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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118072
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】細胞培養方法および細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240823BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240823BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240823BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20240823BHJP
【FI】
C12N1/00 A
C12M3/00 A
C12N5/071
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024255
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】米田 健二
(72)【発明者】
【氏名】越田 一朗
(72)【発明者】
【氏名】永井 寛之
(72)【発明者】
【氏名】牧畠 亮太
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC11
4B029DA01
4B029DF05
4B029DF09
4B029DG06
4B029GA01
4B065AA90X
4B065BC20
4B065BC41
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】 内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場を用いた細胞培養において、より効率的な培養を行う。
【解決手段】 内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場2に細胞を播種し、当該細胞の播種された培養用足場2を培養容器3に収容した培地Mに浸漬させて、上記細胞を培養する細胞培養方法および細胞培養装置1に関する。
上記培養用足場2は繊維によって構成されるとともに、厚さ方向に弾性変形可能に構成されている。
細胞を培養する際、上記細胞の播種された上記培養用足場2を厚さ方向に圧縮し、圧縮した状態で培養用足場2を培地Mに浸漬させて繊維に細胞を接着させて培養する。
その後、上記培養用足場2の圧縮量を低減させて、厚さ方向に復元した状態で培養用足場2を培地Mに浸漬させて培養を継続する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場に細胞を播種し、当該細胞の播種された培養用足場を培養容器に収容した培地に浸漬させて細胞を培養する細胞培養方法において、
上記培養用足場は繊維によって構成されるとともに、厚さ方向に弾性変形可能に構成され、
細胞を培養する際、上記細胞の播種された培養用足場を厚さ方向に圧縮し、圧縮した状態で培養用足場を培地に浸漬させて繊維に細胞を接着させて培養し、
その後、上記培養用足場の圧縮量を低減させて、厚さ方向に復元した状態で培養用足場を培地に浸漬させて培養を継続することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項2】
上記培養用足場に細胞を播種する際、
上記培養用足場に細胞懸濁液を浸透させ、
その後上記培養用足場を圧縮して、細胞懸濁液を培養用足場の細部に行き渡らせることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養方法。
【請求項3】
上記培養用足場で細胞を培養する際、
上記培養用足場の圧縮量の低減に伴って、上記培養容器に収容する培地の量を増加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞培養方法。
【請求項4】
上記培養用足場で細胞を培養する際、
上記培養用足場を、圧縮した状態を維持したまま浸漬させた培地から取り出し、再び培地に浸漬させて培養を継続することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の細胞培養方法。
【請求項5】
上記培養用足場の圧縮量を低減して、圧縮しない状態で培養を行った後に、上記培養容器に収容する培地の量を増加させて、再び圧縮しない状態で培養を行うことを特徴とする請求項3に記載の細胞培養方法。
【請求項6】
内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場に細胞を播種し、当該細胞の播種された培養用足場を培養容器に収容した培地に浸漬させて細胞を培養する細胞培養装置において、
上記培養用足場は繊維によって構成されるとともに、厚さ方向に弾性変形可能に構成され、
上記培養用足場を培養容器の内部で圧縮する圧縮手段を設け、
上記圧縮手段は、上記培養用足場に播種された細胞を培養する際、上記培養用足場を圧縮した状態を維持することを特徴とする細胞培養装置。
【請求項7】
上記圧縮手段による上記培養用足場の圧縮量を変更可能としたことを特徴とする請求項6に記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養方法および細胞培養装置に関し、詳しくは内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場で細胞を培養する細胞培養方法および細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の培養方法には様々な方法が知られているが、たとえば内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場で細胞を培養するものが知られている(特許文献1)。
