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特開2024-106609混合器及びそれを備えた荷電粒子線装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106609
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】混合器及びそれを備えた荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 25/10 20220101AFI20240801BHJP
   H01J 37/141 20060101ALI20240801BHJP
   B01F 23/45 20220101ALI20240801BHJP
   B01F 25/45 20220101ALI20240801BHJP
   G05D 23/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B01F25/10
H01J37/141 B
B01F23/45
B01F25/45
G05D23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010967
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽持 満
【テーマコード(参考)】
4G035
5C101
5H323
【Fターム(参考)】
4G035AB37
4G035AC44
5C101AA01
5C101JJ12
5H323AA01
5H323AA05
5H323BB03
5H323CA05
5H323CB22
5H323CB33
5H323DA04
5H323FF01
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、冷却水の時間的な温度変化を効果的に抑制する。
【解決手段】容器34の内部空間が隔壁36により第1攪拌室38及び第2攪拌室40に仕切られている。ノズル70から出た噴射流48により第1攪拌室38において回転流50が生じる。隔壁36が有する複数の貫通孔により回転流50がサンプリングされ、これにより複数のサンプリング流54が生じる。第1攪拌室38及び第2攪拌室40において、冷却水が段階的に攪拌される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する容器と、
前記容器の中心軸に交差し、前記内部空間を第1攪拌室及び第2攪拌室に仕切る隔壁であって、前記第1攪拌室と前記第2攪拌室を繋げる複数の貫通孔を有する隔壁と、
前記第1攪拌室へ液体を導入するためのインレットと、
前記第2攪拌室から液体を排出するためのアウトレットと、
前記インレットを通じて導入された液体を前記第1攪拌室へ噴射し、これにより前記第1攪拌室において前記容器の中心軸周りで回転する回転流を生じさせる噴射構造と、
を含み、
前記複数の貫通孔による前記回転流のサンプリングにより複数のサンプリング流が生じ、前記複数のサンプリング流が前記第2攪拌室へ流れ込む、
ことを特徴とする混合器。
【請求項2】
請求項1記載の混合器において、
前記噴射構造は、前記容器から前記第1攪拌室へ突き出たノズルを含む、
ことを特徴とする混合器。
【請求項3】
請求項2記載の混合器において、
前記ノズルは、前記容器の中心軸に交差する幅方向に広がる噴射流を生じさせる、
ことを特徴とする混合器。
【請求項4】
請求項3記載の混合器において、
前記ノズルは、前記インレットを通じて導入された液体が流れる通路であって、前記幅方向に広がる通路を有し、
前記通路の中心軸は、前記容器の中心軸から前記幅方向にシフトした位置を通過している、
ことを特徴とする混合器。
【請求項5】
請求項4記載の混合器において、
前記容器は、前記第1攪拌室に臨み前記第1攪拌室を取り囲む内側側面を有し、
前記ノズルは、前記内側側面へ向いた開口を有する、
ことを特徴とする混合器。
【請求項6】
請求項2記載の混合器において、
前記第2攪拌室は、前記第1攪拌室の上側に設けられ、
前記容器は、前記第1攪拌室に臨む底面を有し、
前記隔壁は、前記第1攪拌室に臨む下面を有し、
前記ノズルは、前記底面及び前記下面から隔てられている、
ことを特徴とする混合器。
【請求項7】
請求項1記載の混合器において、
前記噴射構造は、平板状の中空部材を含み、
前記中空部材は、
前記容器から前記第1攪拌室へ突き出たノズルと、
