(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009449
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】雨水貯留性緑化用土壌、雨水貯留性緑化構造及び雨水貯留性緑地
(51)【国際特許分類】
A01G 24/15 20180101AFI20230113BHJP
A01G 24/22 20180101ALI20230113BHJP
A01G 24/42 20180101ALI20230113BHJP
A01G 20/00 20180101ALI20230113BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A01G24/15
A01G24/22
A01G24/42
A01G20/00
A01G7/00 602C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112749
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】屋祢下 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敬太
(72)【発明者】
【氏名】内池 智広
(72)【発明者】
【氏名】松宮 綾香
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB02
2B022AB03
2B022BA02
2B022BA04
2B022BA14
2B022BA18
2B022BB01
(57)【要約】
【課題】植物が利用できる水分量が確保できるとともに、下水管などに放水される雨水の量を調整できる土壌を開発し、雨水の貯留機能を備えた緑地を造成する方法を開発する。
【解決手段】粒径5~10mmが20~40容積%、2.5~5mmが20~40容積%、2.5mm未満10~50容積%の火山性砂利と黒ボク土5~20容積%の割合で配合されている雨水貯留性緑化用土壌。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径5~10mmが20~40容積%、2.5~5mmが20~40容積%、2.5mm未満10~50容積%の火山性砂利と黒ボク土5~20容積%の割合で配合されていることを特徴とする雨水貯留性緑化用土壌。
【請求項2】
さらに、有機材料を10容積%以下添加することを特徴とする請求項1記載の雨水貯留性緑化用土壌。
【請求項3】
最大雨水浸透量(pF0水量)570~620リットル/m3、雨水排出量(pF0-pF1.8)230~300リットル/m3、植物有効水分量(pF1.8-pF3.0)70~100リットル/m3、であることを特徴とする請求項1又は2記載の雨水貯留性緑化用土壌。
【請求項4】
既存地盤を掘削して形成した既存地盤凹部またはコンクリートで形成されたコンクリート製凹部に請求項1~3のいずれかに記載の雨水貯留性緑化用土壌を充填したことを特徴とする雨水貯留性緑化構造。
【請求項5】
既存地盤凹部は、壁面に透水性シートが設けられていることを特徴とする請求項4記載の雨水貯留性緑化構造。
【請求項6】
既存地盤凹部またはコンクリート製凹部と、排水路に連絡する排水設備を備えており、
排水設備は、凹部の底部に設けた排水層と、調整升、流量調整機器備えた排水管を有していることを特徴とする請求項4又は5記載の雨水貯留性緑化構造。
【請求項7】
市街地の緑地、調整池、宅地、道路の緑地帯、河川の護岸などの緑地に請求項4~6のいずれかに記載された雨水貯留性緑化構造に植栽されていることを特徴とする雨水貯留性緑地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市型洪水対策及都市緑化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化現象の進行にともなって、時間あたりの降雨量が100mmを超えるようなゲリラ豪雨や超大型台風の発生頻度が高まり、それにともなって河川の氾濫や都市型洪水による浸水被害が増大している。そのため、東京都など自治体では、従来行われてきた河川整備による流下能力の向上や護岸整備といった対策だけでなく、透水性舗装や雨水浸透マスなどを配置することによって、雨水の河川への流出量を抑制するよう求めている。
