(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080026
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】鳥類の培養細胞株、バイオリアクターの評価用培養細胞株の製造方法及びバイオリアクター評価用キット
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230601BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20230601BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230601BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20230601BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12Q1/04
C12N15/12
A01K67/027
C12N15/09 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180762
(22)【出願日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2021192781
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】堀内 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】松崎 芽衣
(72)【発明者】
【氏名】江崎 僚
(72)【発明者】
【氏名】梶原 亮太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 天海
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QS12
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QS36
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】短期間でバイオリアクターを評価することができる鳥類の培養細胞株、バイオリアクターの評価用培養細胞株の製造方法及びバイオリアクター評価用キットを提供する。
【解決手段】鳥類の培養細胞株は、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をゲノムに有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をゲノムに有する、
鳥類の培養細胞株。
【請求項2】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座の少なくとも一方である、
請求項1に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項3】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボアルブミン遺伝子座であって、
前記遺伝子は、
オボアルブミン遺伝子及び前記オボアルブミン遺伝子座にノックインされた外来遺伝子である、
請求項1又は2に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項4】
前記外来プロモーター配列は、
前記オボアルブミン遺伝子のエクソン1の上流に位置する、
請求項3に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項5】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボムコイド遺伝子座であって、
前記遺伝子は、
オボムコイド遺伝子の上流にノックインされた外来遺伝子である、
請求項1又は2に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項6】
前記外来プロモーター配列は、
EF1αプロモーター配列である、
請求項1又は2に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項7】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座であって、
前記外来プロモーター配列は、
前記オボアルブミン遺伝子座に含まれる少なくとも1つの前記遺伝子を恒常発現させる第1の外来プロモーター配列及び前記オボムコイド遺伝子座に含まれる少なくとも1つの前記遺伝子を恒常発現させる第2の外来プロモーター配列であって、
前記第1の外来プロモーター配列によって恒常発現する前記遺伝子は、
オボアルブミン遺伝子及び前記オボアルブミン遺伝子座にノックインされた第1の外来遺伝子であって、
前記第2の外来プロモーター配列によって恒常発現する前記遺伝子は、
オボムコイド遺伝子の上流にノックインされた第2の外来遺伝子である、
請求項1又は2に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項8】
遺伝子改変されたDF-1細胞である、
請求項1又は2に記載の鳥類の培養細胞株。
【請求項9】
鳥類の培養細胞株のゲノムに、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をノックインするステップと、
前記卵内タンパク質遺伝子座に外来遺伝子をノックインするステップと、
を含む、バイオリアクターの評価用培養細胞株の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の鳥類の培養細胞株と、
前記卵内タンパク質遺伝子座に前記遺伝子として外来遺伝子をノックインするための試薬と、
を備える、バイオリアクター評価用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類の培養細胞株、バイオリアクターの評価用培養細胞株の製造方法及びバイオリアクター評価用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
鳥類の卵のタンパク質含有量は多いことが知られている。例えば産卵鶏の場合、1羽が年間に産む卵が約300個と高い生産性を有している。このため、鳥類の卵は、卵白中に有用なタンパク質を大量に生産させるバイオリアクターとしての利用が望まれてきた。先天的なライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の治療薬として、セベリパーゼアルファ(カヌマ(商標))が鶏卵で生産されている。セベリパーゼアルファの生産に使用される鶏卵は、ウイルスベクターを用いた遺伝子組み換えによって作製された。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、ゲノム編集技術を用いて、オボアルブミン遺伝子座にヒトインターフェロンβ遺伝子をノックインすることで、鶏卵中にヒトインターフェロンβが発現することが開示されている。
【0004】
上述のセベリパーゼアルファの生産、さらには特許文献1及び特許文献2に開示されたインターフェロンβの生産のように鳥類の卵をバイオリアクターとして利用するには、初期胚又は培養した始原生殖細胞に対して遺伝子組み換えを行うか、あるいはゲノム編集技術によって有用タンパク質の遺伝子を卵内タンパク質遺伝子座にノックインする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/199225号
【特許文献2】国際公開第2017/111144号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ノックインされた遺伝子の産物がどの程度、卵に含まれるのか、そして卵に蓄積された有用タンパク質が所望の活性を維持できるかは、実際にバイオリアクターを確立した後にしか確認できない。バイオリアクターの確立のために、始原生殖細胞の培養、遺伝子改変、移植実験、生殖細胞キメラの作出、生殖細胞キメラの性成熟、交配によるG1の作出、G1の性成熟、及びG1の交配によるG2の作出といった工程を経る必要がある。これらの工程にはニワトリで2~3年、ウズラでも1年以上の期間を要する。バイオリアクターを確立した後に有用タンパク質の量及び活性に問題があった場合は、バイオリアクターの構築を最初からやり直さなければならない。
【0007】
オボアルブミン及びオボムコイド等の卵内タンパク質は生体内の卵管内分泌細胞で産生される。卵内タンパク質の産生をin vitroで検討できれば、バイオリアクターの構築に着手する前に、バイオリアクターによって得られる有用タンパク質の量及び活性について見通しを立てることができる。しかし、卵内タンパク質が産生される卵管内分泌細胞の培養は極めて困難で、実用化されていない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、短期間でバイオリアクターを評価することができる鳥類の培養細胞株、バイオリアクターの評価用培養細胞株の製造方法及びバイオリアクター評価用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る鳥類の培養細胞株は、
卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をゲノムに有する。
【0010】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座の少なくとも一方である、
こととしてもよい。
【0011】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボアルブミン遺伝子座であって、
前記遺伝子は、
オボアルブミン遺伝子及び前記オボアルブミン遺伝子座にノックインされた外来遺伝子である、
こととしてもよい。
【0012】
前記外来プロモーター配列は、
前記オボアルブミン遺伝子のエクソン1の上流に位置する、
こととしてもよい。
【0013】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボムコイド遺伝子座であって、
前記遺伝子は、
オボムコイド遺伝子の上流にノックインされた外来遺伝子である、
こととしてもよい。
【0014】
前記外来プロモーター配列は、
EF1αプロモーター配列である、
こととしてもよい。
【0015】
前記卵内タンパク質遺伝子座は、
オボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座であって、
前記外来プロモーター配列は、
前記オボアルブミン遺伝子座に含まれる少なくとも1つの前記遺伝子を恒常発現させる第1の外来プロモーター配列及び前記オボムコイド遺伝子座に含まれる少なくとも1つの前記遺伝子を恒常発現させる第2の外来プロモーター配列であって、
前記第1の外来プロモーター配列によって恒常発現する前記遺伝子は、
オボアルブミン遺伝子及び前記オボアルブミン遺伝子座にノックインされた第1の外来遺伝子であって、
前記第2の外来プロモーター配列によって恒常発現する前記遺伝子は、
オボムコイド遺伝子の上流にノックインされた第2の外来遺伝子である、
こととしてもよい。
【0016】
上記本発明の第1の観点に係る鳥類の培養細胞株は、
遺伝子改変されたDF-1細胞である、
こととしてもよい。
【0017】
