(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113269
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】産業機器用制御システム及び受信回路
(51)【国際特許分類】
H04L 25/02 20060101AFI20240815BHJP
H04L 25/03 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H04L25/02 R
H04L25/02 V
H04L25/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018126
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩也
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 正和
(72)【発明者】
【氏名】長松 健司
【テーマコード(参考)】
5K029
【Fターム(参考)】
5K029AA02
5K029DD24
5K029HH09
5K029LL05
(57)【要約】
【課題】産業機器のノイズ耐性を向上させること。
【解決手段】ロボット15は、サーボモータ31及びロータリエンコーダ32が搭載されたロボット本体21と、ロボット本体21を制御するロボットコントローラ52とを備えている。ロータリエンコーダ32は信号線57a,57bを介してロボットコントローラ52の差動入力回路70に接続されており、差動入力回路70にはロータリエンコーダ32から位相が互いに逆となるように生成された差動入力信号が入力される。差動入力回路70は、各差動入力信号を伝送する一対の信号ライン及びそれら信号ラインを通じて入力された両差動入力信号の電圧差に応じて差動出力信号を生成する差動アンプが設けられた入力回路部と、差動入力信号の電圧レベルに応じて差動入力信号の電圧を引き上げる又は引き下げることにより当該差動入力信号の波形をシフトさせるレベルシフト回路部とを有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機器を対象として制御を行う産業機器用制御システムであって、
入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路を備え、
前記受信回路は、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ラインと、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプと、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部と
を備えている産業機器用制御システム。
【請求項2】
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号を前記差動アンプに伝送する過程で減衰させるアッテネータを備え、
前記シフト用回路部は、前記信号ラインに接続された定電流源を有してなり、前記検出した電圧値が前記閾値を超えている場合に、前記信号ラインにおいて当該電圧値の検出箇所よりも下流側に設けられている前記アッテネータに定電流を流すようにして前記定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせる請求項1に記載の産業機器用制御システム。
【請求項3】
前記閾値として、第1閾値と当該第1閾値よりも大きい第2閾値とを含み、
前記シフト用回路部は、前記信号ラインに接続された第1定電流源及び第2定電流源を有してなり、前記検出した電圧値が前記第1閾値を超えている場合に、前記信号ラインにおいて当該電圧値の検出箇所よりも下流側に設けられている抵抗に定電流を流すようにして前記第1定電流源及び前記第2定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせ、前記検出した電圧値が前記第2閾値を超えている場合に、前記抵抗に前記第1定電流源及び前記第2定電流源から定電流を流すようにして前記第1定電流源及び前記第2定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせる請求項1又は請求項2に記載の産業機器用制御システム。
【請求項4】
産業機器を対象として制御を行う産業機器用制御システムに適用され、入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路であって、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ラインと、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプと、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部と
を備えている受信回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機器用制御システム及び産業機器用制御システムに適用される受信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等で用いられる産業用ロボット等の産業機器には、ソレノイドやサーボモータ等の電動式アクチュエータが搭載されているものがある。この種の産業機器においては、電動式アクチュエータへ駆動電力を供給するための電源線をノイズ源としたノイズ(高電圧サージノイズ)が信号線に印加される可能性がある。特に強電線である電源線と弱電線である信号線とが近接配置される場合にはそのような懸念が一層強くなる。また、工場においては産業機器が多数設置されることが多く、他の産業機器の電源線等がノイズ源になる可能性もある。信号線に印加されたノイズによって信号の送受信が適切に行われなくなることは、産業機器の動作安定性等を損なう要因になる。そこで、産業機器用の制御システムにおいては、ノイズの影響を抑えるべく、ノイズ除去用のフィルタ回路を搭載するといった対策が講じられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したフィルタ回路の1つとして差動入力受信回路がある。差動入力受信回路においては、例えば2つの信号線を用いて逆位相となる信号(差動入力信号)を差動アンプに入力し、それらの信号の電圧差に基づいて出力信号を生成するように構成されているものがある。2つの信号線は互いに並走するようにしてまとめられており、上述したノイズが両信号に印加される。このようなノイズ(同相ノイズ)については、電圧差に基づいて出力信号を生成する際に除去されることとなる。
【0005】
差動アンプについては信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。上述したように、産業用機器に搭載される差動入力受信回路においては、入力レンジを超えるようなノイズが印加され得る点に配慮して、以下のような対策が講じられている。すなわち、差動アンプの前段にアッテネータ(抵抗アレイ)を配設し、差動アンプに入力される信号を当該アッテネータにより減衰させるといった対策が講じられている。
【0006】
ここで、アッテネータの減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータによる減衰はノイズが印加された部分だけでなく本来の信号(ノイズが印加されていない部分)にも及ぶことになる。つまり、減衰比が大きくなることで、上述した2つの信号の電圧差が小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下する。このように、産業機器用の制御システムにおいては、差動アンプにて出力信号(差動出力信号)を適正に生成可能としつつ大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させる上でノイズ除去に係る構成に未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記例示した課題等に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、産業機器のノイズ耐性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段について記載する。
【0009】
第1の手段.産業機器(ロボット15)を対象として制御を行う産業機器用制御システム(制御システム50)であって、
入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路(入出力部62)を備え、
前記受信回路は、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ライン(信号ライン71,72)と、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプ(差動アンプ75)と、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)と
を備えている。
【0010】
本手段に示す受信回路(差動入力受信回路)においては、差動入力信号の電圧差に応じて差動出力信号が生成され、両差動入力信号に同様のノイズ(コモンモードノイズ、同相ノイズ)が印加されたとしても当該ノイズは差動出力信号の生成時に差動アンプにて除去される。差動アンプについては差動入力信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。産業機器用の制御システムについては高電圧のノイズが発生する環境下にて使用され得るため、産業機器の動作安定性の向上等を図る上で入力レンジを超える信号の入力を抑えることが重要となる。例えば、差動アンプの前段にアッテネータ(抵抗アレイ)を配設し、差動アンプに入力される信号を当該アッテネータにより減衰させるといった対策を講じることも可能ではある。このような構成によれば、アッテネータの減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータによる減衰はノイズが印加された部分だけでなくノイズが印加されていない部分(本来の信号)にも及ぶことになる。このため、減衰比が大きくなれば2つの差動入力信号の電圧差は小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下し得る。
【0011】
この点、本手段に示す構成によれば、信号ラインに入力された差動入力信号の電圧値を検出し、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより差動アンプへの入力前に差動入力信号の波形をシフトさせることができる。つまり、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって差動入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの差動入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、産業機器用制御システムにおけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0012】
第2の手段.産業機器(ロボット15)を対象として制御を行う産業機器用制御システム(制御システム50)に適用され、入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路であって、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ライン(信号ライン71,72)と、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプ(差動アンプ75)と、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)と
を備えている。
【0013】
本手段に示す受信回路によれば、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって差動入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの差動入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、産業機器用制御システムにおけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0014】
なお、上記第1の手段及び第2の手段における「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し」との記載は、信号ラインにおいてシフト用回路部によるシフトが発生してない箇所における差動入力信号の電圧値を示し、例えば受信回路に設けられた差動入力信号用の入力端子の電圧値がこれに相当する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態におけるロボットシステムを示す概略図。
【
図3】ロボットシステムの電気的構成を示すブロック図。
【
図4】ロボットコントローラとロータリエンコーダとの関係を示す概略図。
【
図5】(a)比較例を示す概略図、(b)ノイズ除去の原理及びその課題を示す概略図。
【
図8】(a)電圧の閾値と定電流源のON/OFFとの関係を示す概略図、(b)コンパレータ及び定電流の組み合せとカバーできる電圧範囲との関係を示す概略図。
【
図10】(a)同相ノイズの波形を例示した概略図、(b)レベルシフトが適用された波形を示す概略図、(c)レベルシフト及び減衰が適用された波形を示す概略図。
【
図11】(a)入力信号の本来の波形を示す概略図、(b)差動アンプに入力される波形を示す概略図、(c)差動アンプから出力される波形(出力信号)を示す概略図。
【
図13】第2の実施形態における車両を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
以下、工場などで用いられるロボットシステムに具現化した第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1に示すように、工場の一画には、前工程にて成型されたワークWを搬送するコンベア11が設けられている。コンベア11によって受渡位置へ配置されたワークWは当該コンベア11に併設された垂直多関節型の産業用ロボット(ロボット15という)によってケースに収容される。ワークWはケースに収容された状態でコンベア12又はコンベア13により後工程(例えば加工工程や組付工程)に搬送されることとなる。
【0018】
図2に示すように、ロボット15の本体部(ロボット本体21)は、台座等に固定されるベース部22と、当該ベース部22により支持されているショルダ部23と、ショルダ部23により支持されている下アーム部24と、下アーム部24により支持されている第1上アーム部25と、第1上アーム部25により支持されている第2上アーム部26と、第2上アーム部26により支持されている手首部27と、手首部27により支持されているフランジ部28とを有している。
【0019】
