(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024115687
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】流体制御システム、及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240820BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20240820BHJP
F15B 9/08 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 M
F16F15/03 G
F15B9/08 E
F15B9/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】37
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021471
(22)【出願日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】丸山 照雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 琢巳
(72)【発明者】
【氏名】滝本 寛
(72)【発明者】
【氏名】安田 正志
【テーマコード(参考)】
3H001
3J048
【Fターム(参考)】
3H001AA03
3H001AA09
3H001AB06
3H001AB07
3H001AB09
3H001AB10
3H001AC02
3H001AD04
3H001AE11
3H001AE14
3H001AE23
3J048AB12
3J048AD01
3J048BE02
3J048BE09
3J048CB13
3J048EA07
(57)【要約】
【課題】空気圧アクチュエータとサーボバルブで構成される空気圧サーボを高加速度・制振制御への適用を試みた場合、定常状態における空気消費量が大きい、応答性が悪いという課題があった。
【解決手段】制振制御と除振制御を交互に繰り返す製造プロセスにおいて、除振用アクチュエータと空圧式制振用アクチュエータを同一方向の発生力成分を有するように独立して配置する。前記除振用アクチュエータと前記制振用アクチュエータ、及び、制振用サーボバルブを分離して駆動することで、除振性能と制振性能のトレードオフの関係から解き放されて、それぞれベストな性能が得られる構成を選択できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
除振台と、
基礎と前記除振台間の振動伝達を抑制すると共に、前記除振台を前記基礎に対して支持する支持手段と、
前記除振台の微小振動を低減する機能を有する除振手段と、
前記除振台を加振させる振動発生源を有する環境下に前記除振台は設置されており、この振動発生源が前記除振台に与える加振力の情報に基づいて、前記除振台に発生する外乱を減殺する制振力を前記除振台に与える制振用アクチュエータとを備え、
この前記制振用アクチュエータはその内部の気体を吸排気する制振用バルブで駆動される気体圧式で構成されており、前記除振手段と前記制振用アクチュエータは同一方向成分の発生力を生じるように互いに独立して配置されていることを特徴とする流体制御システム。
【請求項2】
前記振動発生源が前記除振台に加える加振力の正方向成分をFA、前記加振力の負方向成分をFBとして、前記加振力FAと前記加振力FBを減殺するように、互いに逆方向の力を発生する2組の制振用アクチュエータのそれぞれを対向面上に配置したことを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項3】
前記除振手段に除振用アクチュエータを用いて、この除振用アクチュエータは除振用空気圧サーボバルブによって駆動されることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項4】
制振制御時において、前記制振用アクチュエータは大気圧近傍から供給源圧力以下の範囲で駆動されて、前記制振制御の開始前と終了後には前記制振用アクチュエータ内部圧力は大気圧近傍の状態を保つように、前記制振用バルブが駆動されることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項5】
前記除振用アクチュエータの供給源圧力、空気室容積、受圧面積のそれぞれをPsv、Vv、Avとして、前記制振用アクチュエータの供給源圧力、空気室容積、受圧面積のそれぞれをPsd、Vd、Adとしたとき、PsvAV
2/Vv<PsdAd
2/Vdとなるように構成されていることを特徴とする請求項3記載の流体制御システム。
【請求項6】
前記制振用バルブの制御ポートと、前記制振用アクチュエータの吸気孔とが概略直線流路で繋がるように、前記制振用バルブ、及び、前記制振用アクチュエータが配置されていることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項7】
前記制振用バルブの制御ポートと、前記制振用アクチュエータの吸気孔は、概略L字形状流路で繋がるように前記制振用バルブ、及び、前記制振用アクチュエータが配置されていることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項8】
前記制振用バルブ単体の特性は入力信号に対する発生圧力が非線形特性を有し、
該非線形特性が前記制振力に与える影響を低減する該非線形特性の補正手段が前記制振用バルブの駆動側に設けられており、
該非線形特性の前記補正手段で得られた駆動入力波形で前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項9】
前記制振用バルブ単体の非線形特性は、入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、入力信号印加開始近傍において出力が増加しない状態を保つ不感帯特性と、入力信号値に対する出力特性の非直線性と、目標出力に到達する入力信号値のバラツキと、のいずれかであることを特徴とする請求項8記載の流体制御システム。
【請求項10】
入力信号Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、0≦I≦I1の範囲で出力が増加しない状態を保つ不感帯特性を有する前記制振用バルブにおいて、制振制御を開始する時間t≒0の時点において、急峻に上昇する入力波形で前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする請求項9記載の流体制御システム。
【請求項11】
入力信号Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が非直線性を有する前記制振用バルブにおいて、前記制振用バルブの入力信号に対する前記出力特性が直線と仮定した場合を基準特性とし、入力信号値I=I0における前記基準特性の出力値をX=X0、出力特性が非直線性を有する場合の出力値をY=Y0として、前記基準特性との差ε=Y0-X0の大きさに対応した入力波形で前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする請求項9記載の流体制御システム。
【請求項12】
前記制振用バルブの入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性において、目標出力値に到達する入力信号値I=I0にバラツキを有する前記制振用バルブにおいて、入力信号の最大値をI=Imax、バラツキ幅ΔI2=Imax-I2として、0≦I≦Imaxの範囲で、バラツキ幅ΔI2が大きい程、駆動波形と駆動入力の最終値が小さくなるように前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする請求項9記載の流体制御システム。
【請求項13】
前記制振用アクチュエータの発生力を検出する発生力検出手段を更に備え、
当該発生力検出手段による情報に基づいて、前記加振力を減殺するように前記制振用バルブを駆動することを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項14】
前記加振力を減殺する逆位相の力を与えるための制振制御信号の目標値をF0(t)とし、前記発生力検出手段の出力から求められる前記制振用アクチュエータ発生力の実測値をF(t)として、前記目標値と前記実測値の偏差εが僅少化する発生力フィードバックにより、前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする請求項13記載の流体制御システム。
【請求項15】
前記発生力検出手段は、前記制振用バルブの制御室、あるいは、前記制振用アクチュエータの空気室、あるいは、前記制御室と前記空気室を繋ぐ流路のいずれかの箇所に配置された圧力センサであることを特徴とする請求項14記載の流体制御システム。
【請求項16】
前記制振用バルブは、電磁石と、フラッパと、このフラッパに対抗して配置されたノズルと、前記フラッパを固定するフラッパ支持部材と、前記ノズルと連絡する流体の吸気孔と排気孔とを備え、前記電磁石、前記フラッパ、ヨーク材により閉ループ磁気回路を構成して、前記電磁石の磁極と前記フラッパ間に発生する吸引力により前記フラッパを作動させて、前記フラッパと前記ノズル間で形成される流路の長さを可変させることにより、前記流体の圧力、もしくは流量を制御する構成であることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項17】
前記制振用バルブ単体の特性は入力信号に対する発生圧力が非線形特性を有し、該非線形特性が前記制振力に与える影響を低減する該非線形特性の補正手段が前記制振用バルブの駆動側に設けられており、該非線形特性の前記補正手段で得られた駆動入力波形で前記制振用バルブを駆動した請求項1記載の流体制御システムの制御方法であって、
当該流体制御システムを備える除振装置の調整段階において、前記流体制御システムにより前記制振用バルブの駆動入力波形を求めた後、前記除振装置の実施段階で該非線形特性の補正手段を適用しない状態で、前記駆動入力波形により前記制振用バルブを駆動することを特徴とする流体制御システムの制御方法。
【請求項18】
前記加振力を減殺する逆位相の力を与えるための制振制御信号の目標値をF0(t)、前記発生力検出手段の出力から求められる前記制振用アクチュエータ発生力の実測値をF(t)として、前記目標値と前記実測値の偏差εが僅少化する発生力フィードバックにより、前記制振用バルブを駆動した請求項14の流体制御システムの制御方法であって、
当該流体制御システムを備える除振装置の調整段階において、前記流体サーボシステムにより前記制振用バルブの駆動入力波形を求めた後、前記除振装置の実施段階で前記発生力フィードバックを解除した状態で、前記駆動入力波形により前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする流体制御システムの制御方法。
【請求項19】
前記流体制御システムが、前記制振用バルブ、あるいは、前記制振用アクチュエータなどの要素機器の違いによって、あるいは、生産タクト、供給圧力の設定値などの生産条件の違いによって、前記駆動入力波形を特定して、かつ選択して引き出せるデータの保存手段が適用できるように構成されていることを特徴とする請求項17記載の流体制御システムの制御方法。
【請求項20】
前記流体制御システムの調整段階において、前記制振用バルブを駆動する制御回路に組み込まれた比例増幅器、積分増幅器、又は微分増幅器などの補償回路を経て前記制振用バルブを駆動し、前記流体制御システムの実施段階において、前記補償回路が無効な状態で前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする請求項17又は18記載の流体制御システムの制御方法。
【請求項21】
前記発生力検出手段からの情報に基づいて前記制振用バルブを駆動する制御回路(A)と、前記発生力検出手段からの情報を遮断した状態で前記制振用バルブを駆動する制御回路(B)とを備え、前記制御回路(A)と前記制御回路(B)が切り替え可能に構成されていることを特徴とする請求項14記載の流体制御システム。
【請求項22】
前記圧力検出手段に圧力センサを用いて、この圧力センサは前記制振用バルブ、あるいは、前記制振用アクチュエータなどから着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項15記載の流体制御システム。
【請求項23】
前記制振用バルブの内部に形成された制御室と、この制御室と前記制振用アクチュエータを繋ぐ配管と、前記制振用アクチュエータの空気室とで構成される流体空間において、前記空気室への気体の吸気時、あるいは排気時において、気体の動圧の影響を受けにくい淀み状態となる前記流体空間の箇所に前記圧力検出手段を設置したことを特徴とする請求項15記載の流体制御システム。
【請求項24】
前記淀み空間の圧力を検出する箇所は、前記制振用バルブの前記制御室、あるいは、前記前記空気室の前記配管の開口部から最大距離の位置であることを特徴とする請求項23記載の流体制御システム。
【請求項25】
前記制振用バルブの吸気側が供給圧源に連結されて、かつ、排気側が大気に開放された状態において、駆動入力値Iが零の状態をI=0、前記制御室に空気が流入して前記制御室圧力が上昇開始する該駆動入力値をI=I1として、0≦I≦I1の範囲を前記制振用バルブの不感帯域としたとき、この不感帯域を回避して該駆動入力値Iを制御したことを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項26】
除振台と、
当該除振台上で移動するステージと、
前記ステージを駆動するためのステージ駆動手段と、
前記除振台を基礎に対して支持すると共に、外部から加わる前記除振台への微小振動を低減する機能を有する除振用アクチュエータと、
前記ステージの加速と減速に伴う前記除振台への加振力の情報に基づいて、前記除振台に前記加振力を減殺する制振力を与える気体圧式の第1制振用アクチュエータと、
当該第1制振用アクチュエータよりも応答性が高く、作動原理の異なる第2制振用アクチュエータと、
前記第1制振用アクチュエータの発生力を検出する発生力検出手段とを備え、
前記発生力検出手段で求められた前記第1制振用アクチュエータ発生力の実測値をF(t)、前記ステージの移動に伴う除振台への加振力の情報に基づいて、前記加振力を減殺するように設定された発生力の目標値をF0(t)、前記目標値と前記実測値との差をΔF=F0(t)-F(t)として、ΔFが零に漸近するように前記第2制振用アクチュエータを駆動したことを特徴とする流体制御システム。
【請求項27】
前記第2制振用アクチュエータはローレンツ力で駆動されるリニアモータであることを特徴とする請求項26記載の流体制御システム。
【請求項28】
前記除振用アクチュエータは前記リニアモータであることを特徴とする請求項3、又は、27記載の流体制御システム。
【請求項29】
前記除振用アクチュエータと前記制振用アクチュエータは同軸上の発生力成分を持つように配置されていることを特徴とする請求項3記載の流体制御システム。
【請求項30】
前記除振用アクチュエータと前記制振用アクチュエータの変位、又は加速度などを共有して検出するセンサが配置されていることを特徴とする請求項29記載の流体制御システム。
【請求項31】
入力信号Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、0≦I≦I1の範囲で出力が増加しない状態を保つ不感帯特性を有する前記制振用バルブにおいて、制振制御を開始する時間t≒0の時点において、制振制御の待機時における入力信号をI=I0として、0≦I0≦I1の範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項32】
入力信号Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、0≦I≦I1の範囲で出力が増加しない状態を保つ不感帯特性を有する前記制振用バルブにおいて、制振制御を開始する時間t≒0の時点において、制振制御の待機時における入力信号をI=I0として、I0≧I1の範囲に設定すると共に、前記制振用アクチュエータの発生力の影響を低減するように、変位センサからの情報を基に前記除振用アクチュエータが作用するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項33】
前記加振力を減殺する逆位相の力を与えるための制振制御信号の目標値F0(t)、前記発生力検出手段の出力から求められる前記制振用アクチュエータ発生力の実測値F(t)として、前記目標値と前記実測値の偏差εが僅少化する発生力フィードバックにより、前記制振用バルブを駆動した請求項14記載の流体制御システムの制御方法であって、
空気圧の供給源側と前記サーボバルブの吸気孔の間には減圧弁などのレギュレータが設置されており、制振制御時に前記レギュレータ下流側の圧力降下よる前記制振用アクチュエータ発生力への影響を低減するように、前記発生力フィードバックが機能することを特徴とする流体制御システムの制御方法。
【請求項34】
前記ステージの移動に伴う前記加振力の情報に基づいて、加振開始から最大加速度までの立ち上がり時間をT(sec)、前記制振用バルブの作動状態における固有振動数をf0(Hz)として、f0>1/Tとなるように前記制振用バルブは構成されていることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【請求項35】
除振台と、
基礎と前記除振台間の振動伝達を抑制すると共に、前記除振台の前記基礎に対する支持手段と、
前記除振台を加振させる振動発生源を有する環境下に前記除振台は設置されており、この振動発生源が前記除振台に与える加振力の情報に基づいて、前記除振台に発生する外乱を減殺する制振力を与える制振用アクチュエータとを備え、
前記制振用アクチュエータはその内部の気体を吸排気する制振用バルブで駆動される気体圧式で構成されており、
前記制振用バルブの制御圧力を大気圧近傍から前記制振用バルブの供給圧近傍になるように制御したときに、
前記制振用バルブは入力信号に対する制御圧力が非線形特性を有し、
該非線形特性が前記制振力に与える影響を低減する該非線形特性の補正手段が前記制振用バルブの駆動側に設けられており、該非線形特性の前記補正手段で前記制振用バルブを駆動したことを特徴とする流体制御システム。
【請求項36】
除振台と、
基礎と前記除振台間の振動伝達を抑制すると共に、前記除振台の前記基礎に対する支持手段と、
