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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114517
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】溶接装置及び電縫管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 37/08 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
B21C37/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020331
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 昇
(72)【発明者】
【氏名】和田 学
【テーマコード(参考)】
4E028
【Fターム(参考)】
4E028CA02
4E028CA11
4E028CA13
4E028CA16
(57)【要約】
【課題】金属板の両端部のアプセット溶接において、金属板の両端部の間に残留する酸化物を低減する。
【解決手段】溶接装置(30)は、加熱装置(31)と、スクイズロール(32)とを備える。加熱装置(31)は、金属板(10)の両端部(11L,11R)を加熱して溶融させる。スクイズロール(32)は、金属板(10)の搬送方向において加熱装置(31)の下流に配置される。スクイズロール(32)は、両端部(11L,11R)を押し付け合うように金属板(10)を加圧する。スクイズロール(32)は、トップロール(321L,321R)と、サイドロール(322L,322R)とを含む。搬送方向において、トップロール(321L,321R)の中心軸(At)は、サイドロール(322L,322R)の中心軸(As)に対して下流に配置されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されながら管状に成形される金属板の互いに対向する両端部を溶接する溶接装置であって、
前記両端部を加熱して溶融させる加熱装置と、
前記金属板の搬送方向において前記加熱装置の下流に配置され、前記両端部を押し付け合うように前記金属板を加圧するスクイズロールと、
を備え、
前記スクイズロールは、
前記搬送方向に沿って見て前記両端部の対向面を挟んで配置され、それぞれ前記金属板に側面で接触する一対のトップロールと、
前記搬送方向に沿って見て前記トップロールを挟んで配置され、それぞれ、内側に凹の湾曲形状を有する側面で前記金属板に接触する一対のサイドロールと、
を含み、
前記搬送方向において、前記トップロールの中心軸は、前記サイドロールの中心軸に対して下流に配置されている、溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記サイドロールの前記中心軸から前記トップロールの前記中心軸までの前記搬送方向における距離をD、前記サイドロールの前記側面の曲率半径をRとしたとき、D/Rは0.2以上である、溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記サイドロールの前記中心軸から前記トップロールの前記中心軸までの前記搬送方向における距離をD、前記サイドロールの前記側面の曲率半径をRとしたとき、D/Rは0.3以下である、溶接装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の溶接装置であって、
前記サイドロールの前記側面の曲率半径は、55mm以下である、溶接装置。
【請求項5】
電縫管の製造方法であって、
金属板を前記金属板の両端部が対向するように管状に成形する工程と、
対向する前記両端部を加熱して溶融させた後、一対のトップロール及び一対のサイドロールを含むスクイズロールを用い、前記両端部を押し付け合うように前記金属板を加圧して前記両端部を溶接する工程と、
を備え、
前記溶接する工程では、前記サイドロールが管状の前記金属板の両側からの加圧を開始した後に、前記トップロールが前記サイドロールよりも前記両端部側で前記金属板の加圧を開始する、製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法であって、