ベース部22及びショルダ部23には、それらベース部22及びショルダ部23を連結する第1関節部が形成されており、ショルダ部23は第1関節部の連結軸(第1軸AX1)を中心として水平方向に回動可能となっている。ショルダ部23及び下アーム部24には、それらショルダ部23及び下アーム部24を連結する第2関節部が形成されており、下アーム部24は第2関節部の連結軸(第2軸AX2)を中心として上下方向に回動可能となっている。下アーム部24及び第1上アーム部25には、それら下アーム部24及び第1上アーム部25を連結する第3関節部が形成されており、第1上アーム部25は第3関節部の連結軸(第3軸AX3)を中心として上下方向に回動可能となっている。第1上アーム部25及び第2上アーム部26には、それら第1上アーム部25及び第2上アーム部26を連結する第4関節部が形成されており、第2上アーム部26は第4関節部の連結軸(第4軸AX4)を中心として捻り方向に回動可能となっている。第2上アーム部26及び手首部27には、それら第2上アーム部26及び手首部27を連結する第5関節部が形成されており、手首部27は第5関節部の連結軸(第5軸AX5)を中心として上下方向に回動可能となっている。手首部27及びフランジ部28には、それら手首部27及びフランジ部28を連結する第6関節部が形成されており、フランジ部28は第6関節部の連結軸(第6軸AX6)を中心として捻り方向に回動可能となっている。各関節部には、関節部を回動させる電動式アクチュエータとしてのサーボモータ31と、サーボモータ31に発生する動力を伝達する伝達機構と、各サーボモータ31に付属のロータリエンコーダ32とが配設されており、サーボモータ31及びロータリエンコーダ32はロボットコントローラ52に接続されている(
図3参照)。
【0020】
ショルダ部23、下アーム部24、第1上アーム部25、第2上アーム部26、手首部27、フランジ部28は、一連となるように配列されることでロボット本体21におけるアームを構成しており、当該アームの先端部であるフランジ部28にはハンドタイプのエンドエフェクタ29が取り付けられている。このエンドエフェクタ29によってワークWが把持される。
【0021】
ここで、
図3を参照して、ロボットシステム10の電気的構成について補足説明する。ロボット本体21に付属の上記ロボットコントローラ52には、サーボモータ31等の駆動制御を行う駆動制御部61と、サーボモータ31、ロータリエンコーダ32及び上位コントローラ51(例えばティーチングペンダントやPC)について信号の入出力を担う入出力部62とが設けられている。駆動制御部61は、上位コントローラ51から箱詰め作業用の動作指示を受けて動作目標位置を特定する。そして、当該動作目標位置と、ロータリエンコーダ32から取得したポジションデータ、すなわちサーボモータ31の回転角度(回転位置)を示すエンコーダ値とに基づいてサーボモータ31の駆動制御を行う。
【0022】
入出力部62には、ロボットコントローラ52の外部から入力された信号(以下、入力信号ともいう)、例えば上位コントローラ51からの動作指示やロータリエンコーダ32からのポジションデータ等からノイズを除去するノイズ除去部が設けられている。このノイズ除去部にてノイズが除去された信号(後述する出力信号)が駆動制御部61に入力される。駆動制御部61には、当該出力信号からデータ(後述する論理値)を検出するデータ検出部(例えばフリップフロップ)が設けられており、このデータ検出部における検出結果に基づいて上述した駆動制御が実行される。
【0023】
ここで、ロボットシステム10については、上述した入力信号を含む各種信号にノイズが印加される可能性がある。入力信号に印加されるノイズは、ロボット15自身の動きに起因するものと、ロボット15の周辺機器の動きに起因するものとに大別される。ここで、入力信号にノイズが印加されるメカニズムについて補足説明する。
【0024】
先ず、ロボット15の動きに起因するものについて説明する。上述したようにロボット15にはサーボモータ31が多数搭載されており、それらサーボモータ31は駆動制御部61によって駆動制御(PWM制御)される。具体的には、各サーボモータ31は動力線である配線56を介してロボットコントローラ52に接続されており、それら配線56を通じて駆動制御部61からサーボモータ31にPWMパルスが出力される。このPWMパルスのエッジ(立ち上がり/立ち下がり部分)においては、配線56の周辺の磁界が変化する。本実施形態では、各サーボモータ31に併設されたロータリエンコーダ32についても通信線である配線57を介してロボットコントローラ52に各々接続されており、上位コントローラ51についても通信線である配線55を介してロボットコントローラ52に接続されている。このため、これら配線55,57と配線56とが近接又は接触した状態で上述した磁界の変化が生じると、電磁誘導によって配線55,57(詳しくは送受信中の信号)にノイズが印加され得る。
【0025】
また、
図1に示したように、ロボット15が配置された箱詰め工程では、当該ロボット15とコンベア11~13との協働によってワークWが搬送される。コンベア11~13には駆動部としてモータ11a~13aが設けられており、それらモータ11a~13aには動力線11b~13bを介して電力が供給されている(
図1参照)。モータ11a~13aは、箱詰め作業の進行状況等に応じてON/OFFが制御され、ON/OFFのタイミングでは動力線11b~13bの周辺の磁界が変化することとなる。磁界の変化の影響が及ぶ範囲に上記配線55,57が位置すると、電磁誘導によって配線55,57(詳しくは送受信中の信号)にノイズが印加され得る。
【0026】
配線55,57に印加されたノイズについては、信号の適切な送受信を妨げる要因になる可能性がある。例えば
図4(a)に示すように、ロボットコントローラ52の入出力部62とロータリエンコーダ32の入出力部41とを繋ぐ配線57は、ロボットコントローラ52からロータリエンコーダ32に送信要求コマンドが送信され且つ当該送信要求コマンドの受信を契機として回転角度(回転位置)を示すポジションデータがロータリエンコーダ32からロボットコントローラ52に送信される通信ラインを構成している(所謂Uart通信)。送信要求コマンドにノイズが印加された場合には、当該ノイズの影響により、ロータリエンコーダ32が送信要求コマンドを正常に受信できない可能性が生じる。また、ポジションデータにノイズが印加された場合には、当該ノイズの影響により、ロボットコントローラ52がポジションデータを正常に受信できない可能性が生じる。
【0027】
このような不都合を解消すべく、ロボットシステム(制御システム)には送受信される信号からノイズを除去するためのノイズ除去部(デジタルフィルタ)として差動入力回路が実装されることがある。以下、
図5(a)を参照して、従来の差動入力回路について説明する。なお、差動信号を用いる通信の規格としてRS485,RS422等が知られている。後述する本実施形態の差動入力回路及び
図5(a)に示す対比例については何れも、RS485の規格に準じたものとなっている。
【0028】
差動入力回路においては、1の信号線(後述する信号線57aに相当)を通じて当該差動入力回路に入力された+入力(D+)の信号を差動アンプに送る信号ラインと、他の信号線(後述する信号線57bに相当)を通じて当該差動入力回路に入力された-入力(D-)の信号を差動アンプに送る信号ラインとが併設されている。D+信号及びD-信号は互いに逆位相(HIGHレベル/LOWレベルが逆となる)となるように形成される信号であり、差動アンプはそれら2つの入力信号の電圧差(電位差)に基づいて出力信号(HIGHレベル信号/LOWレベル信号)を生成する。
【0029】
2つの通信線は互いに並走するようにして束ねられており、仮に上述したノイズがD+信号及びD-信号の一方に印加される場合には、同様のノイズが他方の信号にも印加される。つまり、ケーブル内外の誘導起電力等に起因したノイズは、同タイミング且つ同程度となるようにしてD+信号及びD-信号の両方に印加されることとなる。以下、このようなノイズを「同相ノイズ」ともいう。
【0030】
ここで、差動アンプには入力レンジ(所謂ダイナミックレンジ)が定められており、D+信号やD-信号が当該入力レンジを外れた電圧のまま差動アンプに入力されることは差動アンプの誤作動や故障等の要因となる。このような事情に配慮して、各信号ラインにはD+信号及びD-信号を各々減衰させるアッテネータ(減衰器)が配設されており、それらアッテネータによってD+信号及びD-信号を減衰させることで入力レンジを外れた信号が差動アンプに入力されること(過入力)を抑制している(
図5(b)参照)。言い換えれば、アッテネータによる減衰を利用することにより、差動アンプを適正に動作させる上で許容できる入(以下、同相入力電圧範囲という)が上記入力レンジよりも広くなっている。
【0031】
上述したように、工場等では様々な要因によってノイズが発生する可能性があるため、上記アッテネータの減衰比を大きくして高電圧となるノイズに対するノイズ耐性を強化すること(すなわちノイズの許容範囲を広くすること)には技術的意義がある。しかしながら、単に減衰比を大きくした場合には、その影響はノイズが印加された部分だけでなく本来の信号部分にも及ぶことになる。つまり、減衰比を無暗に大きくすることは、差動入力回路におけるノイズマージンを低下させる要因になり得る。
【0032】
例えば、
図5(b)に示すように、D+信号とD-信号との電位差DGは、減衰比が大きくなることで小さくなる。その結果、差動アンプにおける出力信号の生成が適正に行われなくなる可能性がある。このような懸念は、減衰比が大きくなるほど顕著となるため、上記アッテネータの減衰比を大きくして高電圧のノイズに対するノイズ耐性を強化することには限界がある。
【0033】
本実施形態に示す差動入力回路については、このような事情に配慮した工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、
図6を参照して、
図5(a)に示した従来の差動入力回路との相違点を中心に本実施形態における差動入力回路70について説明する。なお、
図5(a)に示した差動入力回路と共通となる構成について適宜説明を省略する。また、
図6についてはロボットコントローラ52においてロータリエンコーダ32からの信号が入力される差動入力回路70について例示しているが、入出力部62のノイズ除去部に設けられた他の差動入力回路(例えば上位コントローラ51からの信号が入力される差動入力回路)についても
図6に示す差動入力回路70と同様の構成である。また、ロータリエンコーダ32の入出力部41にはロボットコントローラ52からの信号が入力される差動入力回路が設けられており、上位コントローラ51にはロボットコントローラ52からの信号が入力される差動入力回路が設けられているが、これらの差動入力回路についても
図6に示す差動入力回路70と同様の構成である。
【0034】
先ず、差動入力回路70と配線57との関係について補足説明する。配線57は、2つの信号線57a,57bが互いに並走するようにして束ねられてなる。信号線57aは差動入力回路70の入力端子70aに接続されており、ロータリエンコーダ32からのD+信号は入力端子70a→差動入力回路70に形成された信号ライン71を通じて差動アンプ75に入力される。信号線57bは差動入力回路70の入力端子70bに接続されており、ロータリエンコーダ32からのD-信号は入力端子70b→差動入力回路70に形成された信号ライン72を通じて差動アンプ75に入力される。D+信号及びD-信号はロータリエンコーダ32の入出力部41にて互いに逆位相となるように形成され、差動アンプ75はD+信号及びD-信号の電位差に基づいて出力信号(HIGHレベル信号/LOWレベル信号)を生成する。つまり、信号線57a,57bによって1の通信ラインが構成されていると言える。なお、上記配線55についても2つの信号線を組み合わせて1の通信ラインが構成されている。
【0035】
次に、D+信号用の信号ライン71に配設されたアッテネータ73及びD-信号用の信号ライン72に配設されたアッテネータ74について補足説明する。アッテネータ73は、差動入力回路70の入力端子70a(D+信号用の入力端子)に入力されたD+信号が直接入力される信号ライン71上の抵抗R1と、信号ライン71(詳しくは抵抗R1と差動アンプ75との間となる部分)と差動入力回路70の動作電源(Vcc=5V)とを繋ぐライン上の抵抗R3と、信号ライン71(詳しくは抵抗R1と差動アンプ75との間となる部分)とグランドと繋ぐライン上の抵抗R5とが組み合わされてなる抵抗アレイである。アッテネータ74についても、差動入力回路70の入力端子70b(D-信号用の入力端子)に入力されたD-信号が直接入力される信号ライン72上の抵抗R2と、信号ライン72(詳しくは抵抗R2と差動アンプ75との間となる部分)と差動入力回路70の動作電源(Vcc=5V)とを繋ぐライン上の抵抗R4と、信号ライン71(詳しくは抵抗R1と差動アンプ75との間となる部分)とグランドと繋ぐライン上の抵抗R6との組み合せからなる抵抗アレイである。アッテネータ73,74は、抵抗R2=抵抗R1、抵抗R4=抵抗R3、抵抗R6=抵抗R5となるように構成されており、両アッテネータ73,74は減衰比が同一(何れも1/5)となっている。
【0036】
差動入力回路70は、信号ライン71,72及びアッテネータ73,74からなる入力回路部81と、入力信号の電圧レベル、詳しくは入力端子70aにおけるD+信号用の電圧レベルを検出可能な電圧レベル検出回路部82と、電圧レベル検出回路部82により検出された電圧レベルに応じて入力信号の電圧レベルをシフトさせる(信号を折りたたむ)レベルシフト回路部83とを有してなる。なお、「電圧レベル」とは、入力信号の電圧(入力端子70aにおけるD+信号用の電圧)が後述する範囲の何れに該当しているかを意味している。
【0037】
電圧レベル検出回路部82は、差動アンプ75と同様に動作電源(Vcc)で駆動する構成となっており、電圧レベル検出回路部82には5Vの電源システムにて入力信号(D+信号)の電圧レベルを検出可能とすべく当該入力信号を減衰させるアッテネータ84が併設されている。アッテネータ84は、信号ライン71から分岐する分岐ラインを通じて入力信号が直接入力される抵抗R7と、当該分岐ラインと差動入力回路70の動作電源(Vcc=5V)とを繋ぐライン上の抵抗R8と、分岐ラインとグランドと繋ぐライン上の抵抗R9とが組み合わされてなる抵抗アレイである。
【0038】
上述した分岐ラインは、信号ライン71においてアッテネータ74の前段から、すなわちD+信号用の入力端子70aとアッテネータ74と間となる部分から分岐しており、当該分岐ラインを通じてアッテネータ74による減衰が行われていないD+信号がアッテネータ84に入力される。そして、アッテネータ84にて減衰されたD+信号が電圧レベル検出回路部82に入力されることとなる。本実施形態では、最大±37Vの同相ノイズを想定しており、5Vの電源システムである点を考慮して減衰比を1/20に設定している。
【0039】
例えば入力信号における7.5Vの変化は、アッテネータ84によって0.375V(7.5V/20)の変化+2.5V(アッテネータ84におけるバイアス電圧)に置き換わる。言い換えれば電圧レベル検出回路部82にて検出された電圧が0.375V+2.5Vであれば、入力信号の電圧は7.5Vである。なお、電圧レベル検出回路部82に併設されたアッテネータ84の減衰比(1/20)は、信号ライン71上のアッテネータ73の減衰比(1/5)よりも大きい。
【0040】
電圧レベル検出回路部82は、並列接続された複数のコンパレータ91~94(コンパレータ群)を有してなり、アッテネータ84にて減衰された信号(電圧)がそれらコンパレータ91~94に各々入力される。各コンパレータ91~94には閾値となる電圧が個別に設定されており、アッテネータ84により減衰された信号の電圧とそれら閾値との比較結果に応じてレベルシフト回路部83への出力が切り替わる構成となっている。
【0041】
