(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113887
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240816BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/86 H
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019153
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】西 実紀
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB06
5H018BB09
5H018BB11
5H018BB12
5H018BB13
5H018BB16
5H018DD01
5H018EE13
5H018EE18
5H018HH03
5H018HH05
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS12
5H032CC11
5H032CC16
5H032EE05
5H032EE15
5H032EE18
(57)【要約】
【課題】炭素材料の劣化による放電電圧の低下を抑制するとともに、長期にわたり充放電を可能とする空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供する。
【解決手段】電池2は、容器4と、容器4内にアルカリ電解液82とともに収容された電極群10と、を備え、電極群10は、セパレータ14を介して重ね合わされた空気極16及び負極12を含んでおり、空気極16は、空気極用芯体、及び空気極用芯体に保持された空気極合剤を備えており、この空気極合剤は、酸素触媒と、導電材と、フッ素樹脂とを含んでおり、この導電材は、炭素材料からなり、この炭素材料は、ラマンスペクトルにおける1580[cm
-1]に対応するピーク強度をGとし、1360[cm
-1]に対応するピーク強度をDとした場合に、強度比G/Dの値が4.2以上、6.0以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気二次電池内に収容されている電極群に組み込まれている空気極であって、空気極用芯体、及び前記空気極用芯体に保持された空気極合剤を備えている空気二次電池用の空気極において、
前記空気極合剤は、酸素触媒と、導電材と、撥水剤としてのフッ素樹脂とを含んでおり、
前記導電材は、炭素材料からなり、
前記炭素材料は、ラマンスペクトルにおける1580[cm-1]に対応するピーク強度をGとし、1360[cm-1]に対応するピーク強度をDとした場合に、強度比G/Dの値が4.2以上、6.0以下である、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
容器と、
前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群と、を備えており、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含んでおり、
前記空気極は、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極である、空気二次電池。
【請求項3】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項2に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵及び放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(I)
放電(酸素還元反応):O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(II)
【0007】
空気二次電池においては、正極である空気極に、上記した充放電反応を促進させる触媒(酸素触媒)が含まれている。この酸素触媒は、酸素還元及び酸素発生の二元機能を有している。
【0008】
空気極は、上記した酸素触媒を含む空気極合剤で形成された空気極合剤層を保持している。この空気極合剤層は、全体として多数の微細な空孔を含む多孔質構造をなしており、この空孔にアルカリ電解液や酸素が取り込まれる。空気極においては、空気極の表面をはじめ、上記した空孔内に存在する酸素触媒の部分において充放電反応が進行する。
【0009】
ここで、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空孔を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が還元されて水が生成される。
【0010】
上記した空気二次電池において、充電反応は固体(触媒)と液体(電解液)とから形成される二相界面で進行する。一方、放電反応は固体、液体、及び気体(酸素)が同時に存在する三相界面でのみ進行する。
【0011】
ところで、空気二次電池の空気極においては、導電性を高めるために空気極合剤に導電材を添加することが必要である。一般的な導電材としては、空気一次電池及び燃料電池において用いられている炭素材料が知られている。炭素材料は、導電性に優れ、しかも安価で軽量であるので、導電材に好適な材料である。具体的には、黒鉛(グラファイト)などの結晶性の高い炭素材料や、カーボンブラックをはじめとするアモルファス状の炭素材料が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、空気二次電池の場合、導電材もアルカリ電解液と接触するので、導電材としての炭素材料はアルカリ電解液に腐蝕されて劣化するおそれがある。導電材が劣化すると導電性が低下し、それにともない放電電圧が低下する不具合が生じるおそれがある。また、上記した充電反応により空気極においては酸素発生反応が起こる。そうすると導電材の炭素材料が同時に酸化されて最終的には二酸化炭素となり、充電とともに炭素材料が著しく消耗されて使用不能状態となるという不具合が生じるおそれがある。このような不具合が起こると電池のサイクル寿命が早期に尽きてしまう。
