセル262に出力する。例えば、変換器制御部50aは、交流系統のR相とS相との相間のアームユニット26であるアームユニット26-RSを制御する場合、交流端子CA-Rと交流端子CB-Sとの間に出力させるアーム電圧Varm-Rに対応したアーム電圧指令値Varm*を算出する。以降の説明では、アーム電圧Varmおよびアーム電圧指令値Varm*の正極性を、セル262-n側からみてセル262-1側の電位が高くなる向きに定義する。そして、変換器制御部50aは、算出したアーム電圧指令値Varm*に基づいて、アームユニット26-RSが備えるそれぞれのセル262(セル262-1-RS~262-n-RS)内のそれぞれのスイッチング素子Qを制御するためのゲート信号gta(ゲート信号gta-1-RS~gta-n-RS)、ゲート信号gtb(ゲート信号gtb-1-RS~gtb-n-RS)、ゲート信号gtc(ゲート信号gtc-1-RS~gtc-n-RS)、およびゲート信号gtd(ゲート信号gtd-1-RS~gtd-n-RS)を生成する。変換器制御部50aは、生成したゲート信号gta、ゲート信号gtb、ゲート信号gtc、およびゲート信号gtdのそれぞれを、対応するセル262に出力する。変換器制御部50aがその他のアームユニット16を制御する場合も同様である。変換器制御部50aは、例えば、インサート数演算部52aと、ソートリスト演算部54aと、セル選択制御部56aと、ゲート信号生成部58aと、を備える。
【0098】
変換器制御部50aは、例えば、CPUなどのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで電力変換器20の動作を制御する。変換器制御部50aは、LSIやASIC、FPGA、GPUなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。変換器制御部50aは、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め変換器制御部50aあるいは電力変換装置2が備えるHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が変換器制御部50aあるいは電力変換装置2が備えるドライブ装置に装着されることで変換器制御部50aあるいは電力変換装置2が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0099】
電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、所望の位置に電流検出器や電圧検出器が設けられ、電流値や、電流の極性、電圧値が検出される。
図6の例では、それぞれのレグ22内に、交流端子CA側から交流端子CB側に流れるアーム電流Iを検出するための電流検出器が設けられている場合を示している。より具体的に、レグ22-RSには、リアクトル14-RSとアームユニット26-RSとの間に、交流端子CA-R側から交流端子CB-S側に流れるアーム電流Irsを検出するための電流検出器が設けられている。その他のレグ22も同様である。
図7では図示していないが、それぞれのセル262にも、コンデンサ電圧Vcを検出するための電圧検出器が設けられている。R相の交流電流Irと、S相の交流電流Isと、T相の交流電流Itとのそれぞれは、交流端子R、交流端子S、および交流端子Tに電流検出器を設けて直接的に検出されてもよいが、それぞれのレグ22において検出したアーム電流Iを演算することによって間接的に検出されてもよい。例えば、R相の交流電流Irは、R相とS相との相間のアーム電流Irsと、T相とR相との相間のアーム電流Itrとの差(つまり、Irs-Itr)を演算することによって間接的に検出されてもよい。さらに、
図6には、電圧検出器の図示は省略しているが、R相の交流電圧Vsr、S相の交流電圧Vss、およびT相の交流電圧Vstを検出している場合を示している。
【0100】
変換器制御部50aは、第1の実施形態の電力変換装置1が備えるアームユニット16が、電力変換装置2ではアームユニット26に代わることにより、出力する制御信号(ゲート信号)が、アームユニット26が備えるそれぞれのセル262に対応するものとなる。しかし、変換器制御部50aの構成は、
図3に示した第1の実施形態の電力変換装置1が備える変換器制御部50の構成と同様である。従って、電力変換装置2が備える変換器制御部50aの構成の一例の図示は省略し、以下に、第1の実施形態の変換器制御部50が備えるそれぞれの構成要素と、変換器制御部50aが備えるそれぞれの構成要素とにおける異なる動作について説明する。
【0101】
インサート数演算部52aは、第1の実施形態のインサート数演算部52と同様の処理を行う。インサート数演算部52aは、アーム電圧指令値Varm*に基づいて、それぞれのアームユニット26ごとのインサート数Ncellsを演算(算出)する。ただし、インサート数演算部52aは、インサート数演算部52とは異なり、インサート状態が、正電圧インサート状態であるか負電圧インサート状態であるかを表す情報を含むインサート数Ncellsを、それぞれのアームユニット26ごとに演算(算出)する。より具体的には、例えば、インサート数演算部52aは、アームユニット26が備えるセル262のうち、インサート状態に割り当てる(インサート状態にさせる)セル162の数(整数値、絶対値)および正電圧インサート状態とするか負電圧インサート状態とするか(極性、符号)を表す符号付インサート数Ncellsを演算(算出)する。インサート数演算部52aも、インサート数演算部52と同様に、インサート数Ncellsの演算(算出)によって、1パルス制御や、複パルス制御を行う。インサート数演算部52aは、算出したインサート数Ncellsを、セル選択制御部56aに出力する。インサート数演算部52aは、特許請求の範囲における「状態数演算部」の一例である。
【0102】
ソートリスト演算部54aは、第1の実施形態のソートリスト演算部54と同様の処理を行う。ソートリスト演算部54aは、電力変換器20が備えるそれぞれのセル262のコンデンサ電圧Vcの大小関係を表すソートリストを、それぞれのアームユニット26ごとに演算(生成)する。ソートリスト演算部54aも、取得周期TS1よりも長い、所定(一定)の演算周期TS2(TS2>TS1)ごとに、ソートリストを生成する。ソートリスト演算部54aにおけるソートリストの生成方法も、ソートリスト演算部54と同様である。ソートリスト演算部54aは、生成したソートリストを、セル選択制御部56aに出力する。ソートリスト演算部54aは、特許請求の範囲における「リスト演算部」の一例である。
【0103】
セル選択制御部56aは、第1の実施形態のセル選択制御部56と同様の処理を行う。セル選択制御部56aは、少なくともインサート数演算部52aにより出力されたインサート数Ncellsが変化したタイミングごと、つまり、セル262を制御する(正電圧インサート状態、負電圧インサート状態、およびバイパス状態にさせる)制御タイミングごとに、ソートリストを参照して、現在のセル制御状態CL*を変更する対象のセル262を選択する。
【0104】
セル選択制御部56aは、インサート数Ncellsの絶対値が増加した場合において、アーム電圧指令値Varm*とアーム電流Iarmの極性の組み合わせから、インサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)になっているセル262のコンデンサCに電力を蓄積させて、アームユニット26全体の充電量を増加させる充電極性である期間(充電期間)では、現在バイパス状態であるセル262の中から、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を優先してインサート状態に変更するセル262として選択する。この場合、セル選択制御部56aは、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に低いコンデンサCを備えるセル262から順に選択し、選択したセル262を表すセル制御状態CL*を生成する。充電極性は、(1)アーム電圧指令値Varm*が、
