(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008120
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、発電方法、及び伝熱方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/853 20230101AFI20230112BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20230112BHJP
【FI】
H01L35/18
H01L35/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111418
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】山村 諒祐
(72)【発明者】
【氏名】玉置 洋正
(57)【要約】
【課題】新規な熱電変換材料を提供する。
【解決手段】本開示の熱電変換材料は、Mg
3-a-bA
aYb
bSb
2-xBi
xで表される組成を有する。Aは、Ag、Na、及びLiからなる群より選択される少なくとも1つを含み、かつ、0<a≦0.035が満たされている。熱電変換材料のc軸配向度p及び組成は、例えば、以下の条件を満たす。条件(1)0<b≦0.25、0<x<2.0、及び0.91<p≦1
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換材料であって、
前記熱電変換材料は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成を有し、
前記組成において、Aは、Ag、Na、及びLiからなる群より選択される少なくとも1つを含み、かつ、0<a≦0.035が満たされており、
前記熱電変換材料のc軸配向度p及び前記組成は、下記条件(1)から条件(11)のいずれか1つを満たす、
熱電変換材料。
条件(1)0<b≦0.25、0<x<2.0、及び0.91<p≦1
条件(2)0<b<0.25、x=0.0、及び0.91<p≦1
条件(3)0<b≦0.25、0<x<1.5、及び0.66<p≦0.91
条件(4)0.05<b<0.25、x=0.0、及び0.66<p≦0.91
条件(5)0.05<b≦0.25、1.0≦x<1.5、及び0.46<p≦0.66
条件(6)0<b≦0.25、0<x<1.0、及び0.46<p≦0.66
条件(7)0.05<b<0.25、x=0.0、及び0.46<p≦0.66
条件(8)0.05<b≦0.25、1.0≦x<1.5、及び0.26≦p≦0.46
条件(9)0<b≦0.25、0.5<x<1.0、及び0.26≦p≦0.46
条件(10)0.125<b≦0.25、0<x≦0.5、及び0.26≦p≦0.46
条件(11)0<b<0.125、0<x≦0.5、及び0.26≦p≦0.46
【請求項2】
前記熱電変換材料は、La2O3型の結晶構造を有する、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
330Kにおける前記熱電変換材料の熱電変換性能指数ZTは、ZT>0.150を満たす、請求項1又は2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
573Kにおける前記熱電変換材料の熱電変換性能指数ZTは、ZT>0.577を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の熱電変換材料を備えた、熱電変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の熱電変換素子であるp型熱電変換素子と、
前記p型熱電変換素子に電気的に接続されているn型熱電変換素子と、を備えた、
熱電変換モジュール。
【請求項7】
電力を発生する方法であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の熱電変換材料に温度差を付与することと、
前記温度差によって前記熱電変換材料に発生する熱起電力に伴う電力を取り出すことと、を含む、
方法。
【請求項8】
熱を輸送する方法であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の熱電変換材料に電流を流すことと、
前記電流によって前記熱を輸送することと、を含む
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュール、発電方法、及び伝熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Mgを含む熱電変換材料が知られている。例えば、非特許文献1は、化学式Mg3-xAgxSb2で表される多結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は、0以上0.025以下である。
【0003】
非特許文献2は、化学式Mg3-xAgxSb2で表される単結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は0以上0.035以下である。
【0004】
非特許文献3は、化学式Mg3Sb2で表される組成の材料のc軸方向、及び、a軸又はb軸方向の熱電特性の計算予測による解析を開示している。
【0005】
非特許文献4は、化学式Mg3.125-xYbxSb1.4925Bi0.4975Te0.01により表される多結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は0以上0.4以下である。
【0006】
非特許文献5は、化学式Mg3.1Nb0.1Sb1.5Bi0.49Te0.01で表される配向した多結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。
【0007】
非特許文献6は、化学式Mg3-xNaxSb2で表される多結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は0以上0.025以下である。
【0008】
非特許文献7は、化学式Mg3-xLixSb2で表される多結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は0以上0.02以下である。
【0009】
非特許文献8は、化学式Mg3X2(X=Sb,Bi)で表される単結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。
【0010】
非特許文献9は、化学式Mg3Sb2-xBixで表される単結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は0以上2.0以下である。
【0011】
非特許文献10は、化学式Mg3Sb2に元素Agを加えた単結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。
【0012】
非特許文献11は、化学式Mg3-xMnxSb2により表される単結晶熱電変換材料及びその製造方法を開示している。この化学式において、xの値は0、0.3、又は0.4である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Y. Fu et al. “Simultaneous improvement of power factor and thermal conductivity via Ag doping in p-type Mg3Sb2thermoelectric materials”, Journal of Materials Chemistry A, Vol. 5, pp. 4932-4939 (2017) [DOI: 10.1039/c6ta08316a]
【非特許文献2】X. Li et al., “Anisotropic electronic transport properties of Ag-doped Mg3Sb2crystal prepared by directional solidification”, Journal of Applied Physics,127, Vol.127, pp. 195104 (2020) [DOI:10.1063/5.0006340].
【非特許文献3】F. Meng et al., “Anisotropic thermoelectric figure-of-merit in Mg3Sb2”, Materials Today Physics, Vol.13,100217 (2020) [DOI: 10.1016/j.mtphys.2020.100217].
【非特許文献4】M. Wood et al., “The importance of the Mg-Mg interaction in Mg3Sb2-Mg3Bi2shown through cation site alloying”, Journal of Materials Chemistry A, Vol.8, pp. 2033-2038 (2020) [DOI: 10.1039/c9ta11328b].
【非特許文献5】S. Song et al., “Study on anisotropy of n-type Mg3Sb2-based thermoelectric materials”, APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.12, pp. 092103 (2018) [DOI: 10.1063/1.5000053].
【非特許文献6】J. Shuai et. Al., “Thermoelectric properties of Na-doped Zintl compound: Mg3-xNaxSb2”, Acta Materialia, Vol. 93, pp.187-193 (2015) [DOI: 10.1016/j.actamat.2015.04.023].
【非特許文献7】H. Wang et al., “Enhanced thermoelectric performance in p-type Mg3Sb2via lithium doping”, Chinese Physics B, Vol. 27, 047212 (2018) [DOI: 10.1088/1674-1056/27/4/047212].
【非特許文献8】J. Xin et al., “Growth and transport properties of Mg3X2 (X = Sb, Bi) single crystals”, Materials Today Physics, Vol.7, pp.61-68 (2018) [DOI: 10.1016/j.mtphys.2018.11.004].
【非特許文献9】S. Kim et. al., “Thermoelectric properties of Mg3Sb2-xBixsingle crystals grown by Bridgman method”, Materials Research Express, Vol. 2, 055903 (2015) [DOI: 10.1088/2053-1591/2/5/055903].
