(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117876
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】生成装置、生成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20240823BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240823BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G10K11/178 120
H04R3/00 320
H04R1/40 320A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023937
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘章
(72)【発明者】
【氏名】鎌土 記良
(72)【発明者】
【氏名】小塚 詩穂里
(72)【発明者】
【氏名】信夫 直樹
(72)【発明者】
【氏名】羽田 陽一
【テーマコード(参考)】
5D018
5D061
5D220
【Fターム(参考)】
5D018BB23
5D061FF02
5D220BA06
5D220BC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】実際のエラーマイクから離れたユーザの耳元でも高い抑圧性能を実現するキャンセル信号を生成する生成装置及び生成方法を提供する。
【解決手段】騒音抑圧システムにおいて、抑圧信号生成装置は、ユーザの頭部近傍に非等間隔に配置した複数個のエラーマイクの収音信号x(e)から、最小二乗法で推定された球面調和関数展開係数を利用して、複数個のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイク130を設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定部120と、抑圧対象の騒音を収音した収音信号x(r)と推定収音信号とを用いて、仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部110と、からなる。仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクであり、複数個のエラーマイクは、所定の条件を満たすように球面上に設置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する生成装置であって、
ユーザの頭部近傍に非等間隔に配置した複数個のエラーマイクの収音信号から、最小二乗法で推定された球面調和関数展開係数を利用して、前記複数個のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定部と、
抑圧対象の騒音を収音した収音信号と前記推定収音信号とを用いて、前記仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、
前記仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクであり、
前記複数個のエラーマイクは以下の条件(i)~(iv)を満たすように球面上に設置される、
(i)複数個のエラーマイクが水平角方向に配置され、かつ、複数個のエラーマイクが仰俯角方向に配置される、
(ii)水平角方向に少なくとも4個のエラーマイクが配置された第1層と第2層を備え、水平角方向に少なくとも2個のエラーマイクが配置された第3層と第4層を備える、
(iii)仰俯角方向において異なる角度に、前記第1層、前記第2層、前記第3層および前記第4層が配置される、
(iv)前記第1層と前記第2層は頭部上部位置に配置され、前記第3層と前記第4層は頭部側方位置に配置される、
生成装置。
【請求項2】
請求項1の生成装置であって、
水平角0°および180°において仰俯角方向に4個のエラーマイクが配置され、水平角90°および270°において仰俯角方向に2個のエラーマイクが配置され、前記第1層,前記第2層,前記第3層および前記第4層の仰俯角は、それぞれ仰角60°,45°,30°および0°である、
生成装置。
【請求項3】
アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する生成方法であって、
ユーザの頭部近傍に非等間隔に配置した複数個のエラーマイクの収音信号から、最小二乗法で推定された球面調和関数展開係数を利用して、前記複数個のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定ステップと、
