(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082639
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】ビリヤードキューの製造方法
(51)【国際特許分類】
A63D 15/08 20060101AFI20230607BHJP
【FI】
A63D15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021207580
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】508101270
【氏名又は名称】株式会社アダムジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100070057
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100158713
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 眞紀子
(72)【発明者】
【氏名】関根 沙織
(72)【発明者】
【氏名】関口 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】堀田 洋一
(57)【要約】
【課題】 従来のビリヤードキューのシャフトでの、手球を所定の方向に力強く撞くことやシャフトを長期間使用することが、やや困難であるという問題や、長時間使用していると異音を発生することなどの問題を解消できるビリヤードキューを製造すること。
【解決手段】 ビリヤードキューのシャフトに中空穴を設けそこに挿入する芯材として、、剛性の差が大きい繊維であるグラスファイバーとカーボンファイバーから成る、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ、繊維強化複合材料製パイプを接着と成形を同時に行う一体成形で製造し、該パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填した芯材を製造して、該シャフトの中空穴に挿入し、そして、この木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着したビリヤードキューの製造。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)から(5)の工程:
(1)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部まで貫通して設ける、
(2)別に、剛性の異なる繊維であるカーボンファイバーとグラスファイバーのそれぞれに同種類の熱硬化性樹脂を含侵させた、相対的に幅の長さが短いカーボンファイバープリプレグシートと幅の長さが長いグラスファイバープリプレグシートとを、断面円形の金属製マンドレル(心棒)に、カーボンファイバープリプレグシートの両端の先に出るグラスファイバープリプレグシート部分の幅が異なる長さになるような配置で、それぞれ巻き付けて積層になるように巻いた後、更に全体の外側に合成樹脂テープを巻き付けて加圧し密着緻密化させながら全体を加熱し硬化させて、接着と成形を同時に行う一体成形をした後に、マンドレルを引き抜き、該テープをはがし、外側を削って、外径が、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に嵌合するサイズに加工する工程により、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ、一体成形した断面円形の繊維強化樹脂複合材料製パイプを製造し、
(3)上記繊維強化樹脂複合材料製パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填して芯材を製造し、
(4)上記芯材を、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に挿入し、
(5)該木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着する、
から成ることを特徴とするビリヤードキューの製造方法。
【請求項2】
以下の(1)から(5)の工程:
(1)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部まで貫通して設ける、