但し、都市部においては、雨水浸透施設など、いわゆるグレーインフラを新設する場所は調整トンネルなどの地下空間しかなく、既設の雨水貯留マスを拡張するにもコストがかかってしまう。
特許文献1(特開2014-177761公報)には、硬質の角粒体と、角粒体の表面に混合助材を介して付着させた吸着助材とにより構成し、角粒体の表面を、前記混合助材と吸着助材の混合物によるSS物質の捕捉機能を有するコーティング層で被覆して構成した基盤材であって、目詰まり抑制と雨水貯留浸透性の路盤材が開示されている。
【0003】
特許文献2(特開2017-94303号公報)には、集水枡へと送水される水を、当該水が集水枡に至る前段階において貯留して浄化する浸透貯留槽2を備え、浸透貯留槽2は、浸透貯留槽2の底部に配設されたメッシュ管10であって、浸透貯留槽2の内部に浸透した水を、当該メッシュ管10に設けられた導水孔を介して管内に導水して浸透貯留槽2の外部まで送水するメッシュ管10と、導水孔径よりも大きい径の粒子を含んで構成された下部層40と、水を浄化可能な浄化土壌を含んで構成された中間層50と、中間層50の粒子よりも大きい径の粒子を含んで構成された上部層60と、を有する貯留浄化システム1であって、水が集水枡に至る前段階において水の貯留及び浄化を行うことができると共に、浸透貯留槽の内部に入り込んだ汚濁を容易に除去可能となる貯留浄化システムが提案されている。
特許文献3(特開2020-20213号公報)には、既存の土の上側に配置される植栽土壌と、植栽土壌を囲む側壁と、を備えており、側壁の一部は、植栽土壌と囲む空間に水を貯留できるように植栽土壌の表面よりも上側に配置さており、植栽土壌の保水性と透水性は、既存の土の透水性よりも高く設定した、水を貯留でき且つ植物に与える影響を低減できる雨水貯留施設が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-177761公報
【特許文献2】特開2017-94303号公報
【特許文献3】特開2020-20213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
都市においては、ゲリラ降水時に、排水機能が追い付かず小河川や排水路から水が住宅地にあふれてくる都市型洪水対策が求められている。一方、舗装された市街地では、土中水分が不足し、植物が生育しにくい環境になっている。
本発明は、植物が利用できる水分量を確保できるとともに、下水管などに放水される雨水の量を調整できる土壌を開発し、雨水の貯留機能を備えた緑地を造成する方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.粒径5~10mmが20~40容積%、2.5~5mmが20~40容積%、2.5mm未満10~50容積%の火山性砂利と黒ボク土5~20容積%の割合で配合されていることを特徴とする雨水貯留性緑化用土壌。
2.さらに、有機材料を10容積%以下添加することを特徴とする1.記載の雨水貯留性緑化用土壌。
3.最大雨水浸透量(pF0水量)570~620リットル/m3、雨水排出量(pF0-pF1.8)230~300リットル/m3、植物有効水分量(pF1.8-pF3.0)70~100リットル/m3、であることを特徴とする1.又は2.記載の雨水貯留性緑化用土壌。
4.既存地盤を掘削して形成した既存地盤凹部またはコンクリートで形成されたコンクリート製凹部に1.~3.のいずれかに記載の雨水貯留性緑化用土壌を充填したことを特徴とする雨水貯留性緑化構造。
5.既存地盤凹部は、壁面に透水性シートが設けられていることを特徴とする4.記載の雨水貯留性緑化構造。
6.既存地盤凹部またはコンクリート製凹部と、排水路に連絡する排水設備を備えており、
排水設備は、凹部の底部に設けた排水層と、調整升、流量調整機器備えた排水管を有していることを特徴とする4.又は5.記載の雨水貯留性緑化構造。
