(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090501
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/72 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
G01S13/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205473
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC11
5J070AH04
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK15
5J070AK22
5J070BB15
5J070BB16
(57)【要約】
【課題】 観測値が多数の場合でも、相関追跡ロストを発生難い。
【解決手段】 実施形態によれば、N(N≧1)サイクル目の観測値に対して、観測値数が所定のスレショルドを超える場合にはクラスタ処理を行ってクラスタで観測値を置き換え、所定のスレショルドを超えない場合には、クラスタ処理を行わない観測値を用いて、追跡処理の航跡毎にP個(P≧1)のパーティクルを発生させ、パーティクル毎に相関ゲートを設定し、相関ゲート内のM個(M≧2)の観測値またはクラスタ観測値と相関処理を行って各パーティクルの尤度を算出して、パーティクルフィルタによる追跡処理を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)パルス信号の反射波を受信系統で受信して、PRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)間隔で送信したパルス毎に、前記PRI間隔内のレンジセル単位の信号を用いて信号処理した観測値を用いて相関追跡処理を行い、目標情報を出力するレーダシステムであって、
前記受信系統で、N(N≧1)サイクル目の観測値に対して、観測値数が所定のスレショルドを超えるか否かを判断し、
前記観測値数が前記スレショルドを超える場合にはクラスタ処理を行って前記観測値をクラスタで置き換えてクラスタ観測値として出力し、
前記観測値数が前記スレショルドを超えない場合には、クラスタ処理を行わない観測値を出力し、
前記相関追跡処理の航跡毎にP個(P≧1)のパーティクルを発生させてパーティクル毎に相関ゲートを設定し、
前記相関ゲート内のM個(M≧2)の観測値またはクラスタ観測値で相関処理を行って各パーティクルの尤度を算出し、パーティクルフィルタによる追跡処理を行う
レーダシステム。
【請求項2】
前記相関追跡処理として、P番目のパーティクルの相関ゲート内のM個の観測値の尤度を算出して加算し、その加算値を前記P番目のパーティクルの尤度とする請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記相関追跡処理として、P番目のパーティクルの相関ゲート内のM個の観測値の重心点を算出し、その重心点に対する尤度を算出して前記P番目のパーティクルの尤度とする請求項1記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記観測値のモノパルス測角処理で誤差電圧を取得し、前記誤差電圧の虚数部が前記所定のスレショルドより大きい場合には、前記観測値に対するパーティクルの尤度に所定の係数を乗算する請求項1乃至3のいずれか記載のレーダシステム。
【請求項5】
送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)パルス信号の反射波を受信系統で受信して、PRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)間隔で送信したパルス毎に、前記PRI間隔内のレンジセル単位の信号を用いて信号処理した観測値用いて相関追跡処理を行い、目標情報を出力するレーダシステムに適用され、
前記受信系統で、N(N≧1)サイクル目の観測値に対して、観測値数が所定のスレショルドを超えるか否かを判断し、
前記観測値数が前記スレショルドを超える場合にはクラスタ処理を行って前記観測値をクラスタで置き換えてクラスタ観測値として出力し、
前記観測値数が前記スレショルドを超えない場合には、クラスタ処理を行わない観測値を出力し、
前記相関追跡処理の航跡毎にP個(P≧1)のパーティクルを発生させてパーティクル毎に相関ゲートを設定し、
前記相関ゲート内のM個(M≧2)の観測値またはクラスタ観測値で相関処理を行って各パーティクルの尤度を算出し、パーティクルフィルタによる追跡処理を行う
レーダシステムのレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーティクルフィルタ(非特許文献1)による相関追跡(非特許文献2)を行う従来のレーダシステムにあっては、観測値の点数が少ないことを前提にしているものが多い。特に、各パーティクルと観測値との相関については、ゲート内の観測値のNN(Nearest Neighbor)処理(非特許文献3)等により、最も近傍の1個の観測値等を用いて相関処理して尤度を算出していることが多い。この場合は、群目標のように複数観測値がある場合には、パーティクルによる分布が正確に求まらず、相関追跡ロストが発生する場合があった。なお、観測値に対して、クラスタ分析を適用する手法(特許文献1)もあるが、この手法は、反射点数不足を補うために、1回の観測を1サイクルとして、複数サイクルの3次元位置を合成した後、クラスタ分析する手法であり、1サイクル内で多数の反射点が発生する場合の処理とは異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】パーティクルフィルタ、片山、‘‘非線形カルマンフィルタ’、朝倉書店、pp.141-152(2011)
【非特許文献2】相関追跡、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.254-259(1996)
【非特許文献3】NN相関処理、Samuel S. Blackman、‘Design and Analysis of Modern Tracking Systems’、Artech House、pp.8-11.(1999)
【非特許文献4】クラスタ分析、Sebastian Raschka、‘Python機械学習プログラミング’、インプレス、pp.297-319(2016)
【非特許文献5】DBSCAN(Density-based Spatial Clustering of Applications with Noise)、Sebastian Raschka、‘Python機械学習プログラミング’、インプレス、pp.319-323(2016)
【非特許文献6】CFAR(Constant False Alarm Rate)処理、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献7】パルス圧縮、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.278-280(1996)
【非特許文献8】モノパルス、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.260-264(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来のパーティクルフィルタによる相関追跡を行うレーダシステムでは、群目標のように観測値が多数の場合には、相関追跡ロストを発生しやすいという問題がある。
【0006】
本実施形態の課題は、群目標のように観測値が多数の場合でも、相関追跡ロストを発生難いレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダシステムは、送信系統から送信される単パルスまたは変調したN(N≧1)パルス信号の反射波を受信系統で受信して、PRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)間隔で送信したパルス毎に、前記PRI間隔内のレンジセル単位の信号を用いて信号処理した観測値を用いて相関追跡処理を行い、目標情報を出力するレーダシステムであって、前記受信系統で、N(N≧1)サイクル目の観測値に対して、観測値数が所定のスレショルドを超えるか否かを判断し、前記観測値数が前記スレショルドを超える場合にはクラスタ処理を行って前記観測値をクラスタで置き換えてクラスタ観測値として出力し、前記観測値数が前記スレショルドを超えない場合には、クラスタ処理を行わない観測値を出力し、前記相関追跡処理の航跡毎にP個(P≧1)のパーティクルを発生させてパーティクル毎に相関ゲートを設定し、前記相関ゲート内のM個(M≧2)の観測値またはクラスタ観測値で相関処理を行って各パーティクルの尤度を算出し、パーティクルフィルタによる追跡処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、3次元位置同定における3次元変換処理のための3次元座標を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態のクラスタ分析処理の例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態のDBSCAN処理の例を示す図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態の相関追跡処理の例を示す図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態のパーティクルフィルタで処理する例を示す図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第3の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第4の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)(クラスタ分析+相関処理)
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。
【0011】
