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特開2023-91956磁気共鳴イメージング装置、血管画像生成方法、および記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091956
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置、血管画像生成方法、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 380
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206856
(22)【出願日】2021-12-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】319011672
【氏名又は名称】ジーイー・プレシジョン・ヘルスケア・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】竹井 直行
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA07
4C096AA10
4C096AB44
4C096AD06
4C096AD07
4C096AD24
4C096BA20
4C096BB07
4C096BB08
4C096BB18
4C096DC33
4C096DC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水脂肪スワップによる血管信号の劣化が改善された画像を取得する技術を提供する。
【解決手段】血管を含む撮影部位から、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72を受信する磁気共鳴イメージング装置10が、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72を表すデータを含むデジタル信号を処理するプロセッサであって、デジタル信号に基づいて水画像Waを生成すること、および水画像Waに、アウトオブフェーズ信号71の信号強度|Iin|およびインフェーズ信号72の信号強度|Iout|を加算することにより、血管を表す血管画像を生成すること、を含む動作を実行するプロセッサを含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を含む撮影部位から、エコー時間が異なる複数のMR信号を受信する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号を処理する1つ又は複数のプロセッサであって、
前記デジタル信号に基づいて水画像を生成すること、および
前記水画像と各MR信号の信号強度とを合成し、前記血管を表す血管画像を生成すること、
を含む動作を実行する1つ又は複数のプロセッサを含む、磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
第1のRFコイルユニットを駆動する第1の駆動部と、
傾斜磁場コイルユニットを駆動する第2の駆動部と、
前記第1の駆動部および前記第2の駆動部を制御する制御ユニットであって、前記撮影部位から前記エコー時間が異なる前記複数のMR信号を発生させるためのパルスシーケンスが実行されるように、前記第1の駆動部および前記第2の駆動部を制御する制御ユニットと
を含み、
前記パルスシーケンスが複数のサブシーケンスを含み、
各サブシーケンスが、
1つ以上のプリパレーションパルスを含むプリパレーションパルス部と、マルチポイントディクソン法により前記複数のMR信号を収集するためのデータ収集シーケンス部とを含む、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記サブシーケンスが、前記サブシーケンスの前記データ収集シーケンス部と次のサブシーケンスとの間に、スピンの縦磁化を回復させるための待ち時間を含む、請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記プリパレーションパルス部が、背景組織の信号を抑制するプリパレーションパルスを含む、請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記血管画像が、動脈の血管画像であり、
前記プリパレーションパルスが、前記スラブに隣接する領域内を流れる静脈血の磁化を消失させるためのSATパルスである、請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
オペレータによって操作され、前記撮影部位にスラブを設定するための操作信号を入力する入力装置を含み、
前記プロセッサが、前記領域を位置決めする動作を実行する、請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記スラブに対して、SI方向におけるS側において前記スラブに隣接するように、前記領域を位置決めする動作を実行する、請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記入力装置から、前記撮影部位に複数のスラブを設定するための操作信号が入力され、
前記プロセッサが、各スラブに対して、前記領域を位置決めする動作を実行し、
前記制御ユニットが、前記複数のスラブからMR信号を収集するために前記パルスシーケンスが繰り返し実行されるように、前記第1の駆動部および前記第2の駆動部を制御するための制御信号を生成する、請求項8に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記マルチポイントディクソン法が、2ポイントディクソン法である、請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記複数のMR信号は、アウトオブフェーズ信号およびインフェーズ信号を含む、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
エコー時間が異なる前記複数のMR信号を受信し、受信したMR信号に対応するアナログ信号を出力する第2のRFコイルユニットと、
前記アナログ信号に基づいて、前記複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号を生成するデータ取得ユニットと、
を含む、請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記1つ又は複数のプロセッサが、以下の式に基づいて前記血管画像を生成する動作を実行する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
C={a0*Wa+ a1*|Iq1| + a2*|Iq2| + a3*|Iq3|+…+ an*|Iqn|}/A
ただし、A=a0+ a1+ a2 + a3…+ an

ここで、 C:前記血管画像
Wa:前記水画像