【0014】
上記したような炭素材料の不具合を回避するため、アルカリ電解液中でも高い安定性を有し、耐酸化性に優れているニッケルの粉末を導電材として用いることが行われている(特許文献1)。
【0015】
しかしながら、ニッケルは、炭素材料に比べ重量が重く、高価であるので、ニッケルの粉末を導電材として含む空気極では、重量の増加によるエネルギー密度の低下や製造コストが嵩むといった別の問題が生じる。
【0016】
空気二次電池に対しては、様々な用途への応用が期待されていることから、更なるエネルギー密度の向上やコストの削減が望まれている。そこで、上記したニッケルの問題を解消し得る空気二次電池の導電材として、安価で軽量である炭素材料が注目されており、炭素材料を空気二次電池の導電材に用いる研究がなされている。しかしながら、上記したような劣化による放電電圧の低下やサイクル寿命特性の低下が未だ改善できていないのが現状である。
【0017】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、炭素材料の劣化による放電電圧の低下を抑制するとともに、長期にわたり充放電を可能とする空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明によれば、空気二次電池内に収容されている電極群に組み込まれている空気極であって、空気極用芯体、及び前記空気極用芯体に保持された空気極合剤を備えている空気二次電池用の空気極において、前記空気極合剤は、酸素触媒と、導電材と、撥水剤としてのフッ素樹脂とを含んでおり、前記導電材は、炭素材料からなり、前記炭素材料は、ラマンスペクトルにおける1580[cm-1]に対応するピーク強度をGとし、1360[cm-1]に対応するピーク強度をDとした場合に、強度比G/Dの値が4.2以上、6.0以下である、空気二次電池用の空気極が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、空気二次電池内に収容されている電極群に組み込まれている空気極であって、空気極用芯体、及び前記空気極用芯体に保持された空気極合剤を備えている空気二次電池用の空気極において、前記空気極合剤は、酸素触媒と、導電材と、撥水剤としてのフッ素樹脂とを含んでおり、前記導電材は、炭素材料からなり、前記炭素材料は、ラマンスペクトルにおける1580[cm-1]に対応するピーク強度をGとし、1360[cm-1]に対応するピーク強度をDとした場合に、強度比G/Dの値が4.2以上、6.0以下である構成をとる。この構成により、導電材としての炭素材料の黒鉛化度が高くなるので、導電性、耐酸化性、及び化学的安定性が高くなる。そのため、この空気二次電池用の空気極を用いた空気二次電池は、導電材としての炭素材料の劣化による放電電圧の低下が抑制されるとともに、長期にわたり充放電が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
【
図2】炭素材料(黒鉛)におけるラマン強度比(G/D比)と、比表面積(BET値)との関係を示したグラフである。
【
図3】1サイクル目の放電電圧と20サイクル目の放電電圧との差(放電中間電圧の変化量)と、炭素材料(黒鉛)のG/D比との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、一実施形態に係る空気二次電池用の空気極を含む空気水素二次電池(以下、電池とも表記する)2について図面を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに収容された電極群10とを備えている。
【0023】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0024】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、前記した空孔内及び負極芯体の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極芯体としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0025】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛の粉末、カーボンブラックの粉末等を用いることができる。
【0026】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgaNib-c-dAlcMd・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0027】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0028】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0029】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0030】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極芯体に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極芯体はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、粒子間に隙間があり、全体として多孔質構造をなしている。
【0031】
次に、空気極16は、導電性の空気極用芯体、及び前記した空気極用芯体に保持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)を備えている。
【0032】