レベルシフト回路部83は、信号ライン71,72に接続された独立型の定電流源SA~SDを有してなり、コンパレータ91~94はこれら定電流源SA~SBをON状態/OFF状態に切り替えることによりアッテネータ74を流れる電流(定電流)を制御する。以下、電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83について詳しく説明する。なお、定電流源SA~SDは、ノーマリーOFF(ノーマリーオープン)となるように構成されている。
【0042】
定電流源SAは、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン71とを繋ぐライン上に配設された定電流源SA1と、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン72とを繋ぐライン上に配設された定電流源SA2と、信号ライン71とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SA3と、信号ライン72とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SA4との組み合せとなっている。これら定電流源SA1~SA4については、ON状態となることで何れも1.875mAの定電流を流す構成となっている。
【0043】
上記コンパレータ群を構成している第1コンパレータ91は、定電流源SA1~SA4を制御対象としている。第1コンパレータ91おいては、上限側の第1閾値U1としてバイアス電圧(2.5V)+0.375V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:+7.5Vに相当)が設定されており、下限側の第1閾値L1としてバイアス電圧(2.5V)-0.375V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:-7.5Vに相当)が設定されている。なお、上記各数値については、元のアッテネータ74の減衰比を1/5、差動アンプ75の入力幅を2.5Vを基準に±1.5Vとした場合に、同相入力は±1.5V×5=±7.5Vとなり、これをアッテネータ84にて減衰すると±7.5V/20=±0.375Vとなることを根拠としている。
【0044】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧がそれら下限側の第1閾値L1(2.5V-0.375V)~上限側の第1閾値U1(2.5V+0.375V)の範囲(第1範囲)内である場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第1閾値L1´(-7.5V)~第1閾値U1´(7.5V)の範囲内である場合には、定電流源SA1~SA4を何れもOFF状態のままとする。つまり、第1コンパレータ91及び定電流源SAによるレベルシフトは実行されない。
【0045】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第1閾値U1(2.5V+0.375V)を上回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第1閾値U1´(7.5V)を上回っている場合には、定電流源SA1,SA2をON状態に制御する(定電流源SA3,SA4はOFF状態に維持)。定電流源SA1,SA2がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(本実施形態では7.5V)引き下げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(本実施形態では1.5V)降下することとなる。なお、この引き下げについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第1閾値U1以下となった際に解除される(定電流源SA1~SA4が全てOFF状態となる)。
【0046】
ここで、
図7を参照して、レベルシフトの考え方について補足説明する。
図7の左側に示すように、動作電源(Vcc)=5V、抵抗R1,R2=4kΩ、抵抗R3,R4=2kΩ、抵抗R5,R6=2kΩ、定電流源SA1,SA2(ON状態)の定電流=1.875mAである場合には、テブナンの定理によって
図7の中央に示す構成、すなわち動作電源(Vcc)=2.5V、抵抗R1,R2=4kΩ、抵抗R3,R4//抵抗R5,R6の各合成=1kΩ、定電流源SA1,SA2(ON状態)の定電流=1.875mAに置き換えることができる。また、この構成については、テブナンの定理によって(抵抗R1,R2//抵抗R3,R4)×1.875mA=1.5Vとなり、
図7の右側に示す構成、すなわち動作電源(Vcc)=2.5V、抵抗R1,R2=4kΩ、抵抗R3,R4//抵抗R5,R6の各合成=1kΩ、定電流源SA1,SA2→1.5V電源(電圧源)に置き換えることができる。この「2.5V」がアッテネータ73,74におけるバイアス電圧に相当する。以上の構成によれば、アッテネータ73,74に定電流を流すことで差動アンプ75への入力電圧を1.5V引き下げる構成が実現できる。つまり、レベルシフトは、入力信号の電圧が閾値を超える場合に、レベルシフト回路部83を制御して定電流源SA~SDをON状態/OFF状態に切り替えることにより信号ライン71,72を流れる電流を変化さて、差動アンプ75の入力レンジ内に当該入力信号を収めることを狙ったものである。なお、入力端子70a,70b(図示略)側の電圧を電圧Vx、差動アンプ75側の電圧Vy、レベルシフトにて変動させる電圧(
図7においては引き下げる電圧)を電圧Vz(引き下げの場合:-、引き上げの場合:+)とした場合、電圧Vy=2.5V+(電圧Vx-2.5V)×1kΩ/(1kΩ+4kΩ)+Vzの関係となる。
【0047】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第1閾値L1(2.5V-0.375V)を下回っている場合、すなわち入力端子70a(図示略)における入力信号の電圧が第1閾値L1´(-7.5V)を下回っている場合には、定電流源SA3,SA4をON状態に制御する(定電流源SA1,SA2はOFF状態に維持)。定電流源SA3,SA4がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の各電圧が一定程度(具体的には7.5V)引き上げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(具体的には1.5V)上昇することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第1閾値L1以上となった際に解除される(定電流源SA1~SA4が全てOFF状態となる)。
【0048】
定電流源SBは、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン71とを繋ぐライン上に配設された定電流源SB3と、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン72とを繋ぐライン上に配設された定電流源SB4と、信号ライン71とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SB1と、信号ライン72とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SB2との組み合せとなっている。これら定電流源SB1~SB4については、ON状態となることで何れも1.875mAの定電流を流す構成となっている。
【0049】
上記コンパレータ群を構成している第2コンパレータ92は、定電流源SB1~SB4を制御対象としている。第2コンパレータ92おいては、上限側の第2閾値U2としてバイアス電圧(2.5V)+0.75V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:+15Vに相当)が設定されており、下限側の第2閾値L2としてバイアス電圧(2.5V)-0.75V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:-15Vに相当)が設定されている。つまり、第2閾値U2,L2は上記第1閾値U1,L1の2倍となっている。
【0050】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧がそれら下限側の第2閾値L2(2.5V-0.75V)~上限側の第2閾値U2(2.5V+0.75V)の範囲(第2範囲)内である場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第2閾値L2´(-15V)~第2閾値U2´(15V)の範囲内である場合には、定電流源SB1~SB4を何れもOFF状態のままとする。つまり、第2コンパレータ92及び定電流源SBによるレベルシフトは実行されない。
【0051】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第2閾値U2(2.5V+0.75V)を上回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が上限側の第2閾値U2´(15V)を上回っている場合には、定電流源SB1,SB2をON状態に制御する(定電流源SB3,SB4はOFF状態に維持)。定電流源SB1,SB2がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(本実施形態では7.5V)引き下げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(本実施形態では1.5V)降下することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第2閾値U2以下となった際に解除される(定電流源SB1~SB4が全てOFF状態となる)。
【0052】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第2閾値L2(2.5V-0.75V)を下回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第2閾値L2´(-15V)を下回っている場合には、定電流源SB3,SB4をON状態に制御する(定電流源SB1,SB2はOFF状態に維持)。定電流源SB3,SB4がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(具体的には7.5V)引き上げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(具体的には1.5V)上昇することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第2閾値L2以上となった際に解除される(定電流源SB1~SB4が全てOFF状態となる)。
【0053】
定電流源SCは、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン71とを繋ぐライン上に配設された定電流源SC3と、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン72とを繋ぐライン上に配設された定電流源SC4と、信号ライン71とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SC1と、信号ライン72とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SC2との組み合せとなっている。これら定電流源SC1~SC4については、ON状態となることで何れも1.875mAの定電流を流す構成となっている。
【0054】
上記コンパレータ群を構成している第3コンパレータ93は、定電流源SC1~SC4を制御対象としている。第3コンパレータ93おいては、上限側の第3閾値U3としてバイアス電圧(2.5V)+1.125V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:+22.5Vに相当)が設定されており、下限側の第3閾値L3としてバイアス電圧(2.5V)-1.125V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:-22.5Vに相当)が設定されている。つまり、第3閾値U3,L3は上記第1閾値U1,L1の3倍となっている。
【0055】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧がそれら下限側の第3閾値L3(2.5V-1.125V)~上限側の第3閾値U3(2.5V+1.125V)の範囲(第3範囲)内である場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第3閾値L3´(-22.5V)~第3閾値U3´(22.5V)の範囲内である場合には、定電流源SC1~SC4を何れもOFF状態のままとする。つまり、第3コンパレータ93及び定電流源SCによるレベルシフトは実行されない。
【0056】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第3閾値U3(2.5V+1.125V)を上回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第3閾値U3´(22.5V)を上回っている場合には、定電流源SC1,SC3をON状態に制御する(定電流源SC2,SC4はOFF状態に維持)。定電流源SC1,SC3がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(本実施形態では7.5V)引き下げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(本実施形態では1.5V)降下することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第3閾値U3以下となった際に解除される(定電流源SC1~SC4が全てOFF状態となる)。
【0057】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第3閾値L3(2.5V-1.125V)を下回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第3閾値L3´(-22.5V)を下回っている場合には、定電流源SC3,SC4をON状態に制御する(定電流源SC1,SC2はOFF状態に維持)。定電流源SC3,SC4がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(具体的には7.5V)引き上げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(具体的には1.5V)上昇することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第3閾値L3以上となった際に解除される(定電流源SC1~SC4が全てOFF状態となる)。
【0058】
定電流源SDは、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン71とを繋ぐライン上に配設された定電流源SD3と、動作電源(Vcc:5V)と信号ライン72とを繋ぐライン上に配設された定電流源SD4と、信号ライン71とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SD1と、信号ライン72とグランドとを繋ぐライン上に配設された定電流源SD2との組み合せとなっている。これら定電流源SD1~SD4については、ON状態となることで何れも1.875mAの定電流を流す構成となっている。
