(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023092784
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】紙製容器、および、紙カップ
(51)【国際特許分類】
B65D 3/22 20060101AFI20230627BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20230627BHJP
B65D 3/06 20060101ALI20230627BHJP
B65D 3/28 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B65D3/22 B
B32B27/10
B65D3/06 B
B65D3/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021207997
(22)【出願日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晃
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17C
4F100AA19C
4F100AK01B
4F100AK04
4F100AK04B
4F100AK41D
4F100AK41E
4F100AL07D
4F100AL07E
4F100AR00C
4F100AT00D
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG10A
4F100EH17
4F100EH23
4F100GB16
4F100JB16B
4F100JD02C
4F100JK02D
4F100JK02E
4F100YY00D
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】バリア層におけるバリア性の低下を抑えることを可能とした紙製容器、および、紙カップを提供する。
【解決手段】紙カップは、積層材20から形成される。紙カップは、内容物の収容空間を画定する内面を備え、内面の一部に積層材20の屈曲部を備える。積層材20は、紙層21と、紙層21よりも紙カップの内側に位置する内層22とを備える。内層22は、内面の一部を備える熱可塑性樹脂層22A、および、紙層21と熱可塑性樹脂層22Aとの間に位置するバリアフィルム層22Bを備える。バリアフィルム層22Bは、バリア層22B1と基材層22B2との積層体である。バリア層22B1は、無機酸化物層を備える。基材層22B2は、バリア層22B1と接するポリエステル層を含む。ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層材から形成される紙製容器であって、
内容物の収容空間を画定する内面と、
前記内面内に位置する前記積層材の屈曲部を備え、
前記積層材は、紙層と、前記紙層よりも前記紙製容器の内側に位置する内層と、を備え、
前記内層は、前記内面の一部を備える熱可塑性樹脂層、および、前記紙層と前記熱可塑性樹脂層との間に位置するバリアフィルム層を備え、
前記バリアフィルム層は、バリア層と基材層との積層体であり、
前記バリア層は、無機酸化物層を備え、
前記基材層は、前記バリア層と接するポリエステル層を含み、
前記ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下である
紙製容器。
【請求項2】
前記バリア層は、前記基材層よりも内側に位置する
請求項1に記載の紙製容器。
【請求項3】
前記ポリエステル層は、第1ポリエステル層であり、
前記基材層は、第2ポリエステル層をさらに備え、
第2ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下である
請求項1または2に記載の紙製容器。
【請求項4】
前記ポリエステル層は、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートから構成され、
前記イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートは、複数の繰り返し単位から構成され、
前記複数の繰り返し単位は、イソフタル酸を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の紙製容器。
【請求項5】
筒状を有した胴部材と、
前記胴部材における一方の端部を塞ぎ、かつ、前記胴部材とともに内容物の収容空間を画定する内面を形成する底部材とを備える紙カップであって、
前記底部材は、底壁部と、前記底壁部の外縁に位置する屈曲部と、前記屈曲部において前記底壁部に対して折り曲げられた周壁部とを備え、
前記屈曲部は、前記内面内に位置し、
前記底部材は、積層材から形成され、
前記積層材は、紙層と、前記紙層よりも前記紙カップの内側に位置する内層と、を備え、
前記内層は、前記内面の一部を含む熱可塑性樹脂層、および、前記紙層と前記熱可塑性樹脂層との間に位置するバリアフィルム層を備え、
前記バリアフィルム層は、バリア層と基材層との積層体であり、
前記バリア層は、無機酸化物層を備え、
前記基材層は、前記バリア層と接するポリエステル層を含み、
前記ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下である
紙カップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製容器、および、紙カップに関する。
【背景技術】
【0002】
紙カップは、紙製容器の一例である。紙カップは、胴部材と、胴部材の一端を塞ぐ底部材とを備えている。胴部材および底部材は、積層材から形成されている。積層材において、最内層、バリア層、基材層、および、最外層が記載の順に重なっている。最内層は、紙カップの内面における一部を含んでいる。最外層は、紙カップの外面における一部を含んでいる。バリア層は、水蒸気、水、および、ガスなどに対するバリア機能を有する。バリア層は、例えばアルミニウムまたは酸化ケイ素などによって構成される無機化合物層と、当該層を支持する樹脂層とを備えている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、底部材は、底壁部、屈曲部、および、周壁部を備えている。底壁部は、円板状を有している。屈曲部は、底壁部の外縁に位置する円環状を有している。周壁部は、屈曲部において底壁部に対して交差する方向に折り曲げられている。そのため、底部材の成形に際して、積層材の一部が折り曲げられるから、当該一部において樹脂層が引き延ばされることによって樹脂層が変形し、これによって、樹脂層に支持された無機化合物層も変形する。そのため、底部材の屈曲部において無機化合物層が割れ、結果として、バリア層のバリア性が低下する場合がある。なお、こうした事情は、紙カップに限らず、屈曲部が内面内に位置する紙製容器において共通する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための紙製容器は、積層材から形成される。紙製容器は、内容物の収容空間を画定する内面と、前記内面内に位置する前記積層材の屈曲部を備える。前記積層材は、紙層と、前記紙層よりも前記紙製容器の内側に位置する内層と、を備える。前記内層は、前記内面の一部を備える熱可塑性樹脂層、および、前記紙層と前記熱可塑性樹脂層との間に位置するバリアフィルム層を備える。前記バリアフィルム層は、バリア層と基材層との積層体である。前記バリア層は、無機酸化物層を備える。前記基材層は、前記バリア層と接するポリエステル層を含む。前記ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下である。
【0006】
