(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097345
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】塗工液および製膜方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/24 20060101AFI20230630BHJP
C08F 22/40 20060101ALI20230630BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08L33/24
C08F22/40
C08J5/18 CER
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155430
(22)【出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021213335
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517123173
【氏名又は名称】KAIフォトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】渡辺(後藤) 美咲
(72)【発明者】
【氏名】片桐 史章
(72)【発明者】
【氏名】山田 悟
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小池 康博
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA35
4F071AC06
4F071AC10
4F071AE19
4F071AF53
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
4F071AH16
4F071AH19
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4F071BC01
4J002BH021
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4J100AM45P
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4J100DA01
4J100DA04
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA21
4J100JA32
4J100JA33
(57)【要約】
【課題】塩素系溶剤を用いずにゲル化を抑制可能であり、製膜した際に、低温乾燥で残存溶媒量の少ない膜が得られる塗工液を提供する。
【解決手段】本発明は、環状エーテル系溶剤1~100重量%およびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液を提供する。また、本発明は、当該塗工液を基材上に塗工して乾燥する製膜方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状エーテル系溶剤1~100重量%およびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液。
【請求項2】
前記溶剤における前記環状エーテル系溶剤の含有量が1~50重量%であり、前記溶剤における前記エステル系溶剤の含有量が50~99重量%であることを特徴とする請求項1に記載の塗工液。
【請求項3】
前記環状エーテル系溶剤が1,3-ジオキソランであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗工液。
【請求項4】
前記エステル系溶剤が酢酸メチルであることを特徴とする請求項1または2に記載の塗工液。
【請求項5】
前記N-アルキルマレイミド系重合体の構成単位が下記一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド残基単位を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の塗工液。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、あるいは炭素数3~6の環状アルキル基を示す。)
【請求項6】
前記N-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量が800,000~1,500,000であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗工液。
【請求項7】
環状エーテル系溶剤1~100重量%およびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液を基材上に塗工し乾燥することを特徴とする製膜方法。
【請求項8】
