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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093551
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230627BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230627BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 V
G01N27/62 C
G01N30/88 C
G01N30/86 J
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061786
(22)【出願日】2023-04-05
(62)【分割の表示】P 2020570282の分割
【原出願日】2019-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分析対象の物質が、分析の際に他の物質の分解によって生成され得る場合に、分析対象の物質の分析をより効率よく行う方法を提供する。
【解決手段】分析方法は、第1物質の分解により生成される第2物質を含む試料における、第2物質の分析方法であって、試料と、既知の濃度の化合物との分析を行って第1物質、第2物質および上記化合物の検出を行うことと、検出により得られたデータと、第1物質および上記化合物についての相対応答係数とに基づいて、上記データから得た第1物質の強度または濃度を算出することと、第1物質の強度または濃度に基づいて、分析の際に第1物質から生成された第2物質を除く第2物質の量または濃度についての情報を生成することとを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象成分を分析する分析方法であって、
試料と、既知の濃度の化合物との分析を行って前記対象成分、分解元物質および前記化合物の検出を行うことと、
前記検出により得られたデータと、前記分解元物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記試料に含まれる前記分解元物質の濃度を算出することと、
前記検出により得られたデータに基づき、前記試料に含まれる前記対象成分の濃度を算出することと、
前記データから得た前記分解元物質の強度または算出された前記分解元物質の濃度に応じて、前記試料に含まれる分解元物質の分解により生成される前記対象成分の量または濃度についての情報を生成し、前記対象成分の量又は濃度から差し引くこととを備える分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分析方法において、
前記分解元物質の強度または濃度についての第1閾値を取得することを備え、
前記データにより得られた前記対象成分の濃度と、前記分解元物質の強度または濃度が前記第1閾値に基づく第1条件を満たすか否かとに基づいて、前記情報を生成する分析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の分析方法において、
前記対象成分の濃度についての第2閾値を取得することを備え、
前記分解元物質の強度または濃度が前記第1条件を満たすか否かと、前記対象成分の濃度と、前記第2閾値とに基づいて、前記情報を生成する分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分析方法において、
前記分解元物質の強度または濃度が前記第1条件を満たすか否かに基づき、前記対象成分の濃度または前記第2閾値の修正を行い、前記修正の後、前記対象成分の濃度が前記第2閾値に基づく第2条件を満たすか否かに基づいて、前記情報を生成する分析方法。
【請求項5】
請求項2から4までのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記分解元物質の強度または濃度が前記第1条件を満たすか否かに基づき、前記対象成分の分析の信頼性についての情報を生成する分析方法。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記検出は、ガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、質量分析、ガスクロマトグラフィ/質量分析、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析、液体クロマトグラフィ/質量分析、フーリエ変換赤外分光法、または紫外・可視光を利用した分光光度法により行われる分析方法。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記対象成分は、フタル酸のエステルである分析方法。
【請求項8】
請求項7に記載の分析方法において、
前記分解元物質は、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOTM)であり、
前記対象成分は、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、テレフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)およびイソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である分析方法。
【請求項9】
請求項7に記載の分析方法において、
前記分解元物質は、トリメリット酸トリ-n-オクチル(n-TOTM)であり、
前記対象成分は、フタル酸ジノルマルオクチル(DNOP)、テレフタル酸ジノルマルオクチルおよびイソフタル酸ジノルマルオクチルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物である分析方法。
【請求項10】
請求項8に記載の分析方法において、
前記試料の分析においてポリ塩化ビニルが検出されたか否か、および、前記分解元物質の強度または濃度に基づいて、前記対象成分の量または濃度についての情報を生成する分析方法。
【請求項11】
対象成分の分析を行う分析装置であって、
試料と既知の濃度の化合物との分析により前記対象成分、分解元物質および前記化合物を検出する測定部と、
前記検出により得られたデータと、前記分解元物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記試料に含まれる前記分解元物質の強度または濃度を算出する第1算出部と、
前記検出により得られたデータに基づき、前記試料に含まれる前記対象成分の濃度を算出する第2算出部と、
前記データから得た前記分解元物質の強度または算出された前記分解元物質の濃度に応じて、前記試料に含まれる分解元物質の分解により生成される前記対象成分の量または濃度についての情報を生成し、前記対象成分の量又は濃度から差し引く情報生成部と
