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特開2023-93804解析装置、解析方法、製造方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093804
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法、製造方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20230628BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20230628BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20230628BHJP
   G01N 3/04 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/23
G01L1/00 G
G01N3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208856
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】大塚 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 康治
(72)【発明者】
【氏名】名取 純希
(72)【発明者】
【氏名】東 昌史
(72)【発明者】
【氏名】田畑 亮
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 諒
(72)【発明者】
【氏名】北原 優樹
(72)【発明者】
【氏名】河内 毅
【テーマコード(参考)】
2G061
5B146
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB05
2G061BA03
2G061BA15
2G061CA01
2G061CB13
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA03
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】成形時の各部位での残留応力の影響を評価する技術を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析部と、前記形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定部と、前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析部と、を備える解析装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析部と、
前記成形後対象の形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定部と、
前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析部と、
を備える解析装置。
【請求項2】
前記寄与度解析部は、解析対象の形状が下死点における形状であるという寄与度解析形状条件と、複数の前記解析対象領域のうちの一部の応力は下死点における応力分布が示す応力であり他の前記解析対象領域の応力は零であるという応力分布が前記解析対象の初期状態の応力分布であるという寄与度解析応力分布条件と、を含む寄与度解析条件の下で、前記解析対象領域ごとに弾性回復させる解析を実行する、
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記寄与度解析部は、前記影響の強さとして面内方向の応力である平均的応力を得る、
請求項1又は2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記寄与度解析部は、前記影響の強さとして、板厚方向の応力である偏差的応力を得る、
請求項1から3のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記寄与度解析部は、前記影響の強さとして、表層の応力である表面的応力を得る、
請求項1から4のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項6】
前記疲労解析対象部位を含む前記解析対象領域の境界と前記疲労解析対象部位との間の距離は、前記境界の位置によらず略同一である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の解析装置。
【請求項7】
下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析ステップと、
前記成形後対象の形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定ステップと、
前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析ステップと、
を有する解析方法。
【請求項8】
下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析ステップと、
前記成形後対象の形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定ステップと、
前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析ステップと、
前記寄与度解析ステップにより得られた前記強さが所定の条件を満たす前記解析対象領域の応力を下げる加工を行う加工ステップと、
