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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082679
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230607BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20230607BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20230607BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20230607BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230607BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20230607BHJP
   A21D 13/60 20170101ALN20230607BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A23D9/007
A21D2/14
A21D2/18
A21D13/00
A23L29/262
A21D13/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189273
(22)【出願日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2021195859
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼染 芳宗
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直人
(72)【発明者】
【氏名】小林 賢司
(72)【発明者】
【氏名】窪田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】野口 修
(72)【発明者】
【氏名】小笠 勇馬
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
4B041
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DL03
4B026DX04
4B032DB01
4B032DB24
4B032DK11
4B032DK16
4B032DK18
4B032DL20
4B041LC03
4B041LD01
4B041LH11
4B041LK09
4B041LK18
4B041LP01
4B041LP23
(57)【要約】
【課題】
ベーカリー食品に軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を付与すると共に、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる食感改良剤を提供することにある。
【解決手段】
下記の条件(a)~(c)の条件を満たす水中油型乳化物である。
(a)油脂を55質量%以下含有する。
(b)ヒドロキシプロピルメチルセルロースを1~17質量%含有する。
(c)ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量に対する水分の比が1.5~10.0である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件(a)~(c)の条件を満たす水中油型乳化物。
(a)油脂を55質量%以下含有する。
(b)ヒドロキシプロピルメチルセルロースを1~17質量%含有する。
(c)ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量に対する水分の比が1.5~10.0である。
【請求項2】
さらに、下記の条件(d)の条件を満たす請求項1に記載の水中油型乳化物。
(d)水相の糖度が45%以上である。
【請求項3】
さらに、下記の条件(e)の条件を満たす請求項1又は請求項2に記載の水中油型乳化物。
(e)水分活性が0.90以下である。
【請求項4】
前記水中油型乳化物が、ベーカリー食品用である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水中油型乳化物。
【請求項5】
前記水中油型乳化物が、ベーカリー食品の食感改良剤である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水中油型乳化物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水中油型乳化物を練り込んだベーカリー食品用生地。
【請求項7】
請求項6に記載のベーカリー食品用生地を焼成したベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品の食感改良剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
パン等のベーカリー食品においては、商品を特徴付ける要素の1つとして、食感が挙げられる。近年では、軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を併せ持つパンが、消費者に好まれている。パンにこれらの食感を付与するためには、食感改良剤が使用される場合が多い。パンにこれらの食感を付与するための食感改良剤としては、例えば、特許文献1~4等が提案されている。
【0003】
通常、パンは、生地が老化するため、経時的に食感が劣化しやすい。そのため、パンは、消費期限が比較的短い商品である。一方、近年はフードロスの問題から、食品の消費期限は、長くすることが求められている。したがって、パンにおいては、消費期限を長くするために、食感の経時的な劣化を抑制することが課題となっている。よって、パンの食感改良剤には、食感の経時的な劣化を抑制する機能も求められている。