図6に示したセル262-1側の電位がセル262-n側に対して高くなる極性、かつ、アーム電流Iarmが、
図6に示したアーム電流Iと同じ方向に流れる極性である場合、もしくは、(2)アーム電圧指令値Varm*が、
図6に示したセル262-1側の電位がセル262-n側に対して低くなる極性、かつ、アーム電流Iarmが、
図6に示したアーム電流Iとは逆の方向に流れる極性である場合に該当する。一方、セル選択制御部56aは、インサート数Ncellsの絶対値が増加した場合において、アーム電圧指令値Varm*とアーム電流Iarmの極性の組み合わせから、インサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)になっているセル262のコンデンサCに蓄積されている電力を放電させて、アームユニット26全体の放電量を増加させる放電極性である期間(放電期間)では、現在バイパス状態であるセル262の中から、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル262を優先してインサート状態に変更するセル262として選択する。この場合、セル選択制御部56aは、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に高いコンデンサCを備えるセル262から順に選択し、選択したセル262を表すセル制御状態CL*を生成する。放電極性は、(1)アーム電圧指令値Varm*が、
図6に示したセル262-1側の電位がセル262-n側に対して高くなる極性、かつ、アーム電流Iarmが、
図6に示したアーム電流Iとは逆の方向に流れる極性である場合、もしくは、(2)アーム電圧指令値Varm*が、
図6に示したセル262-1側の電位がセル262-n側に対して低くなる極性、かつ、アーム電流Iarmが、
図6に示したアーム電流Iの方向に流れる極性である場合に該当する。
【0105】
セル選択制御部56aは、インサート数Ncellsの絶対値が減少した場合において、アーム電圧指令値Varm*とアーム電流Iarmの極性の組み合わせから、インサート状態になっているセル262のコンデンサCに電力を蓄積させて、アームユニット26全体の充電量を増加させる充電極性である期間(充電期間)では、現在インサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)であるセル262の中から、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル262を優先してバイパス状態に変更するセル262として選択する。この場合、セル選択制御部56aは、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に高いコンデンサCを備えるセル262から順に選択し、選択したセル262を表すセル制御状態CL*を生成する。一方、セル選択制御部56aは、インサート数Ncellsの絶対値が減少した場合において、アーム電圧指令値Varm*とアーム電流Iarmの極性の組み合わせから、インサート状態になっているセル262のコンデンサCに蓄積されている電力を放電させて、アームユニット26全体の放電量を増加させる放電極性である期間(放電期間)では、現在インサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)であるセル262の中から、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を優先してバイパス状態に変更するセル262として選択する。この場合、セル選択制御部56aは、ソートリストを参照して、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に低いコンデンサCを備えるセル262から順に選択し、選択したセル262を表すセル制御状態CL*を生成する。
【0106】
これにより、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に高いコンデンサCを備えるセル262は、優先的に充電時間が短く、放電時間が長くされるため、アームユニット26が備えるそれぞれのセル262において、コンデンサ電圧Vcが均一化されることになる。一方、コンデンサ電圧Vcの電圧値が相対的に低いコンデンサCを備えるセル262は、優先的に充電時間が長く、放電時間が短くされるため、同様に、アームユニット26が備えるそれぞれのセル262において、コンデンサ電圧Vcが均一化されることになる。
【0107】
セル選択制御部56aも、第1の実施形態のセル選択制御部56と同様に、アームユニット26が備えるそれぞれのセル262において、コンデンサCの充電量の差を少なくさせる(充電量が相対的に均一になるようにバランスさせる)ようにバランス制御する。セル選択制御部56aにおけるバランス制御でも、セル選択制御部56と同様に、取得周期TS1ごとに、つまり、ソートリスト演算部54がソートリストを生成する演算周期TS2よりも短い周期で、同じアームユニット26に属するセル262のコンデンサ電圧Vcの電圧値を取得して、取得したそれぞれのコンデンサ電圧Vcの電圧値と、閾値Vc-max、および閾値Vc-minとを比較する。そして、セル選択制御部56aも、セル選択制御部56と同様に、比較の結果に基づいて、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル262をバイパス状態に制御し、バイパス状態のセル162の中から、同数の他のセル162を代わりに選択して、インサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)に変更する。この場合、セル選択制御部56aは、バイパス状態にさせるセル262、およびインサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)にさせるセル262を表すセル制御状態CL*を生成する。
【0108】
セル選択制御部56aは、それぞれのセル262に対応するセル制御状態CL*を、ゲート信号生成部58aに出力する。セル選択制御部56aは、特許請求の範囲における「単位変換器選択部」の一例である。取得周期TS1は、特許請求の範囲における「第1の時間間隔」の一例であり、演算周期TS2は、特許請求の範囲における「第2の時間間隔」の一例である。閾値Vc-maxは、特許請求の範囲における「第1閾値」の一例であり、閾値Vc-minは、特許請求の範囲における「第2閾値」の一例である。
【0109】
ゲート信号生成部58aは、第1の実施形態のゲート信号生成部58と同様の処理を行う。ゲート信号生成部58aは、セル選択制御部56aにより出力されたそれぞれのセル制御状態CL*に従って、それぞれのアームユニット26が備える全てのセル262に出力する制御信号(ゲート信号)を生成する。より具体的には、ゲート信号生成部58aは、セル制御状態CL*を実現するためにそれぞれのセル262が備えるスイッチング素子Q1に対応するゲート信号gtaと、スイッチング素子Q2に対応するゲート信号gtbと、スイッチング素子Q3に対応するゲート信号gtcと、スイッチング素子Q4に対応するゲート信号gtdとのそれぞれのゲート信号の組み合わせを生成する。このとき、ゲート信号生成部58aも、セル262が備えるコンデンサCの両端が短絡されてしまうことを防止するため、短時間のデッドタイムを設ける。ゲート信号生成部58aは、生成したそれぞれのゲート信号を、対応するセル262(より具体的には、セル262が備えるスイッチング素子Q)に出力する。