本発明の第2の観点に係るバイオリアクターの評価用培養細胞株の製造方法は、
鳥類の培養細胞株のゲノムに、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をノックインするステップと、
前記卵内タンパク質遺伝子座に外来遺伝子をノックインするステップと、
を含む。
【0018】
本発明の第3の観点に係るバイオリアクター評価用キットは、
上記本発明の第1の観点に係る鳥類の培養細胞株と、
前記卵内タンパク質遺伝子座に前記遺伝子として外来遺伝子をノックインするための試薬と、
を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、短期間でバイオリアクターを評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】Aはニワトリの野生型の培養細胞株のゲノムにおけるオボアルブミン遺伝子座におけるエクソンの分布を示す図である。Bは本発明の実施の形態に係る培養細胞株のゲノムにおけるオボアルブミン遺伝子座の構成を例示する図である。Cはニワトリの野生型の培養細胞株のゲノムにおけるオボムコイド遺伝子座におけるエクソン1の分布を示す図である。Dは本発明の実施の形態に係る培養細胞株のゲノムにおけるオボムコイド遺伝子座の構成を例示する図である。
【
図2】Aは実施例1に係るオボアルブミン遺伝子座のエクソン1の上流にEF1αプロモーターをノックインする場合におけるガイドRNA(gRNA)の標的配列、及びEF1αプロモーターをノックインするためのPrecise integration into target chromosome(PITCh)ベクターの構成を示す図である。大文字で表記された塩基配列はエクソンの塩基配列を示し、小文字で表記された塩基配列はイントロンの塩基配列を示す。Bはエクソン1の上流にEF1αプロモーターをノックインしたオボアルブミン遺伝子座の構成を示す図である。Cは実施例1に係るオボアルブミン遺伝子座のエクソン1とエクソン2との間にEF1αプロモーターをノックインする場合におけるgRNAの標的配列、及びEF1αプロモーターをノックインするためのPITChベクターの構成を示す図である。大文字で表記された塩基配列はエクソンの塩基配列を示し、小文字で表記された塩基配列はイントロンの塩基配列を示す。Dはエクソン1とエクソン2との間にEF1αプロモーターをノックインしたオボアルブミン遺伝子座の構成を示す図である。
【
図3】
図2A及び
図2Cに示すPITChベクターの構築に利用したベクターのマップを示す図である。
【
図4】Aは
図2Aに示されたPITChベクター中の標的配列を示す図である。Bは
図2Bに示されたPITChベクター中の標的配列を示す図である。
【
図5】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座の目的領域にEF1αプロモーターがノックインされたことを確認するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果を示す図である。
【
図6】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターがノックインされたことを確認するためのPCRの結果を示す図である。
【
図7】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてオボアルブミン遺伝子が転写されたことを確認するためのreverse transcription PCR(RT-PCR)の結果を示す図である。
【
図8】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてオボアルブミン遺伝子のmRNAの発現量を定量RT-PCR(qRT-PCR)で定量した結果を示す図である。
【
図9】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてオボアルブミンタンパク質の発現を確認するためのウエスタンブロット法の結果を示す図である。
【
図10】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてサンドイッチELISA法で測定したオボアルブミンタンパク質の濃度を示す図である。
【
図11】Aは実施例1に係るEF1αプロモーターをノックインしたオボアルブミン遺伝子座にヒト線維芽細胞増殖因子(human fibroblast growth factor-2;hFGF2)遺伝子をノックインする位置を示す図である。BはhFGF2遺伝子をノックインしたオボアルブミン遺伝子座の構成を示す図である。CはhFGF2遺伝子をノックインしたオボアルブミン遺伝子座が転写された後に生じるmRNAの予想配列を示す図である。
【
図12】実施例1に係るhFGF2遺伝子を搭載するPITChベクターの作製のために使用したベクターのマップを示す図である。
【
図13】実施例1に係るhFGF2遺伝子を搭載したPITChベクターのマップを示す図である。
【
図14】
図13に示すPITChベクターを切断するCRISPR/Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat and Crisper associated protein)ベクターを作製するために使用したベクターのマップを示す図である。
【
図15】実施例1に係るhFGF2がEF1αプロモーターの下流にノックインされたことを確認するためのPCRの結果を示す図である。
【
図16】実施例1においてオボアルブミン遺伝子及びhFGF2遺伝子が転写されたことを確認するためのRT-PCRの結果を示す図である。
【
図17】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にhFGF2遺伝子をノックインした株を単一クローン化した後に測定したオボアルブミンタンパク質の濃度を示す図である。
【
図18】実施例1においてオボアルブミン遺伝子座にhFGF2遺伝子をノックインした株を単一クローン化した後に測定したhFGF2タンパク質の濃度を示す図である。
【
図19】Aは実施例2に係るオボムコイド遺伝子の上流へのEF1αプロモーターのノックインの概略、及びEF1αプロモーターをノックインするためのPITChベクターの構成を示す図である。BはEF1αプロモーターをノックインした後のオボムコイド遺伝子座を示す図である。
【
図20】A及びBは、それぞれ実施例2においてオボムコイド遺伝子座にノックインされたEF1αプロモーターを含むカセットの5’側のつなぎ目及び3’側のつなぎ目を確認するためのPCRの結果を示す図である。CはEF1αプロモーターをノックインしたオボムコイド遺伝子座に係るジェノタイピングの結果を示す図である。
【
図21】実施例2においてオボムコイド遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてオボムコイド遺伝子が転写されたことを確認するためのRT-PCRの結果を示す図である。
【
図22】実施例2においてオボムコイド遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてオボムコイドタンパク質の発現を確認するためのウエスタンブロット法の結果を示す図である。
【
図23】実施例2においてオボムコイド遺伝子座にEF1αプロモーターをノックインした細胞株についてサンドイッチELISA法で測定したオボムコイドタンパク質の濃度を示す図である。
【
図24】実施例2に係るEF1αプロモーターがノックインされたオボムコイド遺伝子座へのhFGF2遺伝子を含むカセットのノックインの概略、gRNAの標的配列、及びhFGF2遺伝子をノックインするためのPITChベクターの構成を示す図である。
【
図25】実施例2に係るhFGF2遺伝子をノックインしたオボムコイド遺伝子座を示す図である。
【
図26】A及びBは、それぞれ実施例2においてオボムコイド遺伝子座にノックインされたhFGF2遺伝子を含むカセットの5’側のつなぎ目及び3’側のつなぎ目を確認するためのPCRの結果を示す図である。CはhFGF2遺伝子をノックインしたオボムコイド遺伝子座に係るジェノタイピングの結果を示す図である。
【
図27】実施例2に係るオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターとhFGF2遺伝子とをノックインした細胞株についてオボアルブミンタンパク質が発現しないことを確認するためのウエスタンブロット法の結果を示す図である。
【
図28】実施例2に係るオボアルブミン遺伝子座にEF1αプロモーターとhFGF2遺伝子とをノックインした細胞株についてサンドイッチELISA法で測定したオボアルブミンタンパク質の濃度を示す図である。
【
図29】実施例3に係るオボアルブミン遺伝子座のエクソン8の下流にhFGF2遺伝子をノックインする場合のゲノム編集ツールの標的配列を示す図である。
【
図30】実施例3に係るドナーベクターの作製に利用したベクターのマップを示す図である。
【
図31】実施例3に係るドナーベクターのマップを示す図である。
【
図32】Aは実施例3に係るゲノム編集によってオボアルブミン遺伝子座にhFGF2遺伝子をノックインする位置を示す図である。BはhFGF2遺伝子をノックインしたオボアルブミン遺伝子座の構成を示す図である。CはhFGF2遺伝子をノックインしたオボアルブミン遺伝子座が転写された後に生じるmRNAの予想配列を示す図である。
【
図33】実施例3においてオボアルブミン遺伝子座にノックインされたhFGF2遺伝子を確認するためのPCRの結果を示す図である。
【
図34】実施例3においてEF1αプロモーター下流にhFGF2遺伝子がノックインされたことを確認するためのPCRの結果を示す図である。
【
図35】実施例3においてオボアルブミン遺伝子及びhFGF2遺伝子が転写されたことを確認するためのRT-PCRの結果を示す図である。
【
図36】実施例3においてオボアルブミン遺伝子座にhFGF2遺伝子をノックインした株を単一クローン化した後に測定したオボアルブミンタンパク質の濃度を示す図である。
【
図37】実施例3においてオボアルブミン遺伝子座にhFGF2遺伝子をノックインした株を単一クローン化した後に測定したhFGF2タンパク質の濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。
【0022】
本実施の形態に係る鳥類の培養細胞株は、タンパク質又はペプチド等の生産のために、鳥類の卵をバイオリアクターとして利用する際に使用する評価系に好適である。当該培養細胞株を用いて、卵におけるノックインされた外来遺伝子から生成するタンパク質又はペプチドの量及び生成したタンパク質又はペプチドが所望の活性を有するか否か等を確認できる。
【0023】
本実施の形態に係る鳥類の培養細胞株は、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をゲノムに有する。鳥類は、特に限定されず、例えば、ニワトリ、アヒル、シチメンチョウ、カモ、ガン、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、ダチョウ、エミュー及びヒクイドリ等である。好適には、鳥類は、ニワトリである。ニワトリの品種は特に限定されず、例えば、White Leghorn、Brown Leghorn、Barred Rock、Sussex、New Hampshire、Rhode Island、Ausstralorp、Minorca、Amrox、California Gray、Italian Partidge colored及びKorean Oge等が挙げられる。
