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特開2023-8362燃料電池用セパレータ部材及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008362
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0267 20160101AFI20230112BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20230112BHJP
   H01M 8/0286 20160101ALI20230112BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20230112BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230112BHJP
【FI】
H01M8/0267
H01M8/0228
H01M8/0286
H01M8/0284
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111880
(22)【出願日】2021-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】吉村 光生
(72)【発明者】
【氏名】吉本 規寿
(72)【発明者】
【氏名】大谷 聡司
(72)【発明者】
【氏名】武田 憲有
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA11
5H126AA12
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD04
5H126EE11
5H126FF07
5H126GG19
5H126HH01
5H126HH02
(57)【要約】
【課題】本開示は、ゴム系接着剤とセパレータ部材の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる燃料電池用セパレータ部材を提供する。
【解決手段】本開示における燃料電池用セパレータ部材の製造方法は、第一のセパレータに、冷却媒体経路を囲む凹部を形成し、凹部の内側に設けられ冷却面から突出し、冷却媒体経路を囲む2つの接着壁を形成する凹部形成工程と、2つの接着壁の間に冷却面から突出する高さまでゴム系接着剤 を注入する接着剤注入工程と、第二のセパレータとゴム系接着剤とが接し、かつ第一のセパレータと第二のセパレータが当接しない距離まで押し当てた状態で所定の温度まで昇温し、ゴム系接着剤を加熱硬化させる接着工程と、接着壁を第二のセパレータで押圧し接着壁を変形または破壊し冷却面を介して第一のセパレータと第二のセパレータを当接させる当接工程とを備える。
【選択図】図8D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体を流通させる冷却媒体経路が冷却面に設けられた第一のセパレータと、第二のセパレータを接着して構成する燃料電池用セパレータ部材の製造方法であって、
前記第一のセパレータに、前記冷却媒体経路を囲む凹部を形成し、
前記第一のセパレータの前記凹部の内側、または前記第二のセパレータの前記第一のセパレータと当接時に前記第一のセパレータの前記凹部と対向する位置に、前記冷却面から突出し、前記冷却媒体経路を囲む2つの接着壁を形成する凹部形成工程と、
前記2つの接着壁の間に前記冷却面から突出する高さまでゴム系接着剤を注入する接着剤注入工程と、
前記第一のセパレータ及び前記第二のセパレータと前記ゴム系接着剤とが接し、かつ前記第一のセパレータと前記第二のセパレータが当接しない距離まで押し当てた状態で所定の温度まで昇温し、前記ゴム系接着剤を加熱硬化させる接着工程と、
前記接着壁を前記第一のセパレータまたは前記第二のセパレータで押圧し前記接着壁を変形または破壊し前記冷却面を介して前記第一のセパレータと前記第二のセパレータを当接させる当接工程とを備える、
燃料電池用セパレータ部材の製造方法。
【請求項2】
前記凹部形成工程において、更に前記第二のセパレータの、前記第一のセパレータの前記凹部と対向する位置に、前記当接工程において前記冷却媒体経路を囲む凹部を形成し、前記接着壁を、前記第一のセパレータの前記凹部の底面から前記冷却面までの高さと前記第二のセパレータの前記凹部の底面から前記冷却面までの高さとの合計値以上の高さとなるように形成し、
前記接着剤注入工程において、前記ゴム系接着剤を、前記第一のセパレータの前記凹部の底面から前記冷却面までの高さと前記第二のセパレータの前記凹部の底面から前記冷却面までの高さとの合計値以上の高さとなるように注入し、
前記当接工程において前記接着壁は前記第二のセパレータの前記凹部内で押圧される、
請求項1に記載の燃料電池用セパレータ部材の製造方法。
【請求項3】
前記接着壁は、前記冷却面に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に形態が変化することを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータ部材の製造方法。
【請求項4】
前記接着壁は、前記冷却面に対して垂直方向に所定の力が加わると塑性変形することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータ部材の製造方法。
【請求項5】
前記接着壁は、前記冷却面に対して垂直方向に所定の力が加わると弾性変形することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータ部材の製造方法。
【請求項6】
第一の冷却面を備えた第一のセパレータと、
第二の冷却面を備え、前記第一のセパレータの前記第一の冷却面と当接する第二のセパレータと、
前記第一のセパレータの第一の冷却面または前記第二のセパレータの第二の冷却面の少なくともどちらか一方に設けられ、冷却媒体が流通する冷却媒体経路と、
前記第一のセパレータの前記第一の冷却面に設けられ、前記第一のセパレータと前記第二のセパレータとを当接した時に前記冷却媒体経路を囲む凹部と、
前記凹部の底面または前記底面と対向する前記第二のセパレータの面である対向部に備えられ、高さが前記凹部によって形成される空間の高さ以下である、前記冷却媒体経路を囲む2つの接着壁と、
前記2つの接着壁の間に設けられ、前記第一のセパレータと前記第二のセパレータとに接着するゴム系接着剤と、を備える燃料電池用セパレータ部材。
【請求項7】
前記ゴム系接着剤は、熱硬化性エラストマーを主材とすることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項8】
前記ゴム系接着剤は、フッ素系ゴムを主材とすることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項9】
前記接着壁は、前記第一のセパレータまたは第二のセパレータと同じ材料である、請求項6に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【請求項10】
前記接着壁は、硬化後の前記ゴム系接着剤と同じ材料である、請求項6に記載の燃料電池用セパレータ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用セパレータ部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料電池用構成部材間のシール構造を開示する。シール対象の一方の構成部材(以下セパレータ部材と記載)は、ガスケット装填用第一溝と、該第一溝の両側に沿って形成された第二溝と、低反力のガスケットと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4896508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ゴム系接着剤とセパレータ部材の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる燃料電池用セパレータ部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における燃料電池用セパレータ部材の製造方法は、冷却媒体を流通させる冷却媒体経路が冷却面に設けられた第一のセパレータと、第二のセパレータを接着して構成する燃料電池用セパレータ部材の製造方法であって、凹部形成工程と、接着剤注入工程と、接着工程と、当接工程とを備える。
【0006】
凹部形成工程とは、第一のセパレータに、冷却媒体経路を囲む凹部を形成する工程である。
【0007】
接着剤注入工程とは、第一のセパレータの凹部の内側、または第二のセパレータの第一のセパレータと当接時に第一のセパレータの凹部と対向する位置に設けられ冷却面から突出し、冷却媒体経路を囲む2つの接着壁を形成し、2つの接着壁の間に冷却面から突出する高さまでゴム系接着剤を注入する工程である。
【0008】
接着工程とは、第一のセパレータ及び第二のセパレータとゴム系接着剤とが接し、かつ第一のセパレータと第二のセパレータが当接しない距離まで押し当てた状態で所定の温度まで昇温し、ゴム系接着剤を加熱硬化させる工程である。
【0009】
当接工程とは、接着壁を第一のセパレータまたは第二のセパレータで押圧し接着壁を変形または破壊し冷却面を介して第一のセパレータと第二のセパレータを当接させる工程である。
【発明の効果】
【0010】
本開示における燃料電池用セパレータ部材の製造方法は、第一のセパレータと第二のセパレータの冷却面同士が当接しない状態で、ゴム系接着剤が第一のセパレータと第二のセパレータとが確実に接触した状態で加熱硬化され接着される。また、第一のセパレータと第二のセパレータの冷却面同士を当接させようとすると、接着壁が変形または破壊され、ゴム系接着剤が圧縮され、反力が発生する。
【0011】
これにより、セパレータと接着剤との界面にある微小な空間がつぶされ、ゴム系接着剤とセパレータ部材の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1における燃料電池スタックの構成を示す外観斜視図
図2】実施の形態1における燃料電池スタックを図1のA-A線で切断した断面模式図
図3】実施の形態1における燃料電池用セパレータ部材と組み合わせる電極-膜-枠接合体を図1のA-A線で切断した断面模式図
図4】実施の形態1におけるアノードセパレータを図1のA-A線で切断した断面模式図
図5】実施の形態1におけるアノードセパレータを冷却媒体経路側から見た平面模式図
