(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023094915
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】接触熱コンダクタンス推定方法及び接触電気抵抗推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20230629BHJP
G01R 27/02 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
G01N25/18 L
G01N25/18 E
G01N25/18 J
G01R27/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021210512
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 学
【テーマコード(参考)】
2G028
2G040
【Fターム(参考)】
2G028CG04
2G040AA01
2G040AB08
2G040AB12
2G040CA02
2G040CA13
2G040GA01
2G040HA05
2G040ZA01
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh
cを精度良く推定可能な接触熱コンダクタンス推定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体M1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体M2とが、表面S1及び表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、接触面Sを介して、第1物体M1と第2物体M2との間で接触熱伝達が生じる場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスを推定する、接触熱コンダクタンス推定方法であって、接触面積率ε
2を表す以下の式(6)等を用いることを特徴とする。
【数11】
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体M1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体M2とが、前記表面S1及び前記表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、前記接触面Sを介して、前記第1物体M1と前記第2物体M2との間で接触熱伝達が生じる場合の、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する、接触熱コンダクタンス推定方法であって、
前記第1物体M1及び前記第2物体M2の熱伝導率をそれぞれk
1、k
2とし、前記表面S1及び前記表面S2のRMS粗さをそれぞれσ
1、σ
2とし、前記表面S1及び前記表面S2の凸部の平均傾斜をそれぞれm
1、m
2とし、前記表面S1及び前記表面S2の硬さのうち柔らかい方の硬さをH
cとした場合に、以下の式(1)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する、
ことを特徴とする接触熱コンダクタンス推定方法。
【数8】
なお、上記の式(1)において、erfc
-1は相補誤差関数の逆関数であり、上記の式(3)及び式(4)において、J
0、J
1は、それぞれ0次及び1次の第一種ベッセル関数であり、δ
nは1次の第一種ベッセル関数の零点(すなわち、J
1(δ
n)=0)であり、nは自然数である。また、上記の式(1)、式(3)及び式(4)において、πは円周率である。
【請求項2】
前記式(1)~式(5)に代えて、以下の式(10)及び式(11)を用いると共に、前記式(6)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の接触熱コンダクタンス推定方法。
【数9】
【請求項3】
前記式(1)~式(6)に代えて、以下の式(12)~式(14)を用いると共に、前記式(7)~前記式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の接触熱コンダクタンス推定方法。
【数10】
【請求項4】
前記第1物体M1及び前記第2物体M2が金属であり、
請求項1から3の何れかに記載の接触熱コンダクタンス推定方法で推定した前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスhcと、以下の式(15)とを用いて、前記接触面Sにおける接触電気抵抗Rcを推定する、
ことを特徴とする接触電気抵抗推定方法。
Rc=LT/hc ・・・(15)
上記の式(15)において、Lはローレンツ数であり、Tは接触面Sの絶対温度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な凹凸を有する表面を具備する第1物体と、微小な凹凸を有する表面を具備する第2物体との接触面における接触熱コンダクタンスを推定する、接触熱コンダクタンス推定方法、及びこれを用いた接触電気抵抗推定方法に関する。特に、本発明は、熱間圧延、熱間鍛造、抵抗スポット溶接を行うとき等のように、互いに接触する第1物体と第2物体との接触面における接触圧力が非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスを精度良く推定可能な接触熱コンダクタンス推定方法、及びこれを用いた接触電気抵抗推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、非特許文献1に、微小な凹凸を有する表面を具備する第1物体と、微小な凹凸を有する表面を具備する第2物体との接触面における接触熱コンダクタンスに関する研究が報告されている。
【0003】
非特許文献1には、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体M1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体M2とが、表面S1及び表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、接触面Sを介して、第1物体M1と第2物体M2との間で接触熱伝達が生じる場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定するための推定式として、以下の式(eq1)が提案されている。