を備える分析装置。
【請求項12】
対象成分の分析における処理を処理装置に行わせるためのプログラムであって、前記処理は、
試料と既知の濃度の化合物との分析により前記対象成分、分解元物質、および前記化合物を検出して得られたデータと、前記検出により得られたデータと、前記分解元物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記試料に含まれる前記分解元物質の強度または濃度を算出する第1算出処理と、
前記検出により得られたデータに基づき、前記試料に含まれる前記対象成分の濃度を算出する第2算出処理と、
前記データから得た前記分解元物質の強度または算出された前記分解元物質の濃度に応じて、前記試料に含まれる分解元物質の分解により生成される前記対象成分の量または濃度についての情報を生成し、前記対象成分の量又は濃度から差し引く情報生成処理とを含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法、分析装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)等の分析の際、導入された物質の分解が起こり、分析対象の試料に元々含まれていた物質の量が適切に測定できない場合がある。例えば、難燃剤であるデカブロモジフェニルエーテル(Decabromodiphenyl ether;Deca-BDE)は、質量分析の際、質量分析計の汚染や劣化に伴い、分解されて生成した反応生成物が検出される。
【0003】
このため、分析対象の試料の分析を行う前に、分析装置にDeca-BDEを導入してDeca-BDEおよび反応生成物を検出し、当該分析装置が分析を行うために適切な状態であるかを評価することが行われている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】国際電気標準会議、”DETERMINATION OF CERTAIN SUBSTANCES IN ELECTROTECHNICAL PRODUCTS - Part 6: Polybrominated biphenyls and polybrominated diphenyl ethers in polymers by gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS)”、第1版、(スイス連邦)、国際電気標準会議、2015年6月、p. 22-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分析対象の物質が、分析の際に他の物質の分解によって生成され得る場合に、分析対象の物質の分析をより効率よく行うことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、第1物質の分解により生成される第2物質の分析方法であって、試料と、既知の濃度の化合物との分析を行って前記第1物質、前記第2物質および前記化合物の検出を行うことと、前記検出により得られたデータと、前記第1物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記第1物質の濃度を算出することと、前記データから得た前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記分析の際に前記第1物質から生成された前記第2物質を除く前記第2物質の量または濃度についての情報を生成することとを備える分析方法に関する。
本発明の第2の態様は、第1物質の分解により生成される第2物質の分析を行う分析装置であって、試料と既知の濃度の化合物との分析により前記第1物質、前記第2物質および前記化合物を検出する測定部と、前記検出により得られたデータと、前記第1物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記第1物質の強度または濃度を算出する算出部と、前記データから得た前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記分析の際に前記第1物質から生成された前記第2物質を除く前記第2物質の量または濃度についての情報を生成する情報生成部とを備える分析装置に関する。
本発明の第3の態様は、第1物質の分解により生成される第2物質の分析における処理を処理装置に行わせるためのプログラムであって、前記処理は、試料と既知の濃度の化合物との分析により前記第1物質、前記第2物質および前記化合物を検出して得られたデータと、前記第1物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記第1物質の強度または濃度を算出する算出処理と、前記データから得た前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記分析の際に前記第1物質から生成された前記第2物質を除く前記第2物質の量または濃度についての情報を生成する情報生成処理とを含むプログラムに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分析対象の物質と、当該物質を生成する物質とを含む可能性のある試料の分析を、検出精度の低下を抑制しつつ、より効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOTM)とその分解により生成される3つの化合物を示す図である。
図2図2(A)は、TOTMに対応するピークを示すマスクロマトグラムである。図2(B)は、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)に対応するピークを示す概念図である。
図3図3は、一実施形態に係る分析装置の構成を示す概念図である。
図4図4は、一実施形態に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、プログラムを説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の実施形態では、分析対象の物質を対象物質、分解により対象物質を生成する物質を分解元物質と呼ぶ。
【0010】
-第1実施形態-
本実施形態の分析方法は、対象物質および分解元物質を含む可能性のある試料における対象物質の分析方法であり、検出された分解元物質の濃度に基づいて、対象物質の量または濃度についての情報を生成することを含む。当該情報を、分析情報と呼ぶ。分解元物質の濃度は、分解元物質および所定の化合物についての相対応答係数に基づいて算出される。この所定の化合物を、基準化合物と呼ぶ。
【0011】
(試料について)
試料は、対象物質および分解元物質を含む可能性のある試料であれば特に限定されない。対象物質および分解元物質は、分析の際に分解元物質から対象物質が生成される可能性があれば特に限定されない。分解元物質から対象物質が生成される分解反応の種類についても特に限定されない。試料は固相、液相および気相のいずれでもよい。