【非特許文献10】X. Li et al., “Influence of growth rate and orientation on thermoelectric properties in Mg3Sb2 crystal”, Journal of Materials Science: Materials in Electronics, Vol.31, pp. 9773-9782 (2020) [DOI: 10.1007/s10854-020-03522-4].
【非特許文献11】S. Kim et. al, “Thermoelectric properties of Mn-doped Mg-Sb single crystals”, Journal of Materials Chemistry, Vol. 2, pp. 12311-12316 (2014) [DOI: 10.1039/c4ta02386b].
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本開示は、新規な熱電変換材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の熱電変換材料は、
Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成を有し、
前記組成において、Aは、Ag、Na、及びLiからなる群より選択される少なくとも1つを含み、かつ、0<a≦0.035が満たされており、
前記熱電変換材料のc軸配向度p及び前記組成は、下記条件(1)から条件(11)のいずれか1つを満たす、
熱電変換材料。
条件(1)0<b≦0.25、0<x<2.0、及び0.91<p≦1
条件(2)0<b<0.25、x=0.0、及び0.91<p≦1
条件(3)0<b≦0.25、0<x<1.5、及び0.66<p≦0.91
条件(4)0.05<b<0.25、x=0.0、及び0.66<p≦0.91
条件(5)0.05<b≦0.25、1.0≦x<1.5、及び0.46<p≦0.66
条件(6)0<b≦0.25、0<x<1.0、及び0.46<p≦0.66
条件(7)0.05<b<0.25、x=0.0、及び0.46<p≦0.66
条件(8)0.05<b≦0.25、1.0≦x<1.5、及び0.26≦p≦0.46
条件(9)0<b≦0.25、0.5<x<1.0、及び0.26≦p≦0.46
条件(10)0.125<b≦0.25、0<x≦0.5、及び0.26≦p≦0.46
条件(11)0<b<0.125、0<x≦0.5、及び0.26≦p≦0.46
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、新規な熱電変換材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、La
2O
3型の結晶構造の模式図である。
【
図2】
図2は、La
2O
3型結晶構造のX線回折パターンのシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本開示の熱電変換材料におけるLa
2O
3型の結晶構造の模式図である。
【
図4A】
図4Aは、多結晶Mg
3Sb
2における結晶粒分布のシミュレーション結果の一例を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、多結晶Mg
3Sb
2における結晶粒分布のシミュレーション結果の別の一例を示す模式図である。
【
図4C】
図4Cは、多結晶Mg
3Sb
2における結晶粒分布のシミュレーション結果のさらに別の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、多結晶Mg
3Sb
2におけるc軸配向度pとz軸方向の電気伝導度のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本開示の熱電変換モジュールの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本開示の基礎となった知見)
熱電変換材料の性能は、熱電変換性能指数ZTにより表される。熱電変換性能指数ZTはゼーベック係数S、電気伝導度σ、熱伝導率κ、及び絶対温度Tを用いてZT=S2σT/κと表される。ここで、熱伝導率κはさらに電子の熱伝導率κe、格子の熱伝導率κlatを用いてκ=κe+κlatと表される。
【0019】
非特許文献1には、化学式Mg3-aAaSb2で表される多結晶p型熱電変換材料が開示されている。非特許文献1では、化学式Mg3-aAaSb2におけるAがAgである。加えて、aの値は、0以上0.025以下である。この条件において、この化学式により表される多結晶p型熱電変換材料の熱電変換性能指数ZTは、330Kにおいて0.12であり、573Kにおいて0.32である。これらの熱電変換性能指数ZTは、この化学式がAを含まない場合、すなわち、この化学式においてaの値が0である場合に得られる熱電変換材料の熱電変換性能指数ZTの値よりも高い。
【0020】
非特許文献2では、化学式Mg
3-aA
aSb
2により表される単結晶p型熱電変換材料が開示されている。非特許文献2では、化学式Mg
3-aA
aSb
2におけるAがAgである。加えて、aの値は、0以上0.035以下である。この条件において、この化学式により表される多結晶p型熱電変換材料の熱電変換性能指数ZTは、
図1で示されているc軸方向の測定において、330Kにおいて0.15であり、573Kにおいて0.57である。つまり、これらの熱電変換性能指数ZTは、非特許文献1に開示されている同一組成の多結晶物質と比較して高い。
【0021】
非特許文献3では、母体である単結晶Mg3Sb2における、c軸方向の熱電変換性能指数ZTが、a軸又はb軸方向のZT及び多結晶のZTと比較して高いこと、及びそのメカニズムが、量子力学に基づいた計算によって開示されている。これは、キャリアのc軸方向の有効質量が、キャリアのa軸又はb軸の有効質量より軽いことと、格子熱伝導率がa軸、b軸、及びc軸のどの方向でも同様の値を示すことから説明できる。しかし、母体であるMg3Sb2に新たな元素置換を施した場合における、単結晶のc軸方向のZTと単結晶のa軸又はb軸方向のZTとの関係、及び、単結晶のc軸方向のZTと多結晶のZTとの関係については何ら検討されていない。加えて、単結晶と、完全に無作為に結晶粒が各方向を向いた無配向な多結晶との間の状態として、結晶粒の一部が特定方向に配向した多結晶が考えられる。このような配向した多結晶におけるZTと、単結晶のZT及び無配向な多結晶のZTとの関係についても何ら検討されていない。
【0022】
本発明者らは、熱電変換性能指数ZTを高い信頼性で予測可能な方法を新たに開発した。具体的には、本発明者らは、密度汎関数理論(DFT)法と呼ばれる第一原理的な計算手法による電子状態の計算と、本発明者らが独自に確立したキャリアの有効質量と格子熱伝導率から熱電変換性能指数ZTの予測モデルとを組み合せた。
【0023】
そして、本発明者らは、Mg3(Sb,Bi)2を母体とし、かつ、未検討の組成を有する材料の熱電変換性能指数ZTを、電子状態の計算と熱電変換性能指数ZTの予測モデルとを組み合わせて算出し、その材料のZTを予測した。その結果、材料がp型であり、かつ、材料がYbを合成可能な範囲で含有する場合に、その材料のc軸方向のZTが母体の単結晶Mg3(Sb,Bi)2のc軸方向のZTより高くなることが分かった。
【0024】
無配向の多結晶物質と完全配向した単結晶物質の中間物質として、部分的にc軸方向に配向した多結晶物質が考えられる。本発明者らは、多結晶物質のc軸配向度を、X線回折法を用いることで見積もった。有限要素法に基づく数値シミュレーションから、結晶のc軸配向度と電気伝導度σとの間には特定の関係があることを見出し、特定のc軸配向度を有する多結晶物質のZTの値を計算する方法を新たに確立した。この方法を用いることによって、本開示の熱電変換材料を新たに見出した。