|Iqi|(i=1~n):前記複数のMR信号のうちの、i番目に発生するMR信号の信号強度
ai(i=0~n):係数
【請求項13】
前記デジタル信号に基づいて水画像を生成することが、
前記デジタル信号に基づいて、アウトオブフェーズ画像およびインフェーズ画像を生成すること、および
前記アウトオブフェーズ画像およびインフェーズ画像に基づいて、前記水画像を生成すること
を含む、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
血管を含む撮影部位から、エコー時間が異なる複数のMR信号を受信すること、
前記複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号に基づいて水画像を生成すること、および
前記水画像と各MR信号の信号強度とを合成し、前記血管を表す血管画像を生成すること、
を含む、血管画像生成方法。
【請求項15】
1つ以上のプロセッサによる実行が可能な1つ以上の命令が格納されている記録媒体であって、前記一つ以上の命令は、前記1つ以上のプロセッサに、
血管を含む撮影部位から取得したエコー時間が異なる複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号に基づいて水画像を生成すること、および
前記水画像と各MR信号の信号強度とを合成し、前記血管を表す血管画像を生成すること、
を含む動作を実行させる、記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管画像を生成する磁気共鳴イメージング装置、血管画像を生成する血管画像生成方法、および血管画像を生成するための命令が格納された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の体内の画像を非侵襲的に撮影する医用装置として、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置が知られている。MRI装置は、患者にX線を照射するのではなく、患者に磁場を印加し、画像データを収集する。したがって、MRI装置は患者を被曝させずに画像データを収集することができるので、安全性の高い医用装置として、病院等の医療施設に普及している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“Single slab 3D mDixon using water only image for coronary artery” Nezafat, M., Henningsson, M., Ripley, D.P. et al. Coronary MR angiography at 3T: fat suppression versus water-fat separation. Magn Reson Mater Phy 29, 733-738 (2016). https://doi.org/10.1007/s10334-016-0550-7
【非特許文献2】“Single slab 3D mDixon using water only image with contrast agent for peripheral MRA” Leiner, T., Habets, J., Versluis, B. et al. Subtractionless first-pass single contrast medium dose peripheral MR angiography using two-point Dixon fat suppression. Eur Radiol 23, 2228-2235 (2013). https://doi.org/10.1007/s00330-013-2833-y
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MRI装置は、様々な種類のMR画像を取得することができるので、患者を診断する上で非常に重要である。例えば、患者の血管を撮影したい場合、MRA(Magnetic Resonance Angiography)により、患者の血管画像を取得することができる。血管画像を取得する手法として、シングルスラブ(Single Slab)のディクソン(Dixon)法を用いた水脂肪分離MRAが知られている(例えば、非特許文献1および2参照)。また、マルチスラブのディクソン法を用いた水脂肪分離技術も知られている。ディクソン法による水脂肪分離MRAは、良好な脂肪分離が可能で、B0およびB1不均一に対してロバストで、動きアーチファクトにも耐性があり、有望な手法として期待されている。ディクソン法では、水と脂肪の化学シフトの差から計算される水画像を使用して、MRAの血液信号が視覚化される。しかし、解剖学的領域(例えば、組織と空気との間の境界部分)に位相が急激に変化するB0不均一が現れると、「水脂肪スワップ」が発生し、本来は水画像の信号が脂肪画像の信号になるとともに、本来は脂肪画像の信号が水画像の信号になり、誤った分離をしてしまうことがある。その結果、水画像の血液信号が低下し脂肪画像では高信号となる。このため、血管信号が背景信号に埋もれてしまい高品質な血管画像を取得することが難しい場合がある。
【0005】
したがって、水脂肪スワップによる血管信号の劣化が改善された画像を取得することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、血管を含む撮影部位から、エコー時間が異なる複数のMR信号を受信する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号を処理する1つ又は複数のプロセッサであって、
前記デジタル信号に基づいて水画像を生成すること、および
前記水画像と各MR信号の信号強度とを合成し、前記血管を表す血管画像を生成すること、
を含む動作を実行する1つ又は複数のプロセッサを含む、磁気共鳴イメージング装置である。
【0007】
本発明の第2の観点は、血管を含む撮影部位から、エコー時間が異なる複数のMR信号を受信すること、
前記複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号に基づいて水画像を生成すること、および
前記水画像と各MR信号の信号強度とを合成し、前記血管を表す血管画像を生成すること、
を含む、血管画像生成方法である。
【0008】
本発明の第3の観点は、1つ以上のプロセッサによる実行が可能な1つ以上の命令が格納されている記録媒体であって、前記一つ以上の命令は、前記1つ以上のプロセッサに、
血管を含む撮影部位から取得したエコー時間が異なる複数のMR信号を表すデータを含むデジタル信号に基づいて水画像を生成すること、および
前記水画像と各MR信号の信号強度とを合成し、前記血管を表す血管画像を生成すること、
