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特開2023-93313塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093313
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/06 20060101AFI20230627BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20230627BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20230627BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230627BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20230627BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08F14/06
C08F2/18
C08L27/06
C08K3/34
C08K3/26
C08K9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140535
(22)【出願日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021208672
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】江口 望
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮介
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BD041
4J002BD151
4J002DE236
4J002DJ006
4J002FB086
4J002FD176
4J002GL00
4J011AA05
4J011JA02
4J011JB05
4J011JB26
4J100AC03P
4J100CA01
4J100DA36
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA21
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】懸濁重合系内に塩基性無機物を添加して重合させる際に、重合を安定化し、重合器に塩化ビニル系樹脂の合着物の付着を生じさせることのない塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体を提供する。
【解決手段】塩化ビニル単独又は塩化ビニルを有する重合性単量体から選ばれる1種以上の塩化ビニル系単量体を、塩基性無機物の存在下で懸濁重合する工程において、重合終了時まで重合系内にpH調整剤を添加してpHを8.5以下に維持する、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル単独又は塩化ビニルを有する重合性単量体から選ばれる1種以上の塩化ビニル系単量体を、塩基性無機物の存在下で懸濁重合する工程において、
重合終了時まで重合系内にpH調整剤を添加してpHを8.5以下に維持する、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項2】
前記塩基性無機物は、炭酸塩、ケイ酸塩、下記式(1)の水酸化物、下記式(2)の酸化物から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
(OH)n・・・式(1)
O・・・式(2)
(式(1)のXは、Mg、Ca、Al又はZnを示し、nは2~3の整数を示し、式(2)のXは、Mg又はZnを示す。)
【請求項3】
前記炭酸塩が炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる1種以上であって、
前記炭酸塩の添加量が前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して、0.1~100質量部である、請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムが、脂肪酸処理された合成炭酸カルシウムであり、
前記合成炭酸カルシウムの平均1次粒子径が、0.01~0.3μmである、請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項5】
前記pH調整剤が、酢酸緩衝液及びクエン酸緩衝液から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項6】
前記懸濁重合する工程は、分散剤を含む水性媒体中で行われる、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法によって得られた塩化ビニル系樹脂であって、
前記塩基性無機物の含有量が、前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して1~50質量部であり、
前記pH調整剤の含有量が、前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.001~50質量部である、塩化ビニル系樹脂。
【請求項8】
請求項7に記載の塩化ビニル系樹脂と、塩基性無機物とを有する塩化ビニル系樹脂成形体であって、