上記課題を解決するための紙カップは、筒状を有した胴部材と、前記胴部材における一方の端部を塞ぎ、かつ、前記胴部材とともに内容物の収容空間を画定する内面を形成する底部材とを備える。前記底部材は、底壁部と、前記底壁部の外縁に位置する屈曲部と、前記屈曲部において前記底壁部に対して折り曲げられた周壁部とを備える。前記屈曲部は、前記内面内に位置する。前記底部材は、積層材から形成される。前記積層材は、紙層と、前記紙層よりも前記紙カップの内側に位置する内層と、を備える。前記内層は、前記内面の一部を含む熱可塑性樹脂層、および、前記紙層と前記熱可塑性樹脂層との間に位置するバリアフィルム層を備える。前記バリアフィルム層は、バリア層と基材層との積層体である。前記バリア層は、無機酸化物層を備える。前記基材層は、前記バリア層と接するポリエステル層を含む。前記ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下である。
【0007】
上記紙製容器および紙カップによれば、ポリエステル層の引張降降伏応力が116MPaよりも高い場合に比べて、ポリエステル層の降伏点における応力が小さい傾向を有する。そのため、ポリエステル層が、塑性変形しやすい。ポリエステル層が塑性変形して以降は、ポリエステル層にさらなる応力が生じても、ポリエステル層の変形が生じにくい。それゆえに、ポリエステル層に接するバリア層の変形も生じにくい。結果として、バリア層の変形に起因したバリア層におけるバリア性の低下を抑えることが可能である。
【0008】
上記紙製容器において、前記バリア層は、前記基材層よりも内側に位置してもよい。この紙製容器によれば、バリア層が基材層よりも外側に位置する場合に比べて、バリア層によって透過が抑えられる物質であるバリア対象が、収容空間から基材層に向けて透過することが抑えられる。これにより、バリア対象の透過に起因した基材層の劣化を抑えることが可能である。
【0009】
上記紙製容器において、前記ポリエステル層は、第1ポリエステル層であり、前記基材層は、第2ポリエステル層をさらに備え、第2ポリエステル層の引張降伏応力は、116MPa以下であってもよい。
【0010】
上記紙製容器によれば、両方のポリエステル層において引張降伏応力が116MPa以下であるから、積層材がポリエステル層を2層備える場合において、バリア層の変形に起因したバリア層におけるバリア性の低下を抑えることができる。
【0011】
上記紙製容器において、前記ポリエステル層は、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートから構成され、前記ポリエステルは、複数の繰り返し単位から構成され、前記複数の繰り返し単位は、イソフタル酸を含んでもよい。この紙製容器によれば、再生されたイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを含むポリエステル層を用いることが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バリア層におけるバリア性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】紙カップの一部を破断した構造を示す一部断面図。
【
図2】紙カップを形成する積層材の構造における第1例を示す断面図。
【
図3】紙カップを形成する積層材の構造における第2例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から
図12を参照して、紙製容器の一実施形態である紙カップを説明する。
[紙カップの構造]
図1を参照して、紙カップの構造を説明する。
【0015】
図1が示すように、紙カップ10は、胴部材11と底部材12とを備えている。胴部材11は、筒状を有している。底部材12は、胴部材11における一方の端部を塞いでいる。底部材12は、胴部材11とともに内容物の収容空間を画定する内面10Sを形成している。底部材12は、底壁部12A、屈曲部12B、および、周壁部12Cを備えている。屈曲部12Bは、底壁部12Aの外縁に位置している。周壁部12Cは、屈曲部12Bにおいて底壁部12Aに対して折り曲げられている。屈曲部12Bは、内面10S内に位置している。
【0016】
図1が示す例では、胴部材11は円筒状を有している。胴部材11において、底部材12によって塞がれた端部に対して、反対側の端部が拡径されている。胴部材11は、側壁部11A、トップカール部11B、および、折り返し部11Cを備えている。側壁部11Aは、円筒状を有している。トップカール部11Bは、底部材12によって塞がれた端部とは反対側の端部に位置している。折り返し部11Cは、底部材12によって塞がれた端部に位置している。折り返し部11Cは、側壁部11Aに対して紙カップ10の内側に位置するように折り曲げられている。
【0017】
底部材12は、円板状を有している。底壁部12Aは、底部材12と同様に、円板状を有している。屈曲部12Bは、底壁部12Aの全周にわたる円環状を有している。周壁部12Cは、屈曲部12Bと同様に、底壁部12Aの全周にわたる円環状を有している。周壁部12Cは、屈曲部12Bにおいて底壁部12Aに対して交差する方向に折り曲げられている。底部材12の周壁部12Cが、胴部材11の側壁部11Aと折り返し部11Cとの間に固定されている。底部材12は、積層材から形成されている。図面を参照して、積層材の構造を以下に説明する。
【0018】
[積層材の構造]
図2および
図3を参照して、紙カップ10を形成するための積層材の構造を説明する。紙カップ10を製造する際には、まず、胴部材11を形成するための胴用ブランクと、底部材12を形成するための底用ブランクとが積層材から切り出される。次いで、胴用ブランクから胴部材11が成形され、かつ、底用ブランクから底部材12が成形される。そして、胴部材11に底部材12が取り付けられることによって、紙カップ10が製造される。以下では、少なくとも底用ブランクに用いられる積層材の構造における第1例および第2例を順に説明する。なお、以下に説明する積層材は、胴用ブランクに用いられてもよい。
【0019】
図2が示すように、積層材20の第1例は、紙層21と内層22とを備えている。内層22は、積層材20から形成された底部材12が胴部材11に固定されている状態において、紙層21よりも紙カップ10の内側に位置している。なお、本実施形態において、内側とは、紙カップ10の収容空間を画定する内面10Sからの距離が相対的に小さいことを意味する。内層22は、熱可塑性樹脂層22Aと、バリアフィルム層22Bとを備えている。熱可塑性樹脂層22Aは、内面10Sの一部を含んでいる。バリアフィルム層22Bは、紙層21と熱可塑性樹脂層22Aとの間に位置している。バリアフィルム層22Bは、バリア層22B1と基材層22B2との積層体である。バリア層22B1は、無機酸化物層を備えている。基材層22B2は、バリア層22B1と接するポリエステル層を含んでいる。バリア層22B1は、基材層22B2よりも内側に位置している。
【0020】
積層材20は、第1面20F1と、第1面20F1とは反対側の面である第2面20F2とを備えている。第1面20F1は、紙カップ10の内面10Sにおける一部を含んでいる。積層材20の厚さは、例えば300μm以上600μm以下であってよい。
【0021】
紙層21は、紙カップ10の成形に対する適性の高い紙カップ原紙であってよい。成形に対する適性を高める観点では、紙層21の坪量は、例えば200g/m2以上350g/m2以下であってよい。紙層21の厚さは、例えば0.15mm以上0.4mm以下であってよく、0.18mm以上0.3mm以下であることが好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂層22Aは、例えばポリエチレン(以下、PEとも言う)から構成されてよい。PEは、低密度PE、中密度PE、高密度PE、直鎖状低密度PEなどであってよい。熱可塑性樹脂層22Aの厚さは、例えば15μm以上60μm以下であってよい。
【0023】