上記したような空気極用芯体としては、金属多孔体を用いることができる。この金属多孔体としては、発泡金属を用いることが好ましい。この発泡金属としては、発泡ニッケルを用いることが好ましい。また、上記した金属多孔体としては、ニッケルメッシュやニッケルの粉末を焼結させたニッケル焼結体を用いることもできる。
【0033】
空気極合剤は、酸素触媒、導電材、及び撥水剤を含む。更に、空気極合剤には、粘度調整材を添加することが好ましい。
【0034】
酸素触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものを用いる。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。このような酸素触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を用いることが好ましい。このビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素発生及び酸素還元の二元機能を有している。
【0035】
ビスマスルテニウム複合酸化物は、組成式がBi2-xRu2O7-z(ただし、0≦x≦1、zは0≦z≦1の関係を満たしている。)で表されるパイロクロア型の結晶構造を有している。
【0036】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0037】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを準備する。そして、モル比でRuが1.00に対し、Biが0.50以上0.80未満となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量する。計量されたBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを所定の溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき、所定の溶液としては、蒸留水、希硝酸水溶液等が挙げられ、これらの溶液の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加えて前駆体を析出させる(共沈工程)。この前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌する。この撹拌操作は、酸素バブリングをともなって12時間~60時間行う。ここで、撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHが10~12となるように維持するとともに、温度が60℃以上、90℃以下になるように維持する。撹拌操作の終了後、混合水溶液を12時間~60時間静置する。静置した後、生じた沈殿物を吸引ろ過して回収する。回収された沈殿物は、80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、5時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。得られたペーストの乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、前駆体の粉末を得る。
【0038】
次に、前駆体の粉末を、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、4時間以下保持することにより熱処理を施す(焼成工程)。熱処理が終了した粉末は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後、乾燥処理が施される。この乾燥処理は、水洗後の粉末を60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持することにより行われる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2-xRu2O7-z)が得られる。
【0039】
次に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0040】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0041】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間撹拌した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
【0042】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、130℃以下で1時間以上、12時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0043】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の焼成工程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0044】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は所定の粒径に調整すべく、必要に応じ機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
【0045】
