IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通株式会社の特許一覧

特開2024-115101半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置
<>
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図1
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図2
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図3
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図4
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図5
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図6
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図7
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図8
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図9
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図10
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図11
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図12
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図13
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図14
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図15
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図16
  • 特開-半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115101
(43)【公開日】2024-08-26
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020582
(22)【出願日】2023-02-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦史
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GK08
5F102GL04
5F102GM04
5F102GM08
5F102GQ02
5F102GQ04
5F102GR01
5F102GR04
5F102GR12
5F102GS04
5F102GV05
5F102GV08
5F102HC01
5F102HC10
5F102HC11
5F102HC15
5F102HC19
(57)【要約】
【課題】2DEGの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置を実現する。
【解決手段】N極性面を利用するHEMTを備える半導体装置は、下地層10、バリア層20及びチャネル層30を含む半導体積層構造1を有する。下地層10は、(000-1)面である面10aを有し、AlNを含む。バリア層20は、下地層10の面10a側に設けられ、AlGaNを含み、下地層10に対して格子緩和する。チャネル層30は、バリア層20の面20a側に設けられ、GaNを含む。下地層10上に、格子整合せず格子緩和したバリア層20が設けられ、そのバリア層20上に、格子整合してチャネル層30が設けられる。そのため、バリア層20には格子欠陥2が発生する一方、チャネル層30には格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30の2DEG1aの格子欠陥による消失を抑え、高抵抗化を抑える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層と、
前記下地層の前記第1面側に設けられ、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層と、
前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する、半導体装置。
【請求項2】
前記第1バリア層は、前記AlGaNのAl組成が0.3未満である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1バリア層は、前記下地層に格子不整合し、前記チャネル層は、前記第1バリア層に格子整合する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記チャネル層の、前記第1バリア層側とは反対の第3面側に設けられ、窒化物半導体を含む第2バリア層を有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1バリア層と前記チャネル層との間に設けられ、窒化物半導体を含むスペーサ層を有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記チャネル層の転位密度は、前記下地層の転位密度よりも大きい、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
(000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層の、前記第1面側に、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層を形成する工程と、
前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に、GaNを含むチャネル層を形成する工程と、
を有する、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
(000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層と、
前記下地層の前記第1面側に設けられ、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層と、
前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する半導体装置を備える、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置が知られている。例えば、GaN(窒化ガリウム)をチャネル層(「電子走行層」とも称される)に用い、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)をバリア層(「電子供給層」とも称される)に用いた高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor;HEMT)が知られている。
【0003】
一例として、GaN等の基板面に対する厚さ方向が[000-1]のAlGaNの電子供給層と、電子供給層上に形成されたGaNの電子走行層と、電子走行層上に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極とを備えた反転型HEMTが知られている(特許文献1)。また、基板上に配置されたAlN(窒化アルミニウム)等のバッファ層と、バッファ層上に配置されたAlGaN等のバリア層と、バリア層上に堆積されたGaNチャネル層とを有するN極性面GaN半導体デバイスが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-269534号公報
【特許文献2】国際公開第2013/019516号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GaNとのバンドオフセットが大きいAlNを下地層とし、その(000-1)面であるN極性面側にチャネル層のGaNを設けるHEMTを備えた半導体装置が知られている。この半導体装置では、下地層のAlNの比較的強い自発分極を利用して、チャネル層のGaNに二次元電子ガス(Two Dimensional Electron Gas;2DEG)を生成させる。
【0006】
このような半導体装置では、GaNとの格子定数差が大きいAlNが下地層に用いられる。そのため、下地層のAlNのN極性面側に直接又はAlGaN等のバリア層を介してチャネル層のGaNを設ける場合に、チャネル層のGaNとその下層(下地層又はバリア層)との間の格子定数差が大きいと、チャネル層のGaNが格子緩和する。格子緩和するチャネル層のGaNとその下層との接合界面又はその近傍には、格子欠陥が発生する。この格子欠陥は、チャネル層のGaNの2DEGを消失させる。チャネル層のGaNの2DEGの消失は、半導体装置の高抵抗化を招く恐れがある。
【0007】
1つの側面では、本発明は、2DEGの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、(000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層と、前記下地層の前記第1面側に設けられ、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層と、前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、を有する、半導体装置が提供される。
【0009】
また、別の態様では、上記のような半導体装置の製造方法、上記のような半導体装置を備える電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、2DEGの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】半導体装置の第1例について説明する図である。
図2】半導体装置の第2例について説明する図である。
図3】半導体装置の第2例において生じ得る現象について説明する図である。
