(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086445
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】発色構造体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20230615BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20230615BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20230615BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230615BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/22
G02B1/11
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021200970
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直也
(72)【発明者】
【氏名】安 祐樹
【テーマコード(参考)】
2H148
2H249
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2H148CA14
2H148CA17
2H148CA24
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA42
2H249AA43
2H249AA44
2H249AA60
2H249AA64
2K009AA02
2K009BB24
4F100AA20B
4F100AA21B
4F100AK01C
4F100AK12A
4F100AK25A
4F100AK45A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA13C
4F100CB00D
4F100DD03A
4F100EH36
4F100EH66B
4F100EJ15
4F100JD06D
4F100JG05B
4F100JM02B
4F100JN06B
4F100JN06E
4F100JN28
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】光沢感のある色彩表現を可能とする発色構造体を提供する。
【解決手段】本発明の発色構造体は、凹凸面を有する凹凸構造層21と、凹凸構造層の凹凸面上に形成された光学層と、を備え、凹凸面は、曲面を有するレンズ構造から成る複数の凸部21aが平坦面21b上に間隔を開けて配置された形状を有し、光学層の凹凸構造層とは反対側の面に、凹凸面に沿う面が形成され、光学層は干渉によって強められた反射光を射出し、凸部21aの平坦面21bからの突出高さは、平面視での凸部21aの端部から中央部に向けて連続的に大きくなり、凹凸構造層の凹凸面における平坦面の割合は平面視で40%未満である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面を有する凹凸構造層と、前記凹凸構造層の前記凹凸面上に形成された光学層と、を備え、
前記凹凸面は、曲面を有するレンズ構造から成る複数の凸部が平坦面上に間隔を開けて配置された形状を有し、
前記光学層の前記凹凸構造層とは反対側の面に、前記凹凸面に沿う面が形成され、前記光学層は干渉によって強められた反射光を射出し、
前記凸部の前記平坦面からの突出高さは、平面視での前記凸部の端部から中央部に向けて連続的に大きくなり、
前記凹凸面における前記平坦面の割合は平面視で40%未満である発色構造体。
【請求項2】
前記凸部の平面形状は円または楕円である請求項1に記載の発色構造体。
【請求項3】
平面視において、前記複数の凸部は六方格子状または正方格子状に並んでいる請求項1または2に記載の発色構造体。
【請求項4】
前記複数の凸部の前記中央部の前記突出高さは同じである請求項1~3のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項5】
前記凸部の平面形状は円であり、前記円の直径は10μm以上100μm以下である請求項2に記載の発色構造体。
【請求項6】
前記光学層は、複数の誘電体薄膜からなる積層体であり、積層方向で隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なる請求項1~5のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項7】
前記光学層の前記凹凸構造層とは反対側に形成された吸収層を備え、
前記吸収層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する請求項1~6のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項8】
前記光学層の前記凹凸構造層とは反対側に配置されて最外面を形成する接着層を備える請求項1~6のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項9】
前記吸収層の前記光学層とは反対側に配置されて最外面を形成する接着層を備える請求項7に記載の発色構造体。
【請求項10】
前記凹凸構造層の前記光学層とは反対側に形成された反射防止層を備える請求項1~9のいずれか一項に記載の発色構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の干渉を利用した構造色を呈する発色構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜干渉や多層膜干渉といった光の干渉を利用して色を視認させる発色構造体が知られている。こうした発色構造体を物品に付すことで、色素が呈する色による装飾とは異なる外観の装飾を物品に施すことができる。それゆえ、物品の意匠性の向上が可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