(2)別に、剛性の異なる繊維であるカーボンファイバーとグラスファイバーのそれぞれに同種類の熱硬化性樹脂を含侵させた、相対的に幅の長さが短いカーボンファイバープリプレグシートと幅の長さが長いグラスファイバープリプレグシートとを、断面円形の金属製マンドレル(心棒)に、カーボンファイバープリプレグシートの両端の先に出るグラスファイバープリプレグシート部分の幅が同じ長さになるような配置で、それぞれ巻き付けて積層になるように巻いた後、更に全体の外側に合成樹脂テープを巻き付けて加圧し密着緻密化させながら全体を加熱し硬化させて、接着と成形を同時に行う一体成形をした後に、マンドレルを引き抜き、該テープをはがし、外側を削って、外径が、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に嵌合するサイズに加工する工程により、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ、一体成形した断面円形の繊維強化樹脂複合材料製パイプを製造し、
(3)上記繊維強化樹脂複合材料製パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填して芯材を製造し、
(4)上記芯材を、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に挿入し、
(5)該木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着する、
から成ることを特徴とするビリヤードキューの製造方法。
【請求項3】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂のうちから選ばれる1種である、請求項1又は2に記載のビリヤードキューの製造方法。
【請求項4】
それぞれ巻き付けて積層になるように巻いたのが、先にカーボンファイバープリプレグシートをマンドレルに巻き付けて、その上にグラスファイバープリプレグシートを1枚~複数枚巻き付ける、又は、先にグラスファイバープリプレグシートをマンドレルに巻き付けて、その上にカーボンファイバープリプレグシートを巻き付け、更にその上にグラスファイバープリプレグシートを1枚~複数枚巻き付けることである、請求項1又は2に記載のビリヤードキューの製造方法。
【請求項5】
発泡合成樹脂が、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタンのうちから選ばれる1種である、請求項1又は2に記載のビリヤードキューの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトとバットから成るビリヤードキューの製造方法に関するものである。
特に、球を撞いた時のシャフトのしなりのコントロール性が良く、また、長時間使用しても内部構造が壊れることがなく、外部に異音を発することがない構造を有するビリヤードキューのシャフトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のビリヤードキューは、シャフトの中空部の長手方向に、断面扇形(パイ形)に切断した柱状木材を6個挿入したものがある(下記特許文献1:特表平11-502428号公報参照)。
【0003】
しかしながら、この特表平11-502428号公報記載のビリヤードキューのシャフトでは、シャフトの先端で手球を撞く時に、シャフトをしならせ、コントロールすることがやや困難であるため、手球を所定の方向に力強く撞くことが困難であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の問題点を解消することが課題であり、シャフトの先端で手球を撞く時に、手球が所定の方向に所定の力で撞くことができるようなビリヤードキューの製造方法の発明である。
また、長時間使用しても内部構造が壊れることがなく、外部に異音を発することがない構造を有するビリヤードキューのシャフトを有するビリヤードキューの製造方法の発明である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ビリヤードキューのシャフトに中空穴を設け、芯材を挿入したこと、その芯材として、強度及びしなりの効果が異なる二つの素材、即ち、剛性の差が大きい繊維であるグラスファイバーとカーボンファイバーに着目し、それらの繊維強化複合材料製パイプを一体成形し、該パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填した芯材を用いたこと、そして、この木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着したことにより、長時間使用しても内部構造が壊れることがなく、外部に異音を発することがない構造を有するビリヤードキューを製造することが出来たのである。
【0007】
本発明は、成品として、以下の(A)~(C)に記載の構造を有するビリヤードキューを製造する方法である。
(A)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部ま で貫通して設け、そのシャフトの中空穴に、外見的に、先端部から、短いグラスファイ バー強化プラスチックと長いカーボンファイバー強化プラスチックと長いグラスファイ バー強化プラスチックの順になるように、それらのプリプレグを配置積層して一体成形 した繊維強化複合材料製パイプの中空の中に、1本の断面円形の長い発泡合成樹脂の緩 衝材を充填したことを特徴とする芯材を挿入した木材のシャフトと、木材のバットとを 着脱自在具で止着したことを特徴とするビリヤードキュー。