を有する製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載の解析装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法、製造方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の工業製品には金属部品が用いられる場合がある。このような金属部品の性能の高さを示す重要な指標の1つとして、繰り返しの使用に対する耐久性を示す指標がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-172677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属には疲労割れと言われる現象が生じる場合がある。疲労割れは、微小な変形であってもこの変形が繰り返し行われ(疲労負荷)、これにより引張応力が繰り返して発生する部位で金属が破断してしまう現象である。したがって、金属部品の性能を上げるには、疲労割れの発生を抑制することが要求される。疲労割れを抑制するには、疲労割れの発生原因を特定することが重要である。疲労割れの発生原因の一つとして、成形によって発生する引張の残留応力が原因と考えられている。これは、繰り返し引張応力が発生する部位に予め引張応力が発生していると、疲労負荷による応力に残留応力が加算されその部位の引張応力が高くなるためである。よって、疲労負荷時に高い繰り返し引張応力が発生する部位(疲労割れが懸念される部位)の引張残留応力を低減させることが求められている。部品の断面形状が一様の場合に残留応力を低減させるには、残留応力を低減させたい部位の加工方法や部品形状を変更することで対処することができる。しかしながら、部品の断面形状が非一様の場合は残留応力を低減させたい部位の加工方法や部品形状を変更してもその部位の残留応力を低減させられない場合がある、すなわち、断面形状が非一様の場合はどの部位の加工方法や部品形状を変更すればよいかを特定することが困難な場合があった。発明者が考えたその理由を図25~28を用いて説明する。
【0005】
まず疲労割れに影響する残留応力の特定が容易な場合について図25及び図26を用いて説明し、その次に疲労割れに影響する残留応力の特定が難しい場合について図27及び図28を用いて説明する。図25は、部品の断面形状が一様である場合の下死点における応力を説明する図である。部品の断面形状が一様とは、図25の場合、図に垂直な方向に形状が一様、ということを意味する。このような場合、下死点では曲げ内側に圧縮応力が発生し、曲げ外側に引張応力が発生する。このような場合、板厚方向の応力分布によってスプリングバックの原因となるモーメントが発生する。断面形状が一様であるので、断面に垂直な方向の応力及びモーメントは断面に垂直な方向の位置によらず同一である。
【0006】
図26は、図25の状態の金属がスプリングバックした後の状態を示す。図25で説明したモーメントにより、図26の状態では、スプリングバックによって圧縮応力が曲げ外側に発生し、引張応力が曲げ内側に発生する。このスプリングバック後の応力が疲労特性に影響を及ぼす残留応力である。疲労負荷において曲げ内部に繰り返し引張応力が発生する場合、曲げ内側に発生する引張残留応力が疲労特性を低下させる残留応力となる。この場合、断面形状が一様であるため曲げ内側に発生する残留応力の原因部位は、この部位であり、この部位における板厚方向の応力分布によって生じるモーメントがスプリングバックを発生させ、それにより曲げ内側に引張残留応力が発生する。そのため、断面形状が一様の場合、この部位の加工方法や部品形状を改善することで、この部位のモーメントが低減し曲げ内側の引張残留応力が低減しその結果として疲労特性を向上させることができる。すなわち断面形状が一様の場合は、残留応力を低減させたい部位と加工方法や形状を改善すべき部位が一致する(したがって、部品の断面形状が一様である場合に本発明における課題は存在しない)。
【0007】
このように、部品の断面形状が一様である場合には、疲労割れに影響する残留応力の特定は容易である。しかしながら、部品の断面形状が非一様である場合には、疲労割れに影響する残留応力の発生原因部位の特定が困難である。図27は、部品の断面形状が非一様である場合の下死点における応力を説明する図である。部品の断面形状が非一様である場合にも、下死点では曲げ内側に圧縮応力が発生し、曲げ外側に引張応力が発生する。しかしながら、この応力分布は断面に垂直方向に異なる。
【0008】
図28は、図27の状態の金属がスプリングバックした後の状態を示す。図27で説明したモーメントにより、図28の状態では、圧縮応力が曲げ外側に発生し、引張応力が曲げ内側に発生する。しかしながら、非一様断面の場合、この時の形状や応力分布は断面に垂直方向の応力分布の影響を受けるため、一様断面の場合とは異なる。図28で示すものは一例として、曲げ内側の引張応力が一様断面の場合よりも大きくなる場合である。この場合は、この断面以外の部位の応力分布の影響を受けていることになる。そのため、この部位の曲げ内側の引張応力を低減させるためには、この断面以外の部位の加工方法や部品形状を改善することが必要となる。このように、部品の断面形状が非一様である場合には、残留応力を低減させたい位置(疲労割れが懸念される位置)から離れた位置の応力も疲労割れの発生を起こす要因であるため、疲労割れに影響する残留応力の特定は容易ではない。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、成形時の各部位での残留応力の影響を評価する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析部と、前記成形後対象の形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定部と、前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析部と、を備える解析装置である。
【0011】
本発明の一態様は、上記の解析装置であって、前記寄与度解析部は、解析対象の形状が下死点における形状であるという寄与度解析形状条件と、複数の前記解析対象領域のうちの一部の応力は下死点における応力分布が示す応力であり他の前記解析対象領域の応力は零であるという応力分布が前記解析対象の初期状態の応力分布であるという寄与度解析応力分布条件と、を含む寄与度解析条件の下で、前記解析対象領域ごとに弾性回復させる解析を実行する、解析装置である。