バリア層22B1は、バリア層22B1を介した気体の透過を抑える機能を有している。バリア層22B1によって透過の抑えられる気体が、バリア対象である。バリア層22B1は、例えば酸素ガスの透過を抑える機能を有している。上述したように、バリア層22B1は無機酸化物層を含んでいる。無機酸化物が含む無機物は、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどであってよい。無機酸化物層の厚さは、例えば5nm以上300nm以下であってよい。
【0024】
バリア層22B1の厚さに均一性が要求される場合には、バリア層22B1の厚さは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。積層材20の折り曲げに起因した亀裂の発生をより抑えることがバリア層22B1に要求される場合には、バリア層22B1の厚さは、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。
【0025】
無機酸化物膜の形成方法は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、および、プラズマ気相成長法(CVD)などであってよい。
バリア層22B1は、無機酸化物層に加えて、例えばケイ素化合物層を備えてよい。ケイ素化合物層は、水溶性高分子とケイ素化合物とを含んでいる。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどであってよい。
【0026】
ケイ素化合物は、例えば、Si(OR1)4または、R2Si(OR3)3によって表されるケイ素化合物、または、当該ケイ素化合物の加水分解物であってよい。ケイ素化合物を表す化学式において、OR1およびOR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である。無機化合物は、1種以上のケイ素化合物、または、当該ケイ素化合物の加水分解物を含んでよい。Si(OR1)4は、例えばテトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)(TEOS)であってよい。TEOSは、加水分解後において、水系の溶媒中にて比較的安定である点で好ましい。また、R2Si(OR3)3が含むR2は、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、および、イソシアネート基から構成される群から選択されることが好ましい。
【0027】
図2が示す基材層22B2は、ポリエステル層としてイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(以下、イソフタル酸変性PETとも言う)層のみを備えている。イソフタル酸変性PET層は、以下の条件1を満たす。
【0028】
(条件1)引張降伏応力が、116MPa以下である。
イソフタル酸変性PET層を構成するイソフタル酸変性PETの繰り返し単位は、ジオール単位とジカルボン酸単位とを含む。イソフタル酸変性PET層を構成するイソフタル酸変性PETは、ジカルボン酸単位中にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むPETを含む。底部材12を柔らかくし、これによって紙カップ10におけるバリア性の低下を抑制することがさらに要求される場合には、イソフタル酸変性PET層における全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、0.5モル%以上であることが好ましい。紙カップ10における形状の安定性が要求される場合には、全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合は、5モル%以下であることが好ましい。
【0029】
紙カップ10に対して環境負荷の抑制が要求される場合には、イソフタル酸変性PET層を構成するイソフタル酸変性PETは、再生されたPETであるリサイクルPETを含むことが可能である。リサイクルの対象となるPET製品は、使用済みペットボトルを含む。イソフタル酸変性PET層を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルにより再生されたPET、および、ケミカルリサイクルにより再生されたPETの少なくとも一方である。
【0030】
メカニカルリサイクルでは、粉砕したPET製品を洗浄し、これによって表面の汚れおよび異物などを取り除いた後、樹脂を高温下に曝すことによって、樹脂内部に留まっている汚染物質を除去する。ケミカルリサイクルでは、粉砕したPET製品を洗浄し、これによって表面の汚れおよび異物などを取り除いた後、解重合によって樹脂を中間原料まで戻す。そして、当該中間原料を精製した後に再重合することによって、PETを生成する。
【0031】
製造コストおよび環境負荷の抑制が紙カップ10に対してさらに要求される場合には、イソフタル酸変性PET層を構成するリサイクルPETは、メカニカルリサイクルによって再生されたPETであることが好ましい。メカニカルリサイクルは、ケミカルリサイクルと比べて化学反応のための大掛かりな設備を要しないため、リサイクルPETの製造に要する製造コストおよび環境負荷が小さい。
【0032】
イソフタル酸変性PET層の構成材料は、リサイクルPETに加えて、バージンPETを含んでもよいし、リサイクルPET以外のポリエステルを含んでもよい。バージンPETは、石油などの原料から新規に合成されたPETである。PET層を構成するリサイクルPETの質量における割合は、イソフタル酸変性PET層の総質量に対する60%以上100%以下であることが好ましい。
【0033】
バージンPETのジオール単位はエチレングリコールであり、バージンPETのジカルボン酸単位はテレフタル酸である。これに対して、ペットボトルを構成するPETの原料であるジカルボン酸は、ボトルの成形に際して樹脂の加工性を向上させるために、テレフタル酸に加えてイソフタル酸を含む。
【0034】
イソフタル酸は、ジカルボン酸がテレフタル酸のみからなるPETと比べてイソフタル酸変性PETの主鎖を短くするため、イソフタル酸変性PETの結晶化が抑えられ、これによってイソフタル酸変性PETの加工性が高められる。ペットボトルを構成するPETのジオール単位は、エチレングリコールに加えて、ジエチレングリコールを含んでもよいし、エチレングリコールのみでもよい。
【0035】
イソフタル酸変性PET層を構成するイソフタル酸変性PETの平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1000以上100万以下の範囲に含まれることが好ましい。なお、イソフタル酸変性PET層を構成する材料は、イソフタル酸変性PET以外の樹脂、および、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば可塑剤、着色防止剤、耐電防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、消臭剤、抗酸化剤などであってよい。
【0036】
イソフタル酸変性PET層は、1つの層から構成されていてもよいし、複数の層から構成される積層体であってもよい。イソフタル酸変性PET層が積層体である場合には、積層体の少なくとも1つの層は、ジカルボン酸単位中にテレフタル酸とイソフタル酸とを含むイソフタル酸変性PETを含む。
【0037】
イソフタル酸変性PET層を構成する材料は、リサイクルPETおよびバージンPET以外のポリエステルを含んでもよい。リサイクルPETおよびバージンPET以外のポリエステルは、例えば、鎖状脂肪族カルボン酸および環状脂肪族カルボン酸などをカルボン酸単位とするポリエステルである。
【0038】
紙カップ10に耐久性および耐衝撃性が要求される場合には、イソフタル酸変性PET層の厚さは、3μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。紙カップ10に加工性が要求される場合には、イソフタル酸変性PET層の厚さは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0039】