モルフォ蝶等の自然界の生物の色として多く観察される構造色は、光の回折や干渉や散乱といった、物体の微細な構造に起因した光学現象の作用によって視認される色である。モルフォ蝶の翅のような構造色を人工的に再現する構造体としては、例えば特許文献2に、微細な凹凸構造上に多層膜層を積層した発光構造体が提案されている。特許文献2に記載の発光構造体は、多層膜層にて干渉により強められた特定波長の反射光が凹凸構造によって散乱されることで、広い観察角度で特定の色の視認が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-189519号公報
【特許文献2】特開2020-56942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄膜干渉や多層膜干渉を生じさせる誘電体層において、干渉によって強められる光の波長域は、誘電体層が含む薄膜の各界面で反射される光の光路差によって決まる。入射光の入射角度が変われば、光路差は変わり、また、干渉によって強められた光は、入射光の正反射方向へ射出される。したがって、干渉によって強められた特定の波長域の光は、特定の方向のみに射出される。特許文献2に記載の発光構造体は、多層膜干渉により反射光の強度が強められ、凹凸構造により光が散乱されることで、広い観察角度で特定の色が視認される。
【0006】
しかし、特許文献2の記載の発光構造体が有する凹凸構造は、複数の凸部が隙間なく並ぶため、凹凸構造による反射光は拡散反射光が支配的となる。よって、観察角度による色変化を抑えた発色が実現できるが、相対的に正反射光が弱くなるため、モルフォ蝶の翅に見られるような光沢感が失われてしまう。
【0007】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、広い観察角度で特定の色の視認が可能であり、かつ、光沢感のある色彩表現を実現する発色構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記課題を解決する発色構造体であって、以下の構成(a)~(d)を有する。
(a)凹凸面を有する凹凸構造層と、前記凹凸構造層の前記凹凸面上に形成された光学層と、を備えている。
(b)前記凹凸面は、曲面を有するレンズ構造から成る複数の凸部が平坦面上に間隔を開けて配置された形状を有する。前記光学層の前記凹凸構造層とは反対側の面に、前記凹凸面に沿う面が形成されている。前記光学層は、干渉によって強められた反射光を射出する。
(c)前記凸部の前記平坦面からの突出高さは、平面視での前記凸部の端部から中央部に向けて連続的に大きくなっている。
(d)前記凹凸構造層の前記凹凸面における前記平坦面の割合は、平面視で40%未満である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発色構造体によれば、光学層が凹凸構造層の凹凸面に沿った面を有することにより、干渉により強められた特定の波長域の反射光がレンズ構造の全方位に拡散散乱される。また、凹凸構造層の凹凸面が平坦面を含むため、干渉により強められた特定の波長域の光が入射光の正反射方向へも射出される。また、平坦面の割合が上記の範囲であることにより、正反射成分の割合が良好となるため、光沢を有する色が広い観察角度で視認可能となる。
【0010】
すなわち、本発明によれば、発色構造体において、広い観察角度で特定の色の視認が可能であり、かつ、光沢感のある色彩表現を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態の発色構造体を示す断面図である。
【
図2】一実施形態の発色構造体を構成する凹凸構造層の一部を示す斜視図である。
【
図3】一実施形態の発色構造体を構成する凹凸構造層を示す平面図および断面図である。
【
図4】一実施形態の発色構造体を構成する凹凸構造層における凸部の配列を示す平面図である。
【
図5】一実施形態の発色構造体の適用例である発色シールを示す断面図である。
【
図6】一実施形態の発色構造体の適用例である転写シートを示す断面図である。
【
図7】実施例で用いた光学系における入射角と受光角との関係を示す図である。
【
図8】実施例の発色構造体における反射特性の測定結果を示す図である。
【
図9】比較例の発色構造体における反射特性の測定結果を示す図である。
【
図10】実施例と比較例の発色構造体における拡散反射色を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔好適な態様〕
本発明の一態様である発色構造体は下記の構成(e)~(m)を有していてもよい。
(e)前記凸部の平面形状は円または楕円である。
上記構成(e)を有することで、全方位に対して高い等方性を有する拡散反射が可能となる。
(f)平面視において、前記複数の凸部は六方格子状または正方格子状に並んでいる。
上記構成(f)を有することで、凹凸要素の面積比率の制御が容易となる。
(g)前記複数の凸部の前記中央部の前記突出高さは同じである。
上記構成(g)を有することで、光学層の反射光の散乱効果が高められる。
(h)前記凸部の平面形状は円であり、前記円の直径は10μm以上100μm以下である。
上記構成(h)を有することで、凸部が大きすぎないため、凸部が1つの構造体として人間の目に認識されることが抑えられる。
【0013】
(i)前記光学層は、複数の誘電体薄膜からなる積層体であり、積層方向で隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なる。
上記構成(i)を有することで、単層の薄膜による干渉を利用する形態と比較して、反射光の強度が大きくなる。したがって、観察される色がより鮮やかになる。
(j)前記光学層の前記凹凸構造層とは反対側に形成された吸収層を備え、前記吸収層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する。
上記構成(j)を有することで、凹凸構造層側から見て、光学層で強められた反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、反射光の色の視認性が低下することが抑えられる。
【0014】
(k)発色構造体が上記構成(j)を有する場合、前記吸収層の前記光学層とは反対側に配置されて最外面を形成する接着層を備える。発色構造体が上記構成(j)を有さない場合、前記光学層の前記凹凸構造層とは反対側に配置されて最外面を形成する接着層を備える。すなわち、発色構造体の最外面に接着層が存在する。