【0012】
対象物質の例は、フタル酸のエステル等の工業的に生産される物質を含む。以下の実施形態において、「フタル酸エステル(phthalate ester)」はフタル酸のオルト体のエステルを指し、「フタル酸のエステル(ester of phthalic acid)」はフタル酸のオルト体、イソ体およびテレ体のエステルの全てを指すものとする。フタル酸のエステル、特にフタル酸エステルは、可塑剤等として工業的に用いられている。フタル酸のエステル、特にフタル酸エステルは生体への悪影響を理由に規制の対象となる傾向にあり、製品の品質管理等のために効率的な定量の重要性が高いため、対象物質として好ましい。
【0013】
好適な一例として、分解元物質は、トリメリット酸トリス(2- エチルヘキシル)(TOTM)であり、対象物質は、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、テレフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)およびイソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。
【0014】
図1は、TOTM、および、TOTMの分解により生成される3つの化合物の化学式を示す図である。TOTMからDEHPが生成される点を矢印A1で、TOTMからテレフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)が生成される点を矢印A2で、TOTMからイソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)が生成される点を矢印A3で模式的に示した。
【0015】
他の好適な例として、分解元物質は、トリメリット酸トリ-n-オクチル(n-TOTM)であり、対象物質は、フタル酸ジノルマルオクチル(DNOP)、テレフタル酸ジノルマルオクチルおよびイソフタル酸ジノルマルオクチルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。
【0016】
DEHPおよびDNOPは可塑剤として利用されている一方、生体への悪影響から、いくつかの国・地域において規制の対象となっており、製品の品質管理等のために効率的な定量の重要性が特に高く、対象物質として特に好適である。
【0017】
試料がTOTMまたはn-TOTMを含む場合、試料は母材樹脂としてポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride;PVC)を含むことが好ましい。PVCの存在下ではTOTMまたはn-TOTMの分解が起こりやすくなることが示唆されているため、分析の精度を上げるために本発明がさらに好適である。
【0018】
(検出について)
試料は分析に供され、試料に含まれる対象物質、分解元物質および既知の濃度の基準化合物が検出される。この検出により得られたデータを測定データと呼ぶ。測定データから、対象物質、分解元物質および基準化合物の強度が取得される。
【0019】
当該分析の種類は、定量分析を行うことができれば特に限定されず、例えばガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、質量分析、ガスクロマトグラフィ/質量分析(以下、GC/MSと呼ぶ)、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析(以下、Py-GC/MSと呼ぶ)、液体クロマトグラフィ/質量分析(以下、LC/MSと呼ぶ)、フーリエ変換赤外分光法、および紫外・可視光を利用した分光光度法の少なくとも一つを用いることができる。試料の分析は、質量分析、GC/MS、Py-GC/MSおよびLC/MSの少なくとも一つであることが好ましい。質量分析では、後述するように相対応答係数が特に安定であり、予め得られた相対応答係数を好適に用いることができるからである。
【0020】
試料の母材樹脂をPVCとした場合、TOTMおよびn-TOTMの分解はPy-GC/MSにおいて顕著に観察されるため、試料がPVCと、TOTMおよびn-TOTMの少なくとも一つを含む場合には、Py-GC/MSにより試料の分析を行うことがより好ましい。
【0021】
(基準化合物について)
基準化合物は、基準化合物の分析の際に安定であれば特に限定されない。
【0022】
(濃度の算出について)
分析により得られた対象物質、分解元物質および基準化合物の強度から、対象物質および分解元物質の濃度が算出される。
【0023】
対象物質の濃度の算出方法は特に限定されないが、予め上記分析の際に1以上の既知の濃度の対象物質を検出して検量線を作成しておき、当該検量線と、上記分析で得られた対象物質の強度から対象物質の濃度を算出することが、定量性の観点から好ましい。しかし、対象物質の分析に求められる定量性がそれ程高くない場合には、効率の観点から後述する相対応答係数を用いた方法を利用してもよいし、他の方法を用いてもよい。
【0024】
分解元物質の濃度の算出は、測定データから得られた分解元物質および既知の濃度の基準化合物の強度と、分解元物質と基準化合物とに関する相対応答係数(Relative Response Facter;RRF)に基づいて算出される。この相対応答係数は、例えば、上記分析の際に用いた分析装置と同一の機種を用い、分解元物質と基準化合物とを分析して予め得られたものであることが好ましいが、上記分析の際に想定される相対応答係数の値が得られれば特に限定されない。ここで、「機種」とは、同一の仕様の測定部を有する製品を示す。機種ごと、または装置ごとに、基準化合物および分解元物質に関する相対応答係数がデータベース等に予め記憶されていることが好ましい。
【0025】
相対応答係数は2つの物質の応答係数(Response Factor;RF)の比率で表される。応答係数RFは、分析に供した物質の重量をM、分析により得られた強度をAとすると以下の式(1)で表される。
RF=A/M …(1)
【0026】
基準化合物Rに対する分解元物質Sの相対応答係数をRRFS/Rとする。分析に供した基準化合物Rの重量をM、当該分析により得られた強度をAとし、分析に供した分解元物質Sの重量をM、当該分析により得られた強度をA、とするとRRFS/Rは以下の式(2)で表される。
RRFS/R=(A/M)/(A/M) …(2)
RRFS/Rを取得する際の分析で使用した基準化合物Rの濃度をC、分解元物質Sの濃度をCとし、分析に供した試料の体積をVとするとM=C×V、M=C×Vである。このことと上記の式(2)からRRFS/Rは以下の式(3)により定義される。
RRFS/R= (A/(C×V)) / (A/(C×V))
= (A/C) / (A/C) …(3)