イソフタル酸変性PET層の形成方法には、押出成形などのフィルム形成方法を用いることができる。押出成形における冷却には、冷却ロール、空気冷却、および、水冷却などの方法を用いることができる。イソフタル酸変性PET層は、延伸されたフィルムでもよいし、無延伸のフィルムでもよい。イソフタル酸変性PET層の延伸方法には、一軸延伸または二軸延伸などの方法を用いることができる。
【0040】
なお、
図2が示す例では、バリアフィルム層22Bにおいて、バリア層22B1が基材層22B2よりも内側に位置しているが、基材層22B2がバリア層22B1よりも内側に位置してもよい。ただし、バリア層22B1が基材層22B2よりも内側に位置する場合には、バリア層22B1が基材層22B2よりも外側に位置する場合に比べて、バリア対象が、収容空間から基材層22B2に向けて透過することが抑えられる。これにより、バリア対象の透過に起因した基材層22B2の劣化を抑えることが可能である。
【0041】
図3が示すように、積層材20の第2例では、基材層22B2が複数の層を備えている。基材層22B2は、第1ポリエステル層B21および第2ポリエステル層B22を含む。積層材20は、第1熱可塑性樹脂層B23および第2熱可塑性樹脂層B24をさらに含んでいる。第1ポリエステル層B21は、積層材20の第1例が備えるイソフタル酸変性PET層と同等の構成である。すなわち、第1ポリエステル層B21は、上述した条件1を満たす。第2ポリエステル層B22は、第1ポリエステル層B21と同等の構成であってもよい。すなわち、第2ポリエステル層B22は、イソフタル酸変性PETから構成され、かつ、上述した条件1を満たしてもよい。
【0042】
第1ポリエステル層B21は、第2ポリエステル層B22よりも内側に位置している。第1ポリエステル層B21は、バリア層22B1に接している。なお、第1ポリエステル層B21および第2ポリエステル層B22が条件1を満たしていれば、第1ポリエステル層B21の引張降伏応力は、第2ポリエステル層B22の引張降伏応力よりも小さくてもよいし、第2ポリエステル層B22の引張降伏応力よりも大きくてもよい。また、第1ポリエステル層B21の引張降伏応力は、第2ポリエステル層B22の引張降伏応力と等しくてもよい。
【0043】
一方で、第2ポリエステル層B22の引張降伏応力は、以下の条件2を満たしてもよい。
(条件2)引張降伏応力が、116MPaよりも大きい。
【0044】
この場合には、第2ポリエステル層B22は、バージンPETから構成される。上述したように、バージンPETのジオール単位はエチレングリコールであり、バージンPETのジカルボン酸単位はテレフタル酸である。なお、第2ポリエステル層B22は、1つの層から構成されてもよいし、複数の層から構成される積層体であってもよい。第2ポリエステル層B22が積層体である場合には、積層体の各層は、バージンPETから構成される。
【0045】
第1熱可塑性樹脂層B23および第2熱可塑性樹脂層B24は、第2ポリエステル層B22よりも外側に位置し、かつ、第1熱可塑性樹脂層B23は、第2熱可塑性樹脂層B24よりも内側に位置している。第1熱可塑性樹脂層B23および第2熱可塑性樹脂層B24は、上述した熱可塑性樹脂層22Aと同様に、例えばPEから構成されてよい。PEは、低密度PE、中密度PE、高密度PE、直鎖状低密度PEなどであってよい。各熱可塑性樹脂層B23,B24の厚さは、例えば10μm以上30μm以下であってよい。
【0046】
積層材20は、熱可塑性樹脂層23をさらに備えている。熱可塑性樹脂層23は、紙層21の外側に位置している。熱可塑性樹脂層23は、上述した熱可塑性樹脂層22Aと同様に、例えばPEから構成されてよい。PEは、低密度PE、中密度PE、高密度PE、直鎖状低密度PEなどであってよい。熱可塑性樹脂層23の厚さは、例えば10μm以上100μm以下であってよい。
【0047】
なお、
図3が示す例では、バリアフィルム層22Bにおいて、バリア層22B1が第1ポリエステル層B21よりも内側に位置しているが、第1ポリエステル層B21がバリア層22B1よりも内側に位置してもよい。この場合には、バリア層22B1が、第1ポリエステル層B21と第2ポリエステル層B22とに挟まれている。
【0048】
[底部材の成形方法]
図4から
図7を参照して、底部材12の構造および成形方法を説明する。
図4は、底部材12の断面構造を示している。
【0049】
図4が示すように、また上述したように、底部材12は、底壁部12A、屈曲部12B、および、周壁部12Cを備えている。底壁部12Aが広がる平面と対向する視点から見て、底壁部12Aは円板状を有し、かつ、屈曲部12Bは、底壁部12Aの外縁に沿う円環状を有している。周壁部12Cは、屈曲部12Bから立ち上がる円筒状を有している。
【0050】
底部材12が胴部材11に取り付けられている状態において、底部材12を構成する積層材20は、屈曲部12Bにおいて内面10Sから離れる方向に向けて折り曲げられている。積層材20は、第2面20F2の一部が周壁部12Cの内周面であり、かつ、第1面20F1の一部が周壁部12Cの外周面であるように、屈曲部12Bにおいて折り曲げられている。言い換えれば、第1面20F1の一部が、第1面20F1の他の一部と対向するように、積層材20が折り曲げられている。
【0051】
図5から
図7の各々は、底部材12の成形方法を説明するための工程図である。なお、
図5から
図7の各々では、底部材12を成形するための装置が模式的に示されている。
図5が示すように、成形装置30は、下側部材31、第1上側部材32、第2上側部材33、および、第3上側部材34を備えている。下側部材31は、貫通孔を有している。貫通孔は、第1孔部分31A1と第2孔部分31A2とによって形成されている。第1孔部分31A1は、上側部材32,33,34に対向する開口を有している。第1孔部分31A1の直径は、第2孔部分31A2の直径よりも大きい。
【0052】
第1上側部材32は、円環状を有している。第2上側部材33は、第1上側部材32と同心の円環状を有している。第2上側部材33は、第1上側部材32の貫通孔32A内に位置している。第3上側部材34は、第2上側部材33と同心の円筒状を有している。第3上側部材34は、第2上側部材33の貫通孔内に位置している。
【0053】
積層材20から底部材12を成形する際には、まず、下側部材31と第1上側部材32との間に積層材20を挟む(
図5参照)。この際に、積層材20の第2面20F2が上側部材32,33,34に接するように、積層材20を配置する。次いで、第1孔部分31A1に向けて第2上側部材33および第3上側部材34を降下させることによって、積層材20を円板状に切り抜く(
図6参照)。これにより、底用ブランクが得られる。そして、第3上側部材34を第2孔部分31A2に向けて降下させることによって積層材20を折り曲げ、これによって、底部材12を成形する(
図7参照)。
【0054】
そのため、屈曲部12Bにおいて、積層材20が引き延ばされる。屈曲部12Bにおいて、積層材20は折り曲げられる以前の長さに対して10%以上20%以下の範囲に含まれる分だけ引き延ばされる。これにより、屈曲部12Bでは、PET層が塑性変形する。しかも、積層材20の第2面20F2が第3上側部材34に接する状態で積層材20が折り曲げられるから、第2面20F2に対して第1面20F1がより引き延ばされる。
【0055】
図2が示す積層材20において、基材層22B2がバリア層22B1よりも内側に位置する場合には、基材層22B2がバリア層22B1よりも外側に位置する場合に比べて、基材層22B2が引き延ばされやすい。そのため、基材層22B2に生じる応力が降伏点に達しやすい。それゆえに、基材層22B2が塑性変形しやすいから、ひいては、バリア層22B1が変形しにくくなる。なお、
図3が示す積層材20において第1ポリエステル層B21がバリア層22B1よりも内側に位置する場合にも、
図2が示す積層材20において基材層22B2がバリア層22B1よりも内側に位置する場合と同等の効果を得ることができる。