7.市街地の緑地、調整池、宅地、道路の緑地帯、河川の護岸などの緑地に4.~6.のいずれかに記載された雨水貯留性緑化構造に植栽されていることを特徴とする雨水貯留性緑地。
【発明の効果】
【0007】
1.粒径の異なる火山性の砂利と黒ボク土を組み合わせることにより、植物が利用できる保水量を十分に確保し、排水量を抑制した土壌を開発することができた。
2.既存の地盤中に凹部を形成して、この土壌を充填した雨水貯留性緑化構造を整備することにより、土壌中の総貯水量の内、植物が利用する水分を多量に確保し、下水などに放水される雨水の量を減らすことができたので、下水などの排水負荷を小さくすることができる。一方、植物の生育環境も良好に維持できる。さらに、この雨水貯留性緑化構造に、放水量を調整する調整升や仕切弁を設けて、放水時間を調整して、瞬間洪水の抑制を図ることができる。
3.この雨水貯留性緑化構造は、市街地の各種の緑地、道路の街路緑地、河川の護岸などに設置することができる。市街地の緑地には、公園、学校などの施設の庭、集合住宅や各種施設の外構、個々の住宅の庭など、大小を問わず緑化可能な土地を対象とすることができる。人工地盤に設ける緑化施設にも適用することができる。
4.この雨水貯留性緑化構造を用いることによって、雨水の浸透性が低い既存の緑地においても、既設の土壌を掘り込んだ空間に雨水貯留性緑化用土壌を埋め戻すだけで、雨水を一時貯留できる緑地を簡易に設けることができる。また、建物の外構のようにコンクリートなど不透水性の構造物で側方および底面を囲まれた空間でも、下方に砕石による排水層と側方に連通する排水管を配置し、その上に雨水貯留性緑化用土壌を敷き均すだけで、植栽できる雨水貯留施設を設けることができる。
道路の街路に本発明の雨水貯留性緑化構造を設置することにより、舗装面に降った雨水を一旦貯水し、植物利用水を除いた分が排水されるので、道路構造としての排水系の負担を軽減できる。
5.植物が利用できる水分量が多くなるので、乾燥に弱い植物(湿生系植物)も植栽できるようになって、緑地の植生を多様にすることができ、また、潅水管理も容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】火山性砂利の組成を変えた供試土壌のpF値及び調整貯水量を示す図
【
図7】雨水貯留性緑化構造の例1を施工した緑地の植生の状況を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、浸透性かつ貯水性に優れた土壌であって、植物が利用できる水分量が多い土壌を開発した。この土壌を用いた雨水貯留性緑化構造を地盤に構築することにより、降水後の一次貯水機能と下水などへの放水量を減らす排水負荷低減機能、緑化機能に寄与する発明である。この雨水貯留性緑化構造は公園や学校の植栽地、集合住宅の植栽地、個人住宅の庭など規模の大小を問わず設置することできるので、ゲリラ豪雨などによる、都市型洪水対策として有効である。
【0010】
本発明は、粒径5~10mmが20~40容積%、2.5~5mmが20~40容積%、2.5mm未満10~50容積%の火山性砂利と黒ボク土5~20容積%の割合で配合されている雨水貯留性緑化用土壌である。そして、この土壌を掘削して地面に設けた凹部またはコンクリート製の凹部に充填した雨水貯留性緑化構造であり、この雨水貯留性緑化構造を設置した都市公園や街路などの雨水貯留性緑地である。
この雨水貯留性緑化用土壌には、貯水性能、植物利用性能が初期の範囲に影響のない分量の土壌改良材を添加することができる。土壌改良材は、10容積%以下、さらに5容積%程度が好ましい。
【0011】
この組成の雨水貯留性緑化用土壌は、最大雨水浸透量(pF0水量)570~620リットル/m3、雨水排出量(pF0-pF1.8)230~300リットル/m3、植物有効水分量(pF1.8-pF3.0)70~100リットル/m3である。
土壌のpF値は、土の中の水分が土壌の毛管力によって引き付けられる強さを表している。土壌が湿っているほどpF値が低く、乾いている土壌はpF値が高くなる。pF0は土壌中の水分が飽和している状態、pF1.8は圃場容水量といって重力と土壌の毛管力がほぼ均等になっていて土壌中の水分が全て土粒子に引き付けられている状態、pF3.0は土壌が乾いていて植物が枯れ始めるほど利用できる水分が少なくなっている状態、をそれぞれ表している。本発明では、pF値の測定を、JAS1210に従っている。
