(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093656
(43)【公開日】2023-07-04
(54)【発明の名称】抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230627BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230627BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230627BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230627BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230627BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230627BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230627BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230627BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230627BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
C07K16/18
C07K16/46
A61K35/17
A61K39/395 T
A61P35/00
C12N5/0783
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070426
(22)【出願日】2023-04-21
(62)【分割の表示】P 2021085852の分割
【原出願日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2015159240
(32)【優先日】2015-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23~26年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「がん幹細胞を標的とした根治療法の開発」(がん幹細胞を標的とした新規抗体療法の開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保仙 直毅
(72)【発明者】
【氏名】杉山 治夫
(72)【発明者】
【氏名】熊ノ郷 淳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 淳一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】骨髄腫細胞およびその前駆体に特異的に結合する骨髄腫治療用の医薬組成物の有効成分を提供する。
【解決手段】ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域にエピトープを有する抗体で、正常細胞を認識しないため、癌(例えば血液癌)の治療薬の有効成分として有用である。抗原認識部位をキメラ抗原受容体に適用することにより製造されるキメラ抗原受容体T細胞を、上述のような医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒトインテグリンβ7抗体であって、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残
基からなる領域にエピトープを有する抗体。
【請求項2】
ヒトインテグリンβ7の379~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ヒトインテグリンβ7を活性化することにより、前記エピトープへの親和性が上昇する、
請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
配列番号1に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および/または
配列番号3に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに/あるいは
配列番号6に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、
配列番号7に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および/または
配列番号8に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
配列番号4に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および/または
配列番号9に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
多重特異性抗体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチ
ド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを保持する宿主細胞。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体の抗原認識部位を含むキメラ抗原受容体。
【請求項10】
請求項9に記載のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
配列番号22に示す塩基配列を有する、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項10または11に記載のポリヌクレオチドを保持する細胞。
【請求項13】
キメラ抗原受容体T細胞である、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または請求項12に記載の細胞を含む医薬組成
物。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体または請求項13に記載のキメラ抗原受容体T
細胞を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
新たな抗体およびその利用などが開示される。
【背景技術】
【0002】
形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患の代表例である多発性骨髄腫は、全ての癌の中のお
よそ1%を占め、全ての血液学的悪性腫瘍の10%強を占める。多発性骨髄腫とは、骨髄
に存在する形質細胞が癌化し(結果として異常な形質細胞となる)、単クローン性に増殖
する疾患である。
【0003】
多発性骨髄腫では、異常な形質細胞(骨髄腫細胞)が体中の骨髄に広がり、全身の骨髄
の至るところで増殖する。異常な形質細胞が増殖すると、骨の破壊を含む様々な症状が現
れる。骨髄腫細胞からは、異常免疫グロブリンであるMタンパク質が産出され、血中のM
タンパク質濃度が上昇することにより、血液が粘稠になる。
【0004】
Mタンパク質は、体内に侵入した病原体などの異物を認識するという本来の抗体として
は機能しないため、免疫力の低下も引き起こす。これらが多くの臓器に影響を与え、様々
な徴候が生じる。代表的な徴候は、骨の痛みと損傷、高カルシウム症、腎障害や腎不全、
貧血などである。
【0005】
現在、多発性骨髄腫の治療として、プロテアソーム阻害剤、サリドマイドとその誘導体
であるレナリドマイドなどのiMIDs、およびメルファランとプレドニゾンとの併用などの
化学療法、並びに造血幹細胞移植が主に行われている。
【0006】
しかし、骨髄腫細胞は、ほとんどの場合、やがてこれらの治療薬に対して抵抗性を獲得
する。このため、現在の治療手段では、発症後の平均生存期間は3~5年程度であり、骨
髄腫患者の予後は厳しいのが現実である。また、これらの治療薬は、標的とする腫瘍細胞
にだけ特異的に作用するものではないため、正常な細胞に対しても毒性を示し、結果とし
て重篤な副作用を伴うという問題がある。
【0007】
モノクローナル抗体を利用した多発性骨髄腫の治療法の開発が試みられている。例えば
、抗CS1抗体、および抗CD38抗体などが有望視されている(非特許文献1および2)。そ
して、特許文献1には抗ヒトCD48モノクローナル抗体を有効成分とする多発性骨髄腫など
を対象とする治療薬が開示されている。
【0008】
インテグリンは、生体内においては主としてα鎖とβ鎖とのヘテロダイマーを形成し、
細胞表層上にてレセプターとしての機能を果たす。このようなインテグリンのα鎖とβ鎖
の組みわせは多岐に渡る。
【0009】
また、非特許文献4~6には、特定の抗原に対して親和性を有する抗原認識部位を含む
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Clinical Oncology, 2012 Jun 1; 30(16): 1953-9.
【非特許文献2】Journal of immunology, 2011 Feb 1; 186(3): 1840-8.
【非特許文献3】J Biol Chem. 2012 May 4;287(19):15749-59.
【非特許文献4】J Immunol. 2009 Nov 1;183(9):5563-74.
【非特許文献5】N Engl J Med. 2014 Oct 16;371(16):1507-17.
【非特許文献6】Nat Biotechnol. 2002 Jan;20(1):70-5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
抗CS1抗体は骨髄腫細胞への特異性は比較的高いが、抗体単独での抗骨髄腫効果は高い
とはいえず、単剤での有効性は臨床試験では示されていない。レナリドマイドとの併用に
より抗CS1抗体の抗腫瘍効果が上昇するということが見出され、この併用による承認を目
指していると思われる。一方、CD38は、CD34陽性造血前駆細胞を含む多くの正常な血液細
胞にも発現しているため、多発性骨髄腫の治療ターゲットとして特異性の低い抗原である
。このような現状のもと、多発性骨髄腫等の形質細胞の腫瘍性増殖を伴う疾患等の治療に
より有効な手段を提供することが1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、骨髄腫細胞および
その前駆体に特異的に結合することを指標にスクリーニングを行ってMMG49抗体を得た。
そして、斯かる抗体がヒトインテグリンβ7の特定の領域に結合することを確認し、斯か
る抗体の抗原認識部位を用いて作製したCAR-T細胞が、骨髄腫の治療に非常に有用である
ことを見出した。また、MMG49抗体のエピトープが、ヒトインテグリンβ7の20~109番目
のアミノ酸残基からなる領域に存在することも明らかにした。
【0014】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す広い態様の発明
を包含する。
【0015】
(I) 抗体
抗体(I)は、以下の(I-1)~(I-25)に示す抗体を包含する。
【0016】
(I-1)
抗ヒトインテグリンβ7抗体であって、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残
基からなる領域にエピトープを有する抗体。
(1-1A)
ヒトインテグリンβ7の33~109番目のアミノ酸残基からなる領域にエピトープを有する
、(I-1)に記載の抗体。
(1-1B)
ヒトインテグリンβ7の20~90番目のアミノ酸残基からなる領域にエピトープを有する
、(I-1)に記載の抗体。
(1-1C)
ヒトインテグリンβ7の33~90番目のアミノ酸残基からなる領域にエピトープを有する
、(I-1)に記載の抗体。
(I-2)
ヒトインテグリンβ7の379~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、(I-1)に記載の抗体。
(I-3)
ヒトインテグリンβ7の417~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、(I-2)に記載の抗体。
(I-4)
ヒトインテグリンβ7の564~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、(I-2)に記載の抗体。
(I-5)
ヒトインテグリンβ7の379~563番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、(I-2)に記載の抗体。
(I-6)
ヒトインテグリンβ7の417~563番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、(I-2)に記載の抗体。
(I-7)
ヒトインテグリンβ7の379~416番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存
在下で、前記エピトープへの親和性が上昇する、(I-2)に記載の抗体。
(I-8)
ヒトインテグリンβ7を活性化することにより、前記エピトープへの親和性が上昇する、(
I-1)~(I-7)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-9)
抗ヒトインテグリンβ7抗体であって、正常細胞上にて発現するヒトインテグリンβ7より
も、骨髄腫細胞上で発現するヒトインテグリンβ7に対して親和性が高い抗体。
(I-10)
MMG49抗体と同一のエピトープを有する、(I-1)~(I-9)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-11)
配列番号1に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および/または
配列番号3に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに/あるいは
配列番号6に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、
配列番号7に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および/または
配列番号8に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域
を含む、(I-1)~(I-10)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-12)
配列番号4に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および/または
配列番号9に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む、(I-1)~(I-10)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-13)
Fv、scFv、ディアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetra
body)、またはこれらの組み合わせである、(I-1)~(I-12)のいずれか1項に記載の抗体
。
(I-14)
定常領域を含む、(I-1)~(I-11)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-15)
キメラ抗体である、(I-1)~(I-12)および(I-14)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-16)
ヒト化抗体である、(I-1)~(I-12)および(I-14)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-17)
ヒト抗体である、(I-1)~(I-12)および(I-14)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-18)
イムノグロブリン、Fab、F(ab')2、ミニボディ(minibody)、scFv-Fc、またはこれらの
組みあわせである、(I-1)~(I-12)および(I-14)~(I-17)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-19)
IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMである、(I-1)~(I-12)および(I-14)~(I-18)のいずれか
1項に記載の抗体。
(I-20)
配列番号5に示すアミノ酸配列を有する重鎖および/または配列番号10に示すアミノ酸
配列を有する軽鎖を含む、(I-1)~(I-12)および(I-14)~(I-19)のいずれか1項に記載の
抗体。
(I-21)
細胞障害活性を有する、(I-1)~(I-20)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-22)
細胞障害活性が、ADCC活性および/またはCDC活性である、(I-21)に記載の抗体。