粉砕の方法としては、特に限定されないが、例えば、湿式ビーズミル装置を用いて粉砕処理を施すことが好ましい。湿式ビーズミル装置を用いて粉砕処理を施す場合の手順としては、まず、ビスマスルテニウム複合酸化物にイオン交換水及び分散剤を添加して撹拌し、分散液を作製する。次いで、この分散液を、ポンプを用いて所定の流量で湿式ビーズミル装置の粉砕室内に送液する。この粉砕室内には、所定の直径、例えば、直径0.1mmのジルコニア製のビーズが投入されている。そして、粉砕室内の撹拌機構を所定の速度で駆動させることで発生した遠心力によってエネルギーを与えられたビーズが被粉砕物であるビスマスルテニウム複合酸化物の粒子に作用する。これによりビスマスルテニウム複合酸化物の粒子は粉砕される。このように粉砕処理が施された分散液は、粉砕室から排出される。ここで、湿式ビーズミル装置においては、粉砕室から排出された分散液は、再度粉砕室内へ送液され、再度粉砕処理が施される。このように、分散液に対して、送液、粉砕処理、及び排出を行う手順を1パスとし、この1パスを繰り返すことによりビスマスルテニウム複合酸化物の粒子をより細かく粉砕することができる。
【0046】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるために用いられる。更に、導電材は上記した酸素触媒を担持する担体としても用いられる。
【0047】
このような導電材(触媒担持導電材)としては、炭素材料が用いられる。本実施形態で用いられる炭素材料は、結晶構造が黒鉛構造及び乱層構造の2つの構造が混じって形成されている黒鉛である。
【0048】
上記した黒鉛構造は、高い導電性、高い耐酸化性、撥水性を示し、比表面積が低いといった特徴を有している。一方、乱層構造は、低い導電性、低い耐酸化性、親水性を示し、比表面積が高いといった特徴を有している。
【0049】
ここで、炭素材料において、黒鉛構造がどの程度存在しているかの度合いを示す指標として黒鉛化度が用いられている。この黒鉛化度を評価するパラメータとして、例えば、ラマン強度比が用いられる。本実施形態では、ラマンスペクトルにおける1580[cm-1]に対応するピーク強度をGとし、1360[cm-1]に対応するピーク強度をDとした場合に、強度比G/D(ラマン強度比)の値が4.2以上、6.0以下である、炭素材料(黒鉛)が用いられる。詳しくは、黒鉛構造に起因するGバンド(1580cm-1)と乱層構造に起因するDバンド(1360cm-1)の2つのラマン分光バンドの強度比からG/Dを算出しラマン強度比を求める。Gバンドは規則性をもって積層された炭素六角網面の黒鉛構造に起因するピークであり、Gバンドのピーク強度が高いほど(G/D比が高いほど)、黒鉛化度は高いと判断され、物性は結晶性の高い黒鉛に近づき、高い導電性を有する一方で、化学反応や電気化学反応における反応起点の数は少なくなる。Dバンドは乱層構造によるピークと考えられており、例えばカーボンエッジや結晶格子歪のある箇所等に対応するピークである。Dバンドのピーク強度が高いほど(G/D比が小さいほど)、黒鉛化度は低いと判断され、物性はカーボンブラックをはじめとするアモルファス状の炭素材料に近づき、電気伝導性は低いものの、各種反応の起点になりやすく、反応起点の数が多くなると考えられる。
【0050】
つまり、黒鉛構造の割合が多くて乱層構造の割合が少ないほど黒鉛化度は高く、黒鉛構造の割合が少なくて乱層構造の割合が多いほど黒鉛化度は低くなる。
【0051】
黒鉛化度、すなわちラマン強度比(G/D比)は、ラマン分光分析装置を用いて、ラマン分光法により求める。
【0052】
黒鉛化度は、黒鉛の製造時の加熱温度条件や、粉砕処理時の粉砕強度の条件により変化する。本実施形態では、粉砕処理の強度が調整され、黒鉛化度が調整された黒鉛(以下、粉砕処理強度調整黒鉛とも表記する)が用いられる。
【0053】
本実施形態における導電材の黒鉛としては、黒鉛粒子の集合体である黒鉛粉末が用いられる。ここで、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した黒鉛粒子の平均粒径(メディアン径、以下、D50とも表記する)は、1μm以上、5μm以下とすることが好ましい。
【0054】
また、本実施形態における黒鉛粒子の比表面積は、比表面積測定装置を用いて窒素ガス吸着BET法により測定した場合の値で、10m2/g以上、50m2/g以下とすることが好ましい。
【0055】
上記した導電材は、空気極合剤中において、20重量%以上含有させることが好ましい。この導電材の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から50重量%以下とすることが好ましい。
【0056】
撥水剤は、空気極16に適切な撥水性を付与する。ここで、撥水剤としてはフッ素樹脂が用いられる。このフッ素樹脂としては、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカンポリマー(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)等を用いることができる。ここで、充放電反応に対する安定性に優れている観点からFEPを用いることが好ましい。
【0057】
上記したフッ素樹脂は、空気極合剤中において、19.8重量%以上含有させることが好ましい。このフッ素樹脂の含有量が40重量%を超えると充放電反応に寄与する酸素触媒の含有量が相対的に減り、電池特性の低下を招くので、空気極合剤中におけるフッ素樹脂の含有量の上限は、40重量%以下とすることが好ましい。
【0058】
ここで、空気極合剤には、必要に応じで結着剤を添加してもよい。ただし、上記したフッ素樹脂のうちの一部は、空気極合剤の他の構成材料を結着させる働きも有するので、結着剤と兼ねることができる。このように他の構成材料を結着させる働きも有するフッ素樹脂を採用した場合は、別途の結着剤は不要である。
【0059】
粘度調整材は、後述する空気極合剤スラリーを調製する際に、空気極合剤スラリーの粘度を調整する働きをする。この粘度調整材としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いることが好ましい。
【0060】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としての炭素材料の粒子の集合体である導電材粉末、撥水剤、粘度調整材及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、撥水剤、粘度調整材及び水を混錬して空気極合剤スラリーを調製する。