上記特許文献1では、上記培養用足場として不織布や多孔質膜などの内部に液体が浸透するシート状の培養用足場を用いており、これらのシート状の培養用足場を培養容器に収容された培地に浸漬させることで、培養用足場の内部に培地が浸透して内部で細胞が培養されるようになっている。
また上記特許文献1では、1枚のシート状の培養用足場においてある程度細胞が培養されると、細胞を培養している培養用足場に新たなシート状の培養用足場を密着させて、細胞を継代させることにより培養を継続するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6502392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1で用いられるようなシート状の培養用足場を用いる場合、培養用足場の厚さを厚く設定すれば内部に多くの細胞を取り込むことができることから、より多くの細胞を培養することが期待できる。
しかしながら、細胞を培養するためには上記培養用足場を培地に浸漬させなければならないが、細胞を播種した直後は培養用足場における細胞密度が小さく、内部に保持している細胞の数に対して過剰な培地を使用することとなるため、培地のロスが大きいという問題が生じる。
また特許文献1では、細胞の培養された培養用足場に新たなシート状の培養用足場を密着させて継代を行っているが、その作業が煩雑であった。
このような問題に鑑み、本発明は内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場を用いて細胞を培養する場合において、培地の使用量を抑えるとともに継代操作を簡略化することが可能であり、より効率的に培養を行うことが可能な細胞培養方法および細胞培養装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる細胞培養方法は、内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場に細胞を播種し、当該細胞の播種された培養用足場を培養容器に収容した培地に浸漬させて細胞を培養する細胞培養方法において、
上記培養用足場は繊維によって構成されるとともに、厚さ方向に弾性変形可能に構成され、
細胞を培養する際、上記細胞の播種された培養用足場を厚さ方向に圧縮し、圧縮した状態で培養用足場を培地に浸漬させて繊維に細胞を接着させて培養し、
その後、上記培養用足場の圧縮量を低減させて、厚さ方向に復元した状態で培養用足場を培地に浸漬させて培養を継続することを特徴としている。
また請求項6の発明にかかる細胞培養装置は、内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場に細胞を播種し、当該細胞の播種された培養用足場を培養容器に収容した培地に浸漬させて細胞を培養する細胞培養装置において、
上記培養用足場は繊維によって構成されるとともに、厚さ方向に弾性変形可能に構成され、
上記培養用足場を培養容器の内部で圧縮する圧縮手段を設け、
上記圧縮手段は、上記培養用足場に播種された細胞を培養する際、上記培養用足場を圧縮した状態を維持した状態を維持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、培養用足場を繊維によって構成するとともに、厚さ方向に弾性変形可能なものとしているため、細胞の播種された培養用足場を圧縮させることで、培養用足場の全体を浸漬させるために必要な培地の量を少なくすることができる。
また、培養が進行して細胞が増殖したら、培養用足場の圧縮量を低減させれば培養用足場が厚さ方向に復元して容積が拡大するため、特許文献1のように新たな培養用足場に細胞を継代させる必要がなく、継代操作を簡略化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態にかかる細胞培養装置の構成図
図2】細胞培養方法を説明するフロー図
図3】懸濁液供給作業を説明する図
図4】分散作業、接着作業を説明する図
図5】培地供給作業を説明する図
図6】圧縮培養を説明する図
図7】圧縮しない状態での培養を説明する図
図8】最終培養を説明する図
図9】各回収工程を説明する図
図10】第2実施形態にかかる細胞培養装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施形態について説明すると、図1は細胞の培養を行う細胞培養装置1を示しており、当該細胞培養装置1は培養に適した環境に維持された図示しないインキュベータ内に設置されている。
上記細胞培養装置1は、内部に液体が浸透するよう構成された培養用足場2を用いて細胞の培養を行うようになっており、当該培養用足場2は培養容器3に収容された培地Mに浸漬されるようになっている。
上記培養容器3は、培地Mを収容可能な外容器3Aと、当該外容器3Aの内部に収容されるとともに、上記培養用足場2を収容する内容器3Bとから構成されている。
そして上記細胞培養装置1は、上記培養容器3の外容器3Aを昇降させる外容器昇降手段4と、上記内容器3Bを所定の高さに支持する内容器支持手段5と、上記培養容器3内の培養用足場2を圧縮する圧縮手段6とから構成され、これらはコンピュータなどからなる図示しない制御手段によって制御されるようになっている。
本実施形態において培養する細胞は、間葉系幹細胞であって足場依存性の接着細胞であり、上記培養用足場2を構成する繊維に接着した状態で増殖する性質を有している。
【0009】
上記培養用足場2は繊維によって構成されるとともに、厚さ方向に弾性変形可能に構成されたものとなっている。ここで厚さ方向に弾性変形可能とは、所定の厚さを有する培養用足場2を厚さ方向に圧縮した後、当該圧縮力を解放した際に厚さ方向に復元する性質を指している。