(I-23)
多重特異性抗体である、(I-1)~(I-22)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-24)
サイトトキシンが結合してなる、(I-1)~(I-23)のいずれか1項に記載の抗体。
(I-25)
モノクローナル抗体である、(I-1)~(I-24)のいずれか1項に記載の抗体。
【0017】
(II) ポリヌクレオチド
ポリヌクレオチド(II)は、以下の(II-1)に示すポリヌクレオチドを包含する。
(II-1)
上記抗体(I)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【0018】
(III) 宿主細胞
宿主細胞(III)は、以下の(III-1)または(III-2)に示す宿主細胞を包含する。
(III-1)
ポリヌクレオチド(II)を保持する宿主細胞。
(III-2)
真核細胞である、(III-1)に記載の宿主細胞。
【0019】
(IV) キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体(IV)は、以下の(IV-1)~(IV-5)に示すキメラ抗原受容体を包含する。
(IV-1)
上記抗体(I)と同一のエピトープを有するキメラ抗原受容体。
(IV-2)
上記抗体(I)の抗原認識部位を含む、(IV-1)に記載のキメラ抗原受容体。
(IV-3)
抗原認識部位が、
配列番号1に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、および/または
配列番号3に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR3
を含む重鎖可変領域、ならびに/あるいは
配列番号6に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、
配列番号7に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、および/または
配列番号8に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3
を含む軽鎖可変領域
を含む、(IV-1)または(IV-2)に記載のキメラ抗原受容体。
(IV-4)
抗原認識部位が、
配列番号4に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および/または
配列番号9に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む、(IV-1)~(IV-3)のいずれかに記載のキメラ抗原受容体。
(IV-5)
配列番号21に示すアミノ酸配列を有する(IV-1)~(IV-4)のいずれか1項に記載のキメラ
抗原受容体。
【0020】
(V) ポリヌクレオチド
ポリヌクレオチド(V)は、上記ポリヌクレオチド(II)とは異なり、以下の(V-1)または(V-2
)に示すポリヌクレオチドを包含する。
(V-1)
上記キメラ抗原受容体(IV)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド。
(V-2)
配列番号22に示す塩基配列を有する、(V-1)に記載のポリヌクレオチド。
【0021】
(VI) 細胞
細胞(VI)は、上記宿主細胞(III)とは異なり、以下の(VI-1)~(VI-4)のいずれかに示す細
胞を包含する。
(VI-1)
上記ポリヌクレオチド(V)を保持する細胞。
(VI-2)
真核細胞である、(VI-1)に記載の細胞。
(VI-3)
T細胞またはNK細胞である、(VI-1)または(VI-2)に記載の細胞。
(VI-4)
キメラ抗原受容体T細胞またはキメラ抗原受容体NK細胞である、(VI-1)~(VI-3)のいずれ
か1項に記載の細胞。
【0022】
(VII) 医薬組成物
医薬組成物(VII)は、以下の(VII-1)~(VII-5)に示す医薬組成物を包含する。
(VII-1)
上記抗体(I)または上記細胞(VI)を含む医薬組成物。
(VII-2)
上記細胞がキメラ抗原受容体T細胞(VI-4)である、上記(VII-1)に記載の医薬組成物。
(VII-3)
癌の治療用である、(VII-1)または(VII-2)に記載の医薬組成物。
(VII-4)
癌が血液癌である、(VII-3)に記載の医薬組成物。
(VII-5)
血液癌が、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患である、(VII-4)に記載の医薬組成物。
【0023】
(VIII) 疾患の治療または予防方法
疾患の治療または予防方法(VIII)は、以下の(VIII-1)~(VIII-6)に示す疾患の治療または
予防方法を包含する。
(VIII-1)
上記抗体(I)または上記細胞(VI)の治療有効量を被験体に投与する工程を含む、疾患の治
療または予防方法。
(VIII-2)
上記細胞がキメラ抗原受容体T細胞(VI-4)である、上記(VIII-1)に記載の治療または予防
方法。
(VIII-3)
疾患が癌であり、かつ被験体が癌に罹患する患者または癌に罹患する可能性のある動物で
ある、(VIII-1)または(VIII-2)に記載の治療または予防方法。
(VIII-4)
癌が血液癌である、(VIII-3)に記載の治療または予防方法。
(VIII-5)
血液癌が、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患である、(VIII-4)に記載の治療または予防
方法。
(VIII-6)
活性型ヒトインテグリンβ7を標的とした多発性骨髄腫の治療または予防方法。
【0024】
(IX) 使用
使用(IX)は、以下の(IX-1)~(IX-5)に示す使用を包含する。
(IX-1)
医薬組成物を製造するための、上記抗体(I)または上記細胞(VI)の使用。
(IX-2)
上記細胞がキメラ抗原受容体T細胞(VI-4)である、上記(IX-1)に記載の治療または予防方
法。
(IX-3)
癌の治療用である、(IX-1)または(IX-2)に記載の使用。
(IX-4)
癌が血液癌である、(IX-3)に記載の使用。
(IX-5)
血液癌が、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患である、(IX-3)に記載の使用。
【0025】
(X) スクリーニング方法
スクリーニング方法(X)は、以下の(X-1)~(X-5)に示すスクリーニング方法を包含する。
(X-1)
化合物ライブラリーからヒトインテグリンβ7に特異的に結合し、且つ、ヒトインテグリ
ンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域に結合する候補物質を選別する工程を含
む、癌の治療用または予防用の医薬組成物の有効成分のスクリーニング方法。
(X-2)
さらに、細胞障害活性を有する物質を選別する工程を含む、(X-1)に記載のスクリーニン
グ方法。
(X-3)
選別される物質がモノクローナル抗体である、(X-1)または(X-2)に記載のスクリーニング
方法。
(X-4)
癌が血液癌である、(X-1)~(X-3)のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
(X-5)
血液癌が、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患である、(X-4)に記載のスクリーニング方
法。
【0026】
(XI) 診断方法
診断方法(XI)は、以下の(XI-1)~(XI-5)に示す診断方法を包含する。
(XI-1)
被験体から採取したサンプルと、上記抗体(I)とを接触させる工程を含む、癌の診断方法
。
(XI-2)
被験体から採取したサンプルが、血液または骨髄液である、(XI-1)に記載の診断方法。
(XI-3)
上記抗体(I)と結合する細胞が検出された場合に癌に罹患した、または罹患する可能性が
あると判断する(XI-1)または(XI-2)に記載の診断方法。
(XI-4)
癌が血液癌である、(XI-3)に記載の診断方法。
(XI-5)
該細胞が形質細胞であり、かつ該癌が形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患である、(XI-4)
に記載の診断方法。
【0027】
(XII) キット
キット(XII)は、以下の(XII-1)~(XII-3)に示すキットを包含する。
(XII-1)
上記抗体(I)を含む、癌の診断用キット。
(XII-2)
癌が血液癌である、(XII-1)に記載の診断方法。
(XII-3)
癌が、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患である、(XII-2)に記載のキット。
【発明の効果】
【0028】
本発明の抗体は、正常細胞を認識しないため、医薬組成物の有効成分として有用である
。なかでも癌(例えば血液癌)の治療薬の有効成分として有用である。
【0029】
本発明の抗体は、その抗原認識部位をキメラ抗原受容体に適用することにより製造され
るキメラ抗原受容体T細胞を、上述のような医薬組成物の有効成分として用いることがで
きるので、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施例2において、骨髄腫患者由来骨髄細胞に対するMMG49抗体の結合をFACSを用いて解析した結果。(左)骨髄腫前駆細胞分画(Myeloma progenitor cells)、骨髄腫形質細胞分画(Myeloma plasma cells)、およびCD45
+白血球細胞(CD45
+ leukocytes)の同定方法を示す図。(右)各分画に対するMMG49抗体の結合を示す図。
【
図2】実施例2において、複数の骨髄腫患者由来骨髄細胞(UPN1~5)の骨髄腫前駆細胞分画、骨髄腫形質細胞分画、およびCD45
+白血球細胞に対するMMG49抗体の結合をFACSにて解析した結果を示す図。
【
図3】実施例3における、発現クローニング法によるMMG49抗体が認識する抗原タンパクの同定過程を示す。当初0.1%以下であったMMG49抗体に結合するBaF3細胞をFACSソーティングにより濃縮した過程を示す。
【
図4】実施例4において、Crisp-cas9システムを用いて作製したITGB7欠損U266細胞を、MMG49抗体またはFIB27抗体(市販の抗インテグリンβ
7抗体)で染色しFACS解析した結果を示す図。
【
図5】実施例4において、MM1s骨髄腫細胞由来の細胞溶解液から、MMG49抗体またはisotype control抗体を用いて免疫沈降したものをSDS-PAGEし、次いで市販の抗インテグリンβ
7抗体(アブカム社)でウェスタンブロットを行った結果を示す図。
【
図6】実施例5において、健常人末梢血細胞の各細胞分画(図中、左から順にB細胞、T細胞、単球、好中球、赤血球、および血小板を示す)に対する、それぞれMMG49抗体、FIB27抗体、およびFIB504抗体の結合をFACSを用いて解析した結果を示す図。
【
図7】実施例5において、骨髄腫患者由来骨髄細胞の各細胞分画に対する、それぞれMMG49抗体の結合をFACS解析した結果を示す図。左に各細胞分画の同定方法を示し、右に各分画に対するMMG49の結合を示す図。Aでは造血幹細胞、前駆細胞分画と骨髄腫細胞との比較を、BではB/Tリンパ球分画と、骨髄腫前駆細胞および骨髄腫形質細胞分画との比較を示した。
【
図8】実施例6において、各種骨髄腫細胞株、末梢血由来のT細胞、およびB細胞に対する、それぞれMMG49抗体およびFIB27抗体の結合をFACSを用いて解析した結果を示す図。併せて、上記細胞におけるITGA4の発現(抗インテグリンα
4抗体の結合)およびITGAEの発現(抗インテグリンα
E抗体の結合)の確認をFACS解析した結果も示す。
【
図9】実施例6において、U266細胞およびITGA4(インテグリンα
4)欠損U266細胞に対する、MMG49抗体およびFIB27抗体の結合をFACS解析した結果を示す図。併せて、上記細胞におけるITGA4の発現(抗インテグリンα
4抗体の結合)をFACS解析した結果も示す。
【
図10】実施例7における、Ca
2+/Mg
2+またはMn
2+の存在下、37℃で20分間処理したインテグリンα
4β
7強制発現K562細胞およびヒト正常末梢血由来T細胞を、MMG49抗体あるいはisotype抗体と反応させた後、二次抗体としてanti-mouse IgG antibodyを用いて染色し、これらをFACS解析した結果を示す図。
【
図11】実施例8における、ヒト/マウスキメラインテグリンβ
7タンパク質の構築とそれを一過性に発現させた293T細胞に対するMMG49抗体の結合の有無を示す図。
【
図12】実施例8における、ヒト/マウスキメラインテグリンβ
7タンパク質を一過性に発現させた293T細胞に対するMMG49抗体の結合をFACS解析した結果を示す図。
【
図13】
図12に示す結果をまとめた図。図中のグラフにおいて、縦軸は抗体が結合した細胞のパーセンテージを示し、横軸は各種ヒト/マウスキメラインテグリンβ
7タンパク質を示す。
【
図14】MMG49抗体の可変領域をヒトIgG4抗体定常部に接続することにより作製したキメラ化MMG49抗体を用いて、MM1s細胞およびKMS12BM細胞を染色した結果を示す図。
【
図15】MMG49抗体の可変領域を用いたCARコンストラクトの作製法を示したシェーマ。
【
図16】MMG49抗体の可変領域を用いたCARコンストラクトを発現させたT細胞をPE-抗ヒトF(ab')
2抗体用いて染色した結果を示す図。
【
図17】実施例11における、MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPが導入されたT細胞(control)と、インテグリンβ
7を発現していないK562細胞あるいはインテグリンα
4β
7を強制発現させたK562細胞との共培養により産生されるIFN-γおよびIL2の量をELISAにて定量した結果を示す図。*:p<0.05。
【
図18】実施例11における、MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPが導入されたT細胞(control)と、MMG49抗原発現細胞または非発現細胞との共培養により産生されるIFN-γの量をELISAにて定量した結果を示す図。
【
図19】実施例11における、MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPが導入されたT細胞(control)と、MMG49抗原発現細胞または非発現細胞との共培養により産生されるIL2の量をELISAにて定量した結果を示す図。
【
図20】実施例11における、MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPを導入されたT細胞(control)によるインテグリンβ
7を発現していないK562細胞あるいはインテグリンα
4β
7を強制発現させたK562細胞に対する細胞傷害の程度を
51Cr killing assayにて測定した結果を示す図。なお、図中のグラフのy軸は細胞傷害率(%)を意味する。
【
図21】実施例11における、MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPを導入されたT細胞(control)によるMMG49抗原発現細胞または非発現細胞に対する細胞傷害の程度を
51Cr killing assayにて測定した結果を示す図。
【
図22】実施例12における、NOGマウスの骨髄内に生着させた骨髄腫細胞株MM1sに対する治療実験のデザインおよびその結果を示す図。MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPを導入されたT細胞(control)の移入後1週後の骨髄細胞を採取し、FACSにて解析した。MM1s細胞はヒトCD138
+細胞として同定可能である。MMG49抗体由来CAR-T細胞投与群で骨髄内のMM1s細胞がほぼ完全に消失している。
【
図23】実施例12における、NOGマウスの全身に生着させた骨髄腫細胞株MM1sに対する治療実験のデザインおよびその結果を示す図。MMG49抗体由来CAR-T細胞またはGFPを導入されたT細胞(control)の移入前後の骨髄腫細胞の量はIVIS imagingでの蛍光強度の測定により評価した。MMG49抗体由来CAR-T細胞投与群で骨髄内のMM1s細胞がほぼ完全に消失している。
【
図24】ヒト由来のインテグリンβ
7のアミノ酸配列と、マウス由来のインテグリンβ
7とのアミノ酸配列の比較を示す図。
【
図25】実施例13における、ヒト/マウスキメラインテグリンβ
7タンパク質の構築とそれを一過性に発現させた293T細胞に対するMMG49抗体の結合の有無を示す図。
【
図26】実施例14における、MMG49抗体のエピトープを検討する実験結果を示す図。横軸のMFIとはMMG49抗体に対する結合強度を表し、数値が高いほど結合力が高いことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書において、「含む」及び「有する」は、いわゆるオープンラングエッジである
が、これらは「のみから成る」というクローズドラングエッジを含む概念であり、一実施
形態において、「のみから成る」に置き換えることができる。
【0032】