【0061】
一方、空気極用芯体としての金属多孔体のシートを準備する。準備された金属多孔体のシートは、予めロール圧延が施され所定の厚みに調整される。そして、この金属多孔体のシートに上記のようにして得られた空気極合剤スラリーを充填する。空気極合剤スラリーは、金属多孔体内の空孔の内部に充填されて保持されるとともに、金属多孔体の表面にも保持された状態となる。空気極合剤スラリーを保持した空気極用芯体は、50℃以上、80℃以下の雰囲気下で0.5時間以上、2時間以下の間保持され乾燥処理が施される。乾燥処理後、空気極合剤スラリーの水分は蒸発し、空気極用芯体に空気極合剤が保持された状態となる。その後、空気極合剤を保持した空気極用芯体にはロール圧延処理が施される。ロール圧延処理が施された後、空気極合剤を保持した空気極用芯体は、所定形状に裁断され、これにより、空気極16が得られる。
【0062】
次いで、得られた空気極16は、熱処理炉に投入され熱処理(焼成処理)が施される。この焼成処理は、製造上不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、大気雰囲気中で焼成処理を行ってもよい。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、空気極16を熱処理炉内で自然冷却し、空気極16の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多数の微細な空孔を含む多孔質構造をなしている。
【0063】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0064】
形成された電極群10は、容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、
図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。また、容器4の材質に関しては、アルカリ電解液に耐えられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル樹脂、金属材料等を挙げることができる。
【0065】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0066】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0067】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0068】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0069】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0070】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0071】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0072】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、
図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が導入される。このようにして、電池2が形成される。
【0073】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0074】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0075】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、
図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0076】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気二次電池用の酸素触媒の合成
1)共沈工程
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを準備した。そして、モル濃度比でRuが1.00に対し、Biが0.75となるように、Bi(NO3)3・5H2Oと、RuCl3・3H2Oとを計量した。計量されたBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oをあわせて75℃の希硝酸水溶液の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて前駆体を析出させた。この時、NaOH水溶液の滴下量は析出した前駆体1g当たり76.3gとなるように調整した。上記した前駆体が沈殿した後、当該混合水溶液を撹拌した。この撹拌操作は、酸素バブリングを行いながら24時間行った。この撹拌操作を行っている間、当該混合水溶液については、pHを10.7に維持するとともに、温度を75℃に維持した。撹拌操作の終了後、当該混合水溶液を48時間静置した。静置した後、生じた沈殿物をろ過することにより回収した。回収された沈殿物は、85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。得られた前駆体の乾燥物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、粉末状とした。
【0077】
2)焼成工程
得られた前駆体の粉末を、空気雰囲気下で500℃の焼成温度に加熱し3時間保持する焼成処理を施した。当該焼成処理が終了した後の前駆体の粉末を、70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間保持する乾燥処理を施した。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(酸素触媒)を得た。
