(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087750
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】咀嚼シミュレータ、咀嚼動作の再現方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20230619BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20230619BHJP
G01N 3/34 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
G01N1/28 Z
G01N33/02
G01N3/34 M
G01N3/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202210
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東森 充
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大輝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 曉秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑晟
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】堀金 智貴
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和紀
【テーマコード(参考)】
2G052
2G061
【Fターム(参考)】
2G052AA24
2G052AD32
2G052FB06
2G052FD08
2G052JA08
2G061AA02
2G061AB05
2G061AC09
2G061BA20
2G061CA20
2G061CB20
2G061DA01
2G061EA01
2G061EB05
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】食品の種類によらずに人が食品を口内に入れて食塊を形成する咀嚼動作を再現する咀嚼シミュレータを提供する。
【解決手段】咀嚼シミュレータ1は、食品Fが載置されるトレイ20と、トレイ20に対向して配置され、食品Fを押圧する上歯部6と、トレイ20を囲むように設けられた可動壁部16A~16Cを備えている。ロボットアーム3は上歯部6の押圧動作と引き離し動作を行い、サーボモータ9は可動壁部16A~16Cを動作させて、可動壁部16A~16Cで囲まれる包囲領域Rの広さを変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品が載置される載置部と、
前記載置部に対向して配置され、前記食品を押圧する押圧部と、
前記押圧部の押圧動作と引き離し動作を行う第1駆動部と、
前記載置部を囲むように設けられた複数の可動壁部と、
前記複数の可動壁部を動作させて、前記可動壁部で囲まれる領域の広さを変化させる第2駆動部と、
を備えていることを特徴とする咀嚼シミュレータ。
【請求項2】
前記第2駆動部が前記可動壁部で囲まれる領域を拡大させたとき、前記第1駆動部が前記押圧部を前記載置部に向けて押圧動作させ、
前記第1駆動部が前記押圧部を前記載置部から引き離したとき、前記第2駆動部が前記可動壁部で囲まれる領域を縮小させる、
請求項1に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項3】
前記可動壁部は、前記可動壁部で囲まれる領域が最も拡大したときに円形形状となるように、円弧状に湾曲した板部を有し、
前記可動壁部の各々は、いずれか一方の端部の内周側が薄板状に円周方向に突出し、隣接する可動壁部の内側に入り込む形状をなす、
請求項1又は2に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項4】
前記第2駆動部は、前記可動壁部で囲まれる領域を縮小させるとき、前記可動壁部同士が一部重なるように動作させる、
請求項3に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項5】