また本実施形態の培養用足場2は、厚さ1~3mmで直径が15cm程度の円盤状の足場シート2aを10~20枚程度積層させたものとなっており、上記足場シート2aとしては、伸縮性を有さない繊維を用いた一般的なダブルラッセル構造のシートを用いることができる。
上記ダブルラッセル構造の足場シート2aは、2mm程度の開口が形成されたラッセル編みによる2枚の編物を作製し、これら2枚の編物を多数の縦糸で連結することにより得ることができる。これら編物や縦糸は、太さが10~100μmのPET等のポリエステル繊維からなる糸を使用している。
このようなダブルラッセル構造を有した足場シート2aは、ラッセル編みにより形成された多数の開口や編目、2枚の編物と編物との間に設けられた多数の縦糸の間に形成される空間や間隙により、内部に液体が浸透するようになっており、また上記多数の縦糸によって厚さ方向に弾性変形する性質を有したものとなっている。そして、これらダブルラッセル構造からなる足場シート2aの編物や縦糸の繊維に細胞を接着させるようにしている。
一方、上記足場シート2aに伸縮性を有さない繊維を使用していることで、シート2aが厚さ方向に弾性変形しても繊維自体は伸縮せず、当該繊維に接着した細胞が脱落しないようにすることができる。
なお、上記足場シート2aの厚さや直径は本実施形態の寸法に限るものではなく、さらには上記培養用足場2としては、細胞培養に適した厚さや大きさを有し厚さ方向に弾性変形可能であれば、上記ダブルラッセル構造を有した足場シート2a以外を用いてもよく、また必ずしも複数枚の足場シート2aを積層させる必要もない。
【0010】
上記培養容器3は、上述したように外容器3Aと内容器3Bとから構成されており、このうち外容器3Aは上部に開口部が形成された有底円筒状を有したものとなっている。
外容器3Aの上端開口部には蓋部材3Cが装着されるようになっており、外容器3Aの開口部外周縁に設けられたフランジに対し、複数本のボルトを用いて連結されることで密閉状態が維持されるようになっている。
また蓋部材3Cには、外容器3Aの内部空間の環境を清浄に維持するためのエアフィルタを備えた通気菅7が設けられている。
【0011】
上記内容器3Bは、内径が上記培養用足場2の直径よりも大きな筒状部材11と、当該筒状部材11の下端開口部に装着されて培地Mを流出入させるための複数の貫通穴を備えた底部材12とから構成されている。
上記底部材12は上記圧縮手段6による押圧に耐えうる構造を有し、例えば金属板に直径10mm程度の穴が複数穿設されたパンチング板や金網を用いることが可能であり、上記培養用足場2を下方から支持可能であれば、上記貫通穴の直径や配置または金網の網目の大きさ等は任意である。
【0012】
上記外容器昇降手段4は、上記外容器3Aを載置させて支持する板状の容器台4aと、当該容器台4aの下方に設けられた電動シリンダやエアシリンダ等の昇降用アクチュエーター4bとから構成されている。
上記容器台4aには図示しないが位置決め部材が設けられており、上記容器台4aに対して上記外容器3Aが常に同じ位置に載置されるようになっている。
上記昇降用アクチュエーター4bは細胞培養装置1を構成する架台13に固定されており、上記制御手段によって容器台4aの高さを制御可能となっており、外容器3Aは上記容器台4aに載置されて上下に移動するようになっている。
【0013】
上記内容器支持手段5は内容器3Bを常時一定の高さに保持するようになっており、上記架台13に立設された支柱13aの上端部に設けられたブラケット13bに設けられた吊り下げロッド5aと、当該吊り下げロッド5aと連結される固定ロッド5bによって構成されている。
上記固定ロッド5bは上記外容器3Aに装着される蓋部材3Cを貫通して、端部が上記内容器3Bの筒状部材11の側面に固定されており、蓋部材3Cから上方に突出する固定ロッド5bの周囲を蛇腹で覆って、蓋部材3Cで密閉される外容器3Aの内部に外気や塵埃が流入することを防止している。
上記吊り下げロッド5aの下端にはフランジ5aaが形成されるとともに、上記固定ロッド5bの上端にフランジ5bbが形成されて連結部5cが構成されており、これらフランジ5aa、5bbをボルトで固定することで、上記吊り下げロッド5aと固定ロッド5bを連結できるようになっている。
このような構成により、内容器3Bは外容器3Aに収容されるものの、外容器3A内においても内容器支持手段5に支持されて高さ方向の位置が固定されるようになっており、また外容器3Aが上昇しても、内容器3Bに当接することによって上昇が規制されるようになっている。
なお、外容器3Aを内容器3Bに当接させた状態では、外容器3Aの底面が内容器3Bの底部材12を覆うため、内容器3Bに対する底部材12を介した培地Mの流出入ができなくなる。
そこで、上記培養用足場2を内容器3Bに収容して細胞を培養する際には、上記制御手段によって上記昇降用アクチュエーター4bの作動により、外容器3Aと内容器3Bとの間に所定の隙間を設けた、培養用の高さに外容器3Aを位置させるようになっている。
【0014】
上記圧縮手段6は、上記架台13に立設された支柱13cの上端部に設けられた保持部材13dに設けられている。
圧縮手段6は、上記保持部材13dの下面に設けられた電動シリンダやエアシリンダ等の圧縮用アクチュエーター6aと、当該圧縮用アクチュエーター6aにより進退動可能に設けられた円盤状の圧縮板6bとから構成されている。
上記圧縮用アクチュエーター6aは進退動する進退ロッド6cを下方に向けて設けており、当該圧縮用アクチュエーター6aの進退ロッド6cの先端には、上記圧縮板6bの中心に立設させた支持ロッド6dが連結されている。
上記支持ロッド6dは上記外容器3Aに装着される蓋部材3Cを貫通しており、圧縮板6bは圧縮用アクチュエーター6aにより蓋部材3Cや外容器3Aに対して上下に移動可能に設けられている。