従って、過去の分析で使用した基準化合物Rの既知の濃度をCR1、当該分析で得られた強度をAR1とし、過去の分析で使用した分解元物質Sの既知の濃度をCS1、当該分析で得られた強度をAS1とすると、相対応答係数RRFS/Rは以下の式(4)により算出される。
RRFS/R=(AS1/CS1) / (AR1/CR1) …(4)
【0027】
相対応答係数は、同一の機種の分析装置、特に同一の機種の質量分析計では、略一定に保たれる。上述のように過去の分析で試料の分析に用いた分析装置と同一の機種の装置を用いて相対応答係数RRFS/Rの値が予め得られている。当該相対応答係数RRFS/Rを用い、基準化合物Rの既知の濃度をCR2とし、測定データから得られた基準化合物Rの強度をAR2、分解元物質Sの強度をAS2とすると、分解元物質Sの濃度CS2は以下の(5)式で表される。
S2=RRFS/R・AS2/ (AR2/CR2) …(5)
【0028】
上記のように相対応答係数を用いて分解元物質の濃度を算出すると、予め分解元物質についての検量線を作成する必要が無く、試料の分析の際の作業量を低減することができる。対象物質の定量と比べ、分解元物質の定量には高い定量性を求められない場合が多く、分解元物質の濃度の算出に相対応答係数を用いることは、対象物質の定量性の低下を抑制しつつ効率的に分析を行う観点から特に好適である。
なお、分解元物質に対する基準化合物の相対応答係数に基づいて分解元物質の濃度を算出してもよい。
【0029】
(分析情報の生成)
算出された対象物質および分解元物質の濃度に基づいて、分析情報が生成される。分析情報とは、試料における対象物質の量または濃度についての情報であり、分析における当該量または濃度の信頼性についての情報も含むことができる。分析情報は、分析者等に提供される。
【0030】
以下では、分解元物質の濃度についての閾値(以下、第1閾値と呼ぶ)と、対象物質の閾値(以下、第2閾値と呼ぶ)とに基づいて、分析情報を生成する例を説明するが、分析情報の生成方法は、分解元物質の濃度に基づいて、対象物質の量または濃度の情報が得られれば特に限定されない。ここで、第2閾値は、分析の目的等に応じて適宜定められる値であり、例えば、対象物質が規制の対象となっている物質の場合には、当該規制により許容される濃度に基づいて設定される。
【0031】
図2(A)および図2(B)は、分析情報の生成を説明するための概念図である。図2(A)は、分解元物質に対応するピーク(以下、第1ピークP1と呼ぶ)を含むマスクロマトグラムM1を示す。図2(B)は、対象物質に対応するピーク(以下、第2ピークP2と呼ぶ)を含むマスクロマトグラムM2を示す。図2(A)および図2(B)において、横軸は保持時間を、縦軸は検出信号の強度を示す。
【0032】
分解元物質に対応する第1ピークP1の強度が一定以上であると、試料には、分析中の分解元物質の分解が対象物質の分析に影響を与える程、分解元物質が含まれていると判定される。この場合、第2ピークP2に対応する対象物質のうち、分解元物質に基づく一部は、分析の際に分解元物質が分解されて生成した対象物質となる。従って、分析の前に試料に含まれていた対象物質に対応するピークP20は、第2ピークP2よりも小さいものと想定される。
【0033】
以上を鑑み、本実施形態では、算出された分解元物質の濃度が第1閾値以上であるか否かの判定(以下、第1判定と呼ぶ)が行われる。分解元物質の濃度が第1閾値以上であった場合、算出された対象物質の濃度をより低くなるように修正するか、第2閾値をより高くするように修正する。修正された後、対象物質の濃度が第2閾値以上であるか否かの判定(以下、第2判定と呼ぶ)が行われる。分解元物質の濃度が第1閾値未満であった場合、この修正を行わずに第2判定が行われる。対象物質の濃度または第2閾値の修正の際の変化量、および第1閾値は、予め得られた、分解元物質から分析の際どの程度対象物質が生成されるかについての情報に基づいて定められる。分解元物質が検出されることを第1判定の条件としてもよい。言い換えれば、第1閾値は、0あるいはイオンを検出していないときの検出信号のノイズに基づいて定まる値でもよい。
なお、第1閾値および第2閾値のそれぞれに関する判定条件は、第1閾値または第2閾値に基づいて判定がされれば特に限定されず、例えば、上記「第1閾値以上」ではなく第1閾値を超えるか否かにより判定を行ってもよい。
【0034】
第2判定の結果を含む分析情報が分析者等に提供される。さらに、分析情報には、第1判定の結果または、上記修正が行われたか否かに関する情報を含めてもよい。
なお、第1判定において分解元物質の濃度が第1閾値以上であった場合、上記修正を行わずに第2判定を行い、第2判定の結果と、分解元物質の影響により第2判定の信頼性が低減されている点とを含む分析情報を提供してもよい。
【0035】
(分析装置について)
図3は、本実施形態に係る分析装置の構成を示す概念図である。分析装置1は、熱分解ガスクロマトグラフ-質量分析計(以下、Py-GC-MSと呼ぶ)であり、測定部100と情報処理部40とを備える。測定部100は、熱分解ガスクロマトグラフ10と、質量分析部30とを備える。
なお、本実施形態に係る分析装置は、定量分析が可能であれば特に限定されない。分析装置としては、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)、質量分析計、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)、液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)、フーリエ変換赤外分光光度計、および紫外・可視分光光度計等を用いることができる。
【0036】
熱分解ガスクロマトグラフ10は、熱分解装置20、キャリアガス流路11、熱分解装置20で熱分解された試料および基準化合物(以下、試料等と呼ぶ)が導入される試料導入部12、カラム温度調節部13、分離カラム14および試料ガス導入管15を備える。質量分析部30は、真空容器31と、排気口32と、試料等をイオン化してイオンInを生成するイオン化部33と、イオン調整部34と、質量分離部35と、検出部36とを備える。
【0037】
情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、出力部44と、制御部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、データ処理部52と、出力制御部53とを備える。データ処理部52は、濃度算出部521と、情報生成部522とを備える。出力制御部53は、通知部530を備える。情報生成部522は、判定部523を備える。
【0038】
測定部100は、分離分析により試料等の各成分を分離し、試料等を検出する。
【0039】
熱分解ガスクロマトグラフ10は、試料等を熱分解した後、試料等に含まれる成分を物理的または化学的特性に基づいて分離する。分離カラム14に導入される際に、試料等はガスまたはガス状となっているが、これを試料ガスと呼ぶ。