前記電縫管の外径は、110mm以下である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置に関し、より詳細には、搬送されながら管状に成形される金属板の互いに対向する両端部を溶接する溶接装置に関する。また、本開示は、電縫管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気抵抗溶接管、いわゆる電縫管は、成形工程、溶接工程、及び定形工程等を経て製造される。成形工程では、コイルから巻き戻された金属板がオープンパイプ状に成形される。溶接工程では、オープンパイプ状の金属板の両端部がアプセット溶接によって接合され、電縫管が形成される。定形工程では、電縫管の形状が調整される。
【0003】
電縫管の製造プロセスにおいて、溶接工程では、通常、加熱装置及びスクイズロールを含む溶接装置が使用される。加熱装置は、金属板の両端部を加熱して溶融させる。加熱装置は、例えば、金属板の両端部に電流を直接又は誘導によって供給し、ジュール熱によって金属板の両端部を溶融させる。スクイズロールは、金属板の搬送方向において加熱装置の下流に配置される。スクイズロールは、オープンパイプ状の金属板を外周側から加圧する。これにより、金属板の溶融状態の両端部が互いに押し付けられて接合される。
【0004】
例えば特許文献1に記載されているように、スクイズロールは、一対のサイドロールと、一対のトップロールとを含む。一対のサイドロールは、オープンパイプ状の金属板の左右に配置され、金属板に対して左右から接触する。一対のトップロールは、サイドロールの上方且つ金属板の両端部の左右に配置され、両端部の近傍で金属板に接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03-000417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電縫管の製造プロセスにおいて金属板の両端部を溶接する際、これらの端部の溶接面には加熱及び溶融の過程で酸化物が不可避に生成される。溶接面間に酸化物が残留すると溶接欠陥となり得るため、スクイズロールを用いたアプセット(据込み)によって酸化物を溶融金属とともに溶接面間から電縫管の内外面に排出する必要がある。溶融金属を電縫管の内外面に均等に排出するため、従来、溶接面同士が平行になるようにスクイズロールが構成される。より具体的には、溶接面同士を平行に突き合わせるため、通常、金属板の搬送方向において各トップロールの中心軸の位置と各サイドロールの中心軸の位置とを一致させている。
【0007】
しかしながら、一般的な高周波電気抵抗溶接では、オープンパイプ状の金属板の内外面側から各溶接面の溶融が進み、溶接面同士が接触する直前には、金属板の板厚方向に沿った断面で見て各溶接面が相手溶接面側に凸の弧状となる。そのため、金属板の内外面側では当該内外面に向かうにつれて溶接面同士が離隔する一方、金属板の板厚中心側では溶接面同士が常時平行に維持される。そのため、スクイズロールによるアプセットを加えても、金属板の板厚中心及びその近傍では溶接面間から溶融金属が排出されにくい。特に、低入熱条件でアプセット溶接が行われる場合、溶融金属の量が少ないため、溶融金属の流動が生じにくく、溶接面間から溶融金属がより排出されにくくなる。溶融金属の排出が不十分な場合、溶接面間に酸化物が残留しやすくなる。
【0008】
特許文献1では、金属板の搬送方向において、一対のトップロールの中心軸が一対のサイドロールの中心軸よりも上流に配置されている。特許文献1によれば、トップロールによって金属板の両端部の未凝固領域を拘束することで、両端部の段差量を調整して溶接時のラップを修正することができる。しかしながら、特許文献1では、金属板の両端部の間に残留する酸化物については特に言及されていない。
【0009】
本開示は、金属板の両端部のアプセット溶接において、金属板の両端部の間に残留する酸化物を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る溶接装置は、搬送されながら管状に成形される金属板の互いに対向する両端部を溶接する。溶接装置は、加熱装置と、スクイズロールとを備える。加熱装置は、金属板の両端部を加熱して溶融させる。スクイズロールは、金属板の搬送方向において加熱装置の下流に配置される。スクイズロールは、金属板の両端部を押し付け合うように金属板を加圧する。スクイズロールは、一対のトップロールと、一対のサイドロールとを含む。一対のトップロールは、搬送方向に沿って見て金属板の両端部の対向面を挟んで配置される。トップロールは、それぞれ金属板に側面で接触する。一対のサイドロールは、搬送方向に沿って見てトップロールを挟んで配置される。サイドロールは、それぞれ金属板に側面で接触する。サイドロールのそれぞれの側面は、内側に凹の湾曲形状を有する。搬送方向において、トップロールの中心軸は、サイドロールの中心軸に対して下流に配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、金属板の両端部のアプセット溶接において、金属板の両端部の間に残留する酸化物を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、電縫管の製造設備の構成を示す模式図である。
