(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023085485
(43)【公開日】2023-06-20
(54)【発明の名称】固体リチウムイオン伝導体
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20230613BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230613BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230613BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20230613BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M4/62 Z
H01M10/0562
C01G25/02
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023062069
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2021035824の分割
【原出願日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】10 2020 111 658.6
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イェルク シューマッハー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ トライス
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ シュテーア
(72)【発明者】
【氏名】トーマス キアシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュミートバウアー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ロータース
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水および/または水蒸気の使用下で製造可能であるために十分な耐水性を有するが、リチウムイオン伝導体として必要な機能性を十分に高い伝導性の形で示す、固体リチウムイオン伝導体材料を提供する。
【解決手段】固体リチウムイオン伝導体材料の製造方法であって、固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を準備する段階と、固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を用いて、溶融法、焼結法、セラミック化法、ゾルゲル前駆体のか焼またはパルス反応器におけるボトムアップ合成を含む、少なくとも1つの高温工程を実施する段階と、得られた熱い中間生成物を冷却または急冷する段階と、1つまたは複数の細分化段階において低温工程を実施して粉末を生成する段階と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体リチウムイオン伝導体材料の製造方法であって、以下の段階:
(1) 固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を準備する段階、
(2) 前記固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を用いて、
・ 溶融法、
・ 焼結法、
・ セラミック化法、
・ ゾルゲル前駆体のか焼、または
・ パルス反応器におけるボトムアップ合成
を含む、少なくとも1つの高温工程を実施する段階、
(3) 得られた熱い中間生成物を冷却または急冷する段階、および
(4) 1つまたは複数の細分化段階において低温工程を実施して粉末を生成する段階
を有し、段階(3)および/または段階(4)において、それぞれの中間生成物を水および/または水蒸気と接触させ、引き続き乾燥させる、前記方法。
【請求項2】
前記出発材料が、
・ NASICON構造に基づく、好ましくはリン酸リチウムアルミニウムゲルマニウム(LAGP)に基づく、および/またはリン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)に基づく、固体リチウムイオン伝導体材料を製造するための材料、または
・ ガーネット構造に基づく、好ましくはリチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZO)に基づく、固体リチウムイオン伝導体材料を製造するための材料
から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガーネット構造に基づく、好ましくはリチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZO)に基づく、固体リチウムイオン伝導体材料を製造するための前記材料が、化学量論組成に比して過剰なリチウムを有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
得られた熱い中間生成物を段階(3)において冷却または急冷する際に、同時に前記中間生成物を細分化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
段階(3)における細分化が、前記熱い中間生成物を噴霧して液滴にすること、または熱い中間生成物を個別化して粒子にすることであり、ここで前記熱い中間生成物を水および/または水蒸気と接触させることができることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
段階(3)において、熱い、まだ液体の中間生成物を水および/または水蒸気と接触させ、ウォーターノズルまたはウォーターシュートを使用して、噴霧して液滴にすることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
段階(3)において、ウォーターシュートを使用して、液体の中間生成物の液滴の直径を、ウォーターシュートへの溶融物の給送の間隔、10~75°の範囲、好ましくは45°のウォーターシュートの傾斜角、および0.1~3m3/分の範囲、好ましくは1.7m3/分の調整された水の流量に依存して、20mm未満、好ましくは10mm未満、特に好ましくは0.5~1mmの範囲に調整することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
段階(3)の後で且つ段階(4)の前に、冷却された中間生成物を所望の結晶構造に調整するために、加熱、保持および冷却について、それぞれ場合により中間保持段階を有する定義された温度・時間プログラムを用いて熱処理することを含む中間段階を実施することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記中間段階を繰り返し実施して、所望の結晶相の組成および結晶の割合に調整することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
段階(4)に方法段階(5)が続き、前記段階(5)は、得られた生成物中に残っている残留水を少なくとも200℃の温度で除去するための温度処理を実施することを含み、その際、前記温度処理はCO2不在下の周囲の雰囲気中で実施され、含水率1.0質量%未満を有する固体リチウムイオン伝導体材料の粉末が得られることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
段階(5)を少なくとも300℃、好ましくは少なくとも400℃、さらに好ましくは少なくとも500℃の温度で実施することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
段階(4)による低温工程において、粗製生成物を所望の粒子サイズおよび粒度分布を有する粉末形態に変換し、該工程は、1つまたは複数の以下の段階:
・ ハンマおよびのみを用いた細分化、
・ ロール・クラッシャーおよび/またはジョー・クラッシャーを用いた細分化、
・ ボールミルおよび/またはハンマミルを用いた細分化、
・ ボールミル、インパクトミル、および/またはプラネタリーミルを用いた細分化、
・ ディスク振動ミルを用いた細分化、
・ カウンタジェットミル、スパイラルジェットミル、および/またはスチームジェットミルを用いた細分化、
・ 乾式ボールミルおよび/または湿式ボールミルを用いた細分化、
