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特開2023-95813樹脂フィルム、及び、樹脂フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095813
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、及び、樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230629BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230629BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C08J5/18 CET
C08J5/18 CEW
C08J5/18 CEZ
B32B7/025
C08J7/00 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203025
(22)【出願日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021211473
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川原 良介
(72)【発明者】
【氏名】内田 徳之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA15X
4F071AA21
4F071AA22
4F071AA22X
4F071AA26
4F071AA27X
4F071AA51
4F071AA69
4F071AA75
4F071AA86
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE03
4F071AF20Y
4F071AF40Y
4F071AF45Y
4F071AF53
4F071AG05
4F071AG14
4F071AH13
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F073AA05
4F073AA12
4F073BA06
4F073BA15
4F073BA19
4F073BA27
4F073BA48
4F073BB01
4F073CA42
4F100AK01A
4F100AK12A
4F100AK41B
4F100AK73A
4F100AL02A
4F100AL05A
4F100AS00B
4F100AT00B
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA02A
4F100EJ53
4F100EJ54
4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JB16A
4F100JG04
4F100JG05A
4F100JJ03
4F100JK07
4F100JK07A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができ、ハンダリフロー耐性にも優れた樹脂フィルムを提供する。また、該樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上である樹脂フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、
20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、
動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上である
ことを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項2】
動的粘弾性測定により得られた200℃での引張弾性率E1’が0.2GPa以上であることを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
架橋助剤に由来する架橋部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記架橋助剤は、5%重量減少温度Td5が240℃以上であることを特徴とする請求項3記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記架橋助剤に由来する架橋部は、下記一般式(1)で表されるマレイミド基に由来する構造を含有することを特徴とする請求項3記載の樹脂フィルム。
【化1】
【請求項6】
前記架橋助剤は、下記一般式(2)で表されるマレイミド基を含有することを特徴とする請求項3記載の樹脂フィルム。
【化2】
【請求項7】
前記架橋助剤は、1MHzでの誘電率Dkが3.0以下であることを特徴とする請求項3記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
樹脂フィルム全体に占める前記架橋助剤の含有量が5重量%を超え、30重量%以下であることを特徴とする請求項3記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂は、融点(Tm)が270℃以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
表層と基材層とを有することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂フィルム。
【請求項13】
前記基材層を構成する熱可塑性樹脂は、液晶ポリマー(LCP)を含有することを特徴とする請求項12記載の樹脂フィルム。
【請求項14】
前記基材層を構成する熱可塑性樹脂に占める前記液晶ポリマー(LCP)の含有量が50重量%以下であることを特徴とする請求項13記載の樹脂フィルム。
【請求項15】
熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、
20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、
動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上であり、
架橋助剤に由来する架橋部を有し、
前記架橋助剤は、5%重量減少温度Td5が240℃以上であり、
前記熱可塑性樹脂は、融点(Tm)が270℃以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項16】
熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、
20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、
動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上であり、
架橋助剤に由来する架橋部を有し、
前記架橋助剤は、5%重量減少温度Td5が240℃以上であり、
前記熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項17】
請求項1、15又は16記載の樹脂フィルムを製造する方法であって、
紫外線(UV)照射又は電子線(EB)照射を行うことで前記熱可塑性樹脂を架橋助剤により架橋する工程を有する
ことを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、及び、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる配線基板として、例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)がある。フレキシブルプリント基板は、絶縁性のベースフィルム上に銅箔を積層した銅張積層板(CCL)を用い、例えば、銅箔のエッチング処理等を行うことにより銅配線を形成し、銅配線の保護を目的として更にカバーレイフィルムを貼り合わせること等により作製される。銅張積層板に用いられるベースフィルムには、一般的にポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)等が用いられている(例えば、特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-188339号公報
【特許文献2】特開2016-205967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の分野ではより大容量のデータをより高速に送受信することが求められ、いわゆる第5世代移動通信システム(5G)の実用化も進められており、これに伴い、伝送信号の高周波数化が進められている。しかしながら、高周波数化により、伝送信号の減衰量(「伝送損失」という)が大きくなるという問題が生じている。銅張積層板に用いられるベースフィルムとしても、このような伝送損失を抑えることができ、伝送信号が高周波数化した場合にも好適に使用できる新たなフィルムが求められている。