前記可動壁部は、前記湾曲した板部の凸側に一対の接続部を有し、
前記接続部の各々は、互いに平行かつ同じ長さのリンクを介して各々の軸部に接続され、
前記第2駆動部は、前記リンクを介して前記可動壁部を並進運動させる、
請求項4に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項6】
前記押圧部は、前記食品との接触面に凹凸部を有し、
前記第1駆動部は、押圧動作の支軸を中心に前記押圧部を回転動作させる、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項7】
前記可動壁部の前記薄板状に突出する部分は、ゴムシートからなる、
請求項3に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項8】
前記可動壁部で囲まれる領域を縮小させるとき、前記可動壁部にかかる負荷を測定する可動壁部負荷測定部を備えている、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項9】
前記押圧部を前記載置部に向けて押圧動作させるとき、前記押圧部にかかる負荷を測定する押圧部負荷測定部を備えている、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項10】
前記押圧部を前記載置部に向けて押圧動作させるとき、前記載置部にかかる負荷を測定する載置部負荷測定部を備えている、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項11】
前記押圧部を回転動作させるとき、前記押圧部にかかる負荷を測定する押圧部回転負荷測定部を備えている、
請求項6に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項12】
前記載置部は、透明な板状部であり、
前記載置部の下方から前記食品を撮像する撮像部を備えている、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項13】
前記可動壁部で囲まれる領域の温度を調節する温度調整部を有している、
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項14】
前記可動壁部で囲まれる領域に水分を供給する水分供給部を有している、
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータ。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の咀嚼シミュレータを用いた咀嚼動作の再現方法であって、
前記可動壁部で囲まれる領域を拡大し、前記食品が載置された前記載置部に向けて前記押圧部を動作させ、前記食品を押圧する工程と、
前記押圧部を前記載置部から引き離すように動作させ、前記可動壁部で囲まれる領域を縮小し、拡散した前記食品をまとめる工程と、
を繰り返すことを特徴とする咀嚼動作の再現方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の咀嚼動作を再現する咀嚼シミュレータ及び咀嚼動作の再現方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の食感を評価する装置として、押圧機構と圧力センサとからなる装置が知られている。この装置では、押圧機構によって食品を押し潰す工程を有し、人の咀嚼を再現している。実際には、口内において食品を咬断する動作、まとめる動作が繰り返し行われ食塊が形成されるため、食塊の形成に特化した装置も試作されている。
【0003】
例えば、特許文献1の食塊形成装置は、食品を押圧する一対の人工歯と、食品の破断片の離散を抑える周壁部と、周壁部で形成される閉鎖空間の大きさを制御するローラ対と、人工歯及びローラ対を駆動する駆動部とで構成されている。人工歯は対向配置され、駆動部により近接離反の動作を行うことで食品を押し潰すことができる。
【0004】
本装置において、周壁部は可撓性の素材で作られている。そのため、駆動部がローラ対を動作させて周壁部による閉鎖空間を絞ると、食品の破断片をまとめて食塊とし、作られた食塊が人工歯で押圧される。本装置は、上記工程を繰り返すことで食塊を形成し、人の咀嚼動作を再現する(特許文献1/段落0031~0033、