【0025】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
本開示の熱電変換材料は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成を有する。この組成において、Aは、Ag、Na、及びLiからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Aは、Ag、Na、及びLiからなる群より選択される少なくとも1つのみを含む。加えて、この組成において、0<a≦0.035が満たされている。熱電変換材料のc軸配向度p及び組成は、下記条件(1)から条件(11)のいずれか1つを満たす。熱電変換材料のc軸配向度pは、後述のX線回折法を用いた方法に従って決定できる。熱電変換材料がこのような条件を満たすことにより、高いZTが発揮されやすい。
条件(1)0<b≦0.25、0<x<2.0、及び0.91<p≦1
条件(2)0<b<0.25、x=0.0、及び0.91<p≦1
条件(3)0<b≦0.25、0<x<1.5、及び0.66<p≦0.91
条件(4)0.05<b<0.25、x=0.0、及び0.66<p≦0.91
条件(5)0.05<b≦0.25、1.0≦x<1.5、及び0.46<p≦0.66
条件(6)0<b≦0.25、0<x<1.0、及び0.46<p≦0.66
条件(7)0.05<b<0.25、x=0.0、及び0.46<p≦0.66
条件(8)0.05<b≦0.25、1.0≦x<1.5、及び0.26≦p≦0.46
条件(9)0<b≦0.25、0.5<x<1.0、及び0.26≦p≦0.46
条件(10)0.125<b≦0.25、0<x≦0.5、及び0.26≦p≦0.46
条件(11)0<b<0.125、0<x≦0.5、及び0.26≦p≦0.46
【0027】
本開示の熱電変換材料は、例えば、La2O3型の結晶構造を有する。この場合、熱電変換材料が高いZTをより発揮しやすい。
【0028】
330Kにおける熱電変換材料のZTは、特定の値に限定されない。330Kにおける熱電変換材料のZTは、望ましくはZT>0.150を満たす。このように、本開示の熱電変換材料は、330Kにおいて高いZTを発揮しうる。
【0029】
573Kにおける熱電変換材料のZTは、特定の値に限定されない。573Kにおける熱電変換材料のZTは、望ましくはZT>0.577を満たす。このように、本開示の熱電変換材料は、573Kにおいて高いZTを発揮しうる。
【0030】
図1は、La
2O
3型結晶構造を模式的に示す。例えば、非特許文献1及び2には、Mg
3(Sb,Bi)
2を母体とする物質は、空間群P-3m1に属するLa
2O
3型結晶構造又はCaAl
2Si
2型結晶構造を有しうることが記載されている。なお、(Sb,Bi)は、Sb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことを意味する。
図2は、La
2O
3型結晶構造を有する多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンのシミュレーション結果の一例を示す。このシミュレーション結果において、a軸方向の格子定数が4.57オングストロームであり、b軸方向の格子定数が4.57オングストロームであり、c軸方向の格子定数が7.23オングストロームである。https://jp-minerals.org/vesta/jp/download.htmlから入手した、ソフトウェアVESTAを用いて
図2に示すシミュレーション結果が得られた。
図2において、X線回折パターンの各ピークに対応する回折角の値を示す補助線がX線回折パターンと横軸との間に示されている。
【0031】
熱電変換材料がLa2O3型結晶構造を有するか否かは、X線回折法に基づいてLa2O3型結晶構造を特徴づける回折ピークの存在を確認することによって決定できる。
【0032】
本開示の熱電変換材料は、単結晶であってもよいし、所定のc軸配向度pを有する多結晶であってもよい。
【0033】
図3は、本開示の熱電変換材料のLa
2O
3型の結晶構造を模式的に示す。この結晶構造において、MgサイトC1の一部がAg、Li、Na、及びYbからなる群より選択される少なくとも1種の元素によって置換されうる。この結晶構造は、Mg元素からなるサイトC2を有している。この結晶構造は、Sb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素からなるサイトC3を有している。
【0034】
熱電変換材料の結晶構造において、上記のような元素置換がなされていることにより、La
2O
3型結晶構造において格子定数の変化が生じる。このため、本開示の熱電変換材料のX線回折パターンにおける強度のピークは、
図2に示すMg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンにおける強度のピークに対してシフトする。このようなX線回折パターンにおける強度のピークのシフトは、結晶構造における格子定数の変化に起因する。結晶構造の格子定数が増加すると、X線回折パターンにおける強度のピークは低角度側にシフトし、格子定数が減少すると、X線回折パターンにおける強度のピークは高角度側にシフトする。例えば、非特許文献4によれば、化学式Mg
3―bYb
bSb
2により表される熱電変換材料のX線回折パターンが示されており、組成によってピーク位置がシフトすることが理解される。
【0035】
本開示の熱電変換材料のX線回折パターンにおける各ピークの強度比は、熱電変換材料のc軸配向度pによって変化しうる。熱電変換材料のc軸配向度pが無配向の多結晶物質のc軸配向度pと比較して増加すると、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークの強度と比較して相対的に強くなる。一方、熱電変換材料のc軸配向度pが無配向の多結晶物質のc軸配向度pと比較して低下すると、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークの強度と比較して相対的に弱くなる。
【0036】
熱電変換材料は、上記の組成の通り、Ybを含有している。これにより、熱電変換材料が単結晶であるときのc軸方向のZTは、Mg3(Sb,Bi)2を母体としつつ、Ybを含んでいない物質のZTよりも高くなりやすい。加えて、熱電変換材料が多結晶であり所定のc軸配向度pを有するときのZTは、Mg3(Sb,Bi)2を母体としつつ、Ybを含んでいない物質のZTよりも高くなりやすい。なお、本開示の熱電変換材料において、Ybの一部はCa等の他の元素で置換されてもよい。
【0037】
上記組成を有する熱電変換材料は、安定であり、単結晶の物質として存在しうる。もしくは、上記組成を有する熱電変換材料は、複数種類の結晶相が形成されていない単一な結晶相の結晶粒で構成され、所定のc軸配向度pを有する多結晶物質として存在しうる。上記の組成においてa、b、及びxは、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの安定組成範囲に対応する条件を満たしている。この安定組成範囲は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの組成を有する結晶のみが存在しうる組成範囲であり、換言すると、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixが安定して固溶体を形成できる組成範囲を意味する。この安定組成範囲外では、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの組成を有する結晶以外に、他の組成の結晶相が析出し、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの組成を有する結晶のみが存在する材料を得ることができない可能性がある。換言すると、この安定組成範囲外では、安定して固溶体が形成されないと考えられる。