・ 乾式攪拌機ボールミルおよび/または湿式攪拌機ボールミルを用いた細分化、
・ 高回転ローターボールミルにおける高エネルギー粉砕による細分化
を含むことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法により得られる、粉末形態の固体リチウムイオン伝導体材料。
【請求項14】
電池または蓄電池、好ましくはリチウム電池またはリチウム蓄電池、殊にセパレータ、カソード、アノードまたは固体電解質における、粉末形態の固体リチウムイオン伝導体材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体リチウムイオン伝導体、前記固体リチウムイオン伝導体の製造方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電池技術において、近年、リチウムイオンに基づく電池システムがますます普及している。これらは殊に、高い電気エネルギー密度および期待される長期耐久性を特徴とし、効率的な電池構成が可能になる。ここで、高い化学反応性、リチウムイオンのわずかな質量、並びにその高い移動度が中心的な役割を果たす。従って、固体リチウムイオン伝導体の開発は大きな興味を持たれている。
【0003】
固体電池または固体蓄電池は、電極と電解質との両方が固体材料からなる。電荷担体としてのリチウムイオンに基づく固体電池は、現在、通常はポストリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池自体は、アノード材料としてのグラファイトの使用を特徴とする。電池の充電の際、リチウムイオンがこれに蓄積され得る。放電の際、それらはそこから再度出てくる。並行して、電子は充電の際に外部回路を介してグラファイトホスト系で吸収され、放電の際に再度放出される。これに対し、ポストリチウムイオン電池の場合、アノード材料として元素リチウムが使用されることが多い。これは、グラファイトアノードに対し、著しく高いエネルギー貯蔵密度を可能にする。これらの場合、リチウム電池も存在する。その際、リチウムに基づく固体電池または固体蓄電池の一般的な利点は、引火しやすいかまたは有毒であることが多い液体電解質が置き換えられ、ひいてはリチウムに基づく電池の安全性の改善が可能になることである。
【0004】
固体リチウムイオン伝導体は通常、粉末形態で電池に組み込まれ、その際、固体イオン伝導体は他の電池部材、例えば活物質、またはポリマーと混合されて任意に焼結されるか、またはさらなる添加剤と焼結またはプレスされるかのいずれかである。しかしながら、この場合、高い接触抵抗が生じることが多く、焼結された部材では低い伝導性しか達成されない。
【0005】
長い間、ガーネットに基づく固体リチウムイオン伝導体材料Li7La3M2O12 (M=Zr、Sn、Hf)、例えばリチウムランタンジルコニウム酸化物(M=Zr)が水に対して安定であると見られてきた(R.Murugan et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Eng.46(2007)7778~7781; N.Imanishi, Solid Electrolytes for Aqueous Lithium Air Batteries,2014,215~234)。ただし、実用において、固体リチウムイオン伝導体は、製造の際に既に空気中の湿分および二酸化炭素と反応するという欠点を示す。例えばYowらは、TaドープLi6.6La3Zr1.6Ta0.4O12について(Z.F.Yow et al.,Solid State lonics 292(2016)122~129)、多くの他の著者は他のドープされたLLZOの変位形について(Y.Jin et al.,Journal of Power Sources 239(2013)326~331; Y.Wang et al., Journal of Power Sources 275(2015)612~620; C. Liu et al.,Journal of Power Sources 282(2015)286~293; M. Nyman et al.,Chem.Mater.22(2010)5401~5410)、空気の湿分と接触または水中に浸漬される場合、リチウムイオン(Li+)のプロトン(H+)への交換において生じるLLZO化合物の不安定性を非常に詳細に記載している。その際、材料の挙動がペレットの形態および粉末の形態で、且つ時間に依存して調査された。使用されたペレットの場合、表面層のみが攻撃され、水中で7日の保管後の交換は最大8.8%までであった。粉末の場合、同等の条件下で、53.4%までの高い度合いの交換が生じた。殊に粉末の場合、純粋な水の代わりに1MのLiOH溶液を接触媒体として使用する場合、前記交換は幾分軽減され得る。ここで、7日間の保管後、Li+からH+への18.8%のみの交換が生じるが、しかしその際、それによって粉末中に望ましくないLiOH相が存在する。前記交換は分析法によって測定できる。Li+/H+の交換を測定するための可能な分析方法は熱重量測定である。代替的に、材料のプロトン蓄積は、格子パラメータの連続的な拡大をもたらすので、X線回折法でもその現象を分析的に捉えることができる。
【0006】
Li+/H+交換の過程で水酸化リチウムが形成される。続く反応において、攻撃されたLLZO材料が、殊に空気中での長期の保管の場合に、大気中に存在するCO2とさらに反応してLi2CO3を形成することがある。このプロセスは、例えばリチウムガーネットについてDuanらによって記載されている(H.Duan et al., Solid State lonics 318(2018)45~53)。炭酸リチウムは表面上または微結晶間の絶縁層として作用することがあるので、非常に高められた接触抵抗をもたらす。しかしながら、水酸化リチウムの形成は、炭酸リチウムの形成に必須の要件ではない。その形成は、大気中にCO2が存在する場合、乾燥条件下でも起きることがある。
【0007】
Li+/H+交換に基づく劣化は、固体リチウムイオン伝導体材料の機能性に関して劇的な結果をもたらす。分子動力学(MD)の計算が示すとおり、材料が混合イオン伝導体に変わり、その際、Li+イオンの伝導およびプロトンの伝導が並行して進行する。ただし、それらは異なる活性化エネルギーを有する。相応して、低温の際には、プロトン伝導性が支配的である一方で、900℃を幾分上回る温度ではリチウムイオン伝導性の割合が約37%である。
【0008】
相応に負荷された固体リチウムイオン伝導体材料から水およびCO2を再び除去する1つの可能性は、原理的に高温処理、例えば特開2013-219017号公報(JP2013-219017A)内に記載されているようなものである。しかし、これは>650℃の比較的高い温度を必要とし、既に、蒸発によるリチウムの損失、および粉末の場合には焼結が生じ得る。さらに、特開2013-219017号公報は、高温処理を焼結されたペレットでしか実証していない。粉末は理論的な可能性として挙げられているに過ぎず、その特性に関してはさらに特徴付けられていない。その方法を粉末で実施できるか、どのように実施できるかについては、開示されておらず、明らかにされてもいない。
【0009】
Yowらの刊行物(2016、上記引用文献)において著者らは、水および場合により追加的にCO2と接触させられたTaドープLLZO材料は、焼結ペレットとしても粉末としても、さらなる温度処理を保留したことを明記しており、なぜなら分解のリスクが高く、それに伴って伝導性の大きな変化が生じることが予期されたからである。分解の危険、およびそれに伴う伝導性の予期される大きな変化については、Kangら(S.G.Kang et al., J.Phys.Chem.C118(2014)17402~17406)が行った密度関数理論計算に基づく熱力学的考察も支持しており、それは、以下の反応式(1)および(2)に相応するガーネットに基づく固体イオン伝導体材料の分解が予測される:
2Li7La3M2O12+7H2O → 14LiOH+3La2O3+4MO2 (M=Zr、Sn、Hf) (1)
2Li7La3M2O12+7CO2 → 7Li2CO3+3La2O3+4MO2 (M=Zr、Sn、Hf) (2)
【0010】
殊に粉末形態のイオン伝導体の使用に際し、水との接触で生じる上述の反応(1)および(2)が、後の加熱の際に問題を起こし、なぜなら、ここでは特に高い表面積が存在するからである。結果の再現性が欠けているのはこれと関連しており、極端な場合、これらの反応およびそれに続く材料中でのリチウムの欠乏は、伝導性の著しい損失をもたらすことがある。
【0011】
