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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095756
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】バッター用油脂組成物及び揚げ物食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230629BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20230629BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20230629BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20230629BHJP
   A21D 2/16 20060101ALN20230629BHJP
   A21D 13/31 20170101ALN20230629BHJP
   A23L 13/50 20160101ALN20230629BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23L5/10 E
A23D9/013
A23L35/00
A21D2/16
A21D13/31
A23L13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131663
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2021210706
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 美鈴
(72)【発明者】
【氏名】富沢 直克
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
4B035
4B036
4B042
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DH01
4B026DH03
4B026DH10
4B026DK02
4B026DK10
4B026DX01
4B026DX02
4B032DB01
4B032DE06
4B032DK09
4B032DK18
4B032DP08
4B032DP47
4B032DP66
4B032DP73
4B035LC05
4B035LE17
4B035LG09
4B035LG10
4B035LG12
4B035LK15
4B035LP07
4B035LP27
4B035LP43
4B036LC04
4B036LF13
4B036LH08
4B036LH13
4B036LP03
4B036LP12
4B036LP17
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK02
4B042AK06
4B042AP05
4B042AP18
4B042AP19
(57)【要約】
【課題】油ちょう済みの揚げ物食品ついて、揚げ物の衣の食感が経時的に劣化することを抑制することができるバッター用油脂組成物、及び該バッター用油脂組成物をバッターに用い油ちょうした揚げ物食品の提供。
【解決手段】ジグリセリン脂肪酸エステルを1.0~4.5質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.5~8.5質量%、エステル交換油脂を10.0~60.0質量%含有するバッター用油脂組成物、該バッター用油脂組成物を含有するバッター、及びバッターが付着し、油ちょうされてなる揚げ物食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリセリン脂肪酸エステルを1.0~4.5質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.5~8.5質量%、エステル交換油脂を10.0~60.0質量%含有するバッター用油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂組成物の0℃におけるSFCが40~80%であり、10℃におけるSFCが10~60%である、請求項1に記載のバッター用油脂組成物。
【請求項3】
極度硬化油脂を2.0~25.0質量%含有する、請求項1又は2に記載のバッター用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のバッター用油脂組成物を2.0~15.0質量%含有する、バッター。
【請求項5】
請求項4に記載のバッターが付着し、油ちょうされてなる、揚げ物食品。
【請求項6】
請求項4に記載のバッターが付着し、油ちょう後に冷蔵又は冷凍されてなる、揚げ物食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッター用油脂組成物及び、該バッター用油脂組成物を使用して製造された揚げ物食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケ、トンカツ、エビフライ等などの衣付き揚げ物食品は、サクサクとした歯切れの良い衣食感を有することが特徴であり、衣によって高温の油の熱が直接具材に伝わらない温度緩衝作用を持ち、具材がちょうどよく蒸されるとともに、衣自体も香ばしい風味を持ち、食欲をそそる食品として多くの食シーンで食べられている。
