(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089623
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20230621BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
B60W30/10
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204226
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 整
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA11
3D241BB03
3D241BB04
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3D241BB16
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3D241CC08
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3D241CE04
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3D241DA13Z
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3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DC21Z
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3D241DC33Z
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181CC03
5H181CC04
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5H181FF27
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
5H181LL11
(57)【要約】
【課題】路肩に停車した状態から、センサの検出能力に過度に依存せず交通流への影響を最小限に留めて車両を発進させる。
【解決手段】路肩に停止した状態から自車両1を発進させる発進モードは、
(i)後方の検出範囲に他車両3が検出された場合は、自車両1の発進によって他車両3に必要になると推定される減速度dが所定閾値以上であれば他車両3の通過を待ち、他車両3に必要になると推定される減速度dが所定閾値未満であれば自車両1を発進させる。
(ii)後方の検出範囲に他車両が検出されない場合は、目標経路を自車線中央よりも路肩に近い第1の横位置P1に設定して発進させ第1の横位置P1に沿って走行しながら加速する。その後、所定速度まで加速した状態で目標経路を自車線中央寄りの第2の横位置P2(または自車線中央)に設定して第2の横位置P2を維持する走行に移行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外界センサの検知情報に基づいて走路環境を認識して目標経路を生成し、前記目標経路に追従させるように速度制御および操舵制御を行う車両の走行制御装置において、
路肩に停止した状態から自車両を発進させる発進モードであって、
(i)後方の検出範囲に他車両が検出された場合は、自車両の発進によって前記他車両に必要になると推定される減速度が所定閾値以上であれば前記他車両の通過を待ち、前記他車両に必要になると推定される減速度が前記所定閾値未満であれば自車両を発進させ、
(ii)後方の検出範囲に他車両が検出されない場合は、前記目標経路を自車線中央よりも路肩に近い第1の横位置に設定して発進させ前記第1の横位置に沿って走行しながら加速する第1ステップ、その後、所定速度まで加速した状態で前記目標経路を自車線中央寄りの第2の横位置に設定し前記第2の横位置を維持する走行に移行する第2ステップを実行する、発進モードを有する、車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記第1ステップでの走行中に後方から接近する第2の他車両が検出された場合、自車両の走行状態と前記第2の他車両の速度から前記第2の他車両に必要になると推定される減速度が所定閾値未満であれば自車両の加速を継続し、前記第2の他車両に必要になると推定される減速度が所定閾値以上であれば、前記目標経路を路肩寄りに変更して減速停車させ、前記第2の他車両の通過を待ように構成されている、請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記発進モードは、前記第1ステップでの走行中に後方から接近する他車両が検出されない状態で、後方の検出範囲外から接近する仮想接近車両を仮定し、前記走路環境に基づいて決定される前