前記塩基性無機物が含有されている塩化ビニル系樹脂中の30μm当たりにおける前記塩基性無機物の分散度の平均値が0.001~0.9である、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂(PVC)は、機械的強度、耐候性、耐薬品性など優れた物性を有し、且つ経済性にも優れるため、パイプ、継手、樋などの配管・建築資材に広く利用されている。さらに、体積あたりのコストを低減し、機械的強度及び耐熱性を改善することを目的として、炭酸カルシウム等の無機充填材を配合した塩化ビニル系樹脂も広く知られている。
【0003】
しかし、これらの無機充填材は一般には塩化ビニル系樹脂との親和性が乏しく、これらを充填すると機械的強度及び耐熱性は改良されるものの、耐衝撃性、靭性の低下がみられることが多い。無機充填材が塩化ビニル系樹脂に均一に分散していることや、成形時の再凝集を防ぐ目的で、無機充填材と塩化ビニル系樹脂との間で化学結合持たせる(グラフト重合させる)ことが有効と考えられるため、塩化ビニル系樹脂を作製する懸濁重合時に予め無機充填剤を樹脂中に導入させる方法が従前より提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
特許文献1では、塩化ビニルを懸濁重合する時に、クリソタイル、セピオライト、ベルミキュライトなどの硅酸質充填材を添加することが開示され、折り曲げ強度の向上が報告されている。
また、特許文献2では、塩化ビニル単独又は塩化ビニルを主成分とする重合性単量体(モノマー)をケイ酸塩及びシリカの存在下で懸濁分散剤を含む水性媒体柱で懸濁重合することが開示されており、粒度分布が鋭く、粉体流動性、耐衝撃性が良好な塩化ビニル系樹脂が得られると報告されている。
【0005】
上記の塩化ビニル系樹脂の改良技術によっては、無機充填材の分散性の向上やそれに伴う物性改善が行える。しかし、無機充填材が炭酸カルシウムで代表されるような塩基性無機物の場合は、重合系自体のpHが塩基性に寄ってしまうため、重合が不安定化してしまう問題や、生成塩化ビニル樹脂組成物の合着物が重合釜の壁面、羽根及びバッフル等に付着してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49-22493号公報
【特許文献2】特開平10-110004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の如き問題点を解消するためになされたもので、懸濁重合系内に塩基性無機物を添加して重合させる際に、重合を安定化し、重合器に塩化ビニル系樹脂の合着物の付着を生じさせることのない塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題について検討を重ねた結果、以下のことを見出した。すなわち、塩化ビニル単独又は塩化ビニルを有する重合性単量体を、塩基性無機物の存在下で懸濁重合する際に、重合終了時まで、重合系内のpHを8.5以下に維持するようにpH調整剤を添加することにより、重合が安定化し、生成塩ビ樹脂組成物の合着、および重合釜の壁面や、羽根、バッフルへの該合着物の付着を抑制し得ることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]塩化ビニル単独又は塩化ビニルを有する重合性単量体から選ばれる1種以上の塩化ビニル系単量体を、塩基性無機物の存在下で懸濁重合する工程において、重合終了時まで重合系内にpH調整剤を添加してpHを8.5以下に維持する、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[2]前記塩基性無機物は、炭酸塩、ケイ酸塩、下記式(1)の水酸化物、下記式(2)の酸化物から選ばれる1種以上である、[1]に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
(OH)n・・・式(1)
O・・・式(2)
(式(1)のXは、Mg、Ca、Al又はZnを示し、nは2~3の整数を示し、式(2)のXは、Mg又はZnを示す。)
[3]前記炭酸塩が炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる1種以上であって、
前記炭酸塩の添加量が前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して、0.1~100質量部である、[2]に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[4]前記炭酸カルシウムが、脂肪酸処理された合成炭酸カルシウムであり、
前記合成炭酸カルシウムの平均1次粒子径が、0.01~0.3μmである、[3]に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[5]前記pH調整剤が、酢酸緩衝液及びクエン酸緩衝液から選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[6]前記懸濁重合する工程は、分散剤を含む水性媒体中で行われる、[1]~[5]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法によって得られた塩化ビニル系樹脂であって、前記塩基性無機物の含有量が、前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して1~50質量部であり、前記pH調整剤の含有量が、前記塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.001~50質量部である、塩化ビニル系樹脂。