一般に家庭で作る場合には、具材の表面に小麦粉を付着させたものを卵液の中にくぐらせ、次いでパン粉を付着させ、油ちょうして調理される。しかしながら、家庭においては、調理時間の短縮、油の処理の手間がかかることや、さらには、市販されている揚げ物食品のバリエーションの多さなどから、スーパーの総菜売り場やコンビニエンスストアの加温什器から油ちょう調理済の商品を購入する機会が増えている。また、お弁当用やおやつ用には、油ちょう済の冷凍揚げ物食品が多くの利用されている。さらには、食品ロス低減の観点から、消費期限延長も求められ、冷蔵食品や冷凍食品に対するニーズが拡大している。
【0003】
揚げ物食品の工業的な利用においては、(1)製造工場にて衣付けした後、凍結し、店舗販売時直前に店舗にて油ちょうして提供する形態、(2)製造工場にて衣付けして油ちょうした後、凍結し、お客様が電子レンジ調理や自然解凍をして喫食する形態、の大きく2つに分けられる。そして、前者では油ちょう後、店舗陳列時に時間経過とともに具材から衣への水分移行が起こり、後者では冷凍保存中の保管温度の変化などによって、具材から衣への水分移行が起こることで、喫食時に衣のサクミや軽さが失われる、衣の歯切れが悪くなる(衣のヒキともいう)などの食感が悪くなる問題があった。
食品メーカーは、揚げたてのサクサクとした衣の食感を、お客様の喫食時に再現するため、独自にパン粉や小麦粉などの穀粉や加工でん粉等を水に分散させたバッター液(以下、バッターともいう)や、バッターに配合する油脂(以下、バッター用油脂ともいう)について鋭意研究をおこなっており、例えば、特許文献1には、10℃における固体脂含有量が15~35%であり、15℃における固体脂含有量が0~10%であるバッター用油脂が開示されている。また、特許文献2には、油相中に構成脂肪酸がベヘン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルを0.5~35質量%含有することを特徴とするバッター用油脂組成物が開示されているが、これらバッター用油脂について改良に対する更なる要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-094074号公報
【特許文献2】特開2008-253145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑み、油ちょう済みの揚げ物食品ついて、揚げ物の衣の食感が経時的に劣化することを抑制することができる、バッター用油脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記バッター用油脂組成物をバッターに用い、油ちょうした揚げ物食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、バッター用油脂組成物中に、特定の油脂と乳化剤とを特定量配合することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1)ジグリセリン脂肪酸エステルを1.0~4.5質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.5~8.5質量%、エステル交換油脂を10.0~60.0質量%含有するバッター用油脂組成物。
(2)前記油脂組成物の0℃におけるSFCが40~80%であり、10℃におけるSFCが10~60%である、(1)に記載のバッター用油脂組成物。
(3)極度硬化油脂を2.0~25.0質量%含有する、(1)又は(2)に記載のバッター用油脂組成物。
(4)(1)~(3)のいずれか1つに記載のバッター用油脂組成物を2.0~15.0質量%含有する、バッター。
(5)(4)に記載のバッターが付着し、油ちょうされてなる、揚げ物食品。
(6)(4)に記載のバッターが付着し、油ちょう後に冷蔵又は冷凍されてなる、揚げ物食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油ちょう後に、揚げ物食品の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)が経時的に劣化することを抑制できるバッター用油脂組成物、及び、該バッター用油脂組成物を含有するバッターを使用し、油ちょうした揚げ物食品を提供することができる。
また、本発明によれば、油ちょう済みの衣付き揚げ物類を冷蔵又は冷凍処理したものを、電子レンジ等で再加熱した際にも、衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の劣化を抑制することができるバッター用油脂組成物、及び、該バッター用油脂組成物を含有するバッターを使用した、油ちょう済みの冷蔵又は冷凍揚げ物食品を提供することができる。
