(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091243
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】カラムオーブン及びガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/54 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
G01N30/54 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205883
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 香澄
(57)【要約】
【課題】カラムオーブンの内部空間の断熱性を確保しながら内部空間の冷却効率の向上を図る。
【解決手段】カラムオーブン(2)は、ガスクログラフィ用の分離カラム(4)を収容して前記分離カラム(4)の温度を調節するための内部空間(11)を内側に形成する内側ケーシング(10)と、前記内部空間(11)に設けられ、前記内部空間(11)の温度を調節するための温調要素(12)と、前記内側ケーシング(10)の外周面を囲う繊維質素材からなる断熱材層(14)と、を備え、前記断熱材層(14)は、第1のかさ密度(ρ
1)を有する第1の層(18)、及び、前記第1の層(18)の外側を囲い、前記第1のかさ密度(ρ
1)よりも低い第2のかさ密度(ρ
2)を有する第2の層(20)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクログラフィ用の分離カラムを収容して前記分離カラムの温度を調節するための内部空間を内側に形成する内側ケーシングと、
前記内部空間に設けられ、前記内部空間の温度を調節するための温調要素と、
前記内側ケーシングの外周面を囲う繊維質素材からなる断熱材層と、を備え、
前記断熱材層は、第1のかさ密度を有する第1の層、及び、前記第1の層の外側を囲い、前記第1のかさ密度よりも低い第2のかさ密度を有する第2の層を含む、カラムオーブン。
【請求項2】
前記断熱材層の前記第2の層は前記第1の層よりも厚みが大きい、請求項1に記載のカラムオーブン。
【請求項3】
試料注入口を有し、前記試料注入口から注入された試料を気化して試料ガスを生成する試料気化部と、
入口及び出口を有し、前記入口が前記試料気化部に流体接続され、前記試料気化部で生成された前記試料ガス中の成分を互いに分離するための分離カラムと、
前記分離カラムの前記出口に接続され、前記分離カラムで互いに分離された成分を検出するための検出器と、
前記分離カラムを収容して前記分離カラムの温度を調節するための内部空間を有する請求項1又は2に記載のカラムオーブンと、を備えたガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラムオーブン及びそのカラムオーブンを備えたガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフでは、試料ガス中の成分を分離するための分離カラムをカラムオーブン内に収容し、カラムオーブン内を昇降温させることで分離カラムの温度を設定した温度に制御することが一般的である。カラムオーブンは、分離カラムを収容する内部空間が断熱材で囲われた構造となっており、内部空間を外部から熱的に遮断している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カラムオーブン内の温度を高精度に制御するためには、カラムオーブンの内部空間の断熱性を高めることが重要である。一般的に、断熱材は体積を増加させると断熱性能が向上する。そのため、カラムオーブンの内部空間を囲っている断熱材の体積を増加させれば内部空間の断熱性を高めることができるが、そうすると断熱材の熱容量が増加し、カラムオーブン内の温度を低下させたい場合に断熱材の自然冷却に要する時間が長くなってしまう。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、カラムオーブンの内部空間の断熱性を確保しながら内部空間の冷却効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
断熱材の熱伝導率λ[W/(m・K)]は、固体の熱伝導率、輻射が寄与する熱伝導率、気体の熱伝導率で近似することができる(大村高弘 他、 九州大学機能物質科学研究所報告 第16巻、p13-17、2002、繊維質断熱材の有効熱伝導率に関する研究を参照)。すなわち、断熱材の熱伝導率λは次式(1)によって表すことができる。
λ=Aρ+(B/ρ)T3+C (1)