[8][7]に記載の塩化ビニル系樹脂と、塩基性無機物とを有する塩化ビニル系樹脂成形体であって、前記塩基性無機物が含有されている塩化ビニル系樹脂中の30μm当たりにおける前記塩基性無機物の分散度の平均値が0.001~0.9である、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、懸濁重合系内に塩基性無機物を添加して重合させる際に、重合を安定化し、重合器に塩化ビニル系樹脂の合着物の付着を生じさせることのない塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の本実施形態における塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法は、塩化ビニル単独又は塩化ビニルを有する重合性単量体から選ばれる1種以上の塩化ビニル系単量体を、塩基性無機物の存在下で懸濁重合する工程において、重合終了時まで重合系内にpH調整剤を添加してpHを8.5以下に維持することを特徴とする。
通常、塩化ビニルの重合では主鎖上における不飽和結合の生成により、塩化水素の脱離が起こり系内のpHが酸性側にシフトする。しかし、炭酸カルシウムで代表されるような塩基性化合物を添加しての重合系においては、pHが8.5より大きくなるため、塩化ビニルモノマー液滴や生成塩化ビニルの一次粒子の表面電荷が乱れ、合着しやすくなり、重合釜の壁面や、羽根、バッフルに塩化ビニル系樹脂の合着物が付着してしまう課題を抑制するため、重合系内のpHを8.5以下に維持する。また、重合系内のpHが2より小さくなると重合釜の腐食劣化につながるため、2以上に維持する。
重合終了時まで重合系内のpHが8.5を超えて、塩基性に寄ってしまうと、重合が不安定化してしまう問題や、生成塩化ビニル樹脂組成物の合着物が重合釜の壁面、羽根及びバッフル等に付着してしまう問題が生じやすくなる。そこで、重合終了時まで重合系内のpHは、8.5未満であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、7.5以下であることがさらに好ましく、7.0以下であることがよりさらに好ましい。また、重合終了時まで重合系内のpHは、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、2.7以上であることがさらに好ましく、3.0以上であることがよりさらに好ましい。
【0012】
本発明におけるpH調整剤は、一般に重合系のpHを重合初期から重合終了時まで8.5以下に維持し得るものであれば、その種類は特に限定されるものではない。
pH調整剤としては、例えば、グリシン、リン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸、バルビツール酸、コハク酸、クエン酸、酢酸、フタル酸、コハク酸、炭酸、クエン酸、リン酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、ホウ酸、グリシン、炭酸及びこれらのナトリウム、カリウム等の塩の1種以上が挙げられる。特に、酸と塩基の組み合わせ、例えば、弱酸と強塩基との組み合わせ又は強酸と弱塩基との組み合わせが挙げられる。酢酸及び酢酸ナトリウムを含有する酢酸緩衝液、リン酸及びリン酸ナトリウムを含有するリン酸緩衝液、クエン酸及びクエン酸ナトリウムを含有するクエン酸緩衝液、リンゴ酸及びリンゴ酸ナトリウムを含有するリンゴ酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、並びに、トリス塩酸緩衝液、トリスとエチレンジアミン四酢酸との緩衝液(TE緩衝液)、トリス、酢酸及びエチレンジアミン四酢酸の緩衝液(TAE緩衝液)、トリス、ホウ酸及びエチレンジアミン四酢酸の緩衝液(TBE緩衝液)等のトリス緩衝液などが挙げられる。中でも、弱酸性での等電点とすること、また経済性の観点から、酢酸緩衝液及びクエン酸緩衝液から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0013】
pH調整剤の添加量は、そのpH調整剤の緩衝能により異なる。また、重合初期に一括で添加されても、あるいは重合反応中に必要に応じて添加されてもよい。
pH調整剤として酢酸緩衝液を使用する場合、酢酸緩衝液の添加量は、脱イオン水に対して、900~1,100,000ppmであることが好ましく、5,000~600,000ppmであることがより好ましく、10,000~200,000ppmであることがさらに好ましい。また、酢酸(ppm)/酢酸ナトリウム(ppm)が0.01~20であることが好ましく、0.05~10であることがより好ましく、0.1~5であることがさらに好ましい。pH調整剤としてクエン酸緩衝液を使用する場合、クエン酸緩衝液の添加量は、脱イオン水に対して、400~500,000ppmであることが好ましく、1,000~100,000ppmであることがより好ましく、3,000~50,000ppmであることがさらに好ましい。また、クエン酸(ppm)/クエン酸ナトリウム(ppm)が、0.1~120であることが好ましく、0.5~100であることがより好ましく、1.2~80であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明における懸濁重合法で使用する塩化ビニル系単量体と共重合し得る単量体は、塩化ビニル系単量体と重合できるものであれば、特に限定するものではなく、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のアルキルビニルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;エチレン、プロピレン等のα-モノオレフィン類;無水マレイン酸、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、スチレン、マレイミド類などが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0015】
本発明における懸濁重合法で使用する塩基性無機物は、炭酸塩、ケイ酸塩、下記式(1)の水酸化物、下記式(2)の酸化物から選ばれる1種以上であることが好ましく、水への分散溶液(微量水に溶解する)が塩基性を示すものである。
