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特開2023-81479ポリエステル支持体から成る離型フィルムの回収方法およびフィルムの製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081479
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】ポリエステル支持体から成る離型フィルムの回収方法およびフィルムの製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/06 20060101AFI20230606BHJP
   B29B 17/02 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
C08J11/06 ZAB
B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195222
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西崎 大起
(72)【発明者】
【氏名】池山 敬子
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AD02
4F401AD07
4F401BA13
4F401CA02
4F401CA03
4F401CA13
4F401CA41
4F401CA48
4F401CB15
4F401EA04
4F401EA07
4F401EA08
4F401EA46
4F401EA79
4F401FA01Z
4F401FA04Z
4F401FA07Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】ポリエステル支持体に積層された塗布層を剥離し、洗浄液であるアルカリ水溶液に溶解しない剥離した塗布層の再付着を抑制し、ポリエステル支持体のみを回収でき、フィルム用原料として再利用することに最適なポリエステル支持体の回収方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1層以上の塗布層が積層されたポリエステル支持体を嵩密度が0.02~0.10g/cm、L/Wの平均値が5~15のフィルム片に細断し、該フィルム片を60~98℃の温度で0.5~6.0wt%のアルカリ水溶液で撹拌洗浄することで、アルカリ水溶液に不溶な成分を含む塗布層を除去するポリエステル支持体の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層以上の塗布層が積層されたポリエステル支持体を嵩密度が0.02~0.10g/cm、L/Wの平均値が5~15のフィルム片に裁断し、該フィルム片を60~98℃の温度で0.5~6.0wt%のアルカリ水溶液で撹拌洗浄することで、アルカリ水溶液に不溶な成分を含む塗布層を除去するポリエステル支持体の回収方法。
L:フィルム片の長さ、W:フィルム片の幅
【請求項2】
フィルム片L/Wの最大値が20以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項3】
アルカリ水溶液での撹拌洗浄を1段のみで実施することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項4】
アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項5】
洗浄液に界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1~4いずれか1項に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【請求項6】
塗布層が積層されたポリエステル支持体が離型フィルムであり、ポリエステル支持体のみを回収、再利用することを特徴とする請求項1~5いずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも1層以上の塗布層が積層されたポリエステルフィルムから、塗布層を剥離し、フィルム用原料として再利用できる状態とする回収方法およびフィルムの製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械特性や熱特性、コシの強さやコストの観点から、工業材料用途として多様な用途に用いられている。特に近年、スマートフォンや携帯パソコンに代表される移動体通信機器、携帯情報端末機器などの大容量化に伴い、これらの電子機器に使用される多層セラミック基板、積層セラミックコンデンサーなどを製造する工程において、セラミックグリーンシート製造用のキャリアシートとして、離型フィルムの消費量が大きく増加している。このキャリアシートは、セラミックスラリーを塗布し乾燥させる際に支持体として機能するものであり、キャリアシート(離型フィルム)上に作製されたグリーンシート層が剥離した後は、離型フィルム上に残存したセラミック残渣とともに廃棄されていた。