ここで、A、B及びCは実験から求められる係数、ρは断熱材のかさ密度[kg/m3]、Tは絶対温度[K]である。当該式における右辺の第1項は固体の熱伝導率、第2項は輻射が寄与する熱伝導率、第3項は気体の熱伝導率である。上記式(1)より、高温域(例えば、300℃以上)では、輻射による熱伝導の寄与が大きく、かつ、断熱材のかさ密度が大きいほど輻射による熱伝導率が小さくなることがわかる。すなわち、断熱材のかさ密度が大きいほど高温域での断熱性能が高い。逆に、低温域では熱伝導率に対するかさ密度ρの寄与度が大きくなる。
【0007】
また、物体に蓄積する熱量Q[J]は熱量保存則より、次式(2)で表すことができる。
Q=ρVcΔT (2)
Vは断熱材の体積[m3]、cは比熱[J/kg・K]である。この式(2)から、同一体積の断熱材を比較すると、断熱材のかさ密度が低いほど蓄積する熱量、すなわち、熱容量が小さいことがわかる。
【0008】
本発明では上記の事項を利用し、カラムオーブン内部の断熱性能の向上と冷却効率の向上を図っている。すなわち、本発明に係るカラムオーブンは、ガスクロマトグラフィ用の分離カラムを収容して前記分離カラムの温度を調節するための内部空間を内側に形成する内側ケーシングと、前記内部空間に設けられ、前記内部空間の温度を調節するための温調要素と、前記内側ケーシングの外周面を囲う繊維質素材からなる断熱材層と、を備え、前記断熱材層は、第1のかさ密度を有する第1の層、及び、前記第1の層の外側を囲い、前記第1のかさ密度よりも低い第2のかさ密度を有する第2の層を含む。
【0009】
本発明に係るガスクロマトグラフは、試料注入口を有し、前記試料注入口から注入された試料を気化して試料ガスを生成する試料気化部と、入口及び出口を有し、前記入口が前記試料気化部に流体接続され、前記試料気化部で生成された前記試料ガス中の成分を互いに分離するための分離カラムと、前記分離カラムの前記出口に接続され、前記分離カラムで互いに分離された成分を検出するための検出器と、前記分離カラムを収容して前記分離カラムの温度を調節するための内部空間を有する本発明のカラムオーブンと、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るカラムオーブンでは、内側ケーシングに近い高温域では高いかさ密度(第1のかさ密度)を有する第1の層によって内側ケーシングからの輻射による熱を効果的に遮断しながら、第1の層よりも外側の比較的低温の領域には低いかさ密度(第2のかさ密度)を有する第2の層を配置して、断熱材層の体積を確保して高い断熱性能を確保して熱容量の増加を抑制している。これにより、カラムオーブンの内部空間の断熱性を確保しながら内部空間の冷却効率の向上を図ることができる。
【0011】
本発明に係るガスクロマトグラフでは、上記した本発明に係るカラムオーブンを用いているので、分離カラムの昇降温に係る時間が短縮され、分析効率の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ガスクロマトグラフの一実施例を示す概略構成断面図である。
【
図2】同実施例のカラムオーブンの断熱層の構造を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るカラムオーブン及びガスクロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
【0015】
ガスクロマトグラフ1は、カラムオーブン2、分離カラム4、試料気化部6及び検出器8を備えている。分離カラム4はカラムオーブン2の内部空間11に収容されている。カラムオーブン2の内部空間11には、内部空間11の温度を調節するための温調要素12が設けられている。温調要素12は、例えば、ヒータ、ペルチェ素子、ファンなどを含む。
【0016】
試料気化部6及び検出器8はカラムオーブン2の上部に装着されている。分離カラム4は一端が入口、他端が出口となっており、入口が試料気化部6に接続され、出口が検出器8に接続されている。試料気化部6は、上部に試料注入口7を備え、試料注入口7を介して注入された試料を気化させて試料ガスを生成するためのものである。試料気化部6において生成された試料ガスは分離カラム4へ導入され、試料ガス中の成分が互いに分離される。検出器8は、分離カラム4において互いに分離された成分を検出する。
【0017】
カラムオーブン2は、内部空間11を内側に形成する内側ケーシング10と、内側ケーシング10の外周面を囲う断熱材層14と、断熱材層14のさらに外側を囲う外側ケーシング16と、を備えている。すなわち、カラムオーブン2の壁面は、内側から、内側ケーシング10,断熱材層14及び外側ケーシング16によって構成されている(
図2参照)。カラムオーブン2の天井部の壁面には試料気化部6及び検出器8を貫通させるための貫通孔が設けられており、試料気化部6及び検出器8のそれぞれはカラムオーブン2の天井部を貫通した状態で外側ケーシング16に対して固定されている。
【0018】
カラムオーブン2の内側ケーシング10と外側ケーシング16の間に介在する断熱材層14は、グラスウール、ロックウールなどの繊維質素材で形成されている。断熱材層14は、第1の層18及び第2の層20を含んでいる。第1の層18は内側ケーシング10の外周面を覆っており、第2の層20は第1の層18の外周面を覆っている。