【0005】
本発明は、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができ、ハンダリフロー耐性にも優れた樹脂フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、該樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示1は、熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上である樹脂フィルムである。
本開示2は、動的粘弾性測定により得られた200℃での引張弾性率E1’が0.2GPa以上である、本開示1の樹脂フィルムである。
本開示3は、架橋助剤に由来する架橋部を有する、本開示1又は2の樹脂フィルムである。
本開示4は、前記架橋助剤は、5%重量減少温度Td5が240℃以上である、本開示3の樹脂フィルムである。
本開示5は、前記架橋助剤に由来する架橋部が、下記一般式(1)で表されるマレイミド基に由来する構造を含有する、本開示3又は4の樹脂フィルムである。
【0007】
【化1】
本開示6は、前記架橋助剤が、下記一般式(2)で表されるマレイミド基を含有する、本開示3又は4の樹脂フィルムである。
【0008】
【化2】
【0009】
本開示7は、前記架橋助剤が、1MHzでの誘電率Dkが3.0以下である、本開示3、4、5又は6の樹脂フィルムである。
本開示8は、樹脂フィルム全体に占める前記架橋助剤の含有量が5重量%を超え、30重量%以下である、本開示3、4、5、6又は7の樹脂フィルムである。
本開示9は、前記熱可塑性樹脂が、融点(Tm)が270℃以上の熱可塑性樹脂を含有する、本開示1、2、3、4、5、6、7又は8の樹脂フィルムである。
本開示10は、前記熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の熱可塑性樹脂を含有する、本開示1、2、3、4、5、6、7、8又は9の樹脂フィルムである。
本開示11は、前記熱可塑性樹脂が、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂を含有する、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の樹脂フィルムである。
本開示12は、表層と基材層とを有する、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11の樹脂フィルムである。
本開示13は、前記基材層を構成する熱可塑性樹脂が、液晶ポリマー(LCP)を含有する、本開示12の樹脂フィルムである。
本開示14は、前記基材層を構成する熱可塑性樹脂に占める前記液晶ポリマー(LCP)の含有量が50重量%以下である、本開示13の樹脂フィルムである。
本開示15は、熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上であり、架橋助剤に由来する架橋部を有し、前記架橋助剤は、5%重量減少温度Td5が240℃以上であり、前記熱可塑性樹脂は、融点(Tm)が270℃以上の熱可塑性樹脂を含有する、樹脂フィルムである。
本開示16は、熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムであって、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下であり、動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上であり、架橋助剤に由来する架橋部を有し、前記架橋助剤は、5%重量減少温度Td5が240℃以上であり、前記熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の熱可塑性樹脂を含有する、樹脂フィルムである。
本開示17は、本開示1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は16の樹脂フィルムを製造する方法であって、紫外線(UV)照射又は電子線(EB)照射を行うことで前記熱可塑性樹脂を架橋助剤により架橋する工程を有する、樹脂フィルムの製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0010】
伝送損失は周波数に比例して大きくなるため、伝送信号が高周波数化すると、伝送損失が大きくなることは避けられない問題である。高周波数帯(例えば、1~80GHz付近)での伝送損失を抑えるためには、例えば、銅張積層板に用いられるベースフィルムとして、高周波数帯での誘電特性に優れたフィルムを用いることが考えられる。即ち、伝送損失は、周波数に加えて、導通部分の周辺に存在する絶縁性部分の誘電率Dk及び誘電正接Dfにも影響されるため、高周波数帯において誘電率Dk及び/又は誘電正接Dfが小さいフィルムを用いることで、伝送損失を抑えることが期待される。
【0011】
しかしながら、高周波数帯において誘電率Dk及び/又は誘電正接Dfが小さいフィルムは、銅張積層板から配線基板を作製する過程で行われるハンダリフロー等の工程で高温に晒されると変形しやすく、配線基板に反りを生じさせることがあった。
【0012】
本発明者らは、熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムにおいて、20GHzでの誘電正接Dfを一定値以下に調整し、かつ、動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’を一定値以上に調整することを検討した。本発明者らは、このような樹脂フィルムであれば、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができ、ハンダリフロー耐性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する樹脂フィルムである。
本発明の樹脂フィルムは、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下である。これにより、本発明の樹脂フィルムは、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができる。上記20GHzでの誘電正接Dfは0.001以下であることが好ましく、0.0008以下であることがより好ましい。
上記20GHzでの誘電正接Dfの下限は特に限定されず、小さいほど好ましい。上記20GHzでの誘電正接Dfの好ましい下限は0.0001である。
なお、20GHzでの誘電正接Dfは、例えば、PNAネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)等を用い、JIS R1641に準拠して、40mm角のフィルム状のサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により測定することができる。
【0014】
上記20GHzでの誘電正接Dfを上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂の種類、物性等を調整する方法が好ましい。また、上記熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂の分子間)を架橋するために架橋助剤を配合する場合は、該架橋助剤の種類、物性、含有量等を調整する方法も好ましい。
【0015】
本発明の樹脂フィルムは、動的粘弾性測定により得られた50℃での引張弾性率E1’が2.0GPa以上である。これにより、本発明の樹脂フィルムは、高温に晒されても変形しにくくなり、ハンダリフロー耐性が向上する。上記50℃での引張弾性率E1’は2.5GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましく、3.5GPa以上であることが更に好ましい。
上記50℃での引張弾性率E1’の上限は特に限定されないが、樹脂フィルムの柔軟性を確保する観点から、好ましい上限は10GPa、より好ましい上限は7.5GPaである。
【0016】
本発明の樹脂フィルムの動的粘弾性測定により得られた200℃での引張弾性率E1’は特に限定されないが、好ましい下限が0.2GPaである。上記200℃での引張弾性率E1’が0.2GPa以上であれば、樹脂フィルムは、高温に晒されてもより変形しにくくなり、ハンダリフロー耐性がより向上する。上記200℃での引張弾性率E1’のより好ましい下限は0.35であり、更に好ましい下限は0.4GPaである。
上記200℃での引張弾性率E1’の上限は特に限定されないが、樹脂フィルムの柔軟性を確保する観点から、好ましい上限は10GPa、より好ましい上限は7.5GPaである。
なお、50℃及び200℃での引張弾性率E1’は、例えば、動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御社製)等を用い、昇温速度10℃/min、測定周波数10Hz、測定温度領域30~300℃で引張モードにて求めることができる。