前記容器から前記容器の外側へ突き出ており、前記インレットを備える外側端部と、
を含む、ことを特徴とする混合器。
【請求項8】
請求項7記載の混合器において、
前記中空部材は、
前記インレットを通じて導入された液体が流れる通路と、
前記通路を介して対向する2つの内面と、
前記通路に配置され、前記2つの内面に連結された補強部材と、
を含む、ことを特徴とする混合器。
【請求項9】
請求項1記載の混合器において、
前記複数の貫通孔により、前記回転流における複数の半径位置で前記回転流がサンプリングされる、
ことを特徴とする混合器。
【請求項10】
試料に対して荷電粒子線を照射するための設備である冷却対象と、
前記冷却対象から戻ってきた冷媒を冷却する冷却設備と、
前記冷却設備と前記冷却対象との間に設けられ、前記冷却設備から前記冷却対象に向けて送り出された冷媒の温度変化を抑制する混合器と、
を含み、
前記混合器は、
内部空間を有する容器と、
前記容器の中心軸に交差し、前記内部空間を第1攪拌室及び第2攪拌室に仕切る隔壁であって、前記第1攪拌室と前記第2攪拌室を繋げる複数の貫通孔を有する隔壁と、
前記第1攪拌室へ冷媒を導入するためのインレットと、
前記第2攪拌室から冷媒を排出するためのアウトレットと、
前記インレットを通じて導入された冷媒を前記第1攪拌室へ噴射し、これにより前記第1攪拌室において前記容器の中心軸周りで回転する回転流を生じさせる噴射構造と、
を含み、
前記複数の貫通孔による前記回転流のサンプリングにより複数のサンプリング流が生じ、前記複数のサンプリング流が前記第2攪拌室へ流れ込む、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合器及びそれを備えた荷電粒子線装置に関し、特に、混合器の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
混合器は、液体を混合する装置である。液体の温度を均一化したい場合や液体の濃度を均一化したい場合に混合器が用いられる。そのような混合器として、攪拌のための運動部材を有する動的な混合器、及び、そのような運動部材を有しない静的な混合器、が知られている。サイズやコストを抑える観点からは、静的な混合器の採用が望まれる。
【0003】
電子顕微鏡、電子線描画装置、イオンビーム加工装置等の荷電粒子線装置においては、レンズや電子回路等の多くの設備を冷却する必要がある。その場合、冷媒である冷却水の温度が時間的に変化すると、荷電粒子線の形成に大きな影響が及ぶ。そこで、冷却水の時間的な温度変化を極力抑える必要がある。例えば、冷却水の温度変化幅を0.5℃又は0.25℃以下に抑えることが必要である。特に、高精度の荷電粒子線装置においては、例えば、冷却水の温度変化幅を0.1℃又はそれ以下に抑える必要がある。
【0004】
なお、電気的なフィードバック制御により冷却水の温度を制御する場合、冷却水の応答特性等により制御可能な周波数帯域が決まる。その周波数帯域の上限を超える周期的変化を抑制することはできない。電気的なフィードバック制御に加えて、静的な混合器により、時間的な温度変化を効果的に抑制することが求められている。
【0005】
特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、混合器が開示されている。しかし、いずれの特許文献にも、複数の攪拌方法の組み合わせが実施される混合器、特に、回転流から複数のサンプリング流を生じさせる混合器は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-1428701号公報
【特許文献2】特開昭63-107736号公報
【特許文献3】特開2016-44876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、混合器において、複雑な構造を用いることなく液体の混合度を高めることにある。