(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085327
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】増強された天然の甘味およびフレーバーを有する発酵食品を調製するための乳酸菌組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230613BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
C12N1/20 Z
C12N1/20 A ZNA
A23C9/123
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023040963
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2019553502の分割
【原出願日】2018-03-21
(31)【優先権主張番号】17163311.8
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ソニャ ブロク
(72)【発明者】
【氏名】ゲーレ レティア ブクホアン
(57)【要約】
【課題】増強された天然の甘味およびフレーバーを有する発酵食品を調製するための乳酸菌組成物の提供
【解決手段】本発明は、(i)少なくとも1つのストレプトコッカス・サーモフィルス(St)株、ここで、該St株は、ガラクトース発酵であり、ここで、該菌株は、グルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列に突然変異を担持し、ここで、該突然変異は、グルコキナーゼタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果がある、および(ii)少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)株、ここで、該Lb株は、ラクトース欠損であるか、またはラクトース以外の炭水化物を代謝できる、を含む、発酵乳製品を製造するための組成物に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのストレプトコッカス・サーモフィルス(St)株、
ここで、該St株は、ガラクトース発酵であり、該菌株は、グルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列に突然変異を担持し、該突然変異は、グルコキナーゼタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果がある、および
(ii)少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)株、
ここで、該Lb株は、ラクトース欠損であるか、またはラクトース以外の炭水化物を代謝できる、
を含む、発酵乳製品を製造するための組成物。
【請求項2】
前記St株が、2-デオキシグルコース耐性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記St株が、細胞内へのグルコースの輸送を低減する突然変異を担持する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記St株が、9.5%のB乳中に106~107CFU/mlの濃度で植菌され、そして、40℃で20時間培養されると、その9.5%のB乳中のグルコース量を少なくとも5mg/mlまで増加させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記St株が、0.05%のスクロースを含む9.5%のB乳中に106~107CFU/mlの濃度で植菌され、そして、40℃で20時間培養されると、その0.05%のスクロースを含む9.5%のB乳中のグルコース量を少なくとも5mg/mlまで増加させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記Lb株が、スクロース、ガラクトースおよびグルコースから成る群から選択される、ラクトース以外の炭水化物を代謝できる、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記Lb株が、グルコースを代謝できる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記Lb株が、2014年6月12日付で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに、受託番号DSM28910で寄託された菌株およびDSM28910に由来する突然変異株から成る群から選択され、ここで、該突然変異株は、ラクトースおよびX-Galを含有する培地上で白色コロニーを作り出す能力を有することをさらなる特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記St株が、2014年6月4日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに、受託番号DSM32227で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC19216、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM28889で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16731、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに、受託番号DSM25850で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15757、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに、受託番号DSM25851で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15887、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに、受託番号DSM26722で寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16404、およびそれらから誘導された突然変異株から成る群から選択され、ここで、該突然変異株が、出発物質として寄託株のうちの1つを使用することによって得られ、かつ、ここで、該変異株が、前記寄託株のグルコースを分泌する特性を保持するかまたはさらに改善した、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
乳基質を請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物で植菌し、そして発酵させることを含む、発酵乳製品を製造する方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物を含む発酵乳製品。
【請求項12】
発酵乳製品の調製のための、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、(i)少なくとも1つのストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(St)株{ここで、該St株は、ガラクトース発酵であり、ここで、該菌株は、グルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列に突然変異を担持し、ここで、該突然変異は、グルコキナーゼタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子発現に対して負の効果がある}および(ii)少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)(Lb)株を含む発酵乳製品を製造するための組成物に関する。斯かる組成物は、増強された甘味を有する発酵乳製品を製造するために使用される。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
不純物が入っていない発酵乳製品は、発酵中の乳酸菌によるラクトースの乳酸への変換の結果、刺激性の味または酸っぱい味によって見分けられる。そのため、それらは、より甘い味の製品を求める購入者の願望を叶えるために、果物、はちみつ、糖または人工甘味料の添加によって甘味が加えられることが多い。
【0003】
食品産業には、ここ20年間で蔓延するようになった、太り過ぎおよび肥満問題の克服に協力するように、低カロリー甘味食品の需要がますます高まっている。通常、快い感覚とみなされる甘味は、糖と他のいくつかの物質の存在によって生み出される。糖類の知覚は、大きく異なっている。100の基準としてスクロースを使用すると、ラクトースの甘味は16であり、ガラクトースの甘味は32であり、そして、グルコースの甘味は74である(Godshall(1988). Food Technology 42(11) : 71-78)。これにより、ほとんど同じレベルのカロリーを有しているにもかかわらず、グルコースはラクトースより4倍超甘いと知覚される。
【0004】
発酵食品中の糖は、カロリーの摂取を抑えながら、甘味を提供できるアスパルテーム、アセスルファムK、スクラロースおよびサッカリンなどの甘味料に置き換えられることがさらに多い。しかしながら、人工甘味料の使用は、異味をもたらす可能性があり、さらに、人工甘味料の消費が空腹感の増強、アレルギー、癌などの不利益をもたらすことを示唆しているいくつかの研究が、天然甘味料しか含まない、または好ましくは追加の甘味料を全く含まない発酵乳製品に対する消費者の嗜好に寄与している。
【0005】
これにより、天然の(内的な)甘味が高い発酵乳製品を開発することに特別な課題がある。
【0006】
発酵乳製品の酸性は、主に存在している乳酸菌と、発酵乳製品を調製するのに使用されるプロセスパラメータに依存する。
【0007】
二糖であるラクトースの発酵は、乳酸菌で非常によく研究されるが、それはラクトースが乳の主要な炭素源であるからである。多くの種では、ラクトースは取り込み後にβ-ガラクトシダーゼによってグルコースとガラクトースに分割される。グルコースは、グルコキナーゼによってグルコース-6-リン酸にリン酸化され、そして、ほとんどの乳酸菌ではエムデン-マイアーホフ-パルナス経路(Embden-Meyerhof-Parnas pathway)(解糖)を介して発酵させる(
図1)。
【0008】
ストレプトコッカス・サーモフィルスは、生物体が混合スターター培養物の一部として通常使用され、他の成分がラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)、例えば、ヨーグルト向けにはラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスであり、スイスタイプチーズ向けにはラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)である工業的好熱性乳発酵向けに最も幅広く使用される乳酸菌のうちの1つである。
【0009】
多くの国々において、ヨーグルトの法的な定義では、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスと並んでストレプトコッカス・サーモフィルスを必要としている。両種とも、ヨーグルトにおいて重要な香気成分であるアセトアルデヒドを望ましい量産生する。
【0010】
ラクトースとスクロースは、ストレプトコッカス・サーモフィルスによってそれらの構成単糖よりも容易に発酵される。過剰なガラクトースだけが存在する中、ストレプトコッカス・サーモフィルスが使用されているときには、ラクトース分子のグルコース部分が発酵され、ガラクトースが発酵乳製品中に蓄積する。高い酸濃度が発酵を制限しているヨーグルトでは、遊離ガラクトースが残るが、スイスチーズ製造の初期に生じた遊離ガラクトースは、後でラクトバチルス・ヘルベティカスによって発酵させる。
【0011】
しかしながら、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスの両方から成るガラクトース発酵株は、数人の研究者によって報告されており(Hutkins et al:(1986) J, Dairy Sci, 69(1) ; 1-8; Vaiilancourt et al.(2002) J. Bacteriol. 184(3); 785-793)、そして、WO2011/026863(Chr. Hansen)では、ガラクトース発酵であるストレプトコッカス・サーモフィルス株を獲得する方法が記載されている。
【0012】
食品産業の要望を満たすためには、新しい株、特にストレプトコッカス・サーモフィルス株およびラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株を提案することが意味を持ち、そしてそれが、グルコースの分泌によって発酵製品中に追加的なカロリーなしでより多くの天然の甘味(内的な甘味)を提供する。
【0013】
Poolら(2006. Metabolic Engineering 8(5); 456-464)は、グルコキナーゼをコードする遺伝子、EII(man/glc)の欠失によってグルコース代謝が完全に中断されるラクトコッカス・ラクティス株、および新たに発見されたグルコース-PTS EII(cel)を開示している。構築方法は、すべての突然変異の作出について遺伝子組み換えなので、その結果、得られた菌株は、現在のところ食品に使用できない遺伝子組み換え生物(GMO)である。