【数1】
上記の式(eq1)において、πは、円周率を意味する。ε
2は、(真実接触面積/見掛け接触面積)で定義される接触面積率を意味する。非特許文献1において、接触面積率ε
2は、表面S1及び表面S2の硬さのうち柔らかい方の硬さをH
cとした場合に、以下の式(eq2)で表される。
【数2】
また、上記の式(eq1)において、ψ(ε)は、熱流が表面S1及び表面S2の真実接触部で縮流される程度を表すパラメータ(以下、これを「くびれパラメータ」と称する)であり、非特許文献1において、以下の式(eq3)で表される。
【数3】
なお、上記の式(eq1)において、k
s、σ、mは、第1物体M1及び第2物体M2の材料特性や表面プロファイルから決定される定数である。具体的には、k
s、σ、mは、第1物体M1及び第2物体M2の熱伝導率をそれぞれk
1、k
2とし、表面S1及び表面S2のRMS粗さをそれぞれσ
1、σ
2とし、表面S1及び表面S2の凸部の平均傾斜をそれぞれm
1、m
2とすれば、それぞれ以下の式(eq4)~式(eq6)で表される。
また、上記の式(eq3)において、J
0、J
1は、それぞれ0次及び1次の第一種ベッセル関数であり、δ
nは1次の第一種ベッセル関数の零点(すなわち、J
1(δ
n)=0)である。また、nは自然数であり、πは円周率である。
【数4】
【0004】
非特許文献1に記載のように、上記の式(eq1)~式(eq6)を用いて推定される接触熱コンダクタンスhcは、特定の条件において、高い推定精度を有すると考えられるものの、以下のような課題1、2を有する。
(1)課題1
上記の式(eq3)で表されるくびれパラメータψ(ε)は、εが大きい範囲(0.6以上)で推定精度が悪化すると考えられており、εの大きさに応じて、より適切なくびれパラメータψ(ε)の推定式を使う必要がある。
(2)課題2
上記の式(eq2)で表される接触面積率ε2は、表面S1と表面S2との接触によって押し潰される(又は平滑化される)凸部の体積変化が、接触していない表面(例えば、凸部に隣接する凹部)の形状変化に及ぼす影響が考慮されていない。
上記の課題1、2は、熱間圧延、熱間鍛造、抵抗スポット溶接を行うとき等のように、第1物体M1と第2物体M2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合、例えば、接触圧力Pが第1物体M1及び第2物体M2の降伏応力を超えるほど大きい場合に、接触熱コンダクタンスhcの推定精度を悪化させる大きな要因となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. G. Cooper, B. B. Mikic, M. M. Yovanovich, "THERMAL CONTACT CONDUCTANCE", Int. J. Heat Mass Transfer, Vol.12, 1969, p.279-300
【非特許文献2】J. Pullen, J. B. P. Williamson, "On the plastic contact of rough surfaces" Proceedings of the Royal Society of London, A. Mathematical and Physical Sciences 327(1569), 1972, p.159-173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するべくなされたものであり、第1物体M1と第2物体M2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスhcを精度良く推定可能な接触熱コンダクタンス推定方法、及びこれを用いた接触電気抵抗推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者は、任意の接触圧力P、ひいては任意の接触面積率ε
2に対して、接触熱コンダクタンスh
cを精度良く推定できるように、非特許文献2に記載の考え方を取り入れつつ、非特許文献1に記載の接触熱コンダクタンスh
cの推定方法を改良することを鋭意検討し、本発明を完成した。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体M1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体M2とが、前記表面S1及び前記表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、前記接触面Sを介して、前記第1物体M1と前記第2物体M2との間で接触熱伝達が生じる場合の、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する、接触熱コンダクタンス推定方法であって、前記第1物体M1及び前記第2物体M2の熱伝導率をそれぞれk
1、k
2とし、前記表面S1及び前記表面S2のRMS粗さをそれぞれσ
1、σ
2とし、前記表面S1及び前記表面S2の凸部の平均傾斜をそれぞれm
1、m
2とし、前記表面S1及び前記表面S2の硬さのうち柔らかい方の硬さをH
cとした場合に、以下の式(1)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する、
ことを特徴とする接触熱コンダクタンス推定方法を提供する。
【数5】
なお、上記の式(1)において、erfc
-1は相補誤差関数の逆関数であり、上記の式(3)及び式(4)において、J
0、J
1は、それぞれ0次及び1次の第一種ベッセル関数であり、δ
nは1次の第一種ベッセル関数の零点(すなわち、J
1(δ
n)=0)であり、nは自然数である。上記の式(1)、式(3)及び式(4)において、πは円周率である。式(3)及び式(4)の右辺には、n=∞の総和が含まれているが、実際の計算に際しては、総和が一定の範囲内に収束するn(例えば、n=10000)で計算を打ち切ればよい。
【0008】