ここで、本発明において「衣の食感(サクミ)(以下、衣のサクミともいう。)」とは、揚げ物食品を食したときの衣の食感が、サクサクと感じられることを指す。また、本発明において「衣の食感(軽さ)(以下、衣の軽さともいう。)」とは、揚げ物食品を食したときの衣の食感が、適度な硬さをもち、且つ、油っぽさを感じないことを指す。また、本発明において「衣の食感(ヒキ)(以下、衣のヒキともいう。)」とは、揚げ物食品を食したときの衣の食感が、歯切れの悪いことや、ガミー感のある硬さを感じることを指す。
また、本発明において「衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)が経時的に劣化する」とは、油ちょう後、室温で30分以上(好ましくは30分~12時間、より好ましくは30分~4時間)経過した際の衣の食感の劣化を指す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[バッター用油脂組成物]
本発明のバッター用油脂組成物は、ジグリセリン脂肪酸エステルを1.0~4.5質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.5~8.5質量%、エステル交換油脂を10.0~60.0質量%含有し、揚げ物食品を製造する際に使用するバッターに添加して使用されるものである。本発明のバッター用油脂組成物は、揚げ物食品を製造する直前にバッターに添加してもよく、また、予めプレミックスされたバッターに含有させてもよい。
以下、各成分等について詳述する。
【0010】
[ジグリセリン脂肪酸エステル]
本発明におけるジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応生成物であり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。前記エステルはモノエステル体(モノグリセリド)、ジエステル体(ジグリセリド)のいずれであってもよく、あるいはそれらの混合物であってもよい。好ましくはモノエステル体であり、混合物であればモノエステルの含有量が、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上のものがよい。
本発明のバッター用油脂組成物中の前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは1.5~4.5質量%、より好ましくは2.0~4.0質量%、最も好ましくは2.5~3.5質量%である。ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が前記の範囲にあると、衣のサクミを付与する効果により優れる。
【0011】
本発明におけるジグリセリン脂肪酸エステルは、該ジグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が炭素数8~24の不飽和脂肪酸であることが好ましく、オレイン酸を含有することがより好ましい。前記ジグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸としてオレイン酸を好ましくは50~90質量%、より好ましくは60~80質量%含有する。
本発明におけるジグリセリン脂肪酸エステルは、市販品を用いてもよく、例えば、ポエムJ-2081V(ジグリセリンステアリン酸エステル,モノエステル含有量約35%,理研ビタミン(株)製)、ポエムDO-100V(ジグリセリンオレイン酸エステル,モノエステル含有量80%以上,理研ビタミン(株)製)、ポエムDS-100A(ジグリセリンステアリン酸エステル,モノエステル含有量約80%,理研ビタミン(株)製)、ポエムDP-100A(ジグリセリンパルミチン酸エステル,モノエステル含有量80%以上,理研ビタミン(株)製)等が挙げられる。
【0012】
[プロピレングリコール脂肪酸エステル]
本発明におけるプロピレングリコール脂肪酸エステルは、プロピレングリコールと脂肪酸とのエステルであり、エステル化反応、エステル交換反応等自体公知の方法で製造される。前記エステルはモノエステル体であってもジエステル体であってもよいし、あるいはそれらの混合物であってもよい。好ましくはモノエステルであり、混合物であればモノエステルの含有量が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のものがよい。
本発明のバッター用油脂組成物中の前記プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは1.0~7.0質量%、より好ましくは2.5~5.0質量%、最も好ましくは3.0~4.0質量%である。プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が前記の範囲にあると、衣のサクミを付与する効果により優れる。
【0013】
本発明におけるプロピレングリコール脂肪酸エステルは、該プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が炭素数8~24の飽和脂肪酸を含有することが好ましく、パルミチン酸及び/又はステアリン酸を含有することがより好ましい。前記プロピレングリコール脂肪酸エステルは、構成脂肪酸として炭素数8~24の飽和脂肪酸を好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~90質量%含有する。また、前記プロピレングリコール脂肪酸エステルは、構成脂肪酸としてステアリン酸を好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~90質量%含有する。