【0024】
鳥類の培養細胞株は、鳥類由来の培養細胞株であれば任意であるが、バイオリアクターとして使用する鳥類由来の培養細胞株が好ましい。培養細胞株としては、例えば、ニワトリの胚線維芽細胞株及び胚腎臓細胞株等の公知の細胞株が使用できる。好適には、鳥類の培養細胞株は、遺伝子改変されたニワトリの胚線維芽細胞株(DF-1細胞)である。
【0025】
卵内タンパク質遺伝子は、鳥類の卵の中に発現するタンパク質をコードする遺伝子であれば任意であって、例えば、オボアルブミン、オボムコイド、オボインヒビター、オボグロブリン、リゾチーム、オボムチン及びオボトランスフェリン等をコードする遺伝子である。好ましくは、卵内タンパク質遺伝子座は、オボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座の少なくとも一方である。
【0026】
卵内タンパク質遺伝子座は、5’非翻訳領域(5’UTR)よりも上流の、卵内タンパク質遺伝子の発現に関与するプロモーター及びエンハンサー等の転写調節領域を含む領域、5’UTR、開始コドンから終止コドンまでのオープンリーディングフレーム(ORF)、及び3’非翻訳領域(3’UTR)を含む領域のゲノム上の位置である。卵内タンパク質遺伝子座は、例えば、卵内タンパク質遺伝子の発現制御に関するエンハンサーからターミネーターまでの領域である。なお、ゲノムにおける上流とは、ゲノムの非鋳型鎖(センス鎖)の5’末端の方向のことであって、上流から下流への方向は、ゲノムの非鋳型鎖の5’から3’への方向をいう。
【0027】
外来プロモーター配列は、培養細胞株を由来としないプロモーター配列である。上記卵内タンパク質遺伝子の発現はプロモーターによって制御されており、卵内タンパク質は卵管特異的に発現する。これに対し、外来プロモーター配列は、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる遺伝子を恒常発現(又は強制発現)させる。恒常発現とは、例えば組織特異的等のように限定的な発現ではなく、常に発現することをいう。遺伝子を恒常発現させる(ユビキタス)プロモーター配列は、好ましくは哺乳類細胞で機能する公知のプロモーターであって、例えば、CMV、EF1α、EFS、CAG、CBh、SFFV、MSCV、SV40、mPGK、hPGK及びUBC等である。好ましくは、外来プロモーター配列はEF1αプロモーター配列である。
【0028】
外来プロモーター配列は、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる遺伝子を恒常発現させる限り、当該遺伝子の任意の位置にノックインされる。例えば、卵内タンパク質遺伝子座がオボアルブミン遺伝子座である場合、外来プロモーター配列はオボアルブミン遺伝子のエクソン1の上流に位置するのが好ましい。
図1Aは、鳥類の野生型の培養細胞株のゲノムにおけるオボアルブミン遺伝子座を示す。これに対し、本実施の形態に係る培養細胞株は、
図1Bに示すように、ゲノムにおけるオボアルブミン遺伝子座のエクソン1の上流に外来プロモーター配列を有する。なお、オボアルブミン遺伝子の開始コドンはエクソン2にあるため、卵内タンパク質遺伝子座がオボアルブミン遺伝子座である場合、外来遺伝子はオボアルブミン遺伝子のエクソン2の上流、すなわちエクソン1とエクソン2との間で、オボアルブミン遺伝子の開始コドンの上流に位置してもよい。
【0029】
本実施の形態に係る鳥類の培養細胞株は、卵内タンパク質遺伝子座にマーカー遺伝子を有してもよい。ゲノム編集等で外来プロモーター配列をノックインする場合、
図1Bに示すように、マーカー遺伝子1を外来プロモーター配列とともにゲノムに安定的に組み込むことで、ノックインされた細胞株を選別できる点で好ましい。マーカー遺伝子1は、蛍光タンパク質の遺伝子、呈色反応を触媒する酵素の遺伝子及び薬剤耐性遺伝子等である。蛍光タンパク質及び呈色反応を触媒する酵素としては、例えば、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、β-グルクロニダーゼ及びβ-ガラクトシダーゼ等が挙げられる。薬剤耐性遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子(Neo
R)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hyg
R)、ピューロマイシン耐性遺伝子(Puro
R)、ブラストサイジン耐性遺伝子(Blast
R)及びゼオシン耐性遺伝子(Zeo
R)等が挙げられる。
【0030】
卵内タンパク質遺伝子座がオボアルブミン遺伝子座である場合、外来プロモーター配列によって恒常発現する、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる遺伝子は、好ましくは、オボアルブミン遺伝子及びノックインされた外来遺伝子である。外来遺伝子は、鳥類の卵を介したバイオリアクターで生産する任意の有用タンパク質又は有用ペプチド(以下、“有用タンパク質等”とも総称する)をコードする遺伝子である。外来遺伝子によってコードされる有用タンパク質等は、好ましくは、分泌性のタンパク質又はペプチドである。有用タンパク質等として、抗体、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖抗体、scFv及びdsFv等の抗体の断片、酵素、ホルモン、成長因子、サイトカイン、インターフェロン、コラーゲン、細胞外マトリクス分子、ワクチン用抗原、アゴニスト性タンパク質及びアンタゴニスト性タンパク質等が挙げられる。例えば、有用タンパク質は、hFGF2である。外来遺伝子がコードするタンパク質がヒトに投与する医薬として使用される生理活性タンパク質の場合、外来遺伝子は、哺乳動物由来、好ましくはヒト由来である。また、プロテインA及び蜘蛛の糸を構成するタンパク質等の工業的に使用可能なタンパク質の場合、外来遺伝子は、細菌及び酵母等の微生物、植物並びに動物を含む任意の生物由来のタンパク質、あるいは人工的なタンパク質をコードしてもよい。
【0031】
外来遺伝子は、外来プロモーター配列によって恒常発現させる限り、卵内タンパク質遺伝子座の任意の位置にノックインされる。例えば、外来遺伝子は、卵内タンパク質遺伝子のORFの上流又は下流にノックインされる。好ましくは、
図1Bに示すように、外来遺伝子はオボアルブミン遺伝子の上流にノックインされる。オボアルブミンは卵管内で必須のタンパク質であるため、卵内タンパク質遺伝子座がオボアルブミン遺伝子座である場合、外来遺伝子に加え、オボアルブミン遺伝子が発現するのが好ましい。外来遺伝子がノックインされた細胞株を選別するために、外来遺伝子とともにマーカー遺伝子2が組み込まれてもよい。
【0032】
卵内タンパク質遺伝子座に本来ある卵内タンパク質遺伝子の上流に外来遺伝子をノックインする場合、外来遺伝子と卵内タンパク質遺伝子との間に、複数のオープンリーディングフレーム(ORF)の発現を1つのプロモーターで制御するために使用されるリンカーが挿入されてもよい。リンカーは、例えば、キャップ非依存的な翻訳の開始を可能にするRNAエレメントに対応するinternal ribosome entry site(IRES)、及び細胞内のタンパク質の翻訳中にリボソームスキッピングを誘発する2Aペプチドに対応する塩基配列である。
図1Bに示すように、IRESを挿入することで、外来プロモーター配列の制御下で、外来遺伝子とオボアルブミン遺伝子がそれぞれ発現する。2Aペプチドを使用した場合、外来遺伝子と卵内タンパク質遺伝子とが融合したタンパク質が発現し、2Aペプチドの部分で切断されて、外来遺伝子がコードするタンパク質と卵内タンパク質が生成される。2Aペプチドとしては、例えばT2A、P2A、E2A及びF2A等が挙げられる。
【0033】
卵内タンパク質遺伝子座はオボムコイド遺伝子座であってもよい。
図1Cは、鳥類の野生型の培養細胞株のゲノムにおけるオボムコイド遺伝子座の一部を示す。卵内タンパク質遺伝子座がオボムコイド遺伝子座である場合、
図1Cに示すように、本実施の形態に係る培養細胞株において、外来プロモーター配列によって恒常発現する、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる遺伝子は、オボムコイド遺伝子の上流にノックインされた外来遺伝子である。この場合、上記のリンカーを外来遺伝子とオボムコイド遺伝子との間に挿入しなければ、外来遺伝子のみが転写され、オボムコイド遺伝子は転写されず、オボムコイド遺伝子をノックオフすることができる。オボムコイドは卵管内で必須ではないうえ、アレルゲンともなるため、オボムコイドが生成しなくてもよい。なお、外来遺伝子は、オボムコイド遺伝子のエクソン1にある開始コドンの位置にノックインされてもよい。
【0034】
本実施の形態に係る卵内タンパク質遺伝子座は、1つに限らず、卵内タンパク質遺伝子座3及び卵内タンパク質遺伝子座3とは異なる卵内タンパク質遺伝子座4それぞれに、有用タンパク質等をコードする遺伝子をノックインしてもよい。例えば、卵内タンパク質遺伝子座3がオボアルブミン遺伝子座であって、卵内タンパク質遺伝子座4がオボムコイド遺伝子座である。以下では、卵内タンパク質遺伝子座3及び卵内タンパク質遺伝子座4がそれぞれオボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座である場合を例として説明する。
【0035】
オボアルブミン遺伝子座及びオボムコイド遺伝子座を利用する場合、外来プロモーター配列は、オボアルブミン遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列5(第1の外来プロモーター配列)及びオボムコイド遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列6(第2の外来プロモーター配列)である。外来プロモーター配列5と外来プロモーター配列6とは、同じ種類のプロモーター配列であってもよいし、異なる種類のプロモーター配列であってもよい。例えば、外来プロモーター配列5及び外来プロモーター配列6は、いずれもEF1αプロモーター配列である。
【0036】
外来プロモーター配列5によって恒常発現する遺伝子は、オボアルブミン遺伝子及びオボアルブミン遺伝子座にノックインされた外来遺伝子7(第1の外来遺伝子)である。外来プロモーター配列6によって恒常発現する遺伝子は、オボムコイド遺伝子の上流にノックインされた外来遺伝子8(第2の外来遺伝子)である。
【0037】
外来遺伝子7と外来遺伝子8とを同じ有用タンパク質等をコードする外来遺伝子とすることで、1つの卵内タンパク質遺伝子座を利用した場合よりも有用タンパク質等の発現量を増大させることができる。また、外来遺伝子7と外来遺伝子8とを異なる有用タンパク質等をコードする外来遺伝子とすることで、複数種の有用タンパク質等を発現させることができる。
【0038】
続いて、本実施の形態に係る鳥類の培養細胞株の製造方法について説明する。当該培養細胞株の製造方法は、鳥類の培養細胞株のゲノムに、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をノックインする第1のステップと、卵内タンパク質遺伝子座に外来遺伝子をノックインする第2のステップとを含む。
【0039】