【0012】
本発明の一態様は、上記の解析装置であって、前記寄与度解析部は、前記影響の強さとして面内方向の応力である平均的応力を得る。
【0013】
本発明の一態様は、上記の解析装置であって、前記寄与度解析部は、前記影響の強さとして、板厚方向の応力である偏差的応力を得る。
【0014】
本発明の一態様は、上記の解析装置であって、前記寄与度解析部は、前記影響の強さとして、表層の応力である表面的応力を得る。
【0015】
本発明の一態様は、上記の解析装置であって、前記疲労解析対象部位を含む前記解析対象領域の境界と前記疲労解析対象部位との間の距離は、前記境界の位置によらず略同一である。
【0016】
本発明の一態様は、下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析ステップと、前記成形後対象の形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定ステップと、前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析ステップと、を有する解析方法である。
【0017】
本発明の一態様は、下死点までの成形が行われる前の解析対象である成形前対象の情報に基づき下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある前記解析対象である成形後対象の情報を得る成形解析を実行する下死点成形解析ステップと、前記成形後対象の形状を複数の解析対象領域に分割する領域設定ステップと、前記成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象である疲労解析対象部位と前記疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向である疲労対象方向とを示す疲労解析対象部位情報と、前記成形解析の結果と、に基づく弾性回復させる解析により、各前記解析対象領域において前記成形により発生する応力が前記疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る寄与度解析ステップと、前記寄与度解析ステップにより得られた前記強さが所定の条件を満たす前記解析対象領域の応力を下げる加工を行う加工ステップと、を有する製造方法である。
【0018】
本発明の一態様は、上記の解析装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、成形時の各部位での残留応力の影響を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態の解析装置を説明する説明図。
図2】実施形態における下死点成形解析処理の結果の一例を示す図。
図3】実施形態における領域設定処理の結果の一例を示す図。
図4】実施形態における寄与度解析の結果の一例を示す図。
図5】実施形態における評価実験を説明する第1の説明図。
図6】実施形態における評価実験を説明する第2の説明図。
図7】実施形態における評価実験を説明する第3の説明図。
図8】実施形態における評価実験を説明する第4の説明図。
図9】実施形態の解析装置のハードウェア構成の一例を示す図。
図10】実施形態における制御部の構成の一例を示す図。
図11】実施形態における解析装置が実行する処理の流れの一例を示すフローチャート。
図12】変形例における第1の低減加工例を説明する第1の説明図。
図13】変形例における第1の低減加工例を説明する第2の説明図。
図14】変形例における第2の低減加工例を説明する第1の説明図。
図15】変形例における第2の低減加工例を説明する第2の説明図。
図16】変形例におけるビートを付与する加工の一例を説明する説明図。
図17】変形例におけるコイニング法を説明する説明図。
図18】変形例における製造方法の一例を説明するフローチャート。
図19】変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第1の説明図。
図20】変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第2の説明図。
図21】変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第3の説明図。
図22】変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第4の説明図。
図23】変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第5の説明図。
図24】変形例における領域設定処理を説明する説明図。
図25】疲労割れに影響する残留応力の特定が難しいことを説明する第1の説明図。
図26】疲労割れに影響する残留応力の特定が難しいことを説明する第2の説明図。
図27】疲労割れに影響する残留応力の特定が難しいことを説明する第3の説明図。
図28】疲労割れに影響する残留応力の特定が難しいことを説明する第4の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態)
図1は、実施形態の解析装置1を説明する説明図である。解析装置1は、疲労解析対象部位情報取得処理と、下死点成形解析処理と、領域設定処理と、寄与度解析処理と、解析結果分析処理とを実行する。より具体的には、解析装置1は、疲労解析対象部位情報取得処理、下死点成形解析処理、領域設定処理、寄与度解析処理及び解析結果分析処理を、疲労解析対象部位情報取得処理、下死点成形解析処理、領域設定処理、寄与度解析処理、解析結果分析処理の順番に実行する。
【0022】
疲労解析対象部位情報取得処理は、疲労解析対象部位情報を取得する処理である。疲労解析対象部位情報は、成形後対象の部位のうちの疲労亀裂発生の解析対象の部位(以下「疲労解析対象部位」という。)と疲労解析対象部位における疲労亀裂進展方向(以下「疲労対象方向」という。)とを示す情報である。成形後対象は、下死点までの成形が行われた後に下死点で拘束された状態にある解析対象材料である。解析対象材料は、解析装置1の解析対象の金属部品である。なお、疲労対象方向は、疲労割れの原因となる応力の方向を特定するために必要な情報である。