【0059】
上記コンパレータ群を構成している第4コンパレータ94は、定電流源SD1~SD4を制御対象としている。第4コンパレータ94おいては、上限側の第4閾値U4としてバイアス電圧(2.5V)+1.5V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:+30Vに相当)が設定されており、下限側の第4閾値L4としてバイアス電圧(2.5V)-1.5V(入力端子70aにおける入力信号の電圧:-30Vに相当)が設定されている。つまり、第4閾値U4,L4は上記第1閾値U1,L1の4倍となっている。
【0060】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧がそれら下限側の第4閾値L4(2.5V-1.5V)~上限側の第4閾値U4(2.5V+1.5V)の範囲(第4範囲)内である場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第4閾値L4´(-30V)~第4閾値U4´(30V)の範囲内である場合には、定電流源SD1~SD4を何れもOFF状態のままとする。つまり、第4コンパレータ94及び定電流源SDによるレベルシフトは実行されない。
【0061】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第4閾値U4を上回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第4閾値U4´を上回っている場合には、定電流源SD1,SD2をON状態に制御する(定電流源SD3,SD4はOFF状態に維持)。定電流源SD1,SD2がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(本実施形態では7.5V)引き下げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(本実施形態では1.5V)降下することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が上限側の第4閾値U4以下となった際に解除される(定電流源SD1~SD4が全てOFF状態となる)。
【0062】
アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第4閾値L4を下回っている場合、すなわち入力端子70aにおける入力信号の電圧が第4閾値L4´を下回っている場合には、定電流源SD3,SD4をON状態に制御する(定電流源SD1,SD2はOFF状態に維持)。定電流源SD3,SD4がON状態となることで、信号ライン71,72に設けられた既存の減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流が変化し、当該減衰抵抗にてD+信号及びD-信号(減衰前)の電圧が一定程度(具体的には7.5V)引き上げられることとなる。これにより、差動アンプ75への入力電圧についても一定程度(具体的には1.5V)上昇することとなる。なお、このレベルシフトについては、アッテネータ84による減衰後の信号の電圧が下限側の第4閾値L4以上となった際に解除される(定電流源SD1~SD4が全てOFF状態となる)。
【0063】
本実施形態ではコンパレータと定電流源との組み合せを複数併用することにより、電圧レベル検出回路部82によって検出された電圧に応じてレベルシフトを複数段階で実行可能としている。以下、
図8(a)を参照して、検出される電圧と各定電流源のON状態/OFF状態との関係について補足説明する。以下、説明の便宜上、電圧レベル検出回路部82により検出されたD+信号の電圧(入力端子70aにおけるD+信号の電圧)を「電圧D」ともいう。
【0064】
0V≦電圧Dが≦7.5V(第1閾値U1´)の場合には、定電流源SA1~SA4,SB1~SB4,SC1~SC4,SD1~SD4は全てOFF状態となり、上述したレベルシフトは発生しない。
【0065】
7.5V(第1閾値U1´)<電圧D≦15V(第2閾値U2´)の場合には、第1段階(LV1)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA1,SA2がON状態、定電流源SA3,SA4,SB1~SB4,SC1~SC4,SD1~SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が7.5V引き下げられる(差動アンプ75への入力電圧が1.5V引き下げられる)。
【0066】
15V(第2閾値U2´)<電圧D≦22.5V(第3閾値U3´)の場合には、第2段階(LV2)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA1,SA2,SB1,SB2がON状態、定電流源SA3,SA4,SB3,SB4,SC1~SC4,SD1~SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が15V引き下げられる(差動アンプ75への入力電圧が3V引き下げられる)。
【0067】
22.5V(第3閾値U3´)<電圧D≦30V(第4閾値U4´)の場合には、第3段階(LV3)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA1,SA2,SB1,SB2,SC1,SC2がON状態、定電流源SA3,SA4,SB3,SB4,SC3,SC4,SD1~SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が22.5V引き下げられる(差動アンプ75への入力電圧が4.5V引き下げられる)。
【0068】
30V(第4閾値U4´)<電圧Dの場合には、第4段階(LV4)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA1,SA2,SB1,SB2,SC1,SC2,SD1,SD2がON状態、定電流源SA3,SA4,SB3,SB4,SC3,SC4,SD3,SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が30V引き下げられる(差動アンプ75への入力電圧が6V引き下げられる)。
【0069】
-7.5V(第1閾値L1´)≦電圧Dが≦0Vの場合には、定電流源SA1~SA4,SB1~SB4,SC1~SC4,SD1~SD4は全てOFF状態となり、上述したレベルシフトは発生しない。
【0070】
-15V(第2閾値L2´)≦電圧D<-7.5V(第1閾値L1´)の場合には、第1段階(LV1)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA3,SA4がON状態、定電流源SA1,SA2,SB1~SB4,SC1~SC4,SD1~SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が7.5V引き上げられる(差動アンプ75への入力電圧が1.5V引き上げられる)。
【0071】
-22.5V(第3閾値L3´)≦電圧D<-15V(第2閾値L2´)の場合には、第2段階(LV2)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA3,SA4,SB3,SB4がON状態、定電流源SA1,SA2,SB1,SB2,SC1~SC4,SD1~SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が15V引き上げられる(差動アンプ75への入力電圧が3V引き上げられる)。
【0072】
-30V(第4閾値L4´)≦電圧D<-22.5V(第3閾値L3´)の場合には、第3段階(LV3)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA3,SA4,SB3,SB4,SC3,SC4がON状態、定電流源SA1,SA2,SB1,SB2,SC1,SC2,SD1~SD4がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が22.5V引き上げられる(差動アンプ75への入力電圧が4.5V引き上げられる)。
【0073】
電圧D<-30V(第4閾値L4´)の場合には、第4段階(LV4)のレベルシフトが発生する。すなわち、定電流源SA3,SA4,SB3,SB4,SC3,SC4,SD3,SD4がON状態、定電流源SA1,SA2,SB1,SB2,SC1,SC2,SD1,SD2がOFF状態となり、D+信号及びD-信号の各電圧が30V引き上げられる(差動アンプ75への入力電圧が6V引き上げられる)。
【0074】
つまり、コンパレータと定電流源との組み合せ=「1組」により実行されるLV1のレベルシフトによりカバーできる電圧範囲は±7.5V×2=±15Vとなり、コンパレータと定電流源との組み合せ=「2組」により実行されるLV2のレベルシフトによりカバーできる電圧範囲は±7.5V×3=±22.5Vとなり、コンパレータと定電流源との組み合せ=「3組」により実行されるLV3のレベルシフトによりカバーできる電圧範囲は±7.5V×4=±30Vとなり、コンパレータと定電流源との組み合せ=「4組」により実行されるLV4のレベルシフトによりカバーできる電圧範囲は±7.5V×5=±37.5Vとなる(
図8(b)参照)。
【0075】
以上詳述した差動入力回路70によれば、入力端子70aから当該差動入力回路70(信号ライン71)に入力されたD+信号から電圧レベルを検出する。すなわち、実際の電圧が電圧レベル検出回路部82にて設定されている何れの範囲に入っているかを検出する。そして、検出した電圧レベルがレベルシフトの適用範囲内であれば、D+信号及びD-信号が減衰及びレベルシフトの対象となり、検出した電圧レベルがレベルシフトの適用範囲外であれば、D+信号及びD-信号が減衰の対象(レベルシフトの対象外)となる(
図9(a)参照)。このようにして、大きな同相ノイズ(高電圧のノイズ)が入力された場合にレベルシフトを実施する構成とすれば、ノイズ耐性を強化できる。一方、上記適用範囲外の小さなノイズレベルでは、入力回路部81しか動作しないため、すなわちアッテネータ73,74による減衰のみとなるため(
図9(b)参照)、ノイズマージンとノイズ耐性は担保され、実用上好ましい構成を実現できる。
【0076】
次に、
図10のタイミングチャートを参照して、レベルシフトの流れについて説明する。
【0077】
図10には、本来の入力信号(例えば入力端子70aに入力されるD+信号)が0Vとなっている状況下にて、当該入力信号に同相ノイズ(±37V)が印加された場合を示している。この入力信号については、LV4のレベルシフトの対象になるため、±37Vの入力が7.5V×N回となるようにして折り畳まれることとなる。なお、本実施形態に示す差動入力回路70においては、±37Vの同相ノイズが印加された場合にはレベルシフト回路部83によるレベルシフトとアッテネータ73,74による減衰との両方が作用することになるが、説明の便宜上、
図10(a)にはレベルシフト及び減衰が作用していない場合の同相ノイズの波形を仮想的に示しており、
図10(b)には
図10(a)に示す波形にレベルシフトのみが作用した場合を仮想的に示している。
図10(a)に示す波形にレベルシフト及び減衰の両方が作用した場合については
図10(c)に例示している通りとなる。
【0078】
図10(a)及び
図10(b)に示すように、t1のタイミングでは、検出した電圧Dが7.5V(第1閾値U1´)を上回っている。このためLV1のレベルシフトによって入力信号の電圧が7.5V引き下げられることとなる。電圧の引き下げは瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が-側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち1回目の折り畳みが生じている。
【0079】
LV1のレベルシフト中(電圧引き下げ中)も入力端子70aにおける入力信号の電圧の上昇が続き、t2のタイミングにて検出した電圧Dが15V(第2閾値U2´)を上回っている。このためLV1→LV2のレベルシフトに移行して入力信号が合算で15V引き下げられることとなる。電圧の引き下げは瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が-側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち2回目の折り畳みが生じている。
【0080】
LV2のレベルシフト中(電圧引き下げ中)も入力端子70aにおける入力信号の電圧の上昇が続き、t3のタイミングにて検出した電圧Dが22.5V(第3閾値U3´)を上回っている。このためLV2→LV3のレベルシフトに移行して入力信号が合算で22.5V引き下げられることとなる。電圧の引き下げは瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が-側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち3回目の折り畳みが生じている。
【0081】
LV3のレベルシフト中(電圧引き下げ中)も入力端子70aにおける入力信号の電圧の上昇が続き、t4のタイミングにて検出した電圧Dが30V(第4閾値U4´)を上回っている。このためLV3→LV4のレベルシフトに移行して入力信号が合算で30V引き下げられることとなる。電圧の引き下げは瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が-側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち4回目の折り畳みが生じている。
【0082】
その後は、入力信号の電圧は上昇から降下に転じているが、LV4のレベルシフトのままとなり、合算で30V引き下げが継続される。
【0083】
t5のタイミングにて検出した電圧Dは30V(第4閾値U4´)を下回っている。このため、LV4→LV3のレベルシフトに移行して電圧の引き下げが30V→22.5Vに緩和されている。電圧の引き下げ緩和は瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち5回目の折り畳みが生じている。
【0084】
LV3のレベルシフト中も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t6のタイミングにて検出した電圧Dは22.5V(第3閾値U3´)を下回っている。このため、LV3→LV2のレベルシフトに移行して電圧の引き下げが22.5V→15Vに緩和されている。電圧の引き下げ緩和は瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち6回目の折り畳みが生じている。
【0085】
LV2のレベルシフト中も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t7のタイミングにて検出した電圧Dは15V(第2閾値U2´)を下回っている。このため、LV2→LV1のレベルシフトに移行して電圧の引き下げが15V→7.5Vに緩和されている。電圧の引き下げ緩和は瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち7回目の折り畳みが生じている。
【0086】
LV1のレベルシフト中も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t8のタイミングにて検出した電圧Dは7.5V(第1閾値U1´)を下回っている。このため、レベルシフトが解除される。当該解除は瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に+側に凸となる波形、すなわち8回目の折り畳みが生じている。