【0014】
Thompsonら(1985. J Bacteriol. 162(1); 217-223)は、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)(現在、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)に改名された)におけるラクトース代謝を研究した。この研究では、マンノース-PTS系の突然変異株を得るために2-デオキシグルコースが使用された。それに続いて、この突然変異株は、UV突然変異誘発を使用して突然変異誘発され、その後、レプリカ平板法によってグルコース陰性のコロニーがスクリーニングされた。このように、二重突然変異株(マンノースPTSおよびグルコキナーゼ)が単離された。この二重突然変異株が、「スターター」生物体によるラクトース発酵の調整にかかわる機構を研究するのに使用された。これらの突然変異株は、それらを市販のスターター培養物中に含有するのが不適当とされる、それらの親株と比較していくつかの不利益を有している。突然変異株の細胞収率は、発酵させたラクトース1モルあたり、親株の半分であり、かつ、ラクトースで培養したとき、倍加時間は突然変異株で有意の延長されていた。同様に、乳酸の収率は、発酵されたラクトース1モルあたり、親株の半分であった。乳中のこれらの菌株の挙動は、分析されなかったが、酸性化の速度が有意に減速されるであろうことは予測される。
【0015】
加えて、ラクトコッカス・ラクティスは、一般に、アセトアルデヒド産生のために選択されることはなく、そして、ヨーグルトの法的な定義の要件の達成に寄与しない。
【0016】
Chervauxら(2000. Appi. And Environ. Microbiol,, 66, 5306-5311)は、新規に化学的に定義された培地中のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株の生理機能を研究し、グルコース発酵を欠いている2-デオキシグルコース耐性突然変異株を単離した。いくつかの異なった表現型が観察され、そして、株に特異的な効果が報告された。
【0017】
WO2013/160413は、食品の天然の甘味料および発酵乳のラクトース含有量に関して増強された特性を有するストレプトコッカス・サーモフィルス株およびラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株、ならびに斯かる菌株をスクリーニングおよび単離する方法を開示する。
【0018】
WO2015/193449は、ラクターゼと、グルコース代謝に欠陥がある乳酸菌との組み合わせを使用した、非常に低濃度のラクトースを有する発酵乳製品を製造する方法を開示する。
【0019】
WO2015/193459は、低レベルの後酸性化を有する発酵乳製品を製造する方法を開示し、ここで、一実施形態において、グルコース代謝に欠陥がある4つの乳酸菌株の混合物を使用し、ここで、別の実施形態において、ラクトース欠損乳酸菌株の混合物を使用する。
【0020】
本発明の目的は、少なくとも1つのグルコース欠損ストレプトコッカス・サーモフィルス株および少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株を含む発酵乳製品を製造するための組成物を提供することであり、ここで、該組成物は、改善されたフレーバーを有する発酵乳製品を生じる。
【発明の概要】
【0021】
この目的は、本発明により達成され、そしてそれは、(i)少なくとも1つのストレプトコッカス・サーモフィルス(St)株{ここで、該St株は、ガラクトース発酵であり、ここで、該菌株は、グルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列に突然変異を担持し、ここで、該突然変異は、グルコキナーゼタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果がある}および(ii)少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)株{ここで、該Lb株は、ラクトース欠損であるか、またはラクトース以外の炭水化物を代謝できる}を含む発酵乳製品を製造するための組成物を対象としたものである。
【0022】
ストレプトコッカス・サーモフィルス株およびラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株を含む発酵乳製品を製造するための従来のスターター培養物に関して、例えば遊離アミノ酸、例えばグルタミン酸などの望ましくない異臭形成のリスクがあることは、周知されている。その異臭は、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株によって形成され、さらに、形成される異臭レベルが前述の菌株の増殖レベルに依存し、そしてそれが、例えばラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株の植菌レベル、成長培地のタイプおよび発酵の生育条件、ならびにスターター培養物で使用される特定のストレプトコッカス・サーモフィルス株およびラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株などの多くの要因によって変化することも、さらに周知されている。少なくとも1つのグルコース欠損ストレプトコッカス・サーモフィルス株および少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスを含み、増強された甘味を有する発酵乳製品を製造するためのスターター培養物に関して、望ましくない異臭の形成が特定の高レベルで存在することが、現在わかっている。これは、斯かるスターター培養物において、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスが、特定の高い細胞数まで増殖する事実と一致している。
【0023】
驚いたことに、グルコース欠損ストレプトコッカス・サーモフィルス株を有するスターター培養物を使用した際の異臭の問題は、ラクトース欠損ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株、例えばラクトース欠損、グルコース陽性ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株を使用することによって解決され得ることがわかった。また、本発明の組成物で使用されるラクトース欠損ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株が、まったく後酸性化をもたらさないことがわかった。最後に、グルコース欠損ストレプトコッカス・サーモフィルス株と組み合わせたラクトース欠損ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスが、従来の、すなわち、ラクトース陽性、グルコース陽性、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株と比較した場合に、非常に多い細胞数をもたらすことがわかった。
【0024】
例えば、ラクトース欠損、グルコース陽性ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株からの異臭の形成を回避すること、およびラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株がグルコース陽性であり、かつ、グルコースを含有する発酵乳製品中に存在しており、ここで、理論上、該菌株が、発酵乳製品の保管中にも増殖し続けることができるであろう、という事実を考慮すると、後酸性化を回避することが可能であることは、非常に驚くべきことである。
【0025】
そのうえ、異臭と後酸性化の両方がラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株の増殖からもたらされるであろうことが通常予想されたので、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株から異臭の形成を回避すること、および後酸性化を回避する一方で、それと同時に、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株の多くの細胞数を得ることが可能であることは、より一層驚くべきことである。
【0026】
理論に縛られることなしに、本発明の驚くべき効果は、従来のラクトース陽性ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスと比較した場合の、本発明のラクトース欠損ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスの代謝の相違のためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ストレプトコッカス・サーモフィルスにおけるラクトース異化の略図である。GlcK、グルコキナーゼ;LacS、ラクトーストランスポーター;LacZ、β-ガラクトシダーゼ;GalM、ムタロターゼ;GalK、ガラクトキナーゼ;GalT、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ;GalE、UDP-グルコース4エピメラーゼ;Gal1P、ガラクトース-1-リン酸。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の詳細な開示
定義
本明細書中で使用される場合、「乳酸菌」という用語は、糖の発酵において主に産生される酸として乳酸、酢酸およびプロピオン酸を含む酸を産生する、グラム陽性微小好気性または嫌気性細菌を指す。産業上最も有用な乳酸菌は、ラクトコッカス亜種(Lactococcus spp.)、ストレプトコッカス亜種(Streptococcus spp.)、ラクトバチルス亜種(Lactobacillus spp.)、ロイコノストック亜種(Leuconostoc spp.)、ペディオコッカス亜種(Pediococcus spp.)、ブレビバクテリウム亜種(Brevibacterium spp.)、エンテロコッカス亜種(Enterococcus spp.)およびプロピオニバクテリウム亜種(Propionibacterium spp.)を含む目である「ラクトバチルス目(Lactobacillales)」に属する。ラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)およびストレプトコッカス・サーモフィルスから成る属の細菌を含めた乳酸菌は、発酵乳製品などの酪農製品の生産のために発酵容器やバット内でそのままインキュベーションすることを意図した、バルクスターター繁殖(bulk starter propagation)のための冷凍若しくは凍結乾燥培養物、またはいわゆるダイレクトバットセット(Direct Vat Set)(DVS)培養物のいずれかとして通常、酪農業界に供給される。そのような培養物は、一般に、「スターター培養物」または「スターター」と称される。
【0029】
本願の記載における(特に、以下の特許請求の範囲との関連における)「1つの(「a」および「an」)」ならびに「前記(the)」という用語、およびこれらの類似語は、他の言及が無い限り、または明確に否定していない限り、単数および複数の両方を包含すると想定される。「含む(「comprising」「having」「including」および「containing」)」という用語は、他に言及が無い限り、非限定的用語(すなわち、「これだけに限定されるものではないが、含む(including, but not limited to)」を意味する)として理解されるべきである。本明細書中の数値範囲の記載は、他に言及が無い限り、単に当該範囲内の各個別の数値を個別に参照する簡単な方法と見なされることが意図され、各個別の数値は、それらが個別に本明細書中に記載されているかのように本明細書中に包含される。本明細書中に記載される全ての方法は、本記載中に他の言及が無い限り、または明確に否定されていない限り、任意の適切な順番で実施され得る。本明細書中の任意のおよび全ての実施例、または例示的用語(「例えば(「such as」)」)は、本発明をより良く明示することのみを意図しており、他の言及が無い限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいずれの用語も、本発明の実施に必須の明示されていない要素であることを示唆するものとして解釈されるべきではない。
【0030】
本発明との関連において、「甘味を増強する」という表現は、グルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列に突然変異を担持しない母株(mother strain)によってもたらされた甘味と比較した場合の、甘味の増強を意味し、ここで、該突然変異は、グルコキナーゼタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果がある。
「CFU」という表現は、はコロニー形成単位を意味する。
【0031】
本発明の組成物のストレプトコッカス・サーモフィルス株
いくつかの国では、ヨーグルトの法的な定義は、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスの両方の存在を必要としている。両種とも、ヨーグルトの重要な香気成分であるアセトアルデヒドを望ましい量作り出す。
【0032】
