(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118003
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】コバルト水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240823BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024141
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001BA19
4K001DB26
4K001DB30
4K001DB34
(57)【要約】
【課題】 Ni及びCoを相互に分離して低Mg濃度の水溶液として回収することが可能なCo水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 Co及びMgを含む粗Ni水溶液と、Ni担持酸性抽出剤を含む有機溶媒とを混合接触させることで、該粗Ni水溶液中のCoと該Ni担持酸性抽出剤のNiとを置換して高純度Ni水溶液及び交換後有機を得る交換段と、該交換後有機中に残留するNiを第1酸性水溶液に逆抽出することでNi回収液及びNi回収後有機を得るNi回収段と、該Ni回収後有機中のMgをCo洗浄液に逆抽出してCo洗浄後液及びCo洗浄後有機を得るCo洗浄段と、該Co洗浄後有機中のCoを第2酸性水溶液に逆抽出してCo水溶液を回収するCo回収段とを有し、該Co水溶液の一部を該Co洗浄液に用いる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト及びマグネシウムを含む粗ニッケル水溶液と、ニッケル担持酸性抽出剤を含む有機溶媒とを混合接触させることで、前記粗ニッケル水溶液中のコバルトと前記ニッケル担持酸性抽出剤のニッケルとを置換して高純度ニッケル水溶液及び交換後有機を得る交換段と、
前記交換後有機中に残留するニッケルを第1酸性水溶液に逆抽出することでニッケル回収液及びニッケル回収後有機を得るニッケル回収段と、
前記ニッケル回収後有機中のマグネシウムをコバルト洗浄液に逆抽出してコバルト洗浄後液及びコバルト洗浄後有機を得るコバルト洗浄段と、
前記コバルト洗浄後有機中のコバルトを第2酸性水溶液に逆抽出してコバルト水溶液を回収するコバルト回収段とを有し、
前記コバルト水溶液の一部を前記コバルト洗浄液に用いることを特徴とするコバルト水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記コバルト洗浄液のpHを2.0以上4.5以下とすることを特徴とする、請求項1に記載のコバルト水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記コバルト回収段において使用する前記第2酸性水溶液が塩酸水溶液であり、前記コバルト水溶液が塩化コバルト水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載のコバルト水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記酸性抽出剤が2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のコバルト水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト水溶液の製造方法に関し、特にニッケル及びコバルトを含んだ水溶液に対して酸性抽出剤を用いてこれら金属を相互に分離することで低マグネシウム濃度のコバルト水溶液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは、特殊鋼や磁性材料の合金用元素等の用途で広く利用されている。例えば特殊鋼としては、コバルトの優れた耐摩耗性や耐熱性を活かして航空宇宙、発電機、特殊工具の分野でコバルトを含んだ鋼材が用いられており、磁性材料の合金用元素としては、コバルトを含んだ強磁性合金材料が小型ヘッドホンや小型モーター等に用いられている。コバルトは更にリチウムイオン二次電池の正極材の原料としても利用されている。
【0003】