本発明では、pF0時の含水量を最大雨水浸透量、また、雨水排出量Ds=(pF0-pF1.8)、植物有効水分量Ps=(pF1.8-pF3.0)、調整貯水量Rs=(Ds+Ps)と定義した。すなわち、土壌中に浸透できる最大の水量(pF0時の含水量)から、毛管力によって土壌に付着される水量(pF1.8の含水量)を引いた値が、土壌中から自然に排出される水分量=雨水排出量Dsであって、それに植物が土壌から吸い上げて利用する水量を加えた値が調整貯水量Rsである。
なお、植物有効水分量Ps=(pF1.8-pF3.0)と定義した。すなわち、これは、土壌中から自然に流出した後の状態である毛管力で吸着している水分のうち、植物が枯れずに利用できる水分量として算出した。実際に、次の降雨時に植物が枯れずに土壌が貯留できる最大の水分量に着目して、調整貯水量Rsと定義した。
本発明は、多孔質で型崩れしない材料として、火山性砂利が、最大雨水浸透量pF0が大きいと想定し、植物有効水分量Psを大きくすると、下水などへの排水負荷を小さくできると考えて、試験した。しかし、最大雨水浸透量pF0が大きくても、水と土壌の付着力が強いと、長く土壌中に水分が吸着されていて、次の降雨時の貯水能力が得られないことが判明した。そこで、本発明では、一時的に貯水して、排水を遅延させる能力(雨水排出量Ds)と植物が利用できる水量(植物有効水分量Ps)に着目して、本発明を実現した。
【0012】
<土壌組成>
雨水貯留性緑化用土壌は、火山性砂利約80~95容積%と黒ボク土5~20容積%を混合した土壌を基本組成とし、植生の適性などに合わせて補助材料を添加することができる。
【0013】
<火山性砂利>
火山の噴火によって噴出された固形物で、粒径が2~64mmのものが火山礫と定義されている。本発明では、粒径10mm以下の火山礫を火山性砂利と表記することとする。
火山性砂利は、火山から噴出した火山噴砂物であって、多孔質体である。火山性砂利は、多孔質であり、本発明では10mm以下の粒径を使用する。
火山性砂利は、高温にさらされていて、穴の内面には黒ボク土や腐葉土などの他の土壌や微生物などが付着しておらず、親水性など化学的性状が安定している。また、他の土壌材料よりも硬く、つぶれにくく、形状が安定している。
本発明では、都市公園や街路など踏み圧が常時かかる市街地の土壌として形状が安定していることが、重要である。
本発明では、植物の生育に適するように10mm以下の粒径の火山性砂利を用い、土壌中の非毛管空隙を少なくして保水性が高くなるように様々な粒径を用いている。そして、試験の結果から、貯水性と植物利用性の観点から、特異な組成比を見出すことができた。
火山性砂利の組成は、粒径5~10mmを20~40容積%、粒径2.5~5mmを20~40容積%、粒径2.5mm未満を10~50容積%が適している。3種類の粒径割合は、それぞれ1/3程度の比率を基本とし、産地などの特性に応じて、調整して、使用する。
最大粒径を10mm以下とすると、植栽用の土壌として、ハンドリング性が向上し、扱いやすい。
【0014】
<黒ボク土>
黒ボク土は、火山灰土である。黒ボク土は日本の国土の31%程度に分布し、国内の畑の約47%を覆っているとされ、北海道・東北・関東・九州に多く見られる。黒ボク土には、腐植分が10%程度含まれことがあり。腐植分を含んでいるため、水を含んでも締め固まらないし、適度に排水できる土壌である。なお、この腐食分は、土壌化している有機物であって、土壌化していない腐葉土とは別物である。
赤土や荒木土など粒径組成が細かい土壌は締め固まりやすく、水を抱えてしまうので、本発明では適していない。
火山性砂利に1割程度の黒ボク土を加えることにより、植物有効水分量Psを飛躍的に増加させ、自然流出量を抑えて、ゲリラ豪雨などによる、急激な出水を抑制できる。
火山性砂利だけでは、最大雨水浸透量pF0は大きいが、植物有効水分量Psが小さく、下水負荷が小さくならず、都市型洪水対策には不十分であった。これに1割程度の黒ボク土を混合することで、植物有効水分量を約3倍とすることができた。
【0015】
<補助土壌材料>