を含む動作を実行させる、記録媒体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、水画像と各MR信号の信号強度とを合成することにより血管画像を生成する。したがって、水画像のボクセル内においてスワップが発生することにより、ボクセル値が低下しても、前記各MR信号の信号強度が、スワップによるボクセル値の低下を補填することができる。このため、ボクセル内でスワップが発生しても、血管信号の欠損を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態のMRI装置を示す図である。
図2】本実施形態のMRI装置10で血管画像を生成するために実行されるフローチャートである。
図3】スカウト画像40の概略図である。
図4】オペレータによって設定されたスラブの説明図である。
図5】被検体をスキャンするために使用されるパルスシーケンスの説明図である。
図6】SATパルス50の説明図である。
図7】パルスシーケンスPS2の説明図である。
図8】本発明の他の実施形態におけるパルスシーケンスの基本的な構成の説明図である。
図9】水画像の一例と、血管画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態のMRI装置を示す図である。
MRI装置10は、超電導マグネットユニット12、傾斜磁場コイルユニット13、およびボディコイルユニット14を有している。
【0013】
超電導マグネットユニット12は、例えば、環状の超伝導マグネットを含んでいる。このマグネットは、トロイダル真空容器内に設けられている。超電導マグネットユニット12は静磁場B0を発生する。
【0014】
また、MRI装置10は傾斜磁場コイルユニット13を含んでいる。傾斜磁場コイルユニット13は、撮影空間18に傾斜磁場を印加する。傾斜磁場コイルユニット13は、3つの傾斜磁場コイルシステムを含んでいる。3つの傾斜磁場コイルシステムは、撮影条件に従って、周波数エンコード方向、位相エンコード方向、およびスライス選択方向に傾斜磁場を印加する。具体的には、傾斜磁場コイルユニット13は、互いに直交する3つの空間軸(x軸、y軸、およびz軸)に沿う傾斜磁場を印加する。
【0015】
ボディコイルユニット14は、撮影対象(例えば、患者)16にRFパルスを印加したり、撮影対象16からMR信号を受信するために使用することができるRFコイルユニットである。
【0016】
撮影対象16の撮影部位には表面コイルユニット15が設置されている。表面コイルユニット15は撮影対象16の撮影部位を取り囲むように設置されている。表面コイルユニット15は撮影対象16において発生したMR信号を受信するRFコイルユニットである。尚、表面コイルユニット15は、RFパルスを送信する機能とMR信号を受信する機能とを有する送受信兼用のコイルであってもよい。
【0017】
また、MRI装置は、T/Rスイッチ20、RF駆動ユニット22、傾斜磁場コイル駆動ユニット23、データ取得ユニット24、制御ユニット25、データ処理ユニット31、操作コンソールユニット32を有している。
【0018】
T/Rスイッチ20は、ボディコイルユニット14が受信モードで動作する場合、ボディコイルユニット14をデータ取得ユニット24に接続し、ボディコイルユニット14が送信モードで動作する場合、ボディコイルユニット14をRF駆動ユニット22に接続することができる。また、T/Rスイッチ20は、表面コイルユニット15が受信モードで動作する場合、表面コイルユニット15をデータ取得ユニット24に接続し、表面コイルユニット15が送信モードで動作する場合、表面コイルユニット15をRF駆動ユニット22に接続することができる。表面コイルユニット15がMR信号を受信し、ボディコイルユニット14がRF信号を送信する場合、T/Rスイッチ20は、RF駆動ユニット22がボディコイルユニット14を駆動し、表面コイルユニット15により受信されたMR信号がデータ取得ユニット24に出力されるように、スイッチングすることができる。ボディコイルユニット14および表面コイルユニット15は、送信専用モード、受信専用モード、または送受信モードで動作することができる。
【0019】
RF駆動ユニット22は、制御ユニット25からの制御信号に基づいて、ボディコイルユニット14を駆動して高周波磁場を撮影空間18に形成するために使用される。RF駆動ユニット22は、例えば、ゲート変調器、RF電力増幅器、およびRF発振器を含んでいる。RF駆動ユニット22では、RF発振器から受信したRF信号がゲート変調器で変調される。ゲート変調器によって変調されたRF信号は、RF電力増幅器によって増幅され、ボディコイルユニット14又は表面コイルユニット15に出力することができる。
【0020】
傾斜磁場コイル駆動ユニット23は、制御ユニット25からの制御信号に基づいて傾斜磁場コイルユニット13を駆動し、それによって傾斜磁場を撮影空間18に生成する。傾斜磁場コイル駆動ユニット23は、傾斜磁場コイルユニット13に含まれる3つの傾斜磁場コイルシステムに対応する3つのシステムのドライバ回路(図示せず)を含んでいる。
【0021】
データ取得ユニット24は、前置増幅器、位相検出器、およびアナログ/デジタル変換器を含んでいる。表面コイルユニット15は、受信したMR信号に対応するアナログ信号を出力し、このアナログ信号はT/Rスイッチ20を介してデータ取得ユニット24の前置増幅器に供給される。アナログ信号は前置増幅器で増幅され、増幅されたアナログ信号が位相検出器で位相検波され、位相検波されたアナログ信号がアナログ/デジタル変換器でデジタル信号に変換される。こうして得られたデジタル信号は、データ処理ユニット31に出力される。
【0022】
また、MRI装置10はテーブルを有している。制御ユニット25からの制御信号に基づいてテーブルを移動させることにより、撮影対象16を撮影空間18内に移動させることができる。
【0023】
制御ユニット25は、1つ以上のプロセッサと、1つ以上のプロセッサによって実行されるプログラムが記録された記録媒体とを含んでいる。プロセッサは、デジタル信号プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)、または他のタイプのプロセッサなど、処理機能を実行することができる電子構成要素を含むことができる。プログラムは、プロセッサに、撮影対象16の検査を行う上で必要な様々な動作を実行させる。記録媒体は、例えば、ROM、可撓性ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、不揮発性メモリなどを含むことができる。制御ユニット25は、テーブル、RF駆動ユニット22、傾斜磁場コイル駆動ユニット23およびデータ取得ユニット24を制御するための制御信号を出力する。また、制御ユニット25は、操作コンソールユニット32から受信した操作信号に基づいて、MR画像を取得するためにデータ処理ユニット31を制御する。
【0024】