【0017】
上記50℃での引張弾性率E1’を上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂の種類、物性等を調整する方法が好ましい。また、上記熱可塑性樹脂に架橋助剤を配合するとともに紫外線(UV)照射、電子線(EB)照射等の後処理を行うことで、上記熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂の分子間)を該架橋助剤により架橋する方法、該架橋助剤の種類、物性、含有量等を調整する方法も好ましい。
【0018】
上記熱可塑性樹脂は特に限定されず、上記20GHzでの誘電正接Df及び上記50℃での引張弾性率E1’を上記範囲に調整できればよいが、20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。上記熱可塑性樹脂が上記20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂を含有することで、樹脂フィルムは、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができる。上記20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂は、20GHzでの誘電正接Dfが0.0012以下であることがより好ましく、0.001以下であることが更に好ましい。
上記20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂の20GHzでの誘電正接Dfの下限は特に限定されず、小さいほど好ましい。上記20GHzでの誘電正接Dfが0.0015以下の熱可塑性樹脂の20GHzでの誘電正接Dfの好ましい下限は0.0001である。
なお、熱可塑性樹脂の20GHzでの誘電正接Dfは、樹脂フィルムの20GHzでの誘電正接Dfと同様にして測定することができる。このときの40mm角のフィルム状のサンプルは、例えば、熱可塑性樹脂を熱プレスすることにより厚み50μmのフィルムを作製し、40mm角にカットすることで得ることができる。
【0019】
上記熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。上記熱可塑性樹脂が上記ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の熱可塑性樹脂を含有することで、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。上記ガラス転移温度(Tg)は100℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが更に好ましい。
上記ガラス転移温度(Tg)の上限は特に限定されない。
ガラス転移温度(Tg)は、例えば次のように測定することができる。ガラス転移温度(Tg)は動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御社製)を用い、昇温速度10℃/min、測定周波数10Hz、測定温度領域30~300℃で引張モードにて測定した際、tanδが極大値(ピーク)を示す温度である。非晶性の樹脂であれば最も高温領域のtanδのピークを示す温度、結晶性樹脂であれば結晶性のピークを除いた2番目の高温領域のtanδのピークを示す温度がガラス転移温度に該当する。
【0020】
上記熱可塑性樹脂は、融点(Tm)が270℃以上の熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。上記熱可塑性樹脂が上記融点(Tm)が270℃以上の熱可塑性樹脂を含有することで、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。上記融点(Tm)は280℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましい。
上記融点(Tm)の上限は特に限定されないが、樹脂フィルムの押出成形を良好に行う観点から、400℃以下であることが好ましく、360℃以下であることが更に好ましい。
融点(Tm)は、例えば次のように測定することができる。融点(Tm)は動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御社製)を用い、昇温速度10℃/min、測定周波数10Hz、測定温度領域30~300℃で引張モードにて測定した際、tanδが極大値(ピーク)を示す温度である。また、tanδが複数存在する場合は最も高温領域のtanδのピークを示す温度が該当する。
【0021】
上記熱可塑性樹脂は特に限定されないが、上記20GHzでの誘電正接Df、上記ガラス転移温度(Tg)、上記融点(Tm)等が上記範囲を満たす観点から、例えば、液晶ポリマー(LCP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスチレン(PS)、等が挙げられる。
なかでも、上記20GHzでの誘電正接Dfが好ましい範囲となりやすいことから、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)及びポリスチレン(PS)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂がより好ましい。
【0022】
上記液晶ポリマー(LCP)は、ある特定の温度範囲で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーであることが好ましい。
上記液晶ポリマー(LCP)は特に限定されず、例えば、液晶性芳香族ポリエステル樹脂、液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂、これら液晶性芳香族ポリエステル樹脂又は液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂を同一分子鎖中に部分的に含むポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの液晶ポリマー(LCP)は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記液晶性芳香族ポリエステル樹脂は特に限定されず、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル樹脂が挙げられる。
上記芳香族ヒドロキシカルボン酸は特に限定されず、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0024】
また、上記液晶性芳香族ポリエステル樹脂としては、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族又は脂環式ジカルボン酸と、芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールとからなるポリエステル樹脂も挙げられる。
上記芳香族又は脂環式ジカルボン酸は特に限定されず、上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記脂環式ジカルボン酸としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の炭素数8~12のジカルボン酸、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0025】
上記芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールは特に限定されず、上記芳香族ジオールとしては、例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記脂環式ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、アダマンタンジオール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。上記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、これらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、重合時の反応性に優れ、得られる液晶性芳香族ポリエステル樹脂の物性を調整しやすいことから、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0026】
上記液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂は特に限定されず、例えば、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンとからなるポリエステルアミド樹脂が挙げられる。