図2図2は、実施形態に係る溶接装置におけるスクイズロールの詳細構成を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る溶接装置におけるスクイズロールの詳細構成を示す別の図である。
図4A図4Aは、一般的なアプセット溶接における金属板の両端部のアプセット状態を示す模式図である。
図4B図4Bは、一般的なアプセット溶接における金属板の両端部のアプセット状態を示す模式図である。
図5A図5Aは、実施形態に係る溶接装置を用いたときの金属板の両端部のアプセット状態を示す模式図である。
図5B図5Bは、実施形態に係る溶接装置を用いたときの金属板の両端部のアプセット状態を示す模式図である。
図5C図5Cは、実施形態に係る溶接装置を用いたときの金属板の両端部のアプセット状態を示す模式図である。
図5D図5Dは、実施形態に係る溶接装置を用いたときの金属板の両端部のアプセット状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る溶接装置は、搬送されながら管状に成形される金属板の互いに対向する両端部を溶接する。溶接装置は、加熱装置と、スクイズロールとを備える。加熱装置は、金属板の両端部を加熱して溶融させる。スクイズロールは、金属板の搬送方向において加熱装置の下流に配置される。スクイズロールは、金属板の両端部を押し付け合うように金属板を加圧する。スクイズロールは、一対のトップロールと、一対のサイドロールとを含む。一対のトップロールは、搬送方向に沿って見て金属板の両端部の対向面を挟んで配置される。トップロールは、それぞれ金属板に側面で接触する。一対のサイドロールは、搬送方向に沿って見てトップロールを挟んで配置される。サイドロールは、それぞれ金属板に側面で接触する。サイドロールのそれぞれの側面は、内側に凹の湾曲形状を有する。搬送方向において、トップロールの中心軸は、サイドロールの中心軸に対して下流に配置されている(第1の構成)。
【0014】
第1の構成に係る溶接装置のスクイズロールでは、金属板の搬送方向において一対のトップロールの中心軸が一対のサイドロールの中心軸の下流に配置されている。この場合、一対のトップロールに先行して一対のサイドロールが金属板を両側から加圧し始め、加熱装置によって加熱溶融状態となった両端部が互いに押し付けられる。この時点では、加熱溶融状態の両端部に対するトップロールの拘束が弱いため、両端部は、管状の金属板の内面側から外面側に向かって開いた突合せ状態でスクイズロールによってアプセットされる。この場合、金属板の板厚中心よりも内面側に、アプセット力が最も大きい箇所(アプセット中心)が位置する。ただし、金属板の搬送に伴い加熱溶融状態の両端部が下流側に移動するにつれて、両端部に対するトップロールの拘束は徐々に強くなる。これにより、金属板の両端部が外面側に開いた突合せ状態から実質平行な突合せ状態へと変化し、アプセット中心が金属板の内面側から板厚中心に向かって移動する。このアプセット中心の移動により、金属板の板厚中心付近に存在する溶融金属は、板厚中心付近に留まらず、外面側へと徐々に押し出される。アプセットの初期のアプセット中心及びその近傍に存在する溶融金属は、アプセット中心の移動に伴い、金属板の内面側に押し出される。
【0015】
このように、第1の構成に係る溶接装置によれば、アプセット中心が移動することにより、金属板の両端部の間の特定の位置に溶融金属が留まりにくく、溶融金属が排出されやすい。そのため、加熱溶融によって生成された酸化物も、溶融金属とともに金属板の両端部の間から排出されやすくなる。したがって、金属板の両端部のアプセット溶接において、金属板の両端部の間に残留する酸化物を低減することができ、酸化物に起因する欠陥の発生を抑制することができる。
【0016】
サイドロールの中心軸からトップロールの中心軸までの搬送方向における距離をD、サイドロールの側面の曲率半径をRとしたとき、D/Rは0.2以上であることが好ましい(第2の構成)。
【0017】
第2の構成では、管状の金属板に接触するサイドロールの側面の曲率半径Rに対し、サイドロールの中心軸からトップロールの中心軸までの金属板の搬送方向における距離(オフセット量)Dが0.2倍以上確保されている。この場合、金属板の両端部のアプセット溶接において、溶融金属が両端部間からより排出されやすくなり、両端部間における酸化物の残留をより低減することができる。
【0018】
サイドロールの中心軸からトップロールの中心軸までの搬送方向における距離をD、サイドロールの側面の曲率半径をRとしたとき、D/Rは0.3以下であることが好ましい(第3の構成)。