その際、リチウムガーネットの場合、上述の分子動力学(MD)計算において算出されるとおり、必ずしも個々の成分への完全な分解がもたらされる必要はない。しかし、ここで少なくともリチウムが少ない相、例えばパイロクロアのLa2M2O7(M=Zr、Sn、Hf)の形成が生じることが多く、これはリチウムイオンの伝導性の大きな障害をもたらす。他の場合、例えばリン酸リチウムアルミニウムチタンに基づく固体リチウムイオン伝導体材料(LATP: Li(Ti,Al)2(PO4)3)の場合、高すぎる温度で結晶相がアモルファス化し、その際、伝導性の低下がもたらされることがある。場合により、まず結晶相内でのAlの欠乏が生じ、AlPO4の形成が生じることがあり、このことも伝導性の損失と関連し得る。
【0012】
周囲の空気との反応に対してあまり敏感ではない組成物の変化形も既に提案されている(例えば特開2017-061397号公報(JP 2017-061397A)参照)。しかしながら、特に高い伝導性を有するリチウムイオン伝導体は、それに関連する高いリチウム移動度に基づき、空気と、および殊にそこに含有される湿分と反応する傾向があることが予測され得る。このことは、特に高いリチウム含有率を有する材料に当てはまる。
【0013】
LATPは、我々の骨を構成するハイドロキシアパタイトと同様に、P2O5から水との反応によって完全に形成された後、さらなる段階においてアルカリ液/塩基性材料で(部分的に)中和された、オルトリン酸塩化合物、つまりリン酸の塩と類似している。そのような(難溶性であることが多い)塩化合物は、公知のとおり、ある程度の水を、カチオンの溶媒和殻、または結晶の格子構造内に取り込む。しかし、溶媒和殻中への水の取り込みまたは格子構造中への貯蔵は、該発明によるリチウムイオン伝導体材料にとっては全く望ましくない。
【0014】
さらに、高いアルカリ含有率、殊にLi含有率を有するガラスは通常、ガラスマトリックスからのこれらのイオンの侵出について高い傾向を示す。
【0015】
従って、リン酸塩に基づく固体リチウムイオン伝導体材料、殊にリン酸リチウムアルミニウムチタンLATPを製造するために水または水蒸気を成型媒体もしくは接触媒体として使用する方法は考慮に入らないことが予測される。
【0016】
従って、本発明は、従来技術からの通常の概念および考えから完全に離れて開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2013-219017号公報
【特許文献2】特開2017-061397号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】R.Murugan et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Eng.46(2007)7778~7781
【非特許文献2】N.Imanishi, Solid Electrolytes for Aqueous Lithium Air Batteries,2014,215~234
【非特許文献3】Z.F.Yow et al.,Solid State lonics 292(2016)122~129
【非特許文献4】Y.Jin et al.,Journal of Power Sources 239(2013)326~331
【非特許文献5】Y.Wang et al., Journal of Power Sources 275(2015)612~620
【非特許文献6】C. Liu et al.,Journal of Power Sources 282(2015)286~293
【非特許文献7】M. Nyman et al.,Chem.Mater.22(2010)5401~5410
【非特許文献8】H.Duan et al., Solid State lonics 318(2018)45~53
【非特許文献9】S.G.Kang et al., J.Phys.Chem.C118(2014)17402~17406
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、従来技術からの欠点を克服し、水および/または水蒸気の使用下で製造可能であるために十分な耐水性を有するが、それにもかかわらずリチウムイオン伝導体として必要な機能性を十分に高い伝導性の形で示す、固体リチウムイオン伝導体材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の説明
先述の課題は、本発明によれば独立請求項の特徴により解決される。従属請求項は本発明の好ましい態様を表す。
【0021】
意外なことに、高温工程および/または低温工程における媒体としての水および/または水蒸気の使用下での固体リチウムイオン伝導体材料の製造が、特に有利な製造の生成物をもたらすことが確認された。これは全く予想外であり、なぜなら、従来技術に記載された経験から出発すると、媒体としての水中での固体リチウムイオン伝導体材料の加工は不利であるとみなされるだけでなく、材料の安定性、相の純度、および最適な結晶変態の調整に関して、並びにリチウムイオン伝導性の形でのその機能性が総じて実行可能ではないはずだからである。
【0022】
本発明は、固体リチウムイオン伝導体材料の製造方法であって、以下の段階:
(1) 固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を準備する段階、
(2) 前記固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を用いて、
・ 溶融法、
・ 焼結法、
・ セラミック化法、
・ ゾルゲル前駆体のか焼、または
・ パルス反応器におけるボトムアップ合成
を含む少なくとも1つの高温工程を実施する段階、
(3) 得られた熱い中間生成物を冷却または急冷する段階、および
(4) 1つまたは複数の細分化段階において低温工程を実施して粉末を生成する段階
を有し、
段階(3)および/または段階(4)において、それぞれの中間生成物を水および/または水蒸気と接触させ、引き続き乾燥させる、
前記方法に関する。
【0023】
以下で本発明による方法を詳細に説明する。
【0024】
本発明の方法では、固体リチウムイオン伝導体材料を複数の段階で製造する。
【0025】
本発明による方法の段階(1)において、固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料を準備する。本発明はこれに関して、固体リチウムイオン伝導体材料が溶融法、焼結法、セラミック化法、ゾルゲル前駆体のか焼、またはパルス反応器におけるボトムアップ合成を介して製造可能である限り、さらに限定されない。このような固体リチウムイオン伝導体材料は当業者に公知である。これは、例えばNASICON構造に基づく固体リチウムイオン伝導体材料である。NASICON構造は、頂点共有のPO4四面体と八面体、例えばTiO6八面体またはGeO6八面体とから構成されている構造である。NaSICON構造は、結晶格子を通じてLiイオンの容易な移動を可能にする。NASICON構造に基づく固体リチウムイオン伝導体材料は、好ましくはリン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)に基づく材料、および/またはリン酸リチウムアルミニウムゲルマニウム(LAGP)に基づく材料から選択される。
【0026】
製造され得る他の固体リチウムイオン伝導体材料は、ガーネット構造に基づくものである。これらは好ましくはリチウムランタンジルコニウム酸化物LLZOに基づく材料から選択される。
【0027】
「~に基づく」との文言、例えばリン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)に基づくという文言は、それぞれ公知の基本構造が存在するが、従来技術から公知の基本構造からの差異が存在し得ることを意味する。これらは例えば、他の元素、例えばタンタル、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、ガリウム、イットリウム、ケイ素、ゲルマニウム、テルル、クロム、鉄、スカンジウム、ホウ素、希土類、ハロゲン化物、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属による追加的なドーピングであってよい。これらのドーピングは従来技術から公知である。従って、前記の用語には一般的な上位概念に入る全ての化合物を含む。
【0028】
本発明による方法において、まず、固体リチウムイオン伝導体材料のための出発材料が準備され、つまり、相応の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、またはさらに他の塩が提供される。