本発明におけるプロピレングリコール脂肪酸エステルは、市販品を用いてもよく、例えば、リケマールPS-100(プロピレングリコールステアリン酸エステル,モノエステル含有量90%以上,理研ビタミン社製)、リケマールPP-100(プロピレングリコールパルミチン酸エステル,モノエステル含有量90%以上,理研ビタミン社製)、リケマールPB-100(プロピレングリコールベヘニン酸エステル,モノエステル含有量90%以上,理研ビタミン社製)、サンソフトNo.25CD(プロピレングリコールモノステアリン酸エステル,太陽化学(株)製)等が挙げられる。
【0014】
[エステル交換油脂]
本発明におけるエステル交換油脂は、食用油脂を原料とするエステル交換油脂であれば特に限定されない。本発明におけるエステル交換油脂は、1種の油脂の分子内エステル交換油脂、2種以上の混合油脂のエステル交換油脂、及びそれら複数のエステル交換油脂を混合した油脂のいずれかを用いることができる。
本発明におけるエステル交換油脂は、好ましくはパーム系油脂(パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームステアリンなど))を原料とするエステル交換油脂であり、より好ましくは、パーム分別油をエステル交換して得られたヨウ素価50~70のエステル交換油脂である。
【0015】
本発明におけるエステル交換油脂を調製するためのエステル交換反応は、特に制限はなく、位置選択性の低いエステル交換反応である非選択的エステル交換(ランダムエステル交換)、位置選択性の高いエステル交換反応である選択的エステル交換(位置特異的エステル交換)のどちらでもよいが、好ましくは非選択的エステル交換である。また、エステル交換反応の方法は、特に制限はなく、ケミカルエステル交換、酵素的エステル交換のどちらの方法でもよい。しかし、好ましくはケミカルエステル交換である。ケミカルエステル交換は、触媒としてナトリウムメチラートなどの化学触媒を用いて行われるものであり、反応は位置選択性の低い非選択的エステル交換となる。ケミカルエステル交換反応は、例えば、常法に従って、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.1~1質量%添加した後、減圧下、80~120℃で0.5~1時間攪拌しながら行うことができる。エステル交換反応終了後の油脂は、水洗にて触媒を洗い流した後、通常の食用油脂の精製工程で行われる精製処理(脱色、脱臭など)をしてもよい。
【0016】
本発明のバッター用油脂組成物は、前記エステル交換油脂を好ましくは15.0~50.0質量%、より好ましくは20.0~40.0質量%、最も好ましくは25.0~35.0質量%含有する。エステル交換油脂の含有量が前記の範囲にあると、油ちょう後に中種から水分が経時的に衣に移行することを防ぎ、衣の食感の劣化抑制効果により優れる。
【0017】
[極度硬化油脂]
本発明のバッター用油脂組成物は、極度硬化油脂を含有することが好ましい。前記極度硬化油脂は、融点が50℃以上80℃未満であれば特に制限されない。例えば、極度硬化菜種油、極度硬化高エルシン酸菜種油、極度硬化ひまわり油、極度硬化紅花油、極度硬化パーム油等が挙げられる。これらの極度硬化油は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、融点は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996」に準じて測定することができる。
【0018】
本発明のバッター用油脂組成物は、前記極度硬化油脂を好ましくは2.0~25.0質量%、より好ましくは5.0~23.0質量%、さらにより好ましくは8.0~22.0質量%、最も好ましくは10.0~20.0質量%含有する。極度硬化油脂の含有量が前記の範囲にあると、本発明のバッター用油脂組成物のSFCがより調整しやすく、本発明の効果をより奏しやすい。
【0019】
[他の油脂]
本発明のバッター用油脂組成物は、前記エステル交換油脂及び前記極度硬化油脂以外の油脂を含有することができる。前記エステル交換油脂及び前記極度硬化油脂以外の油脂としては、特に限定されず、食用の動植物油を用いることができる。例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション、パームステアリン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、落花生油、乳脂、ココアバター等を使用することができる。また、上記油脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明において、前記エステル交換油脂及び前記極度硬化油脂以外の油脂は、20℃で液状の油脂が好ましい。前記20℃で液状の油脂としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、パームオレイン、パームスーパーオレインから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0020】