あるいは、本発明の目的は、荷電粒子線装置において、冷媒の温度を高精度に均一化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る混合器は、内部空間を有する容器と、前記容器の中心軸に交差し、前記内部空間を第1攪拌室及び第2攪拌室に仕切る隔壁であって、前記第1攪拌室と前記第2攪拌室を繋げる複数の貫通孔を有する隔壁と、前記第1攪拌室へ液体を導入するためのインレットと、前記第2攪拌室から液体を排出するためのアウトレットと、前記インレットを通じて導入された液体を前記第1攪拌室へ噴射し、これにより前記第1攪拌室において前記容器の中心軸周りで回転する回転流を生じさせる噴射構造と、を含み、前記複数の貫通孔による前記回転流のサンプリングにより複数のサンプリング流が生じ、前記複数のサンプリング流が前記第2攪拌室へ流れ込む、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る荷電粒子線装置は、試料に対して荷電粒子線を照射するための冷却対象と、前記冷却対象から戻ってきた冷媒を冷却する冷却設備と、前記冷却設備と前記冷却対象との間に設けられ、前記冷却設備から前記冷却対象に向けて送り出された冷媒の温度変化を抑制する混合器と、を含み、前記混合器は、内部空間を有する容器と、前記容器の中心軸に交差し、前記内部空間を第1攪拌室及び第2攪拌室に仕切る隔壁であって、前記第1攪拌室と前記第2攪拌室を繋げる複数の貫通孔を有する隔壁と、前記第1攪拌室へ冷媒を導入するためのインレットと、前記第2攪拌室から冷媒を排出するためのアウトレットと、前記インレットを通じて導入された冷媒を前記第1攪拌室へ噴射し、これにより前記第1攪拌室において前記容器の中心軸周りで回転する回転流を生じさせる噴射構造と、を含み、前記複数の貫通孔による前記回転流のサンプリングにより複数のサンプリング流が生じ、前記複数のサンプリング流が前記第2攪拌室へ流れ込む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、混合器において、複雑な構造を用いることなく液体の混合度を高められる。あるいは、本発明によれば、荷電粒子線装置において、冷媒温度を高精度に均一化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る荷電粒子線装置を示すブロック図である。
図2】混合器の斜視図である。
図3】混合器の透視図である。
図4】中空ケースの断面図である。
図5】噴射流及び回転流を示す図である。
図6】混合器の断面図である。
図7】実験結果を示す図である。
図8】別の実験結果を示す図である。
図9】中空ケースの他の配置を示す図である。
図10】隔壁の第1変形例を示す図である。
図11】隔壁の第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る混合器は、容器、隔壁、インレット、アウトレット、及び、噴射構造を有する。容器は、内部空間を有する中空容器である。隔壁は、容器の中心軸に交差しており、容器の内部空間を第1攪拌室及び第2攪拌室に仕切る。隔壁は、第1攪拌室と第2攪拌室を繋げる複数の貫通孔を有する。インレットは、第1攪拌室へ液体を導入するためのものである。アウトレットは、第2攪拌室から液体を排出するためのものである。噴射構造は、インレットを通じて導入された液体を第1攪拌室へ噴射し、これにより第1攪拌室において容器の中心軸周りで回転する回転流を生じさせる。複数の貫通孔による回転流のサンプリングにより複数のサンプリング流が生じる。複数のサンプリング流が第2攪拌室へ流れ込む。
【0014】
上記構成によれば、第1攪拌過程において、噴射流により回転流が生成され、かつ、噴射流が回転流に混合される。それに続く第2攪拌過程において、複数の貫通孔により生成された複数のサンプリング流が第2攪拌室内の液体に混合される。このように、複数の攪拌方法の組み合わせにより、簡易な構成で、容器内において液体の混合度を高められる。よって、液体の時間的な温度変動又は濃度変動を大幅に抑制できる。
【0015】
第1攪拌室において生じる回転流は、容器の中心軸の周りにおいて回転する流れであり、それには渦流、螺旋流等が含まれる。第1攪拌室において、噴射構造から出た噴射流が容器の内面に衝突して、回転流とは別の流れが生じる場合、その別の流れも攪拌効率の向上に寄与する。第2攪拌室において、複数のサンプリング流により回転流が生じる場合、その回転流も攪拌効率の向上に寄与する。第1攪拌室において、液体は回転しながら第2攪拌室側へ徐々に移動する。第2攪拌室において、液体はアウトレット側に徐々に移動する。
【0016】
実施形態において、噴射構造は、容器から第1攪拌室へ突き出たノズルを含む。ノズルは、容器の中心軸に交差する幅方向に広がる噴射流を生じさせる。この構成によれば、回転流における内側から外側にわたる部分に対して噴射流を接触させることが可能となる。よって、攪拌効率を高められる。
【0017】
典型的には、回転流における内側には過去に導入された液体が存在し、回転流における外側には最近導入された液体が存在する。インレットに導入される液体の温度が時間的に変化している場合、過去に導入された液体の温度と最近導入された液体の温度は同じではない。つまり、回転流における内側から外側にわたって温度のばらつきが生じる。上記構成は、回転流において温度分布を有する部分に対して、新たに導入された噴射流を混合し、これにより温度の均一化を図るものである。
