(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086382
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】無線統合処理装置および無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04L 27/00 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
H04L27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200855
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 康彦
(57)【要約】
【課題】 同期外れへの耐性を高め、ビット誤りを抑圧することの可能な無線統合処理装置を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、無線統合処理装置は、受信部と、シンボル回転補正部と、合成処理部とを具備する。受信部は、デジタル変調された共通の無線信号をそれぞれ受信復調して生成された復調データと無線信号の通信品質データとを含む通信信号を伝送する複数の無線受信装置から通信信号を受信して、当該通信信号から復調データと通信品質データとを抽出する。シンボル回転補正部は、抽出された復調データのシンボル回転を抽出された通信品質データに基づいて補正して、補正後データを生成する。合成処理部は、抽出された通信品質データに基づいて補正後データをダイバーシチ受信して統合復調データを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル変調された共通の無線信号をそれぞれ受信復調して生成された復調データと前記無線信号の通信品質データとを含む通信信号を伝送する複数の無線受信装置から前記通信信号を受信して、当該通信信号から前記復調データと前記通信品質データとを抽出する受信部と、
前記抽出された復調データのシンボル回転を前記抽出された通信品質データに基づいて補正して補正後データを生成するシンボル回転補正部と、
前記抽出された通信品質データに基づいて前記補正後データをダイバーシチ受信して統合復調データを生成する合成処理部とを具備する、無線統合処理装置。
【請求項2】
前記無線受信装置から伝送される復調データは、硬判定結果である、請求項1に記載の無線統合処理装置。
【請求項3】
前記無線受信装置から伝送される復調データと通信品質データは、軟判定結果である、請求項1に記載の無線統合処理装置。
【請求項4】
前記無線受信装置から伝送される復調データは、非線形関数で変換されて伝送され、
前記受信部は、前記非線形関数で変換されて伝送された復調データを、当該関数の逆関数で変換する、請求項3に記載の無線統合処理装置。
【請求項5】
デジタル変調された共通の無線信号をそれぞれ受信する複数の無線受信装置と、当該複数の無線受信装置から伝送された通信信号をネットワーク経由で受信する無線統合処理装置とを具備し、
前記無線受信装置の各々は、
前記無線信号を受信復調して復調データを生成する復調部と、
前記無線信号の通信品質を推定して通信品質データを生成する通信品質推定部と、
前記復調データと前記無線信号の通信品質データとを含む通信信号を前記ネットワーク経由で前記無線統合処理装置に伝送する伝送部とを備え、
前記無線統合処理装置は、
前記通信信号を受信して当該通信信号から前記復調データと前記通信品質データとを抽出する受信部と、
前記抽出された復調データのシンボル回転を前記抽出された通信品質データに基づいて補正して補正後データを生成するシンボル回転補正部と、
前記抽出された通信品質データに基づいて前記補正後データをダイバーシチ受信して統合復調データを生成する合成処理部とを備える、無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線統合処理装置および無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の無線受信装置で無線通信信号を受信し、得られた受信信号を無線統合処理装置に集約して復調データを生成する無線システムが検討されている。例えば、同じ無線端末から送信された無線信号を複数の基地局で受信し、無線統合処理装置に送って復調する技術が知られている。一般に無線通信では、異なる場所で受信された無線信号の受信電力は独立な確率過程となる。このため、ある場所の受信装置では受信電力が低くても他の受信装置では高い受信電力で受信される場合がある。そこで、複数の無線受信装置で受信した信号を無線統合処理装置に集約し、受信電力の高い無線受信装置で受信した信号を選択したり、受信電力に応じて各無線受信装置で受信した信号を加重合成して復調したりすることで、復調性能を向上させることができる。いわば、空間ダイバーシチの延長線上にある技術と言える。
