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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114330
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】セラミック製コンロ部品
(51)【国際特許分類】
   F24C 15/10 20060101AFI20240816BHJP
   C04B 35/48 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
F24C15/10 D
F24C15/10 E
C04B35/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020016
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
(72)【発明者】
【氏名】下山 智隆
(57)【要約】
【課題】 加熱による変色、腐食、及び汚れのこびり付きを防止することができ、審美性と強度に優れたコンロ部品を提供する。
【解決手段】 本発明のコンロ部品は全体がセラミック焼結体からなる。本発明のコンロ部品の一実施形態は、加熱用調理器具を載置するための爪部と、前記爪部を支持する支持枠部とを備えた五徳である。セラミック焼結体は好ましくは酸化物セラミックの焼結体であり、より好ましくはジルコニアの焼結体である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体がセラミック焼結体からなる、コンロ部品。
【請求項2】
前記セラミック焼結体が、酸化物セラミックの焼結体である、請求項1に記載のコンロ部品。
【請求項3】
前記セラミック焼結体が、ジルコニアの焼結体である、請求項1に記載のコンロ部品。
【請求項4】
前記セラミック焼結体が少なくとも1種の安定化剤を含有する、請求項3に記載のコンロ部品。
【請求項5】
前記セラミック焼結体が着色剤を含有する、請求項1に記載のコンロ部品。
【請求項6】
前記セラミック焼結体の表面が研磨又は研削されている、請求項1に記載のコンロ部品。
【請求項7】
加熱用調理器具を載置するための爪部と、前記爪部を支持する支持枠部とを備えた五徳である、請求項1~6のいずれかに記載のコンロ部品。
【請求項8】
前記爪部が前記支持枠部に着脱自在に取付けられている、請求項7に記載のコンロ部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック焼結体からなるコンロ部品に関し、特にジルコニア焼結体からなるコンロ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デザイン性と実用性を兼ね備えた、高級感のあるシステムキッチンやオーダーメイドキッチンが求められる傾向があり、ガスコンロ等の設備機器についても審美性に優れ、キッチン全体として統一感のある色調が好まれる傾向がある。一般に、コンロの加熱部位には五徳、バーナーキャップ、しる受け皿、リング等のコンロ部品が備えられており(非特許文献1)、五徳はコンロで加熱調理するときに、鍋やヤカンなどの加熱用調理器具を支える支持体として広く使用されている。コンロ部品には、鉄、アルミニウム等の金属表面にシリカを主成分とする釉薬を高温で焼き付けたホーロー層を備えた素材、ステンレス(登録商標)素材等が使用されているが、ホーロー素材は高温に熱せられると変色すると共に、軟化して変形するため美観を損なうという問題を有する。ステンレス素材は高温により酸化物層が形成されて表面が変色すると共に、酸化物層が剥離して腐食を生じるという問題を有する。また、ホーロー素材、ステンレス素材等の従来のコンロ部品は調理の油汚れが固まってこびり付き易く、落とし難いという問題を有する。
【0003】
特許文献1には、五徳爪のホーロー層が変色したり変形したりする問題を解決するために、金属製の芯材に被覆されたホーロー層の表面にセラミック層を被覆するか、ホーロー層に筒状のセラミックを被嵌することが提案されている。しかし、セラミックを被覆又は被嵌した場合には、セラミックが剥離し易く、また、加熱・冷却の繰り返しにより割れが生じ易いという問題を有する。
【0004】