図4】第1実施形態に係る半導体装置の半導体積層構造の一例について説明する図である。
図5】第1実施形態に係る半導体装置の半導体積層構造の特性について説明する図である。
図6】第1実施形態に係る半導体装置の例について説明する図である。
図7】第2実施形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図8】第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その1)である。
図9】第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その2)である。
図10】第3実施形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図11】第3実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その1)である。
図12】第3実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その2)である。
図13】第4実施形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図14】第5実施形態に係る半導体パッケージの一例について説明する図である。
図15】第6実施形態に係る力率改善回路の一例について説明する図である。
図16】第7実施形態に係る電源装置の一例について説明する図である。
図17】第8実施形態に係る増幅器の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
窒化物半導体を用いた半導体装置は、高い飽和電子速度やワイドバンドギャップ等の特徴を利用し、高耐圧、高出力デバイスとしての開発が行われている。窒化物半導体を用いた半導体装置としては、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor;FET)、例えば、HEMTについての報告が数多くなされている。HEMTの1つとして、AlGaNをバリア層、GaNをチャネル層として用いたHEMTが知られている。このようなHEMTでは、AlGaNの自発分極、及びGaNとの格子定数差に起因したひずみによってAlGaNに発生するピエゾ分極により、GaNに二次元電子ガス(Two Dimensional Electron Gas;2DEG)が生成され、高出力デバイスが実現される。
【0013】
窒化物半導体を用いた半導体装置の高性能化のため、AlNとGaNとの大きなバンドオフセットによってキャリアとなる電子の閉じ込めを強め、電子移動度の向上を目指した、AlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置が提案されている。
【0014】
図1は半導体装置の第1例について説明する図である。図1(A)には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。図1(B)には、半導体装置の一例のエネルギーバンド構造を模式的に示している。尚、図1(B)において、Ecは伝導帯、Evは価電子帯、Efはフェルミ準位を表している。
【0015】
図1(A)に示す半導体装置100Aは、AlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有するHEMTの一例である。半導体装置100Aは、バリア層110A、チャネル層120A、バリア層130A、ゲート電極140、ソース電極150及びドレイン電極160を有する。バリア層110A及びバリア層130Aには、AlNが用いられる。チャネル層120Aは、バリア層110Aとバリア層130Aとの間に設けられる。チャネル層120Aには、GaNが用いられる。ゲート電極140、ソース電極150及びドレイン電極160は、例えば、バリア層130A上に設けられる。ゲート電極140、ソース電極150及びドレイン電極160には、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極140は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極150及びドレイン電極160は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0016】
半導体装置100Aにおいて、バリア層110A、チャネル層120A及びバリア層130Aは、例えば、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD、若しくは、Metal Organic Vapor Phase Epitaxy;MOVPE)法、又は、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy;MBE)法を用いて、成長、積層される。尚、バリア層110Aには、その上に積層されるチャネル層120A(及びその上に積層されるバリア層130A)の成長下地となる基板が用いられてもよい。
【0017】
バリア層110Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるAlNを含む層であり、チャネル層120Aが積層される側の面110Aaが(0001)面、即ち、III族(Al)極性面となる層である。チャネル層120Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにバリア層110Aの面110Aa((0001)面)上に成長されたGaNを含む層であり、バリア層130Aが積層される側の面120Aaが(0001)面、即ち、III族(Ga)極性面となる層である。バリア層130Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにチャネル層120Aの面120Aa((0001)面)上に成長されたAlNを含む層であり、チャネル層120A側とは反対側の面130Aaが(0001)面、即ち、III族(Al)極性面となる層である。
【0018】
例示の半導体装置100Aは、III族(Al又はGa)極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する。半導体装置100Aでは、チャネル層120AのGaN上に、それよりも格子定数の小さいバリア層130AのAlNが設けられることで、バリア層130Aにピエゾ分極が発生する。バリア層130AのAlNの自発分極、及び、チャネル層120AのGaNとの格子定数差に起因してバリア層130AのAlNに発生するピエゾ分極により、バリア層130Aとの接合界面近傍のチャネル層120Aに2DEG101が生成される。フェルミ準位Efがチャネル層120AのGaNとバリア層130AのAlNとの接合界面の伝導帯Ecよりも上になれば、バリア層130Aとの接合界面近傍のチャネル層120Aに2DEG101が生成される。半導体装置100Aの動作時には、ソース電極150とドレイン電極160との間に所定の電圧が印加されると共に、ゲート電極140に所定の電圧が印加される。ゲート電極140に印加される電圧による電界効果により、ソース電極150とドレイン電極160との間の、ゲート電極140直下のチャネル層120Aを通過する電荷量が制御され、半導体装置100Aの出力が制御される。
【0019】
III族(Al又はGa)極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置100Aでは、チャネル層120AのGaNが、バリア層110A及びバリア層130AのAlNで挟まれることで、電子の閉じ込めが強められる。そのため、半導体装置100Aでは、チャネル層120A内の電子の拡散が抑えられ、リーク電流の発生、それによる電子輸送効率の低下等が抑えられることが期待される。
【0020】
ところが、このようなIII族極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置100Aでは、チャネル層120Aの下地のバリア層110Aに比較的強い自発分極が発生する。このバリア層110Aに発生する比較的強い自発分極により、図1(A)及び図1(B)に示すように、チャネル層120AのGaNの、バリア層110AのAlNとの接合界面近傍には、二次元正孔ガス(Two Dimensional Hole Gas;2DHG)102が生成される。半導体装置100Aでは、バリア層110Aに発生する比較的強い自発分極により、図1(B)に示すように、チャネル層120Aの伝導帯Ec及び価電子帯Evが持ち上げられ、チャネル層120AのGaNの、バリア層110AのAlNとの接合界面近傍に、2DHG102が生成される。半導体装置100Aでは、この2DHG102により、チャネル層120AのGaNの、その面120Aa側のバリア層130AのAlNとの接合界面近傍に生成される2DEG101が消失してしまうことが起こり得る。このような2DEG101の消失は、チャネル層120AのGaNが薄膜化されるほど生じ易くなる。2DEG101の消失は、チャネル層120AのGaNの電子濃度の低下、それによる高抵抗化を招き得る。
【0021】
図2は半導体装置の第2例について説明する図である。図2(A)には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。図2(B)には、半導体装置の一例のエネルギーバンド構造を模式的に示している。尚、図2(B)において、Ecは伝導帯、Evは価電子帯、Efはフェルミ準位を表している。
【0022】
図2(A)に示す半導体装置100Bは、AlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有するHEMTの一例である。半導体装置100Bは、バリア層110B、チャネル層120B、バリア層130B、ゲート電極140、ソース電極150及びドレイン電極160を有する。バリア層110B及びバリア層130Bには、AlNが用いられる。チャネル層120Bは、バリア層110Bとバリア層130Bとの間に設けられる。チャネル層120Bには、GaNが用いられる。ゲート電極140、ソース電極150及びドレイン電極160は、例えば、バリア層130B上に設けられる。ゲート電極140、ソース電極150及びドレイン電極160には、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極140は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極150及びドレイン電極160は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0023】
