IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧

<>
  • 特開-構造物 図1
  • 特開-構造物 図2
  • 特開-構造物 図3
  • 特開-構造物 図4
  • 特開-構造物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085078
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】構造物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/342 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
E04B1/342 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199563
(22)【出願日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 悠磨
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 隆
(57)【要約】
【課題】所定階の天井高を高くしつつ、地震時に、コア部が負担する曲げモーメントMを低減することを目的とする。
【解決手段】構造物10は、互いに対向するとともに内部梁が架設されない一対の第一外壁32A,32Bと、一対の第一外壁32A,32Bに架設されるスラブ40と、を有する無梁スラブ階30と、無梁スラブ階30の上に設けられる曲げ伝達階60と、コア壁52を含み、無梁スラブ階30と曲げ伝達階60とに亘るコア部50と、を備え、曲げ伝達階60は、コア部50から第一外壁32A,32B側へ延出する下段スラブ70と、下段スラブ70よりも上側に配置され、コア部50から第一外壁32A,32B側へ延出する中段スラブ72、及び上段スラブ74と、下段スラブ70、中段スラブ72、及び上段スラブ74の延出方向の先端部70T,72T,74Tを接続するとともに、第一外壁32A,32Bに支持される第一傾斜外壁64と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向するとともに内部梁が架設されない一対の外周躯体と、一対の前記外周躯体に架設されるスラブと、を有する無梁スラブ階と、
前記無梁スラブ階の上に設けられる曲げ伝達階と、
コア壁、シャフト壁、及び柱の少なくとも一つを含み、前記無梁スラブ階と前記曲げ伝達階とに亘る耐震部材と、
を備え、
前記曲げ伝達階は、
前記耐震部材から前記外周躯体側へ延出する第一スラブと、
前記第一スラブよりも上側に配置され、前記耐震部材から前記外周躯体側へ延出する第二スラブと、
前記第一スラブ及び前記第二スラブの延出方向の先端部を接続するとともに、前記外周躯体に支持される曲げ伝達部材と、
を有する構造物。
【請求項2】
前記第二スラブの前記先端部は、前記第一スラブの前記先端部よりも前記耐震部材側に配置され、
前記曲げ伝達部材は、前記第二スラブの前記先端部と前記第一スラブの前記先端部とを接続する傾斜コンクリート外壁を有する、
請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記曲げ伝達階は、角錐状又は角錐台状に形成され、
前記曲げ伝達階における前記外周躯体側の側面は、前記傾斜コンクリート外壁としての第一傾斜コンクリート外壁によって形成され、
前記第一傾斜コンクリート外壁と隣り合う前記曲げ伝達階の他の側面は、第二傾斜コンクリート外壁によって形成される、
請求項2に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コア壁、シャフト壁と、トップガーダとを備える構造物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、北側斜線制限に対応して傾斜する外壁部又は壁パネルを備える構造物が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-18918号公報