一般にセラミックは割れやすく、五徳等のコンロ部品をセラミックス製とすると、鍋やフライパン等の調理器具との接触時の衝撃や、ヒートショックにより割れが発生する懸念があった。そのため、これまでコンロ部品の素材としては、コンロ部品の一部のみを構成する被覆部材等として用いられる程度で、主要な素材として用いられてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-109315号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】テーブルコンロの部品ラインナップ、Rakuten、インターネットhttps://www.rakuten.ne.jp/gold/paloma-plus/lineup_1.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、加熱による変色、腐食、及び汚れのこびり付きを防止することができ、審美性と強度に優れたコンロ部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、コンロ部品をセラミック焼結体、特にジルコニア焼結体から構成することにより、変色及び腐食を防止できるだけでなく、汚れのこびり付きを抑えることができるため、半永久的に審美性を維持させることができ、さらにコンロ部品としての十分な強度を備えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は請求項のとおりであり、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1]全体がセラミック焼結体からなる、コンロ部品。
[2]前記セラミック焼結体が、酸化物セラミックの焼結体である、[1]に記載のコンロ部品。
[3]前記セラミック焼結体が、ジルコニアの焼結体である、[1]又は[2]に記載のコンロ部品。
[4]前記セラミック焼結体が少なくとも1種の安定化剤を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のコンロ部品。
[5]前記セラミック焼結体が着色剤を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のコンロ部品。
[6]前記セラミック焼結体の表面が研磨又は研削されている、[1]~[5]のいずれかに記載のコンロ部品。
[7]加熱用調理器具を載置するための爪部と、前記爪部を支持する支持枠部とを備えた五徳である、[1]~[6]のいずれかに記載のコンロ部品。
[8]前記爪部が前記支持枠部に着脱自在に取付けられている、[7]に記載のコンロ部品。
【発明の効果】
【0010】
本開示のコンロ部品は、全体が使用温度より高い焼結温度で焼結されたセラミック焼結体から構成されているため、従来のホーロー製やステンレス製のコンロ部品のように加熱によって変色や腐食することがない。また、セラミック焼結体から構成されたコンロ部品は、調理の油汚れや焦げ付きを容易に洗い落とすことができ、汚れのこびり付きを抑えることができる。
また、本開示のコンロ部品は、全体がセラミック焼結体から構成されているため、セラミックを被覆した場合と異なり、加熱・冷却の繰り返しにより剥離が生じず、強度が高い。また、全体として統一感があり、審美性が高い。
さらに、本開示のコンロ部品は、セラミックに着色剤を添加して焼結することにより、キッチンやガスレンジの色調に合わせてコーディネートすることが可能である。着色セラミック焼結体は、ホーロー製品のように着色汚れ(色素沈着)がなく、安定した色調を保持することができるため、審美性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のコンロ部品の1つの形態を示す五徳の概略斜視図である。
図2】本発明のコンロ部品の別の形態を示す五徳の概略斜視図である。
図3】爪部が支持枠部に着脱自在に取付けられている五徳を示す概略斜視図である。
図4】ジルコニア焼結体(3YSE)の焼き肌面に対する焦げ付き試験の結果を示す写真であり、図4-1は市販の焼き肉用のタレ付き(炙り前)の状態を示し、図4-2は焦げ付き(炙り後)の状態を示し、図4-3は台所洗剤洗浄後の状態を示し、図4-4はクレンザー洗浄後の状態を示す写真である。
図5】ジルコニア焼結体(3YSE)の研磨面に対する焦げ付き試験の結果を示す写真であり、図5-1は市販の焼き肉用のタレ付き(炙り前)の状態を示し、図5-2は焦げ付き(炙り後)の状態を示し、図5-3は台所洗剤洗浄後の状態を示し、図5-4はクレンザー洗浄後の状態を示す写真である。