(B)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部ま で貫通して設け、そのシャフトの中空穴に、外見的に、先端部から、長いグラスファイ バー強化プラスチックと長いカーボンファイバー強化プラスチックと短いグラスファイ バー強化プラスチックの順になるようにそれらのプリプレグを配置積層して一体成形し た繊維強化複合材料製パイプの中空の中に、1本の断面円形の長い発泡合成樹脂の緩衝 材を充填したことを特徴とする芯材を挿入した木材のシャフトと、木材のバットとを着 脱自在具で止着したことを特徴とするビリヤードキュー。
(C)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部ま で貫通して設け、そのシャフトの中空穴に、外見的に、中央部に長いカーボンファイバ ー強化プラスチックとその両端にそれぞれ短いグラスファイバー強化プラスチックの順 になるようにそれらのプリプレグを配置積層して一体成形した繊維強化複合材料製パイ プの中空の中に、1本の断面円形の長い発泡合成樹脂の緩衝材を充填したことを特徴と する芯材を挿入した木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着したことを 特徴とするビリヤードキュー。
なお、上記の「外見的に」の意味は、本発明の特許請求の範囲の請求項1、2に記 載されているように、繊維強化複合材料製パイプを製造する際に、マンドレル(心棒) に相対的に幅の長さが短いカーボンファイバープリプレグシートの上に、幅の長さが長 いグラスファイバープリプレグシートを巻きつけて積層にしているのであるが、グラス ファイバープリプレグシート及びグラスファイバー強化プラスチックは透明又は半透明 であるので、外見的には、その下のカーボンファイバー強化プラスチック(黒色)が並 列しているように見えていることを意味している。
【0008】
上記(A)、(B)の成品を製造する方法を説明する。
以下の(1)から(5)の工程:
(1)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部まで貫通して設ける、
(2)別に、剛性の異なる繊維であるカーボンファイバーとグラスファイバーのそれぞれに同種類の熱硬化性樹脂を含侵させた、相対的に幅の長さが短いカーボンファイバープリプレグシートと幅の長さが長いグラスファイバープリプレグシートとを、断面円形の金属製マンドレル(心棒)に、カーボンファイバープリプレグシートの両端の先に出るグラスファイバープリプレグシート部分の幅が異なる長さになるような配置で、それぞれ巻き付けて積層になるように巻いた後、更に全体の外側に合成樹脂テープを巻き付けて加圧し密着緻密化させながら全体を加熱し硬化させて、接着と成形を同時に行う一体成形をした後に、マンドレルを引き抜き、該テープをはがし、外側を削って、外径が、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に嵌合するサイズに加工する工程により、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ、一体成形した断面円形の繊維強化樹脂複合材料製パイプを製造し、
(3)上記繊維強化樹脂複合材料製パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填して芯材を製造し、
(4)上記芯材を、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に挿入し、
(5)該木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着する、
から成ることを特徴とするビリヤードキューの製造方法。
上記の「グラスファイバープリプレグシート部分の幅」の長さが短い方をシャフトの先端部に向けたものが、上記成品(A)であり、幅の長さが長い方をシャフトの先端部に向けたものが、上記成品(B)になる。
芯材素材として、同じ繊維強化樹脂複合材料製パイプの後先をひっくり返して用いることで、シャフトのしなりや使い勝手を簡単に調整できるので便利である。
【0009】
上記(C)の成品を製造する方法を説明する。
以下の(1)から(5)の工程:
(1)円柱状で先細形にした木材のシャフトに断面が円形の中空穴を先端部から後端部まで貫通して設ける、
