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特開2023-8382動体追跡装置、放射線照射システム及び動体追跡方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008382
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】動体追跡装置、放射線照射システム及び動体追跡方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111908
(22)【出願日】2021-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「先進的医療機器・システム等技術開発事業 先進的医療機器・システム等開発プロジェクト」「超低侵襲リアルタイムアダプティブ(RA)放射線治療の実現」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 聖心
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康一
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC02
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG05
4C082AJ07
4C082AJ16
4C082AP07
4C082AP08
(57)【要約】
【課題】動体追跡照射において、ベースラインシフトが発生した場合でも照射時間の増大を抑制する。
【解決手段】マーカー29を撮像する撮像用X線発生装置23A,23BとX線測定器24A,24Bと、撮像された撮像画像からマーカーの位置を求める動体追跡制御装置41と、を備えた動体追跡装置38であって、動体追跡制御装置41は、照射許可範囲内にマーカーがあるときに放射線の照射を許可する信号を生成し、更に、マーカーの位置に基づき照射許可範囲を設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
追跡対象を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された撮像画像から前記追跡対象の位置を求める制御装置と、を備えた動体追跡装置であって、
前記制御装置は、照射許可範囲内に前記追跡対象があるときに放射線の照射を許可する信号を生成し、前記追跡対象の位置に基づき前記照射許可範囲を設定する
ことを特徴とする動体追跡装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記放射線の照射位置を制御する信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の動体追跡装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記位置の軌道の特定位相における前記追跡対象の特定位置を算出し、過去の前記特定位置の変位に基づいて現在の前記特定位置を予測し、予測した前記特定位置に基づいて前記照射許可範囲を設定することを特徴とする請求項2に記載の動体追跡装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記照射許可範囲が予め定められた前記照射許可範囲の変更許可範囲を超過したら、前記変更許可範囲の中で前記特定位置に最も近い前記照射許可範囲を設定することを特徴とする請求項3に記載の動体追跡装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記特定位置の変位に基づいて前記放射線の照射位置を制御する信号を生成することを特徴とする請求項3に記載の動体追跡装置。
【請求項6】
前記制御装置は、現在の前記追跡対象の位置に基づいて前記放射線の照射位置を制御する信号を生成することを特徴とする請求項2に記載の動体追跡装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記照射許可範囲に前記追跡対象があるときには前記放射線の照射位置を制御する信号を一定にすることを特徴とする請求項3に記載の動体追跡装置。
【請求項8】
前記制御装置は、一周期分の前記位置の前記軌道をモデル化し、モデル化された前記軌道のうち基準となる前記追跡対象の位置を前記特定位置に設定することを特徴とする請求項3に記載の動体追跡装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記特定位置を示す指標を算出するとともに、前記軌道のモデル化作業を繰り返し行い、モデル化された前記軌道における前記指標に基づいて前記特定位置を算出することを特徴とする請求項8に記載の動体追跡装置。
【請求項10】
標的に対して放射線を照射するための放射線照射装置と、
この放射線照射装置を制御する照射制御装置と、
請求項1に記載の前記動体追跡装置と
を備え、
前記動体追跡装置の前記制御装置は、前記追跡対象の位置および前記信号を前記照射制御装置に送信し、