室温から160℃までの温度において乾燥することを特徴とする請求項7に記載の製膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液および製膜方法に関し、例えばN-アルキルマレイミド系重合体からなる塗工液及びそれを用いた製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-アルキルマレイミドから得られる単独重合体または共重合体(N-アルキルマレイミド系重合体)は、一般的な熱可塑性ビニル重合体と比べて高い耐熱性を示し、さらに透明性に優れた樹脂となることが知られている。N-アルキルマレイミド系重合体は、光学分野における様々な用途に使用可能な透明樹脂として有望な材料である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、N-アルキルマレイミドとスチレン等のビニル芳香族炭化水素からなる交互共重合体を含むN-アルキルマレイミド系重合体は、簡易な組成で、低複屈折であり、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できるポリマー材料を実現できることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これらN-アルキルマレイミド系重合体の製膜方法としては、N-アルキルマレイミド系重合体と溶剤を含有する塗工液を基材上に塗工し、塗工面に乾燥風を吹き付けながら、乾燥風の温度を段階的に昇温させることにより乾燥させる効率良い製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、高分子量のN-アルキルマレイミド系重合体を含有する塗工液は、室温付近での保存でゲル化することがある。
【0005】
また、溶剤として塩素系溶剤を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、塩素系溶剤は健康や環境に対して有害性の懸念があると共に、残存溶剤量の少ない膜を効率的に製造するためには、製膜時の高温乾燥が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-126229号公報
【特許文献2】特開2010-96905号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大津隆行著、未来材料、Vol.3、No.1、74~79頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、塩素系溶剤を用いずにゲル化を抑制可能であり、製膜した際に、低温乾燥で残存溶媒量の少ない膜が得られる塗工液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、特定の溶剤とN-アルキルマレイミド系重合体からなる塗工液を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様〔1〕は、環状エーテル系溶剤1~100重量%およびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液に関する。
【0011】
本発明に係る塗工液の一態様〔2〕では、〔1〕において、前記溶剤における前記環状エーテル系溶剤の含有量が1~50重量%であり、前記溶剤における前記エステル系溶剤の含有量が50~99重量%である。
【0012】
本発明に係る塗工液の一態様〔3〕では、〔1〕または〔2〕において、前記環状エーテル系溶剤が1,3-ジオキソランである。
【0013】
本発明に係る塗工液の一態様〔4〕では、〔1〕~〔3〕のいずれかにおいて、前記エステル系溶剤が酢酸メチルであることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る塗工液の一態様〔5〕では、〔1〕~〔4〕のいずれかにおいて、前記N-アルキルマレイミド系重合体の構成単位が下記一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド残基単位を含む。
【0015】
【0016】
一般式(1)中、Rは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、あるいは炭素数3~6の環状アルキル基を示す。
【0017】
本発明に係る塗工液の一態様〔6〕では、〔1〕~〔5〕のいずれかにおいて、前記N-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量が800,000~1,500,000である。
【0018】
本発明の一態様〔7〕は、環状エーテル系溶剤1~100重量%とおよびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液を基材上に塗工し乾燥する製膜方法に関する。
【0019】
本発明に係る製膜方法の一態様〔8〕では、〔7〕において、室温から160℃までの温度において乾燥する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、塩素系溶剤を用いずにゲル化を抑制可能であり、製膜した際に、低温乾燥で残存溶媒量の少ない膜が得られる塗工液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各態様について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0022】
<塗工液>
本発明の一態様に係る塗工液は、環状エーテル系溶剤およびエステル系溶剤よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体とからなる。当該環状エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサンを例示できる。これらの中でも、N-アルキルマレイミド系重合体の溶解性、塗工液の溶液安定性および製膜後のフィルム残溶剤量低減効果に優れることから、テトラヒドロフランまたは1,3-ジオキソランが好ましく、特に1,3-ジオキソランが好ましい。
【0023】