チーズ、例えばモッツァレラおよびピザチーズ、ならびにフェタなどもまた、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスの両方を使用した発酵によって調製される(Hoier et al.(2010) in The Technology of Cheesemak-ing, 2nd Ed. Blackwell Publishing, Oxford; 166-192)。
【0033】
食品産業の要件を満たすために、追加のカロリーを与えることなく、発酵製品中に直接より多くの天然の甘味(内的な甘味)を産生する新たな菌株、特にラクトバシルス・デルブリッキ亜種ブルガリカス株およびストレプトコッカス・サーモフィルス株を開発することが望ましくなった。
【0034】
ストレプトコッカス・サーモフィルスは、生物体が混合スターター培養物の一部として通常使用され、他の成分がラクトバチルス属、例えば、ヨーグルトではラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス、そして、スイスタイプチーズではラクトバチルス・ヘルベティカスである商業的な乳発酵に最も幅広く使用される乳酸菌の1つである。
【0035】
ストレプトコッカス・サーモフィルスが使用されているときには、ラクトース分子のグルコース部分だけがストレプトコッカス・サーモフィルスによって発酵され、ガラクトースが発酵乳製品中に蓄積する。高い酸濃度が発酵を制限しているヨーグルトでは、遊離ガラクトースが残るが、スイスチーズ製造の初期に生じた遊離ガラクトースは、後でラクトバチルス・ヘルベティカスによって発酵される。チーズ製造に使用されるスターター培養物の多くに見られるラクトコッカス・ラクティスもまた、ストレプトコッカス・サーモフィルスによって産生されたガラクトースを消費できる。
【0036】
できるだけ最適な増殖性能を有するストレプトコッカス・サーモフィルス株を確保するために、本発明者らは、ストレプトコッカス・サーモフィルスのガラクトース発酵株を選択剤である2-デオキシグルコースに晒した。典型的な2-デオキシグルコース耐性突然変異株は、グルコキナーゼをコードする遺伝子内、およびグルコーストランスポーターをコードする遺伝子内に突然変異を有する。2-デオキシグルコースに耐性がある単離された突然変異株、CHCC16731は、そのグルコキナーゼ(glcK)遺伝子内に突然変異を有する。グルコキナーゼ遺伝子内の突然変異に加えて、CHCC16731およびCHCC19216が共に、分泌されたグルコースが細胞内に再び運び込まれないことを意味する突然変異を有する。
【0037】
驚いたことに、当該突然変異株は単独で、pH5への酸性化時間は2~5時間遅れるが、乳をさらに完全に酸性化できる。従って、それらは、発酵乳適用に有用であり、そして、それらは、ヨーグルトの特徴である乳を酸性化する母株の能力を保持している。さらに、0.05%のスクロースを含む9.5%のB乳(B-milk)に突然変異株を植菌し、そして40℃にて少なくとも20時間発酵させたとき、突然変異株が高レベルのグルコースを分泌することがわかった。同時に、非常に低レベルのラクトースが、発酵乳中に残っている。そのため、発酵乳製品を製造するための当該菌株の使用は、ラクトース不耐症の人々のために重要であり得る。
【0038】
その結果、最終的な発酵乳は、Godshall(1988. Food Technology 42(11) :71-78)によって説明されたとおり計算して、高い内的甘味指数を有する。
【0039】
本発明の一態様において、前記ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、ストレプトコッカス・サーモフィルスのガラクトース発酵突然変異株であり、ここで、該突然変異株は、グルコキナーゼタンパク質をコードするglcK遺伝子のDNA配列内に突然変異を担持し、前記突然変異は、コードされたグルコキナーゼタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に負の効果を有する。グルコキナーゼ活性のレベルまたはグルコキナーゼ遺伝子の発現レベルを計測するための方法は、容易に知られ(Porter et al.(1982) Biochim. Biophys. Acta, 709; 178-186)、そして、市販キットおよび容易に入手可能な材料を使用したトランスクリプトミクスまたは定量的PCRを用いた酵素アッセイを含んでいる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス株は、2-デオキシグルコース耐性である。
【0041】
細菌の「菌株」は、本明細書中で使用される場合、増殖または繁殖するときに遺伝的に不変のままである細菌を指す。同一の細菌の多様性が含まれる。
【0042】
「ガラクトース発酵ストレプトコッカス・サーモフィルス株」という用語は、本明細書中で使用される場合、M17培地+2%のガラクトース上/その中で増殖できるストレプトコッカス・サーモフィルス株を指す。ガラクトース発酵ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、一晩培養物から1%で植菌し、37℃で24時間インキュベートした際に、唯一の炭水化物として2%のガラクトースを含有するM17培養液のpHを5.5以下に下げるストレプトコッカス・サーモフィルス株と本明細書中に規定される。
【0043】
「突然変異がグルコキナーゼタンパク質を不活化する」という用語は、本明細書中で使用される場合、「不活性グルコキナーゼタンパク質」をもたらす突然変異、細胞内に存在している場合、その正常機能を発揮することができないグルコキナーゼタンパク質、ならびにグルコキナーゼタンパク質の形成を妨げるまたはグルコキナーゼタンパク質の分解をもたらす突然変異を指す。
【0044】
特に、不活性グルコキナーゼタンパク質は、機能的グルコキナーゼタンパク質と比較して、グルコースのグルコース-6-リン酸へのリン酸化を促進することができないか、または著しく遅い速度でしかグルコースのグルコース-6-リン酸へのリン酸化を促進できないタンパク質である。機能的グルコキナーゼタンパク質をコードする遺伝子と比較して、当該不活性グルコキナーゼタンパク質をコードする遺伝子は、その遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に突然変異を含んでおり、前記突然変異は、これだけに限定されるものではないが、タンパク質の機能的特性を変更させる欠失、フレームシフト突然変異、終止コドンの挿入またはアミノ酸置換をもたらす突然変異、あるいは、遺伝子の転写または翻訳を低減するか、または停止するプロモーター突然変異を含み得る。
【0045】
好ましい実施形態において、突然変異は、グルコキナーゼタンパク質の活性(グルコースのグルコース-6-リン酸へのリン酸化速度)を少なくとも50%、例えば少なくとも60%程度、例えば少なくとも70%程度、例えば少なくとも80%程度、例えば少なくとも90%程度低減する。
【0046】
グルコキナーゼ活性は、Poolら(2006, Metabolic Engineering 8;456-464)によって説明されたグルコキナーゼ酵素分析法によって測定できる。
【0047】
「機能的グルコキナーゼタンパク質(functional glucokinase protein)」という用語は、本明細書中で使用される場合、細胞内に存在している場合には、グルコースのグルコース-6-リン酸へのリン酸化を促進するグルコキナーゼタンパク質を指す。特に、機能的グルコキナーゼタンパク質は、配列番号1の1~966位に相当する配列、あるいは、配列番号1の1-966位に対応する配列に対して少なくとも85%の同一性、例えば少なくとも90%程度の同一性、例えば少なくとも95%程度の同一性、例えば少なくとも98%程度の同一性、例えば少なくとも99%程度の同一性を有する配列を有するORFを含む遺伝子によってコードされ得る。
【0048】
2つの配列のパーセント同一性は、例えばKarlinおよびAltschul(1990. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87;2264)のアルゴリズム、KarlinおよびAltschul(1993. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90; 5873-5877)に記載された修正アルゴリズム;MyersおよびMiller(1988. CABIOS 4; 11-17)のアルゴリズム;NeedlemanおよびWunsch(1970. J. Mol. Biol. 48;443-453)のアルゴリズム;ならびにPearsonおよびLipman(1988. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85; 2444-2448)のアルゴリズムなどの数学的アルゴリズムを使用することによって決定できる。これらの数学的アルゴリズムに基づいて核酸またはアミノ酸の配列同一性を決定するコンピュータソフトウェアもまた入手可能である。例えば、ヌクレオチド配列の比較は、BLASTNプログラム、スコア=100、語長=12で行われる。アミノ酸配列の比較は、BLASTXプログラム、スコア=50、語長=3を用いて実施できる。BLASTに関するパラメーターを残すためには、初期設定のパラメーターが使用できる。
【0049】
多くの国々では、発酵乳製品への遺伝子組み換え生物(GMO)の使用が承認されていない。本発明では代わりに、発酵乳製品中での望ましいグルコース蓄積を提供できる天然に存在する突然変異株または誘発された突然変異株を獲得する方法を提供する。
これにより、本発明のより好ましい実施形態において、突然変異株は、天然に存在する突然変異株または誘発された突然変異株である。
【0050】
「突然変異細菌」または「突然変異株」とは、本明細書中で使用される場合、天然の(自然発生的、自然に生じた)突然変異細菌、または野性型DNA内に存在しないそのゲノム(DNA)内の1若しくは複数の突然変異を含む誘発された突然変異細菌を指す。「誘発された突然変異株」は。突然変異が、例えば化学的突然変異誘発物質、UVまたはガンマ放射線などを用いた処理などのヒトの処理によって引き起こされた細菌である。対照的に、「自然発生的な突然変異株」または「天然に存在する突然変異株」は、人によって突然変異誘発されていない。突然変異株細菌は、本明細書中では、非GMO(非遺伝子組み換え生物)である、すなわち、組み換えDNA技術によって改変されていない。
【0051】
「野生型株」は、天然に見られるように、非突然変異型の細菌を指す。
【0052】
「甘味を付与する特性を有する菌株(strains with a sweetening property)」、「発酵乳製品中でグルコースの望ましい蓄積を提供する菌株(strains which can provide a desirable accumulation of glucose in the fermented milk product)」および「食品の天然の甘味付与に関して優れた特性を有する菌株(strains with enhanced properties for natural sweetening of food products)」などの用語は、乳製品の発酵において本発明の菌株を使用する有利な態様を特徴づけるために本明細書中で互換的に使用される。
【0053】
好ましい実施形態において、本発明によるストレプトコッカス・サーモフィルスの突然変異株は、9.5%のB乳中に106~107CFU/mlの濃度で植菌され、そして、40℃で少なくとも20時間培養されると、その9.5%のB乳中のグルコース量を少なくとも5mg/mLまで増加させる。
【0054】
別の好ましい実施形態、本発明によるストレプトコッカス・サーモフィルス突然変異株は、0.05%のスクロースを含む9.5%のB乳中に106~107CFU/mlの濃度で植菌され、そして、40℃で少なくとも20時間培養されると、その0.05%のスクロースを含む9.5%のB乳中のグルコース量を少なくとも5mg/mLまで増加させる。
【0055】
本明細書の文脈において、9、5%のB乳とは、9.5%の乾物量レベルに低脂肪脱脂乳を還元し、99℃で30分間低温殺菌し、その後、40℃に冷まして作られた、煮沸した乳である。
【0056】
本発明のより好ましい実施形態において、突然変異株は、少なくとも6mg/mL、例えば少なくとも7mg/mL程度、例えば少なくとも8mg/mL程度、例えば少なくとも9mg/ml程度、例えば少なくとも10mg/ml程度、例えば少なくとも11mg/ml程度、例えば少なくとも12mg/ml程度、例えば少なくとも13mg/ml程度、例えば少なくとも14mg/ml程度、例えば少なくとも15mg/ml程度、例えば少なくとも20mg/ml程度、例えば少なくとも25mg/mlなどのグルコース量の増強をもたらす。
【0057】
本発明の別の実施形態において、ストレプトコッカス・サーモフィルスの突然変異株は2-デオキシグルコースに耐性がある。
【0058】
本明細書中の「2-デオキシグルコースに耐性」という用語は、特定の突然変異菌株が、20mMの2-デオキシグルコースを含むM17培地のプレート上に画線接種されたときに、40℃で20時間インキュベーション後にコロニーに増殖する能力を有するということによって規定される。培地中の2-デオキシグルコースの存在は、非突然変異菌株の増殖を妨げるであろうが、その一方で、突然変異菌株の増殖が影響を受けないかまたは顕著な影響を受けることはない。耐性の評価においで感受性基準菌株として使用できる非突然変異菌株としては、好ましくは菌株CHCC14994およびCHCC11976が挙げられる。
【0059】