【0110】
電力変換装置2においても、例えば、セル選択制御部56aが、セル制御状態CL*をそれぞれのセル262に出力し、それぞれのセル262内で、セル制御状態CL*に応じたゲート信号を生成する構成にしてもよい。この場合、それぞれのセル262は、ゲート信号生成部58aと等価な機能を有する構成要素を備える構成となる。
【0111】
このような構成によって、変換器制御部50aは、電力変換器20が備えるそれぞれのアームユニット26内のセル262を制御して、電力変換器20に、交流系統の無効電力(有効電力であってもよい)を調整させる。
【0112】
[電力変換装置の第3の動作]
次に、電力変換装置2の動作、つまり、変換器制御部50aにおけるセル262の制御の一例について説明する。以下の説明においては、電力変換器20が備えるレグ22-RSと、レグ22-STと、レグ22-TRとのそれぞれのレグ22を代表して、レグ22-RSが備えるアームユニット26-RSに対する制御について説明する。以下の説明においては、説明を容易にするため、変換器制御部50aが備えるそれぞれの構成要素の動作を、変換器制御部50a自体が行うものとして説明する。
【0113】
図8は、電力変換装置2における第3の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャートである。
図8に示した電力変換装置2の動作の一例は、アームユニット26-RS(以下、単に「アームユニット26」という)が備えるセル262が、三つ(n=3)である場合の動作の一例である。
図8には、アームユニット26が備えるセル262-2のコンデンサ電圧Vc-2が閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)における変換器制御部50aのバランス制御の一例を示している。
図8には、第1の実施形態の電力変換装置1におけるそれぞれの動作と同様に、アーム電圧指令値Varm*、アーム電流Iarm、およびアーム電圧指令値Varm*に基づいてアームユニット26が生成したアーム電圧Varmの時間的な変化を、同じ時間軸に示している。
図8では、電力変換装置1におけるそれぞれの動作において示したゲート信号gtpの代わりに、変換器制御部50aにより変更されるセル262-1~セル262-3のセル制御状態CL*-1~セル制御状態CL*-3の時間的な変化を、同じ時間軸に示している。
図8には、変換器制御部50aがバランス制御をするセル262-2のコンデンサ電圧Vc(Vc-2)の模式的な変化も、同じ時間軸に示している。
図8では、電力変換装置1におけるそれぞれの動作と同様に、説明を容易にするため、デッドタイムを省略している。さらに、
図8には、変換器制御部50a(より具体的には、ソートリスト演算部54a)が演算(生成)するソートリストの一例を示している。
図8に示した第3の動作では、
図4に示した第1の実施形態の電力変換装置1における第1の動作と同様に、アーム電圧指令値Varm*の1周期ごとにソートリストが生成される(更新される)ものとしている。
図8には、コンデンサ電圧Vc-2の電圧値を取得する取得周期TS1、およびソートリストが作成される演算周期TS2の期間の一例も示している。
【0114】
電力変換器20では、アーム電圧指令値Varm*は、交流系統の周波数を含む。変換器制御部50a(より具体的には、インサート数演算部52a)は、アーム電圧指令値Varm*に基づいて、階段状の疑似的な正弦波で表されるインサート数Ncellsを演算(算出)する。
図8では、インサート数Ncellsは、最小値が「-n(ここでは「-3」)」、最大値が「n(ここでは「3」)」の整数値である。インサート数Ncellsは、プラス(つまり、「0」~「3」)で正電圧インサート状態にさせるセル262の数を表し、マイナス(つまり、「-1」~「-3」)で負電圧インサート状態にさせるセル262の数を表す。インサート数Ncellsは、例えば、アーム電圧指令値Varm*をアームユニット26に属するセル262のコンデンサ電圧Vcの平均値または定格値で除算した値を整数に近似して算出したものである。つまり、
図8に示した電力変換装置2の動作タイミングは、第1の実施形態の電力変換装置1における第1の動作と同様に、変換器制御部50aが1パルス制御を行う場合の動作タイミングである。従って、インサート数Ncellsは、電力変換装置1における第1の動作と同様に、
図8に示したアーム電圧Varmと等価なものを表している。
【0115】
変換器制御部50a(より具体的には、セル選択制御部56a)は、インサート数Ncellsが変化したタイミングごとに、アームユニット26に属するインサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)のセル262が、インサート数Ncellsが表すインサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)にさせるセル262の数(整数値)と一致するように、それぞれのセル262のセル制御状態CL*を生成する。アーム電圧指令値Varm*が正極性(Varm*>0)の場合、インサート数Ncellsは「0」以上の値となるため、変換器制御部50aは、それぞれのセル262を正電圧インサート状態、もしくはバイパス状態にさせるセル制御状態CL*を生成する。一方、アーム電圧指令値Varm*が負極性(Varm*<0)の場合、インサート数Ncellsは「0」以下の値となるため、変換器制御部50aは、それぞれのセル262を負電圧インサート状態、もしくはバイパス状態にさせるセル制御状態CL*を生成する。それぞれのセル制御状態CL*は、「1」の場合に正電圧インサート状態にさせ、「0」の場合にバイパス状態にさせ、「-1」の場合に負電圧インサート状態にさせることを表すものである。
【0116】
変換器制御部50a(より具体的には、ゲート信号生成部58a)は、セル選択制御部56aが生成したセル制御状態CL*に従って、それぞれのアームユニット26が備える全てのセル262に出力する制御信号(ゲート信号gta、ゲート信号gtb、ゲート信号gtc、およびゲート信号gtd)を生成する。そして、それぞれのアームユニット26は、ゲート信号生成部58aにより出力されたゲート信号によって、それぞれのセル262が正電圧インサート状態、バイパス状態、あるいは負電圧インサート状態にされることによって、アーム電圧Varmを出力する。アーム電圧Varmは、セル262のコンデンサ電圧Vcが均一に制御されている場合、おおむねインサート数Ncellsが表すインサート状態(正電圧インサート状態または負電圧インサート状態)にさせるセル262の数(整数値)にコンデンサ電圧Vcを乗じた電圧値となる。
【0117】
アーム電流Iarmは、交流系統の周波数を含む。アームユニット26では、アーム電圧指令値Varm*が正極性(Varm*>0)、かつアーム電流Iarmが正極性(Iarm>0)の場合、正電圧インサート状態のセル262が備えるコンデンサCが充電され、この充電期間中にコンデンサ電圧Vcが上昇する。アームユニット26では、アーム電圧指令値Varm*が負極性(Varm*<0)、かつアーム電流Iarmが負極性(Iarm<0)の場合、負電圧インサート状態のセル262が備えるコンデンサCは充電され、この充電期間中にコンデンサ電圧Vcが上昇する。アームユニット26では、アーム電圧指令値Varm*が正極性(Varm*>0)、かつアーム電流Iarmが負極性(Iarm<0)の場合、正電圧インサート状態のセル262が備えるコンデンサCは放電され、この放電期間中にコンデンサ電圧Vcが下降する。アームユニット26では、アーム電圧指令値Varm*が負極性(Varm*<0)、かつアーム電流Iarmが正極性(Iarm>0)の場合、負電圧インサート状態のセル262が備えるコンデンサCは放電され、この放電期間中にコンデンサ電圧Vcが下降する。このように、アームユニット26では、アーム電圧指令値Varm*の極性とアーム電流Iarmの極性とが等しい場合に充電期間となり、アーム電圧指令値Varm*の極性とアーム電流Iarmの極性とが異なる場合に放電期間となる。アームユニット26では、アーム電圧指令値Varm*の極性や、アーム電流Iarmの極性に関わらず、バイパス状態のセル262が備えるコンデンサCは充電も放電もされずに、現在のコンデンサ電圧Vcを維持する。