【0038】
安定組成範囲は、例えば、上記の非特許文献を参照することによって決定できる。非特許文献2によれば、上記組成におけるAがAgである場合に、0≦a≦0.035の範囲が安定組成範囲になりうることが理解される。非特許文献6によれば、上記組成におけるAがNaである場合に、aの値に関し、0.0≦a≦0.025の範囲が安定組成範囲になりうることが理解される。非特許文献7によれば、上記組成におけるAがLiである場合に、0.0≦a≦0.02の範囲が安定組成範囲になりうることが理解される。非特許文献4によれば、上記組成において、0.0≦b≦0.25の範囲が安定組成範囲になりうることが理解される。非特許文献8及び9によれば、xの値に関し、0.0≦x≦2.0の範囲が安定組成範囲になりうることが理解される。
【0039】
合成された単結晶及び多結晶のc軸方向の配向度を定量化する指標として、一軸方向の配向度をX線回折法から見積もるLotgering法が知られている。本発明者らは、Lotgering法を用いることで、X線回折ピークの各積分強度からc軸配向状態及び電気伝導特性を推定する方法を見出した。以下にその詳細を示す。
【0040】
Lotgering法によれば、結晶物質のc軸方向の配向度pは以下の式(1)で表される。
【0041】
【0042】
式(1)において、Ihklは、(h,k,l)面に由来する回折ピークの相対強度である。pの値は定義から0≦p≦1の範囲をとる。単結晶のa軸又はb軸に対してpを測定するとp=0となり、どの方向にも配向をしていないMg3Sb2系多結晶物質に対してpを測定するとp=0.07となり、単結晶のc軸に対してpを測定するとp=1の値をとる。すなわち、p=0の配向した多結晶物質は、結晶のa軸又はb軸が完全に配向している物質であり、p=1の配向した多結晶物質は、結晶のc軸が完全に配向している物質である。これにより、単結晶物質及び配向した多結晶物質を一つの変数pで統一的に評価できる。上記の条件(1)から(8)によれば、本開示の熱電変換材料のc軸配向度pは、0.07以上1以下の範囲に含まれ、0.26以上1以下である。pが0.26以上であると、個数基準で約50%以上の結晶粒のc軸が配向していると理解される。c軸が配向しているとは、c軸に平行な直線の直交座標のベクトル成分の絶対値の最大を示す座標軸が一致していることを意味する。
【0043】
熱電変換材料のc軸配向度pは、高い熱電変換性能の観点から、望ましくは0.30以上であり、より望ましくは0.35以上であり、さらに望ましくは0.40以上であり、特に望ましくは0.45以上である。
【0044】
本発明者らは、不完全に配向した多結晶状態を評価することを目的として、c軸配向度pの多結晶物質の電気伝導度を、有限要素法に基づき計算を行った。(h,k,l)のミラー指数を有する面とc軸との角度をθ
hklと表すとき、ある結晶粒がθ
hkl方向に配向している確率を確率分布関数P(θ
hkl)と表す。このとき、式(1)のc軸配向度pは以下の式(2)で表すことができる。
【数2】
【0045】
式(2)において、I´hklは無配向の多結晶物質における(h,k,l)面に由来する回折ピークの相対強度である。有限要素法における多結晶物質の各結晶粒の配向を決定する場合に、以下の式(3)又は(4)で表される関数を使用できる。
【0046】
【0047】
式(3)及び式(4)の選択及びΩの値は、式(1)で得られたpの値を再現するように決定できる。式(3)又は式(4)の確率分布関数に従って各結晶粒の配向が決定される。配向した多結晶物質の内部のi番目のボクセルにおけるx軸方向、y軸方向、及びz軸方向の電気伝導度は、それぞれ以下のように定義できる。
【0048】
【0049】
σabは結晶物質のa軸又はb軸方向の電気伝導度である。σcは結晶物質のc軸方向の電気伝導度である。また、θiはi番目のボクセルに位置する結晶粒のc軸とz軸とがなす角であり、φiはi番目のボクセルに位置する結晶粒のa軸又はb軸とz軸とがなす角である。つまり、p=0の多結晶物質のz方向に全ての結晶粒のa軸又はb軸が完全配向している。一方、p=1の多結晶物質のz方向に全ての結晶粒のc軸が完全配向している。
【0050】
図4A、
図4B、及び
図4Cは、それぞれ、p=0.02、p=0.07,及びp=0.68における多結晶物質のy-z平面における結晶粒分布の一例を示した。カラーバーの値は、各結晶粒におけるcosθ
iの値を表しており、結晶粒の内部の矢印は、θ
iに基づく結晶粒のc軸方向の一例を表している。z方向のc軸配向度pの値を変えながら、z方向の電流密度及び平均電位勾配を計算するによって配向した多結晶物質のz方向の電気伝導度を求めることができる。具体的には、境界条件として、z=0の平面に対し電位V=0、z軸終端の平面に対しV=1と設定した。この境界条件の下、i番目のボクセルの電流密度は以下の式(10)の通り表すことができる。z軸は、測定対象の多結晶に対して、c軸配向度pが最大になるように決定される。
【0051】
【0052】
各ボクセルにおける電流密度及び電位勾配の連立方程式を解く。得られた各ボクセル内の電流密度と電位勾配とから、z軸終端における、x-y平面でのz方向の平均電流密度及び平均電場勾配を求めることで、多結晶物質全体におけるz方向の電気伝導度を計算できる。
図5に、これらの計算から得られた多結晶物質のz方向の電気伝導度σ
Z,pとc軸配向度pとの関係を示す。
【0053】
p型のMg
3Sb
2のσ
abの値は1×10
4S/m程度であり、p型のMg
3Sb
2のσ
cの値は10×10
4S/m程度である。本発明者らは、
図5に示す通り、z方向のc軸配向度pと多結晶物質のz方向の電気伝導度に、以下の式(11)の関係があることを見出した。
図5における一点鎖線の直線は、式(11)の関係を示している。
【0054】
【0055】
式(11)によれば、p=0の配向した多結晶物質のσZ,pはσabに一致し、また、p=1の配向した多結晶物質のσZ,pはσcに一致する。本明細書において、単結晶物質では、c軸方向はz軸方向と一致している。
【0056】
物質の熱電変換効率は、物質固有の熱電変換性能指数ZTによって評価できる。ZTは以下の式(12)及び式(13)のように定義される。式(12)及び式(13)において、S、σ、κe、及びκlatは、それぞれ、物質全体のゼーベック係数、電気伝導度、電子の熱伝導率、及び格子熱伝導率である。Tは、評価環境の絶対温度である。ZTの予測は、Vienna Ab initio Simulation Package (VASP)コード及びパラボリックバンドモデルを組み合わせて行うことができる。パラボリックバンドモデルに関しては、H. J. Goldsmid, “Introduction to Thermoelectricity”, Springer, 2010のChapter3の記載を参照できる。
【0057】
【0058】
パラボリックバンドモデルにおける各種特性値の計算式を式(14)から(18)に示す。式(14)から(18)において、電荷素量e、バンド有効質量mI,p、バンド端の縮退度NV、平均縦弾性定数Cl、変形ポテンシャルΞ、還元フェルミエネルギーη=EF/kBTが用いられている。
【0059】
【0060】
式(14)から式(18)を式(12)に代入することにより、ZTは以下のように表される。
【0061】
【0062】
式(19)から式(21)によれば、熱電変換材料のZTは、還元フェルミエネルギーη、各物理量の積で表されるα、絶対温度T、バンド端の縮退度NV、c軸配向度pでのバンド有効質量mI,p、及び格子熱伝導率κlatに基づいて決定できる。
【0063】