上記構成(k)を有することで、吸収層の光学層とは反対側または光学層の凹凸構造層とは反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる発色シールや転写シートに適した発色構造体が得られる。
(m)前記凹凸構造層の前記光学層とは反対側に形成された反射防止層を備える。
上記構成(m)を有することで、凹凸構造層側から見て、発色構造体の表面反射が抑えられるため、反射光の色の視認性低下を抑えられる。
【0015】
〔実施形態〕
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0016】
図面を参照して、発色構造体の一実施形態を説明する。発色構造体に対する入射光および反射光の波長域は特に限定されないが、以下の実施形態においては、一例として、可視領域の光を対象とした発色構造体について説明する。以下の説明において、可視領域の光とは、360nm以上830nm以下の波長域の光を指す。
【0017】
[発色構造体の基本構造]
まず、発色構造体の主要部を構成する光学素子部の構造を説明する。
図1が示すように、この実施形態の発色構造体10は、基材20と、凹凸構造層21と、光学層の一例である多層膜層22とを備えている。
【0018】
基材20は、平坦な層であり、凹凸構造層21を支持している。基材20は、可視領域の光を透過する材料、すなわち、可視領域の光に対して透明な材料から形成されている。基材20は、例えば、合成石英基板や、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート、アクリル、ポリプロピレン等の樹脂からなるシートである。発色構造体10の可撓性が高められる観点では、基材20は樹脂シートであることが好ましい。基材20の厚さは、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0019】
凹凸構造層21は、基材20上に位置する。凹凸構造層21は、基材20に向けられた面とは反対側の面である表面に、凹凸面を有する。凹凸面は、複数の凸部21aと平坦部21bから構成される。凸部21aは、基板20とは反対側に向けて突出する。複数の平坦部21bは、複数の凸部21aの間、すなわち、凹凸構造層21が有する凹凸面の底部に位置する。
【0020】
凹凸構造層21は、可視領域の光を透過する樹脂、すなわち、可視領域の光に対して透明な樹脂から形成されている。凹凸構造層21の材料の樹脂は、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂である。また、凹凸構造層21の材料の樹脂の具体例は、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、AS樹脂、MS樹脂等である。
【0021】
多層膜層22は、凹凸構造層21の表面を覆い、凹凸構造層21が有する凹凸面に追従した表面形状を有している。つまり、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対側の面に凹凸構造層21が有する凹凸面に沿う面が形成されている。多層膜層22は、光学層の一例である。多層膜層22は、複数の薄膜の積層体であって、高屈折率層22aと低屈折率層22bとが交互に積層された構造を有する。高屈折率層22aと低屈折率層22bとの各々は、誘電体薄膜である。高屈折率層22aの屈折率は、低屈折率層22bの屈折率よりも大きい。例えば、凹凸構造層21と接する層は高屈折率層22aであり、凹凸構造層21と反対側の最外層は低屈折率層22bである。
【0022】
高屈折率層22aと低屈折率層22bとは、可視領域の光に対して透明な材料、すなわち、可視領域の光を透過する材料から構成される。高屈折率層22aの屈折率が、低屈折率層22bの屈折率よりも大きい構成であれば、これらの層の材料は限定されないが、高屈折率層22aと低屈折率層22bとの屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。こうした観点から、例えば、高屈折率層22aと低屈折率層22bとを無機材料から構成する場合、高屈折率層22aを二酸化チタン(TiO2)から構成し、低屈折率層22bを二酸化珪素(SiO2)から構成することが好ましい。ただし、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々は有機材料から構成されてもよい。
【0023】
高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々の膜厚は、発色構造体10にて発色させる所望の色に応じて、転送行列法等を用いて設計されればよい。高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの膜厚は、例えば、10nm以上500nm以下の範囲から選択される。多層膜層22を構成する各層の膜厚は、すべて同一であってもよいし、層によって異なっていてもよい。
【0024】
なお、
図1では、多層膜層22として、凹凸構造層21に近い位置から高屈折率層22aと低屈折率層22bとがこの順に交互に積層された10層からなる多層膜層22を例示した。多層膜層22が有する層数や積層の順序はこれに限られず、所望の波長域の反射光が得られるように高屈折率層22aと低屈折率層22bとが設計されていればよい。例えば、低屈折率層22bが凹凸構造層21に接し、その上に高屈折率層22aと低屈折率層22bとが交互に積層されている構成でもよい。
【0025】
また、凹凸構造層21と反対側の最外層も、高屈折率層22aと低屈折率層22bとのいずれであってもよい。さらに、高屈折率層22aと低屈折率層22bとが交互に積層されていれば、凹凸構造層21に接する層とその反対側の最外層との材料が同じであってもよい。さらに多層膜層22は、3つ以上の屈折率の異なる層の組み合わせによって構成されてもよい。
【0026】
要は、多層膜層22は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層22に入射する光のうち特定の波長域での光の反射率が他の波長域での反射率よりも高いように構成されていればよい。
【0027】