また蓋部材3Cから上方に突出する支持ロッド6dの周囲を蛇腹で覆って、蓋部材3Cで密閉される外容器3Aの内部に外気や塵埃が流入することを防止している。
上記進退ロッド6cの先端にフランジ6ccが形成されるとともに、上記支持ロッド6dの上端にフランジ6ddが形成されて連結部6eが構成され、これらフランジ6cc、6ddをボルトで固定することで、上記進退ロッド6cと支持ロッド6dを連結できるようになっている。
そして、上記圧縮板6bは円盤状を有するとともにその直径は上記内容器3Bの筒状部材11の内径よりも小径で、培養用足場2よりも大径となるように設定されており、筒状部材11の内側で内容器3Bに収容された培養用足場2を上方から覆うように配置されている。
上記圧縮用アクチュエーター6aは、容器支持手段5に支持された内容器3Bに収容される培養用足場2に対して、圧縮板6bを内容器3Bの内部で下降させて、培養用足場2を厚さ方向に圧縮することが可能となっている。
ここで、上記圧縮手段6は上記制御手段によって圧縮板6bの高さを制御することが可能となっており、図1は上記圧縮板6bを培養用足場2を圧縮しない程度に当該培養用足場2の上面に接触させた状態を示している。
この状態から培養用足場2を圧縮する場合は、圧縮板6bをさらに下降させて培養用足場2を押し下げるようになっており、このため、上記内容器3、底部材12および内容器支持手段5は、圧縮用アクチュエーター6aの押圧力に耐え得るよう構成されている。
【0015】
以下、上記構成を有する細胞培養装置1を用いた細胞培養方法を説明する。図2は本実施形態における細胞培養方法の手順を示すフロー図となっている。最初に、培養容器3に細胞の播種を行う播種工程Aを行う。図3は上記播種工程Aのうち、培養用足場2に細胞を含んだ細胞懸濁液を供給する懸濁液供給作業A-1を示している。
この懸濁液供給作業A-1は細胞培養装置1から培養容器3を取り外した状態で、アイソレータや安全キャビネット等の無菌環境の作業室で行う。
作業の開始に当たり、図1に示す上記吊り下げロッド5aと固定ロッド5bの連結を解除するとともに、進退ロッド6cと支持ロッド6dの連結を解除することで、培養容器3を細胞培養装置1から取り外し、インキュベータから取り出して上記無菌環境の作業室に搬入する。
続いて図3(a)に示すように、取り外された培養容器3において、圧縮板6bを蓋部材3Cに当接するまで引き上げ、その状態で蓋部材3Cを固定ロッド5bを中心軸として旋回させて、外容器3Aに収容した状態の内容器3Bの上方から退避させる。
これにより外容器3Aの上部が開放されるため、内容器3Bの内部に未使用の培養用足場2を収容することが可能となり、本実施形態では、上記培養用足場2は複数枚のシート2aによって構成されていることから、複数枚のシート2aを積層させた状態で内容器3Bに収容する。
【0016】
続いて、内容器3Bに収容された上記培養用足場2に対して、細胞を含んだ細胞懸濁液をピペットP等の分注手段を用いて所定量滴下することにより供給する。
このときの細胞懸濁液の液量は、以下に説明する圧縮培養工程Bで培養用足場2を圧縮した際に、細胞懸濁液が圧縮された培養用足場2の全体に浸透して均一に行き渡り、かつ培養用足場2の外部に漏れ出ない程度を目安とする。
このように設定することで、使用する細胞懸濁液のロスを抑えるとともに、培養用足場2に接着する細胞数を可及的に多くすることができる。
具体的には、半分の容積まで圧縮される培養用足場2に対しては、圧縮前の培養用足場2の容積の半分の量を目安に細胞懸濁液を供給するようにし、圧縮後の培養用足場2の内部が細胞懸濁液で満たされるようにする。
なお、培養用足場2に対する細胞懸濁液の供給は滴下に限らず、培養用足場2にピペットPの先端を挿し入れて細胞懸濁液を内部に注入するようにしてもよい。
また、供給した細胞懸濁液が培養用足場2から流れ出ることがあっても、内容器3を外容器3Aに載置させて底部材12の貫通穴や金網の網目を塞いでいるため、内容器3Bの底部材12から外容器3Aに細胞懸濁液が流出することはない。
このように培養用足場2に所定量の細胞懸濁液を供給した後は、支持ロッド6dのフランジ6ddを保持して圧縮板6bを引き上げながら、外容器3Aの底面から内容器3Bが浮き上がらないようにしつつ、蓋部材3Cを固定ロッド5Bを中心に旋回させて外容器3Aに被せる。これにより圧縮板6bが内容器3Bの上方に位置することとなり、圧縮板6bをゆっくりと下降させて内容器3Bに収容されている培養用足場2に載せる。
この状態で蓋部材3Cを外容器3Aにボルト締めして密閉し、上記アイソレータや安全キャビネット等の作業室から搬出してインキュベータに搬入する。その後、上記固定ロッド5bを吊り下げロッド5aに連結するとともに、支持ロッド6dを進退ロッド6cに連結して、培養容器3を細胞培養装置1に取り付ける。
【0017】
次に、図4は、上記播種工程Aのうち、培養用足場2に供給した細胞を培養用足場2の全体に分散させる分散作業A-2を示しており、この分散作業はインキュベータの内部で行う。
上記図3に係る懸濁液供給作業A-1では、細胞が培養用足場2の全体に均一に分散していないことから、この分散作業A-2を行うことで、細胞を培養用足場2の全体に行き渡らせるものとなっている。
図4(a)は、上記外容器昇降手段4が外容器3Aを、底面が内容器3Bの筒状部材11の下端や底部材12と当接する上昇端まで移動させており、懸濁液供給作業A-1を終えて培養容器3を細胞培養装置1に取り付けた後の状態を示している。
このとき、圧縮手段6は圧縮板6bを培養用足場2を圧縮しない高さに位置させており、外容器昇降手段4は内容器3Bの底部材12に外容器3Aの底面を当接させて隙間のない状態としている。これにより、その後の圧縮動作で培養用足場2が圧縮されて培養用足場2から細胞懸濁液が漏れ出ることがあっても、細胞懸濁液が底部材12を介して外容器3Aまで流出することを防止している。