記仮想接近車両の速度と減速度、および自車両の速度と加速度から求まる前記仮想接近車両と自車両の最接近車間距離が所定値以上となった場合、前記所定速度未満であっても前記第2ステップを実行する、請求項1または2記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記走路環境に基づいて決定される前記仮想接近車両の速度は、前記走路環境における制限速度と、前記走路環境に依存した変動要素とから決定され、前記変動要素は、道路形状、道路種別、車線数、および、道路幅からなる群から選ばれた少なくとも1つである、請求項4記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記第2の横位置は車線中央である、請求項1~4の何れか一項記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御装置に関し、さらに詳しくは、路肩に停車した状態から車両を発進させる制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者の負担軽減、安全運転支援を目的とした種々の走行制御システムの実用化が進められている。例えば、特許文献1には、車両の周囲状況を予測し、予測結果に基づいて走行を支援する走行支援方法として、車両の後方に位置する後方車両を検出し、後方車両が置かれた環境に基づいて後方車両の動作を予測し、車両を発進させるかまたは後方車両の通過を待って発進させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、センサの検出範囲は有限であり、道路状況も多様であるため、車両を発進させた後に、センサの検出範囲外から高速度で接近する後方車両が出現した場合、後方車両の急制動を惹起するなどの問題を生じる虞があった。
【0005】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、路肩に停車した状態から、センサの検出能力に過度に依存せず交通流への影響を最小限に留めて車両を発進させる制御を実行可能な走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、
外界センサの検知情報に基づいて走路環境を認識して目標経路を生成し、前記目標経路に追従させるように速度制御および操舵制御を行う車両の走行制御装置において、
路肩に停止した状態から自車両を発進させる発進モードであって、
(i)後方の検出範囲に他車両が検出された場合は、自車両の発進によって前記他車両に必要になると推定される減速度が所定閾値以上であれば前記他車両の通過を待ち、前記他車両に必要になると推定される減速度が前記所定閾値未満であれば自車両を発進させ、
(ii)後方の検出範囲に他車両が検出されない場合は、前記目標経路を自車線中央よりも路肩に近い第1の横位置に設定して発進させ前記第1の横位置に沿って走行しながら加速する第1ステップ、その後、所定速度まで加速した状態で前記目標経路を自車線中央寄りの第2の横位置に設定し前記第2の横位置を維持する走行に移行する第2ステップを実行する、発進モードを有する、車両の走行制御装置にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両の走行制御装置は、上記のような発進モードを有することにより、後方の検出範囲に他車両が検出されている場合でも他車両に急制動を惹起することなく発進する機会を最大限に確保でき、かつ、後方の検出範囲に他車両が検出されない場合は、発進直後に路肩に近い第1の横位置に沿って走行しながら加速するので、発進後にセンサの検出範囲に高速度で接近する後方車両が出現しても、車線中央側に走行スペースが確保されていることに加えて、路肩に近い第1の横位置から減速して直ちに路肩に停車できることから、後方車両の急制動を回避でき、センサの検出能力に過度に依存せず交通流への影響を最小限に留めて車両を発進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両の走行制御装置を示すブロック図である。
【
図2】路肩に停車した状態からの発進モードを示す概略図である。
【
図3】発進後における仮想接近車両の速度推定を示す概略図である。
【
図5】(a)自車両の速度と仮想接近車両の推定速度を示すグラフ、(b)自車両と仮想接近車両との間の推定車間距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両1の走行制御装置は、外界センサ21、内界センサ22、測位システム23などからなる入力装置群、それらを通じて得られる走路環境情報11および車両情報12に基づいて車両1の目標経路を決定し、横方向制御14および縦方向制御15を実行する車両動作決定部13を含む制御システム10を備える。
【0010】