操作コンソールユニット32は、入力装置および表示装置を有している。入力装置は、例えば、マウス、ジョイスティック、キーボード、トラックボール、タッチ操作画面、ライトペン、および他の入力機器を含むことができる。表示装置は、例えば制御ユニット25から受信した制御信号に基づいて表示装置の表示画面に画像を表示する。表示装置は、例えば、LED(Light Emitting Diode)表示部、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)表示部を含むことができる。表示装置は、例えば、データ処理ユニット31により生成された撮影対象16の二次元(2D)スライス画像または三次元(3D)画像を表示する。操作コンソールユニット32は、例えば、撮像プロトコルなどのデータを入力したり、撮像シーケンスを実施する領域を設定したりするために、オペレータによって使用される。操作コンソールユニット32は制御ユニット25と通信することができる。撮像プロトコルおよびスキャン条件に関するデータは、制御ユニット25に出力される。
【0025】
データ処理ユニット31は、1つ以上のプロセッサと、プロセッサが所定のデータ処理を実行するためにプロセッサにより実行されるプログラムを記録した記録媒体とを含んでいる。プロセッサは、デジタル信号プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)、または他のタイプのプロセッサなど、処理機能を実行することができる電子構成要素を含むことができる。データ処理ユニット31は、制御ユニット25に接続されており、制御ユニット25から受信した制御信号に基づいてデータ処理を行う。データ処理ユニット31は、データ取得ユニット24で生成されたデジタル信号に基づいて、MR画像を生成する。
【0026】
磁気共鳴メージング装置は、スキャン中、RFコイルアレイインターフェースケーブル(図示せず)を使用してRFコイル(例えば、ボディコイルユニット14および表面コイルユニット15)と処理システム(例えば、データ取得ユニット24、制御ユニット25など)との間で信号を送信し、RFコイルを制御したり、RFコイルによりMR信号を受信することができる。例えば、ボディコイルユニット14は、RF信号を送信し、表面コイルユニット15は、MR信号を受信する。磁気共鳴イメージングシステムは、受信されたMR信号に基づいて各種のMR画像を生成することができる。
MRI装置は上記のように構成されている。
【0027】
MRI装置は、様々な種類のMR画像を取得することができるので、患者を診断する上で非常に重要である。例えば、患者の血管を撮影したい場合、MRAにより、患者の血管画像を取得することができる。血管画像を取得する手法として、例えば、ディクソン法による水脂肪分離MRAが知られている。ディクソン法による水脂肪分離MRAは、水のプロトンが脂肪のプロトンよりもわずかに回転速度が速いという特性を利用して、血管画像を取得する方法である。ディクソン法による水脂肪分離MRAは、良好な脂肪分離が可能で、B0およびB1不均一に対してロバストで、動きアーチファクトにも耐性があり、有望な手法として期待されている。以下に、ディクソン法による水脂肪分離の原理ついて説明する。尚、この説明に当たっては、ディクソン法による水脂肪分離の代表的な手法の1つである2-point Dixon(2ポイントディクソン)法を取り上げて説明することにする。
【0028】
2-point Dixon法では、インフェーズ(in-phase)信号Iinとアウトオブフェーズ(out of phase)信号Ioutとを取得する。静磁場が均一であり、磁化率が無視できると仮定すると、インフェーズ信号Iinおよびアウトオブフェーズ信号Ioutは以下の式で表すことができる。

in =W+F ・・・(1)
out=W-F ・・・(2)

ここで、Wは、各ボクセルにおいて、水の磁化の量に比例する正の実数の値であり、Fは、各ボクセルにおいて、脂肪の磁化の量に比例する正の実数の値である。
【0029】
水の磁化と脂肪の磁化の分離画像は、以下の式により再構成することができる。

W=1/2(Iin+Iout) ・・・(3)
F=1/2(Iin-Iout) ・・・(4)
【0030】
また、Iinの信号強度、およびIoutの信号強度を使用して水画像および脂肪画像を別の表記で表すことができる。

Wa=1/2(|Iin|+ρ|Iout|) ・・・(5)
Fa=1/2(|Iin|-ρ|Iout|) ・・・(6)

ρ=+1 if W>F
ρ=-1 if W<F
【0031】
ここで、式(5)におけるWaは水画像を表し、式(6)におけるFaは脂肪画像を表す。また、ρは、水画像および脂肪画像の各ボクセル内において、脂肪のプロトンが支配的なのか、水のプロトンが支配的なのかを示す2値符号係数である。
【0032】
水画像Waでは、静止組織に対して血液が強調して描出される。したがって、水画像Waは、臨床現場において、患者の血流状態を診断するために使用されている。
【0033】
一方、水画像Waを表す式(5)に含まれているρは、W>Fの場合ρ=+1となり、W<Fの場合ρ=-1となる。したがって、高品質な水画像Waを得るためには、ボクセルごとに、ρが+1であるのか、-1であるのかを正確に判定することが重要となる。しかし、水および脂肪の割合は一般的には分からないので、ρを正しく決定することは難しいという問題がある。
【0034】
しかし、水画像の血液信号と脂肪を含む背景信号との間の画像コントラストを大きくしようと試みるDixon MRAでは、組織と空気(例えば、肺)との間の境界で急激に位相変化を生じさせる強いB0不均一又は磁化率が存在すると、正しいρの値を決定することができず、水脂肪分離が失敗し、水画像において血管信号の低下、欠損が発生するという問題がある。
【0035】
また、水脂肪スワップが発生すると、水画像において血管信号が低下、欠損が発生し、この信号成分がアーチファクトとして脂肪画像に現れてしまうという問題もある。
【0036】
そこで、本願発明者は、上記の問題に対処するために、2-point Dixon法において、血管信号の低下又は欠損が生じにくいイメージング方法を考え出した。以下に、このイメージング方法の原理について説明する。
【0037】
本願発明者は、上記の問題に対処するために鋭意研究し、水画像Waだけでなく、インフェーズ信号の信号強度|Iin|とアウトオブフェーズ信号の信号強度|Iout|も用いて水画像を再構成することを考え付いた。ここで、ρ=1およびρ=-1のそれぞれの場合に分けて、水画像Waと、インフェーズ信号の信号強度|Iin|と、アウトオブフェーズ信号の信号強度|Iout|とを合成した画像について、以下に考察する。
【0038】
(1)ρ=1の場合(スワップが発生していない場合)
ρ=1の場合、Waと|Iin|と|Iout|との複合画像は、以下の式で表すことができる。
Wns=Wa+|Iin|+|Iout
=1/2(|Iin|+|Iout|)+|Iin|+|Iout
=3/2(|Iin|+|Iout|) ・・・(7)

ここで、式(7)のWnsは、スワップが発生していない場合の複合画像を表す。
【0039】
式(7)において、Wb=1/2(|Iin|+|Iout|)と置くと、以下の式(7)’が得られる。
Wns=3Wb ・・・(7)’
【0040】
(2)ρ=-1の場合(スワップが発生した場合)
ρ=-1の場合、Waと|Iin|と|Iout|との複合画像は、以下の式で表すことができる。
Ws=Wa+|Iin|+|Iout
=1/2(|Iin|-|Iout|)+|Iin|+|Iout