ほかに、補助土壌材料として、腐葉土、堆肥などの有機材料を雨水排出量と植物有効水分量の有効範囲内で添加することができる。おおむね、基本組成からなる雨水貯留性緑化用土壌を100として10容積%以下、さらに5容積%程度である。
【0016】
本発明の雨水貯留性緑化用土壌は、土壌そのものの構造として、雨水排出量と植物有効水分量を備えているので、植栽土壌層、透水層などの層区分する必要がない。ただし、集水機能を果たす排水層を暗渠として設けて、一時貯留機能を備えた排水管系を介して下水などへの放水機能を持たせることができる。
雨水貯留性緑化用土壌を面的に敷設しやすく、公園の広い緑地や調整池の緑地化などに利用することができる。街路や護岸などの細長く線状に設ける貯水設備としても施工が容易である。
【0017】
<雨水貯留性緑化構造>
既存地盤を掘削して形成した既存地盤凹部またはコンクリートで形成されたコンクリート製凹部に雨水貯留性緑化用土壌を充填して雨水貯留性緑化構造を構成する。
凹部は、溝状に限らず面的な形状も含まれる。溝状に形成される凹部は、車道沿いの緑地、歩道沿いの緑地、護岸沿いの緑地などに形成される。面的な凹部は、調整池、公園緑地、集合住宅や施設の外構、宅地などである。
凹部の深さは、300~1000mm程度で掘り込む。高木などの樹木を植える場合には深さ1,000mm程度必要となる。
【0018】
既存地盤では、凹部の壁面に透水性シートが設けることが好ましい。既存地盤の土壌から、シルトなどの土粒子が雨水貯留性緑化用土壌に流入して混じると、雨水貯留性能と植物有効水分性能が変化して、初期の性能が失われるので、土の流入を阻止して透水性を保持する透水性シートを側壁面に設けると性能を長期に維持できる。なお、底面にも敷設しても良いが、底からは地下水位の上昇があっても、それに伴う土粒子の上昇はほとんどないので、必要性は低い。ただし、雨水貯留性緑化構造を設置する工事の際に、掘削した凹部に泥水が充満しているような場合は、底面にも透水性シートを設けて、雨水貯留性緑化用土壌に泥が混じることを防ぐなどの対処が有効である。
【0019】
凹部の壁面、底面をコンクリートで形成することもできる。コンクリートは、片方の壁面のみ、底面は既存地盤など、コンクリートと既存地盤との組み合わせることもできる。壁面の長手方向の一部をコンクリート、他の壁面を既存地盤とすることもできる。
例えば、人工地盤などでは壁面と底面をコンクリートとする。下水などへの放水設備の部分では、両壁面と底面の3面をコンクリートとする。盛り土の路肩などでは、3面コンクリート製が適している。
【0020】
<雨水緑化構造を備えた緑地の施工>
本発明の雨水緑化構造を設置して、ゲリラ豪雨などの都市型洪水対策施設及び市街地の緑地として整備することができる。雨水緑化構造は、都市公園のような大面積から児童公園のような近隣設備、市街地の緑地、調整池、集合住宅周辺の緑地、個人宅の庭、道路の緑地帯(市街地の道路、幹線道路、高速道路など)、各種施設の周辺植栽地、河川の護岸などに雨水貯留性緑化構造を設置することができる。
【0021】
洪水対策を目的とした大面積の調整施設の場合、必要な雨水貯留性緑化用土壌は大量であるので、次のような工事となることが多い。
採掘した火山性砂利を前述したように工場で分級して、工場で混合あるいは工事現場で混合して敷設する。大規模な雨水貯留性緑化構造を備えた雨水貯留性緑地の整備では、現場での混ぜあわせなどの操作は、分級された火山性砂利をバックホーのバケットのように容量が固定された容器で所定量をそれぞれ計り取り、混合ヤードに移動して1ヶ所に集めて、バックホーで混ぜ合わせる。
次いで、例えば黒ボク土のような微粉の土壌を容積比で10%を加え、さらに堆肥のような有機質資材を全体容量に対して10%程度加えて、バックホーのバケットを用いて全体が均一になるよう攪拌混合して雨水貯留性緑化用土壌を調整する。
大規模な工事では、現場で土厚1000mm全体を均一に混合することはできないので、事前に工場や屋外ヤードで混合したものをフレコンパックに詰めて運ぶか、ダンプで直接搬送する。