溶剤中における環状エーテル系溶剤の含有量は、1~100重量%である。製膜した際に低温乾燥で残存溶剤量の少ない膜が得られることから、溶剤中における環状エーテル系溶剤の含有量は、好ましくは1~50重量%であり、特に好ましくは1~30重量%である。
【0024】
上記のエステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルおよび酢酸ノルマルプロピルを例示できる。これらの中でも、N-アルキルマレイミド系重合体の溶解性および残溶剤量低減効果に優れることから、酢酸メチルまたは酢酸エチルが好ましく、特に酢酸メチルが好ましい。
【0025】
溶剤中におけるエステル系溶剤の含有量は、0~99重量%である。製膜した際に低温乾燥で残存溶剤量の少ない膜が得られることから、溶剤中におけるエステル系溶剤の含有量は、好ましくは50~99重量%であり、特に好ましくは70~99重量%である。
【0026】
上記の溶剤において、環状エーテル系溶剤とエステル系溶剤との好ましい組み合わせとしては、3-ジオキソランと酢酸メチルとの組み合わせが挙げられる。この組み合わせにおいて、溶液安定性を高める観点、および、光学フィルムにおける残存溶剤量を低温乾燥で低減させる観点から、溶剤中の3-ジオキソランの好ましい含有量は10~50重量%であり、溶剤中の酢酸メチルの好ましい含有量は50~90重量%である。
【0027】
本発明の一態様に係る塗工液において、溶剤は、前述の環状エーテル系溶剤およびエステル系溶剤のみによって実質的に構成される。ここで溶剤が実質的に構成される、とは、該溶剤が、後述する添加物に伴う、環状エーテル系溶剤およびエステル系溶剤以外の他の溶剤を、本実施形態の効果が得られる範囲において含有していてもよいことを意味する。
【0028】
本発明の一態様におけるN-アルキルマレイミド系重合体は、N-アルキルマレイミド単独重合体、またはN-アルキルマレイミドとその他共重合可能な単量体との共重合体である。該N-アルキルマレイミド系重合体を構成する構成単位であるN-アルキルマレイミド残基単位としては、好ましくは下記一般式(1)で示されるN-アルキルマレイミド残基単位である。
【0029】
【0030】
一般式(1)表されるN-アルキルマレイミド残基単位におけるRは炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、あるいは炭素数3~6の環状アルキル基を示す。N-アルキルマレイミド系重合体において、当該Rは同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0031】
炭素数1~12の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基およびドデシル基を例示できる。炭素数3~12の分岐状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基を例示できる。炭素数3~6の環状アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基およびシクロヘキシル基を例示できる。これらの中でも、得られるN-アルキルマレイミド系重合体膜の耐熱性をより高める観点から、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基およびシクロヘキシル基が好ましく、低複屈折であり、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できるN-アルキルマレイミド系重合体膜を得られることから、エチル基がさらに好ましい。
【0032】
具体的な一般式(1)で表されるN-アルキルマレイミド残基単位としては、N-メチルマレイミド残基単位、N-エチルマレイミド残基単位、N-プロピルマレイミド残基単位、N-イソプロピルマレイミド残基単位、N-ブチルマレイミド残基単位、N-イソブチルマレイミド残基単位、N-sec-ブチルマレイミド残基単位、N-tert-ブチルマレイミド残基単位、N-ペンチルマレイミド残基単位、N-ヘキシルマレイミド残基単位、N-オクチルマレイミド残基単位、N-デシルマレイミド残基単位、N-ドデシルマレイミド残基単位、N-シクロプロピルマレイミド残基単位、N-シクロブチルマレイミド残基単位、および、N-シクロヘキシルマレイミド残基単位等の一種又は二種以上を例示できる。これらの中でも、得られるN-アルキルマレイミド系重合体膜の耐熱性をより高める観点から、N-メチルマレイミド残基単位、N-エチルマレイミド残基単位、N-イソプロピルマレイミド残基単位、N-tert-ブチルマレイミド残基単位、または、N-シクロヘキシルマレイミド残基単位が好ましく、低複屈折であり、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できるN-アルキルマレイミド系重合体膜が得られることから、N-エチルマレイミド残基単位がさらに好ましい。
【0033】
本発明の一態様におけるその他共重合可能な単量体の残基単位としては、例えば、スチレン残基単位およびα-メチルスチレン残基単位等のビニル芳香族炭化水素残基単位、エチレン残基単位、プロピレン残基単位、1-ブテン残基単位およびイソブテン残基単位等のオレフィン残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位およびアクリル酸ブチル残基単位等のアクリル酸アルキルエステル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位およびメタクリル酸ブチル残基単位等のメタクリル酸アルキルエステル残基単位、ならびに、酢酸ビニル残基単位、プロピオン酸ビニル残基単位およびピバル酸ビニル残基単位等のカルボン酸ビニルエステル残基単位、等の一種又は二種以上を例示できる。これらの中でも、簡易な組成で、低複屈折であり、かつ広範囲の環境温度下でその低複屈折を維持できるN-アルキルマレイミド系重合体膜を実現できることから、スチレン残基単位およびα-メチルスチレン残基単位等のビニル芳香族炭化水素残基単位が好ましく、特にスチレン残基単位が好ましい。