(2)別に、剛性の異なる繊維であるカーボンファイバーとグラスファイバーのそれぞれに同種類の熱硬化性樹脂を含侵させた、相対的に幅の長さが短いカーボンファイバープリプレグシートと幅の長さが長いグラスファイバープリプレグシートとを、断面円形の金属製マンドレル(心棒)に、カーボンファイバープリプレグシートの両端の先に出るグラスファイバープリプレグシート部分の幅が同じ長さになるような配置で、それぞれ巻き付けて積層になるように巻いた後、更に全体の外側に合成樹脂テープを巻き付けて加圧し密着緻密化させながら全体を加熱し硬化させて、接着と成形を同時に行う一体成形をした後に、マンドレルを引き抜き、該テープをはがし、外側を削って、外径が、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に嵌合するサイズに加工する工程により、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ、一体成形した断面円形の繊維強化樹脂複合材料製パイプを製造し、
(3)上記繊維強化樹脂複合材料製パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填して芯材を製造し、
(4)上記芯材を、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に挿入し、
(5)該木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着する、
から成ることを特徴とするビリヤードキューの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記(A)~(C)に記載の製品である、本発明の製造方法によって製造されるビリヤードキューは、木材のシャフトの芯材として、「一体成形した繊維強化複合材料製パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填したことを特徴とする芯材」を挿入した木材のシャフトを特徴の一つとしている。
この様に、木材のシャフトの芯材には、先端部から、長い発泡合成樹脂の緩衝材を充填するように製造されているため、使用時にシャフトの木材部に与える衝撃を和らげて、シャフトの木材部の損傷を防ぎ、ビリヤードキューを長期間安定して使用することができるとともにビリヤードキューを長時間使用しても、外部に異音を発生しないという効果がある。
さらに、本発明では、芯材素材のカーボンファイバー強化プラスチックとその両端のグラスファイバー強化プラスチックは、同種類の熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグを用いて、マンドレルに巻き付けて積層と成して製造しているため、その次の工程で全体を合成樹脂テープを巻きつけて加圧密着緻密化させると同種類の樹脂がなじみ、多少入れ混じることも起こるので、その全体を加熱し硬化させると、該同種類の熱硬化樹脂が接着剤の作用も成し、(他の接着剤を用いずに)、接着と成形を同時に行う一体成形に製造できる。
したがって、強固な一体化の、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ芯素材を製造することができるという効果がある。
本発明者達は、以前は、芯素材として、成形済みの各強化プラスチックのパイプ(完成品)を用い、グラスファイバー強化プラスチックのパイプの内側に、短いカーボンファイバー強化プラスチックのパイプを接着剤を用いて固定することで、長手方向の剛性が部分的に異なる芯材を製造し使用していたが、成形済みパイプを後から接着するので、任意の位置に配置することが難しいうえに、ビリヤードキューの使用中に接着剤の剥がれなどが起き、異音の発生の原因になったり、しなりなどの品質の安定性に欠ける原因になるという不具合が生じていた。
本発明で製造される芯素材は、後から接着したものではなく、成形と接着を同時に施工した一体成形されたものであるので強固であり、しかも、位置決めは、プリプレグの段階で行うので容易であるという効果を有する。
【0011】
ここで、上記(A)の製品を例に、実際の使用時の効果を述べると、手球を撞いた時、最初にビリヤードキューが手球に影響を与えるのは、先端部の一体成形した短いグラスファイバー強化プラスチックであるが、グラスファイバー強化プラスチックは、カーボンファイバー強化プラスチックより剛性が小さいために、木材のシャフトに与える衝撃は小さく、ビリヤードキューを長期間安定して使用することができる。そして、ビリヤードのプロや上級者は、軽くシャフトを短時間安定した状態で、最初はやや小さい力で手球を撞くことができる。
さらに、プロや上級者などは、剛性が大きい長いカーボンファイバー強化プラスチックの特性を利用して、大きな力で手球を撞くことにより、シャフトは大きくしなり、その反発力の元に戻ろうとする強く押し出す力が手球に加わるために、ビリヤードキューを撞いた時の腕で押し出す力との双方の合体した大きな力で手球を強く撞くことができる(
図3参照)。
また、ビリヤードの初級者は、初めのうちは、手球を狙った方向に上手に撞くことができないために、シャフトのしなりを利用して、手球を予定した方向にカーブさせることができないが、次第に手球を予定した方向に曲げるように手球を撞くことができるようになる。この際、シャフトの芯材には発泡合成樹脂の緩衝材を充填してあるため、初級者などが木材のシャフトを損傷させることを防止することができ、さらに発泡合成樹脂の緩衝材に音が吸収されるので、ビリヤードキューを長時間使用しても、外部に異音を発生しないという効果もある。