【0040】
キャリアガス流路11は、ヘリウム等のキャリアガスの流路であり、キャリアガスを熱分解装置20に導入する(矢印A1)。熱分解装置20は、試料等を熱分解し、試料導入部12へと導入する。熱分解装置20の種類は特に限定されず、加熱炉型でも、誘導加熱型でも、フィラメント型でもよい。試料導入部12は、試料等が導入される室とスプリットベント等を備え、試料ガスを適宜選択的に分離カラム14に導入する。
【0041】
分離カラム14は、キャピラリーカラム等のカラムを備える。分離カラム14は、カラムオーブン等を備えるカラム温度調節部13により数百℃以下等に温度制御されている。試料ガスの各成分は、移動相と、分離カラム14の固定相との間の分配係数等に基づいて分離され、分離された試料ガスの各成分は異なる時間に分離カラム14から溶出し、試料ガス導入管15を通って質量分析部30のイオン化部33に導入される。
【0042】
質量分析部30は、質量分析計を備え、イオン化部33に導入された試料等をイオン化し、質量分離して検出する。イオン化部33で生成されたイオンInの経路を矢印A2で模式的に示した。イオンInは、試料等に電子、原子または原子団が結合したイオンや、試料等の解離等の分解により生成されたイオン等の試料等に由来するイオンを含むものとする。
なお、イオンInを所望の精度で質量分析して検出することができれば、質量分析部30を構成する質量分析計の種類は特に限定されず、任意の種類の1以上の質量分析器を含むものを用いることができる。
【0043】
質量分析部30の真空容器31は、排気口32を備える。排気口32は、ターボ分子ポンプ等の、10-2Pa以下等の高真空が実現可能なポンプおよびその補助ポンプを含む不図示の真空排気系と接続されている。図3では、真空容器31の内部の気体が排出される点を矢印A3で模式的に示した。
【0044】
質量分析部30のイオン化部33は、イオン源を備え、イオン化部33に導入された試料等を電子イオン化によりイオン化する。電子イオン化の際に試料等は解離されるため、イオンInは、試料等が解離されて得られたフラグメントイオンを含む。イオン化部33で生成されたイオンInはイオン調整部34に導入される。
なお、イオン化部33によるイオン化の方法は、所望の効率でイオン化を行うことができれば特に限定されない。GC-MSの場合、化学イオン化等を用いてもよい。LC-MSの場合もエレクトロスプレー法等を適宜用いることができる。
【0045】
質量分析部30のイオン調整部34は、レンズ電極やイオンガイド等のイオン輸送系を備え、電磁気学的作用により、イオンInを収束させる等して調整する。イオン調整部34から出射されたイオンInは質量分離部35に導入される。
【0046】
質量分析部30の質量分離部35は、四重極マスフィルタを備え、導入されたイオンInを質量分離する。質量分離部35は、四重極マスフィルタに印加された電圧により、m/zの値に基づいてイオンInを選択的に通過させる。質量分離部35で質量分離されたイオンInは検出部36に入射する。
【0047】
質量分析部30の検出部36は、イオン検出器を備え、入射したイオンInを検出する。検出部36は、入射したイオンInの検出により得られた検出信号を、不図示のA/D変換器によりA/D変換し、デジタル化された検出信号を測定データとして情報処理部40に出力する(矢印A4)。
【0048】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備え、分析装置1のユーザー(以下、単に「ユーザー」と呼ぶ)とのインターフェースとなる他、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。
なお、分析装置1が用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、分析装置1が行う演算処理の一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。
【0049】
入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンまたはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、測定部100の制御や制御部50の処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。イオンInを検出するためのm/zが入力部41を介して入力される。通信部42は、インターネット等の無線または有線接続による通信を行うことができる通信装置を含んで構成され、測定部100の制御や制御部50の処理に関するデータ等を適宜送受信する。
【0050】
記憶部43は、不揮発性の記憶媒体で構成され、測定データ、制御部50が処理を実行するためのプログラム、データ処理部52が処理を行うために必要なデータおよび当該処理により得られたデータ等を記憶する。記憶部43には、上述の第1閾値、第2閾値、および相対応答係数RRFS/Rを示す数値、ならびに、対象物質の濃度または第2閾値の修正のためのデータが記憶されている。
【0051】
出力部44は、液晶モニタ等の表示装置やプリンター等を含んで構成される。出力部44は、データ処理部52の処理により得られたデータ等を、表示装置に表示したり、プリンターにより印刷したりして出力する。
【0052】
制御部50は、CPU等のプロセッサを備え、測定部100の各部の動作を制御したり、測定データを処理する等、分析装置1の動作の主体となる。
【0053】
制御部50の装置制御部51は、測定部100の各部の動作を制御する。例えば、装置制御部51は、質量分離部35で通過させるイオンのm/zを連続的に変化させるスキャンモードや、特定のm/zを有する複数のイオンを通過させるSIM(Selective Ion Scannning)モードによりイオンInの検出を行うことができる。この場合、装置制御部51は、入力部41からの入力等に基づいて設定されたm/zを有するイオンInが質量分離部35を選択的に通過するように、質量分離部35の電圧を変化させる。
【0054】
制御部50のデータ処理部52は、測定データを処理し、解析する。
【0055】
濃度算出部521は、測定データから、検出された対象物質および分解元物質の強度を算出する。濃度算出部521は、測定データから、マスクロマトグラムに対応するデータ(以下、マスクロマトグラムデータと呼ぶ)を生成する。濃度算出部521は、対象物質、分解元物質および基準化合物のそれぞれに対応するピークのピーク強度またはピーク面積を対象物質、分解元物質および基準化合物の強度として算出する。
なお、対象物質、分解元物質および基準化合物の強度の算出方法は、測定データからこれらの物質または化合物に対応する検出信号の大きさを定量することができれば特に限定されない。
【0056】