上記芳香族ヒドロキシアミンは特に限定されず、例えば、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。上記芳香族ジアミンは特に限定されず、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらの置換体又は誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
また、上記液晶性芳香族ポリエステルアミド樹脂としては、上述したような芳香族ヒドロキシカルボン酸と、上述したような芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンと、上述したような芳香族又は脂環式ジカルボン酸と、上述したような芳香族、脂環式又は脂肪族ジオールとからなるポリエステルアミド樹脂も挙げられる。
【0028】
上記液晶ポリマー(LCP)の流動開始温度は特に限定されないが、好ましい下限は270℃、好ましい上限は400℃であり、より好ましい下限は280℃、より好ましい上限は380℃である。上記流動開始温度が上記範囲内であれば、高耐熱性と成形性とを兼ね備えた樹脂となる。
なお、流動開始温度は、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリマー(LCP)を溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。
【0029】
上記液晶ポリマー(LCP)の溶融粘度は特に限定されないが、上記流動開始温度より30℃高い温度において、径0.5mm及び長さ10mmのキャピラリーを使用し、せん断速度1000秒-1で測定した溶融粘度の好ましい下限は10Pa・s、好ましい上限は600Pa・sである。上記溶融粘度が上記範囲内であれば、高耐熱性と成形性とを兼ね備えた樹脂となる。
【0030】
上記液晶ポリマー(LCP)の溶融張力は特に限定されないが、上記流動開始温度より30℃高い温度において、径0.5mm及び長さ10mmのキャピラリーを使用し、引取速度42m/分で測定した溶融張力の好ましい下限は1mN、好ましい上限は20mNである。上記溶融張力が上記範囲内であれば、高耐熱性と成形性とを兼ね備えた樹脂となる。
なお、溶融張力は、例えば、キャピログラフ(東洋精機製作所社製)等を用いて測定できる。
【0031】
上記液晶ポリマー(LCP)の市販品として、例えば、JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標)、東レ社製のシベラス(登録商標)、ポリプラスチックス社製の商品名ラペロス等が挙げられる。
【0032】
上記シクロオレフィンポリマー(COP)とは、主鎖及び側鎖のうちの一方又は両方に環状オレフィンに由来する構成単位を有するポリマーである。
上記環状オレフィンは特に限定されず、多環式の環状オレフィンであってもよく、単環式の環状オレフィンであってもよい。
上記多環式の環状オレフィンは特に限定されず、例えば、ノルボルネン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブチルノルボルネン等のノルボルネン化合物が挙げられる。また、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン等のジシクロペンタジエン化合物も挙げられる。更に、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエン等も挙げられる。
上記単環式の環状オレフィンは特に限定されず、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエン等が挙げられる。
上記シクロオレフィンポリマー(COP)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記シクロオレフィンコポリマー(COC)とは、上述したような環状オレフィンに由来する構成単位と、エチレン、α-オレフィン等の非環状オレフィンに由来する構成単位とを有するポリマーである。
上記α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数3~20の直鎖状α-オレフィンが挙げられる。また、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン等の炭素数4~20の分岐状α-オレフィンも挙げられる。
上記シクロオレフィンコポリマー(COC)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記シクロオレフィンポリマー(COP)及び上記シクロオレフィンコポリマー(COC)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は130℃、好ましい上限は190℃であり、より好ましい下限は140℃であり、更に好ましい下限は150℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。
【0035】
上記シクロオレフィンポリマー(COP)の市販品として、例えば、日本ゼオン社製の商品名ZEONOR、ZEONEX(登録商標)、JSR社製の商品名ARTON(登録商標)等が挙げられる。上記シクロオレフィンコポリマー(COC)の市販品として、例えば、ポリプラスチックス社製の商品名TOPAS(登録商標)(ノルボルネンとエチレンとが共重合したシクロオレフィンコポリマー)、三井化学社製の商品名APEL(登録商標)等が挙げられる。
【0036】
上記エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)とは、テトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン、C)とエチレンとの共重合体である。
上記エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は60℃、好ましい上限は100℃であり、より好ましい下限は80℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。
上記エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)の市販品として、例えば、AGC社製のFluon ETFE(登録商標)等が挙げられる。
【0038】
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)とは、テトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン、C)とパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体である。
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は70℃、好ましい上限は110℃であり、より好ましい下限は80℃であり、更に好ましい下限は100℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0039】
上記パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)の市販品として、AGC社製のFluon+TM EA-2000(登録商標)等が挙げられる。
【0040】
上記ポリフェニレンエーテル(PPE)とは、芳香族ポリエーテルの重合体である。上記ポリフェニレンエーテル(PPE)には、ポリマーアロイとしてポリスチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等が含有されていてもよい。
上記ポリフェニレンエーテル(PPE)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は100℃、好ましい上限は220℃であり、より好ましい下限は130℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。
上記ポリフェニレンエーテル(PPE)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
上記ポリフェニレンエーテル(PPE)の市販品として、例えば、SABIC社製のノリル、旭化成社製のザイロン、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のユピエース等が挙げられる。
【0042】
上記ポリスチレン(PS)とは、スチレンに由来する構成単位を有する重合体又は共重合体である。上記ポリスチレン(PS)は、上記スチレンに由来する構成単位に加えて、更に、例えばエチレン、ブチレン、マレイミド化合物、アクリレート化合物等に由来する構成単位等の他の構成単位を有していてもよい。
上記ポリスチレン(PS)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限は80℃、好ましい上限は120℃であり、より好ましい下限は90℃、より好ましい上限は110℃である。上記ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを押出成形によって良好に製造することができるとともに、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。