調整した雨水貯留性緑化用土壌は、バックホーやダンプトラック、ブルドーザーなどの重機を用いて敷きならす。あるいは、雨水貯留性緑化用土壌をバケットで計り取りながら、容量1m3程度のフレコンパックに格納して、敷設箇所へ搬入する。フレコンパックの重量を計測すると、投入量の管理も容易にできる。
【0022】
工場で調整された雨水貯留性緑化用土壌を雨水貯留施設に投入する方法は次のように行う。
製造工場によって攪拌混合され、フレコンパックに格納された土壌をトラックによって雨水貯留施設まで搬送し、ユニックで吊り上げたフレコンパックの底面を破ることによって、既設の土壌を掘り込んだ凹部、あるいはコンクリートなど人工構造物で囲まれ排水層や排水管が配置された凹部空間に直接、雨水貯留性緑化用土壌を投下する。あるいは、フレコンパックに格納された雨水貯留性緑化用土壌を雨水貯留施設の外側に降ろしてから、人力、あるいは小型の機材によって小運搬し、雨水貯留施設に投入することも可能である。
雨水貯留施設に投入する雨水貯留性緑化用土壌の量については、既設の地盤の掘削地、あるいはコンクリートなど人工構造物で囲まれた空間の容量に応じてフレコンパックの個数あるいは重量から換算して、空間の容量に対して1.0~1.2倍量の雨水貯留性緑化用土壌を投入する。その際、時々人力で踏み固めたり高さを均したりしながら、空間の天端まで所定量の雨水貯留性緑化用土壌を納めるようにする。このように容量管理することによって、雨水貯留施設に投入された雨水貯留性緑化用土壌の透水性、保水性といった性能管理を行う。
【0023】
雨水貯留施設に植栽する植物については、貯留したい雨水の量や雨水貯留施設の深さに応じて、各地域の植物を利用することができる。本発明の雨水貯留性緑化用土壌は、植物が利用できる水分量が多いので、湿生植物も植栽に用いることができる。
関東周辺の湿った森によく見られるイロハモミジ-ケヤキ群集、湿った林に見られるオニスゲ-ハンノキ群集、乾いた草地に見られるススキ-チガヤ群集、湿地に見られるカサスゲ群集といったように、土壌の水分条件によって生息域が異なる植物群から任意に選定し、組み合わせて植栽することができる。
なお、従来例のような雨水の浸透性を中心に設計された基盤材は、植物が利用できる水分が少なく、晴天が続くと乾燥耐性の低い植物は生育できないので、イネ科などの乾燥性に強い植物中心の植栽になって、バラエティーに富んだ緑地を形成できなかった。
【0024】
<植生材料>
本発明で用いることができる植物に特に制限はない。一般的に街路樹や公園の植栽に用いられている植物を用いることができる。
そのほか、水持ちがよい状態が維持可能なので、湿地に適した植物を利用することが可能となって、通常では乾いた草地に繁茂する植物によって造成される緑地が主であるところ、市街地でも湿生系の植物相を備えた緑地を整備することができる。既存のビオトープなどは、水の循環や補給にポンプなどの動力が必要となるが、本発明では、土壌の自然保水力で賄うことができる。
【0025】
利用できる植物を次に例示する。
本州の乾いた森に群落を形成するケヤキ、オニグルミ、エノキ、ムクノキ、ヤブニッケイ、ミズキ、クサギ、イボタノキ、ノイバラ、シロダモ、アオキ、キチジョウソウ、ヤブラン、セントウソウ、ミズヒキ、ヤブカンゾウ、オオバイノモトソウなど、湿った森に群落を形成するウメモドキ、アカメヤナギ、カマツカ、コムラサキ、ハンノキ、イヌツゲ、マユミ、ミゾソバ、ヒメシダ、ツボスミレなど、乾いた草地に繁茂するウツギ、ススキ、チガヤ、ワレモコウ、オミナエシ、オカトラノオ、オトギリソウ、キキョウ、ノカウンゾウ、カワラナデシコ、ノシバなど、湿地に繁茂するカサスゲ、アゼスゲ、サヤヌカグサ、フトイ、ハンゲショウ、コウヤワラビ、ヒメガマ、ウキヤガラ、ヤナギタデなどを植栽することができる。
【0026】
<土壌の試験>
本発明では、雨水の貯留量だけでなく植物が利用可能な水量に着目して土壌材料の選定を行った。
(a)試験土壌
予備試験として、次の4種類を試験した。
A1:不定形で転圧しやすく、多孔質で保水機能を有する径5~10mmの火山性砂利
B:一般的な植生土壌として赤土
C:市販の植生兼用の路盤材、軽石と軽石砂を主として、堆肥15容積%、補助材料を混合した材
D:市販の植物根伸張性の備えた目詰まり抑制路盤材として、コンクリート系砕石と腐植の混合材
【0027】
(b)試験方法