【0087】
以降も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t9のタイミングにて検出した電圧Dは-7.5V(第1閾値L1´)を下回っている。このためLV1のレベルシフトによって入力信号の電圧が7.5V引き上げられることとなる。電圧の引き上げは瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち9回目の折り畳みが生じている。
【0088】
LV1のレベルシフト中(電圧引き上げ中)も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t10のタイミングにて検出した電圧Dが-15V(第2閾値L2´)を下回っている。このためLV1→LV2のレベルシフトに移行して入力信号が合算で15V引き上げられることとなる。電圧の引き上げは瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち10回目の折り畳みが生じている。
【0089】
LV2のレベルシフト中(電圧引き上げ中)も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t11のタイミングにて検出した電圧Dが-22.5V(第3閾値L3´)を下回っている。このためLV2→LV3のレベルシフトに移行して入力信号が合算で22.5V引き上げられることとなる。電圧の引き上げは瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち11回目の折り畳みが生じている。
【0090】
LV3のレベルシフト中(電圧引き上げ中)も入力端子70aにおける入力信号の電圧の降下が続き、t12のタイミングにて検出した電圧Dが-30V(第4閾値L4´)を下回っている。このためLV3→LV4のレベルシフトに移行して入力信号が合算で30V引き上げられることとなる。電圧の引き上げは瞬時に実行され、その際の電圧の増加スピードは減少スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち12回目の折り畳みが生じている。
【0091】
その後は、入力信号の電圧は降下から上昇に転じているが、LV4のレベルシフトのままとなり、合算で30V引き上げが継続される。
【0092】
t13のタイミングにて検出した電圧Dは-30V(第4閾値L4´)を上回っている。このため、LV4→LV3のレベルシフトに移行して電圧の引き上げが30V→22.5Vに緩和されている。電圧の引き上げ緩和は瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち13回目の折り畳みが生じている。
【0093】
LV3のレベルシフト中も入力端子70aにおける入力信号の電圧の上昇が続き、t14のタイミングにて検出した電圧Dは-22.5V(第3閾値L3´)を上回っている。このため、LV3→LV2のレベルシフトに移行して電圧の引き上げが22.5V→15Vに緩和されている。電圧の引き上げ緩和は瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち14回目の折り畳みが生じている。
【0094】
LV2のレベルシフト中も入力端子70aにおける入力信号の電圧の上昇が続き、t15のタイミングにて検出した電圧Dは-15V(第2閾値L2´)を上回っている。このため、LV2→LV1のレベルシフトに移行して電圧の引き上げが15V→7.5Vに緩和されている。電圧の引き上げ緩和は瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち15回目の折り畳みが生じている。
【0095】
LV1のレベルシフト中も入力端子70aにおける入力信号の電圧の上昇が続き、t16のタイミングにて検出した電圧Dは-7.5V(第1閾値L1´)を上回っている。このため、レベルシフトが解除される。当該解除は瞬時に実行され、その際の電圧の減少スピードは増加スピードを上回る。これにより、波形が+側へ折り返すこととなり、入力信号に-側に凸となる波形、すなわち16回目の折り畳みが生じている。
【0096】
以上のように、±37Vの同相ノイズの波形を複数回(16回)折り畳むことで±7.5V+2.5Vの範囲に収めている。
【0097】
そして、このようなレベルシフト(折り畳み)にアッテネータ73,74による減衰(1/5)を併用することにより、±1.5V+2.5Vの波形(
図10(c)参照)が形成されている。つまり、この波形については1V~4Vで推移し、差動アンプ75の入力レンジ(0V~5V)に収まっている。つまり、±37Vの同相ノイズが加わったとしても、差動アンプ75を適切に動作させることが可能となっている。
【0098】
次に、
図11(a)に示す本来のD+信号及びD-信号(0V/4Vの二値信号)に
図10(a)に示した±37Vの同相ノイズが印加された場合の挙動について説明する。
図11(b)には
図11(a)に示す本来の信号に
図10(a)に示した同相ノイズが印加されたものについてレベルシフト及び1/5の減衰が作用した場合を例示している。
【0099】
図11(b)に示すように、0V/4Vの二値信号であるD+信号及びD-信号の両方に、±37Vの同相ノイズと上記2.5Vのバイアス電圧とが印加されたものが差動アンプ75に入力されることとなる場合であっても、差動入力回路70によるレベルシフト及び減衰によって、当該信号が差動アンプ75の入力範囲(0V~5V)に収まっている。これらD+信号及びD-信号が入力範囲に収まることで、差動アンプ75の適正な動作が担保されている。
【0100】
具体的には、差動アンプ75は、D+信号とD-信号との電位差に基づいて出力信号を生成しているが、出力信号生成時にも同相ノイズが印加されている部分についても入力範囲を外れていないため当該同相ノイズに起因した誤作動は発生しない(
図11(c)参照)。そして、差動アンプ75に入力されるD+信号及びD-信号についてはレベルシフト及び減衰の影響によって振幅(HIGHレベル部分とLOWレベル部分との電位差)が小さくなってはいるものの、差動アンプ75を経て当該振幅が増大することにより、後段のロジック判定等で信号が誤検出されることを好適に抑制される。
【0101】
ここで、±25V程度の電圧がICに印加される場合には、中耐圧の半導体プロセスが採用されることが多い。サーボモータ等の駆動用の動力線(例えば動力線11b~13b、配線56)と信号線(例えば配線55,57)とが並走し得る場合には±25Vよりも大きい電圧を想定する必要があり、この場合の中耐圧の半導体プロセス(プロセスノード)ではなく高耐圧の半導体プロセス(プロセスノード)が必要になる。つまり、上述した差動入力回路70についてはノイズ耐性を強化できる反面、製造コストが嵩みやすくなる。本実施形態ではこのような事情に配慮した工夫がなされていることを特徴の1つとしている。以下、
図6及び
図12を参照して当該工夫について説明する。
【0102】
図6に示したように、差動入力回路70の入力端子70a,70bに入力されるD+信号及びD-信号は、同相ノイズが印加されることで±25Vを超える高電圧となる可能性がある。つまり、アッテネータ73,74の初段の抵抗R1,R2やアッテネータ84の初段の抵抗R7については高電圧が直接入力される可能性がある。そこで、
図12に示すように、これらの抵抗R1,R2,R7を特性が同じディスクリート抵抗とした上で、入力回路部81、電圧レベル検出回路部82、レベルシフト回路部83における主たる構成を集積したIC(半導体チップ67)とともにマルチチップパッケージ化している。具体的には、半導体チップ67が実装されたリードフレーム66には当該半導体チップ67と分けて抵抗R1,R2,R7が実装されており、それら半導体チップ67及び抵抗R1,R2,R7を覆うようにしてモールドパッケージ65が設けられている。より詳しくは、抵抗R1,R2,R7は、リードフレーム66の一端寄りとなる位置にまとめて配置(集約配置)されている。なお、抵抗R1,R2,R7よりも入力される電圧が低い抵抗R3~R6,R8~R9については高耐圧の半導体プロセスが不要であり、これら抵抗R3~R6,R8~R9を半導体チップ67に内蔵されている。
【0103】
抵抗R1,R2,R7については高耐圧の半導体プロセスが適用されるが、これらをまとめて配置することで高耐圧の半導体プロセスを採用すべき箇所を限定できる。これにより、ノイズ耐性の強化による製造コストの増加を抑制できる。
【0104】
以上詳述した第1の実施形態によれば、以下の優れた効果が期待できる。
【0105】
本実施形態に示した差動入力回路70(「受信回路」、「差動入力受信回路」に相当)においては、入力信号(「差動入力信号」に相当)の電圧差に応じて出力信号(「差動出力信号」に相当)が生成され、両入力信号に同様のノイズ(コモンモードノイズ、同相ノイズ)が印加されたとしても当該ノイズは出力信号の生成時に差動アンプ75にて除去される。差動アンプ75については入力信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。ロボットシステム10(制御システム50)については高電圧のノイズが発生する環境下にて使用され得るため、ロボットシステム10の動作安定性の向上等を図る上で入力レンジを超える信号の入力を抑えることが重要となる。例えば、差動アンプの前段に配設されたアッテネータ73,74の減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータ73,74による減衰はノイズが印加された部分だけでなくノイズが印加されていない部分(本来の信号)にも及ぶことになる。このため、減衰比が大きくなれば2つの入力信号の電圧差は小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下し得る。
【0106】
この点、本実施形態に示した構成によれば、信号ラインに入力された差動入力信号の電圧値を検出し、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、差動入力信号の電圧値を一定程度小さくするようにして制御することにより差動アンプ75への入力前に入力信号の波形をシフトさせることができる。つまり、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、ロボットシステム10(制御システム50)におけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0107】
上述したように電圧値が閾値を超えた場合に入力信号の電圧値を一定程度小さくすることで波形をシフトさせる構成においては、シフト量を大きくすることで閾値を大きく超えるノイズについても差動アンプの入力レンジに収めることが可能となる反面、閾値を僅かに越えるノイズについてはシフトが過剰となり得る。つまり、シフト量を大きく設定してノイズの許容範囲を拡張するには限界がある。そこで、本実施形態に示したように、アッテネータ73,74による減衰機能と、レベルシフト回路部83等によるシフト機能とを併用することにより、ノイズの許容範囲を好適に拡張できる。
【0108】
そして、アッテネータ73,74に定電流を流すようにして定電流源SA~SDを制御することで波形をシフトさせる構成によれば、一部構成を両機能で共用とすることができ、差動入力回路70に係る構成が複雑になることを抑制できる。
【0109】
シフト中に電圧値が閾値以下となった場合に当該シフトを解除する構成とすれば、上記本来の信号への影響を小さくすることができる。これは、本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合を生じにくくする上で好ましい。
【0110】
例えば、1の閾値を大きく超えるノイズ及び当該閾値を小さく超えるノイズの何れについても一義的に波形をシフトさせる構成を想定した場合には、シフト量を大きくすれば大きなノイズに対応できるものの、小さなノイズの場合に信号の改変(例えばHI/LOWの反転)を回避する上で設定可能なシフト量に制約が生じる。この点、本実施形態に示したように、第1閾値を超えた場合には1段階目(LV1)のシフト→第2閾値を超えた場合には第2段階目(LV2)のシフト→第3閾値を超えた場合には3段階目(LV3)のシフト→第4閾値を超えた場合には第4段階目(LV4)のシフトとなるように段階的にシフトを行う構成とすれば、各段階におけるシフトの程度を小さくすることができる。つまり、比較的大きなノイズ及び比較的に小さなノイズの両方について適切なシフトが可能となる。
【0111】
なお、本実施形態に示したように1段階目(LV1)のシフト~4段階目(LV4)のシフトとでシフト量(変動幅)を揃える構成とすることは、閾値を大きく超えるノイズや閾値を小さく超えるノイズの何れについてもノイズ耐性を強化しつつ、シフト機能が適切な差動出力信号の生成を妨げる要因になることを抑制する上で好ましい。
【0112】
第1の信号ライン71に入力された第1信号の電圧値を検出し、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、第1信号及び第2信号の両方をシフトさせる構成とすれば、シフト機能によって信号間の電圧差の関係が崩れることを抑制し、差動アンプ75にて出力信号を適切に生成することができる。特に、上述の如く段階的に信号をシフトさせる場合には、シフトの段階を各信号にて揃えることには技術的意義がある。
【0113】
本実施形態に示したように信号ライン用のアッテネータ73,74の初段の抵抗R1,R2及び電圧検出用のアッテネータ84の初段の抵抗R7、すなわちノイズによって大きな電圧が加わる抵抗については、大きな電圧が加わらない他の構成と比べて半導体プロセス(プロセスノード)に要求される耐圧レベルについても高くなる。そして、耐圧レベルの高い半導体プロセスについてはコストが嵩むため、本実施形態に示した差動入力回路70の利用促進を図る上で妨げになると想定される。この点、上述した初段の抵抗R1,R2,R7を差動入力回路70における半導体チップ67とは別に設け、当該半導体チップ67とともにマルチチップパッケージ化することにより、それら初段の抵抗R1,R2,R7を半導体チップ67に内蔵する構成と比較して、耐圧レベルの高い半導体プロセスが必要になる部分の配置自由度を好適に向上させることができる。これは、当該半導体プロセスの配置箇所をまとめたり短くしたりする上で好ましい。つまり、本実施形態に示したパッケージ構成は、コストの増加による上記不都合の発生を抑制する上で好ましい。
【0114】
本実施形態に示した構成によれば、通信の規格であるRS485が適用された制御システム(受信回路)について、ノイズの影響によるシステムの誤差動等を好適に抑制できる。例えば、信号線が高電圧誘導モータ等の高電圧なノイズ源(動力線)と並走する場合であっても、ノイズの影響を抑えることが可能であり、配線の取り回し等の自由度を向上させる上で有利となる。
【0115】
<第2の実施形態>
自動車等の車両(車両用制御システム)においては、高い信頼性を求められる通信にシリアル通信プロトコルであるCAN(Controller Area Network)が用いられることがある。車両には車両内部及び外部の様々な要因によってノイズが発生し、それらのノイズ(同相ノイズ)の影響が上記通信プロトコルに及ぶことで車両用の制御が適正に行われなくなると懸念される。特に、車両は様々な環境下にて使用されると想定されるため上記懸念は大きい。
【0116】
本実施形態に示す車両100の車両用制御システム150においては(