上記ポリスチレン(PS)は1種のみが単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記ポリスチレン(PS)の市販品として、例えば、PSジャパン社製のGPPS 679、HIPS AGI02等が挙げられる。
【0044】
本発明の樹脂フィルムは、上記熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂の分子間)が架橋助剤により架橋されていることが好ましい。即ち、本発明の樹脂フィルムは、架橋助剤に由来する架橋部を有することが好ましい。
上記熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂の分子間)が上記架橋助剤により架橋されていること、即ち、上記架橋助剤に由来する架橋部を有することにより、樹脂フィルムは、上記50℃での引張弾性率E1’が上記範囲を満たしやすくなり、ハンダリフロー耐性がより向上する。
なお、樹脂フィルムが架橋助剤に由来する架橋部を有することは、例えば、赤外吸収スペクトル(IR)測定により架橋部に含まれる官能基(例えば、マレイミド基中のカルボニル基)を検出すること等により確認することができる。なお、架橋助剤は、一般に架橋剤と呼ばれることもある。
【0045】
上記架橋助剤の5%重量減少温度Td5は特に限定されないが、好ましい下限が240℃である。上記5%重量減少温度Td5が240℃以上であれば、樹脂フィルムを製造する際の上記架橋助剤の揮発及び分解を抑えることができるため、樹脂フィルムは、上記20GHzでの誘電正接Dfが好ましい範囲となりやすく、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができる。上記5%重量減少温度Td5のより好ましい下限は270℃、更に好ましい下限は300℃、特に好ましい下限は400℃である。
上記5%重量減少温度Td5の上限は特に限定されないが、一般に使用される架橋助剤の5%重量減少温度Td5の実質的な上限を考慮すると、好ましい上限は450℃である。
なお、5%重量減少温度Td5は、例えば、Thermo plus EVO(リガク社製)等を用いた熱重量分析により測定することができる。5%重量減少温度Td5は、30mL/minの窒素気流下、昇温速度10℃/minの測定条件下において、初期重量より5%重量減少した温度である。
【0046】
上記架橋助剤の1MHzでの誘電率Dkに限定されないが、3.0以下であることが好ましい。上記1MHzでの誘電率Dkが3.0以下であれば、樹脂フィルムは、上記20GHzでの誘電正接Dfが好ましい範囲となりやすく、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができる。上記1MHzでの誘電率Dkは2.5以下であることがより好ましい。
上記1MHzでの誘電率Dkの下限は特に限定されず、小さいほど好ましい。
なお、1MHzでの誘電率Dkは、例えば、LCRメーター(キーサイトテクノロジー社製)等を用い、JIS C2138に準拠して、60mm角のフィルム状のサンプルについて25℃、1MHzで測定することができる。このときの60mm角のフィルム状のサンプルは、例えば、架橋助剤を熱プレスすることにより厚み50μmのフィルムを作製し、60mm角にカットすることで得ることができる。
【0047】
上記架橋助剤は特に限定されず、紫外線(UV)照射、電子線(EB)照射等の後処理を行うことで上記熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂の分子間)を架橋して三次元網目構造を形成することができる化合物であればよい。具体的には例えば、過酸化物(ペルオキシド化合物)、アリル化合物、マレイミド化合物、無水マレイン酸、硫黄、アミノ樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート樹脂、アミン樹脂、エポキシ樹脂、アルコール樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なかでも、アリル化合物及びマレイミド化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、マレイミド化合物がより好ましい。これらの架橋助剤を用いることで、上記架橋助剤の含有量を比較的低く抑え、かつ、樹脂フィルムを製造する際の上記架橋助剤の揮発及び分解を抑えつつ、樹脂フィルムの上記50℃での引張弾性率E1’を上記範囲に調整することができる。このため、樹脂フィルムは、上記20GHzでの誘電正接Df及び上記50℃での引張弾性率E1’が好ましい範囲となりやすく、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができ、ハンダリフロー耐性もより向上する。
【0048】
上記アリル化合物は特に限定されず、例えば、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート等等が挙げられる。
上記マレイミド化合物は特に限定されず、例えば、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’-(4,4’-メチレンジフェニレン)ジマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6-ビスマレイミド(2,2,4-トリメチル)ヘキサン等が挙げられる。
【0049】
なかでも、上記架橋助剤に由来する架橋部は、下記一般式(1)で表されるマレイミド基に由来する構造を有することが好ましい。
上記架橋助剤に由来する架橋部が下記一般式(1)で表されるマレイミド基に由来する構造を有することで、樹脂フィルムは、上記20GHzでの誘電正接Df及び上記50℃での引張弾性率E1’が好ましい範囲となりやすく、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができ、ハンダリフロー耐性もより向上する。
【0050】
【化3】
【0051】
また、上記架橋助剤に由来する架橋部が上記一般式(1)で表されるマレイミド基に由来する構造を有するためには、上記架橋助剤は、下記一般式(2)で表されるマレイミド基を含有することが好ましい。
【0052】
【化4】
【0053】
上記架橋助剤の含有量は特に限定されないが、樹脂フィルム全体に占める上記架橋助剤の含有量が5重量%を超えることが好ましく、30重量%以下であることが好ましい。上記架橋助剤の含有量が5重量%を超えると、樹脂フィルムは、上記50℃での引張弾性率E1’がより好ましい範囲となりやすく、ハンダリフロー耐性がより向上する。上記架橋助剤の含有量が30重量%以下であれば、樹脂フィルムは、上記20GHzでの誘電正接Dfがより好ましい範囲となりやすく、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができる。上記架橋助剤の含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は20重量%である。
【0054】
本発明の樹脂フィルムは、上記熱可塑性樹脂に加えて更に熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。熱可塑性エラストマーを含有することで、押出成形等によって良好に製造される樹脂フィルムとなる。
なお、樹脂フィルムの上記20GHzでの誘電正接Dfを上記範囲に調整するためには、上述したような20GHzでの誘電正接Dfが比較的小さい熱可塑性樹脂を用いることが考えられるが、このような熱可塑性樹脂のみからなる樹脂フィルムは、製膜性が不充分となるため、押出成形等によって良好に製造できないことがある。
上記熱可塑性エラストマーは特に限定されず、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ゴム弾性を示す樹脂であればよく、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等が挙げられる。なかでも、上記20GHzでの誘電正接Dfが上記範囲を満たしやすいことから、スチレン系エラストマー及びオレフィン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のエラストマーが好ましく、スチレン系エラストマーがより好ましい。
【0055】
上記スチレン系エラストマーは特に限定されないが、ハードセグメントとしての芳香族アルケニル重合体ブロック(A)と、ソフトセグメントとしての共役ジエン重合体ブロック(B)とを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0056】