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の装置では、食品の種類によっては食塊をまとめる際に食品の一部が周壁部の隙間から漏れ出ることがあるため、咀嚼動作を正確に再現することが難しい場合もあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、食品の種類によらずに人の咀嚼動作を正確に再現することができる咀嚼シミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の咀嚼シミュレータは、食品が載置される載置部と、前記載置部に対向して配置され、前記食品を押圧する押圧部と、前記押圧部の押圧動作と引き離し動作を行う第1駆動部と、前記載置部を囲むように設けられた複数の可動壁部と、前記複数の可動壁部を動作させて、前記可動壁部で囲まれる領域の広さを変化させる第2駆動部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、食品を載置部に載置した状態で、第1駆動部で押圧部を動作させて食品を押圧する。また、第1駆動部は、押圧部を食品から引き離す動作を行う。複数の可動壁部は載置部を囲むように設けられており、第2駆動部は、当該可動壁部を動作させて可動壁部で囲まれる領域の広さを変化させる。押圧部によって押し潰された食品は、可動壁部によって確実に載置部の中央に収集される。これにより、本咀嚼シミュレータは、人が食品を口内に入れて食塊を形成する咀嚼動作を正確に再現することができる。
【0010】
また、第2発明は、咀嚼シミュレータを用いた咀嚼動作の再現方法であって、前記可動壁部で囲まれる領域を拡大し、前記食品が載置された前記載置部に向けて前記押圧部を動作させ、前記食品を押圧する工程と、前記押圧部を前記載置部から引き離すように動作させ、前記可動壁部で囲まれる領域を縮小し、拡散した前記食品をまとめる工程と、を繰り返すことを特徴とする。
【0011】
本発明の咀嚼動作の再現方法では、可動壁部で囲まれる領域を拡大させ、押圧部により載置部に載置された食品を押圧するため、当該食品が押し潰される。また、押圧部を載置部から引き離して、可動壁部で囲まれる領域を縮小することで拡散した食品をまとめる。本方法は、これらの工程を繰り返し行うので、人の咀嚼動作を正確に再現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食品の種類によらず効率良く食塊を形成し、人の咀嚼動作を正確に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の咀嚼シミュレータの装置全体図である。
【
図6A】包囲領域を上面側から見た図である(可動壁部の動作前の状態)。
【
図6B】包囲領域を上面側から見た図である(可動壁部の動作後の状態)。
【
図7】咀嚼シミュレータのシステム構成に関する概略図である。
【
図8】(a)包囲領域を上面側から見た画像である(初期状態)。(b)包囲領域を底面側から見た画像である(初期状態)。
【
図9】(a)包囲領域を上面側から見た画像である(咬断動作、臼磨動作)。(b)包囲領域を底面側から見た画像である(咬断動作、臼磨動作)。
【
図10】(a)包囲領域を上面側から見た画像である(中間状態)。(b)包囲領域を底面側から見た画像である(中間状態)。
【
図11】(a)包囲領域を上面側から見た画像である(包囲圧縮動作)。(b)包囲領域を底面側から見た画像である(包囲圧縮動作)。
【
図12】(a)包囲領域を上面側から見た画像である(食塊形成状態)。(b)包囲領域を底面側から見た画像である(食塊形成状態)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照しながら、本発明の咀嚼シミュレータの実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る咀嚼シミュレータ1の装置全体図である。咀嚼シミュレータ1は、主にロボットアーム3、ロボットアーム3に取り付けられた上歯部6、上歯部6が食品を押圧する領域を有する包囲圧縮機構10で構成されている。
【0016】