本発明のバッター用油脂組成物は、前記エステル交換油脂及び前記極度硬化油脂以外の油脂を好ましくは10.0~85.0質量%、より好ましくは20.0~75.0質量%、さらにより好ましくは30.0~70.0質量%、最も好ましくは40.0~60.0質量%含有する。エステル交換油脂及び極度硬化油脂以外の油脂の含有量が前記の範囲にあると、衣の食感の劣化抑制効果により優れる。
【0021】
[SFC]
本発明のバッター用油脂組成物は、0℃におけるSFC(固体脂含量)が、好ましくは40~80%、より好ましくは45~75%、さらにより好ましくは50~70%、最も好ましくは55~65%であり、10℃におけるSFCが、好ましくは10~60%、より好ましくは15~60%、さらにより好ましくは30~55%、最も好ましくは45~55%である。0℃と10℃のSFCが前記の範囲にあると、バッター調製時の作業性と、衣の食感の劣化抑制効果により優れる。
また、本発明のバッター用油脂組成物は、20℃におけるSFCが、好ましくは5~55%、より好ましくは10~55%、さらにより好ましくは20~50%、最も好ましくは35~50%である。20℃のSFCが前記の範囲にあると本発明の効果をより奏しやすい。
【0022】
前記SFC(固体脂含量)は、60℃以上で完全に溶解した油脂を、液体窒素を用いて-60℃まで冷却、その後5℃/minで60℃まで昇温したときの吸熱量をDSC(示差走査熱量測定)により測定し、以下の式により算出して求めることができる。
SFC(%)=(完全固体から任意温度までの吸熱量/完全固体から完全液体までの全吸熱量)×100
【0023】
[他の原料]
本発明のバッター用油脂組成物は、上記成分のほかにその他の添加剤として、抗酸化剤、乳化剤(但し、前述のジグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルを除く)、色素、フレーバーなど、通常のバッター用油脂に使用する添加物を含むことができる。
【0024】
[バッター]
本発明のバッターは、小麦粉、加工澱粉、大豆粉、水等を主原料とする液状物である。本発明のバッターは、本発明のバッター用油脂組成物を含有すること以外は、常法により製造したものを用いることができる。例えば、衣付き揚げ物の製造においては、バッターを中種に付着させ、さらにその外側にブレッダー(パン粉等)を付着させて使用する、バッターを最外部として使用する、あるいはバッターを焼成した揚げ物の麺帯に使用する用途のいずれにも利用できる。
本発明のバッターは、本発明のバッター用油脂組成物を2.0~15.0質量%含有する。また、本発明のバッターは、本発明のバッター用油脂組成物を、好ましくは3.0~12.0質量%、最も好ましくは5.0~10.0質量%含有することができる。バッター中の本発明のバッター用油脂組成物が前記の範囲にあると、油ちょう後に中種から水分が経時的に衣に移行することを防ぎ、衣の食感の劣化抑制効果により優れる。
【0025】
[揚げ物食品]
本発明の揚げ物食品は、本発明のバッター用油脂組成物を使用して製造された揚げ物食品である。本発明の揚げ物食品は、油ちょう後に中種から水分が経時的に衣に移行することを防ぎ、衣の食感が劣化することを抑制する効果を有する。
本発明の揚げ物食品は、特に限定されないが、例えば、コロッケ、とんかつ、メンチカツ、カレーパン、ピロシキ、惣菜揚げパン(ソーセージ揚げパンなど)等のようにバッターの外側にブレッダー(パン粉等)を用いるもの(以下、パン粉付き揚げ物ともいう。)、唐揚げ、天ぷら、チキンナゲット等のようにバッター液が最外部となるもの、さらに春巻きのように、小麦粉を主原料とするバッター液をドラムや鉄板にて焼成し、得られた皮を包んだ後、油ちょう加熱するものが挙げられる。本発明の揚げ物食品としては、前記のコロッケ、とんかつ、メンチカツ、唐揚げ、天ぷらなどの衣付き揚げ物が好ましく、前記のパン粉付き揚げ物がより好ましい。
【0026】
[冷蔵又は冷凍されてなる揚げ物食品]
本発明の冷蔵又は冷凍されてなる揚げ物食品は、本発明のバッターを使用して油ちょう後に、冷蔵又は冷凍処理された揚げ物食品である。本発明の冷蔵又は冷凍されてなる揚げ物食品は、冷蔵又は冷凍保存中に中種から水分が経時的に衣に移行することを防ぎ、調理して喫食する際には、衣の食感が劣化することを抑制する効果を有する。なお、本発明の冷蔵又は冷凍されてなる揚げ物食品は、衣の食感が劣化することを抑制する効果がより得られやすい観点から、冷凍されてなる揚げ物食品がより好ましい。
【0027】
本発明の冷蔵又は冷凍されてなる揚げ物食品の製造は、本発明のバッターを含有すること以外は、常法により製造されたものである。例えば、冷蔵処理の場合は、油ちょうした揚げ物食品を、1~10℃程度で保管することで製造できる。また、冷凍処理の場合は、油ちょうした揚げ物食品を-50~-20℃で急速冷凍した後、-18℃程度で保管することで製造できる。
【実施例0028】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0029】
[バッター用油脂組成物の製造]