半導体装置100Bにおいて、バリア層110B、チャネル層120B及びバリア層130Bは、MOVPE法等を用いて、成長、積層される。尚、バリア層110Bには、その上に積層されるチャネル層120B(及びその上に積層されるバリア層130B)の成長下地となる基板が用いられてもよい。
【0024】
バリア層110Bは、その厚さ方向が[000-1]方向となるAlNを含む層であり、チャネル層120Bが積層される側の面110Baが(000-1)面、即ち、N極性面となる層である。チャネル層120Bは、その厚さ方向が[000-1]方向となるようにバリア層110Bの面110Ba((000-1)面)上に成長されたGaNを含む層であり、バリア層130Bが積層される側の面120Baが(000-1)面、即ち、N極性面となる層である。バリア層130Bは、その厚さ方向が[000-1]方向となるようにチャネル層120Bの面120Ba((000-1)面)上に成長されたAlNを含む層であり、チャネル層120B側とは反対側の面130Baが(000-1)面、即ち、N極性面となる層である。
【0025】
例示の半導体装置100Bは、N極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する。半導体装置100Bでは、チャネル層120BのGaNの、下地のバリア層110BのAlNとの接合界面近傍に、2DEG101が生成される。フェルミ準位Efがチャネル層120BのGaNとその下地のバリア層110BのAlNとの接合界面の伝導帯Ecよりも上になることで、バリア層110Bとの接合界面近傍のチャネル層120Bに2DEG101が生成される。半導体装置100Bの動作時には、ソース電極150とドレイン電極160との間に所定の電圧が印加されると共に、ゲート電極140に所定の電圧が印加される。ゲート電極140に印加される電圧による電界効果により、ソース電極150とドレイン電極160との間の、ゲート電極140直下のチャネル層120Bを通過する電荷量が制御され、半導体装置100Bの出力が制御される。
【0026】
N極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置100Bでは、図2(A)及び図2(B)に示すように、チャネル層120BのGaNの、下地のバリア層110BのAlN側に2DEG101が生成されることが期待される。図2(B)に示すように、チャネル層120BのGaNの、上層のバリア層130BのAlN側に2DHG102(図1(A)及び図1(B))が生成されることは抑えられることが期待される。チャネル層120BのGaNの、下地のバリア層110BのAlN側に2DEG101が生成される半導体装置100Bでは、チャネル層120Bの薄膜化が可能になることが期待される。
【0027】
ところが、このようなN極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置100Bでは、チャネル層120Bと下地のバリア層110Bとの格子定数差に起因して、2DEG101の消失、それによる高抵抗化が生じ得る。この点について、次の図3を参照して説明する。
【0028】
図3は半導体装置の第2例において生じ得る現象について説明する図である。図3には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
N極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置100Bでは、下地のバリア層110Bの、N極性面((000-1)面)である面110Ba上に、チャネル層120Bが成長される。バリア層110BにAlNが用いられ、チャネル層120BにGaNが用いられる。この場合、AlNとGaNとは、比較的格子定数差が大きい。そのため、チャネル層120BのGaNは、バリア層110BのAlN上に、転位が導入されながら成長され、格子緩和する。
【0029】
図3に示すように、AlNのバリア層110Bと、格子緩和するGaNのチャネル層120Bとの接合界面、或いは、当該接合界面近傍のチャネル層120Bの成長初期層内には、比較的多数又は高密度の格子欠陥103が発生するようになる。このような格子欠陥103が発生すると、GaNのチャネル層120Bの、AlNのバリア層110Bとの接合界面近傍に生成される2DEG101(図2(A)及び図2(B))が、消失してしまう。半導体装置100Bでは、格子欠陥103により2DEG101が消失してしまうことで、チャネル層120Bの高抵抗化、チャネル層120Bを備える半導体装置100Bの高抵抗化が生じる恐れがある。
【0030】
ここでは、N極性面を利用したAlN/GaN/AlN量子閉じ込め構造を有する半導体装置100Bを例にした。上記のようなバリア層110Bとチャネル層120Bとの間の格子欠陥103の発生、格子欠陥103による2DEG101の消失、それによるチャネル層120Bの高抵抗化は、上層のバリア層130Bを有しない半導体装置でも同様に起こり得る。即ち、少なくとも下層のバリア層110Bとチャネル層120Bとを有する、N極性面を利用した半導体装置では、上記のような格子欠陥103の発生、格子欠陥103による2DEG101の消失、それによるチャネル層120Bの高抵抗化が同様に起こり得る。
【0031】
以上のような点に鑑み、ここでは以下に実施の形態として示すような構成を採用し、2DEGの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置を実現する。
[第1実施形態]
図4は第1実施形態に係る半導体装置の半導体積層構造の一例について説明する図である。図4(A)から図4(C)にはそれぞれ、半導体積層構造の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0032】
図4(A)及び図4(B)には、HEMTを備える半導体装置に用いられる半導体積層構造1の形成工程(図4(A)及び図4(B))及びそれによって形成される半導体積層構造1の構成例(図4(B))を模式的に示している。図4(A)に示すように、下地層10の面10aにバリア層20が成長され、次いで、図4(B)に示すように、バリア層20の面20aにチャネル層30が成長され、半導体積層構造1が形成される。下地層10には、AlNが用いられる。バリア層20には、AlGaNが用いられる。チャネル層30には、GaNが用いられる。下地層10及びバリア層20には、チャネル層30に用いられる窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体が用いられる。バリア層20及びチャネル層30の成長には、MOVPE法等が用いられる。下地層10は、それ自体が自立基板等の基板であってもよいし、図示しない他の基板上にMOVPE法等を用いて成長された層であってもよい。例えば、下地層10は、AlN自立基板であってもよいし、AlN、GaN、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、サファイア、ダイヤモンド等の各種基板上に成長されたAlN層であってもよい。
【0033】
下地層10は、その厚さ方向が[000-1]方向となるAlNを含む層であり、バリア層20が積層される側の面10aが(000-1)面、即ち、N極性面となる層である。バリア層20は、その厚さ方向が[000-1]方向となるように下地層10の面10a((000-1)面)上に成長されたAlGaNを含む層であり、チャネル層30が積層される側の面20aが(000-1)面、即ち、N極性面となる層である。チャネル層30は、その厚さ方向が[000-1]方向となるようにバリア層20の面20a((000-1)面)上に成長されたGaNを含む層であり、バリア層20側とは反対側の面30aが(000-1)面、即ち、N極性面となる層である。
【0034】
尚、下地層10の面10aを、「第1面」とも言う。下地層10の面10a側に設けられるバリア層20を、「第1バリア層」とも言う。バリア層20の、下地層10側とは反対側の面20aを、「第2面」とも言う。チャネル層30の、バリア層20側とは反対側の面30aを、「第3面」とも言う。
【0035】
半導体積層構造1の形成では、まず、図4(A)に示すように、AlNの下地層10のN極性面である面10a上に、AlGaNのバリア層20が成長される。バリア層20として、下地層10のAlNとの格子定数差が比較的大きいAlGaNが成長される。例えば、バリア層20として、Al(アルミニウム)組成が0.3未満といった比較的低い値を示すAlGaN、即ち、一般式AlGa1-xNで表した時、Al組成x<0.3となるようなものが成長される。AlNの下地層10の面10a上に、バリア層20として、AlNとの格子定数差が比較的大きいAlGaNが成長される場合、バリア層20のAlGaNは、下地層10のAlNと格子整合せず(格子不整合)、転位が導入されながら成長され、格子緩和する。そのため、図4(A)に示すように、AlNの下地層10と、格子緩和するAlGaNのバリア層20との接合界面、或いは、当該接合界面近傍のバリア層20の成長初期層内には、比較的多数又は高密度の格子欠陥2が発生する。
【0036】
バリア層20の成長後、図4(B)に示すように、AlGaNのバリア層20のN極性面である面20a上に、GaNのチャネル層30が成長される。チャネル層30のGaNは、下地層10のAlN上に格子緩和して成長された、比較的Al組成の低い(比較的GaNに組成が近い)バリア層20のAlGaNとの格子定数差が比較的小さい。そのため、チャネル層30のGaNは、バリア層20のAlGaNと格子整合し、その面20a上に、新たな転位の導入が抑えられながら成長される。これにより、AlGaNのバリア層20と、それと格子整合するGaNのチャネル層30との接合界面、或いは、当該接合界面近傍のチャネル層30の成長初期層内には、格子欠陥が発生することが抑えられる。格子欠陥の発生が抑えられたチャネル層30には、バリア層20との接合界面近傍に、下地層10及びバリア層20の分極(自発分極、ピエゾ分極)によって高濃度の2DEG1aが生成される。
【0037】
ここで、例えば、GaNのチャネル層30を直接AlNの下地層10上に成長した場合には、上記図3に示したような、GaNのチャネル層120Bを直接AlNのバリア層110B上に成長した場合と同様の現象が起こり得る。即ち、チャネル層30のGaNと下地層10のAlNとの間の比較的大きな格子定数差に起因して、チャネル層30に転位が導入され、下地層10との接合界面又はその近傍に格子欠陥が発生し、チャネル層30の2DEGの消失、高抵抗化が生じ得る。