昨今の環境問題に対する意識の高まりにより、従来は廃棄されるポリエステルフィルムを回収し、再利用することが望まれている。
【0003】
ポリエステルフィルムを再利用する回収方法として、特許文献1には記録層等を設けたポリエステル基材を裁断し、加熱したアルカリ水溶液中で撹拌洗浄し、記録層等を除去する回収方法が開示されている。さらに特許文献2では塗布膜を設けたポリエステル基材をアルカリ性処理液で脱膜処理を行う際、撹拌によるチップ状の記録材料への剪断力を小さくすることで、剥離した塗布膜が密着せず除去する回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平13-310970号公報
【特許文献2】特開平17-131916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1においては、アルカリ洗浄中の基材フィルム同士の密着により、剥離した記録層等が基材フィルムに付着することから、記録層等を除去するために2段階のアルカリ水溶液による洗浄が必要となりコストおよび処理時間が増大してしまう。
一方、特許文献2においてもアルカリ性処理後に剥離した塗布膜とポリエステル基材とを分離するために、ヘンシェルミキサーにより高剪断力を掛け、ポリエステル支持体に再付着している塗布膜を分離する。さらには遠心分離脱水機等が必要であり、装置が煩雑となる。
【0006】
本発明の課題は上記した従来の問題点を解決し、ポリエステル支持体に積層された塗布層を剥離し、洗浄液であるアルカリ水溶液に溶解しない剥離した塗布層の再付着を抑制し、ポリエステル支持体のみを回収でき、フィルム用原料として再利用することに最適なポリエステル支持体の回収方法およびポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、上記課題を解決するため、次の特徴を有するものである。
(1)少なくとも1層以上の塗布層が積層されたポリエステル支持体を嵩密度が0.02~0.10g/cm、L/Wの平均値が5~15のフィルム片に細断し、該フィルム片を60~98℃の温度で0.5~6.0wt%のアルカリ水溶液で撹拌洗浄することで、アルカリ水溶液に不溶な成分を含む塗布層を除去するポリエステル支持体の回収方法。
L:フィルム片の長さ、W:フィルム片の幅
(2)フィルム片L/Wの最大値が20以下であることを特徴とする(1)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
(3)アルカリ水溶液での撹拌洗浄を1段のみで実施することを特徴とする(1)~(2)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
(4)アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする(1)~(3)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
(5)洗浄液に界面活性剤を含むことを特徴とする(1)~(4)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
(6)塗布層が積層されたポリエステル支持体が離型フィルムであり、ポリエステル支持体のみを回収、再利用することを特徴とする(1)~(5)に記載のポリエステル支持体の回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル支持体の洗浄および回収方法は、アルカリ洗浄時におけるポリエステル支持体からアルカリ水溶液に不要な成分である塗布層の除去が容易であり、塗布層の剥離性に優れたポリエステル支持体の回収方法およびポリエステル支持体を再利用したフィルムの製造方法を提供できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリエステル支持体の洗浄および回収方法は少なくとも1層以上の塗布層が積層されたポリエステルフィルムを裁断しアルカリ水溶液中で加熱洗浄することで塗布層を剥離、除去する。
【0011】
本発明のポリエステル支持体の洗浄および回収方法に用いられるポリエステルフィルムは、ポリエステルから成る層および異なる樹脂を含む層を少なくとも1層以上積層されたポリエステルフィルムである。
【0012】
ポリエステルフィルムは、フィルムを構成する樹脂がポリエステル樹脂を主成分とするものである。本発明において、ポリエステル樹脂を主成分とするとは、少なくとも70モル%以上が、ジカルボン酸とジオール、およびそれらのエステル形成性誘導体を主たる構成成分とする単量体または低重合体からの重合により得られるポリエステルである。本発明で用いるポリエステルは、ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0013】