表1及び2に示した配合に従い、以下の方法によりバッター用油脂組成物を製造した。すなわち、全ての原料を70℃以上で加熱溶解し、混合して均一化した後、コンビネーターを用いて30℃以下に冷却することで、バッター用油脂組成物(実施例1~6、比較例1~4)を得た。
【0030】
表1及び2中の各原料は以下のものを用いた。
・油脂1:精製パームオレイン〔ヨウ素価65,20℃で液体状〕(日清オイリオグループ(株)製造品)
・油脂2:精製大豆油〔20℃で液体状〕(日清オイリオグループ(株)製造品)
・油脂3:精製菜種油〔精製キャノーラ油,20℃で液体状〕(日清オイリオグループ(株)製造品)
・油脂4:精製パーム油(日清オイリオグループ(株)製造品)
・エステル交換油脂:パームオレイン〔ヨウ素価56〕(日清オイリオグループ(株)製造品)を、減圧下120℃に加熱することにより十分に乾燥させた後、対油0.1質量%のナトリウムメチラートを添加し、減圧下、110℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。反応終了後、ナトリウムメチラートを水洗除去し、常法の精製方法に従って、脱色、脱臭処理して、エステル交換油脂〔ヨウ素価56〕を得た。
・極度硬化油脂:菜種極度硬化油〔融点60℃〕(商品名:ハイエルシン菜種極度硬化油,横関油脂工業(株)製)
・乳化剤1:ジグリセリン脂肪酸エステル〔ジグリセリンモノオレイン酸エステル,全モノエステル含量70%以上,HLB7.4〕(商品名:ポエムDO-100V,理研ビタミン(株)製)
・乳化剤2:プロピレングリコール脂肪酸エステル〔プロピレングリコールモノステアリン酸エステル,全モノエステル含量90%以上,HLB3.9〕(商品名:サンソフトNo.25CD,太陽化学(株)製)
【0031】
[冷凍衣付き揚げ物の製造]
中種は、市販のコロッケ(商品名:衣がサクサクのコロッケ(牛肉入り),(株)ニチレイ製)の衣を除去したもの(40g/個)を使用した。中種にバッター(小麦粉18質量%、大豆粉7質量%、食塩0.5質量%、増粘多糖類0.3質量%、上記で製造したバッター用油脂組成物10質量%、水64.2質量%)を付け、パン粉(商品名:K&K純正パン粉焙焼パン粉No15(15mm))を付けた後、175℃のフライ油で5分間フライして衣付き揚げ物を得た。次に衣付き揚げ物を室温で30分間徐冷した後、市販のフードパックに入れて密閉し、-20℃で1時間急速凍結した後、-10℃で保存して冷凍衣付き揚げ物を得た。
【0032】
[揚げ物の衣の食感の評価]
上記で製造した冷凍衣付き揚げ物を-10℃で8日間保存した後、4個当たり600Wで3分50秒間の電子レンジ加熱を行った。20分間放冷した後、5名の専門パネリストが、揚げ物を食したときの衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)を、下記の採点基準で採点し、次に、5名の採点の平均点を算出し、下記の評価基準で評価した。評価結果を表1及び2に示す(表中の括弧内の数値は平均点を指す)。
(サクミの採点基準)
4点:実施例6と同等のサクサクとした食感を感じ、非常に良好なもの
3点:4点よりも若干サクサクとした食感が劣るが、良好なもの
2点:3点よりも若干サクサクとした食感が劣るが、概ね可なもの
1点:サクサクとした食感が弱く、不可なもの
0点:比較例1と同等の食感であり、サクサク感を全く感じず、著しく不可なもの
(軽さの採点基準)
4点:実施例6と同等の軽い食感を感じ、非常に良好なもの
3点:4点よりも若干軽い食感が劣るが、良好なもの
2点:3点よりも若干軽い食感が劣るが、概ね可なもの
1点:軽い食感が弱く、不可なもの
0点:比較例1と同等の食感であり、軽い食感を全く感じず、著しく不可なもの
(ヒキの採点基準)
4点:実施例6と同等の食感であり、ヒキを感じず、非常に良好なもの
3点:4点よりも若干ヒキを感じるが、良好なもの
2点:3点よりも若干ヒキを感じるが、概ね可なもの
1点:ヒキを感じ、不可なもの
0点:比較例1と同等の食感であり、強いヒキを感じ、著しく不可なもの
(評価基準)
◎:3.2~4
○:2.0~3.0
×:0~1.8
【0033】
[総合評価]
上記の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の評価結果について、下記の評価基準で総合評価した。評価結果を表1及び2に示す(表中の括弧内の数値は平均点を指す)。
(評価基準)
◎◎:全ての評価が「◎」
◎ :2つの評価が「◎」
○ :1つの評価が「◎」、又は3つの評価が「○」
× :いずれかの評価が「×」
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1及び2の結果より、ジグリセリン脂肪酸エステルを1.5~4.0質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを1.0~7.0質量%、エステル交換油脂を15.0~50.0質量%含有するバッター用油脂組成物(実施例1~6)を使用して製造した冷凍揚げ物食品は、電子レンジ加熱をした後の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の劣化が抑制されたものであった。
【0037】
[カレーパンの製造]