図6】実施の形態1におけるカソードセパレータを図1のA-A線で切断した断面模式図
図7】実施の形態1におけるカソードセパレータを冷却媒体経路側から見た平面模式図
図8A】実施の形態1における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の凹部形成工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図8B】実施の形態1における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の接着剤注入工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図8C】実施の形態1における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図8D】実施の形態1における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の当接工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図9A】実施の形態1における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図9B】実施の形態1における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図9C】実施の形態1における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図10】実施の形態2におけるカソードセパレータを冷却媒体経路から見た平面模式図
図11A】実施の形態2における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の凹部形成工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図11B】実施の形態2における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の接着剤注入工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図11C】実施の形態2における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図11D】実施の形態2における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の当接工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図12A】実施の形態2における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図12B】実施の形態2における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図12C】実施の形態2における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図13】実施の形態3におけるアノードセパレータを冷却媒体経路側から見た平面模式図
図14A】実施の形態3における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の凹部形成工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図14B】実施の形態3における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の接着剤注入工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図14C】実施の形態3における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図14D】実施の形態3における燃料電池用セパレータ部材の製造方法の当接工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図15A】実施の形態3における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図15B】実施の形態3における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
図15C】実施の形態3における、別パターンの燃料電池用セパレータ部材の接着工程後を示す図1のA-A線で切断した断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、一対のセパレータの冷却面同士を当接させて冷却面同士の間に冷却媒体を流通させる冷却媒体経路を構成する燃料電池用セパレータ部材であって、一対のセパレータの冷却面同士を当接させ冷却媒体経路の外周側に設けた凹部にゴム系接着剤を充填して硬化させ冷却媒体をシールする技術があった。
【0014】
この技術は、一方のセパレータの凹部に低反力のゴム系接着剤を低粘度の未硬化の状態で一方のセパレータ部材の表面位置を超える盛り上がり状態で充填し解放状態で硬化させた後、他方のセパレータ部材をこの一方のセパレータ部材に合体させて締結一体とし、この締結時にガスケットの盛り上がり部分が圧縮して、一対のセパレータ冷却面同士を面接状態にして燃料電池用セパレータ部材間をシールするものであった。
【0015】
しかしながら、燃料電池の発電を阻害する有機物などの溶出成分が少なく、長期耐久性に優れたフッ素ゴムを主成分としたゴム系接着剤を適用しようとした場合、凹部に未硬化の状態で一方のセパレータ部材の表面位置を超える盛り上がり状態で充填し、解放状態で硬化(架橋)させるために、温度を上昇させると、ゴム系接着剤の粘度は低下する。
【0016】
このため、ゴム系接着剤はセパレータ部の表面位置を超える盛り上がり状態を維持できず、未硬化の状態のゴム系接着剤は凹部の外に流出する。その後、温度を上昇させた状態に維持することで、ゴム系接着剤に含まれる溶剤が揮散し、凹部内のゴム系接着剤の体積は減少する。
【0017】
この状態でゴム系接着を硬化させるとゴム系接着剤の高さが一方のセパレータ部材の表面位置より低くなり、一対のセパレータ部材の冷却面同士を面接状態にしてもゴム系接着剤とセパレータの間に隙間が生じ、シールできないという課題があった。
【0018】
そうした状況下において、発明者らは、ゴム系接着剤は、ゴム弾性を有するので、燃料電池の起動停止時の温度変化による寸法変化に対して追従するといった優れた機能があることと、圧縮すると反力が発生し、この反力を利用するとゴム系接着剤とセパレータとの間の界面に生じる隙間をふさぐこと、さらにセパレータからゴム系接着剤が剥離しようとする力が加わらないことに着想した。
【0019】
そして、発明者らは、ゴム系接着剤に圧縮力を生じさせるためには、冷却媒体経路の外周側に設けた凹部に充填したゴム系接着剤を、セパレータ部材の表面位置を超える盛り上がり状態で硬化させる手法が有効であることを発見し、本開示の主題を構成するに至った。
【0020】
そこで、本開示は、一対のセパレータの冷却媒体経路の外周側に設けた凹部に、冷却面から突出し、冷却媒体経路を囲む2つの接着壁を設け、セパレータの冷却面同士を当接させる際に、接着壁を変形または破壊させる燃料電池用セパレータ部材の製造方法と、その製造方法により製造される、ゴム系接着剤とセパレータ部材の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる燃料電池用セパレータ部材とを提供する。
【0021】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0022】
なお、添付図面及び以下の説明は、当事者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
(実施の形態1)
以下、図1~9Cを用いて、実施の形態1を説明する。
【0023】
[1-1.構成]
図1において、燃料電池スタック90は、セルを積層したスタック部91を集電板40、41で挟み、さらに、その外側にエンドプレート70、77を配置し、ボルト80でエンドプレート間を締結し圧力を加えている。
【0024】
エンドプレート70の上面からは、燃料ガスとして水素を導入および排出するための、燃料ガス導入口71、燃料ガス排出口72、酸化剤ガスとして空気を導入および排出するための、酸化剤ガス導入口73、酸化剤ガス排出口74、冷却媒体としてイオン交換水を導入および排出する為の冷却媒体導入口75、冷却媒体排出口76を備える。
【0025】
図2において、スタック部91は、複数のセル100を積み重ねて形成され、その両端に集電板40,41、その外側に絶縁板42、43、さらに、その外側にエンドプレート70、77が配置されている。セル100は、アノードセパレータ1とカソードセパレータ2とで構成される燃料電池用セパレータ部材10を用いて、電極-膜-枠接合体18を挟持することで構成される。
【0026】
アノードセパレータ1、カソードセパレータ2は、適度な機械的強度と導電性を有する。具体的には、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混練物を加熱成型して形成された部材を用いる。
【0027】
図3において、電極-膜-枠接合体18は、電解質膜-電極接合体35と、ガス拡散層34と、枠体30とで、構成される。
【0028】
電解質膜-電極接合体35は、電解質膜31と、電解質膜31の一方の主面に配置されたアノード32と、電解質膜31の他方の主面に配置されたカソード33と、を備える。
【0029】
ガス拡散層34は、電解質膜-電極接合体35のアノード32とカソード33とに積層配置される。
【0030】
ゴム系接着剤9は、耐久性に優れ、機械的強度と柔軟性を有する合成樹脂である。具体的には、フッ素ゴムを主材としたものを用いる。
【0031】
電解質膜31は、水素イオン伝導性を有する高分子電解質膜であって、具体的には、パーフルオロカーボンスルホン酸からなるフッ素系高分子電解質膜(米国DuPont社製のNafion(登録商標))を用いる。
【0032】
また、アノード32は、水素の酸化反応に対する触媒を含む層である。また、カソード33は、酸素の還元反応に対する触媒を含む層である。具体的には、白金系金属触媒を坦持したカーボン粉末とプロトン導電性を有する高分子材料を主成分とした多孔質部材を用いる。
【0033】