ロボットアーム3(本発明の「第1駆動部」)は、複数の可動軸を有しているため、上歯部6の位置及び高さを調整可能となっている。本実施形態のロボットアーム3は、アーム先端に軸棒5が挿入され、軸棒5の他端に上歯部6(本発明の「押圧部」)が取り付けられている。ロボットアーム3は、軸棒5が垂直方向を向く姿勢を保持する。
【0017】
ロボットアーム3は、上歯部6を垂直方向に移動可能(移動距離:50[mm]、速度:1000[mm/s])であると共に、軸棒5を介して上歯部6を時計回り及び反時計回りに回転させることができる。ロボットアーム3は、少なくとも軸棒5及び上歯部6の垂直方向の移動(上下動)と回転が可能な機構を有する装置で代用することができる。
【0018】
図2は、咀嚼シミュレータ1の包囲圧縮機構10を示している。
【0019】
包囲圧縮機構10は、中央に食品が収容される包囲領域Rが設けられている。包囲領域Rの上面側には、包囲領域Rを囲むように6個の歯車11A~11Fが設けられている。歯車11A~11Fは、後述する可動壁部16A~16Cを動作させる機構を構成する。図中の軸部13Cは、可動壁部16Bの動作の軸部である。
【0020】
歯車11A,11C,11Eは、歯車11B,11D,11Fと比較して直径の大きい歯車である。なお、
図2では、歯車11A~11Fが載置される板材の図示を省略している。
【0021】
図示するように、歯車11Aは歯車11B及び歯車11Fと噛み合って回転し、歯車11Bは歯車11A及び歯車11Cと噛み合って回転し、歯車11Cは歯車11B及び歯車11Dと噛み合って回転する。
【0022】
また、歯車11Dは歯車11C及び歯車11Eと噛み合って回転し、歯車11Eは歯車11D及び歯車11Fと噛み合って回転し、歯車11Fは歯車11E及び歯車11Aと噛み合って回転する。歯車11A~11Fは、それぞれ回転軸12A~12Fを有しているが、回転軸12Aがサーボモータ9(本発明の「第2駆動部」)と接続されている(
図1参照)。このため、回転軸12Aを介して歯車11Aが回転すると、残りの歯車11B~11Fも回転する。
【0023】
回転軸12A~12Fの一端部は底板18の軸穴に挿入され、回転可能に支持されている。また、底板18は、トレイ20(本発明の「載置部」)を嵌め込む開口が設けられている。トレイ20は当該開口よりも一回り小さいため、当該開口に対して嵌め込むことができる。
【0024】
また、トレイ20上には、略三角形状の下歯部22が設けられている。下歯部22は直径が20[mm]、表面に2[mm]の凹凸を有している。下歯部22上に食品を載置し、上述の上歯部6で押圧することで、人が歯によって食品を噛む咬断動作を再現することができる。
【0025】
トレイ20は、その下方に配設されたカメラ30で包囲領域Rの様子を撮像するため、透明なアクリル板等を用いることが好ましい。さらに、上方から包囲領域Rを撮像するカメラ31を配設してもよい。トレイ20には、食品が押圧されたときにかかる負荷を測定する力覚センサ40(本発明の「載置部負荷測定部」、
図7参照)が取り付けられていることが好ましい。
【0026】
次に、
図3は、上歯部6と包囲圧縮機構10の位置関係を示している。
【0027】
上歯部6は軸棒5の先端部にねじ止めされて、トレイ20の下歯部22と正対する姿勢で取り付けられている。上歯部6の直径は33[mm]であり、包囲領域Rの直径(40[mm])よりも小さい。また、包囲領域Rの周囲には、可動壁部16A~16Cが設けられている。詳細は後述するが、可動壁部16A~16Cは歯車11B,11D,11Fと接続されており、サーボモータ9を駆動させることで、それぞれが動作する。
【0028】
上歯部6は、押圧動作のとき上歯部6にかかる負荷を測定する力覚センサ41(本発明の「押圧部負荷測定部」、
図7参照)、後述する臼磨動作及び撹拌動作において上歯部6を回転動作させたとき、上歯部6にかかる負荷を測定する力覚センサ42(本発明の「押圧部回転負荷測定部」、
図7参照)を備えていてもよい。
【0029】
次に、
図4A、
図4Bを参照して、上歯部6の詳細な形状及び構造を説明する。
【0030】
図4Aは、上歯部6の食品との接触面の平面図を示している。上歯部6は、その中央の凹凸部7と、凹凸部7から上歯部6の外周部に向けて延出する2枚の羽根部8とを有している。
【0031】
凹凸部7は、人の歯のような凹凸を有する形状となっている。凹凸部7は、上歯部6を押圧動作させたときは食品の咬断作用を促進し、上歯部6を回転動作させたときは食品の臼磨作用を促進する。
