(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009704
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】梁部材、および梁部材と鉛直部材との接合構造
(51)【国際特許分類】
E04C 3/20 20060101AFI20230113BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20230113BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
E04C3/20
E04B1/58 508A
E04B1/30 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113200
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英義
【テーマコード(参考)】
2E125
2E163
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC02
2E125AC07
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG21
2E125AG22
2E125AG25
2E125AG28
2E125BA02
2E125CA78
2E163FA12
2E163FD02
2E163FD12
2E163FD32
2E163FD44
2E163FD46
2E163FD48
(57)【要約】
【課題】断面サイズを大きくすることなく、部材および他部材との接合部のせん断強度を増大できる、プレキャストコンクリート造の梁部材を提供すること。
【解決手段】プレキャストコンクリート造の梁部材20は、鋼繊維補強コンクリートで形成された梁本体21と、梁本体21の内部に配筋された梁主筋22およびせん断補強筋23と、梁本体21の両端面に設けられた凸部24と、を備える。凸部24は、鋼繊維補強コンクリートで形成される。本発明によれば、梁部材20の凸部24と柱部材10の凹部11とからなるシヤーキーで、梁部材20と柱部材10とが接合することにより、梁部材の断面サイズを大きくしたり、梁部材のコンクリート強度を向上させたり、せん断補強筋の鉄筋量を増大させたりすることなく、梁部材20と柱部材10との接合部分のせん断強度および梁部材20の変形性能を増大できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート造の梁部材であって、
鋼繊維補強コンクリートで形成された梁本体と、
前記梁本体の内部に配筋された梁主筋およびせん断補強筋と、
前記梁本体の両端面に設けられた凸部と、を備え、
前記凸部は、鋼繊維補強コンクリートで形成されることを特徴とする梁部材。
【請求項2】
前記梁主筋は、第1梁主筋および第2梁主筋を備え、
前記第1梁主筋は、前記梁本体の一方の梁端部の上端側から前記梁本体の他方の梁端部の下端側まで直線状に延びる第1斜め部と、前記第1斜め部の両端から前記梁本体の中心軸に略平行に外側に向かって直線状に延びる第1平行部と、を備え、
前記第2梁主筋は、前記梁本体の一方の梁端部の下端側から前記梁本体の他方の梁端部の上端側まで直線状に延びる第2斜め部と、前記第2斜め部の両端から前記梁本体の中心軸に略平行に外側に向かって直線状に延びる第2平行部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の梁部材。
【請求項3】
一対の鉛直部材と、前記一対の鉛直部材間に架設されるプレキャストコンクリート造の梁部材と、を備え、
前記梁部材は、鋼繊維補強コンクリートで形成された梁本体と、
前記梁本体の内部に配筋された梁主筋およびせん断補強筋と、
前記梁本体の両端面に形成された凸部または凹部と、を備え、
前記鉛直部材の側面には、前記梁部材の凸部が嵌合する凹部または前記梁部材の凹部に嵌合する凸部が形成されることを特徴とする梁部材と鉛直部材との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁部材、および、この梁部材と鉛直部材との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一対のコンクリート部材と、これら一対のコンクリート部材間に架設されるプレキャストコンクリート造の梁部材と、を備える構造がある(特許文献1~3参照)。