本発明の突然変異株ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、9.5%のB乳に、106~107CFU/mlの本発明によるストレプトコッカス・サーモフィルス株を植菌し、本発明に従って40℃で少なくとも20時間、そのストレプトコッカス・サーモフィルス株で発酵させたとき、該乳中にグルコースを分泌する。好ましくは、9.5%のB乳に、106~107CFU/mlの本発明によるストレプトコッカス・サーモフィルス株を植菌し、本発明に従って40℃で少なくとも20時間、該ストレプトコッカス・サーモフィルス株で発酵させたとき、当該突然変異株は単独で、少なくとも5mg/mlのグルコースをB乳中に分泌する。前記菌株は、pH5への酸性化時間は2~5時間遅れるが、乳をさらに完全に酸性化できる。最終的な発酵乳は、その発酵乳中に15mg/ml未満のラクトースしか含んでいない。その結果、最終的な発酵乳は、約2倍以上の高い内的甘味指数を有する。
【0060】
さらに別の実施形態において、本発明による突然変異株は、その増殖パターンによって特徴づけできる。これは、突然変異株の増殖速度が、M17培地+2%のグルコース中に比べ、M17培地+2%のガラクトース中の方が速いという知見によって例示される。増殖速度は、経時的な600ナノメートル(OD600)で指数増殖期培養の吸光度における推移として計測される。
【0061】
好ましい実施形態において、増殖速度は、M17培地+2%のグルコース中に比べて、M17培地+2%のガラクトース中で少なくとも5%高い、例えば少なくとも10%程度高い、例えば少なくとも15%程度高い、例えば少なくとも20%程度高い。
【0062】
glcK遺伝子における突然変異
好ましい一実施形態において、突然変異は、配列番号2の249位において、アルギニンをコードするコドンの、グリシンをコードするコドンでの置換をもたらす。好ましくは、glcK遺伝子の突然変異は、配列番号1の745位において、GのAでの置換をもたらす。菌株CHCC16731には、斯かる突然変異がある。
【0063】
好ましい実施形態において、突然変異は、配列番号2(未掲載)の72位において、セリンをコードしているコドンの、プロリンをコードしているコドンでの置き換えをもたらす。好ましくは、glcK遺伝子内の突然変異は、配列番号1(未掲載)の214位におけるTのCでの置き換えをもたらす。
【0064】
別の好ましい実施形態において、突然変異は、配列番号2(未掲載)の141位における、トレオニンをコードしているコドンのイソロイシンをコードするコドンでの置き換えをもたらす。
【0065】
好ましくは、glcK遺伝子内の突然変異は、配列番号1(未掲載)の422位におけるCのTでの置き換えをもたらす。
【0066】
ストレプトコッカス・サーモフィルスのglcK遺伝子が、glcK遺伝子の他の部位の他のタイプの突然変異によって不活性化され得ることは、強調されるべきである。
【0067】
細胞内へのグルコースの輸送を低減する突然変異
好ましい実施形態において、ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、細胞内へのグルコースの輸送を低減する突然変異を有する。
【0068】
「細胞内へのグルコースの輸送を低減する突然変異」という用語は、本明細書中で使用される場合、細胞の環境中のグルコースの蓄積をもたらすグルコースの輸送にかかわるタンパク質をコードする遺伝子内の突然変異を指す。ストレプトコッカス・サーモフィルス株の培地中のグルコースレベルは、当業者に知られている方法によって、そして、培地が乳基質であるときには、容易に計測できる。
【0069】
好ましい実施形態において、突然変異は、細胞内へのグルコースの輸送を、少なくとも50%、例えば少なくとも60%程度、例えば少なくとも70%程度、例えば少なくとも80%程度、例えば少なくとも90%程度低減する。
【0070】
細胞内へのグルコースの輸送は、Cochuら(2003. Appl Environ Microbiol 69(9); 5423-5432)によって説明されているグルコース取り込みアッセイによって測定できる。
【0071】
好ましくは、ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、グルコーストランスポーターの成分をコードする遺伝子内に突然変異を担持しており、前記突然変異は、グルコース輸送タンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果を有する。
【0072】
前記成分とは、グルコースの輸送に重要であるグルコース輸送タンパク質のあらゆる成分であってよい。例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスのグルコース/マンノースPTSのあらゆる成分の不活性化が、グルコーストランスポーター機能の不活性化をもたらすことは、企図されている。
【0073】
「突然変異がグルコーストランスポーターを不活化する」という用語は、本明細書中で使用される場合、「不活性グルコーストランスポーター」をもたらす突然変異、細胞内に存在している場合、その正常機能を発揮することができないグルコース輸送タンパク質、ならびにグルコース輸送タンパク質の形成を妨げるまたはグルコース輸送タンパク質の分解をもたらす突然変異を指す。
【0074】
特に、不活性グルコース輸送タンパク質は、機能的グルコース輸送タンパク質と比較して、原形質膜を越えるグルコースの輸送を促進することができないまたは著しく遅い速度でしか原形質膜を越えるグルコースの輸送を促進できないタンパク質である。機能的グルコース輸送タンパク質をコードする遺伝子と比較して、当該不活性グルコース輸送タンパク質をコードする遺伝子は、その遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)内に突然変異を含んでおり、前記突然変異は、これだけに限定されるものではないが、タンパク質の機能的特性を変更させる欠失、フレームシフト突然変異、終止コドンの挿入またはアミノ酸の置き換えをもたらす突然変異、あるいは、その遺伝子の転写または翻訳を低減または停止するプロモーター突然変異を含み得る。
【0075】
好ましい実施形態において、突然変異は、グルコース輸送タンパク質の活性(グルコースの輸送の速度)を少なくとも50%、例えば少なくとも60%程度、例えば少なくとも70%程度、例えば少なくとも80%程度、例えば少なくとも90%程度低減する。
グルコーストランスポーター活性は、Cochuら(2003. Appl Environ Microbiol 69(9); 5423-5432)によって説明されたグルコース取り込みアッセイによって測定できる。
【0076】
「機能的グルコース輸送タンパク質」という用語、本明細書中で使用される場合、細胞内に存在している場合、原形質膜を越えてグルコースの輸送を促進するグルコース輸送タンパク質を指す。
【0077】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス株は、グルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系のIIDManタンパク質をコードするmanM遺伝子のDNA配列内に突然変異を担持するが、該突然変異は、IIDManタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果を有する。
【0078】
CHCC16731は、グルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系のIIDManタンパク質をコードするmanN遺伝子の79位において、トレオニンのプロリンへの変更を有する。好ましくは、ManN遺伝子における突然変異は、配列番号3の235位において、AのCでの置換をもたらす。
【0079】
よって、好ましい実施形態において、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス株は、グルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系のIIDManタンパク質をコードするmanN遺伝子のDNA配列における突然変異を担持するが、該突然変異は、配列番号4の79位において、トレオニンのプロリンへの置換をもたらす。
【0080】
本発明の別の好ましい実施形態において、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス株は、グルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系のIICManタンパク質をコードするmanM遺伝子のDNA配列内に突然変異を担持するが、該突然変異は、IICManタンパク質を不活化するか、またはその遺伝子の発現に対して負の効果を有する。
【0081】
特定の好ましい実施形態において、突然変異は、グルコース/マンノースホスホトランスフェラーゼ系のIICManタンパク質の配列番号6の209位において、グルタミン酸をコードするコドンの終止コドンでの置き換えをもたらす(未掲載)。好ましくは、突然変異は、配列番号5(未掲載)の625位においてGのTでの置き換えをもたらす。
【0082】
本発明の好ましいストレプトコッカス・サーモフィルス株
本発明の組成物の好ましい実施形態において、ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、受託番号DSM32227でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC19216、2014年6月4日に受託番号DSM28889でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16731、受託番号DSM25850でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15757、受託番号DSM25851でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15887、受託番号DSM26722でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16404、およびそれらから誘導された突然変異株から成る群から選択され、ここで、該突然変異株は、出発物質として寄託株のうちの1つを使用することによって得られ、かつ、ここで、該変異株は、前記寄託株の食感を加える特性およびグルコースを分泌する特性を保持するかまたはさらに改善した。
【0083】
本明細書の文脈において、「突然変異株」という用語は、例えば、遺伝子工学、放射線および/または化学的処理から成る手段によって本発明の菌株(またはそれらの母株)から誘導された菌株、または誘導されることができる菌株と理解されるべきである。「それらから誘導された菌株」はまた、自然発生的な突然変異株でもあり得る。「それらから誘導された菌株」が機能上同等な突然変異株、例えば、それらの母株と実質的に同じであるか、または改善された特性を有する突然変異株であることが好ましい。特に、「突然変異株」という用語は、本発明の菌株を、例えばエタンメタンスルホナート(EMS)またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトログアニジン(NTG)などの化学的突然変異誘発物質、UV光を用いた処理を含めたいずれかの慣習的に使用されている突然変異誘発処理、または自然に起こっている突然変異株に晒すことによって得られた菌株を指す。突然変異株は、いくつかの突然変異誘発処理に供され得るが(1回の処理とは、1回の突然変異誘発ステップとそれに続くスクリーニング/選択ステップと理解されるべきである)、ここでは20未満、10未満、または5未満の処理(またはスクリーニング/選択ステップ)が行われるのが好ましい。ここでの好ましい突然変異株では、母株と比較して、細菌ゲノムのヌクレオチドの1%未満、0.1%未満、0.01%未満、0.001%未満または0.0001%未満が別のヌクレオチドに置き換えられているかまたは欠失している。
【0084】
甘味を付与するストレプトコッカス・サーモフィルス株を得る方法
本発明の好ましい実施形態において、甘味を付与するストレプトコッカス・サーモフィルス株を発生させるのに使用される出発株は、食感を加えるストレプトコッカス・サーモフィルス株であり、そしてそれは、本願明細書の他の場所に記載したように得られてもよい。
【0085】
好ましい実施形態において、斯かる食感を加える出発株は、受託番号DSM22932でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC11342、受託番号DSM22934でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC11976、受託番号DSM24090でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC12339、およびそれらから誘導された菌株、から成る群から選択される。
【0086】
あるいは、甘味を付与するストレプトコッカス・サーモフィルス株を発生するのに使用される出発株は、食感を加えることのないストレプトコッカス・サーモフィルス株であり、その場合、食感を加える特性が、産生された時点で甘味を付与するストレプトコッカス・サーモフィルス株に導入される、すなわち、甘味を付与する菌株が、本願明細書の他の場所に記載された食感を加える菌株を得る方法において出発株として使用される。
【0087】