抑圧対象の騒音を収音した収音信号と前記推定収音信号とを用いて、前記仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成ステップとを含み、
前記仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクであり、
前記複数個のエラーマイクは以下の条件(i)~(iv)を満たすように球面上に設置される、
(i)複数個のエラーマイクが水平角方向に配置され、かつ、複数個のエラーマイクが仰俯角方向に配置される、
(ii)水平角方向に少なくとも4個のエラーマイクが配置された第1層と第2層を備え、水平角方向に少なくとも2個のエラーマイクが配置された第3層と第4層を備える、
(iii)仰俯角方向において異なる角度に、前記第1層、前記第2層、前記第3層および前記第4層が配置される、
(iv)前記第1層と前記第2層は頭部上部位置に配置され、前記第3層と前記第4層は頭部側方位置に配置される、
生成方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2の生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の位置での外部の騒音を抑圧する能動的騒音抑圧(ANC:Active Noise Control)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の能動的騒音抑圧技術として非特許文献1が知られている。能動的騒音抑制では、参照マイク、エラーマイク、キャンセルスピーカを一般的に用いる。
図1は従来の騒音抑圧装置の構成例を示す。参照マイク91で騒音源の発する騒音を収音する。キャンセルスピーカ92は、抑圧信号生成装置90で生成されたキャンセル信号を再生して、騒音を相殺するキャンセル音を発する。さらに、エラーマイク93で騒音の消し残しを収音し、フィードバックする。抑圧信号生成装置90は、参照マイク91の収音信号とエラーマイク93の収音信号とを用いて、騒音の消し残しが小さくなるようにキャンセル信号を能動的に制御し、生成する。エラーマイク93の設置位置において、騒音の消し残しが小さくなるように、キャンセルスピーカ92がキャンセル音を発するため、キャンセル音はエラーマイク93の設置位置で最も効率よく騒音を抑圧する。そのため、エラーマイク93はユーザの耳元近くに設置される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】梶川, 「アクティブノイズコントロールの最近の話題と応用」, 研究報告音楽情報科学(MUS), vol. 2015-MUS-107, no. 3, pp. 1-6, 5月 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の利用に際しては、エラーマイク93をユーザの耳元近くに設置できない場合もあり、エラーマイク93の設置位置とユーザの耳元との距離が大きくなると、前述の通り、エラーマイク93の設置位置で最も効率よく騒音を抑圧し、ユーザの耳元では騒音の消し残しが大きくなり、抑圧性能が低下し、ユーザが騒音抑圧の恩恵を十分に得られない場合がある。例えば、騒音源から耳元までの距離が100mmであり、エラーマイク93をユーザの耳元(0mm)に設置した場合の抑圧性能は-∞dBであり、エラーマイク93を騒音源と耳元との中間地点に設置した場合の抑圧性能は-7.38dBであることをシミュレーションにて確認した。
図2は、従来技術の抑圧可能領域(スイートスポット)S
1と所望のスイートスポットS
2との違いを説明するための図である。
【0005】
本発明は、実際のエラーマイクの配置位置で収音した収音信号から、ユーザの耳元で収音した場合に得られる収音信号を推定し、キャンセル信号を能動的に制御するために、実際のエラーマイクの配置位置で収音した収音信号の代わりに推定により得られた収音信号を使用することで、実際のエラーマイクから離れたユーザの耳元でも高い抑圧性能を実現する生成装置、生成方法、そのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、生成装置は、アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する。生成装置は、ユーザの頭部近傍に非等間隔に配置した複数個のエラーマイクの収音信号から、最小二乗法で推定された球面調和関数展開係数を利用して、複数個のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号を得る音圧推定部と、抑圧対象の騒音を収音した収音信号と推定収音信号とを用いて、仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクであり、複数個のエラーマイクは以下の条件(i)~(iv)を満たすように球面上に設置される、(i)複数個のエラーマイクが水平角方向に配置され、かつ、複数個のエラーマイクが仰俯角方向に配置される、(ii)水平角方向に少なくとも4個のエラーマイクが配置された第1層と第2層を備え、水平角方向に少なくとも2個のエラーマイクが配置された第3層と第4層を備える、(iii)仰俯角方向において異なる角度に、第1層、第2層、第3層および第4層が配置される、(iv)第1層と第2層は頭部上部位置に配置され、第3層と第4層は頭部側方位置に配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に従来よりも高い抑圧性能を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来のアクティブノイズコントロールを説明するための図。