特許文献1には、梁主筋を梁スパン内でX字状に配置し、一方の梁端部上端主筋と他端梁下端主筋とが連続するように配筋されたX形配筋の鉄筋コンクリート構造の梁が示されている。梁のスパン全長に亘って、X字状に配置された梁主筋と梁のコンクリートとが付着するのを防止する付着防止手段が設けられている。
【0003】
特許文献2には、RCまたはSRC造の耐震壁間を連結するRC系梁ダンパーが示されている。このRC系梁ダンパーでは、コンクリートとして繊維補強コンクリートが用いられ、主筋として低降伏点鉄筋が用いられ、さらにPC鋼棒によりプレストレスが導入されている。また、主筋は梁の両端間にX形状に配筋されている(X型配筋)。
特許文献3には、プレキャストコンクリート造の梁本体とコア壁との接合構造が示されている。梁本体は、繊維補強セメント系材料からなり、梁主筋とスターラップとが埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-12010号公報
【特許文献2】特開2004-52494号公報
【特許文献3】特開2013-11105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、断面サイズを大きくすることなく、他部材との接合部のせん断強度を増大できる、プレキャストコンクリート造の梁部材および梁部材と鉛直部材との接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プレキャストコンクリート造の梁部材を、鋼繊維補強コンクリートで形成し、梁部材の両端に凸部を形成することで、梁部材の断面サイズを大きくしたり、梁部材のコンクリート強度を高めたり、せん断補強筋を高密度に配筋したりすることなく、梁部材の耐力および変形性能を高めることができる点に着目して、本発明に至った。
第1の発明の梁部材は、プレキャストコンクリート造の梁部材(例えば、後述の梁部材20)であって、鋼繊維補強コンクリートで形成された梁本体(例えば、後述の梁本体21)と、前記梁本体の内部に配筋された梁主筋(例えば、後述の梁主筋22)およびせん断補強筋(例えば、後述のせん断補強筋23)と、前記梁本体の両端面に設けられた凸部(例えば、後述の凸部24)と、を備え、前記凸部は、鋼繊維補強コンクリートで形成されることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、梁部材の両端面に鋼繊維補強コンクリートからなる凸部を設けた。鋼繊維補強コンクリートは、コンクリートに鋼繊維を混入したものであり、ひび割れが開くことを防いで、躯体損傷を抑制できるという効果がある。よって、地震発生時には、鋼繊維補強コンクリートが引張力をある程度負担するので、梁部材および凸部のせん断耐力を増大できる。したがって、この凸部によるシヤーキーで他部材と接合することにより、梁部材の断面サイズを大きくしたり、梁部材のコンクリート強度を向上させたり、せん断補強筋の鉄筋量を増大させたりすることなく、梁部材と他部材との接合部分のせん断強度を増大できる。
鋼繊維は、両端にフック加工を施したもので、長さ0.1mm~0.6mm程度が好ましい。また、鋼繊維の混入量は、コンクリート体積に対して0.5%~1.5%程度が好ましい。
【0008】
第2の発明の梁部材は、前記梁主筋は、第1梁主筋(例えば、後述の第1梁主筋30)および第2梁主筋(例えば、後述の第2梁主筋40)を備え、前記第1梁主筋は、前記梁本体の一方の梁端部(例えば、後述の梁端部P)の上端側から前記梁本体の他方の梁端部(例えば、後述の梁端部Q)の下端側まで直線状に延びる第1斜め部(例えば、後述の第1斜め部31)と、前記第1斜め部の両端から前記梁本体の中心軸に略平行に外側に向かって直線状に延びる第1平行部(例えば、後述の第1平行部32)と、を備え、前記第2梁主筋は、前記梁本体の一方の梁端部の下端側から前記梁本体の他方の梁端部の上端側まで直線状に延びる第2斜め部(例えば、後述の第2斜め部41)と、前記第2斜め部の両端から前記梁本体の中心軸に略平行に外側に向かって直線状に延びる第2平行部(例えば、後述の第2平行部42)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、第1梁主筋を第1斜め部および第1平行部を含んで構成し、第2梁主筋を第2斜め部および第2平行部を含んで構成した。つまり、側面視で、第1梁主筋の第1斜め部と第2梁主筋の第2斜め部とをX形に配筋した。よって、地震時に生じる逆対称曲げーモーメントに対して、梁主筋が引張状態か圧縮状態となってせん断力を負担し、付着割裂破壊が起こりにくいから、梁部材の変形能力(靭性能)を高めることができる。