【0019】
【0020】
断熱材層14の第1の層18は、内側ケーシング10に近い領域に位置している。この領域は、分離カラム4の温度を高温(例えば300℃以上)にまで昇温させる際に高温に達する領域である。一方、断熱材層14の第2の層20は、内側ケーシング10から離れた領域に位置している。この領域は、内側ケーシング10との間に第1の層18を介在させることによって、第1の層18が位置している領域に比べて低温の領域である。
【0021】
第1の層18と第2の層20のそれぞれは互いに異なるかさ密度ρ1、ρ2を有する。第1の層18のかさ密度ρ1は第2の層20のかさ密度ρ2に比べて高い。一例として、第1の層のかさ密度ρ1は第2の層20のかさ密度ρ2の2倍以上である。また、第2の層20の厚みL2は第1の層の厚みL1よりも大きくなっている。一例として、第2の層20の厚みL2は第1の層の厚みL1の2倍以上である。
【0022】
既述のように、高温域(例えば、300℃以上)では、輻射による熱伝導の寄与が大きく、かつ、断熱材のかさ密度が大きいほど輻射による熱伝導率が小さくなる。そのため、内部空間11の断熱性能を高めることのみを目的とするのであれば、高いかさ密度を有する大きな厚みの断熱材層で内側ケーシング10の外周面を覆う、すなわち、高いかさ密度を有する第1の層18のみで断熱材層14を形成すれば足りる。しかし、そうすると、断熱材層14の熱容量が大きくなり、内部空間11を冷却するのに長時間を要することになる。
【0023】
この実施例では、高温に達する領域にのみ高いかさ密度ρ1を有する第1の層18を配置し、その外側の比較的低温の領域に比較的低いかさ密度ρ2を有する第2の層20を配置している。低温の領域では、高温の領域に比べて輻射による熱伝導の寄与が小さくなる。そのため、低温の領域に配置された断熱材層(第2の層20)のかさ密度ρ2を高温領域に配置された断熱材層(第1の層18)のかさ密度ρ1より低くしても、第2の層20の厚みL2をある程度(例えば、L1の2倍以上)確保することによって十分な断熱効果を得ることができる。そして、第2の層20はその低いかさ密度ρ2によって熱容量が小さいため、結果的に、断熱材層14全体の熱容量を小さくすることができる。特に、断熱材層14の体積の大部分(例えば、60%以上)を第2の層20が占めるように設計することで、高い断熱性能と小さい熱容量をもつ断熱材層14を実現することができる。
【0024】
なお、断熱材層14は、内側ケーシング10の外周面を必ずしも完全に覆っている必要はなく、内側ケーシング10の外周面の一部が断熱材層14によって覆われていなくてもよい。また、内側ケーシング10の外周面と第1の層18との間、第1の層18と第2の層20との間、及び、第2の層20と外側ケーシング16との間に布、箔などが介在していてもよい。
【0025】
以上において説明した実施例は、本発明に係るカラムオーブン及びガスクロマトグラフの実施形態の一例に過ぎない。本発明に係るカラムオーブン及びガスクロマトグラフの一実施形態は以下のとおりである。
【0026】
本発明に係るカラムオーブンの一実施形態では、ガスクログラフィ用の分離カラムを収容して前記分離カラムの温度を調節するための内部空間を内側に形成する内側ケーシングと、前記内部空間に設けられ、前記内部空間の温度を調節するための温調要素と、前記内側ケーシングの外周面を囲う繊維質素材からなる断熱材層と、を備え、前記断熱材層は、第1のかさ密度を有する第1の層、及び、前記第1の層の外側を囲い、前記第1のかさ密度よりも低い第2のかさ密度を有する第2の層を含む。
【0027】
上記一実施形態において、前記断熱材層の前記第2の層は前記第1の層よりも厚みが大きくてもよい。第2の層は第1の層に比べて低温の領域に配置されているため、第2の層の厚みをある程度確保することによって十分な断熱効果を得ることができる。第2の層の厚みを大きくすることによって断熱材層全体の体積は大きくなるものの、第2の層のかさ密度は第1の層のかさ密度よりも低いため、断熱材層全体の熱容量の増大を抑制することができ、それによって、カラムオーブンの内部空間の冷却に要する時間を短縮化することができる。
【0028】
本発明に係るガスクロマトグラフの一実施形態では、試料注入口を有し、前記試料注入口から注入された試料を気化して試料ガスを生成する試料気化部と、入口及び出口を有し、前記入口が前記試料気化部に流体接続され、前記試料気化部で生成された前記試料ガス中の成分を互いに分離するための分離カラムと、前記分離カラムの前記出口に接続され、前記分離カラムで互いに分離された成分を検出するための検出器と、前記分離カラムを収容して前記分離カラムの温度を調節するための内部空間を有する上述のカラムオーブンと、を備えている。
【符号の説明】
【0029】
1 ガスクロマトグラフ
2 カラムオーブン
4 分離カラム
6 試料気化部
8 検出器
10 内側ケーシング
12 温調要素
14 断熱材層
16 外側ケーシング
18 第1の層
20 第2の層