外界センサ21は、車両前方および後方の物体(位置、相対速度)を検知する前方および後方のレーダー(ミリ波レーダー)、車両前方および後方の走路環境を撮像する単眼カメラやステレオカメラなどのイメージセンサ、車両周囲の走路環境を3D点群データとして取得するLIDAR(レーザースキャナ)などから選択されるセンサ群で構成される。
【0011】
例えば、
図2に示されるように、外界センサ21は、前方センサ211(レーダー、イメージセンサまたはレーザースキャナ)、後方センサ212(レーダー、イメージセンサ)、
図2では右側のみ示されている前側方センサ213および後側方センサ214(レーダー、イメージセンサまたはレーザースキャナ)を含み、車両1の周囲が検出範囲に含まれるように配置されている。
【0012】
内界センサ22は、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、操舵角センサ、アクセルセンサ、ブレーキセンサなど、車両1の運動状態を決定する複数のセンサ群で構成され、それらの検出値は車両内通信(車載ネットワーク)を介して制御システム10に取得され、車両1の現在の運動状態を示す状態値としての車両情報12を構成する。
【0013】
測位システム23は、車両1の位置情報を取得するための衛星測位システム(GNSSセンサ)として実装され、地図データと交通情報を併用し走行計画に基づいて経路案内を行う走行計画システム(ナビゲーションシステム)を構成する。位置情報と関連した車線規制や制限速度などの交通情報は、放送型情報配信、V2I型路車間通信、セルラー通信網を利用した移動体通信などを通じて取得され、さらに、外界センサ21の検知情報から信号や交通標識の情報が取得される。
【0014】
走行計画システムは、HMI装置や無線通信端末などを利用して入力した目的地や経由地情報に基づき、それらと関連した交通情報を参照して事前に決定した走行計画に基づいて経路案内を行い、交通規則に従った自律運転を行うための速度制御、車線維持および車間維持制御、車線変更、分合流、右左折など、シーンに応じて走行モードを指定する。
【0015】
制御システム10は、外界センサ21に取得された画像データまたは3D点群データより道路構造(道路区分線、ガードレール、中央分離帯など)を認識する道路構造認識と、レーダーによる自車線前方の先行車両や障害物の検知により、所定フレームレートで更新される走路環境情報11を構成する走路環境推定部を備える。
【0016】
制御システム10は、走路環境情報11および車両情報12に基づいて目標経路を生成する車両動作決定部13を備え、目標経路に車両1を追従させるための目標舵角を与える操舵角指令を操舵ユニット33に出力する横方向制御部14、および、目標速度を達成するための速度指令(加減速指令)を駆動ユニット34および制動ユニット35に出力する縦方向制御部15を制御ユニットとして備える。
【0017】
車両動作決定部13は、走路環境情報11および車両情報12に基づいて速度制御および車間維持制御、車線維持走行、車線変更、分合流、右左折などの走行モードを有し、走行シーンごとに最適化された車両運動制御とそれらに付随したウインカ点滅などを実行できるように構成されている。
【0018】
例えば、走路環境情報11を構成する走路環境推定部は、外界センサ21を構成する前方センサ211に取得される画像データまたは3D点群データに基づいて、車両1の車線(走行レーン)を認識するとともに、走行レーンの両側の道路区分線(または代替構造)から車線(走行レーン)の中央(中心線)を推定する機能を有し、車両動作決定部13は、車線中央に目標経路を設定して操舵制御を行うことで車線中央維持走行を実行する。
【0019】
また、走路環境情報11を構成する走路環境推定部は、隣接車線の道路区分線(または代替構造)を認識し、隣接車線の中央を推定する機能を有し、車両動作決定部13は、走路環境情報11において隣接車線の所定範囲に他車両が存在しないことが確認されている状態で、隣接車線の前方中央に目標経路を設定して操舵制御を行うことで車線変更を実行する。
【0020】
さらに、制御システム10は、外界センサ21を構成する後方センサ212(後方レーダー)により自車線後方から接近する後続車両の検知を実行し、後方接近車両情報16に基づいて、車両1を路肩から発進させる発進モードを実行するための発進制御部17を備える。発進モードについては後述する。
【0021】
以上述べたような制御システム10を構成する各制御ユニットは、それぞれの機能を実行するように動作可能なプログラムを格納するROM(フラッシュメモリ)、演算処理を行うCPU、前記プログラムが読み込まれ前記CPUの作業領域および演算結果の一時記憶領域となるRAM、および入出力インターフェースを備えたコンピュータ(ECU)として実装される。
【0022】
なお、操舵ユニット33は操舵輪を含む操舵機構と操舵アクチュエータ(電動パワーステアリングシステムを構成するEPSモータ)で構成される。駆動ユニット34は、内燃エンジン車両の場合は内燃エンジンとエンジンコントローラ、電動車両の場合は、モータジェネレータとモータコントローラ、ハイブリット車両では、それらとハイブリッドコントローラで構成される。制動ユニット35は各車輪を制動するためのブレーキ装置とブレーキアクチュエータ、ブレーキコントローラ(ABS/ESCコントローラ)などで構成される。