「骨髄腫前駆細胞」は、骨髄腫形質細胞に分化する前の段階の前駆細胞であり、CD38が
強発現しているが、成熟形質細胞に特異的なマーカーであるCD138の発現がないことによ
って特徴付けられる。よって、骨髄腫前駆細胞は、「CD38++CD138-細胞」又は「CD19-CD3
8++CD138-細胞」と表記される場合もある。
【0033】
「骨髄腫形質細胞」は、一般には骨髄腫細胞とも呼ばれ、異常免疫グロブリンであるM
タンパクを産生する細胞である。骨髄腫形質細胞では、CD38の強発現に加え、CD138が発
現している。よって、骨髄腫形質細胞は、「CD38++CD138+細胞」又は「CD19-CD38++CD138
+細胞」と表記される場合もある。
【0034】
骨髄腫前駆細胞、及び骨髄腫形質細胞は、各々多発性骨髄腫以外の形質細胞の腫瘍性増
殖をきたす疾患における腫瘍前駆細胞、腫瘍性形質細胞をも意味する。
【0035】
「造血前駆細胞」は、様々な血球系細胞へと分化可能な細胞である。造血前駆細胞は、
CD34の発現によって特徴付けられる。よって、本明細書において造血前駆細胞は、「CD34
+細胞」と表記される場合もある。
【0036】
(I) 抗体
抗体(I)とは、好ましくは抗ヒトインテグリンβ7抗体であって、ヒトインテグリンβ7
の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域にエピトープを有する抗体である。
【0037】
より好ましくは、ヒトインテグリンβ7の33~109番目のアミノ酸残基からなる領域にエ
ピトープを有する抗体またはヒトインテグリンβ7の20~90番目のアミノ酸残基からなる
領域にエピトープを有する抗体を挙げることができる。最も好ましくは、ヒトインテグリ
ンβ7の33~90番目のアミノ酸残基からなる領域にエピトープを有する抗体を挙げること
ができる。
【0038】
ヒトインテグリンβ7とは特に限定はされず、配列番号31に示すアミノ酸配列を有す
る膜貫通タンパク質であり、インテグリンαとヘテロダイマーを形成するタンパク質とす
ることができる。具体的なインテグリンαとして、インテグリンα4またはインテグリン
αEを挙げることができる。
【0039】
具体的なヒトインテグリンβ7のアミノ酸配列は、配列番号31に示すアミノ酸配列以
外に、たとえばNCBIのデータベースに収載される、ACCESSION:EAW96675; VERSION:EAW966
75.1,GI:119617081、ACCESSION:NM000889; VERSION:NM000889.2,GI:540344585、ACCESSIO
N:XM005268851, VERSION:XM005268851.2,GI:767974096、 ACCESSION:XM006719376, VERSI
ON:XM006719376.2,GI:767974098、 ACCESSION:XM005268852, VERSION:XM005268852.3,GI:
767974097などに記載のアミノ酸配列を挙げることができる。
【0040】
以下のヒトインテグリンβ7に関する説明は配列番号31に示すアミノ酸配列を基に行
うが、他のヒトインテグリンβ7のアミノ酸配列であればインシリコで配列番号31に示
すアミノ酸配列との相同性を確認し、これによって以下に説明するヒトインテグリンβ7
の領域および/または部位が、他のヒトインテグリンβ7のアミノ酸配列のどの領域また
は部位に相当するのかを、当業者であれば容易に判断することができる。
【0041】
ヒトインテグリンβ7の1~19番目のアミノ酸残基からなる領域はシグナルペプチドであ
り、生体内で膜タンパク質として機能する際には存在しないペプチド断片である。よって
、ヒトインテグリンβ7が膜タンパク質としての機能を発揮する際のN末端は、上記アミノ
酸配列の20番目のアミノ酸残基である。
【0042】
ヒトインテグリンβ
7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域にはPSIドメインが含
まれる。ヒトインテグリンβ
7のPSIドメインとマウスインテグリンβ
7のPSIドメインの相
同性は、おおよそ80%以上と高いことが知られるものの、ヒトインテグリンβ
7およびマ
ウスインテグリンβ
7のPSIドメインが含まれる20~109番目のアミノ酸残基からなる領域
のアミノ酸残基を比較すると、
図24にも示すように、ヒトインテグリンβ
7の23番目、26
番目、28番目、30番目、32番目、35番目、36番目、38番目、41番目、42番目、48番目、93
番目、94番目、102番目、および109番目のアミノ酸残基の計15個のアミノ酸残基が異なっ
ている。
【0043】
したがって、抗体(I)のエピトープはこれらの15個のアミノ酸残基のいずれか一つ以
上、好ましくは2つ以上、更に好ましくは3つ以上に関連することが好ましい。具体的に
は、抗体(I)のエピトープは、ヒトインテグリンβ7の23~109番目のアミノ酸残基からな
る領域に存在することが好ましく、23~48番目のアミノ酸残基からなる領域または93~10
9番目のアミノ酸残基からなる領域に存在することが更に好ましい。
【0044】
他の更に好ましい態様の抗体(I)のエピトープは、23~48番目のアミノ酸残基からなる
領域、93~109番目のアミノ酸残基からなる領域、または23~48番目のアミノ酸残基から
なる領域および93番目~109番目のアミノ酸残基からなる領域を組み合わせた立体的な領
域であってもよい。
【0045】
なお、抗体(I)のエピトープは線状エピトープであっても、立体エピトープ(非線状エ
ピトープともいう。)であってもよい。線状エピトープとは、連続したアミノ酸残基がエ
ピトープとなる場合であり、立体エピトープとは非連続的なアミノ酸残基によって構成さ
れるエピトープであると当業者に知られる。
【0046】
例えば上述の23~48番目のアミノ酸残基からなる領域および93~109番目のアミノ酸残
基からなる領域を組み合わせた立体的な領域をエピトープとする場合が立体エピトープに
相当する例として挙げることができるが、20~109番目のアミノ酸残基からなる領域に含
まれる非連続的なアミノ酸残基からなる領域をエピトープとする場合も上記立体エピトー
プに包含される。
【0047】
上記のエピトープの中でも、48番目のアミノ酸残基が抗体(I)のエピトープとして強
く関連するか、または抗体(I)のエピトープに含まれることが好ましい。
【0048】
具体的な線状エピトープおよび立体エピトープについては、例えば特表2011-52
7572号公報、特表2009-534401号公報、"Dissecting antibodies with re
gards to linear and conformational epitopes." Forsstrom B, Axnas BB, Rockberg J,
Danielsson H, Bohlin A, Uhlen M.PLoS One. 2015 Mar 27;10(3):e0121673. doi: 10.1
371/journal.pone.0121673. eCollection 2015.などを参照することで当業者であれば理
解することができる。
【0049】
以上を換言すると、抗体(I)はヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基から
なる領域に特異的に結合する抗体であり、なかでも23~109番目の領域に特異的に結合す
ることが好ましく、23~48番目および/または93~109番目の領域に特異的に結合するこ
とがより好ましい。
【0050】
また、抗体(I)の上記エピトープであるインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基
からなる領域に結合する性質を、エピトープへの親和性と呼ぶことがある。よって、用語
「エピトープへの親和性が上昇する」とは、「エピトープへの特異的な結合能が上昇する
」と同意である。
【0051】
用語「特異的」とは、用語「選択的」とは区別され得る。
【0052】
抗体(I)の他の態様として、抗体(I)の上記エピトープへの親和性が、ヒトインテグリン
β7の379~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部の存在下で上昇するこ
ととすることが好ましい。
【0053】
「379~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一部」とは、379~721番目の
アミノ酸残基からなる領域であっても、その一部の領域であってもよいことを意味する。
具体的に「その一部の領域」とは、例えばヒトインテグリンβ7の417~721番目のアミノ
酸残基からなる領域の少なくとも一部、ヒトインテグリンβ7の564~721番目のアミノ酸
残基からなる領域の少なくとも一部、ヒトインテグリンβ7の379~563番目のアミノ酸残
基からなる領域の少なくとも一部、ヒトインテグリンβ7の417~563番目のアミノ酸残基
からなる領域の少なくとも一部、またはヒトインテグリンβ7の379~416番目のアミノ酸
残基からなる領域の少なくとも一部が挙げられる。すなわち、これらの領域の存在下で、
抗体(I)の上記エピトープへの親和性を上昇させることができる。
【0054】
用語「存在下で」とは、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領
域と、ヒトインテグリンβ7の379~721番目のアミノ酸残基からなる領域の少なくとも一
部とが、同一の分子内にて存在することができ、両者の領域が別々の分子で存在するもの
とすることもできる。好ましくは、両者の領域が同一の分子内にて存在することである。
なお、用語「存在下で」とは「によって」と読み替えることもできる。
【0055】
上述の抗体(I)のエピトープへの親和性が上昇することは、下記の実施例などに記載さ
れる慣用の免疫学的測定法によって、当業者であれば容易に確認することができる。
【0056】
例えば、実施例8に示す各種ヒト/マウスのキメラインテグリンβ7タンパク質であっ
て、ヒト由来のインテグリンβ7の1~109番目のアミノ酸残基からなる領域を含み、且つ
、ヒト由来のインテグリンβ7の722~798番目アミノ残残基からなる領域を含むヒト/マ
ウスのキメラインテグリンβ7タンパク質(#4960)を発現させた細胞を準備し、#4960の
ヒト由来のインテグリンβ7の379~721番目アミノ残残基からなる領域をマウス由来のイ
ンテグリンβ7の379~721番目アミノ残残基からなる領域に置換されたヒト/マウスのキ
メラインテグリンβ7タンパク質(#4961)を準備する。ここで、抗体(I)の結合の程度を
、後者(#4961)を発現する細胞と前者(#4960)を発現する細胞とを比較することによっ
て、抗体(I)の上記エピトープへの親和性の上昇を確認することができる。
【0057】
抗体(I)の他の態様として、抗体(I)の上記エピトープへの親和性は、ヒトインテグリン
β7を活性化することによって上昇するものとすることが好ましい。活性化されたヒトイ
ンテグリンβ7は上記エピトープを含む領域に構造的な特徴を有するため、抗体(I)の上記
エピトープへの親和性が上昇すると考えられる。
【0058】
ヒトインテグリンβ7を活性化する方法は公知である。例えば、ヒトインテグリンβ7を
発現する細胞、例えば、形質細胞、NK細胞、T細胞、B細胞、リンパ芽球、バーキットリン
パ腫由来の細胞、樹状細胞などの血球細胞または免疫細胞のいずれかの細胞に対して、PM
Aなどのホルボールエステル、マンガン塩などを作用させることにより、その細胞にて発
現するヒトインテグリンβ7を活性化させることができる。また、上記の具体的な細胞に
限らず、ヒトインテグリンβ7を発現させた細胞を用いて、ホルボールエステル、マンガ
ン塩などによって処理してもヒトインテグリンβ7を活性化することができる。
【0059】
抗体(I)の上記エピトープへの親和性が、ヒトインテグリンβ7を活性化することによっ
て上昇することは、下記の実施例などに記載される慣用の免疫学的測定法によって、当業
者であれば容易に確認することができる。
【0060】
例えば、実施例8に示す各種ヒト/マウスのキメラインテグリンβ7タンパク質であっ
て、1~109番目のアミノ酸残基からなる領域を含む#4960または#4961を発現させた細胞を
準備し、これを実施例7に示すようなインテグリンβ7の活性化手段に供した後に、免疫
学的測定手段を用いて測定することによって、活性化処理の前後を比較して、活性化後の
細胞への抗体(I)の上記エピトープへの親和性の上昇を確認することができる。
【0061】
抗体(I)の他の態様として、正常細胞上で発現するヒトインテグリンβ7よりも、骨髄腫
に由来する細胞上で発現するヒトインテグリンβ7に対して、より親和性が高いことを特
徴とする抗ヒトインテグリンβ7抗体とすることができる。
【0062】
正常細胞とは、健常者に由来する細胞であれば特に限定はされず、例えば血液に由来す
る正常細胞とすることができ、このような正常細胞中でも正常形質細胞とすることが好ま
しい。
【0063】
このような正常細胞上で発現するヒトインテグリンβ7に比して、骨髄腫細胞上で発現
するヒトインテグリンβ7に対して、より親和性が高いことを確認する方法は、下記の実
施例などに記載される慣用の免疫学的測定法によって、当業者であれば容易に実施するこ
とができる。
【0064】
「慣用の免疫学的測定法」とは、その抗原に関係なく種々の抗体を用いて測定する方法
であれば特に限定されない。例えばフローサイトメトリー法(FACS)、これに付随するセ
ルソーティング、ウエスタンブロッティング、ELISA、免疫沈降法、SPR法、QCM法などを
挙げることができる。
【0065】
抗体(I)の他の態様として、後述する実施例にて開示されるMMG49抗体と同一のエピトー
プを有するものとすることが好ましい。最も好ましくは、MMG49抗体と同一の抗体である
。MMG49抗体の製造方法は、下記の実施例を参照することができる。
【0066】
抗体(I)の他の態様として、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含む態様の抗
体とすることが好ましい。すなわち、抗体(I)は重鎖可変領域単独とすることもでき、軽
鎖可変領域単独とすることもできる。好ましくは重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む
抗体である。
【0067】
可変領域とは抗原認識部位とも呼ばれ、抗体が抗原を認識するために重要な部位である
と当業者に理解される。斯かる可変領域には3つの超可変領域(相補性決定領域〔CDR〕
ともいう。)と呼ばれる領域を有しており、これらのCDRが抗体の抗原認識機能に最も関
与する非常に重要な領域であることも当業者に知られている。
【0068】
抗体(I)の他の態様に含まれる重鎖可変領域は、重鎖CDR1、重鎖CDR2、または重鎖CDR3
のいずれか1つ以上を含む。すなわち、当該重鎖可変領域には重鎖CDR1、重鎖CDR2、また
は重鎖CDR3を単独で含有させることができ、少なくとも重鎖CDR3を含んでいることが好ま
しい。より好ましくはアミノ末端(N末端)から順に重鎖CDR1、重鎖CDR2、および重鎖CDR
3を含む態様である。
【0069】
軽鎖可変領域も重鎖可変領域と同様とすることができ、例えば、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、
または軽鎖CDR3のいずれかを含み、少なくとも軽鎖CDR3を含んでいることが好ましく、軽
鎖可変領域のN末端から順に軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3を含むことが好ましい
。
【0070】
上記重鎖可変領域および軽鎖可変領域における、それぞれのCDR1~3以外の領域をFRを
称することがある。より詳細には、N末端とCDR1との間の領域をFR1、CDR1とCDR2との間の
領域をFR2、CDR2とCDR3との間の領域をFR3、CDR3とカルボキシ末端(C末端)との間の領
域をFR4と呼び、重鎖可変領域および軽鎖可変領域それぞれに設定される呼称である。
【0071】
上記重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3のアミノ酸配列は、特に限定はされない。例えば、
MMG49抗体の重鎖CDR1~3または軽鎖CDR1~3である、
配列番号1に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR1、
配列番号2に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR2、
配列番号3に示すアミノ酸配列を有する重鎖CDR3、
配列番号6に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1、
配列番号7に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2、
配列番号8に示すアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3、
などが挙げられる。
【0072】
上記重鎖CDR1~3を含む重鎖可変領域の好ましい態様として、例えばMMG49抗体の重鎖可