(OH)n・・・式(1)
O・・・式(2)
(上記式(1)に記載のXは、Mg、Ca、Al又はZnを示し、nは2~3の整数を示し、上記式(2)のXはMg又はZnを示す。)
【0016】
塩基性無機物としては、具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛等の水酸化物;酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の酸化物などが挙げられる。天然に存在する鉱物においては名称が異なるものの、上記化合物の混合物である場合がある。代表的なものとしてはタルク、マイカ、ベントナイト、ウォラストナイト、トバモライト、ゾノトライトなどが挙げられる。
塩化ビニル系樹脂の成形体製品への実績や、経済性、機械的強度の向上などの観点から、炭酸塩、ケイ酸塩が好ましく、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムがより好ましく、中でも炭酸カルシウムが実用的で最も好ましい。
【0017】
炭酸カルシウムとしては、天然(重質)炭酸カルシウムと合成(軽質)炭酸カルシウムのいずれでも良いが、特には、脂肪酸処理された合成炭酸カルシウムが好ましい。合成炭酸カルシウムの平均1次粒子径は、0.01~0.3μmであることが好ましく、0.05~0.25μmであることがより好ましく、0.10~0.2μmであることがさらに好ましい。合成炭酸カルシウムの平均1次粒子径が上記範囲内であることで、ポリ塩化ビニル系樹脂成形品の耐衝撃性を向上させうる。
なお、本明細書において平均1次粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、観察した視野中の100個の合成炭酸カルシウムの一次粒子の大きさをそれぞれ測定したときの測定値の平均値である。
【0018】
上記の炭酸カルシウムは、予め表面処理が施されたものが好ましい。表面処理により、マトリックス樹脂との相溶性を向上させることができるため、凝集の抑制、それに伴う耐衝撃性などの機械物性が改善できる。また、表面処理により、親油性とすることができるため、水懸濁重合において、塩化ビニル系樹脂と容易に混合され重合体の中に組み込まれ易くなる。
脂肪酸で炭酸カルシウムを表面処理する際の脂肪酸の形態は、特に限定されるものではなく、脂肪酸の金属塩の形態、酸の形態、エステルの形態などで表面処理することができる。必要に応じて、これらの形態を併用して表面処理してもよい。
【0019】
塩基性無機物として、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムから選ばれる1種以上の炭酸塩を使用する場合、炭酸塩の添加量は、塩化ビニル系単量体100質量部に対して、0.1~100質量部であることが好ましく、0.5~50質量部であることがより好ましく、1~30質量部であることがさらに好ましい。上記下限値以上であることで、機械物性の向上を図ることができる。また、上記上限値以下であることで、無機粉体同士の凝集を抑制することができ、粘度が上昇して、懸濁重合が不安定になることを抑制することができる。
【0020】
本発明における懸濁重合法の一例としては、まず、温度調整機及び攪拌機を備えた重合器内に、水、分散剤、上記の塩基性無機物、pH調整剤、及び、重合開始剤を投入する。その後、真空ポンプにより重合器内から空気を排除して真空雰囲気とする。次に、攪拌条件下で、塩化ビニルモノマー等の他の原料の全てを投入する。その後、反応容器内を昇温し、所望の重合温度で、材料の重合反応を進行させる。これらの手順を経ることによって、塩基性無機物と一体となった塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0021】
本発明における懸濁重合法の反応終了後には、例えば、未反応の塩化ビニルを有するビニルモノマーを除去してスラリー状にし、さらに、脱水及び乾燥を行うことにより、目的とする塩化ビニル系共重合体を得ることができる。
【0022】
本発明における懸濁重合法の重合時の温度は、特に限定されないが、工業的な製造に際し、その温度制御が容易な40℃~80℃の範囲が好ましい。
本発明における懸濁重合法の重合時間は、2~20時間であることが好ましい。
【0023】
本発明における懸濁重合法により得られた塩化ビニル系共重合体は、平均重合度が250~5,000であればよく、250~4,000であることが好ましく、300~3,000であることがより好ましく、400~2,000であることがさらに好ましい。平均重合度が上記範囲内であることで、成形時においては、適度な温度での加工性を確保することができ、使用時においては、疲労特性等の長期性能の低下を防止することができる。
なお、塩化ビニル系共重合体の平均重合度は、JIS K 6726に準拠して測定できる。
【0024】
本発明における懸濁重合法により得られた塩化ビニル系共重合体は、粒子状で製造されたものであることが好ましい。粒子状である塩化ビニル系共重合体の平均粒子径は、例えば、0.05~500μmであることが好ましく、0.1~450μmであることがより好ましく、0.15~400μmであることがさらに好ましい。塩化ビニル系共重合体が粒子状であり、平均粒子径が上記範囲内であることで、重合時の反応系が不安定になる等の不具合が生じず、乾燥時においてもハンドリング性を確保することができる。
なお、本明細書において平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、観察した視野中の100個の粒子の一次粒子の大きさをそれぞれ測定したときの測定値の平均値である。平均粒子径は、上記粒子が球形である場合には粒子の直径の平均値を意味し、非球形である場合には粒子の長径の平均値を意味する。