【
図2】従来技術の抑圧可能領域を説明するための図。
【
図3】第一実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図。
【
図4】第一実施形態に係る騒音抑圧システムの処理フローの例を示す図。
【
図8】第一実施形態のシミュレーション結果を示す図。
【
図9】第一実施形態の推定方法2と推定方法3を用いて、騒音源の到来方向を変更した場合の予測誤差をシミュレーションした状況を示す図。
【
図10】第一実施形態の推定方法2と推定方法3を用いて、騒音源の到来方向を変更した場合の予測誤差をシミュレーションしたときのシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】ユーザの頭部に対するエラーマイクの位置関係を説明するための図。
【
図12】エラーマイクの位置関係を示す平面図と背面図。
【
図13】仰俯角方向に配置される4つのエラーマイクの水平角を変更した場合の平面図。
【
図14】第1層、第2層、第3層および第4層の仰俯角を変更した場合の平面図。
【
図15】第一実施形態の推定方法2と第二実施形態を用いて、騒音源の到来方向を変更した場合の予測誤差をシミュレーションしたときのシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】本手法を適用するコンピュータの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、同じ機能を持つ構成部や同じ処理を行うステップには同一の符号を記し、重複説明を省略する。以下の説明において、テキスト中で使用する記号「^」「-」等は、本来直後の文字の真上に記載されるべきものであるが、テキスト記法の制限により、当該文字の直前に記載する。式中においてはこれらの記号は本来の位置に記述している。また、ベクトルや行列の各要素単位で行われる処理は、特に断りが無い限り、そのベクトルやその行列の全ての要素に対して適用されるものとする。
【0010】
<第一実施形態のポイント>
本実施形態では、耳元から離れた位置に設置されたエラーマイクの収音信号から耳元での観測音圧を推定する。例えば、実際のエラーマイクの収音信号から、耳元に配置された仮想的なエラーマイクの収音信号を推定し、ANCにおいて、仮想的なエラーマイクの収音信号を従来のエラーマイクの収音信号として用いる。このような構成とすることで、スイートスポットの位置をエラーマイクの設置位置から仮想的なエラーマイクの位置に変更し、耳元での消し残りをキャンセルする音を出すことができる。
【0011】
仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する方法としては様々な方法が考えられる。例えば、実際のエラーマイクの設置位置から耳元までの距離減衰、位相遅延を考慮して音圧を推定する。また、例えば、球面上に配置した実際のエラーマイクから、球面調和関数を用いて耳元の音圧を推定する。
【0012】
<第一実施形態>
図3は第一実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図を、
図4はその処理フローを示す。
【0013】
騒音抑圧システムは、参照マイク91、キャンセルスピーカ92、エラーマイク93、抑圧信号生成部110および音圧推定部120を含む。抑圧信号生成部110および音圧推定部120からなる装置を抑圧信号生成装置ともいう。
【0014】
抑圧信号生成装置は、参照マイク91の収音信号x(r)と、エラーマイク93の収音信号x(e)とを入力とし、騒音の抑圧量が最大となる地点が、エラーマイク93の設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号(以下、「抑圧信号」ともいう)yを生成して、キャンセルスピーカ92に出力する。
【0015】