【特許文献2】特開平11-29984号公報
【特許文献3】特開2001-90199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、コア部を有する構造物の所定階において、天井高を高くするために、スラブを支持する梁を省略することが考えられる。
【0006】
しかしながら、所定階の梁を省略すると、地震時に、コア部に作用する曲げモーメントが、所定階の梁を介して外壁等の外周躯体に伝達されない。そのため、地震時に、コア部が負担する曲げモーメントが大きくなり、当該コア部が破損等する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、所定階の天井高を高くしつつ、地震時に、コア部が負担する曲げモーメントを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の構造物は、互いに対向するとともに内部梁が架設されない一対の外周躯体と、一対の前記外周躯体に架設されるスラブと、を有する無梁スラブ階と、前記無梁スラブ階の上に設けられる曲げ伝達階と、コア壁、シャフト壁、及び柱の少なくとも一つを含み、前記無梁スラブ階と前記曲げ伝達階とに亘る耐震部材と、を備え、前記曲げ伝達階は、前記耐震部材から前記外周躯体側へ延出する第一スラブと、前記第一スラブよりも上側に配置され、前記耐震部材から前記外周躯体側へ延出する第二スラブと、前記第一スラブ及び前記第二スラブの延出方向の先端部を接続するとともに、前記外周躯体に支持される曲げ伝達部材と、を有する。
【0009】
請求項1に係る構造物によれば、無梁スラブ階と、曲げ伝達階と、耐震部材とを備える。無梁スラブ階は、一対の外周躯体と、スラブとを有する。一対の外周躯体は、互いに対向している。また、一対の外周躯体には、内部梁が架設されていない。この一対の外周躯体には、スラブが架設される。つまり、スラブは、内部梁に支持されない無梁スラブとされる。
【0010】
これにより、本発明では、一対の外周躯体に内部梁が架設される場合と比較して、無梁スラブ階の天井高を高くすることができる。
【0011】
また、無梁スラブ階の上には、曲げ伝達階が設けられる。この無梁スラブ階と曲げ伝達階とに亘って耐震部材が設けられる。耐震部材は、コア壁、シャフト壁、及び柱の少なくとも一つを含む。
【0012】
ここで、曲げ伝達階は、第一スラブと、第二スラブと、曲げ伝達部材とを有する。第一スラブは、耐震部材から外周躯体側に延出する。この第一スラブの上側には、第二スラブが配置される。第二スラブは、耐震部材から外周躯体側へ延出する。これらの第一スラブ及び第二スラブの延出方向の先端部同士は、曲げ伝達部材によって接続される。この曲げ伝達部材は、外周躯体に支持される。
【0013】
これにより、地震時に、耐震部材に作用した曲げモーメントは、曲げ伝達階において、耐震部材から第一スラブ、第二スラブ、及び曲げ伝達部材を介して無梁スラブ階の外周躯体に伝達される。換言すると、地震時に、耐震部材に曲げモーメントが作用すると、無梁スラブ階の外周躯体から曲げ伝達部材に曲げ戻し力が作用する。
【0014】
したがって、本発明では、無梁スラブ階の天井高を高くしつつ、地震時に、耐震部材が負担する曲げモーメントを低減することができる。
【0015】
請求項2に記載の構造物は、請求項1に記載の構造物において、前記第二スラブの前記先端部は、前記第一スラブの前記先端部よりも前記耐震部材側に配置され、前記曲げ伝達部材は、前記第二スラブの前記先端部と前記第一スラブの前記先端部とを接続する傾斜コンクリート外壁を有する。
【0016】
請求項2に係る構造物によれば、第二スラブの先端部は、第一スラブの先端部よりも耐震部材側に配置される。また、曲げ伝達部材は、傾斜コンクリート外壁を有する。この傾斜コンクリート外壁によって、第二スラブの先端部と第一スラブの先端部とが接続される。
【0017】
これにより、第一スラブ、第二スラブ、及び傾斜コンクリート外壁によって、耐震部材の剛性が高められる。そのため、地震時に、耐震部材に作用した曲げモーメントが、第一スラブ、第二スラブ、及び傾斜コンクリート外壁を介して、無梁スラブ階の外周躯体に効率的に伝達される。