還元フェルミエネルギーは、ゼーベック係数の値から一意に求めることができる。非特許文献2に開示されている単結晶Mg3-aAgaSb2のc軸方向及びa軸方向におけるゼーベック係数の値から、ゼーベック係数のc軸配向度pに対する依存性は小さいと理解される。そこで、AがAgの場合には、aのそれぞれに値について、非特許文献2に開示されている、単結晶Mg3-aAgaSb2におけるc軸のゼーベック係数の値を使い、還元フェルミエネルギーを算出できる。AがNaの場合には、aのそれぞれの値について、非特許文献6に開示されている、多結晶Mg3-aNaaSb2におけるゼーベック係数の値を使い、還元フェルミエネルギーを算出できる。AがLiの場合には、aのそれぞれに値について、非特許文献7に開示されている、多結晶Mg3-aLiaSb2におけるゼーベック係数の値を使い、還元フェルミエネルギーを算出できる。
【0064】
αで表される各物理量の積は、温度一定及びキャリア濃度一定の条件において、母体であるMg3(Sb,Bi)2結晶物質の値を用いることができ、元素置換による影響は少ない。また、c軸配向度pの値によってもαの値は変化しないと仮定できる。このため、αは、同一温度及び同一キャリア濃度において一定の値をとると考えられる。AがAgである場合には、非特許文献2に記載されている、単結晶Mg3-aAgaSb2における各温度及び各キャリア濃度におけるc軸方向のZTを再現するようにαを決定できる。AがNaである場合には、非特許文献6に記載されている、多結晶Mg3-aNaaSb2における各温度及び各キャリア濃度におけるZTを再現するようにαを決定できる。また、AがLiである場合には、非特許文献7に開示されている、多結晶Mg3-aLiaSb2における各温度及び各キャリア濃度におけるZTを再現するようにαを決定できる。一方、電気伝導度σZ,pのc軸配向度pに対する依存性は、バンド有効質量mI,pに起因すると考えられる。このため、所定のc軸配向度pを有する多結晶物質に関する有限要素法を用いた電気伝導度のシミュレーションから、バンド有効質量mI,pは以下のように表される。
【0065】
【0066】
式(22)において、mka及びmkcは、それぞれ、a軸及びc軸に関する有効質量であり、バンド端の縮退度NVと共にVASPコードを用いたDFT法によって計算できる。
【0067】
格子熱伝導率κlatは、次の式に基づくフィッティングにより求めることができる。
【0068】
【0069】
κlat,Sb-Biは、母体のMg3(Sb,Bi)2の格子熱伝導率である。κlat,Sb-Biは、母体がMg3(Sb,Bi)2であれば、n型のMg3(Sb,Bi)2結晶物質であってもp型のMg3(Sb,Bi)2結晶物質であっても適用できる。n型のMg3(Sb,Bi,Te)2多結晶物質における格子熱伝導率を再現するようにΔBi及びΓBiを決定できる。この決定によれば、n型のドーパントであるTeは、p型のドーパントであるAg、Na、及びLiと同様の影響を格子熱伝導率に与えるものと理解されるので、その影響が考慮されている。また、ΓBの値は、非特許文献4における格子熱伝導率の値を再現するように決定しうる。
【0070】
上記の計算手順に従って計算を行うことによって、本開示の熱電変換材料の特定の組成における熱電変換性能指数ZTを算出できる。
【0071】
本開示の熱電変換材料を製造する方法は、特定の方法に限定されない。単結晶の熱電変換材料は、例えば、非特許文献10に開示されているように、以下のようにして製造できる。Mg単体、Sb及びBiの少なくとも1種の元素の単体、Yb単体、Ag、Na、及びLiの少なくとも1種の元素の単体を所望の化学量論比で秤量する。秤量した各単体の原料を混合し、溶融法を用いて融解させる。その後、得られた合金インゴットをカーボンるつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気で、温度勾配方向凝固法(High temperature-gradient directional solidification)によって単結晶を製作できる。このようにして単結晶の熱電変換材料が得られる。温度勾配方向凝固法の代わりに、非特許文献9に開示されているブリッジマン法及び非特許文献8に開示されているフラックス法等の結晶を一方向に成長させる公知の単結晶物質合成法を用いてもよい。
【0072】
配向した多結晶の熱電変換材料の製造方法も、特定の方法に限定されない。例えば、上記の温度勾配方向凝固法を用いて配向した多結晶の熱電変換材料を製造しうる。この場合、温度勾配方向凝固法において原料又は熱源の移動速度を調節することによって熱電変換材料のc軸配向度pが調整された配向した多結晶物質を合成できる。例えば、原料又は熱源の移動速度を遅くするとc軸配向度pが高くなりやすい。配向した多結晶の熱電変換材料は、例えば、非特許文献4に記載されている、以下の方法で製造されてもよい。秤量した各単体の原料をステンレス製の容器の中にステンレス製ボールと共にアルゴン雰囲気の中で封入する。その後、遊星ボールミル法によって原料に対し粉砕混合処理を行う。このとき、ステンレス容器に原料に由来する合金粉末が付着することを防ぐためにステアリン酸を加えてもよい。このようにして得られた合金粉末をグラファイト型の中に入れて、加圧しながら、パルス電流による加熱を伴うスパークプラズマ焼結法を用いて、バルク多結晶焼結体を作製する。その後、作製されたバルク多結晶焼結体をグラファイト型よりも大きい型に入れて、加圧しながら、再度スパークプラズマ焼結法を行う。このとき、加圧する圧力及び温度は、前回のスパークプラズマ焼結法の条件と同等かそれ以上に設定する。この工程を複数回行うことによって配向した多結晶の熱電変換材料が得られる。例えば、スパークプラズマ焼結法における温度又は圧力を高くすること又はスパークプラズマ焼結法の回数を増やすことによって熱電変換材料のc軸配向度pを高めやすい。スパークプラズマ焼結法の代わりに、ホットプレス法等の公知の焼結法を用いてもよい。また、原料の粉砕混合の後に加熱工程を行って前駆体である合金粉末を調製し、その合金粉末を焼結することによって配向した多結晶性の熱電変換材料を製造してもよい。
【0073】
本開示の熱電変換材料は、複数の元素を含む。非特許文献11には、原料にMnが含まれる場合にも、上記の製造方法と同様の方法によって、Mg3(Sb,Bi)2を母体とする単結晶の熱電変換材料を合成できることが記載されている。上記の通り、本開示の熱電変換材料は安定組成範囲に対応する組成を有する。このため、上記の製造方法により、本開示の熱電変換材料を安定に合成できる。
【0074】
本開示の熱電変換材料を備えた熱電変換素子を提供できる。この熱電変換素子は、例えば、p型熱電変換素子として機能しうる。
【0075】
例えば、本開示の熱電変換材料を備えたp型熱電変換素子と、n型熱電変換素子とを備えた熱電変換モジュールを提供できる。この熱電変換モジュールにおいて、n型熱電変換素子は、p型熱電変換素子に電気的に接続されている。
【0076】
図6は、本実施形態に係る熱電変換モジュールの一例を示す。熱電変換モジュール100は、p型熱電変換素子10と、n型熱電変換素子20と、第一電極31と、第二電極32と、第三電極33とを備えている。p型熱電変換素子10は、本開示の熱電変換材料を含んでいる。第一電極31は、p型熱電変換素子10の第一端とn型熱電変換素子20の第一端との間を電気的に接続している。第二電極32は、p型熱電変換素子10の第二端に電気的に接続されている。第三電極33は、n型熱電変換素子20の第二端に電気的に接続されている。
【0077】
n型熱電変換素子20に含まれる熱電変換材料は特定の材料に限定されない。n型熱電変換素子20は、例えば、Mg3(Sb,Bi)2系の合金を主相とするn型の熱電変換材料を備えている。この場合、熱電変換モジュール100において、対となるp型熱電変換材料及びn型熱電変換材料に含有されるSb及びBiの原子数比は、一致していてもよいし、異なっていてもよい。その原子数比が一致している場合、p型熱電変換材料及びn型熱電変換材料の熱膨張率の差が小さくなりやすい。このため、熱電変換モジュール100において発生する熱応力が低減されやすい。n型熱電変換素子20は、公知の熱電変換材料を備えていてもよいし、公知のn型熱電変換素子であってもよい。