本発明において、式(1)は、前述の式(eq1)と同一である。式(7)~式(9)は、それぞれ前述の式(eq4)~式(eq6)と同一である。
本発明によれば、後述のように、前述の課題1、2を解決でき、第1物体M1と第2物体M2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスhcを精度良く推定可能である。
【0009】
本発明において、式(1)~式(5)は複雑であるため、これらに代えて、以下の式(10)及び式(11)で表される近似式を用いることが好ましい。
すなわち、好ましくは、本発明は、前記式(1)~式(5)に代えて、以下の式(10)及び式(11)を用いると共に、前記式(6)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する。つまり、好ましくは、本発明は、以下の式(10)及び式(11)、並びに、前記式(6)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する。
【数6】
【0010】
また、本発明において、式(1)~式(6)は複雑であるため、これらに代えて、以下の式(12)~式(14)で表される近似式を用いることが好ましい。
すなわち、好ましくは、本発明は、前記式(1)~式(6)に代えて、以下の式(12)~式(14)を用いると共に、前記式(7)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する。つまり、好ましくは、本発明は、以下の式(12)~式(14)、並びに、前記式(7)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する。
【数7】
【0011】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記第1物体M1及び前記第2物体M2が金属であり、前記接触熱コンダクタンス推定方法で推定した前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスhcと、以下の式(15)とを用いて、前記接触面Sにおける接触電気抵抗Rcを推定する、ことを特徴とする接触電気抵抗推定方法としても提供される。
Rc=LT/hc ・・・(15)
上記の式(15)において、Lはローレンツ数であり、Tは接触面Sの絶対温度である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1物体M1と第2物体M2との接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスhcを精度良く推定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で接触熱コンダクタンスを推定する物体を模式的に示す図である。
【
図2】種々の接触圧力Pについて、本発明の第3実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh
cと、非特許文献1に記載の推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh
cとを比較した結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態(第1実施形態~第3実施形態)に係る接触熱コンダクタンス推定方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で接触熱コンダクタンスを推定する物体を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、いずれも、微小な凹凸を有する表面S1を具備する第1物体M1と、微小な凹凸を有する表面S2を具備する第2物体M2とが、表面S1及び表面S2が共有する略平坦な接触面Sにおいて、0より大きな接触圧力Pで互いに接触し、接触面Sを介して、第1物体M1と第2物体M2との間で接触熱伝達が生じる場合の、接触面Sにおける接触熱コンダクタンスh
cを推定する方法である。
図1に示すように、第1物体M1及び前記第2物体M2の熱伝導率は、それぞれk
1、k
2である。また、図示を省略するが、表面S1及び表面S2のRMS粗さは、それぞれσ
1、σ
2であり、表面S1及び表面S2の凸部の平均傾斜は、それぞれm
1、m
2であり、表面S1及び表面S2の硬さのうち柔らかい方の硬さは、H
cである。なお、本明細書における硬さは、ミクロ硬さ(ビッカース硬さ又はマイクロビッカース硬さ)を意味する。
【0015】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、前述の式(1)~式(9)を用いて、接触熱コンダクタンスhcを推定する方法である。
【0016】
前述の課題1、2を解決するために、第1実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法を導出した過程は、以下の通りである。
本発明者は、前述のように、εが大きい範囲で、式(eq3)で表されるくびれパラメータψ(ε)の推定精度が悪化するという課題1を解決するため、くびれパラメータψ(ε)が、εの変化(ε:0→1)に応じて、接触面積率ε2が小さい場合(ε→0)のくびれパラメータψ(ε)の理論解(式(3)で表されるψisothermal(ε))から、接触面積率ε2が大きい場合(ε→1)のくびれパラメータψ(ε)の理論解(式(4)で表されるψisoflux(ε))に連続的に遷移すると考え、その変化を表すεの関数β(ε)を導入して、式(2)で示すように、くびれパラメータψ(ε)を理論解ψisothermal(ε)と理論解ψisoflux(ε)との線形混合和で表すことに想到した。
次に、εを0から1までの範囲で種々変化させた接触2円柱(flux tube)の伝熱有限要素解析を行い、その解析結果から計算されるくびれパラメータψ(ε)の値と、式(2)から計算されるくびれパラメータψ(ε)の値とが略一致するように、最小二乗近似によって、式(5)で表されるβ(ε)を導出した。
すなわち、非特許文献1に記載の式(eq3)に代えて、式(2)~式(5)を用いることにした。
【0017】