図6】ジルコニア焼結体(TZ-Black)の研削面に対する焦げ付き試験の結果を示す写真であり、図6-1は市販の焼き肉用のタレ付き(炙り前)の状態を示し、図6-2は焦げ付き(炙り後)の状態を示し、図6-3は台所洗剤洗浄後の状態を示し、図6-4はクレンザー洗浄後の状態を示す写真である。
図7】ホーローの焼き付け面に対する焦げ付き試験の結果を示す写真であり、図7-1は市販の焼き肉用のタレ付き(炙り前)の状態を示し、図7-2は焦げ付き(炙り後)の状態を示し、図7-3は台所洗剤洗浄後の状態を示し、図7-4はクレンザー洗浄後の状態を示す写真である。
図8】ジルコニア焼結体(3YSE)に対する吹きこぼれ試験を示す写真であり、図8-1はコンロの上にジルコニア焼結体と鍋を置いた状態を示し、図8-2はコンロの上に置いたジルコニア焼結体の温度測定箇所Aの位置を示す写真であり、図8-3はコンロの上に置いたジルコニア焼結体の温度測定箇所B及びCの位置を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、コンロ部品はコンロを構成する部品又はコンロに付属する部品を意味する。コンロ部品としては、五徳、バーナーキャップ、しる受け皿、リング、グリル内の網、排気口カバー等を例示することができるが、これらに限定されない。コンロ部品は、好ましくは五徳、バーナーキャップ、しる受け皿、リング、グリル内の網、及び排気口カバーからなる群から選択される少なくとも1種である。本開示のコンロ部品は、その全体がセラミック焼結体で形成されている。コンロ部品は、五徳、バーナーキャップ、しる受け皿、リング、グリル内の網、排気口カバー等の2種以上をセットで用いられることが多く、これらをセラミック焼結体で形成することにより、一式のコンロ部品として統一感と高級感を与えることが可能である。
【0013】
以下、本開示のコンロ部品の一実施形態である五徳について詳細に説明する。なお、以下に記載する説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。すなわち、本発明のコンロ部品は五徳に限定されない。
【0014】
(五徳の形状)
本開示の五徳は、鍋やヤカンなどの加熱用調理器具を載置するための爪部と、該爪部を支持する支持枠部とを備える。本開示の五徳は、爪部の上に載置した調理器具を効果的に加熱することができればよく、形状は特に限定されない。本開示の五徳は、例えばガスコンロの天板に設置されるものであるが、これに限定されない。図1に示す五徳は、4本の爪を有する爪部と、これを支持する支持枠部からなる。爪の数は調理器具を載置することができる数であればよく、4本に限定されない。爪部の形状は加熱用調理器具を安定して載置することができればよく、特に限定されない。例えば、図2に示すように隣接する爪が互いに結合して環を形成していてもよい。五徳の支持枠部は、コンロのバーナーの上に爪部を配置するように爪部を支持する。支持枠部の形状も特に限定されず、円形であっても、方形であってもよい。また、本開示の五徳は、コンロの天板に設置するための脚部(図示せず)を有していてもよいし、バーナーリングの汚れを防止するためのバーナーリングカバー(図示せず)を取り付ける構造であってもよい。爪部と支持枠部は一体に成形されていてもよいし、爪部と支持枠部が別々に成形された後、爪部と支持枠部を嵌合して焼結させることによって接合されていてもよい。また、爪部と支持枠部の焼結体を溶接等によって接合してもよい。
【0015】
五徳の爪部は支持枠部に着脱自在に取付けられていてもよい。例えば、別々に成形された爪部と支持枠部を備え、爪部を支持枠部に嵌合することにより取り外し可能に組み立てられた五徳であってもよい。図3に示す五徳は、爪部に嵌合溝11aが形成され、支持枠部に嵌合溝12aが形成されており、爪部の嵌合溝11aを支持枠部の嵌合溝12aに嵌合することにより爪部を支持枠部に固定することができる。嵌合された爪部は、支持枠部から爪部を引き上げることにより簡単に取り外すことができる。図3に示す形態では、加熱調理が終了した後、爪部を支持枠部から取り外し、爪部のみ洗浄することができるため、五徳の洗浄が容易であり、爪部に付着した汚れ(焦げ付き)を簡単に洗い落すことができる。 嵌合構造については図3に示す溝構造に限定されない。
【0016】
(五徳の材質)