【0025】
本発明における懸濁重合法の懸濁重合する工程は、分散剤を含む水性媒体中で行われることが好ましい。本発明における分散剤とは、塩化ビニル系単量体を重合するに当たり、これを水系媒体に均一に安定して分散させる機能を持つものを意味し、乳化機能、増粘機能など各種の分散機能を同時に保有している場合もある。
分散剤としては、例えば、部分鹸化ポリ酢酸ビニル;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、ゼラチン、デンプンなどが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
分散剤の添加量は、塩化ビニル系単量体100質量部に対して、10~20,000ppmであることが好ましく、50~17,500ppmであることがより好ましく、100~15,000ppmであることがさらに好ましい。
【0026】
本発明における重合開始剤としては、一般に塩化ビニル系樹脂の重合に用いられている公知の油溶性ラジカル開始剤が使用され、例えば、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルネオヘキサノエート、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシ-2-ネオデカノエートなどのパーエステル化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、イソブチルパーオキシドなどのパーオキシド化合物;α,α′-アゾビスイソブチロニトリル、α,α′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、α,α′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物などが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
重合開始剤の添加量は、塩化ビニル系単量体100質量部に対して、10~20,000ppmであることが好ましく、50~17,500ppmであることがより好ましく、100~15,000ppmであることがさらに好ましい。
【0027】
重合条件及び重合処方は上記に限定されず、重合調整剤、連鎖移動剤、帯電防止剤、架橋剤、安定剤、スケール防止剤を適宜添加されても何ら構わない。
【0028】
本発明の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法によれば、重合終了時まで重合系内にpH調整剤を添加してpHを8.5以下に維持することで、重合器に塩化ビニル系樹脂が付着せず、安定した重合が推進できる。又、同方法で得られた塩化ビニル系樹脂は、無機充填材が均一に分散し、再凝集も防止されているため、耐衝撃性等が良好な、成形体を形成し得る。
【0029】
本発明の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法よって得られた塩化ビニル系樹脂における塩基性無機物の含有量が、塩化ビニル系単量体100質量部に対して1~50質量部であり、pH調整剤と塩基性無機物の中和反応により発生した塩の含有量が、塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.001~50質量部である。
塩基性無機物の含有量が塩化ビニル系単量体100質量部に対して1質量部未満であることで、塩基性無機物を添加したことによる機械物性及び耐熱性の向上が見込めない。また、塩基性無機物の含有量が塩化ビニル系単量体100質量部に対して50質量部超であることで、混錬加工性の低下が生じたり、成形条件によっては無機物の凹凸による表面外観性の悪化が生じたりする。上記観点から、塩基性無機物の含有量は、塩化ビニル系単量体100質量部に対して2~45質量部であることが好ましく、4~40質量部であることがより好ましく、6~35質量部であることがさらに好ましい。
pH調整剤と塩基性無機物の中和反応により発生した塩が水に溶解する場合、pH調整剤は塩化ビニル系単量体に含有されないが、難溶性の場合や溶解度によっては塩化ビニル系単量体に含有される。このときの含有量が、塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.001質量部未満であることで、pH調整剤の添加量が少なく重合系内が十分に中和されていないので、重合が不安定化し、生成塩化ビニル樹脂組成物の合着、および重合釜の壁面や、羽根、バッフルへの合着物の付着が生じる。また、pH調整剤の含有量が、塩化ビニル系単量体100質量部に対して50質量部超であることで、過剰なpH調整剤の添加により無機物が分解されているため、機械物性や耐熱性の向上が見込めない。上記観点から、pH調整剤の含有量は、塩化ビニル系単量体100質量部に対して0.005~45質量部であることが好ましく、0.007~40質量部であることがより好ましく、0.001~35質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
塩化ビニル系樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂と、塩基性無機物とを有する塩化ビニル系樹脂成形体であって、塩基性無機物が含有されている塩化ビニル系樹脂中の30μm当たりにおける塩基性無機物の分散度の平均値が0.001~0.9である。塩基性無機物の分散度の平均値が0.001未満であることで、塩化ビニル系樹脂中に十分に塩基性無機物が含有されておらず、成型時に凝集しやすい。また、塩基性無機物の分散度の平均値が0.9超であることで、塩化ビニル系樹脂中に含有されている塩基性無機物量が多く、十分に分散されていないため、成型時に凝集しやすい。上記観点から、塩基性無機物が含有されている塩化ビニル系樹脂中の30μm当たりにおける塩基性無機物の分散度の平均値は、0.010~0.88であることが好ましく、0.05~0.87であることがより好ましく、0.1~0.86であることがさらに好ましい。