【0023】
図4は、路肩停車状態からの発進モードにおける処理の流れを示すフローチャートであり、以下、発進モードについて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図2に示すように路肩50に停車した状態から車両1を発進させる場合、車両1の運転者または利用者が発進意思を表示させるトリガ操作(ウインカレバー操作、タッチパネル操作など)を行うか、または、車両内モニタなどの検知情報に基づいて車両1内での発進準備完了と判断した場合、発進モードに移行し、交通流に対して車両1の発進意思を表示すべくウインカ点滅を開始する(ステップ100)。
【0025】
それととともに、測位システム23に取得される車両1の位置情報と関連した車線規制や制限速度などの交通情報が取得され、かつ、外界センサ21を構成する前方センサ211および前側方センサ213に取得される前方走路環境情報に基づいて、車両1の前方走路上の他車両や障害物の検出が実行され、かつ、外界センサ21を構成する後方センサ212(後方レーダー)に取得される後方走路環境情報に基づいて、自車線5の後方から接近する車両の検出が実行される(ステップ101)。
【0026】
(1)後続車両が検出された場合
走路前方に発進に支障となる障害物や特定走行シーンがないことが確認されている状態で、後方から接近する車両3が検出された場合(ステップ102;YES)、後方センサ212(後方レーダー)に検知される後続車両3の速度Vと距離(車間時間)から、車両1が発進後に目標速度まで加速する間に、後続車両3に必要になる減速度dが推定される(ステップ103)。
【0027】
(1-1)車両1の発進により後続車両3に必要になると推定される減速度dが所定値未満でない、すなわち、所定閾値以上になると判定された場合は(ステップ104;NO)、発進せずに後続車両3が通過するまで待機し、外界センサ21の検知情報に基づいて後続車両3の通過を確認してからステップ101に戻り、車両1を再発進させる。
【0028】
(1-2)車両1の発進により後続車両3に必要になると推定される減速度dが所定値未満であると判定された場合(ステップ104;YES)は、車両1を発進させる(ステップ105)。
【0029】
この場合、車両1を発進させて所定加速度で目標速度まで加速するまでの間に、後続車両3に急減速が必要になることがなく、かつ、後続車両3の存在によって、後方センサ212(後方レーダー)の検出範囲の後方から急接近する他の後続車両は存在し得ないので、車両1の発進後は車線中央(第2横位置P2)に目標経路を設定し、車線中央を走行しながら加速する(ステップ106)。
【0030】
その後、目標速度に到達した時点(ステップ107;YES)で発進モードを終了し、通常走行モードに移行する(ステップ108)。なお、目標速度への到達前に先行車両に追い付いた場合は、所定車間時間を維持して先行車両への追従走行に移行する。
【0031】
(2)後続車両が検出されない場合
走路前方に発進に支障となる障害物や特定走行シーンがないことが確認されており、かつ、後方から接近する車両が検出されない場合(ステップ102;NO)は、
図2に示すように、先ず、目標経路を自車線中央よりも路肩50に近い第1横位置P1に設定して発進させ(ステップ109)、第1横位置P1に沿って走行しながら加速する(ステップ110)。
【0032】
第1横位置P1は、走路環境情報11に基づいて、自車線5の路肩50(外側線)を基準に、車両1の中心が車幅の1/2と余裕分からなる所定距離に維持されるように決定されるか、または、前記余裕分が確保されるように自車線中央を基準にした所定横偏位(オフセット量)として決定される。
【0033】
(2-1)車両1の発進直後、あるいは、第1横位置P1に沿って走行中に、後方センサ212(後方レーダー)の検出範囲に高速度で接近する後方車両が出現し、この後方車両の速度と距離(車間時間)から、車両1が目標速度まで加速する間に、後方車両に必要になると推定される減速度が所定値以上と判定された場合(ステップ111;YES)、目標経路を路肩50寄りに設定して減速し、路肩50に停車し(ステップ116)、後方車両を通過させ、外界センサ21の検知情報により後方車両の通過を確認してからステップ101に戻り、車両1を再発進させる。
【0034】
(2-2)一方、車両1の発進後、第1横位置P1に沿って走行中に、後方から急接近する他車両が検出されない状態で、仮想接近車両を想定し、仮想接近車両演算18を実行することで、第1横位置P1から第2横位置P2(または車線中央)を維持する走行への移行時期を動的に決定する。
【0035】
すなわち、走路環境に基づいて仮想接近車両の速度Vvを推定し(ステップ112)、仮想接近車両が推定速度Vvから所定の減速度dvで減速する場合における車両1との最接近距離を求める仮想接近車両演算18を実行し(ステップ113)、最接近車間距離が所定値以上となった時点(ステップ114;YES)で、目標経路を自車線中央寄りの第2横位置P2に設定して第2横位置P2(または車線中央)に走路変更する(ステップ115)。
