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特開2023-93949インバータ制御装置、プログラム及びインバータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023093949
(43)【公開日】2023-07-05
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、プログラム及びインバータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230628BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 R
H02J3/38 180
H02J3/38 110
H02J3/38 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209102
(22)【出願日】2021-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀樹
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066HA11
5G066HA13
5G066HB06
5G066HB09
5G066JA02
5G066JB03
5H770BA11
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA07
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA03Z
5H770HA09Z
5H770LA05Z
5H770LA06Z
5H770LB05
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】電力系統に短絡や地絡等の事故が発生した場合であっても、電力系統に供給される電流を制御し、かつ単独系統になる直前に能動型単独運転検出機能を使用し、必要な時に定電力制御が行えるようにする。
【解決手段】インバータ制御装置は、電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である電流基準を作成する電流基準作成部と、系統事故が生じたことを検出する事故検出部と、系統事故から復帰したことを検出する復帰検出部と、系統事故が生じたことが検出された場合に、電流基準を系統事故が生じた時点より所定期間前における電力系統に供給された電流値に切り替え、系統事故から復帰したことが検出された場合に、電流基準を電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替部とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力から交流電力に変換する電力変換器を、所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置であって、
前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である前記電流基準を作成する電流基準作成部と、
前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する事故検出部と、
前記系統事故から復帰したことを検出する復帰検出部と、
前記系統事故が生じたことが検出された場合に、前記電流基準を、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値に切り替え、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電流基準を、前記電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替部と
を備えるインバータ制御装置。
【請求項2】
単独運転であるか否かを監視する単独運転監視部と、
単独運転であるか否かを判定する単独運転判定部とを更に備え、
前記単独運転監視部は、単独運転であるか否かを検出するための制御信号を生成する際に用いられる第2電流基準であって、特定周波数を有する前記第2電流基準を与え、
前記単独運転判定部は、特定周波数の高調波電圧の含有率の大きさから単独運転であるか否かを判定する
請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記電流基準作成部は、事故直前の電流値をサンプル・ホールドすることにより、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値を作成する
請求項1又は請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記事故検出部は、前記電力系統に印加される交流電圧波形と所定の基準波形とを比較し、差分が所定値以上であった場合に前記系統事故が生じたことを検出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記事故検出部は、前記電力系統に印加される交流電圧の実効値が所定値以下であった場合に前記系統事故が生じたことを検出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記事故検出部は、前記電力系統に供給される交流電流の絶対値の変化量が所定値以上であった場合に前記系統事故が生じたことを検出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
需要家設置用として用いられる場合、前記電力系統に一定電力の供給を行う制御である定電力制御を行う定電力制御部と、
前記定電力制御部が前記定電力制御を行うことを許可するAPR使用許可部とを更に備え、
前記APR使用許可部は、所定の制御信号に基づき疑似的に前記系統事故が生じたとする
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項8】
前記電流基準作成部は、事故直前の電流値をサンプル・ホールドした値に、所定の値を加算することにより、前記系統事故が生じた時点の前記電流基準を作成する
請求項7に記載のインバータ制御装置。
【請求項9】
前記事故検出部は、前記電力系統の零相電圧を所定時間以上連続して検出した場合に前記系統事故が生じたことを検出する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項10】
前記復帰検出部は、前記電力系統に印加される交流電圧の電圧動揺が所定値以内となった場合に前記系統事故から復帰したことを検出する
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項11】