【0004】
以上のような背景から、パン等のベーカリー食品に軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を付与すると共に、パン等のベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる食感改良剤の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-42532号公報
【特許文献2】特開2010-57411号公報
【特許文献3】特開2004-57185号公報
【特許文献4】特開2001-224299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ベーカリー食品に軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を付与すると共に、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる食感改良剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、水中油型乳化物中にヒドロキシプロピルメチルセルロースを特定量含有させて、水中油型乳化物の組成を特定の組成とすることにより、本課題が解決できることが見いだされた。これにより、本発明が完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、下記の条件(a)~(c)の条件を満たす水中油型乳化物である。
(a)油脂を55質量%以下含有する。
(b)ヒドロキシプロピルメチルセルロースを1~17質量%含有する。
(c)ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量に対する水分の比が1.5~10.0である。
本発明の第2の発明は、さらに、下記の条件(d)の条件を満たす第1の発明に記載の水中油型乳化物である。
(d)水相の糖度が45%以上である。
本発明の第3の発明は、さらに、下記の条件(e)の条件を満たす第1の発明又は第2の発明に記載の水中油型乳化物である。
(e)水分活性が0.90以下である。
本発明の第4の発明は、前記水中油型乳化物が、ベーカリー食品用である第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第5の発明は、前記水中油型乳化物が、ベーカリー食品の食感改良剤である第1の発明~第4の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物である。
本発明の第6の発明は、第1の発明~第5の発明のいずれか1つの発明に記載の水中油型乳化物を練り込んだベーカリー食品用生地である。
本発明の第7の発明は、第6の発明に記載のベーカリー食品用生地を焼成したベーカリー食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ベーカリー食品に軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を付与すると共に、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる食感改良剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、下記の条件(a)~(c)の条件を満たす水中油型乳化物である。
(a)油脂を55質量%以下含有する。
(b)ヒドロキシプロピルメチルセルロースを1~17質量%含有する。
(c)ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量に対する水分の比が1.5~10.0である。
【0011】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、油脂を55質量%以下含有し、好ましくは20~50質量%含有し、より好ましくは25~47質量%含有する(条件(a))。
なお、水中油型乳化物の油脂含有量は、常法で測定することができる。水中油型乳化物の油脂含有量は、例えば、水中油型乳化物から石油エーテル等の溶剤で油脂を抽出し、抽出された油脂の質量から測定することができる。例えば、水中油型乳化物10gから抽出された油脂の質量が4gである場合、水中油型乳化物の油脂含有量は40質量%になる。
【0012】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される油脂は、好ましくは液状油である。なお、本発明で液状油とは、20℃で液状の油脂のことである。
前記液状油の具体例は、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パーム油やこれらの油脂の加工油脂(エステル交換油、分別油、硬化油(水素添加油)等)等である。本実施の形態においては、これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して使用することができる。
前記液状油は、好ましくは大豆油、菜種油であり、より好ましくは菜種油である。
【0013】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを1~17質量%含有し、好ましくは2~15質量%含有し、より好ましくは3~12質量%含有する(条件(b))。以下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、HPMCと記載することがある。
前記HPMCは、HPMCを添加する他に、HPMCを含む製剤を添加することでも、水中油型乳化物に配合することもできる。