前記照射制御装置は、送信された前記位置及び前記信号に基づき前記放射線を照射する
ことを特徴とする放射線照射システム。
【請求項11】
追跡対象を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された撮像画像から前記追跡対象の位置を求める制御装置と、を備えた動体追跡装置による動体追跡方法であって、
照射許可範囲内に前記追跡対象があるときに放射線の照射を許可する信号を生成し、前記追跡対象の位置に基づき前記照射許可範囲を設定する
ことを特徴とする動体追跡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動体追跡装置、放射線照射システム及び動体追跡方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんなどの患者に粒子線やX線などの放射線を照射する方法が知られている。粒子線には陽子線や炭素線などがある。照射に用いる放射線照射システムは、カウチと呼ばれる患者用ベッドの上に固定された患者の体内で腫瘍などの標的の形状に適した線量分布を形成する。
【0003】
放射線照射システムにおける線量分布を形成する方法として、細い粒子線を電磁石により走査して線量分布を形成するスキャニング照射法が普及し始めている。
【0004】
腫瘍などの標的が呼吸などで移動すると、粒子線の正確な照射が難しくなる。そこで、標的が予め決められた範囲(ゲート範囲)にある場合のみ粒子線を照射するゲート照射が近年実現されている。
【0005】
特許文献1には、患部付近に埋め込まれたマーカーの位置に基づいてゲート照射を実施する動体追跡照射と呼ばれる方法が記載されている。
【0006】
体幹部内で動き回る腫瘍の位置を実時間で、かつ自動的に算出し、機構系の絶対精度に依存せずに実質必要な精度を確保することができる荷電粒子照射システムの一例として、特許文献1には、荷電粒子ビームを生成して出射する加速器と、前記荷電粒子ビームを走査する走査電磁石を有し、前記荷電粒子ビームを照射標的に照射する照射装置と、前記照射標的の位置を計測する標的監視装置と、前記標的監視装置からの信号に基づき前記走査電磁石の励磁電流値を補正して前記荷電粒子ビームを照射標的に照射する追尾照射と、前記標的監視装置からの信号に基づき前記照射装置から照射される荷電粒子ビームの照射開始と照射停止を制御するゲート照射とを行う制御装置とを備えた荷電粒子照射システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5976353号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Seishin Takao, et al. "Intrafractional Baseline Shift or Drift of Lung Tumor Motion During Gated Radiation Therapy With a Real-Time Tumor-Tracking System", IJROBP. 2016; 94(1): 172-180.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、呼吸による標的の移動が時間の経過とともに変化する所謂ベースラインシフトが非特許文献1で報告されている。ベースラインシフトが発生した場合、従来の動体追跡照射では、呼吸周期の内で粒子線を照射できる割合が小さくなり、照射時間が増大する可能性がある。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、動体追跡照射において、ベースラインシフトが発生した場合でも照射時間の増大を抑制することができる動体追跡装置、放射線照射システム及び動体追跡方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、 追跡対象を撮像する撮像装置と、撮像装置によって撮像された撮像画像から追跡対象の位置を求める制御装置と、を備えた動体追跡装置であって、制御装置は、照射許可範囲内に追跡対象があるときに放射線の照射を許可する信号を生成し、追跡対象の位置に基づき照射許可範囲を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、動体追跡において、ベースラインシフト発生時の照射時間の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1に係る陽子線照射システムの全体構成図である。
図2】実施例1に係る動体追跡装置が撮像画像を取得する概念図である。
図3】実施例1に係る動体追跡装置が撮像画像からマーカーの位置を計算する手順を示す概念図である。
図4】実施例1に係る動体追跡装置によるゲート照射方法の一例を示す図である。
図5】実施例1に係る動体追跡装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図6】実施例1に係る動体追跡装置によるゲート照射方法の他の例を示す図である。
図7】実施例1に係る動体追跡装置におけるゲート中心位置の変更許可範囲を設定する際のコンソールの表示部分を示す図である。
図8】比較例におけるゲート照射方法を示す図である。