本開示の五徳は、全体がセラミック焼結体からなる。本明細書において、「セラミック焼結体からなる」との記載は対象物がセラミック焼結体のみで形成されていることを意味する。すなわち、本開示のコンロ部品はセラミック焼結体のみからなる。
【0017】
<セラミック焼結体>
本開示に用いるセラミック焼結体は、好ましくはセラミックの粉末組成物を所望の形状に成形し、焼結することにより製造される。セラミックは、酸化物セラミック又は非酸化物セラミックのいずれでもよい。
【0018】
<<酸化物セラミック>>
酸化物セラミックは、一般に表面に水酸基が付き易く、それにより表面の親水性が高い。表面の親水性が高いと油を弾き易いため、酸化物セラミック製の五徳は油汚れ等の汚れを落とし易いという利点を有する。好ましい酸化物セラミックとしては、アルミナ(Al)、安定化剤により安定化されたジルコニア(安定化ZrO)等が挙げられるが、これらに限定されない。また、酸化物セラミックは1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの酸化物セラミックの中でもジルコニアは様々な色調への呈色が可能であり強度が高く、審美性にも優れるため特に好ましい。
【0019】
<<非酸化物セラミック>>
非酸化物セラミックは、酸化物セラミックに比べ親水性が低いため、汚れの除去という観点からは酸化物セラミックに比べやや劣るが、例えば、炭化ケイ素はヒートショックの温度が酸化物セラミック(例えばジルコニア)に比べはるかに高く、吹きこぼれによって割れる心配が全くない。好ましい非酸化物セラミックとしては、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化マグネシウム(Mg)、サイアロン(SiAlON)等が挙げられる。これらの非酸化物セラミックは1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
セラミックとしてジルコニアを用いる場合、ジルコニアは好ましくはジルコニア粉末として用いる。ジルコニア粉末は、平均粒子径の下限値が0.3μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることが好ましく、平均粒子径の上限値が0.7μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることが好ましい。これらの上限値と下限値はいかなる組合せでもよい。したがって、ジルコニア粉末の平均粒子径は、例えば、0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0021】
ジルコニア粉末は、BET比表面積が6m/g以上20m/g以下であるのが好ましい。BET比表面積が過度に小さくなると、焼結温度が高くなり過ぎる。一方、BET比表面積が過度に大きくなると、成形が難しくなる。いずれの場合にも常圧焼結、特に大気焼結において緻密化し難くなる。
【0022】
<安定化剤>
ジルコニアは、温度変化によって結晶構造が変化し、体積変化も伴う。セラミックとしてジルコニアを用いる場合は、温度変化による体積変化を補うため、安定化剤を添加し、体積変化を抑えた安定化ジルコニアとするのが好ましい。不安定なジルコニアに、安定化剤を添加すると安定化ジルコニアとなり、室温中でも正方晶または立方晶が安定化し、温度変化によっても破壊を抑えることができる。ジルコニアの安定化元素は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、及びイッテルビウム(Yb)等が挙げられる。好ましい安定化剤の具体例としては、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(CeO)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化ネオジム(Nd)、酸化サマリウム(Sm)、酸化ユウロピウム(Eu)、酸化テルビウム(Tb)、酸化エルビウム(Er)、酸化ツリウム(Tm)、酸化イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。これらの中でも酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化テルビウム、酸化エルビウムが好ましく、さらに酸化イットリウム(以下、イットリアとも記す)が特に好ましい。