前記復帰検出部は、前記電力系統に供給される交流電圧の周波数が所定の範囲を逸脱した場合、疑似的に前記系統事故から復帰したことを検出する
請求項7に記載のインバータ制御装置。
【請求項12】
需要家設置用として用いられる場合であって、前記事故検出部が前記系統事故を検出した場合、前記系統事故から復帰したことを検出する機能である能動型単独運転検出機能許可部を更に備える
請求項11に記載のインバータ制御装置。
【請求項13】
前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電圧基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される前記電力系統に印加される電圧値に基づいた値である前記電圧基準を補正する電圧補正部を更に備える
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項14】
直流電力から交流電力に変換する電力変換器を、所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置を制御するコンピュータに、
前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である前記電流基準を作成する電流基準作成ステップと、
前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する事故検出ステップと、
前記系統事故から復帰したことを検出する復帰検出ステップと、
前記系統事故が生じたことが検出された場合に、前記電流基準を、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値に切り替え、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電流基準を、前記電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替ステップと
を実行させるプログラム。
【請求項15】
直流電力から交流電力に変換する電力変換器を、所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置を制御するインバータ制御方法であって、
前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である前記電流基準を作成する電流基準作成工程と、
前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する事故検出工程と、
前記系統事故から復帰したことを検出する復帰検出工程と、
前記系統事故が生じたことが検出された場合に、前記電流基準を、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値に切り替え、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電流基準を、前記電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替工程と
を有するインバータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置、プログラム及びインバータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光発電等により発電された直流電力を交流電力に変換し、電力系統へ出力する技術において、インバータを仮想同期発電機として動作させることにより、同期発電機が有する慣性力を模擬する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-168351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような技術によれば、電力系統が短絡又は地絡した場合には、過電流又は過電圧となり、電力変換器が破損するという問題があった。また、同期発電機の特性を持つため能動型単独運転検出機能が使えない、定電力制御が行えないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、電力系統に短絡や地絡等の事故が発生した場合であっても、電力系統に供給される電流を好適に制御することができ、かつ単独系統になる直前に能動型単独運転検出機能を使用でき、必要な時に定電力制御が行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るインバータ制御装置は、直流電力から交流電力に変換する電力変換器を、所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置であって、前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である前記電流基準を作成する電流基準作成部と、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する事故検出部と、前記系統事故から復帰したことを検出する復帰検出部と、前記系統事故が生じたことが検出された場合に、前記電流基準を、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値に切り替え、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電流基準を、前記電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替部とを備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置は、単独運転であるか否かを監視する単独運転監視部と、単独運転であるか否かを判定する単独運転判定部とを更に備え、前記単独運転監視部は、単独運転であるか否かを検出するための制御信号を生成する際に用いられる第2電流基準であって、特定周波数を有する前記第2電流基準を与え、前記単独運転判定部は、特定周波数の高調波電圧の含有率の大きさから単独運転であるか否かを判定する。
【0008】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記電流基準作成部は、事故直前の電流値をサンプル・ホールドすることにより、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値を作成する。
【0009】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記事故検出部は、前記電力系統に印加される交流電圧波形と所定の基準波形とを比較し、差分が所定値以上であった場合に前記系統事故が生じたことを検出する。