図9】実施例2に係る動体追跡装置におけるゲート照射方法の一例を示す図である。
図10】実施例3に係る動体追跡装置におけるゲート照射方法の一例を示す図である。
図11】実施例4に係る動体追跡装置におけるゲート照射方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0015】
なお、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0017】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【実施例0018】
実施例1に係る動体追跡装置および放射線照射システムを図1乃至図8を用いて説明する。
【0019】
本実施例の動体追跡装置は、X線照射システムや陽子線照射システムなどの放射線照射システムに適用することができる。本実施例では、陽子線照射システムを例にして図1を用いて説明する。
【0020】
本実施例である陽子線照射システムは、図1に示すように、陽子線発生装置10、ビーム輸送系20、照射ノズル22、動体追跡装置38、カウチ27、照射制御装置40を備える。標的に対して陽子線を照射するための陽子線照射装置は、陽子線発生装置10、ビーム輸送系20、照射ノズル22を備える。
【0021】
陽子線発生装置10は、イオン源12、ライナック13、シンクロトロン11を備える。シンクロトロン11は、偏向電磁石14、四極電磁石(図示せず)、高周波加速装置18、高周波出射装置19、出射用デフレクタ17を備える。イオン源12はライナック13に接続されており、ライナック13はシンクロトロン11に接続されている。陽子線発生装置10では、イオン源12より発生した陽子はライナック13により前段加速され、シンクロトロン11に入射する。シンクロトロン11で更に加速された陽子線はビーム輸送系20に出射される。
【0022】
ビーム輸送系20は、複数の偏向電磁石21と四極電磁石(図示せず)を備えており、シンクロトロン11と照射ノズル22に接続されている。また、ビーム輸送系20の一部と照射ノズル22は筒状のガントリー25に設置されており、ガントリー25と共に回転することができる。シンクロトロン11から出射された陽子線は、ビーム輸送系20内を通過しながら四極電磁石によって収束し、偏向電磁石21によって方向を変えて照射ノズル22に入射する。
【0023】
照射ノズル22は2台の走査電磁石、線量モニタ、位置モニタを備える。走査電磁石は、互いに直交する方向に設置されており、励磁電流によって磁場を発生させ、標的の位置においてビーム軸に垂直な面内の所望の位置に陽子線が到達するように陽子線を偏向することができる。線量モニタは照射された陽子線の量を計測する。位置モニタは陽子線が通過した位置を検出することができる。照射ノズル22を通過した陽子線は照射対象26内の標的に到達する。なお、癌などの患者を治療する場合、照射対象26は患者を表し、標的は腫瘍などを表す。
【0024】
照射対象26を載せるベッドをカウチ27と呼ぶ。カウチ27は照射制御装置40からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転することができる。これらの移動と回転により、照射対象26の位置を所望の位置に移動することができる。
【0025】
照射制御装置40は、陽子線発生装置10、ビーム輸送系20、照射ノズル22、動体追跡制御装置41、カウチ27、コンソール42等と接続されており、陽子線発生装置10、ビーム輸送系20、照射ノズル22等の機器を制御する。
【0026】
動体追跡装置38は、第1のX線撮像装置と、第2のX線撮像装置と、動体追跡制御装置41を備える。図2に示すように、第1のX線撮像装置は、照射対象26内のマーカー29(追跡対象)29の撮像画像を撮像する撮像用X線発生装置23AとX線測定器24Aを備える。第2のX線撮像装置は、マーカー29の撮像画像を撮像する撮像用X線発生装置23BとX線測定器24Bを備える。
【0027】
第1のX線撮像装置と第2のX線撮像装置は、それぞれのX線の経路が交差するように設置されている。なお、2対の撮像用X線発生装置23A,23BとX線測定器24A,24Bは、互いに直交する方向に設置されることが好ましいが、直交していなくてもよい。また、撮像用X線発生装置23A,23BおよびX線測定器24A,24Bは、必ずしもガントリー25の内部に配置されている必要はなく、天井や床などの固定された場所に配置されていても良い。
【0028】
動体追跡制御装置41は各種情報処理が可能な装置、一例としてコンピュータ等の情報処理装置から構成される。情報処理装置は、演算素子、記憶媒体及び通信インターフェースを有し、さらに、必要に応じてマウス、キーボード等の入力部、ディスプレイ等の表示部を有する。
【0029】
演算素子は、例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等である。記憶媒体は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶媒体等を有する。また、DVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせも記憶媒体として用いられる。その他、磁気テープメディアなどの公知の記憶媒体も記憶媒体として用いられる。