【0023】
疲労解析対象部位情報取得処理において疲労解析対象部位情報は、実験により得られてもよいし、シミュレーションの実行により得られてもよい。実験の場合は、対象とする部品の疲労試験を実施し疲労割れをする部位と疲労割れの進展方向を特定する。シミュレーションは、例えば、残留応力を零に設定した疲労解析である。この場合、疲労試験と同等の条件で疲労解析を行い、部品の表層の最大主応力が高い部位とその部位の最大主応力の方向を特定する。
【0024】
下死点成形解析処理は、下死点までの成形が行われる前の解析対象材料(以下「成形前対象」という。)の情報に基づき成形後対象の情報を得る成形解析を実行する処理である。なお、成形解析では物性情報も用いられるが、物性情報は、解析対象材料の下死点における各物性値を含む情報である。物性値を含むとは、少なくともヤング率、ポアソン比、ひずみ分布、応力分布及び板厚を含むことを意味する。下死点における成形解析は、例えば金型中の解析対象材料に対する成形解析を行う処理である。このような場合、下死点成形解析処理の実行により、解析対象材料の下死点形状及び下死点応力分布が出力される。下死点形状は、成形後対象の形状である。下死点応力分布は、成形後対象における応力分布である。
【0025】
領域設定処理は、下死点成形解析処理により得られた形状(すなわち下死点形状)を複数の領域(以下「解析対象領域」という。)に分割し、分割後の各解析対象領域を示す情報を所定の記憶装置に記録する処理である。解析対象領域は、下死点成形解析におけるメッシュと同一であってもよいし異なってもよい。
【0026】
寄与度解析処理は、疲労解析対象部位情報と物性情報と下死点成形解析処理の結果とに基づき、解析対象領域の各領域について、疲労解析対象部位における疲労割れの発生への影響の強さ(以下「寄与度」という。)を得る処理である。下死点成形解析処理の結果とは、具体的には、下死点成形解析処理の実行により出力された下死点形状、板厚分布、ひずみ分布及び下死点応力分布である。寄与度解析処理は、物性情報と下死点成形解析処理の結果とに基づき寄与度を取得可能であればどのような処理であってもよい。寄与度解析処理は、例えば弾性回復させる解析の実行により寄与度を取得する。なお、弾性回復させる解析とは、スプリングバック解析とも言う。
【0027】
寄与度解析処理は、例えば解析対象領域ごとに寄与度解析条件の下で弾性回復させる解析を実行する処理(以下「条件下弾性解析処理」という。)である。以下、条件下弾性解析処理における弾性回復させる解析の対象の解析対象領域を、対象領域という。すなわち、条件下弾性解析処理は、対象領域ごとに寄与度解析条件の下で弾性回復させる解析を実行する処理である。寄与度解析条件は、条件下弾性解析処理において満たされる条件であり、少なくとも物性条件と寄与度解析形状条件と寄与度解析応力分布条件とを含む条件である。
【0028】
寄与度解析形状条件は、解析対象材料の形状は下死点形状である、という条件である。寄与度解析応力分布条件は、解析対象材料の初期状態の応力分布は非均一分布条件を満たす、という条件である。したがって、寄与度解析応力分布条件は、非均一分布条件を満たす応力分布が解析対象材料の初期状態の応力分布であるという条件であればどのような条件であってもよい。非均一分布条件は、複数の解析対象領域のうちの一部の応力は下死点応力分布が示す応力であり、他の解析対象領域の応力は零であるという条件、である。
【0029】
非均一分布条件は、例えば、対象領域の応力は下死点応力分布が示す応力であり、他の解析対象領域の応力は零である、という条件である。非均一分布条件は、例えば、対象領域の応力は零であり他の解析対象領域の応力は下死点応力分布が示す応力である、という条件であってもよい。非均一分布条件は、例えば、対象領域を含む複数の解析対象領域の応力分布は下死点応力分布が示す応力であり他の解析対象領域の応力は零である、という条件であってもよい。非均一分布条件は、例えば、対象領域を含む複数の解析対象領域の応力は零であり他の解析対象領域の応力は下死点応力分布が示す応力である、という条件であってもよい。
【0030】
このように、条件下弾性解析処理における弾性回復させる解析は、初期条件として形状が下死点形状であるという条件と、応力分布が非均一分布条件を満たす応力分布であるという条件とを含む弾性回復させる解析である。
【0031】
条件下弾性解析処理の実行により対象領域ごとに、初期状態の形状が下死点形状であり初期状態における応力分布が非均一分布条件を満たす応力分布である解析対象材料の、疲労解析対象部位に発生する応力が得られる。疲労解析対象部位に発生する応力を示す指標又は量が寄与度の一例である。
【0032】
このように寄与度は、例えば疲労解析対象部位に発生する応力を示す指標又は量である。疲労解析対象部位に発生する応力を示す指標又は量は、疲労解析対象部位に発生する応力を示せばどのような指標又は量であってもよい。寄与度は、例えば疲労解析対象部位に発生する最大主応力である。寄与度としては、疲労解析対象部位に発生する疲労き裂の進展方向に直行する方向の応力が望ましい。なぜならば、疲労き裂に直行する方向の応力が疲労き裂の原因となるためである。
【0033】
なお、疲労解析対象部位に発生する最大主応力とは、疲労解析対象部位に発生する向きの異なる複数の応力のうち大きさが最大の応力である。寄与度は、例えば疲労解析対象部位に発生する最大主応力の向きと割れ方向ベクトルとのなす角であってもよい。なお、割れ方向ベクトルは、疲労対象方向に垂直な方向を向くベクトルである。寄与度は、例えば疲労解析対象部位に発生する最大主応力の向きと疲労割れの向きとのなす角に所定の重みが乗算された値であってもよい。
【0034】
このように、条件下弾性解析処理は、対象領域ごとに寄与度解析条件の下で弾性回復させる解析を実行することで、解析対象領域の各領域について寄与度を得る処理である。したがって、寄与度解析処理は解析対象領域の各領域について寄与度を得る処理である。
【0035】
すなわち、寄与度解析処理は、疲労解析対象部位情報と、下死点成形解析処理の結果とに基づき、各解析対象領域において成形により発生する応力が疲労解析対象部位における疲労亀裂に与える影響の強さを得る処理である。