鉱物資源としてのコバルトは、ニッケルに付随して含まれることが多く、コバルトはニッケル製錬の副産物として製造されるものが大半を占めている。そのため、コバルトの製造においては、ニッケルのほか、種々の不純物元素からコバルトを効率的に分離する技術が求められる。複数の金属元素を含む水溶液に対して金属を相互に分離する技術としては、溶媒抽出法、沈殿法、イオン交換法などを挙げることができるが、これらの中では溶媒抽出法が簡易な設備で効率よく金属を分離できるので広く利用されてる。
【0004】
例えば、ニッケル含有原料の湿式製錬における副産物としてコバルトを回収する場合、先ず有価金属のニッケル及びコバルトを含む原料に対して鉱酸や酸化剤等を用いて浸出処理又は抽出処理を行い、得られたニッケル及びコバルトを含む酸性水溶液に対して溶媒抽出を行うことによって、ニッケル及びコバルトを含む水溶液からコバルトを分離して回収することが一般的に行われている。上記のようにして他元素から分離されたコバルトは不純物の濃度が低いことが好ましく、特にリチウムイオン二次電池の正極材料の原料として用いる塩化コバルト水溶液では、不純物の濃度ができるだけ低いことが求められている。
【0005】
そこで、有機リン酸化合物に代表される酸性抽出剤を用いて上記の有価金属のニッケル及びコバルトを含む酸性水溶液から不純物を除去してこれら有価金属を高純度で回収する技術が提案されている。例えば特許文献1には、コバルトを含む粗硫酸ニッケル溶液に対してニッケルが担持された酸性抽出剤を用いてコバルトを始めとする不純物を有機相に抽出し、その不純物が抽出された有機相に対して段階的にpHを変化させて逆抽出を行うことで、不純物が除去された高純度の硫酸ニッケル溶液を得ると共にコバルトを回収する技術が開示されている。
【0006】
具体的には、この特許文献1の技術は、ナトリウム、アンモニウム等の不純物を含む粗硫酸ニッケル溶液に酸性抽出剤を接触させることで、好適にはpH6.5~7.0の条件下でニッケルを抽出してニッケルを担持した酸性抽出剤を得る抽出工程と、該抽出工程で得たニッケルを担持した酸性抽出剤にコバルトを多く含む含Co粗硫酸ニッケル水溶液を接触させることにより、好適にはpH4~5の条件下で酸性抽出剤中のニッケルと該含Co粗硫酸ニッケル水溶液中のコバルト及び不純物とを置換して高ニッケル純度の精製硫酸ニッケル溶液を得る置換工程と、該置換工程で得たコバルト及び不純物を含む酸性抽出剤に硫酸水溶液を接触させることで、該置換工程で得た酸性抽出剤中に残留するニッケルを好適にはpH4.0程度の条件下で逆抽出するニッケル回収工程と、該ニッケル回収工程で得た酸性抽出剤に塩酸水溶液を接触させることで、好適にはpH1.4~2.0の条件下でコバルトを逆抽出するコバルト回収工程から構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、有機リン酸化合物に代表される酸性抽出剤を用いてニッケル及びコバルトを含む水溶液を抽出処理することで、これらニッケルとコバルトとを分離して別々に回収することができるうえ、水溶液の状態で回収されるこれらニッケルやコバルトに不純物が含まれるのを抑えることが可能になる。しかしながら、酸性抽出剤に有機リン酸化合物を用いる場合は、抽出され易さの順序が鉄(Fe)>亜鉛(Zn)>銅(Cu)>マンガン(Mn)>コバルト(Co)>カルシウム(Ca)>マグネシウム(Mg)>ニッケル(Ni)になるため、ニッケル及びコバルトを含む水溶液に不純物としてマグネシウムが含まれる場合は、回収したニッケル水溶液若しくはコバルト水溶液、又はこれら両方にマグネシウムが含まれることになる。この場合、回収したニッケル水溶液及びコバルト水溶液のマグネシウム濃度をいずれも低く抑えるには例えばミキサーセトラーを多段に設ける等が必要になり、設備コストが高くなることが問題になる。
【0009】