【0030】
記憶媒体には、ファームウェアなどのプログラムが格納されている。動体追跡装置38の動作開始時(例えば電源投入時)にファームウェア等のプログラムをこの記憶媒体から読み出して実行し、動体追跡装置38の全体制御を行う。また、記憶媒体には、プログラム以外にも、動体追跡装置38の各処理に必要なデータ等が格納されている。
【0031】
なお、本実施例の動体追跡装置38は、それぞれ、情報処理装置が通信ネットワークを介して通信可能に構成された、いわゆるクラウドにより構成されてもよい。
【0032】
動体追跡制御装置41は、第1のX線撮像装置および第2のX線撮像装置から入力される信号に基づいて、マーカー29の位置を計算し、その上で、マーカー29の位置に基づいて陽子線の出射を許可するか否かを判定し、陽子線の照射の可否の信号を照射制御装置40に対して送信する。
【0033】
より具体的には、動体追跡制御装置41は、図2に示すように、撮像用X線発生装置23Aから発生させたX線をマーカー29に照射し、マーカー29を通過したX線の2次元線量分布をX線測定器24Aによって測定することでマーカー29を撮像する。また、動体追跡制御装置41は、撮像用X線発生装置23Bから発生させたX線をマーカー29に照射し、マーカー29を通過したX線の2次元線量分布をX線測定器24Bによって測定することでマーカー29を撮像する。
【0034】
動体追跡制御装置41は、X線測定器24A,24Bによって取得した撮像画像から照射対象26内に埋め込まれたマーカー29の3次元位置を計算し、その結果に基づいて標的の位置を求める。また、求めた標的の位置がゲート範囲(照射許可範囲)に入っているか否かを判定し、標的の位置がゲート範囲に入っていると判定された場合はゲートオン信号を照射制御装置40に対して送信して出射を許可する。これに対し標的の位置がゲート範囲に入っていないと判定された場合は、ゲートオフ信号を送信して出射を許可しない。照射制御装置40では、動体追跡制御装置41が生成するゲートオン信号,ゲートオフ信号に基づき、陽子線の出射を制御する。
【0035】
第1のX線撮像装置および第2のX線撮像装置による撮像画像の取得は、例えば30Hzの一定間隔で実施される。取得した撮像画像には体内に埋め込まれたマーカー29が写っており、本実施例では、予め用意したマーカー29のテンプレート画像とのテンプレートマッチングによりマーカー29の照射対象26内における位置を特定する。撮像画像の全範囲を探索すると探索に時間を要するため、ひとつ前の撮像画像におけるマーカー29の位置を中心として予め定められた大きさの範囲内(以後、探索領域とも記載)でのみマーカー29の位置を探索する。
【0036】
図3にテンプレートマッチングにより検出したマーカー29のX線測定器24A上における位置と撮像用X線発生装置23Aとを結ぶ線28Aおよびマーカー29のX線測定器24B上における位置と撮像用X線発生装置23Bとを結ぶ線28Bを示す。この2本の線28A,28Bは、理想的には1点で交わり、その交点がマーカー29の存在する位置である。しかし、実際には、テンプレートマッチングの精度やX線撮像装置の設置誤差などの影響から、通常2本の線28A,28Bは交わらずにねじれの関係にある。このねじれの関係にある2本の線28A,28Bが最も接近する位置には共通の垂線を引くことができる。この共通の垂線を共通垂線と呼ぶ。そして、この共通垂線の中点をマーカー29の位置としている。
【0037】
ここで、少なくとも片方の撮像画像上でマーカー29を正しく検出していないときは共通垂線が長くなる。そして共通垂線30の長さが予め設定した閾値を超えた場合はマーカー29を正確に検出できていない可能性が高いとして、動体追跡制御装置41はマーカー29の位置がゲート範囲内にある場合でもゲートオフ信号を照射制御装置40に送信して陽子線の照射を停止させる。
【0038】
本実施例の動体追跡制御装置41の特徴は、ゲート範囲の設定方法にある。
【0039】
図4を用いて本実施例のゲート照射方法を説明する。
【0040】
動体追跡制御装置41はマーカー29の位置の情報からベースラインの位置を逐次算出する。ここで、ベースラインとは、例えば最呼気時のマーカー29の位置など、マーカー29の軌道特定の位相におけるマーカー位置を意味する。更に、動体追跡制御装置41はそれまでのベースライン位置から現在のベースラインの位置を予測し、予測されたベースラインの位置にゲート中心位置を設定するとともに、予測されたベースラインの位置を照射制御装置40に送信する。
【0041】
照射制御装置40は、予め設定された基準マーカー位置から現在のベースラインの位置の変位を元の照射位置に加算して新たな照射位置を算出し、新たな照射位置に相当する励磁電流を走査電磁石に印加する。元の照射位置から新たな照射位置への補正分に相当する走査電磁石の補正励磁電流は、図4に示した通り、ベースライン位置の変位に照射位置が追随する様に印加される。
【0042】