【0012】
以上のように、本発明で製造されるビリヤードキューは、本発明の製造方法により、芯材素材のグラスファイバー強化プラスチックの長さの調節が簡単にでき、そのことで、ビリヤードの初級者、プロ、上級者それぞれの経験、技術、好みの合うようにコントロールできるという効果を有する。さらに、本発明の製造方法により、シャフトの芯材素材の、カーボンファイバー強化プラスチックとグラスファイバー強化プラスチックとが一体成形されているために強固にすることができる
そのうえ、シャフトの先端部から、断面円形の長い発泡合成樹脂の緩衝材を充填してあるため、使用時にシャフトの木材部に与える衝撃を和らげて、シャフトの木材部の損傷を防ぐので、ビリヤードキューを長期間安定して使用することができる効果があり、併せて、緩衝材に音が吸収されるので、ビリヤードキューを長時間使用しても、外部に異音を発生しないという効果を有する。
【0013】
なお、先にも述べたが、本発明で製造される、一体成形による強度の高い芯材素材を使用することにより、シャフトの硬さやテーパーの細さにおいて自由度が高くなるという利点が得られた。
成形済みの各強化プラスチック(成形品)の各端面を後から接着剤で接着したものでは、シャフトにしなりが生じた際等に接着部分に亀裂が入り不具合が発生する頻度が高かったが、本発明で製造される一体成形したものは、強度が向上するので、不具合がほぼ発生しなくなった。
現在のユーザーからは、シャフトのテーパーは細いものが好まれる傾向があるが、本発明で製造される、一体成形した強度の高い新素材によって今までよりも細いテーパーにてシャフトを製造出来るようになり、しかも細くしたことでより多くのしなりが生じても不具合が発生しにくいという利点を得られた。
【0014】
本発明で用いるシャフトの木材としては、通常シャフトに用いられる木材(例えば、メイプル、黒檀、ローズウッドなど)のいずれも用いられる。
【0015】
本発明で用いるマンドレル(心棒)の材質は、金属製、樹脂製、セラミック製などの材質が知られているが生産性の観点から金属製が好ましい。
【0016】
強化繊維としては、カーボンファイバー(炭素繊維)、グラスファイバー(ガラス繊維)、アラミド繊維などの有機繊維、シリコンカーバイド繊維などの無機繊維が知られているが、本発明では、剛性差を大きくさせる為にカーボンファイバーとグラスファイバーの組み合わせを用いるのが好ましい。
【0017】
本発明で用いる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、特にエポキシ樹脂が好ましい。。
【0018】
合成樹脂製テープの素材としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、セロファン、ポリイミドなどが挙げられるが、テープ形状のバランスの良さから、ポリプロピレン、ポリエステルを使用するのが好ましい。
なお、加圧手段としては、テープ形状だけでなく、熱収縮チューブやゴムチューブなどのチューブ形状のものも使用可能である。
【0019】
本発明で緩衝材として用いられる発泡合成樹脂としては、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタン等が挙げられが、特に、発泡ポリエチレンや発泡ポリウレタンが好ましい。
【0020】
シャフト使用時の「しなり」について説明すると、「しなり」は、ビリヤードキューで球を撞いた時に、発生する。そして、シャフトがしなることによって、球の回転数は大きくなる。
本発明での「グラスファイバー強化プラスチック」と「カーボンファイバー強化プラスチック」のしなり方を比較すると、グラスファイバー強化プラスチックの方が柔らかく(剛性が小さく)てしなりやすい。
ただし、シャフト全体では、「グラスファイバー強化プラスチックの長さと位置」「カーボンファイバー強化プラスチックの長さと位置」「シャフトテーパーの細さ」などが、色々組み合わさることによって、得られるしなりの性能は様々になる。
そして、シャフト全体の傾向としては、カーボンファイバー強化プラスチックが長くなれば硬くなりしならなくなり、カーボンファイバー強化プラスチックが短くなりシャフトテーパーが細くなればしなりは大きくなる。
ここで、しなりを利用した「手球の曲げ」の一例を
図3にそって説明する。
例えば、手球31をその中心線32より左側方向に曲げるためには、シャフトのグラスファイバー強化プラスチックとそれより強度がやや大きい長いカーボンファイバー強化プラスチックの性質を利用して、
図3に図示したように、やや大きい力でシャフトで手球31の中心33を通る中心線32より右側の位置(撞点34A)で手球を撞く、すると、シャフトの先端部は右方向にしなりながら手球を左側方向に曲げることができる。この場合、