その状態から、図4(b)に示すように、圧縮手段6が圧縮板6bを所定量下降させて培養用足場2を圧縮する。このとき、圧縮手段6は培養用足場2を元の厚さに対して半分の厚さとなるまで圧縮し、この状態を所定時間維持する。これにより培養用足場2は半分の容積となり、培養用足場2に吸収された細胞懸濁液が培養用足場2を構成する繊維の細部にも行き渡るようになる。
続いて、図4(c)に示すように、圧縮手段6は圧縮板6bを再び図4(a)と同じ高さに上昇させる。これにより培養用足場2は圧縮された状態から厚さ方向に復元するようになっている。
そして制御手段は圧縮手段6を制御して、上記図4(a)~(c)の動作を複数回繰り返す。
上記動作を行うことにより、培養用足場2を構成する複数枚の足場シート2aの圧縮と解放とが繰り返され、懸濁液供給作業A-1において供給された細胞懸濁液は、各足場シート2aに形成された開口や編目および空間や間隙を流通して上下左右に浸透し、圧縮された培養用足場2の全体に行き渡って均一に分散するようになっている。
ここで、上記懸濁液供給作業A-1において、細胞懸濁液の供給量を圧縮していない状態の培養用足場2の容積の半分程度としているため、図4(b)において培養用足場2を容積の半分まで圧縮した際に、細胞懸濁液が培養用足場2の全体に行き渡ることになり、細胞のロスを抑えることができる。
【0018】
上記分散作業A-2において細胞を培養用足場2の全体に分散させたら、続いて上記細胞を培養用足場2に接着させる接着作業A-3を行う。
接着作業A-3では、図4(b)に示すように圧縮手段6によって培養用足場2を所定量圧縮し、この状態のままインキュベータ内で数時間静置する。その時も本実施形態では、圧縮手段6は培養用足場2を元の厚さに対して半分の厚さに維持する。
培養用足場2を圧縮した状態で静置することにより、培養用足場2内に行き渡った細胞が培養され、細胞が培養用足場2を構成する繊維に接着するようになっている。
そして、本実施形態では上記分散作業A-2と接着作業A-3とを複数回繰り返すようになっている。すなわち、2回目の分散作業A-2で培養用足場2を圧縮し解放をすることで、1回目の接着作業A-3で繊維に接着できなかった細胞が培養用足場2の内部で移動され、当該細胞が培養用足場2の内部で接着することが期待される。
【0019】
上記接着作業A-3による培養期間が終了したら、続いて圧縮培養工程Bの培地供給作業B-1に移行して、培養容器3に所定量の培地Mを供給する。
この培地供給作業B-1においては、図4(b)に示す圧縮板6bによって培養用足場2を圧縮した状態から、圧縮板6bを上昇させて蓋部材3Cの下面に当接させ、これにより蓋部材3Cが圧縮板6bによって下方から支持されるようにする。
次に、図5に示すように、外容器3Aに蓋部材3Cを密閉しているボルトを外して、外容器昇降手段4を作動させて容器台4aごと外容器3Aを下降させる。これにより、圧縮板6bに支持された蓋部材3Cから外容器3Aが離隔するとともに、内容器3Bの底部材12と外容器3Aの底面が離隔する。
これにより外容器3Aの上部が開放された状態となり、この状態でピペットP等の分注手段を用いて、外容器3Aに対して所定量の培地Mを供給する。
【0020】
培地Mの供給が終わると、図6(a)に示すように、上記外容器昇降手段4を作動させて外容器3Aを上昇させ、外容器3Aに蓋部材3Cを装着させて密閉するとともに、上記圧縮手段6の圧縮板6bを下降させて、培養用足場2を再び圧縮した状態として、培養用足場2を培地Mに浸漬させて圧縮培養B-2を開始する。
なお、この際の外容器昇降手段4による外容器3Aの上昇位置は、上昇端から若干下降した培養用の高さとなっており、内容器3Bの底部材12と外容器3Aの底面に形成される隙間により、底部材12の貫通穴や網目を介して内容器3Bの内外を培地Mが流通できるようになっている。
培地供給作業B-1における外容器3Aに供給する培地Mの供給量は、続く圧縮培養B-2では培養用足場2を半分の容積に圧縮した状態で行うことから、圧縮された培養用足場2の高さとほぼ等しい水位となる量の培地Mを投入すればよい。
これに対し、従来のように圧縮しない状態で培養する場合は、圧縮していない培養用足場2の全体が浸漬されるようにしなければならないため、それだけ多くの培地Mを必要とし、培養初期の細胞数の少ない状態に対して過剰な量の培地を準備することになる。これに対して本発明のように培養初期には、培養用足場2を圧縮することで培地Mの使用量を抑えることが可能となっている。
なお、インキュベータ内が清浄であれば、上述したように培地供給作業B-1をインキュベータ内で実施するが、インキュベータ内の清浄度が十分でない場合は、この培地供給作業B-1についても、懸濁液供給作業A-1と同様に、蓋部材3Cで密閉した外容器3Aを細胞培養装置1から取り外し、アイソレータや安全キャビネットなどの無菌環境下において作業を行うようにしてもよい。
【0021】
培養容器3に培地Mが供給されると、培養用足場2を圧縮した状態を維持したまま、培養用足場2の内部に接着した細胞を培養する圧縮培養B-2を所定期間に亘って行う。
この圧縮培養B-2では、一定期間毎に上記培養用足場2を一旦培地Mから取り出す培地攪拌作業を実行するようになっている。
これにより、培養用足場2の内部から培地Mが流出して、細胞が酸素に触れることで増殖を促進させるとともに、再び浸漬させた際には培養用足場2の内部に培地Mが流入することで、培養用足場2の内部で培地Mが攪拌され、培養用足場2の内部における局所的な栄養成分の枯渇と老廃物の蓄積を防ぐようになっている。
具体的には、図6(b)に示すように、上記圧縮手段6によって培養用足場2を圧縮した状態のまま、上記外容器昇降手段4が外容器3Aを下降させて、培地Mの液面を内容器3Bの底部材12と等しいかそれよりも下方に位置させる。
これにより、培養用足場2の内部から培地Mを流出させて内容器3Bの底部材12を介して外容器3Aへと落下させることができる。