【0003】
無線受信装置の受信信号を無線統合処理装置に集約するには、受信信号をデジタル変換前のアナログ信号の形態で伝送するのがシンプルである。しかし、無線受信装置と無線統合処理装置との間に専用のケーブルを敷設する必要がある。無線受信装置と無線統合処理装置が同じ拠点に設置されていればまだしも、別の拠点に設置されている場合は現実的とはいえない。受信信号を、デジタル変換後のIQ信号の形態で伝送することも考えられる。しかし、無線受信装置と無線統合処理装置との間の通信データ量が多くなりすぎ、ネットワークに大きな負荷がかかってしまう。そこで、受信したデジタル変調信号を無線受信装置で復調し、復調後のデータを集約する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3009031号公報
【特許文献2】特許第2985881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
復調後のデータを集約する方式にも課題がある。すなわち、個々の無線受信装置で復調する際の位相を同期させることが難しい点である。複数の無線受信装置は無線信号から個別に同期引き込みを行うので、フェージングなどで受信電力が低下すると互いの同期が外れやすい。仮に、無線信号のフレーム内に同期用の信号が挿入されていなかったり、同期信号の間隔が広い場合には、同期外れが長期間にわたって固定化されることもあり得る。このことはビット誤り率の低下に直結することから、対処が望まれていた。
【0006】
そこで、目的は、同期外れへの耐性を高め、ビット誤りを抑圧することの可能な無線統合処理装置および無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、無線統合処理装置は、受信部と、シンボル回転補正部と、合成処理部とを具備する。受信部は、デジタル変調された共通の無線信号をそれぞれ受信復調して生成された復調データと無線信号の通信品質データとを含む通信信号を伝送する複数の無線受信装置から通信信号を受信して、当該通信信号から復調データと通信品質データとを抽出する。シンボル回転補正部は、抽出された復調データのシンボル回転を抽出された通信品質データに基づいて補正して、補正後データを生成する。合成処理部は、抽出された通信品質データに基づいて補正後データをダイバーシチ受信して統合復調データを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係わる無線通信システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、デジタル無線信号のフレームフォーマットの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、QPSKの信号点配置を示す図である。
【
図4】
図4は、同期が外れた状態の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、QPSKの変調シンボルと伝送ビットとの関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、シンボル回転補正部52による、復調データとシンボルデータとの変換について説明するための図である。
【
図7】
図7は、シンボル回転補正部52による作用をさらに説明するための図である。
【
図8】
図8は、差分シンボルデータについて説明するための図である。
【
図9】
図9は、ビット反転に係わるビットの設定を示す図である。
【
図10】
図10は、ビット反転により生成される補正後データの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、ビット反転により生成される補正後データの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(構成)
図1は、実施形態に係わる無線通信システムの一例を示すブロック図である。このシステムは、それぞれ共通のデジタル無線信号を受信する複数の無線受信装置1A,1Bと、無線統合処理装置5とを備える。デジタル無線信号は、例えばQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式でデジタル変調されている。無線受信装置1A,1Bは、それぞれ受信したデジタル無線信号に基づく通信信号を、ネットワーク10を経由して無線統合処理装置5宛てに送信する。この通信信号は、ネットワーク10を経由して無線統合処理装置5で受信される。
【0010】
無線受信装置1Aは、復調部11、チャネル推定部12、通信品質推定部13、および伝送部14を備える。