甘味を付与するストレプトコッカス・サーモフィルス株の方法の第1ステップは、ガラクトース陽性株、すなわち、炭水化物源としてガラクトースを使用できる菌株、を準備することである。ガラクトース陽性株は、試験すべき細菌を、アガロースプレート、例えば、特定の濃度、例えば2%など、のガラクトース(唯一の炭水化物源)を含有するM17アガロースプレートなど、の上に画線接種するステップ、および該アガロースプレート上で増殖できるコロニーを同定することを含む方法によって得られてもよい。
【0088】
2-デオキシグルコース、そして、M17培地+2%のグルコース中と比較した、M17培地+2%のガラクトース中の細菌の増殖パターンの測定が、グルコキナーゼ(glcK)遺伝子内に突然変異を有する細菌の選択に使用される。
【0089】
突然変異glcK遺伝子を有するストレプトコッカス・サーモフィルス株をスクリーニングし、そして、単離する方法の一つは、以下のステップ:
a)ガラクトース発酵ストレプトコッカス・サーモフィルス母株を提供し、
b)前記母株から誘導された突然変異株ストレプトコッカス・サーモフィルス株のプールから、2-デオキシグルコースに耐性がある突然変異株ストレプトコッカス・サーモフィルス株のプールを選択して、単離し、そして
c)前記2-デオキシグルコースに耐性がある突然変異株ストレプトコッカス・サーモフィルス株のプールから、その突然変異株ストレプトコッカス・サーモフィルス株の増殖速度が、M17培地+2%のガラクトース中でM17培地+2%のグルコース中に比べて速いことを条件に、突然変異株ストレプトコッカス・サーモフィルス株を選択して、単離すること、
を含む。
【0090】
本明細書中の「2-デオキシグルコースに耐性」という用語は、特定の突然変異菌株が、2%のラクトースまたは2%のガラクトースを含有するおよび20mMの2-デオキシグルコースを含有するM17培地のプレート上に画線接種されたときに、40℃で20時間インキュベーション後にコロニーに増殖する能力を有するということによって規定される。培地中の2-デオキシグルコースの存在は、非突然変異菌株の増殖を妨げるであろうが、その一方で、突然変異菌株の増殖が影響を受けないかまたは顕著な影響を受けることはない。耐性の評価においで感受性基準菌株として使用できる非突然変異菌株としては、菌株CHCC11976が挙げられる。
【0091】
ある実施形態において、前記方法は、ステップa1)前記母株を突然変異誘発に晒すこと、例えば化学的および/または物理的突然変異原などに母株を晒すこと、をさらに含む。
【0092】
別の実施形態において、前記方法は、ステップd)ステップc)で選択されたストレプトコッカス・サーモフィルス株から誘導された2-デオキシグルコース耐性ストレプトコッカス・サーモフィルス株のプールから、そのストレプトコッカス・サーモフィルス株の増殖速度が、M17培地+2%のスクロース中で速いが、しかし、M17培地+2%のグルコース中の母株の増殖速度と比較して、減速がゼロであるか、または少なくとも0~50%であることを条件に、ストレプトコッカス・サーモフィルス株を選択して、単離すること、をさらに含む。
【0093】
ガラクトース発酵ストレプトコッカス・サーモフィルス母株は、M17培地+2%のガラクトース上/中で増殖でき、そして、1%で一晩培養物から植菌し、37℃で24時間インキュベートしたとき、それらが、唯一の炭水化物として2%のガラクトースを含有するM17培養液中でpHを5.5以下に下げる能力を有することによって本明細書中で規定される。当該ガラクトース陽性株は、WO2011/026863(Chr. Hansen A/S)およびWO2011/092300(Chr. Hansen A/S)に記載されている。
【0094】
本明細書の文脈において、「それらから誘導された菌株」という用語は、例えば、遺伝子工学、放射線および/または化学的処理から成る手段によって食感を加えるまたはガラクトース発酵ストレプトコッカス・サーモフィルス母株から誘導された菌株、または誘導されることができる菌株と理解されるべきである。「それらから誘導された菌株」はまた、自然発生的な突然変異株でもあり得る。「それらから誘導された菌株」が機能上同等な突然変異株、例えば、それらの母株と実質的に同じであるか、または改善された(例えば、食感またはガラクトース発酵に関する)特性を有する突然変異株であることが好ましい。特に、「それらから誘導された菌株」という用語は、本発明の菌株を、例えばエタンメタンスルホナート(EMS)またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトログアニジン(NTG)などの化学的突然変異誘発物質、UV光を用いた処理を含めたいずれかの慣習的に使用されている突然変異誘発処理、または自然に起こっている突然変異株に晒すことによって得られた菌株を指す。突然変異株は、いくつかの突然変異誘発処理に供され得るが(1回の処理とは、1回の突然変異誘発ステップとそれに続くスクリーニング/選択ステップと理解されるべきである)、ここでは20未満、10未満、または5未満の処理(またはスクリーニング/選択ステップ)が行われるのが好ましい。ここでの好ましい突然変異株では、母株と比較して、細菌ゲノムのヌクレオチドの1%未満、0.1%未満、0.01%未満、0.001%未満または0.0001%未満が別のヌクレオチドに置き換えられているかまたは欠失している。
【0095】
本発明において、「グルコキナーゼをコードするglcK遺伝子」という表現は、配列番号1のDNA配列によってコードされた特定のグルコキナーゼを含めた、グルコキナーゼ活性を有するタンパク質をコードするストレプトコッカス・サーモフィルスの任意のDNA配列を意味する。グルコキナーゼは、グルコースをグルコース-6-ホスファートに変換する反応を触媒する、
図1を参照。
【0096】
本発明の組成物のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株
「ラクトース代謝における欠損」および「ラクトース欠損」という用語は、細胞増殖または細胞生存を維持するための源としてラクトースを使用する能力を部分的にまたは完全に失ったLABを特徴づけるために、本発明との関連において使用される。それぞれのLABは、スクロース、ガラクトース、および/またはグルコースから選択された1もしくは複数の炭水化物、または別の発酵可能炭水化物を代謝することができる。これらの炭水化物は、ラクトース欠損変異株による発酵を維持するのに十分な量で乳中には天然に存在しないので、これらの炭水化物を乳に添加する必要がある。ラクトース欠損および部分的欠損LABは、ラクトースおよびX-Galを含む培地上で白色コロニーとして特徴づけることができる。
【0097】
本発明に関して、「X-Gal」という用語は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクト-ピラノシドを意味し、そしてそれは、X-Galを無色のガラクトースと、自然に二量化して青色色素を形成する5-ブロモ-4-クロロインドキシルとに加水分解するβ-ガラクトシダーゼの発色基質である。
【0098】
本発明の特定の実施形態において、ラクトース欠損株は、スクロース、ガラクトースおよびグルコースから成る群から選択されるラクトース以外の炭水化物、好ましくはスクロース、を代謝できる。本発明の特定の実施形態において、ラクトース欠損株は、ガラクトースを代謝できる。
【0099】
本発明の組成物の特定の実施形態において、Lb株は、2014年6月12日に受託番号DSM28910でDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに寄託された菌株およびDSM28910に由来する突然変異株から成る群から選択され、ここで、該突然変異株は、ラクトースおよびX-Galを含有する培地上で白色コロニーを作り出す能力を有するとさらに特徴づけられる。
【0100】
ラクトース欠損株は、突然変異によって好適なラクトース陽性母株から得られてもよい。ラクトース欠損株は、好適な培地、例えば、1%のラクトースおよび200mg/mlのX-Galを含んだMRSアガロースプレート上の(ラクトース欠損表現型を示す)白色コロニーとして、UV突然変異形成後に選択された。ラクトース陽性株はβ-ガラクトシダーゼ活性を有しているので、ラクトース(lacrosse)陽性株のコロニーは、β-ガラクトシダーゼ活性のため青く見える。ラクトース欠損株を作製するためのラクトース陽性母株として、WO2011/000879のために2007年4月3日に受託番号DSM19252でDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに寄託されたラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株CHCC10019が使用されてもよい。
【0101】
組成物
本発明はさらに、104~1012CFU(コロニー形成単位)/gのストレプトコッカス・サーモフィルス株、例えば105~1011CFU/g程度、例えば106~1010CFU/g程度、または例えば107~109CFU/g程度のストレプトコッカス・サーモフィルス株を含む組成物に関する。
【0102】
好ましい実施形態において、組成物のストレプトコッカス・サーモフィルス株は、9.5%のB乳を酸性化できず、9.5%のB乳に106~107CFU/mlのストレプトコッカス・サーモフィルス株を植菌し、そして、40℃で14時間インキュベートしたとき、1.0未満のpH低下をもたらすと規定される。9.5%のB乳に106~107CFU/mlのストレプトコッカス・サーモフィルス株を植菌し、そして、40℃で14時間インキュベートしたとき、1.0以上のpH低下をもたらすと規定される、受託番号DSM26722でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16404によって9.5%のB乳の酸性化を引き起こすことができる量の化合物を、組成物はさらに含む。
【0103】
好ましくは、前記化合物はスクロースである。
【0104】
好ましくは、スクロースの量は、0.000001%~2%、例えば0.00001%~0.2%程度、例えば0.0001%~0.1%程度、例えば0.001%~0.05%程度である。
【0105】
特に好ましい実施形態において、前記組成物は、104~1012CFU/gのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株、例えば106~1010CFU/g程度、例えば105~1011CFU/g程度またはとしては、107~109CFU/g程度のラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株をさらに含む。
【0106】
本発明の特定の実施形態において、組成物は、少なくとも2つのSt株、好ましくは少なくとも3つのSt株、そしてより好ましくは3つのSt株を含んでいる。本発明の特定の実施形態において、組成物は、3つ未満のLb株、好ましくは2つ未満のLb株、そしてより好ましくは1つのLb株を含んでいる。
【0107】
本発明の特定の実施形態において、組成物は、2014年6月4日に受託番号DSM28889でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに寄託された菌株ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC16731、受託番号DSM25850でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15757、受託番号DSM26722でDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturenに寄託されたストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16404、および2014年6月12日に受託番号DSM28910でDSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに寄託されたLb株から成る群から選択される少なくとも1つのSt株を含んでいる。
【0108】
ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、および他の乳酸菌は、例えば酪農工業などの、例えば発酵乳製品などの、各種食品の製造に技術的な目的に役立つスターター培養物として一般的に使用される。これにより、別の好ましい実施形態において、前記組成物はスターター培養物として好適である。
【0109】
スターター培養物は、液状スターター培養物に加えて、冷凍かまたは乾燥スターター培養物として提供されてもよい。これにより、さらに別の好ましい実施形態において、前記組成物は、冷凍、凍結乾燥または液状の形態である。
【0110】
WO2005/003327で開示されるように、特定の凍結保護剤をスターター培養物に加えることは、有益である。これにより、本発明によるスターター培養組成物は、イノシン-5’-一リン酸(IMP)、アデノシン-5’-一リン酸(AMP)、グアノシン-5’-一リン酸(GMP)、ウラノシン-5’-一リン酸(UMP)、シチジン-5’-一リン酸(CMP)、アデニン、グアニン、ウラシル、シトシン、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ヒポキサンチン、キサンチン、ヒポキサンチン、オロチジン、チミジン、イノシンおよび当該化合物のうちのいずれかの誘導体から成る群から選択される1若しくは複数の凍結保護剤を含んでもよい。
【0111】
発酵乳製品を製造する方法
本発明はさらに、乳基質を本発明による組成物で植菌し、そして発酵させることを含む発酵乳製品を製造する方法を対象とする。
【0112】