【0023】
安定化剤の含有量は、酸化イットリウムの場合、ジルコニアと安定化剤の合計量(モル)に対して、通常1.5モル%~6モル%であり、2.0モル%~4.5モル%が好ましく、2.5モル%~4.0モル%がより好ましい。安定化剤の含有量が少ないと安定化効果が低く焼結体が得られ難い。安定化剤の含有量が多過ぎると、強度が低下する。
【0024】
<添加剤>
本発明に用いるセラミック焼結体は、上記以外の成分として必要に応じて添加剤を含有してもよい。添加剤としては、バインダー、着色剤(顔料、複合顔料、蛍光剤等を含む)、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、シリカ(SiO)等が挙げられる。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<<着色剤>>
セラミック焼結体は、五徳の審美性を高めるため着色剤を含有してもよい。着色剤は、セラミックを着色する機能を有する着色元素を含む。着色元素としては、例えば、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかが挙げられる。具体的な着色剤としては、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、等の元素の酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。着色剤は1種の元素の酸化物であっても、2種以上の酸化物もしくは複合酸化物であってもよい。
【0026】
ジルコニア焼結体は、着色剤を含むことによりジルコニア本来の高級感及び機械的強度に加え、審美性をより高めることができる。例えば、着色剤としてFe、Fe等を用いることにより茶色ジルコニア焼結体とすることができ、さらにCoO、Co等を添加していくことで黒色化することができる。ジルコニアとの屈折率の異なるTiO、Al、SiO等を用いることにより透光性が無い白色ジルコニア焼結体とすることができる。またAlが添加されたジルコニアに着色剤としてCoO、Co等を添加することで青色ジルコニア焼結体とすることができる。着色剤としてEr等を用いることによりピンク色ジルコニア焼結体とすることができ、着色剤としてNd等を用いることにより紫色ジルコニア焼結体とすることができ、着色剤としてTb、Pr11等を用いることによりオレンジ色ジルコニア焼結体とすることができる。
【0027】
セラミック焼結体中の着色剤の含有量は、セラミック焼結体の質量に対する着色剤の質量割合として、通常0質量%を超え30.0質量%以下であり、例えば、0.01質量%以上25.0質量%以下である。
【0028】
<<バインダー>>
セラミック粉末をプレス成形する際に可塑性や保形性を付与する目的で、セラミック粉末にバインダーを加えてもよい。バインダーは一般には有機バインダーが使用されることが多い。有機バインダーとしては特に限定されないが、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー(パラフィンワックス等)、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂、ステアリン酸等が挙げられる。バインダーとして有機バインダーを用いた場合には、最終的に加熱分解により除去されるためセラミック焼結体には含まれない。
【0029】
セラミックス粉末を射出成形する際には成形性、脱脂性、保形性を付与する目的で、セラミック粉末にバインダーを加えてもよい。バインダーは一般的に有機バインダーが使用されることが多い。有機バインダーとしては特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂、ステアリン酸等が挙げられる。バインダーとして有機バインダーを用いた場合には、最終的に加熱分解により除去されるためセラミック焼結体には含まれない。
【0030】
(五徳の製造方法)
本発明のセラミック製五徳は板状や円盤状のプレス成形体を成形し、爪部、支持枠部等の各部分の形状に切削加工し、必要により脱脂処理を行った後に部品を組み立てて焼結し、表面を研削、研磨することができるが、それぞれの部品を焼結し、表面を研削、研磨した後、嵌合して組み立てることもできる。