【0014】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量に対する水分の比が1.5~10.0であり、好ましくは1.8~6.5であり、より好ましくは2.0~4.0である。
なお、本発明で水中油型乳化物の水分とは、水中油型乳化物に含まれる水分の全てを合わせた全水分のことである。
また、水中油型乳化物の水分は、常法で測定することができる。水中油型乳化物の水分は、例えば、水中油型乳化物を105℃で5時間加熱して乾燥させ、その減量(乾燥によって減少した質量)から測定することができる。例えば、水中油型乳化物10gを105℃で5時間加熱して乾燥させた時の減量が2gである場合、水中油型乳化物の水分は20質量%になる。
【0015】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物が、条件(a)~(c)を満たすと、水中油型乳化物は、ベーカリー食品に軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を付与すると共に、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる食感改良剤として使用することができる。
【0016】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、水相の糖度が好ましくは45%以上であり、より好ましくは50~80%であり、さらに好ましくは53~75%であり、最も好ましくは55~73%である(条件(d))。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の水相の糖度が、前記範囲であると、水中油型乳化物は、カビ等の菌類がより発生し難くなり、水中油型乳化物の使用期限がより長くなる。
なお、本発明での糖度とは、糖質の含有割合のことをいう。
【0017】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、水分活性が好ましくは0.90以下であり、より好ましくは0.30~0.90であり、さらに好ましくは0.40~0.88であり、最も好ましくは0.60~0.81である(条件(e))。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の水分活性が、前記範囲であると、水中油型乳化物は、カビ等の菌類がより発生し難くなり、水中油型乳化物の使用期限がより長くなる。
【0018】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、水分が好ましくは5~35質量%であり、より好ましくは7~30質量%であり、さらに好ましくは10~28質量%であり、最も好ましくは12~26質量%である。水中油型乳化物中の水分は、水中油型乳化物に水や液糖(還元水飴等)等を配合することで、調整することができる。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の水分が、前記範囲であると、水中油型乳化物は、カビ等の菌類がより発生し難くなり、水中油型乳化物の使用期限がより長くなる。
【0019】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、糖質の固形分を好ましくは20~65質量%含有し、より好ましくは25~60質量%含有し、さらに好ましくは28~50質量%含有し、最も好ましくは30~45質量%含有する。水中油型乳化物中の糖質の固形分の含有量は、水中油型乳化物に糖質を配合することで、調整することができる。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の糖質の固形分の含有量が、前記範囲であると、水中油型乳化物は、カビ等の菌類がより発生し難くなり、水中油型乳化物の使用期限がより長くなる。
なお、本発明で糖質の固形分は、糖質から水分を除いたもののことである。また、本発明で糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。また、本発明で糖質は、糖質そのものであり、その他の原材料(例えば、牛乳、粉乳等の乳製品等)に含まれる糖質は含めない。糖質の具体例は、糖類(単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖等))、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される糖質は、好ましくは糖アルコールであり、より好ましくは還元水飴、ソルビトールである。
【0020】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量に対する油脂含有量の比が1.2~25.0であり、好ましくは1.5~20.0であり、より好ましくは1.8~15.0であり、最も好ましくは2.0~10.0である。
【0021】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくは酵素を含有する。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造に使用される酵素は、好ましくはαアミラーゼ、マルトジェニックαアミラーゼ、キシラナーゼであり、より好ましくはαアミラーゼである。
本発明の実施の形態の水中油型乳化物に配合される酵素がαアミラーゼである場合、水中油型乳化物100g中のαアミラーゼの酵素活性が好ましくは0.001~4単位、より好ましくは0.005~1単位、さらに好ましくは0.01~0.5単位、最も好ましくは0.01~0.1単位となるように、αアミラーゼが配合される。
前記酵素は、酵素を添加する他に、酵素を含む製剤を添加することでも、水中油型乳化物に配合することもできる。
【0022】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物には、その他にも、通常、水中油型乳化物の製造に使用される原材料を配合することができる。水中油型乳化物の製造に使用されるその他の原材料の具体例は、卵白、卵黄、酵素処理卵黄等の卵又は卵加工品、乳蛋白、乳ペプチド等の乳成分、乳化剤、増粘剤、加工澱粉等が挙げられる。