発色構造体10に光が入射すると、多層膜層22における高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各界面で反射した光が干渉を起こす。凹凸構造層21の凸部21aの構造に起因して、上記各界面の入射光に対する角度が発色構造体10内で変化する。凸部21aの平面形状が円形もしくは楕円形である場合、多角形と比較して全方位に対して拡散性の高い反射光が射出される。すなわち、多層膜層22の反射光が散乱される。
【0028】
また、凹凸構造層21が平坦部21bを含むため、干渉により強められた特定の波長域の光が入射光の正反射方向へも射出される。結果として、様々な方向からの入射光に対し、干渉によって強められた特定の波長域の光が、凸部21aにより全方位に射出され、かつ、平坦部21bにより入射光の正反射方向にも射出される。それゆえ、光沢感を有する特定の色が広い観察角度で視認可能となる。
多層膜層22に対して凹凸構造層21が位置する側から観察した場合でも、多層膜層22に対して凹凸構造層21とは反対側から観察した場合でも、上記特定の波長域の反射光は観察可能である。
【0029】
なお、発色構造体10は、基材20を備えていなくてもよい。発色構造体10が基材20を備えない場合、凹凸構造層21は、合成石英のように樹脂とは異なる材料から構成されてもよい。
【0030】
[凹凸構造]
凹凸構造層21が有する凹凸面について詳細に説明する。
図2は、凹凸構造層21の斜視構造を示し、
図3は、凹凸構造層21の平面構造および断面構造を示す。
図2が示すように、凹凸構造層21が有する凹凸面において、複数の凸部21aは隣接することなく、孤立して並んでいる。複数の凸部21aは互いに同一形状を有し、第1方向dxと第2方向dyとの各々に沿って並んでいる。第1方向dxと第2方向dyとは、互いに直交する方向である。
【0031】
凹凸面は、拡散反射光と正反射光を好適に生じさせるため、複数の凸部21a、平坦部21bから構成される。複数の凸部21aは、平坦部21bに囲まれている。言い換えれば、平坦部21bは海状構造を構成しており、複数の凸部21aは、海状構造の中に散在する島状構造を構成している。凹凸面は、凸部21aが最密構造である場合においても、平坦部21bを有する必要があるため、凸部21aは円形もしくは楕円形であることが好ましい。
【0032】
図3が示すように、凹凸構造層21の厚さ方向に沿った方向から凹凸面を見た平面視において、凸部21aは、円形もしくは楕円形状を有することが好ましく、六方格子状に並んでいる。
【0033】
凹凸構造層21では、凸部21aに起因した拡散反射と、平坦部21bに起因した正反射が生じる。凸部21aによる拡散反射の強度は凸部21aの形状によって異なる。凸部21aの平面形状が円形であると、拡散反射光の強度分布が等方的となる。それゆえ、観察角度によらず、正反射および拡散反射光を含む均一な反射光が得られる。すなわち、観察角度によらず、同等の発色の視認が可能となる。
【0034】
また、上記平面視で凹凸構造層21の凹凸面における平坦部21bの面積(平坦面)の割合(以下、単に「平坦部21bの面積の割合」と称する)は、40%未満であることが好ましい。平坦部21bの面積の割合が上記範囲内であれば、反射光における拡散反射成分と正反射成分の割合が好適となる。すなわち、反射光において、拡散反射成分が十分に得られる一方で、拡散反射成分が支配的になることが抑えられる。
【0035】
凸部21aの配列が六方格子状であると、平坦部21bの面積の割合の制御が容易である。また、六方格子状に凸部21aが配列する場合、周期構造による回折光の発生を抑制することが可能となる。
【0036】
凸部21aの幅Dは、上記円形の直径である。複数の凸部21aにおいて、幅Dは一定である。幅Dは、10μm以上100μm以下である。幅Dが10μm以上であると、凸部21aの規則的な配列に起因して光の回折が生じることが抑えられる。それゆえ、回折光として虹色が視認されることが抑えられるため、多層膜層22からの反射光による色の視認性が高められる。
【0037】
また、幅Dが10μm以上であると、凸部21aが微細になりすぎないため、凹凸面の形成が容易であり、発色構造体の生産効率が高められる。一方、幅Dが100μm以下であると、凸部21aが1つの構造体として人間の目に認識されることが抑えられる。これらの各効果がバランスよく得られる観点では、幅Dは、40μm以上60μm以下であることが好ましい。
【0038】
複数の凸部21aの最大高さ(平坦面からの突出高さの最大値)Hは一定である。最大高さHは、例えば、10μm以下であることが好ましい。
【0039】
凸部21aのアスペクト比、すなわち、幅Dに対する最大高さHの比は、0.1以上1.0以下である。アスペクト比が0.1以上であれば、平面と比較して十分な起伏を有する凹凸面が形成されるため、凹凸面による散乱効果が高く得られる。
【0040】
一方、アスペクト比が1.0以下であれば、凸部21a内での光の反射が抑えられる。入射光のうち、多層膜層22内にて反射されて干渉を起こす特定の波長域以外の光の一部は、多層膜層22を透過する。凸部21a内での反射が大きいと、多層膜層22を透過する波長域の光が、反射光として、入射光が入射する空間に返ってくることが起こり得る。多層膜層22を透過する光の波長域は、主として、多層膜層22での反射光の色の補色に相当する波長域である。そのため、こうした波長域の光が視認されると、多層膜層22からの反射光による色の視認性が低下する。
【0041】
これに対し、上述のように、アスペクト比が1.0以下であれば、多層膜層22を透過する光が反射されて視認されることが抑えられるため、多層膜層22にて干渉により強められた反射光の色の視認性が低下することが抑えられる。なお、凸部21aは、多層膜層22を透過する波長域の光を反射し難い形状に設計されていることが好ましい。
【0042】
凸部21aの高さ(平坦面からの突出高さ)は、平面視での凸部21aの端部から中央部に向けて連続的に変化し、徐々に大きくなる。そして、凸部21aの高さは平面視での中央部で最大となる。言い換えれば、凸部21aの高さは、上記平面視での凸部21aの端部に対応する部分から、上記平面視での凸部21aの中央部に対応する部分に向けて、連続的に大きくなる。
【0043】
凸部21aは、多層膜層22に向けて突出するように湾曲する曲線を有する。この曲線の曲率は一定であってもよいし、一定でなくてもよい。例えば、凸部21aの端部と中央部とで表面を構成する曲線の曲率は異なっていてもよい。
【0044】