復調部11は、デジタル無線信号を受信復調して復調データを生成する。復調データとしては、いわゆる硬判定復調で生成された硬判定結果を適用することができる。
チャネル推定部12は、デジタル無線信号を伝送チャネルを推定し、チャンネル応答推定値を復調部11および通信品質推定部13に通知する。
通信品質推定部13は、デジタル無線信号の通信品質を推定して通信品質データを生成する。
伝送部14は、復調部11からの復調データ(復調データA)と、通信品質推定部13からの通信品質データ(通信品質データA)とを含む通信信号を生成する。そして、伝送部14は、この通信信号をネットワーク10を介して無線統合処理装置5に伝送する。
【0011】
無線受信装置1Bは、復調部21、チャネル推定部22、通信品質推定部23、および伝送部24を備える。復調部21、チャネル推定部22、通信品質推定部23、および伝送部24は、ぞれぞれ無線受信装置1Aの復調部11、チャネル推定部12、通信品質推定部13、および伝送部14と同様の機能を有する。
【0012】
無線統合処理装置5は、受信部51、シンボル回転補正部52、および合成処理部53を備える。
受信部51は、無線受信装置1A,1Bからそれぞれ送信された通信信号を受信して、これらの通信信号から復調データと通信品質データとを抽出する。抽出された復調データおよび通信品質データは、シンボル回転補正部52に出力される。
【0013】
シンボル回転補正部52は、抽出された復調データのシンボル回転を、通信品質データに基づいて補正して補正後データを生成する。つまりシンボル回転補正部52は、無線受信装置1A,1Bからそれぞれ送信された復調データが連続して誤ったシンボルに判定されている事象の有無を、通信品質データに基づいて検出する。この事象を検出すると、シンボル回転補正部52は、シンボルの補正を適用して補正後データを生成する。この補正後データ、および通信品質データは合成処理部53に出力される。
【0014】
合成処理部53は、シンボル回転補正部52から入力される補正後データ、および通信品質データを用いて、統合復調データを出力する。つまり合成処理部53は、通信品質データに基づいて補正後データをダイバーシチ受信して、統合復調データを生成する。
【0015】
(作用)
次に、本発明の作用を説明する。
図2は、デジタル無線信号のフレームフォーマットの一例を示す図である。実施形態では、
図2に示すように、先頭部分(プリアンブル)に同期用の既知のシンボルパターン(同期信号)が割り当てられ、続くフィールドに情報信号がアサインされるフレームフォーマットを想定する。
【0016】
無線受信装置1A,1Bは、情報信号がQPSK等の位相変調信号であれば、フレーム先頭の同期信号を頼りに周波数やシンボル判定タイミング、および位相同期の各処理を行い、情報信号を復調して復調データを得る。ところが、無線通信ではフェージングが生じ、受信電力、受信位相が変動する。このため、情報信号の伝送期間が長くなればなるほど、当該期間中における受信電力の変動が無視できなくなる。その結果、情報信号が送信された時刻に応じて通信品質が一定でなくなる。
【0017】
そこで、通信品質に応じた処理を適用するために、復調データだけでなく、各時刻における通信品質データも合わせて無線受信装置1A,1Bから無線統合処理装置5に集約する。通信品質データとしては、例えばSNR(Signal Power to Noise Power Ratio:信号電力対雑音電力比)やSINR(Signal Power to Interference and Noise Power Ratio:信号電力対干渉波及び雑音電力比)等の、信号電力と不要信号電力との比を用いることができる。雑音電力や干渉波電力等の不要波電力が全ての無線受信装置1A,1Bで同等レベルであれば、信号の受信電力そのものを通信品質データとして用いることができる。
【0018】
フェージングの影響などで情報信号伝送中の位相変動が無視できなくなると、復調性能が劣化する。このため位相の変動に追従する同期処理を適用する必要が生じる。しかし、既知のシンボルである同期信号がフレーム途中で送信されていない場合は、復調処理を行いながらブラインドで位相の同期処理を行う必要がある。そこで、各無線受信装置1A,1Bで復調された復調データと通信品質データとをネットワーク10経由で無線統合処理装置5に送信する。
【0019】
ここで、復調データではなく、復調前のIQデータを集約する場合、一例としてIチャネルとQチャネルがそれぞれ10ビットに量子化されているとすると、1シンボル当たり20ビットを送信しなければならない。これに対し、復調後の復調データを集約する場合、QPSK変調で送信すべきデータは1シンボル当たり2ビットのみとなる。その結果、送信データ量を2ビット/20ビット、つまり1/10に削減することができる。
【0020】