その後、図6(c)に示すように、上記外容器昇降手段4が外容器3Aを再び培養用の高さまで上昇させることにより、内容器3Bを再び外容器3Aの底面に接近させ、底部材12を介して内容器3Bに培地Mを流入させ、培養用足場2を再び培地Mに浸漬させる。
上記外容器3Aの上下動は、上記圧縮培養B-2を実行している間の一定期間毎に、例えば30分に1回程度行うようにする。
【0022】
上記圧縮培養B-2ではさらに、培養中の毎日決まった時間に培地のサンプルを採取し成分を測定する培地成分測定作業を実行して、培養用足場2の内部における細胞密度を求めるようになっている。サンプルの採取については、図5に示す培地供給作業B-1と同様の動作で行うことができる。
すなわち、図6(a)に示す培養用足場2を圧縮して細胞を培養している状態から、上記圧縮手段6の作動により圧縮板6bを上昇させて蓋部材3Cを下方から支持するとともに、蓋部材3Cと外容器3Aの連結を解除した後、上記外容器昇降手段4の作動で外容器3Aを下降させて、図5に示すように外容器3Aを開放状態とする。
この状態で、図示しないピペットP等の分注手段で、外容器3Aから所定量の培地Mを吸引して採取用の容器に分注する。このように採取された培地Mについて成分測定を行う。
なお、この培地成分測定作業におけるサンプルの採取についても、図3に示す懸濁液供給作業A-1と同様に、蓋部材3Cで密閉した外容器3Aを細胞培養装置1から取り外し、細胞が播種された培養用足場2を収容したままアイソレータや安全キャビネット等の作業室に移動させて、無菌環境下において作業を行うようにしてもよい。
【0023】
上記圧縮培養B-2によって細胞の培養を行うと、細胞が増殖して細胞密度が高まり最終的には増殖が限界に達する。そこで培養中の培地Mの成分の測定結果から細胞密度を推定し、圧縮量低減の要否判定を行うようにしている。
培地Mの成分としては、主要な栄養分としてグルコースが含まれており、細胞の増殖に伴って培地M中のグルコース濃度が低下する。また、細胞は増殖に伴って老廃物である乳酸を分泌するため、培地Mの成分として乳酸濃度が上昇する。
そこで、事前の検証により培地Mにおけるグルコース濃度および乳酸濃度と細胞密度との相関関係を求めておき、毎日の培地Mの成分の測定結果から1日あたりのグルコース消費量(濃度低下量)および乳酸蓄積量(濃度上昇量)を求めて、これらの値に基づいて培養用足場2の細胞密度を推定できるようにしている。
そして測定の結果、細胞密度が予め設定した規定値を下回るようであれば、引き続き同じ圧縮量で圧縮した培養用足場2で培養を継続するものとし、細胞密度が規定値以上となれば増殖が限界に達したものとして、予め設定した量だけ培養用足場2の圧縮量を低減させて、培養用足場2の容積を増大させるようにする。
増殖が限界に達しておらず、引き続き同じ圧縮量で圧縮した培養用足場2で培養を継続する場合には、定期的な培地Mの成分測定結果から、栄養分の枯渇または老廃物の蓄積が発生しているか否かにより培地成分の良否を判定し、これらの発生が認められなければそのまま圧縮培養B-2を続行し、発生が認められるようであれば培地成分が不良であるとして、培地交換作業B-3を実行してから圧縮培養B-2を再開するものとしている。
【0024】
培地交換作業B-3についても、図5に示す培地供給作業B-1と同様の動作で行うことができる。
すなわち、図6(a)に示す培養用足場2を圧縮して細胞を培養している状態から、上記圧縮手段6の作動により圧縮板6bを上昇させて蓋部材3Cを下方から支持するとともに、蓋部材3Cと外容器3Aの連結を解除した後、上記外容器昇降手段4の作動で外容器3Aを下降させて、図5に示すように外容器3Aを開放状態とする。
この状態で、図示しないアスピレータ等の吸引手段により外容器3Aから古い培地Mを吸引して排出したら、ピペットP等の分注手段により圧縮した培養用足場2を浸漬させることのできる所定量の新しい培地Mを外容器3Aに供給する。
その後、外容器昇降手段4の作動で外容器3Aを培養用の高さまで上昇させて、圧縮手段6の作動で圧縮板6bを下降させて再び培養用足場2を圧縮するとともに、蓋部材3Cと外容器3Aを連結させて細胞の培養を再開する。
また、この培地交換作業B-3についても、図3に示す懸濁液供給作業A-1と同様に、蓋部材3Cで密閉した外容器3Aを細胞培養装置1から取り外し、培養中の培養用足場2を収容したままアイソレータや安全キャビネット等の作業室に移動させて、無菌環境下において作業を行うようにしてもよい。
【0025】
一方、細胞密度が規定値以上となって限界に達していて、培養用足場2が圧縮量を低減できる場合は、圧縮量低減作業B-4を実行する。
すなわち、圧縮培養B-2において圧縮された培養用足場2の内部で、細胞密度が上昇し限界まで細胞が培養されると、培養用足場2の内部で細胞の増殖する余地がなくなり、細胞の増殖速度が低下するとともに培地Mの交換頻度が高くなる。
そこで、細胞密度が限界に達しかつ培養用足場2が圧縮された状態であれば、図7に示すように、上記培養用足場2の圧縮量を低減させて培養用足場2の容積を増大させるとともに、外容器3Aから培地Mを排出して新たな培地Mを増量して供給する圧縮量低減作業B-4を行う。
圧縮量低減作業B-4における培地Mの排出と供給は、上記培地交換作業B-3と同様の動作で行うことができる。
培地交換作業B-3との違いは、新たに外容器3Aに供給する培地Mの量を外容器3Aから排出した量よりも多くすることである。このとき増量する培地Mの量は、上記厚さが復元された培養用足場2の全体が、外容器3Aおよび内容器3Bの内部で培地Mに浸漬されるような深さとなるように設定される。
すなわち、それまで圧縮されていた培養用足場2の厚さに対し、圧縮が解消されて培養用足場2の厚さが復元するため、復元により増加する厚さに対応して培養用足場2を浸漬させる液面高さとなる量の培地Mを供給する。
このように、培養用足場2の圧縮量を低減させ、培養用足場2を厚さ方向に復元させることにより、培養用足場2の容積が拡大し、圧縮されていた時に比べて細胞の増殖可能な領域が増大することとなる。