「乳(milk)」という用語は、任意の哺乳類、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、バッファローまたはラクダなどを搾乳して得た乳分泌物として理解されるべきである。好ましい態様において、乳は、牛乳である。
【0113】
「乳基質(milk substrate)」という用語は、本発明の方法に係る発酵に供され得る任意の生乳/加工乳材料を指す。従って、有用な乳基質は、これだけに限定されるものではないが、タンパク質を含有する任意の乳または乳様製品の溶液/懸濁物、例えば全乳または低脂肪乳、脱脂乳、バターミルク、還元乳粉、練乳、粉乳、ホエイ、ホエイ透過物、ラクトース、ラクトースの結晶化からの母液、ホエイタンパク質濃縮物、またはクリームを含む。明らかに、乳基質は任意の哺乳類由来であってもよく、例えば実質的に純粋な哺乳類の乳、または還元乳粉である。
【0114】
好ましくは、乳基質中のタンパク質の少なくとも一部は、例えばカゼインまたはホエイタンパク質などの乳中に天然に存在するタンパク質である。しかしながら、前記タンパク質の一部は、乳中に天然に存在しないタンパク質であってもよい。
【0115】
発酵の前に、当該技術分野で公知の方法に従い乳基質は均質化または殺菌されてもよい。
【0116】
本明細書中、「均質化」という用語は、可溶性懸濁物または乳液を取得するための激しい混合を意味する。均質化が発酵の前に実施される場合、それは、乳脂肪が乳から分離しない程度に小さなサイズに分散するように実施されるべきである。これは、乳を高圧で小さなオリフィスを通して押し出すことにより達成され得る。
【0117】
本明細書中、「殺菌(pasteurizing)」とは、生きた生物、例えば微生物を減少または死滅させるために乳基質を処理することを意味する。好ましくは、殺菌は、一定時間、特定の温度で乳基質を維持することにより達成される。当該特定の温度は、通常加熱により達成される。殺菌温度および時間は、特定の細菌、例えば有害な細菌を死滅または不活性化するように選択され得る。急速冷却工程が続いてもよい。
【0118】
本発明における「発酵」は、微生物の作用により炭水化物がアルコールまたは酸に変換されることを意味する。好ましくは、本発明の方法は、ラクトースを乳酸に変換することを含む。
【0119】
発酵乳製品の製造に使用される発酵プロセスは周知であり、当業者は、温度、酸素量、(単数若しくは複数の)微生物の量および特性、ならびに処理時間などの適切な処理条件をどのように選択するかを心得ている。自明であるが、発酵条件は、本発明の達成を支持するように、すなわち、固形または液状の乳製品(発酵乳製品)を得るように選択される。
【0120】
「発酵乳製品」という用語は、本明細書中で使用される場合、食料または飼料製品を指し、前記食料または飼料製品の調製は、乳酸菌による乳基質の発酵にかかわっている。本明細書中で使用される場合、「発酵乳製品」としては、これだけに限定されるものではないが、好熱発酵乳製品、例えば、ヨーグルト、中温発酵乳製品、例えば、サワークリームおよびバターミルク、ならびに発酵ホエイなどの製品が挙げられる。
【0121】
「好熱性菌」という用語は、本明細書中では、35℃より高い温度にて最も良好に繁殖する微生物を指す。工業的に最も有用な好熱性菌としては、ストレプトコッカス属の種およびラクトバチルス属の種が挙げられる。「好熱発酵」という用語は、本明細書中では、約35℃より高い温度、例えば約35℃~約45℃などでの発酵を指す。「好熱発酵乳製品」という用語は、好熱性スターター培養物の好熱発酵により調製された発酵乳製品を指し、斯かる発酵乳製品としては、セットヨーグルト、スタードヨーグルト、飲用ヨーグルト、例えばYakultが挙げられる。
【0122】
「中温性菌」という用語は、本明細書中では、中程度の温度(15℃~35℃)にて最も良好に繁殖する微生物を指す。工業的に最も有用な中温性菌としては、ラクトコッカス属の種およびロイコノストック属の種が挙げられる。「中温発酵」という用語は、本明細書中では、約22℃~約35℃の間の温度での発酵を指す。「中温発酵乳製品」という用語は、中温性スターター培養物の中温発酵により調製された発酵乳製品を指し、斯かる発酵乳製品としては、バターミルク、サワーミルク、カルチャードミルク、スメタナ、サワークリーム、ケフィールおよびフレッシュチーズ、例えばクアーク、トバログおよびクリームチーズなどが挙げられる。
【0123】
好ましい実施形態において、播種されるストレプトコッカス・サーモフィルス細胞の濃度は、乳基質1mlあたり104~109CFUのストレプトコッカス・サーモフィルス細胞、例えば乳基質1mlあたり104CFU~108CFU程度のストレプトコッカス・サーモフィルス細胞である。
【0124】
本発明の方法の別の好ましい実施形態において、ストレプトコッカス・サーモフィルス株は、9.5%のB乳を酸性化できず、9.5%のB乳に106~107CFU/mlのストレプトコッカス・サーモフィルス株を植菌し、そして、40℃で14時間インキュベートしたとき、1.0未満のpH低下をもたらすと規定される。9.5%のB乳に106~107CFU/mlのストレプトコッカス・サーモフィルス株を植菌し、そして、40℃で14時間インキュベートしたとき、1.0以上のpH低下をもたらすと規定される、ストレプトコッカス・サーモフィルス株による9.5%のB乳の酸性化を引き起こすことができるような量の化合物が、その乳基質に加えられる。
【0125】
好ましくは、前記化合物はスクロースである。
【0126】
好ましくは、スクロースの量は、0.000001%~2%、例えば0.00001%~0.2%程度、例えば0.0001%~0.1%程度、例えば0.001%~0.05%程度である。
【0127】
別の好ましい実施形態において、発酵乳製品は、ヨーグルトまたはチーズである。
【0128】
ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスを用いた発酵によって調製されるチーズの例としては、モッツァレラおよびピザチーズが挙げられる(Hoier et al.(2010) in The Technology of Cheese ma king, 2nd Ed. Blackwll Publishing, Oxford; 166-192)。
【0129】
好ましくは、発酵乳製品はヨーグルトである。
【0130】
本明細書の文脈において、ヨーグルトスターター培養物は、少なくとも1つのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株と少なくとも1つのストレプトコッカス・サーモフィルス株を含む細菌培養物である。これによれば、「ヨーグルト」という用語は、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株とストレプトコッカス・サーモフィルス株を含む組成物を乳に植菌し、そして、発酵させることによって入手可能な発酵乳製品を指す。
【0131】
発酵乳製品
本発明はさらに、本発明による組成物を含む発酵乳製品に関する。
【0132】
別の好ましい実施形態において、発酵乳製品は、ヨーグルト、チーズ、サワークリームおよびバターミルク、ならびに発酵ホエイであってもよい。好ましくは、発酵乳製品はヨーグルトである。
【0133】
本発明の組成物の使用
本発明のさらなる態様は、発酵乳製品の調製のための、本発明による組成物の使用に関する。
【0134】
本発明の実施形態は、制限されることのない例によって以下に説明される。
【0135】
配列表
配列番号1は、菌株CHCC16731の突然変異グルコキナーゼ遺伝子のDNA配列を示す。
配列番号2は、配列番号1によってコードされたアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、菌株CHCC16731の突然変異ManN遺伝子のDNA配列を示す。
配列番号4は、配列番号3によってコードされたアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、菌株CHCC16731のManM遺伝子(突然変異なし)のDNA配列を示す。
配列番号6は、配列番号5によってコードされたアミノ酸配列を示す。
【実施例0136】
材料と方法
培地:
ストレプトコッカス・サーモフィルスに関して、使用する培地は、当業者に知られているM17培地である。
【0137】
M17アガロース培地は、1リットルのH2Oあたりの以下の組成を有する:
アガロース、12.75g
アスコルビン酸、0.5g
カゼインペプトン(トリプシン消化物)、2.5g
β-グリセロリン酸二ナトリウム五水和物、19g
硫酸マグネシウム水和物、0.25g
肉エキス、5g
肉ペプトン(ペプシン消化物)、2.5g
大豆ペプトン(パパイン消化物)、5g
酵母抽出物、2.5g
最終的なpH7.1±0.2(25℃)、
そして、M17培養液は、1リットルのH2Oあたり以下の組成を有する:
アスコルビン酸、0.5g
硫酸マグネシウム、0.25g
肉エキス、5g
肉ペプトン(ペプシン消化物)、2.5g
グリセロリン酸ナトリウム、19g
大豆ペプトン(パパイン消化物)、5g
トリプトン、2.5g
酵母抽出物、2.5g
最終的なpH7.0±0.2(25℃)。
【0138】
添加された炭素源は、無菌のラクトース20g/l、グルコース20g/lまたはガラクトース20g/lである。
【0139】
当業者が知っているとおり、M17培地は、ストレプトコッカス・サーモフィルスの増殖に好適であるように考慮された培地である。さらに、当業者が理解しているように、本文脈において、M17濃縮物は、様々な供給業者から供給される可能性があるので、特定の供給業者とは無関係に、当業者は、本明細書中の着目の関連細胞について、2-デオキシグルコース耐性に関して(標準的な測定不確実性の範囲内で)本明細書中に関連する同じ結果を得る。
【0140】
ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスを培養するのに使用する培地は、MRS-IM培地であった。MRS-IMは、アガロースプレートまたは培養液の形態で使用した。
【0141】
MRS-IMアガロース培地は、1リットルのH2Oあたりの以下の組成を有する。
トリプトン Oxoid L42 10.0g
酵母抽出物 Oxoid L21 5.0g
Tween80 Merck nr8.22187 1.0g
K2HPO4 Merck nr105104 2.6g
酢酸Na Merck nr106267 5.0g
MgSO4、7H2O Merck nr105882 0.2g
MnSO4、H2O Merck nr105941 0.05g
アガロース SO-BI-GEL 13.0g
オートクレーブ後に、pHを25℃にて6.9±0.1に調整する。
【0142】
液体培養のために以下の実施例で使用するMRS-IM培養液は、1リットルのH2Oあたり以下の組成を有する:
トリプトン Oxoid L42 10.0g
酵母抽出物 Oxoid L21 5.0g
Tween80 Merck nr8.22187 1.0g
K2HPO4 Merck nr105104 2.6g
酢酸Na Merck nr106267 5.0g
クエン酸二アンモニウム Merck nr101154 2.0g
MgSO4、7H2O Merck nr105882 0.2g
MnSO4、H2O Merck nr105941 0.05g
【0143】
オートクレーブ後に、pHを25℃にて6.9±0.1に調整する。炭素源であるラクトース20g/lまたはグルコース20g/lを、最初に濾過滅菌した後に、オートクレーブ処理した培養液に添加した。
【0144】
上記MRS-IM培地は、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスの増殖を支える培地の能力に影響を及ぼすことなく、ある程度変更できる。さらに、当業者には明らかなように、MRS-IM濃縮物または先に記載した種々の成分は、様々な供給業者から入手でき、そして、MRS-IM培地の調製に使用され得る。これらの培地は、以下の実施例、特に2-デオキシグルコース耐性の選択アッセイに同様に使用する。
【0145】
母株
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC11976(WO2011/026863に記載のように、GalK遺伝子に突然変異を有するガラクトース発酵株)。
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC12339(WO2011/092300に記載のように、ファージ耐性であり、かつ、食感を加える)。
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC18948(GalK遺伝子に突然変異を有する、CGCC12339のガラクトース発酵突然変異株)。
【0146】
2-デオキシグルコースの耐性株
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC16165(CHCC11976の2-デオキシグルコース耐性突然変異株)。
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC16731(甘味を付与し、かつ、食感を加える、CHCC16165の突然変異株)。
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC19216(甘味を付与し、かつ、食感を加える、CHCC18948の突然変異株)。
【0147】
実施例1:高グルコース分泌を有するストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC11976のグルコースキナーゼ突然変異株の単離のための2-デオキシグルコースの使用
ストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC11976の突然変異株を単離するために、単一コロニーの増殖によって得られた細胞を、2%のラクトースを含有する10mlのM17培養液に植菌し、40℃で一晩培養した。
【0148】
翌日、前記菌株を、2%のガラクトースと、20mM(CHCC11976)の濃度の2-デオキシグルコースを含むM17アガロースプレート上に段階希釈で平板培養し、そして、40℃で20時間インキュベートした。耐性コロニーを、それらを選択するので、まず同じタイプのアガロースプレート上に再度画線接種した。生存菌株を、2%のラクトース、2%のガラクトースまたは2%のグルコースのいずれかを含む新しいM17培養液の植菌に使用し、そして、増殖を計測した。
【0149】
実施例2に概説しているように、こうして、ガラクトースに比べて、グルコース上でより速く増殖できる多数の突然変異株を同定した。1つの当該突然変異株が、CHCC16165であった。
【0150】
実施例2:2-デオキシグルコース耐性突然変異株の増殖パターン
ガラクトース上で増殖できる2-デオキシグルコース耐性突然変異株の選択を確実にするために、ガラクトース発酵菌株コレクションから選択した2つの菌株を使用した。これらのガラクトース発酵菌株は、それでも、M17培養液+2%のガラクトース中に比べて、M17培養液+2%のグルコース中で、対数期には少なくとも10%速く増殖したのに対して、その一方、CHCC11976の2-デオキシグルコース耐性突然変異株誘導体、とりわけ、CHCC16165は、M17培養液+2%のグルコースに比べて、M17培養液+2%のガラクトース中で、対数期にはさらに速く増殖することを特徴とした。
対数期における増殖は、本明細書中では、指数増殖期培養物に関する40℃での経時的な600ナノメートル(OD600)の吸光度の上昇として計測した。
当業者が知っているように、培養物が指数増殖の状態にあるとき、それは種ごとに異なっていてもよい。当業者は、対数期の増殖、例えばOD600 0.1~1.0の間、をどのように測定するか知っている。
培養物の吸光度(OD)を、分光光度計で計測した。
【0151】
結論:
この実施例2の2-デオキシグルコース耐性突然変異株の増殖パターンに基づいて、-着目の特定の菌株(例えば、関連する市販品からの菌株)に関して-、当業者は、この着目の特定の菌株が、選択した突然変異株の特性である本明細書中に関連する増殖パターンを有するかどうか、規定どおりに試験できる。
【0152】
実施例3:ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC16165の高ラクトース発酵およびグルコース分泌突然変異株の選択
ストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16165の高ラクトース発酵およびグルコース分泌突然変異株を単離するために、単一コロニーの増殖物由来の細胞を、2%のガラクトースを含有する10mlのM17培養液中に植菌し、40℃で一晩培養した。
【0153】
翌日、前記菌株を、2%のスクロースと、40mMの濃度の2-デオキシグルコースを含むM17アガロースプレート上に段階希釈で平板培養し、そして、40℃で20時間インキュベートした。無作為に10個のコロニーを、それらのプレートから選択し、そして、2%のスクロースを含有する新しいM17培養液の植菌に使用し、そして、40℃にて一晩培養した。
【0154】
CHCC16165突然変異株を、2%のスクロースを含有する新しいM17培地に移した。
【0155】
実施例4.発酵乳の炭水化物分析
実施例3で得られた突然変異株および菌株CHCC16165を、0.01%のスクロースを含有する9.6%のB乳中で培養した。酸性化後に、CHCC16165により酸性化された乳は、14.9のラクトース濃度、8.4のガラクトース濃度、および5.7のグルコース濃度を有した。比較して、CHCC16165の最高性能の突然変異株により酸性化された乳は、9.3のラクトース濃度、10.5のガラクトース濃度、および9.9のグルコース濃度を有した。前記のCHCC16165の最良の突然変異株を、CHCC16731と呼び、そしてそれを、ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株CHCC16159およびCHCC16160(WO2013/160413に記載)と組み合わせて使用されたときの、乳の発酵における追加試験に供した。
【0156】
CHCC16159およびCHCC16160のそれぞれと組み合わせたCHCC16165およびCHCC16731の一晩培養物を、200mlのB乳のサンプルに追加し、そして、40℃で酸性化させた。
結果は、表1に列挙されているとおりである:
【0157】
【0158】
表1の結果から分かるとおり、CHCC16731は、乳からほとんどすべてのラクトースを取り除くことができる。また、CHCC16731は、高レベルのガラクトースおよびグルコースの両方を産生し、そして、乳中に分泌する。スクロースが100の基準であり、かつ、ラクトースの甘味が16であり、ガラクトースの甘味が32であり、グルコースの甘味が74.3であることを考慮すると、CHCC16731により製造された発酵乳製品は、高度に増強された甘味を有している。
【0159】
実施例5.ストレプトコッカスサーモフィルスCHCC12339のガラクトース陽性突然変異株の作製
ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC12339を、2%のラクトースを含有するM17中で40℃にて一晩培養した。一晩培養物を、2%のガラクトースを含有するM17プレート上に平板培養し(100μl)、そして、嫌気的に40℃にてインキュベートした。22個のコロニーが、2%のガラクトースを含有するM17プレート上に現れる。それらのうち16個を、同じタイプのプレート上に再度画線接種し、およびそれらのうちの8個を、2%のガラクトースを含有する液体M17中に移し、そしてそのすべてが増殖し、そして、それらの培養物のうちの4個を冷凍した。冷凍した培養物のうちの2個を、2%のガラクトースおよび40mMの2-デオキシグルコースを含有するM17プレート上に塗り広げ、各培養物に関して、得られたコロニーのうちの8個を選択した。16個の2-デオキシグルコース突然変異株を、2%のラクトースおよび2%のガラクトースを含有する液体M17中に移し、40℃にて一晩培養し、その後、該突然変異株を、2%のガラクトースを含有する液体M17中で三晩培養し、そして、ガラクトースおよびグルコースの産生を計測し、そして、増殖している間、観察した。ガラクトースおよびグルコース7の産生に基づいて、7個の培養物を、0.05%のスクロースを含有する200mlの9.5%B乳に2mlの培養物を加えることによる、乳の酸性化試験のために選択した。3つの突然変異株が、母株CHCC12339のものに類似した酸性化プロファイルを有していたので、それら3つの突然変異株を、コロニーを選び出すために画線接種し、そして、48時間インキュベートした。それに続いて、コロニーを、2%のガラクトースを含有する液体M17に移し、そして、CH12339に対するその3つの突然変異株の増殖を試験する。最もよく増殖した突然変異株を選択し、コロニーを選び出すために画線接種を3回おこなうことによってより一層精製して、CHCC18948と呼ばれる精製されたガラクトース陽性株(CHCC12339のガラクトース陽性変異株)を作製した。
【0160】
実施例6.グルコースの増強された排出を有するストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC18948の2-デオキシグルコース突然変異株の作製
100μlのCHCC18948培養物を、2%のガラクトースおよび20mMまたは40mMの2-デオキシグルコースを含有するM17プレート上に塗り広げ、40℃にて一晩インキュベートした。20mMプレートからの8つのコロニーおよび40mMプレートからの8つのコロニーを、選択し、そして、2%のガラクトースおよび20mMの2-デオキシグルコースを含有する液体M17中で培養した。得られた培養物を、冷凍し、再度画線接種し、そして、得られたコロニーのうちの12個を、M17培地で開始し、B乳を酸性化するのに使用した。1%の2-デオキシグルコース突然変異株の一晩培養物を、0.05%のスクロースを含有する200mlの9.5%B乳に植菌し、そして、40℃にて酸性化した。CHCC18948の2-デオキシグルコース突然変異株の12個すべてが、低濃度のラクトースおよび高濃度のガラクトースとグルコースを有する発酵乳製品を製造した。7つの突然変異株を、単独での再試験するため、およびラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株CHCC16159(WO2013/160413に記載)と一緒に試験するために選択した。再び、1%の2-デオキシグルコース突然変異株の一晩培養を、0.05%のスクロースを含有する200mlの9.5%B乳中に植菌し、そして、40℃にて酸性化した。
結果を表2に示す:
【0161】
【0162】
3つの最良の変異株は、変異株2、3および12であり、そして、それらを、単独で、ならびにラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス株CHCC16159、CHCC16160およびCHCC16161(WO2013/160413に記載)と組み合わせて、0.05%のスクロースを含有するB乳で再試験した。
結果を表3に示す:
【0163】
【0164】
上記のデータに基づいて、CHCH18948-突然変異株3を、最良の変異株として選択し、そして、それをCHCC19216と呼んだ。上記のデータから分かるように、CHCC19216は、乳からのラクトースのほとんどすべてを取り除くことができる。また、CHCC19216は、高レベルのガラクトースおよびグルコースの両方を産生し、そして、乳中に分泌する。スクロースが100の基準であり、かつ、ラクトースの甘味が16であり、ガラクトースの甘味が32であり、グルコースの甘味が74.3であることを考慮すると、CHCC19216により製造された発酵乳製品は、高度に増強された甘味を有している。
【0165】
実施例7CHCC16731およびCHCC19216の食感を加える特性
菌株CHCC16731およびCHCC19216の食感を加える特性を、以下のアッセイの使用によるせん断応力の計測によって試験した:
インキュベーションの7日後に、発酵乳を、13℃にし、そして、サンプルが均一化するまで、穴あき円板が付いた棒によって緩やかに撹拌した。サンプルの流動学的特性を、
以下の設定を使用したレオメーター(An-ton Paar Physica ASC/DSR301 Rheometer (Autosampler), Anton PaarR GmbH, Austria)により評価した:
【0166】
待機時間(ある程度当初の構造まで再建するため)
振動又は旋回無しで5分間
振動(G*の計算のためG’及びG’’を測定するため)
y=0.3%、振動数(f)=[0.5...8]Hz
60sにわたり6つの測定ポイント(10秒に1回)
旋回(300 1/sでのせん断応力を測定するため)
y=[0.2707-300]1/sおよびy=[275-0.2707]1/s
300 1/sまで上げて210sにわたり21個の測定ポイント(10秒に1回)
および
0.2707 1/sまで下げて210sに渡り21個の測定ポイント(10秒に1回)
更なる解析において、300 1/sでのせん断応力を選択した。
【0167】
表4で列挙した混合した菌株CHCC16731およびCHCC19216を、pHが4.55に達するまで、0.024%の種菌を使用した200mlの9.5%B乳サンプルを酸性化するのに使用した。
結果を表4に示す:
【0168】
【0169】
結果から分かるように、菌株CHCC16731およびCHCC19216は、培養混合物中の唯一のS.サーモフィルスとして使用されたとき、それぞれ、41.3Paおよび51.5Paのせん断応力を有する発酵乳製品を製造する。組み合わせて使用したとき、菌株CHCC16731とCHCC19216は、43.3Paのせん断応力を有する発酵乳製品を製造する。
【0170】
例えば、WO2013/160413に開示された従来の甘味を付与する株と比較した場合、このレベルのせん断応力は高い。
【0171】
実施例8.ラクトース陽性、グルコース陽性Lbによる培養と比較した、本発明の培養の培養組成物のためのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)のフレーバーと増殖
【0172】
【0173】
本発明の培養物は、3つのグルコース欠損ストレプトコッカス・サーモフィルス(St)と1つのラクトース欠損Lbで構成されている。培養物2(比較培養物)は、3つのグルコース欠損Stおよび1つのラクトース陽性、グルコース陽性(従来の)Lbで構成されている。
【0174】
表5に示した組成物を用いた2つの培養物を調製し、そして、4.55の標的pHに達するまで43℃にてヨーグルトを製造するためのスターター培養物として発酵に使用した。2つの培養物を、フレーバー、Lbの増殖、後酸性化、炭水化物および流動学に関して比較した。
【0175】
乳ベース
乳ベースは、4.5%のタンパク質、1.0%の脂質および0.1%のスクロースを含んだ。
最終的な乳ベースにおいて1%の脂肪含有量を達成するために、0.5%脂肪乳と1.5%脂肪乳を混合し、さらに、0.1%のスクロースを加えた。タンパク質レベルを、脱脂乳粉末(SMP)を使用することで4.5%に調整した。水和を6℃にて2時間おこなった。その後、乳を、200/50bar、65℃にて均質化し、そして、95℃にて5分間低温殺菌した。
【0176】
ヨーグルト製造パラメーター