【0018】
実施形態においては、ノズルは、インレットを通じて導入された液体が流れる通路であって、幅方向に広がる通路を有する。通路の中心軸は、容器の中心軸から幅方向にシフトした位置を通過している。実施形態において、容器は、第1攪拌室に臨み第1攪拌室を取り囲む内側側面を有する。ノズルは、内側側面へ向いた開口を有する。この構成によれば、容器の内面が筒状、球状、又は、楕円体状の形態を有することを前提として、回転流を自然に形成できる。
【0019】
実施形態において、第2攪拌室は、第1攪拌室の上側に設けられる。容器は、第1攪拌室に臨む底面を有する。隔壁は、第1攪拌室に臨む下面を有する。ノズルは、底面及び下面から隔てられている。この構成によれば、噴射流が容器の内面へ衝突した際に、回転流とは別の流れ(例えば二次流又は支流)が生じ易くなる。そのような別の流れにより、攪拌効率をより高められる。ノズルが底面と下面の間の中間位置又はその付近に設けられてもよい。
【0020】
実施形態において、噴射構造は、平板状の中空部材を含む。中空部材は、容器から第1攪拌室へ突き出たノズルと、容器から容器の外側へ突き出ており、インレットを備える外側端部と、を含む。中空部材は、回転流の流れ方向に広がっており、中空部材において回転流が衝突する部分の面積は比較的に小さい。よって、中空部材によって回転流の運動が大きく損なわれることはない。後述する中空ケースが中空部材に相当する。
【0021】
実施形態において、中空部材は、インレットを通じて導入された液体が流れる通路と、通路を介して対向する2つの内面と、通路に配置され、2つの内面に連結された補強部材と、を含む。中空部材が容器を貫通している場合、中空部材に応力集中が生じ易くなる。上記構成によれば、中空部材に対して、それを広げる力が加わっても、補強部材により中空部材の破損を防止できる。後述する複数の支柱が補強部材に相当する。実施形態において、2つの内面は、通路の中心軸方向及び通路の幅方向に広がる通路底面及び通路天井面である。
【0022】
実施形態においては、複数の貫通孔により、回転流における複数の半径位置で回転流がサンプリングされる。この構成によれば、複数のサンプリング流が有する温度又は濃度の多様性を高められる。これにより第2攪拌室での液体の混合度又は均一度を高められる。容器の中心軸を基準として極座標を定義し得る。その場合、容器の中心軸が極座標の原点に相当する。上記の複数の半径位置は、原点からの複数の距離(半径)によって定義される複数の位置である。
【0023】
実施形態に係る荷電粒子線装置は、冷却対象、冷却設備、及び、混合器を有する。冷却対象は、試料に対して荷電粒子線を照射するための設備である。冷却設備は、冷却対象から戻ってきた冷媒を冷却する設備である。混合器は、冷却設備と冷却対象との間に設けられ、冷却設備から冷却対象に向けて送り出された冷媒の温度変化を抑制する。混合器は、容器、隔壁、インレット、アウトレット、及び、噴射構造を有する。容器は、内部空間を有する中空容器である。隔壁は、容器の中心軸に交差し、内部空間を第1攪拌室及び第2攪拌室に仕切るものである。隔壁は、第1攪拌室と第2攪拌室を繋げる複数の貫通孔を有する。インレットは、第1攪拌室へ冷媒を導入するためのものである。アウトレットは、第2攪拌室から冷媒を排出するためのものである。噴射構造は、インレットを通じて導入された冷媒を第1攪拌室へ噴射し、これにより第1攪拌室において容器の中心軸周りで回転する回転流を生じさせるものである。複数の貫通孔による回転流のサンプリングにより複数のサンプリング流が生じる。複数のサンプリング流が第2攪拌室へ流れ込む。
【0024】
上記構成によれば、荷電粒子線装置へ供給される冷媒の温度変化を抑制できるので、冷媒温度の変化に起因する問題を解消又は軽減できる。例えば、冷媒の温度変化に起因して生じる荷電粒子線の照射位置のずれを抑制できる。冷媒は例えば冷却水である。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る荷電粒子線装置10が示されている。荷電粒子線装置10は、具体的には、透過電子顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、電子線描画装置、イオンビーム加工装置、等である。荷電粒子線装置10は、冷却対象である被冷却設備12を有している。被冷却設備12には、荷電粒子線源、諸々のレンズ、電子回路、等が含まれる。被冷却設備12には温度センサが設けられているが、その図示が省略されている。