図13参照)、デバイス(車両用の各種機器)間の通信に上記CANが用いられているとともに、通信に係る構成に上記第1の実施形態と同様の工夫がなされている。以下、
図13を参照して、本実施形態における車両用制御システム150について説明する。
【0117】
車両用制御システム150は、例えば先行する車両等の障害物を検知するレーダ装置133とレーダ装置133からの検知情報に基づいて車両の駆動制御やブレーキ制御等を行う車両制御装置153とを有してなり、これらレーダ装置133と車両制御装置153との通信に上記CANが用いられている。車両制御装置153には、上記各種制御を行う制御部161と、他のデバイスとの信号の送受信を行う入出力部162とが設けられている。入出力部162においてレーダ装置133等の各種デバイスから信号を受信する受信回路170には、上記第1の実施形態に示した差動入力回路70(「差動入力受信回路」に相当)と同様の構成が適用されている。具体的には、図示は省略しているが、第1の実施形態に示した、入力回路部81、電圧レベル検出回路部82、レベルシフト回路部83、アッテネータ84等に相当する各種構成が設けられている。これら各種構成については、第1の実施形態に示した入力回路部81等と同様であるため説明を省略する。
【0118】
この受信回路170によれば、入力信号に印加される同相ノイズの影響を抑制することができるだけでなく、様々な要因によって高電圧の同相ノイズが印加された場合であっても、入力回路部に配設されたアッテネータによる入力信号の減衰に加えて当該ノイズの大きさに応じた入力信号のレベルシフトが実施される。これにより、差動アンプの入力レンジを外れた信号が当該差動アンプに入力されることを抑制し、車両におけるノイズ耐性を好適に強化できる。例えば、信号線が高電圧誘導モータ等の高電圧なノイズ源(動力線)と並走する場合であっても、ノイズの影響を抑えることが可能であり、配線の取り回し等の自由度を向上させる上で有利となる。
【0119】
なお、上記
図13には「差動入力受信回路」の適用例として、レーダ装置133から車両制御装置153に入力される入力信号用の受信回路170を示したが、これに限定されるものではない。例えば、車両制御装置153にてレーダ装置133以外のデバイスから入力される信号用の受信回路に当該「差動入力受信回路」を適用してもよいし、レーダ装置133に設けられた受信回路に当該「差動入力受信回路」を適用してもよい。また、エンジン制御、モータ制御、バッテリ制御、サスペンション制御、トランスミッション制御、ABS制御、エアバック制御、ワイパー制御、エアコン制御、センタードアロック制御等の各種制御に係る他のデバイス(詳しくは、上記CANが適用されているデバイス)の受信回路に当該「差動入力受信回路」を適用してもよい。
【0120】
<その他の実施形態>
なお、上述した各実施形態の記載内容に限定されず例えば次のように実施してもよい。ちなみに、以下の各構成を個別に上記各実施形態に対して適用してもよく、一部又は全部を組み合わせて上記各実施形態に対して適用してもよい。
【0121】
・上記各実施形態では、逆位相となるように形成されたD+信号及びD-信号が差動アンプ75に入力され、差動アンプ75ではそれらD+信号とD-信号との電位差に基づいて出力信号を生成する構成とした。これを以下のように変更することも可能である。すなわち、上記D+信号及びD-信号の一方と、一定電圧となる基準信号とが差動アンプ75に入力され、差動アンプ75では当該一方の信号と基準信号との電位差に基づいて出力信号を生成する構成とすることも可能である。このような構成であっても、出力信号の生成の際に同相ノイズを除去することができる。
【0122】
・入力信号の減衰及びレベルシフトの両方を実施する場合の順序については、それら減衰及びレベルシフトが同時に実施される構成、減衰後にレベルシフトが実施される構成、レベルシフト後に減衰が実施される構成の何れとしてもよい。
【0123】
・上記各実施形態に示したアッテネータ73,74による減衰機能を省略することも可能である。但し、このような構成においては、レベルシフト単独で大きな電圧に対応する必要が生じる。例えば、電圧レベル検出回路部82のコンパレータとレベルシフト回路部83の定電流源との組み合せを増やして、カバーできる電圧範囲を広げるとよい。
【0124】
・上記各実施形態では、定電流源SA~SDをON状態/OFF状態に切り替えて既存減衰抵抗(アッテネータ73,74)を流れる電流を変化させることによりレベルシフトを実現したが、アッテネータ73,74とは別にレベルシフト用の抵抗(定電流が流れる抵抗)を設けてもよい。特に、上記他の変形例に示したようにアッテネータ73,74(減衰機能)を省略する場合には、信号ライン71,72にレベルシフト用の抵抗を配設するとよい。
【0125】
・上記各実施形態では、電圧レベル検出回路部82のコンパレータとレベルシフト回路部83の定電流源との組み合せを用いたレベルシフトでは、各組み合せが担う電圧の変動幅(引き上げの幅、引き上げの幅)を揃える構成としたが、必ずしもこれに限定されるものではない。各々の組合せが担う電圧の変動幅が相違するように差別化することも可能である。例えば、LV1用の組み合せが担う電圧の変動幅<LV2用の組み合せが担う電圧の変動幅<LV3用の組み合せが担う電圧の変動幅<LV4用の組み合せが担う電圧の変動幅、となるように変動幅に差を設けてもよい。また、LV1用の組み合せが担う電圧の変動幅=LV2用の組み合せが担う電圧の変動幅<LV3用の組み合せが担う電圧の変動幅=LV4用の組み合せが担う電圧の変動幅、となるように変動幅に差を設けてもよい。これらの構成を実現するには、例えば定電流源SA~SDの電流値に差を設けるとよい。
【0126】
・上記各実施形態では、電圧レベル検出回路部82のコンパレータとレベルシフト回路部83の定電流源との組み合せを4組としたが、組み合せの数については任意である。例えば、1組としてもよいし、2組としてもよいし、3組としてもよい。更には5組以上とすることも可能である。
【0127】
・上記各実施形態では、差動入力回路70に入力される入力信号がアッテネータ73,74にて減衰される点を考慮し、差動アンプ75に入力される波形よりも差動アンプ75から出力される波形の方が二値信号におけるHIGHレベルとLOWレベルとの電圧差が大きくなるように増幅させる構成(入力電圧差を増幅させる構成)としたが、差動アンプ75に入力される波形の電圧差と差動アンプ75から出力される波形の電圧差とが同じになる構成や、差動アンプ75に入力される波形の電圧差よりも差動アンプ75から出力される波形の電圧差の方が小さくなる構成を必ずしも否定するものではない。
【0128】
・上記各実施形態では、信号ライン71にて入力端子70aとアッテネータ73との間となる部分に分岐ラインを接続した場合について例示したが、レベルシフトが作用しない部分の電圧レベルを検出することができるのであれば、接続位置については任意に変更してもよい。例えば、分岐ラインの接続先を入力端子70aとすることも可能である。
【0129】
・上記各実施形態では、コンパレータ91~92を用いて、入力信号の電圧が第1範囲~第4範囲の何れに含まれているかの検出(電圧レベルの検出)と、その検出結果に応じた定電流源SA~SDの制御とを行う構成とした。入力信号の電圧を検出し、検出した電圧に応じてレベルシフトを行うことができるのであれば足り、電圧の検出と定電流源SA~SDの制御とに係る構成については任意である。例えば、電圧計を用いて入力信号の電圧を検出し、その検出結果をマイコンに入力し、当該マイコンでは予め設定されている第1範囲~第4範囲と検出結果とを比較し、その比較結果に基づいて定電流源SA~SDをON状態/OFF状態に切り替える構成としてもよい。
【0130】
・上記各実施形態に示した電圧レベル検出回路部82は、D+信号の電圧レベルを検出する構成としたが、これに代えてD-信号の電圧レベルを検出する構成とすることも可能である。また、D+信号の電圧レベルを検出する検出回路部と、D-信号の電圧レベルを検出する検出回路部とを各々設け、D+信号の電圧レベルに応じて信号ライン71用の定電流源SA1,SA3,SB1,SB3,SC1,SC3,SD1,SD3を制御し、D-信号の電圧レベルに応じて信号ライン72用の定電流源SA2,SA4,SB2,SB4,SC2,SC4,SD2,SD4を制御する構成とすることも可能である。
【0131】
・上記各実施形態に示したレベルシフト用の各閾値にヒステリシスを設定してもよい。例えば、電圧が上昇する場合に適用される上昇時の第1閾値U1と電圧が降下する場合に適用される降下時の第1閾値U1とを各々設け且つ上昇時の第1閾値U1よりも降下時の第1閾値U1の方が低くなるように差を設定したり、電圧が降下する場合に適用される降下時の第1閾値L1と電圧が上昇する場合に適用される上昇時の第1閾値L1とを各々設け且つ上昇時の第1閾値L1よりも降下時の第1閾値L1の方が低くなるように差を設定したりするとよい。
【0132】
・上記各実施形態では、LV1~LV4の各々について電圧を引き下げる場合のレベルシフトと電圧を引き上げる場合のレベルシフトとで電圧の変動量(引き下げ量、引き上げ量)を揃える構成としたが、これに限定されるものではない。電圧を引き下げる場合のレベルシフトと電圧を引き上げる場合のレベルシフトとで電圧の変動量を相違させる構成とすることも可能である。例えば、電圧を引き下げる場合のレベルシフトよりも電圧を引き上げる場合のレベルシフトの方が電圧の変動量が大きくなるようにしてもよいし、電圧を引き下げる場合のレベルシフトよりも電圧を引き上げる場合のレベルシフトの方が電圧の変動量が小さくなるようにしてもよい。
【0133】
・上記各実施形態では、アッテネータ73,74の減衰比を何れも1/5としたが、これに限定されるものではない。アッテネータ73,74の減衰比を何れも1/2、1/4、1/10等とすることも可能である。また、アッテネータ73,74の減衰比は一致させることが好ましいものの、アッテネータ73の減衰比とアッテネータ74の減衰比とを相違させることも可能である。
【0134】
・上記各実施形態では、抵抗R1,R2,R3をリードフレーム66における一端寄りとなる部分にまとめて配置したが、抵抗R1,R2,R3をリードフレーム66における中央部分にまとめて配置することも可能である。但し、このような構成では、高耐圧の半導体プロセスが長くなる。これは、製品の品質管理や製造コスト等で不利である。故に、製品の品質管理等に鑑みれば抵抗R1,R2,R3をリードフレーム66における端部又は端部寄りとなる部分にまとめて配置することには技術的意義がある。なお、抵抗R1,R2,R3を一箇所にまとめて配置する構成に代えて、それら抵抗R1,R2,R3が散在するように離して配置することも可能である。
【0135】
・上記各実施形態では、リードフレーム66に、抵抗R1,R2,R7と半導体チップ67とを分けて配設したが、必ずしもこれに限定されるものではない。抵抗R1,R2,R7の一部(例えば抵抗R1,R2)を半導体チップ67と分けて配設する一方、残り(例えば抵抗R7)については半導体チップ67に内蔵する構成とすることも可能である。なお、レベルシフト非対応の差動入力回路においても、本変形例に示すアッテネータ73,74の抵抗R1,R2に相当する構成を半導体チップ67に相当する構成と分けてパッケージを形成するとよい。
【0136】
なお、上記各実施形態に示したレベルシフトに係る構成(電圧レベル検出回路部82やレベルシフト回路部83)を具備しない差動入力回路についても、上述したパッケージに係る思想(すなわち抵抗R1,R2を半導体チップ67とは別に設けてそれら各種構成をマルチチップパッケージとする構成)を適用することも可能である。
【0137】
・上記各実施形態では、デバイス間の通信(ロボットコントローラ52とロータリエンコーダ32との通信)として、Uart通信を例示したが、通信プロトコルについてはこれに限定されるものではない。例えば、SPI、I2C(登録商標)等の他の通信プロトコルとすることも可能である。
【0138】
・上記各実施形態では、差動信号を用いる通信の規格であるRS485が適用された制御システム(差動入力回路70等)にレベルシフト回路部83等のレベルシフトに係る構成を設けた場合について例示したが、これに限定されるものではない。差動信号を用いる通信の規格であるRS422が適用された制御システム(差動入力回路70等)にレベルシフト回路部83等のレベルシフトに係る構成を設けることも可能である。
【0139】
・上記各実施形態では、電圧レベル検出回路部82によって、入力信号の電圧レベルを検出する構成としたが、これに限定されるものではない。少なくとも、入力信号の電圧を検出して、その検出した電圧値とレベルシフト用の閾値とを比較することができるのであれば、具体的構成については任意である。
【0140】
・実際のユースケースでは入力端子70a,70b(D+,D-)に、ノイズ対策としてコモンモードノイズフィルタを追加実装することが多い。但し、この種のコモンモードノイズフィルタは周波数依存し、一般的には100MHz以上のコモンモードノイズが除去の対象となる。本実施形態に示した構成では、半導体デバイスを通過可能な全周波数帯域のノイズに有効である。上述したコモンモードノイズフィルタは高周波に優位なので、当該コモンモードノイズフィルタと本実施形態に示した構成とを併用することで様々なノイズを除去可能となる。
【0141】
・上記第1の実施形態では、工場の箱詰め工程に適用されたロボットシステム10にノイズ除去に係る構成(差動入力回路70)を適用した場合について例示したが、当該ノイズ除去に係る構成を例えば製品の組立工程、検査工程、梱包工程に適用されたロボットシステムに適用することも可能である。また、工場以外で使用される産業用ロボット以外のロボット(例えば飲食店や病院で使用されるロボット)に上記ノイズ除去に係る構成を適用してもよい。更には、当該ノイズ除去に係る構成を、無人搬送ロボット等の搬送車やNC工作機械等の工作機械に適用してもよい。
【0142】
<上記各実施形態から抽出される発明群について>
以下、上記各実施形態から抽出される発明群の特徴について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、上記各実施形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0143】
<特徴A群>
以下の特徴A群は、「工場等で用いられる産業用ロボット等の産業機器には、ソレノイドやサーボモータ等の電動式アクチュエータが搭載されているものがある。この種の産業機器においては、電動式アクチュエータへ駆動電力を供給するための電源線をノイズ源としたノイズ(高電圧サージノイズ)が信号線に印加される可能性がある。特に強電線である電源線と弱電線である信号線とが近接配置される場合にはそのような懸念が一層強くなる。また、工場においては産業機器が多数設置されることが多く、他の産業機器の電源線等がノイズ源になる可能性もある。信号線に印加されたノイズによって信号の送受信が適切に行われなくなることは、産業機器の動作安定性等を損なう要因になる。そこで、産業機器用の制御システムにおいては、ノイズの影響を抑えるべく、ノイズ除去用のフィルタ回路を搭載するといった対策が講じられている(例えば、特許文献1参照)。」という背景技術について、「上述したフィルタ回路の1つとして差動入力受信回路がある。差動入力受信回路においては、例えば2つの信号線を用いて逆位相となる信号(差動入力信号)を差動アンプに入力し、それらの信号の電圧差に基づいて出力信号を生成するように構成されているものがある。2つの信号線は互いに並走するようにしてまとめられており、上述したノイズが両信号に印加される。このようなノイズ(同相ノイズ)については、電圧差に基づいて出力信号を生成する際に除去されることとなる。差動アンプについては信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。上述したように、産業用機器に搭載される差動入力受信回路においては、入力レンジを超えるようなノイズが印加され得る点に配慮して、以下のような対策が講じられている。すなわち、差動アンプの前段にアッテネータ(抵抗アレイ)を配設し、差動アンプに入力される信号を当該アッテネータにより減衰させるといった対策が講じられている。ここで、アッテネータの減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータによる減衰はノイズが印加された部分だけでなく本来の信号(ノイズが印加されていない部分)にも及ぶことになる。つまり、減衰比が大きくなることで、上述した2つの信号の電圧差が小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下する。このように、産業機器用の制御システムにおいては、差動アンプにて出力信号(差動出力信号)を適正に生成可能としつつ大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させる上でノイズ除去に係る構成に未だ改善の余地がある。」という課題等に鑑みてなされたものである。