【0038】
これに対し、半導体積層構造1では、AlNの下地層10とGaNのチャネル層30との間に、AlNの下地層10に対して格子緩和するようなAlGaNのバリア層20が設けられる。このようにAlNの下地層10に対して格子緩和するAlGaNのバリア層20は、AlGaNとは比較的格子定数差の大きいAlNの下地層10に格子整合せず、バリア層20の、下地層10との接合界面又はその近傍に、格子欠陥2が発生する。GaNのチャネル層30は、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に、バリア層20に格子整合して成長され、バリア層20との接合界面又はその近傍に、格子欠陥が発生することが抑えられる。格子欠陥の発生が抑えられたチャネル層30には、バリア層20との接合界面近傍に、下地層10及びバリア層20の分極によって高濃度の2DEG1aが生成される。半導体積層構造1では、チャネル層30に格子欠陥が発生することが抑えられるため、チャネル層30の2DEG1aが格子欠陥によって消失することが抑えられ、2DEG1aの消失によるチャネル層30の高抵抗化が効果的に抑えられる。
【0039】
尚、半導体積層構造1において、下地層10のAlNの、[000-1]方向の厚さは、チャネル層30に十分な2DEG1aを生成させるための自発分極及びピエゾ分極を発生させる観点から、200nm以上とされることが好ましい。
【0040】
また、図4(C)は、下地層10、バリア層20及びチャネル層30における転位密度の関係を説明する図である。下地層10には、バリア層20の成長前から一定密度の転位3が含まれ得る。下地層10上に成長されるバリア層20には、下地層10の転位3を反映した転位4、及び、下地層10との格子不整合により導入された転位4が含まれる。バリア層20は、転位4が導入されて格子緩和し、バリア層20の下地層10との接合界面又はその付近には、図4(A)及び図4(B)に示したように格子欠陥2が発生する。バリア層20の転位4の密度(転位密度)は、下地層10の転位3の密度(転位密度)よりも大きくなる。このようなバリア層20上に成長されるチャネル層30には、バリア層20の転位4を反映した転位5が含まれる。チャネル層30は、バリア層20と格子整合するため、新たな転位の導入は抑えられ、格子欠陥の発生は抑えられる。チャネル層30の転位5の密度(転位密度)は、バリア層20の転位4の密度と同等となり、下地層10の転位3の密度よりも大きくなる。
【0041】
続いて、上記のような半導体積層構造1の特性について説明する。
図5は第1実施形態に係る半導体装置の半導体積層構造の特性について説明する図である。図5には、半導体積層構造のバリア層Al組成とシート抵抗[Ω/□]との関係の一例を示している。
【0042】
半導体積層構造1のバリア層20には、一般式AlGa1-xNで表されるAlGaNが用いられる。図5には、バリア層20のAlGa1-xNのAl組成xを変化させた時の半導体積層構造1のシート抵抗を示している。図5より、バリア層20のAlGaNのAl組成が0.3未満であるとシート抵抗が低減される傾向が認められる。これは、次ように考えられる。
【0043】
バリア層20のAlGaNのAl組成が比較的低くなると、AlNとAlGaNとの格子定数差が比較的大きくなる。そのため、AlNの下地層10と、その上に成長されるAlGaNのバリア層20とは、格子整合せず、AlGaNのバリア層20は、格子緩和する。よって、AlGaNのバリア層20の、AlNの下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、Al組成が比較的低く格子緩和したAlGaNと、GaNとは、それらの格子定数差が比較的小さくなる。そのため、AlGaNのバリア層20と、その上に成長されるGaNのチャネル層30とは、格子整合する。よって、GaNのチャネル層30の、AlGaNのバリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30に高濃度の2DEG1aが効果的に生成され、シート抵抗が低減される。
【0044】
一方、バリア層20のAlGaNのAl組成が比較的高くなると、AlNとAlGaNとの格子定数差が比較的小さくなる。そのため、AlNの下地層10上に成長されるAlGaNのバリア層20の格子緩和が抑えられ、AlGaNのバリア層20の、AlNの下地層10との接合界面又はその付近に格子欠陥が発生することが抑えられる。一方、Al組成が比較的高く格子緩和が抑えられたAlGaNと、GaNとは、それらの格子定数差が比較的大きくなる。そのため、AlGaNのバリア層20と、その上に成長されるGaNのチャネル層30とは、格子整合せず、GaNのチャネル層30の、AlGaNのバリア層20との接合界面又はその付近に格子欠陥が発生する。その結果、チャネル層30の2DEG1aが格子欠陥によって消失し、シート抵抗が増大する。
【0045】
従って、バリア層20のAlGaNのAl組成を比較的低くすることで、チャネル層30に高濃度の2DEG1aを生成させ、シート抵抗を低減することが可能になる。図5のような知見より、バリア層20のAlGaNのAl組成を0.3未満とすること、即ち、一般式AlGa1-xNで表した時のAl組成xを0<x<0.3の範囲とする。これにより、チャネル層30に高濃度の2DEG1aを効果的に生成させ、シート抵抗を低減させることが可能になる。
【0046】
続いて、上記のような半導体積層構造1を採用した半導体装置の例について説明する。
図6は第1実施形態に係る半導体装置の例について説明する図である。図6(A)及び図6(B)にはそれぞれ、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0047】
図6(A)に示す半導体装置1Aは、N極性面を利用した上記半導体積層構造1を用いたHEMTの一例である。半導体装置1Aは、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20を介して設けられたGaNのチャネル層30を有する。バリア層20のAlGaNのAl組成は、例えば、0.3未満に設定される。バリア層20は、下地層10のN極性面である面10a上に設けられ、チャネル層30は、バリア層20のN極性面である面20a上に設けられる。チャネル層30の、バリア層20との接合界面近傍に、2DEG1aが生成される。
【0048】
半導体装置1Aは、そのチャネル層30の面30a上に設けられたゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60を有する。ソース電極50及びドレイン電極60は、ゲート電極40の両側に設けられる。ソース電極50及びドレイン電極60は、チャネル層30上に、互いに分離されて設けられる。ゲート電極40は、ソース電極50とドレイン電極60との間に、それらから分離されて設けられる。ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60には、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極40には、例えば、Ni(ニッケル)、Au(金)等の金属が用いられる。ソース電極50及びドレイン電極60には、例えば、Ta(タンタル)、Al等の金属が用いられる。ゲート電極40は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極50及びドレイン電極60は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0049】
半導体装置1Aの動作時には、ソース電極50とドレイン電極60との間に所定の電圧が印加されると共に、ゲート電極40に所定の電圧が印加される。ゲート電極40に印加される電圧による電界効果により、ソース電極50とドレイン電極60との間の、ゲート電極40直下のチャネル層30を通過する電荷量が制御され、半導体装置1Aの出力が制御される。
【0050】
半導体装置1Aにおいて、Al組成が0.3未満のAlGaNのバリア層20は、AlNの下地層10に格子整合しない。よって、AlGaNのバリア層20は、AlNの下地層10上に格子緩和して成長され、AlGaNのバリア層20の、AlNの下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、GaNのチャネル層30は、格子緩和したAlGaNのバリア層20に格子整合する。よって、AlGaNのバリア層20上に成長されるGaNのチャネル層30の、AlGaNのバリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。そのため、半導体装置1Aでは、チャネル層30の2DEG1aが格子欠陥によって消失することが抑えられる。これにより、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1Aが実現される。
【0051】
また、図6(B)に示す半導体装置1Bは、チャネル層30のN極性面である面30a上に更にバリア層70が設けられ、その面70a上にゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60が設けられた構成を有する。半導体装置1Bは、このような構成を有する点で、上記図6(A)に示した半導体装置1Aと相違する。
【0052】
バリア層70には、チャネル層30に用いられる窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体が用いられる。バリア層70には、例えば、InAlGaN、AlGaN、InAlN又はAlNが用いられる。即ち、バリア層70には、例えば、一般式InAlGa1-y-zN(0≦y≦0.2、0<z≦1)で表される窒化物半導体が用いられる。
【0053】
半導体装置1Bにおいても、上記半導体装置1Aと同様に、Al組成が0.3未満のAlGaNのバリア層20は、AlNの下地層10に格子整合せず、GaNのチャネル層30は、AlGaNのバリア層20に格子整合する。AlNの下地層10上に、それに格子整合せず格子緩和したAlGaNのバリア層20が設けられ、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に、それに格子整合してGaNのチャネル層30が設けられる。よって、チャネル層30の、バリア層20との接合界面又はその付近の格子欠陥の発生が抑えられる。そのため、チャネル層30の2DEG1aが格子欠陥によって消失することが抑えられる。これにより、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1Bが実現される。