本発明は上記したようにニッケル及びコバルトを含む水溶液に対して酸性抽出剤を用いてこれらニッケル及びコバルトを相互に分離して別々に回収する従来の溶媒抽出法が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、ニッケル及びコバルトを含む水溶液に対して酸性抽出剤を用いることで、これらニッケル及びコバルトを相互に分離して低マグネシウム濃度の水溶液として回収することが可能なコバルト水溶液の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るコバルト水溶液の製造方法は、コバルト及びマグネシウムを含む粗ニッケル水溶液と、ニッケル担持酸性抽出剤を含む有機溶媒とを混合接触させることで、前記粗ニッケル水溶液中のコバルトと前記ニッケル担持酸性抽出剤のニッケルとを置換して高純度ニッケル水溶液及び交換後有機を得る交換段と、前記交換後有機中に残留するニッケルを第1酸性水溶液に逆抽出することでニッケル回収液及びニッケル回収後有機を得るニッケル回収段と、前記ニッケル回収後有機中のマグネシウムをコバルト洗浄液に逆抽出してコバルト洗浄後液及びコバルト洗浄後有機を得るコバルト洗浄段と、前記コバルト洗浄後有機中のコバルトを第2酸性水溶液に逆抽出してコバルト水溶液を回収するコバルト回収段とを有し、前記コバルト水溶液の一部を前記コバルト洗浄液に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニッケル及びコバルトを含む水溶液に対して酸性抽出剤を用いることで、これらニッケル及びコバルトを相互に分離して低マグネシウム濃度のコバルト水溶液を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る低マグネシウム濃度のコバルト水溶液の製造方法を示すブロックフロー図である。
【
図2】
図1のブロックフロー図に含まれる溶媒抽出工程のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る低マグネシウム濃度のコバルト水溶液の製造方法の実施形態について詳細に説明する。この本発明の実施形態のコバルト水溶液の製造方法は、
図1に示すように、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS:Mixed Sulfide)を原料に使用している。ニッケル・コバルト混合硫化物は、低品位リモナイト鉱などのニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)することで得られる浸出液に対して、鉄などの不純物を除去した後、硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせることで得られる。このニッケル・コバルト混合硫化物を、加圧浸出工程において高温高圧の条件下で浸出することで粗硫酸ニッケル水溶液が得られる。この粗硫酸ニッケル水溶液は、脱鉄工程で鉄分が除去されることで、脱Fe終液として少なくともコバルトを含む粗硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【0014】
上記の脱Fe終液は、次に酸性抽出剤を用いた溶媒抽出工程で処理することで、高純度硫酸ニッケル水溶液とコバルト水溶液が製造される。この溶媒抽出工程は、抽出段、洗浄段、交換段、Ni回収段、Co洗浄段、Co回収段、及び逆抽出段からなり、各段においては、溶媒抽出を行う撹拌機を備えた混合槽と、重力により有機相と水相とを相分離させる分離槽とが一体化した構造の一般的なミキサーセトラー型溶媒抽出装置(以下、単にミキサーセトラーと称する)を用いることができる。特に、複数基のミキサーセトラーを直列に接続して多段向流連続抽出処理を行うのが好ましい。この溶媒抽出工程で使用する酸性抽出剤には、一般的な有機リン酸系の酸性抽出剤を用いるのが好ましく、特に下記化1に示す構造式を有する2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルを上記の酸性抽出剤に用いるのがより好ましい。
【化1】
【0015】
上記の溶媒抽出工程について
図2を参照しながら具体的に説明すると、先ず抽出段において、次の洗浄段から供給される洗浄後液を好ましくはpH6.0~7.0の条件下で酸性抽出剤を含む有機溶媒と混合接触させることで、洗浄後液に含まれる主にニッケルを例えば下記式1に示す抽出反応(Rはヒドロキシ基のHを除いた酸性抽出剤を表している)により有機相側に抽出し、ニッケルよりも抽出率が低いナトリウム、アンモニアなどの不純物を水相側に留めることで分離除去する。これにより、ニッケルを担持した酸性抽出剤(以下、Ni担持酸性抽出剤とも称する)を含む抽出後有機が得られる。
[式1]
2(R-H)+Ni
2+→R-Ni-R+2H
+
【0016】