前記除振台を加振させる振動発生源を有する環境下に前記除振台は設置されており、この振動発生源が前記除振台に与える加振力の情報に基づいて、前記除振台に発生する外乱を減殺する制振力を与える制振用アクチュエータとを備え、
前記制振用アクチュエータはその内部の気体を吸排気する制振用バルブで駆動される気体圧式で構成されており、
前記制振用バルブの制御圧力を大気圧近傍から前記制振用バルブの供給圧近傍になるように制御されており、
前記振動発生源が前記除振台に加える前記加振力の正方向成分をFA、前記加振力の負方向成分をFBとして、前記加振力FAと前記加振力FBを減殺するように、互いに逆方向の力を発生する2組の前記制振用アクチュエータのそれぞれを対向面上に配置したことを特徴とする流体制御システム。
【請求項37】
前記制振用バルブ単体の特性は入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力がヒステリシス特性を有し、かつ前記制振用バルブは閉ループ制御系の中に組み込まれていることを特徴とする請求項1記載の流体制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体関連装置、精密計測装置など、振動の影響を受けやすい精密機器を支持する除振装置を対象として、この除振装置を構成する流体サーボシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1.世の中のトレンド・・・商品側からの要請
半導体製造プロセス、液晶製造プロセス、精密機械加工などの様々な分野で、微細な外乱振動を遮断・抑制するための振動制御の利用が広がっている。上記プロセスで用いられる走査型電子顕微鏡、半導体露光装置(ステッパ)などの微細加工・検査装置は、装置の性能を保障するための厳しい振動許容条件が要求される。外乱振動の影響を受け易い装置をアクチュータで支持すると共に、上記振動を減殺するようにアクチュエータを制御するアクティブタイプの精密除振台が用いられてきた。
近年の製品性能の向上に伴う微細化、精密化の要請に加えて、生産性向上のための設備の大型化、高速化が進んでいる。これに伴い、装置を支える除振装置においても、外乱振動の除去性能の向上に加えて、装置そのもの大型化や制御力の増加、多機能化が求められるようになってきている。
【0003】
2.空気圧サーボによるアクティブ除振台
除振台が支持する装置の大型化のトレンドに伴い、空気圧アクチュエータの長所を生かした空気ばね式除振台が、超精密機器の微振動制御に広く用いられているようになっている。
図40に、空気圧アクチュエータを用いたアクティブ除振台のモデル図を示す。このアクティブ除振台は、特許文献1、特許文献2にも記載されているように公知のものである。床面580には、定盤581を支持するための複数組の空気圧アクチュエータ(582a、582b)が配置されている。この定盤581の上に精密装置(詳細は図示せず)が搭載される。空気圧アクチュエータは、垂直方向の荷重を支持するための、内部に高圧空気が充填された空気室583と、この空気室の上部にダイヤフラム584を介して内挿されたピストン585から構成される。空気室583には、配管593を介して、前記2つのコントローラG
1とG
2の出力により制御されるサーボ弁593が接続されている。電空変換器であるサーボ弁593により、空気室583へ供給・排気される圧縮空気の流量を調整することで、空気室583の内圧P
aが制御される。ここで、サーボ弁593は、外部から供給圧P
Sの気体を供給し、前記コントローラG
1、G
2により制御信号を与えられて所望の気体圧P
aに調整して出力し、一部は大気P
0に排気する機能を有する。
【0004】
上記アクティブ除振台は、フィードバック制御(FB制御)とフィードフォワード制御(FF制御)の2つの制御系から構成される。
【0005】
(1)フィードバック制御
586、587a、587bは、定盤581の垂直・水平方向の加速度と、床面580に対する定盤581の相対変位をそれぞれ検出するための加速度センサ及び変位センサである。588は、床面580の加速度(基礎の振動状態)を検出する加速度センサである。これら各センサからの出力信号がそれぞれフィードバック制御のコントローラG1589に入力される。
【0006】
(2)フィードフォワード制御
590は定盤581の上に搭載されたステージである。このステージの挙動信号(鎖線)は、フィードフォワード制御(FF制御)のコントローラG2591に入力される。ステージの挙動信号はステージを駆動するドライバーの入力信号(2点鎖線592)が用いられる。フィードフォワード制御はステージの加速・減速時の加振によって、除振装置に発生する振動を低減させるために適用される。上記(1)のフィードバック制御(FB制御)によって自由振動が収まる時間は改善されるが、ステージ加減速の瞬間の応答を低減することはできない。それに対しステージFF制御は瞬間的な外乱入力を抑制する効果を有する。また大重量ステージの場合、ステージ移動に伴う除振装置上の荷重の変化によってステージが傾斜して低周波振動が発生する。ステージFFを適用すると、FB制御だけの場合と比較して、振動を大幅に抑制することができる。
【0007】
(3)従来サーボ弁の構造
空気圧アクチュエータを用いた空気圧サーボ装置であるアクティブ除振台において、アクチュエータの圧力と流量制御を行うために、ノズルフラッパ弁が主に用いられてきた。このノズルフラッパ弁は、たとえば、特許文献3に開示されているもので、その作動原理は一般に広く用いられているものである。
図41は、従来サーボバルブの作動原理をモデル化した構造図を示すものである。サーボバルブの構成は大きく分けて、アクチュータ部A-1と流体制御部B-1に分けることができる。アクチュータ部A-1において、551はマグネット(永久磁石)、552はコイル、553はこのコイルを収納するボディ、554はフラッパ、555a、555bは先端を対抗させて取り付けられた一対のヨーク、556はアクチュータ側のフラッパ先端部である。557はシール部材を兼ねた板ばね、558は前記板ばねの支持中心部である。
【0008】
流体制御部B-1において、560は順方向ノズル、561は逆方向ノズル、562は流体制御部側のフラッパ先端部である。563は供給口、564は排気口、565は負荷口(制御ポート)、566は制御室である。供給圧PSの気体は順方向ノズル560を経て制御室566に供給される。同時に制御室566内の気体は逆方向ノズルを経て大気に流出される。前記順方向ノズルからの流入量と前記逆方向ノズルからの流出量との差で、制御室566内の制御圧Paと負荷口565からの流出量が決定される。但し、実際に使用されるサーボバルブの構造は、永久磁石の磁気回路と電磁石の磁気回路が、直交して配置される3次元構造になっている。上記空気圧サーボバルブの基本構造は、長い歴史を有する油圧サーボバルブの技術を応用して派生的に生みだされたもので、電気油圧制御弁の一次制御弁(パイロット弁)として用いられているものである。
【0009】
特許文献4には、上記電気油圧制御弁の二次制御弁として用いられるスプール式を改良した気体圧制御弁が開示されている。
図42に示すこの気体圧制御弁は、大きく分けて、スプール501、リニアモータ502、速度検出センサ503、制御部504より構成される。スプール501はスリーブ505に軸方向移動可能に支持されており、かつ前記スプールには、左側ランド部506、第1プランジ507、第2プランジ508、中央ランド部509、右側ランド部510が形成されている。左側ランド部506と右側ランド部510は、スリーブ505に対して静圧軸受により非接触支持されている。スリーブ505には、供給口511、負荷口512、排気口513が形成されている。514は制御圧力室である。リニアモータ502は、コイル515、磁石516、移動体517により構成される。また同様に、速度検出センサ503は、コイル518、磁石519、移動体520により構成される。スプール501はリニアモータ502によって軸方向に移動駆動される。521、522は、スプール501を両端で支持するつり合いばねである。スリーブ505の負荷口512と中央ランド部509の相対位置関係で制御圧力室514の圧力が変化するが、スプール501とスリーブ505を段付き構造とすることで、リニアモータの駆動電流と出力圧力とが比例関係にできる、としている。
【0010】
3.リニアモータ方式によるアクティブ除振台
制振性能の向上を図るために、空気圧アクチュエータと比べて、応答性が高いとされるリニアモータがアクティブ除振台に適用されている。
図43は特許文献5に開示されているもので、半導体露光装置における除振手段を備えたステージ装置を上から見たときの構成を示す。601は除振台、602はYステージ、603a,603bはY軸リニアモータ、604はXステージ、605はX軸リニアモータ、606a,606bは除振台601をY軸方向に駆動するY軸アクチュエータであり、607a,607bは除振台601をX軸方向に駆動するX軸アクチュエータである。
【0011】
除振台601は、X軸に垂直な受面601aと、Y軸に垂直な受面601bとを有し、床の上に所定の姿勢にて保持される。Y軸リニアモータ603a,603bとX軸リニアモータ605とは、それぞれ対応するYステージ602とXステージ604とを駆動するための複数のステージ駆動機構を構成している。Y軸アクチュエータ606a,606bは、ダンパ(図示せず)を介して床F等の上に支持されており、除振台601の受面601bに係合する伝達部材612を介して該除振台601にY軸方向の力を与える。X軸アクチュエータ607a,607bは、除振台601の受面601aに係合する伝達部材614を介して該除振台601にX軸方向の力を与える。
【0012】
除振台601はマウント(図示せず)によって外部からの振動を伝達しないように支持されている。除振台601上にはXYステージが搭載されており、2つのY軸リニアモータ603a,603bはXYステージ全体をY軸方向に駆動する。Yステージ2上にXステージ604とX軸リニアモータ605が搭載されており、X軸リニアモータ605はXステージ604をX軸方向に駆動する。前記2つのY軸リニアモータ603a,603bと同一直線上には、対応するY軸アクチュエータ606a,606bが配置されており、XYステージのY方向駆動反力による揺れを抑えるように除振台601を駆動する。X軸アクチュエータ607a,607bはXYステージのX方向駆動反力による揺れを抑えるように除振台601を駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006-283966号公報 アクティブ除振台
【特許文献2】特開2007-155038号公報 アクティブ除振台
【特許文献3】特開平11-294627号公報 ノズルフラッパ弁
【特許文献4】特許第4636830号公報 スプール弁
【特許文献5】特開2001-93798号公報 リニアモータ
【特許文献6】特開2008-69890号公報 キャノン特許
【特許文献7】特開2003-74620号公報 藤倉ゴム特許
【特許文献8】特開2015-24794号公報 MVバルブ基本特許
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、半導体関連事業の動向により、新たな課題が浮上した。半導体関連装置の一層の高スループット化に伴い、除振台に対する大幅な制振性能向上の要請である。露光装置、検査装置にはワーク搬送の可動ステージが備わっており、可動ステージを搭載したアクティブ除振装置には、可動ステージの加速・減速に伴う定盤の振動を高速、かつ高精度に減殺できる制振制御が必要となった。
【0015】
ステージの加速・減速時間を4~8ミリ秒のオーダーで、加速度α=2G(2×9.8m/s2)に設定した場合を想定する。ステージ質量mと加速度αで決まる慣性力F=mαの反力が除振台に加わるために、たとえば、ステージ質量m=100Kgとした場合、F=2000Nの衝撃荷重を減殺する制振制御が必要となる。この高加速度・制振制御を実現させるキーポイントは、大きな発生力と高い応答性の両方を併せ持つ新駆動システムの実現である。さらに、この新駆動システムには、従来アクティブ除振装置と同様に、低周波域での除振性能も要求される。
【0016】
以下、(1)リニアモータ方式、(2)空気圧サーボ方式、の2つの方式の長短所の対比の基で、上記新駆動システムの実現可能性について考察する。
【0017】
1.従来リニアモータ方式の課題
リニアモータ方式の場合、応答性に優れるが、モータ単体の発生力は、発熱面などの制約から、100~150N程度が限界とされる。ローレンツ力(Lorentz force)を作動原理とするリニアモータ方式は、空気圧電磁弁の磁気吸引力(Maxwellの応力)と比べて、電気・機械変換効率が悪く、大電力駆動を必要とする。発熱面の課題は、リニアモータを構成するコイル絶縁被膜の許容限界温度、あるいは、除振台に搭載される半導体露光装置などに与える温度上昇の影響などが、許容される発熱量の制約条件となる。
【0018】
たとえば、F=2000Nの衝撃荷重を減殺するためには、6自由度方向でアクティブ除振台各軸の振動を抑制する数十台のリニアモータが必要となり、コスト面で大きな課題があった。
【0019】
2.従来空気圧サーボ方式の課題
(1)ノズルフラッパ弁
従来、多くの除振装置は精密機器の設置環境の改善を図るために、設置床面からの振動絶縁を図ることを目的として適用されてきた。この場合、アクチュエータの圧力と流量制御を行うために、ノズルフラッパ型のサーボバルブが主に用いられてきた。従来、アクティブ除振台に適用されてきたノズルフラッパ弁の最大制御流量は、Q=15~50L/min程度であった。このノズルフラッパ弁の基本構造を用いて、高加速度・制振制御、たとえば、ステージの加速・減速時間を数ミリ秒のオーダーで、加速度α=2G以上に設定した空気圧サーボを想定する。この場合にノズルフラッパ弁に要求される最大制御流量は、従来サーボバルブの5倍から10倍、すなわち、200~400L/minのオーダーとなる。ノズルフラッパ弁は、その動作原理から動作点(中立点)で消費空気流量が最も大きい。たとえば、最大制御流量が200L/minのノズルフラッパ弁の消費空気流量は100L/minである。この消費空気流量は、具体的な生産に寄与しない無駄なエネルギ損失である。アクティブ除振台を構成する一例として、4点支持アクティブ制御を想定する。この場合、空気圧アクチュータは四隅に配置され、ユニットの設置向きは、水平X方向に2点、Y方向に2点が対角に配置される。また各アクチュータはZ方向の荷重を支持するアクチュータも組み込まれる。したがって、総計8個の空気圧アクチュータが配置され、各アクチュータを制御するための総計8組の空気圧サーボバルブが必要である。そのため、アクティブ除振台全体で、定常状態(待機時)における空気消費流量が大幅に増大してしまうという課題があった。
【0020】
(2)スプール弁
ノズルフラッパ弁と基本駆動原理の異なるスプール弁は、定常状態での空気消費流量を小さく、かつ、最大制御流量を大きくできる、という長所を有する。しかし、ノズルフラッパ弁と比べて、性能面とコスト面で次のような課題があった。特許文献4に開示されているスプール式気体圧制御弁に一例を示すように、スプール式バルブをアクティブ除振台に適用する際の大きな課題は、可動部の一次の共振周波数を高くできないという点にある。
図42において、スプール501を含む可動部の共振周波数は、前記可動部の質量mと、つり合いばね521、522のばね定数Kにより決定される。一次の共振周波数は
とする、あるいはK/mの平方根に比例するために、質量mが小さい程、ばね定数Kが大きい程、高くできる。しかし、大流量の開口部を形成する前記スプール軸の軽量化には限界がある。また、ローレンツ力を利用したリニアモータ502の場合、入力電流に対する発生力の電気機械変換効率が小さく、大きな発生力は得られない。したがって、ばね522、522の剛性Kは小さくせざるを得なく、可動部の共振周波数を高くするのは困難である。アクティブ除振台に空気圧サーボバルブを適用するためには、「サーボバルブの一次共振点は十分に高く、数百Hz以上」の条件を満足させる必要がある。そのため、上記スプール式制御弁では、速度検出センサ503の信号を用いて、加速度フィードバック制御を施している。すなわち、加速度フィードバックを施すことで、系の固有振動数を制御面から低減できることを利用して、低周波の伝達特性を補っているのである。要約すれば、スプール501を駆動するリニアモータ502に加えて、速度検出センサ503、制御部504を内蔵させる上記スプール式気体圧制御弁は、構造が複雑化、大型化するという課題があった。
【0021】
さらに、スプール式気体圧制御弁において、スプール501はスリーブ505に軸方向移動可能に収納されて、リニアモータ502によって駆動される。前記スプールは、前記スリーブに対して静圧軸受により非接触支持されている。静圧軸受が適用されている理由は、前記スプールと前記スリーブ間の狭い半径方向隙間(δr=5~6μm)を、金属間接触することなく維持するためである。狭い半径方向隙間を保つことで、空気の粘性抵抗により、高圧から低圧への空気の漏洩を低減して、サーボバルブとしての機能が成立する。
【0022】
したがって、特許文献4に一例を示すように、スプール式気体圧制御弁は、前述した構造の複雑化に加えて、高精度の部品加工・組み立てを必要とし、ノズルフラッパ弁と比べて、大幅にコスト高になるという課題があった。また、ノズルフラッパ弁と同様に、各アクチュータを制御するための総計8組の空気圧サーボバルブが必要であるために、アクティブ除振台への適用はコスト面で困難な場合が多い。
【0023】
(4)空気圧サーボ方式の新たな課題・・・制振制御の高精度化と高加速度化
前述したように、半導体関連事業の動向により、アクティブ除振台の制振制御技術に新たな課題が浮上した。高加速度・制振制御を実現させるためには、数ミリ秒、あるいは0.1ミリ秒オーダーの精度で、フィードフォワード制御の目標波形を再現する発生力がアクチュータに必要となる。発生力に限界があるリニアモータと比べて、空気圧方式が発生力の点で有利であるのは明らかである。しかし、空気圧方式を高加速度・制振制御に適用する先行例、研究例は現段階では見られない。
【0024】
その理由として、前述したように、ノズルフラッパ弁を高加速度・制振制御のための空気圧サーボに適用した場合、定常状態における空気消費量が大きいという課題があった。ノズルフラッパ弁の代替案として、スプール式気体圧制御弁の適用を想定した場合、複雑なバルブ構造と高精度の部品加工を必要するために、ノズルフラッパ弁と比べて、大幅にコスト高になるという課題があった。
【0025】