【0036】
解析結果分析処理は、寄与度解析処理の結果に基づき、寄与度の高さが寄与度の高さに関する所定の条件(以下「寄与度高さ条件」という。)を満たす解析対象領域を判定する処理である。寄与度解析の結果は、具体的には、解析対象領域の各領域の寄与度である。寄与度高さ条件は、例えば寄与度の高さが最も高い、という条件である。寄与度高さ条件は、例えば寄与度の高さが、寄与度の高さの順列における所定の順位よりも上位の順位である、という条件であってもよい。寄与度高さ条件は、例えば寄与度の高さが所定の高さよりも高い、という条件であってもよい。
【0037】
図2は、実施形態における下死点成形解析処理の結果の一例を示す図である。図2は一例として自動車部品のロアアームをプレスし成形した際の成形品の表層に発生する応力分布を示している。図2中の点線で囲まれて灰色表示の領域は車両の下側表面の表層の応力が1000MPaを超える領域であり、それ以外の領域は応力が1000MPa以下の領域である。図2の点P1は、疲労解析対象部位を示す。図2は、点P1における応力が1431MPaであることを示す。なおP1は車両の下側表面の位置である。
【0038】
図3は、実施形態における領域設定処理の結果の一例を示す図である。図3は、解析対象材料が複数の単連結な解析対象領域に分割されたことを示す。なお、解析対象領域は、必ずしも単連結である必要は無い。図3に一例として記載している数字は、各解析対象領域を識別する識別子である。図3の例では、解析対象材料を分割する解析対象領域の数は200である。
【0039】
図4は、実施形態における寄与度解析の結果の一例を示す図である。図4は、横軸が解析対象領域の識別子を示し、縦軸が寄与度を示す。図4の例における寄与度は、具体的には、疲労解析対象部位における疲労対象方向の応力である。図4の縦軸の単位は、MPaである。図4は、寄与度が高い上位30個の解析対象領域の各寄与度を、寄与度の高い順番に示す。例えば識別子025の解析対象領域の寄与度は、63MPaである。例えば識別子163の解析対象領域の寄与度は、11MPaである。
【0040】
<非均一分布条件の奏する効果>
ここで非均一分布条件の奏する効果について説明する。非均一分布条件が満たされる場合、解析対象材料の一部にのみ残留応力が存在する状況が解析される。ここで、一部にのみ残留応力が存在する状況を解析したとして、その解析結果は、応力分布が下死点応力分布である場合の解析結果と大きく異なってしまうのではないかという疑念が生じる。しかしながら、一般に物理現象は、重ね合わせ、あるいは、線形和が成り立つ。そのため、疲労解析対象部位に生じる応力は、疲労解析対象部位以外の各部位に生じる残留応力によって引き起こされる各応力の線形和で近似されると推察される。
【0041】
したがって、解析の対象の部位の寄与度の解析には、例えば解析の対象の部位についてのみ残留応力が存在しているという状況で解析を行えばよい、と推察される。また、疲労解析対象部位に生じる応力は疲労解析対象部位以外の各部位に生じる残留応力によって引き起こされる各応力の線形和であるので、解析の対象の部位の寄与度の解析には、解析の対象の部位にだけ残留応力が無いという状況を解析してもよい、と推察される。このように、疲労解析対象部位に生じる応力は疲労解析対象部位以外の各部位に生じる残留応力によって引き起こされる各応力の線形和であるので、解析の対象の部位の寄与度の解析には、非均一分布条件を満たす応力分布の下で解析が行われればよい、と推察される。この推察が正しことは実験により示された。その実験結果の一例は後述する。
【0042】
また、一般に、零を多く含むデータの演算に要する演算量は、含まれる零の量が少ないデータの演算に要する演算量よりも少ない。したがって、解析対象材料の一部にのみ応力が発生した状況を解析する際の演算量は、解析対象材料の全てに応力が発生した状況を解析するよりも演算量よりも少ない。そのため、非均一分布条件が満たされる場合、非均一分布条件が満たされない場合よりも、寄与度解析処理の実行に要する演算量が軽減される。
【0043】
<実験結果>
ここで、解析装置1の解析の精度を評価する実験(以下「評価実験」という。)の結果の一例を示す。評価実験では、解析装置1によって寄与度高さ条件を満たすと判定された解析対象領域の応力を下げる加工(以下「低減加工」という。)を行い、加工前と加工後との疲労解析対象部位の疲労対象方向の残留応力を測定する実験が行われた。評価実験における寄与度高さ条件は、寄与度の高さが最も高い、という条件であった。評価実験における寄与度は、具体的には、圧縮応力であった。評価実験において測定された残留応力は、X線により測定された表面の応力であった。
【0044】
図5は、実施形態における評価実験を説明する第1の説明図である。図5は、評価実験で用いられた成形品の斜視図を示す。図5のZ方向は車両の上方向である。図5は、評価実験で用いられた成形品は断面形状が非一様であることを示す。すなわち、図5は、評価実験で用いられた成形品は、疲労割れに影響する残留応力の特定が容易ではない部品であることを示す。評価実験で用いられた成形品の断面の非一様性は例えば次の図6が明瞭に示す。
【0045】
図6は、実施形態における評価実験を説明する第2の説明図である。図6は、図5の断面A-A´における断面を示す。図6は、断面A-A´の形状が二峰性の形状であることを示す。このように、評価実験で用いられた成形品は断面が非一様であるため、疲労割れに影響する残留応力の特定が容易ではない成形品の一例である。評価実験では、解析装置1がこのような成形品に対しても高い精度で疲労割れに影響する残留応力を特定可能であることが示された。このことを図7及び図8を用いてさらに詳しく説明する。
【0046】
図7は、実施形態における評価実験を説明する第3の説明図である。図7は領域D1を示す。領域D1は、評価実験で用いられた金属材料の解析対象領域のうち、解析装置1によって寄与度高さ条件を満たすと判定された解析対象領域である。断面A-A´は、領域D1の一部を含む断面である。
【0047】