上記ポリエステル支持体の厚みは特に限定されるものではないが、強度、剛性等といった取り扱い性などを考慮すると、5μm以上500μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以上200μm以下、特に好ましくは20μm以上100μmである。
【0014】
本発明のポリエステル支持体の洗浄および回収方法に用いるフィルムとして、セラミックグリーンシートの製造に用いる離型フィルムが挙げられる。離型フィルムとしては、上記ポリエステルフィルムに少なくとも1層以上の塗布層を有する。離型層を構成する材料は、離型性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするもの、あるいはウレタン樹脂、エポキシ樹脂等とのグラフト重合等による変性シリコーン樹脂等が挙げられる。中でも、セラミックグリーンシートとの離型性の点で、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするものが、より好ましく用いられる。
【0015】
さらにセラミックグリーンシートの製造では、上記離型フィルム上にセラミックスラリーが塗工され、セラミックグリーンシート層が形成される。必要に応じて電極ペースト等で内部電極をスクリーン印刷し、所望の形状に型抜きする。次いで、内部電極が印刷されたセラミックグリーンシート層を離型フィルムから剥離し、剥離されたセラミックグリーンシートは、吸引ヘッド等の手段を用いて吸引しつつ必要枚数を積層し、プレス機等で熱圧着して、セラミック積層体を作製する。
【0016】
セラミック層を形成する材料のうちセラミックス原料としては、例えば、チタン、アルミ、バリウム、鉛、ジルコニウム、珪素、イットリウム等の金属からなる酸化物、チタン酸バリウム、P b ( M g 1 / 3, N b 2 / 3) O 3、P b ( S m 1 / 2, N b1 / 2) O 3、P b ( Z n 1 / 3, N b 2 / 3) O 3、P b T h O 3、P b Z r O 3などが挙げられる。加えてセラミックススラリーに用いるバインダーとしては、例えば、ポリウレタン樹脂系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、エポキシ樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどの水性高分子などが挙げられる。また、セラミックグリーンシート層に印刷される内部電極としては、パラジウム、銀、ニッケル等の電極成分に由来するものが挙げられる。
【0017】
上記のセラミックグリーンシートの製造工程でキャリアシートとして使用された離型フィルムは、セラミックグリーンシート層を剥離した後、一旦巻き取り、巻き取った使用済みの離型フィルムを洗浄、回収する際に本発明を適用することができる。
【0018】
本発明のポリエステル支持体の洗浄および回収方法は攪拌翼を設けた洗浄槽を用いて、塗布層を剥離、除去する。特に塗布層の中でもセラミックを含有するセラミックグリーンシート層および内部電極などはアルカリ水溶液に溶解せず、細片となり洗浄液中にポリエステル支持体とともに存在する。アルカリ水溶液に溶解しない塗布膜は洗浄中のポリエステル支持体同士の密着により、ポリエステル支持体に再付着するため、洗浄後もポリエステル支持体中に残存したままとなり、フィルム原料として再利用する際に異物となってしまうため、アルカリ水溶液に不溶な成分を含めた塗布層を除去する必要がある。
【0019】
本発明において用いるポリエステル支持体は嵩密度が0.02~0.10g/cmのフィルム片に裁断し、洗浄することが必要である。より好ましくは0.02~0.05g/cmである。0.02g/cm以下であると洗浄時のフィルム片同士の撹拌が不十分となり、塗布層の剥離性が低下し、剥離に長時間を有する。0.10g/cmを超えると、アルカリ水溶液に不溶な剥離した塗布層の細片がポリエステル支持体に付着し、十分に除去できず、フィルム原料として再利用した際に、フィルムの異物となったり、溶融押し出し時の濾過工程で、フィルターが目詰まりを起こし、正常な製膜ができなくなるといった問題が発生する。上記フィルム片の嵩密度とするためにはフィルム片長さ(L)、フィルム片幅(W)のL/Wの平均値を5~15とする。より好ましくは9~13である。各フィルム片の大きさは不定形であっても問題なく、上記L/Wを満たしていることが必要である。裁断方法としてはシュレッダー(マイクロクロスカット方式)を用いてフィルムを裁断することが好ましい。さらにカット方式が異なるシュレッダーやハサミ、フィルムカッターを用いても良い。
本発明のポリエステル支持体の洗浄および回収方法は60~98℃のアルカリ水溶液中で撹拌洗浄することが必要である。60℃未満の場合、塗布層の剥離性が低下し、ポリエステルフィルムに積層された塗布層の剥離性が低下し、剥離に長時間を有する。98℃を超える場合は沸点近くの温度となるため、加圧式の洗浄槽が必要となるうえ、加熱によるポリエステル支持体の加水分解や溶解を引き起こす。
【0020】
また、使用するアルカリ水溶液の濃度は0.5~6.0wt%とすることが必要である。