【0034】
本発明の一態様におけるN-アルキルマレイミド系重合体の全残基単位中のN-アルキルマレイミド残基単位の割合は、20~100重量%が好ましい。その中でも特に耐熱性、光学特性に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、当該割合は、さらに好ましくは35~100重量%であり、特に好ましくは50~100重量%であり、殊更好ましくは55~80重量%である。
【0035】
また、本発明の一態様におけるN-アルキルマレイミド系重合体の全残基単位中のその他共重合可能な単量体残基単位の割合は、0~80重量%が好ましい。その中でも当該割合は、特に耐熱性、光学特性に優れたN-アルキルマレイミド系重合体が得られることから、さらに好ましくは0~65重量%であり、特に好ましくは0~50重量%であり、殊更好ましくは20~45重量%である。
【0036】
本発明の一態様におけるN-アルキルマレイミド系重合体の重量平均分子量(Mw)は、優れた光学特性、機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体膜を製造するために、200,000~2,000,000であることが好ましく、さらに好ましくは500,000~1,800,000であり、特に好ましくは800,000~1,500,000である。
【0037】
本発明の一態様におけるN-アルキルマレイミド系重合体の製造方法としては、該N-アルキルマレイミド系重合体が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよい。N-アルキルマレイミド系重合体は、例えば、N-アルキルマレイミドとその他共重合可能な単量体をラジカル共重合することにより製造できる。この際のN-アルキルマレイミドとしては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-sec-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ペンチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-デシルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-シクロプロピルマレイミド、N-シクロブチルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミド等の一種又は二種以上を例示できる。また、その他共重合可能な単量体としては、スチレンおよびα-メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素、エチレン、プロピレン、1-ブテンおよびイソブテン等のオレフィン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、ならびに、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよびピバル酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、等の一種又は二種以上を例示できる。
【0038】
また、ラジカル重合法としては、公知の重合方法で行うことが可能であり、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等の何れもが採用可能である。その中でも、高分子量のN-アルキルマレイミド系重合体が得られ、それを用いて本発明の一態様の塗工液を調製し、基材上に塗工することで、優れた機械強度を有するN-アルキルマレイミド系重合体膜が得られることから、塊状重合または懸濁重合が好ましい。
【0039】
ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエートおよびtert-ヘキシルパーオキシネオデカノエート等の有機過酸化物、ならびに、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレートおよび1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤を例示できる。
【0040】
本発明の一態様の塗工液におけるN-アルキルマレイミド系重合体の濃度は、塗工液に溶解し、塗工によって製膜が可能な限り特に限定されず、5~30重量%が好ましく、特に10~20重量%が好ましい。
【0041】
本発明の一態様の塗工液を用いることにより、塗工液の保存においてゲル化を抑制できる。保存温度としては、特に制限はなく、例えば、0~50℃である。保存状態としては、特に制限はなく、例えば、静置状態または攪拌状態である。保存時間に関しても、特に制限はなく、例えば、1日~6か月である。ゲル化の状態としては、特に制限はないが、例えば、目視で観察できるミクロゲルの発生から、目視で観察できる塗工液全体の粘性増加までの範囲である。当該ゲル化の状態は、例えばゲル化していない標準サンプルとの比較により目視での観察によって評価することが可能である。