【0026】
圧縮量低減作業B-4が終了したら、圧縮されていない培養用足場2を用いて圧縮培養B-2を再開する。
図7は圧縮量低減作業B-4後の圧縮培養B-2の状態を示し、外容器昇降手段4の作動で外容器3Aを培養用の高さまで上昇させた状態として、圧縮手段6の作動で圧縮板6bを培養用足場2に接触するが圧縮しない位置まで下降させて、培養用足場2の浮き上がりを防止しつつ細胞の培養を再開する。
圧縮されていない培養用足場2を用いた圧縮培養B-2においても、所定の周期で培地攪拌作業と培地成分測定作業を実施し、培地成分の測定結果から細胞密度が限界に達したか否かを判定する。
細胞密度が限界に達していないと判定した場合は、培地成分の良否を判定し、不良でなければ引き続き培養を継続し、不良であれば一旦培養を中断して、培地交換作業B-3を行ってから培養を再開する。
一方で、細胞密度が限界に達していた場合は、圧縮を解除した状態での培養であり、圧縮量を低減させて培養用足場2の容積を拡大することができないことから、最終培養工程Cへと移行する。
なお、上記実施形態では、培養用足場2を半分の容積まで圧縮して圧縮培養B-2を開始し、その後の圧縮量低減作業B-4で圧縮を解除して圧縮されていない培養用足場2を用いて培養を継続するものとしているが、当初の培養用足場2の圧縮を半分以上とするなど可変可能な圧縮手段6による圧縮量を調整して、圧縮量低減作業B-4における圧縮量の低減を、二段階以上に分けて実行するようにしてもよい。
【0027】
最終培養工程Cにおいては、圧縮しない培養用足場2に対して、圧縮培養B-2での培養よりも培地Mを増量して行うことで、細胞の増殖能の向上を図るものである。
はじめに、圧縮されていない培養用足場2を浸漬させるために、外容器3Aの培地Mの収容量を増加させる培地増量作業C-1を実施する。
培地増量作業C-1は、圧縮培養工程Bの圧縮量低減作業B-4で行う培地Mの供給と同様に、外容器3Aから培地Mを排出した後で、排出した量よりの多くの培地Mを外容器3Aに供給するものである。
すなわち、最終培養C-2に移行するあたり、外容器昇降手段4の作動で外容器3Aを培養用の高さまで上昇させる。ただし、図8(a)に示すように、この際の外容器3Aを上昇させる高さを圧縮培養B-2の際の培養用の高さよりも低くして、内容器3Bの底部材12と外容器3A内の底面との間の隙間を大きくする。
そして培地増量作業C-1で外容器3Aに培地Mを供給する際の供給量を、内容器3Bの底部材12と外容器3A内の底面との間隔に対応させて、圧縮されていない培養用足場2が浸漬されるように増量する。
【0028】
この培地Mを増量させて培養を行う最終培養C-2においても、圧縮培養B-2の場合と同様に、所定の周期で培地攪拌作業と培地成分測定作業を実施するとともに、定期的な培地成分の測定結果から細胞の増殖が完了したか否かを判定するようになっている。
細胞増殖の完了判定は、培地M中の栄養分としてのグルコース濃度もしくは老廃物としての乳酸濃度に基づいており、毎日の培地成分の測定によりグルコースの消費量の増加(グルコース濃度の低下)もしくは乳酸の蓄積量の増加(乳酸濃度の上昇)が確認される場合は、活発に増殖しているものと判断して改めて培地増量作業C-1を行う。
つまり図8(b)に示すように、外容器昇降手段4により外容器3Aを所定量下降させて、内容器3Bの底部材12と外容器3A内の底面との間隔をさらに大きくし、供給する培地Mを増量して最終培養C-2を継続する。
一方で、グルコースの消費量もしくは乳酸の蓄積量の所定量の増加が確認されなければ、細胞の増殖が鈍化したものとして増殖完了と判定し、次工程の回収工程Dに移行する。
【0029】
このように圧縮されていない培養用足場2を用いて、培地Mの成分測定の結果に応じて培地Mを交換しつつ、培養容器に収容する培地Mの量を増加させて、再び培養用足場2を圧縮しない状態で内部に接着している細胞を培養することにより、培養用足場2の内部における細胞の増殖を促進させるようにしており、培養用足場2の内部において細胞を十分に増殖させた上で、次工程の回収工程Dへ移行するようにしている。
【0030】
回収工程Dにおいては、培養した細胞が分泌したエクソソーム等の細胞外小胞を回収する上清回収作業と、上記培養用足場2から細胞を回収する細胞回収作業とを行う。なお、細胞回収作業は省略してもよい。
図9は上記上清回収作業を行う状態を示し、上記培養容器3の外容器3Aの底部に設けた接続口3aには、チューブ21を介して回収バッグ22が接続され、また上記チューブ21はチューブポンプ23に装着されている。
上記外容器昇降手段4は外容器3Aを下降させて内容器3Bを培地Mの上方に位置させ、この状態で上記圧縮手段6が圧縮板6bを下降させて、上記内容器3B内の培養用足場2を圧縮する。
これにより、培養用足場2に含まれていた培地Mとともに、当該培地Mに含まれている細胞外小胞が押し出され、内容器3Bの底部材12を通過して外容器3A内に落下することとなる。
その後、上記チューブポンプ23を作動させることにより、上記外容器3Aに収容されている培地Mとともに上記細胞外小胞が回収バッグ22に回収されるようになっている。
【0031】
次に、上記細胞回収作業について説明すると、最初に培地供給作業B-1と同様の動作で、培地Mが回収された外容器3A内にPBS等の洗浄液Wを供給する。この時の液量は、例えば圧縮していない状態の培養用足場2が浸漬する程度の液量とする。
洗浄液Wを供給したら、図4に示した分散作業A-2と同様に、上記圧縮手段6が圧縮板6bを複数回上下に移動させて、培養用足場2の圧縮と解放を繰り返し、これにより培養用足場2の内部に洗浄液を均一に浸透させる。
続いて、図9に示すように、外容器3Aにチューブ21を介して廃液バッグ22Aを接続するとともに、外容器3Aを下降させた状態で上記圧縮手段6により培養用足場2を圧縮する。