【0019】
第3の構成では、サイドロールの側面の曲率半径Rに対し、サイドロールの中心軸に対するトップロールの中心軸のオフセット量Dが0.3倍以下となっている。この場合、サイドロールによるアプセットが開始された後、金属板の両端部の凝固が進む前にトップロールによって両端部の突合せ形状を調整することができるため、金属板の両端部を良好な突合せ形状で接合することできる。
【0020】
サイドロールの側面の曲率半径は、55mm以下であってもよい(第4の構成)。
【0021】
金属板の両端部の溶接状態は、種々の要因によって変化する。金属板の両端部を良好に溶接し、高品質の溶接部を形成するためには、例えば、所定の溶接速度以上で両端部を溶接する必要がある。しかしながら、所定の溶接速度以上で溶接を実施したとしても、金属板に対する入熱量(投入電力)が過少である場合、金属板の両端部の全厚が溶融しきれず、両端部が冷接状態となって溶接部の品質が低下する。一方、金属板に対する入熱量が大きい場合、金属板の両端部が全厚にわたって溶融するものの、溶融した両端部にスリットが生成されてスパッタが発生する。スパッタが金属板に付着すると表面欠陥となり、これに起因して溶接後の金属板の外観を損なうのみならず、疲労特性を低下させる、或いは伸管や塗装等の二次加工時に異常を引き起こす可能性がある。
【0022】
金属板から成形される電縫管が小径管である場合、溶接中のスパッタに起因する欠陥が特に問題となる。そのため、小径の電縫管の製造においては、金属板の両端部の全厚が溶融可能な程度の入熱量ではあるが、スパッタが発生しない程度に低い入熱量で金属板の両端部が溶接されることが好ましい。このような低入熱条件で溶接を実施する場合、金属板の両端部から生じる溶融金属の量が少なくなるため、両端部間に酸化物が残留しやすくなる。
【0023】
しかしながら、上記溶接装置では、アプセット中心の移動により、金属板の両端部間に存在する溶融金属の流動が促進される。そのため、第4の構成のように、サイドロールの側面の曲率半径が55mm以下、つまり金属板から成形される電縫管の外径が110mm以下と比較的小径であり、上述した低入熱条件でアプセット溶接が行われるとしても、金属板の両端部間から溶融金属とともに酸化物が排出されやすくなる。
【0024】
実施形態に係る電縫管の製造方法は、金属板を当該金属板の両端部が対向するように管状に成形する工程と、対向する金属板の両端部を加熱して溶融させた後、スクイズロールを用い、当該両端部を押し付け合うように金属板を加圧して両端部を溶接する工程とを備える。スクイズロールは、一対のトップロール及び一対のサイドロールを含む。溶接する工程では、サイドロールが管状の金属板の両側からの加圧を開始した後に、トップロールがサイドロールよりも両端部側で金属板の加圧を開始する(第5の構成)。
【0025】
電縫管の外径は、110mm以下であってもよい(第6の構成)。
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0027】
[電縫管の製造設備]
図1は、電縫管の製造設備100の構成を示す模式図である。図1を参照して、製造設備100は、帯状の金属板10をその長手方向に沿って搬送しながら電縫管に成形する。金属板10は、典型的には鋼板(鋼帯)である。ただし、金属板10は、例えばアルミニウム合金板等、鋼板以外の金属板であってもよい。
【0028】
製造設備100は、成形装置20と、溶接装置30と、定形装置40とを備える。成形装置20、溶接装置30、及び定形装置40は、金属板10の搬送方向の上流から下流に向かい、この順で配置されている。
【0029】
成形装置20には、コイルから巻き戻された金属板10が連続的に供給される。金属板10の幅方向の両端部11L,11Rは、例えばエッジミラー50により、成形装置20に投入される前に整えられてもよい。成形装置20は、例えば、エッジベンドロール21と、ブレークダウンロール22と、ケージロール23と、フィンパスロール24とを含む。エッジベンドロール21、ブレークダウンロール22、ケージロール23、及びフィンパスロール24は、金属板10の搬送方向の上流から下流に向かい、この順で配置される。エッジベンドロール21、ブレークダウンロール22、ケージロール23、及びフィンパスロール24は、それぞれ、複数のロールを含んでいる。
【0030】
成形装置20は、搬送されている金属板10を管状(オープンパイプ状)に成形する。エッジベンドロール21は、金属板10の両端部11L,11Rに曲げ加工を施す。エッジベンドロール21により、金属板10の両端部11L,11Rが図1の紙面上で上方に曲げられる。ブレークダウンロール22は、金属板10の両端部11L,11Rをさらに上方に曲げ、金属板10の全体を弧状に湾曲させる。ケージロール23は、弧状となった金属板10を管状に成形する。フィンパスロール24は、金属板10が実質的に円形の横断面を有するように金属板10に対して仕上げ成形を施す。