図8は、実施形態における評価実験を説明する第4の説明図である。より具体的には、図8は評価実験における低減加工を説明する説明図である。評価実験における低減加工の対象は、寄与度高さ条件を満たすと判定された解析対象領域であった。評価実験における低減加工は、加工の対象の解析対象領域における凹部を前工程において浅く成形して、後工程で製品形状に成形する加工であった。なお、浅く成形するとは、大Rで成形することを意味する。より具体的には、評価実験における低減加工は、製品形状R5mmに対し前工程においてR15mmで成形して後工程において製品形状に成形する加工であった。後工程は、より具体的には、小Rに成形する加工であった。
【0048】
評価実験では、疲労解析対象部位の疲労対象方向の残留応力が低減加工により400MPaから200MPaに低減したという結果が、X線による成形品の表層の応力の測定により得られた。このように、評価実験は、解析装置1によって寄与度高さ条件を満たすと判定された解析対象領域に対する低減加工を行うことで、疲労解析対象部位の疲労対象方向の残留応力の低減が生じたことを示す。このように、評価実験によって、解析装置1は疲労割れに影響する残留応力の特定が可能であることが示された。
【0049】
図9は、実施形態の解析装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。解析装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ91とメモリ92とを備える制御部11を備え、プログラムを実行する。解析装置1は、プログラムの実行によって制御部11、入力部12、通信部13、記憶部14及び出力部15を備える装置として機能する。
【0050】
より具体的には、プロセッサ91が記憶部14に記憶されているプログラムを読み出し、読み出したプログラムをメモリ92に記憶させる。プロセッサ91が、メモリ92に記憶させたプログラムを実行することによって、解析装置1は、制御部11、入力部12、通信部13、記憶部14及び出力部15を備える装置として機能する。
【0051】
制御部11は、解析装置1が備える各種機能部の動作を制御する。制御部11は、例えば疲労解析対象部位情報取得処理を実行する。制御部11は、例えば下死点成形解析処理を実行する。制御部11は、例えば領域設定処理を実行する。制御部11は、例えば寄与度解析処理を実行する。制御部11は、例えば解析結果分析処理を実行する。
【0052】
制御部11は、例えば出力部15の動作を制御する。制御部11は、例えば疲労解析対象部位情報取得処理の実行により生じた各種情報を記憶部14に記録する。制御部11は、例えば下死点成形解析処理の実行により生じた各種情報を記憶部14に記録する。制御部11は、例えば領域設定処理の実行により生じた各種情報を記憶部14に記録する。制御部11は、例えば寄与度解析処理の実行により生じた各種情報を記憶部14に記録する。制御部11は、例えば解析結果分析処理の実行により生じた各種情報を記憶部14に記録する。
【0053】
入力部12は、マウスやキーボード、タッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部12は、これらの入力装置を解析装置1に接続するインタフェースとして構成されてもよい。入力部12は、解析装置1に対する各種情報の入力を受け付ける。入力部12には、例えば疲労解析対象部位情報が入力される。入力部12には、例えば、物性情報や、解析対象材料を成形する成形時の拘束条件が、入力される。
【0054】
なお、物性情報や、解析対象材料を成形する成形時の拘束条件は、通信部13を介して入力されてもよい。なお、物性情報と解析対象材料を成形する成形時の拘束条件とは、必ずしも入力部12又は通信部13を介して入力される必要は無く、予め記憶部14に記憶済みであってもよい。以下、説明の簡単のため、物性情報と、解析対象材料を成形する成形時の拘束条件とが予め記憶部14に記憶済みの場合を例に、解析装置1を説明する。
【0055】
通信部13は、解析装置1を外部装置に接続するための通信インタフェースを含んで構成される。通信部13は、有線又は無線を介して外部装置と通信する。外部装置は、例えば疲労解析対象部位情報の入力元の装置である。このような場合、通信部13は疲労解析対象部位情報の入力元の装置との通信により、疲労解析対象部位情報を取得する。
【0056】
記憶部14は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などのコンピュータ読み出し可能な記憶媒体装置を用いて構成される。記憶部14は解析装置1に関する各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば入力部12又は通信部13を介して入力された情報を記憶する。記憶部14は、例えば疲労解析対象部位情報取得処理の実行により生じた各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば下死点成形解析処理の実行により生じた各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば領域設定処理の実行により生じた各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば寄与度解析処理の実行により生じた各種情報を記憶する。記憶部14は、例えば解析結果分析処理の実行により生じた各種情報を記憶する。記憶部14は、予め寄与度高さ条件を記憶する。なお、記憶部14の記憶する寄与度高さ条件の内容は、入力部12又は通信部13を介してユーザが変更可能であってもよい。記憶部14は、例えば物性情報を記憶する。記憶部14は、解析対象材料を成形する成形時の拘束条件を記憶する。
【0057】