【0018】
したがって、地震時に、耐震部材が負担する曲げモーメントがさらに低減される。
【0019】
請求項3に記載の構造物は、請求項2に記載の構造物において、前記曲げ伝達階は、角錐状又は角錐台状に形成され、前記曲げ伝達階における前記外周躯体側の側面は、前記傾斜コンクリート外壁としての第一傾斜コンクリート外壁によって形成され、前記第一傾斜コンクリート外壁と隣り合う前記曲げ伝達階の他の側面は、第二傾斜コンクリート外壁によって形成される。
【0020】
請求項3に係る構造物によれば、曲げ伝達階は、角錐状又は角錐台状に形成される。この曲げ伝達階における外周躯体側の側面は、傾斜コンクリート外壁としての第一傾斜コンクリート外壁によって形成される。また、第一傾斜コンクリート外壁と隣り合う伝達階の他の側面は、第二傾斜コンクリート外壁によって形成される。
【0021】
これにより、第一傾斜コンクリート外壁、及び第二傾斜コンクリート外壁によって、耐震部材の剛性がさらに高められる。そのため、地震時に、耐震部材に作用した曲げモーメントが、第一スラブ、第二スラブ、第一傾斜コンクリート外壁、及び第二傾斜コンクリート外壁を介して、無梁スラブ階の外周躯体に効率的に伝達される。
【0022】
したがって、地震時に、耐震部材が負担する曲げモーメントがさらに低減される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、地震時に、コア部が負担する曲げモーメントを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態に係る構造物を示す斜視図である。
図2】一実施形態に係る構造物を示す斜視図である。
図3図1及び図2に示される無梁スラブ階の閉断面図である。
図4】一実施形態に係る構造物の縦断面図である。
図5図4の5-5線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る構造物について説明する。
【0026】
(構造物)
図1及び図2には、本実施形態に係る構造物10が示されている。構造物10は、一例として、狭小敷地に建てられた複数階の中層建物とされる。
【0027】
図3に示されるように、構造物10は、平面視にて、矩形状に形成されている。この構造物10は、一例として、壁式構造で、かつ、偏心コア構造とされている。
【0028】
図4に示されるように、構造物10は、基礎20と、基礎20上に設けられた無梁スラブ階30と、無梁スラブ階30の上に設けられた曲げ伝達階60と、基礎20から立ち上げられ、無梁スラブ階30と曲げ伝達階60とに亘るコア部50とを備えている。
【0029】
(基礎)
基礎20は、例えば、直接基礎とされている。また、基礎20は、基礎スラブ等を有して構成されている。この基礎20の上面20Uによって、構造物10の1階の床が形成されている。なお、構造物10の基礎20は、直接基礎に限らず、例えば、杭基礎等でも良い。
【0030】
(無梁スラブ階)
無梁スラブ階30は、例えば、構造物10の低層階(本実施形態では、2階~3階)を構成している。図3に示されるように、無梁スラブ階30は、平面視にて、矩形状に形成されている。この無梁スラブ階30は、一対の第一外壁32A,32Bと、第二外壁34と、スラブ40とを有している。なお、一対の第一外壁32A,32Bは、一対の外周躯体の一例である。
【0031】
一対の第一外壁(第一コンクリート外壁)32A,32Bは、鉄筋コンクリート造とされており、所定方向(矢印X方向)に互いに対向している。この一対の第一外壁32A,32Bは、幅方向(矢印Y方向)の地震力(水平力)を負担する耐震壁としても機能する。
【0032】
一対の第一外壁32A,32Bには、スラブ40が架設されている。スラブ40は、鉄筋コンクリート造とされており、平面視にて、矩形状に形成されている。このスラブ40の両端部に沿って、一対の第一外壁32A,32Bがそれぞれ設けられている。
【0033】
ここで、一対の第一外壁32A,32Bには、スラブ40を支持する内部梁が架設されてない。そのため、スラブ40は、内部梁に支持されない無梁スラブとされている。この対策として、スラブ40は、図5に示されるように、プレストレススラブとされている。