次に、洗浄段において、上記抽出段から有機相として抜き出される抽出後有機を、ニッケルを含む洗浄液と混合接触させることで洗浄し、これにより該抽出後有機中に懸濁状態で含まれるエントレインメントと称する前段の抽出段で有機相から分離されずに残留する微細な水相からなる液滴を洗浄液側に移行させる。更に、該抽出後有機中に残留するナトリウム、アンモニア等の不純物を、洗浄液中のニッケルと置換させることにより除去する。この洗浄液には不純物濃度が低い硫酸ニッケル水溶液を用いるのが好ましく、例えば後段の交換段から抜き出される高純度硫酸ニッケル水溶液や、高純度硫酸ニッケル結晶の製造工程から産出される脱水母液を水で希釈したものが好適に用いられる。洗浄後液は抽出段に供給される。
【0017】
次に、例えば連続する4基のミキサーセトラーで構成される交換段において、上記の洗浄段から有機相として抜き出される洗浄後有機を、有機相の流れ方向の最上流側のミキサーセトラーから導入すると共に、この流れ方向の最下流側のミキサーセトラーから脱Fe終液を導入し、好ましくは水相のpH4.0~5.0の範囲内でこれら有機相と水相とを互いに多段向流接触させる。これにより、洗浄後有機としてのNi担持酸性抽出剤に含まれるニッケルと、脱Fe終液に含まれるコバルトなどの不純物とが例えば下記式2の交換反応により置換され、高純度硫酸ニッケル水溶液が水相側に生成される。この高純度硫酸ニッケル水溶液はそのまま製品として出荷されるか、あるいは晶析設備に移送され、ここで加熱により濃縮及び晶析されて硫酸ニッケル結晶が製造される。一方、有機相側にはコバルトを含んだ交換後有機が得られる。
[式2]
R-Ni-R+Co2+→R-Co-R+Ni2+
【0018】
上記のように、交換段では前々段の抽出段で予めニッケルを抽出したNi担持酸性抽出剤によってコバルトを抽出するため、pH調整用の中和剤を特に用いることなく高純度の硫酸ニッケル水溶液を製造することが可能になる。これにより、例えば中和剤としてNaOHを使用したときに問題になるナトリウムによる高純度硫酸ニッケル水溶液の汚染を防ぐことができる。また、コバルトの抽出に相応してニッケルが逆抽出されるため、高純度硫酸ニッケル水溶液中のニッケル濃度を高めることができる。
【0019】
ところで、上記の洗浄後有機に含まれるコバルトや不純物の濃度が高すぎると、上記の4基のミキサーセトラーで構成される交換段での交換反応により水相中の不純物濃度が低くなったときにこれらコバルトや不純物の水相から有機相への移行が生じにくくなる。そこで、上記抽出段の前段の逆抽出段で再生した逆抽出後有機の一部を抜き出して該抽出段及びその後段の洗浄段をバイパスさせ、該交換段における有機相の流れ方向の最上流側のミキサーセトラーから導入する洗浄後有機の希釈液に用いるのが好ましい。また、上記洗浄後有機は、コバルトや不純物の濃度が高い水相の方が交換反応の効率をより一層高めることができるので、一部を抜き出して該交換段における上記流れ方向の最上流側から3基目のミキサーセトラーに導入するのが好ましい。
【0020】
次に、Ni回収段において上記交換段から有機相として抜き出される交換後有機を、好ましくは希硫酸からなるpH4.0程度の第1酸性水溶液と混合接触させることで、該交換後有機中に残留するニッケルを水相側の該第1酸性水溶液に逆抽出する。このようにして得たニッケルを含むNi回収液は、例えば硫酸ニッケルの製造プロセスに繰り返される。
【0021】
次に、CO洗浄段において、上記Ni回収段から有機相として抜き出されるNi回収後有機のエントレインメントをコバルト洗浄液で置換することにより、Ni回収後有機のエントレインメントに含まれるマグネシウムを水相側に分配させる。また、コバルト洗浄液は後段のCo回収段で得られるコバルト水溶液なので、Ni回収後有機に抽出されたマグネシウムとコバルト洗浄液中のコバルトとが交換反応により置換され、有機相中のマグネシウムが水相側に移行される。これにより、後段のCo回収段でコバルトよりも逆抽出されやすいマグネシウムを予め分離除去するので、該Co回収段において不純物のマグネシウムの濃度の低い高純度コバルト水溶液を得ることができる。なお、上記のNi回収後有機のコバルト濃度は3.0~6.0g/L程度である。
【0022】