【0023】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物の製造方法は、特に制限されない。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、従来公知の食品として使用される水中油型乳化物の製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、例えば、水、液糖(還元水飴等)等に水性原料を分散及び/又は溶解させた水相に、油脂等にHPMCを分散及び/又は溶解させた油相を加え、ホモミキサー等を用いて水中油型に乳化させた(乳化工程)後、70~100℃に加熱保持した(加熱工程)後、冷却する(冷却工程)ことにより製造することができる。
【0024】
本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、ベーカリー食品に軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を付与すると共に、ベーカリー食品の経時的な食感の劣化を抑制することができる。そのため、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくはベーカリー食品用として使用され、より好ましくはベーカリー食品の練り込み用として使用される。また、本発明の実施の形態の水中油型乳化物は、好ましくはベーカリー食品の食感改良剤として使用される。
【0025】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、本発明の実施の形態の水中油型乳化物が配合されている。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、好ましくは本発明の実施の形態の水中油型乳化物が練り込まれている。
なお、本発明でベーカリー食品用生地は、穀粉、油脂組成物、砂糖、乳製品、卵、食塩、水等の原料を捏ね上げることで得られる焼成前の生地のことである。
【0026】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、本発明の実施の形態の水中油型乳化物が好ましくは1~20質量部配合され、より好ましくは2~15質量部配合され、さらに好ましくは3~10質量部配合される。
なお、本発明で穀粉とは、穀物を挽いて粉状にしたもののことである。穀粉の具体例は、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される穀粉は、好ましくは小麦粉である。
【0027】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、水が好ましくは10~80質量部配合され、より好ましくは30~75質量部配合され、さらに好ましくは40~70質量部配合される。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、より加水することができる。
なお、本発明でベーカリー食品用生地に配合される水は、水そのものであり、その他の原材料(例えば、全卵、牛乳等)に含まれる水は含めない。
【0028】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、油脂組成物が好ましくは3~50質量部配合され、より好ましくは5~30質量部配合され、さらに好ましくは10~20質量部配合される。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される油脂組成物は、好ましくはマーガリン、ファットスプレッド、バター、ショートニング、起泡性油脂である。なお、マーガリン、ファットスプレッド及びバターは油中水型乳化物であり、ショートニングは水相を含まない油脂組成物である。
【0029】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、卵類が好ましくは0~50質量部配合され、より好ましくは2~30質量部配合され、さらに好ましくは5~20質量部配合される。
なお、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造に使用される卵類は、全卵、液卵、卵黄、卵白やこれらの凍結品等であり、好ましくは全卵である。
【0030】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、ベーカリー食品用生地に配合される穀粉100質量部に対して、糖質が好ましくは0~50質量部配合され、より好ましくは2~30質量部配合され、さらに好ましくは5~20質量部配合される。
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地に配合される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖、マルトースである。
【0031】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地には、本発明の実施の形態の水中油型乳化物、穀粉、水、油脂組成物、卵類、糖質以外の原料として、通常、ベーカリー食品用生地に配合される原料(活性グルテン、セルロース粉末等の粉類、イースト、イーストフード、酵素、食塩、脱脂粉乳、牛乳等の乳製品、ベーキングパウダー等)を、通常量配合することができる。
【0032】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、好ましくはパン用生地である。
【0033】