土壌のpF0、pF1.8、pF3.0における体積含水率を測定し、最大雨水浸透量(pF0時含水量)、雨水排出量Ds(pF0-pF1.8)、植物有効水分量Ps(pF1.8-pF3.0)、調整貯水量Rs(Ds+Ps)を算出した。
pF値の測定はJAS1210にしたがって調整した。
pF試験を行うにあたって4種類の土壌サンプルをそれぞれ4リットルずつ製造し、JIS A 1210のモールド(1000ml)に100mlのサンプルコアを入れた状態でサンプル土壌を詰め、植栽土壌用の条件(高さ10cmより2.5kgのランマーを10回落下させる)で突き固めて供試体を製作した。
測定及び計算結果を
図1に示す。
【0028】
一般的な植栽土壌原料である赤土(B)は、pF0は大きいが、雨水排出量Dsが少なく、調整貯水量Rsも小さく、雨水貯留用の基本材としては不適当であった。
軽石と堆肥の混合である市販材(C)は、雨水排出量Dsと植物有効水分量Psが赤土(B)より大きいが、調整貯水量Rsが試料(A1)よりも小さくなっている。コンクリート砕石と腐植土との混合である市販材(D)は、植物有効水分量Psが最も小さく、植生用としては不適であることが分かる。
この予備試験にしたがって、植物有効水分量Psが確保できて調整貯水量Rsが大きい火山性砂利に着目した。そしてさらに、粒径、添加土を調整して、調整貯水量Rsを保ちつつ、植物有効水分量Psを確保する組成の探索を次に行った。
【0029】
<火山性砂利を基本とする組成の検討>
(a)火山性砂利の調整
雨水貯留施設に入れる雨水貯留性緑化用土壌について、不定形で転圧しやすく、多孔質で保水機能を有する火山性砂利の配合を想定して、粒径、配合量を調整した。
雨水貯留性緑化用土壌に用いる火山性砂利は、火山の噴火によって形成された火山砂礫の層から採掘された原砂より調整する。原砂を製造工場で、水洗いとふるい分けによって粒径に応じて材料を調整する。
まず、原砂を例えば網目10mm程度の篩でふるうことによって10mm以上の粒径の大きい火山性砂利を除去する。次いで、ふるい落ちた火山性砂利を網目2.5mmの篩で水洗いしながらふるうことによって2.5mm以下の微粉を洗い落とす。さらに、2.5mmの篩の上に残った火山性砂利を網目5mmの篩にかけることによって、粒径5~10mmと粒径2.5~5mmの火山性砂利に分ける。このようにして、原砂より粒径5~10mm、2.5~5mm、2.5mm以下、の粒径組成が異なる3種類の火山性砂利を得る。
(b)黒ボク土を容積10%添加する。
(c)組成
7種類の組成を試験試料として調整し、
図2示す。
(d)測定
予備試験と同様の試験方法を採用し、土壌のpF0、pF1.8、pF3.0における体積含水率を測定し、最大雨水浸透量(pF0時含水量)、雨水排出量Ds(pF0-pF1.8)、植物有効水分量Ps(pF1.8-pF3.0)、調整貯水量Rs(Ds+Ps)を算出した。7種類の試料と結果を
図3に示す。
【0030】
この試験結果等次のことが言える。
(1)粒径5mm以上の配合を増やす(試料A1~A5)と空隙が大きくなり、最大雨水浸透量が高くなった。そのなかで、粒径5~10mmのみ配合(試料A1)した土壌に対して、2.5~5mmの砂利や2.5mm未満を配合したほうが雨水排出量Dsは高かった(試料A2、A5)。
但し、試料A1~A5は非毛管空隙が大きく、pF1.8(自然状態)のときの含水量が低いため、植物有効水分量Psは少なかった。
(2)それに対して、粒径5~10mmの配合を減らした試料A6、A7では、最大雨水浸透量は低下したが、pF1.8の含水量が増え、pF3.0の含水量が低下(水はけがいい)したため、植物有効水分量Psは他の試料よりも約3倍に増大した。
(3)以上の結果から、粒径が異なる3種類の火山砂利をそれぞれ20~40容積%の配合することが、植物有効水分量Psを他よりも格段に多く、調整貯水量Rsを他とそん色なく確保できており、流出することとなる雨水排出量Dsを他よりも抑えることができる配合であることが判明した。なお、黒ボク土や土壌調整材の配合量調整は細径分である2.5mm未満の火山性砂利で調整することが好ましい。
【実施例0031】
雨水貯留性緑化構造の例1を
図4に示す。