【0032】
羽根部8は、上歯部6を回転動作させたとき食品の撹拌作用を促進する。なお、上歯部6の直径が33.0[mm]であるのに対し、凹凸部7の直径は20.0[mm]である。
【0033】
図4Bは、上歯部6の当該接触面の側面図を示している。凹凸部7は高さが約10.0[mm]の円柱形状であり、当該接触面の凹凸の高さは2.0[mm]である。また、羽根部8の高さ方向の長さは、12.0[mm]である。
【0034】
次に、
図5A、
図5Bを参照して、可動壁部16A~16Cの構造と動作について説明する。
【0035】
図5Aは、可動壁部16Aの斜視図を示している。可動壁部16Aは、円弧状に屈曲した板部16pと、板部16pの凸側に突出した一対の接続部16q,16rとで構成されている。板部16pは、一端部の内周側が薄板状に円周方向に突出し、隣接する可動壁部の内側に入り込む形状となっている。なお、板部16pが十分に薄い板形状である場合、一端部が円周方向に突出している必要はなく、包囲領域Rを縮小する動作において、可動壁部同士が干渉しなければよい。
【0036】
また、板部16pの当該一端部にはゴムシート17Aが取り付けられている。ゴムシート17Aは、可動壁部16A~16Cが動作して包囲された領域を縮小させるとき、食品が当該領域の外側に漏れ出ないようにする役割がある。
【0037】
なお、本実施形態の可動壁部16A~16Cは、その一端部が隣接する可動壁部の凹部側の円弧に近接し、包囲領域Rがほぼ閉鎖された状態を保持したまま包囲領域Rを縮小させることができる。可動壁部16A~16Cは、動作時のひずみが小さく、閉鎖状態を精度良く保持できる場合は、ゴムシート17A~17Cを取り付けない構成としてもよい。
【0038】
図示するように、板部16pは半径20.0[mm]、中心角120°の円弧状をなし、高さは50.0[mm]である。接続部16q,16rは端部に軸穴が形成されており、後述するリンクを介して、それぞれの軸部に接続される。可動壁部16Aは、サーボモータ9の駆動により動作する(
図2参照)。
【0039】
可動壁部16Aの動作が滑らかになるように、底面側にフェルトを貼り付けておくことが好ましい。また、可動壁部16A~16Cが押圧動作するときにかかる負荷をサーボモータ9にトルク計測器を取り付けて計測してもよく、サーボモータ9を制御する電流を計測してもよい。また、ロードセル43(本発明の「可動壁部負荷測定部」、
図7参照)によって測定してもよい。その場合、ロードセル43を、直線ギアを介して歯車11A~11Fのいずれか1つに接続することが好ましい。
【0040】
図5Bは、可動壁部16Aの動作の様子を示している。実線で示した可動壁部16Aは初期位置(回転軸12Bの回転角θ=0°)の状態であり、破線で示した可動壁部16Aは移動後(回転軸12Bの回転角θ=120°)の状態である。図示するように、接続部16qはリンク19Aを介して軸部13Aと接続し、接続部16rはリンク19Bを介して回転軸12Bと接続している。
【0041】
サーボモータ9の駆動により回転軸12Bが回転すると、リンク19A,19Bは互いに平行の関係を保持しながら回転する。そのため、可動壁部16Aは、円に沿った並進運動を行う。図示していないが、可動壁部16B,16Cも可動壁部16Aと同じ構造及びサイズであるため、可動壁部16Aと同様の並進運動をする。
【0042】
これにより、可動壁部16A~16Cは、それぞれの一端部を隣接する可動壁部の凹部側に近接した状態を保ちながら、包囲領域Rの閉鎖状態を保持したまま、包囲領域Rを縮小させることができる。
【0043】
上述の可動壁部16A~16Cと平行リンクを用いた機構は、包囲圧縮機構10の一例に過ぎない。例えば、カメラレンズのアイリス機構で用いられている1枚の平行カムにn個のレール状隙間が切られた機構を採用してもよい。上歯部6の回転動作を行う際、包囲領域Rが円形に近いほど、上歯部6が触れない領域を狭めることができ、測定毎のばらつきを小さくすることができる。
【0044】
次に、
図6A、
図6Bを参照して、可動壁部16A~16Cの動作について説明する。
【0045】
図6Aは、包囲領域Rを上面側から見た図である。図示するように、包囲領域Rを囲むように可動壁部16A~16Cが設けられている。
