(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099422
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】電波反射体
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20230706BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114291
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2021213216の分割
【原出願日】2021-12-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 博之
(72)【発明者】
【氏名】井手 泰明
(72)【発明者】
【氏名】畠井 宗宏
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020BC02
5J020CA00
5J020CA01
(57)【要約】
【課題】電波を空間の広い範囲に反射させ、かつ景観を保つことのできる電波反射体を提
供する。
【解決手段】本発明の電波反射体は、電波を反射させるための導電体12を含むものであ
り、3GHz以上、300GHz以下の周波数の入射波が正規反射したときの反射波の強
度が、前記入射波に対して-30dB以上になる周波数が少なくとも1つ存在し、D65
標準光源における全光線透過率が65%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を反射させるための導電体を含む電波反射体であって、
3GHz以上、300GHz以下の周波数の入射波が正規反射したときの反射波の強度
が、前記入射波に対して-30dB以上になる周波数が少なくとも1つ存在し、
D65標準光源における全光線透過率が65%以上である、電波反射体。
【請求項2】
前記導電体を含む導電薄膜層と、前記導電薄膜層を保持する基材を含む基材層と、前記
導電薄膜層を保護するための保護材を含む保護層と、前記導電薄膜層と前記保護材を含む
層とを接着するための接着材を含む接着層とを有し、
前記基材層、前記導電薄膜層、前記接着層、前記保護層の順に積層されている、請求項
1に記載の電波反射体。
【請求項3】
前記導電薄膜層は、表面抵抗値が3.5Ω/□以下であり、厚みが300nm以下であ
る、請求項2に記載の電波反射体。
【請求項4】
前記導電薄膜層は、1または複数の線状の前記導電体により囲まれた導電体の無い領域
が、所定の間隔を空けて周期的に配置されている、請求項2または3に記載の電波反射体
。
【請求項5】
前記導電薄膜層において、単位面積当たりの前記導電体が占める面積の割合として規定
される導電体被覆率が1%以上、10%以下である、請求項4記載の電波反射体。
【請求項6】
前記導電体の線幅は、0.1μm以上、4.0μm以下である、請求項4又は5に記載
の電波反射体。
【請求項7】
全体の形状が、1辺の長さが20cm以上の多角形である、請求項1~6のいずれか1
項に記載の電波反射体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を反射させるための電波反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や無線通信においては、センチ波やミリ波と呼ばれる3GHz以上300GH
z以下程度の周波数帯の電波が用いられる。このような波長が短い電波は直進性が強く、
障害物があっても回り込みにくいため、電波を広い範囲に届かせるために、反射板が用い
られる。例えば特許文献1には、モノポールアンテナと、電波を反射する金属反射板とを
屋内の床下空間に配置した通信システムが提案されている。特許文献1においては、モノ
ポールアンテナから放射される電波を床下空間に拡散させるとともに、床下空間から居室
(建物)外に漏洩したり、建造物の床部に電波が吸収されることを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波を反射させる金属反射板は、一般的に、アルミニウムや銅等の金属板から構成され
る。金属反射板は、波長の短い電波の場合、正規反射方向には強い強度で反射させるが、
電波を拡散させて反射させにくく、空間の広い範囲に電波が届きにくいことが知られてい
る。また、金属反射板は一般的に不透明である。すなわち、金属反射板の一方側からみて
他方側が視認できないため、このような金属反射板を居室に用いた場合には金属反射板の
存在が目立ったり、窓に用いられた場合には視線が遮られ、室内の雰囲気を阻害し景観が
悪くなる。
【0005】
本発明は、上記した課題に着目してなされたものであり、電波を空間の広い範囲に反射
させ、かつ景観を保つことのできる電波反射体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0007】
項1.電波を反射させるための導電体を含む電波反射体であって、
3GHz以上、300GHz以下の周波数の入射波が正規反射したときの反射波の強度
が、前記入射波に対して-30dB以上になる周波数が少なくとも1つ存在し、
D65標準光源における全光線透過率が65%以上である、電波反射体。
【0008】
項2.前記導電体を含む導電薄膜層と、前記導電薄膜層を保持する基材を含む基材層と
、前記導電薄膜層を保護するための保護材を含む保護層と、前記導電薄膜層と前記保護材
を含む層とを接着するための接着材を含む接着層とを有し、
前記基材層、前記導電薄膜層、前記接着層、前記保護層の順に積層されている、項1に
記載の電波反射体。
【0009】
項3.前記導電薄膜層は、表面抵抗値が3.5Ω/□以下であり、厚みが300nm以
下である、項2に記載の電波反射体。
【0010】
項4.前記導電薄膜層は、1または複数の線状の前記導電体により囲まれた導電体の無
い領域が、所定の間隔を空けて周期的に配置されている、項2または3に記載の電波反射
体。
【0011】
項5.前記導電薄膜層において、単位面積当たりの導電体が占める面積として規定され
る導電体被覆率が1%以上、10%以下である、項4記載の電波反射体。
【0012】
項6.前記導電体の線幅は、0.1μm以上、4.0μm以下である、項4又は5に記
載の電波反射体。
【0013】
項7.全体の形状が、1辺の長さが20cm以上の多角形状である、項1~6のいずれ