上記曲線の曲率が一定である形態では、凸部21aの中央部で曲率が大きくなる形態と比較して、凸部21a内での光の反射を抑えやすい。一方、上記曲線の曲率が一定でない形態では、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内においてより不均一になるように凸部21aを構成することができるため、多層膜層22の反射光の散乱効果を高めるように凸部21aの形状を設計することもできる。
【0045】
図4を用いて、凸部21aの配列を説明する。複数の凸部21aの配列は、第1方向dxにおける凸部21aの配列の周期Pxと、第2方向dyにおける凸部21aの配列の周期Pyによって決まる。
【0046】
上記平面視での凹凸構造層21の凹凸面における平坦部21bの面積(平坦面)の割合(以下、単に「平坦部21bの面積の割合」と称する)の制御は、周期Pxと周期Pyを一定にし、幅Dを変化させることで可能である。例えば、幅Dを大きくすれば、平坦部21bの面積の割合が小さくなり、幅Dを小さくすれば、平坦部21bの面積の割合が大きくなる。周期Pxと幅Dの関係は、Px>2Dであり、周期Pyと幅Dの関係は、Py>Dである。上記範囲内であれば、複数の凸部21aが隣接することなく、孤立して並ぶことが可能となる。
【0047】
凹凸面の変形例について説明する。上記平面視における凸部21aの形状は、円形に限らず、正方形や長方形等の四角形、楕円、六角形等の多角形であってもよい。凸部21aによる拡散反射の強度分布は、凸部21aの形状によって異なる。例えば、凸部21aが楕円の場合、拡散反射の強度分布は、長軸方向に異方性を有した分布となる。所望の反射強度分布に応じて凸部21aの形状を選択することが好ましい。また、上記平面視における凸部21aの形状は、複数の凸部21aにおいて一定でなくてもよい。また、複数の凸部21aにおいて、最大高さHは一定でなくてもよい。
【0048】
ここで、多層膜層22の反射光の散乱効果を高めてより多方向に反射光を射出させるためには、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内において不均一であるほど好ましい。例えば、上記平面視における凸部21aの形状が四角形である場合、四角形の頂点から四角形の中心に向けた周面の傾きの変化と、四角形の辺の中点から四角形の中心にむけた周面の傾きの変化とは異なる。したがって、凸部21aの周面内において部位による傾きのばらつきが大きい。それゆえ、凸部21aの形状が四角形である形態では、凸部21aの形状が単純であって凸部21aの形成が容易でありながら、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0049】
なお、上記平面視において、凸部21aの短辺方向の幅と長辺方向の幅とが異なるとき、短辺方向の幅と長辺方向の幅との双方が、10μm以上100μm以下とされる。上記短辺方向の幅は、上記平面視において凸部21aが内接する最小の矩形を仮想的に配置した場合における当該矩形の短辺の長さである。また、上記長辺方向の幅は、上記最小の矩形における長辺の長さである。また、凸部21aの最大高さHは、短辺方向の幅を基準に設定されればよく、すなわち、短辺方向の幅に対する最大高さHの比が、0.1以上1.0以下であればよい。上記平面視において凸部21aが正方形形状を有する形態は、上記短辺方向の幅と上記長辺方向の幅とが一致する形態である。
【0050】
また、複数の凸部21aは、六方格子状に限らず、正方格子状等の他の二次元格子状に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。凸部21aの配列は、平坦部21bの面積の割合が5%以上40%未満となる配列方法が採用される。
【0051】
複数の凸部21aにおける形状の不規則性や配列の不規則性が高いほど、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。例えば、上記平面視において、凸部21aが四角形形状を有し、他の凸部21aにおいて、短辺方向の幅および長辺方向の幅の少なくとも一方が互いに異なる形態であれば、凸部21aの形状が単純であって凸部21aの形成が容易でありながら、複数の凸部21aの形状が一定である形態と比較して、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0052】
また、凸部21aの高さが、上記平面視での凸部21aの端部から重心である中心に向けて徐々に大きくなる形態であれば、厚さ方向に沿った断面において、凸部21aの周面は当該周面の基端と先端とを結ぶ直線を構成していてもよい。ただし、上記断面において凸部21aの周面が曲線を構成する形態の方が、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内において不均一になるため、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0053】
[発色構造体の製造方法]
発色構造体10の製造方法を説明する。凹凸構造層21が有する凹凸面の形成方法としては、熱や紫外線を利用した転写成形、射出成形、切削等の機械加工、エッチング等が用いられる。転写成形や射出成形に用いられる凹版は、機械加工やエッチングによって形成される。
【0054】
例えば、機械加工を利用する場合、切削における加工条件の調整や適切な工具の選択によって、凸部21aと平坦部21bからなる凹凸構造、あるいは、当該凹凸構造の成形のための凹版を形成することができる。
【0055】
例えば、形成対象の凹凸が反転された凹凸を有する凹版に、凹凸構造層21の材料である紫外線硬化性樹脂が塗布され、塗布液からなる層の表面に、基材20が重ねられる。基材20と凹版とが互いに押し付けられた状態で、紫外線が照射され、硬化した樹脂からなる層および基材20から凹版が離型される。これによって、凹版の有する凹凸が樹脂に転写されて、表面に凹凸面を有する凹凸構造層21が形成され、基材20と凹凸構造層21とからなる積層体が形成される。
【0056】
続いて、凹凸構造層21の凹凸面を有する表面に、多層膜層22を構成する層が順に積層される。多層膜層22を構成する高屈折率層22aと低屈折率層22bとが無機材料から形成される場合、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々は、スパッタリング、真空蒸着、あるいは、原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術を用いて形成される。また、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々が有機材料から形成される場合、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの形成には、自己組織化等の公知の技術が用いられればよい。