ガス拡散層34は、導電性と撥水性を有する多孔質の部材である。本実施の形態では、カーボンペーパーを用いて作製された多孔質構造を有する導電性基材に、フッ素樹脂を代表とする撥水性高分子樹脂である、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を分散させて構成された部材を用いる。
【0034】
枠体30は、電解質膜-電極接合体35の外周部分で露出する電解質膜31を覆うように電解質膜-電極接合体35を支持する。枠体30は、適度な機械的強度と耐熱性、優れた耐薬品性を有する樹脂部材である。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルで形成された部材を用いる。
【0035】
図4において、アノードセパレータ1は、図3に示す電極-膜-枠接合体18のアノード32側のガス拡散層34と対向する一方の主面に、燃料ガスとしての水素が流れる燃料ガス経路3が形成され、他方の主面(冷却面6)に、冷却媒体としてのイオン交換水が流れる冷却媒体経路5と、冷却媒体経路5の外周部に所定の幅と深さを有する凹部7が形成されている。
【0036】
冷却面6は、冷却媒体が外部に漏れないようにするためのゴム系接着剤を配置する面である。
【0037】
凹部7の内側には、冷却面6から突出し、冷却媒体経路5を囲む2つの接着壁8が形成される。これにより接着壁8の間に冷却面6よりも高い位置までゴム系接着剤9が注入される。
【0038】
接着壁8の高さは、ゴム系接着剤9が硬化した後も冷却面6よりも高い位置を保つことができる高さに設定される。また、接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に変形する形状および材質、またはどちらか1方の特徴を持つように構成されている。
【0039】
具体的には、凹部7の幅を5mm、深さを0.4mmとし、2つの接着壁8は、アノードセパレータ1と同じ材質とし、幅0.3mm、高さ0.6mmの略矩形断面とし、凹部7の両側面からそれぞれ0.7mm離れた位置に設置し、2つの接着壁8の間は3mmとした。
【0040】
図5において、アノードセパレータ1は、さらに酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16を備える。凹部7は、冷却媒体の外部への漏れ防止以外に、燃料ガスおよび酸化剤ガスの外部への漏れ防止、冷却媒体と燃料ガスとの間および冷却媒体と酸化剤ガスとの間を遮断するように配置されている。
【0041】
図6において、カソードセパレータ2は、図3に示す電極-膜-枠接合体18のカソード33側のガス拡散層34と対向する一方の主面に、酸化剤ガスとしての空気が流れる酸化剤ガス経路4が形成され、他方の主面(冷却面6)は平面であり、アノードセパレータ1と当接時にアノードセパレータ1の凹部と対向する部分である対向部17を備える。
【0042】
図7において、カソードセパレータ2は、酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16を有しており、図5のアノードセパレータ1の酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16の位置に対応している。すなわち、後述の接着工程で図5のアノードセパレータ1と図7のカソードセパレータ2は図中の同じ番号同士が向かい合うように重ね合わされる。
【0043】
図8Aは、凹部形成工程後を示す図であり、アノードセパレータ1が凹部7を上にして所定の位置に配置され、接着壁8を形成した状態である。
【0044】
図8Bは、接着剤注入工程後を示す図であり、アノードセパレータ1の2つの接着壁8の間にゴム系接着剤9が接着壁8の高さまで注入された状態である。
【0045】
図8Cは、接着工程後を示す図であり、アノードセパレータ1の接着壁8とゴム系接着剤9がカソードセパレータ2の冷却面6の対向部17とが接触し、アノードセパレータ1の冷却面6とカソードセパレータ2の冷却面6との間には隙間がある状態である。具体的には、0.2mmの隙間がある。
【0046】
図8Dは、当接工程後を示す図であり、燃料電池用セパレータ部材10を示す。
【0047】
燃料電池用セパレータ部材10は、アノードセパレータ1とカソードセパレータ2の冷却面6同士が当接された状態で、接着壁8は破壊されアノードセパレータ1の凹部7とカソードセパレータ2の対向部17で形成される空間内に収まり、ゴム系接着剤9は圧縮されている。
【0048】
[1-2.製造方法]
以上のように構成された燃料電池用セパレータ部材10の製造方法について、図8A~8Dに基づいて、以下に説明する。
【0049】
燃料電池用セパレータ部材10の製造方法は、凹部形成工程、接着剤注入工程、接着工程、当接工程のステップを備える。
【0050】
まず、図8Aに示す凹部形成工程では、アノードセパレータ1を準備し、凹部7を形成する冷却面6が重力方向に対して上を向いた状態で、固定治具(図示せず)に固定する。
【0051】
アノードセパレータ1を固定治具に位置決めする方法は、限定しないが、アノードセパレータ1の外形の2辺を規制する方法や、酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16のいずれかを通す例えばピンを用いて規制する方法などを用いてもよい。これにより、常にアノードセパレータ1を固定治具の同じ位置に固定することができる。
【0052】
続いて、成型加工または切削加工を用いてアノードセパレータ1の冷却面6に凹部7及び凹部に沿って冷却媒体経路5を囲むように接着壁8を形成する。
【0053】
次に、図8Bに示す接着剤注入工程では、低粘度で未硬化状態のゴム系接着剤9をロボット等に取り付けられたディスペンサー(図示せず)により、固定されたアノードセパレータ1の2つの接着壁8の間に注入する。この時、ゴム系接着剤9が表面張力で盛り上がっていても、接着壁8の外にあふれてもよい。これにより、2つの接着壁8の間に沿ってロボットを動かしながらディスペンサーを用いて接着壁8の高さまで注入される。
【0054】
次に、図8Cに示す接着工程では、カソードセパレータ2を準備し、ゴム系接着剤9が注入されたアノードセパレータ1の上に、カソードセパレータ2の冷却面6を重力方向に対して下向きにして対向部17をゴム系接着剤9と接触させ、かつアノードセパレータ1とカソードセパレータ2の冷却面6同士が当接しない距離まで押し当てた状態で、熱プレス装置(図示せず)にて所定の温度まで昇温し、加熱硬化させる。
【0055】
この時のアノードセパレータ1とカソードセパレータ2の冷却面6同士の距離は、0.2mmとした。加熱温度は、150℃~170℃の範囲で、30分維持した。
【0056】
これにより、ゴム系接着剤9はアノードセパレータ1の凹部7とカソードセパレータ2の対向部17とで構成された閉空間で硬化接着される。このとき硬化したゴム系接着剤9とカソードセパレータ2の対向部17との間には、ゴム系接着剤9の硬化時特有の体積収縮によりわずかな隙間が生じたが、ゴム系接着剤9のアノードセパレータ1の凹部7の底面からの高さは凹部7の全周にわたりアノードセパレータ1の凹部7の底面から冷却面6までの高さよりも高くなった。これにより、体積収縮によるわずかな隙間はできるものの、アノードセパレータ1とカソードセパレータ2との間はゴム系接着剤9により接着される。
【0057】
次に、図8Dに示す当接工程では、接着壁8をカソードセパレータ2の対向部17で押圧し、接着壁8を変形または破壊し、冷却面6を介してアノードセパレータ1とカソードセパレータ2を当接させる。これにより、ゴム系接着剤9が圧縮され、反力が発生する。また、接着壁8がアノードセパレータ1とカソードセパレータ2との間で突っ張らないので局所応力が発生しない。
【0058】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、燃料電池用セパレータ部材10の製造方法は、アノードセパレータ1とカソードセパレータ2の冷却面6同士が当接しない状態で、ゴム系接着剤9がアノードセパレータ1とカソードセパレータ2とが確実に接触した状態で加熱硬化され接着される。また、アノードセパレータ1とカソードセパレータ2の冷却面6同士を当接させようとすると、接着壁8が変形または破壊され、ゴム系接着剤9が圧縮され、反力が発生する。
【0059】
これにより、カソードセパレータ2の対向部17とゴム系接着剤9との界面にある微小な空間がつぶされ、ゴム系接着剤9と燃料電池用セパレータ部材10の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる。
【0060】
本実施の形態において、アノードセパレータ1の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に形態が変化する形状のものを用いてもよい。
【0061】
これにより、接着壁8が、より小さな力で容易に形態が変化する。そのため、アノードセパレータ1および、カソードセパレータ2が、接着壁8を介して局所荷重により破損することがなく、ゴム系接着剤9を圧縮することができる。
【0062】
具体的な例として、本実施の形態では、接着壁8は、アノードセパレータ1と同じ材質で、幅0.3mm、高さ0.6mmの略矩形断面とする形状を用いた。これにより、ゴム系接着剤9を圧縮するとゴム系接着剤9の幅が広がるため、接着壁8にかかる応力の方向が限定され折れやすい。
【0063】
ただし、この値及び形状は一例であり、製造装置や接着壁8の材料等に応じて変更してもよい。
【0064】
また、本実施の形態において、アノードセパレータ1の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に塑性変形する材料のものを用いてもよい。
【0065】
これにより、接着壁8に力を加えても反力が発生しない。そのため、ゴム系接着剤9を圧縮する以外に余計な力を必要としない。
【0066】
具体的な例として、コーキング材はシリコーン系(オルガノポリシロキサン)、変成シリコーン系(シリル基を末端に持つポリエーテル)、ポリウレタン系等から選択でき、ここでは、変成シリコーン系コーキング材を用いた接着壁8を設けた。
【0067】
これにより、接着壁8は、ディスペンサーを用いて設置しても形状が維持され、ゴム系接着剤9を注入した程度では接着壁8が壊れることはない。また接着壁8に冷却面6に対して垂直方向に所定の力を加えると容易に変形するが、反力は発生しない。そのため、ゴム系接着剤9を圧縮する以外に余計な力を必要としない。
【0068】
また、本実施の形態において、アノードセパレータ1の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると弾性変形する材料のものを用いてもよい。