0.5wt%未満では塗布層の剥離性が低下し、剥離に長時間を有する。6.0wt%を超える場合は、加水分解の促進により、支持体であるポリエステルの分子量および固有粘度の低下を引き起こす。
【0021】
使用するアルカリ水溶液の種類としては、塗布層の剥離性向上の観点から水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム水溶液などが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0022】
アルカリ水溶液中には界面活性剤を含有することが好ましい。含有量はアルカリ水溶液全量に対して、0.01~0.1%含有することが好ましい。界面活性剤を添加することでアルカリ水溶液がポリエステル支持体と塗布層との界面への浸透性が増すことで剥離を促進し、剥離した塗布層とポリエステルフィルムとの再付着を抑制する効果がある。界面活性剤の種類としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが挙げられ、好ましくはノニオン性およびアニオン性界面活性剤である。ノニオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールエーテル系、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。また、アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。
本発明においてアルカリ水溶液での撹拌洗浄を1段階で実施することが好ましい。2段階以上の洗浄を実施する場合、洗浄時間およびコストが増大する点から、1段階で実施することが好ましい。
【0023】
アルカリ水溶液での洗浄後は水で水洗することが好ましい。水洗ではポリエステル支持体に微量に残留した塗布膜を除去し、付着しているアルカリ成分を除去する。アルカリ洗浄と同じく、攪拌翼を設けた洗浄槽を用いることができる。洗浄時間とコストの観点から1段階で実施することが好ましい。さらにアルカリ洗浄および水洗ともに撹拌回転数は100~300rpmの範囲とし、撹拌洗浄により処理する時間は15~30分間とすることが好ましい。上記範囲とすることでポリエステル支持体から塗布層を効率的に除去することができる。水洗後は60~200℃で乾燥することが好ましい。好ましくは90~120℃である。
なお、本発明により回収したポリエステル支持体は、以下の方法でポリエステルフィルムに成形することができる。フィルム用原料として再利用するため、再溶融、ペレット化する場合は真空乾燥することが好ましい。乾燥後のポリエステル支持体は造粒機でペレット化し、押し出し機に供給してストランド状に溶融押し出しした後、水中その他で冷却し、カッターで連続的に切断して再生チップを得ることができる。得られた再生チップを従来の二軸延伸製膜機に供給してフィルムを製造することができる。フィルム構成は、単膜あるいは積層して用いることができ、再生チップと通常のバージン原料と混合して用いてもよい。
【実施例0024】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の測定方法は次のとおりである。
【0025】
(1)フィルム片の嵩密度
容積が100cmである円筒形ステンレス容器の重量を測定する。容器内にフィルム片を溢れるまで充填する。フィルム片は容器内へ押しつけず、自重で充填し、容器の上端面から盛り上がったフィルム片をすり切り板ですり切る。フィルム片が充填された容器ごと重量を測定し、ステンレス容器自身の重量を引いたフィルム片の重量(g)を容積(100cm)で除した値を用いた。上記測定を3回行い、平均値を採用した。
(2)フィルム片のL/W
裁断したフィルム片をランダムに30個選んで、フィルム片長さL(長辺)、フィルム片幅 W(短辺)を測定し、各フィルム片のL/Wを求め、平均値および最大値を用いた。
(3)Si含有量
ポリエステル支持体からなるフィルム片を溶融プレス機で円筒状に成型し、蛍光X線分析装置を用いて測定した。
(4)固有粘度
ポリエステル支持体からなるフィルム片をo-クロロフェノールに加熱溶解した後、ウベローデ型粘度計を用いて25 ℃で測定した。
(5)セラミック含有塗布層の剥離性
洗浄後のポリエステル支持体からなるフィルム片をランダムに30個選んで目視で観察し、以下の基準で判定した。
【0026】
×:洗浄したフィルム片のうちセラミック含有塗布層が剥離したフィルム片が50%未満
○:洗浄したフィルム片のうちセラミック含有塗布層が剥離したフィルム片が90%以上
◎:洗浄したフィルム片全てでセラミック含有塗布層が剥離している
(6)セラミック含有塗布層の除去性
洗浄後のポリエステルフィルム片をランダムに30個選んで目視で観察し、以下の基準で判定した。
【0027】
×:洗浄したフィルム片のうち、10個以上に剥離したセラミック含有塗布層の付着がある
○:洗浄したフィルム片のうち、3個以上に剥離したセラミック含有塗布層の付着がある
◎:洗浄したフィルム片全てで剥離したセラミック含有塗布層の付着がない