【0057】
[発色構造体の適用例]
発色構造体の適用例として、発色シールおよび転写シートの構成を説明する。
まず、発色構造体を発色シールに適用した場合の構造について説明する。発色シールは、被着体に貼り付けられて、被着体の装飾等に用いられる。
【0058】
図5が示すように、この実施形態の発色シール30は、基材20、凹凸構造層21、多層膜層22に加えて、吸収層50および接着層51を備えている。吸収層50および接着層51は、多層膜層22に対して、凹凸構造層21と反対側に位置する。
【0059】
吸収層50は、多層膜層22の最外面の凹凸を覆っている。吸収層50は、多層膜層22を透過した光を吸収する光吸収性を有する。例えば、吸収層50は、光吸収剤や黒色顔料等の可視領域の光を吸収する材料を含む層である。具体的には、吸収層50は、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物等の黒色の無機顔料が樹脂に混合された層であることが好ましい。吸収層50の膜厚は、例えば、1μm以上10μm以下である。
【0060】
接着層51は、吸収層50の多層膜層22とは反対側に接し、発色シール30の最外面を構成している。接着層51は、被着体に対する接着性を有する層であって、例えば、アクリル系やウレタン系等の粘着剤から構成される。接着層51の膜厚は、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0061】
吸収層50および接着層51は、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を用いて形成される。
【0062】
発色シール30は、接着層51が被着体に接するように、すなわち、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、凹凸構造層21側から基材20を介して発色シール30を観察する。被着体と発色シール30とからなる物品が、発色物品である。
【0063】
入射光のうち、多層膜層22にて反射される特定の波長域以外の光の一部は、多層膜層22を透過する。この透過光の波長域は多層膜層22における反射光の波長域とは異なるため、こうした透過光が視認されると、反射光による色の視認性が低下する。上記発色シール30においては、吸収層50を備えていることにより、多層膜層22の透過光は吸収層50に吸収され、この透過光が被着体の表面等で反射されて基材20側に射出されることが抑えられる。
【0064】
したがって、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が観察者に視認されることが抑えられるため、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。それゆえ、発色シール30において所望の発色が好適に得られる。
【0065】
凹凸構造層21において、凸部21aの平面形状が円形である場合、拡散反射光の強度分布が等方的となる。それゆえ、発色シール30が曲率形状を有する被着体に貼り付けられる場合、観察角度によらず、光沢感を有する均一な発色の視認が可能となる。
【0066】
なお、発色シール30は、基材20の凹凸構造層21とは反対側の面に、反射防止層を備えていてもよい。反射防止層は、発色シール30の最外面での表面反射を抑える機能を有する。反射防止層により表面反射が抑えられることで、多層膜層22で強められた反射光の色の視認性がより高められる。
【0067】
次に、発色構造体を転写シートに適用した場合の構造について説明する。転写シートは、被着体に発色シートを貼り付けるために用いられるシートである。言い換えれば、転写シートは、転写シートが備える発色シートを被着体に転写するために用いられる。
【0068】
図6が示すように、この実施形態の転写シート31は、基材20、凹凸構造層21、多層膜層22に加えて、吸収層52および接着層53を備えている。
転写シート31においては、基材20が凹凸構造層21に対して剥離可能に構成されている。具体的には、転写シート31は、基材20と凹凸構造層21との間に、剥離層54を備えている。剥離層54は、シリコーンオイルやフッ素化合物等の離型剤として機能する成分を含有している。こうした剥離層54は、基材20の表面に、公知の塗布法によって形成される。
【0069】
吸収層52および接着層53は、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対の側に位置する。吸収層52は、多層膜層22の最外面の凹凸を覆っている。接着層53は、吸収層52の多層膜層22とは反対の側に接し、転写シート31の最外面を形成している。吸収層52は、上述した発色シール30の吸収層50と同様の構成を有し、接着層53は、上述した転写シート31の接着層51と同様の構成を有する。
【0070】
転写シート31の使用時には、転写シート31は、接着層53と被着体とが接するように、被着体の表面に固定される。そして、基材20が剥離される。基材20は、基材20と剥離層54との界面で剥離が生じることにより剥離されてもよいし、剥離層54と凹凸構造層21との界面で剥離が生じることにより、剥離層54と共に剥離されてもよい。これにより、凹凸構造層21、多層膜層22、吸収層52、および、接着層53を備える発色シート32が被着体に転写される。基材20と剥離層54との界面で剥離が生じる場合には、剥離層54も発色シート32に含まれる。発色シート32における接着層53と反対側の最外面は、剥離層54もしくは凹凸構造層21が構成する。
【0071】
以上のように、転写シート31の基材20から外された発色シート32は、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、剥離層54もしくは凹凸構造層21の側から発色シート32を観察する。被着体と発色シート32とからなる物品が、発色物品である。
【0072】