なお、塩基性無機物の分散度の平均値は、実施例に記載の方法により算出することができる。
【実施例0031】
本発明をさらに詳しく説明するために、実施例、比較例を説明する。
【0032】
(実施例1)
内容積100リットルの重合器(耐圧オートクレープ)に、脱イオン水45kgを入れた。さらに、塩化ビニル単量体に対して、分散剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)3,000ppm、重合開始剤(t-ブチルパーオキシネオデカノエート)500ppm、塩基性無機物(炭酸カルシウム、白石カルシウム社製、Vigot-15、平均粒子径:0.15μm)30,000ppmを投入した。次に、pH調整剤として酢酸及び酢酸ナトリウムからなる酢酸緩衝液(酢酸:酢酸ナトリウム=1:4)を採用し、脱イオン水に対して、酢酸緩衝液(酢酸8,000ppm、酢酸ナトリウム25,000ppm)を添加した。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.3であり、重合終了後のpHが8.2であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。その後、重合器内を45mmHgまで脱気した後、塩化ビニル系単量体を30kg仕込み、攪拌を開始した。
【0033】
重合温度は、57℃とし、重合終了までこの温度を保持した。重合転化率が95%に達した時に反応を終了し、重合器内の未反応単量体を回収した後、重合体をスラリー状で系外に取り出し、脱水乾燥した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、後述の評価法により、重合安定性の評価、塩基性無機物の分散性の評価、塩基性無機物の再凝集の評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
(実施例2)
pH調整剤としてクエン酸及びクエン酸ナトリウムを含有するクエン酸緩衝液を採用し、脱イオン水に対して、クエン酸緩衝液(クエン酸25,000ppm、クエン酸ナトリウム2,500ppm)を重合系内に添加した以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.3であり、重合終了後のpHが7.5であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0035】
(実施例3)
塩基性無機物としてタルク(富士タルク工業社製、FH104)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.3であり、重合終了後のpHが8.2であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0036】
(実施例4)
塩化ビニル単量体に対して塩基性酸化物(炭酸カルシウム、白石カルシウム社製、Vigot-15、平均粒子径:0.15μm)の添加量を500,000ppmとした以外は、実施例1と同様の方法で懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.3であり、重合終了後のpHが8.4であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0037】
(実施例5)
塩化ビニル単量体に対して塩基性酸化物(炭酸カルシウム、白石カルシウム社製、Vigot-15、平均粒子径:0.15μm)の添加量を5,000ppmとした以外は、実施例1と同様の方法で懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.2であり、重合終了後のpHが7.9であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0038】
(実施例6)
塩基性無機物として炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、白艶化CCR、平均粒子径:0.08μm)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.5であり、重合終了後のpHが8.4であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0039】
(実施例7)
塩基性無機物として炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、白艶化O、平均粒子径:0.03μm)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.3であり、重合終了後のpHが8.4であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0040】
(実施例8)
塩基性無機物としてケイ酸カルシウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが5.8であり、重合終了後のpHが7.9であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0041】
(実施例9)
塩化ビニル単量体に対して塩基性酸化物(炭酸カルシウム、白石カルシウム社製、Vigot-15、平均粒子径:0.15μm)の添加量を80,000ppmとした以外は、実施例1と同様の方法で懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.4であり、重合終了後のpHが8.4であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0042】