ノックインの対象となる鳥類の培養細胞株は、好ましくは人為的な遺伝子改変がなされていない野生型の培養細胞株である。好適には、ノックインの対象となる鳥類の培養細胞株はDF-1細胞である。本実施の形態に係る鳥類の培養細胞株の製造方法にDF-1細胞を使用することで、遺伝子改変されたDF-1細胞が得られる。
【0040】
ゲノムへの外来プロモーター配列及び外来遺伝子のノックインは、公知のゲノム編集技術によって行うことができる。ゲノム編集は、2本鎖DNAの切断とその修復を利用して遺伝子改変を行う技術である。ゲノム編集には、例えば、zinc finger nuclease(ZFN)、transcription activator-like effector nuclease(TALEN)及びCRISPR/Casシステムが使用できる。
【0041】
ZFN及びTALENは、DNA結合ドメインとDNA切断ドメインからなるポリペプチドである。TALEN及びZFNは、DNA結合ドメインの結合部位において一対のDNA切断ドメインが近接して二量体を形成することによって、二本鎖DNAを切断する。DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールを繰り返して含み、それぞれのDNA結合モジュールが、DNAの特定の塩基対を認識するため、DNA結合モジュールを適切に設計することによって、ゲノム上の標的とする塩基配列を特異的に切断できる。ZFNにおけるDNA結合ドメイン及びDNA切断ドメインは、それぞれジンクフィンガーモチーフ及びFokIである。TALENにおけるDNA結合ドメイン及びDNA切断ドメインは、それぞれジFokIとTALエフェクターである。
【0042】
ヌクレアーゼ活性を有するCasタンパク質としてCas9を使用するCRISPR/Cas9は、ゲノム上のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM配列)と5’末端側に隣接する塩基との間で二本鎖DNAを特異的に切断してゲノムの任意の部位を改変することができる遺伝子改変ツールである。
【0043】
CRISPR/Cas9システムでは、Cas9タンパク質と、gRNAとを使用する。gRNAは、CRISPR RNA(crRNA)に相当する、標的配列の相補鎖と塩基対を形成する塩基配列と、トランス活性化型crRNA(tracrRNA)の機能を担いCas9タンパク質の結合の足場となる塩基配列とを含む。gRNAが標的配列の相補鎖に塩基対合することでCas9-gRNA複合体が形成される。そして、Cas9タンパク質が二本鎖DNAを切断する。
【0044】
二本鎖DNAの切断は、多くの遺伝情報の損失又はガン化の原因になるため、細胞内で極めて迅速に修復される。好ましくは、本実施の形態に係る培養細胞株の製造方法において、外来プロモーター配列及び外来遺伝子のノックインはPITChシステムを介して行われる。PITChシステムは、切断された二本鎖DNAの修復機構の1つであるマイクロホモロジー媒介末端結合(microhomology-mediated end-joining;MMEJ)を利用して外来プロモーター配列及び外来遺伝子を挿入する。MMEJは二本鎖切断の際に生じた切断両末端間で、相補的な配列(5~25塩基対)同士で結合し、修復される機構である。
【0045】
CRISPR/Cas9システム及びPITChシステムを用いて外来プロモーター配列をゲノムにノックインする場合、卵内タンパク質遺伝子座において二本鎖DNAを切断するCRISPR/Cas9を発現するベクターと、外来プロモーター配列を含むドナーベクターと、ドナーベクターを切断するCRISPR/Cas9を発現するベクターとを、培養細胞株に導入すればよい。これらベクターは、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等の公知の方法で培養細胞株に導入すればよい。外来遺伝子をゲノムにノックインする場合も同様に、第1のステップにおいて外来プロモーター配列がゲノムに導入された細胞株に、卵内タンパク質遺伝子座において二本鎖DNAを切断するCRISPR/Cas9を発現するベクターと、外来遺伝子を含むドナーベクターと、ドナーベクターを切断するCRISPR/Cas9を発現するベクターとを導入すればよい。
【0046】
第1のステップ及び第2のステップでは、それぞれ外来プロモーター配列及び外来遺伝子とともにマーカー遺伝子1及びマーカー遺伝子2がノックインされてもよい。これにより、外来プロモーター配列及び外来遺伝子がゲノムにノックインされた培養細胞株(クローン)を、外来プロモーター配列及び外来遺伝子とともにゲノムに導入されたマーカー遺伝子を介して選別できる。外来遺伝子とともにノックインされたマーカー遺伝子2は、外来プロモーター配列とともにノックインされたマーカー遺伝子1と異なるのが好ましい。
【0047】
なお、第1のステップと、第2のステップとは同時に行ってもよい。すなわち、外来プロモーター配列のノックインに使用する上記ベクターと、外来遺伝子のノックインに使用する上記ベクターとを、培養細胞株に導入してもよい。
【0048】
ノックインした外来プロモーター配列が卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させることを確認するには、第1のステップで得られた培養細胞株について、卵内タンパク質遺伝子が転写されたmRNA又は卵内タンパク質の発現を公知の方法で評価すればよい。mRNAの発現は、培養した培養細胞株からRNAを抽出しPCR、リアルタイムPCR、定量PCR及び転写産物の配列解析等の公知の方法で確認できる。卵内タンパク質の発現は、培養した培養細胞株の培養上清又はライセートから調製した試料についてウエスタンブロット法及びELISA法等の公知の方法で確認できる。ノックインした外来遺伝子の発現は、上述の卵内タンパク質遺伝子の発現と同様に第2のステップで得られた培養細胞株について確認すればよい。
【0049】
複数の卵内タンパク質遺伝子座に外来遺伝子をノックインする場合は、上記第1のステップにおいて、鳥類の培養細胞株のゲノムに、卵内タンパク質遺伝子座3に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列5をノックインする。そして、上記第2のステップにおいて、卵内タンパク質遺伝子座3に外来遺伝子7をノックインする。さらに、卵内タンパク質遺伝子座4について、第1のステップと第2のステップとを行えばよい。具体的には、第3のステップとして、外来遺伝子7をノックインした培養細胞株のゲノムに、卵内タンパク質遺伝子座4に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列6をノックインする。続いて、第4のステップとして、卵内タンパク質遺伝子座4に外来遺伝子8をノックインすればよい。
【0050】
本実施の形態に係る培養細胞株によれば、実用化されていない卵管内分泌細胞で発現するオボアルブミン及びオボムコイド等の卵内タンパク質を卵管内分泌細胞ではない細胞株で発現させることができる。このため、卵内タンパク質遺伝子座にノックインされた外来遺伝子にコードされる有用タンパク質の発現量、及び有用タンパク質が所望の活性を維持しているか否かを検討することができる。遺伝子改変された培養細胞株において有用タンパク質の所望の発現と活性が確認された場合、卵内タンパク質遺伝子座の同じ位置にノックインされた外来遺伝子は、卵管内分泌細胞でも同様に発現すると考えられる。したがって、バイオリアクターによる有用タンパク質の産生量及び活性をバイオリアクターの構築に着手する前に、短期間で評価することができる。
【0051】
本実施の形態に係る培養細胞株を用いて評価に基づいてバイオリアクターを構築する場合、鳥類の胚性幹細胞、特には胚盤葉上層由来多能性幹細胞又は始原生殖細胞等を対象として、培養細胞株での検討で決定した卵内タンパク質遺伝子座の位置に上記のように外来遺伝子をノックインすればよい。続いて、外来遺伝子をノックインした始原生殖細胞を、鳥類の胚に移植する。移植操作は、特に限定されないが、細管を用いて、鳥類の胚に始原生殖細胞を注入すればよい。始原生殖細胞を移植した後、移植された胚を含む卵を、孵化させることでキメラ個体を作出することができる。得られたキメラ個体を交配することで、卵内タンパク質遺伝子座にノックインされた外来遺伝子をホモ接合で有するゲノムを受け継いだ遺伝子改変鳥類が高い確率で作出される。
【0052】
上記のように本実施の形態に係る培養細胞株の製造方法はバイオリアクターの構築方法に組み入れることができる。よって、別の実施の形態では、上記第1のステップと、第2のステップとを含む、バイオリアクターの構築方法が提供される。
【0053】
また、別の実施の形態では、バイオリアクター評価用キットが提供される。当該キットは、卵内タンパク質遺伝子座に含まれる少なくとも1つの遺伝子を恒常発現させる外来プロモーター配列をゲノムに有する鳥類の培養細胞株と、卵内タンパク質遺伝子座に前記遺伝子として外来遺伝子をノックインするための試薬と、を備える。キットに含まれる培養細胞株のゲノムには、外来遺伝子はノックインされておらず、外来プロモーター配列のみがノックインされている。外来遺伝子をノックインするための試薬は、例えば、上記の第2のステップで用いた外来遺伝子のゲノム編集技術によるノックインの試薬である。より具体的には、試薬として、卵内タンパク質遺伝子座において二本鎖DNAを切断するCRISPR/Cas9を発現するベクターと、外来遺伝子を組み込み可能なドナーベクター(PITChベクター)と、ドナーベクターを切断するCRISPR/Cas9を発現するベクター等が挙げられる。
【0054】
バイオリアクター評価用キットは、緩衝液、マーカー遺伝子による選別のための薬剤、及びノックインを確認するための各種プライマー等をさらに含んでもよい。
【実施例0055】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0056】
[実施例1:オボアルブミン(OVA)遺伝子座のゲノム編集]
1.ゲノム編集ツールの構築
CRISPR/Cas9システムを利用して、OVA遺伝子座に強制発現プロモーター(外来プロモーター配列)をノックインするために、ゲノム編集ツールを作製した。ノックインの手法として高効率なノックイン技術であるPITChシステムを利用した(Nakade et al.,Nat Commun,2014)。PITChシステムで使用するゲノム編集ツールは、OVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクター、外来プロモーター配列としてのEF1αプロモーターを含むドナーベクター(PITChベクター)及びPITChベクターを切断するCRISPR/Cas9ベクターの3種類である。
【0057】
(OVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクターの作製)
図2Aには、OVA遺伝子のエクソン1の上流を標的とする場合(以下、“エクソン1編集”ともいう)のPAM配列とgRNAの標的配列(下線)とが示されている。一方、エクソン1とエクソン2との間を標的とする場合(以下、“エクソン2編集”ともいう)のPAM配列とgRNAの標的配列(下線)とが
図2Cに示されている。gRNAの鋳型となる、アニーリングした合成オリゴを合成した(ユーロフィンジェノミクス社製)。エクソン1編集について合成オリゴの塩基配列を配列番号3及び4に示す。エクソン2編集について合成オリゴの塩基配列を配列番号5及び6に示す。
【0058】