【0010】
また、梁本体の内部では、側面から視て、第1梁主筋の第1斜め部と第2梁主筋の第2斜め部とがX形状となるが、梁本体の外部では、第1梁主筋の第1平行部および第2梁主筋の第2平行部が、梁本体の中心軸に略平行に延びる。よって、梁本体の外部に延びる平行部を、比較的容易に他部材に接合できる。
また、第1梁主筋および第2梁主筋の折り曲げ箇所を梁本体内の端部としたので、プレキャストコンクリート部材を設置する際の現場作業での配筋作業の施工性を向上できる。
また、鋼繊維補強コンクリートが引張力をある程度負担することから、せん断補強筋を低減することが可能となり、過密配筋を回避できる。
また、梁部材の全長に亘って変形能力(靭性能)および部材耐力を高めるためには、梁主筋の折り曲げ箇所を梁部材の外部とすることが好ましいが、梁部材に鋼繊維コンクリートを用いたことで、繊維補強コンクリートが引張力をある程度負担するから、梁主筋の折り曲げ箇所を梁端部としても、梁部材の変形能力および部材耐力を確保できる。
【0011】
第3の発明の梁部材と鉛直部材との接合構造(例えば、後述の柱梁架構1、1A、1B、1C)は、一対の鉛直部材(例えば、後述の柱部材10)と、前記一対の鉛直部材間に架設されるプレキャストコンクリート造の梁部材(例えば、後述の梁部材20)と、を備え、前記梁部材は、鋼繊維補強コンクリートで形成された梁本体(例えば、後述の梁本体21、21A)と、前記梁本体の内部に配筋された梁主筋(例えば、後述の梁主筋22)およびせん断補強筋(例えば、後述のせん断補強筋23)と、前記梁本体の両端面に形成された凸部(例えば、後述の凸部24)または凹部(例えば、後述の凹部25)と、を備え、前記鉛直部材の側面には、前記梁部材の凸部が嵌合する凹部(例えば、後述の凹部11)または前記梁部材の凹部に嵌合する凸部(例えば、後述の凸部12)が形成されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、梁部材と鉛直部材とが、凸部と凹部とが嵌合したシヤーキーにより接合されるので、梁部材の断面サイズを大きくしたり、梁部材のコンクリート強度を向上させたり、せん断補強筋の鉄筋量を増大させたりすることなく、柱部材と梁部材との接合部のせん断強度を大きく確保できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、断面サイズを大きくすることなく、梁部材と他部材との接合部のせん断強度を増大できる、プレキャストコンクリート造の梁部材および梁部材と鉛直部材との接合構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る柱梁架構の縦断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る梁部材の配筋状況を示す縦断面図である。
【
図3】
図2の梁部材のA-A矢視図およびB-B矢視図である。
【
図4】加力試験に用いた試験体の構成を示す図である。
【
図5】加力試験に用いた試験体No.1~No.3の配筋状況を示す断面図および側面図である。
【
図6】加力試験に用いた試験体No.4~No.6の配筋状況を示す断面図および側面図である。
【
図7】加力試験に用いた試験体のシヤーキーの形状を示す図である。
【
図8】試験体に用いたコンクリートの材料試験結果および鉄筋の材料特性を示す図である。
【
図9】試験体に用いた加力試験装置を示す模式図である。
【
図10】加力試験結果(せん断力Qと部材角Rとの関係の包絡線の比較)を示す図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る柱梁架構の縦断面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る柱梁架構の縦断面図である。