図1(a)に示す送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号に伝送情報を変調多重し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器14で高周波信号をパルス変調して送信パルス列を生成し、送信アンテナ15でN(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0012】
図1(b)に示す受信系統では、送信アンテナ15から送信されたパルス信号の反射波を受信アンテナ21で受信し、その受信信号を周波数変換器22でベースバンドに周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換する。次に、信号処理器24において、パルス圧縮(PC:Pulse Compression)(非特許文献7)、slow-time軸(NヒットのPRI(Pulse Repetition Interval:パルス繰り返し周期)軸)でのFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を施して、CFAR(Constant False Alarm Rate:定誤警報率、非特許文献6参照)25により観測値を検出する。
【0013】
続いて、測距・測速器26で検出した観測値の測距及び測速を行い、測角器27でモノパルス測角(非特許文献8)等により測角し、3次元位置同定器28により、観測値の(X,Y,Z)値を算出する。次に、クラスタ分析器29において、3次元位置同定器28で得られる観測値数がそのスレショルドを超える場合には、(X,Y,Z)軸でクラスタの有無を分析し、クラスタの有無によって目標か誤検出かを弁別する。クラスタがある場合には、クラスタを観測値として置き換えて、相関処理器2Aで相関処理した後、尤度算出器2Bで尤度を算出し、追跡処理器2Cで観測値の追跡を行って、航跡毎の平滑値等の目標情報として出力する。
【0014】
なお、上記レーダシステムにおいて、送信系統と受信系統は、一体であってもよいし、互いに離れた場所に設置されていてもよい。
【0015】
上記構成によるレーダシステムにおいて、
図2を参照してその処理動作を説明する。
【0016】
図2は、第1の実施形態において、受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態では、長時間積分方式を採用し、PRI間隔で送信したパルス毎に、PRI内のレンジセル単位でデータを取得し、取得データを用いて信号処理を実施する。
【0017】
まず、受信アンテナ21で受信され、周波数変換器22でベースバンドに周波数変換され、AD変換器23でディジタル信号に変換された受信信号を取得する(ステップS11)。次に、パルス圧縮(PC)、slow-time軸でのFFT等の信号処理を施して(ステップS22)、CFARにより観測値を検出する(ステップS13)。
【0018】
続いて、検出した観測値について、測距処理(ステップS14)、測速処理(ステップS15)、測角処理(ステップS16)を施し、3次元変換による位置同定処理(ステップS17)により、(X,Y,Z)値を算出する。
【0019】
次に、上記観測値数がそのスレショルドを超えるか否かを判断し(ステップS18)、スレショルドを超える(多い)場合には、(X,Y,Z)軸でクラスタ分析を行い(ステップS19)、観測値数がスレショルドを超えない(少ない)場合には、クラスタ分析を行わない。以後、クラスタの有無により、目標か誤検出かを弁別するため、クラスタを観測値として置き換え、クラスタ以外の観測値と共に出力する(ステップS20)。
【0020】
ここで、PRI内のレンジセル単位でゲート内観測値を抽出し(ステップS21)、相関処理(ステップS22)、尤度算出(ステップS23)、追跡処理(ステップS24)を行った後、パーティクルフィルタ処理を行い(ステップS25)、パーティクル変化を測定して(ステップS26)、その変化がなくなるまでステップS21~S26の処理を繰り返す。パーティクルフィルタ処理が終了した場合には、追跡処理の結果として、航跡毎の平滑値等の目標情報を出力して(ステップS27)、一連の処理を完了する。
【0021】
上記の処理において、
図3乃至
図7を参照して、本実施形態で適用される処理例を具体的に説明する。
【0022】
図3は、ステップS17における目標の3次元変換処理(R:距離、AZ:アジマス角(方位角)、EL:エレベーション角(仰角))のための3次元座標を示す図である。
【0023】
まず、3次元位置同定手法について、定式化する。位相モノパルス測角は、ΣビームとΔビームにより、次式で示す誤差電圧εを算出し、予め取得した誤差電圧テーブルを用いて測角することができる。
【0024】
【数1】
ここでは、位相モノパルス測角について述べたが、差ビームの代わりに、AZ軸(EL軸)にスクイントしたスクイントビームを用いたスクイント測角でもよい。スクイント測角としては、振幅及び位相を用いる手法と振幅のみを用いる手法がある。この測角値と測距値を用いることで、
図3に示すように、3次元の位置を同定することができる。
【0025】
【0026】
上記の観測値数が多い場合には、ステップS19において、クラスタ分析(非特許文献4参照)を行う。