【0078】
本開示の熱電変換材料の用途は特定の用途に限定されない。本開示の熱電変換材料は、例えば従来の熱電変換材料の用途を含む種々の用途に使用できる。
【0079】
本開示の熱電変換材料を用いて、例えば、以下の(Ia)及び(IIa)の事項を含む発電方法を提供できる。
(Ia)熱電変換材料に温度差を付与する。
(IIa)(Ia)で付与された温度差によって熱電変換材料に発生する熱起電力に伴う電力を取り出す。
【0080】
例えば、本開示の熱電変換材料の第1端部及び第2端部のそれぞれに電極を配置する。第1端部が高温となり、かつ、第2端部が低温となるように温度差が形成されることにより、熱電変換材料の第1端部から熱電変換材料の第2端部にp型のキャリアが移動して電力が得られる。
【0081】
本開示の熱電変換材料を用いて、例えば、以下の(Ib)及び(IIb)の事項を含む伝熱方法を提供できる。
(Ib)熱電変換材料に電流を流す。
(IIa)(Ib)で流された電流により熱を輸送する。
【0082】
例えば、熱電変換材料の第1端部から第2端部へ熱を輸送する。この場合、電流の向きを逆転させると、熱電変換材料における熱の輸送の方向も逆転する。その結果、熱電変換材料の第2端部から第1端部へ熱を輸送することもできる。
【実施例0083】
Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの組成を有する結晶物質において、c軸配向度pに関する計算モデルの妥当性を以下の通り検証した。具体的に、非特許文献2に開示されているMg3(Sb,Bi)2を母体とする単結晶Mg2.975Ag0.025Sb2及び非特許文献1に開示されている多結晶Mg2.975Ag0.025Sb2におけるZTの実験値との比較を行った。非特許文献2における単結晶Mg2.975Ag0.025Sb2のc軸配向度pは1であり、非特許文献1に開示されている多結晶Mg2.975Ag0.025Sb2のc軸配向度pは0.07である。非特許文献2に開示されているMg2.975Ag0.025Sb2を母体とする単結晶Mg2.975Ag0.025Sb2を比較例1-1として、非特許文献1に開示されている多結晶Mg2.975Ag0.025Sb2を比較例2-1として、それらのZTの値を表1に示す。加えて、上記のVASPコード及びパラボリックバンドモデルを組み合わせた予測モデルに従って算出した単結晶Mg2.975Ag0.025Sb2及びc軸配向度pが0.07である多結晶Mg2.975Ag0.025Sb2のZTの計算値を表1に示す。表1において、単結晶Mg2.975Ag0.025Sb2及び多結晶Mg2.975Ag0.025Sb2をそれぞれ比較例1-2及び比較例2-2として示している。予測モデルにおけるαの値は、実験による比較例1-1の各温度でのZTを再現するように決定した。表1には、330K及び573KにおけるZTの値を示している。
【0084】
【0085】
比較例1-2及び比較例2-2のZTの計算値は、実際に合成されて実験的に評価された比較例1-1及び比較例2-1におけるZTの実験値と同等であった。ZTの測定誤差は、通常、±0.05程度である。このような測定誤差を考慮すると、ZTの計算値がZTの実験値±0.1の範囲であれば、ZTの計算値がZTの実験値と同等であると評価しうる。c軸配向度pが0.07≦p≦1.0の範囲において、c軸配向度pを考慮したZTの予測モデルが妥当であることが示唆された。この予測モデルを用いて、Ybを加えた物質について検討を行った。
【0086】
(実施例1から実施例39)
Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する結晶物質は、例えば、非特許文献10に開示されているように、以下の様にして製造できる。まず、原料として単体のMg、Sb、Bi、Ag、及びYbを所望の組成比で秤量し、混合後に溶融法を用いて融解させる。その後、得られた合金インゴットをカーボンるつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気で、温度勾配方向凝固法による単結晶の製作を行う。このようにしてMg3(Sb,Bi)2を母体とする、Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する単結晶を得ることができる。また、例えば、スパークプラズマ焼結法を用いてMg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する多結晶を得ることができる。
【0087】
Mg
2.975-bAg
0.025Yb
bSb
2-xBi
xの組成を有する結晶物質は、
図3を参照すると、MgサイトC1の一部が、Ag及びYbによって置換された欠陥を有している。この欠陥を有することにより、La
2O
3型結晶構造に格子変形が生じうる。この格子変形により、結晶中の少なくとも一部に格子定数の変化が生じる。このため、この組成を有する熱電変換材料のX線回折パターンの強度のピークは、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度のピークに対してシフトすることが予測される。このようなX線回折パターンで観測されるピークのシフトは格子定数の変化によるものである。格子定数が増加すると、X線回折パターンのピークは低角度側にシフトし、格子定数が減少すると、X線回折パターンのピークは高角度側にシフトする。
【0088】
結晶のc軸配向度pの値によって、X線回折パターンにおける各ピークの強度比は、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度比から変化する。c軸配向度pの値が0.07から増加すると、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークと比較して相対的に強くなる。一方、c軸配向度pの値が、0.07より低下するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他のピークと比較して相対的に弱くなる。
【0089】
Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する結晶物質は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成において、AがAgであり、aの値が0.025である。Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成において0.0≦a≦0.035の条件が満たされているとその組成は安定組成範囲にある。この結晶物質において、bの値は、非特許文献4を参照すると、0.0≦b≦0.25の条件を満たしうる。この結晶物質において、xの値は、非特許文献8及び非特許文献9を参照すると、0.0≦x≦2.0の条件を満たしうる。
【0090】
Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する結晶物質の熱電変換性能指数ZTを、上記のMg2.975Ag0.025Sb2結晶物質の熱電変換性能指数ZTの計算と同様の方法を用いて計算した。上記の式(12)から式(24)を用いた手順に従って計算を行うことによって、Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する各結晶物質について、c軸配向度pの影響も考慮したz軸方向のZTを算出した。この計算において、αの値は、実験による比較例1-1の各温度でのZTを再現するように決定した。Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの330K及び573KにおけるZTの計算値を表2、表3、及び表4に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