【0069】
これにより、接着壁8が凹部7内で弾性変形し、カソードセパレータ2の対向部17に密着する。そのため、注入したゴム系接着剤9が接着壁8の外にこぼれたりせず、確実にゴム系接着剤9とカソードセパレータ2とを接触させた状態で接着され、シールとしても機能するので燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0070】
具体的な例として、フッ素系ゴムが挙げられる。フッ素系ゴムにより耐薬品性や耐機械的特性の観点から耐久性が向上するので、燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0071】
また、圧縮して使用することでゴム系接着剤9が弾性変形し、反力が発生する。そのため、ゴム系接着剤9とアノードセパレータ1との間および、ゴム系接着剤9とカソードセパレータ2との間を引きはがそうとする力が加わらない。また、ゴム系接着剤9が圧縮されることで反力が発生し、カソードセパレータ2との間の隙間がより小さくなる。
【0072】
また、本実施の形態において、接着壁8にアノードセパレータ1と同じ材料を用いた場合、不純物溶出を抑制できるとともに、凹部形成工程の前段階である、アノードセパレータ1を製造する圧縮成形工程で接着壁8が形成できるという効果も得られる。
【0073】
そのため、不純物による燃料電池スタック90の発電性能の低下を抑制できるので燃料電池スタック90の耐久性が向上するとともに、低コストで製造できる。
【0074】
また、本実施の形態において、接着壁8は、硬化後のゴム系接着剤9と同じ材料とすることもできる。
【0075】
これにより、接着壁8が凹部内で弾性変形しアノードセパレータ1とカソードセパレータ2とに密着するとともに、不純物溶出を抑制できる。そのため、不純物による燃料電池スタック90の発電性能の低下が抑制でき、シールとしても機能するので、さらに燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0076】
また、本実施の形態において、ゴム系接着剤9は、フッ素系ゴムを主材として用いた。
【0077】
これにより、ゴム系接着剤9は、耐薬品性や耐機械的特性の観点から耐久性が向上する。また、ゴム系接着剤9は、硬化後圧縮して使用することで弾性変形し、反力の発生を長期間維持することができる。そのため、長期間にわたりゴム系接着剤9とアノードセパレータ1との間および、ゴム系接着剤9とカソードセパレータ2との間を引きはがそうとする力が加わらない。また、ゴム系接着剤9が圧縮されることで反力が生じ、カソードセパレータ2との間の隙間がより小さくなり、燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0078】
また本実施の形態では、アノードセパレータ1に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成したが、アノードセパレータの冷却面6に凹部7と接着壁8を、カソードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5を形成してもよい。図9Aで示すように、冷却面6に凹部7と接着壁8を形成されたアノードセパレータをアノードセパレータ1a、冷却面6に冷却媒体経路5を形成されたカソードセパレータをカソードセパレータ2aとする。
【0079】
その場合、[1-2.製造方法]の接着工程において、図9Aに示すように、アノードセパレータ1aは凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、カソードセパレータ2aは冷却媒体経路5が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0080】
また、アノードセパレータ1の冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を、カソードセパレータ2の冷却面6に冷却媒体経路5を形成してもよい。図9Bで示すように、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成されたアノードセパレータは本実施の形態よりアノードセパレータ1で表され、冷却面6に冷却媒体経路5を形成されたカソードセパレータはカソードセパレータ2aで表される。
【0081】
その場合、[1-2.製造方法]の接着工程において、アノードセパレータ1は冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、カソードセパレータ2aは冷却媒体経路5が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0082】
このとき、アノードセパレータ1の冷却媒体経路5とカソードセパレータ2aの冷却媒体経路5とは、図9Bのように、必ずしも当接工程時に対向する位置関係になくてもよいが、当接工程時に対向する位置関係にある方が、同じ経路でアノードセパレータ1とカソードセパレータ2aを同様に冷却することができる。
【0083】
また、アノードセパレータ1の代わりにカソードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成したものを用い、カソードセパレータ2の代わりにアノードセパレータの冷却面6を平面としたものを用いてもよい。図9Cで示すように、冷却面6が平面であるアノードセパレータをアノードセパレータ1b、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成されたカソードセパレータをカソードセパレータ2bとする。
【0084】
その場合、[1-2.製造方法]の接着工程において、図9Cに示すように、カソードセパレータ2bは冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ1bは冷却面6が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0085】
またこの場合、接着壁8は、カソードセパレータと同じ材質でもよい。これにより、不純物溶出を抑制できるとともに、凹部形成工程の前段階である、カソードセパレータ2bを製造する圧縮成形工程で接着壁8が形成できるという効果も得られる。
【0086】
また図示していないが、アノードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5を、カソードセパレータの冷却面6に凹部7と接着壁8を形成したものを用いてもよい。ここで冷却面6に冷却媒体経路5を形成されたアノードセパレータをアノードセパレータ1c、冷却面6に凹部7と接着壁8を形成されたカソードセパレータをカソードセパレータ2cとする。
【0087】
その場合、[1-2.製造方法]の接着工程において、カソードセパレータ2cがアノードセパレータ1cの重力方向で下側に配置され、カソードセパレータ2cは凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ1cは冷却媒体経路5が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0088】
また図示していないが、アノードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5を、カソードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成したものを用いてもよい。このとき、冷却面6に冷却媒体経路5を形成されたアノードセパレータは本実施の形態よりアノードセパレータ1cで表され、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成されたカソードセパレータは本実施の形態よりカソードセパレータ2bで表される。
【0089】
その場合、[1-2.製造方法]の接着工程において、カソードセパレータ2bがアノードセパレータ1cの重力方向で下側に配置され、カソードセパレータ2bは冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ1cは冷却媒体経路5が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0090】
このとき、アノードセパレータ1cの冷却媒体経路5とカソードセパレータ2bの冷却媒体経路5とは、必ずしも当接工程時に対向する位置関係になくてもよいが、当接工程時に対向する位置関係にある方が、同じ経路を冷却媒体が通ることになるので、アノードセパレータ1cとカソードセパレータ2bを同様に冷却することができる。
(実施の形態2)
以下、図10~12Cを用いて、実施の形態2を説明する。
【0091】
以下では、本実施の形態に係る燃料電池について、実施の形態1で説明した事項については適宜説明を省略し、実施の形態1に係る燃料電池との相違点を主に説明する。
【0092】
なお、実施の形態1に示した燃料電池が備える構成要素と実質的に同じ構成要素については、その構成要素と同じ符号を付与して、その説明を省略または簡略化する。
[2-1.構成]
本実施の形態は、実施の形態1と比較し、凹部7を備えないカソードセパレータ2の代わりに凹部7を備えたカソードセパレータ202を備える点で相違し、その他の構成要素については実施の形態1と同様である。
【0093】
カソードセパレータ202は、適度な機械的強度と導電性を有する。具体的には、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混練物を加熱成型して形成された部材を用いる。
【0094】
図示していないが、カソードセパレータ202は、電極-膜-枠接合体18のカソード33側のガス拡散層34と対向する一方の主面に、酸化剤ガスとしての空気が流れる酸化剤ガス経路4が形成され、他方の主面(冷却面6)に凹部7が形成されている。
【0095】
カソードセパレータ202の凹部7は、カソードセパレータ202の、接着工程時にアノードセパレータ1の凹部7と対向する位置、すなわち実施の形態1でのカソードセパレータ2における対向部17に、アノードセパレータ1と接着工程時にアノードセパレータ1の冷却媒体経路5を囲むように形成され、所定の幅と深さを有する。
【0096】
図10で、カソードセパレータ202は、図7におけるカソードセパレータ2と同様に、酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16を有している。凹部7は、冷却媒体の外部への漏れ防止以外に、燃料ガスおよび酸化剤ガスの外部への漏れ防止、冷却媒体と燃料ガスとの間および冷却媒体と酸化剤ガスとの間を遮断するように配置されている。