【0042】
本発明の一態様の塗工液は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、前述の溶剤およびN-アルキルマレイミド系重合体以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分は一種でもそれ以上でもよく、その例には各種の添加剤が含まれる。当該添加剤は、塗工液およびそれを用いて製造されるフィルムの用途に応じて適宜に決めることができる。添加剤の種類および使用量は、本発明の実施形態の効果と、当該添加剤による効果との両方が得られる範囲において適宜に決めてよい。
【0043】
<製膜方法>
本発明の一態様における塗工液を基材上に塗工し乾燥することにより、膜(「フィルム」ともいう)を得ることができる。すなわち、当該フィルムは、環状エーテル系溶剤1~100重量%およびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液を基材上に塗工し乾燥することによって製造することができる。
【0044】
当該基材としては、特に制限はなく、例えば、高分子基材、ガラス基材、金属基材および無機基材等が挙げられる。高分子基材の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリ塩化ビニルおよびポリ塩化ビニリデンなどの含ハロゲン高分子、セルロースアセテートおよびセルロースエーテル等のセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンのなどの含硫黄高分子、ポリエーテルケトン、フェノール樹脂、エポキシ系樹脂、脂肪族環状ポリオレフィンならびにノルボルネン系の熱可塑性透明樹脂等が挙げられる。ガラス基材の例には、ガラス板および石英基材等が挙げられる。金属基材の例には、アルミ、ステンレス鋼およびフェロタイプ等が挙げられる。無機基材の例には、セラミックス基材等が挙げられる。
【0045】
上記基材として好ましくは、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリアクリル、セルロースアセテートおよびセルロースエーテル等のセルロース、ポリイミド、脂肪族環状ポリオレフィン、ならびに、ノルボルネン系の熱可塑性透明樹脂、等の高分子基材である。特に好ましくは、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリイミド、脂肪族環状ポリオレフィン、ならびに、ノルボルネン系の熱可塑性透明樹脂、等の高分子基材である。
【0046】
塗工方法としては、例えば、Tダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、スロットダイ法、リップコーター法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法およびフレキソ印刷法等があげられる。
【0047】
本発明の一態様の製膜方法における乾燥方法としては、気泡発生による外観悪化を抑制するために、塗工面に乾燥風を吹き付けながら乾燥することが好ましい。
【0048】
本発明の一態様の製膜方法における乾燥温度は、低温での乾燥を行うことから、室温~200℃が好ましく、さらに好ましくは室温~180℃であり、特に好ましくは室温~160℃である。なお、本発明の一態様において、室温とは、外部からの加熱も冷却もない状態の温度を言い、例えば10~30℃であり、20℃と定義してもよい。
【0049】
本発明の製膜方法における乾燥温度は、気泡発生による外観悪化を抑制するため、段階的に昇温させることが好ましく、例えば、1段目の乾燥を室温~80℃で、2段目の乾燥を70~155℃、3段目以降の乾燥を130~200℃で行うことができる。各段階での乾燥温度には、効率的な乾燥を行うために、気泡発生による外観悪化しない程度に高い温度を設定する。
【0050】
また、昇温段数は、効率的な乾燥を行うために、気泡発生による外観悪化しない程度に小さい段数に設定する。たとえば、昇温段数は、上記の理由から5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0051】
なお、乾燥を複数段に分割して実施する場合では、効率的な乾燥を行うために、途中の段数から、基材からフィルムを剥ぎ取り、フィルムの端部を固定して、気泡発生による外観悪化が生じない乾燥温度で乾燥してもよい。乾燥を複数段に分割して実施する場合では、段数を多くするほど緩やかな昇温が可能となり、気泡発生による外観悪化を抑制できる観点から有利である。昇温段数および各段での乾燥温度は、例えば外観と残存溶剤量との観点から、適宜に決めることが可能である。
【0052】
乾燥工程の所要時間は、外観良好なフィルムが得られる限り特に限定されないが、乾燥時間が短時間であるほど、生産性が向上するため、短時間であることが好ましい。具体的には、窒素雰囲気下室温乾燥以外の乾燥時間が合計で20分以内であることが好ましい。
【0053】
<光学フィルム>
前述の製膜方法により得られる光学フィルムは、すなわち、環状エーテル系溶剤1~100重量%およびエステル系溶剤0~99重量%よりなる溶剤と、N-アルキルマレイミド系重合体と、からなる塗工液を基材上に塗工して乾燥する製膜方法、によって得られる。当該光学フィルム(単に「フィルム」ともいう)は、残存溶剤が少ないフィルムである。製膜後の残存溶剤の揮発による収縮応力が原因で発生するカールなどのフィルムの変形を防ぐことから、当該フィルムにおける残存溶剤量は3重量%未満が好ましく、さらに好ましくは2重量%未満であり、特に好ましくは1重量%未満である。