【0056】
[イソフタル酸変性PET層の引張降伏応力]
図8は、イソフタル酸変性PET層のみから形成された試験片に対する引張試験によって得られた応力‐ひずみ曲線の一例を示す。応力‐ひずみ曲線は、JIS K7161‐1:2014に準拠した引張試験に基づいて測定される。
図8が示す応力‐ひずみ曲線において、矢印によって示される降伏点Aでの応力が降伏応力である。なお、応力‐ひずみ曲線において、矢印によって示される破断点Bは試験片が破断する点であり、当該B点における応力が破断強度である。
【0057】
図8の原点から降伏点Aまでの範囲、すなわち、ひずみに対して応力が比例する範囲は、PET層が弾性変形する範囲である。弾性変形する範囲において、応力‐ひずみ曲前の傾きが大きいほどイソフタル酸変性PET層が硬い傾向を有し、応力‐ひずみ曲線の傾きが小さいほどイソフタル酸変性PET層が軟らかい傾向を有する。イソフタル酸変性PET層に対して降伏応力を超える圧力が印加されると、イソフタル酸変性PET層は塑性変形する。
【0058】
降伏点A以降において応力‐ひずみ曲線の傾きが大きいほど、イソフタル酸変性PET層は硬く、降伏点Aでのひずみと、破断点Bでのひずみとの差が小さい傾向を有する。一方で、降伏点A以降において応力‐ひずみ曲線の傾きが小さいほど、イソフタル酸変性PET層は軟らかく、降伏点Aでのひずみと、破断点Bでのひずみとの差が大きい傾向を有する。イソフタル酸変性PET層は、応力‐ひずみ曲線において、ひずみが0.4を超えた点において破断点Bを有することが多く、ひずみが0.4以下での傾きによって、イソフタル酸変性PET層の剛性における傾向を把握することが可能である。
【0059】
イソフタル酸変性PET層は、破断点Bでの破断強度が高いほど硬さが増す傾向を有し、破断強度が小さいほど粘り強さが増す傾向を有する。破断強度が高すぎるとイソフタル酸変性PET層が破断するときの応力の値は大きくなる一方で、イソフタル酸変性PET層が耐えることが可能なひずみが小さくなる傾向を有する。これに対して、破断強度が小さすぎるとイソフタル酸変性PET層が耐えることが可能なひずみが大きくなる一方で、イソフタル酸変性PET層が破断するときの応力の値が小さくなる傾向を有する。
【0060】
応力‐ひずみ曲線において、当該曲線によって囲まれる面積は、イソフタル酸変性PET層の衝撃エネルギーを吸収する能力を示している。応力‐ひずみ曲線によって囲まれる面積が小さいほど、イソフタル酸変性PET層は、脆性が高い、すなわち粘り強くない傾向を有する。これに対して、応力‐ひずみ曲線によって囲まれる面積が大きいほど、PET層は、脆性が低い、すなわち粘り強い傾向を有する。
【0061】
底部材12の成形過程では、積層材20を折り曲げる際に、底部材12の成形後において屈曲部12Bとなる部分に応力が生じる。条件1を満たすイソフタル酸変性PET層は柔らかいから、イソフタル酸変性PETが塑性変形するまでのひずみの大きさが小さい傾向を有する。すなわち、イソフタル酸変性PET層の応力‐ひずみ曲線の降伏点Aに達するまでの応力が小さい傾向を有する。上述したように、イソフタル酸変性PET層に生じる応力が降伏点Aに達するまでの間はイソフタル酸変性PET層が弾性変形する一方、降伏点Aに達するとイソフタル酸変性PET層は塑性変形する。
【0062】
そのため、イソフタル酸変性PETが降伏点Aに達するまでの間は、イソフタル酸変性PET層が引き延ばされる状態が維持されるから、イソフタル酸変性PET層が引き延ばされることに伴って、イソフタル酸変性PET層に接するバリア層22B1もイソフタル酸変性PET層の変形に追従してバリア層22B1も変形する。これにより、バリア層22B1のバリア性が低下しやすい。これに対して、イソフタル酸変性PET層が塑性変形して以降はイソフタル酸変性PET層には、イソフタル酸変性PET層の引き延ばしによる変形が生じにくいから、バリア層にも変形が生じにくい。
【0063】
この点、条件1を満たすイソフタル酸変性PET層は、降伏点Aに達するまでの応力が小さい傾向を有するから、底部材12の成形に際して、積層材20に含まれるイソフタル酸変性PET層がより早期に塑性変形しやすい。そのため、イソフタル酸変性PET層に接するバリア層22B1の変形が抑えられるから、バリア層22B1におけるバリア性の低下が抑えられ、結果として、底部材12を備える紙カップ10でのバリア性の低下が抑えられる。
【0064】
また、バリア性の低下を抑制することがさらに要求される場合には、イソフタル酸変性PET層は、イソフタル酸変性PETの応力‐ひずみ曲線において、以下の条件3および条件4を満たすことが好ましい。
【0065】
(条件3)降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲において、応力‐ひずみ曲線の傾きが75以上111以下の範囲に含まれる。
(条件4)流れ方向の破断強度が、153MPa以上183MPa以下である。
【0066】
条件3および条件4を満たすイソフタル酸変性PET層は、柔らかく、かつ、粘り強い。そのため、底部材12の成形時にバリアフィルム層22Bに作用し得る外力をイソフタル酸変性PET層の内部で消費し、これによって、紙カップ10におけるバリア性の低下がさらに抑制される。
【0067】
イソフタル酸変性PET層における降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度は、イソフタル酸変性PET層を押出成形する際の温度、押し出されたイソフタル酸変性PET層の前駆体を冷却する温度、当該前駆体を冷却する速度、および、イソフタル酸変性PET層を延伸する倍率などによって調整することが可能である。また、イソフタル酸変性PET層における降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度は、イソフタル酸変性PET層が含む全てのジカルボン酸単位に対するイソフタル酸の比によって調節することが可能である。
【0068】
例えば、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を高めることを要求される場合、イソフタル酸変性PET層を押し出し成形時の温度を高くする、あるいは、押し出されたイソフタル酸変性PET層の前駆体を冷却する温度を低くすることで調整可能である。また、降伏応力、降伏後の傾き、および、破断強度を低めることを要求される場合、前駆体の冷却速度を高くする、イソフタル酸変性PET層を延伸する倍率を大きくする、イソフタル酸変性PET層が含む全てのジカルボン酸単位に対するイソフタル酸の比を大きくすることで調整可能である。
【0069】
[イソフタル酸変性PET層の粘弾性]
条件1によってバリア性の低下を抑えながらも加工性を高めることがさらに要求される場合には、イソフタル酸変性PET層は、貯蔵弾性率G1と温度との関係を示す貯蔵弾性曲線において、以下の条件5を満たすことが好ましい。また、イソフタル酸変性PETは、損失弾性率G2と温度との関係を示す損失弾性曲線において、以下の条件6を満たすことが好ましい。また、イソフタル酸変性PETは、損失正接tanδと温度との関係を示すイソフタル酸変性PET層の損失正接曲線において、以下の条件7を満たすことが好ましい。
【0070】
(条件5)ガラス状態からゴム状態への転移温度T1が80℃以上88℃以下であり、かつ、当該転移温度における貯蔵弾性率G1が3.8GPa以上4.1GPa以下である。
【0071】
(条件6)ピーク位置の温度T2が95℃以上102℃以下であり、かつ、ピーク位置の損失弾性率G2が0.30GPa以上0.37GPa以下である。
(条件7)ピーク位置の温度T3での損失正接tanδが、0.160以上0.190以下である。
【0072】