アニーリング済み合成オリゴを、BpiI(Thermo Fisher Scientific社製)とLigation high Ver.2(TOYOBO社製)を使用したGolden Gate法により、pX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9ベクター(Addgene社製、#42230、以下“pX330ベクター”ともいう)に挿入した。反応液をCompetent Quick DH5(TOYOBO社製)に形質転換し、スモールカルチャー後、プラスミドを抽出した(FastGene Plasmid MiniKit、日本ジェネティクス社製)。その後、抽出したプラスミドをシークエンス解析(BigDye(商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit、Thermo Fisher Scientific社製)のテンプレートとして使用した。シークエンス解析の結果、合成オリゴがpX330ベクターに挿入されていることが確認された。
【0059】
(EF1αプロモーターを搭載したPITChベクターの作製)
PITChベクターの構築に利用したpBApo-EF1α Purベクター(タカラバイオ社製)のベクターのマップを
図3に示す。本実施例に係るPITChベクターは、pBApo-EF1α Purベクターのクローニングサイト内のBamHIとHindIIIとの間にOVA遺伝子と相同な約20bpの塩基配列(マイクロホモロジー配列)を挿入することにより作製した。挿入する塩基配列を合成オリゴとして合成し、合成オリゴをCRISPR/Cas9ベクターの作製時と同様にアニールした。エクソン1編集における合成オリゴの塩基配列を配列番号7及び8に示す。エクソン2編集における合成オリゴの塩基配列を配列番号9及び10に示す。エクソン1編集に使用する合成オリゴの塩基配列には、制限酵素サイト(BamHIサイト及びHindIIIサイト)及びマイクロホモロジー配列が含まれる。なお、エクソン2には開始コドンが存在するため、エクソン2編集における合成オリゴの塩基配列には、制限酵素サイト及びマイクロホモロジー配列の他にコザック配列が含まれる。
【0060】
pBApo-EF1α PurベクターをBamHI及びHindIIIにより制限酵素処理し、1%アガロースゲルで電気泳動した。その後、目的のベクターを切り出し、精製した(FastGene Gel/PCR Extraction Kit、日本ジェネティクス社製)。精製したベクターとインサートとを、Ligation high Ver.2により連結した。それらを上述のようにコンピテントセルへ形質転換し、シークエンス解析に供試した。シークエンス解析の結果、pBApo-EF1α Purベクターのクローニングサイトに合成オリゴが挿入されていることが確認された。
【0061】
(PITChベクターを切断するCRISPR/Cas9ベクターの作製)
エクソン1編集及びエクソン2編集について作製したPITChベクター中の標的配列をそれぞれ
図4A及び
図4Bに示す。上述のOVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクターの作製と同様に、gRNAの鋳型となるアニーリングした合成オリゴを合成した。エクソン1編集における合成オリゴの塩基配列を配列番号11及び12に示す。エクソン2編集における合成オリゴの塩基配列を配列番号13及び14に示す。合成オリゴをアニール後、pX330ベクターへ挿入し、シークエンス解析により合成オリゴの挿入を確認した。
【0062】
2.ゲノム編集技術を利用したOVA発現細胞株の作製
上述のように作製したOVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクター、EF1αプロモーターを搭載したPITChベクター及びPITChベクターを切断するCRISPR/Cas9ベクターを混合したDNA溶液をDF-1細胞(ATCC(商標) CRL-12203(商標))に遺伝子導入した。DF-1細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Biological Industries社製)-KnockOut(商標) DMEM(Dulbecco’s modified Eagle medium)(Thermo Fisher Scientific社製)、1%GlutaMax(商標)(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して維持した。遺伝子導入には、Lipofectamine(商標)3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)をプロトコルに従って使用した。遺伝子導入24時間後、1.0μg/mLの濃度でピューロマイシンを添加し、2週間培養した。
【0063】
EF1αプロモーターのノックインを確認するために、ポリクローナルな細胞からゲノムDNAを抽出し(Puregene Cell Kit、QIAGEN社製)、ゲノミックPCR(KOD One(商標) PCR Master Mix、TOYOBO社製)に供試した。
図2Bに示す、エクソン1編集に係るフォワードプライマーP1及びリバースプライマーP2の塩基配列をそれぞれ配列番号15及び16に示す。
図2Dに示す、エクソン2編集に係るフォワードプライマーP3及びリバースプライマーP4の塩基配列をそれぞれ配列番号17及び18に示す。
図5に示すように、エクソン1編集及びエクソン2編集についてそれぞれ目的とするバンドが検出された。その後、限界希釈法により細胞をモノクローン化し、さらなる解析に供試した。
【0064】
ノックインが片アレルに生じているか、両アレルに生じているかを判断するために、ノックイン領域を挟み込むようにOVA遺伝子座上にプライマーを設計した。
図2Bに示すように、エクソン1編集に係るプライマーには、フォワードプライマーP1及び塩基配列を配列番号19に示すリバースプライマーP5を用いた。
図2Dに示す、エクソン2編集に係るフォワードプライマーP6及びリバースプライマーP7の塩基配列をそれぞれ配列番号20及び21に示す。このプライマーを使用してゲノミックPCRを行った結果、
図6に示すように、エクソン1編集及びエクソン2編集において高分子量及び低分子量にバンドが検出された。このことから、ゲノム編集ツールの導入の結果、EF1αプロモーターが片アレルに挿入されていることが明らかとなった。
【0065】
3.オフターゲット作用の有無の確認
上記で樹立したEF1αプロモーターがOVA遺伝子のエクソン1の上流にノックインされている株(以下、“EF1α-Exon1株”とする)及びEF1αプロモーターがエクソン1とエクソン2との間にノックインされている株(以下、“EF1α-Exon2株”とする)に目的外の変異が生じていないか(オフターゲット作用)を確認した。まずCRISPR directにより、PAMとgRNAの標的配列とを合わせた12塩基が一致しているニワトリのゲノム領域の情報を取得した。それらのゲノム領域に関して、University of California SANTA CRUZ(UCSC) Genome Browserを使用し、アノテーションを行った。CRISPR directにより取得したゲノム領域のうち、遺伝子がコードされている領域を候補領域とし、候補領域におけるオフターゲット作用の有無を確認した。候補領域を表1に示す。
【0066】
【0067】
候補領域について、それぞれを増幅するプライマーを設計した。DACH1に係るフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号32及び33に示す。IFT140に係るフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号34及び35に示す。TRAIPに係るフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号36及び37に示す。SNX2に係るフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号38及び39に示す。ATP2A2に係るフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号40及び41に示す。KIF4Bに係るフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号42及び43に示す。
【0068】
EF1α-Exon1株、EF1α-Exon2株の単一クローン細胞及びコントロールとしての野生型DF-1細胞から抽出したゲノムDNAについて、候補領域を増幅した。それらをテンプレートとしてダイレクトシークエンス法を実施し、シークエンス解析を行った。その結果、計6箇所のオフターゲット候補領域に変異は確認されなかった。
【0069】
4.OVAの発現解析
樹立したEF1α-Exon1株及びEF1α-Exon2株におけるOVA遺伝子の発現を検討した。まず、OVA遺伝子の転写が行われているか否かを確認するため、RT-PCR、qRT-PCR及びOVA遺伝子の転写産物のシークエンス解析を実施した。
【0070】
培養したEF1α-Exon1株及びEF1α-Exon2株からRNAを抽出し(FastGeneTM RNA Premium Kit、日本ジェネティクス社製)、cDNAを合成した(SuperScript IV reverse transcriptase、Thermo Fisher Scientific社製)。合成したcDNAを使用して、RT-PCRを実施した。使用したフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号44及び45に示す。RT-PCRの結果、
図7に示すように、各株についてOVA遺伝子が転写されていることが確認できた。
【0071】
続いてqRT-PCRにより、EF1α-Exon1株及びEF1α-Exon2株におけるOVA遺伝子の発現強度を評価した。qRT-PCRにはKOD SYBR qPCR mix(TOYOBO社製)を使用した。コントロールとしてβ-アクチンの発現量を定量した。OVAに対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号46及び47に示す。β-アクチンに対するフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号48及び49に示す。qRT-PCRの結果、
図8に示すように、EF1α-Exon1株において、EF1α-Exon2株の約3倍の発現強度を示した。
【0072】
EF1α-Exon1株及びEF1α-Exon2株においてOVA遺伝子の正常な転写が行われているか否かを調べるため、OVA遺伝子の転写産物のシークエンス解析を実施した。まず各細胞株から合成したcDNAをテンプレートに、OVA遺伝子の予測される転写産物の全長をPCRにより増幅した。続いてPCR産物を使用してダイレクトシークエンス法を実施し、OVA遺伝子の転写産物のシークエンス解析を行った。使用したプライマーの塩基配列を配列番号50~55に示す。シークエンス解析の結果、EF1α-Exon1及びEF1α-Exon2株において正常なOVA遺伝子の転写が確認された。
【0073】
OVAタンパク質がEF1α-Exon1株及びEF1α-Exon2株において発現しているか否かを調べるため、ウエスタンブロット法及びELISA法を行った。ウエスタンブロット法では、サンプルとして、各株の培養上清及び細胞のライセートを供試した。2週間培養した培養上清をAmicon Ultra 30K(Merck社製)により約2倍濃縮し、培養上清サンプルとして使用した。