(7)フィルム欠点
ポリエステルチップを150℃で3時間乾燥後、Tダイ式口金を備えた押し出し機に供給し、285℃で口金からキャスティングドラムを回転させながらキャスティングドラム上に押し出し未延伸フィルムを連続的に得る。1時間経過後から10分の間にフィルム表面を確認し、スジ状の欠点が新たに観察されれば×、観察されなければ○とした。
実施例1
(離型フィルムの作製)
基材フィルムとして、通常の方法で製造した厚さ31μmのポリエステルフィルム(フィルムの固有粘度は0.610)を準備した。次いで硬化型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)LTC-300B、硬化剤 SRX-212 0.8重量部添加)の5重量%トルエン溶液をリバースキスコーターで、乾燥後の塗布量で0.2g/m2となるようにコーティングし、トンネルオーブン中で130℃で加熱して離型層を形成し、巻き取った。作製した離型フィルムのSi含有量を測定し、700ppmであった。
【0028】
(セラミックグリーンシート層の作製)
上記の離型フィルムをキャリアシートとして用い、その離型層面上に、下記組成からなるセラミックスラリーをブレードコーターで均一に塗布し、トンネルオーブン中で85℃で乾燥して、厚さ20μmのセラミックグリーンシート層を、離型フィルム上に作製した。
≪セラミックスラリー組成≫
セラミック粉体(チタン酸バリウム) 100部
バインダー(ポリビニルブチラール) 10部
可塑剤(フタル酸ジオクチル) 5部
溶剤(トルエン/イソプロピルアルコール=1/1) 100部
(セラミックグリーンシート層の剥離)
上記の離型フィルム上のセラミックグリーンシート層に、10cm×10cmの形状にスリットを入れた後、真空吸着機でセラミックグリーンシート層を吸引して離型フィルムから剥離させ、剥離したフィルムを巻き取った。
(離型フィルムの洗浄、回収)
回収した離型フィルムをマイクロクロスカット方式の事務用シュレッダーで裁断した。このフィルム片の嵩密度は0.038g/cm、L/Wの平均値は12、最大値は17(L:30~52mm、W:3mm)であった。次いで攪拌翼を設けた500mLフラスコに細断したフィルム片10gを加え、全フィルム片が浸漬するように250mLの4wt%水酸化ナトリウム水溶液を投入した。さらに投入した水酸化ナトリウム水溶液に対し、0.02%にあたるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを加えた。洗浄槽を85℃に加熱し、攪拌機回転数を200rpm、20分間洗浄した。洗浄後、洗浄液をフラスコから取り出し、次いで全フィルム片が浸漬するように250mLの純水を投入し、攪拌機回転数を200rpm、20分間水洗した。水洗後、洗浄液とフィルム片を別々に取り出し、フィルム片は120℃のオーブンで乾燥した。洗浄したフィルム片の品質は、Si含有量は100ppm以下であり、離型層の剥離性が良好であった。固有粘度は0.610と洗浄前のフィルムと比較し、固有粘度の低下は見られなかった。洗浄後のフィルム片を観察し、セラミック含有塗布層の剥離、除去性も良好であった。
【0029】
(チップ化、ポリエステルフィルムの製造)
塗布層が剥離されたフィルム片を造粒機で約5mm×20mmの円筒状にペレット化した。上記ペレットを真空乾燥した後、スクリュー径30mmの押し出し機に供給して再溶融し、再びチップとした。
得られたポリエステルチップを150℃で3時間乾燥し、押し出し機に供給し、285℃で溶融押し出しを行い、静電印加された20℃のキャストドラム上にキャストし未延伸シートを得た。この未延伸シートを90℃に加熱された延伸ロールによって長手方向に3.1倍に延伸し、次いでテンター式延伸機によって120℃で幅方向に3.7倍延伸し、その後230℃で熱固定してロールに巻き取った。得られたフィルムのフィルム欠点は良好であった。
【0030】
実施例2~3
マイクロクロスカット方式の事務用シュレッダーとハサミを用いて裁断し、洗浄するフィルム片の嵩密度およびL/Wを変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0031】
実施例4
クロスカット方式の事務用シュレッダーを用いて裁断し、洗浄するフィルム片の嵩密度およびL/Wを変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層の剥離性およびセラミック含有塗布層の除去性は良好であった。セラミック含有塗布層の剥離性は低下したが、問題ないレベルであり、フィルム欠点も良好であった。
【0032】
実施例5
洗浄に使用するアルカリ水溶液を水酸化カリウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0033】
実施例6~7
洗浄液の水酸化ナトリウム濃度を変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0034】
実施例8~9