【0097】
アノードセパレータ1の凹部7の内側には、冷却面6から突出し、冷却媒体経路5を囲む2つの接着壁8が形成される。これにより接着壁8の間に冷却面6よりも高い位置までゴム系接着剤9が注入される。
【0098】
接着壁8の高さは、注入されたゴム系接着剤9の高さが、アノードセパレータ1の凹部7の底面から冷却面6までの高さとカソードセパレータ202の凹部7の底面から冷却面6までの高さの合計値より高くなるように設定される。すなわち接着壁8の高さは、接着工程時にアノードセパレータ1の凹部7とカソードセパレータ202の凹部7とで形成される空間の高さより高くなるように形成されている。
また、接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に変形する形状および材質、またはどちらか1方の特徴を持つように構成されている。
【0099】
具体的には、アノードセパレータ1及びカソードセパレータ202の凹部7の幅を5mm、深さを0.4mmとし、2つの接着壁8は、アノードセパレータ1と同じ材質とし、幅0.3mm、高さ1.0mmの略矩形断面とし、アノードセパレータ1の凹部7の両側面からそれぞれ0.7mm離れた位置に設置し、2つの接着壁8の間は3mmとした。
【0100】
図11Aは、凹部形成工程後を示す図であり、アノードセパレータ1が凹部7を上にして所定の位置に配置された状態である。
【0101】
図11Bは、接着剤注入工程後を示す図であり、アノードセパレータ1の2つの接着壁8の間にゴム系接着剤9が接着壁8の高さまで注入された状態である。
【0102】
図11Cは、接着工程後を示す図であり、アノードセパレータ1の接着壁8とゴム系接着剤9がカソードセパレータ202の凹部7の底面とが接触し、アノードセパレータ1の冷却面6とカソードセパレータ202の冷却面6との間には隙間がある状態である。具体的には、0.2mmの隙間がある。
【0103】
図11Dは、当接工程後を示す図であり、燃料電池用セパレータ部材210の製造方法により製造された燃料電池用セパレータ部材210を示す。
【0104】
燃料電池用セパレータ部材210は、アノードセパレータ1とカソードセパレータ202の冷却面6同士が当接された状態で、接着壁8は破壊されアノードセパレータ1の凹部7とカソードセパレータ202の凹部7で形成される空間内に収まり、ゴム系接着剤9は圧縮されている。
【0105】
[2-2.製造方法]
以上のように構成された燃料電池用セパレータ部材210の製造方法について、図11A~11Dに基づいて、以下に説明する。
【0106】
燃料電池用セパレータ部材210の製造方法は、凹部形成工程、接着剤注入工程、接着工程、当接工程のステップを備える。
【0107】
まず、図11Aに示す凹部形成工程では、アノードセパレータ1を準備し、凹部7が重力方向に対して上を向いた状態で、固定治具に固定する(図示せず)。
【0108】
アノードセパレータ1を固定治具に位置決めする方法は、限定しないが、アノードセパレータ1の外形の2辺を規制する方法や、酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16のいずれかを通す例えばピンを用いて規制する方法などを用いてもよい。これにより、常にアノードセパレータ1を固定治具の同じ位置に固定することができる。
【0109】
続いて、成型加工または切削加工を用いてアノードセパレータ1の冷却面6に凹部7および、凹部に沿って冷却媒体経路5を囲むように接着壁8を形成する。また同様にカソードセパレータ202の冷却面6にも凹部7を形成する(図示せず)。
【0110】
次に、図11Bに示す接着剤注入工程は、低粘度で未硬化状態のゴム系接着剤9をロボット等に取り付けられたディスペンサー(図示せず)により、固定されたアノードセパレータ1の2つの接着壁8の間に注入する。この時、ゴム系接着剤9が表面張力で盛り上がっていても、接着壁8の外にあふれてもよい。これにより、2つの接着壁8の間に沿ってロボットを動かしながらディスペンサーを用いて接着壁8の高さまで注入される。
【0111】
次に、図11Cで示す接着工程は、カソードセパレータ202を準備し、ゴム系接着剤9が注入されたアノードセパレータ1の上に、カソードセパレータ202の凹部7を重力方向に対して下向きにしてカソードセパレータ202の凹部7の底面をゴム系接着剤9と接触させ、かつアノードセパレータ1とカソードセパレータ202の冷却面6同士が当接しない距離まで押し当てた状態で、熱プレス装置(図示せず)にて所定の温度まで昇温し、加熱硬化させる。
【0112】
この時のアノードセパレータ1とカソードセパレータ202の冷却面6同士の距離は、0.2mmとした。加熱温度は、150℃~170℃の範囲で、30分維持した。
【0113】
これにより、ゴム系接着剤9はアノードセパレータ1とカソードセパレータ202とで構成された閉空間で硬化接着される。このとき硬化したゴム系接着剤9とカソードセパレータ202の凹部7との間には、ゴム系接着剤9の硬化時特有の体積収縮によりわずかな隙間が生じており、ゴム系接着剤9のアノードセパレータ1の凹部7の底面からの高さは、凹部7の全周にわたり、アノードセパレータ1の凹部7の底面から冷却面6までの高さとカソードセパレータ202の凹部7の底面から冷却面6までの高さとの合計値よりも大きい値となっている。これにより、体積収縮によるわずかな隙間はできるものの、アノードセパレータ1とカソードセパレータ202との間はアノードセパレータ1の凹部7とカソードセパレータ202の凹部7との間でゴム系接着剤9により接着される。
【0114】
次に、図11Dに示す当接工程は、接着壁8をカソードセパレータ202で押圧し、接着壁8を変形または破壊し、冷却面6を介してアノードセパレータ1とカソードセパレータ202を当接させる。これにより、ゴム系接着剤9を圧縮され、反力が発生する。また、接着壁8がアノードセパレータ1とカソードセパレータ202との間で突っ張らないので局所応力が発生しない。
[2-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、燃料電池用セパレータ部材210の製造方法は、アノードセパレータ1とカソードセパレータ202の冷却面6同士が当接しない状態で、ゴム系接着剤9がアノードセパレータ1とカソードセパレータ202とが確実に接触した状態で加熱硬化され接着される。また、アノードセパレータ1とカソードセパレータ202の冷却面6同士を当接させようとすると、接着壁8が変形または破壊され、ゴム系接着剤9が圧縮され、反力が発生する。
【0115】
これにより、カソードセパレータ202の凹部7とゴム系接着剤9との界面にある微小な空間がつぶされ、ゴム系接着剤9と燃料電池用セパレータ部材210の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる。
【0116】
本実施の形態において、アノードセパレータ1の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に形態が変化する形状のものを用いてもよい。
【0117】
これにより、接着壁8が、より小さな力で容易に形態が変化する。そのため、アノードセパレータ1および、カソードセパレータ202が、接着壁8を介して局所荷重により破損することがなく、ゴム系接着剤9を圧縮することができる。具体的な例として、本実施の形態では、接着壁8は、アノードセパレータ1と同じ材質で、幅0.3mm、高さ1.0mmの略矩形断面とする形状を用いた。これにより、ゴム系接着剤9を圧縮するとゴム系接着剤9の幅が広がるため、接着壁8にかかる応力の方向が限定され折れやすい。
【0118】
ただし、この値及び形状は一例であり、製造装置や接着壁8の材料等に応じて変更してもよい。
【0119】
また、本実施の形態において、アノードセパレータ1の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に塑性変形する材料のものを用いてもよい。
【0120】
これにより、接着壁8に力を加えても反力が発生しない。そのため、ゴム系接着剤9を圧縮する以外に余計な力を必要としない。
【0121】
具体的な例として、コーキング材はシリコーン系(オルガノポリシロキサン)、変成シリコーン系(シリル基を末端に持つポリエーテル)、ポリウレタン系等から選択でき、ここでは、変成シリコーン系コーキング材を用いた接着壁8を設けた。
【0122】
これにより、接着壁8は、ディスペンサーを用いて設置しても形状が維持され、ゴム系接着剤9を注入した程度では接着壁8が壊れることはない。また接着壁8に冷却面6に対して垂直方向に所定の力を加えると容易に変形するが、反力は発生しない。そのため、ゴム系接着剤9を圧縮する以外に余計な力を必要としない。
【0123】
また、本実施の形態において、アノードセパレータ1の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると弾性変形する材料のものを用いてもよい。
【0124】
これにより、接着壁8がアノードセパレータ1の凹部7とカソードセパレータ202の凹部7とで形成される空間内で弾性変形し、カソードセパレータ202の凹部7に密着する。そのため、注入したゴム系接着剤9が接着壁8の外にこぼれたりせず、確実にゴム系接着剤9とカソードセパレータ202とを接触させた状態で接着され、シールとしても機能するので燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0125】
具体的な例として、フッ素系ゴムが挙げられる。フッ素系ゴムは耐薬品性や耐機械的特性の観点から耐久性が向上するので、燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0126】
これにより、圧縮して使用することでゴム系接着剤9が弾性変形し、反力が発生する。そのため、ゴム系接着剤9とアノードセパレータ1との間および、ゴム系接着剤9とカソードセパレータ202との間を引きはがそうとする力が加わらない。また、ゴム系接着剤9が圧縮することで、隙間がより小さくなる。
【0127】
また、本実施の形態において、接着壁8にアノードセパレータ1と同じ材料を用いた場合、不純物溶出を抑制できるとともに、アノードセパレータ1を製造する圧縮成形工程で接着壁8が形成できるという効果も得られる。
【0128】
そのため、不純物による燃料電池スタック90の発電性能の低下を抑制できるので燃料電池スタック90の耐久性が向上するとともに、低コストで製造できる。
【0129】