【0029】
ガーネット構造に基づいて結晶化する固体リチウムイオン伝導体材料の出発材料の場合、好ましくは、化学量論組成に比して過剰なリチウムを有する材料組成が選択される。過剰なリチウムは、化学量論比の結晶の式単位に対するモルで好ましくは2%~100%、特に好ましくは2%~25%である。
【0030】
NASICON構造に基づく固体リチウムイオン伝導体材料の場合、本発明による方法は通常、リチウムは添加せずに、変えられていない原料の出発材料を用いて、つまりLiを過剰にせず実施できる。
【0031】
次いで、その準備された出発材料を段階(2)において、溶融法、焼結法、セラミック化法、ゾルゲル前駆体のか焼、またはパルス反応器におけるボトムアップ合成を含む高温工程に供する。
【0032】
前記高温工程は、例えば出発材料の溶融を含み得る。代替的に、出発材料の溶融温度を下回る温度で、焼結、殊に固体焼結を使用することもできる。
【0033】
セラミック化は、例えばLATPの場合に任意である中間段階として行われることが有利である。
【0034】
さらなる高温工程はゾルゲル前駆体のか焼である。この場合、まず、通常は比較的低温で、湿式化学法でゾルゲル法において前駆体の製造を行う。ゾルゲル法の場合、乾燥による溶剤の除去後、前駆体が生じ、それが高温工程段階としてのか焼により所望の材料に変換される。
【0035】
パルス反応器におけるボトムアップ合成も当業者に公知の高温工程であり、なぜなら、合成反応がパルス状の熱ガス流中で行われるからである。この場合、一般に燃焼反応で生じる排ガスが使用される。
【0036】
全体の高温工程は、1つまたは複数の段階/部分工程を含み得る。前記の単数または複数の高温工程に、同じく高温工程である1つまたは複数の後処理段階が続くこともある。前記の高温工程はそれぞれ他の中間段階なく直接的に互いに引き続くことができ、つまり1つまたは複数の高温工程が次々と行われる。個々の高温工程の間に、中間生成物をその都度、室温に冷却してよい。しかし、これは全ての場合において必要なわけではない。好ましくは炉内で、加熱、保持および冷却について、それぞれ場合により中間保持段階を有する定義された温度・時間のプログラムを用い、例えば熱処理の形での後処理は、望ましい結晶変態および/または微結晶サイズを調整するために役立つ。
【0037】
全体として、前記高温工程は、所望の多成分系を製造するために役立ち、例えば以下の方法を含み得る:
・ 準備された2つ以上の出発材料をガラスへと溶融し、適した冷却により、および場合により冷却後に、そのガラスをガラスセラミックへと変換する溶融法、
・ 所望の結晶変態および/または微結晶サイズを調整するための、例えば炉内で、加熱、保持および冷却について、それぞれ場合により中間段階を有する定義された温度・時間プログラムを用いた熱処理の形でのさらなるセラミック段階の実施、
・ 準備された2つ以上の出発材料を、高い温度ではあるが出発材料の溶融温度未満で固体反応の範囲内で焼結するための焼結法、
・ ゾルゲル法において製造された前駆体のか焼を含む、ゾルゲル前駆体のか焼、または
・ パルス反応器におけるボトムアップ合成、および、結晶変態および/または微結晶サイズを調整するための任意の引き続く後か焼。
【0038】
前記方法の段階(2)による加熱工程に引き続き、段階(3)において、得られた熱い中間生成物を冷却または急冷する。この際、前記中間生成物を水および/または水蒸気と接触させ、引き続き乾燥させることができる。この冷却または急冷は水または水蒸気なしで行うこともできる。一般に、冷却または急冷は例えば、室温への自然冷却、または制御された冷却または急冷(クエンチ)であってよい。その熱い中間生成物を例えば、冷水、冷たい空気、または冷たく、熱伝導性の良い材料と接触させ、引き続き乾燥させることにより冷却できる。冷却または急冷を、当業者に公知の他の手法で行うこともできる。
【0039】
本発明の好ましい実施態様によれば、段階(3)において、得られた熱い中間生成物を冷却または急冷する際に、同時にその中間生成物を細分化する。その細分化は、例えば熱い中間生成物を噴霧して液滴にすること、または熱い中間生成物を個別化して粒子、例えば粗大粒子にすることを含む。段階(3)を実施する間、その熱い中間生成物を水および/または水蒸気と接触させることができる。従って、この実施態様によれば、段階(3)は熱間成型工程である。
【0040】
噴霧またはフリット化の形での熱間成型工程としての段階(3)は、材料を冷却もしくは急冷して、できるだけ少ない結晶相を有する、且つ相応してできるだけ高いアモルファスまたはガラス相の割合を有する中間生成物を形成するために役立つ。これにより、冷却の際の制御されない温度・時間の推移によって望ましくない結晶相が制御されずに形成される危険が防止される。
【0041】
さらに、熱間成型工程としての段階(3)によって、後続の細分化工程において特に好都合に取り扱い可能であることが判明している中間生成物が生じる場合が有利である。例えば、噴霧工程またはフリット化工程において形成された粒子または圧延機での冷却によって製造されたガラスリボン(水と接触しない、代替的な冷却法もしくは急冷法)は、大きなモノリス状のブロックよりも明らかにより良好に細分化可能である。
【0042】
好ましい実施態様によれば、得られる熱い、好ましくはまだ液体の中間生成物を、段階(3)において冷却または急冷すると同時に細分化し、且つこの際、水および/または水蒸気と接触させる。特に好ましくは、噴霧媒体の水を使用して、液体の中間生成物を噴霧して液滴にすることによってこれを行う。水の形態での噴霧媒体を、水の噴流として、例えばウォーターシュートにおいて、またはノズルを介してもたらすことができる。
【0043】
ウォーターシュートの場合、本発明による方法の段階(2)による溶融工程を介して製造された、得られる液体の中間生成物は溶融物の給送を介して噴流で「ウォーターシュート」に導かれる。ウォーターシュートは、液滴を水中で急冷または冷却するために役立つ。溶融物が流れる水の膜に当たる際、溶融物の噴流が微細な液滴へと細分化される。
【0044】
使用される液体の中間生成物の粘度は例えば、1450℃~1600℃の温度で0.1~1dPaの範囲であってよい。ウォーターシュート上で水は高速で、例えば0.1~3m3/分、特に好ましくは1.7m3/分のスループットで、傾斜したチャネル、好ましくは特殊鋼のチャネル上を流れる。この場合、ウォーターシュートの傾斜角を任意に調節でき、10~75°が好ましく、特に好ましくは45°である。
【0045】
ウォーターシュートの場合、底部でチャネルの壁全体が水の膜で覆われることが好ましい。発生した液滴は、水の膜との接触によって蒸気のクッションを形成し、それが液滴と水とのさらなる接触を防ぐ。ウォーターシュートを使用して材料の液滴の直径を狙い通りに調整できる点で、ウォーターシュートは水浴とは異なる。好ましくは、ウォーターシュートへの溶融物の給送の間隔、ウォーターシュートの傾斜角、例えば10~75°の範囲、好ましくは45°、および調整される水の流量、例えば0.1~3m3/分の範囲、好ましくは1.7m3/分に依存して、液滴の直径を調整できる。好ましくは、液滴の直径は20mm未満、例えば19.99mm以下、好ましくは10mm未満、例えば9.99mm以下、時に好ましくは0.5~1mmの範囲である。
【0046】
従って、液滴は、下にあるウォーターシュートの材料と直接接触しない。液滴は、例えば捕集器への経路で移動するか、または水の噴流で押し流されて、適した捕集容器で捕集または収容される。液滴は、溶融物の噴流が液滴へと分けられた直後、または飛行移動の間に凝固する。捕集容器で衝突する際に、それらは既に固体であるが、まだ非常に熱く(>700℃)、従って通常はDTA測定(示差熱分析)で測定されるセラミック化温度を上回る。好ましくは、捕集容器を冷却できる。それによって、固体の粒子は浸漬の際に非常に速く冷却され、結晶化は生じないか、またはわずかにしか生じない。従って、ほぼ完全にアモルファスのガラス(セラミック)粒子が得られる。
【0047】
ウォーターシュートの使用は、大きな利点がある: 例えば、溶融法から得られた熱い液体の中間生成物を、中間段階なく直接的に粒子へと細分化できる。粒子のサイズを狙い通りに調整できるので、引き続く低温工程において追加的な細分化段階の数およびこのために必要なエネルギーを顕著に低減できる。全体として、このことにより前記方法が簡素化し且つより経済的になる。これは、量産の場合に殊に影響する。
【0048】
代替的に、シュートを使用しないで、例えばノズルを用いて水の噴流を生成し、中間生成物の溶融液体の噴流へと直接向けることもできる。
【0049】