【0078】
3)酸処理工程
ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gに対して20mLの割合となるように硝酸水溶液を準備した。そして、この硝酸水溶液とビスマスルテニウム複合酸化物の粉末とをスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0079】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、75℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0080】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の酸素触媒の粉末を得た。得られた空気二次電池用の酸素触媒においては、上記したように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物が除去された。
【0081】
4)分析
得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末につき、粉末X線回折法による分析を行った。このX線回折(XRD)分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源がCuKα、管電圧が40kV、管電流が15mA、スキャンスピードが1度/min、ステップ幅が0.01度とした。分析の結果、得られたXRDプロファイルから、パイロクロア型のBi2Ru2O7のピーク位置に対応する位置に回折ピークが存在しているため、得られた粉末はパイロクロア型の結晶構造を有しているBi2Ru2O7であることが確認できた。
【0082】
5)粉砕処理工程
酸処理工程を経たビスマスルテニウム複合酸化物の粉末の重量当たりの固形分比が20wt%となる量のイオン交換水、及び同じく酸処理工程を経たビスマスルテニウム複合酸化物の粉末の重量に対して2wt%となる量の分散剤(サンノプコ社、SNディスパーサント5468)を準備した。そして、所定量のビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に上記のように準備したイオン交換水及び分散剤を添加し、これらを混合することにより触媒分散液を作製した。次いで、得られた触媒分散液をポンプにより所定の流量で湿式ビーズミル装置(アシザワファインテック製、ラボスターミニ、DMS65)の粉砕室の投入口から粉砕室内へ投入した。この粉砕室内には、直径0.1mmのジルコニア製のビーズが予め入れられている。そして、粉砕室内の撹拌機構を周速8m/sで駆動することにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子に第1段階の粉砕処理を施した。その後、粉砕室の排出口から排出された触媒分散液を粉砕室の投入口から再度粉砕室内へ投入し、第2段階の粉砕処理を施した。このように、触媒分散液の投入、粉砕処理、排出の手順を1パスとし、この1パスを合計5回繰り返した(5パス)。このようにして得られた触媒分散液を5パス触媒分散液とする。
【0083】
(2)空気極合剤のスラリーの製造
導電材の炭素材料として、黒鉛粒子の集合体である黒鉛粉末を準備した。詳しくは、日本黒鉛工業株式会社製SP270を準備した。このSP270の黒鉛粒子の原料は人造黒鉛である。そして、このSP270について粉砕処理強度を調整して粉砕処理を施し、所定粒径の黒鉛粒子からなる黒鉛粉末を得た。つまり、本実施形態では、粉砕処理強度調整黒鉛の粉末を使用した。ここで、本実施形態の黒鉛粒子の特性は、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した平均粒径(D50)が3.3μm、比表面積測定装置を用いて窒素ガス吸着BET法により測定した比表面積(BET値)が28m2/g、ラマン強度比(G/D比)が4.7であった。
【0084】
ここで、ラマン強度比(G/D比)は、ラマン分光分析装置を用いて、ラマン分光法により求めた。測定に使用したラマン分光分析装置は、レーザーラマン分光光度計(型番DXR2xi Raman Imaging Microscope、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)であり、粉末試料をスライドガラスに乗せてGバンドのピーク強度及びDバンドのピーク強度を測定した。測定条件は、レーザー波長:532nm、グレーティング:532nm、露光時間:5Hz、スキャン回数:1000回とした。
【0085】
更に、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)ディスパージョン(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製、120-JRB、平均粒径0.2μm)、粘度調整材としてのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びイオン交換水を準備した。
【0086】
上記のようにして得られた5パス触媒分散液を、そこに含まれるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(酸素触媒)が50重量部となる分だけ秤量して準備し、この5パス触媒分散液に、黒鉛粉末30重量部、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)ディスパージョンを固形分比率換算で30重量部、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を1重量部及びイオン交換水130重量部を加え、これらを自転公転ミキサーの撹拌容器に投入し、この自転公転ミキサーを駆動することにより混合・撹拌した。これにより固形分比34.5%の空気極合剤のスラリーを製造した。
【0087】