【0074】
Nuclear Extract Kit(ACTIVE MOTIF社製)をプロトコルに従い使用することでライセートサンプルを調製した。それぞれのサンプルを15%ポリアクリルアミドゲルにより分離し、PVDF膜に転写後、一晩、4℃でブロッキングした(PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal(商標)、TOYOBO社製)。メンブレン上のOVAタンパク質は、抗OVAウサギ抗体(Egg Western Blotting Kit(卵白アルブミン、森永生科学研究所製)で検出した。これらは一次抗体用Solution1(Can Get Signal(商標) Immunoreaction Enhancer Solution、TOYOBO社製)で1:1000に希釈した。二次抗体にはHRP標識抗ウサギヤギ抗体を使用し、二次抗体用Solution2(Can Get Signal(商標) Immunoreaction Enhancer Solution、TOYOBO社製)で1:5000に希釈した。化学発光はECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GE Healthcare社製)で検出した。その結果、
図9に示すように、EF1α-Exon1株の培養上清サンプルからOVAタンパク質が検出された。
【0075】
ELISA法にはEF1α-Exon1株及びEF1α-Exon2株を4日間培養した培養上清及びライセートサンプルを供試した。ライセートサンプルはNuclear Extract Kitを用いて調製した。ELISA法には、捕捉抗体と検出抗体の2種類の抗体を用いるサンドイッチELISA法を採用した。捕捉抗体として、Anti-OVALBUMIN(Hen Egg White)(RABBIT) Antibody (ROCKLAND社製)を用いた。捕捉抗体をPBSで1:2000に希釈し、4℃で一晩、固相化した。OVA標準試料は、ITEA Egg White Albumin(OVA) ELISA Kit(ITEA社製)のOVA標準試料を50、25、12.5、6.25、3.13、1.56及び0.78ng/mlにPBSで希釈して調製した。
【0076】
検出抗体は、Peroxidase Labeling Kit(Dojindo Molecular Technologies社製)で標識した抗OVAウサギ抗体(Egg Western Blotting Kit(卵白アルブミン、森永生科学研究所製)を一次抗体用Solution1で1:1000希釈して使用した。基質にはSureBlue Reserve(商標) TMB Microwell Peroxidase Substrate(SeraCare Life Sciences社製)を用い、Multiskan Sky T(Thermo Fisher Scientific社製)で発色を検出した。OVA標準試料から作成した検量線に基づいてOVA濃度を求めたところ、
図10に示すように、ウエスタンブロット法の結果と一貫して、EF1α-Exon1株の培養上清サンプルに多くのOVAタンパク質が含まれていることが分かった。
【0077】
5.有用タンパク質遺伝子の導入及び発現解析
OVA遺伝子の発現解析により、EF1α-Exon1株でOVA遺伝子が高発現していることが明らかになったため、有用タンパク質遺伝子の導入にはEF1α-Exon1株を使用した。
図11A及び
図11Bに示すように、有用タンパク質として再生医療等で用いられるhFGF2をコードするhFGF2遺伝子をEF1α-Exon1株のOVA遺伝子座のエクソン1とエクソン2との間にノックインした。hFGF2遺伝子のOVA遺伝子座へのノックインにもPITChシステムを使用した。PITChシステムで使用するゲノム編集ツールは、OVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクター、hFGF2遺伝子を含むドナーベクター(PITChベクター)及びPITChベクターを切断するCRISPR/Cas9ベクターの3種類である。OVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクターとして、上記のエクソン2編集におけるOVA遺伝子座を標的とするCRISPR/Cas9ベクターを用いた。
【0078】
(hFGF2遺伝子を搭載したPITChベクターの作製)
PITChベクターの作製には、
図12に示す、pCRIS-PITChv2-FBL(Addgene社製、#63672)(Sakuma et al.,Nat Protoc,2016)を使用した。PITChベクターはpCRIS-PITChv2-FBLのPITCh gRNA target sites内を、
図13に示すようにhFGF2-NeoR-IRESに組み換えることで構築した。必要な遺伝子を所定のプライマーを用いてPCRにより増幅し、In Fusion反応後(In-Fusion(商標) HD Cloning Kit、タカラバイオ社製)、コンピテントセルに形質転換した。スモールカルチャー後、プラスミドを抽出し、シークエンス解析を行いhFGF2-NeoR-IRESカセットの組込みを確認した。PITChベクターの作製のためのプライマーの塩基配列を表2に示す。
【0079】
【0080】
(PITChベクターを切断するCRISPR/Cas9ベクターの作製)
PITChベクターを切断するCRISPR/Cas9ベクターには、
図14に示すpX330S-2-PITCh(Addgene社製、#63670)(Sakuma et al.,Nat Protoc,2016)を使用した。
【0081】
構築したゲノム編集ツールをEF1α-Exon1株に遺伝子導入し、2週間の期間、100μg/mLのネオマイシンによる薬剤選抜を行った。ポリクローナルな細胞からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックPCRに供試した。hFGF2遺伝子のノックイン検出のためのフォワードプライマーP8及びリバースプライマーP9の塩基配列をそれぞれ配列番号64及び65に示す。
【0082】
図15に示すように、EF1αプロモーターの下流に、hFGF2がノックインされていることを確認した。その後、限界希釈法により、細胞をモノクローン化し、シークエンス解析を行い、OVA遺伝子座の目的位置にhFGF2遺伝子がノックインされていることを確認した。
【0083】
モノクローン化により、OVA遺伝子座の目的位置にhFGF2遺伝子がノックインされている3つの株(クローン番号#30、#46及び#52)を取得した。クローン番号#30、#46及び#52を培養し、RNAを抽出し、cDNAを合成した。合成したcDNAを使用して、RT-PCRを実施した。3つの株におけるスプライシング後の予想配列を
図11Cに示す。塩基配列を配列番号66及び67にそれぞれ示すフォワードプライマー(Fwd1)及びリバースプライマー(Rev1)を使用したRT-PCRによる増副産物のサイズは2472bpである。RT-PCRの結果、
図16に示すように、クローン番号#30、#46及び#52においてOVA遺伝子及びhFGF2遺伝子が転写されていることが確認できた。
【0084】
OVAタンパク質及びhFGF2タンパク質がクローン番号#30、#46及び#52において発現しているか否かを調べるため、ELISA法を実施した。OVAタンパク質の検出には、クローン番号#30、#46及び#52を7日間培養した培養上清を供試した。FGF2タンパク質の検出には、クローン番号#30、#46及び#52のライセートサンプルを供試した。ライセートサンプルは、Human FGF2 sandwich ELISA kit (Proteintech社製)のプロトコルに従い作製した。
図17及び
図18はそれぞれOVAタンパク質及びhFGF2タンパク質の濃度を示す。OVAタンパク質は培養上清中に30ng/ml~50ng/mlの濃度で含まれていた。hFGF2タンパク質はライセート中に1200pg/ml~1900pg/mlの濃度で含まれていた。
【0085】
[実施例2:オボムコイド(OVM)遺伝子座のゲノム編集]
1.OVM発現細胞作製のためのベクター構築
DF-1細胞にゲノム編集を施し、OVM発現細胞株を樹立した。具体的には、OVM遺伝子上流を標的としてCRISPR/Cas9を利用したPITChシステムによってEF1αプロモーターを挿入することで、OVM遺伝子の転写及び翻訳を促す。
【0086】
OVM発現細胞の樹立では、PITChベクターと2種のCRISPR/Cas9ベクターを作製した。
図19Aに示すように、PITChベクターには、EF1αプロモーターとマーカー遺伝子及びPITChシステムに必要なマイクロホモロジー配列を搭載させた。2種のCRISPR/Cas9ベクターは、それぞれOVM遺伝子の上流とPITChベクターのマイクロホモロジー配列を標的とする。
図19Aにおいて下線を付した塩基配列はgRNAの標的配列を示し、矢印は切断箇所を示す。
【0087】
(CRISPR/Cas9ベクターの構築)
CRISPR/Cas9ベクターの構築にはpX330-U6-Chimeric BB-CBh-SpCas9ベクターを用いた。BpiIで線状化したpX330-U6-Chimeric BB-CBh-SpCas9ベクターにgRNAの鋳型となるアニーリングした合成オリゴを挿入することで作製した。合成オリゴのアニーリングの方法について以下で説明する。
【0088】
10×バッファー(400mM Tris-HCl(pH8)、200mM MgCl2、500mM NaCl) 1μL、100μM センスオリゴ 1μL、100μM アンチセンスオリゴ 1μL及び滅菌蒸留水 7μLを含むアニーリング溶液を、95℃で5分間反応させた後、90分間かけて25℃まで冷却することで、合成オリゴをアニールした。その後、アニールした合成オリゴを、以下に示す手順でpX330-U6-Chimeric BB-CBh-SpCas9ベクターに挿入した。以下にアニーリングオリゴ挿入のための反応液の組成を示す。
pX330-U6-Chimeric BB-CBh-SpCas9(25ng/μL) 0.3μL
アニーリング済み合成オリゴ 0.5μL
Ligation high ver2(TOYOBO社製) 1.0μL
BpiI 0.1μL
滅菌蒸留水 0.1μL
【0089】
37℃で5分、16℃で10分の反応を3サイクル行うことで、線状化ベクターにアニーリングオリゴを挿入した。OVM遺伝子の上流を標的とする合成オリゴに含まれるセンスオリゴ及びアンチセンスオリゴの塩基配列を、それぞれ配列番号72及び73に示す。PITChベクターのマイクロホモロジー配列を標的とする合成オリゴに含まれるセンスオリゴ及びアンチセンスオリゴの塩基配列を、それぞれ配列番号74及び75に示す。以降OVM遺伝子上流を標的としたCRISPR/Cas9ベクターを、pX330-OVM 5’-UTR、PITChベクターを標的とするCRISPR/Cas9ベクターをpX330-EF1α donorと表記する。
【0090】
(PITChベクターの構築)