変領域である配列番号4に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を挙げることができる
。また上記軽鎖CDR1~3を含む軽鎖可変領域の好ましい態様として、例えばMMG49抗体の軽
鎖可変領域である配列番号9に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を挙げることがで
きる。
【0073】
上記の配列番号1~4および6~9に示すMMG49抗体のアミノ酸配列は以下の表1に示
すとおりである。表中の配列番号4および9に示すそれぞれ重鎖および可変領域のアミノ
酸配列中に設けた下線部は、N末端から順にCDR1、CDR2、およびCDR3に位置する部分を示
す。
【0074】
【0075】
抗体(I)の構造は限定されない。具体的な構造として、Fv、scFv、ディアボディ(diabo
dy)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)などが挙げられ、これら
を適宜組み合わせた構造とすることもできる。また、これらの組み合わせた構造も含めて
、フラグメント抗体と呼ぶこともある。なお、このようなフラグメント抗体は、Fvを含む
人工的にデザインされた組み換えタンパク質とすることもでき、タンパク質などの生体分
子と融合されてなるものとすることもできる。
【0076】
Fvとは、抗体の最小構造単位ともいわれ、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが非共有結合
性の分子間相互作用によって会合した構造である。さらに、重鎖可変領域および軽鎖可変
領域内に存在するシステイン残基のチオール基同士がジスルフィド結合してなる構造とす
ることもできる。
【0077】
scFvとは、重鎖可変領域のC末端と軽鎖可変領域のN末端とがリンカーで繋がれた構造で
あり、単鎖抗体とも呼ばれる。また、リンカーで繋がれるC末端とN末端は、それぞれ逆で
あってもよい。なお、scFvもFvと同様に非共有結合性の分子間相互作用などの会合によっ
て、その構造を形成させることができる。
【0078】
ディアボディ、トリアボディ、およびテトラボディとは、それぞれ上述のscFvが2量体
、3量体および4量体を形成し、Fvなどと同様に可変領域同士の非共有結合性の分子間相
互作用などにより、最も構造的に安定な状態で会合した構造である。
【0079】
このような種々の構造を有する抗体(I)は、慣用の遺伝子工学的な手段を用いて発現ベ
クターを構築し、斯かる発現ベクターを抗体の産生に適した、原核細胞(大腸菌、放線菌
など)、真核細胞(酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞など)などの宿主細胞を採用する発
現系、慣用される無細胞発現系などを用いることにより、当業者であれば容易に製造する
ことができる。製造した抗体は適宜、慣用の精製工程に供することで純度の高い状態とし
て得ることも可能である。
【0080】
抗体(I)の他の態様として、定常領域を含有させることもできる。定常領域とは重鎖定
常領域であればCH1、CH2、およびCH3を含み、軽鎖定常領域であればCLを含むと当業者に
理解される。また、CH2およびCH3を含む領域はFcドメインと呼ばれることもある。
【0081】
具体的な定常領域の由来は特に限定はされない。例えばヒト由来、マウス由来、ラット
由来、ウサギ由来、サル由来、チンパンジー由来などといった大量生産に耐えうる動物種
、ヒトに近縁する動物種、ヒトに投与しても免疫原性を生じさせにくい動物種などに由来
する定常領域を挙げることができる。
【0082】
抗体(I)の中でも、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域がマウス由来のアミノ酸
配列を有している場合、例えばヒト由来の定常領域を組み合わせることで、抗体(I)をキ
メラ抗体とすることができる。
【0083】
また、上述のキメラ抗体における、重鎖FR1~4および/または軽鎖FR1~4をヒト由来の
アミノ酸配列に置換することで、抗体(I)をヒト化抗体とすることができる。
【0084】
さらに、上記ヒト化抗体における重鎖CDR1~3および/または軽鎖CDR1~3を、CDRが有
する機能を減衰しない範囲に限ってヒト由来のアミノ酸配列に置換することで、抗体(I)
をヒト抗体とすることができる。なお、用語「ヒト抗体」とは「完全ヒト化抗体」と呼ば
れることもある。
【0085】
定常領域を含む態様の抗体(I)の構造は、重鎖可変領域および重鎖定常領域を有する重
鎖;ならびに軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を有する軽鎖をそれぞれ1対ずつ含み、4
本鎖の構造となるイムノグロブリンのみならず、Fab、F(ab')2、ミニボディ(minibody)
、scFv-Fcなどの構造を挙げることができる。さらに、これらを適宜組みわせた構造とす
ることもできる。また、これらの組み合わせた構造も含めて、フラグメント抗体と呼ぶこ
ともある。なお、このようなフラグメント抗体は、Fvを含む人工的にデザインされた組み
換えタンパク質とすることもでき、タンパク質などの生体分子と融合されてなるものとす
ることもできる。
【0086】
Fabとは重鎖可変領域および重鎖定常領域中のCH1を含む重鎖の断片と、軽鎖可変領域お
よび軽鎖定常領域を含む軽鎖とを含み、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが上述する非共有
結合性の分子間相互作用によって会合するか、またはジスルフィド結合によって結合して
なる構造を有する。さらに、CH1とCLとがこれらのそれぞれに存在するシステイン残基の
チオール基同士でジスルフィド結合してなるものとすることができる。
【0087】
F(ab')2とは、1対の上記Fabを有し、CH1同士がこれらに含まれるシステイン残基のチ
オール基同士でジスルフィド結合してなる構造を有する。
【0088】
ミニボディとは、上記scFvおよびCH3を含む1対の抗体断片を有し、斯かる抗体断片同
士が、CH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合してなる構造を有する。
【0089】
scFv-Fcとは、上記scFv、CH2、およびCH3を含む1対の抗体断片を有し、上記ミニボデ
ィと同様にCH3同士で非共有結合性の分子間相互作用によって会合し、それぞれのCH3に含
まれるシステイン残基のチオール基同士でジスルフィド結合してなる構造を有する。
【0090】
このような種々の構造を有する定常領域を含む抗体(I)も、定常領域を含まない抗体(I)
と同様に、慣用の遺伝子工学的な手段を用いて発現ベクターを構築し、斯かる発現ベクタ
ーを抗体の産生に適した宿主細胞を採用する発現系を用いることにより、当業者であれば
容易に製造することができる。製造した抗体は適宜、慣用の精製工程に供することで純度
の高い状態として得ることも可能である。
【0091】
なお、Fabであれば、例えばイムノグロブリンであるIgGをパパインなどのプロテアーゼ
を用いてこれを分解することによっても得ることができる。またF(ab')2であれば、IgGを
ペプシンなどのプロテアーゼを用いてこれを分解することによって得ることもできる。
【0092】
上記の定常領域を含む抗体(I)の中でも、好ましい構造はイムノグロブリンである。こ
のようなイムノグロブリンのサブタイプは特に限定はされず、例えばIgA、IgD、IgE、IgG
、IgMなどを挙げることができる。これらの中でも、IgGが好ましく、例えばマウス由来の
IgGであれば、4つのサブクラスの中でもIgG2が好ましい。
【0093】
上記の定常領域を含む抗体(I)の中でも、さらに好ましい態様の抗体は、配列番号5に
示すアミノ酸配列を有する重鎖および/または配列番号10に示すアミノ酸配列を有する
軽鎖を含む抗体である。最も好ましい抗体は配列番号5に示すアミノ酸配列を有する重鎖
および配列番号10に示すアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体である。
【0094】
上述のアミノ酸配列には、状況に応じて変異導入が施されてなるものとすることができ
る。このような変異は、重鎖CDRおよび軽鎖CDRには施されないことが好ましい。すなわち
、重鎖FR、軽鎖FRに施されてなることが好ましく、抗体(I)が定常領域を含む場合は、下
記に示すADCC活性またはCDC活性を調整するための変異の他に、更に変異が施されてなる
ものとすることができる。
【0095】
具体的な変異導入を施すアミノ酸残基の数は、特に限定はされない。例えば、変異導入
前のアミノ酸配列と変異導入後のアミノ酸配列の同一性が70%程度、好ましくは75%
程度、より好ましくは80%程度、より好ましくは85%程度、より好ましくは90%程
度、より好ましくは95%程度、より好ましくは96%程度、より好ましくは97%程度
、より好ましくは98%程度であり、最も好ましくは99%程度である。なお、このよう
な数値は四捨五入によって得られるものとする。
【0096】
用語「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、互いに対する同一のアミノ
酸配列の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の同一性が高いほど、それらの配
列の同一性のみならず類似性も高いと言える。
【0097】
アミノ酸の同一性は、市販の又はインターネットを通じて利用可能な解析ツール(例え
ば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェア)を用いて計算することができ
る。例えば、BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち
、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全
てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、
及びLambda ratioをそれぞれ11、1、0.85(デフォルト値)にして、他の各種パラメータ
もデフォルト値に設定して検索を行うことにより、アミノ酸配列の同一性の値(%)を算
出することができる。
【0098】
上述のアミノ酸配列への変異導入とは、置換、欠失、挿入などである。具体的な変異導
入は、慣用の方法を採用することにより達成できるものであれば、特に限定はされない。
例えば、置換であれば保存的な置換技術を採用すればよい。
【0099】
用語「保存的な置換技術」とは、あるアミノ酸残基がそれと類似の側鎖を有するアミノ
酸残基に置換される技術を意味する。
【0100】
例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残
基同士で置換されることが保存的な置換技術にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタ
ミン酸などといった酸性側鎖を有するアミノ酸残基同士;グリシン、アスパラギン、グル
タミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインなどといった非帯電性極性側鎖を有
するアミノ酸残基同士;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニ
ルアラニン、メチオニン、トリプトファンなどといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基
同士;スレオニン、バリン、イソロイシンなどといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残
基同士;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンなどといった芳香族
側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に保存的な置換技術にあたる。
【0101】
抗体(I)の他の態様として、抗体(I)を細胞障害活性を有するものとすることができる。
細胞障害活性とは、抗体が細胞に結合することにより、結果として結合した細胞に何らか
の障害を与える活性のことをいう。
【0102】
このような細胞障害活性として、例えばADCC活性、CDC活性などが挙げられる。用語「A
DCC活性」とは、抗体依存性細胞傷害活性(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity)
の略であり、抗体の定常領域に特異的なレセプターを発現しているNK細胞などの細胞障害
活性を有する細胞を抗体の近傍にリクルートさせ、斯かる細胞などの作用によって、抗体
が結合する細胞に対して傷害を与えることを誘起する活性である。
【0103】
用語「CDC活性」とは、補体依存性細胞傷害活性(Complement-Dependent Cytotoxicity
)の略であり、抗体が補体をその近傍にリクルートさせ、斯かる補体の作用によって抗体
が結合している細胞に対して障害を与える作用を誘起する活性を言う。
【0104】
ここで、ADCC活性もCDC活性も、Lazar GA et al., Proc Natl Acad Sci USA, 103: 400
5-10 (2006)、Shields RL et al., J Biol Chem, 276: 6591-604 (2001))、Moore GL et
al., J Immunol, 159:3613-21 (1997), An Z et al., MAbs, 1:572-9 (2009)などの文献
を適宜参照しながら、定常領域に変異に施すことによってその活性を調整することができ
る。
【0105】
例えば、定常領域がヒトIgG1であれば、S239D、I332E、S239D/I332E、S239D/I332E/A33
0L、S298A、K334A、S298A/K334A, S298A/E333A/K334Aなどの変異を施すことによって、AD
CC活性を上昇させることができる。
【0106】
また、同じく定常領域がヒトIgG1である場合、V234A/G237A、H268Q/V309L/A330S/P331S
などの変異を施すことによって、ADCC活性を下降させることができる。
【0107】
CDC活性に関しては、定常領域がヒトIgG1である場合、S267E、H268F、S324T、S267E/H2
68F、S267E/S324T、H268F/S324T、S267E/H268F/S324Tなどの変異を施せば、その活性を上
昇させることができる。
【0108】
ADCC活性は、Brunner K.T.らの方法(Brunner, K.T., et al., Immunology, 1968. 14:
181-96)に従って測定することができる。例えば、骨髄腫細胞を10%FCS添加のRPMI1640
培地にて培養し、細胞数が0.5×104~1.0×104個となるように調製する。これに適量のNa
2
51CrO4を加え、37℃で1時間反応させ、細胞を51Crでラベル化し、洗浄したものを標的細
胞とする。エフェクター細胞としては、SCID マウスの骨髄細胞を10%のFBS、10ng/mlの
マウスGM-CSF、及び40IU/mlのヒトIL2を添加したRPMI1640中で6日間培養したもの等を使
用することができる。96ウェルプレートに被検抗体又はコントロールとなるそのアイソタ
イプ抗体を終濃度0.05~10μg/mLとなるように添加し、さらに標的細胞(1.0×104個)及
びエフェクター細胞(5×105個)を添加する。37℃で4時間反応させ、遠心分離後、上清
に放出された51Crをγ-カウンターにて測定する。ADCC活性は、以下の式に基づいて求め
ることが出来る。
【0109】
ADCC活性={([標的細胞からの51Cr 放出]-[抗体の存在しない状態での自発的51Cr放
出])/([1% Triton X-100添加による最大51Cr放出量]-[抗体の存在しない状態での自
発的51Cr放出])}× 100
【0110】
CDC活性についても、Brunner K.T.らの方法(Brunner, K.T., et al., Immunology, 19
68. 14:181-96)に従って測定することができる。例えば、標的細胞となる骨髄腫細胞を1
0%FCS添加のRPMI1640培地にて培養し、細胞数が0.5×104~1.0×104個となるように調製
する。これに適量のNa2
51CrO4を加え、37℃で1時間反応させ、細胞を51Crでラベル化し、
洗浄したものを標的細胞とする。ウシ胎児血清を添加したRPMI1640培地に懸濁した被検抗
体又はコントロールとなるアイソタイプ抗体を終濃度0.5~50μg/mLとなるように96ウェ
ルプレートに加え、次いで前記標的細胞と補体とを加えて1.5時間反応させる。反応液を
遠心分離し、上清に放出された51Crをγ-カウンターにて測定する。CDC活性は、以下の
式に基づいて求めることが出来る。
【0111】
CDC活性={([標的細胞からの51Cr 放出]-[抗体の存在しない状態での自発的51Cr放出
])/([1% Triton X-100添加による最大51Cr放出量]-[抗体の存在しない状態での自発