噴霧媒体として水を使用することにより、液滴はわずかな程度にしか水と直接的に接触せず、なぜなら、水蒸気のクッションがこれを受け止めるからである。水と溶融物とが互いに衝突するとすぐに2つの媒体の間に蒸気のクッションが存在するという事実は、工程のこの箇所でのLiイオンの可能な侵出を阻止するか、または少なくともできるだけわずかに保つことをもたらす。
【0050】
ガラス溶融物を水中で、例えばウォーターシュートにおいて急冷することは、従来技術から既に知られてはいたが、これまで全く異なる分野で、例えば高炉スラグの顆粒の製造の場合、またはポリマーの場合に使用されていた。この技術は、これまでリチウムイオン伝導体材料のためには使用されていなかった。
【0051】
例えば、溶融物の急冷は製鋼業において副生成物として生じる高炉スラグからの顆粒の製造のために使用される(Journal of Non Cryst. Solids 499(2018)344~349または欧州特許出願公開第1284299号明細書(EP1284299))。その際、液体のスラグを、水の噴流を用いて急速に冷却し且つ造粒し、それがガラス状の凝固および同時の細分化をもたらす。全く意外な方式で、従来技術からの通常の考えおよび概念から離れて、リチウムイオン伝導体を製造するためにこのやり方を使用でき、その際、予測される不利なLiの洗い落とし、ひいてはそれに伴うイオン伝導性への不利な影響を受けない。水の使用により、他の不利な作用も確認されなかった。
【0052】
溶融法を介したリチウムイオン伝導体の通常の製造方法は、冷たく、熱伝導性の良好な、例えば金属質の材料、例えばローラー、鋳型およびその種のものとの接触を介した急速な冷却を含む。しかし、金属質の材料の使用は、イオン伝導材料の汚染のリスクをはらみ、それは電気(電子)伝導性に悪影響を及ぼすことがある。これはイオン伝導材料における電気(電子)伝導性ができるだけ低くあるべきであることを意味する。金属の摩耗はこれを望ましくない程度に高めることがある。電池の使用において、電流は電池内ではなく、外部回路を介して流れ、つまり機器または設備の形態で消費者に提供されるべきである。そこでは、イオン伝導が支配的であるべきである。
【0053】
従って、本発明によれば、水の使用下、殊に、例えば噴霧ノズルを介してもたらされるかまたはウォーターシュートまたはその種のものおいて導かれる水の噴流の使用下での急冷および細分化が、リチウムイオン伝導体の製造のために特に好ましい。
【0054】
段階(3)において中間生成物を水および/または水蒸気と接触させた場合、好ましくは中間生成物の乾燥を行う。これは、当業者に公知の方式で実施できる。
【0055】
段階(3)における熱い中間生成物の冷却プロセスまたは急冷プロセスを、好ましくは水および/または水蒸気中で、または水および/または水蒸気を用いて成型しながら実施する場合が特に有利であることが判明した。水および/または水蒸気の使用は多数の利点を有する: 水の噴流もしくは水蒸気は、溶融物が得られた後に連続的な溶融物の流れとして用いられることができ、溶融物が溶融るつぼから流出した直後にこれを微細な粒子へと噴霧するための媒体として役立つ。この粒子の形成は、表面積の拡大に基づき、引き続く急速な冷却ならびに後続のさらなる細分化段階を容易にする。噴霧後、粒子を水中に移して、できるだけ急速な冷却、ひいては硬化を達成することが有利である。さらに、水は特に経済的であり、従って量産においても使用しやすい。
【0056】
本発明による方法において、高温工程、および高温工程後の冷却プロセスまたは急冷プロセスの間の成型工程は、後続の低温工程段階に最適なように準備し、且つ生成物の特性にできるだけ良い影響を及ぼすが悪影響は及ぼさないように選択されることが好ましい。ここで、「最適に準備する」とは、単数または複数の段階の高温工程が、一連の低温工程の個々の段階が省略されるか、または多かれ少なかれ顕著に簡素化され得るように実施されると理解される。これは、例えば必要な粉砕時間または導入される粉砕エネルギーの低減に関する。例えば、これは溶融物の巧みな投げ飛ばしまたは噴霧によって達成でき、それによって十分に小さなフリット化粒子が生じ、それらを微粉砕工程で供給材料として、別途の、場合により多段階の粗い細分化工程、例えばジョー・クラッシャーで割って、引き続きボールミルまたはディスクミルで粗い細分化をする必要なく、直接的に供給できる。さらなる可能性は、特に速い冷却によって例えばガラス状の材料に張力を導入することであり、これによって、後続の細分化工程において供給材料を割ることが容易になる。このプロセスは、本発明によれば特に有利である。
【0057】
本発明による方法の段階(3)に引き続き、段階(4)の前に行われる任意の中間段階において、冷却された中間生成物を例えば炉内で熱処理に供することができる。このために、所望の結晶構造を調節するために、加熱、保持および冷却について、それぞれ場合により中間保持段階を有する定義された温度・時間のプログラムを用いて熱処理する。その定義された温度・時間プログラムは、とりわけ、選択された出発材料、その量、得られた塊状の材料、結晶相の望ましい割合並びに種類、結晶サイズ、それぞれの供与される形態(例えばフリット化粒子、リボン等)における出発材料の組織構造/微細構造並びに幾何学的な大きさおよび均質性に依存する。所望の結晶相の生成のために少なくとも必要な温度は、例えば示差熱分析を用いて測定された結晶化ピークの位置からもたらされる。温度・時間プログラムの他に、さらに熱処理の際に選択された雰囲気、つまり、この場合に使用されるプロセスガス(例えば空気、酸素、不活性ガス、例えば窒素またはアルゴン、脱炭素化空気)、並びに調整された湿度が役割を果たす。このために、当業者は従来技術からの知見を用いることができる。その熱処理は例えば、か焼、セラミック化、焼結または他の高温工程であってよい。
【0058】
所望の結晶相の割合および相の組成を調整するために、追加的な熱処理段階(任意の中間段階の繰り返し)を行うことができる。これは、個々の場合に依存する。
【0059】
所望の結晶相の割合および相の組成の調整の他に、任意の中間段階のさらなる利点は、その熱処理によって、まだ存在する残留水が材料から大部分追い出されることである。
【0060】
段階(3)の後、もしくは任意の中間段階の実施後であるが段階(4)の実施前に得られる中間生成物は、例えば、ガラスまたはガラスセラミックの状態で凝固でき、つまり、高い割合でX線アモルファスである。正確な結晶の割合並びに場合により異なる結晶相の割合は、例えば冷却履歴、つまり、工程条件の選択を介して調整可能である。従って、工程条件の調整次第で、中間生成物は多かれ少なかれ高い割合の結晶相を有する。
【0061】
高温工程と冷却プロセスとの組み合わせ次第で、中間段階として塊状体、リボン、フリット、顆粒または粗大粒子の形態で粗製生成物が生じる。粒子がクラックまたは少なくとも内部応力を有することが多く、それは引き続く低温プロセスのために特に有利であり、なぜなら、このことによって粒子がより容易且つより少ない粉砕エネルギーで細分化され得るからである。
【0062】
高温工程の方法段階は、好ましくは追加的な方法段階はなく、互いに直接続いてよい。
【0063】
場合により熱処理の形での任意の中間段階が続く段階(3)に、段階(4)による低温工程が続き、これも、実際の使用形態としての粉末を製造するための細分化工程の形で1つまたは複数の段階を含む。
【0064】
段階(4)の低温工程において、前記の得られた中間生成物から1つまたは複数の細分化段階において粉末が生成され、その際、好ましくは少なくとも1つの細分化段階において水および/または水蒸気と接触させる。その後続の低温工程において、1つまたは複数の細分化段階で粗製生成物を所望の粒子サイズおよび粒度分布を有する粉末形態に変換する。
【0065】
好ましくは、低温工程は1つまたは複数の以下の段階を含む:
・ ハンマおよびのみを用いた細分化、
・ ロール・クラッシャーおよび/またはジョー・クラッシャーを用いた細分化、
・ ボールミルおよび/またはハンマミルを用いた細分化、
・ ボールミル、インパクトミル、および/またはプラネタリーミルを用いた細分化、
・ ディスク振動ミルを用いた細分化、
・ カウンタジェットミル、スパイラルジェットミル、および/またはスチームジェットミルを用いた細分化、
・ 乾式ボールミルおよび/または湿式ボールミルを用いた細分化、
・ 乾式攪拌機ボールミルおよび/または湿式攪拌機ボールミルを用いた細分化、
・ 高回転ローターボールミルにおける高エネルギー粉砕による細分化。
【0066】
これに関連して、ミルは3つの種類、つまり駆動の種類、製品、および機能で分類され得ることに言及すべきである。上記のミルは、ここでは機能によって分類されている。
【0067】