【0054】
更に、半導体装置1Bでは、バリア層70が設けられることで、下層側の下地層10及びバリア層20と、上層側のバリア層70との間に、2DEG1aが生成されるチャネル層30が挟まれる、量子閉じ込め構造が実現される。半導体装置1Bでは、キャリアとなる電子の閉じ込めが強められ、チャネル層30内の電子の拡散、リーク電流の発生、電子輸送効率の低下等が抑えられる。これにより、優れた電子移動度を示す半導体装置1Bが実現される。
【0055】
尚、半導体装置1Aにおいて、バリア層20を、「第1バリア層」とも言う。半導体装置1Bにおいて、バリア層20を、「第1バリア層」とも言い、バリア層70を、「第2バリア層」とも言う。
【0056】
半導体装置1A及び半導体装置1Bにおいて、ゲート電極40は、半導体装置1Aのチャネル層30上、半導体装置1Bのバリア層70上に、ゲート絶縁膜(図示せず)を介して設けられ、MIS(Metal Insulator Semiconductor)型ゲート構造とされてもよい。また、半導体装置1A及び半導体装置1Bにおいて、ゲート電極40は、高耐圧化のため、ドレイン電極60よりもソース電極50の方に近付けた、いわゆる非対称配置とされてもよい。
【0057】
また、ここではHEMTを備える半導体装置1A及び半導体装置1Bを例示したが、N極性面を利用した上記半導体積層構造1(図4(B)等)を用い、ショットキーバリアダイオード(Schottky Barrier Diode;SBD)等、他の半導体装置を実現することもできる。例えば、チャネル層30上又はその上に設けられたバリア層70上に、オーミック電極として機能するカソード電極及びショットキー電極として機能するアノード電極が設けられ、SBDが実現される。
【0058】
[第2実施形態]
図7は第2実施形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。図7には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0059】
図7に示す半導体装置1Cは、N極性面を利用した半導体積層構造を用いたHEMTの一例である。半導体装置1Cは、下地層10、バリア層20、チャネル層30、ゲート電極40、ソース電極50、ドレイン電極60及びパッシベーション膜90を有する。
【0060】
半導体装置1Cの下地層10、バリア層20及びチャネル層30には、上記第1実施形態において半導体積層構造1について述べたのと同様のものが用いられる。半導体装置1Cは、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20を介して設けられたGaNのチャネル層30を有する。バリア層20のAlGaNのAl組成は、例えば、0.3未満に設定される。バリア層20は、下地層10のN極性面である面10a上に設けられ、チャネル層30は、バリア層20のN極性面である面20a上に設けられる。チャネル層30の、バリア層20との接合界面近傍に、2DEG1aが生成される。
【0061】
ゲート電極40は、チャネル層30の面30a上に設けられる。ソース電極50及びドレイン電極60は、チャネル層30に形成されたリセス31に設けられる。ソース電極50及びドレイン電極60は、ゲート電極40の両側に、互いに分離されて設けられる。ゲート電極40には、例えば、Ni、Au等の金属が用いられる。ソース電極50及びドレイン電極60には、例えば、Ta、Al等の金属が用いられる。ゲート電極40は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極50及びドレイン電極60は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0062】
パッシベーション膜90は、チャネル層30並びにソース電極50及びドレイン電極60を覆うように設けられる。パッシベーション膜90には、各種絶縁材料、例えば、SiN(窒化シリコン)等が用いられる。パッシベーション膜90には、チャネル層30に通じる開口部90aが設けられる。ゲート電極40は、パッシベーション膜90の開口部90aに設けられる。
【0063】
尚、下地層10の面10aを、「第1面」とも言う。下地層10の面10a側に設けられるバリア層20を、「第1バリア層」とも言う。バリア層20の、下地層10側とは反対側の面20aを、「第2面」とも言う。チャネル層30の、バリア層20側とは反対側の面30aを、「第3面」とも言う。
【0064】
半導体装置1Cでは、上記第1実施形態において半導体積層構造1について述べたのと同様の効果が得られる。即ち、半導体装置1Cでは、AlNの下地層10上に、それに格子整合せず格子緩和したAlGaNのバリア層20が設けられ、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に、それに格子整合してGaNのチャネル層30が設けられる。AlNの下地層10上に格子緩和して成長されるAlGaNのバリア層20の、下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、その格子緩和したAlGaNのバリア層20上に成長されるGaNのチャネル層30の、バリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。そのため、チャネル層30の2DEG1aが格子欠陥によって消失することが抑えられ、チャネル層30の2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる。これにより、高性能の半導体装置1Cが実現される。
【0065】
また、半導体装置1Cでは、ソース電極50及びドレイン電極60が、チャネル層30のリセス31に設けられる。そのため、ソース電極50及びドレイン電極60が、チャネル層30に生成される2DEG1aに近付けられ、それらの間の接続抵抗が低減される。これにより、低オン抵抗の半導体装置1Cが実現される。
【0066】
続いて、上記のような構成を有する半導体装置1Cの製造方法について、次の図8及び図9、並びに、上記図7を参照して、説明する。
図8及び図9は第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図である。図8(A)、図8(B)、図9(A)及び図9(B)にはそれぞれ、半導体装置の製造における各工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0067】
はじめに、図8(A)に示すように、N極性面((000-1)面)である面10aを有する下地層10上([000-1]方向)に、例えば、MOVPE法を用いて、バリア層20及びチャネル層30が順次成長される。下地層10として、例えば、AlN自立基板が用いられる。下地層10は、AlN、GaN、Si、SiC、サファイア、ダイヤモンド等の各種基板上に成長されたAlN層であってもよい。バリア層20として、例えば、Al組成が0.3未満のAlGaNが用いられる。チャネル層30として、例えば、GaNが用いられる。
【0068】
MOVPE法を用いた成長では、まず、下地層10のN極性面である面10a上に、所定のAl組成を有するAlGaNのバリア層20が成長される。N極性面の面10a上に成長されるバリア層20は、N極性面の面20aを有するように成長される。バリア層20の厚さは、例えば、50nmに設定される。下地層10のAlNと、Al組成が0.3未満のバリア層20のAlGaNとは、比較的格子定数差が大きい。そのため、バリア層20のAlGaNは、下地層10のAlNと格子整合せず、転位が導入されながら成長され、格子緩和する。格子緩和するAlGaNのバリア層20の、AlNの下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。
【0069】
成長されたバリア層20のN極性面である面20a上に、GaNのチャネル層30が成長される。N極性面の面20a上に成長されるチャネル層30は、N極性面の面30aを有するように成長される。チャネル層30の厚さは、例えば、50nmに設定される。チャネル層30のGaNは、下地層10のAlN上に格子緩和して成長されるバリア層20のAlGaNとの格子定数差が比較的小さい。そのため、チャネル層30のGaNは、バリア層20のAlGaNと格子整合し、その面20a上に、転位の導入が抑えられながら成長される。これにより、GaNのチャネル層30の、AlGaNのバリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。
【0070】
チャネル層30には、バリア層20との接合界面近傍に、下地層10及びバリア層20の分極によって2DEG1aが生成される。チャネル層30のバリア層20との接合界面又はその付近に格子欠陥が発生することが抑えられるため、チャネル層30の2DEG1aの消失が効果的に抑えられる。尚、下地層10のAlNの、[000-1]方向の厚さは、チャネル層30に十分な2DEG1aを生成させるための自発分極及びピエゾ分極を発生させる観点から、200nm以上とされることが好ましい。
【0071】
MOVPE法を用いた各層の成長において、Al源にはトリメチルアルミニウム(Tri-Methyl-Aluminum;TMAl)が用いられ、Ga源にはトリメチルガリウム(Tri-Methyl-Gallium;TMGa)が用いられ、N源にはNH(アンモニア)が用いられる。成長する窒化物半導体に応じて、TMGa、TMAlの供給と停止(切り替え)、供給時の流量(他原料との混合比)が適宜設定される。キャリアガスには、H(水素)又はN(窒素)が用いられる。成長時の圧力条件は、1kPa程度から100kPa程度の範囲とされる。成長時の温度条件は、600℃程度から1500℃程度の範囲とされる。
【0072】
下地層10、バリア層20及びチャネル層30の半導体積層構造の形成後、素子間分離領域(図示せず)が形成される。例えば、まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、素子間分離領域を形成する領域に開口部を有するマスク(図示せず)が形成される。そして、そのマスクの開口部の半導体積層構造に対し、塩素系ガスを用いたドライエッチング、又は、Ar(アルゴン)等のイオン注入が行われ、素子間分離領域が形成される。素子分離領域の形成後、マスクは除去される。