【0026】
荷電粒子線装置10は、冷却設備14を有する。冷却設備14は、冷媒としての冷却水により被冷却設備を冷却するものである。冷却設備14には、チラー(Chiller)16、混合器(Mixer)18、及び、主弁部(Main Valve Unit)20が含まれる。チラー16は冷却水を冷却する冷却器である。混合器18は、冷却水の温度を均一化するものである。主弁部20において、送り冷却水が複数の支流に分けられているが、その図示が省略されている。
【0027】
コントローラ32は、冷却設備14の動作を制御するものである。具体的には、コントローラ32は、温度センサによって検出された温度に従って、チラー16の動作をフィードバック制御する。そのようなフィードバック制御によっても、冷却水の応答特性等を原因として、チラー16から出る冷却水には温度変化が生じる。すなわち、特定の周波数帯域の上限を超える温度変動は、上記のフィードバック制御では抑圧できないため、チラー16の後段に混合器18が設けられている。
【0028】
混合器18は、インラインミキサ又はスタティックミキサとも言い得る。混合器18は、容器34を有する。容器34の内部空間が隔壁36によって第1攪拌室38及び第2攪拌室40に仕切られている。容器34には、冷却水が導入されるインレット42及び冷却水を排出するアウトレット44が設けられている。図1に示す構成例において、第2攪拌室40は第1攪拌室38の上側にある。
【0029】
第1攪拌室38にはノズル70が設けられている。ノズル70から冷却水が噴出し、これにより噴射流48が生じる。噴射流48により、第1攪拌室38において回転流50が生じる。また、既に生じている回転流50に対して新たに生成された噴射流が接触し、これにより熱交換が生じる。噴射流48が容器の内側側面に衝突すると、複数の分岐流(複数の二次流)が生じる。それらの分岐流も第1攪拌室38における液体の混合度の向上に寄与する。
【0030】
隔壁36には、複数の貫通孔からなる貫通孔群が形成されている。複数の貫通孔により、回転流50がサンプリングされ、これにより複数のサンプリング流54が生じる。複数のサンプリング流54は、第2攪拌室40において、逆向きのシャワーのように、既存の冷却水に混合され、これにより熱交換が生じる。容器34の外側には断熱材56が設けられている。すなわち、断熱材56が容器34を取り囲んでいる。
【0031】
混合器18においては、第1攪拌室38での冷却水の攪拌、及び、第2攪拌室40での冷却水の攪拌、という二段階の攪拌が実施される。これにより、冷却水の混合度を高めて、冷却水の時間的な温度変化が大幅に抑制される。そのような効果を得るに当たって、攪拌翼の回転部材等は不要である。すなわち、簡易な静的な構成によって、高い攪拌結果を得られる。
【0032】
被冷却設備12と主弁部20との間には配管22が設けられ、主弁部20とチラー16との間には配管24が設けられている。チラー16と混合器18との間には配管26が設けられ、混合器18と主弁部20との間には配管28が設けられ、主弁部20と被冷却設備12との間には配管30が設けられている。
【0033】
以下、混合器18について具体的に説明する。
【0034】
図2には、混合器18の外観が示されている。図2には断熱材の図示が省略されている。このことは図3以降の各図においても同様である。図2において、x方向は第1水平方向であり、y方向は第2水平方向であり、z方向は垂直方向(鉛直方向)である。
【0035】
容器34は、丸みを帯びた円筒状の形態、球状の形態、又は、楕円体状(楕円殻状)の形態を有する。容器34は、円筒状の中間部34A、半球状又は半楕円体状の下部34B、及び、半球状又は半楕円体状の上部34Cからなる。水平姿勢を有する中空ケース60が中間部34Aにおける特定部位を貫通している。中空ケース60は、噴射構造として機能する中空部材である。中空ケース60は、容器34内に存在するノズル(図2には示されていない)と、容器34の外側に存在する外側端部62と、を有する。
【0036】
外側端部62には、冷却水を導入するためのインレット42が設けられている。インレット42の下側から、インレット42内に冷却水が導入される。その冷却水が、中空ケース60内の通路を通って、容器34内に噴出する。
【0037】