【0054】
光学フィルムの耐熱性の指標であるガラス転移点(Tg)は、特に制限はないが、耐熱性に優れたフィルムが得られることから、好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは135℃以上であり、特に好ましくは150℃以上である。当該Tgは、例えばN-アルキルマレイミド残基単位の選択、N-アルキルマレイミド系重合体におけるその割合、その他共重合可能な単量体の残基単位の選択、およびN-アルキルマレイミド系重合体におけるその割合によって調整可能である。
【0055】
光学フィルムの機械強度の指標である引張応力は、Mwで制御できる値である。光学フィルムの引張応力は、特に制限はないが、機械強度に優れたフィルムが得られることから、好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは35MPa以上であり、特に好ましくは40MPa以上である。
【0056】
光学フィルムの機械強度の指標である引張伸びは、特に制限はないが、機械強度に優れたフィルムが得られることから、好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは2.5%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0057】
光学フィルムの光学特性の1つの指標であるヘーズは、例えば添加剤としての分散剤の種類、N-アルキルマレイミド系重合体中の添加剤量および単量体残存量で制御できる量である。当該光学フィルムのヘーズは、特に制限はないが、透明性に優れたフィルムが得られることから、好ましくは3%未満であり、さらに好ましくは2.5%未満であり、特に好ましくは2%未満である。
【0058】
光学フィルムの光学特性の指標である光弾性定数(C)および固有複屈折(Δn0)は、単量体の種類、N-アルキルマレイミド系重合体中の単量体単位の比率で制御できる定数である。当該光学フィルムのCおよびΔn0のそれぞれの絶対値は特に制限はないが、低複屈折のフィルムが得られることから、好ましくはCの絶対値が50×10-12Pa-1以下、かつΔn0の絶対値が20×10-3以下であり、さらに好ましくはCの絶対値は10×10-12Pa-1以下、かつΔn0の絶対値が5×10-3以下であり、特に好ましくはCの絶対値は2×10-12Pa-1以下、かつΔn0の絶対値は1×10-3以下である。
【0059】
光学フィルムの光学特性の1つの指標である固有複屈折の温度定数(dΔn0/dT)は、単量体の種類、N-アルキルマレイミド系重合体中の単量体単位の比率で制御できる定数である。その絶対値は特に制限はないが、広範囲の環境温度下で低複屈折を維持できるフィルムが得られることから、好ましくは2×10-5℃-1以下であり、さらに好ましくは1×10-5℃-1以下である。
【0060】
光学フィルムは、光学特性および機械強度に加えて耐熱性にも優れることから、各種光学部材、光学レンズ、光学シートおよび光学フィルム等に用いることができる。
【0061】
本発明の一態様の塗工液は、保存性の良好な塗工液であると共に、本発明の一態様の製膜方法により得られた光学フィルムは残存溶剤量の少ない光学フィルムとなる。よって、本発明の一態様によれば、持続可能な消費と生産のパターンを確保する持続可能な開発目標(SDGs)の達成することへの貢献が期待される。
【0062】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0063】
以下に本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。ポリビニルピロリドン(PVP)K30は富士フイルム和光純薬(株)の特級グレードを用いた。ポリエチレングリコール(PEG)は富士フイルム和光純薬(株)の一級グレードを用いた。tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートは日油(株)のパーブチル(登録商標)Oを用いた。
【0064】
以下に実施例により得られたN-アルキルマレイミド系重合体の評価方法、測定方法を示す。
【0065】
<重合体中のN-アルキルマレイミド含量>
所定量のN-アルキルマレイミド系重合体を重水素化クロロホルムに溶解し(約5重量%)、日本電子(株)の400MHzNMR(JNM-ECZ400S/L1)を用いて、得られた溶液の1H-NMR測定を行った。N-エチルマレイミドとスチレンの共重合体に関しては、8.0~5.5ppm間のピークに対する5.0~0.3ppm間のピークの積分比からN-アルキルマレイミド系重合体中のN-アルキルマレイミド残基単位の含量を算出した。
【0066】
<重合体の分子量>
東ソー製GPC(HLC-8320GPC)を用いて分子量分布の測定を行った。カラムには東ソー製TSKgel Super HM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液にはテトラヒドロフランを用いて測定した。分子量の検量線は分子量既知の東ソー製標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0067】
合成例1