【0073】
上記のような半導体積層構造及び素子間分離領域の形成後、図8(B)に示すように、チャネル層30の面30a上に、リセス31を形成する領域に開口部91aを有する表面保護膜91が形成される。表面保護膜91には、例えば、Si、Al、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)、Ta及びW(タングステン)の少なくとも1種を含む酸化物、窒化物、酸窒化物といった各種絶縁材料が用いられる。例えば、表面保護膜91には、SiO(酸化シリコン)、SiN等が用いられる。表面保護膜91の形成には、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。このほか、表面保護膜91の形成には、原子層堆積(Atomic Layer Deposition;ALD)法、スパッタ法等が用いられてもよい。開口部91aを有する表面保護膜91は、例えば、プラズマCVD法等を用いて全面に表面保護膜91の材料を形成した後、フォトリソグラフィ技術、及び、塩素系又はフッ素系ガスを用いたドライエッチングにより、所定の領域に開口部91aを形成することで、得られる。
【0074】
開口部91aを有する表面保護膜91の形成後、その開口部91aのチャネル層30に対し、塩素系ガスを用いたドライエッチングが行われる。これにより、図8(B)に示すように、表面保護膜91の開口部91aにおけるチャネル層30の一部が除去され、チャネル層30にリセス31が形成される。リセス31の形成後、表面保護膜91は除去される。
【0075】
リセス31の形成後、図9(A)に示すように、チャネル層30に形成されたリセス31に、ソース電極50及びドレイン電極60が形成される。その際は、まず、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、リセス31に電極用金属が形成される。例えば、電極用金属として、厚さ20nmのTaと厚さ200nmのAlとの積層体が形成される。そして、電極用金属の形成後、窒素雰囲気中、400℃から1000℃の範囲の温度条件、例えば、550℃の温度で熱処理が行われ、電極用金属のオーミックコンタクトが確立される。これにより、チャネル層30のリセス31にソース電極50及びドレイン電極60が形成される。
【0076】
ソース電極50及びドレイン電極60の形成後、図9(B)に示すように、チャネル層30、ソース電極50及びドレイン電極60を覆うように、パッシベーション膜90が形成される。パッシベーション膜90には、例えば、Si、Al、Hf、Zr、Ti、Ta及びWの少なくとも1種を含む酸化物、窒化物、酸窒化物といった各種絶縁材料が用いられる。例えば、パッシベーション膜90には、SiN等が用いられる。例えば、プラズマCVD法を用いて、厚さが2nmから500nmの範囲、例えば、厚さが100nmのSiN等のパッシベーション膜90が形成される。パッシベーション膜90の形成には、ALD法、スパッタ法等が用いられてもよい。
【0077】
パッシベーション膜90の形成後、図9(B)に示すように、ゲート電極40を形成する領域のパッシベーション膜90が部分的に除去され、チャネル層30に通じる開口部90aが形成される。その際は、まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、ゲート電極40を形成する領域に開口部を有するマスク(図示せず)が形成され、ドライエッチングが行われる。このエッチングにより、マスクの開口部から露出するパッシベーション膜90が除去され、パッシベーション膜90の開口部90aが形成される。パッシベーション膜90のエッチングは、例えば、フッ素系又は塩素系ガスを用いたドライエッチングによって行われる。このほか、パッシベーション膜90のエッチングは、フッ酸やバッファードフッ酸等を用いたウェットエッチングによって行われてもよい。パッシベーション膜90のエッチングによる開口部90aの形成後、マスクは除去される。
【0078】
パッシベーション膜90の開口部90aの形成後、その開口部90aの位置に、上記図7に示したように、ゲート電極40が形成される。その際は、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、パッシベーション膜90の開口部90aの位置に、電極用金属が形成される。例えば、電極用金属として、厚さ30nmのNiと厚さ400nmのAuとの積層体が形成される。電極用金属は、パッシベーション膜90の上面のほか、開口部90a内に入り込むように形成される。これにより、ショットキー電極として機能するゲート電極40が形成される。
【0079】
以上のような工程により、上記図7に示したような半導体装置1Cが製造される。
尚、半導体装置1Cにおいて、ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60に用いる金属の種類及び層構造は上記の例に限定されるものではなく、それらの形成方法も上記の例に限定されるものではない。ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60にはそれぞれ、単層構造が用いられてもよいし、積層構造が用いられてもよい。ソース電極50及びドレイン電極60の形成時には、それらの電極用金属の形成によってオーミックコンタクトが実現されるようであれば、必ずしも上記のような熱処理が行われることを要しない。ゲート電極40の形成時には、その電極用金属の形成後、更に熱処理が行われてもよい。
【0080】
ここでは、半導体装置1Cにショットキー電極として機能するゲート電極40を設ける例を示すが、ゲート電極40とチャネル層30との間に、酸化物、窒化物、酸窒化物等が用いられたゲート絶縁膜を設け、MIS型ゲート構造としてもよい。また、高耐圧化のため、ゲート電極40は、ドレイン電極60よりもソース電極50の方に近付けた非対称配置とされてもよい。
【0081】
[第3実施形態]
図10は第3実施形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。図10には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0082】
図10に示す半導体装置1Dは、N極性面を利用した半導体積層構造を用いたHEMTの一例である。半導体装置1Dは、チャネル層30のN極性面である面30a上に設けられたバリア層70を有する。バリア層70には、チャネル層30のGaNよりもバンドギャップの大きいInAlGaN、AlGaN、InAlN、AlN等の窒化物半導体が用いられる。半導体装置1Dでは、バリア層70の面70a上にゲート電極40が設けられ、バリア層70を貫通してチャネル層30に達するリセス32にソース電極50及びドレイン電極60が設けられる。半導体装置1Dは、このような構成を有する点で、上記第2実施形態で述べた半導体装置1C(図7)と相違する。
【0083】
尚、下地層10の面10aを、「第1面」とも言う。下地層10の面10a側に設けられるバリア層20を、「第1バリア層」とも言う。バリア層20の、下地層10側とは反対側の面20aを、「第2面」とも言う。チャネル層30の、バリア層20側とは反対側の面30aを、「第3面」とも言う。チャネル層30の面30a側に設けられるバリア層70を、「第2バリア層」とも言う。
【0084】
半導体装置1Dにおいても、上記半導体装置1Cと同様の効果が得られる。即ち、AlNの下地層10上に、それに格子整合せず格子緩和したAlGaNのバリア層20が設けられ、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に、それに格子整合してGaNのチャネル層30が設けられる。GaNのチャネル層30の、AlGaNのバリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。そのため、チャネル層30の2DEG1aが格子欠陥によって消失することが抑えられ、チャネル層30の2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる。これにより、高性能の半導体装置1Dが実現される。
【0085】
また、ソース電極50及びドレイン電極60が、バリア層70及びチャネル層30のリセス32に設けられることで、ソース電極50及びドレイン電極60とチャネル層30の2DEG1aとの間の接続抵抗が低減される。これにより、低オン抵抗の半導体装置1Dが実現される。
【0086】
更に、半導体装置1Dでは、下層側の下地層10及びバリア層20と、上層側のバリア層70との間に、2DEG1aが生成されるチャネル層30が挟まれる、量子閉じ込め構造が実現される。そのため、キャリアとなる電子の閉じ込めが強められ、チャネル層30内の電子の拡散、リーク電流の発生、電子輸送効率の低下等が抑えられる。これにより、優れた電子移動度を示す半導体装置1Dが実現される。
【0087】
続いて、上記のような構成を有する半導体装置1Dの製造方法について、次の図11及び図12、並びに、上記図10を参照して、説明する。
図11及び図12は第3実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図である。図11(A)、図11(B)、図12(A)及び図12(B)にはそれぞれ、半導体装置の製造における各工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0088】
半導体装置1Dの製造では、上記半導体装置1Cの製造について述べた図8(A)の工程の例に従い、例えば、MOVPE法を用いて、下地層10上にバリア層20及びチャネル層30が順次成長された後、図11(A)に示すように、更にバリア層70が成長される。バリア層70には、チャネル層30のGaNよりもバンドギャップの大きいInAlGaN、AlGaN、InAlN、AlN等の窒化物半導体、即ち、一般式InAlGa1-y-zN(0≦y≦0.2、0<z≦1)で表される窒化物半導体が用いられる。このような窒化物半導体が用いられるバリア層70が、チャネル層30のN極性面である面30a上に成長される。バリア層20の厚さは、例えば、10nmに設定される。
【0089】