=3/2|Iin|+1/2|Iout| ・・・(8)

ここで、式(8)のWsは、スワップが発生した場合の複合画像を表す。
【0041】
式(8)において、Wb=1/2(|Iin|+|Iout|)と置くと、以下の式(8)’が得られる。
Ws=Wb+|Iin| ・・・(8)’
【0042】
尚、式(7)’および(8)’の右辺に含まれるWbは、水のプロトンと脂肪のプロトンとのスワップが発生していない理想的な状況における水画像を表している。
【0043】
ρ=1の場合、式(7)’に示すように、Waと|Iin|と|Iout|との複合画像Wnsの各ボクセルのボクセル値は、Wbの3倍の値となる。一方、ρ=-1の場合、式(8)’に示すように、Waと|Iin|と|Iout|との複合画像Wsの各ボクセルのボクセル値は、Wbと|Iin|との和となる。
【0044】
上記の説明から、複合画像WnsおよびWsの各ボクセルのボクセル値は、スワップが発生していない理想的な水画像Wbよりも大きい値を有することがわかる。したがって、水画像Waのボクセル値に、|Iin|と|Iout|とを加算することにより、水脂肪スワップが発生しているか否かにかかわらず、スワップが発生していない理想的な水画像Wbよりもボクセル値が大きい画像が得られることがわかる。この方法によれば、スワップにより水画像Waに血管の欠損が発生していたとしても、血管の欠損が発生している部分に|Iin|が加算されるので、血管の欠損が低減された複合画像を得ることができる。本実施形態では、この点に着目し、以下の式に従って血管画像を生成する。
【0045】
C=Wa+|Iin|+|Iout| ・・・(9)

ここで、C:血管画像、Wa:水画像、|Iin|:インフェーズ信号の信号強度、|Iout|:アウトオブフェーズ信号の信号強度
【0046】
以下に、本実施形態において式(9)を用いて、動脈の血管画像を生成する手順について具体的に説明する。
【0047】
図2は、本実施形態のMRI装置10で血管画像を生成するために実行されるフローチャートである。
【0048】
ステップST1では、オペレータがスキャン条件を設定する。本実施形態では、オペレータは、GRE(Gradient Echo)法と2-point Dixon法とを用いて血管画像を生成するためのスキャン条件を設定する。スキャン条件には、スキャンパラメータの設定や、スラブの設定などが含まれる。
【0049】
また、ステップST1では、ローカライザが実行される。表面コイルユニット15は、ローカライザにより発生したMR信号を受信し、受信したMR信号に対応するアナログ信号(電気信号)を出力する。アナログ信号は、T/Rスイッチ20を介してデータ取得ユニット24に供給される。データ取得ユニット24は、アナログ信号を増幅し、増幅したアナログ信号を位相検波し、位相検波したアナログ信号をデジタル信号に変換する。データ処理ユニット31のプロセッサは、データ取得ユニット24で生成されたデジタル信号に基づいて、スカウト画像を生成する動作を実行する。データ処理ユニット31の記録媒体には、スカウト画像を生成するための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、デジタル信号に基づいてスカウト画像を生成するための動作を実行させる。
【0050】
ローカライザにより取得されるスカウト画像は、スラブを位置決めするために使用される。本実施形態では、患者の頭部および頸部を含む部位の血管を描出することを考えている。したがって、ローカライザにより、患者の頭部及び頸部を含む部位のスカウト画像が取得される。ローカライザにより取得されたスカウト画像は、操作コンソールユニット32の表示部に表示される。図3は、表示部に表示されたスカウト画像40の概略図である。ローカライザでは、アキシャル、サジタル、およびコロナルのスカウト画像を取得することができる。図3では、表示部にコロナルのスカウト画像40が表示されている例が示されている。また、図3には、頭尾方向を表すSI(superior-inferior)方向も示されている。
【0051】
ローカライザを実行した後、オペレータは、スカウト画像40上にスラブを設定する(図4参照)。
【0052】
図4は、オペレータによって設定されたスラブの説明図である。
オペレータは、操作コンソールユニット32の入力装置を操作して、撮影部位にスラブを設定するための操作信号を入力する。操作コンソールユニット32の表示装置は、スカウト画像40上にスラブを表示する。操作コンソールユニット32、データ処理ユニット31、および/又は制御ユニット25のプロセッサは、操作コンソールユニット32の入力装置から入力された操作信号を処理し、操作コンソールユニット32の表示装置にスラブを表示させることができる。操作コンソールユニット32、データ処理ユニット31、および/又は制御ユニット25の記録媒体には、操作信号に基づいてスラブを表示させるための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、入力装置からの操作信号に基づいて、スラブを生成するための動作を実行させる。
【0053】
本実施形態では、6個のスラブ61~66を設定する例が示されているが、撮影部位の範囲を考慮して、1個~5個のスラブを設定してもよいし、7個以上のスラブを設定してもよい。尚、6個のスラブ61~66のうち互いに隣り合うスラブは、隣り合うスラブの境界部分の画質劣化を軽減するために、オーバラップするように設定することも可能である。スラブ61~66を設定したら、ステップST2に進む。
【0054】
ステップST2では、設定されたプロトコルに従って被検体の本スキャンが実行される。
【0055】
図5は、被検体をスキャンするために使用されるパルスシーケンスの説明図である。
被検体をスキャンする場合、パルスシーケンスPSj(j=1~6)が実行される。パルスシーケンスPSjは、GRE法と2-point Dixon法とを利用してデータを収集するためのパルスシーケンスである。本実施形態では、j=1~6、すなわち、6個のパルスシーケンスPS1~PS6が実行されるとするが、パルスシーケンスPSjの実行回数は5回以下(例えば、1回)でもよいし、7回以上であってもよい。パルスシーケンスPS1~PS6は、それぞれ、スラブ61~66からデータを収集するために実行されるシーケンスである。
【0056】
図5では、パルスシーケンスPS1~PS6のうち、代表して、パルシーケンスPS1の具体的な構成が図示されている。
以下に、パルスシーケンスPS1~PS6について説明する。
【0057】
本スキャンの実行が開始されると、先ず、スラブ61(図4参照)からデータを収集するためのパルスシーケンスPS1が実行される。
【0058】
パルスシーケンスPS1は複数のサブシーケンスSSr(r=1~a)を含んでいる。
r=1のサブシーケンスSSr、すなわち、サブシーケンスSS1に着目すると、サブシーケンスSS1は、SAT(飽和)パルス50を有している。
【0059】
図6はSATパルス50の説明図である。