従来技術においては、低温工程、つまり細分化段階を通常、乾燥条件下で実施するが、しかしそれが常に合理的なわけではない。今や、予想されない方式で、固体リチウムイオン伝導体材料の適した小さな粒子サイズへの湿式の微粉砕が可能である。例えば、一桁未満のμmもしくはサブμmの領域での粒子サイズへの粉砕は、多くの場合、例えば攪拌機ボールミルでの、液体媒体中での微粉砕工程においてのみ行うことができる。これが今や、本発明によれば、固体リチウムイオン伝導体材料について可能である。さらに、経済的な観点で、液体媒体、例えば水の使用は特に合理的である。代替的に、プロセスガスとして過熱水蒸気を用いるカウンタジェットミルも使用できる。
【0068】
従って、粉末としての使用形態における固体リチウムイオン伝導体を製造するための、低温工程における工程媒体としての水の使用は、液体の形態であっても、蒸気、殊に過熱蒸気としても、所望の粒子サイズを達成するために非常に有利である。さらに、水および水蒸気は取り扱いにおける問題がなく、毒性がなく、量産用途でも大量に使用でき、経済的な観点から特に安上がりであり且つ再利用可能である。さらに、水を使用すると粒径を非常に小さく調整でき、これは他の方法では実施できないか、または置き換えが非常に困難である。従って、低温プロセスの水および/または水蒸気の使用は有利であり、通常はさらに好ましい。
【0069】
生成物が少なくとも1つの細分化段階において水および/または水蒸気と接触させられた場合、好ましくは乾燥を実施し、その際、乾燥された生成物中にある割合の残留水が残る。乾燥方法として、例えば凍結乾燥を使用できる。これは殊に、凝縮水中での湿式粉砕の際に実施される。水蒸気を使用して粉砕する場合、好ましくは他の乾燥方法を使用する。凍結乾燥は、これによれば非常に穏やかな方式で、特に低い温度で乾燥できるという利点があり、従ってこれは本発明による固体リチウムイオン伝導体材料の製造のために特に有利である。凍結乾燥は有利には微粉砕後に初めて使用される。この場合、製造された製品は、高い比表面積(>0.5m2/g)を有するので、今や小さい粒子が互いに相互作用することがあり、殊に簡素な熱乾燥を使用する際、割れにくいアグロメレートまたはアグリゲートすら形成することがある。凍結乾燥は、この現象に立ち向かう。他の乾燥方法、好ましくは穏やかな乾燥方法も可能である。
【0070】
段階(4)に、好ましくは中間段階なく段階(4)に直接的に段階(5)が続くことができ、該段階により、残っている残留水の割合を温度処理によって除去することができる。この段階(5)は任意の段階であり、相応の工程が行われる場合、例えば水中でのフリット化および引き続く乾式粉砕の場合は必要ではない。段階(5)は、得られた生成物中に残っている残留水を少なくとも200℃の温度で除去するための温度処理を実施することを含み、その際、前記温度処理はCO2不在下の周囲の雰囲気中で実施され、含水率1.0質量%未満を有する固体リチウムイオン伝導体材料の粉末が得られる。
【0071】
先行する相応の工程段階の間にまず固体イオン伝導体材料が水で負荷される場合、この際に水で負荷された中間生成物を任意の段階(5)により定義された温度処理段階において少なくとも200℃、好ましくは少なくとも300℃、好ましくは少なくとも400℃、さらに好ましくは少なくとも500℃で処理すれば、材料およびその機能を顕著に損なうことなく、この水を再度除去することができることが判明した。温度についての上限は、基礎材料並びに個々の変態に大きく依存する。さらに、強く結合した水を追い出す効率も温度の上昇に伴って増加する。ただし、400~500℃を上回ると、不所望のアグリゲートが形成されるかまたは機能構造成分が分解する焼結に伴う問題が生じる危険がある。個々の場合に応じて、その温度を超えてもよい。
【0072】
本発明の方法の目標は、どの場合でも、粉末の粒子が室温で少なくとも10-5S/cmの伝導率を有するリチウムイオン伝導性材料からなり、且つ製造の間の液体の水または蒸気形態の水との接触にもかかわらず含水率<1.0質量%、好ましくは0.99質量%以下を有する粉末である。
【0073】
低温工程の方法段階は、好ましくは追加的な方法段階はなく、互いに直接続いてよい。
【0074】
本発明による方法は、量産における固体リチウムイオン伝導体材料の製造のためにも適している。その際、殊に経済的な観点から、一連の工程全体に沿った製造のために安価な工程が使用される場合に、粉末形態の固体リチウムイオン伝導体材料を大量に供給することが可能である。この場合、水および/または水蒸気の使用は特に有利である。
【0075】
本発明の対象は、本発明の上述の方法によって得られる粉末形態の固体リチウムイオン伝導体材料でもある。
【0076】
「固体リチウムイオン伝導体材料」とは、本発明においては、リチウムイオン伝導性材料からなり、且つ室温で少なくとも10-5S/cmのイオン伝導率を有する材料と理解される。
【0077】
本発明による方法のために適した材料は、ガーネットに基づくイオン伝導体、例えば独国特許発明第102014100684号明細書(DE102014100684B4)内に記載されるもの、NaSICon構造を有するガラスセラミック、例えばLATP、LAGP(例えば独国特許発明第102018102387号明細書(DE102018102387B3))であるが、ペロブスカイト構造を有するイオン伝導体、例えばチタン酸リチウムランタン、またはアモルファスのイオン伝導体、例えばホウ酸塩ガラスまたはリン酸塩ガラスも考えられる。本発明による方法は、Liイオン伝導性電極材料、例えばリン酸リチウムバナジウムを製造するためにも適している。
【0078】
本発明の固体リチウムイオン伝導体材料は、高い電気伝導性の他に、殊に、比較的低温でも既に良好な焼結性を特徴とする。例えば、本発明によれば、湿式粉砕によって提供され得る特に小さな粒子サイズが高い焼結活性をもたらす。
【0079】
本発明はさらに、電池または蓄電池、好ましくはリチウム電池またはリチウム蓄電池、殊にセパレータ、カソード、アノードまたは固体電解質における粉末形態の固体リチウムイオン伝導体材料の使用に関する。
【0080】
本発明による、水(蒸気)の接触により製造されたリチウムイオン伝導性粉末材料を、単独または他の電池材料と共に使用でき、例えば純粋な無機セラミックのメンブレンへと焼結するか、または電解質として、充填剤として、ポリマー電解質もしくは高分子電解質、充電式リチウムイオン電池、殊に固体リチウムイオン電池(全固体電池(ASSB))に組み込む。その際、一方では、セパレータとしての使用が可能であり、つまり、それを電極間に導入し、電極を望ましくない短絡から保護し、且つそのことによりシステム全体の機能性を確実にする。このために、相応の複合材を、一方または両方の電極上の層として施与して、または自立式の膜としてのいずれかで、固体電解質として電池に組み込むことができる。他方で、電極材料と共に焼結もしくは配合することが可能であり、つまり、この場合、固体電解質は、電池が今、放電または充電されているかに応じて、関連する電荷担体(リチウムイオンおよび電子)が電極材料へ、および導電性電極へ、向かうもしくは離れる輸送をもたらす。
【0081】
以下で例を用いて本発明を詳細に説明するが、それに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】得られたX線回折図を示す図である(実施例1)。
【
図2】得られたX線回折図を示す図である(実施例2)。
【
図3】得られたX線回折図を示す図である(実施例3)。
【実施例0083】
実施例1
水の少ない粉末としてのリチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZO)の例での、ガーネット構造に基づいて結晶化する固体リチウムイオン伝導体材料の製造例。
【0084】
前記製造を、本発明による方法を用いて、溶融工程の形での高温工程、溶融物の自然冷却、乾燥条件下での粗い細分化、水中での湿式粉砕と引き続く凍結乾燥、および乾燥N2雰囲気下で700℃での温度処理を介して行う。
【0085】
実施例1による水の少ないLLZO粉末を、以下に記載されるように製造した:
【0086】
a) 熱い中間生成物としてのNbドープLLZO溶融物の製造
例えば独国特許出願公開第19939782号明細書(DE19939782C1)内に記載されるように、いわゆるスカルるつぼを使用する。スカル技術の場合、水冷されたるつぼが使用され、溶融の間に、溶融されるべき材料からより冷たい保護層が形成される。従って、溶融プロセスの間にるつぼ材料は溶解しない。溶融物へのエネルギーの投入を、溶融材料中への取り囲む誘導コイルを介した高周波結合を用いて実現する。この場合の条件は溶融物の十分な伝導性であり、それはリチウムガーネットの溶融物の場合には、高いリチウム含有率によってもたらされる。溶融プロセスの間にリチウムの蒸気が生じ、それを過剰なリチウムによって容易に修正できる。このために、少し過剰なリチウムを用いて作業する。