【0144】
特徴A1.産業機器(ロボット15)を対象として制御を行う産業機器用制御システム(制御システム50)であって、
入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路(入出力部62)を備え、
前記受信回路は、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ライン(信号ライン71,72)と、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプ(差動アンプ75)と、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)と
を備えている産業機器用制御システム。
【0145】
本特徴に示す受信回路(差動入力受信回路)においては、差動入力信号の電圧差に応じて差動出力信号が生成され、両差動入力信号に同様のノイズ(コモンモードノイズ、同相ノイズ)が印加されたとしても当該ノイズは差動出力信号の生成時に差動アンプにて除去される。差動アンプについては差動入力信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。産業機器用の制御システムについては高電圧のノイズが発生する環境下にて使用され得るため、産業機器の動作安定性の向上等を図る上で入力レンジを超える信号の入力を抑えることが重要となる。例えば、差動アンプの前段にアッテネータ(抵抗アレイ)を配設し、差動アンプに入力される信号を当該アッテネータにより減衰させるといった対策を講じることも可能ではある。このような構成によれば、アッテネータの減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータによる減衰はノイズが印加された部分だけでなくノイズが印加されていない部分(本来の信号)にも及ぶことになる。このため、減衰比が大きくなれば2つの差動入力信号の電圧差は小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下し得る。
【0146】
この点、本特徴に示す構成によれば、信号ラインに入力された差動入力信号の電圧値を検出し、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより差動アンプへの入力前に差動入力信号の波形をシフトさせることができる。つまり、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって差動入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの差動入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、産業機器用制御システムにおけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0147】
差動信号を用いる通信の規格としてRS485,RS422等が知られている。それらRS485,RS422等が適用された産業機器用制御システム(受信回路)が本特徴に示すシフト用回路部等を具備する構成とすることにより、ノイズの影響によるシステムの誤差動等の更なる抑制に寄与できる。例えば、信号線が高電圧誘導モータ等の高電圧なノイズ源(動力線)と並走する場合であっても、ノイズの影響を抑えることが可能である。
【0148】
なお、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し」との記載は、信号ラインにおいてシフト用回路部によるシフトが発生してない箇所における差動入力信号の電圧値を示し、例えば受信回路に設けられた差動入力信号用の入力端子の電圧値がこれに相当する。
【0149】
また、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)」との記載を「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を規定値(例えば7.5V)だけ小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)」に変更してもよい。
【0150】
特徴A2.前記シフト用回路部は、前記信号ラインに接続された定電流源(例えば定電流源SA1,SA2)を有してなり、前記検出した電圧値が前記閾値を超えている場合に、前記信号ラインにおいて当該電圧値の検出箇所よりも下流側に設けられている抵抗部(アッテネータ73,74)に定電流を流すようにして前記定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせる特徴A1に記載の産業機器用制御システム。
【0151】
本特徴に示すように、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、信号ラインにおいて当該電圧値の検出箇所よりも下流側に設けられている抵抗部に定電流を流すようにして定電流源を制御する構成とすれば、特徴A1に示した波形のシフトを具現化できる。
【0152】
特徴A3.前記信号ラインに入力された前記差動入力信号を前記差動アンプに伝送する過程で減衰させるアッテネータ(アッテネータ73,74)を備え、
前記シフト用回路部は、前記信号ラインに接続された定電流源(例えば定電流源SA1,SA2)を有してなり、前記検出した電圧値が前記閾値を超えている場合に、前記信号ラインにおいて当該電圧値の検出箇所よりも下流側に設けられている前記アッテネータに定電流を流すようにして前記定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせる特徴A1に記載の産業機器用制御システム。
【0153】
特徴A1に示したように、電圧値が閾値を超えた場合に差動入力信号の電圧値を小さくすることで波形をシフトさせる構成においては、小さくする度合い(引き下げ量や引き上げ量)を大きくすることで閾値を大きく超えるノイズについても差動アンプの入力レンジに収めることが可能となる反面、閾値を僅かに越えるノイズについてはシフトが過剰となり得る。つまり、上記度合いを大きくしてノイズの許容範囲を拡張するには限界がある。そこで、本特徴に示すように、アッテネータによる減衰機能と、シフト用回路部によるシフト機能とを併用することにより、ノイズの許容範囲を好適に拡張できる。
【0154】
そして、アッテネータに定電流を流すようにして定電流源を制御することで波形をシフトさせる構成にすれば、一部構成を両機能で共用とすることができ、受信回路に係る構成が複雑になることを抑制できる。
【0155】
特徴A4.前記シフト用回路部は、前記波形のシフト中に前記検出した電圧値が前記閾値以下となった場合に当該シフトを解除する特徴A1乃至特徴A3のいずれか1つに記載の産業機器用制御システム。
【0156】
シフト中に電圧値が閾値以下となった場合に当該シフトを解除する構成とすれば、上記本来の信号への影響を小さくすることができる。これは、本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合を生じにくくする上で好ましい。
【0157】
特徴A5.前記シフト用回路部は、前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を予め設定された値(例えば7.5V)分小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせる構成となっており、
前記閾値として、第1閾値(例えば第1閾値U1´)と当該第1閾値よりも大きい第2閾値(例えば第2閾値U2´)とを含み、
前記予め設定された値として、第1規定値(例えば7.5V)と当該第1規定値よりも大きい第2規定値(例えば15V)とを含み、
前記シフト用回路部は、前記検出した電圧値が前記第1閾値を超えており且つ前記第2閾値を超えていない場合に、前記差動入力信号の電圧値を前記第1規定値だけ小さくなるようにして制御することにより前記差動入力信号の波形をシフトさせる一方、前記検出した電圧値が前記第2閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を前記第2規定値だけ小さくなるようにして制御することにより前記差動入力信号の波形をシフトさせる特徴A1乃至特徴A4のいずれか1つに記載の産業機器用制御システム。
【0158】
例えば、1の閾値を大きく超えるノイズ及び当該閾値を小さく超えるノイズの何れについても一義的に波形をシフト(規定値分のシフト)させる構成を想定した場合には、規定値を大きくすれば大きなノイズに対応できるものの、小さなノイズの場合に信号の改変(例えばHI/LOWの反転)を回避する上で設定可能な規定値に制約が生じる。この点、本特徴に示すように、第1閾値を超えた場合には1段階目のシフト(第1規定値分のシフト)→第2閾値を超えた場合には第2段階目のシフト(第2規定値分のシフト)となるように段階的にシフトを行う構成とすれば、各段階におけるシフトの程度を小さくすることができる。つまり、比較的大きなノイズ及び比較的に小さなノイズの両方について適切なシフトが可能となる。
【0159】
特徴A6.前記閾値として、第1閾値(例えば第1閾値U1´)と当該第1閾値よりも大きい第2閾値(例えば第2閾値U2´)とを含み、
前記シフト用回路部は、前記信号ラインに接続された第1定電流源(例えば定電流源SA1,SA2)及び第2定電流源(例えば定電流源SB1,SB2)を有してなり、前記検出した電圧値が前記第1閾値を超えている場合に、前記信号ラインにおいて当該電圧値の検出箇所よりも下流側に設けられている抵抗に定電流を流すようにして前記第1定電流源及び前記第2定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせ、前記検出した電圧値が前記第2閾値を超えている場合に、前記抵抗に前記第1定電流源及び前記第2定電流源から定電流を流すようにして前記第1定電流源及び前記第2定電流源を制御することにより、前記差動入力信号の波形をシフトさせる特徴A1乃至特徴A4のいずれか1つに記載の産業機器用制御システム。
【0160】
本特徴に示す構成によれば、検出した電圧値に応じて複数の定電流源を制御することにより、波形を段階的にシフトさせる機能を好適に具現化できる。
【0161】
特徴A7.前記第1定電流源及び前記第2定電流源は、前記信号ラインに定電流を流すON状態と前記信号ラインに定電流を流さないOFF状態とに各々切替可能となっており、
前記シフト用回路部には、前記検出した電圧値に応じて前記第1定電流源を前記ON状態及び前記OFF状態に切り替える第1コンパレータ(例えば第1コンパレータ91)と、前記検出した電圧値に応じて前記第2定電流源を前記ON状態及び前記OFF状態に切り替える第2コンパレータ(例えば第2コンパレータ92)とが設けられており、
前記検出した電圧値が前記第1閾値を超えており且つ前記第2閾値を超えていない場合には、前記第1コンパレータにより前記第1定電流源が前記ON状態に制御されるとともに前記第2コンパレータにより前記第2定電流源が前記OFF状態に制御され、前記検出した電圧値が前記第2閾値を超えている場合には、前記第1コンパレータにより前記第1定電流源が前記ON状態に制御されるとともに前記第2コンパレータにより前記第2定電流源が前記OFF状態に制御される特徴A6に記載の産業機器用制御システム。
【0162】
本特徴に示すように、検出した電圧値が第1閾値を超えており且つ第2閾値を超えていない場合には、第1コンパレータにより第1定電流源→ON状態、第2コンパレータにより第2定電流源→OFF状態に制御し、検出した電圧値が第2閾値を超えている場合には、第1コンパレータにより第1定電流源→ON状態、第2コンパレータにより第2定電流源→OFF状態に制御することで波形を段階的にシフトさせる構成を好適に実現できる。
【0163】
なお、例えば第1定電流源による定電流と第2定電流源による定電流とを揃える構成とするとよい。
【0164】
特徴A8.前記シフト用回路部は、前記第1定電流源を前記ON状態とすることによる電圧値の変動幅と、前記第2定電流源を前記ON状態とすることによる電圧値の変動幅とが同一となるように構成されている特徴A7に記載の産業機器用制御システム。
【0165】
本特徴に示すように1段階目のシフトと2段階目のシフトとでシフト量(変動幅)を揃える構成とすることは、閾値を大きく超えるノイズや閾値を小さく超えるノイズの何れについてもノイズ耐性を強化しつつ、シフト機能が適切な差動出力信号の生成を妨げる要因になることを抑制する上で好ましい。
【0166】
特徴A9.前記一対の信号ラインとして、前記差動入力信号である第1信号を伝送する第1信号ライン(例えば信号ライン71)と、前記差動入力信号である第2信号を伝送する第2信号ライン(例えば信号ライン72)とが設けられており、
前記シフト用回路部は、前記第1信号ラインに入力された前記第1信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が前記閾値を超えている場合に、前記第1信号及び前記第2信号の各電圧値を予め設定された値分小さくなるようにして制御することにより前記差動アンプに入力される前にそれら第1信号及び第2信号の各波形をシフトさせる特徴A1乃至特徴A8のいずれか1つに記載の産業機器用制御システム。
【0167】
本特徴に示すように、第1信号ラインに入力された第1信号の電圧値を検出し、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、第1信号及び第2信号の両方をシフトさせる構成とすれば、シフト機能によって信号間の電圧差の関係が崩れることを抑制し、差動アンプにて差動出力信号を適切に生成することができる。特に、特徴A5等に示したように、段階的に信号をシフトさせる場合には、シフトの段階を各信号にて揃えることには技術的意義がある。
【0168】
特徴A10.前記シフト用回路部は、前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を予め設定された値(例えば7.5V)分小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせる構成となっており、
前記閾値として、上限を規定する上限値(例えば第1閾値U1´)と、下限を規定する下限値(例えば第1閾値L1´)とが設けられており、