濃度算出部521は、算出された対象物質の強度に基づいて対象物質の濃度を算出する。対象物質の濃度は、検量線に基づいて算出することが好ましいが、特に限定されない。濃度算出部521は、分解元物質および基準化合物の強度と、記憶部43に記憶されている分解元物質および基準化合物についての相対応答係数に基づいて、上述の式(5)により分解元物質の濃度を算出する。
【0057】
情報生成部522は、分析情報を生成する。分析情報に含まれる対象物質の量または濃度は、分析装置1による分析の際に分解元物質から生成された対象物質を除いた量または濃度となっている。
【0058】
情報生成部522の判定部523は、濃度算出部521が算出した分解元物質の濃度について第1判定を行う。分解元物質の濃度が第1閾値以上の場合、判定部523は、記憶部43に記憶されている、対象物質の濃度または第2閾値の修正のためのデータ(以下、修正用データと呼ぶ)を参照する。修正用データには、分解元物質の濃度に対応して、対象物質の濃度または第2閾値の修正量が設定されている。判定部523は、修正用データに基づいて、対象物質の濃度または第2閾値を修正する。この修正の後、あるいは、第1判定において分解元物質の濃度が第1閾値未満であった場合、判定部523は、第2判定を行う。
【0059】
情報生成部522は、第2判定の判定結果を含む分析情報を作成する。分析情報には、第1判定、上記修正および第2判定の信頼性についての情報が適宜含まれる。
【0060】
出力制御部53は、データ処理部52の処理により得られた、分析情報等を含む出力画像を生成し、出力部44を制御して当該出力画像を出力させる。
【0061】
出力制御部53の通知部530は、分析情報の少なくとも一部をユーザーに伝えるための通知を出力する。通知部530による通知の方法は特に限定されないが、例えば出力部44の画面にポップアップメッセージとして表示してもよい。例えば、通知部530は、第1判定により分解元物質の濃度が第1閾値以上と判定された場合、分解元物質の影響で対象物質の濃度が分析前よりも高い値として提示されている可能性がある旨を通知することができる。あるいは、通知部530は、判定部523の第1判定の後、対象物質の濃度または第2閾値が修正された場合には、当該修正が行われたことを通知することができる。
【0062】
(分析方法について)
図4は、本実施形態の分析方法の流れを示すフローチャートである。ステップS1001において、情報処理部40は、第1閾値と、第2閾値と、分解元物質および基準化合物に関する相対応答係数とを取得し、記憶部43に記憶させる。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。ステップS1003において、測定部100は、試料および基準化合物を分析し、濃度算出部521は、対象物質の濃度と、分解元物質の濃度とを算出する。ステップS1003が終了したらステップS1005が開始される。
【0063】
ステップS1005において、判定部523は、分解元物質の濃度が第1閾値以上か否かを判定する(第1判定)。分解元物質の濃度が第1閾値未満であった場合、判定部523は、ステップS1005を否定判定してステップS1007が開始される。分解元物質の濃度が第1閾値以上であった場合、判定部523は、ステップS1005を肯定判定してステップS1011が開始される。
【0064】
ステップS1007において、判定部523は、ステップS1003で算出された対象物質の濃度が、第2閾値以上か否かを判定する(第2判定)。ステップS1007が終了したら、ステップS1009が開始される。ステップS1009において、出力部44は、第2判定の判定結果を含む分析情報を出力する。
【0065】
ステップS1011において、判定部523は、ステップS1003で算出された対象物質の濃度または第2閾値を修正する。ステップS1011が終了したら、ステップS1013が開始される。ステップS1013において、判定部523は、対象物質の濃度が、第2閾値以上か否かを判定する(第2判定)。ステップS1013が終了したら、ステップS1015が開始される。
【0066】
ステップS1015において、判定部523は、第2判定の判定結果を含む分析情報を出力する。ステップS1015が終了したら、処理が終了される。
【0067】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位等に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態では、第1判定において、分解元物質の濃度が第1閾値以上である場合に対象物質の濃度または第2閾値の修正を行うこととした。しかし、第1閾値が強度値として設定されており、測定データから得られた分解元物質の強度が第1閾値以上であるか否かに基づいて第1判定を行ってもよい。この場合、第1判定には分解元物質の濃度は必要ないが、出力部44は、上述のように相対応答係数を用いて算出された分解元物質の濃度を出力して分析者等に提供することができる。
【0068】
(変形例2)
上述の実施形態において、分解元物質がTOTMおよびn-TOTMの少なくとも一つを含む場合、試料の分析においてPVCまたはPVCに由来する化合物(以下、PVC等と呼ぶ)が検出されたか否かに基づいて、第1判定を行うか否かを決定してもよい。PVC等が検出された場合、分析の際にTOTMまたはn-TOTMから対象物質が生成する可能性が高まる。従って、PVC等を検出した場合に第1判定を行う構成にすることで、さらに効率的に対象物質の定量的な分析を行うことができる。このように、情報生成部522は、試料の分析においてPVCを検出したか否かに基づいて、分析情報を生成することができる。
【0069】
(変形例3)
分析装置1の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述したデータ処理部52の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0070】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM、DVD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図5はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0071】
(態様)
上述した複数の実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0072】
(第1項目)一態様に係る分析方法は、第1物質の分解により生成される第2物質の分析方法であって、試料と、既知の濃度の化合物との分析を行って前記第1物質、前記第2物質および前記化合物の検出を行うことと、前記検出により得られたデータと、前記第1物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記第1物質の濃度を算出することと、前記データから得た前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記分析の際に前記第1物質から生成された前記第2物質を除く前記第2物質の量または濃度についての情報を生成することとを備える。これにより、対象物質と、分解元物質とを含む可能性のある試料の分析をより効率よく行うことができる。