的51Cr放出])}× 100
細胞傷害活性を有する抗体は、例えば上記方法を用いて細胞傷害活性の有無を評価し、
当該活性を有する抗体を選抜することによって得ることが出来る。
【0112】
抗体(I)の他の態様として、多重特異性抗体とすることもできる。すなわち、ヒトイン
テグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域以外の抗原(以後、これを他の抗
原とよぶ。)に特異性をもって結合能を有するものとすることができる。
【0113】
他の抗原は、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域と構造的
に非類似である抗原であることが好ましい。
【0114】
具体的な他の抗原は特に限定はされない。例えばCD3、CD16、C1q、Adenovirus knob do
mainなどが挙げられ、この中から適宜組み合わせて少なくとも1つを他の抗原として適宜
採用することができる。好ましくは上記に例示する抗原のうちの1つを、他の抗原として
選択することである。すなわち、好ましい多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。
【0115】
このような多重特異性抗体は、当業者であれば慣用の技術を適宜採用することで容易に
製造することができる。例えば、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基から
なる領域に相当するペプチド断片、またはヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸
残基からなる領域のみをヒト由来とし、それ以外をマウス由来などのヒト以外に由来する
ものとしたキメラ型インテグリンβ7を発現する細胞を免疫付与した動物から得られるB細
胞などの抗体産生細胞を用いて作製したハイブリドーマを準備し、上述の他の抗原で免疫
付与した動物から得られるB細胞などの抗体産生細胞を用いて別途ハイブリドーマを作製
して、これらのハイブリドーマ同士を細胞融合させて得られる新たなハイブリドーマ(二
重特異性抗体の作成の場合には、これをクワドローマともいう。)から、慣用の方法によ
ってスクリーニングすることにより、多重特異性抗体を得ることができる。
【0116】
このほかに、例えば二重特異性抗体であれば、
(1)ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域をエピトープとす
る、上記F(ab')2の構造の抗体を作製する:
(2)一方で、他の抗原に特異的に結合するF(ab')2の構造の抗体も同様に作製する:
(3)(1)および(2)で得られたそれぞれのF(ab')2の構造の抗体をDTTなどの還元剤
を用いて処理した後に、どちらか片方の処理物にはさらにエルマン試薬で処理する:
(4)(3)で得られたこれらの処理後のF(ab')2構造の抗体を混合して反応させる:
といった(1)~(4)に示す手順によっても二重特異性抗体を作製することができる。
【0117】
(A)ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域をエピトープとす
る抗体を作製する。
(B)一方で、他の抗原に特異的に結合する抗体も同様に作製する。
(C)(A)および(B)で得られたそれぞれの可変領域のアミノ酸配列およびこれをコ
ードするポリヌクレオチドの塩基配列を同定する。
(D)(C)にて同定したそれぞれの塩基配列を有するポリヌクレオチドを、要すれば定
常部位の塩基配列配列、リンカー配列を有するポリヌクレオチドと共に組みこんだ発現ベ
クターを作製したのち、これをCHO細胞など抗体産生に適した宿主細胞に導入する。
といった(A)~(D)に示す手順によっても二重特異性抗体を産生させることができる
。
【0118】
抗体(I)の他の態様として、サイトトキシン(細胞傷害活性を有する物質)が結合され
てなるものとすることができる。サイトトキシンとは、細胞を死滅させる、細胞増殖を抑
制するなどといった、細胞に何らかの障害を与える物質である限り特に限定はされない。
【0119】
このようなサイトトキシンとして、例えば、シクロホスファミド水和物、イホスファミ
ド、チオテパ、ブスルファラン、メルファラン、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダカ
ルパジン、テモゾロミドなどのアルキル化剤;メトトレキサート、ペメトレキセドナトリ
ウム水和物、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、タガフール、シタラ
ビン、ゲムシタビン塩酸塩、フルダラビン燐酸エステル、ネララビン、クラドリビン、レ
ボホリナートカルシウムなどの代謝拮抗剤;ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸
塩、プラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、
アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD
、ブレオマシイン塩酸塩、プペロマシン塩酸塩、ジノスタチンスチマラマー、カリケアマ
イシンなどの抗生物質、ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸
塩、パクリタキセルなどの微小管阻害剤;アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾ
ール、ファドロゾール塩酸塩水和物などのアロマターゼ阻害剤;シスプラチン、カルボプ
ラチン、ネダプラチン、オキサリプラチンなどの白金製剤;イリノテカン塩酸塩水和物、
ノギテカン塩酸塩、エトポシド、ソブゾキサンなどのトポイソメラーゼ阻害剤、プレドニ
ゾロン、デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイド、サリドマイドおよびその誘導体であ
るレナリドマイド、プロテアーゼ阻害剤であるボルテゾミブ、90-Ittriumなどの放射性同
位元素を挙げることができる。
【0120】
これらの中でも、好ましくは、カリケアマイシン、メルファラン、ビンクリスチン硫酸
塩、ドキソルビシン塩酸塩、プレドニゾロン、デキサメサゾン、サリドマイド、レナリド
マイド、ボルテゾミブであり、より好ましくは良好な抗体への結合の実績のあるカリケア
マイシンである。
【0121】
これらのサイトトキシンは、いずれも商業的に入手可能で上述の中から1種または2種
以上を適宜組み合わせて選択することができる。
【0122】
サイトトキシンと上述の抗体との結合様式は特に限定されず、例えば慣用の遺伝子工学
的技術またはタンパク質工学的技術を適宜採用すれば、当業者は上述の抗体にサイトトキ
シンを容易に結合させることができる。より具体的にはリンカーを介して、上記抗体(I)
のアミノ酸残基側鎖のアミノ基、チオール基、グアニジル基、水酸基、カルボキシル基な
ど官能基に結合させる方法などが挙げることができる。
【0123】
抗体(I)は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。好ま
しくはモノクローナル抗体である。
【0124】
用語「モノクローナル」とは、実質的に均一な集団から得られることを意味し、「モノ
クローナル抗体」とはこのような集団から得られる抗体であることを意味する。すなわち
、このような集団に含まれる個々の抗体は、微量に存在し得る可能な天然に生じる突然変
異を除けば同一であると解される。
【0125】
さらに、抗体の特異的な結合対象(エピトープ)に関して、例えば抗体(I)ではこれが
ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域に存在するものであるが
、ポリクローナル抗体であれば、これがヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残
基からなる領域における複数のサイトであるのに対し、モノクローナル抗体であれば、単
一のサイトであるという点で、高い特異性を発揮するのでより有利である。
【0126】
なお、修飾語として用いる「モノクローナル」とは上述のように実質的に均一の集団か
ら得られる物と解され、その製造方法が特定される修飾語であると解されるべきではない
。
【0127】
抗体(I)は、上記の方法の他に、ハイブリドーマ法、下記に示すポリヌクレオチド(II)
を保持する宿主細胞(III)を用いた組換えDNA法、ファージライブラリーからの単離などを
採用すれば当業者であれば容易に製造することができる。
【0128】
例えば、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域に相当するペ
プチドをマウス、ラット、ウサギなどの抗体産生に適した動物に免疫付与し、次いでB細
胞を回収した後にハイブリドーマ法に供して、上述する抗体(I)が発揮する機能を指標に
スクリーニングすることで、抗体(I)を製造する方法を挙げることができる。
【0129】
このほかに、インテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域のみをヒト由
来とし、それ以外をマウス由来などのヒト以外に由来するものとしたキメラ型インテグリ
ンβ7を発現する細胞を作成して、これをマウス、ラット、ウサギなどの抗体産生に適し
た動物(好ましくはマウス)に免疫付与し、次いでB細胞を回収した後にハイブリドーマ
法に供して、上述する抗体(I)が発揮する機能を指標にスクリーニングすることで、抗体(
I)を製造する方法を挙げることができる。
【0130】
抗体(I)が発揮する機能として、例えばヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸
残基からなる領域に対する親和性が、ヒトインテグリンβ7の380~721番目のアミノ酸残
基からなる領域の少なくとも1部の下で上昇すること、ヒトインテグリンβ7を活性化す
ることによって上昇することなどを挙げることができる。よって、このような機能を利用
する、下記のスクリーニング方法(X)に示す方法によって、抗体(I)を得ることもできる。
【0131】
抗体(I)は、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域にエピト
ープを有するので、当該インテグリンβ7を発現する細胞に対し、上述するADCC活性およ
びCDC活性のみならず、アポトーシス誘導活性、生存シグナル遮断活性などのうちの一つ
または2つ以上を組み合わせることによって、斯かる細胞に対して細胞障害活性などを発
揮することが期待される。よって、抗体(I)を含む組成物は下記に詳述するように医薬組
成物(VII)として有用である。
【0132】
特に、抗体(I)はヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域をエ
ピトープとするものであるが、抗体(I)のエピトープへの親和性はインテグリンβ7を活性
化することによって上昇する。活性型インテグリンβ7は形質細胞などの血球細胞にて発
現することから、抗体(I)は、これらの癌(例えば、血液癌)に対する医薬組成物の有効
成分として用いられる。特に、上記の細胞に異変を生じさせる疾患(例えば骨髄腫、多発
性骨髄腫など)に対する医薬組成物として有効に用いられる。
【0133】
(II) ポリヌクレオチド
ポリヌクレオチド(II)とは、上記抗体(I)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有す
るポリヌクレオチドである。用語「ポリヌクレオチド」とは、たとえばリボヌクレオチド
、デオキシリボヌクレオチド、またはこれらのいずれかのヌクレオチドなどが適宜公知の
方法によって修飾されてなる一本鎖または二本鎖の形態を含む。
【0134】
ポリヌクレオチド(II)の塩基配列は、当業者であれば、例えばインシリコで上記抗体(I
)のアミノ酸配列を基に適宜決定することができる。このような塩基配列を決定するのに
使用されるコドンの種類は問わない。ポリヌクレオチドを使用する宿主のコドン頻度を勘
案して、塩基配列を決定することが好ましい。
【0135】
具体的なポリヌクレオチド(II)の塩基配列は特に限定はされない。上記抗体(I)の態様
の一つとして特定するアミノ酸配列を示す各配列番号と斯かるアミノ酸配列をコードする
塩基配列を示す配列番号の対応を下記表2に示す。すなわち、ポリヌクレオチド(II)が有
する好ましい塩基配列は、配列番号11~20に示す塩基配列である。
【0136】
【0137】
ポリヌクレオチド(II)は、ベクター内に組み込まれた態様とすることもできる。ベクタ
ーとは特に限定はされず、例えばクローニング用ベクターまたは発現用ベクターとするこ
ともでき、その用途は問わない。
【0138】
また、発現用ベクターであれば、大腸菌、放線菌などの原核細胞用のベクターとするこ
ともでき、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞などの真核細胞用のベクターとすることもで
きる。
【0139】
なお、ポリヌクレオチド(II)の5'末端側(上記抗体(I)でいうN末端側)には、適宜シグ
ナルペプチドをコードする塩基配列を付加させることもできる。
【0140】
ポリヌクレオチド(II)の具体的な使用方法は、特に限定されない。例えば下記の宿主細
胞(III)に導入し、上記抗体(I)を発現させるために用いることを挙げることができる。
【0141】
(III) 宿主細胞
宿主細胞(III)とは、上記ポリヌクレオチド(II)を保持する細胞である。用語「保持」
とは、細胞内に上記ポリヌクレオチド(II)が存在する状態を維持することをいい、当該細
胞が自発的に上記ポリヌクレオチドを積極的かどうかに関わらず細胞外に排出しない状態
であることを意味する。
【0142】
宿主細胞(III)が上記ポリヌクレオチド(II)を保持する態様は特に限定されない。例え
ば細胞内でベクターの形態でポリヌクレオチドを保持させることもできるし、細胞内のゲ
ノムに上記ポリヌクレオチド(II)がインテグレイトされた形態で保持させることもできる
。
【0143】
宿主細胞(III)の具体的な細胞の種類は、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞などの真核
細胞であっても大腸菌、放線菌などの原核細胞であってもよく、特に限定はされない。
【0144】
(IV) キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体とは、人工のT細胞受容体(TCR)様のタンパク質であり、T細胞の細
胞膜上にて発現する(細胞外ドメインに相当する)抗原認識部位を所望の抗原認識部位に
置換し、且つT細胞そのものが有する細胞障害活性などの機能を、より効果的に発揮でき
るように構築されたタンパク質である。
【0145】
キメラ抗原受容体(IV)とは、上記抗体(I)と同一のエピトープを有するものであり、よ
り具体的には、上記抗体(I)の抗原認識部位を含むタンパク質である。すなわち、キメラ
抗原受容体に含まれる抗原認識部位に存在するエピトープは、上記抗体(I)にて詳述した
ものと同様とすることができる。
【0146】
さらに詳細には、キメラ抗原受容体(IV)のN末端から順に、上記抗体(I)の抗原認識部位
、スペーサー配列、膜貫通ドメイン、共刺激因子、およびTCRの細胞内ドメインが配置さ
れてなるタンパク質である。
【0147】
キメラ抗原受容体(IV)に配置される上記抗体(I)の抗原認識部位とは、抗体(I)にて詳述
した通りとすることができ、具体的には重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を挙げ
ることができる。なかでも、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有しながらscFvの構造で
あることが好ましい。
【0148】
このようなscFvにおいては、例えば重鎖可変領域と軽鎖可変領域の間には、適宜10個
~25個程度のアミノ酸残基からなるスペーサー配列を設けることができる。より好まし
くは、15~18個程度である。このようなスペーサー配列とは、キメラ抗原受容体(IV)
に配置される上述のスペーサー配列とは同一とすることもでき、異なるものとすることも
できる。
【0149】
キメラ抗原受容体(IV)に配置されるスペーサー配列とは、特に限定はされない。例えば
、10個~25個程度のアミノ酸残基からなるものとすることができる。より好ましくは
、15~18個程度である。
【0150】
キメラ抗原受容体(IV)に配置される膜貫通ドメインとは特に限定されない。具体的には
、T細胞などで発現するCD28、4-1BBなどのタンパク質に由来する細胞膜貫通ドメインを、
適宜変異導入が施されることを許容しながら採用することができる。
【0151】
キメラ抗原受容体(IV)に配置される共刺激因子とは、T細胞などが有する共刺激因子で
あればよく特に限定はされない。例えば、4-1BB、OX40、CD28などを、適宜変異導入が施
されることを許容しながら採用することができる。
【0152】
キメラ抗原受容体(IV)に配置されるTCRの細胞内ドメインとは特に限定はされない。た