か1項に記載の電波反射体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電波を空間の広い範囲に反射させ、かつ透明な金属反射体を提供でき
る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電波反射体により反射する反射波の角度範囲を説明するための図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電波反射体の概略構成を示す断面図であり、
図3(B)のB-B線に沿う断面図である。
【
図3】
図2に示す電波反射体の全体の概略構成を示し、(A)は平面図、(B)は(A)のA部分の拡大図である。
【
図4】(A)~(E)は導電体の配置パターンの他の例を示す断面図である。
【
図5】他の実施形態に係る電波反射体の概略構成を示す断面図である。
【
図6】他の実施形態に係る電波反射体の概略構成を示す断面図である。
【
図7】(A)は建築材料の建築物への適用例を示す説明図、(B)は室内への適用例を示す平面図である。
【
図8】死角への電波拡張性の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(全体構成)
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本発明の電波反射体11は、
図1に示す
ように、電波発生源20から出力された電波を反射するものであり、反射された反射波は
受信部21により受信される。電波発生源20は電波を送信可能な送信アンテナを持つ通
信装置等である。受信部21は、電波を受信可能な受信アンテナを持つ通信機器である。
受信部21としては、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ノートPC
、携帯ゲーム機、中継器、ラジオ、テレビ等が挙げられる。
【0017】
電波反射体11は、電波を反射させる導電体12を含み、特に、3GHz以上、300
GHz以下の周波数の電波が正規反射したときに、反射波の強度(以下、「正規反射強度
」ともいう。)が入射波に対して-30dB以上となる周波数が少なくとも1つ存在する
。好ましくは3GHz以上、300GHz以下の周波数帯域全てにおいて正規反射強度が
入射波に対して-30dB以上、0dB以下となる。また、正規反射強度は、入射波に対
して、-25dB以上、0dB以下が好ましく、-22dB以上、0dB以下がより好ま
しく、-20dB以上、0dB以下がさらに好ましく、-15dB以上、0dB以下がさ
らに好ましい。正規反射強度が、入射波に対して-30dB以上であることで、受信部2
1が使用に実用的な強度で電波を受信することができる。
【0018】
図1を参照して説明すると、正規反射とは、電波発生源20から発射された電波が電波
反射体11により反射されるときに、入射波の入射角θ1と反射波の反射角θ2が等しい
ことをいう。電波が正規反射したときの反射波の進む方向を「正規反射方向」ともいう。
入射角θ1とは、電波が電波反射体11に入射するときの入射方向(
図1中の矢印A1に
示す。)に進む入射波と、電波反射体11の反射面の法線22とがなす角度であり、反射
角θ2とは、反射方向(
図1中の矢印A2に示す。)に進む反射波と、反射面の法線22
とがなす角度である。法線22とは、反射点11aにおいて接線(または接平面)と直交
する直線をいう。反射波の強度を以下、「反射強度」とも言う。
【0019】
また、電波反射体11は、入射波の入射方向と反射波の反射方向とを含む仮想の平面に
おいて、反射波の受信角度位置を、電波の正規反射方向に対して-15度以上、+15度
以下の角度範囲αで変化させた時の、各受信角度位置における反射波の強度の分布の尖度
は-0.4以下が好ましい。尖度は、より好ましくは-1.0以下である。また、仮想の
平面は、電波反射体11の反射面上の反射点11aと、電波発生源20と、反射波の受信
部21とを含む平面とも言える。
【0020】
尖度は、分布が正規分布からどれだけ逸脱しているかを表す統計量で、山の尖り度と裾
の広がり度を示すものである。
図1に示すように、電波発生源20から出力された電波が
、電波反射体11に対して所定の入射角θ1で入射したとする。受信部21の受信角度位
置iを、反射点11aを中心として電波の正規反射方向から所定の角度ずつ(例えば5度
ずつ)、電波の正規反射方向に対して-15度以上、+15度以下の角度範囲α内で移動
させて、反射強度xを測定する。各受信角度位置iでの反射強度の値
の平均値を
、標準偏差をsとすると尖度は次の式から求められる。
【0021】
【0022】
尖度は、負の値の場合に各角度位置における強度データが正規分布より扁平な分布、す
なわち、データが平均値付近から散らばり分布の裾が広がっている状態を示しており、尖
度の値が小さいほど分布が扁平である。本実施形態では尖度を-0.4以下に設定するこ
とで、±15度の角度範囲α内においては、受信角度位置による反射強度の差が小さくな
る。
【0023】
電波反射体11は、D65標準光源における全光線透過率が65%以上であり、80%
以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以
上である。全光線透過率は、試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合をいい、JI
SK 7375:2008に規定されている。すなわち、電波反射体11はいわゆる「透明」であり
、「透明」とは、電波反射体11の一方側からみて他方側が視認可能であることを言い、
半透明を含む。また、電波反射体11は全体として着色されていてもよい。
【0024】
電波反射体11は、本実施形態では全体の形状が平面視において正方形であり、1辺の
長さが20cm以上、400cm以下であることが好ましい。周波数が3GHz以上、3
00GHz以下の電波は距離により減衰する。電波発生源20から実用に耐える距離内全
ての地点において、十分な強度で反射するために、一辺の長さL10を20cm以上とす
ることが好ましい。一辺の長さL10の上限は特に限定されないが、製造上の観点から4
00cm以下が好ましい。全体形状は正方形には限定されず、長方形でもよく、三角形、
五角形、六角形等の多角形でもよく、この場合、最も短い辺の長さが20cm以上、40
0cm以下に設定される。また、全体形状が円形の場合には、直径が20cm以上、40
0cm以下に設定され、全体形状が楕円形の場合には、短径が20cm以上、400cm
以下に設定され、全体形状が扇形の場合には、弧または半径の短い方の長さが20cm以