さらに、ノズルフラッパ弁とスプール式気体圧制御弁に共通する次のような課題があった。制振性能(応答性)を向上させるためにサーボバルブを大流量化すると除振性能が低下する。その理由は、流量が増大する程、バルブ入力電流に対する制御流量の勾配が増加して、サーボバルブの分解能が低下するからである。すなわち、制振性能と除振性能は元来トレードオフの関係であった。これらの宿命的と思われる課題ゆえに、開発者に思索のさらなる深堀りを抑止するメンタルロック作用(思考停止)が働き、空気圧サーボによる制振制御の高精度化と高加速度化の試みは断念されていたと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
具体的に、本願の第1の発明は、除振台と、基礎と前記除振台間の振動伝達を抑制すると共に、前記除振台を前記基礎に対して支持する手段と、前記除振台の微小振動を低減する機能を有する除振手段と、前記除振台を加振させる振動発生源を有する環境下に前記除振台は設置されており、この振動発生源が前記除振台に与える加振力の情報に基づいて、前記除振台に発生する外乱を減殺する制振力を前記除振台に与える制振用アクチュエータとを備え、この前記制振用アクチュエータはその内部の気体を吸排気する制振用バルブで駆動される気体圧式で構成されており、前記除振手段と前記制振用アクチュエータは同一方向成分の発生力を生じるように互いに独立して配置したものである。
【0027】
すなわち、本発明においては、除振手段と気体式制振用アクチュエータ、及び、この気体式制振用アクチュエータ内部の気体を吸排気する制振用バルブを分離・独立して配置したものである。かつ、この2つのアクチュエータは同一方向の発生力成分を有するように配置されている。
【0028】
前述したように、制振制御に空気圧サーボを適用した場合、空気消費量が大きく、応答性が悪い、という課題があった。高加速度・制振制御のためにはサーボバルブの大流量化は必須条件である。従来の空気圧サーボにおいて、サーボバルブの大流量化を図った場合、定常時の空気消費量が増大してしまうという課題があった。除振手段と気体式制振用アクチュエータを分離して構成した本発明の場合、制振制御時に制振用サーボバルブに流れる大流量は瞬時(数ミリ~数十ミリ秒)だけである。したがって、平均空気消費量の大きさは問題にならない。
【0029】
また、除振と制振を兼ねた従来サーボバルブでは、制振性能を向上させるためにサーボバルブを大流量化すると除振性能低下するという課題があった。その理由は、流量が増大する程、バルブ入力電流に対する制御流量の勾配が増加して、サーボバルブの分解能が低下するからである。すなわち、制振性能と除振性能は元来トレードオフの関係であった。除振用と制振用を分離して構成した本発明では、除振用・制振用アクチュエータとサーボバルブは、それぞれベストな性能が得られる駆動原理・制御方法を選択できる。
【0030】
具体的に、本願の第2の発明は、前記振動発生源が前記除振台に加える加振力の正方向成分をFA、前記加振力の負方向成分をFBとして、前記加振力FAと前記加振力FBを減殺するように、互いに逆方向の力を発生する2組の制振用アクチュエータのそれぞれを対向面上に配置したものである。
【0031】
すなわち、本発明においては、制振用アクチュエータは独立して構成されるために、制御圧力の範囲に制約がない。大気圧から最大圧力(供給圧)に近い広い範囲で駆動できることを利用して、かつ、逆方向の力を発生するように、2組のアクチュエータのそれぞれを対向面上に配置する。その結果、前記除振台に加わる加振力に対して、その加振力を減殺するための大きな制振力(発生力)を得ることができる。
【0032】
具体的に、本願の第3の発明は、前記除振手段に除振用アクチュエータを用いて、この除振用アクチュエータは除振用空気圧サーボバルブによって駆動したものである。
【0033】
すなわち、本発明においては、一個の空気圧アクチュエータで、制振機能と除振機能を共有化していた従来空気圧サーボシステムの場合、制振性能と除振性能はトレードオフの関係であった。たとえば、(1)制振制御の高速化のために, 空気圧アクチュエータの空隙を狭くすると除振性能が低下する。(2)除振性能向上のために, 空気圧アクチュエータの空隙を大きくすると制振性能が低下する。上記(1)(2)の妥協点で制振性能と除振性能を選択せざるを得なかった。除振と制振の空気圧式アクチュエータを独立配置した本発明では、流体制御システムは、ベストな制振性能と除振性能を同時に得ることができる。
【0034】
具体的に、本願の第4の発明は、制振制御時において、前記制振用アクチュエータは大気圧近傍から供給源圧力以下の範囲で駆動されて、前記制振制御の開始前と終了後には前記制振用アクチュエータ内部圧力は大気圧近傍の状態を保つように、前記制振用バルブを駆動したものである。
【0035】
すなわち、本実施形態においては、制振制御が終了した時点で、制振用アクチュエータの空気室を大気解放するように設定した。この設定により、制振制御から除振制御に移行した段階で、制振用と除振用アクチュエータの空気室バネが並列接続されていることによる共振周波数増加の課題が解消される。すなわち、除振制御の段階で、制振用アクチュエータのバネ剛性が零、あるいは、零に近い状態を保つことで、制振用アクチュエータの存在は除振性能に影響を与えない。
【0036】
また独立して構成される制振用アクチュエータは、大気圧から最大圧力(供給圧)に近い広い範囲で駆動できるために、大きな発生力を得ることができる。最大発生力を得る場合は、制振用サーボバルブのフラッパと吸気側ノズルの開度は、開度零の状態から最大開度までフルストロークで駆動すればよい。
【0037】
具体的に、本願の第5の発明は、前記除振用アクチュエータの供給源圧力、空気室容積、受圧面積のそれぞれをPsv、Vv、A vとして、前記制振用アクチュエータの供給源圧力、空気室容積、受圧面積のそれぞれをPsd、V d、A dとしたとき、PsvAV
2/Vv<PsdAd
2/Vdとなるように構成したものである。
【0038】
すなわち、本発明においては、除振用と制振用のアクチュエータに要求される特性を、空気バネの剛性で評価すると次のようである。除振用と制振用のアクチュエータの受圧面積をA v、A d、空気室の容積をVv、V d、除振用の空気室内の圧力Pavは供給源圧力Psvの1/2を動作点と仮定して、Pav=Psv/2とする。制振用の空気室内の圧力Padも同様に、Pad=Psd/2とする。したがって、除振用、及び、制振用アクチュエータの空気バネの剛性は、Kv=PsvAV
2/Vv、Kd=PsdAd
2/Vdである。この2つの空気バネの剛性は任意の値に設定できる。
【0039】
除振用は低周波域での除振性能を得るために、出来るだけ柔らかく、制振用は高い応答性を得るために、出来るだけ硬く構成すればよい。要約すれば、Kv<Kdとなるように、すなわち、PsvAV
2/Vv<PsdAd
2/Vdとなるように各アクチュエータの仕様と適用条件を設定すればよい。
【0040】
具体的に、本願の第6の発明は、前記制振用バルブの制御ポートと、前記制振用アクチュエータの吸気孔とが概略直線流路で繋がるように、前記制振用バルブ、及び、前記制振用アクチュエータを配置したものである。
【0041】
すなわち、本発明においては、前記制振用アクチュエータの吸気孔と、前記制御ポートと前記吸気孔は、複雑な屈曲した流路を介することなく、直線流路で結合したものである。数ミリ秒オーダーの立ち上がり、立ち下がり特性が要求される高加速度制振動制御を実現する上で有利な構成となる。
【0042】
具体的に、本願の第7の発明は、前記制振用バルブの制御ポートと、前記制振用アクチュエータの吸気孔は、概略L字形状流路で繋がるように前記制振用バルブ、及び、前記制振用アクチュエータを配置したものである。
【0043】
すなわち、本発明においては、前記制振用アクチュエータの吸気孔と、前記制御ポートと前記吸気孔は、複雑で多くの屈曲した流路を介することなく、概略L字形状流路だけで結合したものである。前述した直線流路での結合に準ずる低流路抵抗の流路形状となる。
【0044】
具体的に、本願の第8の発明は前記制振用バルブ単体の特性は入力信号に対する発生圧力が非線形特性を有し、該非線形特性が前記制振力に与える影響を低減する該非線形特性の補正手段が前記制振用バルブの駆動側に設けられており、該非線形特性の前記補正手段で得られた駆動入力波形で前記制振用バルブを駆動したものである。
【0045】
すなわち、本発明においては、空気圧方式を高加速度・制振制御に適用する先行研究例は過去に見られなかった理由として、空気圧サーボは、(i)空気消費量が大きい、(ii)応答性が悪い、という公知の課題に加えて、今まで掘り下げた研究例の無かった課題、すなわち、(iii)制振制御の高精度化に注目したものである。すなわち、サーボバルブの非線形特性が、上記(iii)の実現を阻害する重要な要因である。該非線形特性の前記補正手段で得られた駆動入力波形により、前記制振用バルブを駆動することで、高加速度・制振制御を高精度で実現できる。
【0046】
具体的に、本願の第9の発明は、前記制振用バルブ単体の非線形特性は、入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、入力信号印加開始近傍において出力が増加しない状態を保つ不感帯特性と、入力信号値に対する出力特性の非直線性と、目標出力に到達する入力信号値のバラツキと、のいずれかを有するものである。
【0047】
すなわち、本発明においては、入力電流に対する発生力が正比例関係にあるリニアモータ特性と対比の基で、空気圧サーボ固有の課題がサーボバルブの3つの非線形特性であることに注目したものである。すなわち、入力開始時の不感帯特性と、出力特性の非直線性と、目標出力に到達する入力信号値のバラツキである。
【0048】
具体的に、本願の第10の発明は入力信号Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、0≦I≦I1の範囲で出力が増加しない状態を保つ不感帯特性を有する前記制振用バルブにおいて、制振制御を開始する時間t≒0の時点において、急峻に上昇する入力波形で前記制振用バルブを駆動したものである。
【0049】
すなわち、本発明においては、入力電流I=0のときに、供給側流路を遮断させるのは、サーボバルブの種類に係らず必須要件であり、不感帯の存在は回避できない。かつ、フラッパに加える予圧の大きさは、バルブ部品精度の集積誤差を考慮して、最終組み立て段階で設定される。そのため、不感帯ΔI1の幅はバラツキを持っている、という前提で解決策を見出したものである。ここで、不感帯ΔI1の幅とは、信号値範囲0≦I≦I1の大きさを示す。
【0050】
制振制御の開始直後、サーボ弁を急峻に上昇するパルス波形で駆動することで、不感帯の影響を解消することができる。この知見により、フラッパ変位の不感帯の大小に係わらず、目標のFF信号に漸近した過渡応答特性を得ることができる。したがって、制振制御を開始する時間t≒0の時点で入力信号I=0の場合は、I= I1のパルス波形を入力すれば、ベストな応答波形が得られる。
【0051】
具体的に、本願の第11の発明は、入力信号Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が非直線性を有する前記制振用バルブにおいて、前記制振用バルブの入力信号に対する前記出力特性が直線と仮定した場合を基準特性とし、入力信号値I=I0における前記基準特性の出力値をX=X0、出力特性が非直線性を有する場合の出力値をY=Y0として、前記基準特性との差ε=Y0-X0の大きさに対応した入力波形で前記制振用バルブを駆動したものである。
【0052】
すなわち、本発明においては、サーボバルブ構成する要素部品の特性は非線形である。圧力比と開口面積できまる吸排気ノズルの流量特性は元来非線形であり、ヒスリシスと磁気飽和現象を伴う電磁石、永久磁石などの磁気特性も非線形である。また、サーボバルブは多くの精密部品で構成されており、複雑な調整工程を経て組み立てられるため、集積誤差による特性のバラツキは避けられない、という前提で解決策を見出したものである。
【0053】
具体的に、本願の第12の発明は、前記制振用バルブの入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性において、目標出力値に到達する入力信号値I=I0にバラツキを有する前記制振用バルブにおいて、入力信号の最大値をI=Imax、バラツキ幅ΔI2= Imax- I2として、0≦I≦Imaxの範囲で、バラツキ幅ΔI2が大きい程、駆動波形と駆動入力の最終値が小さくなるように前記制振用バルブを駆動したものである。
【0054】
すなわち、本発明においては、前記不感帯と前記非直線性などを有するバルブ特性ゆえに、制御圧力最大圧力に到達する入力電流にもバラツキΔI2が発生する。この知見により、到達時の電流値バラツキの大小に係わらず、目標のFF信号に漸近した過渡応答特性を得ることができる。
【0055】
具体的に、本願の第13の発明は、前記制振用アクチュエータの発生力を検出する発生力検出手段を更に備え、当該発生力検出手段による情報に基づいて、前記加振力を減殺するように前記制振用バルブを駆動したものである。
【0056】
すなわち、本発明が提案する高精度・高加速度制振制御において、サーボバルブで駆動される空気圧アクチュエータの発生力は、サーボバルブの駆動入力電流波形I(t)だけで決まる、という点に注目する。すなわち、この駆動入力電流波形I(t)が得られるならば、非線形・応答性補正手段はどの様な方法でもよい。この非線形・応答性補正手段を実施可能にするためには、圧力センサ、ロードセルなどの発生力検出手段によって計測された空気アクチュエータ発生力の情報が必須である。
【0057】
具体的に、本願の第14の発明は、前記加振力を減殺する逆位相の力を与えるための制振制御信号の目標値をF0(t)とし、前記圧力検出手段の出力から求められる前記制振用アクチュエータ発生力の実測値をF (t)として、前記目標値と前記実測値の偏差εが僅少化する発生力フィードバックにより、前記制振用バルブを駆動したものである。
【0058】
すなわち、本発明においては、前記目標値と前記実測値との偏差ε=F0(t)-F(t)→0となるように発生力フィードバックを施すことにより、サーボバルブを駆動したものである。その結果、(i)バルブ特性の非線形性、(ii)バルブ特性のばらつき、(iii)供給圧設定などの生産条件の変化、等に影響を受けることなく、高精度のFF制御が実現できる。また、発生力フィードバックにより、空気圧アクチュエータ、配管等の容積、配管の流体抵抗等の遅れ要素を全て含めて、これらの伝達特性の応答性を向上させる効果が得られる。さらに、調整工程において、作業者に特殊なスキルも必要とせず、容易に高精度FF制御が実現できる。
【0059】
さらに、発生力フィードバックは予測不可の外乱に対して絶大な効果を発揮する。前記サーボバルブの吸気孔の上流側に設置される減圧弁では、制振制御時に大流量を流したときに、吸気孔の上流側圧力は急峻に降下することが分かった。この供給源圧力変動の課題に対して、リアルタイムで発生力フィードバックを施すことで、制振制御時の発生力(制御圧力)は、常に正確な目標値を保つことができる。
【0060】
具体的に、本願の第15の発明は、前記発生力検出手段は、前記制振用バルブの制御室、あるいは、前記制振用アクチュエータの空気室、あるいは、前記制御室と前記空気室を繋ぐ流路のいずれかの箇所に配置された圧力センサとしたものである。
【0061】
すなわち、本発明においては、発生力の実測値を検出するために、圧力センサを用いた。空気室のピストン面積Sとして、圧力センサの圧力Pから発生力の実測値 F (t)(=P×S)が得られる。本発明では、圧力センサによる圧力FB制御は制振制御時のみで、除振制御時には圧力FB制御は施さない。圧力センサは分解能が悪く、微振動制御への適用は困難であるという知見を前提とした提案である。
【0062】
一個の空気圧アクチュエータで、制振機能と除振機能を共有化していた従来空気圧サーボシステムの場合、圧力センサと加速度センサの併用は困難であったと予想される。その理由は、両センサを併用した場合、分解能の悪い圧力センサにより、除振性能が支配されてしまうからである。除振用と制振用を分離して構成した本発明の流体制御システムでは、除振制御に用いられる加速度センサと比べて、分解能が桁違いに低い圧力センサの適用は、制振制御では問題にならない。
【0063】
具体的に、本願の第16の発明は、前記制振用バルブは、電磁石と、フラッパと、このフラッパに対抗して配置されたノズルと、前記フラッパを固定するフラッパ支持部材と、前記ノズルと連絡する流体の吸気孔と排気孔とを備え、前記電磁石、前記フラッパ、ヨーク材により閉ループ磁気回路を構成して、前記電磁石の磁極と前記フラッパ間に発生する吸引力により前記フラッパを作動させて、前記フラッパと前記ノズル間で形成される流路の長さを可変させることにより、前記流体の圧力、もしくは流量を制御する構成としたものである。
【0064】
すなわち、本発明においては、制振用サーボバルブにノズルフラッパ弁を用いたものである。ノズルフラッパ弁は、その動作原理から動作点(中立点)で消費空気流量が最も大きく、高加速度・制振制御への適用を図った場合、定常時の空気消費流量が大幅に増大してしまうという課題があった。ノズルフラッパ弁の代替案として、基本駆動原理の異なるスプール弁は定常状態での空気消費流量を小さくできる。しかし、スプール弁は、構造が複雑化で、高精度の部品加工・組み立てを必要とし、ノズルフラッパ弁と比べて、大幅にコスト高になるという課題があった。
【0065】
除振用アクチュエータと気体式制振用アクチュエータを分離して構成した本発明の場合、前述したように、制振制御時に制振用サーボバルブに流れる大流量は瞬時(数ミリ~数十ミリ秒)だけである。したがって、平均空気消費量の大きさは問題にならないために、大流量化したノズルフラッパ弁を適用できる。その結果、各アクチュータを制御するために、多数のサーボバルブを必要とするアクティブ除振台全体の大幅なコストサウンが図れる。
【0066】
具体的に、本願の第17の発明は、前記制振用バルブ単体の特性は入力信号に対する発生圧力が非線形特性を有し、該非線形特性が前記制振力に与える影響を低減する該非線形特性の補正手段が前記制振用バルブの駆動側に設けられており、該非線形特性の前記補正手段で得られた駆動入力波形で前記制振用バルブを駆動した本願の第6の発明の流体制御システムの制御方法であって、当該流体制御システムを備える除振装置の調整段階において、前記流体制御システムにより前記制振用バルブの駆動入力波形を求めた後、前記除振装置の実施段階で該非線形特性の補正手段を適用しない状態で、前記駆動入力波形により前記制振用バルブを駆動するものである。
【0067】
すなわち、本発明においては、調整段階で適用した非線形・応答性補正手段は実施段階では適用せず、調整段階で得られたサーボバルブの入力駆動信号だけを用いたものである。
【0068】