また、本発明者は、式(eq2)で表される接触面積率ε2が、表面S1と表面S2との接触によって押し潰される(又は平滑化される)凸部の体積変化が、接触していない表面(例えば、凸部に隣接する凹部)の形状変化に及ぼす影響が考慮されていないという課題2を解決するため、非特許文献2に記載の考え方に基づき、接触面積率ε2を、式(eq2)に代えて、式(6)で表すことにした。
【0018】
以上に説明したように、第1実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、非特許文献1で提案されている式(eq1)~式(eq6)を用いて接触熱コンダクタンスhcを推定する方法に対して、課題1を解決するために、式(eq3)に代えて、式(2)~式(5)を用い、課題2を解決するために、式(eq2)に代えて、式(6)を用いる方法である。
これにより、課題1、2を解決することができ、接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスhcを精度良く推定可能である。
【0019】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、前述の式(10)及び式(11)、並びに、前述の式(6)~式(9)を用いて、接触熱コンダクタンスhcを推定する方法である。
第1実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で用いる式(1)~式(5)は複雑であるため、第2実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法では、これらに代えて、式(10)及び式(11)で表される近似式を用いる点に特徴を有する。
【0020】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、前述の式(12)~式(14)、並びに、前記式(7)~式(9)を用いて、前記接触面Sにおける接触熱コンダクタンスhcを推定する方法である。
第1実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で用いる式(1)~式(6)は複雑であり、第2実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で用いる式(10)は相補誤差関数の逆関数の計算に複雑さが残るため、第3実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法では、これらに代えて、初等関数のみで記述される式(12)~式(14)で表される近似式を用いる点に特徴を有する。なお、本発明者の知見によれば、第3の実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法は、式(14)で表されるPeが、-5<Pe<2である場合に適用することが好ましい。
【0021】
以上に説明した第1~第3実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法によれば、接触面Sにおける接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスhcを精度良く推定可能である。このため、例えば、第1物体M1と第2物体M2とを抵抗スポット溶接する場合にも、接触熱コンダクタンスhcを精度良く推定可能であり、ひいては、この接触熱コンダクタンスhcを用いて、抵抗スポット溶接部のナゲット径を推定することも可能である。また、抵抗スポット溶接に限らず、熱間圧延や熱間鍛造等の接触熱伝達を伴うプロセスの伝熱挙動を精度良く推定することも可能である。
【0022】
なお、第1物体M1及び第2物体M2が共に金属である場合、一般に、接触熱コンダクタンスhcと、接触電気抵抗Rcとの間には、以下の式(15)で表されるWiedemann-Franz則が成り立つ。
Rc=LT/hc ・・・(15)
上記の式(15)において、Lはローレンツ数であり、Tは接触面Sの絶対温度であり、表面S1の絶対温度と表面S2の絶対温度の平均温度を用いることができる。
したがって、第1物体M1及び第2物体M2が共に金属である場合、第1~第3実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で推定した接触熱コンダクタンスhcと、式(15)とを用いて、接触面Sにおける接触電気抵抗Rcを推定することも可能である。
【0023】
図2は、種々の接触圧力Pについて、第2実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh
cと、非特許文献1に記載の推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh
cとを比較した結果の一例を示す。
図2の横軸は、接触圧力Pを無次元化した無次元化接触圧力(具体的には、式(eq2)の右辺に相当するP/H
cの対数)であり、
図2の縦軸は、接触熱コンダクタンスh
cを無次元化した無次元接触熱コンダクタンス(具体的には、式(13)の左辺に相当するlogC
c)である。
図2において、「実施例」は、第2実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh
cから求めた無次元化接触熱コンダクタンスであり、「比較例」は、非特許文献1に記載の推定方法で推定した接触熱コンダクタンスh
cから求めた無次元化接触熱コンダクタンスである。
【0024】
接触面積率ε
2が1を超えることはないため、接触面積率ε
2として式(eq2)を用いる非特許文献1に記載の推定方法では、P/H
cは1を超えることができない。すなわち、P>H
cである高加圧条件では、接触熱コンダクタンスh
cを推定することができない。このため、
図2から分かるように、「比較例」では、P/H
cが1に近づくにつれ(logP/H
cが0に近づくにつれ)、接触熱コンダクタンスh
cは無限大に発散することになる。
これに対し、第2実施形態に係る接触熱コンダクタンス推定方法では、接触面積率ε
2として式(6)を用いるため、接触圧力Pに制限はなく、
図2に示すように、「実施例」では、接触圧力Pが非常に大きい場合であっても、接触熱コンダクタンスh
cを精度良く推定可能である。
【符号の説明】
【0025】
M1・・・第1物体
M2・・・第2物体
S・・・接触面
S1、S2・・・表面
P・・・接触圧力
hc・・・接触熱コンダクタンス
ε2・・・接触面積率