【0034】
具体的には、スラブ40の内部には、一対の第一外壁32A,32B(図3参照)の対向方向に延びるとともに、緊張力が付与された複数のPC鋼材42が埋設されている。これらのPC鋼材42によって、スラブ40のたわみ量が低減されている。
【0035】
なお、ここでいう「内部梁」とは、無梁スラブ階30の外周に沿って配置される外周梁以外の梁を意味する。また、スラブ40は、プレストレススラブに限らず、例えば、ボイドスラブでも良い。
【0036】
図3に示されるように、一対の第一外壁32A,32Bにおける幅方向(矢印X方向)の一端部同士は、第二外壁34によって接続されている。第二外壁(第二コンクリート外壁)34は、鉄筋コンクリート造とされている。また、第二外壁34は、一対の第一外壁32A,32Bの対向方向(矢印X方向)に沿って配置されている。この第二外壁34は、一対の第一外壁32A,32Bの対向方向の地震力(水平力)を負担する耐震壁としても機能する。
【0037】
一対の第一外壁32A,32Bにおける幅方向の他端部間には、開口36が形成されている。開口36は、第一外壁32A,32Bの他端部間に亘って形成されている。この開口36には、ガラス窓38が設けられている。つまり、無梁スラブ階30の一面は、ガラス張りとされている。
【0038】
このように無梁スラブ階30は、3面に外壁(第一外壁32A,32B及び第二外壁34)が設けられ、残り1面が開口されている。
【0039】
なお、開口36の大きさ及び形状は、適宜変更可能である。また、無梁スラブ階30の一面には、開口36に換えて外壁を設けても良い。
【0040】
(コア部)
図3に示されるように、構造物10には、コア部50が設けられている。コア部50は、一対の第一外壁32A,32Bの間で、かつ、一方の第一外壁32A側に寄せて配置されている。つまり、コア部50は、偏心コアとされている。なお、コア部50は、耐震部材の一例である。
【0041】
コア部50は、平断面視にて、矩形の筒状(枠状)に形成されており、例えば、エレベータシャフトや設備シャフトとして用いられる。このコア部50は、鉄筋コンクリート造の4枚のコア壁52を有し、主として、一対の第一外壁32A,32Bの対向方向の地震力(水平力)を負担する。
【0042】
なお、コア部50の形状は、筒状の閉断面形状に限らず、開断面形状でも良い。
【0043】
図4に示されるように、コア部50は、基礎20から一方の第一外壁32Aに沿って上方へ延出し、無梁スラブ階30を上下方向に貫通している。また、コア部50は、後述する曲げ伝達階60の外壁62に沿って下段スラブ70及び中段スラブ72を上下方向に貫通し、その上端部が後述する曲げ伝達階60の上段スラブ74に達している。
【0044】
(曲げ伝達階)
図1及び図2に示されるように、曲げ伝達階60は、北側斜線制限又は道路斜線制限に応じた角錐状に形成されている。より具体的には、曲げ伝達階60は、四角錘状に形成されている。この曲げ伝達階60は、構造物10の最上階を構成するとともに、構造物10の屋根も構成している。
【0045】
曲げ伝達階60は、外壁62、第一傾斜外壁64、及び2つの第二傾斜外壁66を有している。外壁62、第一傾斜外壁64、及び2つの第二傾斜外壁66は、鉄筋コンクリート造とされており、四角錘状の曲げ伝達階60の各側面を形成している。各外壁62、第一傾斜外壁64、及び第二傾斜外壁66は、厚み方向から見て、上方へ向かうに従って幅が狭くなる三角形状に形成されている。
【0046】
なお、第一傾斜外壁64は、第一傾斜コンクリート外壁の一例であり、第二傾斜外壁66は、第二傾斜コンクリート外壁の一例である。
【0047】
図4に示されるように、外壁(コンクリート外壁)62は、無梁スラブ階30の一方の第一外壁32Aの上端部から上方へ延出している。この外壁62の内壁面に沿って、コア部50が設けられている。また、外壁62と反対側には、第一傾斜外壁64が配置されている。
【0048】