イソフタル酸変性PET層の貯蔵弾性率G1は、外力によりイソフタル酸変性PET層に生じたエネルギーのうち、イソフタル酸変性PET層の内部に保存される成分を示す。イソフタル酸変性PET層の損失弾性率G2は、外力によりイソフタル酸変性PET層に生じたエネルギーのうち、外部に熱として拡散される成分を示す。貯蔵弾性率G1の大きさは、弾性の度合いを示し、損失弾性率G2の大きさは、粘性の度合いを示す。損失正接tanδは、貯蔵弾性率G1に対する損失弾性率G2の比(=G2/G1)であり、イソフタル酸変性PET層における弾性と粘性とのバランスを示す。
【0073】
弾性がイソフタル酸変性PET層で弱いほど、底部材12の成形時に印加された外力に対する反発が小さくなるから、底部材12の成形時に印加された外力に追従してイソフタル酸変性PET層が変形しやすくなる。すなわち、イソフタル酸変性PET層の加工性が高まる。
【0074】
粘性がイソフタル酸変性PET層で強いほど、外力の印加に対する変形の進行が緩やかになり、また、外力が解除されても変形が元に戻りにくくなる。すなわち、イソフタル酸変性PET層の加工性が高まる。損失弾性曲線におけるピーク位置の温度T2は、イソフタル酸変性PET層の粘性を顕著に示す温度である。損失弾性曲線におけるピーク位置の温度T2が低いほど、粘性に起因した柔軟性が発現しやすい。ただし、粘性がイソフタル酸変性PET層で過大であると、紙カップ10の加工性が低下し、また、紙カップ10の強度そのものも低下する。
【0075】
条件5における貯蔵弾性率G1の上限値を満たすイソフタル酸変性PET層は、弾性の寄与が過大となることを抑え、これによって、イソフタル酸変性PET層の加工性が高まる。条件5における貯蔵弾性率G1の下限値を満たすイソフタル酸変性PET層は、紙製容器としての適性が低下することを抑える。
【0076】
条件6における損失弾性率G2の下限値を満たすイソフタル酸変性PET層は、粘性に起因した柔軟性を良好に発揮し、これによって、イソフタル酸変性PET層の加工性が高まる。条件6における損失弾性率G2の上限値を満たすイソフタル酸変性PET層は、紙製容器としての適性が低下することを抑える。
【0077】
条件7における損失正接tanδの下限値を満たすイソフタル酸変性PET層は、イソフタル酸変性PET層での成形時に与えられる外力に対する追従性が高まるように、弾性体の性質に対する粘性体の性質を高め、これによりイソフタル酸変性PET層の加工性が高まる。条件7における損失正接tanδの上限値を満たすイソフタル酸変性PET層は、紙製容器としての適性が低下することを抑える。
【0078】
ガラス状態からゴム状態への転移温度T1、損失弾性曲線のピーク位置での温度T2、貯蔵弾性率G1、損失弾性曲線でのピーク位置の損失弾性率G2、および、損失正接曲線でのピーク位置の損失正接tanδは、イソフタル酸変性PET層の全ジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合などによって調整することが可能である。
【0079】
例えば、イソフタル酸変性PET層の粘性を強くすることが要求される場合には、イソフタル酸変性PET層の全ジカルボン単位に占めるイソフタル酸の割合を高くすることで調整が可能である。貯蔵弾性率G1を小さくすること、また、損失正接tanδを上げることが要求される場合には、イソフタル酸変性PET層の製造時における冷却温度を低くすることで調整が可能である。損失正接tanδを上げること、また、損失弾性率G2を上げることが要求される場合には、イソフタル酸変性PET層の製造時における冷却速度を高め、適度に結晶成長させつつ、非晶部分を残すことで調整が可能である。ガラス状態からゴム状態への転移温度T1を下げること、また、貯蔵弾性率G1を小さくすることが要求される場合には、イソフタル酸変性PET層の製造時における延伸倍率を小さくし、分子配向を抑制することで調整が可能である。
【0080】
[実施例]
図9を参照して、試験例、実施例、および、比較例を説明する。
[PET層]
[試験例1]
共押出しにより三層の樹脂層を積層して、12μmの厚さを有した試験例1のイソフタル酸変性PET層を形成した。この際に、メカニカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETであるイソフタル酸変性PETとバージンPETとから、互いに同一の組成を有した三層の樹脂層を形成した。
【0081】
試験例1のイソフタル酸変性PET層において、リサイクルPETであるイソフタル酸変性PETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する80%に設定し、バージンPETの質量を樹脂フィルムの総質量に対する20%に設定した。また、NMRの測定結果に基づいてリサイクルPETであるイソフタル酸変性PETにおける全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合を特定し、イソフタル酸変性PET層における全ジカルボン酸単位に占めるイソフタル酸の割合を0.5モル%以上5モル%以下に設定した。
【0082】
[試験例2]
2つの第1イソフタル酸変性PETフィルムの間に第2イソフタル酸変性PETフィルムを挟むように、3つのPETフィルムを積層し、12μmの厚さを有した積層体として、試験例2のPET層を形成した。試験例2の第1イソフタル酸変性PETフィルムは、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETであるイソフタル酸変性PETからなる。試験例2の第2イソフタル酸変性PETフィルムは、メカニカルリサイクルによって再生された80質量%のリサイクルPETであるイソフタル酸変性PETに、ケミカルリサイクルによって再生された20質量%のリサイクルPETであるイソフタル酸変性PETが混合されたフィルムである。イソフタル酸変性PET層が含有するリサイクルPETの質量における割合は、イソフタル酸変性PET層の総質量の100%である。
【0083】
[試験例3]
2つの第1PETフィルムの間に第2イソフタル酸変性PETフィルムを挟むように、3つのPETフィルムを積層し、12μmの厚さを有した積層体として、試験例3のPET層を形成した。試験例3の第1PETフィルムは、バージンPETからなる。試験例3の第2イソフタル酸変性PETフィルムは、ケミカルリサイクルによって再生されたリサイクルPETであるイソフタル酸変性PETからなる。試験例3のイソフタル酸変性PET層が含有するリサイクルPETの質量における割合は、イソフタル酸変性PET層の総質量の70%である。
【0084】
[試験例4]
PET層として、バージンPETからなる単層のPETフィルムを用いた。試験例4のPET層は、リサイクルPETを含まないPET層であり、繰り返し単位中のジカルボン酸単位がテレフタル酸のみであるポリエチレンテレフタレートからなる。試験例4のPET層の厚さは12μmである。
【0085】
[評価方法]
[降伏応力]
試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層および試験例4のPET層から、それぞれ3つの試験片を切り出した。この際に、JIS Z 1702‐1994に準拠したダンベルカッター((株)ダンベル、SDK‐600)を用いて、流れ方向に沿って延びる形状を有するように各試験片を切り出した。すなわち、各試験片の引っ張り方向がPET層の流れ方向に一致するように、PET層から試験片を切り出した。そして、各試験片に、伸び測定用の2本の標線を付した。
【0086】
小型卓上試験機(EZ‐LX、(株)島津製作所製)を用いて、試験片に対してJIS
K7161‐1:2014に準拠した方法を用いて引張試験を行った。この際に、各試験片を小型卓上試験機に固定し、標線を伸び計で挟んだ。また、試験速度を300mm/分に設定した。各試験例について1つの試験片における引張試験の結果に基づいて、応力‐ひずみ曲線を作成した。応力‐ひずみ曲線から降伏応力、破断強度、および、降伏後、かつ、ひずみが0.2以上0.4以下である範囲での傾きを得た。
【0087】
[動的弾性率]