発色シート32が吸収層52を備えていることにより、多層膜層22の透過光は吸収層52に吸収され、この透過光が被着体の表面等で反射されて凹凸構造層21側に射出されることが抑えられる。したがって、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が観察者に視認されることが抑えられるため、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。それゆえ、発色シート32において所望の発色が好適に得られる。また、転写シート31が曲率形状を有する被着体に貼り付けられる場合、凹凸構造層21の凸部21aの平面形状が円形であれば、拡散反射光の強度分布が等方的となり、観察角度によらず、光沢感を有する均一な発色の視認が可能となる。
【0073】
また、転写シート31の基材20から外された発色シート32は、基材20を備えた
図5の発色シール30よりも柔軟性が高いものとなる。したがって、例えば被着体の表面が曲面である場合にも、被着体の表面に発色シート32が追従しやすい。その結果、被着体の表面に発色シート32を沿わせるために発色シート32にかける負荷を軽減できるとともに、発色シート32が被着体から剥がれることも抑えられる。さらに、発色シート32の厚さは、基材20を備えた
図5の発色シール30よりも薄くできるため、発色シート32が貼り付けられている部分が盛り上がることが抑えられる。それゆえ、例えば、発色シート32が装飾のために用いられる場合には、その装飾性を高めることも可能である。
【0074】
また、発色シート32において、多層膜層22における吸収層52と反対側の最外面は凹凸構造層21に覆われる。したがって、凹凸構造層21も剥離されて多層膜層22における上記最外面が外部に露出される場合と比較して、上記最外面を覆う保護層を別途形成せずとも、多層膜層22が有する凹凸構造が保護される。そのため、当該凹凸構造が変形して所望の発色が得られ難くなることが抑えられる。
【0075】
なお、転写シート31が剥離層54を備えず、材料の調整によって、基材20が凹凸構造層21から剥離可能に構成されていてもよい。例えば、基材20が離型剤を含んでいてもよいし、基材20と凹凸構造層21との密着性が低くなるように、基材20の材料と凹凸構造層21の材料とが選択されてもよい。
【0076】
また、発色シート32の転写時には、加熱および加圧、水圧の付加、紫外線照射等が行われてもよい。そして、こうした転写時に与えられる刺激によって、基材20の剥離性や接着層53の接着性が発現してもよい。例えば、接着層53は、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン等のヒートシール剤として機能する熱可塑性樹脂から構成されてもよく、こうした形態であれば、接着層53の接着性は、加熱によって発現する。
【0077】
なお、発色シール30もしくは発色シート32が貼り付けられる被着体の形状や材料は特に限定されず、例えば、被着体は、カードや立体物等の樹脂成形品であってもよいし、紙であってもよい。要は、被着体は、接着層51,53の接着可能な表面を有していればよい。
【0078】
また、吸収層50,52は、可視領域の光のすべてを吸収せずとも、多層膜層22を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有していれば、こうした光吸収性を有する層が設けられない場合と比較して、反射光による色の視認性が低下することを抑えることはできる。例えば、吸収層50,52は、多層膜層22を透過する光の波長域に応じた色の顔料を含む層であってもよい。ただし、吸収層50,52が黒色顔料を含む黒色の層であれば、透過光の波長域に応じた色の調整等が不要であり、また、吸収層50,52が広い波長域の光を吸収するため、簡便に、かつ、好適に、反射光による色の視認性の低下が抑えられる。
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0079】
(1)複数の凸部21aと平坦部21bからなる凹凸面上に、多層膜層22が積層されているため、多層膜層22にて干渉により強められる特定の波長域の反射光が散乱されて、様々な方向に射出される。さらに、凹凸構造層21が平坦部21bを含むため、干渉により強められた特定の波長域の光が入射光の正反射方向へも射出される。そのため、様々な方向からの入射光に対し、干渉によって強められた特定の波長域の光が、様々な方向に射出され、かつ、入射光の正反射方向にも射出されるため、光沢感を有する特定の色が広い観察角度で視認可能となる。
【0080】
(2)平面視において、複数の凸部21aが六方格子状に並んでいる。上記構成であれば、複数の凸部21aの面積の割合の制御が容易である。また、六方格子状に凸部21aが配列する場合、周期構造による回折光の発生を抑制することが可能となる。
【0081】
(3)凸部21aによる拡散反射の強度は凸部21aの形状によって異なるため、凸部21aが円形もしくは楕円形状であると、拡散反射光の強度分布が等方的となり、観察角度によらず、正反射および拡散反射光を含む均一な反射光が得られる。したがって、観察角度によらず、同等の発色の視認が可能である。
【0082】
(4)上記平面視での凹凸構造層21の凹凸面における平坦部21bの面積の割合は、5%以上40%未満であれば、反射光における拡散反射成分と正反射成分の割合が好適となる。したがって、反射光において、拡散反射成分が十分に得られる一方で、拡散反射成分が支配的になることが抑えられる。
【0083】
(5)複数の凸部21aにおいて、幅Dが10μm以上100μm以下であれば、凸部21aの規則的な配列に起因して光の回折が生じることが抑えられる。したがって、回折光として虹色が視認されることが抑えられ、多層膜層22からの反射光による色の視認性が高められる。また、凸部21aが微細になりすぎないため、凹凸面の形成が容易であり、発色構造体の生産効率が高められる。
【0084】
(6)凸部21aの幅Dに対する最大高さHの比が、0.1以上1.0以下であれば、平面と比較して十分な起伏を有する凹凸面が形成されるため、凹凸面による散乱効果が高く得られる。
【0085】
(7)複数の凸部21aの配列は、周期Pxと、周期Pyによって決まり、上記平面視での凹凸構造層21の凹凸面における平坦部21bの面積の割合の制御は、周期Pxと周期Pyを一定にし、幅Dを変化させることで可能である。
【0086】