【0010】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記事故検出部は、前記電力系統に印加される交流電圧の実効値が所定値以下であった場合に前記系統事故が生じたことを検出する。
【0011】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記事故検出部は、前記電力系統に供給される交流電流の絶対値の変化量が所定値以上であった場合に前記系統事故が生じたことを検出する。
【0012】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置は、需要家設置用として用いられる場合、前記電力系統に一定電力の供給を行う制御である定電力制御を行う定電力制御部と、前記定電力制御部が前記定電力制御を行うことを許可するAPR使用許可部とを更に備え、前記APR使用許可部は、所定の制御信号に基づき疑似的に前記系統事故が生じたとする。
【0013】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記電流基準作成部は、事故直前の電流値をサンプル・ホールドした値に、所定の値を加算することにより、前記系統事故が生じた時点の前記電流基準を作成する。
【0014】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記事故検出部は、前記電力系統の零相電圧を所定時間以上連続して検出した場合に前記系統事故が生じたことを検出する。
【0015】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記復帰検出部は、前記電力系統に印加される交流電圧の電圧動揺が所定値以内となった場合に前記系統事故から復帰したことを検出する。
【0016】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記復帰検出部は、前記電力系統に供給される交流電圧の周波数が所定の範囲を逸脱した場合、疑似的に前記系統事故から復帰したことを検出する。
【0017】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置は、需要家設置用として用いられる場合であって、前記事故検出部が前記系統事故を検出した場合、前記系統事故から復帰したことを検出する機能である能動型単独運転検出機能許可部を更に備える。
【0018】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御装置において、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電圧基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される前記電力系統に印加される電圧値に基づいた値である前記電圧基準を補正する電圧補正部を更に備える。
【0019】
また、本発明の一態様に係るプログラムは、直流電力から交流電力に変換する電力変換器を、所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置を制御するコンピュータに、前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である前記電流基準を作成する電流基準作成ステップと、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する事故検出ステップと、前記系統事故から復帰したことを検出する復帰検出ステップと、前記系統事故が生じたことが検出された場合に、前記電流基準を、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値に切り替え、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電流基準を、前記電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替ステップとを実行させる。
【0020】
また、本発明の一態様に係るインバータ制御方法は、直流電力から交流電力に変換する電力変換器を、所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置を制御するインバータ制御方法であって、前記電力変換器を制御するための制御信号を生成する際に用いられる電流基準であって、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に流れる電流値に基づいた値である前記電流基準を作成する電流基準作成工程と、前記電力変換器により変換された交流電力が供給される電力系統に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する事故検出工程と、前記系統事故から復帰したことを検出する復帰検出工程と、前記系統事故が生じたことが検出された場合に、前記電流基準を、前記系統事故が生じた時点より所定期間前における前記電力系統に供給された電流値に切り替え、前記系統事故から復帰したことが検出された場合に、前記電流基準を、前記電力系統に流れる電流値に切り替える電流基準切替工程とを有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電力系統に短絡や地絡等の事故が発生した場合であっても、電力系統に供給される電流を好適に制御することができ、また能動型単独運転検出機能を使用して単独運転を防止し、一定電力運転を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る電力制御システムの概要について説明するための図である。
図2】本実施形態に係るインバータ制御装置の機能構成の一例を示す機能構成図である。
図3】本実施形態に係る電力制御システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】本実施形態に係る単独運転判定部の機能を説明するための図である。
図5】本実施形態に係る電流基準作成部、事故検出部、復帰検出部及び電流基準切替部の一例を示すブロック図である。
図6】従来技術による電力変換システムの等価回路を示す図である。
図7】従来技術による仮想同期発電機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[従来技術]
まず、図6及び図7を参照しながら従来技術について説明する。
従来、火力発電や水力発電等の回転機器による同期発電機が知られている。これらの同期発電機により発生する電圧の周波数は急激な変化が想定されないことから、同期発電機が電力を供給する電力系統において電力使用量が急激に増大した場合や、地絡や短絡等の事故が発生した場合等においても、慣性力により急激な変化に対応することができる。
【0024】