上記芳香族アルケニル重合体ブロック(A)とは、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位を有するブロックを意味する。
上記芳香族アルケニル重合体ブロック(A)は、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位を主な構成成分としたブロックであればよく、エチレン等の他の化合物に由来する繰り返し単位を含んでいてもよい。
上記芳香族アルケニル重合体ブロック(A)としては、ポリアルキルスチレン、ポリハロゲン化スチレン、ポリハロゲン置換アルキルスチレン、ポリアルコキシスチレン、ポリカルボキシアルキルスチレン、ポリアルキルエーテルスチレン、ポリアルキルシリルスチレン、ポリ(ビニルベンジルジメトキシホスファイド)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0057】
上記ポリアルキルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリt-ブチルスチレン等が挙げられる。
上記ポリハロゲン化スチレンは特に限定されず、例えば、ポリクロロスチレン、ポリブロモスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリフルオロスチレン等が挙げられる。
上記ポリハロゲン置換アルキルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリクロロメチルスチレン等が挙げられる。
上記ポリアルコキシスチレンは特に限定されず、例えば、ポリメトキシスチレン、ポリエトキシスチレン等が挙げられる。
上記ポリカルボキシアルキルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリカルボキシメチルスチレン等が挙げられる。
上記ポリアルキルエーテルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリビニルベンジルプロピルエーテル等が挙げられる。
上記ポリアルキルシリルスチレンは特に限定されず、例えば、ポリトリメチルシリルスチレン等が挙げられる。
【0058】
上記共役ジエン重合体ブロック(B)とは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有するブロックを意味する。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、ミルセン、クロロプレン等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
上記スチレン系エラストマーのハードセグメント含有量(芳香族アルケニル重合体ブロック(A)の含有量)は特に限定されないが、好ましい下限は30重量%、好ましい上限は60重量%である。上記ハードセグメント含有量が30重量%以上であれば、樹脂フィルムにコロナ処理等の表面処理を施した際に、導入された極性官能基が樹脂フィルムの内部に潜り込んでしまうことをより抑えることができ、フィルム表面の極性を高めることができる。上記ハードセグメント含有量が60重量%以下であれば、樹脂フィルムを押出成形等によって良好に製造することができる。上記ハードセグメント含有量のより好ましい下限は35重量%、より好ましい上限は50重量%である。
【0060】
上記スチレン系エラストマーは、水素添加体であってもよい。上記スチレン系エラストマーの水素添加率は特に限定されないが、95%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましい。上記水素添加率の上限は特に限定されず、100%以下であればよい。
【0061】
上記スチレン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましい下限は10万、好ましい上限は100万であり、より好ましい下限は15万、より好ましい上限は50万である。上記重量平均分子量が上記範囲内であれば、樹脂フィルムを押出成形等によって良好に製造することができ、また、フィルム表面の極性を高めることができる。
【0062】
上記スチレン系エラストマーとして、具体的には例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体)等が挙げられる。なかでも、成形性の観点から、SEPS及びSEBSが好ましい。
【0063】
上記オレフィン系エラストマーは特に限定されないが、ハードセグメントとしてのオレフィン重合体ブロック(C)と、ソフトセグメントとしてのエチレン-プロピレンゴムブロック(D)とを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0064】
上記オレフィン重合体ブロック(C)は特に限定されず、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
【0065】
上記エチレン-プロピレンゴムブロック(D)は特に限定されず、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)等が挙げられる。
【0066】
上記熱可塑性エラストマーの含有量は特に限定されず、上記熱可塑性樹脂及び上記熱可塑性エラストマーの種類(特に上記熱可塑性樹脂の種類)に応じて調整すればよいが、フィルム表面の極性を高めるためには上記熱可塑性エラストマーの含有量を比較的低く抑えることが好ましい。
本発明の樹脂フィルムを構成する樹脂全体に占める上記熱可塑性エラストマーの含有量の好ましい下限は1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記熱可塑性エラストマーの含有量が1重量%以上であれば、樹脂フィルムを押出成形等によって良好に製造することができる。上記熱可塑性エラストマーの含有量が30重量%以下であれば、樹脂フィルムの上記20GHzでの誘電正接Dfが好ましい範囲となりやすい。上記熱可塑性エラストマーの含有量のより好ましい下限は2重量%、より好ましい上限は20重量%であり、更に好ましい下限は3重量%、更に好ましい上限は10重量%である。
【0067】
本発明の樹脂フィルムは、必要に応じて、更に、難燃剤、酸化防止剤、光安定化剤、金属不活性化剤、可塑剤、造核剤、透明化剤、帯電防止剤、滑剤等の添加剤を含有してもよい。
【0068】
本発明の樹脂フィルムの層構造は特に限定されず、単層フィルムであってもよいし、多層フィルムであってもよい。多層フィルムの場合、本発明の樹脂フィルムは、表層と基材層とを有することが好ましい。これにより、例えば、上記表層を20GHzでの誘電正接Dfが比較的小さい層とする一方で、上記基材層をハンダリフロー耐性により優れた層とすること等により、樹脂フィルム全体としての性能をより向上させることができる。
本発明の樹脂フィルムは、上記表層と上記基材層とを有する場合、上記表層と上記基材層とをそれぞれ少なくとも1つ有していればその層構造は特に限定されず、上記基材層の片面のみに上記表層を有する二層構造であってもよく、上記基材層の両面に上記表層を有する三層構造であってもよい。また、本発明の樹脂フィルムは、四層以上の構造であってもよい。
なかでも、上記基材層の両面に上記表層を有することが好ましい。上記基材層の両面に上記表層を有することで、例えば、上記表層を20GHzでの誘電正接Dfが比較的小さい層とすること等により、樹脂フィルムの両側の表面に銅配線を形成する場合にも伝送損失をより抑えることができ、より好適に使用できる樹脂フィルムとなる。
【0069】
上記表層を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されず、上述した熱可塑性樹脂を選択して用いることができるが、樹脂フィルムが伝送損失をより抑えることができることから、20GHzでの誘電正接Dfが比較的小さい熱可塑性樹脂が好ましい。なかでも、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)及びポリスチレン(PS)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂がより好ましい。
【0070】
上記表層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は20μmである。上記表層の厚みが上記範囲内であれば、樹脂フィルムは、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができる。上記表層の厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は15μmである。
【0071】
上記基材層を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されず、上述した熱可塑性樹脂を選択して用いることができるが、上記液晶ポリマー(LCP)を含有することが好ましい。上記基材層を構成する熱可塑性樹脂が上記液晶ポリマー(LCP)を含有することで、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。