雨水排出量、有効水分量とも高かった試料A6の組成を、雨水貯留施設の雨水貯留性緑化用土壌として用いる土壌として選定した。
既存の緑地内など自然土壌の上に雨水貯留施設を設ける際には、雨水貯留施設を設ける範囲に生えている植物を抜根したのち、所定の深さまで既存の土壌を掘り込む。このときの深さは、雨水貯留施設に植栽する植物に適した土壌厚によって任意に変えることができる。地被植物のみ植え付けて貯留施設を面的に覆う場合には深さ300~500mm程度で掘り込み、高木などの樹木を植える場合には深さ1,000mm程度まで掘り込むことが望ましい。また、植栽する植物に関わらず、貯留したい雨水量によって掘り込む深さを決めることができる。
【0032】
次いで、既設の土壌が雨水貯留施設に入り込んで目詰まりすることを防ぐため、土壌を掘り込むことによって形成された空間の側方を、不織布などで構成される透水性のシートによって覆うことが好ましい。なお、側方を覆うシートは、遮水性シートとして、透水を防ぐこともできる。あるいは、既存地盤の地質によっては側方をシートで覆わなくてもよい。また、側方をシートで覆う範囲は、既設の土壌の地表面から下端部まで覆うことが望ましいが、シートが周囲の地表面より立ち上がっていてもかまわない。空間の底面はほぼ水平に仕上がっていればよく、空間に入れる雨水貯留性緑化用土壌とその下方にある土壌との間に透水性シートなどを敷設する必要はない。こうして形成された空間に、後述する方法で製造された雨水貯留性緑化用土壌を投入して、雨水貯留施設を設ける。雨水貯留性緑化用土壌を投入する高さは、周囲の土壌の表面まで埋め戻すことが望ましいが、周囲より低くてもよい。
【0033】
実施例1の施工では、関東ローム層の既存地盤を深さ1000mm、4m四方の凹部を作成して、掘削した凹部の側壁面に透水性シートを敷設し、試料A6の組成の雨水貯留性緑化用土壌を充填して、植栽した。本施工は、全体に窪んだ調整池を想定し、下水などへの放流設備はない。
1年程度経過観察を行った結果、植栽した樹木の他、地場の草も生い茂っており、良好な緑地を形成することができることを確認することができた。
形成された凹部空間において、まず、側方より雨水貯留性緑化構造の外側に設けある排水路に連通する排水管を配置したのち、その排水管を囲むように砕石を敷き均す。雨水貯留性緑化構造の外側に設ける排水路に連通する排水設備の排水能力は、貯留したい雨水の量や外部へ排出したい時間あたりの水量に応じて、排水管の管径や排水管に取り付けるバルブなどによって任意に調整できるようにすることが望ましい。
排水層に用いる砕石は、その上方に後から入れる雨水貯留性緑化用土壌よりも粒径が大きい砕石を用い、厚さ100mm程度とする。排水層は排水管の周囲あるいは排水管に向かって底面に筋状に形成することもできる。
底面は外側に配置する排水設備に向かって0.5~1.0%程度の勾配がついていることが望ましい。側方を囲む壁については、既存の土壌や舗装の表面まで立ち上がっていることが望ましいが、表面より高くなってもかまわない。こうして排水層を敷設した空間に、雨水貯留性緑化用土壌を投入し、植栽して雨水貯留性緑化構造を設ける。雨水貯留性緑化用土壌を投入する高さは、側方を囲む舗装などの構造物の上端あるいは構造物の上端より低くてもよい。
凹部の空間は植栽する植物の種類や貯留したい雨水の量、あるいは雨水貯留性緑化構造12の周囲にある構造物の大きさなどによって設計される。設置場所は、土中や人工地盤中あるいは舗装の上、人工構造物の中などに設けることができる。
都市部では、下水などの排水路が整備されているが、舗装面が多く、急激な集中豪雨による排水には能力不足であり、また、排水路を整備しても常時は過大な設備であり、用地不足等もあって、整備そのものが難しい。中心市街地などでは、施設の周囲の緑地整備、街路樹帯の整備、歩道、広場や公園などが整備されつつあるので、これらの空間にこの雨水貯留性緑化構造を設けることにより、瞬間洪水に柔軟に対応できるとともに、豊かな緑地空間を提供することができる。市街地中心の周辺の住宅地においても、個人住宅の庭に雨水貯留性緑化構造12を備えることによって、排水能力が比較的に劣る下水管でも対応できることになる。個人住宅では、コンクリートは一部の側壁のみとすることも可能である。