上、400cm以下に設定される。さらに、全体形状は筒状、錐状等の3次元形状であっ
てもよい。電波反射体11の入射波に対して-30dB以上の反射強度で電波を反射する
ことができる形状、大きさを有しており、形状、大きさは電波反射体11の使用の態様に
応じて適宜選択される。
【0025】
本実施形態では電波反射体11は厚みL1が約0.25mmに設定されているが、これ
に限定されず、厚みL1は1mm以下となることが好ましい。電波反射体11の厚みL1
が小さいことから、導電体12は可撓性を有する。可撓性とは、常温常圧下において柔軟
性を有し、力を加えても、せん断したり破断したりすることなしに、撓みや、屈曲、折り
曲げ等の変形が可能な性質をいう。電波反射体11は、曲率半径Rが300mm程度の湾
曲面に沿って貼付けることのできる程度の可撓性を有するが、曲率半径Rの値は限定され
ない。
【0026】
(電波反射体11の構造)
電波反射体11の構造の一例を、
図2、
図3を用いて説明する。電波反射体11は、導
電体12を含む導電薄膜層16と、導電薄膜層16を保持する基材を含む基材層13と、
導電薄膜層16を保護するための保護材を含む保護層15と、導電薄膜層16と保護層1
5とを接着するための接着材を含む接着層14とを有するものであってもよい。電波反射
体11は、
図2において、下から基材層13、導電薄膜層16、接着層14、保護層15
の順に積層されている。
【0027】
なお、以下の説明では、
図2に基づき上下方向を規定し、
図3、
図4に基づき縦横方向
、左右方向を規定しているが、上下方向、縦横方向、左右方向は説明のために用いており
、電波反射体11の建築物等への取付け等の使用時における上下方向、縦横方向を規定す
るものではない。また、
図1~
図8は実際の縮尺を示すものではない。また
図3において
は、電波反射体11の一部で接着層14、保護層15の図示を省略している。
【0028】
(基材層13)
基材層13は上面に導電体12を整列状態で保持するものであり、基材から構成される
。本実施形態では、外形が平面視において正方形状に形成されているがこれに限定されず
、電波反射体11の全体形状に合わせて長方形、円形、楕円形、扇形、多角形、三次元形
状等であってもよい。基材層13である基材として、合成樹脂製のシートが用いられる。
合成樹脂としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ポ
リプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステ
ル、ポリフォルムアルデヒド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、塩化ビニリデン、
ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、AS樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、フッ素
樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポ
リウレタン樹脂からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、基材層13の厚
みL2(
図2における上下方向の長さ)は、本実施形態では50μmに設定されているが
、これに限定されるものではない。なお、基材層13は基材に加え、任意の合成樹脂等の
物質や任意の部材を含んでいてもよい。
【0029】
(導電薄膜層16)
導電薄膜層16は、1または複数の線状の導電体12が基材層13の上面に薄膜として
形成されていることが好ましい。導電体12は、例えば銀(Ag)から構成されることが
好ましい。なお、導電体12は自由電子を持つ金属から構成されていればよく、銀に限ら
ず、例えば、金、銅、白金、アルミニウム、チタニウム、シリコン等であってもよい。ま
た、導電薄膜層16(導電体12)の厚み(膜厚)L3は、本実施形態では500nm(
0.5μm)としているが、これに限定されるものではない。厚みL3は、適切な電波強
度を確保する観点から、5nm以上であることが好ましい。なお、導電薄膜層16は導電
体12に加え、任意の合成樹脂等の物質や任意の部材を含んでいてもよい。
【0030】
導電薄膜層16は、表面抵抗値が3.5Ω/□以下であることが好ましい。導電薄膜層
16の表面抵抗値は、すなわち電波反射体11の表面抵抗値となる。
【0031】
上記表面抵抗値は導電薄膜層の表面に測定端子を接触させて、JISK7194:19
94に規定された四端子法に準拠して測定することができる。なお、樹脂シート等で保護
が施され導電薄膜層16が露出していない場合には、非接触式抵抗測定器(ナプソン株式
会社製、商品名:EC-80P、又はその同等品)を用いて渦電流法によって測定するこ
とができる。
【0032】
一例においては、導電薄膜層16は、1または複数の線状の導電体12が、導電体12
の無い領域12aを囲んで配置され、この領域12aが所定の間隔を空けて周期的に配置
されたものである。所定の間隔は、導電体12の線幅L6と等しい長さでもよく、線幅L
6よりも大きい長さでもよい。本実施形態の導電体12の配置パターンは、例えば
図3(
B)に示すように、導電体12が縦方向および横方向に沿って等間隔に配置されており、
導電体12により囲まれた導電体12の無い領域12aが正方形である。すなわち、導電
体12の無い領域12aは導電体12の線幅L6の間隔を空けて配置される。横方向に沿
う導電体12(12A)と縦方向に沿う導電体12(12B)とが重なり合う交点におい
て導電体12A、12Bは電気的に導通している。導電体12の線幅L6は、0.1μm
以上、4.0μm以下に設定されている。縦方向または横方向に沿って隣り合う導電体1
2の間の長さL7(正方形である導電体12の無い領域12aの一辺の長さ)は、可視光
線の波長より大きく、電波反射体11に反射する電波の波長より小さくなるように設定さ
れ、本実施形態では、2μm以上、10cm以下に設定される。より好ましくは20μm
以上、1cm以下、更に好ましくは25μm以上、1mm以下が好ましい。一層好ましく
は30μm以上、250μm以下である。
【0033】
導電体12の配置パターンは
図3(B)に示す配置に限定されず、例えば、隣り合う横
方向に延びる導電体12A同士の間の間隔と、隣り合う縦方向に延びる導電体12B同士
の間の間隔とが異なっており、導電体12の無い領域12aの形状が長方形であってもよ
い。また、導電体12は
図4(A)~(E)に示す形状の配置パターンで配置されていて