本発明は、制振制御において、サーボバルブで駆動される空気圧アクチュエータの発生圧力(発生力)は、サーボバルブの駆動入力電流波形(A)だけで決まる、という点に着目したものである。すなわち非線形・応答性補正手段の役割は、発生圧力(発生力)が目標入力値(FF信号)になるように駆動入力電流波形(A)のプロフィールを決定する作用である。したがって、次のステップでは、非線形・応答性補正手段を施さなくても、駆動入力電流波形(A)でサーボバルブを駆動すれば、同一の圧力特性が得られる。
【0069】
具体的に、本願の第18の発明は、前記加振力を減殺する逆位相の力を与えるための制振制御信号の目標値を F0(t)、前記圧力検出手段の出力から求められる前記制振用アクチュエータ発生力の実測値を F (t)として、前記実測値と目標値との偏差ε=F (t)-F0(t)が僅少化する圧力フィードバックにより前記制振用バルブを駆動した本願の第14の流体制御システムの制御方法であって、当該流体制御システムを備える除振装置の調整段階において、前記流体サーボシステムにより前記制振用バルブの駆動入力波形を求めた後、前記除振装置の実施段階で前記圧力フィードバックを解除した状態で、前記駆動入力波形により前記制振用バルブを駆動したものである。
【0070】
すなわち、本発明においては、制振制御において、サーボバルブで駆動される空気圧アクチュエータの発生圧力(発生力)は、サーボバルブの駆動入力電流波形(A)だけで決まる、という点に着目したものである。そのために、調整段階で適用した圧力フィードバックは実施段階では適用せず、調整段階で得られたサーボバルブの入力駆動信号だけを用いればよい。すなわち圧力フィードバックの役割は、発生圧力(発生力)が目標入力値(FF信号)になるように駆動入力電流波形(A)のプロフィールを決定する作用である。したがって、次のステップでは、圧力フィードバック施さなくても、駆動入力電流波形(A)でサーボバルブを駆動すれば、同一の圧力特性が得られる。
【0071】
具体的に、本願の第19の発明は、前記流体制御システムが、前記制振用バルブ、あるいは、前記制振用アクチュエータなどの要素機器の違いによって、あるいは、生産タクト、供給圧力の設定値などの生産条件の違いによって、前記駆動入力波形を特定して、かつ選択して引き出せるデータの保存手段が適用できるように流体制御システムを構成したものである。
【0072】
すなわち、本発明においては、非線形・応答性補正手段を適用して得られたサーボバルブ駆動入力波形を、生産条件を特定して、コンピュータのサーバーなどに保存する。特定された生産条件ナンバーとは、サーボバルブの製品番号、空気圧アクチュータの仕様、吸気・排気の配管仕様、供給源設定圧力、生産タクトなど、量産時に同一条件で再現できる調整時の仕様である。
【0073】
量産段階では非線形・応答性補正手段は施さず、前記コンピュータのサーバー等に保存されている特定された生産条件ナンバーの駆動入力波形を選び、サーボバルブを駆動する。
【0074】
具体的に、本願の第20の発明は、前記流体制御システムの調整段階において、前記制振用バルブを駆動する制御回路に組み込まれた比例増幅器、積分増幅器、又は微分増幅器などの補償回路を経て前記制振用バルブを駆動し、前記流体制御システムの実施段階において、前記補償回路が無効な状態で前記制振用バルブを駆動したものである。
【0075】
すなわち、本発明においては、調整段階では目標信号と発生力フィードバック信号の偏差εを零に漸近させるためのPID制御装置が必要であるのに対して、前記流体制御システムの実施段階では、前記制振用バルブの駆動回路だけでよい点に注目したものである。
【0076】
具体的に、本願の第21の発明は、前記発生力検出手段からの情報に基づいて前記制振用バルブを駆動する制御回路(A)と、前記発生力検出手段からの情報を遮断した状態で前記制振用バルブを駆動する制御回路(B)とを備え、前記制御回路(A)と前記制御回路(B)が切り替え可能に構成したものである。
【0077】
すなわち、本発明においては、調整段階では前記圧力検出手段からの情報に基づいて制御回路Aを経て、前記制振用バルブを駆動する。量産段階では、前記コンピュータのサーバー等に保存されている入力電流波形を選び、制御回路(B)を経てサーボバルブを駆動する。前記制御回路(B)は、PID制御装置などは経由せず、主にサーボバルブの駆動回路だけで構成される。
【0078】
本発明は制御回路(A)と制御回路(B)を個別に設けるのではなく、前記制御回路(A)と前記制御回路(B)が切り替え可能に構成したものである。前記制御回路(A)と前記制御回路(B)を切り替え可能にする手段として、回路基板の取り換えでもよい。あるいは実施時の作業性を考慮して、パネル面での操作でもよい。
【0079】
具体的に、本願の第22の発明は、前記圧力検出手段に圧力センサなどを用いて、この圧力センサは前記制振用バルブ、あるいは、前記制振用アクチュエータなどから着脱自在に構成したものである。
【0080】
すなわち、本発明においては、圧力センサを用いた圧力フィードバックは量産段階では適用しなくてもよく、調整段階で得られたサーボバルブの入力駆動信号だけを用いればよい、という点を利用したものである。そのため、調整段階において、高精度(高価)な一個の圧力センサを、各制御軸の調整に交換しながら用いてもよい。
【0081】
具体的に、本願の第23の発明は、前記制振用バルブの内部に形成された制御室と、この制御室と前記制振用アクチュエータを繋ぐ配管と、前記制振用アクチュエータの空気室とで構成される流体空間において、前記空気室への気体の吸気時、あるいは排気時において、気体の動圧の影響を受けにくい淀み状態となる前記流体空間の箇所に前記圧力検出手段を設置したものである。
【0082】
すなわち、本発明においては、前記バルブの制御室と前記アクチュエータを繋ぐ配管と、前記アクチュエータの空気室で構成される空気流路において、加速・減速時に大流量の空気が各空気流路に流れる。流体の静圧と動圧の和は一定とするベルヌーイの定理から、流路面積が小さい箇所で速度が大きく、動圧が大きい。アクチュエータの発生力は静圧の大きさで決まるために、正確な発生力を検出するためには、動圧の小さな箇所に圧力センサを設置するのが好ましい。そのため、本実施形態では、動圧の影響を受けにくい淀み空間となる箇所に圧力センサを設置したものである。
【0083】
具体的に、本願の第24の発明は、前記淀み空間の圧力を検出する箇所は、前記制振用バルブの前記制御室、あるいは、前記前記空気室の前記配管の開口部から最大距離の位置に設定したものである。
【0084】
すなわち、本発明においては、動圧の影響を受けにくい淀み空間となる箇所である
前記制振用バルブの前記制御室、あるいは、前記前記空気室の前記配管の開口部から最大距離の位置(空圧アクチュータの外周端近傍)に、圧力センサを設置したものである。
【0085】
具体的に、本願の第25の発明は、前記制振用バルブの吸気側が供給圧源に連結されて、かつ、排気側が大気に開放された状態において、駆動入力値Iが零の状態をI=0、前記制御室に空気が流入して前記制御室圧力が上昇開始する該駆動入力値をI=I1として、0≦I≦I1の範囲を前記制振用バルブの不感帯域としたとき、この不感帯域を回避して該駆動入力値Iを制御したものである。
【0086】
すなわち、本発明においては、非線形・応答性の補正手段を施さない場合においても、不感帯特性が制振制御特性に与える影響を低減できる下記2つの方策(1)(2)を示すものである。
(1)制振制御の待機時における電流値I0を0≦I0≦I1の範囲に設定する
(2)制振制御の待機時における電流値I0をI0≧I1の範囲に設定する
【0087】
制振制御の待機時電流値I0が、上記(1)の範囲に設定されている場合は、制御室の圧力は大気圧に保たれている。待機時電流値I0→I1に近接することで、静特性における不感帯幅ΔI(=I1-I0)→0にできて、かつ、動特性における「むだ時間要素」ΔT→0にできる。
【0088】
制振制御の待機時電流値I0が、上記(2)の範囲に設定されている場合は、制振用バルブ制御室の圧力は大気圧よりも上昇している。この場合は、除振制御の機能が、制振用アクチュエータをサポートする。すなわち、固定側に対する可動側(定盤側)の距離が一定値を保つように、前記除振用アクチュエータにより位置制御がなされる。制振用アクチュエータの空気室の圧力上昇が微小であれば、圧力に比例する空気バネ剛性Kdは充分に小さくできるために、除振性能に与える影響を僅少にできる。
【0089】
要約すれば、0≦I0≦I1の範囲で不感帯幅を有するサーボバルブにおいて、I=I1を中心値に設定して、この中心値I1に対する誤差±ΔI1をできる限り僅少になるように待機時電流値を設定すれば、制振制御と除振制御に与える影響を低減できる。
【0090】
具体的に、本願の第26の発明は、除振台と、当該除振台上で移動するステージと、前記ステージを駆動するためのステージ駆動手段と、前記除振台を基礎に対して支持すると共に、外部から加わる前記除振台への微小振動を低減する機能を有する除振用アクチュエータと、前記ステージの加速と減速に伴う前記除振台への加振力の情報に基づいて、前記除振台に前記加振力を減殺する制振力を与える気体圧式の第1制振用アクチュエータと、当該第1制振用アクチュエータよりも応答性が高く、作動原理の異なる第2制振用アクチュエータを備えた流体制御システムであって、前記第1制振用アクチュエータの発生力を検出する発生力検出手段と、前記発生力検出手段で求められた前記第1制振用アクチュエータ発生力の実測値を F (t)、前記ステージの移動に伴う除振台への加振力の情報に基づいて、前記加振力を減殺するように設定された発生力の目標値をF0(t) 、前記目標値と前記実測値との偏差をΔF=F0(t)-F(t)として、ΔFが零に漸近するように前記第2制振用アクチュエータを駆動したものである。
【0091】
すなわち、本発明においては、前述した空気圧式アクチュエータを第1制振用アクチュエータとして、この第1制振用アクチュエータよりも応答性が高く、作動原理の異なる第2制振用アクチュエータを備えた駆動システムを想定したもので、それぞれの長所を活かし、短所を補う「ハイブリッド制御」を提案するものである。
【0092】
具体的に、本願の第27の発明は、前記第2制振用アクチュエータはローレンツ力で駆動されるリニアモータとしたものである。
【0093】
すなわち、本発明においては、空気圧サーボ方式とリニアモータ方式のいずれかを選択するのではなく、両方式を組み合わせて、かつそれぞれの長所を活かすことで、さらなる性能向上を図ることを提案するものである。すなわち、機構的な可動部を有しないがゆえに、高速の応答性が優れたリニアモータ方式と、空気圧サーボを組み合わせれば、高加速度・制振制御はさらに高いレベルまで実現可能である。
【0094】
具体的に、本願の第28の発明は前記除振用アクチュエータはリニアモータで構成したものである。
【0095】
すなわち、本発明においては、除振用アクチュエータに第2制振用アクチュエータであるリニアモータ方式を活用する。本発明の基本形態として、除振用と制振用を分離して構成しているために、除振用・制振用アクチュエータとその駆動手段は、それぞれベストな性能が得られる駆動原理・制御方法を選択できる。除振用アクチュエータは、制振用と比較して大きな発生力が必要としない点を考慮すれば、高速応答性の優れたリニアモータ方式が適用できる。すなわちリニアモータ方式は、本実施形態においては、「制振制御波形の整形」と「除振作用」の2つの役割を担うのである。本実施形態以外の用途にも、リニアモータ方式は除振用アクチュエータとして適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】本発明の第1実施形態であるアクティブ除振台のモデル図で、
図1aは正面断面図、
図1bは
図1aのAA矢視図
【
図2】本発明の第1実施形態に適用した制振用空気圧サーボバルブを示し、
図2aはその正面断面図、
図2bはノズル部の拡大図
【
図3】
図1bのBB部拡大図で、制振用アクチュエータと除振用アクチュエータを並列配置した図
【
図4】アクチュエータ空気室の隙間が圧力応答性に与える影響を評価するグラフ
【
図6】本発明の第1実施形態に適用した制振用と除振用空気圧アクチュエータとサーボバルブを示す図で、
図6aは全体の矢視図、
図6bは
図6aの鎖線部CCの断面図
【
図7】本発明の第2施形態である流体制御システムにおける水平方向アクチュエータ部のモデル図で、
図7bは
図7aの鎖線部CCの拡大図
【
図8】本発明の第2施形態である流体制御システムにおける垂直方向アクチュエータ部のモデル図
【
図9】入力電流に対するリニアモータ発生力の特性を示すモデル図
【
図10】入力電流に対する空気圧アクチュエータ発生力の特性示すモデル図
【
図11】吸気ノズルとフラッパの位置関係を示す図で、
図11aはフラッパが吸気ノズルを遮蔽した状態、
図11bはフラッパが吸気ノズルから離れた状態を示す図
【
図12】電流に対するディスク変位特性が不感帯を有する場合のモデル図
【
図13】電流に対するディスク変位特性が非直線性を有する場合のモデル図
【
図14】最大圧力到達時の電流値がバラツキを持っている場合のモデル図
【
図15】フラッパ変位特性が不感帯を有する場合において、圧力の過渡応答特性を示すグラフ
【
図16】不感帯特性Cにおいて、非線形特性の補正手段を施した場合の時間に対するサーボ弁の駆動電流特性を示すグラフで、
図16aは全体図、
図16bは
図16aの鎖線部拡大図
【
図17】フラッパ変位特性が非直線性を有する場合において、圧力の過渡応答特性を示すグラフ
【
図18】フラッパ変位特性が非直線性を有する場合において、非線形特性の補正手段を施した場合の時間に対するサーボ弁の駆動電流を示すグラフ
【
図19】フラッパ変位特性が最大変位到達時に電流値バラツキを有する場合において、圧力の過渡応答特性を示すグラフ
【
図20】フラッパが最大変位到達時に電流値バラツキを有する場合において、非線形特性の補正手段を施した場合の時間に対するサーボ弁の駆動電流を示すグラフ
【
図21】本発明の第4実施形態である空気圧サーボシステムのモデル図
【
図22】従来の制振制御において、入力電流に対する空気圧アクチュエータ発生力の静特性を示すモデル図
【
図23】本発明の制振制御において、入力電流に対する空気圧アクチュエータ発生力の静特性を示すモデル図
【
図24】第4実施形態に用いたサーボ弁の正面断面図
【
図25】
図1bおける空気圧アクチュエータとサーボバルブだけを抽出した図
【
図26】
図5で示した各アクチュエータの発生力の目標値を示すグラフで、
図26aはL側アクチュエータ、
図26bはR側アクチュエータの目標値を示すグラフ
【
図27】
図27a、
図27bは理論解析から得られた発生力実測値に相当する解析結果を示すグラフ
【
図28】2つの発生力の総和F=F
X1-F
X2を求めた解析結果を示すグラフ
【
図29】
図28で得られた発生力を求めるための解析ブロック図
【
図30】サーボバルブの各特性の解析結果を示すもので、図(a)は制御流量特性、図(b)は吸気流量特性、図(c)は排気流量特性、図(d)はディスク変位特性、図(e)は入力電流特性を示すグラフ
【
図33】本発明の第6実施形態である「ハイブリッド制御」を示す図
【
図34】空気アクチュータの発生力目標値F
0(t)の入力波形を示す図
【
図35】FF信号目標値の入力信号に対する出力応答波形を示す図
【
図37】電流値I
0を0≦I
0≦I
1の範囲に設定したときの制振用バルブの入力電流に対する制振用アクチュエータの発生力を示すグラフ
【
図38】電流値I
0をI
0≧I
1の範囲に設定したときの制振用バルブの入力電流に対する制振用アクチュエータの発生力を示すグラフ
【
図39】I
0≧I
1の場合において、除振用アクチュエータと除振用バルブが、制振用アクチュエータと制振用バルブの機能をサポートしている状態を示す図、
図39bは
図39aのAA部の拡大図
【
図40】空気圧サーボバルブを用いたアクティブ除振台のモデル図
【
図41】従来のノズルフラッパ式空気圧サーボバルブをモデル化した図
【
図42】従来のスプール式空気圧サーボバルブの正面断面図
【
図43】従来のリニアモータ方式によるアクティブ除振台
【発明を実施するための形態】
【0097】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態であるフィードフォワードによる制振制御(FF制御)を備えた流体制御システム(アクティブ除振台)のモデル図で、
図1aは正面断面図、
図1bは
図1aのAA矢視図である。
【0098】
[1]アクティブ除振台の構成
床面200(基礎)には、定盤201(除振台)を支持するための複数組の空気圧アクチュエータが配置されており、この定盤201の上に精密装置(図示せず)が搭載される。202は定盤201の上に搭載されたステージである。本実施形態では、前記ステージの加速・減速時の加速度αと、前記ステージ質量mで決まる慣性力F=mαの反力が前記定盤を加振させる振動発生源となる。この振動発生源が前記定盤に与える加振力の情報、すなわち、ステージの移動に伴う前記定盤への前記加振力の情報は、フィードフォワード制御のコントローラ(図示せず)に入力される。
【0099】
203aと203bは垂直Z軸方向を支持する空気圧アクチュエータ(除振手段)である。この空気圧アクチュエータは、前記床面と前記定盤間の振動伝達を抑制すると共に、前記定盤の前記床面に対する支持手段である。
【0100】
水平XY方向を支持する複数組のアクチュエータ構成は、「トルクバランス型」と呼ばれているもので、同図にモデル化して示す。204は床面側外枠部、205は定盤側内枠部である。4組の制振用空気圧アクチュエータ206a、206b、206c、206d、及び、制振用空気サーボバルブ207a、207b、207c、207d、及び、除振用空気圧アクチュエータ(除振手段)208a、208b、208c、208d、及び、除振用空気サーボバルブ209a、209b、209c、209dが、XY軸の軸芯から離れた位置で軸対称に配置されている。
【0101】
[2] 制振用サーボバルブの構造
[2-1] バルブ基本構造
図2は、本発明の実施形態に適用した制振用空気圧サーボバルブ(
図1bの207d)を示し、
図2aはその正面断面図、
図2bは後述するノズル部の拡大図である。上記サーボバルブは、本発明者らによって提案中(特許文献8)のもので、基本作動原理はノズルフラッパ型である。同図に、後述する上記サーボバルブを駆動する制御回路178とFF信号(フィードフォワード信号)入力波形179を記載している。
【0102】
150は筒部形状の中心軸、151はこの中心軸の底部、152は前記中心軸の軸芯と同芯円で形成された中心軸の外枠部、153は前記中心軸に装着されたコイルボビン、154は前記コイルボビンに巻かれたコイルである。中心軸150、中心軸底部151、中心軸の外枠部152、コイルボビン153、コイル154により、フラッパ(後述)を吸引して、その変位を制御する電磁アクチュエータを構成している。