MOVPE法を用いた各層の成長において、Al源にはTMAlが用いられ、Ga源にはTMGaが用いられ、In源にはトリメチルインジウム(Tri-Methyl-Indium;TMIn)が用いられ、N源にはNHが用いられる。成長する窒化物半導体に応じて、TMGa、TMAl、TMInの供給と停止(切り替え)、供給時の流量(他原料との混合比)が適宜設定される。キャリアガスには、H又はNが用いられる。成長時の圧力条件は、1kPa程度から100kPa程度の範囲とされる。成長時の温度条件は、600℃程度から1500℃程度の範囲とされる。
【0090】
下地層10、バリア層20、チャネル層30及びバリア層70の半導体積層構造の形成後、上記第2実施形態で述べた例に従い、素子間分離領域(図示せず)が形成される。半導体積層構造及び素子間分離領域の形成後、上記第2実施形態で述べた図8(B)の例に従い、図11(B)に示すように、バリア層70の面70a上に、リセス32を形成する領域に開口部92aを有する表面保護膜92が形成される。そして、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、表面保護膜92の開口部92aにおけるバリア層70及びチャネル層30の一部が除去され、リセス32が形成される。リセス32の形成後、表面保護膜92は除去される。
【0091】
リセス32の形成後、上記図9(A)の例に従い、図12(A)に示すように、リセス32にソース電極50及びドレイン電極60が形成される。その後、上記図9(B)の例に従い、図12(B)に示すように、バリア層70、ソース電極50及びドレイン電極60を覆うようにパッシベーション膜90が形成され、そのゲート電極40を形成する領域に、バリア層70に通じる開口部90aが形成される。そして、上記第2実施形態で述べた例に従い、パッシベーション膜90の開口部90aの位置に、上記図10に示したように、ゲート電極40が形成される。
【0092】
以上のような工程により、上記図10に示したような半導体装置1Dが製造される。
尚、半導体装置1Dにおいて、ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60に用いる金属の種類及び層構造は上記の例に限定されるものではなく、それらの形成方法も上記の例に限定されるものではない。ソース電極50及びドレイン電極60の形成時には、それらの電極用金属の形成によってオーミックコンタクトが実現されるようであれば、必ずしも上記のような熱処理が行われることを要しない。ゲート電極40の形成時には、その電極用金属の形成後、更に熱処理が行われてもよい。
【0093】
ここでは、半導体装置1Dにショットキー電極として機能するゲート電極40を設ける例を示すが、ゲート電極40はMIS型ゲート構造としてもよい。また、ゲート電極40は、ドレイン電極60よりもソース電極50の方に近付けた非対称配置とされてもよい。
【0094】
[第4実施形態]
図13は第4実施形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。図13には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0095】
図13に示す半導体装置1Eは、N極性面を利用した半導体積層構造を用いたHEMTの一例である。半導体装置1Eは、バリア層20とチャネル層30との間に設けられたスペーサ層80を有する。半導体装置1Eは、このような構成を有する点で、上記第2実施形態で述べた半導体装置1C(図7)と相違する。
【0096】
スペーサ層80には、チャネル層30のGaNよりもバンドギャップの大きいAlGaN、AlN等の窒化物半導体が用いられる。スペーサ層80の厚さは、例えば、2nmに設定される。スペーサ層80には、バリア層20及びチャネル層30に格子整合するような窒化物半導体、例えば、バリア層20及びチャネル層30に格子整合するようなAl組成を有する窒化物半導体が用いられることが好ましい。
【0097】
半導体装置1Eの製造では、下地層10上にバリア層20が成長された後、スペーサ層80が成長され、その上にチャネル層30が成長される。スペーサ層80の成長には、他の層と同様に、MOVPE法が用いられる。半導体装置1Eの製造におけるその他の工程は、上記第2実施形態で述べた半導体装置1Cの製造と同様に行うことができる。
【0098】
半導体装置1Eにおいても、上記半導体装置1Cと同様の効果が得られる。即ち、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20及びその上に設けられたスペーサ層80を介してGaNのチャネル層30が設けられることで、GaNのチャネル層30に格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30の2DEG1aの消失が抑えられ、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1Eが実現される。
【0099】
また、ソース電極50及びドレイン電極60が、チャネル層30のリセス31に設けられることで、ソース電極50及びドレイン電極60とチャネル層30の2DEG1aとの間の接続抵抗が低減され、低オン抵抗の半導体装置1Eが実現される。
【0100】
更に、半導体装置1Eでは、バリア層20とチャネル層30との間にスペーサ層80が設けられることで、バリア層20からの合金散乱の影響が抑えられ、チャネル層30の低抵抗化、半導体装置1Eの低オン抵抗化が実現される。
【0101】
尚、半導体装置1Eにおいて、上記第3実施形態で述べた半導体装置1D(図10)の例に従い、チャネル層30上にバリア層70が設けられてもよい。このようにして、下層側の下地層10、バリア層20及びスペーサ層80と、上層側のバリア層70との間に、2DEG1aが生成されるチャネル層30が挟まれる、量子閉じ込め構造が実現されてもよい。
【0102】
以上、第1から第4実施形態について説明した。
以上述べた半導体装置1A、1B、1C、1D、1E(「1A-1E」とも記す)等は、各種電子装置に適用することができる。例として、上記のような構成を有する半導体装置を、半導体パッケージ、力率改善回路、電源装置及び増幅器に適用する場合について、以下に説明する。
【0103】
[第5実施形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、半導体パッケージへの適用例を、第5実施形態として説明する。
【0104】
図14は第5実施形態に係る半導体パッケージの一例について説明する図である。図14には、半導体パッケージの一例の要部平面図を模式的に示している。
図14に示す半導体パッケージ200は、ディスクリートパッケージの一例である。半導体パッケージ200は、例えば、上記第2実施形態で述べたような半導体装置1C(図7等)、半導体装置1Cが搭載されたリードフレーム210、及び、それらを封止する樹脂220を含む。
【0105】
半導体装置1Aは、例えば、リードフレーム210のダイパッド210a上にダイアタッチ材等(図示せず)を用いて搭載される。半導体装置1Cには、上記ゲート電極40と接続されたパッド40a、ソース電極50と接続されたパッド50a、及び、ドレイン電極60と接続されたパッド60aが設けられる。パッド40a、パッド50a及びパッド60aはそれぞれ、Au、Al等のワイヤ230を用いてリードフレーム210のゲートリード211、ソースリード212及びドレインリード213に接続される。ゲートリード211、ソースリード212及びドレインリード213の各一部が露出するように、リードフレーム210とそれに搭載された半導体装置1C及びそれらを接続するワイヤ230が、樹脂220で封止される。
【0106】
半導体装置1Cの、ゲート電極40と接続されたパッド40a及びドレイン電極60と接続されたパッド60aが設けられる面とは反対側の面に、ソース電極50と接続された外部接続用電極が設けられてもよい。当該外部接続用電極を、ソースリード212に繋がるダイパッド210aに、半田等の導電性接合材を用いて接続してもよい。
【0107】
例えば、上記第2実施形態で述べたような半導体装置1Cが用いられ、このような構成を有する半導体パッケージ200が得られる。
上記のように、半導体装置1Cは、N極性面を利用したHEMTの一例である。半導体装置1Cでは、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20を介してGaNのチャネル層30が設けられる。AlNの下地層10上に格子緩和して成長されるAlGaNのバリア層20の、下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に成長されるGaNのチャネル層30の、バリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30の2DEG1aの消失が抑えられる。従って、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1Cが実現される。このような半導体装置1Cが用いられ、高性能の半導体パッケージ200が実現される。
【0108】
ここでは、半導体装置1Cを例にしたが、他の半導体装置1A、1B、1D、1E等を用いて同様に半導体パッケージを得ることが可能である。
[第6実施形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、力率改善回路への適用例を、第6実施形態として説明する。
【0109】
図15は第6実施形態に係る力率改善回路の一例について説明する図である。図15には、力率改善回路の一例の等価回路図を示している。
図15に示す力率改善(Power Factor Correction;PFC)回路300は、スイッチ素子310、ダイオード320、チョークコイル330、コンデンサ340、コンデンサ350、ダイオードブリッジ360及び交流電源370(AC)を含む。
【0110】
PFC回路300において、スイッチ素子310のドレイン電極と、ダイオード320のアノード端子及びチョークコイル330の一端子とが接続される。スイッチ素子310のソース電極と、コンデンサ340の一端子及びコンデンサ350の一端子とが接続される。コンデンサ340の他端子とチョークコイル330の他端子とが接続される。コンデンサ350の他端子とダイオード320のカソード端子とが接続される。また、スイッチ素子310のゲート電極には、ゲートドライバが接続される。コンデンサ340の両端子間には、ダイオードブリッジ360を介して交流電源370が接続され、コンデンサ350の両端子間から直流電源(DC)が取り出される。
【0111】