【0118】
図8に示した時刻t0では、インサート数Ncellsは「0」である。そして、このときのアーム電流Iarmの極性は正極性である。変換器制御部50aは、インサート数Ncellsやアーム電流Iarmが「0」の場合に充電極性と判定するか放電極性と判定するかは任意に決めておけばよい。いずれにしても変換器制御部50aは、インサート数Ncellsに一致するように全てのセル262をバイパス状態にさせることを表すセル制御状態CL*を生成する。ここで、セル262-2は、セル制御状態CL*-2が「0」であるため、バイパス状態である。このため、セル262-2が備えるコンデンサC-2は充電も放電もされずに、現在のコンデンサ電圧Vc-2を維持している。
【0119】
その後、時刻t1において、インサート数Ncellsが「1」に変化する(絶対値が増加する)と、変換器制御部50aは、このときのアーム電圧指令値Varm*の極性が正極性、かつアーム電流Iarmの極性が正極性(充電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を、正電圧インサート状態にさせるセル262として選択する。ここでは、変換器制御部50aは、ソートリストにおいて最も低いコンデンサ電圧Vc(つまり、Vc-3)であるセル262-3を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t1において、選択したセル262-3を正電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*-3を「1」にする。このときも、セル262-2はバイパス状態であるため、引き続きセル262-2は、現在のコンデンサ電圧Vc-2を維持している。
【0120】
その後、時刻t2~時刻t3において、インサート数Ncellsが順次、「2」、「3」と変化する(絶対値が増加する)ごとに、変換器制御部50aは、時刻t1と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方から二番目、三番目(つまり、Vc-2、Vc-1)であるセル262を順次選択し、選択したセル262を正電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*を「1」にする。より具体的には、変換器制御部50aは、時刻t2においてセル262-2を選択してセル制御状態CL*-2を「1」にし、時刻t3においてセル262-1を選択してセル制御状態CL*-1を「1」にする。変換器制御部50aが時刻t2においてセル制御状態CL*-2を「1」にすることにより、セル262-2は、コンデンサC-2が充電され、コンデンサ電圧Vc-2は、充電に伴って上昇(増加)していく。
【0121】
その後、時刻t4において、アーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)になると、正電圧インサート状態であるセル262-2は、コンデンサC-2に蓄積されている電力を放電するようになる。このため、コンデンサ電圧Vc-2は、放電に伴って下降(減少)していく。
【0122】
その後、時刻t5において、インサート数Ncellsが「2」に変化する(絶対値が減少する)と、変換器制御部50aは、このときのアーム電圧指令値Varm*の極性が正極性、かつアーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在正電圧インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を、バイパス状態にさせるセル262として選択する。ここでは、変換器制御部50aは、ソートリストにおいて最も低いコンデンサ電圧Vc(つまり、Vc-3)であるセル262-3を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t5において、選択したセル262-3をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*-3を「0」にする。このときも、セル262-2は正電圧インサート状態であるため、引き続きコンデンサC-2に蓄積されている電力を放電し、コンデンサ電圧Vc-2は下降していく。
【0123】
その後、時刻t6において、セル262-2のコンデンサ電圧Vc-2が閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50aは、セル262-2をバイパス状態にさせるために、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル262を、バイパス状態にさせたセル262-2の代わりに正電圧インサート状態にさせるセル262として選択する。ここでは、正電圧インサート状態になっているセル262は、セル262-3のみである。このため、変換器制御部50aは、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが最も低い(つまり、Vc-3である)が、現在バイパス状態であるセル262-3を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t6において、セル262-2をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*-2を「0」にする。これにより、セル262-2からの放電が停止され、セル262-2が備えるコンデンサC-2からの放電が継続されることによって、
図8において破線で示したように、コンデンサ電圧Vc-2が閾値Vc-minを大幅に下回ってしまうことがなくなる。つまり、コンデンサ電圧Vc-2は、
図8において実線で示したように、閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。さらに、変換器制御部50aは、時刻t6において、選択したセル262-3を正電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*-3を「1」にする。これにより、セル262-3のコンデンサ電圧が代替として出力され、アーム電圧Varmが、アーム電圧指令値Varm*に従った理想的な階段状の波形からずれる(誤差を含む)ものになってしまうことがなくなる。
【0124】
その後、時刻t7において、インサート数Ncellsが「1」に変化する(絶対値が減少する)と、変換器制御部50aは、このときのアーム電圧指令値Varm*の極性が正極性、かつアーム電流Iarmの極性が負極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在正電圧インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を、バイパス状態にさせるセル262として選択する。ここでは、変換器制御部50aは、ソートリストにおいて最も低いコンデンサ電圧Vc(つまり、Vc-3)であるセル262-3を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t7において、選択したセル262-3をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*-3を「0」にする。このときも、セル262-2はバイパス状態であるため、セル262-2のコンデンサ電圧Vc-2は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0125】