【0087】
例においてLa2O3、Li2CO3、Nb2O5およびZrO2を混合物として使用して、組成式Li7+xLa3Zr1.5Nb0.5O12を有するNbドープジルコニウム酸リチウムランタンを製造した。組成に応じて原料を混合し、上向きに空いたスカルるつぼに充填した。特定の最低限の伝導性を達成するために、その混合物をまず予熱する必要があった。このために、バーナー加熱を使用した。結合温度に達した後、誘導コイルを介した高周波結合によって、溶融物のさらなる加熱および均質化を達成した。溶融物の均質化を改善するために、水冷された攪拌機で攪拌した。
【0088】
b) 冷たい中間生成物としてのNbドープLLZOからの塊状のブロックの製造
スカルるつぼ中で生じたLLZO溶融物を、取り囲む誘導コイルを介した高周波結合をオフにすることによって、直接的に凝固させる。そのように冷却された中間生成物は、塊状のブロックとして生じる。
【0089】
c) セラミック化の省略
溶融物が直接的に凝固する場合、LLZO材料は自発的な結晶化を示すので、後続のセラミック化処理を省略できる。
【0090】
d) NbドープLLZOからの、残留水が負荷された微粉末の製造
以下の細分化段階を実施して、NbドープLLZO材料からなる塊状ブロックから、まだ残留水が負荷された粉末を製造する:
【0091】
まず、ハンマおよびのみを用いて、塊状のブロックをより小さな破片へと打ち砕く。引き続きこれを、最長の寸法が最大10mmの大きさの破片になるまで、1または複数のパスでジョー・クラッシャーに供給する。これらを、Fritsch社のPulverisette 13 classic型のディスクミルでd99<100μmの大きさに粉砕する。この粗粉末を引き続き、粒子サイズd99<63μmへと篩いにかける。
【0092】
粒度<63μmを有する粗く粉砕されたNbドープLLZO粉末1kgを、溶解機(ディスク攪拌機)を使用して2.33Lの水中にできるだけアグロメレートがないように分散させる。引き続き、懸濁液を攪拌機ボールミルのリザーバーに充填し、ピンミル攪拌機を備えた粉砕チャンバーを使用し、マルチパス方式を利用して、2.5時間粉砕する。その際、粉砕チャンバーはZrO2からなる直径約1mmを有する粉砕ボールが充填されている(充填度: 74%)。粉砕スラリー内に存在する粒子の50%が直径およそ0.24μm、90%が直径約0.53μm、および99%が直径約0.85μmになったら、粉砕を終了する。粒子サイズの測定を、静的光散乱法を使用して、CILAS社の1064型の粒子サイズ測定器で行う。その測定は媒体としての水(屈折率: 1.33)中で実施し、ミー法に従って(Re=1.8、Im=0.8)評価する。
【0093】
粉砕後、粉砕スラリーを凍結乾燥機での乾燥に供する。このために、まずその使用目的のために準備された製品トレイにそれを大面積で注ぎ、-30℃の温度で凍結させる。引き続き、媒体の昇華のために必要な値に相応する真空度を適用する(水については<6.11mbar)。引き続き製品トレイの底部を連続的に加熱することにより、凍結した水が約20時間の時間で、固体のスラリー残留物から徐々に穏やかに昇華される。
【0094】
温度分画炭素相分析(DIN19539による)の方法を用いて、水中で湿式粉砕されたLLZO粉末のTOC含有率(有機の全炭素の温度に依存する区別)と、TIC含有率(無機の全炭素の温度に依存する区別)との合計は0.4%と測定され、その際、検出された炭素は主に無機の炭素である。含水率は25%と測定される。
【0095】
e) NbドープLLZOからの、残留水が除去された微粉末の製造
水の負荷および微量のカーボネートを低減するために、LLZO粉末を凍結乾燥直後に、窒素ガスが貫流するNabertherm社のN20/H型の炉に直接もたらし、700℃で4時間焼出しする。
【0096】
焼出し後、窒素ガスが貫流する冷却された炉からLLZO粉末を取り出し、アルミニウム結合フィルム製の袋に直接真空パックする。
【0097】
温度分画炭素相分析(DIN19539による)の方法を用いて、水中で湿式粉砕され、真空中での凍結乾燥後に700℃で4時間焼出しされたLLZO粉末のTIC含有率(無機の全炭素の温度に依存する区別)は0.10%、含水率は0.8%と測定される。
【0098】
品質管理のため、焼出しされた粉末でX線回折図(XRD)を作成する。得られたX線回折図を
図1に示す。これは、伝導率の劇的な低減をもたらしかねない不所望の異相、殊にリチウム欠乏相、例えばパイロクロアのLa
2Zr
2O
7の形成の兆候を示さない。これはNbドープのLLZOの立方晶変態の反射を有するに過ぎない。
【0099】
前記粉末0.4gを鋼のプレス型で30kNの力を用いて一軸プレスし、直径10mmおよび厚さ2~3mmのグリーン体にする。引き続き、そのグリーン体を1130℃で30分間、焼結して、密度90%に緻密化する。その試料体の両側に金層を施与し、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いて室温でその伝導率を測定する。その際、測定データを利用して、6.3×10-4S/cmの導電率値が算出される。
【0100】
実施例2
水の少ない粉末としてのリチウムランタンジルコニウム酸化物(LLZO)の例での、ガーネット構造に基づいて結晶化する固体リチウムイオン伝導体材料の製造例。
【0101】
前記製造を、本発明による方法を用いて、溶融工程の形での高温工程、溶融物の自然冷却、乾燥条件下での粗い細分化、スチームジェットミルでの微粉砕、および乾燥N2雰囲気下で700℃での温度処理を介して行う。
【0102】
実施例2による水の少ないLLZO粉末を、以下に記載されるように製造した:
【0103】
a) 熱い中間生成物としてのNbドープLLZO溶融物の製造
この製造は実施例1と同様に行われる。
【0104】
b) 冷たい中間生成物としてのNbドープLLZOからの塊状のブロックの製造
この製造は実施例1と同様に行われる。
【0105】
c) セラミック化の省略
実施例1についての説明がここでも該当する。
【0106】
d) NbドープLLZOからの、残留水が負荷された微粉末の製造
以下の細分化段階を実施して、NbドープLLZO材料からなる塊状ブロックから、まだ残留水が負荷された粉末を製造する:
【0107】
まず、ハンマおよびのみを用いて、塊状のブロックをより小さな破片へと打ち砕く。引き続きこれを、最長の寸法が最大10mmの大きさの破片になるまで、1または複数のパスでジョー・クラッシャーに供給する。これらを、Fritsch社のPulverisette 13 classic型のディスクミルでd99<1μmの大きさに粉砕する。
【0108】
粒度<1mmを有する粗く粉砕されたNbドープLLZO粉末5kgをNetzsch社のs-Jet 25型のスチームジェットミルに入れる。ジェット粉砕を、セラミックノズルを通じて、粉砕媒体としての過熱水蒸気を使用して10barの加圧で行う。後続のふるいで、カセットフィルターでの分離後に粒子サイズ分布d50=0.9μm、d90=1.6μm、およびd99=2.6μmを有する粉末分級物が得られる。粒子サイズの測定を、静的光散乱法を使用して、CILAS社の1064型の粒子サイズ測定器で行う。その測定は媒体としての水(屈折率: 1.33)中で実施し、ミー法に従って(Re=1.8、Im=0.8)評価する。
【0109】
温度分画炭素相分析(DIN 19539による)の方法を用いて、水中で湿式粉砕されたLLZO粉末のTOC含有率とTIC含有率との合計は5%と測定され、その際、検出された炭素は大部分、無機の炭素である。含水率は5.1%と測定される。
【0110】
e) NbドープLLZOからの、残留水が除去された微粉末の製造
水の負荷および微量のカーボネートを低減するために、LLZO粉末を凍結乾燥直後に、窒素ガスが貫流するNabertherm社のN20/H型の炉に直接もたらし、700℃で4時間、焼出しする。
【0111】
焼出し後、窒素ガスが貫流する冷却された炉からLLZO粉末を取り出し、アルミニウム結合フィルム製の袋に直接真空パックする。
【0112】
温度分画炭素相分析(DIN 19539による)の方法を用いて、水中で湿式粉砕され且つ凍結乾燥後に真空中、700℃で4時間焼出しされたLLZO粉末のTIC含有率は0.1%と測定される。含水率は0.9%である。品質管理のため、焼出しされた粉末でX線回折図(XRD)を作成する。得られたX線回折図を
図2に示す。これは、不所望のリチウム欠乏相、例えばパイロクロアのLa
0.33NbO
3、La
2Zr
2O
7およびLa