表2、表3、及び表4に示す通り、Mg2.975-bAg0.025YbbSb2-xBixの組成を有する実施例1から39に係る結晶物質は、比較例1-2のZTを上回る高いZTを示すことが示唆された。この組成を有する結晶物質が0.05≦b≦0.25及び0.0≦x≦1.5における特定の条件を満たし、かつ、0.45≦p≦1.0の条件が満たされると、高いZTが発揮されうることが理解される。この結晶物質では、b及びxが同一の値を有する複数の組成において、c軸配向度pが増加すると、z軸方向のZTが単調に増加することが理解される。すなわち、c軸配向度pが特定の値である結晶物質が比較例1-2よりも高いZTを示す場合、その結晶物質と同一の組成を有し、かつ、より高いc軸配向度pを有する結晶物質も比較例1-2を超えるZTの値を示すと考えられる。加えて、同一組成を有する複数の結晶物質において、c軸配向度pの値が1に近いほど結晶物質におけるz軸方向のZTが高い。
【0095】
(実施例40から実施例43)
Mg2.875-aAgaYb0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、例えば、非特許文献10に開示されているように、以下の様にして製造できる。まず、原料として単体のMg、Sb、Bi、Ag、及びYbを所望の組成比で秤量し、これらの原料の混合後に溶融法を用いて融解させる。その後、得られた合金インゴットをカーボンるつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気で、温度勾配方向凝固法による単結晶性物質の製作を行う。このようにしてMg3(Sb,Bi)2を母体とする、Mg2.875-aAgaYb0.125SbBiの組成を有する単結晶性物質を得ることができる。また、例えば、スパークプラズマ焼結法を用いてMg2.875-aAgaYb0.125SbBiの組成を有する多結晶を得ることができる。
【0096】
Mg
2.875-aAg
aYb
0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、
図3を参照すると、MgサイトC1の一部が、Ag及びYbによって置換された欠陥を有している。この欠陥は、上記のMg
0.2975-bAg
0.025Yb
bSb
2-xBi
xの組成を有する結晶と同様の欠陥である。このような欠陥を有することにより、La
2O
3型結晶構造に格子変形が生じうる。この格子変形により、結晶中の少なくとも一部に格子定数の変化が生じる。このため、この組成を有する熱電変換材料のX線回折パターンの強度のピークは、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度のピークに対してシフトすることが予測される。このようなX線回折パターンで観測されるピークのシフトは格子定数の変化によるものである。格子定数が増加すると、X線回折パターンのピークは低角度側にシフトし、格子定数が減少すると、X線回折パターンのピークは高角度側にシフトする。
【0097】
結晶のc軸配向度pの値によって、X線回折パターンにおける各ピークの強度比は、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度比から変化する。c軸配向度pの値が0.07より増加するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークと比較して相対的に強くなる。一方、c軸配向度pの値が、0.07より低下するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度がその他の回折ピークと比較して相対的に弱くなる。
【0098】
Mg2.875-aAgaYb0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの組成において、AがAgである。非特許文献2を参照すると、この結晶物質において、0.0≦a≦0.035の条件が満たされる。この結晶物質では、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixにおけるbの値が0.125である。非特許文献4を参照すると、このbの値は0.0≦b≦0.25の安定組成範囲内にある。さらに、この結晶物質では、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixにおけるxの値が1であり、このxの値は、非特許文献8及び非特許文献9を参照して導かれる0.0≦x≦2.0の条件を満たす。
【0099】
非特許文献2に開示されている単結晶Mg3-aAgaSb2において、a=0.000、0.005、0.015、及び0.035である比較例のc軸方向のZTの実験値を表5に示す。表5において、a=0.000、0.005、0.015、及び0.035である比較例は、それぞれ、比較例29-1、30-1、31-1、及び32-1として示されている。表5には、非特許文献2に開示されている単結晶Mg3-aAgaSb2において、a=0.025である比較例1-1のc軸方向のZTの実験値も表5に示す。加えて、VASPコード及びパラボリックバンドモデルを組み合わせた予測モデルにより取得した、これらの比較例に対応する組成の結晶物質のc軸方向のZTの計算値を、比較例29-2、30-2、31-2、及び32-2として表5に示す。αの値は、aのそれぞれの値において、実験による比較例29-1、30-1、31-1、及び42-1を再現するように決定した。
【0100】
【0101】
比較例29-2等におけるZTの計算のαと同様の値を用いて、Mg2.875-aAgaYb0.125Sb2-xBixの組成を有する結晶物質につき、c軸配向度pの影響を考慮したz軸方向のZTを算出した。Mg2.875-aAgaYb0.125Sb2-xBixの330K及び573KにおけるZTの計算値を表6に示す。
【0102】
【0103】
表6に示す通り、0.005≦a≦0.035を満たす、実施例40、41、42、及び43は、それぞれ、aの値が同じである比較例30-2、31-2、1-2、及び32-2のZTを上回るZTを示した。
【0104】
(実施例44から実施例46)
Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixの組成においてAがNa又はLiである場合にもp型の熱電変換特性を有する結晶物質が得られる。
【0105】
Mg2.875-aNaaYb0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、例えば、非特許文献10に開示されているように、以下の様にして製造できる。まず、原料として単体のMg、Sb、Bi、Na、及びYbを所望の組成比で秤量し、混合後に溶融法を用いて融解させる。その後、得られた合金インゴットをカーボンるつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気で、温度勾配方向凝固法による単結晶の製作を行う。このようにしてMg3(Sb,Bi)2を母体とする、Mg2.875-aNaaYb0.125SbBiの組成を有する単結晶を得ることができる。また、例えば、スパークプラズマ焼結法を用いてMg2.875-aNaaYb0.125SbBiの組成を有する多結晶を得ることができる。
【0106】
Mg
2.875-aNa
aYb
0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、
図3を参照すると、MgサイトC1の一部が、Na及びYbによって置換された欠陥を有している。この欠陥は、上述のMg
2.875-aAg
aYb
0.125SbBiの組成を有する結晶物質と同様の欠陥である。結晶物質がこのような欠陥を有することにより、La
2O