また、本実施の形態において、接着壁8は、硬化後のゴム系接着剤9と同じ材料とすることもできる。
【0130】
これにより、接着壁8が凹部内で弾性変形しアノードセパレータ1とカソードセパレータ202とに密着するとともに、不純物溶出を抑制できる。そのため、不純物による燃料電池スタック90の発電性能の低下が抑制でき、シールとしても機能するので、さらに燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0131】
また本実施の形態では、アノードセパレータ1に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を、カソードセパレータ202に凹部7を形成したが、アノードセパレータに凹部7と接着壁8を、カソードセパレータに冷却媒体経路5と凹部7を形成してもよい。このとき、図12Aで示すように、冷却面6に凹部7と接着壁8が形成されたアノードセパレータは実施の形態1よりアノードセパレータ1aで表され、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたカソードセパレータはカソードセパレータ202aとする。
【0132】
その場合、[2-2.製造方法]の接着工程において、図12Aに示すように、アノードセパレータ1aは凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、カソードセパレータ202aは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0133】
また、アノードセパレータに冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を、カソードセパレータに冷却媒体経路5と凹部7を形成してもよい。このとき、図12Bで示すように、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が形成されたアノードセパレータは実施の形態1よりアノードセパレータ1で表され、本実施の形態より冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたカソードセパレータはカソードセパレータ202aで表される。
【0134】
その場合、[2-2.製造方法]の接着工程において、図12Bで示すように、アノードセパレータ1は冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、カソードセパレータ202aは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0135】
このとき、アノードセパレータ1の冷却媒体経路5とカソードセパレータ202aの冷却媒体経路5とは、図12Bのように、必ずしも当接工程時に対向する位置関係になくてもよいが、当接工程時に対向する位置関係にある方が、同じ経路を冷却媒体が通ることになるので、アノードセパレータ1とカソードセパレータ202aを同様に冷却することができる。
【0136】
また、アノードセパレータ1の代わりにカソードセパレータに冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成したものを、カソードセパレータ202の代わりにアノードセパレータに凹部7を形成したものを用いてもよい。このとき、図12Cで示すように、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が形成されたカソードセパレータは実施の形態1よりカソードセパレータ2bで表され、冷却面6に凹部7が形成されたアノードセパレータをアノードセパレータ201bとする。
【0137】
その場合、[2-2.製造方法]の接着工程において、図12Cに示すように、カソードセパレータ2bは冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ201bは凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0138】
また図示していないが、アノードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7を、カソードセパレータ202の冷却面6に凹部7と接着壁8を形成してもよい。このとき、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたアノードセパレータをアノードセパレータ201cとし、冷却面6に凹部7と接着壁8が形成されたカソードセパレータは実施の形態1よりカソードセパレータ2cで表される。
【0139】
その場合、[2-2.製造方法]の接着工程において、カソードセパレータ2cがアノードセパレータ201cの重力方向で下側に配置され、カソードセパレータ2cは凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ201cは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0140】
また図示していないが、アノードセパレータに冷却媒体経路5と凹部7を、カソードセパレータに冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8を形成してもよい。このとき冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたアノードセパレータは本実施の形態よりアノードセパレータ201cで表され、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が形成されたカソードセパレータは実施の形態1よりカソードセパレータ2bで表される。
【0141】
その場合、[2-2.製造方法]の接着工程において、カソードセパレータ2bがアノードセパレータ201cの重力方向で下側に配置され、カソードセパレータ2bは冷却媒体経路5と凹部7と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ201cは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0142】
このとき、アノードセパレータ201cの冷却媒体経路5とカソードセパレータ2bの冷却媒体経路5とは、必ずしも当接工程時に対向する位置関係になくてもよいが、当接工程時に対向する位置関係にある方が、同じ経路を冷却媒体が通ることになるので、アノードセパレータ201cとカソードセパレータ2bを同様に冷却することができる。
(実施の形態3)
以下、図13~15Cを用いて、実施の形態3を説明する。
【0143】
以下では、本実施の形態に係る燃料電池について、実施の形態1及び2で説明した事項については適宜説明を省略し、実施の形態1及び2に係る燃料電池との相違点を主に説明する。
【0144】
なお、実施の形態1及びに示した燃料電池が備える構成要素と実質的に同じ構成要素については、その構成要素と同じ符号を付与して、その説明を省略または簡略化する。
[3-1.構成]
本実施の形態は、実施の形態1及び2と比較し、凹部7を備えるアノードセパレータ1の代わりに凹部7を備えないアノードセパレータ301を備える点で相違し、その他の構成要素については実施の形態1及び2と同様である。
【0145】
カソードセパレータとしては、実施の形態2で用いたカソードセパレータ202を用いている。
【0146】
アノードセパレータ301は、適度な機械的強度と導電性を有する。具体的には、黒鉛粉末と熱硬化性樹脂の混練物を加熱成型して形成された部材を用いる。
【0147】
図示していないが、アノードセパレータ301は、図5におけるアノードセパレータ1と同様に、電極-膜-枠接合体18のアノード32側のガス拡散層34と対向する一方の主面に、燃料ガスとしての水素が流れる燃料ガス経路3が形成され、他方の主面(冷却面6)に、冷却媒体としてのイオン交換水が流れる冷却媒体経路5が形成されている。
【0148】
また、図13に示すように、アノードセパレータ301は、図5におけるアノードセパレータ1と同様に、さらに酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16を備える。
【0149】
アノードセパレータ301の冷却面6には、カソードセパレータ202と当接時にカソードセパレータ202の凹部7の底面と対向する位置にある対向部317に、冷却媒体経路5を囲む2つの接着壁8が形成される。
【0150】
接着壁8の高さは、注入されたゴム系接着剤9の高さが、カソードセパレータ202の凹部7の底面からカソードセパレータ202の冷却面6までの高さより高くなるように設定される。すなわち接着壁8の高さは、当接工程時にアノードセパレータ301の対向部317とカソードセパレータ202の凹部7とで形成される空間の高さより高くなるように形成されている。また、接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に変形する形状および材質、またはどちらか1方の特徴を持つように構成されている。
【0151】
具体的には、カソードセパレータ202の凹部7の幅を5mm、深さを0.4mmとし、2つの接着壁8は、アノードセパレータ301と同じ材質とし、幅0.3mm、高さ0.6mmの略矩形断面とし、カソードセパレータ202と当接時のカソードセパレータ202の凹部7の両側面からそれぞれ0.7mm離れた位置に来るようにアノードセパレータ301に設置し、2つの接着壁8の間は3mmとした。
【0152】
図14Aは、凹部形成工程後を示す図であり、アノードセパレータ301が冷却媒体経路5を上にして所定の位置に配置された状態である。
【0153】
図14Bは、接着剤注入工程後を示す図であり、アノードセパレータ301の2つの接着壁8の間にゴム系接着剤9が接着壁8の高さまで注入された状態である。
【0154】
図14Cは、接着工程後を示す図であり、アノードセパレータ301の接着壁8とゴム系接着剤9がカソードセパレータ202の凹部7の底面とが接触し、アノードセパレータ301の冷却面6とカソードセパレータ202の冷却面6との間には隙間がある状態である。具体的には、0.2mmの隙間がある。
【0155】
図14Dは、当接工程後を示す図であり、燃料電池用セパレータ部材310の製造方法により製造された燃料電池用セパレータ部材310を示す。
【0156】
燃料電池用セパレータ部材310は、アノードセパレータ301とカソードセパレータ202の冷却面6同士が当接された状態で、接着壁8は破壊されアノードセパレータ301の対向部317とカソードセパレータ202の凹部7で形成される空間内に収まり、ゴム系接着剤9は圧縮されている。