生地は、市販のカレーパン生地(商品名:Sカレーパン,(株)イズム製)を使用した。冷凍生地を1時間室温解凍後、バッター(商品名:バッターミックス粉L,日東富士製粉(株)製質量17.7質量%、バッター用油脂組成物(本発明の実施例6、又は比較例1)3.0質量%、水79.3質量%)を付け、さらに、パン粉(商品名:K&K純正パン粉焙焼パン粉No15(15mm))を付けた後、1時間ホイロ(温度35.0℃、湿度75.0%)を行い、10分間放冷乾燥後、175℃のフライ油で両面を2分30秒ずつフライしてカレーパンを得た。次にカレーパンを室温で30分間徐冷した後、-20℃で1時間急速凍結し、さらに、-10℃で保存して冷凍カレーパンを得た。
【0038】
[カレーパンの食感の評価]
上記で製造した冷凍カレーパンを-10℃で1日間保存した後、1個当たり600Wで1分間の電子レンジ加熱を行った。次に、175℃のフライ油で両面を30秒ずつリフライして、70℃に設定したホットボックス中で4時間保温した。
5名の専門パネリストが、カレーパンを食したときの衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)を、下記の採点基準で採点し、次に、5名の採点の平均点を算出し、下記の評価基準で評価した。なお、対照例は、上記比較例1のバッター用油脂組成物を配合したバッターで製造したカレーパンとした。評価結果を表3に示す(表中の括弧内の数値は平均点を指す)。
(サクミの採点基準)
2点:1点よりも、さらにサクサクとした食感であり、より良好なもの
1点:対照例と比べ、サクサクとした食感であり、良好なもの
0点:対照例と同等(又は対照例より悪い)の食感であり、サクサク感が無く、不可なもの
(軽さの採点基準)
2点:1点よりも、さらに軽い食感であり、より良好なもの
1点:対照例と比べ、軽い食感であり、良好なもの
0点:対照例と同等(又は対照例より悪い)の食感であり、軽い食感が無く、不可なもの
(ヒキの採点基準)
2点:1点よりも、さらにヒキを感じず、より良好なもの
1点:対照例と比べ、ヒキを感じず、良好なもの
0点:対照例と同等(又は対照例より悪い)の食感であり、ヒキを感じ、不可なもの
(評価基準)
◎:1.6~2
○:1.0~1.4
×:0~0.8
【0039】
[総合評価]
上記の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の評価結果について、下記の評価基準で総合評価した。評価結果を表3に示す(表中の括弧内の数値は平均点を指す)。
(評価基準)
◎◎:全ての評価が「◎」
◎ :2つの評価が「◎」
○ :1つの評価が「◎」、又は3つの評価が「○」
× :いずれかの評価が「×」
【0040】
表3の結果より、ジグリセリン脂肪酸エステルを3.0質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを3.5質量%、エステル交換油脂を30.0質量%含有するバッター用油脂組成物(実施例6)を使用して製造した冷凍カレーパンは、電子レンジ加熱、リフライ後にホットボックス中で保温した後の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の劣化が抑制されたものであった。
【0041】
[チキンナゲットの製造]
中種は、市販のチキンナゲット(商品名:国産鶏肉使用徳用チキンナゲット,丸大食品(株)製)の衣を除去したものを使用した。バッター(商品名:金星Y―24,日東富士製粉(株)製36.4質量%、商品名:から揚げの素No.1,日本食研製造(株)製9.1質量%、バッター用油脂組成物(本発明の実施例6、又は比較例1)3.0質量%、水51.5質量%)を付け、175℃のフライ油で3分間フライしてチキンナゲットを得た。次にチキンナゲットを室温で30分間徐冷し、-20℃で1時間急速凍結した後、-10℃で保存して冷凍チキンナゲットを得た。
【0042】
[チキンナゲットの食感の評価]
上記で製造した冷凍チキンナゲットを-10℃で1日間保存した後、175℃のフライ油で1分間リフライし、70℃に設定したホットボックス中で4時間保温した。5名の専門パネリストが、チキンナゲットを食したときの衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)を、上記のカレーパンと同じ採点基準で採点し、次に、5名の採点の平均点を算出し、上記のカレーパンと同じ評価基準で評価した。なお、対照例は、上記比較例1のバッター用油脂組成物を配合したバッターで製造したチキンナゲットとした。評価結果を表3に示す。
【0043】
[総合評価]
上記の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の評価結果について、カレーパンと同じ評価基準で総合評価した。評価結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3の結果より、ジグリセリン脂肪酸エステルを3.0質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを3.5質量%、エステル交換油脂を30.0質量%含有するバッター用油脂組成物(実施例6)を使用して製造した冷凍チキンナゲットは、リフライ後にホットボックス中で保温した後の衣の食感(サクミ、軽さ、ヒキ)の劣化が抑制されたものであった。