すると、培養用足場2に含まれる洗浄液Wが内容器3Bの底部材12を介して外容器3Aに落下するが、このとき細胞は培養用足場2に接着した状態を維持するため、圧縮により洗浄液Wだけが押し出されて落下し、チューブポンプ23の作動により廃液バッグ22Aに回収されるようになる。
【0032】
このようにして培養用足場2を洗浄液Wによって洗浄したら、今度は培地供給作業B-1と同様の動作で外容器3A内にトリプシン等の剥離剤Rを供給する。この時の液量は、圧縮した状態の培養用足場2が浸漬される程度の深さが得られればよい。
剥離剤Rを供給したら、図4に示した分散作業A-2と同様に上記圧縮手段6が圧縮板6bを複数回上下に移動させて、培養用足場2の圧縮と解放を繰り返し、これにより培養用足場2の内部に剥離剤Rを均一に浸透させ、培養用足場2に接着していた細胞を剥離させる。
続いて、図9に示すように上記上清回収作業と同様に、外容器3Aにチューブ21を介して回収バッグ22Bを接続し、外容器3Aを下降させた状態で上記圧縮手段6により培養用足場2を圧縮する。
これにより、培養用足場2に含まれる剥離剤Rと共に、剥離された細胞が内容器3Bの底部材12を介して外容器3Aに落下するため、これをチューブポンプ23の作動により上記回収バッグ22Bへと回収することができる。
【0033】
以上のように、本実施形態の細胞培養方法によれば、播種直後の細胞密度が小さい時には、上記培養用足場2を厚さ方向に圧縮させた状態で培養を行うことで、細胞数に合わせた最小限の培地Mで細胞の培養をすることができる。
培養によって細胞が増殖し、細胞密度が大きくなると、培養用足場2の圧縮量を低減させて培養用足場2を厚さ方向に復元させて容積を増大させることから、細胞が増殖する余地を増大させることが可能となっている。
つまり、細胞数の増加に伴って培養用足場2の容積を増やすために、培養用足場2の圧縮量を減少させれば、新たな培養用足場を追加する必要はなく、細胞の継代としては作業を簡略化することが可能である。
【0034】
図10は、上記細胞培養方法をより自動化して実施することが可能な細胞培養装置1を示しており、上記第1実施形態で説明した細胞培養装置1に対し、培地Mの供給および排出を自動的に行うための構成を追加したものとなっている。
本実施形態の培養容器3には、上記外容器3Aの底部に供給口3bおよび排出口3cが設けられ、上記供給口3bには培地Mを供給する培地供給手段31が、上記排出口3cには培地Mを排出する培地排出手段32が接続されている。
【0035】
上記培地供給手段31は、培地Mを収容した供給タンク31aと、当該供給タンク31aと外容器3Aとの間に設けられた供給チューブ31bと、上記供給タンク31aから培地Mを送液する供給ポンプ31cとによって構成されている。
上記供給タンク31aには新鮮な培地Mが収容されており、上記供給ポンプ31cによって新鮮な培地Mを培養容器3に供給することが可能となっている。
【0036】
上記培地排出手段32は、使用済みの培地Mを回収する排液タンク32aと、当該排液タンク32aと外容器3Aとの間に設けられた排液チューブ32bと、上記外容器3Aから使用済みの培地Mを送液する排液ポンプ32cとによって構成されている。
また、外容器3A内には、蓋部材3Cに取り付けられて培地成分センサ33が設けられており、外容器3Aに収容されている培地Mに接触させて、圧縮培養工程Bの圧縮培養B-2や最終培養工程Cの最終培養C-2における、培養中に定期的に培地Mの成分を測定する培地成分測定作業を実行できるようになっている。
【0037】
上記構成を有する細胞培養装置1の使用方法について説明する。なお細胞を培養する工程自体は第1実施形態における細胞培養方法と同じであるため、上記培地供給手段31および培地排出手段32を使用する動作、ならびに培地成分センサ33を使用する培地成分測定作業について説明する。
まず培地供給手段31は、圧縮培養工程Bにおける培地供給作業B-1および培地交換作業B-3、圧縮量低減作業B-4、最終培養工程Cの培地増量作業C-1における培地Mの供給に使用することができ、また培地排出手段32は、培地交換作業B-3、圧縮量低減作業B-4、最終培養工程Cの培地増量作業C-1における培地Mの排出に使用することができる。
本実施形態では、図5に示すような動作を必要とせず、外容器3Aを蓋部材3Cによって密閉した状態を維持し、また内容器3Bと外容器3Aの底面とを所定間隔に維持し、さらには、上記圧縮手段6が上記培養用足場2を圧縮した状態を維持したまま、上記供給ポンプ31cを作動させることにより、供給タンク31aから上記各作業において必要な量の新鮮な培地Mを外容器3Aに供給することができ、また排液ポンプ32cを作動させることにより、外容器3Aから排液タンク32aに使用済みの培地Mを排出することができる。
【0038】
さらに、上記のように培養容器3内に培地成分センサ33を設けることにより、圧縮培養工程Bの圧縮培養B-2や最終培養工程Cの最終培養C-2における培地成分測定作業において、図5に示すような動作を伴うサンプルの採取を必要とせず、また常時継続的に外容器3Aに収容されている培養中の培地Mの成分を測定して、図示しない制御手段でデータを収集することができる。
これにより、連続的な培地Mの成分測定が可能であり、制御手段は培地M中のグルコース濃度または乳酸濃度を随時把握して、速やかに細胞密度の推定、培地成分の良否判定および細胞増殖の完了判定を行うことができる。
このような第2実施形態の細胞培養装置1によっても、本発明の細胞培養方法を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 細胞培養装置 2 培養用足場
2a 足場シート 3 培養容器
3A 外容器 3B 内容器
4 外容器昇降手段 5 内容器支持手段
6 圧縮手段 6b 圧縮板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10