もよい。
図4(A)においては、複数の導電体12Aが横方向に沿って所定の間隔を空け
て配置され、この横方向に延びる導電体12Aの間に、縦方向に延びる複数の導電体12
Bが千鳥状に配置される。千鳥状とは、縦方向に延びる複数の導電体12Bが横方向に所
定の間隔を空けて配列され、かつ、一つの列を形成する複数の導電体12Bが、この列の
縦方向に隣の列を形成する複数の導電体12Bの間に位置し、一つ飛びの列の導電体12
Bは一直線上に並ぶように配列された状態をいう。
図4(B)においては、導電体12A
が横方向に沿って配置されるとともに、導電体12B、12Cが横方向に対して上下に傾
いた斜め方向に沿って配置されており、導電体12の無い領域12aの形状が正三角形で
ある。なお、導電体12の無い領域12aの形状の形状が正三角形ではなく、二等辺三角
形や3辺の長さが異なる三角形であってもよい。
図4(C)においては、線状の導電体1
2により形成された正六角形の導電体12の無い領域12aが周期的に配置され、
図4(
D)においては、線状の導電体12により形成された正五角形の導電体12の無い領域1
2aが周期的に配置されている。
図4(E)においては、線状の導電体12により形成さ
れた円形の導電体12の無い領域12aが周期的に配置されている。なお、
図4(A)~
(E)は導電体12のみを図示している。
【0034】
導電薄膜層16は、導電体被覆率が1%以上、10%以下であることが好ましい。導電
体被覆率は、平面視において単位面積当たりの導電体12が占める面積の割合をいう。導
電体被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、光学顕微鏡
等を用いて測定される。
【0035】
上記の配置パターンを有する導電薄膜層16の製造方法としては、導電体膜を成形した
後、エッチングによりパターンを形成し、パターンを有する導電薄膜体を取り出す方法、
リフトオフ層を設けたベースフィルム上に、感光性レジストを塗工し、フォトリソグラフ
ィ法によりパターン形成し、パターン部に導電体を充填した後に、パターンを有する導電
薄膜体を取り出す方法などが挙げられる。
【0036】
(接着層14)
接着層14は、基材層13および導電薄膜層16の上に保護層15を接着するものであ
り、接着材から構成される。接着層14は、平面視において基材層13に対応する大きさ
を有する。接着層14である接着材として、合成樹脂やゴム製の粘着シートが用いられる
。合成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂や、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹
脂等が挙げられる。接着層14の厚みL4は、本実施形態では150μmに設定されてい
るが、これに限定されるものではない。なお、接着層14は接着材に加え、任意の合成樹
脂等の物質や任意の部材を含んでいてもよい。
【0037】
接着層14は、誘電正接(tanδ)が0.018以下の合成樹脂材料からなるものが用
いられることが好ましい。誘電正接は低いほど好ましいが、通常0.0001以上である
。誘電正接とは、誘電体内での電気エネルギー損失の度合いを表すものであり、誘電正接
が大きい材料ほど電気エネルギー損失は大きくなる。誘電正接が0.018以下である接
着層14を用いることで、電波反射体11における電波の電気エネルギーの損失が少なく
なり、反射強度をより強くすることができる。
【0038】
また、接着層14の合成樹脂材料は、電場の周波数に応じて比誘電率が変化するもので
あることが好ましい。比誘電率とは、媒質(本実施形態では合成樹脂材料)の誘電率と真
空の誘電率の比である。電場に応じて比誘電率が変化することで、特定の周波数の電場で
の反射波の強度を高めることができる。比誘電率は、1.5以上、7以下の間で変化する
ことが好ましい。より好ましくは、1.8以上、6.5以下の間で変化することが好まし
い。誘導正接、比誘電率は測定装置(例えば、東洋テクニカ社、型番TTPXテーブルト
ップ極低温プローバー、マテリアルインピーダンスアナライザMIA-5M)を用いて既
知の方法(例えば、空洞共振器法、同軸共振器法)により測定される。
【0039】
なお、接着層14だけでなく、基材層13及び保護層15を構成する合成樹脂材料が、
誘電正接が0.018以下のものであってもよく、電場に応じて比誘電率が変化するもの
であってもよい。
【0040】
(保護層15)
保護層15は、平面視において基材層13に対応する大きさを有し、導電体12を保護
するものであり、保護材から構成される。保護層15である保護材として、合成樹脂製の
フィルムが用いられる。合成樹脂としては、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート
)、COP(シクロオレフィンポリマー)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビ
ニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリフォルムアルデヒ
ド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニ
ルアセタール、AS樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、ポリ
アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂からなる群
から選択される1種以上が挙げられる。保護層15の厚みL5は、本実施形態では50μ
mに設定されているが、これに限定されるものではない。なお、保護層15には保護材に
加え任意の合成樹脂等の物質や任意の部材を含んでいてもよい。
【0041】
本実施形態によれば、電波反射体11はD65標準光源における全光線透過率が65%
以上であり透明性が高いため、電波反射体11を居室に用いた場合に、視線が遮られたり
、電波反射体11の存在が目立って居室の雰囲気や景観を阻害することがなく、景観を良
好に保つことができる。また、電波反射体11においては、3GHz以上、300GHz
以下の周波数の入射波が正規反射したときの反射波の強度が、入射波に対して-30dB
以上になる周波数が少なくとも1つ存在するため、反射強度を大きく保った状態で電波を
反射させることができ、空間の広い範囲に電波を届けることができる。このため、波長が
短く直進性の高い電波であっても、室内の空間内においてできる限り死角空間が生じるの