上記基材層を構成する熱可塑性樹脂に占める上記液晶ポリマー(LCP)の含有量は特に限定されないが、50重量%以下であることが好ましい。上記液晶ポリマー(LCP)の含有量が50重量%以下であれば、樹脂フィルムは、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができ、ハンダリフロー耐性もより向上する。上記液晶ポリマー(LCP)の含有量は40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることが更に好ましい。
上記基材層を構成する熱可塑性樹脂に占める上記液晶ポリマー(LCP)の含有量の下限は特に限定されないが、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性をより向上させる観点から、好ましい下限は10重量%、より好ましい下限は20重量%である。
【0072】
上記基材層を構成する熱可塑性樹脂は、上述したような架橋助剤により架橋されていることが好ましい。即ち、本発明の樹脂フィルムは、上記表層と上記基材層とを有する場合、上述したような架橋助剤に由来する架橋部を上記基材層中に有することが好ましい。
上述したような架橋助剤に由来する架橋部を上記基材層中に有することで、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。更に、例えば、上記表層を20GHzでの誘電正接Dfが比較的小さい層とすること等により、樹脂フィルムは、伝送損失の抑制とハンダリフロー耐性とをよりバランスよく両立することができる。
なお、本発明の樹脂フィルムは、上述したような架橋助剤に由来する架橋部を上記表層中にも有していてもよい。
【0073】
上記基材層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は200μmである。上記基材層の厚みが上記範囲内であれば、樹脂フィルムのハンダリフロー耐性がより向上する。上記基材層の厚みのより好ましい下限は20μm、より好ましい上限は150μmである。
【0074】
本発明の樹脂フィルムは、上記表層と上記基材層とを有する場合、更に、反応型相溶化剤を含有してもよい。
上記反応型相溶化剤を含有することで、上記表層と上記基材層との間の層間強度が高くなる。なお、上記反応型相溶化剤は、上記表層に配合されてもよく、上記基材層に配合されてもよい。
上記反応型相溶化剤は特に限定されず、例えば、三井化学社製のアドマーQ、三洋化成社製のユーメックス、三井化学社製のタフマーM、住友化学社製のボンドファースト、旭化成社製のタフテックM、日油社製のモディパーC1430G、日本触媒社製のエポクロスRPS-1005等が挙げられる。なかでも、日本触媒社製のエポクロスRPS-1005が好ましい。
【0075】
上記反応型相溶化剤の含有量は特に限定されないが、上記表層又は上記基材層における好ましい下限が1重量%、好ましい上限が10重量%であり、より好ましい下限が3重量%、より好ましい上限が5重量%である。上記反応型相溶化剤の含有量が上記範囲内であれば、上記表層と上記基材層との間の層間強度がより高くなる。
【0076】
本発明の樹脂フィルムは、上記表層と上記基材層とを有する場合、上記表層と上記基材層との間に他の層を有していてもよいが、上記表層と上記基材層との間に他の層を有さないことが好ましい。即ち、上記表層と上記基材層とが、他の層を介することなく直接積層されていることが好ましい。
上記他の層は特に限定されず、例えば、接着剤層等が挙げられる。接着剤層は一般的に高周波数帯での誘電正接Dfが大きいため、上記表層と上記基材層との間に接着剤層等の他の層を有さないことで、樹脂フィルムは、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失をより抑えることができる。
なお、例えば、上記表層と上記基材層とをそれぞれ別々に作製し、接着剤層を用いることなく直接積層(単純積層)した場合には、上記表層と上記基材層との間の層間強度が低くなり、剥離しやすくなることがある。本発明の樹脂フィルムにおいては、接着剤層を用いなくとも、例えば、上記表層と上記基材層とに同じ樹脂を配合するとともに共押出成形により樹脂フィルムを製造することで、伝送損失を抑え、かつ、ハンダリフロー耐性を向上させながら、上記表層と上記基材層との間の密着性を高め、層間強度を上げることができる。
【0077】
本発明の樹脂フィルム全体としての厚みは特に限定されないが、好ましい下限は20μm、好ましい上限は250μmであり、より好ましい下限は30μm、より好ましい上限は150μmである。
【0078】
本発明の樹脂フィルムの用途は特に限定されないが、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができ、ハンダリフロー耐性にも優れることから、配線基板、特にフレキシブルプリント基板を作製するための銅張積層板に用いられるベースフィルムとして好適に用いられる。
【0079】
本発明の樹脂フィルムを製造する方法は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂を用いた押出成形により樹脂フィルムを製造する方法が好ましい。なお、本発明の樹脂フィルムが上記表層と上記基材層とを有する場合、本発明の樹脂フィルムの製造方法としては、上記表層と上記基材層とをそれぞれ別々に作製し、接着剤層を用いることなく直接積層(単純積層)したり、接着剤層を用いて積層したりする方法を採用してもよい。
【0080】
本発明の樹脂フィルムを製造する際には、上記熱可塑性樹脂に上記架橋助剤を配合するとともに紫外線(UV)照射、電子線(EB)照射等の後処理を行うことで、上記熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂の分子間)を上記架橋助剤により架橋することが好ましい。これにより、樹脂フィルムは、上記50℃での引張弾性率E1’が上記範囲を満たしやすくなり、ハンダリフロー耐性がより向上する。
【0081】
本発明の樹脂フィルムを製造する方法であって、紫外線(UV)照射又は電子線(EB)照射を行うことで上記熱可塑性樹脂を架橋助剤により架橋する工程を有する樹脂フィルムの製造方法もまた、本発明の1つである。
上記紫外線(UV)照射の方法は特に限定されず、例えば、波長が254~365nm、照射強度が50~200W/cm、照射時間が60~300秒となるように紫外線(UV)照射する方法が挙げられる。
上記電子線(EB)照射の条件は特に限定されず、例えば、エネルギー量が100~300kGy、加速電圧が100~300kVとなるように電子線(EB)照射する方法が挙げられる。
上記架橋助剤としては、上述したような本発明の樹脂フィルムにおいて架橋部を形成する架橋助剤を用いることができる。
なお、本発明の樹脂フィルムの製造方法は、上記架橋する工程の前に、上記熱可塑性樹脂を用いた押出成形を行う工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0082】
本発明によれば、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができ、ハンダリフロー耐性にも優れた樹脂フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0084】
(実施例1)
(1)樹脂フィルムの製造
熱可塑性樹脂であるポリスチレン(PS)(PSジャパン社製の商品名HIPS AGI02(登録商標))に、スチレン(St)系エラストマーであるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)(JSR社製の商品名DYNARON(登録商標) 8903P)を15重量%(PSの含有量が85重量%となり、PSとSEBSの和が100重量%)占めるように混合し、架橋助剤であるアリル化合物(トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル社製の商品名TAIC(登録商標))を樹脂フィルム全体に占める架橋助剤の含有量が30重量%となるように混合し、樹脂組成物を得た。
樹脂組成物を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて押出して製膜した後、エネルギー量300kGy、加速電圧150kVの条件にて電子線(EB)照射を行い、単層の樹脂フィルム(厚み50μm)を得た。
なお、シリンダー温度、及び、金型温度は、いずれも、結晶性樹脂(ETFE、PFA又はLCP)の場合は該樹脂の融点より20℃高い温度、非晶性樹脂(PS、PPE又はCOP)の場合は該樹脂のガラス転移温度より100℃高い温度に設定した。スクリュー回転数を15rpmに設定した。押出された溶融樹脂を冷却ロール(温度80℃)により引取り速度3m/分で引取りながら冷却して製膜した。
【0085】
使用した材料について以下に示す。
・ポリスチレン(PS)(PSジャパン社製の商品名HIPS AGI02(登録商標)、ガラス転移温度100℃、20GHzでの誘電正接Df0.0007)