図7に図示したように、シャフトは大きくしなりながら(35)、手球に斜め左側方向に押し出す力を発生するので、手球にはこの斜め左側方向に押し出す力とビリヤードキューを撞いた時の腕の力が合体して、大きな力で、手球を曲げながら強く撞くことができるのである。
なお、
図3は、シャフト使用時のしなりによる力のベクトルの説明図で、図中の手球とシャフトの相対的な大きさは実物の場合とは異なっていることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】 本発明で製造されたビリヤードキューの平面図である。
【
図2】 本発明で製造されたシャフトの各所拡大横断面図である。
【
図3】 本発明で製造されたシャフト使用時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、当該実施例の内容により本発明の技術的範囲が限定解釈されるものではない。
【実施例0023】
(1)
図1に示されるように、ビリヤードキュー6は木材のシャフト1と木材のバッ ト5からなり、円柱状で先細形にした木材のシャフト1に断面が円形の中空穴1Aを先 端部から後端部までに貫通して設ける。
(2)別に、剛性の異なる繊維であるカーボンファイバーとグラスファイバーのそれぞれに同じエポキシ樹脂を含侵させた、相対的に幅の長さが短いカーボンファイバープリプレグシートと幅の長さが長いグラスファイバープリプレグシートとを、断面円形の細い円柱形の金属製マンドレル(心棒)に、まず、カーボンファイバープリプレグシートを巻きつけ、次いで、グラスファイバープリプレグシートをカーボンファイバープリプレグシートの上に、カーボンファイバープリプレグシートからはみ出すグラスファイバープリプレグシート部分の幅が一方が短く、他方が長くなる配置で、1~3枚順次巻き付けて積層になるように巻いた後、テンションをかけながら、全体の外側にポリプロピレン樹脂テープを巻き付けて加圧し密着緻密化をさせながら全体を130度から140度で約2時間前後加熱し硬化させて、接着と成形を同時に行う一体成形をした。温度が下がった後、マンドレルを引き抜き、上記テープをはがし、外側を削って、外径が、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に嵌合するサイズに加工する工程により、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ、一体成形した断面円形の繊維強化樹脂複合材料製パイプを製造した。
(3)上記繊維強化樹脂複合材料製パイプの中空の中に、発泡ポリエチレンから成る緩 衝材を充填して芯材を製造し、
(4)上記芯材を、上記工程(1)で製造した木材のシャフトの中空穴に挿入し、
(5)該木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着する、
から成る工程を行って、、球を撞いた時のシャフトのしなりのコントロール性が良く、また、長時間使用しても内部構造が壊れることがなく、外部に異音を発することがない構造を有するビリヤードキューのシャフトを有するビリヤードキューを製造した。
本発明は、ビリヤードキューのシャフトに中空穴を設けそこに挿入する芯材として、強度及びしなりの効果が異なる二つの素材、即ち、剛性の差が大きい繊維であるグラスファイバーとカーボンファイバーに着目し、それらを用い、長手方向の剛性が部分的に異なる構造を持つ繊維強化複合材料製パイプを接着と成形を同時に行う一体成形で製造し、該パイプの中空の中に、発泡合成樹脂の緩衝材を充填した芯材を製造して、該シャフトの中空穴に挿入し、そして、この木材のシャフトと、木材のバットとを着脱自在具で止着したことにより、しなりのコントロール性が良く、長時間使用しても内部構造が壊れることがなく、外部に異音を発することがない構造を有するビリヤードキューを製造し、提供することが出来るのであるので、本発明の産業上の利用可能は大きい。
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂のうちから選ばれる1種である、請求項1又は2に記載のビリヤードキューの製造方法。
それぞれ巻き付けて積層になるように巻いたのが、先にカーボンファイバープリプレグシートをマンドレルに巻き付けて、その上にグラスファイバープリプレグシートを1枚~複数枚巻き付ける、又は、先にグラスファイバープリプレグシートをマンドレルに巻き付けて、その上にカーボンファイバープリプレグシートを巻き付け、更にその上にグラスファイバープリプレグシートを1枚~複数枚巻き付けることである、請求項1~3のいずれか一項に記載のビリヤードキューの製造方法。
本発明で用いる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、特にエポキシ樹脂が好ましい。加熱硬化の温度や時間は、樹脂の種類によって異なるが、例えば、エポキシ樹脂を用いる場合は、130~140度(℃)で約2時間前後加熱し硬化させるのが好ましい。