【0103】
155は中心軸の底部151と外枠部152を収納する筒形状の排気側ハウジング、156はこの排気側ハウジング底部、157はハウジング底部156に形成された排気孔、158は中心軸150に形成された排気側流通路、159は吸気側ハウジング、160はこの供給側ハウジングの中心部に形成された吸気側流路、161は吸気孔である。162は空気圧アクチュエータ(後述)に繋がる制御側流路Aである。163は円盤(ディスク)形状のフラッパで、外周端において位置決めピン164により、吸気側ハウジング159と排気側ハウジング155の間で矜持される。フラッパ163はスパイラル形状の溝部(グルーブ)と峰部(リッジ)から構成されている(図示せず)。165は吸気側流路160に装着された吸気側ノズル(順方向ノズル)、166は排気側流通路158に装着された排気側ノズル(逆方向ノズル)である。
図2bにノズル部の拡大図を示す。
【0104】
167は吸気側ハウジング159とフラッパ163の間に形成される吸気側空隙部、168はフラッパ163と前記排気側ハウジング側との間に形成される排気側空隙部である。169は中心軸150のフラッパ弁側端面(中心軸端面)で、電磁石の第1磁極である。170は外枠部152のフラッパ側端面に形成された第2磁極である。171は吸気側ハウジング159と排気側ハウジング155の外周部を収納する外側スリーブである。また、前記吸気側空隙部と前記排気側空隙部は、フラッパ163の溝部(グルーブ)により貫通しており、上記2つの空隙部により、本バルブの制御室172を形成している。
【0105】
173はバルブ締結部材であり、このバルブ締結部材にサーボバルブ本体はボルト174により締結される。175は前記バルブ締結部材に形成された吸気側流路、176は制御側流路Bである。想像線で示す177は床面側外枠部204(
図1)に形成された制御側流路Cであり、制振用空気圧アクチュエータ206dの空気室(
図3で後述)に繋がっている。
【0106】
上述したノズルフラッパ型サーボバルブの基本作動原理を要約すれば、前記フラッパに対抗して前記吸気側ノズルと前記排気側ノズルが配置されており、前記電磁石の磁極と前記フラッパ間に発生する吸引力により前記フラッパを作動させて、前記フラッパと前記ノズル間で形成される流路の長さを可変させることにより、前記制御室の流体圧力、もしくは流量を制御する構成としたものである。
【0107】
[2-2] バルブを駆動する制御回路
178はサーボバルブ207dを駆動する制御回路である。179はステージ移動に伴う衝撃荷重を相殺するためのフィードフォワード信号(FF信号)F0(t)を示すものである。すなわち、除振台上でステージが加減速を繰り返す際に生じる除振台への加振を防止するために、この加振力と同じ大きさで逆位相の力(カウンターフォース)を入力波形の目標値とする。前記FF信号はステージ駆動機構への指令信号、あるいは、各制御軸に設けられた加速度センサの実測値等から求められるものである。
【0108】
[3] 除振用と制振用アクチュエータの分離構造
[3-1]並列配置構造の説明
図3は
図1bのBB部拡大図であり、制振用アクチュエータ206dと除振用アクチュエータ208dを同一方向の発生力成分を有するように並列配置したものである。
【0109】
ここで、本発明において、「同一方向の発生力成分を有する」という意味を次のように定義する。アクチュエータの発生力FをX軸方向とY軸方向の2つの分力F
x、F
yのベクトル和とする。制振用、及び、除振用の各アクチュエータがX軸方向の分力F
x、あるいは、Y軸方向の分力F
yを共有する場合、アクチュエータの分力は同一方向の発生力成分を有する。
図3(
図1bのBB部)の場合は、2つのアクチュエータはX軸に平行に並列配置されているために、各アクチュエータのY軸方向分力F
yだけが同一方向の発生力成分を有する。X軸方向分力F
x=0であるために、同一方向の発生力成分は有しない。
【0110】
本実施形態における除振用空気サーボバルブ209dは、制振用空気圧サーボバルブ207dと同様に、ノズルフラッパ弁を用いている。以下、除振用空気サーボバルブ209dの主要な構成だけを示す。250は筒部形状の中心軸、251はコイルボビン、252は前記コイルボビンに巻かれたコイルである。253は排気孔、254は前記中心軸に形成された排気側流通路、255は吸気側ハウジング、256はこの吸気側ハウジングの中心部に形成された吸気側流路、257は吸気孔である。258は空気圧アクチュエータに繋がる制御側流路Aである。259は円盤(ディスク)形状のフラッパ、260は吸気側ノズル(順方向ノズル)、261は排気側ノズル(逆方向ノズル)である。262は吸気側空隙部、263は排気側空隙部、264は電磁石の第1磁極、265は第2磁極、266は本バルブの制御室である。267は前記バルブ締結部材に形成された吸気側流路、268は制御側流路B、269は床面側外枠部204に形成された制御側流路Cであり除振用空気圧アクチュエータ208dの空気室に繋がっている。
【0111】
[3-2] 制振と除振分離構造の特徴
本実施形態においては、除振用アクチュエータと気体式制振用アクチュエータ、及び、この気体式制振用アクチュエータ内部の気体を吸排気する制振用バルブを分離・独立して配置したものである。かつ、この2つのアクチュエータは同一方向の発生力成分を有するように配置されている。この制振機能と除振機能を分離した構造により、次の効果が得られる。
【0112】
(1)空気消費量が小さい
前述したように、制振制御に空気圧サーボを適用した場合、空気消費量が大きく、応答性が悪い、という課題があった。高加速度・制振制御のためにはサーボバルブの大流量化は必須条件である。従来の空気圧サーボにおいて、主に用いられているノズルフラッパ型サーボバルブの大流量化を図った場合、定常時の空気消費量が増大してしまうという課題があった。ノズルフラッパ弁は、その動作原理から動作点(中立点)で消費空気流量が最も大きく、高加速度・制振制御への適用を図った場合、定常時の空気消費流量が大幅に増大してしまうという課題があった。ノズルフラッパ弁の代替案として、基本駆動原理の異なるスプール弁は定常状態での空気消費流量を小さくできる。しかし、スプール弁は、構造が複雑化で、高精度の部品加工・組み立てを必要とし、ノズルフラッパ弁と比べて、大幅にコスト高になるという課題があった。
【0113】
除振用アクチュエータと気体式制振用アクチュエータを分離して構成した本発明の場合、前述したように、制振制御時に制振用サーボバルブに流れる大流量は瞬時(数ミリ~数十ミリ秒)だけである。したがって、平均空気消費量の大きさは問題にならないために、大流量化したノズルフラッパ弁を適用できる。その結果、各アクチュータを制御するために、多数のサーボバルブを必要とするアクティブ除振台全体の大幅なコストサウンが図れる。
【0114】
また本実施形態で用いたノズルフラッパ型サーボバルブの可動部の固有振動数は
f0 =600~800Hz近傍であった。その理由は、可動部(ディスク形状のフラッパ163)の等価質量mを充分に小さく構成できるからである。前記ステージの移動に伴う前記加振力の情報に基づいて、加振開始から最大加速度までの立ち上がり時間をT(sec)、前記制振用バルブの固有振動数をf0 (Hz)として、f0>1/Tとなるように前記制振用バルブは構成されているのが好ましい。本実施形態では、T=2msとした場合でも充分に上記条件を満足することができた。
【0115】
(2)ベストな除振性能が得られる除振機能を選択できる
除振と制振を兼ねた従来サーボバルブでは、サーボバルブを大流量化すると除振性能低下するという課題があった。その理由は、流量が増大する程、バルブ入力電流に対する制御流量の勾配が増加して、サーボバルブの分解能が低下するからである。除振用と制振用を分離して構成した本発明では、除振用アクチュエータはアクティブ除振台適用対象のニーズに合わせたベストな性能が得られる駆動原理・制御方法・・・たとえば、リニアモータ、空気圧サーボ、ピエゾ駆動方式等を選択できる。
【0116】
(3)大きな制振力が得られる
制振制御が終了した時点で、制振用アクチュエータの空気室を大気解放するように設定した。この設定により、制振制御から除振制御に移行した段階で、制振用と除振用アクチュエータの空気室バネが並列接続されていることによる共振周波数増加の課題が解消される。すなわち、除振制御の段階で、制振用アクチュエータのバネ剛性が零、あるいは、零に近い状態を保つことで、制振用アクチュエータの存在は除振性能に影響を与えない。
【0117】
また独立して構成される制振用アクチュエータは、大気圧から最大圧力(供給圧)に近い広い範囲で駆動できるために、大きな発生力を得ることができる。最大発生力を得る場合は、制振用サーボバルブのフラッパと吸気側ノズルの開度は、開度零の状態から最大開度までフルストロークで駆動すればよい。
【0118】
(4)制振と除振を空圧式にした場合、トレードオフの関係が解消される
一個の空気圧アクチュエータで、制振機能と除振機能を共有化していた従来空気圧サーボシステムの場合、制振性能と除振性能はトレードオフの関係であった。たとえば、(1)制振制御の高速化のために, 空気圧アクチュエータの空隙を狭くすると除振性能が低下する。(2)除振性能向上のために, 空気圧アクチュエータの空隙を大きくすると制振性能が低下する。上記(1)(2)の妥協点で制振性能と除振性能を選択せざるを得なかった。除振と制振の空気圧式アクチュエータを独立配置した本発明では、流体制御システムは、ベストな制振性能と除振性能を同時に得ることができる。
【0119】
[4] 制振制御の理論解析
図1で示したアクティブ除振台のモデル図において、X軸方向の制振制御のために制振用バルブ(207a、207c)と制振用アクチュエータ(206a、206c)が左右に配置されている。定盤201に加わるX軸方向の制振力は、左右のアクチュエータに発生する制振力の総和である。本実施形態では、除振性能と制振性能を両立させるために、特性が大きく異なる除振用と制振用の空圧アクチュエータを並列配置した構成である。その効果を明確にするために、R側に配置された制振用アクチュエータ206aと制振用バルブ207aだけに注目して、圧力応答性を求める理論解析を行う。
【0120】
[4-1]基礎式
サーボ弁のノズルを通過する気体の質量流量は、圧縮性流体の等エントロピ流れにおけるノズルの式(1)(2)を用いる。ノズルフラッパ間の有効断面積は、ノズル先端とフラッパ間で形成される環状の流路面積であり、ノズル内径をd、xをマイクロピストンの変位、フラッパのストロークδa、供給側有効断面積 ain=dπx、排気側有効断面積aout=dπ(δa-x)である。以下、供給源側から空気室に流入する気体の質量流量Ginを次式に示す。ここで、Psは供給源圧力、Paはサーボバルブの制御室圧力、ρsは供給源気体密度、κは比熱比である。
【0121】
【0122】
但し、Pa/Ps<{2/(κ+1)}2/(κ-1) のときは
【0123】
【0124】
前記制御室から大気側へ流出する気体の質量流量Goutは、式(1)、式(2)において、Ps→Pa、Pa→P0、ρs→ρa、aout=dπ(δa-x)とすればよい。Vcは制御室172の容積、Rは気体定数である。この質量流量Gin、Goutにより、制御室172の圧力Paは、次式で求められる。
【0125】
【0126】
[4-2]理論解析結果
(1)解析条件
表1に本実施形態に用いた制振用サーボバルブの基本仕様を示す。
【0127】
【0128】
(1) アクチュエータ空気室の隙間が圧力応答性に与える影響
図4は制振用サーボバルブにフィードフォワード信号を与えて、制振用アクチュエータの圧力応答特性を求めたものである。圧力波形の目標値は大気圧(P=0.1MPa)から供給圧(P=0.5MPa)までの台形波形である。制振用サーボバルブ(
図2aの207d)のフラッパ163は吸気側ノズル165を完全遮蔽した状態から、排気側ノズル166を完全遮蔽するまで移動する。すなわち、除振用サーボバルブはフルストローク駆動である。このフルストローク駆動により、除振用と制振用のアクチュエータ、及び、サーボバルブを一体化していた従来方式では得られなかった大きな発生力が得られる。
【0129】
同図では、アクチュエータ空気室の隙間h 2=0.2~2.0mmの場合について、隙間h 2が圧力応答性に与える影響を評価している。立ち上がり時間の目標値(図中の鎖線)Ts=4msに対して、隙間h 2が小さくなるほど応答性は向上する。
【0130】
(2)共振周波数と空気室隙間の関係
図5は空気圧アクチュエータの外径と負荷質量が同一条件下において、空気室の隙間hに対する空気圧アクチュエータの密閉状態における共振周波数を、式(4)から求めたものである。式(4)において、mはアクチュエータの一個分が受け持つ等価質量、κは比熱比、A
aはアクチュエータの受圧面積、hはアクチュエータの空気室隙間、P
aは空気室内の圧力である。ちなみに空気ばねが密閉状態とは、供給側及び排気側の流路を遮断した状態を示す。
【0131】
【0132】
図3に示すように、除振用アクチュエータ208dの外径ΦD
1、空隙部の隙間h
1、制振用アクチュエータ206dの外径ΦD
2、空隙部の隙間h
2とする。本実施形態では、ΦD
1=ΦD
2=83.1mm、h
1=1.8mm、h
2=0.5mm、m=550Kgに設定した。高い応答性が要求される制振用のアクチュエータの前記共振周波数はf
0=13Hzである。低周波数域での除振性能が要求される除振用アクチュエータの前記共振周波数はf
0=7Hzである。除振用と制振用のアクチュエータを共用化して、このアクチュエータを一個のサーボバルブで制御していた従来方式では、共振周波数は除振性能と制振性能のトレードオフ関係でしか設定できなかったものである。本発明では、除振用、及び、制振用アクチュエータの共振周波数をそれぞれf
v、f
dとしたとき、いずれの共振周波数も、実施対象の要求に対して最適な仕様を設定することができる。通常は、f
v<f
dとなるように構成すればよい。
【0133】
除振用と制振用のアクチュエータに要求される特性を、密閉状態における空気バネの剛性Kで評価すると次のようである。式(4)において、共振周波数f0=(K/m)0.5/2π、アクチュエータ空気室の容積V0=A ahとして
【0134】
【0135】
除振用と制振用のアクチュエータの受圧面積をA v、A d、空気室の容積をVv、V dとする。除振用の空気室内の圧力Pavは供給源圧力Psvの1/2を動作点と仮定して、Pav=Psv/2とする。制振用の空気室内の圧力Padも同様に、Pad=Psd/2とする。したがって、除振用、及び、制振用アクチュエータの前記空気バネの剛性をそれぞれKv、Kdとしたとき、前記空気バネの剛性は任意の値に設定できる。除振用は低周波域での除振性能を得るために、出来るだけ柔らかく、制振用は高い応答性を得るために、出来るだけ硬く構成すればよい。要約すれば、両者を相対比較したときに、Kv<Kdとなるように、すなわち、PsvAV
2/Vv<PsdAd
2/Vdとなるように各アクチュエータの仕様と適用条件を設定すればよい。
【0136】
(3)制振用バルブと制振用アクチュエータの配置方法
図6は、
図3で説明した前記制振用アクチュエータと前記除振用アクチュエータを並列配置した構造の外観を示すもので、
図6aは全体の矢視図、
図6bは
図6aの鎖線部CCの断面図である。
【0137】
210は前記制振用アクチュエータの可動部を支持するダイヤフラム(
図3では図示せず)である。部材205a、205b、205aで定盤側内枠部205(
図1、
図3参照)の一部を構成している。268は除振用アクチュエータ・ユニットであり、このユニットの中に
図3で図示した除振用アクチュエータ208d、除振用サーボバルブ209d等が収納されている。
【0138】
図64bの鎖線DDで示す箇所は、制振用バルブ207dと制振用アクチュエータ206dを繋ぐ流路であり、制御流路162(A)、制御流路176(B)、制御流路177(C)により形成される。すなわち、前記制振用バルブの制御ポートと、前記制振用アクチュエータの吸気孔は、複雑な屈曲した流路を介することなく、概略直線流路で繋がるように前記制振用バルブ、及び、前記制振用アクチュエータを配置している。そのため、本発明においては、数ミリ秒オーダーの立ち上がり、立ち下がり特性が要求される高加速度制振動制御を実現する上で極めて有利な構成となっている。
【0139】
[補足]
本実施形態では、前記ステージの加速・減速時の加速度と、前記ステージ質量で決まる慣性力の反力が前記定盤を加振させる振動発生源となった。したがって、振動発生源は前記定盤を含む除振台本体内部にあった。しかし、前記振動発生源が除振台の外部に有る場合でも、本発明の適用は可能である。たとえば、除振台本体の近傍にプレス機械が設置されており、このプレス機械が発生する衝撃的荷重が、除振台の除振制御による振動抑制能力の限界を超える場合を想定する。この場合でも、プレス機械が前記定盤に与える加振力の情報に基づいて、前記定盤に発生する外乱を制振制御により減殺できる。すなわち、前記定盤を加振させる振動発生源を有する環境下に除振台本体が設置されており、この振動発生源が前記定盤に与える加振力の情報が利用できるならば、本発明は適用できる(図示せず)。
【0140】
[第2実施形態] 除振用と制振用アクチュエータを同軸上に配置
以下、除振用と制振用アクチュエータを同軸上に配置した本発明の第2実施形態について述べる。最初に水平方向アクチュエータ部の実施形態を説明する。
【0141】
[1] 水平方向アクチュエータ部
[1-1] アクチュエータ構成
図7aは本発明の第2施形態であるフィードフォワードによる制振制御(FF制御)を備えた流体制御システム(アクティブ除振台)における水平方向アクチュエータ部のモデル図で、
図7bは
図7aの鎖線部CCの拡大図である。
図7aは第1実施形態における
図1aのAA矢視図に相当する。
【0142】
水平XY方向を支持する複数組のアクチュエータ構成は、「トルクバランス型」と呼ばれているものである。304は床面側外枠部、305は定盤側内枠部である。本実施形態における流体制御システムの水平方向アクチュエータ部は、軸対称に配置された4組の独立したアクチュエータ・ユニット[Unit(A)~Unit(D)]から構成される。このアクチュエータ・ユニットは、鎖線部CCの拡大図[Unit(A))]に示すように、制振用と除振用アクチュエータが同軸上に配置されている。
【0143】