一方、同期発電機を用いない電源として、太陽光発電等の再生可能エネルギーを直流電力に変換する再生可能エネルギー電源が導入されている。再生可能エネルギー電源の場合、インバータを使用して直流電力を交流電力に変換してから電力系統に供給される。このような再生可能エネルギー電源は、電力系統において電力使用量が急激に増大した場合や、地絡や短絡等の事故が発生したりした場合等においては、急激な変化に対応することが困難である。
【0025】
通常の電力系統には、同期発電機により発電された電力と、再生可能エネルギーにより交流電力に変換された電力とが混在して供給されている。同期発電機により発電された電力の割合が多い電力系統の場合、当該電力系統における使用量が急激に増大した場合や、地絡や短絡等の事故が発生したりした場合等においても、慣性力により急激な変化に対応することができる。
【0026】
しかしながら、近年の再生可能エネルギーの導入量増大に伴い、電力系統に接続される再生可能エネルギーの割合が多くなると、電力系統において使用量が急激に増大した場合や、地絡や短絡等の事故が発生したりした場合等においては、急激な変化に対応することが困難となる場合がある。
【0027】
そこで、再生可能エネルギー電源に付帯しているインバータに、同期発電機が有する慣性力を擬似的に持たせる技術である仮想同期発電機(VSG;Virtual Synchronous Generator)についての研究開発が行われている。仮想同期発電機は、電力系統に供給される電力に基づき、直流を交流に変換する電力変換器を制御することにより、同期発電機を模擬する。
【0028】
図6は、従来技術による電力変換システムの等価回路を示す図である。従来技術による仮想同期発電機の説明の前提として、同図を参照しながら、従来技術による電力変換システム9の等価回路について説明する。
電力変換システム9は、内部誘起電圧91と、インピーダンス92と、系統93とを備える。
【0029】
ここで、一般的な同期発電機は、界磁回路に電流を流すことにより磁束を発生させ、回転子が回転することにより電機子巻線に電圧を発生させる。内部誘起電圧91は、回転によって発電される電圧を表すものである。
インピーダンス92は、発電機のインピーダンスを表す。
系統93は、電力が供給される電力系統を表す。系統93には、複数の需要家が接続される。
【0030】
内部誘起電圧91には、系統93に流れる電流Irefと発電機のインピーダンス92とに応じた電圧降下が生じる。換言すれば、内部誘起電圧91からインピーダンス92による電圧降下分を差し引いた電圧が、端子電圧VSとして系統93に供給される。
【0031】
図7は、従来技術による仮想同期発電機の一例を示す図である。同図を参照しながら、従来技術による仮想同期発電機の一例について説明する。
電力変換システム9Aは、蓄電池94と、電力変換器95と、系統93と、電圧型仮想同期発電機制御装置90Aとを備える。蓄電池94は、直流電圧源の一例である。電力変換器95は、発生すべき(又は、発生させたい)交流電圧信号通りに動作させる電圧型電力変換器(VSC:Voltage Source Converter)の一例である。電力変換システム9Aは、系統93において使用量が急激に増大した場合や、地絡や短絡等の事故が発生したりした場合、すなわち系統93のエネルギーバランスが崩れた場合に、エネルギーバランスの崩れを模擬するものである。
【0032】
電力変換システム9Aは、蓄電池94に蓄電された直流電力を、電力変換器95により交流に変換し、系統93に供給する。電力変換器95は、電圧型仮想同期発電機制御装置90Aにより制御される。
電力変換器95は半導体を備え、当該半導体をスイッチングさせることにより直流電力を交流電力に変換する。当該半導体の制御信号は、電圧型仮想同期発電機制御装置90Aにより生成される。
【0033】
電圧型仮想同期発電機制御装置90Aは、系統93の端子電圧である系統電圧と、電力変換器95により供給される交流電流とに基づいて、電力変換器95のスイッチングを制御する制御信号であるゲートパルスを生成する。
ゲートパルスは、ゲート電圧生成部911により生成される。ゲート電圧生成部911は、電圧型仮想同期発電機制御装置90Aにより生成された端子電圧相当の電圧に基づいて生成される。端子電圧相当の電圧は、符号912において、内部誘起電圧相当の電圧から、電圧降下相当の電圧を減じることにより生成される。
【0034】
電圧降下相当の電圧とは、交流電流(実際の出力電流に)発電機相当のインピーダンスを乗じることにより生成される。
【0035】
電圧型仮想同期発電機制御装置90Aは、内部誘起電圧相当の電圧を生成するため、電圧波高値Vmと角速度ωtとをそれぞれ生成する。
ここで、通常の回転機器による同期発電機も、端子電圧を監視し、端子電圧が一定になるように界磁の電流を制御し、内部の誘起電圧を制御している。電圧型仮想同期発電機制御装置90Aは、系統電圧VSと系統電圧基準の偏差を制御することにより、電圧波高値Vmを制御するものである。
【0036】
次に角速度ωtの生成について説明する。まず、出力基準とは、タービンの出力を模擬したものである。また、有効電力検出とは、系統93に供給される電力を示す。符号915において、出力基準から有効電力検出が減じられる。
符号916において、符号915において生成された値を慣性定数Mで除しsで積分した値(すなわち、Δω)と、基準の角速度ω0とを加算することにより実際の角速度を得る。電圧型仮想同期発電機制御装置90Aは、得られた実際の角速度を更にsで積分することにより、角速度ωtを生成する。
ここで、通常の回転機器による同期発電機では、タービンから出力されたエネルギーと、発電機から系統に向かうエネルギーとの差が速度の偏差となる。角速度ωtの生成は、当該動作を模擬したものである。
【0037】
ここで、仮想同期発電機を島しょ部での電源として使うことを考えると、ディーゼル発電機等と並列したり、ディーゼル発電機等を解列して再生可能エネルギー電源のみを電力系統に接続したりする場合があるため、電圧型仮想同期発電機制御装置90Aの方が扱いやすい。
以下に説明する実施形態においては、上述した電圧型仮想同期発電機制御装置90Aを前提とする。
【0038】
ここで、電圧型仮想同期発電機制御装置90Aは、電力系統において電力使用量が急激に増大した場合や、地絡や短絡等の事故が発生したりした場合(以下、単に事故発生時と記載する。)等において、過電流が生じるという欠点がある。本実施形態は、事故発生時における過電流の発生を抑止し、また需要家設置用の場合には単独運転検出機能を動作させることを可能とし、かつ定電力制御を可能にするという課題を解決しようとするものである。
【0039】
[実施形態]
図1は、本実施形態に係る電力制御システムの概要について説明するための図である。同図を参照しながら、電力制御システム1の概要について説明する。
電力制御システム1は、蓄電池20と、電力変換器30と、電力系統40と、インバータ制御装置10とを備える。