その後、時刻t8において、インサート数Ncellsが「0」に変化する(絶対値が減少する)と、変換器制御部50aは、時刻t5と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方からセル262を選択し、選択したセル262をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*を「0」にする。ここでは、正電圧インサート状態になっているセル262は、セル262-1のみであるため、変換器制御部50aは、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが最も高い(つまり、Vc-1である)が、現在正電圧インサート状態であるセル262-1を選択する。このときも、セル262-2はバイパス状態であるため、セル262-2のコンデンサ電圧Vc-2は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0126】
その後、時刻t9において、インサート数Ncellsが「-1」に変化する(絶対値が増加する)と、変換器制御部50aは、このときのアーム電圧指令値Varm*の極性が負極性、かつアーム電流Iarmの極性が負極性(充電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を、負電圧インサート状態にさせるセル262として選択する。ここでは、変換器制御部50aは、ソートリストにおいて最も低いコンデンサ電圧Vc(つまり、Vc-3)であるセル262-3を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t9において、選択したセル262-3を負電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*-3を「-1」にする。このときも、セル262-2はバイパス状態であるため、セル262-2のコンデンサ電圧Vc-2は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0127】
その後、時刻t10~時刻t11において、インサート数Ncellsが順次、「-2」、「-3」と変化する(絶対値が増加する)ごとに、変換器制御部50aは、時刻t9と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方から二番目、三番目(つまり、Vc-2、Vc-1)であるセル262を順次選択し、選択したセル262を負電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*を「-1」にする。より具体的には、変換器制御部50aは、時刻t10においてセル262-2を選択してセル制御状態CL*-2を「-1」にし、時刻t11においてセル262-1を選択してセル制御状態CL*-1を「-1」にする。変換器制御部50aが時刻t10においてセル制御状態CL*-2を「-1」にすることにより、セル262-2は、コンデンサC-2が充電され、コンデンサ電圧Vc-2は、充電に伴って上昇(増加)していく。
【0128】
その後、時刻t12において、ソートリストが更新される。また、アーム電流Iarmの極性が正極性(放電極性)になると、負電圧インサート状態であるセル262-2は、コンデンサC-2に蓄積されている電力を放電するようになる。このため、コンデンサ電圧Vc-2は、放電に伴って下降(減少)していく。
【0129】
その後、時刻t13において、インサート数Ncellsが「-2」に変化する(絶対値が減少する)と、変換器制御部50aは、このときのアーム電圧指令値Varm*の極性が負極性、かつアーム電流Iarmの極性が正極性(放電極性)であると判定する。このため、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在負電圧インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を、バイパス状態にさせるセル262として選択する。ここでは、変換器制御部50aは、ソートリストにおいて最も低いコンデンサ電圧Vc(つまり、Vc-1)であるセル262-1を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t13において、選択したセル262-1をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*-1を「0」にする。このときも、セル262-2は負電圧インサート状態であるため、引き続きコンデンサC-2が放電され、コンデンサ電圧Vc-2は下降していく。
【0130】
その後、時刻t14~時刻t15において、インサート数Ncellsが順次、「-1」、「0」と変化する(絶対値が減少する)ごとに、変換器制御部50aは、時刻t13と同様に、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方から二番目、三番目(つまり、Vc-2、Vc-3)であるセル262を順次選択し、選択したセル262をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*を「0」にする。より具体的には、変換器制御部50aは、時刻t14においてセル262-2を選択してセル制御状態CL*-2を「0」にし、時刻t15においてセル262-3を選択してセル制御状態CL*-3を「0」にする。変換器制御部50aが時刻t14においてセル制御状態CL*-2を「0」にすることにより、セル262-2は、コンデンサC-2からの放電が停止され、コンデンサ電圧Vc-2は、現在の電圧値に維持される。
【0131】
このように、変換器制御部50aは、インサート数Ncellsが変化する(絶対値が増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電圧指令値Varm*の極性と、アーム電流Iarmの極性とに基づいて、放電極性か充電極性かを判定し、ソートリストを参照して、制御状態(セル制御状態CL*)を正電圧インサート状態、バイパス状態、あるいは負電圧インサート状態にさせるセル262を選択して、選択したセル262の制御状態、つまり、ゲート信号gta、ゲート信号gtb、ゲート信号gtc、およびゲート信号gtdを制御する。このとき、いずれかのセル262においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合(閾値Vc-maxを上回った場合)、あるいは閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)、変換器制御部50aは、バランス制御を行う。つまり、変換器制御部50aは、ソートリストの演算(生成)タイミングや、スイッチング制御のタイミングに関わらずに、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合に、バランス制御を行う。バランス制御において変換器制御部50aは、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル262を、バイパス状態にさせる。これにより、バイパス状態にされたセル262は、コンデンサCへの充電、あるいはコンデンサCからの放電を停止する。そして、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル262の中から、バイパス状態にさせたセル262の代替とするセル262を選択してインサート状態(正電圧インサート状態、あるいは負電圧インサート状態)にさせる。これにより、電力変換器10では、セル262が備えるコンデンサCが今以上に充電あるいは放電が行われないようになり(過充電や過放電となることなく)、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。