爪部、支持枠部等の各部分の形状は、成形体を焼結温度以下の温度で脱脂、仮焼した仮焼体を準備して、CADで爪部、支持枠部等の各部分を製図し、NC加工機で高精度に切削加工することが好ましい。
爪部、支持枠部等の金型を作製し、射出成形により爪部、支持枠部等の射出成形体を成形し、脱脂、仮焼後に爪部、支持枠部等を嵌合し、焼結した後、表面を研削、研磨することや、脱脂、焼結後に表面を研削、研磨した後、嵌合して組み立てることがさらに好ましい。
成形方法はこれらに限定されるものではなく、爪部、支持枠部等の形状が成形できるスリップキャスト法やゲルキャスティング法を用いて製造してもよい。
【0031】
セラミック製五徳の製造方法は、成形工程、脱脂工程、仮焼工程、焼結工程、研削工程、研磨工程及び組み立て/仕上げ工程を含む。
本発明のセラミック製五徳は、五徳の形状に一体成形されたセラミックの粉末組成物を焼成して製造してもよいし、爪部、支持枠部等の各部分の形状に成形したセラミックの粉末組成物を焼成し、各部分の焼結体を組み立てて製造してもよい。セラミック製五徳の製造方法は、例えば、成形工程、仮焼工程、焼結工程、及び組み立て/仕上げ工程を含む。以下に、一つの実施態様としてジルコニアを用いた五徳の製造方法について説明する。
【0032】
<成形工程>
セラミック粉末を用いて、五徳を構成する爪部、支持枠部の形状に加工するための成形体を成形する。成形方法は特に限定されないが、例えば、プレス成形、冷間静水圧プレス、射出成形を挙げることができる。
【0033】
以下に、具体的な射出成形方法の一例を示す。まず、安定化剤(例えば、イットリア)を含むジルコニア粉末組成物を調製する。粉末組成物は必要に応じて着色剤を含んでいてもよい。
【0034】
調製した粉末組成物は、必要に応じて有機バインダーと混合し、これを噴霧乾燥する。バインダーは粉末組成物、成形方法等により適切な種類及び量を選択して加える。バインダーは例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等を使用することができる。
【0035】
五徳を構成する各部分を研削加工するための成形体は、五徳の爪、支持枠のそれぞれの形状に対応した射出成型用金型にセラミック粉末組成物と有機バインダーを混合した原料を充填し、成形する。
【0036】
成形体を作製するためのセラミックス粉末組成物は有機バインダーが含まれていてもよいが、爪部、支持枠部の形状に研削加工する場合、必ずしも必要ではない。成形体のままであると研削加工時にチッピングを起こしやすいため、焼結温度以下の温度で仮焼処理を行うことで粒子同士のネッキングが起こり、仮焼体として研削加工時を行えばチッピングし難くなる。
【0037】
有機バインダーが含まれるセラミックス組成物の成形体は成形体の状態で研削加工を行えば、研削加工後に有機バインダーを脱脂工程で熱分解して除去することができる。また、有機バインダーを含まない成形体と同様に、脱脂処理後に焼結温度以下の温度で仮焼処理を行った後に仮焼体として研削加工を行ってもよい。
【0038】
<脱脂工程>
脱脂工程は、通常有機バインダーが熱分解する温度以下で処理すればよい。一般的には500℃以下、又は450℃以下、又は400℃の温度で処理する。脱脂温度における保持時間は、通常0.5時間~5時間、又は0.5時間~3時間、又は0.5時間~2時間である。脱脂工程は有機バインダーが熱分解して重量変化が起こらなくなるような温度と保持時間を設定すればよい。成形体の大きさ、特に厚さに対して脱脂処理温度までの昇温速度をコントロールする必要があり、厚い成形体ほど昇温速度を抑える必要がある。昇温速度が速すぎると成形体が割れる脱脂割れを引き起こす。
【0039】
<仮焼工程>
仮焼工程は、通常800℃~1200℃、又は900℃~1100℃、又は950℃~1050℃の温度で処理する。仮焼温度における保持時間は、通常0.5時間~5時間、又は0.5時間~3時間、又は0.5時間~2時間である。仮焼工程で得られる仮焼体は、焼結初期段階の成形体であり、粒子同士のネッキングを含む構造を有する。
【0040】
<焼結工程>
焼結工程における焼結方法として、常圧焼結、HIP処理等を挙げることができる。特殊な焼結方法は製造プロセスを煩雑にし、製造コストを上昇させる要因になる。本発明における焼結工程は好ましくは常圧焼結であるが、必要に応じてHIP焼結等と組み合わせてもよい。常圧焼結は、焼結時に成形体に対して外的な力を加えず単に加熱することにより焼結する方法であり、具体的には大気圧下での焼結を挙げることができる。