【
図13】本発明の第4実施形態に係る柱梁架構の縦断面図である。
【
図14】本発明の変形例に係る梁部材の配筋状況を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、鋼繊維補強コンクリートで形成されたプレキャストコンクリート造の梁部材、および、この梁部材と鉛直部材との接合構造である。本発明の梁部材の第1の特徴は、鋼繊維補強コンクリートで梁本体と凸部とを形成した点である。また、本発明の梁部材の第2の特徴は、X形状に配筋される鉄筋(第1斜め部、第2斜め部)が梁本体の内部(梁端部)で折り曲げ加工され、梁本体から外側に延びる鉄筋(第1平行部、第2平行部)は、梁本体の材軸方向と平行に配筋されている点である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る梁部材と鉛直部材との接合構造としての柱梁架構1の縦断面図である。
図2は、梁部材20の配筋状況を示す縦断面図である。
図3(a)は、
図2の梁部材20のA-A矢視図であり、
図3(b)は、
図2の梁部材20のB-B矢視図である。
柱梁架構1は、一対の鉛直部材としての柱部材10と、一対の柱部材10間に架設されるプレキャストコンクリート造の梁部材20と、を備える。
梁部材20は、鋼繊維補強コンクリートで形成された梁本体21と、梁本体21の内部に配筋された梁主筋22およびせん断補強筋23と、梁本体21の両端面に形成された凸部24と、を備える。この凸部24は、鋼繊維補強コンクリートで形成されている。
図1中右側の柱部材10は、現場で配筋して型枠を建て込んでコンクリートを打設することで形成された、鉄筋コンクリート造である。この柱部材10の側面には、梁本体21の凸部24が嵌合する凹部11が形成されており、この梁本体21の凸部24と柱部材10の凹部11とでシヤーキーが構成される。梁部材20はプレキャストコンクリート造であるため、梁部材20を所定位置に取り付けた状態で柱部材10のコンクリートを現場で打設することにより、凸部24に嵌合する凹部11が形成される。
図1中左側の柱部材10は、上下のプレキャスト鉄筋コンクリート部材60と、これらプレキャスト鉄筋コンクリート部材60の間に設けられた鉄筋コンクリート造の柱梁接合部61と、を備える。この柱梁接合部61は、現場で配筋して型枠を建て込んでコンクリートを打設することで形成されている。この柱梁接合部61の側面には、梁本体21の凸部24が嵌合する凹部11が形成されており、この梁本体21の凸部24と柱梁接合部61の凹部11とでシヤーキーが構成される。
【0016】
梁主筋22は、第1梁主筋30、第2梁主筋40、および第3梁主筋50を備える。梁主筋22は、5本の上端筋および5本の下端筋で構成されているが、このうち、外側の上下2本ずつの合計4本が、第3梁主筋50となっており、内側の上下3本ずつの合計6本が、第1梁主筋30および第2梁主筋40となっている(
図3参照)。
第1梁主筋30は、1本の鉄筋材を梁本体21内部の梁端部P、Qで折り曲げて形成したものである。この第1梁主筋30は、梁本体21の一方の梁端部Pの上端側から梁本体21の他方の梁端部Qの下端側まで直線状に延びる第1斜め部31と、第1斜め部31の両端から梁本体21の中心軸に略平行に外側に向かって直線状に延びる第1平行部32と、を備える。
第2梁主筋40は、1本の鉄筋材を梁本体21内部の梁端部P、Qで折り曲げて形成したものである。この第2梁主筋40は、梁本体21の一方の梁端部Pの下端側から梁本体21の他方の梁端部Qの上端側まで直線状に延びる第2斜め部41と、第2斜め部41の両端から梁本体21の中心軸に略平行に外側に向かって直線状に延びる第2平行部42と、を備える。
第3梁主筋50は、梁本体21の中心軸に略平行に直線状に延びており、両端が外側に向かって突出している。
せん断補強筋23は、ロの字形状の鉄筋材であり、梁主筋22を囲んで梁主筋22の長さ方向に所定間隔おきに配置されている。
【0017】
〔加力試験〕
比較例として従来の梁部材と同様の構成の試験体(No.1~No.3)を製作するとともに、実施例として本発明の梁部材と同様の構成の試験体(No.4~No.6)を製作し、これら試験体に対して加力試験を行った。
図4は、試験体の構成を示す図である。
図5は、試験体No.1~No.3の配筋状況を示す側面図および断面図である。