図4に、クラスタ分析処理の例を示す。
図4(a)はクラスタ分析前、
図4(b)はクラスタ分析後を示している。すなわち、観測値には、クラッタ環境下や観測値のSN(Signal to Noise Ratio)が低い場合には熱雑音による誤検出も含まれる。誤検出に比べて、群目標の観測値は固まった反射点として観測されることが多いので、クラスタ分析することで、クラスタか、それ以外で目標と誤検出を分離できる可能性がある。また、近接した複数の群目標の場合には、クラスタ分析することで分離し処理することができる。
【0027】
クラスタ分析手法にも種々の方式があるが、その1例として、DBSCAN(非特許文献5)方式について説明する。
図5は、DBSCAN処理の例を示す図である。DBSCAN方式は、
図5に示すように、半径εと半径ε内の観測値数MinPtsを設定し、密度の差異によりクラスタを分類する手法である。設定した半径ε、観測値数MinPtsを満足するクラスタ毎に、複数のクラスタを生成し、それ以外はノイズとして分類できる。具体的には、設定した半径ε以内に少なくとも設定された観測値数MinPtsの隣接点がある点はコア点とみなされ、半径ε以内の隣接点の個数がMinPtsに満たない場合はボーダー点とみなされる。コア点でもボーダー点でもないような点は、ノイズ点とする。これにより、目標による反射点(コア点とボーダー点)と誤検出(ノイズ点)を弁別することができる。
【0028】
クラスタ分析により、算出したクラスタを新たにM(M≧2)個の観測値として、相関追跡処理を行う。観測値数が少ない場合には、もともとの観測値のまま、相関追跡処理を行う。
図6は、一般的な相関追跡処理を示す図である。相関追跡処理は、
図6に示すように、サイクル毎に前サイクルの予測値を中心に相関ゲートを設定し、相関ゲート内の観測値を抽出する。この抽出手法として、代表的なものにNN(Nearest Neibour)処理(非特許文献3参照)があり、予測値に最も近い観測値を抽出する。このNN値と予測値により、平滑値を算出し、次のサイクルの予測値を算出する。
【0029】
ここで、
図7を用いて、パーティクルフィルタ(非特許文献1参照)の説明を行う。
図7は、パーティクルフィルタで処理する例を示す図である。
図7は、航跡1個に対する説明図であり、複数の航跡の場合には、同様の処理を航跡毎に実施する。
【0030】
まず、
図7(a)に示すように、航跡1個の平滑値(t-1)に対してP(P≧1)個のパーティクル(粒子)を乱数によってランダムな位置に発生させ、
図7(b)に示すように、P個のパーティクルに対して、予測値(t)を算出する(事前分布)。この予測値の各パーティクルに対して、相関ゲートを設定し、例えばNN処理により観測値を抽出して、各パーティクルの尤度を算出する。この尤度に基づいて、
図7(c)に示すように、事前分布×尤度により事後分布を算出することができる。
図7(c)の事後分布の図では、尤度が大きい場合に縦軸を伸ばすように表現している。この事後分布に基づいてリサンプリング処理により、
図7(d)に示すように、分布が大きい部分はパーティクル数が多く、小さい部分はパーティクル数を少なく設定し、次サイクルのための平滑値を生成し、次サイクル以降で上記の処理を繰り返す。このパーティクルフィルタにより、各サイクルの平滑値を出力するには、航跡毎のP個のパーティクルの位置の平均値等を算出する。
【0031】
パーティクルフィルタでは、目標の運動モデルや観測モデルの誤差分布がガウス分布に従わない任意の誤差分布でも有効に機能するメリットがあり、目標が群目標等の複数の場合には、有効である。
【0032】
以上のように、本実施形態では、N(N≧1)サイクル目の観測値に対して、観測値数が所定のスレショルドを超える場合には、クラスタ処理を行ってクラスタで観測値を置き換え、観測値数が所定のスレショルドを超えない場合には、クラスタ処理を行わない観測値を用いて、追跡処理の航跡毎にP個(P≧1)のパーティクルを発生させ、パーティクル毎に相関ゲートを設定し、ゲート内のM個(M≧2)の観測値(またはクラスタ観測値)と相関処理を行って各パーティクルの尤度を算出して、パーティクルフィルタによる追跡処理を行う。すなわち、多数の観測値の場合は、まずはクラスタ分析によって孤立した誤検出を抑圧し、複数の群目標を分離した上で相関処理を行い、相関処理の際には、NN相関のような1点の観測値のみを抽出するのではなく、複数の観測値を用いた処理としているので、群目標を精度よく抽出することができ、これによって精度の高い相関追跡処理が可能となる。
【0033】
(第2の実施形態)全観測値による尤度算出
図8は、第2の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図8において、
図2と同一部分には同一符号を付して示す。
図8に示す受信系統において、第1の実施形態と異なる点はステップS23aの処理にあり、尤度算出の処理をゲート内全観測値の加算値で行うことを特徴とする。すなわち、第1の実施形態では、パーティクル毎の相関処理の際に、NN相関値を用いた例を述べた。この手法は処理コストが小さいが、群目標の場合には、たまたま誤検出を抽出する等により、誤差の大きな尤度を算出し、相関追跡の精度を劣化させ、ロストにつながる可能性がある。そこで、本実施形態では、その対策を図っている。