【0157】
[3-2.製造方法]
以上のように構成された燃料電池用セパレータ部材310の製造方法について、図14A~14Dに基づいて、以下に説明する。
【0158】
燃料電池用セパレータ部材310の製造方法は、凹部形成工程、接着剤注入工程、接着工程、当接工程のステップを備える。
【0159】
まず、図14Aに示す凹部形成工程は、アノードセパレータ301を準備し、冷却媒体経路5が重力方向に対して上を向いた状態で、固定治具に固定する(固定治具は図示せず)。
【0160】
アノードセパレータ301を固定治具に位置決めする方法は、限定しないが、アノードセパレータ301の外形の2辺を規制する方法や、酸化剤ガス供給孔11、酸化剤ガス排出孔12、燃料ガス供給孔13、燃料ガス排出孔14、冷却媒体供給孔15、冷却媒体排出孔16のいずれかを通す例えばピンを用いて規制する方法などを用いてもよい。これにより、常にアノードセパレータ301を固定治具の同じ位置に固定することができる。
【0161】
続いて、成型加工または切削加工を用いて、アノードセパレータ1の冷却面6に対向部317に沿って冷却媒体経路5を囲むように接着壁8を形成する。
【0162】
次に、図14Bに示す接着剤注入工程は、低粘度で未硬化状態のゴム系接着剤9をロボット等に取り付けられたディスペンサー(図示せず)により、固定されたアノードセパレータ301の2つの接着壁8の間に注入する。この時、ゴム系接着剤9が表面張力で盛り上がっていても、接着壁8の外に対向部317の範囲内であれば、あふれてもよい。これにより、2つの接着壁8の間に沿ってロボットを動かしながらディスペンサーを用いて接着壁8の高さまで注入される。
【0163】
次に、図14Cに示す接着工程は、カソードセパレータ202を準備し、ゴム系接着剤9が注入されたアノードセパレータ301の上に、カソードセパレータ202の凹部7を重力方向に対して下向きにしてカソードセパレータ202の凹部7の底面をゴム系接着剤9と接触させ、かつアノードセパレータ301とカソードセパレータ202の冷却面6同士が当接しない距離まで押し当てた状態で、熱プレス装置(図示せず)にて所定の温度まで昇温し、加熱硬化させる。
【0164】
この時のアノードセパレータ301とカソードセパレータ202の冷却面6同士の距離は、0.2mmとした。加熱温度は、150℃~170℃の範囲で、30分維持した。
【0165】
これにより、ゴム系接着剤9はアノードセパレータ301とカソードセパレータ202とで構成された閉空間で硬化接着される。このとき硬化したゴム系接着剤9とカソードセパレータ202の凹部7との間には、ゴム系接着剤9の硬化時特有の体積収縮によりわずかな隙間が生じたが、ゴム系接着剤9のアノードセパレータ301の冷却面6からの高さは、カソードセパレータ202の凹部7の全周にわたり、カソードセパレータ202の凹部7の底面から冷却面6までの高さよりも高い。これにより、体積収縮によるわずかな隙間はできるものの、アノードセパレータ301とカソードセパレータ202との間はゴム系接着剤9により接着される。
【0166】
次に、図14Dに示す当接工程は、接着壁8をカソードセパレータ202の凹部7で押圧し、接着壁8を変形または破壊し、冷却面6を介してアノードセパレータ301とカソードセパレータ202を当接させる。これにより、ゴム系接着剤9を圧縮され、反力が発生する。また、接着壁8がアノードセパレータ301とカソードセパレータ202との間で突っ張らないので局所応力が発生しない。
[3-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、燃料電池用セパレータ部材310の製造方法は、アノードセパレータ301とカソードセパレータ202の冷却面6同士が当接しない状態で、ゴム系接着剤9がアノードセパレータ301とカソードセパレータ202とが確実に接触した状態で加熱硬化され接着される。また、アノードセパレータ301とカソードセパレータ202の冷却面6同士を当接させようとすると、接着壁8が変形または破壊され、ゴム系接着剤9が圧縮され、反力が発生する。
【0167】
これにより、カソードセパレータ202の凹部7とゴム系接着剤9との界面にある微小な空間がつぶされ、ゴム系接着剤9と燃料電池用セパレータ部材310の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制できる。
【0168】
本実施の形態において、アノードセパレータ301の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に形態が変化する形状のものを用いてもよい。
【0169】
これにより、接着壁8が、より小さな力で容易に形態が変化する。そのため、アノードセパレータ301および、カソードセパレータ202が、接着壁8を介して局所荷重により破損することがなく、ゴム系接着剤9を圧縮することができる。具体的な例として、本実施の形態では、接着壁8は、アノードセパレータ301と同じ材質で、幅0.3mm、高さ0.6mmの略矩形断面とする形状を用いた。これにより、ゴム系接着剤9を圧縮するとゴム系接着剤9の幅が広がるため、接着壁8にかかる応力の方向が限定され折れやすい。
【0170】
ただし、この値及び形状は一例であり、製造装置や接着壁8の材料等に応じて変更してもよい。
【0171】
また、本実施の形態において、アノードセパレータ301の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に塑性変形する材料のものを用いてもよい。
【0172】
これにより、接着壁8に力を加えても反力が発生しない。そのため、ゴム系接着剤9を圧縮する以外に余計な力を必要としない。
【0173】
具体的な例として、コーキング材はシリコーン系(オルガノポリシロキサン)、変成シリコーン系(シリル基を末端に持つポリエーテル)、ポリウレタン系等から選択でき、ここでは、変成シリコーン系コーキング材を用いた接着壁8を設けた。
【0174】
これにより、接着壁8は、ディスペンサーを用いて設置しても形状が維持され、ゴム系接着剤9を注入した程度では接着壁8が壊れることはない。また接着壁8に冷却面6に対して垂直方向に所定の力を加えると容易に変形するが、反力は発生しない。そのため、ゴム系接着剤9を圧縮する以外に余計な力を必要としない。
【0175】
また、本実施の形態において、アノードセパレータ301の接着壁8は、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると弾性変形する材料のものを用いてもよい。
【0176】
これにより、接着壁8がアノードセパレータ301の冷却面6とカソードセパレータ202の凹部7とで形成される空間内で弾性変形し、カソードセパレータ202の凹部7に密着する。そのため、注入したゴム系接着剤9が接着壁8の外にこぼれたりせず、確実にゴム系接着剤9とカソードセパレータ202とを接触させた状態で接着され、シールとしても機能するので燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0177】
具体的な例として、フッ素系ゴムが挙げられる。フッ素系ゴムは耐薬品性や耐機械的特性の観点から耐久性が向上するので、燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0178】
これにより、圧縮して使用することでゴム系接着剤9が弾性変形し、反力が発生する。そのため、ゴム系接着剤9とアノードセパレータ301との間および、ゴム系接着剤9とカソードセパレータ202との間を引きはがそうとする力が加わらない。また、ゴム系接着剤9が圧縮することで、隙間がより小さくなる。
【0179】
また、本実施の形態において、接着壁8にアノードセパレータ301と同じ材料を用いた場合、不純物溶出を抑制できるとともに、アノードセパレータ301を製造する圧縮成形工程で接着壁8が形成できるという効果も得られる。
【0180】
そのため、不純物による燃料電池スタック90の発電性能の低下を抑制できるので燃料電池スタック90の耐久性が向上するとともに、低コストで製造できる。
【0181】
また、本実施の形態において、接着壁8は、硬化後のゴム系接着剤9と同じ材料とすることもできる。
【0182】
これにより、接着壁8が凹部内で弾性変形しアノードセパレータ301とカソードセパレータ202とに密着するとともに、不純物溶出を抑制できる。そのため、不純物による燃料電池スタック90の発電性能の低下が抑制でき、シールとしても機能するので、さらに燃料電池スタック90の耐久性が向上する。
【0183】
また本実施の形態では、アノードセパレータ301の冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8を、カソードセパレータ202の冷却面6に凹部7を形成したが、アノードセパレータ301の冷却面6に接着壁8を、カソードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7を形成してもよい。このとき、図15Aで示すように、冷却面6に接着壁8が形成されたアノードセパレータをアノードセパレータ301aとし、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたカソードセパレータは実施の形態2よりカソードセパレータ202aで表される。
【0184】
その場合、[3-2.製造方法]の接着工程において、図15Aに示すように、アノードセパレータ301aは接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、カソードセパレータ202aは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0185】
また、アノードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8とを形成し、カソードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7を形成してもよい。このとき、図15Bで示すように、冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8が形成されたアノードセパレータは本実施の形態よりアノードセパレータ301で表され、冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたカソードセパレータは実施の形態2よりカソードセパレータ202aで表される。
【0186】