図6Aは、可動壁部16A~16Cで囲まれる包囲領域Rが最も拡大した状態である。なお、包囲領域Rの中央にはトレイ20の下歯部22が位置している。
【0046】
可動壁部16A~16Cは、それぞれ一端部にゴムシート17A~17Cが取り付けられている。例えば、可動壁部16Aのゴムシート17Aは、可動壁部16Cの他端部の方向に突出している。
【0047】
図6Bは、サーボモータ9を駆動して、可動壁部16A~16Cを動作させた状態(回転軸12B,12D,12Fの回転角θ=70°)を示している。図示するように、可動壁部16A~16Cが円弧状の並進運動により、その一端部が中央に移動することで可動壁部同士が一部重なりながら、包囲領域Rが縮小する。このとき、包囲領域Rは下歯部22の大きさまで縮小するため、包囲領域R内に拡散した食品が中央に集められる。
【0048】
ここで、ゴムシート17A,17B,17Cは、それぞれ隣接する可動壁部16C,16A,16Bと接触しながら滑るように移動するため、食品が包囲領域Rの外側に漏れ出ない。
【0049】
図7は、咀嚼シミュレータ1のシステム構成に関する概略図を示している。
【0050】
咀嚼シミュレータ1は、ロボットアーム3及びサーボモータ9に制御信号を送信するコントローラ2を有している。上述したように、ロボットアーム3は軸棒5を介して上歯部6と接続しており、上歯部6の押圧動作(引き離し動作)と回転動作を行う。また、サーボモータ9は回転軸12Aを介して歯車11Aと接続しており、歯車11Aを回転させる。
【0051】
歯車11Aの回転に伴い歯車11B~11Fが回転すると(
図2参照)、歯車11A~11Fと連動して動く回転軸12B,12D,12Fを介して可動壁部16A~16Cが並進運動を行う。詳細は後述するが、コントローラ2は、上歯部6の動作終了後に可動壁部16A~16Cが並進運動するように、ロボットアーム3とサーボモータ9とを交互に動作させる。
【0052】
また、咀嚼シミュレータ1は、包囲領域Rの内部空間の温度を調整するヒータ等の温度調整部50と、包囲領域Rの内部空間に唾液に相当する水分を供給する水分供給部51を有している。温度調整部50及び水分供給部51は、コントローラ2の制御信号により適当なタイミングで処理を実行する。温度調整部50及び水分供給部51の各処理が適宜実行されることで、包囲領域Rの内部空間は実際の口内に近い状態となり、咀嚼の再現性を高めることができる。
【0053】
カメラ30,31は、特にコントローラ2の制御信号によらず、包囲領域Rの内部空間を撮像する撮像装置である。カメラ30,31は動画を撮像できることが好ましいが、少なくとも静止画の撮像ができればよい。また、赤外線等の電磁波で当該内部空間の食品の形状を検出する装置を用いてもよく、マルチスペクトルカメラ等、成分分析が可能な撮像手段を用いてもよい。
【0054】
カメラ30,31はいずれもモニタ35に接続されており、実験者がリアルタイムで食品の状態、変化の様子を観察することができる。また、カメラ30,31はコントローラ2と接続して、制御信号によりロボットアーム3及びサーボモータ9の動作と同期した撮影を行うこともできる。
【0055】
力覚センサ40~42、ロードセル43についても、特にコントローラ2の制御信号によらず、各圧力を測定可能である。圧力の結果は、食品の食感評価に利用することができる。また、力覚センサ40~42及びロードセル43はコントローラ2と接続して、制御信号によりロボットアーム3及びサーボモータ9の動作と同期した測定を行うこともできる。
【0056】
最後に、
図8~
図12を参照して、咀嚼シミュレータ1を用いて、人の咀嚼動作を再現したときの方法及び実験結果を説明する。今回、試験食品(以下、食品Fという)として、市販のドーナツ(約8g)を使用した。
【0057】
図8は、包囲領域R内に食品Fをセットした初期状態を示している。
図8(a)は包囲領域Rを上面側から見た様子であり、カメラ31を包囲領域Rの上方に配設して撮像した画像である。また、
図8(b)は包囲領域Rを下面側から見た様子であり、カメラ30により撮像した画像である(
図2参照)。なお、この状態では、上歯部6及び可動壁部16A~16Cは、共に初期位置に待機している。
【0058】
次に、
図9は、上歯部6により食品Fを押し潰す咬断動作(押圧動作)の様子を示している。
図9(a)は包囲領域Rを上面側から見た画像であり、
図9(b)は包囲領域Rを下面側から見た画像である。