ベースライン位置の予測の方法としては、複数の方法を採用することができる。例えば、直前の周期のベースライン位置を現在のベースライン位置とする方法、直前の数周期分のベースライン位置から外挿により現在のベースライン位置を算出する方法、直前の数周期分のマーカー軌道を関数あてはめすることにより現在のベースライン位置を算出する方法などを採用することができる。
【0043】
図5は、本実施例の動体追跡制御装置41の動作を説明するためのフローチャートである。
【0044】
まず、動体追跡制御装置41は、マーカー29の照射対象26内における位置を特定する(ステップS100)。次いで、動体追跡制御装置41は、マーカー29の位置からベースラインの位置を算出する(ステップS101)。さらに、動体追跡制御装置41は、それまでのベースラインの位置から現在のベースラインの位置を予測し、予測されたベースラインの位置にゲート中心位置を設定するとともに、予測されたベースラインの位置を照射制御装置40に送信する(ステップS102)。
【0045】
照射制御装置40は、予め設定された基準マーカー位置から現在のベースラインの位置の変位を元の照射位置に加算して新たな照射位置を算出し、元の照射位置から新たな照射位置への補正分に相当する走査電磁石の補正励磁電流を決定し(ステップS103)、励磁電流を決定する(ステップS104)。
【0046】
そして、照射制御装置40は、動体追跡制御装置41からゲートオン信号が出力されていることを確認して照射許可判定を行い(ステップS105)、標的に対して陽子線の照射を行う(ステップS106)。
【0047】
ここで、ベースライン位置の変位が予め設定されたゲート中心位置変更許可範囲を超過した場合、図6に示す通り、ゲート中心位置はゲート中心位置変更許可範囲の中で最もベースライン位置に近い位置に設定される。
【0048】
ゲート中心位置変更許可範囲は予め設定される。コンソール42は図7に示す入力画面を表示し、入力されたゲート中心位置変更許可範囲を動体追跡制御装置41に送信する。ゲート中心位置変更許可範囲は3次元空間の領域として定義される。
【0049】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0050】
図8を用いて従来のゲート照射方法を説明する。従来の方法では、ゲート中心位置とゲート幅に基づきゲート範囲は決定され、ゲート中心位置は予め設定された一定値となっている。そのため、ベースラインシフトが発生した場合、ゲートオン状態の時間が短くなり照射時間が増大する場合がある。
【0051】
また、従来のゲート照射方法では、ベースラインシフトが発生した場合、オペレータは一度、陽子線の照射を停止し、マーカー位置がゲート範囲に入るようにカウチ27の位置を変更する運用が想定される。その場合、陽子線の停止およびカウチ27の移動に時間を要する。更に、カウチ27の移動前後で、標的に対する陽子線の照射位置が変化する為、陽子線の線量分布が不連続になる可能性がある。
【0052】
一方、本実施例では、図4に示した通り、ベースラインシフトが発生してもゲートオン状態の割合が低下せず、照射時間の増大が抑制される。更に、陽子線照射位置が逐次補正されるため、線量分布の不連続性も抑制される。
【実施例0053】
実施例2の動体追跡装置38および放射線照射システムを図9を用いて説明する。図1から図7と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。
【0054】
本実施例の動体追跡装置38および放射線照射システムと実施例1との違いは、陽子線の照射位置の補正方法にある。動体追跡制御装置41は逐次、マーカー位置を照射制御装置40に送信する。照射制御装置40は、予め設定された基準マーカー位置から現在のマーカー29の位置の変位を元の照射位置に加算し新たな照射位置を算出し、新たな照射位置に相当する励磁電流を走査電磁石に印加する。元の照射位置から新たな照射位置への補正分に相当する走査電磁石の補正励磁電流は、図8に示した通り、マーカー位置の変位に照射位置が追随する様に印加される。
【0055】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0056】
実施例1で示した、ベースラインシフト発生時の照射時間の増大抑制に加えて、本実施例では、マーカー29の位置に追従して陽子線を照射できるためより高精度な照射が可能となる。
【実施例0057】
実施例3の動体追跡装置38および放射線照射システムを図10を用いて説明する。図1から図6と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。
【0058】
本実施例の動体追跡装置38および放射線照射システムと実施例1との違いは、陽子線の照射位置の補正方法にある。動体追跡制御装置41は逐次、ベースライン位置を照射制御装置40に送信する。照射許可状態がゲートオンになったら、照射制御装置40は、予め設定された基準マーカー位置からその時のベースライン位置の変位を元の照射位置に加算し新たな照射位置を算出し、新たな照射位置に相当する励磁電流を走査電磁石に印加する。ゲートオン状態が維持されている間は照射位置の補正量は一定とする。元の照射位置から新たな照射位置への補正分に相当する走査電磁石の補正励磁電流は、図9に示した通り、ベースラインシフト位置の変位に追随する様に、かつゲートオン時は一定の値が印加される。