【0031】
溶接装置30は、搬送されながら管状に成形される金属板10の両端部11L,11Rを溶接する。溶接装置30は、加熱装置31と、スクイズロール32とを含む。加熱装置31は、金属板10の両端部11L,11Rを加熱して溶融させるように構成されている。加熱装置31は、典型的には電気抵抗加熱装置である。加熱装置31は、高周波加熱装置であってもよい。この場合、加熱装置31は、金属板10に高周波電流を供給し、ジュール熱によって金属板10の両端部11L,11Rを溶融させる。加熱装置31は、ワークコイル又はコンタクトチップ等の電極を用い、管状の金属板10に対して誘導により又は直接高周波電流を供給することができる。
【0032】
スクイズロール32は、金属板10の搬送方向において加熱装置31の下流に配置されている。スクイズロール32は、金属板10を加圧して両端部11L,11Rを押し付け合うことができるように構成されている。
【0033】
溶接装置30によって両端部11L,11Rが溶接されることにより、金属板10が電縫管となる。定形装置40は、金属板10のうち電縫管となった部分の形状を調整する。溶接装置30と定形装置40との間には、シームノルマ60が配置されていてもよい。定形装置40は、例えば、金属板10の搬送方向に並ぶ複数のロールスタンドを含む。ロールスタンドの各々は、孔型を画定する複数のロールを含むことができる。
【0034】
[溶接装置]
図2及び図3は、本実施形態に係る溶接装置30に含まれるスクイズロール32の詳細構成を示す図である。図2では、金属板10の搬送方向に沿って見たときのスクイズロール32を示す。図3は、スクイズロール32を側方から見た図である。
【0035】
図2を参照して、スクイズロール32は、一対のトップロール321L,321Rと、一対のサイドロール322L,322Rとを含む。
【0036】
トップロール321L,321Rは、搬送方向に沿って見て、金属板10の両端部11L,11Rの対向面111L,111Rを挟んで配置されている。トップロール321Lは、トップロール321Rと実質的に対称である。一方のトップロール321Lは、図2の紙面上で他方のトップロール321Rの左側に配置されている。以下、説明の便宜上、図2の紙面上での左右を単に左右といい、図2の紙面上での上下を単に上下という。
【0037】
トップロール321L,321Rの各々は、中心軸Atを有する。金属板10の搬送方向において、トップロール321Lの中心軸Atの位置は、トップロール321Rの中心軸Atの位置と実質的に一致している。トップロール321L,321Rの各々は、中心軸Atに対して対称(軸対称)の形状を有し、中心軸At周りに回転可能となっている。トップロール321L,321Rの各々は、側面321aを含む。側面321aは、中心軸Atを中心とする環状の面である。トップロール321L,321Rは、それぞれ、側面321aによって管状の金属板10に接触することができるように配置される。トップロール321Lの側面321aは、金属板10の端部11Lの左側で、金属板10の外面に接触する。トップロール321Rの側面321aは、金属板10の端部11Rの右側で、金属板10の外面に接触する。トップロール321L,321Rは、金属板10に対して接近及び離隔可能となっていてもよい。
【0038】
本実施形態の例において、トップロール321L,321Rは別体となっている。ただし、トップロール321L,321Rは一体的に形成されていてもよい。
【0039】
サイドロール322L,322Rは、管状の金属板10の両側に配置される。サイドロール322L,322Rは、搬送方向に沿って見て、トップロール321L,321Rを挟んで配置されている。サイドロール322L,322Rは、トップロール321L,321Rに対して下方に配置されている。サイドロール322Lは、トップロール321Lの左側に配置されている。サイドロール322Rは、トップロール321Rの右側に配置されている。サイドロール322Lは、サイドロール322Rと実質的に対称である。
【0040】