PITChベクターには強制発現プロモーターであるEF1αプロモーターとピューロマイシン耐性遺伝子が含まれるpBApo-EF1α-purベクターを使用した。pBApo-EF1α-purベクターに、アニーリングした合成オリゴを挿入することによってPITChベクターを作製した。pBApo-EF1α-purベクターをBamHI及びHindIIIで処理し、電気泳動した後、切り出し精製を行った。その後、Ligation high Ver.2(TOYOBO社製)を用いて、アニールさせた合成オリゴとBamHI及びHindIIIで処理したpBApo-EF1α-purベクターをアセンブルした。合成オリゴのアニーリング方法は上記で示した方法と同様の手順で行なった。挿入した合成オリゴに含まれるセンスオリゴ及びアンチセンスオリゴの塩基配列を、それぞれ配列番号76及び77に示す。
【0091】
2.ゲノム編集技術を利用したOVM発現細胞株の作製
DF-1細胞を、10%FBS(Biological Industries社製)、1×GlutaMAX(商標)(Thermo Fisher Scientific社製)を含むKO-DMEM(Thermo Fisher Scientific社製)で、5%CO2下、37℃で培養した。
【0092】
DF-1細胞を、遺伝子導入直前に6ウェルの培養プレートに1×10
6細胞/ウェルとなるように播種し、lipofectamine3000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて遺伝子導入を行った。導入したプラスミドは、上記3種のプラスミド(PITChベクター、pX330-OVM 5’-UTR及びpX330-EF1α donor)であり、各0.8μgずつ用いて共導入した。遺伝子導入の2日後からピューロマイシン 1.0μg/mLによる薬剤選択を1週間行った。薬剤選択後、生存していた細胞からPuregene core kit A(QIAGEN社製)を用いてゲノムを抽出し、生存している細胞集団に目的の変異を有する細胞集団が存在するか否かを判定するためにPCRを行った。フォワードプライマーF2をPITChベクター由来のEF1αプロモーター内に、リバースプライマーR2をDF-1細胞ゲノムのOVM遺伝子本体にそれぞれ設計した(
図19BにおけるF2及びR2)。フォワードプライマーF2及びリバースプライマーR2の塩基配列をそれぞれ配列番号78及び79に示す。フォワードプライマーF2及びリバースプライマーR2によって、挿入したPITChベクターの3’側がOVM遺伝子上流に挿入されているか否かを判定することができる。
【0093】
得られた細胞を、限界希釈によるクローニングによってモノクローナルな状態の細胞集団とした。細胞は、96ウェルプレート1枚につき50細胞となるように調製し、播種した。細胞が十分に増殖した後に、細胞を回収しPuregene core kit A(QIAGEN社製)を用いてゲノムを抽出し、フォワードプライマーF2及びリバースプライマーR2を用いてゲノミックPCRを行った。加えて、挿入したPITChベクターの外側にフォワードプライマーF1を、PITChベクター内の配列にリバースプライマーR1をそれぞれ設計してゲノミックPCRを行うことでPITChベクターの5’側も挿入されているか否かを判定した(
図19BにおけるF1及びR1)。フォワードプライマーF1及びリバースプライマーR1の塩基配列をそれぞれ配列番号80及び81に示す。さらに、EF1αプロモーターが両アレルに挿入されたホモ接合型か片アレルにしか挿入されていないヘテロ接合型かを判定するために、挿入したPITChベクターの外側にフォワードプライマーF3を設計した(
図19BにおけるF3)。フォワードプライマーF3の塩基配列を配列番号82に示す。
【0094】
図20A及び
図20Bに示すように、クローニングにより得られた細胞株#2及び細胞株#3において、5’側及び3’側のつなぎ目を含む領域に設計したプライマーによって目的のPCR産物の増幅が確認された。
図20Cに示されたジェノタイピングの結果、細胞株#2がEF1αプロモーターヘテロ接合型で、細胞株#3がEF1αプロモーターホモ接合型であることが判明した。
【0095】
3.OVMの発現解析
細胞株#2(EF1α-OVMヘテロDF-1細胞株)及び細胞株#3(EF1α-OVMホモDF-1細胞株)を用いて挿入したEF1αプロモーターによるOVM遺伝子の発現解析を以下のように行った。
【0096】
(mRNAの検出)
EF1αプロモーターの導入によりOVM遺伝子が転写されていることを確認するためにRT-PCRを行った。野生型DF-1細胞、細胞株#2及び細胞株#3からRNAを抽出し、cDNAを合成した。RNAの抽出及びcDNAの合成は、それぞれFastGene(商標) RNA Premium Kit(日本ジェネティクス社製)及びSuperScript IV reverse transcriptase(Thermo Fisher Scientific社製)をプロトコルにしたがって使用して行った。得られたcDNAを鋳型としたRT-PCRを行った。RT-PCRに使用したフォワードプライマー及びリバースプライマーはそれぞれOVM mRNAの5’と3’の非翻訳領域に設計した。フォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列を配列番号83及び84に示す。
【0097】
増幅されたPCR産物が既知の塩基配列と一致しているか否かを明らかにするためにPCR産物を鋳型としたダイレクトシークエンスを行った。サイクルシークエンスにはSuperDye v3.1 Cycle Sequence Kit(AdvancedSeq社製)を使用し、SeqStudio(商標) genetic analyzer(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて解析した。プライマーには上記のRT-PCRと同様に、塩基配列が配列番号83に示されるフォワードプライマー及び塩基配列が配列番号84に示されるリバースプライマーを使用した。
【0098】
図21に示すように、RT-PCRによって、EF1αプロモーターがDF-1細胞内在のOVM遺伝子の転写を促し、OVM遺伝子を発現させることがmRNAレベルで確認された。ダイレクトシークエンスの結果、細胞株#2及び細胞株#3におけるOVM mRNAの塩基配列は、NCBIに登録されているOVM transcrpt vriant 1(NM_01308494.2)とほとんど一致しており、アミノ酸配列に影響を及ぼすものではなかった。
【0099】
(OVMタンパク質の検出及び定量)
OVMタンパク質は分泌タンパク質であるため、細胞の培養上清に分泌される。培養上清から調製した試料に含まれるOVMタンパク質を検出及び定量することでOVM遺伝子が翻訳されているか否かを確認することができる。OVMタンパク質の検出及び定量には、OVMタンパク質に特異的に結合する抗体を用いたウエスタンブロット法及びサンドイッチELISA法を利用することができる。
【0100】
OVMタンパク質検出のための試料には、野生型DF-1細胞、細胞株#2及び細胞株#3それぞれの培養上清を用いた。各DF-1細胞株を6ウェルプレートに1×106細胞/ウェルで播種し、FreeStyle(商標) 293 Expression Mediums(Thermo Fisher Scientific社製)で培養した。1週間後の培養上清を回収し、ウエスタンブロット法では、この培養上清を濃縮して試料とした。サンドイッチELISA法では、培養上清をPBSで50倍に希釈して試料とした。培養上清の濃縮にはULTRAFREE(商標)-MC 5,000 NMWL Filter Unit(MILLIPORE社製)を使用した。
【0101】
ウエスタンブロット法の陽性対照には1レーンあたり10ngの精製OVMを使用した。調製した培養上清試料にNuPAGE(商標) LDS Sample buffer(4×)(Thermo Fisher Scientific社製)を加え、90℃で10分間の熱処理を行なった。このサンプルを用いて15%ポリアクリルアミドゲルによりSDS-PAGEを行なった。泳動にはCompact PAGE(ATTO社製)のTris-gly/PAGEL、Highモードを使用し、泳動時間は30分間とした。ウエスタンブロット法のメンブレンにはメタノールで10分間の親水性処理したImmuno-Blot PVDF Membrane(BIORAD社製)を使用した。SDS-PAGEを行なったゲルとメタノール処理したImmuno-Blot PVDF Membraneをblotting buffer(25mM Tris、192mM グリシン、5%(v/v)メタノール、0.01%SDS)を用いて100V、0.25A、1時間のブロッティングを行なった。ブロッティングにはPowerPac(BIORAD社製)を使用した。
【0102】
ブロッティング後、Immuno-Blot PVDF Membraneを0.1% Tween20-PBSで洗浄し、PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal(TOYOBO社製)を用いて4℃で終夜静置し、ブロッキングした。ブロッキングしたImmuno-Blot PVDF Membraneを0.1% Tween20-PBSで洗浄した後、Can Get Signal Solution2(TOYOBO社製)で3000倍に希釈したHRP標識抗OVMマウスモノクローナル抗体(当研究室で作製)を用いて抗体反応を行なった。反応後、0.1% Tween20-PBSで洗浄し、ECL(商標) prime Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア社製)を用いて反応させ、Amersham Imager680を用いて検出した。
【0103】
サンドイッチELISA法では、抗原エピトープの異なる2種類の抗体を用いることで定量性を担保した検出が可能となる。上記の方法で調製した各培養上清試料に含まれるOVMタンパク質濃度をサンドイッチELISA法により測定した。ELISAプレートに固相化抗体として0.5μg/mLの抗OVMウサギポリクローナル抗体(当研究室で作製)を100μL/ウェル加え、4℃で終夜静置した。ブロッキングには25%Block-Ace in PBS(DSファーマバイオメディカル社製)を200μL/ウェル加え、37℃で2時間インキュベーションした。検量線を作成するための陽性対照として精製OVMを100ng/mLから2倍段階希釈したものを用いた。希釈には10%Block-Ace in PBSを使用し、それぞれ100μL/ウェル加えて37℃で1時間インキュベートした。検出抗体にはHRP標識された0.5μg/mL抗OVMマウスモノクローナル抗体(当研究室で作成)を100μL/ウェル加え、37℃で1時間インキュベートした。o-フェニレンジアミン(ナカライテスク社製)を含む以下の組成の溶液により発色させた。
クエン酸―リン酸バッファー 5mL
o-フェニレンジアミン 0.002g
過酸化水素 1μL
【0104】
溶液を50μL/ウェルで加え暗所で反応させ、2M硫酸を50μL/ウェルで加えて反応を止め、MULTISCAN Sky(Thermo Fisher Scientific社製)で吸光度490nmを測定した。
【0105】
図22にウエスタンブロット法の結果を示す。EF1αプロモーターのノックインにより、DF-1細胞内在のOVM遺伝子がタンパク質レベルで発現することが確認された。
図23にサンドイッチELISA法で定量したOVM濃度を示す。EF1αプロモーターホモ接合型である細胞株#3の培養上清に含まれるOVM濃度は、EF1αプロモーターヘテロ接合型である細胞株#2と比較して2倍以上高く、OVMタンパク質の発現がEF1αプロモーターに依存的であることが示された。
【0106】
3.有用タンパク質遺伝子の導入及び発現解析