とえばTCRζ鎖とも呼ばれるCD3などに由来する細胞内ドメインを適宜変異導入が施される
ことを許容しながら採用することができる。なお、CD3への変異導入に関して、ITAM(Immu
noreceptor Tyrosine-based Activation Motif)が含まれるように施されてなることが好
ましい。
【0153】
キメラ抗原受容体(IV)は配列番号21に示すアミノ酸配列を有するものとすることが好
ましい。
【0154】
上記のキメラ抗原受容体を特定するアミノ酸配列は、適宜変異導入が施されてなるもの
とすることができる。また、上記の膜貫通ドメイン、共刺激因子、およびTCRの細胞内ド
メインに対する変異導入も同様とすることができる。具体的な変異導入数は、特に限定は
されない。
【0155】
例えば、変異導入前のアミノ酸配列と変異導入後のアミノ酸配列の同一性が70%程度
、好ましくは75%程度、より好ましくは80%程度、より好ましくは85%程度、より
好ましくは90%程度、より好ましくは95%程度、より好ましくは96%程度、より好
ましくは97%程度、より好ましくは98%程度であり、最も好ましくは99%程度であ
る。なお、このような数値は四捨五入によって得られるものとする。
【0156】
上述のアミノ酸配列への変異導入とは、置換、欠失、挿入などである。具体的な変異導
入については、慣用の方法を採用して達成できるものであればよく、特に限定はされない
。例えば、置換であれば保存的な置換技術を採用すればよい。
【0157】
なお、このようなキメラ抗原受容体を製造するには、非特許文献4~6などに記載され
る方法を参照すれば、当業者であれば容易に製造することができる。
【0158】
(V) ポリヌクレオチド
ポリヌクレオチド(V)とは、上記ポリヌクレオチド(II)とは異なり上記キメラ抗原受容
体(IV)のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである。
【0159】
ポリヌクレオチド(V)の塩基配列は、上記ポリヌクレオチド(II)と同様に、例えばイン
シリコで上記キメラ抗原受容体(IV)のアミノ酸配列を基に適宜決定することができる。塩
基配列を決定するのに使用されるコドンの種類は問わない。ポリヌクレオチドを使用する
対象となる細胞のコドン頻度を勘案して、塩基配列を決定することが好ましい。
【0160】
具体的な塩基配列は、特に限定はされない。例えば配列番号21に示すアミノ酸配列を
有するキメラ抗原受容体(IV)のアミノ酸配列を基に決定される配列番号22に示す塩基配
列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。当然、このようなアミノ酸配列を基
に決定される塩基配列は、使用するコドンの種類を問わないことを勘案すれば上記配列番
号22に示す塩基配列に限定されないのは言うまでもない。
【0161】
なお、ポリヌクレオチド(V)の5'末端側(上記キメラ抗原受容体(IV)でいうN末端側)に
は、適宜シグナルペプチドをコードする塩基配列を付加させることができる。
【0162】
ポリヌクレオチド(V)の具体的な使用方法は、特に限定されない。例えば下記の細胞(VI
)に導入し、上記キメラ抗原受容体(IV)を発現させるために用いることを挙げることがで
きる。
【0163】
(VI) 細胞
細胞(VI)とは、上記宿主細胞(III)とは異なり、上記ポリヌクレオチド(V)を保持する細
胞である。用語「保持」とは、上記宿主細胞(III)と同様にすることができる。具体的な
細胞の種類も、上記宿主細胞(III)と同様にすることができるが、細胞障害活性を有する
が好ましい。例えば、T細胞、NK細胞、K細胞などを挙げることができ、なかでもT細胞の
一種であるキラーT細胞(細胞障害性T細胞〔CTL〕ともいう)が最も好ましい。
【0164】
上記細胞(VI)に含まれるキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド(V)が発現す
ることにより、キメラ抗原受容体(IV)を構成する上記抗体(I)の抗原認識部位が細胞の外
側に露呈し、キメラ抗原受容体(IV)を構成する膜貫通ドメイン、上述の共刺激因子、もし
くはTCRの細胞内ドメインは細胞膜または細胞内に局在することが好ましい。
【0165】
これらの共刺激因子もしくは細胞膜または細胞内に局在するドメインは、上記抗体(I)
の抗原認識部位が、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域に結
合すると、細胞内にて細胞障害活性を惹起させるシグナルを作動させる。また、ヒトイン
テグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域への抗体(I)の親和性は、ヒトイ
ンテグリンβ7を活性化することにより上昇する。したがって、抗体(I)は活性型インテグ
リンβ7を発現する細胞または組織を対象に対して攻撃または細胞障害活性を発揮する。
【0166】
このような機能を発揮する細胞がT細胞である場合、これをキメラ抗原受容体T細胞(VI-
4)と呼ぶ。なお、NK細胞などの細胞障害活性を発揮する可能性を有する細胞も上述のキメ
ラ抗原受容体T細胞と同様に、抗原認識部位の活性型ヒトインテグリンβ7の20~109番目
のアミノ酸残基からなる領域へ結合と、細胞膜または細胞内ドメインでの細胞障害活性を
惹起させるシグナルの作動とを連動させることによって、キメラ抗原受容体T細胞と同様
の効果を発揮し得る(これをキメラ抗原受容体NK細胞と呼ぶ。)。
【0167】
このように、細胞(VI)は活性型インテグリンβ7を発現する細胞または組織に対して細
胞障害活性などを発揮するので、上記抗体(I)と同様に細胞(VI)を含む組成物は、下記に
詳述する様な医薬組成物(IV)として有用であると言える。活性型インテグリンβ7は形質
細胞などの血球細胞にて発現することから、癌(例えば、血液癌)に対する医薬組成物の
有効成分として用いられる。特に、上記の細胞に異変を生じさせる疾患(例えば骨髄腫、
多発性骨髄腫など)に対する医薬組成物として有効に用いられる。
【0168】
(VII) 医薬組成物
医薬組成物(VII)とは、上記抗体(I)または上記細胞(VI)を含む。上記細胞(VI)として、
キメラ抗原受容体T細胞(VI-4)であることが好ましい。
【0169】
医薬組成物(VII)中の上記抗体(I)または上記細胞(VI)の含有量は、特に限定はされない
。例えば、抗体(I)であれば、医薬組成物100重量部に対して0.001重量部~10
重量部程度をすることができる。また、細胞(VI)であれば、1細胞/mL~104細胞/
mL程度とすることができる。
【0170】
医薬組成物(VII)の投与方法は、特に限定はされない。有効成分が抗体または細胞であ
ることから、非経口的投与または非経腸的投与とすることが好ましい。例えば、経静脈投
与、経筋肉投与、経皮下投与などが挙げられ、経静脈投与が好ましい。
【0171】
医薬組成物(VII)の剤形は、上述の投与方法に応じて薬学的に許容される慣用の担体と
共に調製することができる。上述の好ましい投与方法を勘案すると、注射剤とすることが
好ましい。
【0172】
医薬組成物(VII)の対象疾患は、特に限定はされない。具体的な対象疾患として、例え
ば癌が挙げられ、血液癌が好ましく、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患であることが更
に好ましい。用語「形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患」とは、異常な形質細胞の腫瘍性
増殖とそれらより分泌される異常タンパク質の増加によって特徴づけられる疾患である。
このような疾患として、例えば骨髄腫、多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、形質細胞腫、
H鎖病、全身性AL型アミロイドーシスなどを挙げることができる。なお、他の実施形態に
おいて、医薬組成物(VII)の対象疾患は、悪性リンパ腫、白血病など他の血液悪性疾患で
あってもよい。
【0173】
医薬組成物(VII)の投与対象(被験体)は、上記疾患に罹患した患者であるか、または
罹患する可能性がある動物とすることができる。「罹患する可能性がある」とは、後述す
る診断方法(XI)にて決定することができる。動物とは、例えば哺乳類動物とすることがで
き、好ましくはヒトである。
【0174】
医薬組成物(VII)の投与量は、投与対象の、疾患の程度、投与による所望効果の程度、
体重、性別、年齢、動物種などの各条件によって区々であり一概に決定することができな
い。例えば有効成分が抗体(I)である場合、一日当たりで、通常は1μg/kg(体重)~10g/
kg(体重)程度とすることができる。また、有効成分が細胞(VI)であれば、通常は104細
胞/kg(体重)~109細胞/kg(体重)程度とすることができる。
【0175】
医薬組成物(VII)の投与スケジュールも、その投与量と同様に、投与対象の疾患の程度
などの各条件によって区々であり一概に決定することができない。例えば、上記の1日当
たりの投与量で、1日~1月に1回投与されることが好ましい。
【0176】
(VIII) 疾患の治療または予防方法
疾患の治療または予防方法(VIII)とは、上記抗体(I)または上記細胞(VI)の治療有効量
を被験体に投与する工程を含む、疾患の治療または予防方法である。細胞(VI)として、は
好ましくはキメラ抗原受容体T細胞(VI-4)である。
【0177】
被験体とは、上記医薬組成物(VII)と同様とすることができる。被験体が疾患に罹患す
る患者である場合には、上記抗体(I)または上記細胞(VI)の治療有効量を投与することに
より、その治療効果が期待され、被験体が疾患に罹患する可能性のある動物である場合に
は、その予防効果が期待される。予防とは、下記の診断方法(XI)に示すように、慣用の免
疫学的方法によって測定された数値が、疾患に罹患すると判断される数値に到達させない
ようにすることを意味する。
【0178】
疾患とは、上記医薬組成物(VII)と同様とすることができ、例えば癌が例示され、好ま
しい癌として形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患(例えば、多発性骨髄腫など)を挙げる
ことができる。
【0179】
治療有効量とは上記医薬組成物(VII)の投与量と同様とすることができ、上記抗体(I)ま
たは上記細胞(VI)の製剤化は、上記医薬組成物(VII)の剤形と同様とすることができる。
また、上記抗体(I)または上記細胞(VI)の投与方法、投与スケジュールなども上記医薬組
成物(VII)にて詳述した通りとすることができる。
【0180】
疾患の治療または予防方法(VIII)には、活性型ヒトインテグリンβ7を標的とした多発
性骨髄腫の治療または予防方法を包含することができる。なお、標的とは上記の抗体(I)
または上記の細胞(VI)の適用を挙げることができる。
【0181】
(IX) 使用
使用(IX)とは、医薬組成物を製造するための、上記抗体(I)または上記細胞(IV)の使用
である。
【0182】
医薬組成物とは、上記医薬組成物(VII)と同様とすることができる。なお、細胞(IV)
はキメラ抗原受容体T細胞(VI-4)であることが好ましい。
【0183】
また、医薬組成物の対象疾患も同様であり、例えば、癌の治療用、好ましくは血液癌、
更に好ましくは形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患(例えば、骨髄腫、多発性骨髄腫など
)が挙げられる。
【0184】
そのほか、医薬組成物中の有効成分である上記抗体(I)または細胞(VI)の含有量、これ
らの剤形、投与方法、投与スケジュールなども、上記医薬組成物(VII)にて詳述したもの
と同様とすることができる。
【0185】
(X) スクリーニング方法
スクリーニング方法(X)とは形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患の治療用または予防用
の医薬組成物の有効成分のスクリーニング方法であって、化合物ライブラリーからヒトイ
ンテグリンβ7に特異的に結合し、且つ、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸
残基からなる領域に結合する候補物質を選別する工程を含む。
【0186】
医薬組成物とは上記医薬組成物(VII)と同様とすることができ、癌、好ましくは血液癌
、更に好ましくは形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患(例えば骨髄腫、多発性骨髄腫など
)の治療用または予防用の医薬組成物の有効成分とは、例えば上記抗体(I)が挙げられる
。
【0187】
化合物ライブラリーとは特に限定はされず、既存のライブラリーを用いることができる
。好ましくは抗体ライブラリーであり、所望の抗原によって免疫付与された動物から得ら
れるB細胞などの抗体産生細胞を用いて作製したハイブリドーマをライブラリーとするこ
とが好ましい。
【0188】
ここで、所望の抗原とは特に限定されず、例えばヒトインテグリンβ7の20~109番目の
アミノ酸残基からなる領域であることが好ましい。さらに好ましくは、活性型ヒトインテ
グリンβ7である。
【0189】
候補物質を選別する方法は特に限定はされない。例えば、ヒトインテグリンβ7に特異
的に結合する候補物質を選別し、且つ、ヒトインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残
基からなる領域に相当するペプチド断片に結合することを慣用の免疫学的測定手段を用い
て確認し、これを選別する手段を採用することができる。
【0190】
また、ヒトインテグリンβ7に特異的に結合する候補物質を選別し、更に上記抗体(I)に
て詳述したインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域のみをヒト由来と
し、それ以外をマウス由来などのヒト以外に由来するものとしたキメラ型インテグリンβ
7を発現する細胞に結合する候補物質を慣用の免疫学的測定手段を用いて確認し、これを
選別する手段を採用することができる。これを選別する手段を採用することもできる。
【0191】
また、ヒトインテグリンβ7に特異的に結合する候補物質を選別し、更に、上記抗体(I)
にて詳述したインテグリンβ7の20~109番目のアミノ酸残基からなる領域のみをヒト由来
とし、それ以外をマウス由来などのヒト以外に由来するものとしたキメラ型インテグリン
β7を発現する細胞に対して、ホルボールエステル、マンガン塩などによって処理し、処
理前後で結合の程度が上昇するする候補物質を確認し、これを選別する手段を採用するこ
ともできる。
【0192】
また、ヒトインテグリンβ7に特異的に結合する候補物質を選別し、更に、上記抗体(I)
にて詳述したヒトインテグリンβ7の111~378番目のアミノ酸残基からなる領域をマウス
由来に置換したキメラ体を発現する細胞と、ヒトインテグリンβ7の110~721番目のアミ
ノ酸残基からなる領域をマウス由来に置換したキメラ体と作製し、前者に対する結合の程
度が高い候補物質を確認し、これを選別する手段を採用することもできる。
【0193】
さらに、スクリーニング方法(X)には細胞障害活性を有することを指標に候補物質を選
別する工程が包含させることもできる。具体的な細胞障害活性を確認する対象となる細胞
とは特に限定はされない。例えば上述したヒトインテグリンβ7のPSIドメインに特徴があ
る活性型ヒト由来インテグリンβ7を発現する血球細胞などを挙げることができる。
【0194】
ここで、スクリーニングする候補物質が抗体である場合、細胞障害活性を有することを
指標に候補物質を選別する工程を、ADCC活性またはCDC活性を有する抗体を選別する工程
としてもよい。
【0195】
このようにスクリーニング方法(X)によって選別される候補物質は、抗体であることが
好ましく、更に好ましくはモノクローナル抗体である。最も好ましくは上記抗体(I)であ
る。
【0196】
(XI) 診断方法
診断方法(XI)とは癌の診断方法であり、被験体から採取したサンプルと、上記抗体(I)
とを接触させる工程を含む。
【0197】
被験体とは、疾患の治療または予防方法(VIII)にて詳述した被験体と同様とすることが
できる。
【0198】
被験体から採取したサンプルとは、血液または骨髄液とすることができる。
【0199】
具体的な診断方法は、特に限定はされないが、例えば上記抗体(I)に結合する細胞が検
出された場合に癌に罹患した、または罹患する可能性があると判断することが挙げられる
。
【0200】
結合の程度は、慣用の免疫学的測定法を採用することによって、当業者であれば容易に
決定することができる。ここで測定された程度に応じて、癌に罹患したか、あるいは罹患
する可能性があるかのいずれかを決定することができる。
【0201】
具体的な癌の診断は特に限定されないが、例えば血液癌、より好ましくは上記抗体(I)
に結合する細胞が形質細胞である場合に、形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患(例えば、
骨髄腫、多発性骨髄腫など)に罹患するまたは罹患する可能性があると診断することがで
きる。
【0202】
(XII) キット
キット(XII)とは、上記抗体(I)を含む、癌の診断用キットである。