・SEBS(1)(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、JSR社製の商品名DYNARON 8903P、ハードセグメント含有量35重量%)
・アリル化合物(トリアリルイソシアヌレート、三菱化学社製の商品名TAIC(登録商標)、5%重量減少温度Td5=156℃、1MHzでの誘電率Dk=2.5)
・SEBS(2)(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、クレイトンポリマー社製の商品名HSBC G1657、ハードセグメント含有量13重量%)
・SEBS(3)(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、JSR社製の商品名DYNARON 9901P、ハードセグメント含有量55重量%)
【0086】
(2)樹脂フィルムの20GHzでの誘電正接Dfの測定
PNAネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)を用い、JIS R1641に準拠して、実施例及び比較例と同様にして別途作製した40mm角のフィルム状のサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により誘電正接Dfを測定した。
【0087】
(3)50℃及び200℃での引張弾性率E1’の測定
動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御社製)を用い、昇温速度10℃/min、測定周波数10Hz、測定温度領域30~300℃で引張モードにて樹脂フィルムの50℃及び200℃での引張弾性率E1’を求めた。
【0088】
(実施例2~9)
樹脂フィルムの組成、及び、後処理の有無を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0089】
使用した材料について以下に示す。
・変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)(SABIC社製の商品名ノリル(登録商標)、ガラス転移温度130℃、20GHzでの誘電正接Df0.0006)
・シクロオレフィンポリマー(COP)(日本ゼオン社製の商品名ZEONEX(登録商標)、ガラス転移温度156℃、20GHzでの誘電正接Df0.0004)
・エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)(AGC社製の商品名Fluon ETFE(登録商標)、融点260℃、20GHzでの誘電正接Df0.0007)
・パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)(AGC社製の商品名Fluon+TM EA-2000(登録商標)、融点300℃、20GHzでの誘電正接Df0.001)
【0090】
・アリル化合物(ジアリルイソシアヌレート、四国化成社製の商品名DAIC(登録商標)、5%重量減少温度Td5=243℃、1MHzでの誘電率Dk=2.4)
・マレイミド化合物(3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業社製の商品名BMI-5100(登録商標)、5%重量減少温度Td5=433℃、1MHzでの誘電率Dk=2.9)
・マレイミド化合物(4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業社製の商品名BMI-1000(登録商標)、5%重量減少温度Td5=397℃、1MHzでの誘電率Dk=3.5)
【0091】
(実施例10)
(1)樹脂フィルムの製造
熱可塑性樹脂であるポリフェニレンエーテル(PPE)(SABIC社製の商品名ノリル(登録商標))に、架橋助剤であるアリル化合物(トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル社製の商品名TAIC(登録商標))を表層全体に占める架橋助剤の含有量が5重量%となるように混合し、表層用樹脂組成物を得た。
一方、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンエーテル(PPE)(SABIC社製の商品名ノリル(登録商標))36重量%と液晶ポリマー(LCP)(JX液晶社製の商品名ザイダー(登録商標))35重量%とを用意した。この熱可塑性樹脂に、架橋助剤であるマレイミド化合物(3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業社製の商品名BMI-5100(登録商標))を基材層全体に占める架橋助剤の含有量が29重量%となるように混合し、基材層用樹脂組成物を得た。
表層用樹脂組成物、及び、基材層用樹脂組成物を押出機(ジーエムエンジニアリング社製、GM30-28(スクリュー径30mm、L/D28))を用いてTダイ幅400mmにて二層共押出して製膜した後、エネルギー量300kGy、加速電圧150kVの条件にて電子線(EB)照射を行った。これにより、表層(厚み5μm)と基材層(厚み40μm)とを有する二層構造の樹脂フィルムを得た。
なお、シリンダー温度、及び、金型温度は、いずれも、結晶性樹脂(ETFE、PFA又はLCP)の場合は該樹脂の融点より20℃高い温度、非晶性樹脂(PS、PPE又はCOP)の場合は該樹脂のガラス転移温度より100℃高い温度に設定した。スクリュー回転数を表層10rpm、基材層15rpmに設定した。押出された溶融樹脂を冷却ロール(温度80℃)により引取り速度3m/分で引取りながら冷却して製膜した。
【0092】
(2)樹脂フィルムの20GHzでの誘電正接Dfの測定
PNAネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製)を用い、JIS R1641に準拠して、実施例及び比較例と同様にして別途作製した40mm角のフィルム状のサンプルについて25℃、20GHzで空洞共振法により誘電正接Dfを測定した。
【0093】
(3)50℃及び200℃での引張弾性率E1’の測定
動的粘弾性測定装置DVA-200(アイティー計測制御社製)を用い、昇温速度10℃/min、測定周波数10Hz、測定温度領域30~300℃で引張モードにて樹脂フィルムの50℃及び200℃での引張弾性率E1’を求めた。
【0094】
(比較例1~7)
樹脂フィルムの組成、及び、後処理の有無を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
【0095】
使用した材料について以下に示す。
・TPEE(PBTエラストマー、東レ・デュポン社製のハイトレル(登録商標)7246)
【0096】
<評価>
実施例及び比較例で得られた樹脂フィルムについて以下の評価を行った。結果を表1、及び、表2に示した。
【0097】
(1)伝送損失(20GHz)の測定
樹脂フィルムの両面に接着剤付き銅箔を180℃でラミネートし、200℃で1時間アニールすることで銅張積層板(CCL)を作製した。得られた銅張積層板(CCL)に対してスルホール加工、メッキ処理、及び、エッチング処理を行い、マイクロストリップラインを作製した。これを測定サンプルとした。ベクトルネットワークアナライザーN5230A(アジレント・テクノロジー社製)及び測定用プローブB90-122391(ズース・マイクロテック社製)を用い、インピーダンス値50Ωにて測定サンプルの伝送損失(20GHz)を測定した。
伝送損失(20GHz)の値が2.5dB未満の場合を◎、2.5dB以上、4.0dB未満の場合を〇、4.0dB以上の場合を×とした。なお、伝送損失(20GHz)の値が4.0dB未満であれば、高周波数帯での伝送損失が抑えられる。
【0098】
(2)ハンダリフロー耐性の評価
樹脂フィルムの片面に接着剤付き銅箔を180℃でラミネートし、200℃で1時間アニールすることで片面銅張積層板(CCL)を作製した。得られた片面銅張積層板(CCL)を20cm×20cmに切り出して測定サンプルを作製した。260℃に加熱したホットプレート上に、測定サンプルを銅箔側がホットプレートと接するように乗せ、1分間加熱した。1分間加熱後の測定サンプルの端部の反り量(変位量)を、ダンチノギス(全晴社製)を用いて測定した。
変位量が0.5cm未満の場合を◎、0.5cm以上、1cm未満の場合を〇、1cm以上の場合を×とした。なお、変位量が1cm未満であれば、銅張積層板から配線基板を作製する場合に配線基板の変形が少なくすみ、得られた配線基板を用いて安定した通信を行うことが出来る。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、伝送信号が高周波数化した場合にも伝送損失を抑えることができ、ハンダリフロー耐性にも優れた樹脂フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、該樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。