図7bにおいて、306aは定盤側中間支持部材、307aは断面U字型形状の床面側支持部材である。308Aは床面側支持部材307aの床面側、308Bは床面側支持部材307aの定盤側を示す。309aAと309aBは制振用アクチュエータであり、定盤側中間支持部材306aと床面側支持部材307aの間に挟持された状態で、対向して配置されている。310aA、310aBは、前記床面側支持部材の床面側308Aと定盤側308Bに設置された制振用バルブである。311aA、311aBは、前記制振用バルブと前記制振用アクチュエータを繋ぐ流路である。この流路は概略L字形状で形成されており、前述した直線流路での結合に準ずる低流路抵抗の流路形状である。Unit(A)のY軸方向の信号を検出する加速度検出器と変位検出器を、センサ314aで代表して図示する。312aは除振用アクチュエータ(除振手段)であり、支持部材313aを介在して、定盤側内枠部305と床面側支持部材307aの間に挟持されている。(除振用サーボバルブは図示せず)
【0144】
[1-2] 本発明の効果
本実施形態においては、駆動軸が同軸上に配置された4組の独立したアクチュエータ・ユニット[Unit(A)~Unit(D)]から構成される。制振用と除振用アクチュエータの各駆動軸を並列に8組配置した第1実施形態(
図1)と比較して、アクティブ除振台の制御器、及び、制御方法を大幅に簡素化できる。その理由について、以下説明する。
【0145】
図7aにおいて、可動ステージの加速・減速に伴う定盤の振動(衝撃荷重)を減殺するために、制振用アクチュエータ309aA、309aBにより、定盤にY軸方向の制振力(F
y=F
y1-F
y2)を与えた場合を想定する。この場合、除振用アクチュエータ312aが、同一作用点で、かつ同一方向に発生する力(f=f
y1)も直列和として印加される。その結果、定盤には作用点L
YAの大きさに比例した回転トルクTが発生する。つまり、平進運動と回転運動は力学的に連成しており、個別に制御することはできない。通常、アクティブ除振台の制御対象は、回転運動と平進運動が連成した多自由度系の運動方程式で記述される。そのため、制御対象の運動方程式を空間座標(直交座標)からモード座標に変換することで、多自由度系を複数の互いに独立した1自由度系に変えて、各軸の制御を容易にしている。すなわち、空間座標上の各自由度は連成するが、モード座標上の各自由度は連成しないことを利用している。
【0146】
本実施形態では、前記除振用アクチュエータと前記制振用アクチュエータの変位、加速度などを共有して検出する変位検出器と加速度検出器がアクチュエータ・ユニット単位で設置されており、制御器、及び、制御方法の簡素化に大いに貢献している。
【0147】
[2] 垂直方向アクチュエータ部
図8において、床面353には、定盤354(除振台)を支持するための4組のアクチュエータ・ユニット[Unit(E)~Unit(K)]が配置されており、この定盤354の上に精密装置(図示せず)が搭載される[Unit(J)とUnit(K)は図示せず]。355は前述した水平方向アクチュエータ部である。以下、Unit(E)の構成について述べるが、Unit(F)~Unit(K)も同様の構成である。356eは定盤側中間支持部材、357eは断面U字型形状の床面側支持部材である。358Aは床面側支持部材357eの床面側、358Bは床面側支持部材357eの定盤側を示す。359eAと359eBは制振用アクチュエータであり、定盤側中間支持部材356eと床面側支持部材357eの間に挟持された状態で、対向して配置されている。360eA、360eBは、前記床面側支持部材の床面側368Aと定盤側368Bに設置された制振用バルブである。361eA、361eBは、前記制振用バルブと前記制振用アクチュエータを繋ぐ流路である。鎖線EEで示す流路は概略L字形状で形成されており、制振用と除振用アクチュエータを同軸上に配置する本実施形態の構造においては、最短の流路形状である。したがって、前述した直線流路での結合に準ずる低流路抵抗の流路形状である。この流路形状は、前述した水平方向アクチュエータ部も同様である。Unit(E)のZ軸方向の信号を検出する加速度検出器と変位検出器を、センサ364eで代表して図示する。362eは除振用アクチュエータ(除振手段)であり、定盤側支持部材363eと床面側支持部材357eの間に挟持されている(除振用サーボバルブは図示せず)。本実施形態における除振用アクチュエータは、前記床面(基礎)と前記定盤(除振台)間の振動伝達を抑制すると共に、前記定盤の前記床面に対する支持手段を兼ねている。
【0148】
制振用と除振用アクチュエータの各駆動軸を同軸上に配置したアクチュエータ部の構成により、アクティブ除振台の制御器、及び、制御方法を大幅に簡素化できる点は、前述した水平方向アクチュエータ部と同様である。
【0149】
本実施形態では、制振用と除振用アクチュエータの各駆動軸を同軸上に配置して、この2つのアクチュエータを直列に連結するように構成した。この構成の代わりに、中心部に第1のアクチュエータを配置して、その外周部にリング形状の第2のアクチュエータを配置してもよい。この構成にすれば、アクチュエータ・ユニットの全体構成が簡素化されて、かつユニット全長が短縮化できる。第1と第2アクチュエータのいずれを制振用、除振用にするかは、適用対象が要求される仕様に合せて決めればよい(図示せず)。
【0150】
アクティブ除振台の場合、可動ステージなどが搭載される定盤354は垂直方向が支持された状態で、水平方向も限定された範囲(1~2mm程度)で移動可能となるように構成される場合が多い。以下、垂直方向アクチュエータ部(
図8)を一事例として説明する。本実施形態においては、床面側支持部材357e(固定側)の軸芯に対して定盤側中間支持部材356e(可動側)の軸芯は、制振用アクチュエータ359eA、359eBを両部材間に挟持した状態で、1~2mm程度は移動可能であることを想定している。
【0151】
また除振用アクチュエータ362eの場合も、定盤側支持部材363e(可動側)と床面側支持部材357e(固定側)の間に挟持されているが、前記定盤側支持部材も同様である。空気圧式の制振用と除振用アクチュエータを、空気の漏洩防止を兼ねたダイヤフラムで構成すれば、アクチュエータを挟持する両部材間の軸芯は、限定された範囲で水平方向に移動可能である。
【0152】
定盤側中間支持部材356eと制振用アクチュエータ359eAの間、及び、定盤側中間支持部材356eと制振用アクチュエータ359eBの間に、水平方向の剛性が低く、垂直方向の剛性が高い積層ゴムなどを装着すれば、制振用空気圧アクチュエータのダイヤフラムの剛性が水平方向固有振動数に与える影響を低減できる。前記除振用アクチュエータの場合も同様である(図示せず)。
【0153】
制振用と除振用アクチュエータの各駆動軸は幾何学的に同軸上でなくてもよく、同軸上の発生力成分を持つように配置されていればよい。そのため、2つのアクチュエータの外径、形状などが異なっていてもよい。また複数個のアクチュエータから制振用アクチュエータ、あるいは、除振用アクチュエータを構成してもよい。水平方向アクチュエータの場合は、除振用アクチュエータは空気圧式ではなく、たとえば、リニアモータでもよい(図示せず)。
【0154】
[第3実施形態] サーボバルブの非線形特性を補正する
前述したように、空気圧方式を高加速度・制振制御に適用する先行例、研究例は現段階では見られない。その理由として、前述したように、空気圧サーボは、(i)空気消費量が大きい、(ii)応答性が悪い、という課題があった。本発明者は、上記(i)(ii)に加えて、今まで掘り下げた研究例の無かった空気圧サーボの新たな課題に注目した。すなわち、(iii)制振制御の高精度化、の課題である。
【0155】
[1] リニアモータ方式と空気圧サーボ方式の入出力特性比較
図9は入力電流に対するリニアモータ発生力の静特性を示すモデル図である。ローレンツ力を作動原理とするリニアモータの場合、入力電流に対する発生力は正比例関係にある。そのために、ステージ移動に伴う加振力を減殺するフィードフォワード信号は、容易に作ることができて高精度の制振制御ができる。
【0156】
図10は入力電流に対する空気圧アクチュエータ発生力の静特性を示すモデル図である。同図に示すように、空気圧サーボ弁の場合、入力電流に対する発生力(制御圧力)の特性は非線形である。また入力電流I=0を始点として、サーボ弁をフルストローク駆動(I=0→I
max)する場合を想定する。空気圧サーボの場合、FF制御信号の正の入力波形に対する正の制振力は得られるが、負の入力波形に対する負の制振力は得られない。この理由は、自明ではあるが、正の空気圧に対して対称な負の空気圧は存在しないからである。
【0157】
[2] サーボバルブの非線形特性
[2-1] 3つの非線形特性
図10は入力電流に対する空気圧サーボバルブの制御圧力(発生力)の静特性を示すモデル図である。同図に示すように、サーボ弁の非線形特性を次の3つに分けて整理する。
【0158】
(1)不感帯
図11は吸気ノズル165とフラッパ163の位置関係をモデル化して示すもので、
図11aはフラッパ163が吸気ノズル165の開口端を遮蔽した状態を示し、
図11bはフラッパ163が吸気ノズル165の開口端から離れて空気が制御室172に流入している状態を示す(
図2a参照)。入力電流I=0のときに、供給側流路を遮断させるのは、サーボバルブの種類に係らず必須要件である。そのために、初期設定の段階でフラッパに予圧(フラッパ変位X
0)を加えて、供給側開口部を遮蔽する必要がある。
【0159】
(i)上記予圧の大きさは、空気圧サーボに適用される最大許容供給圧力PSmaxを想定して設定するために、実施時の供給圧力PS<PSmaxの場合は、不感帯は必ず存在する。たとえば、PSmax=0.6MPaに設定して、実施時の供給圧力PS=0.5MPaの場合は、不感帯が生じる。
【0160】
(ii)フラッパに加える予圧(変位X0)の大きさは、バルブ部品精度の集積誤差を考慮して、最終組み立て段階で設定される。そのため、不感帯の幅ΔI1はバラツキを持っている。
【0161】
上記(i)(ii)を前提として、制振用と除振用アクチュエータを分離構造にして、制振用アクチュエータを大気圧から高圧まで駆動する場合を想定する。この場合、サーボバルブは入力電流I = 0から、I =Imaxまで駆動される。サーボバルブの静特性におけるI≒0近傍の不感帯は、時間に対する制御圧力(制振制御出力)の動特性では、出力が零の「むだ時間要素」となる。
【0162】
(2)非直線性
サーボバルブ構成する要素部品の特性は非線形である。チョーク現象を伴い、 圧力比と開口面積できまる吸排気ノズルの流量特性は元来非線形である。駆動部の磁気回路を構成する電磁石、永久磁石などの磁気特性も、ヒスリシスと磁気飽和現象を伴うため非線形である。また、サーボ弁は、電磁石、永久磁石、ノズル、フラッパなど高精度に加工された多くの精密部品で構成されており、複雑な調整工程を経て組み立てられる。そのため、集積誤差による特性のバラツキは避けられない。そのため、非直線であるバルブ特性のプロフィールも、製品間でバラツキを持っている。
【0163】
(3)最大圧力到達時の電流値バラツキ
上記不感帯と非直線性などを有するバルブ特性ゆえに、制御圧力最大圧力に到達する入力電流にもバラツキΔI2が発生する。
【0164】
[2-2] 各非線形特性のモデル化
サーボ弁の有する各非線形特性が制振制御特性に与える影響を解析するために、独立した3つの非線形特性(静特性)にモデル化する。その目的は、後述するように、これらの非線形特性が制振制御特性(過渡応答特性)に与える影響を低減する方策を見出すことである。
図12のモデルは、電流に対するディスク変位の静特性が不感帯を有する場合であり、特性Aは不感帯ΔI
1=0、特性BはΔI
1=0.0075A、特性CはΔI
1=0.015Aの場合である。
【0165】
図13のモデルは、電流に対するディスク変位の静特性が非直線性を有する場合であり直線である特性Aに対して、下に凸の曲線を特性B、特性Cとする。
【0166】
図14のモデルは、電流に対するディスク変位の静特性において、最大変位到達時の電流値がバラツキを持っている3つのケースを示している。特性AはバラツキΔI
2=0.015A 、特性BはΔI
2=0.0075A、特性CはΔI
2=0Aの場合である。
【0167】
[3] サーボバルブの非線形特性と応答性の遅れを補正する方策
以下、前節で定義した3つの代表的な非線形特性を有するサーボバルブに対して、制御圧力の過渡応答特性を求める。さらに、次のステップでこれらのサーボバルブに「非線形・応答性の補正手段」を施した場合について、サーボバルブの駆動電流波形を求める。ここで、「非線形・応答性の補正手段」を次のように定義する。非線形特性の補正とは、サーボバルブの入力信号に対する制御圧力静特性が正比例する場合を理想出力特性として、この理想出力特性に対する隔たりの補正を示す。応答性の補正とは、目標のFF信号に対する制御圧力動特性の遅れの補正を示す。
【0168】
非線形・応答性の補正手段とは、後述する圧力フィードバック、あるいは、反復学習制御などの手法である。
【0169】
[3-1] 不感帯の解消
図15はサーボ弁のフラッパ変位特性が不感帯を有する場合において、空気室圧力の過渡応答特性を求めたものである。本解析結果の特性曲線A、B、Cは、
図12で仮定した変位の不感帯特性A、B、Cに対応している。
【0170】
同図中の特性Dは、非線形・応答性の補正手段を施した場合の過渡応答特性を示し、目標とするフィードフォワード信号(FF信号)にほぼ一致する。補正手段を施した場合は、不感帯特性A、B、Cの影響を受けないで、目標のFF信号に漸近した過渡応答特性を得ることができる。この点は、後述する実施形態も同様である。
【0171】
図16aは、不感帯特性Cを代表に選び、上記非線形・応答性の補正手段を施した場合について、時間に対するサーボバルブの駆動電流を求めたものである。
図16bは
図16aの鎖線部拡大図である。この鎖線部拡大図のグラフから分かるように、制振制御の開始直後、サーボ弁を急峻に上昇する電流で駆動することで、不感帯(むだ時間要素)の影響を解消することができる。この知見により、フラッパ変位の不感帯の大小に係わらず、目標のFF信号に漸近した過渡応答特性を得ることができる。
【0172】
要約すれば、入力電流 Iに対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が、0≦I≦I
1の範囲で出力が増加しない状態を保つ不感帯の幅ΔI
1を有するサーボ弁において、制振制御を開始する時間t≒0の時点において、入力信号I≒I
1となるパルス入力波形で前記サーボ弁を駆動すれば、不感帯の影響を回避したベストな応答波形が得られる。本実施形態の事例では、変位特性のグラフ(
図12)でΔI
1=1.5mAの不感帯を有するバルブでも、
図16aで示すパルス入力波形Cで駆動すれば、「むだ時間要素」の無い
図15のDの波形に改良できる。ここで、不感帯の幅ΔI
1とは、信号値範囲0≦I≦I
1の大きさを示す。
【0173】
[3-2] 非直線性の補正
図17はサーボ弁のフラッパ変位特性が非直線性を有する場合において、空気室圧力の過渡応答特性を求めたものである。本解析結果の特性曲線A、B、Cは、
図13で仮定した変位の非直線性を有する特性A、B、Cに対応している。同図中の特性Dは、非線形特性の補正手段を施した場合の過渡応答特性を示し、目標とするフィードフォワード信号(FF信号)にほぼ一致する。この点は、前述した不感帯を補正する実施形態と同様である。
【0174】
図18は、フラッパ変位の非直線性A、B、Cを有するサーボ弁を対象に、上記非線形・応答性の補正手段を施した場合について、時間に対するサーボ弁の駆動電流を求めたものである。変位出力特性が直線である上記Aを基準特性とした場合、この基準特性Aに対する偏差の大きさに対応した電流でサーボ弁を駆動することで、非直線性の影響を回避することができる。この知見により、フラッパ変位の非直線性の有無に係わらず、目標のFF信号に漸近した過渡応答特性を得ることができる。
【0175】
要約すれば、サーボ弁の入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性が直線の場合を基準特性とし、入力信号値I=I0における前記基準特性の出力値をX=X0、出力特性が非直線性を有する場合の出力値をY=Y0として、前記基準特性との差ε=Y0-X0の大きさに対応した入力波形でサーボ弁を駆動すればよい。
【0176】
[3-3] 最大圧力到達時の電流値バラツキの補正
図19はサーボ弁フラッパ変位特性が最大変位到達時に電流値バラツキを有する場合において、空気室圧力の過渡応答特性を求めたものである。本解析結果の特性曲線A、B、Cは、
図14で仮定した到達時の電流値バラツキを有する特性A、B、Cに対応している。同図中の特性Dは、非線形特性の補正手段を施した場合の過渡応答特性を示し、目標とするフィードフォワード信号(FF信号)にほぼ一致する。この点は、前述した実施形態と同様である。
【0177】
図20は、フラッパが最大変位到達時に電流値バラツキを有するサーボ弁を対象に、上記非線形・応答性の補正手段を施した場合について、時間に対するサーボ弁の駆動電流を求めたものである。
【0178】
要約すれば、サーボ弁の入力信号に対するフラッパ変位、あるいは圧力などの出力特性において、目標出力値に到達する入力信号値I=I2にバラツキ幅ΔI2を有する場合、バラツキ幅ΔI2の大きさに合わせて、駆動入力波形の大きさと駆動入力の最終値を決めればよい。すなわち、0≦I≦Imaxの範囲で、幅ΔI2=0の場合と比べて、バラツキ幅ΔI2が大きい程、駆動波形と駆動入力の最終値を小さくすればよい。
【0179】
ここで、到達入力信号値のバラツキ幅ΔI2とは、信号値範囲 I2≦I≦Imaxの大きさ(ΔI2= Imax- I2)を示す。この知見により、到達時の電流値バラツキの大小に係わらず、目標のFF信号に漸近した過渡応答特性を得ることができる。
【0180】
[補足]
本実施形態では、「非線形・応答性の補正手段」に後述する圧力フィードバックを適用した。その結果、[3-1]~[3-3]の事例で示したように、サーボバルブの非線形特性と応答性の遅れを補正するサーボバルブの駆動入力波形を求めることができた。本実施形態では、目標指令信号と出力の偏差εを比例増幅だけの処理を経て、サーボバルブの駆動入力波形とした。目標指令信号がランプ形状で立ち上がる区間において、駆動入力波形に係る知見を得るには、圧力フィードバックは比例増幅だけの処理で充分である。したがって、非線形性を補正する入力電流波形の各グラフは、0≦t≦4msの区間だけに注目すればよい。
【0181】
[第4実施形態] 発生力フィードバックによる空気圧サーボ
図21は、本発明の第4実施形態である発生力フィードバックによるFF制振制御を備えた空気圧サーボシステムのモデル図である。
【0182】
図22は入力電流に対する空気圧アクチュエータ発生力の静特性を示すモデル図であり、除振制御と制振制御を併用した従来の制振制御の場合を示す。
図23は入力電流に対する空気圧アクチュエータ発生力の静特性を示すモデル図であり、除振制御と制振制御を独立して構成した本発明の制振制御の場合を示す。