【0203】
癌とは、特に限定はされず、上述の医薬組成物(VII)にて詳述した通りとすることがで
き、好ましくは血液癌、更に好ましくは形質細胞の腫瘍性増殖をきたす疾患(例えば、骨
髄腫、多発性骨髄腫など)である。
【0204】
なお、キット(XII)には適宜マニュアルを添付させることができる。このようなマニュ
アルには上述の診断方法(XI)にて詳述する方法を癌の診断基準として記載させることがで
きる。
【実施例0205】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。なお、本発明が以下に示す
実施例に限定されないのは言うまでもない。
【0206】
試験方法:フローサイトメトリーおよびソーティング
以下の実施例において、細胞の選別のために用いたフローサイトメトリー(FACS)は下
記の要領で行った。
【0207】
インフォームドコンセントを得た骨髄腫患者の腸骨から採取した骨髄単核球をACK液(1
50mMのNH4Clおよび10mMのKHCO3)に浮遊させ、3分間、4℃で静置することにより赤血球
を除去した。2%の胎児ウシ血清を添加したPBSで除去後の骨髄単核球を洗浄したのち、非
特異的な抗体の結合を防ぐため、10%のヒトAB型血清を含むPBS中で、20分間、4℃でブ
ロッキングを行った。
【0208】
その後、蛍光色素でラベルされた各抗体(下記参照)をこれに加え、30分間、4℃で
染色を行い、次いでPBSで洗浄したのち、1μg/mlのpropidium iodide(PI)を含んだPBS
中に浮遊させ、その後FACS解析に供した。細胞の解析およびセルソーティングはFACS Ari
a セルソーター(Becton Dickinson Immunocytometry Systems社製)を用いて行った。
【0209】
細胞の染色には、次のモノクローナル抗体を適宜選択して使用した。
・APC-conjugated anti-human CD34 antibody(BD Pharmingen社製)
・PE-Cy7-conjugated anti-human CD34 antibody(BD Pharmingen社製)
・APC/Cy7-conjugated anti-human CD19 antibody(Biolegend社製)
・FITC-conjugated anti-human CD38 antibody(eBioscoience社製)
・APC-conjugated anti-human CD138 antibody(Biolegend社製)
・PE/Cy7-conjugated anti-human CD3 antibody(Biolegend社製)
・FITC-conjugated anti-human CD14 antibody(BD Pharmingen社製)
・PE/Cy7-conjugated anti-human CD45 antibody(Biolegend社製)。
【0210】
〔実施例1〕
骨髄腫細胞株に結合し健常人末梢血に結合しないモノクローナル抗体ライブラリーの作製
多発性骨髄腫に対する抗体治療においては、骨髄腫細胞には結合するが正常血液細胞に
は結合しない抗体を用いることが重要である。そこで、このような抗体を以下の方法によ
り同定した。まず、以下の手法を用いて、様々な骨髄腫細胞株に結合するモノクローナル
抗体を1万クローン以上作製した。
【0211】
6種類のヒト骨髄腫細胞株(MM.1s細胞、RPMI8226細胞、INA6細胞、U266細胞、OPM2細
胞、およびKMS12BM細胞)を抗原として、Balb/cマウスのfootpadに週2回、2-3週間免
疫した。その後、膝下リンパ節を取り出して、細胞浮遊液を作製し、SP2/0マウスミエロ
ーマ細胞株と細胞融合させてハイブリドーマを作製した。細胞融合はポリエチレングリコ
ールを用いる方法(PEG法)を用いて行った。その後ヒポキサンチン-アミノプテリン-
チミジン培地(HAT培地)で細胞を培養することにより、ハイブリドーマを選択した(>
1万クローン)。
【0212】
最後に、ハイブリドーマの培養上清を用いて、免疫に用いた骨髄腫細胞株に結合し、健
常人末梢血由来単核球には結合しない抗体を含む上清をFACSを用いて選択した。その結果
得られた骨髄腫細胞に特異的な抗体の候補は約200クローンであり、これらを発現する
ハイブリドーマを増殖させた後にこれを凍結保存した。
【0213】
〔実施例2〕
ヒト多発性骨髄腫患者骨髄において骨髄腫細胞特異的に結合する抗体の同定
上記の実施例1にて得られた約200クローンの候補抗体を用いて、骨髄腫患者由来の骨
髄細胞を染色し、FACSを用いて解析した。
【0214】
多発性骨髄腫患者由来の骨髄細胞に各候補抗体を加えて4℃で30分間インキュベート
したのち洗浄し、二次抗体としてPE-conjugated anti-mouse IgG antibodyを加えてさら
に4℃で30分間インキュベートした。洗浄の後、最後に、APC-conjugated anti-human CD1
38 antibody、FITC-conjugated anti-human CD38、またはPE/Cy7-conjugated anti-human
CD45を用いて染色した。陰性コントロールとして、候補抗体の代わりに、Isotype contr
ol を加えたサンプルを同時に用意した。
【0215】
これらをFACSを用いて解析することにより、CD45-CD38++CD138+骨髄腫形質細胞およびC
D45-CD38++CD138-骨髄腫前駆細胞には結合するが、CD45+血液細胞には結合しない抗体を
選択した。
【0216】
その結果、MMG49抗体が上記の条件を満たす抗体として同定された(
図1および
図2)
。図中の各ヒストグラムについて、Y軸は、細胞数を示し、X軸はMMG49抗体の結合強度を
示す
【0217】
〔実施例3〕
MMG49抗体が結合する抗原タンパクの同定
MMG49抗体が結合する抗原タンパクの同定を発現クローニング法によって行った。
【0218】
まず、MMG49抗体が結合することがわかっているMM.1s細胞から、superscript choice s
ystem for cDNA synthesis(Invitrogen社)を用いてcDNAライブラリーを作製し、BstXI
アダプター(Invitrogen社)を用いて、pMXsレトロウィルスベクター(東京大学医科学研
究所 北村俊雄先生より分与)に挿入した。このようにして作製されたcDNA libraryをpl
at-E細胞(北村俊雄先生より分与)に導入することにより得たレトロウィルスをBaF3細胞
に感染させて、MM.1s由来のcDNAライブラリーを発現するBaF3細胞を得た。
【0219】
次に、これらの細胞をMMG49抗体で染色し、陽性細胞をFACSでソーティングすることに
より細胞濃縮を繰り返した(
図3)。3回目のソーティング後にはほとんどの細胞がMMG4
9抗体に結合する細胞となった。そこで、これらの細胞が持つレトロウィルスのインサー
トをPCRにて増幅した後、シークエンシングすることにより塩基配列を同定した結果、細
胞が保有するインサートがITGB7であることが明らかになった。
【0220】
〔実施例4〕
ITGB7欠損骨髄腫細胞の作製によるMMG49抗体の結合抗原がITGB7発現タンパク質であるこ
との確認
Crisp-Cas9システムを用いてITGB7欠損U266骨髄腫細胞株を作製した。
【0221】
まず、PX330(addgene社)ベクターにITGB7特異的な標的配列の二本鎖DNA配列を挿入す
ることによりベクターを作製した。それを薬剤選択のためのベクターであるlinear hygro
mycin-resistance gene expression vector(Clontech社)と共に、Nucleofector(登録
商標)II(Lonza社)を用いてU266細胞に導入した。その後、ハイグロマイシンを添加し
た培地中で増えてきたクローンについてITGB7の発現をFIB27抗体(抗インテグリンβ7抗
体;Biolegend社)を用いて染色してFACSにて解析することにより、ITGB7欠損細胞を同定
した。
【0222】
次に得られたITGB7欠損細胞をMMG49抗体を用いて染色し、FACSにて解析したところ、野
生型のU266細胞にはMMG49抗体が結合するのに対して、ITGB7欠損株ではMMG49抗体の結合
が完全に消失していた(
図4)。このことはMMG49はITGB7発現タンパク質(インテグリン
β
7)のみに結合していることを示している。
【0223】
次に、MM1s骨髄腫細胞の溶解液からMMG49抗体を用いて免疫沈降を行ったのちSDS-PAGE
し、次いで抗インテグリンβ
7抗体(Miltenyi社)を用いてWBを行った。その結果、MMG4
9抗体による免疫沈降物中にはインテグリンβ
7が検出された(
図5)。このことは、MMG4
9抗体がインテグリンβ
7に結合していることを示している。
【0224】
〔実施例5〕
健常人末梢血および骨髄腫患者骨髄の各細胞分画におけるMMG49抗体の結合パターンの測
定
市販されている抗インテグリンβ7抗体(FIB27抗体;Biolegend社)およびMMG49抗体
を用いて、健常人末梢血および骨髄細胞における様々な細胞分画への結合を測定した。
【0225】
健常人由来の末梢血細胞からHES40を用いて赤血球を除いた後、Fc receptor blocking
reagent(Miltenyi社)を加えて非特異的な抗体の結合をブロッキングし、その後、MMG49
抗体またはFIB27抗体、あるいはIsotype controlとしてmouse IgG2aを加えて4℃で30
分間インキュベートしたのち洗浄し、二次抗体としてPE-conjugated anti-mouse IgG ant
ibodyを加えてさらに4℃で30分間インキュベートした。
【0226】
これらを洗浄した後、最後に、APC/Cy7-conjugated anti-human CD19 antibody、FITC-
conjugated anti-human CD14 antibody、PE/Cy7-conjugated anti-human CD3 antibodyを
用いて染色した。染色後の細胞をFACSを用いて解析することにより各分画におけるMMG49
抗体およびFIB27抗体の結合を測定した(
図6)。
【0227】
また、1μlの健常人の末梢血を100μlのPBS(含EDTA)に加えたものを、同様にMMG49抗
体またはFIB27抗体を用いて染色し、最後にPacific blue-conjugated anti-human CD235
antibody(BD Pharmingen社)またはFITC-conjugated anti-human CD41antibody(BD Pha
rmingen社)を用いて染色することにより、CD235
+の赤血球および血小板への各抗体の有
無も同様にFACS解析により検討した(
図6)。これらの結果はFIB27抗体が多くのリンパ
系細胞に強く結合するのに対して、MMG49抗体の上記の正常血球細胞への結合はきわめて
弱いことを示している。
【0228】
さらに、骨髄中において骨髄腫細胞以外の各正常細胞分画へのMMG49抗体の結合がない
かどうかを明らかにするため、骨髄腫患者の骨髄細胞も同様にMMG49抗体を用いて染色し
、最後にAPC-conjugated anti-human CD34 antibody(BD Pharmingen社製)Alexa647-con
jugated human CD3(BD Pharmingen社製)、Cy7APC-conjugated anti-CD19 human antibo
dy(BD Pharmingen社製)、PE-Cy7-conjugated anti-CD38 human antibody(BD Pharming
en社製)、またはFITC-conjugated anti-CD14 human antibody(BD Pharmingen社製)を
用いて染色した。これらの染色後の骨髄腫患者由来の骨髄細胞FACSを用いて解析すること
により、各分画におけるMMG49抗体の結合を測定した(
図7)。これらの結果はMMG49抗体
は骨髄腫細胞に強く結合するのに対し、造血幹細胞、前駆細胞分画を含めた全ての正常血
球にはほとんど結合しないことを示している。
【0229】
〔実施例6〕
MMG49の各種細胞株への結合の解析
各種細胞株(MM1s細胞、U266細胞、RPMI8226細胞、およびJJN3細胞)におけるMMG49抗
体およびFIB27抗体の結合をFACSを用いて解析した。染色の方法は上記実施例5に示す末
梢血などの場合と同じである。
【0230】
インテグリンβ
7はインテグリンα
4またはインテグリンα
Eとヘテロダイマーを形成し
て細胞表面にて発現されることが知られているので、Alexa647-cojugated anti-human CD
49d antibody(Biolegend社)およびAPC-conjugated anti-human CD103 antibody(Biole
gend社)を用いて、これらの発現も同時にFACSを用いて解析した。なお、CD103とはイン
テグリンα
Eを示し、CD49dとはインテグリンα
4を示す。なお、上記実施例5と同様に、
健常者由来の末梢血におけるインテグリンα
Eおよびインテグリンα
4の発現量も検討した
(
図8)。
【0231】
その結果ITGA4はほとんどの骨髄腫細胞株に発現しており、ITGAEはどの細胞株にも発現
していなかった。FIB27抗体は全ての骨髄腫細胞株に結合していたが、MMG49抗体の結合は
FIB27抗体の発現レベルとは一致しなかった。さらに、Crisp-Cas9システムを用いて作製
したITGA4欠損U266細胞に対するMMG49抗体、FIB27抗体の結合をFACSにて検討したところ
、共に、ITGA4欠損によりU266細胞への結合が消失していた。つまり、MMG49抗体、FIB27
抗体共にα4β7インテグリンとして発現しているβ7インテグリンを認識していることが
わかった。
【0232】
〔実施例7〕
インテグリンの活性化とMMG49抗体の結合の関連の解析
上記のMMG49抗体の特異な結合様式から考えて、MMG49抗体は活性化して構造の変化した
インテグリンβ7を認識しているのではないかと推測された。
【0233】
そこで、α4β7を強制発現させたK562細胞およびCD4 T cell enrichment kit(BD pharm
ingen社)を用いて濃縮したヒト正常末梢血CD4T細胞を5mM EDTA/HBSで洗浄した後、1mM Ca
2+/1mM Mg2+/HBS(低活性用バッファー)あるいは2mM Mn2+/HBS(活性化バッファー)中に
おいて、MMG49抗体あるいはFIB27抗体と共に室温で30分間インキュベートしたのち洗浄
し、二次抗体としてPE-conjugated anti-mouse IgG antibodyを加え、さらに室温で30分
分間インキュベートした。これらをFACSを用いて解析することによりインテグリンα4β7
が活性化された細胞におけるMMG49抗体およびFIB27抗体の結合を測定した。
【0234】
その結果、Mn
2+の存在下でMMG49抗体の結合が増強していることが観察された(
図10
)。一方、FIB27抗体については同様の変化は見られなかった。このことは、MMG49抗体が
活性化したインテグリンβ
7に特異的な抗体である可能性を示唆する。
【0235】
〔実施例8〕
MMG49抗体の認識に必須のエピトープの同定
MMG49抗体が認識しているエピトープを同定するために、オーバーラッピングPCR法を用
いて、
図11に示すような8種類のヒト/マウスキメラインテグリンβ
7タンパク質発現用
ベクターを作製した。
【0236】
それぞれの発現ベクターをリポフェクション法により293T細胞に導入し、48時間後にMM
G49抗体の結合の有無を解析した。細胞を1%のウシ胎児血清添加PBSに浮遊させ、MMG49
抗体を添加したのち、室温で30分間静置した。洗浄ののち、Alexa488-抗マウスIgG抗体を
加え、室温で30分間静置したのち、FACSにて解析した。
【0237】
その結果、MMG49抗体は、110~721番目のアミノ酸残基からなる領域がマウス由来で、
且つ、これ以外(20~109番目のアミノ酸残基からなる領域および722~798番目のアミノ
酸残基からなる領域)がヒト由来の配列であるキメラインテグリンβ
7タンパク質(#4960)
に、全長がヒト由来のキメラインテグリンβ
7タンパク質(#4927)の場合とほぼ同様に強く
結合することが明らかとなった(
図11~13)。
【0238】
722~798番目のアミノ酸残基からなる領域は膜貫通ドメイン(TM)および細胞内ドメイン
(cytoplasmic)が含まれ、さらに1~19番目のアミノ酸残基からなる領域がシグナルペプチ
ドであることに鑑みると、PSIドメインを含む20~109番目のアミノ酸残基からなる領域に
、MMG49抗体の結合に必須のエピトープが存在することが示された。
【0239】
また、110~378番目のアミノ酸残基からなる領域をマウス由来とし、且つ、20~109番
目のアミノ酸残基からなる領域および379~798番目のアミノ酸残基からなる領域をヒト由
来としたキメラキメラインテグリンβ7タンパク質(#4961)は、キメラインテグリンβ7タ
ンパク質(#4960)と比較して、MMG49抗体の結合力が、若干上昇し、全長がヒト由来のキメ