抑圧信号生成装置は、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)などを有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。抑圧信号生成装置は、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。抑圧信号生成装置に入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。抑圧信号生成装置の各処理部は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。抑圧信号生成装置が備える各記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、またはリレーショナルデータベースやキーバリューストアなどのミドルウェアにより構成することができる。ただし、各記憶部は、必ずしも抑圧信号生成装置がその内部に備える必要はなく、ハードディスクや光ディスクもしくはフラッシュメモリ(Flash Memory)のような半導体メモリ素子により構成される補助記憶装置により構成し、抑圧信号生成装置の外部に備える構成としてもよい。
【0016】
以下、各部について説明する。
【0017】
<参照マイク91>
参照マイク91は、抑圧対象の音を収音し(S91)、収音信号x(r)を出力する。参照マイク91で収音した抑圧対象の音を、以下「騒音」と記載する。
【0018】
<キャンセルスピーカ92>
キャンセルスピーカ92は、キャンセル信号yを入力とし、キャンセル信号yを再生する(S92)。キャンセルスピーカ92から再生される再生音と抑圧対象の騒音とが完全な逆位相となる場合、再生音と抑圧対象の騒音とが重なる、すなわち、音波同士が重畳する、と波が打ち消し合うため、騒音が抑圧される。
【0019】
<エラーマイク93>
エラーマイク93は、騒音の消し残しを含む、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音を収音し(S93)、収音信号x(e)を出力する。エラーマイク93は、観測点(例えば、ユーザの耳元)よりも騒音源に近い位置に配置される。例えば、エラーマイク93は、
図5のように耳元よりも騒音源に0.05m近い位置に配置される。
【0020】
<音圧推定部120>
音圧推定部120は、エラーマイク93の出力信号(収音信号)x(e)を入力とし、エラーマイク93よりも観測点に近い位置にマイク130を設置した場合に収音されると推定される信号である、推定収音信号x(v)を算出し、出力する。すなわち、音圧推定部120は、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音がマイク130の設置位置で収音される場合に得られる収音信号を推定し(S120)、推定した収音信号を推定収音信号x(v)として出力する。以下、推定収音信号x(v)の推定方法を3つ例示する。ここで、マイク130は実際には設置せず仮想的に設置されるものであり、以下仮想マイク130と記載する。
【0021】
(推定方法1)
本推定方法では、エラーマイク93と仮想マイク130から、距離減衰と位相遅延に基づき、実際のエラーマイク93の収音信号x(e)から仮想マイク130の収音信号x(v)を推定する。
図5は、騒音源とエラーマイク93、仮想マイク130の位置関係を説明するための図である。
【0022】
本推定方法では、騒音源の位置を仮定し、騒音源からエラーマイク93および仮想マイク130に騒音が平面波で伝搬すると仮定する。騒音源からエラーマイク93までの伝達関数と、騒音源から観測点(仮想マイク130の位置)までの伝達関数から、エラーマイク93から観測点までの距離減衰および位相ずれを推定することで、仮想マイク130で収音される収音信号を推定する。音圧推定部120は、エラーマイク93の出力信号(収音信号)x(e)から、次式により、仮想マイク130の収音信号を推定し、推定収音信号x(v)=[^Gp1 ^Gp2]を出力する。
【0023】
^G
pn=w
nx(e) (n=1,2) (1)
ここで、ゲイン減衰のみを考慮するとw
nは
w
n=|G
pn|/|G
e| (2)
であり、位相ずれのみを考慮するとw
nは
w
n=exp((arg G
pn-arg G
e)j) (3)
である。式(2),(3)のG
e、G
pnは、仮定した騒音源の位置と観測点から推定処理に先立ち予め算出しておく。例えば、仮定した騒音源の位置に騒音源用のスピーカを配置し、騒音源用のスピーカで所定の信号を再生し、エラーマイクの位置に配置したマイクで収音した収音信号からG
eを求め、観測点の位置に配置したマイクで収音した収音信号からG
pnを求めておく。
(推定方法2)
本推定方法では、頭部近傍に等間隔に配置した複数のエラーマイクの収音信号から、球面調和関数展開係数を利用して仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する。
図6は、実際のエラーマイクの位置関係を説明するための図である。
【0024】
本推定方法では、半径r
eの球面上に等間隔にエラーマイクを配置し、半径rの球面上の音圧を推定する。例えば、中心からエラーマイクまでの距離をr