上部34Cにおける頂部にはアウトレット44が設けられている。アウトレット44は、容器34内から出る冷却水を排出するものである。アウトレット44の開口は上方を向いている。なお、図2において、線58a,58b,58cは溶接線である。
【0038】
図3には、容器34の内部が示されている。容器34の中には、x方向及びy方向に広がる円板状の隔壁36が設けられている。容器34の内部空間が隔壁36によって2つの部分に仕切られている。具体的には、第1攪拌室38及び第2攪拌室40に仕切られている。
【0039】
上述したように、中空ケース60が容器34を貫通している。中空ケース60は、スリット状の通路を有する。通路の中心軸はy方向に平行である。通路の後端は閉じられており、通路の前端が開口72を構成している。中空ケース60の外側端部62にはインレット42が設けられている。インレット42の内部と中空ケース60内の通路とが繋がっている。中空ケース60内には、中空ケース60の破損を防止するための補強部材が配置されている。それについては後に説明する。なお、図3には、中空ケース60と容器34との間の溶接部分が複数の線で表現されている。
【0040】
符号64は容器34の中心軸を示している。隔壁36は、中心軸64に交差(正確には直交)している。隔壁36の中心を中心軸64が通過している。隔壁36には、複数の貫通孔からなる貫通孔群66が形成されている。貫通孔群66は、図3に示す例において、複数の貫通孔列68により構成される。複数の貫通孔列68は、放射状の配列を有する。各貫通孔列68は、複数の半径位置に設けられた複数の貫通孔68aにより構成される。各半径位置は、隔壁36の中心を原点として定義される極座標系上の位置である。図3において、A-A線によって特定される断面が図4に示されている。
【0041】
図4において、中空ケース60は、板状の形態を有し、その内部空間が通路を構成している。通路は、x方向及びy方向に広がった薄い空間である。通路の中心軸はx方向と平行である。y方向は幅方向に相当する。
【0042】
上記のように、中空ケース60には応力集中が生じ易く、中空ケース60の肉厚を薄くすると、中空ケース60が破損し易くなる。そこで、実施形態においては、通路の中に補強部材が設けられている。具体的には、2つの支柱78A,78Bが設けられている。中空ケース60は、2つの内面(天井面及び底面)74,76を有する。2つの支柱78A,78Bはそれぞれ2つの内面74,76に溶接されている。そのような補強部材により、中空ケース60の肉厚を薄くしても中空ケース60の破損を効果的に防止し得る。
【0043】
中空ケース60のz方向の厚みは非常に小さいので、中空ケース60は、以下に説明する回転流の運動に対する大きな妨げにはならない。具体的には、中空ケース60の側面80の面積は非常に小さく、回転流は中空ケース60を容易に迂回し得る(符号81を参照)。
【0044】
図5には、中空ケース60の作用が示されている。中空ケース60において容器34内に属する部分がノズル70として機能する。ノズル70は、容器34の内面から第1攪拌室へ突出している。ちなみに、中空ケース60の外側端部は、容器34の外面から外側へ突出している。
【0045】
ノズル70の先端は、スリット状の開口72を構成している。開口72から冷却水が噴出し、つまり、噴射流48が生じる。噴射流48は、容器34の内面における特定の部分82Aに向かう流れである。ノズル70内の通路の中心軸(ノズル70の中心軸とも言い得る)84は、y方向に平行である。中心軸84は、容器34の中心軸が通過する中心64aから+x方向へシフトしている。
【0046】
図示の構成例では、中空ケース60と別の特定の部分82Bとの間に、ある程度の隙間が生じているが、その隙間をより小さくしてもよいし、その隙間をゼロにしてもよい。別の特定の部分82Bは、中心64aから見て、x方向正側に存在する部分である。
【0047】
噴射流48が、中心軸84に対して傾斜した内面(具体的には特定の部分82A)に当たり、その結果、回転流50が生じる。回転流50は渦流に相当する。新たな噴射流48が既存の回転流に接触し、その際に混合が生じ、また熱交換が生じる。
【0048】
図6には、容器34の縦断面が示されている。容器34の内部空間は、水平板としての隔壁36によって仕切られ、これにより第1攪拌室38及び第2攪拌室40が形成されている。
【0049】
第1攪拌室38は、容器34の底面100、隔壁36の下面102、及び、容器34の内側側面104によって囲まれる空間である。下面102は、第1攪拌室38の天井面とも言い得る。底面100は、半球状又は半楕円体状の形態を有し、下面102は平面であり、内側側面104は円筒状の形態を有している。