【0036】
例えば、
図3に示されるように、第1横位置P1を走行する車両1の速度V1、加速度a1に対して、車両1の後方センサ212(後方レーダー)の検出範囲Y+αの位置を走行する仮想接近車両4vの推定速度Vvを、走路環境における制限速度Zと変動要素βから次式により決定する。
推定速度Vv=制限速度Z+変動要素β
【0037】
ここで、走路環境における制限速度Zは、測位システム23に取得される車両1の位置情報に地図データまたは交通情報を参照して取得する。
【0038】
走路環境に依存した変動要素βとしては、例えば、次のようなものが想定される。変動要素β(km/h)は、各要素の最大値としても良いし、要素数分の次元マトリクスとすることもできる。また、走行シーンごとに主導的な要素を選定しても良い。
道路形状:直線β=30;曲線β=20
道路種別:生活道路β=20;幹線道路β=30
車線数:1車線β=20;2車線以上β=30
道路幅:3m未満β=20;3m以上β=30
【0039】
上記のような推定速度Vvで走行する仮想接近車両4vが、危険を伴わない減速度dv(例えば、エンジンブレーキ相当の-0.05Gや弱ブレーキ相当の-0.1G)で減速する場合の車両1との最接近距離Dmを求め、この最接近距離Dmが安全車間距離Ds未満の間は第1横位置P1の走行を継続し、最接近距離Dmが安全車間距離Ds以上となった時点で第2横位置P2に移動する。
【0040】
最接近距離Dmが安全車間距離Ds以上となれば、もはや、後方センサ212(後方レーダー)の検出範囲外から接近する後方車両が出現しても、急減速を要さずに安全車間距離Dsを維持できるので、自車線中央寄りの第2横位置P2に走路変更しても交通流への影響はないと推定できる。
【0041】
例えば、
図5(a)に示すように、自車両1は+0.111Gで速度Vt=40km/hまで加速する場合において、仮想接近車両4vは、後方センサ212の検知距離D0=80mに相当する後方位置を速度Vv=70km/hで走行している状態から、速度Vt=40km/hまでエンジンブレーキ相当の減速度dv=-0.06Gで減速する場合を想定する。
【0042】
車両1の発進を基準にして仮想接近車両4vが減速を開始するタイミングt0が発進と同時、t2~t8は2~8秒後の各場合を示しており、
図5(b)に示すように、車両1が第1横位置P1の走行を開始してから5秒後に第2横位置P2に移動すれば、最接近距離Dmに安全車間距離Ds=22mを確保できることになる。
【0043】
なお、車両1が目標車速、または目標車速に対して所定の割合(例えば目標車速の90%)の速度まで加速した時点で第1横位置P1から第2横位置P2(または車線中央)への移動が実行されるように構成することもできる。
【0044】
以上述べたように本発明に係る発進モードによれば、後方センサ212の検出範囲に後続車両が検出されている場合でも後続車両に急制動を惹起することなく発進する機会を最大限に確保できる。
【0045】
一方、後方センサ212の検出範囲に後続車両が検出されない場合は、発進直後に路肩50に近い第1横位置P1に沿って走行しながら加速するので、発進後に後方センサ212の検出範囲に高速度で接近する後続車両が出現しても、路肩50に近い第1横位置P1から減速して直ちに路肩50に停車でき、車線5の中央側に操舵回避のためのスペースを空けることができるので、後方車両の急制動を回避できる。
【0046】
特に、車両後方に見通しの悪いカーブ(ブラインドコーナー)が存在したり、停車車両が存在したりして、後方センサ212の検出範囲が制限されているような場合や、隣接車線からの車線変更によって後続車両が出現した場合にも対応できる利点がある。
【0047】
また、第1横位置P1を走行中に、後方センサ212の検出範囲外から接近する仮想接近車両4vを仮定し、走路環境に基づいて決定される仮想接近車両4vの推定速度Vvと減速度dv、および自車両1の速度V1と加速度a1から求まる仮想接近車両4vと自車両1の最接近車間距離Dmが安全車間距離Ds以上となった時点で車線中央寄りの第2横位置P2に移動するので、走路環境に応じて適正なタイミングで第2横位置P2に移動でき、第1横位置P1の走行を必要最小限に留めることができる。
【0048】
したがって、本発明に係る走行制御装置によれば、後方センサ212の検出能力に過度に依存せず、交通流への影響を最小限に留めて車両1を発進させることができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 車両
3 後続車両
4v 仮想接近車両
5 車線(走行レーン)
10 制御システム
11 走路環境情報
12 車両情報
13 車両動作決定部
14 横方向制御部
15 縦方向制御部
16 後方接近車両情報
17 発進制御部
18 仮想接近車両演算
21 外界センサ
22 内界センサ
23 測位システム
50 路肩