サイドロール322L,322Rの各々は、中心軸Asを有する。金属板10の搬送方向において、サイドロール322Lの中心軸Asの位置は、サイドロール322Rの中心軸Asの位置と実質的に一致している。サイドロール322L,322Rの各々は、中心軸Asに対して対称(軸対称)の形状を有し、中心軸As周りに回転可能となっている。サイドロール322L,322Rの各々は、側面322aを含む。側面322aは、中心軸Asを中心とする環状の面である。サイドロール322L,322Rの各々において、側面322aは、内側(中心軸As側)に凹の湾曲形状を有する。言い換えると、サイドロール322L,322Rのそれぞれにおいて、側面322aは、軸方向の外側から中心側に向かうにつれて徐々に縮径している。側面322aは、管状に成形された金属板10の外面に沿うように形成されている。サイドロール322L,322Rの各側面322aは、トップロール321L,321Rの各側面321aと比較して広い範囲で金属板10に接触する。サイドロール322L,322Rは、金属板10に対して接近及び離隔可能となっていてもよい。
【0041】
スクイズロール32は、トップロール321L,321R及びサイドロール322L,322Rに加え、他のロールを含むこともできる。スクイズロール32は、例えば、金属板10に下方から接触する受けロール(図示略)を含んでいてもよい。トップロール321L,321R、サイドロール322L,322R、及び他のロールのサイズは、例えば、各ロールに必要な剛性や、各ロールを支持するベアリング(図示略)のサイズ、各ロールとベアリングとの距離等に基づき、適宜決定することができる。
【0042】
図3を参照して、金属板10の搬送方向において、トップロール321L,321Rの中心軸Atは、サイドロール322L,322Rの中心軸Asに対して下流に配置されている。ただし、スクイズロール32を側方から見たとき、トップロール321L,321Rの全体は、サイドロール322L,322Rから金属板10の搬送方向に離隔していない。トップロール321L,321Rは、その少なくとも一部がスクイズロール32の側面視でサイドロール322L,322Rと重複するように配置されている。
【0043】
サイドロール322L,322Rの中心軸Asからトップロール321L,321Rの中心軸Atまでの金属板10の搬送方向における距離(オフセット量)をD(mm)、サイドロール322L,322Rのそれぞれの側面322aの曲率半径をR(mm)としたとき、D/Rは、0.2以上であることが好ましい。D/Rは、0.3以下であることが好ましい。側面322aの曲率半径Rは、サイドロール322L,322Rの側面視又は中心軸Asを含む断面視での側面322aの曲率半径である。側面322aの曲率半径Rは、例えば55mm以下である。側面322aの曲率半径Rは、5mm以上であってもよい。
【0044】
[電縫管の製造方法]
次に、本実施形態に係る電縫管の製造方法について説明する。本実施形態に係る電縫管の製造方法は、成形工程と、溶接工程とを備える。製造方法は、さらに定形工程を備えることができる。
【0045】
(成形工程)
図1を再度参照して、成形工程では、金属板10をその両端部11L,11Rが対向するように管状に成形する。より具体的には、金属板10は、コイルから巻き戻された後、成形装置20に対して連続的に供給され、成形装置20によって管状に成形される。金属板10は、成形装置20を通過することにより、両端部11L,11Rが円周方向に離隔して対向するオープンパイプ状に成形される。
【0046】
(溶接工程)
引き続き図1を参照して、溶接工程では、金属板10の両端部11L,11Rを加熱して溶融させた後、スクイズロール32を用い、両端部11L,11Rを押し付け合うように金属板10を加圧して両端部11L,11Rを溶接する。より具体的には、成形工程を経て管状に成形された金属板10は、溶接装置30に対して連続的に供給される。金属板10は、まず、加熱装置31に供給され、加熱装置31によって両端部11L,11Rが加熱される。これにより、金属板10の両端部11L,11Rが溶融を開始する。
【0047】
両端部11L,11Rが溶融した状態の金属板10は、スクイズロール32に供給される。スクイズロール32に到達する際には、両端部11L,11Rの全厚が溶融した状態となっている。スクイズロール32は、両端部11L,11Rが突き合わされた状態の金属板10を外面側から押圧する。これにより、溶融状態の両端部11L,11Rが互いに押し付けられる。
【0048】
図2及び図3を参照して、スクイズロール32において、トップロール321L,321Rの中心軸Atは、サイドロール322L,322Rの中心軸Asに対し、金属板10の搬送方向で下流側に配置されている。そのため、搬送中の金属板10は、まずサイドロール322L,322Rによって左右から加圧される。サイドロール322L,322Rの各々は、側面322aで金属板10の外面に接触しながら、金属板10の搬送に伴って中心軸As周りに回転する。トップロール321L,321Rは、サイドロール322L,322Rが管状の金属板10の両側からの加圧を開始した後に、金属板10の加圧を開始する。トップロール321L,321Rは、サイドロール322L,322Rよりも両端部11L,11Rで金属板10を加圧する。金属板10は、トップロール321L,321Rによって上方から加圧される。トップロール321L,321Rの各々は、側面321aで金属板10の外面に接触しながら、金属板10の搬送に伴って中心軸At周りに回転する。