を抑えることができ、死角空間を少なくするために電波反射体を多数設置する必要がない
。
【0042】
また、電波の正規反射方向に対して±15度の角度範囲α内の尖度を-0.4以下に設
定した場合には、±15度の角度範囲α内においては、受信角度位置による反射強度の差
が小さくなり、電波反射体11が反射した電波を受信部21が空間の広い範囲で受信可能
である。
【0043】
さらに、導電体12を含む導電薄膜層16が基材層13により保持され、保護層15が
接着層14により接着されている構成とした場合には、電波反射体11は居室等の壁や柱
に張り付けることができる程度の剛性を備えることができ、貼り付け等の作業がしやすい
。また、保護層15を備えているため、導電薄膜層16が傷つくのを防ぐことができる。
【0044】
導電薄膜層16の表面抵抗値が3.5Ω/□以下である場合には、電波反射体11は反
射強度を大きく保った状態で電波を反射させることができ、空間の広い範囲に電波を届け
ることができる。また、導電薄膜層16において、1または複数の線状の導電体12によ
り囲まれた導電体の無い領域が、所定の間隔を空けて周期的に配置されている場合には、
導電体12の無い領域12aを可視光線等の光線が通過し、電波反射体11の全光線透過
率が65%以上とすることができる。
【0045】
導電薄膜層16の導電体被覆率が1%以上、10%以下である場合には、導電体12が
配置されていない面積の割合が大きく、電波反射体11の全光線透過率が65%以上とな
る。
【0046】
導電体12の線幅L6が、0.1μm以上、4.0μm以下である場合には、導電体1
2が配置されていない面積の割合が大きく、電波反射体11の全光線透過率が65%以上
となる。
【0047】
電波反射体11の全体の形状が、1辺の長さが20cm以上、400cm以下の四角形
である場合には、居室内の空間の広い範囲に受信部が受信できる実用的な反射強度で電波
を反射させることができ、居室に電波反射体11を配置した場合に死角が生じにくい。
【0048】
(他の実施形態)
図5に本発明の他の実施形態を示す。
図5に示す電波反射体11は、導電薄膜層16A
、16Bが上下方向に二層に積層されている。基材層13A上に形成された導電薄膜層1
6Aと基材層13B上に形成された導電薄膜層16Bと配置パターンが平面から見て重な
るように位置合わせされる。なお、導電薄膜層16A、16Bの配置パターンは平面視に
おいて重なっていなくてもよく、導電薄膜層16A、16Bは異なる配置パターンで形成
されていてもよい。導電薄膜層16Aの上に、基材層13Bの下面が接着層14Aにより
貼付けられ、導電薄膜層16Bの上に、接着層14Bにより保護層15が貼付けられてい
る。
【0049】
電波反射体11に入射した電波は、一層目の導電薄膜層16Bにより反射されるが、一
部は導電薄膜層16Bで反射されずに導電薄膜層16Bを通過する。この導電薄膜層16
Bを通過した電波は、二層目の導電薄膜層16Aにより反射される。このように、導電体
12を含む導電薄膜層16を上下方向に複数積層することで、上層の導電薄膜層16Bを
通過した電波を下層の導電薄膜層16Aで反射させることができ、電波反射体11の反射
強度を導電体12が一層のみの場合と比べてより大きく保つことができる。さらに、二層
の接着層14A、14Bを用いているので、誘電正接の値が
図2に示す実施形態よりもさ
らに小さくなり、反射強度をさらに大きく保つことができる。その他の構成及び作用は図
2、
図3に示す実施形態と同様であるため、対応する構成に同一の符号を付すことで詳細
な説明は省略する。
【0050】
なお、
図5の実施形態では、基材層13に形成された導電薄膜層16が二層に積層され
ているが、三層以上積層されていてもよい。導電薄膜層16を積層する数が多くなると反
射強度が大きくなるが、電波反射体11全体の厚みが厚くなるため、全光線透過率、可撓
性が低下する。このため、導電薄膜層16の積層数は使用用途等に応じて適宜設定される
。
【0051】
(他の実施形態)
図6に電波反射体11の他の実施形態を示す。
図6の実施形態においては、電波反射体
11は導電薄膜層16と基材層13とを備え、接着層14と保護層15とを備えていない
。この場合、導電薄膜層16の導電体12は基材層13の上面の略全面にシート状の薄膜
として正方形状に形成されている。導電体12の厚みL3は、本実施形態では10nmと
しているが、これに限定されない。表面抵抗値は、本実施形態では9.8Ω/□である。
図6の実施形態においては、導電体被覆率は、基材層13の上の導電薄膜層16が設けら
れている部分における単位面積当たりの導電体12が占める面積の割合として規定され、
導電体被覆率は100%となる。本実施形態においては、電波反射体11の全光線透過率
は70%である。その他の構成及び作用は
図2、
図3に示す実施形態と同様であるため、
対応する構成に同一の符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0052】
なお、本実施形態では導電薄膜層16は1枚の導電体12から構成されるが、複数枚の
導電体12から構成されていてもよい。この場合、複数の導電体12が基材層13の上面
の略全面に、所定の間隔を空けて配置される。また、導電体12の形状は、円形、長方形
、三角形、多角形などであってもよい。
【0053】
(使用)
上記のいずれかの電波反射体11は建築材料30に含まれて使用されてもよい。建築材
料30は、例えば
図7(A)に示すように、室内や廊下の壁面、天井面、床面、パーティ
ーション用の壁紙、ポスター等の装飾材30A、電灯カバー用の透明シール等の装飾材3
0Bとして、建築物内に取り付けることが可能なものである。電波反射体11を含んだ装
飾材30A、30Bを壁面31や電灯カバー32に取付けることで、屋外から窓33等を
介して室内に入った電波を、壁面31や電灯カバー32に設けた装飾材30A、30Bで
反射する。これにより、室内空間Sのより広範囲に電波が届き、電波受信の利便性が向上
する。
【0054】
また、電波反射体11は建築材料30の内部に保持されたものとして形成されてもよい
。例えば、建築材料30である壁面31そのものや電灯カバー32そのものが電波反射体
11で構成されていてもよい。さらに、建築材料30は室内の壁や電灯カバーに限定され
ず、パーティーション、柱、鴨居、建築物の外壁、窓等であってもよい。例えば、
図7(
B)は室内を平面から見た図であり、電波反射体11である建築材料30は部屋の隅の曲
面を有する隅柱30Cとして形成されている。窓33から入った電波が隅柱30Cに反射