前記シフト用回路は、前記検出した電圧値が前記上限値を上回っている場合に、前記差動入力信号の電圧値を前記予め設定された値分引き下げるようにして制御することにより前記差動入力信号の波形をシフトさせる一方、前記検出した電圧値が前記下限値を下回っている場合に、前記差動入力信号の電圧値を前記予め設定された値分引き上げるようにして制御することにより前記差動入力信号の波形をシフトさせる特徴A1乃至特徴A9のいずれか1つに記載の産業機器用制御システム。
【0169】
誘導起電力に起因したノイズについては+側及び-側の双方に影響する可能性がある。そこで、本特徴に示すように、上限値を上回っている場合には差動入力信号の電圧値を予め設定された値分引き下げるように制御して波形をシフトさせ、下限値を下回っている場合には差動入力信号の電圧値を予め設定された値分引き上げるように制御して波形をシフトさせる構成とすれば、入力レンジから外れた差動入力信号が差動アンプに入力されることを好適に回避できる。
【0170】
なお、「前記検出した電圧値が前記上限値を上回っている場合」と、「前記検出した電圧値が前記下限値を下回っている場合」とで「予め設定された値(規定値)」を同じ値としてもよいし、異なる値としてもよい。
【0171】
特徴A11(マルチパッケージ).前記信号ラインに設けられ、当該信号ラインに入力された前記差動入力信号を減衰させる信号ライン用アッテネータ(アッテネータ73,74)と、
前記信号ラインに接続された電圧値検出ラインに設けられ、前記差動入力信号の電圧値を検出する前に当該差動入力信号を減衰させる電圧検出用アッテネータ(アッテネータ84)と
を備え、
前記信号ライン用アッテネータ及び前記電圧検出用アッテネータは何れも、複数の抵抗の組み合せである抵抗アレイであり、
前記信号ライン用アッテネータを構成している各抵抗のうち初段の抵抗と、前記信号ライン用アッテネータを構成している各抵抗のうち初段の抵抗とは、前記受信回路の半導体チップとは別に設けられており、当該半導体チップとともにマルチチップパッケージとなっている特徴A1乃至特徴A10のいずれか1つに記載の産業機器用制御システム。
【0172】
本特徴に示すように信号ライン用アッテネータ及び電圧検出用アッテネータの初段の抵抗、すなわちノイズによって大きな電圧が加わる抵抗については、大きな電圧が加わらない他の構成と比べて半導体プロセス(プロセスノード)に要求される耐圧レベルについても高くなる。そして、耐圧レベルの高い半導体プロセスについてはコストが嵩むため、特徴A1等に示した技術的思想の利用促進を図る上で妨げになると想定される。この点、本特徴に示すように、上述した初段の抵抗を受信回路における半導体チップとは別に設け、当該半導体チップとともにマルチチップパッケージ化することにより、それら初段の抵抗を半導体チップに内蔵する構成と比較して、耐圧レベルの高い半導体プロセスが必要になる部分の配置自由度を好適に向上させることができる。これは、当該半導体プロセスの配置箇所をまとめたり短くしたりする上で好ましい。つまり、本特徴に示す構成は、コストの増加による上記不都合の発生を抑制する上で好ましい。
【0173】
特徴A12.産業機器(ロボット15)を対象として制御を行う産業機器用制御システム(制御システム50)に適用され、入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路であって、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ライン(信号ライン71,72)と、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプ(差動アンプ75)と、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)と
を備えている受信回路。
【0174】
本特徴に示す受信回路によれば、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって差動入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの差動入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、産業機器用制御システムにおけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0175】
差動信号を用いる通信の規格としてRS485,RS422等が知られている。それらRS485,RS422等が適用された産業機器用制御システム(受信回路)が本特徴に示すシフト用回路部等を具備する構成とすることにより、ノイズの影響によるシステムの誤差動等の更なる抑制に寄与できる。例えば、信号線が高電圧誘導モータ等の高電圧なノイズ源(動力線)と並走する場合であっても、ノイズの影響を抑えることが可能である。
【0176】
なお、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し」との記載は、信号ラインにおいてシフト用回路部によるシフトが発生してない箇所における差動入力信号の電圧値を示し、例えば受信回路に設けられた差動入力信号用の入力端子の電圧値がこれに相当する。
【0177】
また、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)」との記載を「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値(例えば第1閾値U1´)を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を規定値(例えば7.5V)だけ小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部(例えば電圧レベル検出回路部82及びレベルシフト回路部83)」とすることも可能である。
【0178】
<特徴B群>
以下の特徴B群は、「車両用の制御システム(車両用制御システム)においては、車両自身や外部環境等の様々な要因によってノイズが発生し得る。このようなノイズが信号線に印加され、当該ノイズによって信号の送受信が適切に行われなくなることは、車両の適正な動作の妨げになると懸念される。特に、車両は様々な状態や環境下にて使用されると想定されるため上記懸念は大きい。車両用制御システムにおいては、ノイズの影響を抑えるべく、ノイズ除去用のフィルタ回路を搭載するといった対策が講じられている(例えば、特許文献1参照)。」という背景技術について、「上述したフィルタ回路の1つとして差動入力受信回路がある。差動入力受信回路においては、例えば2つの信号線を用いて逆位相となる信号(差動入力信号)を差動アンプに入力し、それらの信号の電圧差に基づいて出力信号を生成するように構成されているものがある。2つの信号線は互いに並走するようにしてまとめられており、上述したノイズが両信号に印加される。このようなノイズ(同相ノイズ)については、電圧差に基づいて出力信号を生成する際に除去されることとなる。差動アンプについては信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。上述したように、車両制御システムに適用される差動入力受信回路においては、入力レンジを超えるようなノイズが印加され得る点に配慮して、以下のような対策が講じられている。すなわち、差動アンプの前段にアッテネータ(抵抗アレイ)を配設し、差動アンプに入力される信号を当該アッテネータにより減衰させるといった対策が講じられている。ここで、アッテネータの減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータによる減衰はノイズが印加された部分だけでなく本来の信号(ノイズが印加されていない部分)にも及ぶことになる。つまり、減衰比が大きくなることで、上述した2つの信号の電圧差が小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下する。このように、車両用制御システムにおいては、差動アンプにて出力信号(差動出力信号)を適正に生成可能としつつ大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させる上でノイズ除去に係る構成に未だ改善の余地がある。」という課題等に鑑みてなされたものである。
【0179】
特徴B1.車両(車両100)を対象として制御を行う車両用制御システム(車両用制御システム150)であって、
入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路(受信回路170)を備え、
前記受信回路は、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ラインと、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプと、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部と
を備えている車両用制御システム。
【0180】
本特徴に示す受信回路(差動入力受信回路)においては、差動入力信号の電圧差に応じて差動出力信号が生成され、両差動入力信号に同様のノイズ(コモンモードノイズ、同相ノイズ)が印加されたとしても当該ノイズは差動出力信号の生成時に差動アンプにて除去される。差動アンプについては差動入力信号(電圧)の入力レンジが定められており、当該入力レンジを超える信号が入力されることは誤作動や故障の要因になる。車両用制御システムについては高電圧のノイズが発生する環境下にて使用され得るため、車両の動作安定性の向上等を図る上で入力レンジを超える信号の入力を抑えることが重要となる。例えば、差動アンプの前段にアッテネータ(抵抗アレイ)を配設し、差動アンプに入力される信号を当該アッテネータにより減衰させるといった対策を講じることも可能ではある。このような構成によれば、アッテネータの減衰比を大きくすれば、大きなノイズに対するノイズ耐性を強化できる。但し、アッテネータによる減衰はノイズが印加された部分だけでなくノイズが印加されていない部分(本来の信号)にも及ぶことになる。このため、減衰比が大きくなれば2つの差動入力信号の電圧差は小さくなり、本来の信号に対するノイズマージンが低下し得る。
【0181】
この点、本特徴に示す構成によれば、信号ラインに入力された差動入力信号の電圧値を検出し、検出した電圧値が閾値を超えている場合に、差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより差動アンプへの入力前に差動入力信号の波形をシフトさせることができる。つまり、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって差動入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの差動入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、車両用制御システムにおけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0182】
差動信号を用いる通信の規格としてCANが知られている。上記CANが適用された車両用制御システム(受信回路)が本特徴に示すシフト用回路部等を具備する構成とすることにより、ノイズの影響によるシステムの誤差動等の更なる抑制に寄与できる。例えば、信号線が高電圧誘導モータ等の高電圧なノイズ源(動力線)と並走する場合であっても、ノイズの影響を抑えることが可能である。
【0183】
なお、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し」との記載は、信号ラインにおいてシフト用回路部によるシフトが発生してない箇所における差動入力信号の電圧値を示し、例えば受信回路に設けられた差動入力信号用の入力端子の電圧値がこれに相当する。
【0184】
また、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部」との記載を「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を規定値だけ小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部」に変更してもよい。
【0185】
特徴B2.車両(車両100)を対象として制御を行う車両用制御システム(車両用制御システム150)に適用され、入力された入力信号をフィルタ処理し当該フィルタ処理を経ることでノイズを除去した信号を出力信号として出力する受信回路(受信回路170)であって、
前記入力信号である差動入力信号を伝送する一対の信号ラインと、
前記信号ラインを通じて伝送された2つの前記差動入力信号の電圧差に応じて前記出力信号である差動出力信号を生成する差動アンプと、
前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部と
を備えている受信回路。
【0186】
本特徴に示す受信回路によれば、閾値を超えるような大きなノイズが印加された場合には、波形のシフトによって差動入力信号の電圧値を差動アンプの入力レンジに収めることが可能となり、大きなノイズに対するノイズ耐性を向上させることができる。そして、閾値を超えない信号(例えば本来の信号)についてはシフトの対象外とすることで、2つの差動入力信号の電圧差が小さくなって本来の信号に対するノイズマージンが低下するといった不都合が生じることもない。故に、車両用制御システムにおけるノイズ耐性を好適に向上させることができる。
【0187】
差動信号を用いる通信の規格としてCANが知られている。当該CANが適用された車両用制御システム(受信回路)が本特徴に示すシフト用回路部等を具備する構成とすることにより、ノイズの影響によるシステムの誤差動等の更なる抑制に寄与できる。例えば、信号線が高電圧誘導モータ等の高電圧なノイズ源(動力線)と並走する場合であっても、ノイズの影響を抑えることが可能である。
【0188】
なお、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し」との記載は、信号ラインにおいてシフト用回路部によるシフトが発生してない箇所における差動入力信号の電圧値を示し、例えば受信回路に設けられた差動入力信号用の入力端子の電圧値がこれに相当する。
【0189】
また、「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部」との記載を「前記信号ラインに入力された前記差動入力信号の電圧値を検出し、当該検出した電圧値が閾値を超えている場合に、前記差動入力信号の電圧値を規定値だけ小さくするようにして制御することにより前記差動アンプへの入力前に前記差動入力信号の波形をシフトさせるシフト用回路部」とすることも可能である。
【0190】
因みに、上記特徴A2~特徴A12に示した各技術的思想を特徴B1~B2に適用してもよい。
【符号の説明】
【0191】
10…ロボットシステム、11~13…周辺機器としてのコンベア、15…産業機器としてのロボット、21…ロボット本体、31…サーボモータ、32…ロータリエンコーダ、41…入出力部、50…制御システム、51…上位コントローラ、52…ロボットコントローラ、56…配線、57…配線、57a,57b…信号線、62…入出力部、65…モールドパッケージ、66…リードフレーム、67…半導体チップ、70…差動入力回路、71,72…信号ライン、73,74…アッテネータ、75…差動アンプ、81…入力回路部、82…電圧レベル検出回路部、83…レベルシフト回路部、84…アッテネータ、91~94…コンパレータ、100…車両、150…車両用制御システム、162…入出力部、170…受信回路、R1~R9…抵抗、SA~SD…定電流源。