第一傾斜外壁(第一傾斜コンクリート外壁)64は、曲げ伝達階60における他方の第一外壁32B側の側面(傾斜側面)を形成している。この第一傾斜外壁64は、無梁スラブ階30の他方の第一外壁32Bの上端部から上方、かつ、内側(第一外壁32A側)へ延出している。換言すると、第一傾斜外壁64は、上方へ向かって曲げ伝達階60の内側に傾斜されている。
【0049】
図1及び図2に示されるように、2つの第二傾斜外壁(第二傾斜コンクリート外壁)66は、第一傾斜外壁64の両側に配置されており、第一傾斜外壁64と隣り合う曲げ伝達階60の他の側面(傾斜側面)を形成している。一方の第二傾斜外壁66は、無梁スラブ階30の第二外壁34の上端部から上方、かつ、内側(開口36側)へ延出している。換言すると、一方の第二傾斜外壁66は、上方へ向かって曲げ伝達階60の内側に傾斜されている。
【0050】
他方の第二傾斜外壁66は、後述する下段スラブ70の端部から上方、かつ、内側(第二外壁34側)へ延出している。換言すると、他方の第二傾斜外壁66は、上方へ向かって曲げ伝達階60の内側に傾斜されている。
【0051】
なお、外壁62、第一傾斜外壁64、及び第二傾斜外壁66には、窓(開口)が形成されても良い。
【0052】
図4に示されるように、曲げ伝達階60は、複数階(本実施形態では、4階~5階)で構成されている。この曲げ伝達階60は、鉄筋コンクリート造の複数のスラブ70,72,74を有している。複数のスラブ70,72,74は、上下方向の間隔を空けて配置されている。
【0053】
なお、以下では、説明の便宜上、複数のスラブ70,72,74を下から順に、下段スラブ70、中段スラブ72、上段スラブ74という。また、下段スラブ70は、第一スラブの一例であり、中段スラブ72、及び上段スラブ74は、第二スラブの一例である。
【0054】
下段スラブ70は、無梁スラブ階30と曲げ伝達階60との境界に配置された境界スラブとされている。つまり、下段スラブ70は、無梁スラブ階30の最上階の天井スラブを形成するとともに、曲げ伝達階60の最下階の床スラブを形成している。
【0055】
下段スラブ70は、無梁スラブ階30のスラブ40と同様に、一対の第一外壁32A,32Bに架設されている。この下段スラブ70は、コア部50から他方の第一外壁32B側に延出するとともに、延出方向の先端部70Tが他方の第一外壁32Bの上端部、及び第一傾斜外壁64の下端部に接続されている。
【0056】
また、下段スラブ70は、スラブ40と同様に、内部梁に支持されない無梁スラブで、かつ、プレストレススラブ(又はボイドスラブ)とされている。これにより、無梁スラブ階30の最上階の天井高が高くなっている。
【0057】
中段スラブ72は、曲げ伝達階60の最上階の床スラブとされている。この中段スラブ72は、曲げ伝達階60の外壁62と第一傾斜外壁64とに架設されている。また、中段スラブ72は、コア部50から他方の第一外壁32B側(第一傾斜外壁64側)へ延出している。この中段スラブ72の延出方向の先端部72Tは、下段スラブ70の先端部70Tよりもコア部50側に配置され、第一傾斜外壁64の中間部に接続されている。
【0058】
上段スラブ74は、曲げ伝達階60の最上階の天井スラブとされている。この上段スラブ74は、曲げ伝達階60の外壁62と第一傾斜外壁64とに架設されている。また、上段スラブ74は、コア部50から他方の第一外壁32B側(第一傾斜外壁64側)へ延出している。この上段スラブ74の延出方向の先端部74Tは、中段スラブ72の先端部72Tよりもコア部50側に配置され、第一傾斜外壁64の中間部に接続されている。
【0059】
なお、本実施形態では、中段スラブ72、及び上段スラブ74は、外壁62と第一傾斜外壁64とに架設された内部梁76に支持されている。そのため、中段スラブ72、及び上段スラブ74は、プレストレススラブ(又はボイドスラブ)ではなく、通常のスラブとされている。しかし、内部梁76を省略し、中段スラブ72、及び上段スラブ74をプレストレススラブ(又はボイドスラブ)とすることも可能である。
【0060】
ここで、第一傾斜外壁64は、下段スラブ70、中段スラブ72、及び上段スラブ74の先端部70T,72T,74Tを接続している。これらの第一傾斜外壁64、下段スラブ70、中段スラブ72、及び上段スラブ74によって、曲げ伝達階60におけるコア部50の剛性が高められている。