SATパルス50は、スラブ61に隣接する領域161内を流れる静脈血の磁化を消失させるためのパルスである。制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31のプロセッサは、オペレータによって設定されたスラブ61の位置を表すデータに基づいて、領域161を位置決めする動作を実行する。制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31の記録媒体には、スラブの位置を表すデータに基づいて、領域161を位置決めするための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、領域161を位置決めするための動作を実行させる。具体的には、プロセッサは、スラブ61に対してSI方向のS(Superior)側においてスラブ61に隣接するように領域161を位置決めする。SATパルス50は領域161を流れる静脈血の磁化を消失させることができるので、領域161からスラブ61に静脈血が流入しても、スラブ61内における静脈血の信号を抑制することができる。
【0060】
領域161の幅は、スラブ61の幅、静脈血の流速などに基づいて、決定することができる。尚、領域161は、領域161の一部がスラブ61に重なるように位置決めすることが可能であり、また、領域161とスラブ61との間に一定のギャップが設けられるように領域161を位置決めすることも可能である。
【0061】
図5に戻って説明を続ける。
サブシーケンスSS1は、SATパルス50の後に、2-point Dixon法によりエコー時間が異なるMR信号を収集するためのデータ収集シーケンス部70を含んでいる。データ収集シーケンス部70は、m個のα°パルス5u(u=1、2,・・・m-1,m)を含んでいる。m個のα°パルス51、52、・・・5m-1、5mは、SATパルス50の後に印加されるパルスである。α°は、90°より小さい角度とすることができ、例えば、20°~70°の間の角度とすることができるが、20°~70°の範囲外の角度に設定することも可能である。
【0062】
また、データ収集シーケンス部70は、傾斜磁場Gx、Gy、およびGzも含んでいる。図5では、傾斜磁場Gxが示されている。傾斜磁場GyおよびGzは図示省略されている。
【0063】
SATパルス50が印加された後、α°パルス51および傾斜磁場が印加され、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72が順に発生する。アウトオブフェーズ信号71のエコー時間TEは約2.3msecであり、インフェーズ信号72のエコー時間TEは約4.6msecである。
【0064】
α°パルス51から一定時間が経過したら、次のα°パルス52(および傾斜磁場)が印加され、次のアウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72が収集される。
【0065】
以下同様に、α°パルス5uと傾斜磁場とが印加され、α°パルスを印加するたびに、スラブ61からアウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72を収集することができる。m番目のα°パルス5mが印加された後、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72が収集される。このようにして、サブシーケンスSS1が実行され、アウトオブフェーズ信号およびインフェーズ信号を収集することができる。
【0066】
尚、サブシーケンスSS1に含まれるα°パルスの数mは、SATパルス50による静脈血の抑制効果が維持される時間などを考慮して決定することができる。例えば、m=200に設定することができる。
【0067】
サブシーケンスSS1を実行した後、次のサブシーケンスSS2が実行される。
【0068】
サブシーケンスSS2は、位相エンコードの傾斜磁場の磁場強度が異なる点を除いて、サブシーケンスSS1と同じである。したがって、サブシーケンスSS2でも、最初にSATパルス50が印加され、続いて、m個のα°パルス5u(u=1~m)が印加され、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72が収集される。
【0069】
以下同様に、サブシーケンスSSrが繰り返し実行される。本実施形態では、サブシーケンスSSrはa回繰り返される。サブシーケンスSS1~SSaを実行することにより、スラブ61の画像の再構成に必要な一連のMR信号を収集することができる。aの値は、例えば、a=10とすることができる。
【0070】
スラブ61のデータ収集が終了したら、次のスラブ62のデータを収集するためのパルスシーケンスPS2が実行される。パルスシーケンスPS2は、パルスシーケンスPS1と同様に、a個のサブシーケンスSSr(r=1~a)を有している。しかし、パルスシーケンスPS2は、図7に示すように、α°パルスがスラブ62を励起し、SATパルスがスラブ62に隣接する領域162を励起するように設計されている点が、パルスシーケンスPS1とは異なっている。したがって、パルスシーケンスPS2を実行することにより、静脈血を抑制しながらスラブ62の画像再構成に必要なデータを収集することができる。
【0071】
以下同様に、残りのスラブ63~66のデータを収集するためのパルスシーケンスPS3~PS6が順に実行される。
【0072】
パルスシーケンスPS3~PS6は、パルスシーケンスPS1と同様に、a個のサブシーケンスSS1~SSaを有している。しかし、α°パルスおよびSATパルスは、パルスシーケンスPS1とは異なるように設計されている。具体的には、パルスシーケンスPS3~PS6は、以下のように設計されている。
【0073】
パルスシーケンスPS3は、α°パルスがスラブ63を励起し、SATパルスがスラブ63に対してSI方向のS側においてスラブ63に隣接する領域を励起するように設計されている。
【0074】
パルスシーケンスPS4は、α°パルスがスラブ64を励起し、SATパルスがスラブ64に対してSI方向のS側においてスラブ64に隣接する領域を励起するように設計されている。
【0075】
パルスシーケンスPS5は、α°パルスがスラブ65を励起し、SATパルスがスラブ65に対してSI方向のS側においてスラブ65に隣接する領域を励起するように設計されている。
【0076】
パルスシーケンスPS6は、α°パルスがスラブ66を励起し、SATパルスがスラブ66に対してSI方向のS側においてスラブ66に隣接する領域を励起するように設計されている。
【0077】
したがって、パルスシーケンスPS1~PS6を実行することにより、スラブ61~66から画像再構成に必要なデータを収集することができる。
【0078】
制御ユニット25(図1参照)は、上記のパルスシーケンスPS1~PS6が実行されるようにRF駆動ユニット22および傾斜磁場コイル駆動ユニット23を制御する。RF駆動ユニット22および傾斜磁場コイル駆動ユニット23を制御するため、制御ユニット25の記録媒体には1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、上記のパルスシーケンスPS1~PS6が実行されるようにRF駆動ユニット22および傾斜磁場コイル駆動ユニット23を制御する制御信号を生成するための動作を実行させる。