(3)空気極の製造
空気極用芯体としてシート状の発泡ニッケル(厚さが1.6mm、平均孔径が580μm、目付が575g/m2)を準備した。そして、この発泡ニッケルのシートにロール圧延を施し、厚さを0.35mmに調整した。
【0088】
次いで、厚さ調整済みの発泡ニッケルのシートに上記のようにして得られた空気極合剤のスラリーを充填した。その後、空気極用合剤のスラリーを保持した発泡ニッケルのシートを60℃の雰囲気下で1時間保持して乾燥させた。この乾燥処理を施した後、空気極用合剤を保持した発泡ニッケルのシートをロール圧延して、厚さが0.20mmとなるまで圧縮し、その後、縦40mm、横40mmに裁断した。これにより、空気極の中間製品を得た。
【0089】
次に、得られた中間製品に熱処理(焼成処理)を施した。具体的には、中間製品を焼成用の電気炉に投入した。焼成処理の条件は、大気雰囲気下で250℃の焼成温度に加熱し、この温度で13分間保持した。これにより、空気極16を得た。
【0090】
得られた空気極16の重量を測定した。その結果を空気極重量とした。そして、この空気極重量から予め測定しておいた発泡ニッケルの重量を差し引き、発泡ニッケルに保持されている乾燥後の空気極合剤の重量を算出した。更に、空気極合剤に添加したビスマスルテニウム複合酸化物の重量割合から単位面積当たりの酸素触媒の量を求めた。その結果、実施例1の空気極の触媒量は7.2mg/cm2であった。
【0091】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0092】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、25℃の室温まで冷却した。冷却後、当該インゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0093】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0094】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0重量部、カーボンブラックの粉末0.5重量部、及び水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0095】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約300g/m2、厚みが1.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.77mmであった。なお、負極の設計容量は2500mAhである。
【0096】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0097】
次いで、アクリル樹脂製の容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、調整部材36としての発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0098】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0099】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐようにアクリル樹脂製の蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0100】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0101】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、
図1に示すような電池2を製造した。
【0102】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0103】
(実施例2)
黒鉛粉末として、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した平均粒径(D50)が3.5μm、比表面積測定装置を用いて窒素ガス吸着BET法により測定した比表面積(BET値)が46m2/g、ラマン強度比(G/D比)が4.2である日本黒鉛工業株式会社製SP270の粉砕処理強度調整黒鉛の粉末を用いたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、この実施例2におけるSP270の黒鉛粒子は、原料が人造黒鉛であり、粉砕処理強度の調整をしている。
【0104】
(実施例3)
黒鉛粉末として、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した平均粒径(D50)が3.9μm、比表面積測定装置を用いて窒素ガス吸着BET法により測定した比表面積(BET値)が16m2/g、ラマン強度比(G/D比)が5.7である日本黒鉛工業株式会社製JB-3-αの黒鉛の粉末を用いたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、この実施例3におけるJB-3-αの黒鉛粒子は、原料が天然黒鉛であり、粉砕処理強度の調整はしていない。
【0105】
(実施例4)
黒鉛粉末として、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した平均粒径(D50)が3.4μm、比表面積測定装置を用いて窒素ガス吸着BET法により測定した比表面積(BET値)が18m2/g、ラマン強度比(G/D比)が5.4である日本黒鉛工業株式会社製SP5030-αの黒鉛の粉末を用いたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、この実施例4におけるSP5030-αの黒鉛粒子は、原料が人造黒鉛であり、粉砕処理強度の調整はしていない。
【0106】
(比較例1)