上記のCo洗浄段においては、水相側のコバルト洗浄液のpHを2.0以上4.5以下にするのが好ましく、特にpHの下限値は3.0がより好ましい。このコバルト洗浄液のpHが2.0未満では、水相側に逆抽出されるコバルトの量が多くなりすぎ、逆にこのpHが4.5を超えると、マグネシウムが水相側に逆抽出されにくくなる。また、上記のCo洗浄段では、水相の供給流量Aに対する有機相の供給流量Oの体積比率O/Aを0.1以上30以下にするのが好ましく、0.5以上1.0以下にするのがより好ましい。この体積比率O/Aが0.1未満では、水相流量が過多となりセトラー部での滞留時間が短くなり油水分離不良を引き起すため、Co洗浄段から有機相として抜き出されるCo洗浄後有機のエントレインメントが増加し、結果的にCo洗浄後有機中のマグネシウム濃度の低下が阻害される。逆にこの体積比O/Aが30を超えると、コバルト洗浄液流量が少な過ぎて、洗浄効果、すなわちNi回収後有機のエントレインメントをコバルト洗浄液で置換する効果を十分に得ることができない。
【0023】
Co洗浄液に後述する粗塩化コバルト水溶液を用いる場合は、そのコバルト濃度が80g/L程度であるのが好ましく、また、洗浄効率を高めるにはCo洗浄液のマグネシウム濃度は低ければ低いほど望ましい。上記の粗塩化コバルト水溶液を用いる場合は、マグネシウム濃度は0.080~0.090g/L程度である。Co洗浄段における液温は10℃以上50℃以下が好ましく、マグネシウムのコバルト洗浄後有機相とコバルト洗浄後水相(コバルト洗浄後液)との分配を考慮すると40℃以上が望ましい。
【0024】
次に、Co回収段において、上記Co洗浄段から有機相として抜き出されるコバルト洗浄後有機を、好ましくは塩酸からなるpH1.0程度に調整された第2酸性水溶液と混合接触させることで該コバルト洗浄後有機に含まれるコバルトを水相側の該第2酸性水溶液に逆抽出する。このようにして回収されたコバルトを含む粗塩化コバルト水溶液は、その一部が前段のCo洗浄段におけるコバルト洗浄液に使用され、残部は必要に応じて浄液工程において亜鉛、マンガン、銅、カドミウム等の不純物が除去されることで高純度塩化コバルト水溶液となる。この高純度塩化コバルト水溶液は、水溶液のまま二次電池の正極材の原料として用いられたり電解採取工程に供給されて高品位の電気コバルトが製造されたりする。最後に逆抽出段において、上記Co回収段から有機相として抜き出されるコバルト回収後有機を希硫酸と混合接触させることで、鉄などの不純物を該希硫酸に逆抽出する。
【0025】
上記したように、溶媒抽出の抽出剤に酸性抽出剤を用いることで、抽出反応に水素イオンが関与するので、pHによって抽出率を変化させることができる。抽出率は金属によって異なり、Fe>Zn>Cu>Mn>Co>Ca>Mg>Niの順に抽出されやすい。従って、有機相の流れの順である抽出段、洗浄段、交換段、Ni回収段、Co洗浄段、Co回収段、及び逆抽出段の順にpHを下げていくことで、それぞれの段で異なる金属を分離することができる。
【実施例0026】
[実施例1]
大八化学工業株式会社製の有機リン酸系の酸性抽出剤である2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル(商品名:PC88A)に対して、希釈剤としてENEOS株式会社製の飽和炭化水素(商品名:テクリーンN-20)を用いて20体積%に希釈することで有機溶媒を調製した。この酸性抽出剤を含む有機溶媒を用いた溶媒抽出において、コバルトを含んだ酸性抽出剤から不純物のマグネシウムを分離除去する工程であるCo洗浄段の除去効果を確認した。
【0027】
具体的には、
図2に示す溶媒抽出工程に沿って高純度硫酸ニッケル水溶液の製造を行う抽出設備において、そのNi回収段から排出されるNi回収後有機をサンプリングし、これを容量100mLの7個のポリ容器に始液有機相として30mLずつ小分けした。これら始液有機相を含む7個のポリ容器に、上記抽出設備のCo回収段から排出される粗塩化Co水溶液をサンプリングして30mLずつ7つに小分けしたものをそれぞれ始液水相として装入して試料1~7を調製した。
【0028】
この調製の際、7つに小分けした始液水相のうち試料2~7に用いた6つについては、pH2.1~5.1の範囲内でそれぞれ異なるpH値となるように、希塩酸及び希釈水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH調整した。一方、比較のため、試料1の始液水相は、pH調整せずにそのまま用いた。