2O
3の形成を示唆する。しかし、その割合は非常に少ないので、わずかにしか伝導性に影響しない。
【0113】
前記粉末0.3gを相応のプレス型で30kNの力を用いて一軸プレスし、直径10mmおよび厚さ2~3mmのグリーン体にする。引き続き、そのグリーン体を1130℃で30分間、焼結して、密度92%に緻密化する。その試料体の両側に金層を施与し、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いて室温でその伝導率を測定する。その際、測定データを利用して、2×10-4S/cmの導電率値が算出される。
【0114】
実施例3
水の少ない粉末としてのリン酸リチウムアルミニウムチタン(LATP)の例での、NASICON構造に基づく固体リチウムイオン伝導体材料の製造例。
【0115】
前記製造を、本発明による方法を用いて、溶融工程の形での高温工程、水の接触における溶融物のクエンチ(急冷)、乾燥された粒状粒子のセラミック化、乾燥条件下での粒状粒子の粗い細分化、水中での湿式粉砕と引き続く凍結乾燥、および乾燥N2雰囲気下で700℃での温度処理を介して行う。
【0116】
a) ホウ素含有LATPのための熱い中間生成物としてのグリーンガラス溶融物の製造
5.5%のLi2O、3.7%のAl2O3、33.1%のTiO2、および55.5%のP2O5、および2.2%のB2O3の組成の、最終的なリチウムイオン伝導性のリン酸塩に基づくガラスセラミックのための出発ガラスを、流出るつぼ(Ablauftiegel)内、温度1650℃で溶融した。前記ガラス溶融物を完全に均質化するために、選択された溶融ユニットにおいて温度1600℃で保持し、その際、O2ガスを貫流させた。
【0117】
b) 冷たい中間生成物としてのホウ素含有LATPグリーンガラスからの顆粒の製造
溶融工程を介して製造されたガラスを、液体の状態で(温度450℃~1600℃で粘度0.1~1dPa・s)、噴流で「ウォーターシュート」へと導く。このウォーターシュートで、水は高速(スループット0.1~3m3/分、好ましくは1.7m3/分)で、傾けられたステンレス鋼のチャネル(傾斜角10~75°、好ましくは45°)上を流れる。その際、底部でチャネルの壁全体が水の膜で覆われている。流れる水の膜に溶融物が衝突する際、溶融物の噴流が微細な液滴へと分けられる。液滴の直径は、シュートへの溶融物の給送の間隔、シュートの傾斜角、および殊に調整された水の流量に依存する。その際、該工程は、直径が20mm未満、好ましくは10mm未満、特に好ましくは0.5~1mmであるように行われる。従って、液滴は、下にある鋼材料と直接接触しない。水の膜との接触位置で蒸気のクッションが形成されるので、この位置でのガラス溶融物と液体の水との直接的な接触が回避される。次いで、液滴は捕集容器へと軌道を移動するか、または水の噴流でさらわれ、そこでそれらは水のチャネル上にあるカバー上で跳ね返ることがある。液滴は、溶融物の噴流が液滴へと分けられた直後、または飛行移動の間に凝固する。捕集容器またはカバーの壁で衝突する際に、それらは既に固体であるが、まだ非常に熱く(>700℃)、従ってDTA測定(示差熱分析)で測定されるセラミック化温度を上回る。捕集容器は、冷却媒体(この場合は水)で満たされるか、またはフラッシングされている。それによって、(固体の)粒子は浸漬の際に非常に速く冷却されるので、結晶化は生じない(またはわずかにしか生じない)。このようにして、ほぼ完全なアモルファスのガラス(セラミック)顆粒が得られる(リートベルトにより評価されたX線回折法による結晶相の割合<15%)。
【0118】
そのガラスフリット粒子を冷却後に冷却媒体として用いられる水からふるいによって分離し、乾燥棚内、150℃で12時間乾燥させる。
【0119】
c) ホウ素含有LATPからなるグリーンガラスフリット粒子のセラミック化
NASICON構造を有する本来のリチウムイオン伝導性LATP相を生成させるために、乾燥したグリーンガラス顆粒の粒子を1~12時間、800℃~980℃で、好ましくは6時間、950℃でセラミック化させる。
【0120】
その過程で、まだ存在するガラスの残留水が材料から大部分追い出される。粒度の測定のためにも考慮され得る、温度分画炭素相分析(DIN19539による)の方法を使用して、含水率は0.05%と測定される。
【0121】
d) ホウ素含有LATPからの、残留水が負荷された微粉末の製造
以下の細分化段階を実施して、ホウ素含有LATP材料からなるガラスセラミック顆粒から、まだ残留水で負荷された粉末を製造する:
【0122】
まず、存在する粒子をFritsch社のPulverisette 13 classic型のディスクミルにもたらし、これで粒子サイズ<100μmへと粉砕する。
【0123】
この粗く粉砕されたホウ素含有LATP粉末1kgを、溶解機を使用して2.33Lの水中にできるだけアグロメレートがないように分散させる。引き続き、懸濁液を攪拌機ボールミルのリザーバーに充填し、ピンミル攪拌機を備えた粉砕チャンバーを使用し、マルチパス方式を利用して、2.5時間粉砕する。その際、粉砕チャンバーはZrO2からなる直径約0.8mmを有する粉砕ボールが充填されている(充填度: 74%)。粉砕スラリー内に存在する粒子の50%が直径およそ0.95μm、90%が直径約2.43μm、および99%が直径約3.86μmになったら、粉砕を終了する。粒子サイズの測定を、静的光散乱法を使用して、CILAS社の1064型の粒子サイズ測定器で行う。その測定は媒体としての水(屈折率: 1.33)中で実施し、ミー法に従って(Re=1.8、Im=0.8)評価する。
【0124】
粉砕後、粉砕スラリーを凍結乾燥機での乾燥に供する。このために、まずその使用目的のために準備された製品トレイにそれを大面積で注ぎ、-30℃の温度で凍結させる。引き続き、媒体の昇華のために必要な値に相応する真空度を適用する(水については<6.11mbar)。引き続き製品トレイの底部を連続的に加熱することにより、凍結した水が約20時間の時間で、固体のスラリー残留物から徐々に穏やかに昇華される。
【0125】
温度分画炭素相分析(DIN19539による)の方法を使用して、水中で湿式粉砕されたLATP粉末のTOC含有率とTIC含有率との合計は0.01%の検出限界未満である。含水率は2.5%と測定される。
【0126】
e) ホウ素含有LATPからの、残留水が除去された微粉末の製造
水の負荷および微量のカーボネートを低減するために、LATP粉末を凍結乾燥直後に、窒素ガスが貫流するNabertherm社のN20/H型の炉に直接もたらし、400℃で4時間焼出しする。
【0127】
焼出し後、窒素ガスが貫流する冷却された炉からLATP粉末を取り出し、アルミニウム結合フィルム製の袋に直接真空パックする。
【0128】
温度分画炭素相分析(DIN19539による)の方法を使用して、水中で湿式粉砕され、凍結乾燥後に、真空中、400℃で4時間焼出しされたLATP粉末のTIC含有率は0.01%の検出限界未満である。含水率は0.7%である。
【0129】
品質管理のため、焼出しされた粉末でX線回折図(XRD)を作成する。得られたX線回折図を
図3に示す。これは、伝導率の劇的な低減をもたらしかねない不所望の異相、殊にリチウム欠乏相、例えばAlPO
4またはTiP
2O
7の形成の兆候を示さない。それはLATP結晶の反射のみを有する。
【0130】
前記粉末0.3gを相応のプレス型で30kNの力を用いて一軸プレスし、直径10mmおよび厚さ2~3mmのグリーン体にする。引き続き、そのグリーン体を800℃で3時間、焼結して、密度90%に緻密化する。その試料体の両側に金層を施与し、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を用いて室温でその伝導率を測定する。その際、測定データを利用して、9×10-4S/cmの導電率値が算出される。
段階(3)の後で且つ段階(4)の前に、冷却された中間生成物を所望の結晶構造に調整するために、加熱、保持および冷却について、それぞれ場合により中間保持段階を有する定義された温度・時間プログラムを用いて熱処理することを含む中間段階を実施することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
段階(4)に方法段階(5)が続き、前記段階(5)は、得られた生成物中に残っている残留水を少なくとも200℃の温度で除去するための温度処理を実施することを含み、その際、前記温度処理はCO2不在下の周囲の雰囲気中で実施され、含水率1.0質量%未満を有する固体リチウムイオン伝導体材料の粉末が得られることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。