【0049】
スクイズロール32の加圧により、金属板10の両端部11L,11Rが互いに押し付けられる。その後、金属板10が下流側に搬送されるにしたがい、溶融していた両端部11L,11Rが自然冷却されて凝固し、両端部11L,11Rが接合される。これにより、金属板10は、長手方向に延びる溶接部を有する電縫管となる。電縫管の外径は、例えば110mm以下である。電縫管の外径は、10mm以上であってもよい。
【0050】
図1に戻り、溶接工程直後の電縫管の内外面には、溶接ビードが形成されている。溶接ビードは、例えばシームノルマ60によって切削除去することができる。
【0051】
(定形工程)
定形工程では、溶接工程を経て形成された電縫管の形状を調整する。より具体的には、電縫管は、定形装置40に対して連続的に供給され、最終的な形状に整えられる。例えば、定形装置40に含まれる複数のロールスタンドを電縫管が通過することにより、電縫管に対して若干の絞り加工が施されてもよい。これにより、電縫管は、その横断面が真円状となるとともにその外径が寸法公差内となるように仕上げられる。
【0052】
[効果]
図4Aに示すように、金属板10の両端部11L,11Rのアプセット溶接では、互いに対向する両端部11L,11Rが加熱されて溶融し、これらの対向面111L,111Rが金属板10の板厚方向に沿った断面で見て相手側に凸の弧状となっている。例えば、両端部11L,11Rを実質的に平行な状態に保ったままでアプセットを行うと、図4A及び図4Bにおいて一点鎖線で示すアプセット中心、つまりアプセット力が最も大きい箇所は常に金属板10の板厚中心に位置することになる。この場合、アプセットを加えても、金属板10の板厚中心及びその近傍の溶融金属は、端部11L,11Rの間から排出されにくい。
【0053】
一方、本実施形態に係る溶接装置30では、金属板10にアプセットを付与するためのスクイズロール32において、トップロール321L,321Rの中心軸Atがサイドロール322L,322Rの中心軸Asよりも下流側に配置されている。そのため、まずサイドロール322L,322Rによって搬送中の金属板10の加圧が開始され、続いてトップロール321L,321Rによる加圧が開始される。サイドロール322L,322Rによる加圧が開始された時点では、金属板10の両端部11L,11Rに対するトップロール321L,321Rの拘束が小さい。そのため、図5Aに示すように、両端部11L,11Rは、金属板10の内面12側から外面13側に向かって開いた突合せ状態でスクイズロール32によって加圧される。この場合、一点鎖線で示されるアプセット中心は、管状となった金属板10の板厚中心よりも内面12側に位置することになる。ただし、金属板10の搬送に伴い加熱溶融状態の両端部11L,11Rが下流側に移動するにつれて、トップロール321L,321Rによる拘束が徐々に大きくなる。これにより、図5B及び図5Cに示すように、金属板10の突合せ状態が実質的に平行な突合せ状態へと徐々に変化していき、アプセット中心が金属板10の内面12側から板厚中心に向かって移動する。図5Dに示すように、アプセット中心は、最終的には金属板10の板厚中心まで移動する。このようなアプセット中心の移動により、板厚中心付近に存在する溶融金属は、板厚中心付近に留まらず、金属板10の外面13側へと徐々に押し出される。初期のアプセット中心に存在した溶融金属は、アプセット中心が金属板10の板厚中心に到達したとき、金属板10の内面12側に押し出される。
【0054】
このように、本実施形態に係る溶接装置30では、アプセット中心を移動させることができる。そのため、金属板10の端部11L,11Rの間の特定の位置に溶融金属が留まりにくく、溶融金属が金属板10の内面12及び外面13に排出されやすい。その結果、加熱溶融によって生成された酸化物も、溶融金属とともに金属板10の端部11L,11Rの間から排出されやすくなる。したがって、金属板10の両端部11L,11Rのアプセット溶接において、端部11L,11Rの間に残留する酸化物を低減することができる。酸化物が溶融金属とともに金属板10の内面12及び外面13に排出されることにより、溶接工程の後、溶融金属とともに酸化物を容易に除去することができる。そのため、金属板10から製造された電縫管において、酸化物に起因する欠陥が発生するのを抑制することができる。
【0055】