【0029】
上記のようにして調製した試料1~7の液がそれぞれ入った7個のポリ容器の各々を、マグネチックスターラーで強撹拌することにより、始液有機相と始液水相とを混合接触させて抽出処理を行なった後、静置して終液有機相と終液水相とに分離させた。その際、液温は特に調整せずに成り行きにしたところ、室温とほぼ同程度の約20℃であった。この抽出処理前後の有機相と水相の金属元素濃度を蛍光X線分析装置で分析した結果を前後の水相のpH値と共に下記表1~7に示す。更に、試料1~7に対して行った抽出処理におけるコバルトとマグネシウムの分離性能の結果を下記表8に示す。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
上記表8に示すように、始液有機相中のコバルト濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の比率Aを終液有機相中のコバルト濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の比率Bで除した値は3.36~8.75であり、いずれの条件においても、Co洗浄段において酸性抽出剤を有する有機溶媒からマグネシウムを効果的に除去できることが分かる。ただし、試料6ではコバルトが抽出されている一方で、マグネシウムが逆抽出されていない。従って、酸性抽出剤からのマグネシウムの逆抽出という観点からすると、pHは5.0未満が好ましく、2.0~4.5の範囲内がより好ましいと言える。
【0039】
[実施例2]
実施例1と同様の抽出設備のNi回収段から排出されるNi回収後有機をサンプリングし、これを容量100mLの8個のポリ容器に始液有機相として20mLずつ小分けした。一方、上記の抽出設備のCo回収段から排出される粗塩化Co水溶液をサンプリングして4つに小分けし、それらのCo濃度が5~40g/Lの範囲内でそれぞれ異なるように水で希釈し、始液水相とした。
【0040】
このようにしてCo濃度が調整された4種類の始液水相から60mLずつ採取して希釈水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3.5~3.8の範囲内にpH調整した後、上記の始液有機相が入っている8個のポリ容器のうちの4個にそれぞれ装入して試料8~11とし、それらを室温とほぼ同じ液温約20℃にした。また、上記の8個のポリ容器のうち残る4個にも同様に4種類の始液水相から60mLずつ採取して、希釈水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH3.5~3.8の範囲内にpH調整したものをそれぞれ装入して試料12~15としたが、これら試料12~15は恒温槽内に浸漬させて液温50℃にした。
【0041】
以降は実施例1と同様にして始液有機相と始液水相とを混合接触させて抽出処理を行なった後、静置して終液有機相と終液水相とに分離させた。この抽出処理前後の有機相と水相に対して実施例1と同様に金属元素濃度を分析した結果を始液水相のpH値と共に下記表9~16に示す。更に、試料8~15に対して行った抽出処理におけるコバルトとマグネシウムの分離性能の結果を下記表17に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
上記表17に示すように、始液有機相中のコバルト濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/ L)の比率Aを終液有機相中のコバルト濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の比率Bで除した値は3.79~4.94であり、いずれの条件においても、Co洗浄段において酸性抽出剤を有する有機溶媒からマグネシウムを効率的に除去できることが分かる。また、始液水相コバルト濃度が低い方が、始液有機相中のマグネシウムの洗浄効果は、幾分かは高くなるが、始液水相のpHが3.5~3.8の範囲内では、水相コバルト濃度の影響は小さいと考えられる。また、液温20℃と50℃を比較すると、洗浄時の温度が高い方がマグネシウムとコバルトの分離効率が高い結果となった。なお、試料1~7がO/Aで1.0、試料8~15がO/Aで0.33に相当するが、この程度の差であればO/Aの影響も無いと考えられる。