OVM発現DF-1細胞のOVM開始コドン以降に、発現させたい遺伝子カセットを挿入することで、OVM遺伝子の機能的なノックアウトが可能であるかを検討した。置き換える遺伝子カセットには、
図24に示すように、hFGF2遺伝子とマーカー遺伝子(Zeo
R及び緑色蛍光タンパク質であるEGFP)が含まれる。標的とするOVM遺伝子への遺伝子カセットの挿入は、CRISPR/Cas9を利用したPITChシステムにより行なった。作製したPITChベクター及びCRISPR/Cas9ベクターをそれぞれPITCh-OVM及びpX330-OVMと以下では表記する。
【0107】
(pX330-OVMの構築)
pX330-OVMの構築にはpX330-U6-Chimeric BB-CBh-SpCas9ベクターを用いた。上記の方法と同様にしてBpiIで線状化したpX330-U6-Chimeric BB-CBh-SpCas9ベクターにgRNAの鋳型となるアニーリングした合成オリゴを挿入することで作製した。ここで使用するCRISPR/Cas9は、OVM遺伝子の開始コドン下流の、
図24において下線で示された塩基配列を標的とした。挿入した合成オリゴに含まれるセンスオリゴ及びアンチセンスオリゴの塩基配列を、それぞれ配列番号90及び91に示す。
【0108】
(PITCh-OVMの構築)
PITCh-OVMでは、hFGF2遺伝子及びマーカー遺伝子がマイクロホモロジー配列に挟まれて搭載されている。
図24に示すように、マイクロホモロジー配列には、OVM遺伝子の開始コドン直前の16bpとエクソン1の終わりからイントロンを含む21bpとを用いた。また、マイクロホモロジー配列の外側に上記で作製したpX330-OVMの標的配列及びPAM配列を付加しており、1種類のCRISPPR/Cas9ベクターにより、ゲノムとPITCh-OVMとを切断することができる。PITCh-OVMの作製にはIn-Fusion(商標) HD Cloning Kit(TaKaRa社製)を使用した。
【0109】
(OVM発現細胞へのゲノム編集)
作製した上記のベクター2種(PITCh-OVM及びpX330-OVM)を用いて細胞株#2及び細胞株#3のゲノム編集を行った。細胞株#2及び細胞株#3を、遺伝子導入直前に6ウェルの培養プレートに1×10
6細胞/ウェルとなるように播種し、lipofectamine3000を用いて遺伝子導入を行った。遺伝子導入2日後からゼオシン 200μg/mLによる薬剤選択を1週間行った。薬剤選択後、生存していた細胞からPuregene core kit A(QIAGEN社製)を用いてゲノムを抽出し、生存している細胞集団に目的の変異を有する細胞集団が存在するか否かを判定するためのPCRを行った。
図25に示すように、OVM発現細胞のゲノムに由来するEF1αプロモーター内に対して設計したフォワードプライマーF4及びPITCh-OVMベクター内に対して設計したリバースプライマーR3を用いてPCRを行うことで、EF1αプロモーターが挿入されたアレルにPITCh-OVMが挿入されているかを判定することができる。フォワードプライマーF4及びリバースプライマーR3の塩基配列をそれぞれ配列番号92及び93に示す。
【0110】
得られた細胞を、限界希釈によるクローニングによって、モノクローナルな状態の細胞集団とした。細胞を96ウェルプレート1枚につき50細胞となるように調製し、播種した。細胞が十分に増殖した後に、細胞を回収しPuregene core kit A(QIAGEN社製)を用いてゲノムを抽出し、フォワードプライマーF4及びリバースプライマーR3を用いてゲノミックPCRを行った。さらに、
図25に示したように、挿入したPITC-OVM内に対して設計したフォワードプライマーF5、及びPITCh-OVMの3’側のOVM遺伝子内に対して設計されたリバースプライマーR4を用いてゲノミックPCRを行うことでPITCh-OVMの3’側に正確に挿入されているか否かを判定した。フォワードプライマーF5及びリバースプライマーR4の塩基配列をそれぞれ配列番号94及び95に示す。さらに、EF1αプロモーターが挿入されたアレルにPITCh-OVMの全長が挿入されていることを確認するために、フォワードプライマーF2と、
図25に示すようにPITC-OVMの3’側のOVM遺伝子に対して設計されたリバースプライマーR5を用いてPCRを行うことで、PITCh-OVMがEF1αプロモーターホモ接合型である細胞株#3の両アレルに挿入されたホモ接合型か片アレルにしか挿入されていないヘテロ接合型かを判定することができる。リバースプライマーR5の塩基配列を配列番号96に示す。
【0111】
図26A及び
図26Bに示すように、クローニングにより得られた細胞株#2-3及び細胞株#3-4において、5’側及び3’側のつなぎ目を含む領域に設計したプライマーによって目的のPCR産物の増幅が確認された。
図26Cに示されたジェノタイピングの結果、細胞株#2-3及び細胞株#3-4において、hFGF2カセットが挿入されていることを確認した。
【0112】
(タンパク質の検出及び定量)
細胞株#2-3及び細胞株#3-4はそれぞれ、EF1αプロモーターが挿入されたアレルのOVM遺伝子にPITCh-OVMが挿入されている。これらの細胞株においてOVM遺伝子が機能的にノックアウトされ、OVMタンパク質の分泌能が欠損しているか、各細胞株の培養上清を用いて調べた。OVMタンパク質は分泌タンパク質であるため、OVM発現細胞株である細胞株#2及び細胞株#3ではOVMタンパク質が細胞培養上清に分泌される。したがって、OVM遺伝子に加えた改変が機能的なノックアウトに寄与しているかは、細胞培養上清を用いてウエスタンブロット法及びサンドイッチELISA法を行うことで確認することができる。
【0113】
上記と同様に、ヘテロ接合型の細胞株#2-3及びホモ接合型の細胞株#3-4の培養上清に含まれるOVMタンパク質をウエスタンブロット法及びサンドイッチELISA法で検出及び定量した。
図27に示すように、ウエスタンブロット法において、細胞株#2-3及び細胞株#3-4の培養上清にOVMタンパク質が分泌されないことを確認した。サンドイッチELISA法では、
図28に示すように、細胞株#2-3及び細胞株#3-4において培養上清中に含まれるOVMタンパク質の濃度が野生型DF-1と同様に検出限界以下であった。よって、PITCh-OVMをノックインすることで細胞株#2-3及び細胞株#3-4ではOVM遺伝子がノックアウトされたことが示された。
【0114】
[実施例3:OVA遺伝子座のゲノム編集]
1.ゲノム編集ツールの構築
本実施例では、実施例1に示したOVA遺伝子座のエクソン1とエクソン2との間へのhFGF2遺伝子のノックインと同様に、エクソン8の下流にhFGF2遺伝子をノックインした。本実施例では、OVA遺伝子とhFGF2遺伝子との間に2AペプチドとしてT2Aをコードする領域を挿入した。OVA遺伝子座のエクソン8の下流へのノックインには相同組み換え修復(Homologous recombination:HR)を利用した。HRによるノックインで使用したゲノム編集ツールは、OVA遺伝子座を標的とするTALEN発現ベクター2種類(Left及びRight)とhFGF2遺伝子を含むドナーベクターとである。
【0115】
(TALEN発現ベクターの作製)
図29に示すOVA遺伝子座のエクソン8の標的配列に基づいて、2種類のTALEN発現ベクターを構築した。
【0116】
(hFGF2遺伝子を搭載したドナーベクターの作製)
ドナーベクターの作製に利用したpCR2.1(商標)-TOPO(商標)TAベクター(Thermo Fisher Scientific社製)のベクターのマップを
図30に示す。まず、所定のプライマーを使用して、OVA遺伝子座の標的配列付近約1000bpを相同配列としてpCR2.1(商標)-TOPO(商標)TAベクターにクローニングした。その後、T2A-hFGF2-Puro
Rを所定のプライマーにより増幅し、In Fusion反応後、コンピテントセルに形質転換した。さらに、Puro
RをNeo
Rに変更するため、再度In Fusion反応を行い、コンピテントセルに形質転換した。スモールカルチャー後、プラスミドを抽出し、BglIIで処理し、鎖状化した。BglIIで処理する前のドナーベクターのマップを
図31に示す。ドナーベクターの作製に使用したプライマーの塩基配列を表3に示す。
【0117】
【0118】
2.有用タンパク質遺伝子の導入
構築したゲノム編集ツールを実施例1で得たEF1α-Exon1株に遺伝子導入し、2週間の期間、100μg/mLのネオマイシンによる薬剤選抜を行った。ポリクローナルな細胞からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックPCRに供試した。hFGF2遺伝子のノックイン検出のためのフォワードプライマーP10及びリバースプライマーP11の位置を
図32Bに示す。フォワードプライマーP10及びリバースプライマーP11の塩基配列をそれぞれ配列番号113及び114に示す。その後、限界希釈法により、細胞をモノクローン化し、ゲノミックPCRに供試した。
【0119】
図33に示すように、クローン番号#1及び#8においてOVA遺伝子座のエクソン8にhFGF2遺伝子がノックインされていることを確認した。さらに、片アレルに存在するEF1αプロモーターの下流にhFGF2遺伝子がノックインされていることを調べるために、
図32Bに位置を示すフォワードプライマーP12及びリバースプライマーP13を使用したゲノミックPCRを行った。P12及びP13の塩基配列を配列番号115及び116に示す。
図34に示すように、hFGF2遺伝子のノックインが確認されたクローン番号#1及び#8の内、クローン番号#8においてEF1αプロモーター下流へのノックインが確認された。クローン番号#8をシークエンス解析に供試したところ、OVA遺伝子座の目的位置にhFGF2遺伝子がノックインされていることが確認された。
【0120】
クローン番号#8と同様に、クローン番号#23及び#26においても、OVA遺伝子座の目的位置にhFGF2遺伝子がノックインされていることが確認された。3つの株(クローン番号#8、#23及び#26)を培養し、RNAを抽出し、cDNAを合成した。合成したcDNAを使用して、RT-PCRを実施した。3つの株におけるスプライシング後の予想配列を
図32Cに示す。塩基配列を配列番号117及び118にそれぞれ示すフォワードプライマー(Fwd2)及びリバースプライマー(Rev2)を使用したRT-PCRによる増副産物のサイズは613bpである。RT-PCRの結果、
図35に示すように、クローン番号#8、#23及び#26においてOVA遺伝子及びhFGF2遺伝子が転写されていることが確認できた。
【0121】
OVAタンパク質及びhFGF2タンパク質がクローン番号#8、#23及び#26において発現しているか否かを調べるため、ELISA法を実施した。OVAタンパク質の検出には、クローン番号#8、#23及び#26を7日間培養した培養上清を供試した。FGF2タンパク質にはクローン番号#8、#23及び#26のライセートサンプルを供試した。ライセートサンプルは、Human FGF2 sandwich ELISA kit(Proteintech社製)のプロトコルに従い作製した。
図36及び
図37はそれぞれOVAタンパク質及びhFGF2タンパク質の濃度を示す。OVAタンパク質は培養上清中に80ng/ml~390ng/mlの濃度で含まれていた。hFGF2タンパク質はライセート中に520pg/ml~1500pg/mlの濃度で含まれていた。
【0122】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。