例えば、このような構成を有するPFC回路300のスイッチ素子310に、上記半導体装置1A-1E等が用いられる。
上記のように、半導体装置1A-1E等は、N極性面を利用したHEMTの例である。半導体装置1A-1E等では、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20を介してGaNのチャネル層30が設けられる。AlNの下地層10上に格子緩和して成長されるAlGaNのバリア層20の、下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に成長されるGaNのチャネル層30の、バリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30の2DEG1aの消失が抑えられる。従って、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1A-1E等が実現される。このような半導体装置1A-1E等が用いられ、高性能のPFC回路300が実現される。
【0112】
[第7実施形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、電源装置への適用例を、第7実施形態として説明する。
【0113】
図16は第7実施形態に係る電源装置の一例について説明する図である。図16には、電源装置の一例の等価回路図を示している。
図16に示す電源装置400は、一次側回路410及び二次側回路420、並びに一次側回路410と二次側回路420との間に設けられるトランス430を含む。
【0114】
一次側回路410には、上記第5実施形態で述べたようなPFC回路300、及びPFC回路300のコンデンサ350の両端子間に接続されたインバータ回路、例えば、フルブリッジインバータ回路440が含まれる。フルブリッジインバータ回路440には、複数、ここでは一例として4つのスイッチ素子441、スイッチ素子442、スイッチ素子443及びスイッチ素子444が含まれる。
【0115】
二次側回路420には、複数、ここでは一例として3つのスイッチ素子421、スイッチ素子422及びスイッチ素子423が含まれる。
例えば、このような構成を有する電源装置400の、一次側回路410に含まれるPFC回路300のスイッチ素子310、及びフルブリッジインバータ回路440のスイッチ素子441-444に、上記半導体装置1A-1E等が用いられる。例えば、電源装置400の、二次側回路420のスイッチ素子421、422、423には、Siを用いた通常のMIS型電界効果トランジスタが用いられる。
【0116】
上記のように、半導体装置1A-1E等は、N極性面を利用したHEMTの例である。半導体装置1A-1E等では、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20を介してGaNのチャネル層30が設けられる。AlNの下地層10上に格子緩和して成長されるAlGaNのバリア層20の、下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に成長されるGaNのチャネル層30の、バリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30の2DEG1aの消失が抑えられる。従って、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1A-1E等が実現される。このような半導体装置1A-1E等が用いられ、高性能の電源装置400が実現される。
【0117】
[第8実施形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、増幅器への適用例を、第8実施形態として説明する。
【0118】
図17は第8実施形態に係る増幅器の一例について説明する図である。図17には、増幅器の一例の等価回路図を示している。
図17に示す増幅器500は、デジタルプレディストーション回路510、ミキサー520、ミキサー530及びパワーアンプ540を含む。
【0119】
デジタルプレディストーション回路510は、入力信号の非線形歪みを補償する。ミキサー520は、非線形歪みが補償された入力信号SIと交流信号とをミキシングする。パワーアンプ540は、入力信号SIが交流信号とミキシングされた信号を増幅する。増幅器500では、例えば、スイッチの切り替えにより、出力信号SOをミキサー530で交流信号とミキシングしてデジタルプレディストーション回路510に送出することができる。増幅器500は、高周波増幅器、高出力増幅器として使用することができる。
【0120】
このような構成を有する増幅器500のパワーアンプ540に、上記半導体装置1A-1E等が用いられる。
上記のように、半導体装置1A-1E等は、N極性面を利用したHEMTの例である。半導体装置1A-1E等では、AlNの下地層10上に格子緩和したAlGaNのバリア層20を介してGaNのチャネル層30が設けられる。AlNの下地層10上に格子緩和して成長されるAlGaNのバリア層20の、下地層10との接合界面又はその付近には、格子欠陥2が発生する。一方、格子緩和したAlGaNのバリア層20上に成長されるGaNのチャネル層30の、バリア層20との接合界面又はその付近には、格子欠陥が発生することが抑えられる。これにより、チャネル層30の2DEG1aの消失が抑えられる。従って、2DEG1aの消失による高抵抗化が抑えられる高性能の半導体装置1A-1E等が実現される。このような半導体装置1A-1E等が用いられ、高性能の増幅器500が実現される。
【0121】
上記半導体装置1A-1E等を適用した各種電子装置(上記第5から第8実施形態で述べた半導体パッケージ200、PFC回路300、電源装置400及び増幅器500等)は、各種電子機器又は電子装置に搭載することができる。例えば、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、スーパーコンピュータ、サーバ等)、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、センサ、カメラ、オーディオ機器、測定装置、検査装置、製造装置、送信器、受信器、レーダー装置といった、各種電子機器又は電子装置に搭載することが可能である。
【0122】
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) (000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層と、
前記下地層の前記第1面側に設けられ、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層と、
前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する、半導体装置。
【0123】
(付記2) 前記第1バリア層は、前記AlGaNのAl組成が0.3未満である、付記1に記載の半導体装置。
(付記3) 前記第1バリア層は、前記下地層に格子不整合し、前記チャネル層は、前記第1バリア層に格子整合する、付記1に記載の半導体装置。
【0124】
(付記4) 前記チャネル層の、前記第1バリア層側とは反対の第3面側に設けられ、窒化物半導体を含む第2バリア層を有する、付記1に記載の半導体装置。
(付記5) 前記第1バリア層と前記チャネル層との間に設けられ、窒化物半導体を含むスペーサ層を有する、付記1に記載の半導体装置。
【0125】
(付記6) 前記チャネル層の転位密度は、前記下地層の転位密度よりも大きい、付記1に記載の半導体装置。
(付記7) 前記下地層は、[000-1]方向の厚さが200nm以上である、付記1に記載の半導体装置。
【0126】
(付記8) 前記チャネル層の、前記第1バリア層側とは反対の第3面側に設けられるゲート電極と、
前記チャネル層の前記第3面側であって、前記ゲート電極の両側に設けられるソース電極及びドレイン電極と、
を有する、付記1に記載の半導体装置。
【0127】
(付記9) 前記下地層は、AlNの自立基板である、付記1に記載の半導体装置。
(付記10) (000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層の、前記第1面側に、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層を形成する工程と、
前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に、GaNを含むチャネル層を形成する工程と、
を有する、半導体装置の製造方法。
【0128】
(付記11) (000-1)面の第1面を有し、AlNを含む下地層と、
前記下地層の前記第1面側に設けられ、AlGaNを含み、前記下地層に対して格子緩和した第1バリア層と、
前記第1バリア層の、前記下地層側とは反対の第2面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する半導体装置を備える、電子装置。
【符号の説明】
【0129】
1 半導体積層構造
1A、1B、1C、1D、1E、100A、100B 半導体装置
1a、101 2DEG
2、103 格子欠陥
3、4、5 転位
10 下地層
10a、20a、30a、70a、110Aa、110Ba、120Aa、120Ba、130Aa、130Ba 面
20、70、110A、110B、130A、130B バリア層
30、120A、120B チャネル層
31、32 リセス
40、140 ゲート電極
40a、50a、60a パッド
50、150 ソース電極
60、160 ドレイン電極
80 スペーサ層
90 パッシベーション膜
90a、91a、92a 開口部
91、92 表面保護膜
102 2DHG
200 半導体パッケージ
210 リードフレーム
210a ダイパッド
211 ゲートリード
212 ソースリード
213 ドレインリード
220 樹脂
230 ワイヤ
300 PFC回路
310、421、422、423、441、442、443、444 スイッチ素子
320 ダイオード
330 チョークコイル
340、350 コンデンサ
360 ダイオードブリッジ
370 交流電源
400 電源装置
410 一次側回路
420 二次側回路
430 トランス
440 フルブリッジインバータ回路
500 増幅器
510 デジタルプレディストーション回路
520、530 ミキサー
540 パワーアンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17