試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層および試験例4のPET層から、それぞれ帯状の試験片を作製した。この際に、試験片の長さを20mmに設定し、試験片の幅を10mmに設定した。なお、イソフタル酸変性PET層およびPET層の形成時における流れ方向を試験片の長さ方向に設定した。熱機械分析装置(DMA7100、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて、各試験片における貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とを測定し、損失正接tanδを算出した。貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2とを測定時における条件を、以下のように設定した。
【0088】
周波数:10Hz
張力条件:歪振幅 10μm
:最小張力/圧縮力 50mN
:張力/圧縮力ゲイン 1.2
:力振幅初期値 50mN
加熱条件:昇温速度 2℃/min
:加熱温度 30℃以上180℃以下
【0089】
[評価結果]
[降伏応力]
図9を参照して、評価結果を説明する。
【0090】
図9が示すように、試験例1から試験例3の流れ方向での降伏応力は、それぞれ116.0MPa、115.0MPa、110.2MPaであり、いずれも条件1に示した116MPa以下の範囲内であり、かつ、109MPa以上の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の降伏応力は、124.8MPaであることが認められた。
【0091】
試験例1から試験例3の降伏後の傾きは、それぞれ77.3、110.5、84.2であり、いずれも75以上111以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の降伏後の傾きにおける平均値は、172.4であることが認められた。
【0092】
試験例1から試験例3の流れ方向での破断強度は、それぞれ170.9、176.4、159.6であり、いずれも153MPa以上183MPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の破断強度は、202.7MPaであることが認められた。
【0093】
[動的弾性率]
試験例1から試験例4について、貯蔵弾性率G1、損失弾性率G2、および、損失正接tanδの測定結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
なお、貯蔵弾性率G1の測定値は、
図10が示す貯蔵弾性曲線の転移温度T1、および、当該転移温度T1での貯蔵弾性率G1から得た。損失弾性率G2の測定値は、
図11が示す損失弾性曲線のピーク位置での温度T2、および、当該温度T2での損失弾性率G2から得た。損失正接tanδの測定値は、
図12が示す損失正接曲線のピーク位置での温度T3、および、当該温度T3での損失正接tanδから得た。
【0096】
この際に、貯蔵弾性曲線の変曲点よりも低温側での近似直線と、変曲点よりも高温側での近似直線との交点における温度を、転移温度T1とした。低温側での近似直線、および、高温側での近似直線を、それぞれ低温側での測定点の集合を直線に近似すること、および、高温側での測定点の集合を直線に近似することによって得た。低温側での測定点の集合は、変曲点、および、変曲点よりも約10℃だけ低い点から約5℃だけ低い点までの間の複数の測定点である。高温側での測定点の集合は、変曲点、および、変曲点よりも約5℃だけ高い点から約10℃だけ高い点までの間の複数の測定点である。
【0097】
試験例1から試験例3の転移温度T1は、それぞれ87.6℃、87.8℃、80.3℃であり、いずれも条件5に示した80℃以上88℃以下の範囲内であることが認められた。なお、試験例4の転移温度T1は、87.0℃であることが認められた。
【0098】
試験例1から試験例3の貯蔵弾性率G1は、それぞれ3.8GPa、4.1GPa、3.9GPaであり、いずれも条件5に示した3.8GPa以上4.1GPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の貯蔵弾性率G1は、4.7GPaであることが認められた。すなわち、試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層における弾性は、試験例4のPET層よりも弱いことが認められた。また、試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層における弾性は、イソフタル酸変性PET層の総質量に対するリサイクルPETの質量の割合を高めるほど弱いことも認められた。
【0099】
試験例1から試験例3の損失弾性曲線におけるピーク位置での温度T2は、それぞれ101.3℃、99.8℃、95.4℃であり、いずれも条件6に示す95℃以上102℃以下であることが認められた。これに対して、試験例4の損失弾性曲線におけるピーク位置での温度T2は、104.7℃であることが認められた。すなわち、試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層における低温での柔軟性は、試験例4のPET層よりも高いことが認められた。また、試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層における低温での柔軟性は、イソフタル酸変性PET層の総質量に対するリサイクルPETの質量の割合を高めるほど高いことも認められた。
【0100】
試験例1から試験例3の損失弾性率G2は、それぞれ0.34GPa、0.37GPa、0.37GPaであり、いずれも条件6に示した0.3GPa以上0.37GPa以下の範囲内であることが認められた。これに対して、試験例4の損失弾性率G2は、0.39GPaであることが認められた。
【0101】
試験例1から試験例3の損失正接曲線におけるピーク位置での温度T3は、それぞれ114.8℃、113.8℃、108.8℃であり、いずれも108℃以上115℃以下であることが認められた。これに対して、試験例4の損失正接曲線におけるピーク位置での温度T3は、119.0℃であることが認められた。
【0102】
試験例1から試験例3の損失正接曲線におけるピーク位置での損失正接tanδは、それぞれ0.162、0.170、0.185であり、いずれも条件7に示した0.160以上0.190以下であることが認められた。これに対して、試験例4の損失正接曲線におけるピーク位置での損失正接tanδは、0.157であることが認められた。すなわち、試験例1から試験例3のイソフタル酸変性PET層において、弾性に対する粘性の度合いが試験例4よりも大きく、また、外力の応答における粘性の寄与が、これもまた試験例4よりも大きいことが認められた。
【0103】
[紙カップ]
[実施例1‐1]
試験例1のイソフタル酸変性PETフィルムを用いて、複数の層を以下の順に積層することにより、底部材を形成するための積層材を得た。すなわち、20μmの厚さを有するPE層、200g/m2の坪量を有する紙層、20μmの厚さを有するPE層、15μmの厚さを有するPE層、試験例1のイソフタル酸変性PETフィルム、30nmの厚さを有する酸化アルミニウム層、および、60μmの厚さを有するPE層を記載の順に重ねた。これにより、底部材を形成するための積層材を得た。なお、積層材において、60μmの厚さを有したPE層が第1面を有し、20μmの厚さを有したPE層が第2面を有する。
【0104】
こうした積層材を形成する際には、紙層における一方の面にPE層を押出成形し、これによって第1積層体を形成した。一方で、イソフタル酸変性PETフィルムと酸化アルミニウム層とからなるバリアフィルムの両面にPE層を押出成形し、これによって第2積層体を形成した。また、酸化アルミニウム層の形成方法には、イソフタル酸変性PETフィルムに対する真空蒸着を用いた。そして、第1積層体と第2積層体とを、溶融ポリエチレンを用いたサンドイッチラミネーション法によりラミネートすることにより、積層材を得た。
【0105】