【0061】
また、第一傾斜外壁64の下端部は、無梁スラブ階30における他方の第一外壁32Bに支持されている。これにより、地震時に、コア部50に作用した曲げモーメントMが、第一傾斜外壁64を介して無梁スラブ階30における他方の第一外壁32Bに伝達される。
【0062】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0063】
図4に示されるように、本実施形態に係る構造物10によれば、無梁スラブ階30と、曲げ伝達階60と、コア部50とを備えている。無梁スラブ階30は、一対の第一外壁32A,32Bと、スラブ40とを有している。
【0064】
一対の第一外壁32A,32Bは、互いに対向している。この一対の第一外壁32A,32Bには、内部梁が架設されずに、スラブ40が架設されている。つまり、スラブ40は、内部梁に支持されない無梁スラブとされている。
【0065】
これにより、本実施形態では、一対の第一外壁32A,32Bに内部梁が架設される場合と比較して、無梁スラブ階30の天井高を高くすることができる。
【0066】
また、無梁スラブ階30の上には、曲げ伝達階60が設けられている。この無梁スラブ階30と曲げ伝達階60とに亘ってコア部50が設けられている。
【0067】
ここで、曲げ伝達階60は、下段スラブ70、中段スラブ72、及び上段スラブ74を有している。下段スラブ70、中段スラブ72、及び上段スラブ74は、上下方向に間隔を空けて配置されるとともに、コア部50から他方の第一外壁32B側へ延出している。
【0068】
また、下段スラブ70、中段スラブ72、及び上段スラブ74の先端部70T,72T,74Tは、第一傾斜外壁64によって接続されている。これらの下段スラブ70、中段スラブ72、上段スラブ74、及び第一傾斜外壁64によって、曲げ伝達階60におけるコア部50の剛性が高められている。
【0069】
また、第一傾斜外壁64の下端部は、無梁スラブ階30における他方の第一外壁32Bの上端部に支持されている。これにより、地震時に、コア部50に作用した曲げモーメントMが、下段スラブ70、中段スラブ72、上段スラブ74、及び第一傾斜外壁64を介して、無梁スラブ階30における他方の第一外壁32Bに伝達される。換言すると、地震時に、コア部50に曲げモーメントMが作用すると、無梁スラブ階30における他方の第一外壁32Bから、曲げ伝達階60の第一傾斜外壁64の下端部に曲げ戻し力Fが作用する。
【0070】
このように下段スラブ70、中段スラブ72、上段スラブ74、及び第一傾斜外壁64は、地震時に、コア部50に作用する曲げモーメントMを、無梁スラブ階30における他方の第一外壁32Bに伝達するアウトリガーとして機能する。
【0071】
したがって、本実施形態では、無梁スラブ階30の天井高を高くしつつ、地震時に、コア部50が負担する曲げモーメントMを低減することができる。さらに、本実施形態では、無梁スラブ階30の一面に大きな開口36を形成することができる。
【0072】
また、曲げ伝達階60の第一傾斜外壁64は、第一外壁32Bの上端部から曲げ伝達階60の内側へ傾斜している。これにより、本実施形態では、第一傾斜外壁64が傾斜しない場合と比較して、コア部50から第一外壁32Bの上端部までの曲げモーメントMの伝達経路が短くなる。
【0073】
したがって、本実施形態では、第一傾斜外壁64によって北側斜線制限及び道路斜線制限に対応しつつ、地震時に、コア部50に作用する曲げモーメントMを、第一外壁32Bの上端部に効率的に伝達することができる。
【0074】
さらに、曲げ伝達階60は、角錐状に形成されている。この曲げ伝達階60における他方の第一外壁32B側の側面は、第一傾斜外壁64によって形成されている。また、第一傾斜外壁64と隣り合う曲げ伝達階60の他の2つの側面は、第二傾斜外壁66によって形成されている。
【0075】
これにより、第一傾斜外壁64、及び第二傾斜外壁66によって、コア部50の剛性がさらに高められる。したがって、第一傾斜外壁64、及び第二傾斜外壁66によって北側斜線制限及び道路斜線制限に対応しつつ、地震時に、コア部50に作用する曲げモーメントMを、第一外壁32Bの上端部にさらに効率的に伝達することができる。