【0034】
本実施形態では、各パーティクルの相関ゲート内の全観測値に対してパーティクルの尤度を算出し、その加算値をパーティクルの尤度とする。
【0035】
【0036】
この尤度λ(p)を用いて、リサンンプリング等の処理等を行う。加算値には、係数を乗算する場合を含めるとよい。また、平均値等を含むようにしてもよい。
【0037】
以上のように、本実施形態では、上記相関処理として、P番目のパーティクルのゲート内のM個の観測値の尤度を算出し、その加算値をP番目のパーティクルの尤度とする。すなわち、各パーティクルの相関ゲート内の全観測値に対して尤度を算出して加算して、誤検出を含む特定の観測値の影響を軽減しているので、相関追跡が継続しやすくなる効果が得られる。
【0038】
(第3の実施形態)全観測値の重心による尤度算出
図9は、第3の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図9において、
図2及び
図8と同一部分には同一符号を付して示す。
図9に示す受信系統において、第1の実施形態、第2の実施形態と異なる点はステップS23bの処理にあり、本実施形態では、ゲート内で抽出された全観測値の重心を用いて尤度を算出することを特徴とする。
【0039】
全観測値を用いるために、全観測値の重心(重心値)を算出する。以下に定式化する。
【0040】
【数4】
各パ-ティクルに対して、この重心位置を用いて、尤度計算を行い、リサンプリング等の処理を行う。
【0041】
以上のように、本実施形態では、相関処理として、P番目のパーティクルのゲート内のM個の観測値の重心点を算出し、その重心点に対する尤度をP番目のパーティクルの尤度とする。すなわち、各パーティクルの相関ゲート内の全観測値の重心を算出して尤度を算出するようにしているので、誤検出を含む特定の観測値の影響を軽減することができ、これによって相関追跡が継続しやすくなる効果が得られる。
【0042】
(第4の実施形態)誤差電圧の虚数部による尤度係数
図10は、第4の実施形態の受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図10において、
図2と同一部分には同一符号を付して示す。
図10に示す受信系統において、第1の実施形態と異なる点はステップS28の処理にあり、ステップS22で得られた相関処理結果とステップS16の測角処理で得られた誤差電圧を用いて、誤差電圧の虚数部の尤度係数を算出し(ステップS28)、次の尤度算出ステップS23に移行する。
【0043】
本実施形態では、尤度算出の処理をゲート内全観測値の加算値で行うことを特徴とする。すなわち、本実施形態では、観測値1点に複数の反射点がある場合について述べる。レーダの距離、角度分解能が十分ではない場合には、複数の目標が存在していても合成されて少ない目標数に観測されてしまう。この場合でも、尤度を正しく算出するためには、複数目標であることを認識する必要がある。そこで、モノパルス測角の際の誤差電圧に着目する。
【0044】
【0045】
この誤差電圧は、単一目標の場合には、実数値として観測されるが、複数の場合には虚数部が発生するため、虚数部が大きいと複数目標と判定できる。この性質を利用して、虚数部の絶対値が大きい場合には、複数目標と認識して、尤度算出後に補正係数を乗算することにより、尤度に反映できる。
【0046】
【数6】
すなわち、測角の際には、誤差電圧を算出しているため、その虚数部を用いて調整係数を決める。尤度を算出する際に、相関結果として複数の観測値を対象にする場合は、その絶対値の加算値を用いる。(6)式は、1例であり、誤差電圧の虚数部の大きさに比例して、尤度補正係数を乗算する趣旨であれば、他の算出式でもよい。
【0047】
ここでは、位相モノパルス測角について述べたが、差ビームの代わりに、AZ軸(EL軸)にスクイントしたスクイントビームを用いたスクイント測角でもよい。この場合は、虚数部を算出するために、次式の複素信号を用いればよい。
【0048】
【0049】
以上のように、本実施形態では、観測値のモノパルス測角(位相モノパルス、スクイントモノパルス)の誤差電圧の虚数部が所定のスレショルドより大きい場合には、その観測値に対するパーティクルの尤度に所定の係数を乗算する。
【0050】
すなわち、観測値が1点の場合でも、レーダ装置または受信装置の分解能の制約により、複数の反射点が含まれる場合があるため、複数反射点の有無をモノパルス誤差電圧の虚数部で観測して、虚数部が大きい場合には反射点数が多いことを利用して、尤度を大きくすることで、等価的にパーティクル数を増やすことで、相関追跡を継続しやすくなる。
【0051】
その他、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0052】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…信号処理器、25…CFAR、26…測距・測速器、27…測角器、28…3次元位置同定器、29…クラスタ分析器、2A…相関処理器、2B…尤度算出器、2C…追跡処理器。