e=0.15mとし、(i)6個のエラーマイクを正六面体の各面の中心に配置する(
図6の(i)参照)、(ii)12個のエラーマイクを正十二面体の各面の中心に配置する(
図6の(ii)参照)ことで、等間隔にエラーマイクを配置することができる。例えば、中心から観測点(仮想マイク130の位置)までの距離をr=0.08mとして推定する。
【0025】
球面調和関数展開を利用することで、ある球面上での観測音圧から、任意の球面上における観測音圧を推定することが可能である。
【0026】
半径re上のL個のエラーマイクから音圧の観測値p(θ1,φ1),p(θ2,φ2),…,p(θL,φL)を得る。例えば、L個のエラーマイク93の収音信号x(e)=[p(θ1,φ1),p(θ2,φ2),…,p(θL,φL)]とする。
【0027】
音圧推定部120は、次式により、球面調和関数Y
m
n(・)に対する半径r
e上の音場係数P
nm(r
e)を求める。
【数1】
音圧推定部120は、求めた音場係数P
nm(r
e)を用いて、次式により、半径r上の音場係数P
nm(r)を求める。
【数2】
ただし、kは波数であり、aは音を反射する剛球の半径とし、j
nはn次の球面ベッセル関数であり、j
n'はj
nの微分であり、h
n
(2)は第二種球ハンケル関数であり、h
n'
(2)はh
n
(2)の微分である。
音圧推定部120は、再合成により、観測点(r,θ,φ)における音圧の推定値^p(r,θ,φ)を得る。
【数3】
なお、推定収音信号x(v)=^p(r,θ,φ)とする。
【0028】
以下、式(5)の導出について説明する。
【0029】
騒音源を点音源とし、半径aの剛球での反射を考慮したとき、点(r,θ,φ)における音圧は、
【数4】
である。なお、B
nmは騒音源の座標と信号で定まる係数である。球面調和関数展開は、
【数5】
であり、音場係数P
nm(r)、音場係数P
nm(r
e)は、次式で表される。
【数6】
【数7】
式(10)をB
nm=…の形に変形して(9)に代入すると、
【数8】
【数9】
となる。
【数10】
なお、球面調和関数展開における最大次数Nは以下の制約を受ける。
【0030】
(N+1)2<L
ここで、球面調和関数Ym
n(・)の各モードに対応するだけのスピーカ数が必要である。L=6ならばN=1であり、L=12ならばN=2である。
【0031】
さらに、空間エイリアシングが起こらない条件として、Nは以下の制約を受ける。
【0032】
kr<N
頭部と仮想的なエラーマイク間の距離が制限される。例えば、周波数300Hzとして、N=1のとき推定可能領域は頭部との距離r=0.18m以内に制限される。
【0033】
(推定方法3)
本推定方法では、頭部近傍に非等間隔に配置した複数のエラーマイクの収音信号から、最小二乗法で推定された球面調和関数展開係数を利用して仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する。
図7は、エラーマイクの位置関係を説明するための図である。例えば、頭部後方4点(方位角4つ(0°,30°,150°,180°)×仰角0°)または頭部後方12点(方位角4つ(0°,30°,150°,180°)×仰角3つ(-30°,0°,30°))にエラーマイクを配置する。エラーマイクの設置半径は、設置する環境や抑圧したい音の種類により決定すればよい。例えば、走行音を抑圧したい鉄道などに用いる場合、座席サイズを考慮して、エラーマイクの設置半径は0.13mとする。
【0034】
本推定方法では、半径reの球面上に非等間隔にエラーマイクを配置し、半径rの球面上の音圧を推定する。本推定方法では、球面調和関数展開を直接利用できないので、最小二乗法により球面調和関数展開係数を推定し、半径rの球面上の音圧を得る。
【0035】
半径r
e上のL個のエラーマイクから音圧の観測値p(r
e,θ
1,φ
1),p(r
e,θ
2,φ
2),…,p(r
e,θ
L,φ
L)を得る。エラーマイク93の収音信号x(e)=
-p=[p(r
e,θ
1,φ
1),p(r
e,θ
2,φ
2),…,p(r
e,θ
L,φ
L)]
Tとする。
-pは以下のように表される。
【数11】
【数12】
なお、ω
i=(θ
i,φ
i)とし、i=1,2,…,Lとする。
【0036】
音圧推定部120は、絶対値の二乗誤差が最小となる
-P(r
e)を解として求める。
【数13】
推定したい点が半径r上にあるとしたとき、展開係数P
nm(r)および推定値の計算は推定方法2と同様である。つまり、
音圧推定部120は、次式により、球面調和関数Y
m
n(・)に対する半径r
e上の音場係数P
nm(r
e)を求める。
【数14】
音圧推定部120は、求めた音場係数P
nm(r
e)を用いて、次式により、半径r上の音場係数P
nm(r)を求める。
【数15】
音圧推定部120は、再合成により、観測点(r,θ,φ)における音圧の推定値^p(r,θ,φ)を得る。