図8に示した電力変換装置2の第3の動作では、時刻t6において、セル262-2のコンデンサ電圧Vc-2が閾値Vc-minを超えた場合を示したが、変換器制御部50aにおけるバランス制御は、他のセル262についても同様である。
図8に示した電力変換装置2の第3の動作では、時刻t6において、セル262-2の代替としてセル262-3を選択する場合を示したが、代替としての選択は、他のセル262についても同様である。
図8に示した電力変換装置2の第3の動作では、変換器制御部50aにおけるバランス制御が、セル262-2のコンデンサ電圧Vc-2が閾値Vc-minを超えた場合におけるバランス制御を示したが、アームユニット26が備えるいずれかのセル262のコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合におけるバランス制御も、上述した第1の動作のバランス制御と等価なものになるようにすればよい。
【0132】
[電力変換装置の第4の動作]
前述した第3の動作では、変換器制御部50aが1パルス制御を行う場合を示したが、変換器制御部50aは、複パルス制御を行うこともできる。次に、電力変換装置2の別の動作(変換器制御部50aにおけるバランス制御の別の一例)として、変換器制御部50aが複パルス制御を行う場合の動作について説明する。
【0133】
図9は、電力変換装置2における第4の動作の動作タイミングの一例を説明するタイミングチャートである。
図9に示した第4の動作も、
図8に示した第3の動作と同様に、アームユニット26が備えるセル262が三つ(n=3)である場合の動作である。第4の動作において、インサート数Ncellsは、例えば、アーム電圧指令値Varm*に基づく変調波と、アームユニット26に属するセル262の数(ここでは「3」)と同数で互いに位相やレベルがシフトされたそれぞれの三角波キャリアを比較し、アーム電圧指令値Varm*(変調波)の値が三角波キャリアの値を上回る三角波キャリア波の個数として算出したものである。つまり、
図9に示した第4の動作は、変換器制御部50aが複パルス制御を行う場合の動作タイミングである。このため、
図9に示した第4の動作の動作タイミングは、アーム電圧指令値Varm*の1周期内の一部の範囲を拡大して示している。
【0134】
図9に示した第4の動作は、例えば、アーム電圧指令値Varm*が正極性(Varm*>0)、かつアーム電流Iarmが負極性(Iarm<0)である放電極性(放電期間)において、インサート数Ncellsが表す正電圧インサート状態のセル262の数が「2」から「1」に変化する前の「2」である期間中、つまり、正電圧インサート状態のセル262の数が「2」で変化していない期間に、バランス制御を行う場合の一例である。
図9に示した第4の動作では、ソートリスト演算部54aが、
図8に示した第3の動作よりも短い演算周期TS2でソートリストを生成するものとしている。ただし、
図9に示した第4の動作でも、演算周期TS2は、取得周期TS1よりも長い時間間隔の周期(TS2>TS1)である。
図9には、アームユニット26が備えるセル262-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)における変換器制御部50aのバランス制御の一例を示している。
【0135】
図9に示した時刻t0では、インサート数Ncellsは「2」である。このため、変換器制御部50aは、ソートリストを参照し、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル262を、正電圧インサート状態にさせるセル262として選択している。より具体的には、変換器制御部50aは、ソートリストにおいて高い方から二つのコンデンサ電圧Vc(Vc-1およびVc-3)であるセル262-1と、セル262-3とを選択している。このため、
図9に示した時刻t0では、変換器制御部50aが、選択した二つのセル262を正電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*-1およびセル制御状態CL*-3のそれぞれを「1」にしている。このため、セル262-3は、コンデンサC-3に蓄積されている電力が放電され、コンデンサ電圧Vc-3は、放電に伴って下降(減少)していく。
【0136】
その後、時刻t1において、セル262-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50aは、セル262-3をバイパス状態にさせるために、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であり、蓄積されている電力が多いコンデンサCを備えるセル262を、バイパス状態にさせたセル262-3の代わりに正電圧インサート状態にさせるセル262として選択する。ここでは、バイパス状態になっているセル262は、セル262-2のみである。このため、変換器制御部50aは、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが高い方から三番目(つまり、Vc-2)だが、現在バイパス状態であるセル262-2を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t1において、セル262-3をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*-3を「0」にする。これにより、セル262-3からの放電が停止され、セル262-3が備えるコンデンサC-3からの放電が継続されることによって、
図9において破線(ソートリスト更新に合わせてのみバランス制御を実行する場合)で示したように、コンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを大幅に下回ってしまうことがなくなる。つまり、コンデンサ電圧Vc-3は、
図9において実線で示したように、閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。さらに、変換器制御部50aは、時刻t1において、選択したセル262-2を正電圧インサート状態にさせるために、セル制御状態CL*-2を「1」にする。これにより、セル262-2のコンデンサ電圧が代替として出力され、アーム電圧Varmは維持されることになる。
【0137】
その後、時刻t2において、ソートリストが更新される。ここでは、セル262-3のコンデンサ電圧Vc-3が最も低いコンデンサ電圧Vcとなったソートリストに更新されたるものとしている。
【0138】
その後、時刻t3において、インサート数Ncellsが「1」に変化する(減少する)と、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在正電圧インサート状態であり、蓄積されている電力が少ないコンデンサCを備えるセル262を、バイパス状態にさせるセル262として選択する。ここでは、変換器制御部50aは、正電圧インサート状態にしているセル262-1とセル262-2とのうち、ソートリストにおいてコンデンサ電圧Vcが低い方(つまり、Vc-2)であるセル262-2を選択する。そして、変換器制御部50aは、時刻t3において、選択したセル262-2をバイパス状態にさせるために、セル制御状態CL*-2を「0」にする。このときも、セル262-3はバイパス状態であるため、セル262-3のコンデンサ電圧Vc-3は、引き続き現在の閾値Vc-minに近い電圧値に維持される。