【0041】
焼結工程における焼結温度は着色材の種類や添加量によって異なるが緻密化する温度を選定すればよく、例えば1200℃~1550℃を挙げることができる。焼結工程における昇温速度は、通常300℃/時間以下、又は200℃/時間以下、又は100℃/時間以下である。
【0042】
焼結雰囲気は必要に応じて還元性雰囲気でもよいが、酸素雰囲気又は大気雰囲気の少なくともいずれかであることが好ましく、大気雰囲気とすることが簡便である。
【0043】
焼結温度における保持時間は、焼結温度により異なるが、例えば、1時間~5時間、又は1時間~3時間、又は1時間~2時間である。
【0044】
<組み立て/仕上げ工程>
五徳は、そのままの焼き肌で使用することもできるが、審美性を高めるために焼き肌に研削、研磨処理を施してもよい。組み立て工程は、例えば、爪部の焼結体を支持枠部の焼結体に溶接して取り付けてもよいし、爪部の焼結体を支持枠部の焼結体に嵌合させて取り付けてもよい。五徳の形状に組み立てた後、焼結体の焼き肌にさらに研削、研磨処理を施してもよい。
【0045】
研削、研磨方法は特に限定されず、例えば、高剛性研削盤による研削、バレル研磨、R研磨等を挙げることができる。使用する着色剤によっては焼結時に接触するセッターへ着色元素が吸い取られ、接触表面の色調が薄くなったり、変色したりすることがあるため、焼結体の焼き肌を研削、研磨することにより接触表面の色調を本来の色調に戻すことができる。また、表面の凹凸が平滑になることで光沢をより強くすることができ、審美性が一層向上する。研削又は研磨処理による焼結体表面の表面粗さは、算術平均粗さRaで表したときに好ましくは0.001~1000μmであり、より好ましくは0.005~50μmである。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定して解釈されるものではない。
【0047】
(ジルコニア粉末組成物)
TZ-3YS-E(3YSE)[東ソー(株)製白色ジルコニア焼結体用粉末]:安定化剤としてイットリア(Y)をジルコニアとイットリアの合計量に対して3モル%、アルミナを0.25質量%含有する。
TZ-Black[東ソー(株)製黒色ジルコニア焼結体用粉末]:安定化剤としてイットリア(Y)をジルコニアとイットリアの合計量に対して3モル%、及び着色剤としてFe-Co-Al-Znからなる複合酸化物を焼結体の質量に対し4.3質量%含有する。
【0048】
(3YSE焼結体試験片の製造)
原料粉末を金型プレスによって圧力50MPaで成形した後、冷間静水圧プレス(以下、「CIP」という。)装置を用いて、圧力200MPaでさらにCIP成形し、30mm×30mm、厚さ5mmの平板状成形体を得た。
得られた平板状成形体をアルミナ容器の中に配置して焼成(一次焼結)することにより、ジルコニア焼結体(一次焼結体)を得た。
一次焼結は、大気中、昇温速度100℃/時間で室温から1500℃まで昇温し、焼結温度1500℃にて2時間保持した後、降温速度100℃/時間で室温まで冷却した。
大気中で焼結して得られたジルコニア焼結体(一次焼結体)をHIP処理してHIP処理体を得た。
HIP処理条件は、温度1350℃、HIP圧力150MPa、保持時間1時間とした。なお、圧力媒体には純度99.9%のアルゴンガスを用い、試料はアルミナ製の密閉容器を用いて処理した。
得られたHIP処理体を、大気中、昇温速度100℃/時間で室温から1000℃まで昇温し、焼結温度1000℃にて1時間保持した後、降温速度100℃/時間で室温まで冷却し、焼き戻し体とした。
焼き戻し体を10mm×10mmサイズに切断し、研削・研磨した後、厚さ2mmに加工したサンプルを、本実施例のジルコニア焼結体とした。
【0049】
(TZ-Black焼結体試験片の製造)
原料粉末を金型プレスによって圧力50MPaで成形した後、冷間静水圧プレス(以下、「CIP」という。)装置を用いて、圧力200MPaでさらにCIP成形し、30mm×50mm、厚さ3mmの平板状成形体を得た。
得られた平板状成形体をアルミナ容器の中に配置して焼成(一次焼結)することにより、ジルコニア焼結体(一次焼結体)を得た。
一次焼結は、大気中、昇温速度100℃/時間で室温から1400℃まで昇温し、焼結温度1400℃にて1時間保持した後、降温速度200℃/時間で室温まで冷却した。
大気中で焼結して得られたジルコニア焼結体(一次焼結体)を研削したサンプルを、本実施例のジルコニア焼結体とした。