図6は、試験体No.4~No.6の配筋状況を示す側面図および断面図である。
図7は、シヤーキーの形状を示す図である。
図8は、試験体に用いたコンクリートの材料試験結果および試験体に用いた鉄筋の材料特性である。
試験体は、梁幅bを400mm、梁せいを350mm、長さ700mmとした。試験体の両端面には、幅350mm、深さ20mm、付け根長さ160mmの凸部を設けた。なお、試験体の両端には、剛強なスタブを設けた。
試験体No.1~No.3は、一般的な梁配筋を想定し、上端側主筋および下端側主筋を全て略平行に配筋した。また、せん断補強筋は、4-U7.1@60(p
w=0.67%)とした。
試験体No.4~No.6は、付着割裂破壊が生じにくく、短スパン梁に効果を発揮するX形配筋とした。引張主筋5本のうち隅の2本を除いた3本をX形に配置し、危険断面位置を横切る直前で折り曲げ、試験体No.1~No.3と同等の曲げ耐力となるようにした。また、せん断補強筋は、2-U7.1@60(p
w=0.33%)とし、試験体No.1~No.3の1/2の補強量とした。
【0018】
コンクリートに混入した鋼繊維は、両端フック付きの長さ35mm、直径0.55mm(アスペクト比65)のものを用いた。試験体No.1、No.4では、鋼繊維の混入無し、試験体No.2、No.5では、鋼繊維をコンクリート体積に対して0.5%混入し、試験体No.3、No.6では、鋼繊維をコンクリート体積に対して1.0%混入した。
【0019】
図9は、加力試験装置を示す模式図である。試験体のスタブに2000kNジャッキを取り付け、このジャッキにより、逆対称の曲げせん断力が作用するように加力した。具体的には、部材角R=±1/500を1回、±1/100、±1/50、±1/33、±1/25を各2回ずつの合計11回の正負交番繰り返し載荷を行い、最後にR=±1/20まで加力した。
【0020】
図10は、加力試験結果(せん断力Qと部材角Rとの関係の包絡線の比較)を示す図である。
図10より、鋼繊維量が増えるほど最大耐力が上昇し、最大耐力後の荷重低下が改善されることが判る。すなわち、X形配筋である試験体No.4~No.6は、一般的な梁配筋である試験体No.1~No.3と比べて、変形性能が高くなっている。また、試験体No.4~No.6のうち、鋼繊維を混入した試験体No.5、No.6については、最大耐力後の荷重低下が最も小さくなっている。よって、鋼繊維の混入がコンクリートの損傷防止や靭性能の向上に有効であることが判る。
【0021】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)梁部材20の梁本体21および梁本体21の両端面の凸部24を、鋼繊維補強コンクリートで形成した。よって、地震発生時には鋼繊維補強コンクリートが引張力をある程度負担するから、梁本体21および凸部24のせん断耐力が増大する。したがって、この凸部24と柱部材10の凹部11とからなるシヤーキーで、梁部材20と柱部材10と接合することにより、梁部材の断面サイズを大きくしたり、梁部材のコンクリート強度を向上させたり、せん断補強筋の鉄筋量を増大させたりすることなく、梁部材20と柱部材10との接合部分のせん断強度を増大できる。
【0022】
(2)第1梁主筋30を第1斜め部31および第1平行部32を含んで構成し、第2梁主筋40を第2斜め部41および第2平行部42を含んで構成した。つまり、側面視で、第1梁主筋30の第1斜め部31と第2梁主筋40の第2斜め部41とをX形に配筋した。よって、地震時に生じる逆対称曲げーモーメントに対して、梁主筋30、40が引張状態か圧縮状態となってせん断力を負担するから、梁部材20の変形能力(靭性能)およびせん断耐力を高めることができる。また、鋼繊維補強によりひびわれが一部に集中することを回避することができ、梁部材20の損傷を抑制できる。
また、梁本体21の内部では、側面から視て、第1梁主筋30の第1斜め部31と第2梁主筋40の第2斜め部41とがX形状となるが、梁本体21の外部では、第1梁主筋30の第1平行部32および第2梁主筋40の第2平行部42が、梁本体21の中心軸に略平行に延びる。よって、梁本体21の外部に延びる平行部32、42を、比較的容易に柱部材10に接合できる。
また、第1梁主筋30および第2梁主筋40の折り曲げ箇所を梁本体内の端部P、Qとしたので、配筋作業の施工性を向上できる。