【0079】
パルスシーケンスPS1~PS6を実行することにより発生したアウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72は表面コイルユニット15で受信される。表面コイルユニット15は、受信したアウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72に対応するアナログ信号をデータ取得ユニット24に出力する。
【0080】
データ取得ユニット24は、表面コイルユニット15からのアナログ信号に基づいて、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72を表すデジタル信号を生成する。デジタル信号は、制御ユニット25に出力される。デジタル信号を生成した後、ステップST30に進む。
【0081】
ステップST30では、制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31のプロセッサが、データ取得ユニット24からのデジタル信号に基づいて、水画像および脂肪画像を生成する。ステップST30は、ステップST3およびST4を含んでいる。以下、ステップST3およびST4について説明する。
【0082】
ステップST3では、制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31のプロセッサが、データ取得ユニット24からのデジタル信号に基づいて、インフェーズ画像およびアウトオブフェーズ画像を生成する処理を実行する。制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31の記録媒体には、インフェーズ画像およびアウトオブフェーズ画像を生成するための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、インフェーズ画像およびアウトオブフェーズ画像を生成するための動作を実行させる。インフェーズ画像およびアウトオブフェーズ画像を生成した後、ステップST4に進む。
【0083】
ステップST4では、制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31のプロセッサが、ステップST3で生成したインフェーズ画像およびアウトオブフェーズ画像に対して水脂肪分離技術を適用し、水画像Waおよび脂肪画像Faを生成する動作を実行する。制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31の記録媒体には、水画像Waおよび脂肪画像Faを生成するための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、水画像Waおよび脂肪画像Faを生成するための動作を実行させる。水画像Waは、式(5)に従って生成することができ、脂肪画像Faは式(6)に従って生成することができる。尚、式(5)および(6)の右辺に含まれるρの値は、水のプロトンが支配的である場合は、ρ=1であり、脂肪のプロトンが支配的である場合、ρ=-1である。水脂肪分離技術では、例えば、B0マップを用いることができる。水画像Waおよび脂肪画像Faを生成した後、ステップST5に進む。
【0084】
ステップST5では、制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31のプロセッサが、水画像Waと、インフェーズ信号の信号強度|Iin|と、アウトオブフェーズ信号の信号強度|Iout|とを合成して、血管画像Cを生成する。制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31の記録媒体には、血管画像Cを生成するための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶されている。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、血管画像Cを生成するための動作を実行させる。
【0085】
血管画像Cは、先に説明した式(9)を用いて求めることができる。インフェーズ信号の信号強度|Iin|の値は、ステップST3で生成したインフェーズ画像のボクセル値を用いることができ、アウトオブフェーズ信号の信号強度|Iout|は、ステップST3で生成したアウトオブフェーズ画像のボクセル値を用いることができる。
このようにして、血管画像Cを生成したら、図2に示すフローを終了する。
【0086】
本実施形態では、血管画像Cは、Waと|Iin|と|Iout|との複合画像である。先に説明したように、スワップが発生していない場合、式(9)で血管画像Cを求めることにより、スワップが発生していない理想的な水画像Wbに対してボクセル値が3倍の画像、すなわち、3Wbのボクセル値を有する血管画像Cを得ることができる。一方、スワップが発生したとしても、式(9)で血管画像Cを求めることにより、スワップが発生していない理想的な水画像Wbに対して|Iin|が加算されるので、血管の欠損が低減された血管画像を得ることができる。したがって、水のプロトンと脂肪のプロトンとのスワップが発生しているか否かにかかわらず、血管の欠損が低減された血管画像Cを得ることができる。
【0087】
また、本実施形態ではρ=1(スワップが発生していない場合)であっても、ρ=-1(スワップが発生した場合)であっても、血管画像Cは、スワップが発生していない理想的な水画像Wbよりも、少なくとも|Iin|だけ大きい値を有することができる(式(7)’および(8)’参照)。したがって、ρの真の値がρ=1であるボクセルに対して、ρ=-1であると誤って判定した場合であっても、理想的な水画像Wbに|Iin|だけ大きい値を有する血管画像Cを得ることができるので、血管の欠損が低減された血管画像を得ることができる。このため、本実施形態では、ρの判定精度の良否の影響を受けにくいロバストな血管画像生成方法を提供することができる。
【0088】
尚、本実施形態では、動脈の血管画像を生成する例について説明したが、本発明は、静脈の血管画像を生成する場合にも適用することが可能である。
【0089】
尚、本実施形態では、本発明の原理を理解しやすくするために、各パルスシーケンスPSj(j=1~6)が、SATパルス50とα°パルス5u(u=1~m)とを含むサブシーケンスSSr(r=1~a)を含む例について取り上げている(図5参照)。しかし、本発明において実行されるパルスシーケンスは、上記の例に限定されることはない。以下に、本発明の他の実施形態におけるパルスシーケンスの基本的な構成について説明する。
【0090】
図8は、本発明の他の実施形態におけるパルスシーケンスの基本的な構成の説明図である。
各パルスシーケンスPSjは、a個のサブシーケンスSSr(r=1~a)を含んでいる。各サブシーケンスSSrは、プレパレーションパルス部81と、ディクソン法を利用したデータ収集シーケンス部82と、待ち時間83とを含んでいる。