(8)周期Pxと幅Dが、Px>Dであり、周期Pyと幅Dが、Py>Dを満たす形態であれば、複数の凸部21aが隣接することなく、孤立して並ぶことが可能となる。
【0087】
(9)凸部21aの平面形状が、楕円であれば、拡散反射の強度分布は、長軸方向に異方性を有した分布となる。また、凸部21aの平面形状を正方形や長方形等の四角形、六角形等の多角形から構成することで、所望の版所強度分布を得ることが可能となる。
【0088】
(10)発色構造体が、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対側に形成された吸収層50,52を備える形態であれば、凹凸構造層21の位置する側から見て、多層膜層22で強められた反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、反射光の色の視認性が低下することが抑えられる。
【0089】
(11)発色構造体が、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対側に、最外面を形成する接着層51,53を備える形態であれば、多層膜層22の凹凸構造層21とは反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる発色シールや転写シートに適した発色構造体が得られる。
【0090】
(12)発色構造体が、凹凸構造層21の多層膜層22とは反対側に形成された反射防止層を備える形態であれば、凹凸構造層21の位置する側から見て、発色構造体の表面反射が抑えられるため、反射光の色の視認性が低下することが抑えられる。
【実施例0091】
上述した発色構造体について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。実施例および比較例の発色構造体は、ポリエチレンテレフタラートからなる基材上に、紫外線硬化性樹脂からなる凹凸構造層と、TiO2薄膜とSiO2薄膜とを交互に5層ずつ積層した多層膜層とが形成された構造を有する。実施例と比較例とでは、凹凸面の構成が異なる。
【0092】
[実施例]
凹凸面を形成するための版を作製した。当該版は、銅からなるメッキ層を切削刃により切削して作製した切削版である。凹凸構造層において、平面視での凸部の形状が幅55μm、最大高さ6μmとなる円形であり、複数の凸部が隣接することなく、六方格子状に配列され、平面視で凹凸構造層の凹凸面における平坦部の面積(平坦面)の割合が39%(40%未満)になるように、金型を形成した。金型の形成に際しては、上記凸部に対応する凹部を、端部から中央部にかけて弧を描くように連続的に高さを変えながら切削し、上記円形の中央部の掘り込み深さを6μmとした。
【0093】
上記切削版を、紫外線硬化性樹脂を塗工したポリエチレンテレフタラート製の基材に押し付け、基材が位置する側から365nmの波長の光を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化した。切削版から紫外線硬化性樹脂を離型することにより、硬化した紫外線硬化性樹脂からなる凹凸構造層が基材上に形成された積層体を得た。次に、凹凸構造層上に、真空蒸着法を用いて、60nmの厚さのTiO2薄膜と80nmの厚さのSiO2薄膜とを交互に積層して、多層膜層を形成した。TiO2薄膜が高屈折率層であり、SiO2薄膜が低屈折率層である。これにより、実施例の発色構造体を得た。
【0094】
[比較例]
切削版の作製に際して、凹凸構造層において、平面視での凸部の形状が幅55μm、最大高さ6μmとなる円形であり、複数の凸部が隣接することなく、六方格子状に配列され、平面視で凹凸構造層の凹凸面における平坦部の面積(平坦面)の割合が40%になるように、金型を形成した。切削版の作製工程以外は、実施例と同様の材料および工程によって、比較例の発色構造体を得た。
【0095】
[評価方法]
図7に示すように、発色構造体に対する光の入射角度θiと受光角度θrとをそれぞれ独立に設定可能な光学系を用いて、実施例および比較例の発色構造体の表面反射における反射特性を確認した。具体的には、入射角度θiを30°に固定して、受光角度θrが-10°~70°、すなわち、入射角度θiに対して±40°であるときの各波長の反射強度を測定した。
【0096】
[評価結果]
図8に、実施例の発色構造体に対し、入射角度θiを30°に固定して、受光角θrが-10°、10°、30°、50°、70°の各々であるときの反射分光特性を測定した結果を示す。
図8が示すように、いずれの受光角θrにおいても、多層膜干渉に起因した波長選択性のある反射スペクトル、すなわち、450nm~500nmの付近にピークを有する反射スペクトルが得られた。また、受光角θrが30°においては、平坦な表面上に形成された多層膜干渉に起因した波長選択性のある反射スペクトルが観察された。これは、凹凸構造層の平坦部からの正反射光であり、凹凸構造層が平坦部を含む構造から成るために、凸部による拡散反射光以外に正反射光を含む反射が実現できていることを示している。レンズ構造による拡散反射と平坦部による正反射により、視野角±40°の範囲で色変化の少ない発色構造体を実現できている。
【0097】
図9に、比較例の発色構造体に対し、入射角度θiを30°に固定して、受光角θrが-10°、10°、30°、50°、70°の各々であるときの反射分光特性を測定した結果を示す。
図9が示すように、凹凸構造層の平坦部からの正反射光(受光角θrが30°)が支配的であり、凸部による拡散反射光の強度が極端に低かった。つまり、凹凸構造層の凹凸面における平坦部の面積(平坦面)の割合が40%以上になると、反射光における正反射成分の割合が高くなり、レンズ構造による全方位への拡散反射強度が低くなる。すなわち、実施例に比べ視野角が狭く、色変化の大きい発色構造体となっている。
【0098】
図10に、実施例と比較例の受光角θrが-10°、10°、50°、70°の各々の反射色(拡散反射色)をL*a*b*色空間で表した結果を示す。比較例は実施例に比べ、視野角±40°における色変化が大きかった。すなわち、比較例では波長選択性のある光沢を有する色を広い観察角度で視認できないことが示唆される。
【0099】
以上のように、平面視で凹凸構造層の凹凸面における平坦部の面積(平坦面)の割合が40%未満であると、反射光における拡散反射成分と正反射成分の割合が好適となることが示された。実施例において、比較例よりも広い観察角度で波長選択性をもつ光沢を有する色の視認が可能であることが示された。