図24は本実施形態に用いたサーボ弁の正面断面図である。
【0183】
[1] 発生力フィードバックによる空気圧サーボシステム
[1-1] 圧力フィードバックの構成
図21において、10はサーボバルブの本体、10aはこのバルブ内部の制御室、10bはこの制御室の圧力を検出する圧力センサ(圧力検出手段)、10cは制御ポートである。本実施形態では、前記発生力を検出するために空気室圧力を圧力センサで実測した。空気室のピストン面積Sとして、空気室圧力Pから発生力に相当する実測値 F (t)(=P×S)が得られる。11は空気圧アクチュエータの空気室、12は空気室11と制御ポート10cを繋ぐ配管、13はサーボバルブ10を駆動するPID制御回路である。14はステージ移動に伴う衝撃荷重を相殺するための制振制御信号、本実施例ではフィードフォワード信号(FF信号)F
0(t)を示すものである。すなわち、除振台上でステージが加減速を繰り返す際に生じる除振台への加振を防止するために、この加振力と同じ大きさで逆位相の力(カウンターフォース)を入力波形の目標値とする。前記FF信号F
0(t)は、通常はステージ駆動機構への指令信号、あるいは、各制御軸に設けられた加速度センサの実測値等から予め求められているものである。但し、本提案による圧力フィードバックを施した空気圧アクチュエータは、極めて高い応答性が得られるために、前記FF信号F
0(t)は予め準備されたデータではなく、リアルタイムで計測された加振力の場合も含むものとする。15は圧力センサ10bからのフィードバック信号F (t)である。したがって、圧力フィードバック(以下圧力FB)を構成することで、空気圧アクチュエータの発生力(圧力センサによる実測値)は目標値に漸近するように、すなわち、目標値と実測値との偏差εが僅少化するように、本実施例ではε=F
0(t)-F(t)→0となるようにサーボバルブ10が駆動される。
【0184】
[1-2] 圧力FBの効果
本実施形態の空気圧サーボシステムにより、得られる効果を要約すれば、次のようである。すなわち、空気圧サーボの制御対象であるサーボバルブと空気圧アクチュエータの静特性と動特性を考慮したとき、高加速度・制振制御を実現させる上で必要な下記3つを「同時に実現する」ことができる。
(i)非線形特性の補正
(ii)応答性の遅れの補正
(iii)上記(i)(ii)をリアルタイムで実施できる
【0185】
図22は、一個のアクチュエータと一個のサーボバルブで除振制御と制振制御を併用していた従来空気圧サーボバルブの静特性を示すモデル図である。従来空気圧サーボバルブの場合は、バルブ入力電流I=I
0の動作点おいて、システムが平衡状態を維持するように除振制御がなされる。動作点I
0は最大入力値をI
maxとしたとき、I
0≒I
max/2に設定される場合が多い。制振制御時には、動作点I=I
0を基準として、FF制御の入力波形が印加される。通常は入力波形の最大値は、線形性が保たれる範囲で設定されていた。
【0186】
図23は、除振制御と制振制御を独立して構成した本提案の制振用サーボバルブの静特性を示すモデル図である。FF制御の入力電流波形は、0≦I≦I
maxのフルストローク制御を想定している。この場合、発生力の出力波形(圧力FB無し)は、前述したサーボバルブの非線形特性、すなわち、「不感帯特性」、「非直線性」、「到達入力信号値のバラツキ」をダイレクトに受ける。但し、同図に示すように、圧力FBを施すことで、出力波形はFF制御の目標値に漸近した波形になる。
図22、
図23のグラフの比較から、本実施形態の空気圧サーボシステムにより、得られる効果を要約すれば、次のようである。
【0187】
(1) 衝撃力を高速、かつ高精度に相殺するFF制御ができる
これは、前述したように、(i)非線形特性の補正、(ii)応答性の遅れの補正、上記(i)(ii)を同時に実現できる圧力FBの効果である。
応答性を向上させるために、従来の空気圧サーボにおいては、バルブ入力に対するアクチュエータ出力のシステム同定からFF制御の入力信号を求めていた。すなわち、実験的に得られた伝達関数G(s)の近似的な逆伝達関数G-1(s)を用いて、入出力間の遅れ要素を相殺した後にバルブを駆動するのである。上記逆伝達関数G-1(s)は動作点近傍の伝達特性を線形近似すれば、理論的にも求められる。すなわち、制御対象の伝達特性は線形(入力に対する出力は比例関係)であるとの仮定の基で得られるものであった。したがって応答性の向上は図れるが、非線形特性の補正はできない。
【0188】
図23で前述したように、サーボバルブの入力波形をフルストロークで駆動する場合、サーボバルブの非線形特性は制振力の精度(目標値に対する発生力の誤差)に多大な影響を与える。圧力フィードバックを施した本発明の空気圧サーボにおいては、実測値と目標値との偏差ε=F
0(t)-F(t)→0となるようにサーボバルブ10が駆動される。その結果、フルストローク駆動の場合でも、サーボバルブの非線形特性の影響を受けないで、高速、かつ高精度の制振制御が実現できる。すなわち本発明は、制御対象の静特性(非線形特性)と、動特性(応答性)の両面からの特性改良が図れるのである。
【0189】
また、本発明の効果はサーボバルブ単体の特性向上だけではない。バルブの制御ポート10cと空気圧アクチュエータ11を繋ぐ配管12の容積と流体抵抗、空気アクチュエータ11の空気室11の容積などの空気回路の遅れ要素、サーボバルブの機構部(フラッパ質量mと支持部剛性K)の機械的な遅れ要素、コイルのインダクダンスと抵抗による電気的な遅れ要素も含めて、これらの伝達特性の応答性を向上させる効果が得られる。また、バルブ特性の製品間ばらつき、供給圧設定などの生産条件の変更、等に影響を受けることなく、高速・高精度のFF制御が実現できる。
【0190】
(2)大きな発生力が得られる
図22、
図23のグラフの比較から明らかなように、除振制御と制振制御を独立して構成した本提案の場合、FF制御の入力電流波形は、0≦I≦I
maxのフルストローク制御が可能である。除振制御と制振制御を併用していた従来制振制御の場合と比べて、不感帯特性、到達入力信号値のバラツキを有する箇所が線形化できるために、2倍以上の発生力が得られる。
【0191】
(3)予測不可の外乱に対応できる
この効果も、上記(2)同様に、非線形特性と応答性の遅れの補正をリアルタイムで実施する圧力FBの効果である。後述する
図24に示すように、前記サーボバルブの吸気孔の上流側に設置される減圧弁(
図24aの183)では、制振制御時において、瞬時に大流量を流したときに吸気孔の上流側圧力を一定圧に維持できなることが分かった。供給源圧力の急峻な変動(
図24b参照)に対して、圧力フィードバックは絶大な効果を発揮する。供給源圧力変動発生のタイミングと圧力変動レベル大きさは、多軸で駆動されるアクティブ除振台の空気圧システム全体の動作と関わっており、正確な予測は困難である。量産時にリアルタイムで圧力FBを施すことで、供給源圧力変動の影響を受けることなく、制振制御時の制御圧力(発生力)は、常に正確な目標値を保つことができる。予測不可の外乱に対するリアルタイム圧力FBの効果は、その他の非線形・応答性の補正手段(反復学習制御 etc.)などの手法では得られないものである。
【0192】
(4)サーボバルブのヒステリシスの影響を回避できる
この効果は、サーボバルブの伝達特性がフィードバック制御の「閉ループ内要素」として組み込まれることで得られるものである。サーボバルブを構成する磁性材料の特性は、磁場を逆方向も含め交互に印加したときの「ヒステリシス曲線」で表すことができる(
図24c参照)。周知のように、ヒステリシス曲線(
図24cの185)は、外部磁界Hに対する磁性体の磁束密度Bの特性である。サーボバルブの場合は、入力電流に対するフラッパの変位、速度、圧力特性がヒステリシスのループを描く。磁性体の磁束密度B(発生力)と外部磁場H(入力電流)の関係は、磁性体が置かれた過去の履歴にも依存するため、一様に決まらない。
【0193】
制振制御のバルブ入力波形に対する発生力(圧力)の波形は、ヒステリシスにより誤差が生じる。除振制御の場合は、サーボバルブはフィードバック制御の「閉ループ内要素」となるために、ヒステリシスが除振性能に与える影響は低減されるが、従来の制振制御はオープンループ制御のために、この効果は得られなかった。しかし、本実施形態における制振制御は、除振制御と同様に、サーボバルブはフィードバック制御の「閉ループ内要素」となるために、ヒステリシスが制振性能に与える影響を回避できる。
【0194】
さらに本発明は、圧力FBを施しても、除振性能に影響を与えない、という制振と除振が分離構造の特徴を利用している。後述するように、1個のアクチュエータで制振と除振を併用していた従来方式では、圧力センサによる圧力FB制御と除振制御は共存できなかった。制振制御と除振制御が互いに影響を与えることなく共存できる本発明の場合、サーボバルブのヒステリシスが制振性能に与える影響は大幅に低減される。
【0195】
(5)制御調整の簡素化が図れる
8軸の制御軸を有するアクティブ除振台において、各制御軸のFF信号をシステム同定で求めるためには、試行錯誤を伴う多大な労力を必要とする。本実施形態の方法では、作業者に特殊なスキルも必要とせず、容易に高精度FF制御が実現できる。
【0196】
[1-3] 圧力FBが分離型空気圧サーボに適用できる根拠
以下、本実施形態の制振制御に圧力FBを適用した根拠について述べる。前述したように、除振用と制振用を分離して構成した本発明では、除振用・制振用に用いられる各制御要素はそれぞれベストな性能が得られる駆動原理・制御方法を個別に選択できる。この制御要素はアクチュエータとサーボバルブに限定されず、制御方法、センサも同様ではないか、というのが本発明の発想の原点である。以下、一体型空気圧サーボではFBが適用できなかった理由と、分離型空気圧サーボに圧力FBが適用できる根拠について要約する。
【0197】
(1)圧力センサと加速度センサの併用が困難であった理由
一個の空気圧アクチュエータで、制振機能と除振機能を共有化していた従来空気圧サーボシステムの場合、圧力センサによる制振制御と加速度センサによる除振制御の併用は困難であったと予想される。その理由は、両センサを併用した場合、分解能の悪い圧力センサにより、除振性能が支配されてしまうからである。
【0198】
圧力センサによる圧力FB制御は制振時のみで、除振時には圧力FB制御は施さないとした場合、「制振→除振」の切り替え時にシステムに外乱が発生すると予想される。その理由は、圧力FB制御を施した状態と、施さない状態では、空気圧アクチュエータの支持剛性が異なるため、圧力FB制御を解除すると、各軸の荷重の平衡状態が大きく変化してしまうからである。
【0199】
除振用と制振用のアクチュエータとサーボバルブが分離・独立した本提案の空気圧サーボの場合、圧力FB制御が施されるのは制振制御時だけである。制振制御が終了すると、制振用アクチュエータの空気室は大気解放される。除振制御時には、圧力センサの存在は除振制御に影響を与えない。
【0200】
後述するように、「制振制御において、サーボバルブで駆動される空気圧アクチュエータの発生力は、サーボバルブの駆動入力電流波形I(t)だけで決まる。次のステップでは、圧力FB制御(非線形・応答性補正手段)を施さなくても、同一の駆動入力電流波形でサーボバルブを駆動すれば、同一の発生力が得られる」・・・という知見は本発明によって新たに見出されたものである。
【0201】
(2)除振制御用センサと圧力センサの検出可能な発生力比較
アクティブ除振台の除振制御には、静電容量型サーボ型加速度センサが用いられる。静電容量型サーボ型加速度センサに関する知見から、除振制御に必要とされるセンサの分解能と検出可能な発生力を推定する。センサが周波数f=1Hz、加速度α=0.1mGal(10-6m/s2)で加振されている場合を想定する。上記周波数と上記加速度の数値は、現状のアクティブ除振台において、除振制御が可能な限界レベルと考えてよい。センサの可動側電極の質量m=1.2gとして、可動側電極に加わる慣性力はf=mα=1.25×10-9Nである。この慣性力の大きさは、髪の毛一本の1/10000の質量に加わる重力に相当する。
【0202】
周知のように、サーボ型加速度センサは可動側電極と固定側電極間の静電容量(電極間隙間)が一定値を保つようにアクチュエータにより制御される。このアクチュエータは永久磁石とフォースコイルから構成されて、フォースコイルに流れる電流から可動側電極に加わる加速度(慣性力)を検出できる。上記条件下でフォースコイルに流れる電流I=0.2nA、この電流値にフォースコイルの力定数を乗じて可動側電極に発生する力は上述した値に等しい。
【0203】
一方で、アクティブ除振台にコスト面で適用可能と思われる圧力センサの分解能は、最大測定圧力の0.1~1.0%程度とされる。本発明の実施形態において、制振用アクチュエータの外径ΦD2=83.1mm、最大供給圧力Pmax=0.5MPaとして、アクチュエータの最大発生力はF=2000Nである。圧力センサの分解能から、圧力センサが検出可能な発生力Fmin=2.0~20Nである。両者の検出可能な発生力比較から、除振制御に必要とされるサーボ型加速度センサの分解能と検出可能な最小発生力は、圧力センサのそれと比べて桁違の差があることが分かる。
【0204】
ちなみに、高加速度・制振制御に要求される衝撃力相殺精度の目標を下記事例(i)(ii)に示す。
【0205】
(i)制振制御を施さず、除振制御だけの場合は衝撃荷重によってステージはX=2mm移動する。制振制御の目標:X=2→0.05mm以下にする。(相殺率97.5%)
(ii)制振制御の目標:ステージ停止後100ms以内に1Gal以下にする。
【0206】
上記事例(i)(ii)から、制振制御に要求される衝撃力相殺精度は、最高レベルで2~3%程度と考えてよい。
【0207】
(3)圧力フィードバックに関する従来提案
特許文献6に気体圧で支持された除振装置に圧力フィードバックを適用する方法が開示されている。上記文献では、空気圧アクチュータ内部圧力を、圧力センサにより検出して圧力を一定に保つように制御する。アクチュエータの剛性と固有値を大幅に低下させることで、たとえば、露光装置の像ズレを引き起こす2Hz以下の低周波成分を除去する、としている。上記提案と本発明の違いを整理すると次のようである。
【0208】
特許文献6は、低周波の除振性能を向上させるために圧力制御を用いるのに対して、本発明の提案は、制振制御にだけ圧力制御を施す方法である。したがって、除振制御には圧力制御は施さず、圧力センサの存在は除振制御に影響を与えない。前述したように、本発明は圧力センサの分解能が悪く、微振動制御への適用は困難であるという知見を前提としている。
【0209】
[2] サーボバルブの構造
図24aに示す本実施形態に適用したサーボバルブ基本構造は、第1実施形態に適用したそれと同様のため、圧力センサ配置の近傍図を除き、詳細な説明は省略する。 本実施形態では、圧力センサはサーボバルブの制御室172の圧力を直接検出できるように、バルブ本体に装着して設けられている。同図はサーボバルブ本体を締結するバルブ締結部材173の一箇所に空隙部を形成して、圧力センサを前記バルブ締結部材に装着できるように構成した図である。
【0210】
前記バルブの制御室172と、この制御室と前記アクチュエータを繋ぐ配管(
図2aの162、176,177)と、前記アクチュエータの空気室で構成される空気流路において、加速・減速時に大流量の空気が各空気流路に流れる。後述する解析結果(
図29a)に示すように、制御側流路162を流れる空気流量はQ=300~400L/minであった。流体の静圧をP (Pa)、密度をρ(Kg/m
3)として、静圧と動圧の和は一定とするベルヌーイの定理
から、流路面積が小さい箇所で速度Vが大きく、動圧(左辺の第2項)が大きい。アクチュエータの発生力は静圧の大きさで決まるために、正確な発生力を検出するためには、動圧の小さな箇所に圧力センサを設置するのが好ましい。そのため、本実施形態では、動圧の影響を受けにくい淀み空間となる箇所に圧力センサを設置した。178はバルブ締結部材173に形成された空隙部、179は圧力センサ、180は吸気側ハウジング159に形成された制御室172と連絡する流通路、181は空隙部、182この空隙部と流通路182に設けられたオリフィスである。このオリフィスによる流体抵抗Rと空隙部181容積Cにより、空気圧変動の高周波成分をカットする空気圧回路によるローパスフィルターを形成している。圧力センサを設置する箇所は、前記アクチュエータ空気室に設置された配管の開口部から最大距離の位置でもよい。
【0211】
本実施形態では、発生力フィードバックを施すために、発生力の検出手段として、圧力センサを用いた。この圧力センサの代わりに、空気圧アクチュエータの上端面とその対抗面の間に装着したロードセルなどを用いても良い。あるいは力覚センサとして、ひずみゲージ式、圧電式、静電容量式、光学式などを適用してもよい。
【0212】
空気圧アクチュエータの一個分が受け持つ等価質量m、前記空気圧アクチュエータの可動方向の等価バネ定数Kとする。前記空気圧アクチュエータの出力側(たとえば、定盤側内枠部205)に設置された加速度センサで検出される加速度α、前記出力側に設置された変位センサで検出される変位xとして、慣性力mαと前記バネによる復元力Kxから空気圧アクチュエータの発生力を求めてもよい。
【0213】
あるいは、
図22に示すノズルフラッパ型のサーボバルブの場合、吸気側ノズル165と排気側ノズルに対抗して配置されたフラッパ163の位置で、制御室172の圧力は決定される。前記フラッパの変位を検出すれば、制御室圧力(発生力)を求めることができる。前記フラッパ変位を検出するために同図の構造を利用するならば、たとえば 流通路182の位置に、前記フラッパに対抗するように変位センサを配置すればよい(図示せず)。発生力の情報に繋がるならば、どのような手段でも本発明を適用することができる。
【0214】
183は空気圧の供給源側に設置された減圧弁(レギュレータ)、184は圧力計である。前述したように、前記サーボバルブの吸気孔の上流側に設置される減圧弁183では、制振制御時、瞬時に大流量を流したときに吸気孔の上流側圧力を一定圧に維持できなることが分かった。本実施形態では、制振制御の立ち上がり時間は数ミリ秒のオーダーであり、メカニカルな要素で構成された減圧弁では追従できない。同図中に時間に対する圧力Psの急降下をイメージ図で示す。この供給源圧力の急峻な変動に対して、リアルタイムで圧力を検出する圧力フィードバックは絶大な効果を発揮する。すなわち、供給圧力Psが降下した場合、吸気流量の低下を補うように吸気側のバルブ開度が増大して、制御圧力が目標値を保つように制御されるのである。
【0215】
[3] 制振制御の理論解析
図25は
図1bおける空気圧アクチュエータ206a、206cとサーボバルブ207a、207cだけを抽出した図である。同図において、F