本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知のベーカリー食品用生地の製造条件及び製造方法を適用できる。本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地は、例えば、直捏法(ストレート法)、中種法、発酵種法、液種法、オールインミックス法等で製造することができる。また、直捏法の場合、ミキシング、一次発酵、分割、ベンチタイム、成形、二次発酵の工程を経て、ベーカリー食品用生地を製造することができる。また、中種法の場合、中種生地のミキシング、中種生地の一次発酵、本捏生地のミキシング、本捏生地の一次発酵、分割、ベンチタイム、成形、二次発酵の工程を経て、ベーカリー食品用生地を製造することができる。
【0034】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、本発明の実施の形態のベーカリー食品用生地を焼成する又はフライする(油脂で揚げる)ことで得られる。
【0035】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン、タルト等の焼き菓子、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、チーズケーキ、カステラ等のバターケーキ、ショートケーキ、ロールケーキ、トルテ、デコレーションケーキ、シフォンケーキ等のスポンジケーキ、ガトーショコラ、シュー菓子、発酵菓子、パイ、ワッフル等の洋菓子、蒸しケーキ、蒸しパン、マーラーカオ等の蒸し菓子、ドーナツ、揚げパン、カレーパン等の揚げ菓子(油ちょう食品)、食パン、塩パン、コッペパン、バンズ、菓子パン、ロールパン、フランスパン、シュトーレン、パネトーネ、ブリオッシュ、マフィン、フォカッチャ、ベーグル、デニッシュ、クロワッサン等のパンである。
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、好ましくはパンである。
【0036】
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法(製造方法)は、特に制限されるものではなく、従来公知のベーカリー食品と同様の焼成方法(製造方法)により焼成することができる。焼成方法の具体例は、オーブン加熱、直焼き、高周波加熱(電子レンジ加熱)、蒸し焼き等である。
本発明の実施の形態のベーカリー食品の焼成方法は、好ましくはオーブン加熱、蒸し焼きである。オーブン加熱は、加熱温度が好ましくは160~230℃であり、加熱時間が好ましくは5~70分間である。また、蒸し焼きは、加熱温度が好ましくは60~200℃であり、加熱時間が好ましくは2~40分間である。
【0037】
本発明の実施の形態のベーカリー食品のフライ方法(製造方法)は、特に制限されるものではなく、従来公知のベーカリー食品と同様のフライ方法(製造方法)により油脂で揚げることができる。
本発明の実施の形態のベーカリー食品のフライ方法は、好ましくは加熱温度が120~250℃であり、加熱時間が好ましくは1~30分間である。
【0038】
本発明の実施の形態のベーカリー食品は、軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を有し、経時的な食感の劣化も小さいベーカリー食品である。
【実施例0039】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0040】
水分は、試料を105℃で5時間加熱して乾燥させ、その減量から測定した。
油脂含有量は、試料から石油エーテルで油脂を抽出し、抽出された油脂の質量から測定した。
【0041】
HPMC製剤、酵素製剤は、以下に示したものを使用した。
HPMC製剤1(HPMC含有量:64.5質量%、酵素含有量:0質量%)
HPMC製剤2(HPMC含有量:51.6質量%、酵素含有量:微量)
酵素製剤(酵素:αアミラーゼ、酵素活性:880単位/酵素製剤g)
【0042】
〔水分活性の測定〕
25℃の試料について、LabMaster-aw(Novasina社)を用いて、水分活性を測定した。
【0043】
〔食感改良剤の製造1〕
表1~2の配合に従って、下記工程に従って、乳化させることで、水中油型乳化物である実施例1~8の食感改良剤を製造した。なお、酵素製剤を配合しない実施例1~3は、下記工程6を行わずに製造した。また、表での配合及び含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし。)。

工程1(油相調製工程):タンク1に菜種油、HPMC製剤1を入れて、混合撹拌する。
工程2(水相調製工程):タンク2に酵素製剤以外の残りの原材料を入れて、混合撹拌する。
工程3(乳化工程):タンク1の混合物を、タンク2に加え、ホモミキサーで混合撹拌して、乳化させる。
工程4(加熱工程):タンク2を80℃以上で30分間加熱保持する。
工程5(冷却工程):タンク2を50℃まで冷却する。
工程6(最終調製工程):酵素製剤をタンク2に加えて、混合撹拌する。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
〔食感改良剤の製造2〕
表3の配合に従って、下記工程に従って、乳化させることで、水中油型乳化物である実施例6~8の食感改良剤を製造した。なお、実施例7は、下記工程3を行わずに製造した。また、表での配合及び含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし。)。

工程1(油相調製工程):タンク1に菜種油、HPMC製剤2を入れて、混合撹拌する。
工程2(水相調製工程):タンク2に残りの原材料を入れて、混合撹拌する。
工程3(加熱工程):タンク1及びタンク2を80℃以上で30分間加熱保持する。
工程4(冷却工程):タンク1及びタンク2を40℃まで冷却する。
工程5(乳化工程):タンク1の混合物を、タンク2に加え、ホモミキサーで混合撹拌して、乳化させる。
【0047】
【表3】
【0048】
〔ロールパンの製造及び評価〕
表4~7の配合で、直捏法により、下記工程1~6に従って、各食感改良剤を練り込み、ロールパン用生地を製造した。全ての実施例のロールパン用生地は、生地調製時の作業性が良好であった。