(実施例10)
塩化ビニル単量体に対して塩基性酸化物(炭酸カルシウム、白石カルシウム社製、Vigot-15、平均粒子径:0.15μm)の添加量を500ppmとした以外は、実施例1と同様の方法で懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.0であり、重合終了後のpHが7.8であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0043】
(実施例11)
塩基性無機物として炭酸カルシウム(日東粉化工業株式会社製、NN#200、平均粒子径:14.8μm)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.2であり、重合終了後のpHが8.4であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていることを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0044】
(比較例1)
pH調整剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、pHメータ(HORIBA製、LAQUA F-72)を用いて、重合開始前と重合終了後の重合系のpHを測定した結果、重合開始前のpHが6.3であり、重合終了後のpHが10.1であり、懸濁重合する工程におけるpHが8.5以下に維持されていなかったことを確認した。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価・観察を行った。結果は表1に示す。
【0045】
(比較例2)
重合時に無機物を添加せず、pH調整剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、重合終了後に配合しているため、pHの結果は要しない。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、炭酸カルシウム3質量部を添加して後述の試験方法により再凝集防止効果の評価を行った。結果は表1に示す。
【0046】
(比較例3)
比較例2と同様な方法で、懸濁重合を行った。なお、重合終了後に配合しているため、pHの結果は要しない。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、タルク3質量部を添加して後述の試験方法により再凝集防止効果の評価を行った。結果は表1に示す。
【0047】
<重合安定性の評価法>
反応器内の未反応単量体を回収した後、重合器の蓋を開け、内壁面、羽根、バッフルに合着物が付着していないかどうかを目視確認し評価した。また、脱水後の塩化ビニル樹脂粉体の平均粒径を粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、マイクロトラックMT3000)にて測定した。塩化ビニル系樹脂が重合器の内壁面、羽根、バッフルのいずれにも付着していない、かつ平均粒径が450μm以下の場合に「○」と判定した。また、塩化ビニル系樹脂が重合器の内壁面、羽根、バッフルのいずれにも付着していない、かつ平均粒径が450μmを超えて500μm以下である場合に「△」と判定した。塩化ビニル系樹脂が重合器の内壁面、羽根、バッフルの少なくともいずれかに付着している、又は、平均粒径が500μm以上である場合に「×」と判定した。
【0048】
<塩基性無機物の分散性の評価法>
脱水乾燥後の塩化ビニル樹脂粉体をエポキシ樹脂で包埋し、硬化させたサンプルを機械研磨(Leica社製、REICHERT ULTRACUTS)にて研磨し、得られた樹脂断面を白金で蒸着してエネルギー分散型X線分析装置EDSで元素分析を行った。塩基性無機物が含有されている塩化ビニル樹脂粉体断面内のおよそ30μm角領域で解析を行い、そのうち塩化ビニル樹脂由来の元素(C1)の質量%、塩基性無機物由来の元素の質量%から、下記式により分散度を算出した。
(分散度)=(塩基性無機物由来の元素の質量%)/(塩化ビニル樹脂由来の元素の質量%+塩基性無機物由来の元素の質量%)
また、上記の解析と分散度の計算を3か所で行い、その平均値を算出した。ただし、塩基性無機物の種類によって比較する元素は異なる。分散度の平均値が0.01以上0.87以下である場合に「〇」と判定した。また、分散度の平均値が0.001以上0.01未満、又は、0.87超0.9以下である場合に「△」と判定した。また、分散度の平均値が0.9超、又は、0.001未満である場合に「×」と判断した。
[EDS測定条件]
・走査型電子顕微鏡:日本電子株式会社社製、JSM―6510A
・測定倍率:300倍
・加速電圧:1,000kV
・照射電流:1.00000nA
・デゥエルタイム:0.2msec
・スイーブ回数:15
・エネルギー範囲:0~20keV
【0049】
<塩基性無機物の再凝集の評価法>
脱水乾燥後の塩化ビニル樹脂粉体100質量部に対し、熱安定剤(オクチル錫メルカプト)2質量部、滑剤(エメリーオレオケミカルズジャパン社製、LOXIOL VPN682)1質量部を添加、攪拌した。得られた配合紛をラボプラストミルにて以下条件で混錬し、ローター、金型への無機物の再凝集によって出来る付着物の有無を目視確認し評価した。塩化ビニル樹脂がローター、金型のいずれにも付着していない場合に「○」と判定し、塩化ビニル系樹脂がローター、金型の少なくともいずれかに付着している場合に「×」と判定した。
[プラスト条件]
・東洋精機社製、ラボプラストミル4C150
・温度:185℃
・余熱時間:3分
・回転数:50rpm
・混錬時間:5分(ゲル化後)
【0050】
【表1】