【0091】
プレパレーションパルス部81は、背景に対する特定の組織のコントラストを強調したり、背景組織の信号を抑制したり、アーチファクトを抑制するために印加される1つ以上のプリパレーションパルスを含んでいる。プリパレーションパルスは、例えば、SATパルス、DE(Driven Equilibrium)パルス(例えば、T2prep)、IR(Inversion Recovery)パルス、DIR(Double Inversion Recovery)パルス、ナビゲータパルス、脂肪抑制パルス(例えば、Fat Sat)、磁化移動強調(MT)パルスである。先に説明した実施形態(図5参照)は、プリパレーションパルス部81がSATパルス50を含む例に相当する。
【0092】
データ収集シーケンス部82は、multi-point Dixon(マルチポイントディクソン)法を利用してデータを収集するためのパルスを含んでいる。図8では、隣り合うα°パルスの間に、エコー時間TEが異なるn個のMR信号qi(i=1~n)を収集するn-point Dixon法を利用した例が示されている。したがって、表面コイルユニット15は、エコー時間TEが異なるn個のMR信号q1、q2、・・・、qnを受信する。例えば、n=3、すなわち、3-point Dixon(3ポイントディクソン)法でデータ収集する場合、表面コイルユニット15は、MR信号q1、q2、およびq3を受信する。また、n=2、すなわち、2-point Dixon(2ポイントディクソン)法でデータ収集する場合、表面コイルユニット15は、MR信号q1およびq2を受信する。先に説明した実施形態(図5参照)は、2-point Dixon法によりMR信号q1およびq2(すなわち、アウトオブフェーズ信号71およびインフェーズ信号72)を収集する例に相当する。
【0093】
待ち時間83は、サブシーケンスSSrのデータ収集シーケンス部82が終了してから、次のサブシーケンスSSr+1の実行が開始されるまでに、スピンの縦磁化を回復させるために設けられた時間である。待ち時間83は、ゼロにすることも可能である。
【0094】
上記のサブシーケンスSSrをa回繰り返し実行することにより、1つのスラブの3D画像を再構成するために必要なデータを収集することができる。
【0095】
制御ユニット25は、各スラブからMR信号を収集するためにパルスシーケンスPSjが繰り返し実行されるように、傾斜磁場コイル駆動ユニット23およびRF駆動ユニット22を制御するための制御信号を生成する。したがって、各スラブの画像再構成に必要なデータを収集することができる。
【0096】
図8に示すパルスシーケンスPSjによって得られたデータに基づいて生成される血管画像は、以下の式で表すことができる。

C={a0*Wa + a1*|Iq1| + a2*|Iq2| + a3*|Iq3|+…+an*|Iqn|}/A・・(10)
ただし、A=a0+ a1+ a2 + a3…+ an

ここで、 C:血管画像
Wa:水画像
|Iqi|(i=1~n):n個のMR信号q1、q2、・・・qnのうちの、i番目に発生するMR信号qiの信号強度
ai(i=0~n):係数
【0097】
血管画像Cは、水画像Waと各MR信号の信号強度|Iqi|とを合成することにより得られる画像である。Aは、係数ai(a0~an)の加算値である。係数aiの値は、抑制したい背景組織のT1値、T2値などに基づいて決定することができる。
【0098】
先に説明した実施形態(図5参照)は、式(10)において、a0=a1=a2=1、a3~an=0、|Iq1|=|Iout|、|Iq2|=|Iin|の例に相当する。
【0099】
式(10)を用いて血管画像Cを生成する場合、制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31の記録媒体には、式(10)を用いて血管画像Cを生成するための1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムが記憶される。この命令又はプログラムは、1つ以上のプロセッサに、式(10)を用いて血管画像Cを生成するための動作を実行させる。制御ユニット25および/又はデータ処理ユニット31のプロセッサは、1つ以上の命令又は1つ以上のプログラムを実行することにより、式(10)を用いて血管画像Cを生成する動作を実行することができる。
【0100】
次に、本実施形態の効果を明確にするために、水画像と血管画像とを生成し、これらの画像を比較した。以下に、画像の比較結果について説明する。
【0101】
図9は、水画像の一例と、血管画像の一例を示す図である。
水画像では、心臓の近傍の血管部分が欠損されていることが確認できる。一方、血管画像を参照すると、心臓の近傍の血管部分の欠損が改善されていることがわかる。
【符号の説明】
【0102】
10 MRI装置
12 超電導マグネットユニット
13 傾斜磁場コイルユニット
14 ボディコイルユニット
15 表面コイルユニット
16 撮影対象
18 撮影空間
20 T/Rスイッチ
22 RF駆動ユニット
23 傾斜磁場コイル駆動ユニット
24 データ取得ユニット
25 制御ユニット
31 データ処理ユニット
32 操作コンソールユニット
40 スカウト画像
50 SATパルス
61、62、63、64、65、66 スラブ
70 データ収集シーケンス部
71 アウトオブフェーズ信号
72 インフェーズ信号
81 プレパレーションパルス部
82 データ収集シーケンス部
83 待ち時間
161、162 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-12-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項5
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項5】
前記血管画像が、動脈の血管画像であり、
前記プリパレーションパルスが、ラブに隣接する領域内を流れる静脈血の磁化を消失させるためのSATパルスである、請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
オペレータによって操作され、前記撮影部位に前記スラブを設定するための操作信号を入力する入力装置を含み、
前記プロセッサが、前記領域を位置決めする動作を実行する、請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項8
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項8】
前記入力装置から、前記撮影部位に複数のスラブを設定するための操作信号が入力され、
前記プロセッサが、各スラブに対して、前記領域を位置決めする動作を実行し、
前記制御ユニットが、前記複数のスラブからMR信号を収集するために前記パルスシーケンスが繰り返し実行されるように、前記第1の駆動部および前記第2の駆動部を制御するための制御信号を生成する、請求項に記載の磁気共鳴イメージング装置。