【0040】
蓄電池20は、直流電源の一例である。蓄電池20は、不図示の太陽光発電装置等の再生可能エネルギー発電装置により発電された直流電力DCPを蓄電する。蓄電池20は、蓄電した直流電力DCPを電力系統40に放電する。
【0041】
電力変換器30は、蓄電池20が蓄電する直流電力DCPを、交流電力ACPに変換する。電力変換器30は、例えば半導体を備え、インバータ制御装置10の制御に基づいて、当該半導体をスイッチングさせることにより、直流電力DCPを交流電力ACPに変換する。電力変換器30は、変換した交流電力ACPを電力系統40に供給する。
【0042】
電力系統40には、電力変換器30により変換された交流電力ACPが供給される。電力系統40には、複数の需要家が接続される。また、電力系統40には、ディーゼル発電機等の蓄電池20とは異なる電源が接続されていてもよい。
【0043】
インバータ制御装置10は、電力系統40における使用量の急激な増大に伴う過電流や、電力系統40における短絡や地絡といった系統異常を検出する。また、インバータ制御装置10は、電力系統40において系統異常が発生した後、電力系統40が系統異常から復帰したことを検出する。電力系統40における過電流又は短絡や地絡といった系統異常に関する情報、及び系統異常から復帰したことを示す情報等を含む電気信号を検出信号DSと記載する。インバータ制御装置10は、検出信号DSに基づいて、電力変換器30を制御する。インバータ制御装置10が電力変換器30を制御する信号を制御信号CSと記載する。制御信号CSには、電力変換器30が備える半導体をスイッチングさせるパルス信号が含まれていてもよい。
【0044】
図2は、本実施形態に係るインバータ制御装置の機能構成の一例を示す機能構成図である。同図を参照しながら、インバータ制御装置10の機能構成の一例について説明する。インバータ制御装置10は、事故検出部110と、復帰検出部140と、切替制御部150と、電流基準作成部120と、電流基準切替部130とを備える。
インバータ制御装置10は、直流電力DCPから交流電力ACPに変換する電力変換器30を、電力系統40に印加されるべき所望の交流電圧信号に応じて制御する電圧型のインバータ制御装置である。
【0045】
インバータ制御装置10が有する機能の少なくとも一部は、ハードウェアがソフトウェアプログラムを実行することにより実現されてもよい。ここで言うハードウェアは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等であってもよい。また、上述したプログラムは、記憶媒体を備える記憶装置に格納されている。ここで言う記憶媒体は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)等であってもよい。さらに、上述したプログラムは、インバータ制御装置10が有する機能の一部を実現する差分プログラムであってもよい。
【0046】
事故検出部110は、電力変換器30により変換された交流電力ACPが供給される電力系統40に、短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する。事故検出部110は、例えば、基準電圧波形を生成し、電力系統40に印加される系統電圧波形と基準電圧波形とを比較した結果に基づいて、系統事故が生じたことを検出してもよい。事故検出部110は、系統事故が生じたか否かを含む情報を事故検出情報ADIとして切替制御部150に出力する。
【0047】
復帰検出部140は、電力系統40が系統事故から復帰したことを検出する。事故検出部110は、例えば、電力系統40に印加される系統電圧波形の電圧動揺に基づいて、電力系統40が系統事故から復帰したことを検出してもよい。復帰検出部140は、系統事故から復帰したか否かを含む情報を復帰検出情報RDIとして切替制御部150に出力する。
【0048】
切替制御部150は、事故検出部110から事故検出情報ADIを取得し、復帰検出部140から復帰検出情報RDIを取得する。切替制御部150は取得した事故検出情報ADI又は復帰検出情報RDIの少なくとも一方に基づいて、電流基準切替部130を制御する。電流基準切替部130を制御する制御信号を、切替情報SWIと記載する。切替制御部150は、切替情報SWIを電流基準切替部130に出力する。
【0049】
電流基準作成部120は、電力変換器30を制御するための制御信号CSを生成する際に用いられる電流基準Irefを作成する。電流基準Irefとは、電力変換器30により変換された交流電力ACPが供給される電力系統40に流れる電流値に基づいた値である。
具体的には、電流基準作成部120は、電力系統40に流れる電流値を示す情報であるd軸電流Id(d軸電流基準Idref11)と、q軸電流Iq(q軸電流基準Iqref11)と、電力系統40に系統事故が生じた時点より所定期間前において電力系統40に供給された電流値を示す情報であるd軸電流基準Idref12と、q軸電流基準Idref12とを電流基準切替部130に出力する。
【0050】
例えば、電流基準作成部120は、事故直前に電力系統40に流れる電流値をサンプル・ホールドすることにより、事故直前において電力系統40に供給された電流値であるd軸電流基準Idref12と、q軸電流基準Iqref12を作成する。事故直前とは、系統事故が生じた時点より所定期間前であってもよい。
【0051】
電流基準切替部130は、切替情報SWIに応じて、d軸電流基準Idref1を、d軸電流基準Idref11又はq軸電流基準Iqref12のいずれか一方に切り替える。また、電流基準切替部130は、切替情報SWIに応じて、q軸電流基準Iqref1を、q軸電流基準Iqref11又はq軸電流基準Iqref12のいずれか一方に切り替える。
具体的には、電流基準切替部130は、系統事故が生じたことが検出された場合に、電流基準Iref(d軸電流基準Idref1、q軸電流基準Iqref1)を、系統事故が生じた時点より所定期間前において電力系統40に供給された電流値に切り替える。また、電流基準切替部130は、系統事故から復帰したことが検出された場合に、電流基準Iref(d軸電流基準Idref1、q軸電流基準Iqref1)を、電力系統40に流れる電流値に切り替える。
【0052】
図3は、本実施形態に係る電力制御システムの機能構成の一例を示すブロック図である。同図を参照しながら、電力制御システム1の詳細について説明する。電力制御システム1は、インバータ制御装置10と、直流電源51と、電力変換器52と、変流器53と、変圧器54と、系統電圧取得部55とを備える。
直流電源51は、図1を参照しながら説明した蓄電池20の一例である。電力変換器52は、図1を参照しながら説明した電力変換器30の一例である。電力変換器52は、変圧器54を介して電力系統40に電力を供給する。
【0053】