して室内空間Sのより広範囲に電波が届く。なお、
図7(A)、
図7(B)は建築材料3
0の適用例を示すものであり、実際の電波の反射の範囲を示すものではない。また、電波
反射体11は建築材料30に限らず、樹脂などの非導電性材料からなる部材の内部に保持
されて任意の場所で使用されてもよい。
【0055】
(評価試験)
電波反射体11として実施例1~3を作成し、この実施例1~3と比較例4~6とにつ
いて、景観担保性、死角への電波拡張性について評価試験を行なった。実施例1~3、比
較例4~6の条件および試験結果を表1に示す。ただし、本発明の電波反射体11は、実
施例1~3に限定されない。
【0056】
(実施例1)
実施例1として作成した電波反射体11は、
図2、
図3に示す実施形態と同様の構成を
有する電波反射体11である。電波反射体11は平面形状が正方形状であり、一辺の長さ
L10を20cm、電波反射体11の厚みL1を0.25mmとした。なお、電波反射体
11の厚みL1は、導電薄膜層16の厚みL3、基材層13の厚みL2、接着層14の厚
みL4、保護層15の厚みL5の合計となる。しかし、導電薄膜層16の厚みL3は基材
層13、接着層14、保護層15の各厚みL2、L4、L5に比べて非常に薄いため、電
波反射体11の厚みL1に導電薄膜層16の厚みL3は考慮されていない。電波反射体1
1は、3GHz以上、300GHz以下の周波数の入射波が反射したときの電波の反射強
度の最大値(以下、「電波反射強度の最大値」ともいう。)が-20dB、全光線透過率
が90%である。基材層13としてPETからなる合成樹脂材料シート(東レ社製、ルミ
ラー50T60)を用い、基材層13の厚みL2を50μmとした。導電薄膜層16の導
電体12は銀(Ag)からなる線状の金属薄膜であり、厚み(膜厚)L3を500nm、
線幅L6を0.5μm、隣り合う導電体12の間の長さL7を60μmとした。導電薄膜
層16の表面抵抗値は1.7Ω/□、導電体被覆率は3.3%である。接着層14として
、ゴム系接着剤を用いた。詳細には、接着層14は、冷却管、窒素導入管、温度計、滴下
ロートおよび撹拌装置を備えた反応容器に、ゴム系ポリマー(スチレン-(エチレン-プ
ロピレン)-スチレン型ブロック共重合体50質量%とスチレン-(エチレン-プロピレ
ン)型ブロック共重合体50質量%との混合物、スチレン含有率15%、重量平均分子量
13万)100重量部、合成樹脂(三井化学社製、FMR-0150)40重量部、軟化
剤(JX日鉱日石エネルギー社製、LV-100)20重量部、酸化防止剤(ADEKA
社製、アデカスタブAO-330)0.5重量部およびトルエン150重量部を仕込み、
40℃で5時間撹拌したものである。接着層14の厚みL4は150μmとした。接着層
14の誘導正接は0.04である。保護層15としてPETからなる合成樹脂製シート(
東レ社製、ルミラー50T60)を用いた。保護層15の厚みL5を50μmとした。
【0057】
実施例1の電波反射体11の製造方法を説明する。まず、導電体12の基材層13への
形成を行なう。金属層として十分な強度を有する5~200μmの厚さの銅箔の一方の表
面に、0.01~3μmのコア層を電解または無電解めっきなどの方法によって形成する
。そして、コア層の表面に電解または無電解めっきなどの方法によって所定の配置パター
ンの導電薄膜層16を形成する。次に、導電薄膜層16の全部を基材層13で覆う。基材
層13には粘着剤があらかじめ塗布されている。そして、銅箔およびコア層をエッチング
除去する。これにより導電体12が基材層13上に形成される。
【0058】
そして、接着層14により保護層15を導電体12の基材層13とは反対側に取付ける
。接着層14を用いて、気泡が入らないよう保護層15を基材層13の導電体12上に貼
付ける。これにより電波反射体11が製造される。
【0059】
(実施例2)
実施例2として作成した電波反射体11は、実施例1とは電波反射強度の最大値および
電波反射体11の形状の一辺の長さL10が異なっている。実施例2では、電波反射強度
の最大値は-28dBであり、一辺の長さL10は18cmである。その他の構成は実施
例1と同様である。
【0060】
(実施例3)
実施例3として作成した電波反射体11は、実施例1、2とは異なり
図6に示す実施形
態と同様の構成を有する電波反射体11である。電波反射体11は正方形状であり、電波
反射体11の厚みL1を0.05mm、一辺の長さL10を20cmとした。電波反射体
11は、電波反射強度の最大値が-28dB、全光線透過率が70%である。基材層13
としてPETからなる合成樹脂材料シート(東レ社製、ルミラー50T60)を用い、基
材層13の厚みL2を50μmとした。導電薄膜層16の導電体12は銅からなる金属薄
膜であり、厚み(膜厚)L3を10nmとした。導電薄膜層16の表面抵抗値は6.8Ω
/□、導電体被覆率は100%である。
【0061】
実施例3における導電体12の基材層13への形成は、例えば、ロールtoロール方式
のスパッタリング装置を用いている。スパッタリング装置の成膜室に備えられたカソード
に、金属(例えば銅)を含むターゲットを取り付ける。カソードに対して、5%カソード
が隠れる程度の大きさにアースシールドを設ける。スパッタリング装置の成膜室は、真空
ポンプにより排気され、例えば3.0×10-4Paまで減圧され、また、例えばアルゴ
ンガスが所定の流量(100sccm)で供給される。この状態で、基材層13を例えば
搬送速度0.1m/分、張力100Nでカソード下に搬送する。カソードに接続されたバ
イポーラ電源から5kWのパルス電力が供給されることで、ターゲットから金属が吐出さ
れて基材層13の表面に堆積し、これにより金属薄膜が形成される。
【0062】
金属薄膜が所望の厚みで形成されたか否かの評価は例えば以下の手順により行なわれる
。例えば、ナノインデンター(HYSITRON社製、TI950)を用いて、所定の箇
所(本実施形態では約30か所)に金属薄膜を貫通する圧痕を形成する。レーザー顕微鏡
(KEYENCE社製、VK-X1000/1050)を用いて、圧痕による隙間から金
属薄膜の厚みを計測する。約30か所の測定値から平均膜厚及び標準偏差を求め、平均膜
厚が所望の厚みL3であるか、及び測定値のばらつきが所望の範囲内(例えば、標準偏差
が5以内)であるかを評価する。
【0063】
(比較例4)
比較例4として作成した電波反射体は、実施例1とは以下の点において異なっている。
電波反射体の全光線透過率が62%である。導電薄膜層16の導電体12は銅からなり、
線幅L6は5μm、導電薄膜層16の表面抵抗値は1.1Ω/□、導電体被覆率は30.