また、通信品質データも3dB以下から33dB以上を1dBずつ量子化して送信することを想定すると、毎シンボル通信品質を送信しても5ビットのみで十分で、IQデータを集約する場合よりも通信量を低減することができる。さらに、通信品質の集約を毎シンボル毎ではなく数シンボル毎の離散的な時刻毎に集約することで、ますます通信量を削減することができる。
【0021】
なお、復調データ及び通信品質データをネットワーク10経由で無線統合処理装置5に集約する際、ネットワーク10のプロトコルに応じたプロトコル変換処理を、伝送部14,24、あるいは受信部51において実施する。ネットワーク10のプロトコルは例えばTCP/IPに代表されるが、シリアル伝送など、他のどのようなプロトコルでも構わない。また、物理層は無線/有線のいずれでもよい。
【0022】
無線統合処理装置5は、無線受信装置1A,1Bから送られた復調データ及び通信品質データを受信部51で抽出する。ここで、各無線受信装置1A,1Bで復調された復調データに、連続的な誤りが発生している場合がある。
図2のようなフレームフォーマットの信号を無線受信装置1A,1Bが受信する際、同期信号がフレーム先頭にしかないので、フレーム途中の情報信号の受信期間で受信電力が低下すると、位相の同期をとることが困難になり、同期が外れてしまう場合がある。
【0023】
図3は、QPSKの信号点配置(コンスタレーション)を示す図である。QPSKでは、送信シンボル0~3がIチャネルとQチャネルにマッピングされる。例えば送信シンボル0は第1象限、シンボル1は第2象限、2は第3象限、シンボル3は第4象限にそれぞれマッピングされる。しかし、いずれかの無線受信装置1A,1Bにおいて受信電力が低下すると、位相の同期が外れ、シンボルが本来の位置とは異なる象限に引き込まれることがある。
【0024】
図4は、同期が外れた状態の一例を示す図である。同期が外れてしまった場合、
図4に示すように、送信シンボル0~3は、
図3から例えば90°だけ位相の進んだシンボル点で受信されてしまう。
【0025】
位相の同期がとれているならば、送信シンボル0~3はそれぞれ第1象限~第4象限で受信されるが、
図4では、送信シンボル0は第2象限、送信シンボル1は第3象限、送信シンボル2は第4象限、及び送信シンボル3は第1象限で受信されており、それぞれ90度回転した隣の象限で受信されてしまっている。このように受信されてしまうと、各信号は、90度ずれた象限のシンボルとなるように位相補正され、この状態で同期がとられてしまう。
【0026】
図2のように、フレーム途中に同期信号が送信されていないフレームフォーマットでは、いったん外れてしまった同期を補正することができず、以降の信号は全て、例えば90度回転したシンボル点が送信されたと判定してしまう。雑音などで偶然正しい象限にシンボルが劣化しない限り、全てシンボル誤りが発生してしまう。
【0027】
一度同期が外れてしまうと、たとえフェージングが回復して受信電力が通常レベルに戻っても位相はずれたままになる。よってシンボル回転も元に戻らない。このため、受信電力が最も高い無線受信装置1A,1Bで復調された復調データを選択しても(特許文献2)、あるいは、受信電力で加重合成しても(特許文献1)、同期が外れたことにより発生した連続誤りを訂正することはできず、連続した誤りが発生してしまう。
【0028】
そこで、実施形態では、シンボル回転補正部52を設け、情報信号の先頭から無線受信装置1A,1Bで復調された復調データのシンボル回転を補正する。シンボル回転補正部52は、復調データを例えば複数のブロックに分割し、ブロック単位でシンボル回転を補正する。
【0029】
図5は、QPSKの変調シンボルと伝送ビットとの関係の一例を示す図である。シンボル回転補正部52は、変調シンボルとビットとの関係に基づき、無線受信装置1A,1Bで復調された第1ブロックの復調データAと、復調データBとを、
図6に示すようにシンボルデータA、シンボルデータBに変換する。
【0030】
ここで、第1ブロックの通信品質データAと通信品質データBがそれぞれ以下の値であったとする。
通信品質データA: 30dB
通信品質データB: 3dB
通信品質データが最大のシンボルデータは同期信号の直後のデータであり、位相同期がとれており、シンボル回転が生じていないことを期待できる。第1ブロックでは通信品質データAが最大であり、シンボルデータAを基準シンボルデータとして選択する。
【0031】
図7に示すように、次に、各シンボルデータから基準シンボルデータの差分を求め、除数4の剰余演算を行った結果を差分シンボルデータA、差分シンボルデータBとする。なお、実施形態において、負の数の剰余を次のとおり定義する。
【0032】
-3 mod 4 = 1
-2 mod 4 = 2
-1 mod 4 = 3
QPSK変調が適用されている場合、差分シンボルデータは0~3になり、各差分シンボルデータ毎にどの値が一番多く出現するか計測する。