【0139】
このように、変換器制御部50aは、第4の動作(複パルス制御)においても、
図8に示した第3の動作(1パルス制御)と同様に、インサート数Ncellsが変化する(絶対値が増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電圧指令値Varm*の極性と、アーム電流Iarmの極性とに基づいて、放電極性か充電極性かを判定し、ソートリストを参照して、制御状態(セル制御状態CL*)を正電圧インサート状態、バイパス状態、あるいは負電圧インサート状態にさせるセル262を選択して、選択したセル262の制御状態、つまり、ゲート信号gta、ゲート信号gtb、ゲート信号gtc、およびゲート信号gtdを制御する。このとき、第4の動作においても、いずれかのセル262においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合(閾値Vc-maxを上回った場合)、あるいは閾値Vc-minを超えた場合(閾値Vc-minを下回った場合)、変換器制御部50aは、バランス制御を行う。つまり、第4の動作においても、変換器制御部50aは、ソートリストの演算(生成)タイミングや、スイッチング制御のタイミングに関わらずに、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合に、バランス制御を行う。第4の動作のバランス制御においても、変換器制御部50aは、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル262を、バイパス状態にさせる。これにより、第4の動作においても、バイパス状態にされたセル262は、コンデンサCへの充電、あるいはコンデンサCからの放電を停止する。そして、第4の動作においても、変換器制御部50aは、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル262の中から、バイパス状態にさせたセル262の代替とするセル262を選択してインサート状態(正電圧インサート状態、あるいは負電圧インサート状態)にさせる。これにより、第4の動作においても、電力変換器10では、セル262が備えるコンデンサCが今以上に充電あるいは放電が行われないようになり(過充電や過放電となることなく)、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。
図9に示した電力変換装置2の第4の動作では、時刻t1において、セル262-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合を示したが、変換器制御部50aにおけるバランス制御は、他のセル262についても同様である。
図9に示した電力変換装置2の第4の動作では、時刻t1において、セル262-3の代替としてセル262-2を選択する場合を示したが、代替としての選択は、他のセル262についても同様である。
図9に示した電力変換装置2の第4の動作では、変換器制御部50aにおけるバランス制御が、セル262-3のコンデンサ電圧Vc-3が閾値Vc-minを超えた場合におけるバランス制御を示したが、アームユニット26が備えるいずれかのセル262のコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxを超えた場合におけるバランス制御も、上述した第4の動作のバランス制御と等価なものになるようにすればよい。
【0140】
このような構成および動作によって、電力変換装置2では、変換器制御部50aが、電力変換器20が備えるそれぞれのアームユニット26について、セル262のインサート数Ncellsが変化する(増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電圧指令値Varm*の極性と、アーム電流Iarmの極性とに基づいて、放電極性か充電極性かを判定する。そして、電力変換装置2では、変換器制御部50aが、それぞれのアームユニット26ごとに演算(生成)したソートリストを参照して、制御状態を正電圧インサート状態、バイパス状態、あるいは負電圧インサート状態にさせるセル262を選択して、選択したセル262の制御状態を変更する。このとき、いずれかのセル262においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50aは、そのセル262をバイパス状態にさせ、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル262の中から代替のセル262を選択してインサート状態(正電圧インサート状態、あるいは負電圧インサート状態)にさせる。これにより、電力変換装置2でも、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル262が備えるコンデンサCの過充電や過放電を防止することができ、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。これにより、電力変換装置2では、電力変換器20において、セル262が備えるコンデンサCやスイッチング素子Qの故障リスクを低減することができ、例えば、系統事故などが発生した際も、コンデンサ電圧Vcが過電圧や不足電圧に至ることによって電力変換器10の保護装置が動作して運転を停止してしまうなどの状態に至るリスクを軽減することができる。このことにより、電力変換装置2でも、系統事故が発生した際の運転の継続性能を向上させた、信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0141】
上記説明したように、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、変換器制御部50aが、電力変換器20が備えるそれぞれのアームユニット26について、セル262のインサート数Ncellsが変化する(増加するあるいは減少する)タイミングごとに、アーム電圧指令値Varm*の極性と、アーム電流Iarmの極性とに基づいて、放電極性か充電極性かを判定する。そして、第2の実施形態の電力変換装置2では、変換器制御部50aが、それぞれのアームユニット26ごとに演算(生成)したソートリストを参照して、制御状態を正電圧インサート状態、バイパス状態、あるいは負電圧インサート状態にさせるセル262を選択して、選択したセル262の制御状態を変更する。このとき、第2の実施形態の電力変換装置2では、いずれかのセル262においてコンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えた場合、変換器制御部50aは、そのセル262をバイパス状態にさせ、ソートリストを参照して、現在バイパス状態であるセル262の中から代替のセル262を選択してインサート状態(正電圧インサート状態、あるいは負電圧インサート状態)にさせる。これにより、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、コンデンサ電圧Vcが閾値Vc-maxあるいは閾値Vc-minを超えたセル262が備えるコンデンサCの過充電や過放電を防止することができ、コンデンサCの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせることができる。これにより、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、電力変換器20において、セル262が備えるコンデンサCやスイッチング素子Qの故障リスクを低減することができ、例えば、系統事故などが発生した際も、コンデンサ電圧Vcが過電圧や不足電圧に至ることによって電力変換器10の保護装置が動作して運転を停止してしまうなどの状態に至るリスクを軽減することができる。このことにより、第2の実施形態の電力変換装置2でも、系統事故が発生した際の運転の継続性能を向上させた、信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0142】