インバータ制御装置10は、電流基準作成・切替部62と、系統事故検出部64と、能動型単独運転検出機能許可部68と、単独運転監視部69と、電圧補正部71とを備える。
【0054】
電流基準作成・切替部62は、変流器53から取得した電流Ia、電流Ib及び電流Icに基づいて、電流基準Idref1及び電流基準Iqref1を作成する。電流基準作成・切替部62は、切替情報SWIに応じて、d軸電流基準Idref1を電流基準Idref11又は電流基準Idref12のいずれか一方に、q軸電流Iqref1を電流基準Iqref11又は電流基準Iqref12のいずれか一方に切り替える。すなわち、電流基準作成・切替部62は、図2を参照しながら説明した電流基準作成部120及び電流基準切替部130の機能を有する。
【0055】
系統事故検出部64は、所定の方法により、電力系統40に短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出する。すなわち、系統事故検出部64は、図2を参照しながら説明した事故検出部110の具体例である。
【0056】
能動型単独運転検出機能許可部68は、インバータ制御装置10が需要家設置用として用いられる場合であって、事故検出部110が系統事故を検出した場合、系統事故から復帰したことを検出する機能である。能動型単独運転検出機能許可部68は、インバータ制御装置10が需要家等において使用される場合にオンされる。能動型単独運転検出機能許可部68がオンされることにより、事故検出した場合に能動型単独運転検出機能が使用できるようになる。
【0057】
単独運転監視部69は、単独運転であるか否かを監視する。単独運転監視部69は、需要家設置において単独運転検出が必要な場合であって、常時監視する機能である。単独運転検出機能と、常時監視機能とは、両方使用されてもよいし、片方だけ使用されてもよい。単独運転監視部69は、ある特定の周波数の電流基準値を与え、電流を制御する。ある特定の周波数の電流基準値を与え、電流を制御することによって、ある特定の周波数の電圧が商用周波数に重畳される。ここで、系統連系時と単独運転時では、現れる電圧が異なる。単独運転監視部69は、系統連系時と単独運転時では現れる電圧が異なるという特性を利用して、単独運転を検出する。
【0058】
単独運転監視部69には、例えば周波数f1、周波数f2、…、周波数fn(nは1以上の自然数)が与えられる。より具体的には、周波数f1を有する電流基準信号として、0.01×sin(2πf1・t)が与えられ、周波数f2を有する電流基準信号として、0.01×sin(2πf2・t)が与えられ、…、周波数fnを有する電流基準信号として、0.01×sin(2πfn・t)が与えられる。これらの信号によって、電力系統40に、(f1±f0)、(f2±f0)、(fn±f0)周波数の電流が供給され、系統インピーダンスZにより、i(f1±f0)Z、i(f2±f0)Z、i(fn±f0)Zなる電圧が現れる(f0は商用周波数であり、例えば50Hz又は60Hz)。系統連系時の系統インピーダンスZと単独系統時の系統インピーダンスZは互いに異なるため、インバータ制御装置10は、iZの変化により単独運転を検出することができる。
なお、周波数fnを有する電流基準信号を第2電流基準とも記載する。第2電流基準は、単独運転であるか否かを検出するための制御信号を生成する際に用いられる。
【0059】
なお、需要家等においてインバータ制御装置10が使用される場合には、能動型単独運転検出機能許可部68をオンし、常時、周波数f1、周波数f2、…、周波数fnの周波数を有する電流基準信号が入力されていてもよい。
なお、入力される電流基準信号は1つでもよいし、複数であってもよい。
また、図3に示した係数0.01は一例であって、異なる値を用いてもよい。
周波数f1、周波数f2、…、周波数fnは、例えば80[Hz]、130[Hz]、180[Hz]等であってもよい。
【0060】
ここで、インバータ制御装置10は、更に単独運転判定部691を備える。単独運転判定部691は、単独運転であるか否かを判定する。単独運転判定部691について、図面を参照しながら説明する。
図4は、本実施形態に係る単独運転判定部の機能を説明するための図である。
単独運転判定部691では、FFT(FFT:Fast Fourier Transform)、又は帯域通過フィルタにより交流電圧に含有される(f1±f0)、(f2±f0)、(fn±f0)周波数の高調波電圧の含有率(商用周波数成分に対する特定高調波成分の比)を検出する。単独運転判定部691は、検出した値が所定値以上であれば単独運転と判定する機能を有する。所定値以上とは、好適には0.05以上であってもよい。
単独運転判定部691は、検出した値が、一定時間以上継続している場合、単独運転と判定して電力変換器52を停止する。
なお、図4では、(f1-f0)、(f2-f0)、(fn-f0)周波数を検出する例を図示しているが、(f1+f0)、(f2+f0)、(fn+f0)周波数を検出する方法であってもよい。または両方を検出する方法であってもよい。(f1-f0)、(f2-f0)、(fn-f0)、(f1+f0)、(f2+f0)、(fn+f0)を特定周波数とも記載する。
【0061】
電圧補正部71は、復帰検出部140により系統事故から復帰したことが検出された場合に、電圧基準Vrefを補正する。電圧基準Vrefとは、電力変換器30を制御するための制御信号CSを生成する際に用いられる基準値であって、電力変換器30により変換された交流電力ACPが供給される電力系統40に印加される電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcに基づいた値である。
【0062】
図5は、本実施形態に係る電流基準作成部、事故検出部、復帰検出部及び電流基準切替部の一例を示すブロック図である。電流基準作成・切替部62(電流基準作成部120及び電流基準切替部130)、系統事故検出部64(事故検出部110)及び電圧補正部71の具体例について説明する。
【0063】
まず、事故検出部110の具体例について説明する。事故検出部110は、第1事故検出部111、第2事故検出部112、第3事故検出部113、第4事故検出部114及び第5事故検出部115の少なくとも1つを備える。事故検出部110は、第1事故検出部111から第5事故検出部115のうち複数を備える場合、それぞれの事故検出部の出力をOR回路で接続してもよい。
【0064】
第1事故検出部111は、電力系統40に印加される交流電圧である電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcと、基準波形とを比較する。電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcは、系統電圧取得部55により取得される。基準波形とは、例えば、下の式(1)に示される波形であってもよい。
【0065】
【数1】
【0066】