X1はL側アクチュエータ206cを駆動したときに発生する力、F
X2はR側アクチュエータ206aを駆動したときに発生する力である。2つの力の総和F=F
X1-F
X2が、定盤側内枠部205に直結した定盤201に加わるX軸方向の力となる。
【0216】
(1) 解析結果
図26は
図5で示した各アクチュエータの発生力の目標値を示すもので、
図26aはL側アクチュエータ206c、
図26bはR側アクチュエータ206aの目標値である。R側アクチュエータ206aの発生力は、L側アクチュエータ206cと比べて、位相が180deg遅れた設定である。
図27a、
図27bは前述した理論解析から得られた発生力の実測値に相当する解析結果である。
【0217】
図28に2つの発生力(
図27a、
図27b)の総和F=F
X1-F
X2を求めた解析結果を示す。
図28のグラフにおいて、スタート時からt=4msで+2000Nの加速時の反力、t=12msで-2000Nの減速時の反力を相殺する発生力が得られることが分かる。
図29に上記発生力を求めるための解析ブロック図を示す。したがって、このサーボバルブとアクチュエータの組み合わせを
図1に示したアクティブ除振台定盤の支持構造に適用すれば、XYの各軸で2000Nの制振力に対応できる。
【0218】
図30は、上記条件で得られたサーボバルブの各特性の解析結果を示すものである。同図において、図(a)は制御流量特性、図(b)は吸気流量特性、図(c)は排気流量特性、図(d)はディスク変位特性、図(e)は入力電流特性である。
図31a~
図31eに
図30の各波形[図(a)~図(e)]の拡大図を示す。
【0219】
[第5実施形態]
図32は、本発明の第5実施形態であり、空気圧サーボシステムの調整段階と実施段階(量産段階)の制御ブロック図を示すものである。調整段階で適用した圧力フィードバック(非線形・応答性補正手段)は実施段階では適用せず、調整段階で得られたサーボバルブの入力駆動信号だけを用いたものである。同図中の想像線で示す「非線形・応答性補正手段」は圧力フィードバックに限定されないが、本実施形態では、この補正手段に圧力フィードバックを用いた場合について説明する。
【0220】
本発明は、制振制御において、サーボバルブで駆動される空気圧アクチュエータの発生圧力(発生力)は、サーボバルブの駆動入力電流波形(A)だけで決まる、という点に着目したものである。すなわち圧力FBの役割は、発生圧力(発生力)が目標入力値(FF信号)になるように駆動入力電流波形(A)のプロフィールを決定する作用である。したがって、次のステップでは、圧力FB(非線形・応答性補正手段)を施さなくても、駆動入力電流波形(A)でサーボバルブを駆動すれば、同一の圧力特性が得られる。但し、本実施形態はリアルタイム圧力FBを施さなくても、サーボバルブのヒステリシスと、供給源圧力変動が制振制御の目標精度に与える影響が充分に小さく、許容される場合が適用対象となる。
【0221】
Step1.調整段階
第4実施形態で示した空気圧サーボシステムと同様の構成で、前記サーボバルブが駆動される。すなわち、フィードフォワード信号14と圧力センサ10aからのフィードバック信号15の偏差εは、制御回路(A)16を経て、電流17によりサーボバルブ10を駆動する。すなわち、目標値と実測値の偏差ε=F0(t)-F(t)→0となるように前記サーボバルブが駆動される。本実施形態では、前記制御回路(A)はPID制御装置とバルブ駆動回路より構成される。
【0222】
Step2. サーボバルブ駆動入力波形の保存
上記Step1で得られたサーボバルブ駆動入力波形17を、生産条件を特定して、コンピュータのサーバー18に保存する。特定された生産条件ナンバーとは、サーボバルブの製品番号、空気圧アクチュータの仕様、吸気・排気の配管仕様、供給源設定圧力、生産タクトなど、量産時に同一条件で再現できる調整時の仕様である。
【0223】
Step3. 量産段階
量産段階では圧力フィードバックは施さず、前記コンピュータのサーバー等に保存されている入力電流波形19を選び、制御回路(B)20を経てサーボバルブ10を駆動する。前記制御回路(B)は、PID制御装置は経由せず、主にサーボバルブの駆動回路だけで構成される。
【0224】
制御回路(A)と制御回路(B)を個別に設けるのではなく、前記制御回路(A)と前記制御回路(B)が切り替え可能に構成してもよい。前記制御回路(A)は、非線形・応答性補正手段を適用するのに必要な回路であり、制御回路(B)はサーボバルブを駆動する回路だけでよい。前記制御回路(A)と前記制御回路(B)を切り替え可能にする手段として、回路基板の取り換えでもよい。あるいは実施時の作業性を考慮して、パネル面での操作でもよい。生産タクトの変更、あるいは供給圧設定などの生産条件などの変更に対して、調整段階にリセットして、再度サーボバルブの入力駆動信号を入れ替え可能にすれば、生産性はおおいに向上する。
【0225】
[第6実施形態]
本実施形態では、前述した空気圧式アクチュエータを第1制振用アクチュエータとして、この第1制振用アクチュエータよりも応答性が高く、作動原理の異なる第2制振用アクチュエータを備えた駆動システムを想定する。最初に、第2制振用アクチュエータがリニアモータ方式の場合について述べる。
【0226】
図33は空気圧サーボ方式(第1制振用アクチュエータ)とリニアモータ方式(第2制振用アクチュエータ)のそれぞれの長所を活かし、短所を補う「ハイブリッド制御」を提案するものである。すなわち、基本コンセプトは、「空気圧サーボで制振制御波形の原型を作り、リニアモータで整形する」である。以下、主に前述した内容であるが、リニアモータ方式と空気圧サーボ方式の長所・短所を再度整理する。
【0227】
リニアモータ方式の長所は
(1)応答性に優れる・・・ローレンツ力(Lorentz force)を作動原理とするリニアモータの発生力はコイルに流す電流で決まるために、制御対象が静止している場合は、発生力は制御対象の動特性に依存しない。
(2)高精度FF制御ができる・・・入力電流と発生力が比例関係であるため、衝撃荷重を減殺する発生力波形は容易に作れる。
【0228】
リニアモータ方式の短所は
(1)発生力が小さい・・・現段階では、一台で発生力F=100N~150N程度が限界とされるために、大きな発生力を得るには多数のリニアモータの同時設置が必要となる。
(2)発熱対策必要・・・ローレンツ力は、空気圧電磁弁の磁気吸引力(Maxwell応力)と比べて、電気・機械変換効率が悪く、大電力駆動を必要とする。温度制限のあるコイルと永久磁石を保護するために、コイルの発熱対策が必要となる。
【0229】
また、除振台に搭載される半導体露光装置などに与える温度上昇の影響が、許容される発熱量の制約条件となる。
【0230】
一方、空気圧サーボ方式については、業界一般の既成概念(fixed concept)として、大きな発生力が得られるという長所を有するが、(1)空気消費量が大きい、(2)応答性が悪い、という短所があった。しかし、これらの短所は、前述した実施形態で説明したように、本発明の適用により解消することができた。
【0231】
本実施形態は、空気圧サーボ方式とリニアモータ方式のいずれかを選択するのではなく、両方式を組み合わせて、かつそれぞれの長所を活かすことで、さらなる性能向上を図ることを提案するものである。すなわち、機構的な可動部を有しないがゆえに、高速の応答性が優れたリニアモータ方式と、空気圧サーボを組み合わせれば、高加速度・制振制御はさらに高いレベルまで実現可能である。以下、本発明のコンセプト、「空気圧サーボで制振制御波形の原型を作り、リニアモータで整形する」の具体事例を説明する。
【0232】
図33において、51のグラフは空気アクチュータの発生力実測値F(t)である。この実測値F(t)は圧力センサ10aで計測した空気室11の圧力から求めたグラフであり、FF信号目標値52の入力信号に対する出力応答波形(
図33)である。発生力の検出手段として、本実施形態では圧力センサ10aを用いたが、この圧力センサの代わりに、空気圧アクチュエータの上端面とその対抗面の間に装着したロードセル、力覚センサなどを用いても良い(図示せず)。
【0233】
53のグラフは空気アクチュータの発生力目標値F
0(t)の入力波形(
図32)である。
【0234】
54のグラフはリニアモータ55の駆動入力波形ΔF(t)(
図34)であり、発生力目標値F
0(t)と発生力実測値F(t)の偏差ΔF(t) [=F
0(t)-F(t)]として求められるものである。空気圧アクチュエータが、前述した圧力フィードバックを施した場合のように、高い応答性が得られる場合、前記FF信号F
0(t)は予め準備されたデータではなく、リアルタイムで計測された加振力のデータを直接入力してもよい。
【0235】
図34に示すFF信号の発生力目標入力波形F
0(t)は、立ち上がり時間T
r =4ms、最大ピーク値2000Nの三角波である。
図35の出力応答波形は、空気圧サーボによる制振制御の原型波形であるが、最大ピーク値2000Nに充分に追従しており、大きな発生力が得られる空気圧サーボの長所が活かされている。
【0236】
図36の駆動入力波形ΔF(t)は、リニアモータによる整形波形であり、最大ピーク値は250Nの低いレベルであるが、極めて複雑な波形である。この複雑な波形に高速、かつ高精度で追従できるリニアモータの長所が活かされている。この2つの波形を組み合わせることで、リニアモータの発熱を大幅に低減すると共に、大きな発生力にも関わらず高精度のFF制御が実現できる。
【0237】
空気室11の圧力を計測する圧力センサ10aは、前述した実施例における圧力FBで用いた圧力センサを併用してもよい。あるいは、非線形・応答性補正手段として圧力FBは施さないで、別の方法で補正手段を適用する。この場合、本実施形態の「ハイブリッド制御」のために、前記空気室の圧力を圧力センサで計測してもよい。
【0238】
あるいは、非線形・応答性補正手段の無い空気圧サーボで制振制御を施して、発生力目標値F0(t)と発生力実測値F(t)の偏差ΔF(t)をリニアモータで低減させる構成でもよい。この場合でも、リニアモータの負担を減らして、低発熱化を図ることはできる。
【0239】
本実施形態では、第1制振用アクチュエータに空気圧式アクチュエータを適用して、第2制振用アクチュエータにリニアモータ方式を適用した場合について述べた。
【0240】
応答性の高い第2制振用アクチュエータとして、たとえば、可動部のストロークは制約されるが、ピエゾ式、超磁歪アクチュエータでもよい(図示せず)。
【0241】
本実施形態では、制振用アクチュエータに空気圧サーボ方式(第1制振用アクチュエータ)とリニアモータ方式(第2制振用アクチュエータ)を組み合わせたハイブリッド制御を提案した。さらに、新たな展開として、除振用アクチュエータに第2制振用アクチュエータであるリニアモータ方式を併用してもよい。本発明の基本形態として、除振用と制振用を分離して構成しているために、除振用・制振用アクチュエータとその駆動手段は、それぞれベストな性能が得られる駆動原理・制御方法を選択できる。除振用アクチュエータは、制振用と比較して大きな発生力が必要としない点を考慮すれば、高速応答性の優れたリニアモータ方式が適用できる。すなわち、この場合、リニアモータ方式は「制振制御波形の整形」と「除振作用」の2つの役割を担うのである(図示せず)。
【0242】
[第7実施形態]
前述した実施形態では、非線形・応答性の補正手段(圧力FB)を施すことで、サーボバルブの非線形特性が制振制御特性に与える影響を回避する方策を示した。
【0243】
本実施形態は、サーボバルブの不感帯特性だけに注目して、非線形・応答性の補正手段を施さない場合においても、不感帯特性が制振制御特性に与える影響を低減できる下記2つの方策(1)(2)を示すものである。
(1)制振制御の待機時における電流値I0を0≦I0≦I1の範囲に設定する
(2)制振制御の待機時における電流値I0をI0≧I1の範囲に設定する
【0244】
図37は上記(1)を説明するグラフで、制振用バルブの入力電流に対する制振用アクチュエータの発生力を示すものである。同図中に吸気ノズル165とフラッパ163の位置関係をモデル化して示している。制振制御の待機時電流値I
0が、0≦I
0≦I
1の範囲に設定されている場合は、フラッパ163は吸気ノズル165の開口端を遮蔽しており、制御室172の圧力は大気圧に保たれている。待機時電流値I
0→I
1に近接することで、静特性における不感帯幅ΔI(=I
1-I
0)→0にできて、かつ、動特性における「むだ時間要素」ΔT→0にできる。
【0245】
図38は上記(2)を説明するグラフで、
図37同様に、制振用バルブの入力電流に対する制振用アクチュエータの発生力を示すものである。制振制御の待機時電流値I
0が、I
0≧I
1の範囲に設定されている場合は、フラッパ163は吸気ノズル165の開口端から離れて、微小量の空気が制御室172に流入している。この場合は、制御室172の圧力は大気圧よりも上昇している。
【0246】
図39aは上記(2)の場合において、除振用アクチュエータ208dと除振用バルブ209dの機能が、制振用アクチュエータ206dと制振用バルブ207dの機能をサポートしている状態を示す図である。
図39bは
図39aのAA部(ノズル部)の拡大図である。
【0247】
制振制御の待機時において、制御室172の圧力上昇により、制振用アクチュエータ206dには、床面側外枠部204に対して定盤側内枠部205を移動させる発生力ΔFYが生じる。しかし、前記床面側外枠部(固定側)に対する前記定盤側内枠部(可動側)の距離Yは、一定値(Y=Y0)を保つように、前記除振用アクチュエータにより位置制御がなされる。その理由は、前記床面側外枠部に対して前記定盤側内枠部の位置を検出する変位センサ180が設けられており、この変位センサからの情報を基に、前記除振用アクチュエータに復元力(-ΔFY)が働くからである。
【0248】
除振制御時において、除振用アクチュエータの空気ばね剛性Kv、制振用アクチュエータの空気ばね剛性Kdとして、2つの空気ばね剛性の並列和(KT=Kv+Kd)と負荷質量mにより共振周波数f0=(KT/m)0.5/2πが決定される。制振用アクチュエータの制御室172の圧力上昇が微小であれば、圧力に比例する空気バネ剛性Kdは充分に小さくできるために、除振性能に与える影響を僅少にできる。[式(5)参照]
【0249】
制振制御の待機時電流値I0≧I1の範囲でも、待機時電流値I0→I1に近接することで、制振制御の出力波形を目標値に近づけることができる。
【0250】
要約すれば、0≦I0≦I1の範囲で不感帯幅を有するサーボバルブにおいて、I=I1を中心値に設定して、この中心値I1に対する誤差±ΔI1をできる限り僅少になるように待機時電流値を設定すれば、制振制御と除振制御に与える影響を低減できる。
【0251】
補足[1]
前述した各実施形態では、除振台の微小振動を低減する除振手段として、アクティブ制御型の除振用アクチュエータを用いる場合について述べた。しかし、微小振動を低減する手段は、能動的な電子制御によるアクチュエータに限定されない。たとえば、卓上型除振台に適用されているカニカル・サーボによる空気圧システムでもよい。このメカニカル・サーボは、空気圧タンク(アクチュエータ)の浮上量をバルブのスプールが機構的に検出して、バルブ流量を調節することで、空気圧タンクの浮上量と圧力を制御するメカニカル・フィードバックである。あるいは、永久磁石の反発力を利用して定盤を平衡位置で浮上させる方法、定盤と対向面の間で空隙を一定に保つように自動調節される静圧空気軸受を構成する方法など、定盤と床面間が非接触状態を保つことで振動遮断による除振作用を得ることができる。
【0252】
あるいは、適用する対象が要求する除振性能に合せて、スプリングコイルとサージング現象防止ゴムの組み合わせから構成されるパッシブ支持手段(吸振体)、あるいは、防振ゴム等でもよい。
【0253】
前述した本発明の実施形態は、制振制御の構造と制御方法に重点を置いたものが多い。たとえば、第2実施形態における2組の前記制振用アクチュエータのそれぞれを対向面上に配置する構造、第3実施形態におけるサーボバルブの非線形特性を補正する方法。第4実施形態における発生力(圧力)フィードバックにより、(i)制御要素の非線形特性を補正する、(ii)応答性の遅れを補正する、(iii)上記(i)(ii)をリアルタイムで実施する。第5実施形態における調整段階で適用した非線形・応答性補正手段は実施段階では適用せず、調整段階で得られたサーボバルブの入力駆動信号だけを用いる。第6実施形態における「空気圧サーボで制振制御波形の原型を作り、リニアモータで整形する」方法、等である。上記制振制御の構造と制御方法は、除振制御の手段(アクティブ除振、パッシブ除振)の選択に係わらず効果が得られる提案である。
【0254】
補足[2]
したがって、補足[1]で説明したように、本願発明は下記構成(1)(2)の流体制御システムにも適用できる。
【0255】
(1) 適用例(その1)
除振台と、基礎と前記除振台間の振動伝達を抑制すると共に、前記除振台の前記基礎に対する支持手段と、前記除振台を加振させる振動発生源を有する環境下に前記除振台は設置されており、この振動発生源が前記除振台に与える加振力の情報に基づいて、前記除振台に発生する外乱を減殺する制振力を与える制振用アクチュエータと、この前記制振用アクチュエータはその内部の気体を吸排気する制振用バルブで駆動される気体圧式で構成されており、前記制振用バルブの制御圧力を大気圧近傍から前記制振用バルブの供給圧近傍になるように制御したときに、前記制振用バルブは入力信号に対する制御圧力が非線形特性を有し、該非線形特性が前記制振力に与える影響を低減する該非線形特性の補正手段が前記制振用バルブの駆動側に設けられており、該非線形特性の前記補正手段で前記制振用バルブを駆動したものである。
【0256】
(2) 適用例(その2)
除振台と、基礎と前記除振台間の振動伝達を抑制すると共に、前記除振台の前記基礎に対する支持手段と、前記除振台を加振させる振動発生源を有する環境下に前記除振台は設置されており、この振動発生源が前記除振台に与える加振力の情報に基づいて、前記除振台に発生する外乱を減殺する制振力を与える制振用アクチュエータと、この前記制振用アクチュエータはその内部の気体を吸排気する制振用バルブで駆動される気体圧式で構成されており、前記制振用バルブの制御圧力を大気圧近傍から前記制振用バルブの供給圧近傍になるように制御されており、前記振動発生源が前記除振台に加える前記加振力の正方向成分をFA、前記加振力の負方向成分をFAとして、前記加振力FAと前記加振力FBを減殺するように、逆方向の力を発生する2組の前記制振用アクチュエータのそれぞれを対向面上に配置したものである。
【符号の説明】
【0257】
201 除振台
202 ステージ
208 除振用アクチュータ
206 制振用アクチュータ
207 制振用バルブ