【0076】
また、コア部50は、一対の第一外壁32A,32Bのうち、一方の第一外壁32A側に寄せて配置されている。つまり、コア部50は、偏心コアとされている。これにより、本実施形態では、コア部50がセンターコアの場合と比較して、構造物10の有効スペースを広げることができる。
【0077】
さらに、構造物10は、壁式構造とされている。これにより、本実施形態では、構造物10が架構構造(ラーメン架構構造)の場合と比較して、構造物10の剛性を高めることができる。
【0078】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0079】
上記実施形態では、曲げ伝達階60の下段スラブ70が第一スラブとされ、中段スラブ72及び上段スラブ74が第二スラブとされる。しかし、例えば、下段スラブ70が第一スラブとされ、中段スラブ72及び上段スラブ74の一方が第二スラブとされても良いし、中段スラブ72が第一スラブとされ、上段スラブ74が第二スラブとされても良い。また、曲げ伝達階60には、少なくとも1つの第一スラブ、及び少なくとも1つの第二スラブがあれば良い。
【0080】
また、上記実施形態では、曲げ伝達階60が複数階で構成されている。しかし、曲げ伝達階は、1つの階で構成されても良い。これと同様に、上記実施形態では、無梁スラブ階30が複数階で構成されている。しかし、無梁スラブ階は、1つの階で構成されても良い。
【0081】
また、上記実施形態では、曲げ伝達部材が、第一傾斜外壁64とされる。しかし、曲げ伝達部材は、第一傾斜外壁64に限らない。例えば、曲げ伝達階が壁式構造ではなく、架構式構造の場合、曲げ伝達部材は、曲げ伝達階60における第一外壁32B側の側面に沿って配置されるブレースや鉄骨フレーム等でも良い。
【0082】
また、上記実施形態では、曲げ伝達階60は、角錐状に形成されている。しかし、曲げ伝達階60は、角錐状に限らず、例えば、角錐台状に形成されても良いし、直方体状に形成されても良い。なお、曲げ伝達階60が直方体状の場合は、例えば、無梁スラブ階30における他方の第一外壁32B上に設けられる外壁(コンクリート外壁)が、曲げ伝達部材に対応する。
【0083】
また、上記実施形態では、無梁スラブ階30の一対の外周躯体が、一対の第一外壁32A,32Bとされる。しかし、一対の外周躯体は、一対の第一外壁32A,32Bに限らない。例えば、無梁スラブ階が壁式構造ではなく、架構式構造の場合、一対の外周躯体は、例えば、互いに対向する柱梁架構でも良い。
【0084】
また、上記実施形態のコア部50は、偏心コアとされる。しかし、コア部は、偏心コアに限らず、例えば、センターコアでも良い。この場合、地震時に、コア部に作用する曲げモーメントは、コア部から、第一スラブ、第二スラブ、及び曲げ伝達部材を介して、無梁スラブ階の一対の外周躯体にそれぞれが伝達される。
【0085】
また、上記実施形態では、耐震部材がコア部50とされる。しかし、耐震部材は、コア部50に限らず、コア壁、シャフト壁、及び柱の少なくとも一つを含んで形成することができる。
【0086】
また、上記実施形態は、狭小敷地に建てられた中層建物に限らず、低層建物や高層建物にも適用可能である。また、上記実施形態は、鉄筋コンクリート造、鉄骨造等の種々の構造物に適用可能である。
【0087】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0088】
10 構造物
30 無梁スラブ階
32A 第一外壁(一対の外周躯体)
32B 第一外壁(一対の外周躯体)
40 スラブ
50 コア部(耐震部材)
52 コア壁
60 曲げ伝達階
64 第一傾斜外壁(第一傾斜コンクリート外壁、曲げ伝達部材)
66 第二傾斜外壁(第二傾斜コンクリート外壁)
70 下段スラブ(第一スラブ)
70T 先端部(第一スラブの延出方向の先端部)
72 中段スラブ(第二スラブ)
72T 先端部(第二スラブの延出方向の先端部)
74 上段スラブ(第二スラブ)
74T 先端部(第二スラブの延出方向の先端部)
図1
図2
図3
図4
図5