【0073】
(第2項目)他の一態様に係る分析方法では、第1項目に記載された態様の分析方法において、前記第1物質の強度または濃度についての第1閾値を取得することを備え、前記データにより得られた前記第2物質の濃度と、前記第1物質の強度または濃度が前記第1閾値に基づく第1条件を満たすか否かとに基づいて、前記情報を生成する。これにより、閾値に基づいて、分解元物質による対象物質の量または濃度への影響をわかりやすく設定することができる。
【0074】
(第3項目)他の一態様に係る分析方法では、第2項目に記載された分析方法において、前記第2物質の強度または濃度についての第2閾値を取得することを備え、前記第1物質の強度または濃度が前記第1条件を満たすか否かと、前記第2物質の濃度と、前記第2閾値とに基づいて、前記情報を生成する。これにより、閾値と、対象物質の濃度との比較についての情報を提供することができる。
【0075】
(第4項目)他の一態様に係る分析方法では、第3項目に記載された態様の分析方法において、前記第1物質の強度または濃度が前記第1条件を満たすか否かに基づき、前記第2物質の濃度または前記第2閾値の修正を行い、前記修正の後、前記第2物質の濃度が前記第2閾値に基づく第2条件を満たすか否かに基づいて、前記情報を生成する。これにより、分解元物質による対象物質の濃度への影響を修正により反映し、より正確に、閾値と、対象物質の量または濃度との比較についての情報を提供することができる。
【0076】
(第5項目)他の一態様に係る分析方法では、第2項目から第4項目までのいずれかに記載された態様の分析方法において、前記第1物質の強度または濃度が前記第1条件を満たすか否かに基づき、前記第2物質の分析の信頼性についての情報を生成する。これにより、分解元物質による対象物質の分析の信頼性への影響についての情報を提供することができる。
【0077】
(第6項目)他の一態様に係る分析方法では、第1項目から第5項目までのいずれかに記載された態様の分析方法において、前記検出は、ガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、質量分析、ガスクロマトグラフィ/質量分析、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析、液体クロマトグラフィ/質量分析、フーリエ変換赤外分光法、または紫外・可視光を利用した分光光度法により行われる。これらの分析方法では、分解元物質からの対象物質の生成が起こる可能性があるが、このような場合に、より正確に対象物質の分析を行うことができる。さらなる一態様では、前記検出は、熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析により行われる。熱分解では分解元物質からの対象物質の生成が特に起こりやすくなる傾向があるが、このような場合に、より正確に対象物質の分析を行うことができる。
【0078】
(第7項目)他の一態様に係る分析方法では、第1項目から第6項目までのいずれかに記載された態様の分析方法において、前記第2物質は、フタル酸のエステルである。フタル酸のエステルは、効率的に定量を行う重要性が高く、本発明の効果がより強く発揮される。
【0079】
(第8項目)他の一態様に係る分析方法では、第7項目に記載された態様の分析方法において、前記第1物質は、トリメリット酸トリス(2- エチルヘキシル)(TOTM)であり、前記第2物質は、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、テレフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)およびイソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。TOTMは、分析の際の分解によりこれらの化合物を生成し得るため、本発明を好適に適用することができる。
【0080】
(第9項目)他の一態様に係る分析方法では、第7項目に記載された態様の分析方法において、前記第1物質は、トリメリット酸トリ-n-オクチル(n-TOTM)であり、前記第2物質は、フタル酸ジノルマルオクチル(DNOP)、テレフタル酸ジノルマルオクチルおよびイソフタル酸ジノルマルオクチルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物である。n-TOTMは、分析の際の分解によりこれらの化合物を生成し得るため、本発明を好適に適用することができる。
【0081】
(第10項目)他の一態様に係る分析方法では、第8項目または第9項目に記載された態様の分析方法において、前記試料の分析においてポリ塩化ビニルが検出されたか否か、および、前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記第2物質の量または濃度についての情報を生成する。ポリ塩化ビニルの存在下では、TOTMまたはn-TOTMは、分析の際の分解により上記化合物を生成する可能性が高まるため、本発明を好適に適用することができる。
【0082】
(第11項目)一態様に係る分析装置は、第1物質の分解により生成される第2物質の分析を行う分析装置であって、試料と既知の濃度の化合物との分析により前記第1物質、前記第2物質および前記化合物を検出する測定部と、前記検出により得られたデータと、前記第1物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記第1物質の強度または濃度を算出する濃度算出部と、前記データから得た前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記分析の際に前記第1物質から生成された前記第2物質を除く前記第2物質の量または濃度についての情報を生成する情報生成部とを備える。これにより、対象物質と、分解元物質とを含む可能性のある試料の分析をより効率よく行うことができる。
【0083】
(第12項目)一態様に係るプログラムは、第1物質の分解により生成される第2物質の分析における処理を処理装置に行わせるためのプログラムであって、前記処理は、試料と既知の濃度の化合物との分析により前記第1物質、前記第2物質および前記化合物を検出して得られたデータと、前記第1物質および前記化合物についての相対応答係数とに基づいて、前記第1物質の強度または濃度を算出する算出処理(図4のフローチャートのステップS1003に対応)と、前記データから得た前記第1物質の強度または濃度に基づいて、前記分析の際に前記第1物質から生成された前記第2物質を除く前記第2物質の量または濃度についての情報を生成する情報生成処理(ステップS1005~S1015に対応)とを含む。これにより、対象物質と、分解元物質とを含む可能性のある試料の分析をより効率よく行うことを実現できる。