本実施形態において、サイドロール322L,322Rに対するトップロール321L,321Rのオフセット量Dと、サイドロール322L,322Rのそれぞれの側面322aの曲率半径Rとの比:D/Rは、0.2以上であることが好ましい。この場合、溶融金属が金属板10の端部11L,11Rの間からより排出されやすくなり、端部11L,11Rの間における酸化物の残留をより低減することができる。
【0056】
本実施形態において、D/Rは、0.3以下であることが好ましい。この場合、金属板10の両端部11L,11Rの凝固が進む前にトップロール321L,321Rによって突合せ形状を調整することができる。そのため、金属板10の両端部11L,11Rを良好な突合せ形状で接合することできる。
【0057】
本実施形態において、サイドロール322L,322Rのそれぞれの側面322aの曲率半径Rは、例えば55mm以下である。すなわち、サイドロール322L,322Rを通過して形成される電縫管の外径は、例えば110mm以下である。このように比較的小径の電縫管については、スパッタの抑制を目的として低入熱条件でアプセット溶接が実施されるため、アプセット溶接時の溶融金属の量が少なく、金属板10の端部11L,11Rの間から酸化物が排出されにくい。しかしながら、本実施形態では、アプセット中心の移動により、金属板10の端部11L,11Rの間で溶融金属の流動が促進される。そのため、低入熱条件でアプセット溶接を行う場合であっても、端部11L,11Rの間から溶融金属とともに酸化物が排出されやすくなる。
【0058】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例0059】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
本開示による効果を確認するため、金属板の両端部をアプセット溶接して電縫管に成形する試験を実施した。本試験では、サイドロールの側面の曲率半径(電縫管の外径/2)Rと、トップロールの中心軸をサイドロールの中心軸から金属板の搬送方向の下流側にオフセットした量Dとの比:D/Rが0.0(比較例,オフセット量D=0mm)、0.1(実施例1)、0.2(実施例2)、0.3(実施例3)、及び0.4(実施例4)のスクイズロールをそれぞれ用い、アプセット溶接を実施した。D/R以外のアプセット溶接条件は、比較例及び実施例1~4で同一である。電縫管の板厚は7mmとした。
【0061】
比較例及び実施例1~4の各々について、JIS Z 2242:2018に準拠してアプセット溶接によって形成された溶接部の近傍から試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を温間で実施した。そして、シャルピー衝撃試験によって破断した試験片の破面から、酸化物に起因する溶接欠陥(酸化物欠陥)の評価指標として欠陥破面率を算出した。欠陥破面率は、試験片の破面を顕微鏡で観察し、目視によって他の領域と区別可能な酸化物欠陥領域の面積を観察面の全面積で除して算出した。
【0062】
トップロールの中心軸がサイドロールの中心軸に対して下流側にオフセットされていない比較例では、欠陥破面率が0.11%であった。一方、トップロールの中心軸がサイドロールの中心軸に対して下流側にオフセットされていた実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例4については、欠陥破面率がそれぞれ0.02%、0.00%、0.00%、及び0.00%であり、比較例と比べて有意に低減した。特に、D/Rが0.2以上の実施例2~4については、欠陥破面率が0.00%であり、酸化物に起因する欠陥が発生しなかった。
【0063】
D/Rが0.3以下の実施例1~3では、良好な突合せ形状で溶接部が形成された。しかしながら、D/Rが0.4の実施例4では、突合せ形状の不良が発生することがあった。
【0064】
本試験により、トップロールの中心軸をサイドロールの中心軸に対して下流側にオフセットさせることにより、酸化物に起因する欠陥を抑制できることが確認された。サイドロールの側面の曲率半径(電縫管の外径/2)Rと、トップロールの中心軸のオフセット量Dとの比:D/Rが0.2以上の場合、酸化物に起因する欠陥をより効果的に抑制できることがわかった。また、D/Rが0.3以下の場合、溶接部において良好な突合せ形状を確保できることがわかった。
【符号の説明】
【0065】
10:金属板
11L,11R:端部
30:溶接装置
31:加熱装置
32:スクイズロール
321L,321R:トップロール
321a:側面
At:中心軸
322L,322R:サイドロール
322a:側面
As:中心軸
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D