ラインテグリンβ7タンパク質(#4927)の場合と完全に同じ結合レベルとなることが明らか
となった。
【0240】
さらに、上述のMMG49抗体のエピトープが含まれると示された20~109番目のアミノ酸残
基からなる領域、および1~19番目のアミノ酸残基からなるシグナルペプチドに相当する
領域を含む1~378番目のアミノ残残基からなる領域がマウス由来で、且つ、379~798番目
のアミノ酸残基からなる領域がヒト由来であるキメラインテグリンβ7タンパク質(#4944)
、および1~416番目のアミノ酸残基からなる領域がヒト由来であり、且つ417~798番目の
アミノ酸残基からなる領域がヒト由来であるキメラインテグリンβ7タンパク質(#4945)は
、1~563番目のアミノ酸残基からなる領域がマウス由来で、且つ、564~798番目のアミノ
酸残基からなる領域がヒト由来であるキメラインテグリンβ7タンパク質(#4946)、および
1~721番目のアミノ酸残基からなる領域がマウス由来で、且つ、722~798番目のアミノ酸
残基からなる領域がヒト由来であるキメラインテグリンβ7タンパク質(#4947)と比べて、
MMG49抗体の結合能が若干上昇することも明らかとなった。
【0241】
以上の実験結果に鑑みると、MMG49抗体インテグリンβ7の20~109番目のアミノ残酸基
からなる領域への特異的な結合力、すなわち親和性は、ヒトインテグリンβ7の379~721
番目のアミノ酸残基からなる領域によって、すなわちヒトインテグリンβ7の379~721番
目のアミノ酸残基からなる領域の存在下で、上昇することも明らかとなった。
【0242】
〔実施例9〕
MMG49抗体の抗体分子可変部領域の塩基配列の決定
MMG49抗体サブクラスの確認はIsotyping kit(Roche社)を用いて行ったところ、IgG2a
サブクラスであることを確認した。さらに、MMG49抗体の可変部領域の塩基配列およびア
ミノ酸配列を決定した。
【0243】
配列決定の方法は、Smarter RACE cDNA amplification kit(Clontech)社を用いて行
った。すなわち、MMG49抗体を産生するハイブリドーマMMG49由来のmRNAから作製したcDNA
を鋳型にして、PCR反応によりH鎖およびκ鎖可変部領域のcDNA断片を増幅し、その塩基配
列を解読した。解読したH鎖可変領域のアミノ酸配列、塩基配列、および超過変領域(CDR
1~3)を下記表3および4に示す。
【0244】
解読したL鎖(κ鎖)可変領域のアミノ酸配列、塩基配列、および超過変領域(CDR1~3
)も下記表3および4に示す。
【0245】
単離したMMG49抗体の可変領域配列の特異性を確認するため、可変部配列cDNAをヒトIgG
4定常部およびヒトIgLのκ鎖の定常部配列と結合させることによりキメラ化抗体の作製を
行った。具体的にはIn-Fusion cloning kit (Takara社)を用いてpFuse-CH-Ig-hG4, pFuse
-CL-Ig-hk(invivogen社)に各可変部配列を挿入したのち、それらをFreeStyle CHO-S細
胞(Invitrogen社)に導入し、その培養上清に分泌されるキメラ化抗体を回収した。次に、
MMG49抗体が結合するMM1s細胞およびMMG49抗体が結合しないKMS12BM細胞をMMG49-hIgG4を
加えたバッファー中でインキュベートし、洗浄した後、ビオチン化抗ヒトIgG(Rockland社
)を二次抗体として加え、再度洗浄した後、ストレプトアビジン-PE(Biolegend社)を加え
ることにより染色し、FACS解析を行った。その結果、MMG49-hIgG4は元のMMG49抗体と同様
の染色パターンを示し、得られた可変部配列が正しいものであることが示唆された(
図1
4)
【0246】
【0247】
【0248】
〔実施例10〕
MMG49抗体の抗体分子可変部領域を用いたキメラ抗原受容体T細胞の作製
MMG49抗体分子可変部配列を用いたchimeric antigen receptor T cell(以下、MMG49抗
体由来キメラ抗原受容体T細胞と呼ぶ。)の作製は、非特許文献2~4などを参照しなが
ら以下の手順で行った。
【0249】
(1)CD28およびCD3zのクローニング:
Jurkat細胞からTrizol(Invitrogen社)を用いてRNAを採取し、さらにSuperscript III
cDNA synthesis kit(Invitrogen社)を用いてcDNAを作製した。そして、それを鋳型と
してPCRによりCD28およびCD3zのcDNAを増幅し、それぞれ、TA cloning kit(Invitrogen
社)を用いてクローニングし、シークエンシングによりこれらの塩基配列を確認した。
【0250】
(2)MMG49抗体由来のVL/VHとCD28/CD3zの4つの断片の結合:
オーバーラッピングPCR法を用いて、MMG49抗体由来のVL領域およびVH領域、ならびに上
記クローニングしたCD28およびCD3zの各遺伝子断片を結合し、キメラcDNAを作製した。そ
の手順と用いたプライマーを
図15に示す。用いたプライマーの塩基配列を以下の表5に
示す。
【0251】
【0252】
結合されたキメラcDNAはZeroblunt PCR cloning kit(Invitrogen)を用いてクローニ
ングした後、シークエシングを行い塩基配列を確認した。また確認した塩基配列に基づい
て確認されたアミノ酸配列(配列番号21)およびその塩基配列(配列番号22)を配列
表に示す。なお、配列番号21に示すアミノ酸配列は、上記配列番号23に示すコザック
配列(gaattccacc)を含まない、その直ぐ後に続く開始コドン(atg)からアミノ酸配列
に変換したものである。
【0253】
(3)発現ベクターへの挿入:
次いで、(2)で結合されたキメラcDNAをEcoRI/SalIの二つの制限酵素で切り出し、M
SCV-ires-GFPベクターに挿入した。
【0254】
上記により作製したMMG49抗体由来キメラ抗原受容体cDNAレトロウィルスベクターをgag
/polおよびVSV-Gエンベロープ発現ベクターと共にlipofectamine2000(invitrogen社)を
用いて293T細胞に導入することによりレトロウィルスの作製を行った。遺伝子導入後48時
間後に上清を回収しウィルス溶液として用いた。
【0255】
(4)T細胞への導入:
次いで、ヒトT細胞へMMG49抗体由来キメラ抗原受容体のcDNAの導入は以下のように行っ
た。
【0256】
まず、anti-CD3 antibody(eBioscience社)をコーティングした48ウェルプレートに
ヒト末梢血単核球を加え72時間培養した。培養液にはX-VIVO15(Lonza社)に10%のヒト
AB型血清とIL-2(175IU/L)を添加したものを用い末梢血単核球を刺激した。その後、Ret
ronectin(Takara社)をコーティングした48ウェルプレートに上記作製のウィルス溶液を
添加し、1700xgで120分間の遠心によりウィルスをRetronectinに吸着させた後、刺激後の
末梢血単核球(T細胞を含む)を加え、これに遺伝子導入を行った。その後上述の培地で
培養を続けることによりMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞を増幅させ、以下の検討に
用いた。MMG49抗体の可変領域を用いたCARコンストラクトを発現させたT細胞をPE-抗ヒト
F(ab')
2抗体(Jackson Laboratory社)を用いて染色した結果、コンストラクトの導入を
示すGFPの発現に比例してヒトF(ab')
2の発現が検出された(
図16)。つまり、導入され
たCARは細胞表面に発現されていることが確認された。
【0257】
〔実施例11〕
MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞によるITGB7発現腫瘍細胞の認識と細胞傷害活性の
解析
上述の方法により作製したMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞あるいはGFPだけを導
入されたコントロールT細胞とインテグリンβ
7を発現していないK562細胞あるいはインテ
グリンα
4β
7を強制発現させたK562細胞を共培養し、産生されるサイトカインの量を定量
した。具体的にはT細胞およびターゲット細胞のそれぞれ1x10
5個を96ウェルプレートに
加えた。24時間後に上清を回収し、ELISAにてIFN-γの産生量を測定した。測定はQuantik
ine kit(R&D社)を用いて行った。その結果、インテグリンα
4β
7を強制発現させたK562
細胞とMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞との共培養においてのみ、control(GFP発現
ベクターを導入した刺激後の末梢血単核球を同様に培養して得られるT細胞)よりも高いI
FN-γおよびIL2の産生が見られた(
図17)。
【0258】
次に、MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞あるいはGFPだけを導入されたコントロー
ルT細胞とMMG49抗体が結合する骨髄腫細胞株(MM.1s細胞、RPMI8226細胞、およびJJN3細
胞)あるいはMMG49抗体が結合しない細胞(KMS12BM, Molt4, およびRaji細胞)とを共培
養し、同様に産生されるサイトカインの量を定量した。その結果、MMG49抗体が結合する
細胞であるMM.1s、RPMI8226細胞、およびJJN3細胞とMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細
胞とを共培養したときにのみ、control(GFP発現ベクターを導入した刺激後の末梢血単核
球を同様に培養して得られるT細胞)よりも高いIFN-γおよびIL2の産生が見られた(
図1
8および19)。これらの結果は、MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞はMMG49抗体が
認識する抗原(これをMMG49抗原と呼ぶことがある。)を認識することにより活性化して
いることを示している。
【0259】
さらに、51Cr細胞傷害アッセイにて、MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞が骨髄腫細
胞株を傷害するかどうかを検討した。まず、標的細胞となるインテグリンβ7を発現して
いないK562細胞あるいはインテグリンα4β7を強制発現させたK562細胞を10%のFCSを添
加したRPMI1640培地にて培養し、細胞数が0.5~1.0x104個となるように調製した。
【0260】
これに適量のNa2
51CrO4を加え、37℃で2時間反応させ、細胞を51Crでラベル化し、
洗浄したものを標的細胞とした。これを、ウシ胎児血清を添加したRPMI1640培地に懸濁し
たMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞と混和し4時間共培養した。
【0261】
その後、上清に放出された51Crをγ-カウンターにて測定した。細胞傷害率(%)は以下
の式(1)に基づいて求めた。
【0262】
(A-B)/(C-D)x100 (1)
A: 実験に用いた細胞からの51Crの放出量
B: 抗体の存在しない状態での自発的な51Crの放出量
C: 1%のTriton X-100の添加による最大51Cr放出量
D: 抗体の存在しない状態での自発的51Crの放出量。
【0263】
その結果、MMG49抗体が結合するインテグリンα
4β
7を強制発現させたK562細胞では、c
ontrolであるGFPだけを発現するT細胞に比べてMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞によ
る高い細胞傷害が見られた(
図20)。
【0264】
次に、MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞あるいはGFPだけを導入されたコントロー
ルT細胞とMMG49抗体が結合する骨髄腫細胞株(MM1s細胞、RPMI8226細胞、およびJJN3細胞
)あるいはMMG49抗体が結合しない細胞(KMS12BM, Molt4,およびRaji細胞)とを共培養し
、同様の検討を行った。その結果、MMG49抗体が結合するインテグリンα
4β
7を強制発現
させたK562細胞でのみ、controlであるGFPだけを発現するT細胞に比べてMMG49抗体由来キ
メラ抗原受容体T細胞による高い細胞傷害が見られた(
図21)。
【0265】
以上の結果は、MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞がMMG49抗体により認識される抗
原を発現する細胞を特異的に傷害しうることを示している。
【0266】
〔実施例12〕
MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞によるin vivoにおける骨髄腫瘍細胞排除能の解析
MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞を用いて、in vivoでの多発性骨髄腫に対する治
療効果を調べた。
【0267】
2.4Gyの放射線照射を行ったNOGマウスの骨髄内に骨髄腫細胞株MM1s細胞(4x10
5個)を
移植した。5日後に、マウスをMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞投与群と、コントロ
ールT細胞投与群に分け、それぞれ5x10
6個ずつ経静脈的に投与した。その7日後に骨髄の
解析を行ったところ、コントロールT細胞投与群では明らかに全てのマウスに著明な骨髄
腫細胞の増殖が見られたのに対して、MMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞投与群では腫
瘍はほぼ完全に消失していた。これらの結果はMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞投与
がin vivoにおいてもMMG49抗原を発現する腫瘍を排除する能力を有することを示している
(
図22)。
【0268】
さらに骨髄腫全身播種モデルを用いて、in vivoでの多発性骨髄腫に対する治療効果を
調べた。
【0269】
2.4Gyの放射線照射を行ったNOGマウスの静脈内にルシフェラーゼ遺伝子を導入した骨髄
腫細胞株MM1s細胞(5x10
6個)を移植した。移植後5日後にIVIS imaging system(パーキ
ンエルマー社)を用いて、腫瘍細胞の生着の程度を測定した。その後、マウスをMMG49抗
体由来キメラ抗原受容体T細胞投与群と、コントロールT細胞投与群に分け、移植後5日後
と7日後に、それぞれ3x10
6個ずつ経静脈的に投与した。2回目のT細胞投与後7日後にIV
IS imaging systemを用いて、再度腫瘍量の測定を行ったところ、コントロールT細胞投与
群では明らかに全てのマウスに著明な骨髄腫細胞の増殖が見られたのに対して、MMG49抗
体由来キメラ抗原受容体T細胞投与群では腫瘍はほぼ完全に消失していた(
図23)。こ
れらの結果はMMG49抗体由来キメラ抗原受容体T細胞投与がin vivoにおいてもMMG49抗原を
発現する腫瘍を排除する能力を有することを示している。
【0270】
〔実施例13〕
MMG49抗体のエピトープについて、実施例8にて検討した結果を更に詳細に検討する実
験を行った。
図25に示すような3種類のヒト/マウスキメラインテグリンβ
7タンパク質
発現用ベクターを作製し、それぞれの発現ベクターをリポフェクション法により293T細胞
に導入し、48時間後にMMG49抗体の結合の有無をFACSにて解析した。
【0271】
その結果、MMG49抗体は、インテグリンβ
7タンパク質の1~32番目および91~798番目の
アミノ酸残基からなる領域がマウス由来で、且つ、これ以外(33~90番目のアミノ酸残基
なる領域)がヒト由来の配列であるキメラインテグリンβ
7タンパク質(
図25における、ch
5.1)に、全長がヒト由来のインテグリンβ
7タンパク質(
図11における、#4927)の場合とほ
ぼ同様に強く結合することが明らかとなった(
図25)。
【0272】
よって、MMG49抗体のエピトープは、ヒトインテグリンβ7タンパク質の33~90番目のア
ミノ酸残基に含まれることが強く示唆された。
【0273】
〔実施例13〕
ヒトインテグリンβ
7、マウスインテグリンβ
7、およびヒトインテグリンβ
7の1あるいは
2アミノ酸のみをマウス由来のアミノ酸配列に変異させた各種変異体(R35E/N36D、H38D、
M41L/L42Q、およびA48V)を発現するベクターをリポフェクション法により293T細胞に導
入し、その後は実施例8と同様に実験を行った。その結果、
図26に示すように、A48V変
異体のみがMMG49抗体に対する結合力がヒトインテグリンβ
7と比べて顕著に減少し、マウ
マウスインテグリンβ
7の数値に近くなることが明らかとなった。この結果より、ヒトイ
ンテグリンβ
7の48番目のアミノ酸残基が、MMG49抗体のエピトープに強く関連するか、ま
たはMMG49抗体のエピトープに含まれることが明らかとなった。
【0274】
以下に、本明細書にて表示する塩基配列およびアミノ酸配列を示す。