【0084】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0085】
(実験例)
以下では、TOTMおよびn-TOTMをPy-GC/MSに供した際にDEHPが生成した実験例を示す。本発明はこの実験例の数値または装置等の条件に限定されない。
【0086】
<装置構成>
Py-GC/MSは、Py-Screenerシステム(島津製作所)を用いて行われた。当該システムでは、パイロライザーとしてEGA/PY-3030D、オートショットサンプラーとしてAS-1020E (フロンティア・ラボ)が用いられ、GC-MSとしてGCMS-QP2020(島津製作所)が用いられた。カラムは、UA-PBDE (15m, 0.25mm I.D., df=0.05 μm)(フロンティア・ラボ)を用いた。
【0087】
<検量線の作成>
フタル酸エステル樹脂標準試料 (島津製作所) の1,000 mg/kg の試料をマイクロパンチャーで2片切り取り、約0.5 mgをPy-Screenerで分析した。この分析で得られたデータを用いて1点検量線を作成し、フタル酸エステルの定量値の算出に用いた。
【0088】
<標準試料の分析>
TOTMについて、15.3、28.2、39.9 mg/mLのそれぞれの濃度の溶液 (溶媒:アセトン)を調製した。n-TOTMについては39.9 mg/mLの溶液 (溶媒:アセトン)を調製した。これらの溶液から下記の1.および2.の試料を作成し、Py-Screenerで分析した。
1. 標準試料のみ: 試料カップに標準溶液 5 μLを添加したもの。
2. 標準試料+PVC:試料カップに25 mg/mL PVC溶液 (溶媒: tetrahydrofuran;THF) 20 μLと標準溶液 5 μLを添加したもの。
なお、15.3、28.3、39.9 mg/mLのそれぞれの濃度の溶液を用いた試料に含まれるTOTMの量は、それぞれ樹脂中TOTM濃度15.3 %、28.2%、39.9%の試料0.5 mgに含有されるTOTMの量に相当する。フタル酸エステルの定量の際は、これらの試料の重量を0.5 mgとして算出した。
【0089】
<分析結果>
TOTMの標準試料、および標準試料とPVC溶液を共に添加した試料(標準試料+PVC)を分析した結果を以下の表1に示した。各データはn=3、単位はmg/kgである。N.D.は30 mg/kg未満を示す。標準試料のみではDEHPはほとんど検出されなかった。標準試料+PVCではTOTM濃度に依存してDEHPが159から433 mg/kg検出された。これにより、DEHPの生成にはPVCが関与していることが分かった。
【0090】
【表1】
【0091】
n-TOTMの標準試料、および標準試料とPVC溶液を共に添加した試料(標準試料+PVC)を分析した結果を以下の表2に示した。各データはn=3、単位はmg/kgである。n-TOTMについては、標準試料のみでDNOPが1565 mg/kg、標準試料+PVCで1949 mg/kgが検出された。標準試料にDNOPが不純物として含有されており、PVCが混合されたことでDNOPが増加したことが示唆された。
【0092】
【表2】
【符号の説明】
【0093】
1…分析装置、10…熱分解ガスクロマトグラフ、14…分離カラム、20…熱分解装置、30…質量分析部、33…イオン化部、35…質量分離部、36…検出部、40…情報処理部、44…出力部、50…制御部、52…データ処理部、100…測定部、521…濃度算出部、522…情報生成部、523…判定部、530…通知部、In…イオン、P1…分解元物質に対応するピーク,P2…対象物質に対応するピーク,P20…分析の前に試料に含まれていた対象物質に対応するピーク。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる対象成分を分析する分析方法であって、
前記試料に濃度が既知の化合物を添加して質量分析を行う分析ステップと、
前記濃度が既知の化合物に基づき、前記試料中の前記対象成分および分解元物質濃度算出するステップ
前記分解元物質について、前記対象成分の濃度値に影響を与える程度の濃度か否かを判定する判定ステップと、からなる方法に関し、
前記対象成分が、フタル酸のエステルであり、
前記分解元物質が、トリメリット酸トリス(2- エチルヘキシル)(TOTM)およびトリメリット酸トリ-n-オクチル (n-TOTM)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である分析方法。
【請求項2】
前記分解元物質の濃度が前記対象成分の濃度値影響を与える程度である場合、前記対象成分の濃度を補正する補正ステップをさらに含む、請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の分析方法において、
前記分解元物質は、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOTM)であり、
前記対象成分は、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、テレフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)およびイソフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である分析方法。
【請求項4】
請求項に記載の分析方法において、
前記分解元物質は、トリメリット酸トリ-n-オクチル(n-TOTM)であり、
前記対象成分は、フタル酸ジノルマルオクチル(DNOP)、テレフタル酸ジノルマルオクチルおよびイソフタル酸ジノルマルオクチルからなる群から選択される少なくとも一つの化合物である分析方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、分析方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の第1の態様は、試料中に含まれる対象成分を分析する分析方法であって、前記試料に濃度が既知の化合物を添加して質量分析を行う分析ステップと、前記濃度が既知の化合物に基づき、前記試料中の前記対象成分および分解元物質の濃度を算出するステップ、前記分解元物質について、前記対象成分の濃度値に影響を与える程度の濃度か否かを判定する判定ステップと、からなる方法に関し、前記対象成分が、フタル酸のエステルであり、前記分解元物質が、トリメリット酸トリス(2- エチルヘキシル)(TOTM)およびトリメリット酸トリ-n-オクチル (n-TOTM)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物である分析方法に関する。