第1事故検出部111は、系統電圧と基準波形とを比較した結果が所定値以上であった場合、系統事故が生じたことを検出する。すなわち、第1事故検出部111は、電力系統40に印加される交流電圧波形と所定の基準波形とを比較し、差分が所定値以上であった場合に系統事故が生じたことを検出する。所定値以上とは、例えば0.5PU以上であってもよい。
【0067】
第2事故検出部112は、電力系統40の零相電圧を検出する。第2事故検出部112は、検出された電力系統40の零相電圧に基づいて、系統事故が生じたことを検出する。第2事故検出部112は、例えば、電力系統40の零相電圧を所定時間以上連続して検出した場合に系統事故が生じたことを検出する。所定時間以上とは、例えば100[ms(ミリ秒)]以上であってもよい。
【0068】
第3事故検出部113は、電力系統40に供給される電流である電流Ia、電流Ib及び電流Icの絶対値の変化量に基づいて、系統事故が生じたことを検出する。第3事故検出部113は、例えば、電流Ia、電流Ib及び電流Icの絶対値の変化量のうち、いずれかが所定値以上であった場合に系統事故が生じたことを検出する。所定値以上とは、例えば1[A/μs(アンペア/マイクロ秒)]以上であってもよい。
【0069】
第4事故検出部114は、電力系統40に印加される交流電圧である電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcの実効値Vrmsに基づいて、系統事故が生じたことを検出する。第4事故検出部114は、例えば、電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcの実効値Vrmsが所定値以下であった場合に系統事故が生じたことを検出する。具体的には、第4事故検出部114は、電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcに基づいて三相二相変換を行い、電圧Vd及び電圧Vqの実効値Vrmsが所定値以下であった場合に系統事故が生じたことを検出する。所定値以下とは、例えば0.5PU以下であってもよい。
【0070】
第5事故検出部115は、所定の制御信号に基づき、疑似的に系統事故が生じたとする。この場合、第5事故検出部115は、不図示の制御装置からの信号または設定信号により疑似的に系統事故が生じたとする。需要家設置用と使用する場合などにおいて一定電力で運転する場合に疑似的に系統事故とすることで定電力制御を可能とする。
なお、第5事故検出部115を、APR使用許可部とも記載する。APR使用許可部は、不図示の定電力制御部(又は、APR制御部)が定電力制御を行うことを許可する。定電力制御とは、インバータ制御装置10が需要家設置用として用いられる場合、電力系統40に一定電力の供給を行う制御である。
【0071】
次に、復帰検出部140の具体例について説明する。復帰検出部140は、第1復帰検出部141及び第2復帰検出部142の少なくとも1つを備える。復帰検出部140は、第1復帰検出部141及び第2復帰検出部142の両方を備える場合、それぞれの復帰検出部の出力をOR回路で接続してもよい。
【0072】
第1復帰検出部141は、電力系統40に印加される交流電圧である電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcの実効値Vrmsに基づいて、系統事故から復帰したことを検出する。第1復帰検出部141は、例えば、電圧Va、電圧Vb及び電圧Vcの実効値Vrmsの電圧動揺が所定値以内となった場合に系統事故から復帰したことを検出する。所定値以内とは、2%以内、又は1.15PU以内であってもよい。
【0073】
第2復帰検出部142は、電力系統40に供給される交流電圧の周波数fに基づいて、電流制御時の系統の状態の異常を検出する。具体的には、交流電圧の周波数fを時間微分した結果が、所定の範囲を逸脱した場合、疑似的に系統事故から復帰したことを検出する。所定の範囲とは、+10以上、又は-10以下であってもよい。
【0074】
次に、電流基準作成・切替部62の具体例について説明する。電流基準作成・切替部62は、電流基準作成部120と、電流基準切替部130とを備える。
【0075】
電流基準作成部120は、現在より所定期間前の電流値をサンプル・ホールドする。所定期間前とは、例えば現在より5[ms]前であってもよい。電流基準作成部120は、例えば、現在より5[ms]前の電流値をサンプル・ホールドすることにより、事故直前の電流値を電流基準Irefとする。
なお、電流基準作成部120は、事故直前の電流値をサンプル・ホールドした値をNx倍したり、所定の値を加算したりすることにより、系統事故が生じた時点の電流基準Irefを作成してもよい。所定の値とは、0.5PUであってもよい。
【0076】
電流基準切替部130は、切替情報SWIに基づいて、電流基準Irefを、現在の電流値、又は事故直前の電流値のいずれか一方に切り替える。
【0077】
なお、電力系統40に流れる電流Ia、電流Ib及び電流Icに基づいて三相二相変換を行い、電流基準作成部120及び電流基準切替部130を、電流Id及び電流Iqそれぞれについて備える構成としてもよい。
【0078】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、本実施形態に係るインバータ制御装置10は、電流基準作成部120を備えることにより電流基準Irefを作成し、事故検出部110を備えることにより電力系統40に短絡又は地絡のうち少なくともいずれか一方の系統事故が生じたことを検出し、復帰検出部140を備えることにより系統事故から復帰したことを検出し、電流基準切替部130を備えることにより系統事故の有無に応じて、電流基準Irefを切り替える。具体的には、インバータ制御装置10は、電流基準切替部130を備えることにより、系統事故が生じたことが検出された場合に、電流基準Irefを系統事故が生じた時点より所定期間前における電流値に切り替え、系統事故から復帰したことが検出された場合に、電流基準Irefを元の基準に戻す。
よって、本実施形態によれば、電力系統40において系統事故が発生した場合においても、過電流を抑止することができ、電力制御システム1を安定的に運転させることができる。また、本実施形態によれば、電力系統40において系統事故が発生した場合において、過電流を抑止することに加えて、系統事故が復帰するまでの間における電力系統40に供給する電流を制御することができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、電流基準作成部120は、事故直前の電流値をサンプル・ホールドすることにより、系統事故が生じた時点より所定期間前における電流値を作成する。したがって、本実施形態によれば、電力系統40において系統事故が発生した場合においても、系統事故が復帰するまでの間における電力系統40に供給する電流を、容易に制御することができる。