【0050】
第2攪拌室40は、隔壁36の上面106、容器34の天井面108、及び、容器34の内側側面110によって囲まれる空間である。上面106は平面であり、天井面108は半球状又は半楕円体状の形態を有し、内側側面110は円筒状の形態を有する。
【0051】
容器34の内部空間は、円柱状、球状、又は、楕円体状の空間であり、あるいは、それらの形状を組み合わせた形態を有する。内部空間において冷却水の淀みができるだけ生じないように、内部空間の形態は丸みを帯びている。
【0052】
第1攪拌室38においてz方向の中間位置にノズル70が設けられている。ノズル70は、容器34から第1攪拌室38へ突出している(y方向正側へ突出している)。ノズル70は水平姿勢を有する。ノズル70内の通路は、x方向及びy方向に広がっている。ノズル70(通路の中心軸)は、底面100及び下面102から隔てられており、実際には、ノズル70の開口72は、第1攪拌室38の中間高さに位置している。
【0053】
ノズル70の先端の開口72から内側側面104の特定の部分82Aに向けて冷却水が連続的に噴射される。これにより噴射流48が生じる。噴射流48が特定の部分82Aに当たることにより、回転流50が生成され、また、それが維持される。回転流50は、容器34の中心軸周りにおいて回転する流れであり、具体的には渦流に相当する。回転流50は、ノズル70よりも下側の回転流50Aと、ノズル70よりも上側の回転流50Bとからなる。もっとも、第1攪拌室38において、そこに存在する冷却水それ全体が第2攪拌室40側へ徐々に移動する。
【0054】
既存の回転流50に対して、新たな噴射流48が混合され、これにより第1攪拌室38において冷却水が攪拌される。回転流50の内部においても一定の攪拌効果を期待できる。噴射流48が特定の部分82Aに当たると、回転流50の他、分岐流(二次流)48a,48bも生じる。分岐流48aは上方へ向かう流れであり、分岐流48bは下方へ向かう流れである。そのような分岐流48a,48bは攪拌効果を高める作用を発揮する。
【0055】
隔壁36に形成された貫通孔群66により、回転流50の上部がサンプリングされ、これにより複数のサンプリング流54が生じる。それらのサンプリング流54が第2攪拌室40に流れ込む。すると、第2攪拌室において既に存在している冷却水に複数のサンプリング流54が混合され、混合度が更に高められる。
【0056】
実際には、複数のサンプリング流54は、回転運動成分を有している。第2攪拌室40への複数のサンプリング流54の流れ込みにより、第2攪拌室40において、比較的にゆっくりとした回転流86が生じる。それも攪拌効率の向上に寄与するものである。第2攪拌室40において、そこに存在する冷却水は、アウトレット側へ徐々に移動する。このような一連の過程において冷却水の温度が更に均一化される。
【0057】
実施形態に係る混合器によれば、二段階の攪拌過程を経て、熱的に十分に均一化された冷却水がアウトレットを通じて排出される。
【0058】
電気的フィードバック制御(閉ループ制御)の周波数帯域の上限に相当する周期をT1と表現し、単位時間当たりの冷却水の流量をL1と表現した場合、望ましくは、容器34の内容積は(T1×L1)以上とされる。例えば、周期T1が0.05Hzであり、単位時間当たりの流量L1が14.5L/minの場合、容器34の内容積は4.8L以上に定められる。その場合、容器34の内容積を例えば11.5Lとしてもよい。第2攪拌室40の体積は、例えば、容器34の体積の1/5~1/2の範囲内とされる。インレットの面積(及びアウトレットの面積)をS1と表現し、貫通孔群の総面積をS2と表現した場合、例えば、S1≦S2≦(10×S1)の条件が満たされるように、総面積S2が定められる。
【0059】
図6において、容器34は、例えば、ステンレス等の金属により構成される。容器34の肉厚は、例えば、2~6mmの範囲内に定められる。容器34の内部空間に関し、z方向の幅(高さ)88は、例えば、240~280mmの範囲内に定められる。中間部90のz方向の幅90は、例えば、110~140mmの範囲内に定められる。下部92及び上部94の方向の幅92,94は、例えば、70~100mmの範囲内に定められる。容器34の内部空間の直径96は、例えば、240~280mmの範囲内に定められる。中空ケース(ノズル70)内の通路のx方向の幅は、例えば、60~80mmの範囲内に定められる。その通路のz方向の幅(高さ)は、例えば、2~6mmの範囲内に定められる。中空ケースの肉厚は、例えば、1~4mmの範囲内に定められる。インレット及びアウトレットの内径(直径)は、例えば、15~30mmの範囲内に定められる。底面100からの隔壁36の高さは、例えば、240~270mmの範囲内に定められる。底面100からの通路の中心軸の高さは、例えば、70~100mmの範囲内に定められる。各貫通孔の直径は、例えば、2~10mmの範囲内に定められる。本願明細書に記載した数値はいずれも例示に過ぎないものである。