【数16】
なお、推定収音信号x(v)=^p(r,θ,φ)とする。
【0037】
<抑圧信号生成部110>
抑圧信号生成部110は、収音信号x(r)と推定収音信号x(v)とを入力とし、仮想マイク130の設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号yを生成し(S110)、出力する。
【0038】
キャンセル信号の生成方法としては、従来技術を用いることができる。例えば、非特許文献1の方法を用いることができる。本実施形態では、収音信号x(r)、推定収音信号x(v)とキャンセル信号yによってフィードフォワード型ANCを実現する。騒音源からの騒音とキャンセル信号yの再生音との干渉音を仮想マイク130で検出した際に得られるだろう収音信号を推定するとともに、騒音源からの騒音を参照マイク91で検出し、適応ディジタルフィルタによって実現されている騒音制御フィルタに入力することでキャンセル信号yを生成し、キャンセルスピーカ92で再生する。キャンセル信号yの再生音は、キャンセルスピーカ92から仮想マイク130までの一連の伝達系である二次経路を伝播すると仮定する。そして、仮想マイク130の入力が最小となるように騒音制御フィルタの係数を適応アルゴリズムにより更新する。騒音制御フィルタの係数の更新方法としては従来の更新方法を用いることができるため、説明を省略する。フィードフォワード型ANCにおいては、二次経路を推定した二次経路モデルが二次経路の影響を適応アルゴリズムにおいて補償するため利用される。
【0039】
<効果>
以上の構成により、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に従来よりも高い抑圧性能を実現することができる。
図8は、第一実施形態のシミュレーション結果を示す。(A)は騒音を300Hzの平面波とし、(B)は騒音を100Hzの平面波とする。
【0040】
<第二実施形態>
第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0041】
図9は、第一実施形態の推定方法2と推定方法3を用いて、騒音源の到来方向を変更した場合の予測誤差をシミュレーションした状況を示す図である。ユーザから見て左側面を0°として、15°ずつ変更し、計13方向から騒音が到来するものとする。
図10は、シミュレーション結果を示す図である。
【0042】
推定方法2は、推定方法3に比べ推定精度が高いが、ユーザの頭部前面にも複数のエラーマイクを配置する必要があり、ユーザの邪魔になる場合があり、視野を狭める。
【0043】
一方、推定方法3では、ユーザの頭部前面にはエラーマイクを配置しないため、ユーザの邪魔にならず、視野を狭めることもないが、推定方法2と同程度の推定精度を発揮することはできない。
【0044】
本実施形態では、ユーザの邪魔にならず、視野を狭めない非等間隔配置でありながら、推定方法2の等間隔配置と同程度の推定精度を実現するエラーマイクの配置方法について説明する。
【0045】
本実施形態では、頭部近傍に非等間隔に配置した複数のエラーマイクの収音信号から、最小二乗法で推定された球面調和関数展開係数を利用して仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する。
【0046】
本実施形態では、半径reの球面上に非等間隔にエラーマイクを配置し、半径rの球面上の音圧を推定する。本実施形態では、球面調和関数展開を直接利用できないので、推定方法3と同様に最小二乗法により球面調和関数展開係数を推定し、半径rの球面上の音圧を得る。
【0047】
信号処理の方法は、推定方法3と同じなので、説明を省略する。
図11はユーザの頭部に対するエラーマイクの位置関係を説明するための図であり、
図12はエラーマイクの位置関係を示す平面図と背面図である。
図12、後述する
図13および
図14において、図中の黒丸がエラーマイク93の位置を意味する。例えば、以下の条件を満たすように、エラーマイクを配置する。
【0048】
(i)水平角方向に複数個のエラーマイクを配置し、かつ、仰俯角方向に複数個のエラーマイクを配置する。
【0049】
(ii)水平角方向に2個のエラーマイクが配置された層を2つ、4個のエラーマイクが配置された層を2つ備える。
【0050】
(iii)仰俯角方向の異なる角度に上述の(ii)の4つの層を配置する。
【0051】
(iv)4個のエラーマイクが配置された層を頭部上部位置に配置し、2個のエラーマイクが配置された層を頭部側方位置に配置する。
【0052】
図12の例では、第1層および第2層には水平角方向に4個のエラーマイクが配置され、第3層および第4層には水平角方向に2個のエラーマイクが配置され、水平角0°および180°において仰俯角方向に4個のエラーマイクが配置され、水平角90°および270°において仰俯角方向に2個のエラーマイクが配置され、条件(i)、(ii)を満たす。なお、エラーマイクが配置される半径r