その場合、[3-2.製造方法]の接着工程において、図15Bに示すように、アノードセパレータ301は冷却媒体経路5と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、カソードセパレータ202aは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0187】
このとき、アノードセパレータ301の冷却媒体経路5とカソードセパレータ202aの冷却媒体経路5とは、図15Bのように、必ずしも当接工程時に対向する位置関係になくてもよいが、当接工程時に対向する位置関係にある方が、同じ経路を冷却媒体が通ることになるので、アノードセパレータ301とカソードセパレータ202aを同様に冷却することができる。
【0188】
また、アノードセパレータ301の代わりにカソードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8を形成したものを、カソードセパレータ202の代わりにアノードセパレータの冷却面6に凹部7を形成したものを用いてもよい。このとき、図15Cで示すように冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8が形成されたカソードセパレータをカソードセパレータ302bとし、冷却面6に凹部7が形成されたアノードセパレータは実施の形態2よりアノードセパレータ201bで表される。
【0189】
その場合、[3-2.製造方法]の接着工程において、図15Cに示すように、カソードセパレータ302bは冷却媒体経路5と接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ201bは凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0190】
また図示していないが、アノードセパレータの冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7を、カソードセパレータの冷却面6に接着壁8を形成してもよい。ここで冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたアノードセパレータは実施の形態2よりアノードセパレータ201cで表され、冷却面6に接着壁8が形成されたカソードセパレータをカソードセパレータ302cとする。
【0191】
その場合、[3-2.製造方法]の接着工程において、カソードセパレータ302cがアノードセパレータ201cの重力方向で下側に配置され、カソードセパレータ302cは接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ201cは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0192】
また図示していないが、アノードセパレータ301の冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7を、カソードセパレータ302の冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8を形成してもよい。ここで冷却面6に冷却媒体経路5と凹部7が形成されたアノードセパレータは実施の形態2よりアノードセパレータ201cで表され、冷却面6に冷却媒体経路5と接着壁8が形成されたカソードセパレータは本実施の形態よりカソードセパレータ302bで表される。
【0193】
その場合、[3-2.製造方法]の接着工程において、カソードセパレータ302bがアノードセパレータ201cの重力方向で下側に配置され、カソードセパレータ302bは冷却媒体経路5及び接着壁8が重力方向に対して上を向いた状態で配置され、アノードセパレータ201cは冷却媒体経路5と凹部7が重力方向に対して下を向いた状態で配置される。
【0194】
このとき、アノードセパレータ201cの冷却媒体経路5とカソードセパレータ302bの冷却媒体経路5とは、必ずしも当接工程時に対向する位置関係になくてもよいが、当接工程時に対向する位置関係にある方が、同じ経路を冷却媒体が通ることになるので、アノードセパレータ201cとカソードセパレータ302bで同様に冷却することができる。
【0195】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0196】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0197】
実施の形態1では、燃料電池用セパレータ部材の製造方法の1例として、2つの接着壁8は、アノードセパレータ1と同じ材質とし、幅0.3mm、高さ0.6mmの略矩形断面と説明した。2つ接着壁8は、ゴム系接着剤9が硬化した後も冷却面6よりも高い位置を保つことができる高さに設定され、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に変形する形状であればよい。したがって、2つの接着壁8は、同じ略矩形断面に限定されない。
【0198】
例えば、燃料電池用セパレータ部材の製造方法として、2つの接着壁8は、同じ高さの三角形断面にすることもできる。これにより、2つの接着壁8は、同じ略矩形断面にする必要がない。そのため、ゴム系接着剤9の高さが確保できるとともに、当接工程において、接着壁8をカソードセパレータ2で押圧時、接着壁8が塑性変形しやすい。
【0199】
また、2つの接着壁8は、ゴム系接着剤9が硬化した後も冷却面6よりも高い位置を保つことができる高さに設定され、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に変形する形状であればよい。
【0200】
例えば、燃料電池用セパレータ部材の製造方法として、2つの接着壁8を凹の字断面にしてアノードセパレータ1に後から取り付けることができる。これにより、略矩形断面の接着壁8を2つ用意する必要がない。そのため、アノードセパレータ1に設ける接着壁8を有する部品点数が半分にできる。
【0201】
また2つの接着壁8は、ゴム系接着剤9が硬化した後も冷却面6よりも高い位置を保つことができる高さに設定され、冷却面6に対して垂直方向に所定の力が加わると容易に変形する形状及び材質であればよい。
【0202】
例えば、燃料電池用セパレータ部材の製造方法として、2つの接着壁8の材質を接着壁8の先端から冷却面よりも低い位置までと、それ以下で変更することもできる。これにより、2つの接着壁8はアノードセパレータ1と同じ材質である必要がない。そのため、2つの接着壁8の材質を接着壁8の先端から冷却面よりも低い位置までをより変形や破壊しやすい材料にすることで、ゴム系接着剤9の高さが確保できるとともに、当接工程において、接着壁8をカソードセパレータ2で押圧時、接着壁8が容易に変形する。
【0203】
実施の形態1では、燃料電池用セパレータ部材の製造方法の1例として、アノードセパレータ1の接着壁8に硬化後のゴム系接着剤9と同じ材料を用いる場合を説明した。アノードセパレータ1の接着壁8は、ゴム系接着剤9が注入されるときに所定の高さまで注入できる高さが維持できるものであればよい。したがって、燃料電池用セパレータ部材の製造方法は、硬化後のゴム系接着剤9と同じ材料に限定されない。
【0204】
ただし、燃料電池用セパレータ部材の製造方法として、接着壁8に同じ主剤でゴム系接着剤9の粘度よりも高粘度であり、かつアノードセパレータ1に塗布して数分以上は冷却面6より高い状態を維持できる程度に高粘度ゴム系接着剤を、ゴム系接着剤9を注入する直前にアノードセパレータ1に塗布したものを用いることで、ゴム系接着剤9を間に流し込む接着剤注入工程を行うこともできる。これにより、アノードセパレータ1に形成されるゴム系接着剤9と同じ材料の接着壁8は硬化済みである必要がない。そのため、アノードセパレータ1に接着壁8を事前に形成する加熱硬化する工程が削減できる。
【0205】
実施の形態1では、燃料電池用セパレータ部材の製造方法の1例として、ゴム系接着剤9にフッ素ゴム系接着剤を用いる場合を説明した。
【0206】
ゴム系接着剤9は、硬化後、圧縮して使用することで弾性変形し、反力を発生させる熱硬化性エラストマーを主剤とするものであればよい。したがって、本開示に記載の燃料電池用セパレータ部材の製造方法では、ゴム系接着剤9はフッ素ゴム系接着剤に限定されない。
【0207】
よって電極-膜-枠接合体18のアノード32やカソード33に対して被毒作用の無いものであれば、特に限定されず用いられる。これにより、高価なフッ素ゴム系以外に、シリコーンゴム、天然ゴム、EPDM、ブチルゴム等の熱硬化性エラストマー、あるいはイソプレンゴム及びブタジエンゴム等のラテックスを用いた接着剤、液状のポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、シリコーンゴム等を用いた接着剤等を用いてもよい。そのため、ゴム系接着剤9の材料費が安くできる。
【0208】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本開示は、燃料電池用セパレータ部材の製造方法により、ゴム系接着剤とセパレータ部材の間に生じる隙間によるシール性の低下を抑制することができる。具体的には、燃料電池車や定置型燃料電池等の固体高分子型燃料電池や電気化学デバイスに適用可能である。
【符号の説明】
【0210】
1、1a、1b、1c アノードセパレータ
2、2a、2b、2c カソードセパレータ
3 燃料ガス経路
4 酸化剤ガス経路
5 冷却媒体経路
6 冷却面
7 凹部
8 接着壁
9 ゴム系接着剤
10 燃料電池用セパレータ部材
11 酸化剤ガス供給孔
12 酸化剤ガス排出孔
13 燃料ガス供給孔
14 燃料ガス排出孔
15 冷却媒体供給孔
16 冷却媒体排出孔
17 対向部
18 電極-膜-枠接合体
30 枠体
31 電解質膜
32 アノード
33 カソード
34 ガス拡散層
35 電解質膜-電極接合体
40 集電板
41 集電板
70 エンドプレート
71 燃料ガス導入口
72 燃料ガス排出口
73 酸化剤ガス導入口
74 酸化剤ガス排出口
75 冷却媒体導入口
76 冷却媒体排出口
77 エンドプレート
80 ボルト
90 燃料電池スタック
91 スタック部
100 セル
201b、201c アノードセパレータ
202、202a カソードセパレータ
210 燃料電池用セパレータ部材
301、301a アノードセパレータ
302、302b、302c カソードセパレータ
310 燃料電池用セパレータ部材
317 対向部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C