一方で、以下に記載の複数の層を重ねることによって、胴部材を形成するための積層材を得た。すなわち、20μmの厚さを有するPE層、260g/m2の坪量を有する紙層、20μmの厚さを有するPE層、15μmの厚さを有するPE層、試験例4のPETフィルム、試験例4のPETフィルム、30nmの厚さを有する酸化アルミニウム層、および、60μmの厚さを有するPE層を記載の順に重ねた。これにより、胴部材を形成するための積層材を得た。
【0106】
こうした積層材を形成する際には、紙層における一方の面にPE層を押出成形し、これによって第1積層体を形成した。一方で、1つのPETフィルムに真空蒸着を用いて酸化アルミニウム層を形成した後に、接着層を介してPETフィルム同士をラミネートした。次いで、得られた積層体の両面にPE層を押出成形することによって、第2積層体を得た。第1積層体と第2積層体とを、溶融ポリエチレンを用いたサンドイッチラミネーション法によりラミネートすることにより、積層材を得た。
【0107】
底部材を形成するための積層材から底部材を形成し、胴部材を形成するための積層材から胴部材を形成した。そして、胴部材に対して底部材を固定し、これによって実施例1‐1の紙カップを得た。この際に、紙カップの内面と対向する視点から見て、底壁部の直径を49.5mmに設定し、胴部材の開口における直径を62.6mmに設定し、内面の高さを1000mmに設定した。また、内面の面積を374.4cm2に設定した。
【0108】
[実施例1‐2]
実施例1‐1において、底部材を形成するための積層材に含まれる試験例1のPETフィルムを試験例2のPETフィルムに変更した以外は、実施例1‐1と同様の方法によって、実施例1‐2の紙カップを得た。
【0109】
[実施例1‐3]
実施例1‐1において、底部材を形成するための積層材に含まれる試験例1のPETフィルムを試験例3のPETフィルムに変更した以外は、実施例1‐1と同様の方法によって、実施例1‐3の紙カップを得た。
【0110】
[比較例1]
実施例1‐1において、底部材を形成するための積層材に含まれる試験例1のPETフィルムを試験例4のPETフィルムに変更した以外は、実施例1‐1と同様の方法によって、比較例1の紙カップを得た。
【0111】
[実施例2‐1]
実施例1‐1において、底部材を形成するための積層材を以下のように変更した以外は、実施例1‐1と同様の方法で、実施例2‐1の紙カップを得た。すなわち、15μmの厚さを有するPE層と、60μmの厚さを有したPE層との間に、試験例1のPETフィルム、試験例1のPETフィルム、および、30nmの厚さを有する酸化アルミニウム層を記載の順に配置した。なお、酸化アルミニウム層の形成方法には、PETフィルムに対する真空蒸着を用いた。また、2枚のPETフィルムを接着層を介してラミネートした。
【0112】
[実施例2‐2]
実施例2‐1において、底部材を形成するための積層材に含まれる2枚のPETフィルムを試験例1のPETフィルムから試験例2のPETフィルムに変更した以外は、実施例2‐1と同様の方法によって、実施例2‐2の紙カップを得た。
【0113】
[実施例2‐3]
実施例2‐1において、底部材を形成するための積層材に含まれる2枚のPETフィルムを試験例1のPETフィルムから試験例3のPETフィルムに変更した以外は、実施例2‐1と同様の方法によって、実施例2‐3の紙カップを得た。
【0114】
[比較例2]
実施例2‐1において、2枚のPETフィルムを試験例1のPETフィルムから試験例4のPETフィルムに変更した以外は、実施例2‐1と同様の方法によって、比較例2の紙カップを得た。
【0115】
[評価方法]
各実施例および各比較例の紙カップについて、酸素透過度を測定した。酸素透過度の測定には、ガスバリア試験装置(OX‐TRAN 2/61、MOCON社製)(OX‐TRANは登録商標)を用いた。また、JIS K 7126‐2:2006「プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第2部:等圧法」に準拠した方法によって、酸素透過度を測定した。この際に、紙カップを密封し、かつ、紙カップ内にキャリアガスを導入する導入管と、キャリアガスと酸素ガスとの混合ガスを紙カップから導出する導出管とを紙カップに取り付けた。なお、混合ガスが含む酸素ガスは、紙カップ外から紙カップ内に透過した酸素ガスである。導出管を通じて紙カップから導出された混合ガスをガスバリア試験装置のセンサーを用いて解析することによって、紙カップの酸素透過度を測定した。なお、酸素透過度を測定する際に、紙カップ外の雰囲気における酸素分圧を0.21atmに設定した。
【0116】
[評価結果]
実施例1‐1の紙カップにおける酸素透過度は0.007cc/Package・dayであり、実施例2‐1の紙カップにおける酸素透過度は0.004cc/Package・dayであることが認められた。また、比較例1の紙カップにおける酸素透過度は0.012cc/Package・dayであり、比較例2の紙カップにおける酸素透過度は0.006cc/Package・dayであることが認められた。
【0117】
このように、実施例1‐1の紙カップによれば、比較例1の紙カップに比べて、酸素透過度が低いことが認められた。また、実施例2‐1の紙カップによれば、比較例2の紙カップに比べて、酸素透過度が低いことが認められた。なお、実施例1‐2の紙カップ、および、実施例1‐3の紙カップは、実施例1‐1の紙カップと同等の酸素透過度を有することが認められた。また、実施例2‐2の紙カップ、および、実施例2‐3の紙カップは、実施例2‐1の紙カップと同等の酸素透過度を有することが認められた。
【0118】
以上説明したように、紙製容器の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)イソフタル酸変性PET層に接するバリア層22B1の変形が生じにくいから、バリア層22B1の変形に起因したバリア層22B1におけるバリア性の低下を抑えることが可能である。
【0119】
(2)バリア対象が、収容空間から基材層22B2に向けて透過することが抑えられるから、バリア対象の透過に起因した基材層22B2の劣化を抑えることが可能である。
【0120】
(3)2つのポリエステル層B21,B22において引張降伏応力が116MPa以下であれば、積層材20がポリエステル層を2層備える場合において、バリア層22B1の変形に起因したバリア層22B1におけるバリア性の低下を抑えることができる。
(4)再生されたPETを含むイソフタル酸変性PET層を用いることが可能である。
【0121】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[ポリエステル層]
・基材層22B2が備えるポリエステル層は、イソフタル酸変性PETを含むポリエステル層に限らない。例えば、ポリエステル層は、PET層でもよいし、イソフタル酸変性PET以外の変性PETでもよい。変性PETは、例えば、上述したように、エチレングリコール以外のジオール単位を含む変性PETであってもよい。あるいは、ポリエステル層は、PETに限らず、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、および、ポリブチレンナフタレートなどから構成されてもよい。
【0122】
[底部材]
・底部材12を構成する積層材20は、屈曲部12Bにおいて、紙カップ10の収容空間に向けて折り曲げられていてもよい。この場合であっても、基材層22B2が含むイソフタル酸変性PET層の引張降伏応力が116MPa以下であれば、上述した(1)に準じた効果を得ることができる。
【0123】
[紙製容器]
・上述した紙カップは、紙製容器の一例である。紙製容器は、屈曲部を有する容器であって、かつ、紙カップ以外の容器として具体化されてもよい。
【符号の説明】
【0124】
10…紙カップ
11…胴部材
12…底部材
20…積層材
21…紙層
22…内層
22A…熱可塑性樹脂層
22B…バリアフィルム層
22B1…バリア層
22B2…基材層