出力部15は、各種情報を出力する。出力部15は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイや液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置を含んで構成される。出力部15は、これらの表示装置を解析装置1に接続するインタフェースとして構成されてもよい。出力部15は、例えば入力部12に入力された情報を出力する。出力部15は、例えば疲労解析対象部位情報取得処理の実行結果を表示してもよい。疲労解析対象部位情報取得処理の実行結果は、例えば疲労解析対象部位情報である。出力部15は、例えば下死点成形解析処理の実行結果を表示してもよい。出力部15は、例えば領域設定処理の実行結果を表示してもよい。出力部15は、例えば寄与度解析処理の実行結果を表示してもよい。寄与度解析処理の実行結果は、例えば図4のグラフである。出力部15は、例えば解析結果分析処理の実行結果を表示してもよい。
【0058】
図10は、実施形態における制御部11の構成の一例を示す図である。制御部11は、疲労解析対象部位情報取得部110、下死点成形解析部120、領域設定部130、寄与度解析部140、解析結果分析部150、記憶制御部160、通信制御部170及び出力制御部180を備える。
【0059】
疲労解析対象部位情報取得部110は、疲労解析対象部位情報取得処理を実行する。下死点成形解析部120は、下死点成形解析処理を実行する。領域設定部130は、領域設定処理を実行する。寄与度解析部140は、寄与度解析処理を実行する。解析結果分析部150は、解析結果分析処理を実行する。
【0060】
記憶制御部160は、記憶部14に各種情報を記録する。通信制御部170は通信部13の動作を制御する。出力制御部180は、出力部15の動作を制御する。
【0061】
図11は、実施形態における解析装置1が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。疲労解析対象部位情報取得部110が、疲労解析対象部位情報取得処理を実行する。疲労解析対象部位情報取得処理の実行により、疲労解析対象部位情報取得部110は疲労解析対象部位情報を取得する(ステップS101)。次に、下死点成形解析部120が下死点成形解析処理を実行する。下死点成形解析処理の実行により、下死点成形解析部120が解析対象材料の下死点形状及び下死点応力分を得る(ステップS102)。
【0062】
次に領域設定部130が領域設定処理を実行する。領域設定処理の実行により、下死点成形解析処理により得られた形状が複数の解析対象領域に分割され、分割後の各解析対象領域を示す情報が記憶部14に記録される(ステップS103)。次に、寄与度解析部140が、寄与度解析処理を実行する。寄与度解析処理の実行により、寄与度解析部140は、解析対象領域の各領域について寄与度を得る(ステップS104)。次に、解析結果分析部150は、解析結果分析処理を実行する。解析結果分析処理の実行により、解析結果分析部150は、寄与度高さ条件を満たす解析対象領域を判定する(ステップS105)。なお、ステップS101の処理は、ステップS104の処理の実行前に実行されれば、どのようなタイミングで実行されてもよい。
【0063】
このように構成された解析装置1は、解析対象について解析対象の各部位のうち疲労割れの発生への影響が強い部位を得ることができる。そのため、解析装置1は、成形時の各部位での残留応力の影響を評価することができる。
【0064】
(変形例)
評価実験の説明で示したが、解析装置1の結果を用いた低減加工を行うことで、疲労割れの発生頻度の低下した成形品を成形することが可能である。低減加工の方法は、例えば段差潰し工法である。低減加工は、例えば曲げR変更工法であってもよい。低減加工の方法は、例えばコイニング法であってもよい。
【0065】
ここで、図12及び13を用いて低減加工の方法が段差潰し工法である場合における低減加工の一例(以下「第1の低減加工例」という。)を説明する。次に図14及び15を用いて低減加工の方法が曲げR変更工法である場合における低減加工の一例(以下「第2の低減加工例」という。)を説明する。
【0066】
図12は、変形例における第1の低減加工例を説明する第1の説明図である。図13は、変形例における第1の低減加工例を説明する第2の説明図である。図12における点P1は、疲労解析対象部位を示す。図12は、寄与度高さ条件を満たす解析対象領域を領域D2として示す。図12に示すように、領域D2は、解析対象の成形品の周縁部ではなく、内部に位置する。第1の低減加工例では、寄与度は平均的応力である。したがって、第1の低減加工例では、領域D2の平均的応力が疲労割れの原因である。なお、平均的応力は、面内方向の応力である。
【0067】
第1の低減加工例では、領域D2に対して低減加工が実行される。低減加工は図13に示すように、1工程目で段差を付与する加工が行われ、2工程目で段差を潰す加工が行われる。段差を潰すことで、圧縮応力が付与される。
【0068】
図14は、変形例における第2の低減加工例を説明する第1の説明図である。図15は、変形例における第2の低減加工例を説明する第2の説明図である。図14における点P1は、疲労解析対象部位を示す。図14は、寄与度高さ条件を満たす解析対象領域を領域D3として示す。図14に示すように、領域D3は、解析対象の金属材料の内部ではなく、周縁部に位置する。第2の低減加工例では、寄与度は偏差適応力である。したがって、第2の低減加工例では、領域D3の偏差的応力が疲労割れの原因である。なお、偏差的応力は、板厚方向の応力である。
【0069】
第2の低減加工例では、領域D3に対して低減加工が実行される。低減加工は図15に示すように、1工程目では小Rで成形する加工が行われ、2工程目では大Rに成形しなおす加工が行われる。要するに寄与度の高い部位において前工程と後工程で曲げRを変えて成形することで偏差的応力を変化させる加工を行うことで疲労解析対象部位の応力を低減させる。
【0070】
なお、低減加工では、設計された形状に対してビート等の凹凸を付与することで、疲労割れの発生頻度を低下させる加工が行われてもよい。図16は、変形例におけるビートを付与する加工の一例を説明する説明図である。図16は、低減加工の結果の一例として二峰性の形状を示す。このような加工を寄与度の高い部位に行うことで、寄与度の高い部位の応力を変化させて疲労解析対象部位の応力を低減させる。
【0071】