得られたロールパン用生地を下記工程7の条件で焼成することでロールパンを製造した。得られたロールパンの食感及び硬さを、以下の方法に従って評価した。結果を表4~7に示した。

工程1(ミキシング工程):全ての原料を、混合する。(捏上温度28℃)
工程2(一次発酵工程):生地を、温度28℃、湿度80%の条件下、60分間発酵させる。
工程3(分割工程):発酵させた生地を、50gずつに分割する。
工程4(ベンチタイム工程):分割した生地を、温度28℃、湿度80%の条件下、20分間休ませる。
工程5(成形工程):生地を、ロールパンの形状に成形する。
工程6(二次発酵工程):成形した生地を、温度38℃、湿度80%の条件下、60分間発酵させる。
工程7(焼成工程):発酵させた生地を、上火温度210℃、下火温度200℃、条件下、オーブンで9分間焼成する。
【0049】
〔食感の評価〕
焼成後、室温で1日及び3日保存した後のロールパンを、5名の専門パネルが食し、1~4点の4段階で採点した。採点は、点数が高いほど、軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を併せ持ち、総合的に良好な食感を有するとした。各パネルの採点結果の平均点を算出し、以下の基準に従って評価した。評価結果は、◎又は○の場合、良好な食感を有すると判断した。なお、ロールパンの食感を評価した専門パネルは、食品の食感等の官能評価の訓練を定期的に受けており、食品の食感等の官能評価結果に個人差が少ない。
<平均点>
◎:3.5点以上
○:2.5点以上3.5点未満
△:1.5点以上2.5点未満
×:1.5点未満
【0050】
〔硬さの評価〕
レオメーター(株式会社山電製、CREEP METER RE2-33005B)を使用して、下記1)~2)の手順に従って、焼成後、室温で1日及び3日保存した後のロールパンの硬さを測定した。レオメーターでの測定には、直径50mm、高さ8mmの円柱状のプランジャー(樹脂製)を使用した。なお、レオメーターでの硬さは、50%変形時(プランジャーがロールパンを15mm押した時)の最大荷重とした。レオメーターでの測定値は、測定値が小さいほど、ロールパンが軟らかいことを示している。
1)ロールパンのクラム部分を3cm角の大きさに切り出す。
2)1)で作製した試料を、レオメーターを使用して、測定速度60mm/分の条件にて、硬さを測定する。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
表4~7から分かるように、実施例の食感改良剤を使用して製造した実施例のロールパンは、軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を併せて持っており、食感が総合的に良好で、経時的な食感の劣化も小さかった。
一方、表4から分かるように、食感改良剤を使用せずに製造した比較例のロールパンは、経時的にパンの老化が進み、食感が悪くなる傾向だった。
【0056】
〔ドーナツの製造及び評価〕
表8の配合で、ストレート法により、下記工程1~6に従って、実施例2の食感改良剤を練り込み、ドーナツ用生地を製造した。全ての実施例のドーナツ用生地は、生地調製時の作業性が良好であった。
得られたドーナツ用生地を下記工程7の条件にてフライすることでドーナツを製造した。フライ後、室温で1日及び3日保存した後のドーナツの食感を、ロールパンの食感の評価と同様の方法で評価した。結果を表8に示した。

工程1(ミキシング工程):全ての原料を、混合する。(捏上温度28℃)
工程2(一次発酵工程):生地を、温度28℃、湿度80%の条件下、60分間発酵させる。
工程3(分割工程):発酵させた生地を、50gずつに分割する。
工程4(ベンチタイム工程):分割した生地を、温度28℃、湿度80%の条件下、20分間休ませる。
工程5(成形工程):生地を、バンズの形状に成形する。
工程6(二次発酵工程):成形した生地を、温度32℃、湿度75%の条件下、50分間発酵させる。
工程7(フライ工程):発酵させた生地を、加熱温度180℃で3分間フライする。
【0057】
【表8】
【0058】
表8から分かるように、実施例2の食感改良剤を使用して製造した実施例のドーナツは、軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を併せて持っており、食感が総合的に良好で、経時的な食感の劣化も小さかった。
一方、表8から分かるように、食感改良剤を使用せずに製造した比較例のドーナツは、経時的にパンの老化が進み、食感が悪くなる傾向だった。
【0059】
〔蒸しパンの製造及び評価〕
表9の配合で、オールインミックス法により、下記工程1~4に従って、実施例2の食感改良剤を練り込み、蒸しパン用生地を製造した。全ての実施例の蒸しパン用生地は、生地調製時の作業性が良好であった。
得られた蒸しパン用生地を下記工程5の条件にて焼成(蒸し焼き)することで蒸しパンを製造した。焼成後、室温で1日及び3日保存した後の蒸しパンの食感を、ロールパンの食感の評価と同様の方法で評価した。結果を表9に示した。

工程1(ミキシング工程1):起泡性油脂、ショートニング、実施例2の食感改良剤、上白糖、水飴(マルトースシロップ)を混合する。
工程2(ミキシング工程2):全卵、水を加え混合する。
工程3(ミキシング工程3):ふるった薄力粉、ベーキングパウダーを加えて混合する。
工程4(成形工程):直径80mm丸形トレーに生地を50g充填する。
工程5(焼成工程):トレーに充填した生地を、加熱温度97℃で15分間蒸し焼きする。
【0060】
【表9】
【0061】
表9から分かるように、実施例2の食感改良剤を使用して製造した実施例の蒸しパンは、軟らかい食感、しっとりした食感及びふんわりした食感を併せて持っており、食感が総合的に良好で、経時的な食感の劣化も小さかった。
一方、表9から分かるように、食感改良剤を使用せずに製造した比較例の蒸しパンは、経時的にパンの老化が進み、食感が悪くなる傾向だった。