撹拌機、窒素導入管および温度計を備えた500mLの4口フラスコに、PVP K30を0.852g、蒸留水を346.4g、N-エチルマレイミドを103.9g、スチレンを25.8g、トルエンを18.4g、およびtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを0.100g入れ、窒素バブリングを1時間行った後、600rpmで攪拌しながら70℃で3時間保持することにより懸濁重合を行った。懸濁重合の終了後、内容物を、マグネチックスターラーで攪拌した2,500gの蒸留水に導入し、ろ過することで、生成したN-アルキルマレイミド系重合体粒子を回収した。回収した重合体粒子を2,000gの蒸留水で6回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。その後、487gのトルエンと1,137gのメタノールの混合溶剤で1回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。さらに、827gのトルエンと827gのメタノールの混合溶剤で1回洗浄した後、1,582gのメタノールで5回洗浄した。洗浄した重合体粒子を95℃に設定した乾燥機に入れ、真空下で乾燥した。乾燥による重量の減少が無くなった時点で乾燥を停止し、80.0gのN-エチルマレイミド/スチレン共重合体(N-エチルマレイミド系重合体)を得た。共重合体中のN-エチルマレイミド残基単位の含量は65.4mol%(69.5重量%)、重量平均分子量Mwは883,000であり、分散度Mw/Mnは3.0であった。
【0068】
実施例1
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、1,3-ジオキソラン(DOL)に溶解してN-エチルマレイミド系重合体成分が15重量%の塗工液を作製した。そして、得られた塗工液を室温で1か月間静置し、当該塗工液の溶液安定性として、塗工液のゲルの有無を確認した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。
【0069】
(製膜評価)
基材としてポリエチレンテレフタラートフィルムを用い、コーターで本基材上に上記塗工液を塗工し、得られた塗膜を、表2に示す乾燥条件で1次乾燥、2次乾および3次乾燥をこの順で連続して実施して乾燥し、乾燥した塗膜を基材から剥ぎ取って光学フィルムを得た。そして、得られた光学フィルムの膜厚を、膜厚計(小野測器製、リニアゲージセンサ)を用いて測定した。また、得られた光学フィルムを、テトラヒドロフラン(但し、クロロホルムの含有量を求める場合は1,1,2-トリクロロエタン)に溶解した後、溶解したフィルム溶液のガスクロマトグラフィー(GC)(島津製、キャピラリガスクロマトグラフ、GC-2025)を測定し、溶剤ごとに予め作製した検量線から含有量を求め、それらを合計することで、光学フィルムの残存溶剤量を求めた。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。
【0070】
実施例2
(製膜評価)
基材から剥ぎ取ったフィルムの端部を乾燥機中で動かない程度に、クリップ等で固定して、表2に示すように155℃で10分間の4段目の乾燥をさらに行ったこと以外は実施例1(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。基材剥離後の4段目の乾燥を追加したことで、残存溶剤量は減少した。
【0071】
実施例3
(製膜評価)
4段目の乾燥の温度を200℃としたこと以外は実施例2(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例2と比較して4段目の乾燥温度をより高くしたことで、より残存溶剤量の少ない光学フィルムが得られた。
【0072】
実施例4
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、1,3-ジオキソラン50重量%と酢酸メチル50重量%からなる溶剤に溶解したこと以外は実施例1(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。
【0073】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例2(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例2と比較して、1,3-ジオキソランに酢酸メチルを加えることで残存溶剤量が低下した。
【0074】
実施例5
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、1,3-ジオキソラン10重量%と酢酸メチル90重量%からなる溶剤に溶解したこと以外は実施例1(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。
【0075】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例4(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例4と比較して、酢酸メチルを加える割合を高くすることで残存溶剤がより少ないフィルムが得られた。
【0076】
合成例2
N-エチルマレイミドの仕込量を103.3gに、スチレンの仕込量を30.2gに、PVP K30 0.852gをポリエチレングリコール 0.075gに、それぞれ変更したこと以外は、合成例1と同様の方法でN-エチルマレイミド/スチレン共重合体の製造を行った。結果、87.5gのN-アルキルマレイミド系重合体(N-エチルマレイミド系重合体)を得た。共重合体中のN-エチルマレイミド残基単位の含量は63.9mоl%(68.0重量%)、重量平均分子量Mwは1,090,000であり、分散度Mw/Mnは3.0であった。