6%である。その他の構成はその他の構成は実施例1と同様である。
【0064】
(比較例5)
比較例5として作成した電波反射体は、実施例3とは以下の点において異なっている。
電波反射強度の最大値は、-20dB、全光線透過率が60%である。導電薄膜層16は
、厚み(膜厚)L3を15nmとした。導電薄膜層16の表面抵抗値は2.8Ω/□であ
る。その他の構成は実施例3と同様である。
【0065】
(比較例6)
比較例6として作成した電波反射体は、実施例3とは以下の点において異なっている。
電波反射強度の最大値は-40dB、全光線透過率が80%である。導電薄膜層16は、
厚み(膜厚)L3を2.5nmとした。導電薄膜層16の表面抵抗値は9.8Ω/□であ
る。その他の構成は実施例3と同様である。
【0066】
【0067】
(反射強度、全光線透過率、表面抵抗値の測定方法)
測定対象物である実施例1~3、比較例5~6(まとめて「試料」とも言う。)の反射
波の強度と反射強度が―30dB以上となる周波数の測定は、JISR1679:200
7に記載された反射量の測定方法に沿って行った。ベクトルネットワークアナライザ(ア
ジレント社製E5061B LF-RF)を用い、受信アンテナとして矩形ホーンアンテナを用いた。
試料と受信アンテナと送信アンテナとは同一平面上に配置し、試料と受信アンテナとの間
の距離および試料と送信アンテナとの間の距離は1mとした。試料に対する電波の入射角
θ1、反射角θ2を45度に設定した。送信アンテナから、周波数を3GHzから300
GHzまで変化させた電波(3GHzの電波、5GHzの電波、30GHz以上は30G
Hz刻みに300GHzまで(すなわち、30、60、90、120・・・300GHz
)の電波)を出力し、各周波数の電波に対する反射強度を測定した。この時、ベクトルネ
ットワークアナライザにて受信アンテナと送信アンテナの同軸ケーブルを直結し、各周波
数における信号レベルを0として校正する。その後再度装置を構成し、測定を行う。試料
の各周波数における反射強度は、0点からの信号レベルの減衰量として測定する。なお電
波の周波数が10GHz以下の場合においては、矩形ホーンアンテナの第一フレネル半径
を考慮し、適宜ミリ波レンズを用いて試料に平面波を照射した。
【0068】
全光線透過率は、D65標準光源(CIE(国際照明委員会)が規定する標準光源の一
つ)においてJISK 7375:2008に規定された方法に準拠して測定した。
【0069】
表面抵抗値は、実施例1~3、比較例4~6の製造時に導電薄膜層16が形成されて露
出している状態で、導電薄膜層16の表面に測定端子を接触させて、JISK7194:
1994に規定された四端子法に準拠して測定した。
【0070】
(評価指標)
景観担保性、死角への電波拡張性の2つの評価指標を設定した。景観担保性は電波反射
体11の透明性および導電薄膜層16の導電体12の配置パターンが視認される度合いを
評価する指標である。透明性は、文字が書かれた紙の上に電波反射体11を載置し、電波
反射体11の上側から電波反射体11を目視した場合に、文字が視認できるか否かを評価
する。また、導電薄膜層16の導電体12の配置パターンが視認される度合いは、以下の
ように評価される。電波反射体11から0.5m離れた位置に光源を配置して光線を電波
反射体11に照射する。電波反射体11を挟んで光源とは反対側であって、電波反射体1
1から0.5m離れた位置において、目視で電波反射体11を観察し、導電体12の配置
パターンが視認されるか否かを評価する。文字を視認可能であり、かつ、光源としてLE
D(Light Emitting Diode)、蛍光灯及び白熱球いずれからの光線を照射した場合にお
いても、目視で導電体12の配置パターンが視認されない場合を「◎」と評価し、文字を
視認可能であり、かつ、LEDからの光線を照射した場合には目視で導電体12の配置パ
ターンが視認されるが、蛍光灯からの光線を照射した場合には目視で導電体12の配置パ
ターンが視認されない場合を「〇」と評価し、文字を視認できないか、光源としてLED
、蛍光灯からの光線を照射し、いずれの光線でも目視で導電体12の配置パターンが視認
される場合を「×」と評価した。
【0071】
死角への電波拡張性は、死角のある建物内において、電波反射体11により反射された
反射波を受信部21により十分に受信可能であるか否かを評価する指標である。
図8に示
すように、鉄筋コンクリート製の建物内の廊下40と、廊下40の延在する方向に直交す
る方向に突出する階段踊場41とを用いて試験を行った。階段踊場41は、平面形状が長
方形状であって、廊下40の側壁42の開口部43に連続して設けられており、廊下40
の幅L20は約2m、廊下40の延在する方向に沿った開口部43の長さ、すなわち階段
踊場41の廊下40の延在する方向に沿う長さL21は約3mであり、階段踊場41の奥
行き(開口部43から開口部43に対向する壁までの長さ)L22は約2mである。
【0072】
電波反射体11は、その重心点が、平面視において、廊下40の幅方向の中央であって
、側壁42の開口部43の廊下40の延在する方向の中央に位置するように設置される。
電波反射体11は電波が入射する面が廊下40の床面に対して垂直になるように立てて設
置される。電波発生源である送信アンテナ44は、平面視において、電波反射体11から
距離L23離れた廊下40の幅方向の中央に設置され、距離L23は5mに設定される。
送信アンテナ44からの電波を受信する受信アンテナ45は、平面視において階段踊場4
1の中央に設置される。送信アンテナ44、受信アンテナ45、電波反射体11は、送信
アンテナ44の重心点と、受信アンテナ45の重心点と、電波反射体11の重心点とを含
む平面が、廊下40の床面に平行となるようにレーザー水準器を用いて設置される。床面
と前記平面との間の距離は1.0mである。電波反射体11の電波が入射する面の向きは