3型結晶構造に格子変形が生じうる。この格子変形により、結晶中の少なくとも一部に格子定数の変化が生じる。このため、この組成を有する熱電変換材料のX線回折パターンの強度のピークは、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度のピークに対してシフトすることが予測される。このようなX線回折パターンで観測されるピークのシフトは格子定数の変化によるものである。格子定数が増加すると、X線回折パターンのピークは低角度側にシフトし、格子定数が減少すると、X線回折パターンのピークは高角度側にシフトする。
【0107】
結晶のc軸配向度pの値によって、X線回折パターンにおける各ピークの強度比は、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度比から変化する。c軸配向度pの値が0.07より増加するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークと比較して相対的に強くなる。一方、c軸配向度pの値が、0.07より低下するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークと比較して相対的に弱くなる。
【0108】
Mg2.875-aNaaYb0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成においてAがNaである物質である。非特許文献6を参照すると、この物質において、0.0≦a≦0.025の条件が満たされうる。この結晶物質では、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成におけるbの値が0.125である。非特許文献4を参照すると、このbの値は0.0≦b≦0.25の安定組成範囲にある。さらに、xの値が1であり、非特許文献8及び非特許文献9を参照すると、このxの値は、0.0≦x≦2.0の条件を満たす。
【0109】
非特許文献6に開示されている多結晶Mg3-aNaaSb2において、a=0.006、0.0125、及び0.025の場合でのZTの実験値を比較例33-1、34-1、及び35-1として表6に示す。加えて、VASPコード及びパラボリックバンドモデルを組み合わせた予測モデルにより取得した、比較例33-1、34-1、及び35-1の組成のZTの計算値をそれぞれ比較例33-2、33-2、及び33-2として表7に示す。比較例33-1、34-1、35-1、33-2、34-2、及び35-2は、多結晶の物質であるので、pの値を0.07に設定した。αの値は、aの各値において、実験による比較例33-1、34-1、及び35-1のZTを再現するように決定した。
【0110】
【0111】
比較例33-2等のZTの計算におけるαと同様の値を用いて、Mg3-a-bNaaYbbSb2-xBixの組成を有する結晶物質について、c軸配向度pの影響も考慮したz軸方向のZTを算出した。Mg3-a-bNaaYbbSb2-xBixの組成を有し、かつ、p=1を満たす結晶物質の330K及び573KにおけるZTの計算値を表8に示す。
【0112】
【0113】
表8に示す通り、0.006≦a≦0.025を満たす実施例44、45、及び46は、それぞれ、aの値が同じである、比較例33-2、34-2、及び35-2のZTを上回る高いZTを示した。
【0114】
(実施例47から実施例49)
Mg2.875-aLiaYb0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、例えば、非特許文献10に開示されているように、以下の様にして製造できる。まず、原料として単体のMg、Sb、Bi、Li、及びYbを所望の組成比で秤量し、混合後に溶融法を用いて融解させる。その後、得られた合金インゴットをカーボンるつぼに入れ、アルゴンガス雰囲気で、温度勾配方向凝固法による単結晶の製作を行う。このようにしてMg3(Sb,Bi)2を母体とする、Mg2.875-aLiaYb0.125SbBiの組成を有する単結晶を得ることができる。また、例えば、スパークプラズマ焼結法を用いてMg2.875-aLiaYb0.125SbBiの組成を有する多結晶を得ることができる。
【0115】
Mg
2.875-aLi
aYb
0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、
図3を参照すると、MgサイトC1の一部が、Li及びYbによって置換された欠陥を有している。この欠陥は、上記のMg
2.875-aAg
aYb
0.125SbBiの組成を有する結晶物質と同様の欠陥である。このような欠陥を有することにより、La
2O
3型の結晶構造に格子変形が生じうる。この格子変形により、結晶中の少なくとも一部に格子定数の変化が生じる。このため、この組成を有する熱電変換材料のX線回折パターンの強度のピークは、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度のピークに対してシフトすることが予測される。このようなX線回折パターンで観測されるピークのシフトは格子定数の変化によるものである。格子定数が増加すると、X線回折パターンのピークは低角度側にシフトし、格子定数が減少すると、X線回折パターンのピークは高角度側にシフトする。
【0116】
結晶のc軸配向度pの値によって、X線回折パターンにおける各ピークの強度比は、
図2に示す多結晶Mg
3(Sb,Bi)
2のX線回折パターンの強度比から変化する。c軸配向度pの値が0.07より増加するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークと比較して相対的に強くなる。一方、c軸配向度pの値が、0.07より低下するにつれ、(0,0,l)面に由来する回折ピークの強度が、その他の回折ピークと比較して相対的に弱くなる。
【0117】
Mg2.875-aLiaYb0.125SbBiの組成を有する結晶物質は、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成においてAがLiである物質である。非特許文献7を参照すると、この結晶物質において、0.0≦a≦0.025の条件が満たれうる。この結晶物質では、Mg3-a-bAaYbbSb2-xBixで表される組成におけるbの値が0.125である。非特許文献4を参照すると、このbの値は、0.0≦b≦0.25の安定組成範囲にある。この結晶物質において、xの値は1であり、非特許文献8及び非特許文献9を参照すると、このxの値は0.0≦x≦2.0の条件が満たす。
【0118】
非特許文献7に開示されている、多結晶Mg3-aLiaSb2において、a=0.005、0.01、及び0.02の場合でのZTの実験値をそれぞれ比較例36-1、37-1、及び38-1として表9に示す。加えて、VASPコード及びパラボリックバンドモデルを組み合わせた予測モデルにより取得した、比較例36-1、37-1、及び38-1の組成におけるZTの計算値をそれぞれ比較例36-2、37-2、及び38-2として表9に示す。比較例36-1、37-1、38-1、36-2、37-2、及び38-2は多結晶であるので、pの値を0.07に設定した。また、αの値は、aのそれぞれの値において、実験による比較例36-1、37-1、及び38-1のZTの計算値を再現するように決定した。
【0119】
【0120】
比較例36-2等のZTの計算におけるαと同様の値を用いて、Mg3-a-bLiaYbbSb2-xBixの組成を有する結晶物質について、c軸配向度pの影響も考慮したz軸方向のZTを算出した。p=1における、Mg3-a-bLiaYbbSb2-xBixの330K及び573KにおけるZTの計算値を表10に示す。
【0121】
【0122】
表10に示す通り、0.005≦a≦0.02を満たす実施例47、48、及び49は、それぞれ、aの値が同じ比較例36-2、37-2、及び38-2のZTを上回る高いZTを示した。