【0077】
実施例6
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を合成例2で得られたN-エチルマレイミド系重合体に変更したこと以外は実施例5(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。
【0078】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例4(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例5と同様に酢酸メチルを加える割合を高くすることで残存溶剤が少ないフィルムが得られた。
【0079】
比較例1
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、酢酸メチルに溶解したこと以外は実施例1(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。溶剤をエステル系溶剤のみにすることでゲル化し、溶液安定性が低いことが確認された。
【0080】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例1(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。
【0081】
比較例2
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、シクロペンタノンに溶解し、重合体濃度を17重量%にしたこと以外は実施例1(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。
【0082】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例1(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例1と比較して、残存溶剤量が多くなったため、フィルム保管時に溶剤揮発による収縮応力により光学フィルムがカールして平滑性が失われた。
【0083】
比較例3
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、健康および環境に対して有害性の懸念があるクロロホルムに溶解し、重合体濃度を18重量%にしたこと以外は実施例1(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。
【0084】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例1(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例1と比較して、残存溶剤量が多くなった。
【0085】
比較例4
(塗工液の調製)
合成例1で得られたN-エチルマレイミド系重合体を、トルエン50重量%とメチルエチルケトン(MEK)50重量%からなる溶剤に溶解したこと以外は実施例1(塗工液の調製)と同様の方法で塗工液を作製した。得られた塗工液の組成および溶液安定性を表1に示す。溶剤としてトルエンとエチルメチルケトンからなる溶剤を用いることでゲル化し、溶液安定性が低いことが確認された。
【0086】
(製膜評価)
上記塗工液を用いたこと以外は実施例1(製膜評価)と同様の方法で光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの乾燥条件、膜厚および残存溶剤量を表2に示す。実施例1と比較して、残存溶剤量が多くなった。
【0087】
下記表1中、「DOL」は1,3-ジオキソランを表し、「MEK」はメチルエチルケトンを表す。また、表1中の溶液安定性において、「○」はゲル化が確認されなかったことを表し、「×」はゲル化が確認されたことを表す。
【0088】
【0089】
【0090】
表1から明らかなように、実施例1~6の塗工液は、いずれも溶液安定性に優れており、比較例1および4の塗工液は、実施例1~6の塗工液と対比したときに、溶液安定性が低い。よって、当該塗工液の溶剤を1,3-ジオキソラン単独あるいは酢酸メチルとの併用によって構成することにより、酢酸メチル単独あるいはトルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤を用いる場合に比べて、溶液安定性を高めることができることがわかる。
【0091】
また、同様に溶液安定性が高い比較例2および3の塗工液から得られた光学フィルムは、表2から明らかなように、同様の条件で乾燥した実施例1の光学フィルムと対比したときに、溶剤残存量が多い。よって、上記の塗工液の溶剤を1,3-ジオキソラン単独によって構成し、当該塗工液を用いて光学フィルムを製造することにより、シクロペンタノンあるいはクロロホルムの塗工液を用いて光学フィルムを用いる場合に比べて、光学フィルムの溶剤残存量を低減可能であることがわかる。
【0092】
さらに、表2から明らかなように、実施例2の光学フィルムの溶剤残存量は、同様の条件で乾燥した実施例4、5および6の光学フィルムより多い。よって、上記の塗工液の溶剤を特定量の1,3-ジオキソランと特定量の酢酸メチルの併用によって構成し、当該塗工液を用いて光学フィルムを製造することにより、1,3-ジオキソラン単独の塗工液を用いて光学フィルムを用いる場合に比べて、光学フィルムの溶剤残存量を低減可能であることがわかる。