eの球面の中心と、想定されるユーザの頭部の中心(例えば重心)とが一致するように、エラーマイクを配置する。ユーザの頭部の中心を通る横断面を基準(0°)として、第1層、第2層、第3層、第4層は、横断面に平行な平面である。第1層、第2層、第3層及び第4層と半径r
eの球面が交わってできる円上の点と半径r
eの球面の中心とを結ぶ直線と、横断面のなす角をそれぞれ、第1層、第2層、第3層及び第4層の仰俯角と呼ぶ。なお、第1層の仰俯角>第2層の仰俯角>第3層の仰俯角>第4層の仰俯角とする。第1層,第2層,第3層および第4層は、それぞれ仰角60°,45°,30°および0°に配置され条件(iii)を満たす。また、第1層および第2層は頭部上部位置に配置され、第3層および第4層は頭部側方位置に配置され、条件(vi)を満たす。
【0053】
推定方法3と同様に、エラーマイクの設置半径は、設置する環境や抑圧したい音の種類により決定すればよい。例えば、走行音を抑圧したい鉄道などに用いる場合、座席サイズを考慮して、エラーマイクの設置半径は0.13mとする。
【0054】
人間の視野が、水平角方向に約180~200度であり、仰角方向に約60度であることを考慮して、所望の視野を確保できるようにエラーマイクを配置する。
【0055】
例えば、
図12の水平角0°および180°の方向において仰俯角方向に配置される4個のエラーマイクは、エラーマイクが視界の左右方向の端にある程度入ることを許されるのであれば、水平角30°および150°の方向において仰俯角方向に配置してもよい(
図13(A)参照)。また、視界の左右方向において、エラーマイクが視界に全く入らないことを要求される場合には、水平角340°(-20°)および200°の方向において4個のエラーマイクを仰俯角方向に配置してもよい(
図13(B)参照)。
【0056】
また、例えば、エラーマイクが視界の上方にある程度入ることを許されるのであれば、第2層を仰角30°としてもよい(
図14の(A)参照)。また、視界の上方向において、エラーマイクが視界に全く入らないことを要求される場合には、第2層を仰角65°としてもよい(
図14の(B)参照)。第2層に応じて、第1層、第3層、第4層の仰俯角を変化させればよい。なお、条件(iv)の頭部上部位置は、所望の視野に応じて変化し、第1層および第2層のエラーマイクは視界の上下方向に位置することが許される範囲の下限よりも上側に配置され、頭部側方位置は、第3層および第4層のエラーマイクは視界の上下方向に位置することが許される範囲の下限よりも下側に配置される。第3層および第4層のエラーマイクは、ユーザの前方には配置されないため、ユーザの邪魔にならず、所望の視野を狭めない。
【0057】
所望の視野に応じて、エラーマイクを配置し、例えば、水平角-20°~30°方向および150°~200°方向において仰俯角方向に4個のエラーマイクを配置し(
図13参照)、第2層の仰角30°~65°とする(
図14参照)。
【0058】
図12では、正中矢状面と第1,2層とがそれぞれ為す直線と半径r
eの球面とが交わってできる2つの点上にそれぞれ2個のエラーマイクを配置し、中央冠状面と第1,2,3,4層とがそれぞれ為す直線と半径r
eの球面とが交わってできる2つの点上にそれぞれ2個のエラーマイクを配置しているともいえる。
【0059】
<効果>
図15は、第一実施形態の推定方法2と本実施形態(
図12のマイクロホン配置)を用いて、騒音源の到来方向を変更した場合の予測誤差をシミュレーションしたものを示す図である。本実施形態のマイク配置であれば、第一実施形態と同様の効果を奏し、さらに、ユーザの頭部前面にはエラーマイクを配置しないため、ユーザの邪魔にならず、視野を狭めることもなく、かつ、推定方法2と同程度の推定精度を発揮することができる。
【0060】
<その他の変形例>
本発明は上記の実施形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、上述の各種の処理は、記載に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0061】
<プログラム及び記録媒体>
上述の各種の処理は、
図16に示すコンピュータの記憶部2020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040などに動作させることで実施できる。
【0062】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0063】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0064】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0065】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。