【0059】
ここでは、ロボットアーム3を駆動させることで、上歯部6が垂直方向の直線運動(速度:1000[mm/s])を行い、食品Fを押圧する。さらに、上歯部6(凹凸部7)と下歯部22が接触するまで上歯部6を下降させた状態で、上歯部6を時計回り、反時計回りの順で、それぞれ60[deg]回転させる(速度:180[deg/s])。これは、上歯部6により食品Fを臼磨する臼磨動作である。
【0060】
次に、
図10は、上歯部6の引き離し動作を行い、上歯部6が食品Fから完全に離れた中間状態を示している。
図10(a)は包囲領域Rを上面側から見た画像であり、
図10(b)は包囲領域Rを下面側から見た画像である。このように、上歯部6による咬断動作と臼磨動作の後には、食品Fは粉々の状態になってトレイ20の下歯部22上に載置される。
【0061】
その後、ロボットアーム3を再駆動させ、上歯部6で食品Fを押圧する(咬断動作)。さらに、上歯部6と下歯部22が接触した状態で、上歯部6を360[deg]回転させる(速度:180[deg/s])。これは、上歯部6の羽根部8により食品Fを撹拌する撹拌動作である。
【0062】
次に、
図11は、可動壁部16A~16Cにより食品Fを圧縮する包囲圧縮動作の様子を示している。
図11(a)は包囲領域Rを上面側から見た画像であり、
図11(b)は包囲領域Rを下面側から見た画像である。ここでは、回転軸12B,12D,12Fをθ=70[deg]まで動作させる(速度:140[deg/s])。これにより、粉々になった食品Fが、ほとんど包囲領域Rの外部に漏れ出ることなくトレイ20の下歯部22の上面部に集められ、食塊が形成される。
【0063】
最後に、
図12は、可動壁部16A~16Cが初期位置に復帰した食塊形成状態を示している。
図12(a)は包囲領域Rを上面側から見た画像であり、
図12(b)は包囲領域Rを下面側から見た画像である。図示するように、食品Fの食塊がトレイ20上に載置されている。
【0064】
以上のように、咀嚼シミュレータ1では、食品Fに対して(1)咬断動作、(2)臼磨動作、(3)包囲圧縮動作、(4)咬断動作、(5)撹拌動作、(6)包囲圧縮動作からなるサイクルが繰り返し行われる。
【0065】
今回の実験では、上記サイクルを5回繰り返し行った。第1サイクル後でもある程度、食塊が形成されたが、第5サイクル後は食塊の形成がかなり進行し、食品Fの破断片が小さくなった。なお、食品Fは油分を含んだ滑らかなペースト状に変化したが、上記1サイクルの各ステップに支障はなかった。
【0066】
これは、1サイクル中の(3)包囲圧縮動作によって断片群を1つの食塊とし中央へ移動させる工程が(1),(4)咬断動作、(2)臼磨動作、(5)撹拌動作を毎回有効に行うための準備動作となっているためである。(3)包囲圧縮動作により食品Fを食塊としてまとめる操作は、食塊形成過程の高精度の再現における重要な要素といえる。
【0067】
以上、本発明を実施するための実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態、変更形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
【0068】
例えば、上歯部6及び下歯部22は、人の歯を模した凹凸形状が円弧状に配列されている等、様々な態様が考えられる。また、プリン等の柔らかい固形状食品をサンプルとする場合、上歯部6の凹凸部7、下歯部22がなくても食塊の形成は可能である。
【0069】
本実施形態では、1つのサーボモータ9により可動壁部16A~16Cを駆動させたが、駆動部は1つに限定されるものではない。n個の可動壁部をn個の駆動部(モータ、ソレノイドコイル等)でそれぞれ駆動させれば、複数の歯車を用いた特別な機構を製作する必要はない。
【符号の説明】
【0070】
1…咀嚼シミュレータ、2…コントローラ、3…ロボットアーム、5…軸棒、6…上歯部、7…凹凸部、8…羽根部、9…サーボモータ、10…包囲圧縮機構、11A~11F…歯車、12A~12F…回転軸、13A,13C,13E…軸部、16A~16C…可動壁部、17A~17C…ゴムシート、18…底板、19A,19B…リンク、20…トレイ、22…下歯部、30,31…カメラ、35…モニタ、40~42…力覚センサ、43…ロードセル、50…温度調整部、51…水分供給部。