上記に述べたとおり、各実施形態の電力変換装置では、電力変換器が備えるアームユニット内の単位変換器の制御状態を変更する変換器制御部が、所定(一定)の取得周期TS1ごとに電力変換器が備えるコンデンサのコンデンサ電圧を取得する。そして、各実施形態の電力変換装置では、いずれかの単位変換器のコンデンサ電圧が閾値(上側の閾値Vc-max、あるいは下側の閾値Vc-min)を超えた場合、変換器制御部は、それぞれの単位変換器を制御するタイミングに関わらずに、コンデンサ電圧が閾値を超えた単位変換器の制御状態を変更して、コンデンサへの充電、あるいはコンデンサからの放電を停止させる。言い換えれば、各実施形態の電力変換装置では、変換器制御部が、コンデンサ電圧が閾値を超えた単位変換器の充放電を停止させて、アームユニットにおいてコンデンサ電圧を出力させる単位変換器から除外する。そして、各実施形態の電力変換装置では、コンデンサ電圧が閾値を超えたことにより充放電を停止させた単位変換器の代替として、アームユニットにおいてコンデンサ電圧を出力させていなかった単位変換器の中から、同数の他の単位変換器の制御状態を変更して充放電を開始させる。これにより、各実施形態の電力変換装置では、単位変換器が備えるコンデンサの充電量が相対的に均一になるようにバランスさせるとともに、単位変換器が備えるコンデンサやスイッチング素子の故障リスクを低減することができる。このことにより、各実施形態の電力変換装置では、例えば、電力変換装置が接続された交流系統において系統事故などが発生した際に、コンデンサ電圧が過電圧や不足電圧に至ることによって電力変換器の保護装置が動作して運転を停止してしまうなどの状態に至るリスクを軽減させることができる。このことにより、各実施形態の電力変換装置では、系統事故が発生した際の運転の継続性能を向上させた、信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0143】
上記に述べた各実施形態の電力変換装置では、変換器制御部が備えるインサート数演算部が、インサート状態にさせるセルの数(整数値)を表すインサート数Ncellsを演算(算出)し、変換器制御部が備えるセル選択制御部が、インサート数Ncellsが変化したことをきっかけとして、インサート状態あるいはバイパス状態に変更させるセルを選択する場合について説明した。しかし、セル選択制御部がセルを選択するきっかけは、インサート数Ncellsが変化したことに限定されない。セル選択制御部は、例えば、インサート状態にさせるセルの数を表すインサート数Ncellsの代わりに、バイパス状態にさせるセルの数(整数値)が変化したことをきっかけとして、インサート状態あるいはバイパス状態に変更させるセルを選択してもよい。この場合の電力変換装置や変換器制御部の動作や処理は、上述した各実施形態の電力変換装置や変換器制御部の動作や処理と等価なものになるようにすればよい。
【0144】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、電力を蓄積するエネルギー蓄積要素(C)、およびエネルギー蓄積要素への電力の蓄積あるいはエネルギー蓄積要素に蓄積された電力の放電を調整可能な複数のスイッチング素子(Q、D)を有する複数の単位変換器(162)が直列に接続されたアームユニット(16)を少なくとも1つ有する電力変換器(10)と、少なくとも、単位変換器の第1端(TP)と第2端(TN)との間にエネルギー蓄積要素の端子間電圧(Vc)を出力させる第1制御状態(インサート状態)と、単位変換器の第1端と第2端とを短絡させる第2制御状態(バイパス状態)とのいずれかの制御状態に切り替えることにより、電力変換器における電力の変換動作を制御する変換器制御部(50)と、を備え、変換器制御部は、アームユニットから出力させるアーム電圧(Varm)の目標値であるアーム電圧指令値(Varm*)に応じて、アームユニットに属する単位変換器のうち、制御状態を切り替える単位変換器の数を表す状態数(インサート数Ncells)を算出する状態数演算部(52)と、所定の第1の時間間隔(TS1)で検出したエネルギー蓄積要素の端子間電圧に基づいて、端子間電圧の大小関係を表すリスト情報(ソートリスト)を、第1の時間間隔よりも長い所定の第2の時間間隔(TS2)ごとに生成するリスト演算部(54)と、アームユニットを流れるアーム電流(Iarm)の極性と、状態数と、リスト情報と、エネルギー蓄積要素の端子間電圧とに基づいて、現在の制御状態を変更する単位変換器を選択する単位変換器選択部(56)と、を備え、単位変換器選択部は、アーム電流の極性が、第1制御状態の単位変換器が有するエネルギー蓄積要素に電力を蓄積させる充電極性となる充電期間の場合、第1の時間間隔で検出した、第1制御状態の単位変換器である第1の単位変換器が有するエネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも高い第1閾値(Vc-max)を超えた際に、第1の単位変換器を第2制御状態に変更し、第2制御状態の単位変換器のうち、第1の単位変換器と同数の他の単位変換器を、第1制御状態に変更する単位変換器として選択し、アーム電流の極性が、第1制御状態の単位変換器が有するエネルギー蓄積要素から電力を放電させる放電極性となる放電期間の場合、第1の時間間隔で検出した、第1制御状態の単位変換器である第2の単位変換器が有するエネルギー蓄積要素の端子間電圧が定格電圧よりも低い第2閾値(Vc-min)を超えた際に、第2の単位変換器を第2制御状態に変更し、第2制御状態の単位変換器のうち、第2の単位変換器と同数の他の単位変換器を、第1制御状態に変更する単位変換器として選択することにより、単位変換器が備えるエネルギー蓄積要素の端子間電圧の変動幅が増大してしまうのを抑制し、信頼性の高い電力変換装置を実現することができる。
【0145】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0146】
1,2・・・電力変換装置、10・・・電力変換器、12,12-R,12-S,12-T・・・レグ、14,14-P-R,14-N-R,14-P-S,14-N-S,14-P-T,14-N-T,14-RS,14-ST,14-TR・・・リアクトル、16,16-P-R,16-N-R,16-P-S,16-N-S,16-P-T,16-N-T・・・アームユニット、162,162-1,162-n,162-1-P-R,162-n-P-R,162-1-N-R,162-n-N-R,162-1-P-S,162-n-P-S,162-1-N-S,162-n-N-S,162-1-P-T,162-n-P-T,162-1-N-T,162-n-N-T・・・セル、20・・・電力変換器、22,22-RS,22-ST,22-TR・・・レグ、26,26-RS,26-ST,26-TR・・・アームユニット、262,262-1,262-n,262-1-RS,262-n-RS,262-1-ST,262-n-ST,262-1-TR,262-n-TR・・・セル、50,50a・・・変換器制御部、52,52a・・・インサート数演算部、54,54a・・・ソートリスト演算部、56,56a・・・セル選択制御部、58,58a・・・ゲート信号生成部、Q,Q1,Q2,Q3,Q4・・・スイッチング素子、D,D1,D2,D3,D4・・・ダイオード、C・・・コンデンサ、TR・・・トランス、R,S,T・・・交流端子、P・・・正側端子、N・・・負側端子、CA,CA-R,CA-S,CA-T、CB,CB-R,CB-S,CB-T・・・交流端子、CP,CP-R,CP-S,CP-T,CN,CN-R,CN-S,CN-T・・・直流端子、TP・・・正極端子、TN・・・負極端子