、電波反射体11への電波の入射角θ1、反射角θ2が45度となる向きである。
【0073】
送信アンテナ44から28.5GHzの周波数の電波を出力し、測定を行った。この時
、ベクトルネットワークアナライザにて受信アンテナ45と送信アンテナ44の同軸ケー
ブルを直結し、信号レベルを0として校正する。その後再度装置を構成し、測定を行った
。送信アンテナ44から電波を出力し、電波反射体11で反射させ、受信アンテナ45で
受信する。受信アンテナ45で受信した電波の反射強度を0点からの信号レベルの減衰量
として測定し、強度が-25dB以上の場合を「◎」と評価し、-30dB以上の場合を
「〇」と評価し、-30dB未満の場合を「×」と評価した。「◎」、「〇」の評価は、
電波の反射強度が使用に実用的な強度であることを意味する。
【0074】
(試験結果)
表1に試験結果を示す。実施例1は、全光線透過率が90%と高く、文字が視認可能で
、導電体12の配置パターンが視認されず、景観担保性が「◎」の評価であり、また、死
角への電波拡張性の試験において、受信部21で受信した電波の反射強度が-25dB以
上であり「◎」の評価であった。一方、実施例1、2と同様の構造を有する比較例4は、
導電体の材料が銅であり導電体被覆率が実施例1よりも高く、全光線透過率が62%と実
施例1よりも低くなるため、死角への電波拡張性は「◎」の評価であるものの景観担保性
が「×」の評価であり、景観担保性において実施例1は比較例4よりも良好であった。
【0075】
実施例2は、実施例1と比較して電波反射体11の一辺の長さL10が短く設定されて
いるが、全光線透過率が90%と高く、文字が視認可能で、導電体12の配置パターンが
視認されず、景観担保性が「◎」の評価であった。死角への電波拡張性の試験において、
実施例2は、電波の反射強度が-30dB以上であり「○」の評価であった。一方、比較
例4においては上述のように景観担保性が「×」の評価であり、景観担保性において実施
例2は比較例4よりも良好であった。
【0076】
実施例3は、導電薄膜層16の厚みが小さく全光線透過率が70%と高く、景観担保性
が「○」の評価であり、また、死角への電波拡張性において、電波の反射強度が-30d
B以上であり「○」の評価であった。一方、実施例3と同様の構造を有する比較例5は、
導電薄膜層16の厚みが実施例3よりも大きく、全光線透過率が60%となり、死角への
電波拡張性は「◎」の評価であるものの、景観担保性が「×」の評価であった。また実施
例3と同様の構造を有する比較例6は、導電薄膜層16の厚みが実施例3よりも小さく、
景観担保性が「○」の評価であるものの、電波反射強度は小さく死角への電波拡張性は「
×」の評価であった。
【0077】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるも
のではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。実施形態
として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等
は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【符号の説明】
【0078】
11 電波反射体
12 導電体
13 基材層
14 接着層
15 保護層
16 導電薄膜層
L6 導電体の線幅
L10 電波波反射体の1辺の長さ
【手続補正書】
【提出日】2023-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を反射させるための導電体を含む電波反射体であって、 JISR1679:2007に記載された測定方法に沿って測定した場合に、3GHz以上、300GHz以下の周波数の入射波が正規反射したときの反射波の強度が、前記入射波に対して-30dB以上になる周波数が少なくとも1つ存在し、
D65標準光源における全光線透過率が65%以上である、電波反射体。
【請求項2】
前記導電体を含む導電薄膜層と、前記導電薄膜層を保持する基材を含む基材層と、前記導電薄膜層を保護するための保護材を含む保護層と、前記導電薄膜層と前記保護材を含む層とを接着するための接着材を含む接着層とを有し、
前記基材層、前記導電薄膜層、前記接着層、前記保護層の順に積層されている、請求項1に記載の電波反射体。
【請求項3】
前記導電薄膜層は、表面抵抗値が3.5Ω/□以下であり、厚みが300nm以下である、請求項2に記載の電波反射体。
【請求項4】
前記導電薄膜層は、1または複数の線状の前記導電体により囲まれた導電体の無い領域が、所定の間隔を空けて周期的に配置されている、請求項2または3に記載の電波反射体。
【請求項5】
前記導電薄膜層において、単位面積当たりの前記導電体が占める面積の割合として規定される導電体被覆率が1%以上、10%以下である、請求項4記載の電波反射体。
【請求項6】
前記導電体の線幅は、0.1μm以上、4.0μm以下である、請求項4又は5に記載の電波反射体。
【請求項7】
全体の形状が、1辺の長さが20cm以上の多角形である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電波反射体。
【請求項8】
前記入射波の入射方向と前記反射波の反射方向とを含む仮想の平面において、前記反射波の受信角度位置を、正規反射方向に対して-15度以上、+15度以下の角度範囲で変化させた時の、前記各受信角度位置における前記反射波の強度の分布の尖度が-0.4以下となる周波数が少なくとも一つ存在する、請求項1~7のいずれか1項記載の電波反射体。
【請求項9】
前記接着層は合成樹脂材料からなり、誘電正接が0.018以下である請求項2に記載の電波反射体。
【請求項10】
前記合成樹脂材料は、電場の周波数に応じて比誘電率が変化する、請求項9に記載の電波反射体。