【0080】
ここで、電力制御システム1を配電線等に接続される需要家等に適用する場合において、配電線が事故等によって解列され、単独系統となった場合には、電力制御システム1のインバータ制御装置10は、単独運転を検出して速やかに停止できる機能を具備することが好適である。
本実施形態によれば、事故検出部110は、電力系統40に印加される交流電圧波形と所定の基準波形とを比較し、差分が所定値以上であった場合に系統事故が生じたことを検出する。すなわち、事故検出部110は、単独系統になる僅かな擾乱に基づいて、系統事故が生じたことを検出する。したがって、本実施形態によれば、配電線で事故を検出し単独運転に移行する前に能動型単独運転検出機能を使用することができる。よって、本実施形態によれば、仮想同期発電機の特徴を活かしながら、単独運転状態になる前に、能動型単独運転検出機能を使用することができる。また、単独運転状態が発生していれば、異常電圧または異常周波数の検出によって単独運転状態を検出して高速に解列することができる。
なお、本実施形態によれば、系統事故検出後の電流基準Irefは、切り替え直前の値である。したがって、単独系統でないにもかかわらず誤検出してしまったような場合であっても、系統電圧値は低下しない。よって、本実施形態によれば、短時間で系統事故検出前の状態に戻すことができ、実質的な影響を抑止することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、事故検出部110は、電力系統40に印加される交流電圧の実効値が所定値以下であった場合に系統事故が生じたことを検出する。すなわち、事故検出部110は、単独系統になる僅かな擾乱に基づいて、系統事故が生じたことを検出する。
【0082】
ここで、単独系統において変圧器など突入電流の大きな負荷が並列される場合、過電流が生じるおそれがある。突入電流により生じる過電流の場合、短絡事故時とは異なり、交流電圧の低下が小さい場合がある。
【0083】
本実施形態によれば、事故検出部110は、電力系統40に供給される交流電流の絶対値の変化量が所定値以上であった場合に系統事故が生じたことを検出する。すなわち、事故検出部110は、単独系統になる僅かな擾乱に基づいて、系統事故が生じたことを検出する。
【0084】
ここで、電力制御システム1は、電力系統40の周波数変動に応じて有効電力出力が変化する。運動方程式により電力変換器30の発生電圧位相が決まるため、系統電圧位相の変化に対しては同期化力が働き電力系統の慣性力増大が期待される。したがって、島しょ部等において再エネ導入量を高めてディーゼル発電機の稼働を抑制する場合がある。このような場合には、蓄電池20の周波数変動抑制機能に期待が高まる。
蓄電池の充電末近傍においては定電力で充電した方が好適である。充電電力に変動があると理想的な充電末を迎える前に充電終止電圧を検出して充電を停止するなどの状況も考えられる。このような状況が繰り返されると蓄電池容量を十分に使えなくなる。また、蓄電池容量が目減りする。
したがって、複数台のインバータ制御装置10が並列運転している場合には、期待する周波数制御に影響の無い台数のインバータ制御装置10については、充放電末近傍で定電力運転ができるようにすることが望ましい。
【0085】
本実施形態によれば、系統事故検出と並列して単独運転情報(APR使用許可信号)を与えることにより、疑似的に系統事故が生じたとする。
なお、本実施形態によれば、電力基準値はステップ状に変化するため、電力系統40への影響を極小化するため電力変化率リミッタを通して変化を緩やかにしてもよい。
【0086】
また、本実施形態によれば、電流基準作成部120は、系統事故直前の電流値をサンプル・ホールドした値をNx倍したり、所定の値を加算したりすることにより、系統事故が生じた時点の電流基準Irefを作成する。したがって、本実施形態によれば、電流基準Irefを切り替える際、電流値を緩やかに切り替えることができるため、急激な電流の変化を抑止することができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、事故検出部110は、電力系統40の零相電圧を所定時間以上連続して検出した場合に系統事故が生じたことを検出する。したがって、本実施形態によれば、容易に系統事故が生じたことを検出することができる。
【0088】
また、本実施形態によれば、復帰検出部140は、電力系統40に印加される交流電圧の電圧動揺が所定値以内となった場合に、系統事故から復帰したことを検出する。すなわち、本実施形態によれば、系統事故から復帰した場合には、現在、電力系統40に流れる電流値を基準Irefとして、仮想同期発電機として動作させることができる。
【0089】
また、本実施形態によれば、復帰検出部140は、電力系統40に供給される交流電圧の周波数が所定の範囲を逸脱した場合、疑似的に系統事故から復帰したことを検出する。したがって、本実施形態によれば、容易に系統事故から復帰したことを検出することができる。
【0090】
ここで、ディーゼル発電機が発電し、同一母線に接続する仮想同期発電機が並列運転している場合、電力系統に短絡事故が発生すると、発電中のディーゼル発電機は加速し(換言すれば、回転子角速度が上昇し)、充電中の仮想同期発電機は減速する。すなわち、事故除去後、二つの電圧源の位相が開いてしまい、大きな横流が流れ、安定運転を損ねる恐れがある。
【0091】
本実施形態によれば、電圧補正部71を備えることにより、系統事故から復帰したことが検出された場合に、電圧基準Vrefを補正する。したがって、本実施形態によれば、電圧基準値を滑らかに移行することができる。
【0092】
なお、上述した実施形態におけるインバータ制御装置10が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0093】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1…電力制御システム、10…インバータ制御装置、20…蓄電池、30…電力変換器、40…電力系統、110…事故検出部、111…第1事故検出部、112…第2事故検出部、113…第3事故検出部、114…第4事故検出部、115…第5事故検出部、120…電流基準作成部、130…電流基準切替部、140…復帰検出部、141…第1復帰検出部、142…第2復帰検出部、150…切替制御部、51…直流電源、52…電力変換器、53…変流器、54…変圧器、55…系統電圧取得部、62…電流基準作成・切替部、64…系統事故検出部、68…能動型単独運転検出機能許可部、69…単独運転監視部、71…電圧補正部、DCP…直流電力、ACP…交流電力、CS…制御信号、DS…検出信号、ADI…事故検出情報、RDI…復帰検出情報、SWI…切替情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7