黒鉛粉末として、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により測定した平均粒径(D50)が3.4μm、比表面積測定装置を用いて窒素ガス吸着BET法により測定した比表面積が249m2/g、ラマン強度比(G/D比)が2.9である黒鉛の粉末を用いたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、この比較例1における黒鉛粒子は、原料が人造黒鉛であり、粉砕処理強度の調整はしていない。
【0107】
なお、実施例1~4、及び比較例1にて用いた炭素材料の原料、炭素材料(黒鉛)の特性に関し、ラマン強度比(G/D比)、比表面積(BET値)、及び平均粒径(D50)の値を表1にまとめて示した。また、BET値とG/D比との関係を
図2に示した。
【0108】
2.電池の評価
(1)電池特性の評価
実施例1~4、及び比較例1の空気水素二次電池について、60℃にて12時間エージングを行った後、室温まで冷却し、負極容量の80%に相当する2000mAhを1Itとし、0.1It×10時間の充電と、0.2Itの放電(放電終止電圧E.V.=0.4V)を20サイクル繰り返し実施した。ここで、1サイクル目及び20サイクル目の放電容量を求めた。更に、1サイクル目において、電池の容量が1サイクル目の放電容量の半分の容量に到達した時の電池電圧を放電中間電圧として求めた。更に、20サイクル目において、電池の容量が20サイクル目の放電容量の半分の容量に到達した時の電池電圧を放電中間電圧として求めた。そして、放電中間電圧について、1サイクル目、20サイクル目、及び1サイクル目の放電電圧と20サイクル目の放電電圧との差(放電中間電圧の変化量)の結果を表2に記載した。更に、放電容量について、1サイクル目、20サイクル目、及び1サイクル目の放電容量に対する20サイクル目の放電容量の比率(放電容量の変化量)の結果を表2に併せて記載した。
また、放電中間電圧の変化量と、炭素材料のG/D比との関係を
図3に示した。
【0109】
なお、上記した充放電操作において、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、33mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。
【0110】
【0111】
【0112】
(2)考察
図2及び表1より、G/D比が高くなるほどBET値が低くなる傾向があり、G/D比とBET値との間には相関関係があるように見える。ただし、黒鉛の原料が人造黒鉛であっても天然黒鉛であってもG/D比とBET値との関係性に変化は見られない。つまり、G/D比及びBET値に対し原料の影響は少ないと考えられる。
【0113】
図3には、炭素材料のG/D比と、放電中間電圧の変化量との関係が示されている。放電中間電圧の変化量は、充放電を20サイクル繰り返した後の放電中間電圧が1サイクル目の放電中間電圧と比べてどの程度低下したかを表している。この
図3から、G/D比が2.9の場合、放電電圧の低下幅が大きく、初期と比べてより大きく低下しているが、一方でG/D比が4.2以上においては低下幅が緩和されており、放電電圧の変化が小さいことが判る。また、表2より、いずれの態様においても20サイクル目の放電容量は1サイクル目と比べて97%以上を維持しており安定に動作しているが、G/D比が2.9である比較例1の態様の放電容量は実施例1~4と比べて僅かに低いことが判る。これは、G/D比が2.9である態様は、放電電圧が低下しやすく、より早期の段階(=少ない放電容量)で放電終止電圧(0.4V)に到達しやすくなっていることが原因である。これより、実施例1~4の態様は比較例1と比べて放電電圧の低下を緩和しつつ、かつ放電容量も高く推移していることから、より優れたサイクル特性を示していることがわかる。G/D比が低い炭素材料は乱層構造を多く有しており、物性や性質はカーボンブラック等のアモルファス状の炭素材料に近づくため、G/D比が一定値より低いと充電反応に対する耐酸化性が低下し、これが放電電圧の低下を加速させる要因となると考えられる。
【0114】
以上より、炭素材料のG/D比は4.2以上とすることが好ましいが、ビスマスルテニウム複合酸化物を含まない場合は充電反応における過電圧が増加し、例えG/D比が4.2以上であっても容易に酸化分解し、早期に劣化すると考えられる。そのため、充電反応に対して高い活性を有するビスマスルテニウム複合酸化物と、G/D比が4.2以上の炭素材料を組み合わせることで優れた充放電サイクル特性を有する空気極を提供することができると考える。なお、G/D比が6.0を超える場合は、反応起点になりにくい黒鉛構造の割合が増えるだけでなく、炭素材料自体のBET比表面積も下がる傾向にあるため、放電反応の進行が遅くなり、結果的に放電電圧の低下を招くことが予想される。したがって、G/D比の上限は6.0が好ましいと考える。
【0115】
以上のように、炭素材料のG/D比を制御することにより、安価で軽量である炭素材料を空気極の導電材として使用しても、炭素材料の劣化による放電電圧の低下やサイクル寿命特性の低下を抑制することができ、それにより放電電圧の低下を抑制するとともに、長期にわたり充放電を可能とすることができる。よって、本発明によれば、製造コストが低く、放電電圧の低下が抑制され、サイクル寿命特性に優れる空気二次電池をもたらす空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することができる。
【0116】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、負極用金属としては、水素吸蔵合金に限定されるものではなく、負極用金属をLi、Zn、Al、Mg等に変更した空気二次電池に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0117】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材