図17は、変形例におけるコイニング法を説明する説明図である。上述したように低減加工の方法は、コイニング法であってもよい。図17は、コイニング法を用いた低減加工の一例を示す図である。図17における領域D4は、寄与度高さ条件を満たす解析対象領域を示す。図17は、コイニング法により領域D4をコイングして表層の応力を変化させることを示す。コイニングにより領域D4は、板厚方向に圧縮される。その結果、領域D4では、引張応力から圧縮応力への変換が行われる。モーメントは表層の応力の影響が多きためコインニングによって寄与度の高い部位の表層の応力を変化させることで,疲労解析対象部位の応力を低減させることができる。なお、表層の応力は、一般に表面的応力と呼称される。表層の定義は、表面から100μm以下の領域、である。
【0072】
図18は、変形例における製造方法の一例を説明するフローチャートである。以下、図11に記載の処理と同様の処理については図11と同じ符号を付すことで説明を省略する。ステップS101~ステップS105の処理の実行の後、ステップS105の処理で得られた寄与度高さ条件を満たす解析対象領域、を加工の対象とする低減加工が実行される(ステップS106)。
【0073】
なお、寄与度解析処理では、平均的応力と偏差的応力とに分けて寄与度が得られてもよいし、平均的応力と偏差的応力と表面的応力とに分けて寄与度が得られてもよい。すなわち、寄与度解析処理では、平均的応力について寄与度が得られてもよいし、偏差的応力について寄与度が得られてもよいし、表面的応力について寄与度が得られてもよい。
【0074】
<平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係>
スプリングバックは、疲労割れに影響がある。そしてスプリングバックは主に平均的応力と偏差的応力とに影響される。そこで、平均的応力と偏差的応力とが疲労割れに及ぼす影響への理解を助けるため、平均的応力と偏差的応力とスプリングバックとの関係について図19図23を用いて、説明する。さらに、寄与度解析処理との関係についても説明する。
【0075】
図19は、変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第1の説明図である。図19は、下死点における平均的応力と偏差適応力との分布の一例を示す。
【0076】
図20は、変形例における平均的応力と偏差的応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第2の説明図である。図20は、面内の応力である平均的応力の分布によってスプリングバックが生じ、板がゆがんだりねじれたりする、ことを示す。なお板は解析装置1の解析対象の成形品である。
【0077】
図21は、変形例における平均的応力と偏差的応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第3の説明図である。平均的応力による疲労割れへの影響を解析する寄与度解析処理の実行の際は、板厚方向の応力については、板厚方向の応力の平均値が用いられる。
【0078】
図22は、変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第4の説明図である。図22は、板厚方向の応力である偏差適応力の分布によってスプリングバックが生じ、板が曲げられる、ことを示す。
【0079】
図23は、変形例における平均的応力と偏差適応力とスプリングバックと寄与度解析処理との関係を説明する第5の説明図である。板厚方向の応力分布による疲労割れへの影響を解析する寄与度解析処理の実行の際は、板厚方向の応力分布における最小値との差分のみを用いて寄与度が得られる。
【0080】
なお、表面的応力による疲労割れへの影響を解析する寄与度解析処理の実行の際は、表面的応力以外の応力が例えば零に設定された状態で寄与度が得られる。表面的応力による疲労割れへの影響を解析する寄与度解析処理の実行の際は、例えば、表面的応力に係数が乗算され、表面的応力が他の応力の大きさよりも値が大きい状態で、寄与度が得られてもよい。
【0081】
なお領域設定処理では、疲労解析対象部位を含む解析対象領域(以下「疲労領域」という。)の境界が疲労解析対象部位から等距離に略同一であるように、解析対象領域への分割が行われることが望ましい。すなわち、疲労領域の境界と疲労解析対象部位との間の距離は、疲労領域の境界の位置によらず略同一であることが望ましい。その理由を、図24を用いて説明する。
【0082】
図24は、変形例における領域設定処理を説明する説明図である。図24は、疲労領域の境界と疲労解析対象部位との距離(以下「疲労距離」という。)が等距離ではない領域設定処理の結果を示す。疲労距離が方向によらず等距離ではない場合、疲労領域に隣接する他の解析対象領域の寄与度は、分割の仕方に依存して変化してしまう可能性がある。例えば、疲労距離が均等であれば疲労領域に隣接する他の解析対象領域の寄与度は同一であるにも関わらず、疲労距離が均等ではないために、境界と疲労解析対象部位との距離が近い解析対象領域が寄与度は高い、といった現象が生じてしまう。
【0083】
なお金属材料を例に説明を行ったが、金属材料の事例として、鉄、アルミ、ステンレス、チタン及びマグネシウムがある。
【0084】
なお、解析装置1は、ネットワークを介してそれぞれ通信可能に接続された複数台の情報処理装置を用いて実装されてもよい。この場合、解析装置1が備える各機能部は、複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。
【0085】
なお、解析装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータが読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0086】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1…解析装置、 11…制御部、 12…入力部、 13…通信部、 14…記憶部、 15…出力部、 91…プロセッサ、 92…メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
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図28