【0033】
図8に示すとおり、差分シンボルデータAは0の個数が最大となっている。このように差分シンボルデータで0の個数が最大の場合、基準シンボルデータに対してシンボル回転は発生していないと判定することができる。
【0034】
一方、差分シンボルデータBについては、
図8に示すように1の個数が最大で11個、その他0及び2が1個ずつとなっている。この結果、差分シンボルが0及び2になったのは雑音などによるランダム誤りが発生したことが原因であり、基準シンボルデータからの差分の最大数が1であることから、基準シンボルデータとは半時計周りに象限1個分(90度)のシンボル回転がシンボルデータBには発生していると判定される。
【0035】
以上のように、シンボル回転補正部52無線受信装置1A,1Bで復調された復調データのうち、シンボル回転が発生していると判定されたブロックについて、シンボル回転に相当する復調データの各ビットを反転する。反転するビットは、反転前のシンボルデータの値に応じて異なる。
図5に示す構成でシンボルの割り当てが適用されている場合は、
図9に示すテーブルに従い、
図10のようにビット反転を行って補正後データBを得る。また、シンボル回転が発生していると判定されなかった無線受信装置については、復調データをそのまま補正後データとする。
【0036】
第1ブロックでは無線受信装置1Bで復調した復調データのシンボル回転値が「1」と判定されたので、累積のシンボル回転値として、以下のとおり無線受信装置の累積値に「1」を加算し、除数4の剰余演算を適用した値に更新する。ここで、累積値とは、先頭の第1ブロックから現在処理しているブロックまでに検出された位相の回転量に相当し、処理しているブロックが第1ブロックの場合は第1ブロックでの位相回転量に相当する。例えば累積値1は90°回転、累積値2は180°回転、累積値3は270°回転、累積値4は360°回転にそれぞれ対応する。
【0037】
次に、第2ブロック以降のシンボル回転の補正について説明する。第2ブロック以降では、始めに前のブロックまでの累積シンボル回転値を補正する。第2ブロックまでには無線受信装置1Bのみ累積シンボル回転値が1になっているため、復調データBの第2ブロックの値のみを
図11のとおり補正し、累積値反転後データBとする。
【0038】
無線受信装置1Aのように、累積シンボル回転値が0の復調データについては、復調データAをそのまま累積値反転後データAとする。また、第1ブロックでは
図6のように復調データからシンボルデータを生成したが、第2ブロック以降は累積値反転後データからシンボルデータを生成する。
【0039】
以降のブロックに対する処理は第1ブロックと同様である。すなわち、当該ブロックの通信品質データが最大の無線受信装置のシンボルデータを基準シンボルデータとして選定し、各シンボルデータと基準シンボルデータの差分シンボルデータを算出する。差分シンボルデータで0以外の値が最大数になった場合は、当該ブロックでシンボル回転が発生したと判断して、シンボル回転の補正を適用する。
【0040】
第2ブロック以降を補正する際、シンボルデータのシンボルに従ってビットの反転する位置が異なる点は、第1ブロックと同様である。ただし、第2ブロック以降はビットの反転を復調データに適用するのではなく、累積値反転後データに対して適用して補正後データを得る。また、シンボル回転が発生していると判定された無線受信装置については、第1ブロックと同様に累積シンボル回転値を更新する。
【0041】
以上のように、シンボル回転補正部52は、分割した全てのブロックに対して補正を適用し、全ての補正後データ、および全ての通信品質データを合成処理部53に出力する。
【0042】
合成処理部53は、通信品質データに基づき、補正後データに対してダイバーシチ受信を適用して、最終的な復調データとしての統合復調データを生成出力する。ダイバーシチ受信としては、通信品質データに基づき特定の無線受信装置の補正後データを選択しても構わないし、補正後データを
図3に示した変調点にマッピングした後、通信品質データを用いて加重合成し、改めて硬判定を適用しても構わない。ダイバーシチ受信の処理を適用するビット数も情報信号全体に一括で適用しても構わないし、シンボル回転補正部52のようにブロック単位で適用しても構わないし、1ビットずつ適用しても構わない。シンボル回転補正部52から入力される補正後データに対して適用するのであればいかなる手法でも構わない。
【0043】
(効果)
以上説明したように、実施形態によれば、複数の無線受信装置1A,1Bで受信処理した復調データを無線統合処理装置5で統合処理(ダイバーシチ受信)を行う際、シンボル回転補正後のデータに対してダイバーシチ受信を適用する。これにより、フレーム途中に同期信号が送信されない信号を復調する際に、高精度な復調データを取得することができる。