発酵中のpHを、Intapを使用してオンラインで計測した。ヨーグルトがpH4.55に達したとき、穴あき円板が付いたスティックを使って、ゲルを崩した。次に、そのゲルを、2bar、25℃の後処理ユニット(PTU)内で処理し、120mLヨーグルトカップに充填し、そして、6℃にて28日間保存した。
【0177】
せん断応力の計測
サンプルの均一性が得られるようにPTU処理中にゲルが既に崩されていたので、穴あき円板が付いたスティックでサンプルを撹拌することしなかったことを除いて、実施例7に記載の方法を使用した。
【0178】
コロニー形成単位の計測
M17をStの選択培地として使用し、MRSlac(MRS+8%のラクトース)をLbの選択培地として使用した。10×希釈系列を、ヨーグルトで作製した。すべての希釈物を、それぞれM17およびMRSlacアガロースプレート上で平板培養し、そして、37℃にて2日間嫌気的にインキュベートした。その後、コロニー形成単位をカウントした。
【0179】
酸性化
培養物1は、4.55のpHに達するには10.8時間かかった。培養物2は、4.55のpHに達するには12.1時間かかった。
【0180】
【0181】
Lbの増殖
表7:発酵終了時の培養物の増殖(コロニー形成単位(CFU))
【表7】
【0182】
表7から分かるように、本発明の培養物のLb細胞数は、従来のLb、すなわち、ラクトース陽性、グルコース陽性Lbを用いた比較培養物のLbカウントよりはるかに高かった。よって、グルコース欠損Stおよびラクトース欠損Lbの組み合わせは、発酵終了時に高いレベルのLbを生じる。
【0183】
流動学
培養物1は、発酵終了時に300 1/sにて41.1Paのせん断応力を有する。培養物2は、発酵終了時に300 1/sにて27.3Paのせん断応力を有する。
【0184】
炭水化物
表8:発酵終了時の炭水化物レベル
【表8】
【0185】
フレーバー
フレーバーを、食味検査パネルによる査定によって評価した。培養物1には、まったく異臭がなかった。
【0186】
実施例9.グルコース欠損Lbによる培養と比較した、本発明の培養の培養組成物のためのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)のフレーバーと増殖
【0187】
【0188】
本発明の培養物は、3つのグルコース欠損Stと1つのラクトース欠損Lbで構成されている。培養物2(比較培養物)は、3つのグルコース欠損Stおよび1つのラクトース陽性、グルコース欠損Lbで構成されている。
【0189】
表9に示した組成物を用いた2つの培養物を調製し、そして、4.55の標的pHに達するまで43℃にてヨーグルトを製造するためのスターター培養物として発酵に使用した。2つの培養物を、フレーバー(アミノ酸のレベル)、揮発性有機物成分、炭水化物および流動学に関して比較した。
【0190】
乳ベース
脱脂乳粉末(SMP)またはホエイタンパク質(WP)のいずれかを用いて調整され、かつ、4.5%のタンパク質、1%の脂質および0.1%のスクロースを含有する、2つの乳ベースを使用した。
最終的な乳ベースにおいて1%の脂肪含有量を達成するために、0.5%脂肪乳と1.5%脂肪乳を混合し、さらに、0.1%のスクロースを加えた。タンパク質レベルを、SMPまたはWPを使用することで4.5%に調整した。水和を6℃にて2時間おこなった。その後、乳を、200/50bar、65℃にて均質化し、そして、95℃にて5分間低温殺菌した。
【0191】
ヨーグルト製造パラメーター
発酵中のpHを、CINACを使用した哺乳瓶においてオンラインで計測した。ヨーグルトがpH4.55に達したとき、穴あき円板が付いたスティックを使って、ゲルを崩し、そして、均質化した。その後、ヨーグルトを哺乳瓶中で保存した。
【0192】
せん断応力の計測
実施例7に記載の方法を使用した。
【0193】
流動学
SMP乳ベース中の培養物1は、発酵終了時に300 1/sにて46.2Paのせん断応力を有する。
WP乳ベース中の培養物1は、発酵終了時に300 1/sにて39.6Paのせん断応力を有する。
SMP乳ベース中の培養物2は、発酵終了時に300 1/sにて42.0Paのせん断応力を有する。
WP乳ベース中の培養物2は、発酵終了時に300 1/sにて38.4Paのせん断応力を有する。
結果から分かるように、培養物1は、培養物2と比較した場合に、せん断応力を有する。
【0194】
【0195】
Lbの増殖
表11:発酵終了時の培養物の増殖(コロニー形成単位(CFU))
【表11】
【0196】
表11から分かるように、本発明の培養物のLb細胞数は、ラクトース陽性、グルコース欠損Lbを用いた比較培養物のLbカウントより低かった。
【0197】
炭水化物
表12:発酵終了時の炭水化物レベル
【表12】
【0198】
【0199】
グルコース陰性Lbを含むサンプル(培養物2)は、より多くのTFFA量を有し、そしてその特徴が、順に、不快なフレーバーにつながり得る、より高いタンパク分解性活性に寄与する。
【0200】
さらに、グルコース陰性Lbを含有するヨーグルトは、「ブロシー(brothy)」と説明される異臭をもたらすことが知られているグルタミン酸をより大量に含有する。
【0201】
そのうえ、苦味のあるアミノ酸であるバリンが、グルコース陰性Lbを含有するヨーグルト中により大量に存在する。
【0202】
揮発性有機化合物(VOC)
揮発性有機化合物プロファイルは、サンプルのフレーバープロファイルに関する指標を与え得る。51種類の異なった揮発性有機化合物が計測された。WP乳ベース中の培養物1に関して、WP乳ベース中の培養物2と比較して、揮発性有機化合物の量は、51種類の化合物のうちの44種類(86%)と少なかった。WP乳ベース中の培養物1に関して、WP乳ベース中の培養物2と比較して、揮発性有機化合物の量は、51種類の化合物のうちの34種類(67%)と少なかった。結論として、本発明の培養物は、比較培養物と比較した場合に、有意に少ない含有量の(化合物群として見なされる)揮発性有機物化合物を有していた。
【0203】
実施例10.本発明の培養組成物のためのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)の増殖と後酸性化
実験計画
表14:試験した培養物の組成
【表14】
【0204】
表14に示した組成を有する培養物を調製し、そして、4.55の標的pHに達するまで43℃にてヨーグルトを製造するための発酵にスターター培養物として使用した。その培養物を、0.01%、0.02%および0.03%のレベルで植菌した。製造されたヨーグルトを、5℃、13℃および25℃にて保存した。その培養物を、StおよびLbの増殖、ならびに後酸性化に関して試験した。
【0205】
乳ベース
表15:乳ベース1および2の組成
【表15】
【0206】
【0207】
【0208】
表17から分かるように、後酸性化のレベルは、13℃および25℃のより高い保存温度を含めた、試験したすべての植菌レベルおよび保存温度にて非常に低く、ここで、ほとんどの従来のスターター培養物に関しては、Lbの増殖のレベルが高く、それにより、後酸性化が高い。
【0209】
LbおよびStの増殖
表18:LbおよびStの増殖
【表18】
【0210】
表18から分かるように、すべてのレベルの植菌に関して、Lb細胞数は、発酵終了時に高レベルであった。
【0211】
実施例11.従来のスターター培養物と比較した、本発明の培養組成物のためのラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカス(Lb)の増殖、後酸性化および炭水化物分析
実験計画
表19:試験した培養物の組成
【表19】
【0212】
表19に示した組成を有する培養物を調製し、そして、4.55の標的pHに達するまで43℃にてヨーグルトを製造するための発酵にスターター培養物として使用した。その培養物を、0.02%のレベルで植菌した。製造されたヨーグルトを、5℃および13℃にて保存した。その培養物を、StおよびLbの増殖、後酸性化および炭水化物分析に関して試験した。
YoFlex Premium1.0およびYoflex YF-L901は、ラクトース陽性、グルコース陽性StおよびLbを含む市販されている従来の培養物である。
【0213】
【0214】
【0215】
表21から分かるように、本発明の培養物は、低レベルの後酸性化を有し、そしてそれは、従来のスターター培養物と同じレベルである。
【0216】
LbおよびStの増殖
表22:LbおよびStの増殖
【表22】
【0217】
表22から分かるように、本発明の培養物のLb細胞数は、従来の培養物に比べて、発酵終了時により高いレベルであった。
【0218】
【0219】
炭水化物のすべての測定を二重反復試験でおこない、そして、表23は、その2つの測定値の平均値を列挙する。測定を、ヨーグルト保管の7日後に実施した。
【0220】
表23から分かるように、本発明の培養物は、高レベルでグルコースを産生し、そして、保管の7日後に、グルコースは約8mg/gのレベルで存在した。
【0221】
寄託と専門家のソリューション
出願人は、下記の寄託された微生物の試料が、特許登録の日まで、専門家のみに利用可能であるべきことを要求する。
【0222】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC11342は、2009年9月8日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM22932で寄託された。
【0223】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC12339は、2010年10月14日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM24090で寄託された。
【0224】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC11976は、2009年9月8日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM22934で寄託された。
【0225】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC16731は、2014年6月4日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM28889で寄託された。
【0226】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルスCHCC19216は、2015年12月8日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM32227で寄託された。
【0227】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15757は、2012年4月3日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM25850で寄託された。
【0228】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC15887は、2012年4月3日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM25851で寄託された。
【0229】
菌株ストレプトコッカス・サーモフィルス株CHCC16404は、2012年12月12日付で、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ)GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germanyに、受託番号DSM26722で寄託された。
【0230】
菌株ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスCHCC18944は、2014年6月12日付で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに、受託番号DSM28910で寄託された。
【0231】
菌株ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスCHCC10019は、2007年4月3日付で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに、受託番号DSM19252で寄託された。
【0232】
菌株ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスCHCC16159は、2012年9月6日付で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに、受託番号DSM26420で寄託された。
【0233】
菌株ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスCHCC16160は、2012年9月6日付で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに、受託番号DSM26421で寄託された。
【0234】
菌株ラクトバチルス・デルブルッキー亜種ブルガリカスCHCC12813は、2010年9月29日付で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweigに、受託番号DSM24074で寄託された。
【0235】
寄託は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に従っておこなわれた。
【0236】