【0060】
図7には、実施形態に係る混合器についての実験結果が示されている。横軸は時間軸であり、縦軸は温度軸である。波形112は、インレットに導入される冷却水の温度の変化を示すものである。波形114は、アウトレットから排出される冷却水の温度の変化を示すものである。2つの波形112,114の間にオフセット116が生じているが、それは混合器の作用によるものではなく、便宜上のものである。ちなみに、上記のT1は0.05Hzである。
【0061】
波形112においては、概ね±0.015℃の変動が認められるのに対して、波形114においては、概ね±0.002℃の変動しか認められない。波形112の変化幅を1とした場合、波形114の変化幅は1/8である。なお、波形114には、測定ノイズが含まれ、また、様々な周波数成分が含まれている。
【0062】
図8には、実施形態に係る混合器についての別の実験結果が示されている。横軸は時間軸であり、縦軸は温度軸である。波形200は、インレットに導入される冷却水の温度の変化を示すものである。波形202は、アウトレットから排出される冷却水の温度の変化を示すものである。温度軸204は、インレットに導入される冷却水の温度を示しており、温度軸206は、アウトレットから排出される冷却水の温度を示している。
【0063】
波形200は、0.005Hzの正弦波に相当し、その振幅208は0.2℃である。流量は14.5L/minである。一方、波形202において振幅210は0.005℃である。それらから、ゲインとして0.025が算出される。すなわち、水温変動が1/40に抑制されている。以上のように、実施形態に係る混合器によれば、顕著な温度変動抑制効果を得られる。
【0064】
図9には、中空ケース60の他の配置例が示されている。容器34の内側側面により近付くように中空ケース60を配置してもよい。すなわち、ノズル70をx方向正側へよりシフトさせてもよい。そのような構成を採用すれば、より速い回転流を形成できる。
【0065】
図10には、隔壁の第1変形例が示されている。隔壁36Aにおいて、貫通孔群66Aがランダムに配置された複数の貫通孔により構成されている。
【0066】
図11には、隔壁の第2変形例が示されている。貫通孔群66Bは、複数の貫通孔列により構成され、各貫通孔列は複数の貫通孔により構成される。各貫通孔は接線方向に伸長した楕円形態を有する。このような構成を採用した場合、各サンプリング流が扁平することになるので、第2攪拌室内に存在する冷却水と各サンプリング流との接触面積を増大できる。すなわち、熱交換を促進できる。貫通孔の形態として、円形及び楕円形以外の形態(例えば長方形)を採用してもよい。
【0067】
図2等に示した混合器を倒立状態で使用することも可能である。もっとも、そのような構成を採用する場合、容器内の天井付近にエアが残留し易くなる。そのような問題を避けるには、実施形態に係る構成を採用するのが望ましい。
【0068】
図3等に示した複数の貫通孔列において、各貫通孔列の形態として湾曲した形態を採用してもよい。図3等に示したノズルにおいて、先端の開口を複数の穴によって構成してもよい。直線状の開口に代えて、湾曲した開口を採用してもよい。
【0069】
実施形態によれば、温度変化が高度に抑制された冷却水を用いて荷電粒子線装置における被冷却設備を冷却することができるので、荷電粒子線装置の性能を向上できる。特に、荷電粒子線のドリフト等の問題を解消でき又はその問題を大幅に軽減できる。なお、実施形態に係る混合器が濃度均一化のために用いられてもよい。実施形態に係る混合器が荷電粒子線装置以外の装置へ適用されてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 荷電粒子線装置、12 被冷却設備、14 冷却設備、16 チラー、28 混合器、20 主弁部、34 容器、36 隔壁、38 第1攪拌室、40 第2攪拌室、42 インレット、44 アウトレット、48 噴射流、50 回転流、54 複数のサンプリング流、70 ノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11