【0059】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0060】
実施例1で示した、ベースラインシフト発生時の照射時間の増大抑制に加えて、本実施例では、陽子線照射位置の補正頻度を低下することができる。補正頻度の低下により、補正値の設定から陽子線照射までの時間を増大することが可能で、陽子線照射までに補正値の検証を実施することでより安全性の高い照射が実現できる。
【実施例0061】
実施例4の動体追跡装置38および放射線照射システムを図11を用いて説明する。図1から図6と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。
【0062】
本実施例の動体追跡装置38および放射線照射システムと実施例1との違いは、ベースラインの設定方法にある。動体追跡制御装置41は、陽子線の照射開始前に、次のようにベースラインを設定する。まず、数周期分のマーカー29の軌道を計測し、1周期分の軌道をモデル化する。次に、モデル化された軌道の内、基準マーカー位置に最も近接する位置を算出し、その位置をベースラインに設定するとともに、その位置を示す軌道モデル上の指標を算出する。軌道モデル上の指標とは、正弦波関数の位相など、軌道モデル上の点を一意に示す数値である。
【0063】
陽子線の照射開始後は、逐次、マーカー29の軌道をモデル化し、最初に決定した指標と一致する位置をその時のベースラインと決定する。ベースラインの予測とゲート中心位置の更新の方法は実施例1と同様である。
【0064】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0065】
実施例1で示した、ベースラインシフト発生時の照射時間の増大抑制に加えて、本実施例では、より高精度な照射が実現できる。
【0066】
患者の緊張度合いや、体重の増減、臓器の充填度合いなどに応じて体内構造は基準マーカー位置を設定した時と比較して変化しうる。本実施例では、基準マーカー位置に最も近接する軌道をベースラインに設定することで、基準マーカー位置の設定時の体内構造に近い状態をベースラインに設定することができる。これにより、基準マーカー位置の設定時の体内構造に近い状態で陽子線を照射することが可能となり、より高精度な照射が可能となる。
【0067】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0068】
例えば、上述の実施例では2台のX線撮像装置を用いて標的を撮像する場合を例に説明したが、X線撮像装置は必ずしも2台である必要はない。例えば、1台のX線撮像装置を移動させることによって、追跡対象の撮像画像を異なる2方向から撮像してもよい。また、X線撮像装置でなく、超音波やMRIを用いて撮像することも可能である。
【0069】
また、上述の実施例では球形のマーカー29の位置に基づいてゲート照射を実施する場合を例に説明したが、マーカー29の形状はコイル状であってもよい。また、追跡対象をマーカー29とした場合について説明したが、追跡対象はマーカー29に限られず、マーカー29を使用することなく標的を直接検出してもよい。または、追跡対象は照射対象26内の高密度領域、例えば肋骨等の骨などとすることができる。
【0070】
更に、上述の実施例では陽子線照射システムを例に説明したが、本発明の放射線照射システムは、炭素線などの陽子線以外の粒子線、X線、電子線などを照射するシステムに対しても同様に適用することができる。例えば、X線を用いた場合、放射線照射装置はX線発生装置、ビーム輸送系、照射ノズルから構成される。
【0071】
また、粒子線照射装置の場合、上述の実施例で説明したスポットスキャニング法の他、粒子線を停止することなく細い粒子線を照射するラスタースキャニング法やラインスキャニング法にも同様に本発明は適用することができる。また、スキャニング法の他、ワブラー法や二重散乱体法など粒子線の分布を広げた後、コリメータやボーラスを用いて標的の形状に合わせた線量分布を形成する照射方法にも本発明を適用することができる。
【0072】
また、粒子線照射システムの場合、粒子線発生装置には上述の実施例で説明したシンクロトロン11のほかにサイクロトロンであってもよい。
【0073】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0074】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10…陽子線発生装置 11…シンクロトロン 12…イオン源 13…ライナック 14…偏向電磁石 17…出射用デフレクタ 18…高周波加速装置 19…高周波出射装置 20…ビーム輸送系 21…偏向電磁石 22…照射ノズル 23A,23B…撮像用X線発生装置 24A,24B…X線測定器 25…ガントリー 26…照射対象 27…カウチ 28A,28B…線 29…マーカー(追跡対象) 30…共通垂線 38…動体追跡装置 40…照射制御装置 41…動体追跡制御装置 43…コンソール

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11