【0050】
(焼結体試験片の評価)
A.焦げ付き試験
サンプルとして、ジルコニア粉末組成物(3YSE)を焼結した試験片、ジルコニア粉末組成物(TZ-Black)を焼結した試験片、及びホーロー製試験片(市販のホーロー製ルツボ)を用い、以下の手順により試験片への焦げ付きの程度を調べた。結果を表1に示す。
1.塗布:市販の焼き肉のタレを容器に移し、平筆でタレをサンプルの表面に均一になるように塗布する。
2.炙り:耐火材の上にタレを塗布したサンプルを置き、バーナーでサンプルを炙る。室温まで冷ました後、サンプルの質量を測定する。
3.流水洗浄:サンプルの表面を流水で30秒間洗い流し、乾燥させた後、サンプルの質量を測定する。
4.洗剤:台所洗剤(キュキュットクリア除菌、花王株式会社製)をスポンジに適量付け、スポンジの粗い面でサンプルを10往復擦った後、流水で洗剤を落とす。その後乾燥させ、サンプルの質量を測定する。
5.クレンザー:クレンザー(ジフ クリームクレンザー、ユニリーバ・ジャパン製)をスポンジに適量付け、スポンジの粗い面でサンプルを10往復擦ったのち、流水でクレンザーを落とす。その後乾燥させ、サンプルの質量を測定する。
【0051】
【表1】
【0052】
(1)面性状 焼き肌:燒結後の焼結体の表面状態、研磨:焼結体を研磨した後の表面状態、研削:焼結体を研削した後の表面状態、焼き付け:金属製容器に釉薬を焼き付けた後の表面状態
(2)炙り時間 焼結体(焼き肌/研磨):30秒、焼結体(研削):45秒、ホーロー(焼き付け):60秒
【0053】
【表2】
【0054】
(1)各面性状における処理後の数値は、検討前のサンプルの質量に対する各処理後のサンプルの質量を比で表したものである。
(2)焦げ付きの付き易さは、すべてのサンプルで同じであった。
(3)サンプルに対するタレの親和性(付着性)は、ホーロー/焼き肌が最も高く、ホーロー/焼き肌>研削面>研磨面の順であった。
(4)ジルコニア焼結体を研磨、研削した面はタレを弾き易く、油汚れが付き難いことを確認した。
(5)表1及び表2から、焦げ付きの落ち易さは、研磨面>研削面>焼き肌>>>ホーローの順であり、焦げ付きはジルコニア焼結体の研磨が最も落ち易く、ホーローが最も落ち難かった。
(6)ホーローの焼き付け面はジルコニア焼結体の研磨、研削面と同様に滑らかであるが、洗浄によって焦げ付きがほとんど落ちなかった。
【0055】
B.吹きこぼれ試験
加熱したサンプルに沸騰した湯を垂らしたときの急激な温度変化(ヒートショック)によるサンプルへの影響を以下の手順により調べた。結果を表3に示す。
1.カセットコンロの五徳の上に、ジルコニア焼結体(3Y3E、焼き肌)を設置し(図8-2~図8-3に示すA~Cの3箇所)、その上にSUS製の模擬鍋(以下、鍋と記す)を設置する(図8-1~図8-3)。
2.鍋に湯(約70℃)を投入し、加熱を開始する。加熱開始直後、5分後、7分後(沸騰開始)、10分後、15分後にサンプルの上記A~Cの3箇所の温度を放射温度計によって測定する。
3.加熱開始後15分後に、薬さじを用いて鍋の沸騰した湯をサンプルの上記3箇所に垂らし、状態を観察する。
4.加熱を停止し、鍋を除去後、サンプル(ジルコニア焼結体)と対照のステンレス(登録商標)製五徳の温度を、放射温度計によって測定する。
【0056】
【表3】
【0057】
(1)加熱開始15分後に350℃に熱したジルコニア焼結体に沸騰した湯を薬さじで垂らしたが、直火に曝した焼結体(測定箇所A:図8-2)及び遠火に曝した焼結体(測定箇所B、C:図8-3)は割れず、変色なども見られなかった。したがって、沸騰した煮汁などが吹きこぼれた場合であってもジルコニア焼結体(五徳)に影響がないことを確認した。
(2)加熱停止後は従来のステンレス製五徳の方が急速に冷え、加熱停止から5分後に約50℃、10分後に約27℃に到達した。ジルコニア焼結体は、加熱停止から5分後に約130℃、10分後に約40℃(手で触れるレベル)へと徐々に温度が低下した。ジルコニア焼結体の五徳では徐々に熱が下がることから余熱による調理への効果(食材に味を染み渡らせる効果等)が期待できる。
【符号の説明】
【0058】
1:五徳
11:爪部
11a:爪部嵌合溝
12:支持枠部
12a:支持枠部嵌合溝

図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図8-1】
図8-2】
図8-3】