これらのことから、実施形態によれば、同期外れへの耐性を高め、ビット誤りを抑圧することの可能な無線統合処理装置および無線通信システムを提供することが可能になる。
【0044】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
(第1の変形例)
例えば、
図1と同様のシステムにおいて、無線受信装置1A,1Bから伝送される復調データが硬判定結果ではなく、軟出力(対数尤度比)である変形例を考えることができる。対数尤度比は、
図6に示した「0」や「1」の硬判定値ではなく、各ビットの復調の確からしさを示す値である。例として、正の値の場合を「0」、負の値の場合を「1」と定義した場合、対数尤度比が正の値で絶対値が大きな値になるほど「0」が送信された可能性が高いと判定される。逆に、負の値で絶対値が大きな値になるほど「1」が送信された可能性が高いと判定される。また、対数尤度比の値が0に近いほど、「0」が送信されたのか「1」が送信されたのか断定することが困難な状態を表している。この変形例では、無線統合処理装置5のシンボル回転補正部52で判定する際の信号を、対数尤度比が正の場合は「0」、負の場合は「1」と判定し、ビット反転は、対数尤度比の符号を反転する処理になる。また、対数尤度比の絶対値が通信品質を表すため、通信品質の高い復調データは、対数尤度比の絶対値の平均値が最大の復調データを選択することで選択可能である。
【0045】
また、第1の変形例において、合成処理部53では各無線受信装置で算出した対数尤度比をシンボル回転補正部52で補正した後の対数尤度比を加算した対数尤度比を合成処理後の復調データとする。
【0046】
(第1の変形例の効果)
無線統合処理装置5の合成処理部53において、最大比合成を容易に実現することができる。また、デジタル無線信号に誤り訂正符号が適用されている場合、無線統合処理装置5の合成処理部53で出力される復調データを用いて軟判定復号を適用し、ビット誤り率を低減することが可能である。
【0047】
(第2の変形例)
例えば、第1の変形例において、さらに、無線受信装置1A,1Bの伝送部14,24から復調データ(対数尤度比)を送信する前に、当該復調データをシグモイド関数で変換する。そして、無線統合処理装置5の受信部51において、シグモイド関数で変換された復調データをシグモイド関数の逆関数で変換するようにしてもよい。
【0048】
式(1)に、シグモイド関数を示す。
【数1】
シグモイド関数は、負の無限大から正の無限大の範囲の値をとり得る対数尤度比を0~1の範囲の実数に変換することができる。よって、シグモイド関数で変換後の対数尤度比を量子化することにより量子化後のビット数を低減することができ、各無線受信装置から無線統合処理装置への通信量を削減することができる。
【0049】
(第2の変形例の効果)
第1の変形例では、復調データを対数尤度比にすることで、無線統合処理装置5への通信量が増加する可能性がある。第2の変形例によれば、この通信量の増加を抑制することができる。
【0050】
(他の変形例)
さらに、例えば
図1において、2台の無線受信装置1A,1Bから送信された信号から復調データ、および通信品質データを抽出する形態を示したが、無線受信装置の数は2個に限定されるものではない。無線受信装置の数はシステムの構成や仕様などに応じて任意に設定できる。
【0051】
また、
図6ではブロック内のビット数が26ビット、シンボルデータA及びシンボルデータBのシンボル数が26の場合を例として示した。これに限らず、シンボルデータA、シンボルデータBのシンボル数やビット数を13や26に制限するものではない。シンボル数は任意に設定可能である。
【0052】
また、デジタル無線信号の変調方式もQPSKに限定されるものではない。例えば、DQPSK、16QAM、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの変調方式を適用しても良い。64QAM変調方式は、搬送波を振幅と位相が異なる64種類の状態(シンボル)に変化させて信号を伝送する方式であり、1つのシンボルあたり6ビットの情報を伝送することができる。
【0053】
その他、通信量を削減する変換関数として
図12に示すシグモイド関数を例として示したが、対数尤度比を変換する関数をシグモイド関数に制限するものではない。同様に量子化後のビット数を削減可能な非線形関数であれば適用可能である。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1A…無線受信装置、1B…無線受信装置、5…無線統合処理装置、10…ネットワーク、11…復調部、12…チャネル推定部、13…通信品質推定部、14…伝送部、21…復調部、22…チャネル推定部、23…通信品質推定部、24…伝送部、51…受信部、52…シンボル回転補正部、53…合成処理部。