洗浄液の水酸化ナトリウム水溶液の温度を変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0035】
実施例10~11
洗浄液の水酸化ナトリウム濃度、温度を変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0036】
実施例12
洗浄液に加える界面活性剤をアルキル硫酸エステルナトリウムに変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0037】
実施例13
洗浄液にポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを添加しない以外は実施例1と同様の方法で実施した。離型層、セラミック含有塗布層の剥離性および得られたフィルム片の品質は良好であった。得られたフィルムのフィルム欠点も良好であった。
【0038】
比較例1
ハサミを用いて裁断し、洗浄するフィルム片の嵩密度が0.210g/cm、L/Wの平均値が3、最大値が5(L:12~25mm、W:5~10mm)に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られたフィルム片の離型層の剥離性は良好であったが、フィルム片の嵩密度が大きく、フィルム片同士の密着によりセラミック含有塗布層の除去性が低下し、不十分な結果であった。また、固有粘度測定時に残留したセラミック含有塗布層が未溶融物となり、測定することができなかった。フィルム製造時には溶融押し出し後の濾過工程で残存したセラミックによって、フィルター目詰まりを起こし、正常な製膜ができなかった。
【0039】
比較例2
ハサミを用いて裁断し、洗浄するフィルム片の嵩密度が0.300g/cm、L/Wの平均値が1、最大値が1(L:4~7mm、W:3~6mm)に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られたフィルム片の離型層の剥離性は良好であったが、フィルム片の嵩密度が大きく、フィルム片同士の密着によりセラミック含有塗布層の除去性が低下し、不十分な結果であった。また、固有粘度測定時に残留したセラミック含有塗布層が未溶融物となり、測定することができなかった。フィルム製造時には溶融押し出し後の濾過工程で残存したセラミックによって、フィルター目詰まりを起こし、正常な製膜ができなかった。
【0040】
比較例3
ハサミを用いて裁断し、洗浄するフィルム片の嵩密度が0.018g/cm、L/Wの平均値が18、最大値が19(L:50~58mm、W:3~6mm)に変更した以外は実施例1と同様に実施した。フィルム片の嵩密度が小さく、セラミック含有塗布層の剥離性が低下し、不十分な結果であった。また、固有粘度測定時に残存したセラミック含有塗布層が未溶融物となり、測定することができなかった。セラミック含有塗布層の除去性は低下したが、問題ない範囲であった。フィルム製造時には溶融押し出し後の濾過工程で残存したセラミックによって、フィルター目詰まりを起こし、正常な製膜ができなかった。
【0041】
比較例4
ストレートカット方式のシュレッダーとハサミを用いて裁断し、洗浄するフィルム片の嵩密度が0.015g/cm、L/Wの平均値が18、最大値が22(L:80~109mm、W:5mm)に変更した以外は実施例1と同様に実施した。フィルム片の嵩密度が小さく、セラミック含有塗布層の剥離性が低下し、不十分な結果であった。また、固有粘度測定時に残存したセラミック含有塗布層が未溶融物となり、測定することができなかった。フィルム製造時には溶融押し出し後の濾過工程で残存したセラミックによって、フィルター目詰まりを起こし、正常な製膜ができなかった。
【0042】
比較例5~6
洗浄液の水酸化ナトリウム濃度を変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。比較例5では、水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ濃度が低く、洗浄後のフィルム片のSi含有量が500ppmであり、離型層の剥離性が不十分な結果であった。また、固有粘度測定時に残留したセラミック含有塗布層が未溶融物となり、測定することができなかった。得られたフィルムのフィルム欠点が多かった。比較例6では、水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ濃度が高く、フィルム片の固有粘度が洗浄前のフィルムと比較し、低下したためフィルム製造時に押し出しシートの幅が安定せず、正常な製膜ができなかった。
【0043】
比較例7
洗浄液の水酸化ナトリウム濃度および温度を変更した以外は実施例1と同様の方法で実施した。洗浄後のフィルム片のSi含有量が200ppmであり、離型層の剥離性が不十分な結果であった。また、セラミック含有塗布層の剥離性が不十分であり、固有粘度測定時に残留したセラミック含有塗布層が未溶融物となり、測定することができなかった。得られたフィルムのフィルム欠点は多かった。
【0044】
【表1】