また、梁部材20の全長に亘って変形能力(靭性能)を高めるためには、梁主筋の折り曲げ箇所を梁部材の外部とする必要があるが、梁部材20に鋼繊維コンクリートを用いたことで、繊維補強コンクリートが引張力をある程度負担するから、梁主筋30、40の折り曲げ箇所を梁端部P、Qとしても、梁部材20の変形能力およびせん断耐力を確保できる。
【0023】
(3)梁部材20をプレキャストコンクリート製としたので、プレキャストコンクリート工場にて、鋼繊維が十分に攪拌された鋼繊維補強コンクリートを打設することができる。また、建設現場では、プレキャストコンクリート造の梁部材20を搬入して、建物の所定位置に配置して他部材と接合させればよく、比較的短い作業期間で、柱梁架構1を構築できる。
【0024】
〔第2実施形態〕
図11は、本発明の第2実施形態に係る柱梁架構1Aの縦断面図である。
本実施形態では、梁本体21Aの両端面に凹部25が形成され、柱部材10の側面には、凹部25に嵌合する凸部12が形成されている点が、第1実施形態と異なる。梁本体21Aの凹部25は、鋼繊維補強コンクリートで形成されている。
本実施形態によれば、上述の(1)~(3)と同様の効果がある。
【0025】
〔第3実施形態〕
図12は、本発明の第3実施形態に係る柱梁架構1Bの縦断面図である。
本実施形態では、梁本体21の両端部が柱部材10の側面の凹部13に嵌合している点が、第1実施形態と異なる。すなわち、柱部材10の側面には、凹部13が形成されており、凹部11は、この凹部13の底面に形成されている。梁本体21の両端部は、柱部材10の側面の凹部13に嵌合しており、梁本体21の凸部24は、柱部材10の凹部11に嵌合している。
本実施形態によれば、上述の(1)~(3)の効果に加えて、以下のような効果がある。
(4)梁本体21の両端面を柱部材10の側面の凹部13に嵌合したので、梁部材20と柱部材10との接合部分のせん断強度をさらに増大できる。
【0026】
〔第4実施形態〕
図13は、本発明の第4実施形態に係る柱梁架構1Cの縦断面図である。
本実施形態では、梁本体21Aの両端部が柱部材10の側面の凹部13に嵌合している点が、第2実施形態と異なる。すなわち、柱部材10の側面には、凹部13が形成されており、凸部12は、この凹部13の底面に形成されている。梁本体21の両端部は、柱部材10の側面の凹部13に嵌合しており、梁本体21の凹部25は、柱部材10の凸部12に嵌合している。
本実施形態によれば、上述の(1)~(4)と同様の効果がある。
【0027】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の各実施形態では、梁部材20柱部材10同士の間に架設したが、これに限らず、梁部材を壁同士の間に架設してもよいし、壁と柱との間に架設してもよい。
また、上述の各実施形態では、各せん断補強筋23を1本の鉄筋材で構成したが、これに限らず、
図14に示すように、梁端部P、Qに配置するせん断補強筋23Dを2本の鉄筋材で構成してもよい。梁主筋30、40の折り曲げ部は梁端部P、Qに位置しているので、この梁端部P、Qに配置したせん断補強筋23Dには、梁主筋30、40が負担する応力の分力が大きく作用する。よって、梁端部P、Qに配置するせん断補強筋23Dを2本の鉄筋材で構成することで、梁部材20の地震時の抵抗力を高めることができる。
また、上述の各実施形態では、梁部材20を鋼繊維補強コンクリートで形成したが、鋼繊維補強コンクリートに限定することなく、ビニロンPVA繊維補強コンクリート、PP繊維補強コンクリート、バサルト繊維補強コンクリート、セルロースナノファイバーCNF繊維補強コンクリート、および繊維補強セメント複合材料(FRCC)のうちのいずれかで形成してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1、1A、1B、1C…柱梁架構(梁部材と鉛直部材との接合構造)
10…柱部材(鉛直部材) 11…凹部 12…凸部 13…凹部
20…梁部材 21、21A…梁本体 22…梁主筋
23、23D…せん断補強筋 24…凸部 25…凹部
30…第1梁主筋 31…第1斜め部 32…第1平行部
40…第2梁主筋 41…第2斜め部 42…第2平行部 50…第3梁主筋
60…プレキャスト鉄筋コンクリート部材 61…柱梁接合部
P、Q…梁端部